「読売よ、おまえもか」 地裁判決でアンフェアな批判


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

 電力会社を指弾して、全て責任を負わせればうまく行く問題なのだろうか。読売6月3日社説「原発再稼働、電源確保を着実に進めたい」である。

前半は、中国電力島根原子力発電所2号機を扱う。「再稼働すれば、昨年6月の美浜原発3号機以来、11基目となる。福島第一原発と同じ沸騰水型としては初めてで、意義は大きい」と述べる。

島根県の丸山達也知事が2日、再稼働に同意する考えを表明したことを受けている。

電力供給は、不安定な状況が続く。電気料金は上昇し、政府の対応が定まらない。そこにロシアのウクライナ侵略だ。世界的なエネルギー危機が深刻化している。少しでも安定な電源を増やしたい。妥当な内容といえよう。

問題は後半だ。

札幌地裁が5月31日、北海道電力泊原発に対して運転差し止めを命じたことについて、地裁は「理解が不十分」と疑問を呈しつつ、「北海道電力側にも問題が多い」と指摘する。

具体的には、「泊原発の安全審査は9年に及んでいる。北海道電力は原子力規制委員会の審査が続いていることを理由に、裁判で防潮堤の安全性を十分に説明せず、訴訟が滞っていた」とし、「規制委は安全審査が進まない理由に、北海道電力の対応のまずさを挙げている。地裁も今回、説明不足を厳しく批判した。安全審査や裁判に対応できる専門的な人材の確保が急務である」と説く。

この地裁判断を報じた6月1日の読売記事でも、見出しは「津波対策に不備」「提訴10年『安全』立証できず」「『規制委審査』理由に先延ばし」と北海道電力に対して極めて厳しい。

一方的に過ぎないか。必要なのは審査状況の客観分析だろう。

東日本大震災の後、基準そのものが抜本的に変わった。過去の審査データは全てゼロから再評価される。特に難しいのは地盤や地層のデータだ。発電所の建設は大規模な工事を伴う。地盤や地質は改変され、表土も削り取られる。改めてデータを取り直し、安全な地盤であると証明せよ。そう迫られても容易なことではない。

範囲を広げてデータを取る必要がある。海底の断層は、船から音波を発信して反射波を調べるが、漁業関係者の了解を得るのが大変だ。地上のボーリング調査も地権者の同意なしには実施できない。必要な費用の確保、専門業者の手配も手間がかかる。火山や地震の研究文献を広範に収集し解析・整理するにも時間を要する。

泊発電所の敷地内断層について、こうした調査データに基づき規制委が「活断層ではない」と認めたのは、やっと21年だ。

日経電子版5月6日によると、「(原発対応に当たる)160人のうち50~60人は(地震や火山などに対応した)経験者を充てている」(北海道電力)という。かなり多い。これ以上どう増やすか。国内にそれほどの数の地震、火山の専門家はいるのかどうか。

規制委は発足以来、審査長期化は電力側の責任としてきた。実態はどうだろう。求められるのは、その検証である。岸田首相も「審査の合理化・効率化を図る」(読売4月2日)と述べている。

むろん、地裁の判断は疑問だらけだ。規制委の審査中に独自の判断を下すのも越権行為にしか見えない。朝日電子版31日は見出しで「『規制委に代わり判断』原告ら安堵」と称賛するが、司法への信頼を傷つけないか。心配だ。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

【インフォメーション】エネルギー企業の最新動向(2022年7月号)


【東京電力エナジーパートナー/首都圏の分譲住宅に「バーチャルメガソーラー」導入】

東京電力エナジーパートナーは野村不動産と共同で「バーチャルメガソーラー」を開始する。東電エナジーパートナーが提供する太陽光PPAサービス「エネカリプラス」を活用し、野村不動産が首都圏を中心に展開する分譲戸建「プラウドシーズン」の約300戸に、メガソーラー発電と同規模となる総発電出力1000kW相当の太陽光発電(PV)を導入。住宅の購入者は契約期間の10年間、初期費用や月額サービス料なしで、PVで発電した電気を利用できる。さらに、空気の熱とPVの電気でお湯を沸かす「おひさまエコキュート」の併用で、光熱費の節約にもつながる。両社は休閑地が少ない首都圏における省エネ・創エネを推進し、「電力の地産地消」を目指していく。

【アストモスエネルギー/CNLPガスの供給・受入でCO2削減に貢献】

アストモスエネルギーは、盛岡ガス燃料や山代ガス、食協、広島ガスプロパン、吉武産業などと、カーボンニュートラル(CN)LPガスの売買に関する契約を締結し、供給・受入を開始した。アストモスエネルギーが調達・輸入するCNLPガスは、生産から燃焼までの工程で発生する温室効果ガスを、カーボンクレジットによってオフセットしたもの。このカーボンクレジットは、地球規模での温室効果ガス削減・排出抑制、現地での雇用創出や生物多様性の保護など、SDGsに関連する環境保全プロジェクトによって創出。第三者検証機関により、二酸化炭素などの温室効果ガス排出の削減あるいは吸収を認証されている。

【大京/分譲マンションでのEV充電コンセントを標準化】

大京は、今後開発する全ての新築分譲マンションの駐車区画にEV充電コンセントと、将来的にコンセントの増設が可能な空配管を設置する。現在は駐車区画数の10%にEV充電コンセントを標準設置している。設置率を50%に引き上げ、残りの区画は空配管にする計画で、業界初の取り組みとなる。EVの普及を促進し、持続可能な社会の実現に貢献することを目指す。この取り組みでは、ユビ電社の電気自動車充電サービス「WeCharge」を導入。全てのEV・PHV(プラグインハイブリッド)車に対応し、スマートフォンのアプリを使って利用手続きから充電量の算出、精算までを完結できる。使用料金はユビ電を通じて管理組合に支払われるため、管理会社の集金の手間を軽減する。

【静岡ガス/ガスエンジン増設で発電出力2倍に】

静岡ガスはこのほど、電力事業を手掛ける子会社の静岡ガス&パワーが富士発電所(富士市蓼原)のガスエンジン発電設備を2基増やすと発表した。8月に着工し、2023年度の運転開始を見込む。増設により、発電能力は既存設備の出力1万7000kWの約2倍の最大3万2610kWとなる。新設備は川崎重工業のものだ。発電した電力は同社が提供する「SHIZGASでんき」として販売予定。自社発電比率を向上させ、電力の安定供給と調達コストの低減化・平準化を図る。

【北海道電力/1000kW級の水素製造装置を導入】

北海道電力は苫小牧市に1000kW級の水の電気分解による水素製造装置を導入する。資源エネルギー庁の補助事業で2023年3月の運用開始を予定している。水の電気分解による水素製造は、再生可能エネルギーの余剰電力や出力変動を吸収し、再エネのさらなる導入拡大を図ることができる。運用開始後は、設備性能を評価するとともに、寒冷地における運用・保守技術の確立を図り、将来の水素社会の実現に向けた各種の検討を進める。

【IHI/アンモニア専焼に成功 低炭素社会の実現へ】

IHIはこのほど、相生事業所内(兵庫県相生市)の小型燃焼試験設備で、NOX(窒素酸化物)を抑制した状態でのアンモニア専焼に成功した。アンモニアは多量の窒素分を含むため、燃焼時にはNOXの排出濃度が上昇するほか、難燃性のため安定燃焼が課題になる。今回の成功により、火力発電用ボイラーにおけるアンモニア専焼技術の実用化が大きく前進した。

【コスモ石油ルブリカンツ/初のバイオマスマーク取得 ディーゼルエンジンオイル】

コスモ石油ルブリカンツは、植物由来のベースオイルが80%以上のディーゼルエンジンオイル「コスモディーゼル“カーボニュート”10W-30」を開発し、国内で初めて「バイオマスマーク(バイオマス度80%)」を取得した。製品中の植物由来成分が成長過程でCO2を吸収するため、CO2排出の低減が可能。販売開始は8月を予定している。

石油産業における革新的技術 官民一体で開発加速を


【オピニオン】髙橋直人/石油エネルギー技術センター 専務理事

 CO2排出量削減に向けた動きが世界的に加速している。グリーンディール政策やFit for 55 パッケージ法案が公表された欧州では、石油大手が温暖化対策目標の見直し・具体化、製油所の集約化やバイオリファイナリーへの転換、クリーン水素製造プロジェクトの立ち上げなどを進めている。各国政府もファンドの創設などにより積極的に支援している。

米国でも、大統領令による気候変動対策が打ち出され、石油大手は製油所の低炭素化戦略と連動しつつ、グローバル水素ハブ構築によるエネルギー転換戦略を掲げるなどCO2排出削減に動き始めている。

わが国も、第6次エネルギー基本計画における新たな削減目標の設定、グリーンイノベーション基金の創設などカーボンニュートラル社会実現に向けた動きが盛んになっている。わが国の石油産業も、低・脱炭素や資源循環に係る革新的技術開発をさらに加速し、その実現に貢献していかねばならない。

分子成分情報やデジタル技術などを活用した製油所操業最適化のさらなる高度化によりエネルギー消費量を大幅削減することや、製油所や給油所など既存のインフラを最大限に活用して水素の利活用に取り組むことが重要である。また、EV化が推進される自動車に関し、全てがEV化した場合の需要に見合うグリーン電力の確保について現段階では不透明である。SAF(持続可能な航空燃料)を含めバイオ燃料の開発・製造も進められているが、これも量的な課題がある。そうした中、CO2を有効利用して液体合成燃料を製造することは、選択肢の一つとして内外の期待も大きい。ただし、これも社会実装させるためには生産効率の向上や大量の安価なグリーン水素の調達など課題が山積し、官民が一体となって取り組む必要がある。

一方で、人口減少を含む社会構造の変化などにより石油製品に対する需要は減少していくことが見込まれるものの、平時・緊急時を問わず、石油が引き続き国民生活・経済活動に不可欠なエネルギーであることはエネルギー基本計画にも明示されている。しかし、カーボンニュートラル下における石油産業の将来を不安視して優秀な人材が石油から離れつつあるという話を聞く。プラントの保守点検を含め石油精製に関わる技術や新たな可能性にチャレンジする研究開発が滞るといった事態は避けねばならない。石油産業は、カーボンニュートラル社会における自らの将来像をしっかり描き、優秀な人材の確保に努めなければならない。

カーボンニュートラル社会の実現のためには旧来の取り組みの延長線上ではなく、イノベーションが不可欠である。それは、特定の企業・産業界のみの努力・負担によってなし得るものではなく、官民あげて連携・協力、必要に応じて適切な負担の分かち合いをしながら取り組んで初めて可能となる。2050年まで長いようで短い。取り組みを一層拡充・加速化していかねばならない。

たかはし・なおと 1988年東京大学法学部卒、通商産業省(当時)入省、商務情報政策局流通政策課長、特許庁総務部長、九州経済産業局長、日本政策金融公庫取締役などを経て2021年6月から現職。

【コラム/7月12日】まだまだ終わらない制度設計


加藤真一/エネルギーアンドシステムプランニング副社長

前回の寄稿から約半年が経ったが、当初のカーボンニュートラルブームに、ウクライナ情勢の悪化によるエネルギー安全保障の確保や電力需給ひっ迫への需給両面での対策の必要性が新たに加わり、さらに4月には新たな法施行、そして通常国会で多くの法案が審議・成立と、まさにカオスといった様相を呈している。

さて、今回はこうしたカオス状態の日本の電力を中心とした制度設計の状況について、前回からのアップデートをしていきたい。なにぶん、多くの制度・施策が並行して検討・実施されているので、ざっと振り返りたいと思う。

とにかく多い審議会と議論の範囲

毎月、国の審議会を追っているが、ここ数か月は情勢変化もあり、開催回数はさらに拍車がかかって増えている。私が毎月動向を追っている審議会について、今年の開催状況を数えてみたが、1月26件、2月34件、3月46件、4月43件、5月23件、6月35件と半年で約200件と、膨大であることがわかった。1日に数件の審議会が重なることも多々あり、人は密になるなと言いながら、会議のスケジュールは平気で密になるという、まさにコロナ時代ならではの珍現象も起きている。

分野についても、2050年カーボンニュートラル宣言以降は、脱炭素全体に係る議論や再エネ・地域に関する議題が多くみられたが、ここ最近は、足下の課題であるエネルギー安全保障や電力需給ひっ迫対策といった上流側の議論が多く取り上げられている。

ここまで多くなると論点がぼやけて見失いそうで、全体を網羅・把握して戦略立てできるのか心配になる。

大きな方向性としては、クリーンエネルギー戦略の中間整理でもあるように、エネルギーの安全保障と電力安定供給を前提に、炭素中立型社会実現に向けた政策を講じ、脱炭素と経済の好循環を巻き起こそうといったところだが、まだ目次が提示されたに過ぎず、そうした方向性に「魂」を込める作業は、この夏以降になるだろう。

今後のエネルギー関連制度の行方は?

毎度、出しているマップ(表1)を見ると、2022年度以降の主な制度関連のスケジュールも、カオス状態を継続することになりそうだ。このシートを作成するために、詳細にスプレッドで施策を落とし込んでいるが、膨大、かつ毎月のように進化していく。

昨年、今年については、電事法などの改正も目白押しなので、その都度、新たな施策がプロットされている。例えば、22年4月には、通称、「エネルギー供給強靭化法」が施行され、再エネ分野ではFIP制度、太陽光パネルの廃棄等積立制度、FIT認定失効が、新たな事業形態では配電事業、特定卸供給事業(アグリゲーター)の位置付けが、需要側を含めた取り組みでは特定計量制度や電力データ利活用といった制度が始まっている。まだ、始まったばかりなので、なかなか浸透していないが、特定計量制度では太陽光のPCSやEVの充電器での適用事例が出ており、電力データ活用では、ようやく認定協会が認定され、箱の用意はできた。FIP制度は、認定情報をまだ見ていませんが、1000kW以上を対象にした第1回入札では計5件の落札があった。ただし、募集容量には届かず、まだこれからといったところだ。逆にFIP電源を含めた再エネアグリゲーションビジネスを提供する事業者が複数でてきている状況だ。

この6月に閉会した第208回通常国会では久しぶりに提出した法案すべてが成立したが、エネルギー・環境関連でも多くの法案が審議・成立し、今年度以降、順次、施行される予定になっている。以下、少し紹介する。

脱炭素関連では温対法改正により、10月に株式会社脱炭素化支援機構が創設され、エネルギー起源問わずGHG排出量削減に資する事業等に国がリスクマネーを供給することになる。既に環境省の方でも人材獲得に動いているとの噂も出ている。いわゆる官製ファンドであり、しっかりと案件のソーシングをし、最適な投資ができるのか人材確保も急務となっている。

省エネ法も従来の化石エネルギーのみを対象にしたものから、非化石エネルギー(電気・熱・燃料)の利用促進が加えられ、特定事業者等にとっては、中長期計画に非化石エネルギーの目標策定と実行・報告が追加されることになる。電気であれば、自前で設置した自家発型やオンサイトPPA、系統を介したオフサイトPPA、自己託送といった需要家自らが非化石電源拡大に取り組むものは重み付けを、ある意味、お金を払えば誰でも買えてしまう再エネ100%小売りメニューやJ-クレジット、非化石証書、グリーン電力証書などは、非化石電気として評価されるものの、重み付けはないといった方向で議論が進んでいる。

また、エリア需給制約による再エネの出力制御発生時や、この6月末のように需給ひっ迫した際に、電力使用を最適にシフトすることを促す施策も取られる。需要家にとっては、非化石エネルギーも計画的に使わないといけない、電力需給状況に応じて使い方も工夫しないといけないといった両面での対応が必要となるが、逆に、エネルギー事業者にとっては、新たなビジネスのネタが転がってくる可能性もあるので、チャンスかもしれない。

また、産業保安についても規律強化や規制緩和をしていくことになる。特に影響が大きいと思われるのが、小出力発電設備への規律強化。具体的には、10~50kWの太陽電池発電設備と20kW未満の風力発電設備を小規模事業用電気工作物と位置付け、これまで高圧以上に課せられていた使用前確認や技術基準適合義務、高圧以上で求められる主任技術者選任や保安規程提出に代替する基礎情報の届出が必要になる。他にも、今回の法改正以外では、4月から電事法施行規則改定で非FIT発電の分割への規制や、現在、経産・環境・農水・国交の4省連携で検討している再エネの適切な導入・管理等、再エネ主力電源化を目指すといっても、ただ闇雲に設備をつくればよいのでなく、しっかりとルールは守ったうえで導入・管理・廃棄までのライフサイクルを運営してほしいとの想いがある。

その他にも、政府の骨太の方針、クリーンエネルギー戦略中間整理、規制改革実施計画といった政府による大きな方向性は提示されつつある。また、再エネ海域利用法のラウンド2向けの公募指針の見直し、電力市場のあり方の見直し、容量市場・ベースロード市場の次回オークションに向けた準備、系統マスタープランのシナリオ策定等、多くの施策が並行して議論・審議されている。

これだけ多くの論点があるなかで、さらに電力需給対策を急務でこしらえ、あまり陽の目に当たっていなかったDRが活況し、脱炭素電源の新設が急がれ、原子力の再稼働や革新炉の開発検討が加速と、課題が積み上げられているのが、現在の日本のエネルギーや環境に係る制度設計の現場になっていると感じる。

筆者も、毎月多くの審議会等をウォッチしていて、全体感を見失いがちになることがあるが、そういう時は、一度、頭をリフレッシュして、あらためて全体像を俯瞰しなおしている。引き続き、このコラムでは全体の動向について取り上げていきたいと思う。

【プロフィール】1999年東京電力入社。オンサイト発電サービス会社に出向、事業立ち上げ期から撤退まで経験。出向後は同社事業開発部にて新事業会社や投資先管理、新規事業開発支援等に従事。その後、丸紅でメガソーラーの開発・運営、風力発電のための送配電網整備実証を、ソフトバンクで電力小売事業における電源調達・卸売や制度調査等を行い、2019年1月より現職。現在は、企業の脱炭素化・エネルギー利用に関するコンサルティングや新電力向けの制度情報配信サービス(制度Tracker)、動画配信(エネinチャンネル)を手掛けている。

原発と再エネの共生目指し新会社 首都圏への送電事業参画も視野に


【地域エネルギー最前線】新潟県柏崎市

世界最大の原発立地地域である新潟県柏崎市が今春、民間企業とともに地域エネルギー会社を設立した。

地域への電力供給から始め、今後は政府が進める海底直流送電に絡んだ事業への参画も目指す構えだ。

 柏崎市役所の住所「日石町」には、地域のこれまでの歩みが如実に表れている。この地は明治時代、ENEOSの系譜につながる日本石油が創業した場所だ。そして50余年前には柏崎刈羽原子力発電所を誘致。長年首都圏へのエネルギー供給を担ってきたことは、市の誇りとなっている。ただ、中越沖地震や東日本大震災の影響で原発停止期間が長期化する中、カーボンニュートラル(CN)に向けた対応が地域でも迫られるようになった。そんな状況下で今春、市は地域エネルギー会社「柏崎あい・あーるエナジー」を設立した。社名はIdeal(理想的な)、Realistic(現実的な)の頭文字から取っている。

「原子力はエネルギーセキュリティー上も、環境特性からしても当面優位性がある。ただ、地域経済が原子力だけに依存し続けることは現実的ではない。今後は原子力再稼働を限定的に進めて規模を減らしつつ、再生可能エネルギーを増やし、新たに産業を組み立て直す必要がある」。新会社社長を務める櫻井雅浩市長は、その意義をこう説明する。

多様なCN電源を確保 電力小売りは状況見定めて

こうした構想は6年前の市長選から掲げ、3年前に「地域エネルギービジョン」として示した。短中期としては「再エネと原子力のまち(2・5)」、そして将来像としては「脱炭素エネルギーのまち柏崎3・0」を掲げる。市民意識調査ではビジョンへの賛成が7割に上り、その中核を担う新会社設立を後押しした。

市が67・7%、INPEXと、自治体新電力事業を手掛けるパシフィックパワーが10%ずつ、JAPEX(石油資源開発)が3・3%、北陸ガスが3%出資するほか、金融機関や地元企業も出資。各者の知見を生かし、再エネの調達拡大や、地域への電力供給、そしてゆくゆくは地域エネルギー会社としては前例がほぼない送電事業にも挑戦する意向だ。

当面は電源確保に注力することになるが、INPEX参画によりクリーンな水素の利活用が見込める点は同社の強みになる。INPEXは現在、新潟県内で水素製造・利用実証を進める。南長岡ガス田からのパイプラインガスを使い柏崎市内で水素を製造。その際に発生するCO2は減退ガス田に圧入してEGR(ガス増進回収)の実施を目指す。同社は、この水素を使った発電を2024年度にも開始する予定だという。商用発電ではないものの、新会社にとっては水素発電という次世代の電源確保がいち早く見込めるのだ。

自前の太陽光発電所も今年は1500kW程度を整備し、さらに来年以降も拡充する計画だ。同時にPPA(第三者所有)モデルや、ほかの再エネ発電事業者からの調達も進める。さらに櫻井市長は「原発の受け皿となるよう、新会社でも原発由来の電力を取り扱いたい」との考えも示す。市場調達を活用した電気、原発由来、再エネ由来と、さまざまなメニューをそろえたいと語る。

ただ、足元はJEPX(日本卸電力取引所)のスポット価格が大きく変動し、追加の電源調達が難しいなど、新電力事業にとって悩ましい状況が続く。新会社の小売りライセンスは早ければ秋にも取得できる見通しで、まずは公共施設への電力供給から取り組む予定だ。しかし、逆ザヤ状態が続くようなら売電開始時期を遅らせるなど、状況を見定めて戦略を練り直していく。結果的には、事業開始前に新電力を巡る課題が噴出したことで対応を選べるようになった。

海底直流送電計画に注目 陸揚げ地点として提案

櫻井市長が「中期目標」と力を込めるのが、政府が再エネ拡大に向け検討中の海底直流送電線に起因する、首都圏向け送電事業への参画だ。政府が策定を進めるマスタープラン(広域系統長期方針)の中間整理では、主に洋上風力の整備を見込み、北海道~東京間に800万kW規模の海底直流送電線を新設するとしている。海底からの陸揚げポイントはまだ決まっていない。

新会社設立の意義を説明する櫻井市長

市としては、日本海側のルートについては柏崎で陸揚げすれば、原発から首都圏向けの送電線の一部を活用できるメリットがあるとして、政府に提案している。柏崎市内での陸揚げが決まった暁には、①海底送電線と、首都圏向け送電線および地域系統線をつなぐ部分での送電事業参入、②直流・交流変換、③蓄電池を活用した潮流制御―に新会社として関わりたい意向だ。送電・変電・調整拠点を整備し、原子力に加え再エネを首都圏に送るエネルギー供給のハブ拠点化という構想を掲げている。

現在登録されている送電事業者は、電源開発送変電ネットワーク以外では、再エネ事業者などが出資する北海道北部風力送電と、福島復興支援の一環で設立された福島送電の二者のみ。両者とも一般送配電事業者が関わっている。あい・あーるエナジーの場合も今後、一般送配電事業者との連携や、どういった体制を整備できるかが重要になるだろう。さらに、送電・変電設備などには少なくとも1000億円レベルの投資が必要で、そのねん出も課題だ。

ただ、櫻井市長は、海底直流送電の計画に一定程度関与できれば、首都圏あるいはRE100対応を目指す地元企業に、再エネを有利な条件で供給することができると強調。加えて「18年の北海道ブラックアウトや、本年3月の東日本の電力ひっ迫、そして今夏・冬の厳しい状況を踏まえれば、洋上風力のポテンシャルがある日本海側から太平洋側への電力供給は重要な取り組み。そこで柏崎のロケーションを生かしてほしい。送電事業なしのご当地新電力で終わるつもりはない」と意気込む。

原発と再エネが共存する新産業創出に向け動き出した柏崎市。取り組みは緒に就いたばかりだが、その事業構想には地域エネルギー会社の新たな可能性が感じられる。

【マーケット情報/7月8日】原油下落、需給緩和感が台頭


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み下落。供給増加および経済減速の見込みで、需給緩和感が台頭した。

OPECプラスの6月産油量は、前月から大幅に増加。日量73万バレル増で日量3,826万バレルとなり、2020年8月以来の増加幅となった。当初の目標を下回ったものの、価格に下方圧力を加えた。さらに、ノルウェーEquinorが複数の油田で生産を再開。政府の介入で、労働者のストライキが収束した。続いていた場合、ノルウェー国内の石油ガス生産のうち40%が停止する可能性があった。

また、米国では、6月の製造業指数が過去2年で最低を記録。5月の消費指数も減速を示した。欧州でも、6月の製造業指数が低下しており、経済の冷え込みで、石油需要が弱まるとの見方が強まった。

一方、中国需要は回復の兆しを見せている。加えて、ロシアが、カザフスタン産原油の主要輸出港であるCPCターミナルの操業を、石油漏洩時の対策に不備があったとして一カ月停止するよう命令。ただ、価格の強材料とはならなかった。

【7月8日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=104.79ドル(前週比3.64ドル安)、ブレント先物(ICE)=107.02ドル(前週比4.61ドル安)、オマーン先物(DME)=102.12ドル(前週比4.28ドル安)、ドバイ現物(Argus)=103.07ドル(前週比2.73ドル安)

海外からの大量調達に対応 海上輸送にも「水素の時代」


【脱炭素時代の経済探訪 Vol.4】関口博之 /経済ジャーナリスト

 エネルギーの脱炭素化を担う水素、その水素の時代を拓く開拓者に、という願いからだろう、その船は「すいそ ふろんてぃあ」と名付けられた。今年の「シップ・オブ・ザ・イヤー」に選ばれた世界初の液化水素運搬船だ。日本船舶海洋工学会が選ぶこの賞、今年は船の世界でも“水素の時代”が来ているのを実感させてくれた。

川崎重工業が建造したこの船、タンクと船体をそれぞれ播磨工場・神戸工場で組み立てていた時に取材したことがある。水素が液化するのはマイナス253度、断熱には巨大な魔法瓶のような特殊加工技術がいる。タンクは1250m³とまだ小型なプロトタイプ船だが、日豪の水素サプライチェーンプロジェクト・HySTRAの一環として、今年2月には豪州から液化水素を無事、神戸まで運んできた。海外で製造した水素を日本に持ってくる、その幕開けを飾った意味で、まさに「今年の船」に相応しいだろう。

「すいそ ふろんてぃあ」は世界発の液化水素運搬船だ(提供:HySTRA)

実は今年のシップ・オブ・ザ・イヤーにはもう1隻、水素に関連する受賞船があった。こちらは水素で動く。広島県尾道市のツネイシクラフト&ファシリティーズが建造した「ハイドロびんご」という船だ。双胴型旅客船で小型客船部門賞を受けた。ユニークなのは水素も軽油も混焼できるエンジンを積んでいること。これなら仮に航海中に水素が切れても、ディーゼルエンジンで航行を続けられる。

さらにこの船、水素タンクトレーラーをそのまま船上に積み込んで、水素を供給する仕組みなのだ。船を想定した水素燃料のルールが未整備なこともハードルだったが、こうすることで船へのバンカリングの問題を乗り越えたという。何でもやってみるという開発チームの心意気を、そんなところにも感じた。

水素発電などで2050年には2000万tの水素が必要になると国は想定している。太陽光発電などの再生可能エネルギーによる電力で作る「グリーン水素」であれ、化石燃料を改質した「ブルー水素」であれ、その大半を日本は海外から調達しなければならない。

こうした水素の商用サプライチェーン化に向け、川崎重工業は液化水素の大型運搬船も計画している。基本設計によればタンク容積は16万m、約1万tの液化水素を積めるという。ほぼ今のLNG船と同規模で、20年代半ばの実用化を目指している。しかもこの船は、積み荷の液化水素が自然気化してしまって発生するボイルオフガスを燃料にする。つまりそれさえムダにしないよう考えられているのだ。

脱炭素化の切り札、水素をいかに大量に、かつ安価に運ぶか、これは大命題だ。「水素キャリア」としては液化水素だけでなく、水素をトルエンと反応させたMCH(メチルシクロヘキサン)や、水素と窒素でつくるアンモニアも有力な候補とされている。コストや使い勝手など、それぞれ長所短所はあるが、競い合いながら水素時代のフロンティアを拓いて行ってほしい。

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.1】ロシア軍のウクライナ侵攻 呼び覚まされた「エネルギー安保」

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.2】首都圏・東北で電力ひっ迫 改めて注目される連系線増強

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.3】日本半導体の「復権」なるか 天野・名大教授の挑戦

せきぐち・ひろゆき
経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

東電がユーラス株売却 豊通がトヨタの取得阻止


東京電力ホールディングス(HD)が保有するユーラスエナジーHDの株式全てを豊田通商に売却する。14カ国で再エネ事業を手掛け国内風力1位のユーラスが、豊通の完全子会社となる。

関係筋によると、同じグループのトヨタ自動車も株式取得に動いていたが、豊通の旧トーメン勢力が阻止した格好だ。もともとユーラスはトーメンの電力事業から始まり、その後トーメンは豊通と合併し消滅した経緯がある。一方、トヨタは脱炭素戦略として再エネ権益獲得に本腰を入れているが、ENEOSが取得したジャパンリニューアブルエナジーの買収に続き、今回も逃してしまった。「トヨタが獲得すると思っていたが、この時期に逆パターンでの決着は意外だった」(再エネ企業関係者)

東電の事情に目を向けると、リニューアブルパワーやJERAなどグループ各所で再エネ事業に取り組んでおり、ユーラスとのバッティングが懸念されていた。とはいえ「長期で考えればグローバルでも上位のユーラスを手放すのは惜しいはずだ」(同)。今回の売却金額は1850億円。この判断が将来吉と出るか凶と出るか。

大阪・関西万博が2025年開催 エネルギー業界もパビリオン出展


【大阪・関西万博】

 日本国際博覧会(大阪・関西万博)が2025年4月13日~10月13日に、大阪府で開催される。日本での開催は「愛・地球博」から20年振り。テーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。「People,s Living Lab 未来社会の実験場」というコンセプトのもと、SDGs達成への貢献と、リアルとバーチャルの融合により経済発展と社会課題の解決を両立する「Society 5.0」の実現を目指す。

万博に民間パビリオンを出展する企業・団体の構想概要が、5月30日に公表された。今回公表されたのは、出展が内定している企業・団体のうち12者の構想概要だ。エネルギー業界からは、電気事業連合会と日本ガス協会が参加する。

各企業・団体が個性を生かした展示を行う
提供:公益社団法人2025年日本国際博覧会協会

技術や特色を生かす展示 未来社会を体験可能

電気事業連合会のパビリオンは「電力館(仮称)」だ。テーマは「エネルギーの可能性で未来を切り開き、いのち輝く社会の実現へ」、コンセプトは「可能性のタマゴ」。エネルギー分野における「可能性のタマゴ」と、それらが集まることで開かれる未来を体感するパビリオンを予定している。パビリオンを通じて、共にいのち輝く未来へ進んでいくきっかけづくりを目指す。

日本ガス協会は「ガスパビリオン」を出展する。来場者のうち、特に子供たちの記憶に残り、豊かな心を育む原体験となるような「来場者参加型エンターテイメントパビリオン」を構想中だ。いのち輝く未来社会へ踏み出すために、カーボンニュートラルという地球規模の課題に対し、考えるきっかけになることを目指している。

ほかにも、NTTは「Natural 生命とITの〈あいだ〉」、パナソニックホールディングスは「解き放て。こころとからだと じぶんとせかい。」、三菱は「いのち輝く地球を未来に繋ぐ」をテーマ・コンセプトとし、各企業・団体の特長である技術やノウハウを用いて、未来社会を体感できる展示・演出が行われる。

これまでの万博では新しいアイデアや技術、商品が生み出され、われわれの生活を豊かなものにしてきた。具体的には、エレベーターやファミリーレストラン、ワイヤレステレフォン(携帯電話)、電気自動車、動く歩道、ICチップ入り入場券、ドライミストなどだ。今回の万博でも、世界中の最先端技術が結集し、交流が活性化することで、新たなイノベーションの創出が期待される。

建築物省エネ法改正案の審議中断 国交省の不誠実な説明を追及


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

5月20日の国土交通委員会において建築物省エネ法改正法案の審議が止まった。止めたのは、私だ。同法改正案は、全ての新築の建物に省エネ基準への適合を義務付けることを柱とするもので、当初は参院選前の窮屈な国会日程を配慮して今国会に提出されない予定だった。しかし、エネルギー基本計画に定める省エネ目標の実現を確実にするため早期の法案成立の声が高まり、4月22日に閣議決定され国会に提出された。

審議の焦点となったのは、省エネ性能の表示の義務化だ。改正法案の中では、建築物の販売事業者等は「販売等を行う建築物について、エネルギー消費性能を表示するよう努めなければならない」と規定されている。この条文の書き方は「努力義務」と言われるもので、違反に対して直ちに罰則がかけられる「義務」とは異なる。

私は同委員会で、罰則はない旨を確認したところ、国交省の住宅局長は「ルールに反した場合に即違反となるような強い規制措置ではなく、努力義務を課し、自主的な努力を促した上で、省エネ性能の表示を一切行わない場合や、省エネ基準に適合していない建築物を適合しているものと偽って販売、賃貸した場合などに勧告等を行うことができる規制的な制度としている」と答弁した。

表示は「自主的な努力」なのだから、表示を行わない場合に罰則がかかることは論理上あり得ない。そこで私は「一切の表示を行わない事業者は罰則の対象にはならない。答弁を取り消すか、その人に罰則を加えたいなら、この場でもう一度理事会を開いて条文修正をしましょうよ」と提案した。結局、住宅局長は答弁に行き詰まり、この日予定されていた法案の採決は流れてしまったのである。翌週に再開した委員会で、淡野局長は答弁を修正し、省エネ性能の表示は罰則がかかる「義務」ではないことが明確化された。

言い繕いが混乱招く 立法府に相応しい議論を

私は、今回の改正で全ての新築の建築物に省エネ基準の適合を義務付けた以上、本来は販売業者等にも省エネ性能の表示を義務付けすべきだと考える。一方、販売事業者等は大手のハウスメーカーから街の不動産屋まで、全国津々浦々に膨大な数が存在する。いきなりそれら全てに義務付けることは行政執務上困難という事情も分かる。だからと言って、法文上は義務ではないものを義務であるとして罰則がかかるように説明するのは、あまりにも不誠実だ。国交省が、あたかも省エネ性能表示義務化を実現したと言い繕おうとしたことが、今回の国会審議での混乱を生んだのである。

法律は一つの言葉の違いで効力が変わったり、影響を受ける者が変わるものである。立法府は言葉通り法律を作る唯一の機関。その立法府の名に恥じない議論を、国会で今後も行ってまいりたい。

ふくしま・のぶゆき
1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

ガスの需給ひっ迫対策 使用制限に規制的措置も


資源エネルギー庁は、LNGの需給ひっ迫に備えた都市ガスの需要抑制対策の検討に着手した。需要家への節ガス要請に加え、それでは対応しきれない場合に、国による使用量削減指示を可能とする規制的手段の新設を視野に入れる。早ければ秋の臨時国会にガス事業法改正案を提出する方向で、今後詳細を詰める。

これまで都市ガスは、需給ひっ迫に伴う需要対策を行ったことがないが、ロシア・ウクライナ情勢を踏まえ、万が一の大規模な原料調達リスクに備え、電気と同様に何らかの手立てを講じる必要があると判断した。ただ電気と違いガスは、導管網が全国大で接続されておらず、小売り事業者ごとにLNGの調達先が異なるため、全国一律ではなく、供給ネットワーク、もしくは小売り事業者単位での対策を想定している。

深刻な電力不足時は、経済産業相が電気事業法に基づく「電気使用制限令」を発令し大口需要家の電気の使用を制限できる。ガスでも同様の仕組みが検討される見通し。「自家発への供給が停止すれば電力不足につながる」(ガス業界関係者)懸念もあり、どういった場合に誰を対象に指示を出すのか、難しい判断となりそうだ。

ロシア依存度ゼロもLPガス高騰 複層要因で値下がり要素なく


【業界紙の目】古見純一郎/石油産業新聞社 編集局長

ロシアによるウクライナ侵攻によりエネルギー価格が高騰を続ける中、LPガス価格も同様の動きだ。

さらにパナマ運河の通峡料値上げなどの課題も抱え、依然不透明な状況になっている。

 ロシアによるウクライナ侵攻開始から4カ月が経過した。多くの尊い命が失われたことに加え、世界経済にも深刻な影響を与えている。欧米のロシアに対する厳しい制裁により原油や天然ガス価格が高騰。原油市場に連動する形でLPガス価格にも影響が及んでいる。

ウクライナ侵攻後のサウジアラムコCP(契約価格)の推移を見ると、3月積みCPは、原油市況が一時1バレル100ドルを突破し2014年9月以来の高値を更新する中、原油価格高騰に伴いプロパン1t895ドル(前月比120ドル高)、ブタン920ドル(同145ドル高)と上昇した。

さらに4月は原油価格がロシアへの経済制裁措置の実施で急騰し、08年8月以来の高値を更新。CP価格はプロパン940ドル、ブタンは960ドルと連れ高となり、14年1月ぶりの1000ドル突破も見えてきたが、その後原油市場の極端な乱高下は収まり、5月、6月は下落に転じている。

5月のLPガス市場は、欧州では温暖な気候でプロパン需要は減少、中東市場も不需要期を迎える中、中国はコロナウイルス感染拡大に伴う上海のロックダウンなどにより需要が落ち込んだ。サウジアラビアなど産ガス国の在庫高や米国玉も含め供給は潤沢なこともあり、需給緩和で市況は軟化し、CP価格は年初水準に戻ってきたものの、20年6月のプロパン350ドルと比べると約2倍だ。

タクシー事業者支援は奏功 調達多様化で供給不安なし

LPガス輸入価格高騰に対応すべく、国土交通省は4月からタクシー事業者に対する燃料価格激変緩和対策を実施している。これは国民生活への影響を緩和し、今後の需要回復局面にタクシーの供給が順調に回復するための下支えが目的で、LPガスを使用するタクシー事業者に対して燃料高騰相当分を支援するものだ。ガソリンなどに対する補助金と同様の措置であり、ガソリン価格は3月以降、横ばいが続く。輸入価格の上昇分は政府の補助金などで賄うため大きく値上がりはしていないが、いつまで継続されるかは不透明だ。

OPEC(石油輸出国機構)プラスは、6月2日に開かれた閣僚会合で、従来堅持していた日量43万バレルという月間増産ペースを、7、8月は65万バレルに引き上げる追加増産を表明。原油価格抑制に作用するかと思われたが、その後も原油価格は上昇傾向を示し、LPガス価格も再び上昇局面に入ることが懸念されている。

調達面からロシアへの依存度を見ると、石油4%、天然ガス9%、石炭11%に対し、LPガスはロシアからの輸入はゼロとなっている。LPガス輸入は、米国や中東からの安定した供給に加え、近年カナダ、オーストラリアのシェアが拡大するなど多様化が進む。LPガス輸入の中東依存度は07年度に過去最高の91%に達したが、LPガス輸入元売りの努力とともに、シェールガス革命に伴う米国からの輸入本格化などで、中東依存度は16年58・6%から21年には8・9%に低減されている。逆に米国産輸入は、16年31・8%から69・5%に拡大、カナダ12・6%、オーストラリア7・2%となっており、供給面については安定的であるといえるだろう。

パナマ運河が大幅値上げ 日中韓の元売りが反発

4月の総合資源エネルギー調査会資源・燃料分科会で、日本LPガス協会はウクライナ危機について、「LPガス価格は高騰しているが、量的な意味での供給不安は発生していない。日本のLPガスの輸入量は約1000万tだが、ロシア産のLPガス輸入はここ20年ゼロで全く依存していない」としている。

パナマ運河通峡料大幅値上げの影響も大きい

LPガス価格上昇のもう一つの懸念事項が、パナマ運河庁が4月付で通告してきた料金システム変更と規定改定だ。16年に拡張工事を終え開通した新パナマ運河は、米国メキシコ湾から日本着まで、従来は喜望峰周りのルートで約45日かかった輸送日数を30日以下に短縮するとして大いに期待されていた。これまで10~20%程度の通峡料値上げはあったものの、今回は全船種平均で3年間のうちにそれぞれ22年と比べ30%、40%、60%と大幅な値上げとなる。その中でもLPG船の場合は194%と約2倍近く大幅に値上げする内容だという。

これらを受け、日本のLPガス元売り会社5社(アストモスエネルギー、ENEOSグローブ、ジクシス、ジャパンガスエナジー、岩谷産業)から成る日本LPガス協会と、韓国のSKGas、中国のオリエンタルエナジー、ワンファケミカルの四者は、パブリックコメントに共同で意見書を提出した。四者はパナマ運河経由で年間約2000万t、約900航海に相当する米国Gulf湾産LPGを極東アジアに輸入しており、今回の通峡料などの大幅値上げについて受け入れ難いと表明。さらにLPG船の通峡予約タイミングの改善についても要望した。パナマ運河到着2週間前の予約では、米国FOB(本船渡し)船積みおよび日本、韓国、中国での荷揚げスケジュールに適切なスロットの確保が困難であると主張する。

現在のような不確実性の下、本船を早めにパナマ運河に到着させねばならないことや、運河混雑時はさらに状況が悪化すると指摘。現在の通峡予約タイミングを80日前に変更することを要請した。実際に6月のフレート市況を見ると、パナマ運河の滞船が一時1~2週間に達し、タイト化に拍車を掛けたとの報告もあり、市況は昨年1月以来の高値となっている。意見書では、「日本、韓国、中国にとってLPGは産業向けだけでなく、商業・民生用として一般の人々にとって欠かせないエネルギー源であり、米国からのLPG輸入量は非常に多くを占め、パナマ運河のスムーズで安定した通峡は必須の条件」と見直しを求めた。

ロシアのウクライナ侵攻から4カ月、原油市況が乱高下する中、LPガス輸入価格も不透明感を増している。さらに、米国からのLPガス輸入量が多くを占める状況下で、パナマ運河の安定した通峡は必須条件だといえるだろう。

〈プロパン産業新聞〉石油産業新聞社発行〇1960年創刊〇購読者数:1万5000部〇読者層:LPガス元売り・卸売り・小売り事業者、ガス機器メーカー、官公庁、団体など

燃料・原料費の上昇続く 「値上げ改定」待ったなし


電力・ガス会社が調達する燃料・原料費の上昇に歯止めが掛からない。5月下旬に各社が発表した7月分の標準料金の状況を見ると、電力の燃料費で東北、北陸、関西、中国、四国、九州、沖縄の7社が上限に到達。ガスの原料費では東京ガスが上限に達した。石油、LNG、石炭の超高値推移に加え、為替でも約24年ぶりに1ドル135円を付けるなど円安が加速。調達費のさらなる上昇は避けられない見通しだ。

「上限を超えた分については、事業者の持ち出しになっており、このままだと収益への悪影響が避けられない。石油製品分野では国の補助金が投入されているが、電気・ガス分野でも何らかの対策が必要だ」(エネルギー関係者)

正攻法の手段として考えられるのが、値上げ改定の実施だ。とりわけ大手電力の規制料金は認可を受けてから10年前後経過しているものが多く、中には燃料構成が大幅に変わっているところも。「早急に燃料費の洗い替えをしないといけないレベル」(学識者)だという。自由料金部門の上限廃止も含め、参院選後には電気・ガス値上げが一段と加速するのか。

【コラム/7月8日】太陽光発電の新たな問題 水害とテロの危険点検を


杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹

東京都で太陽光パネルの新築住宅への義務付け条例案が検討されている。6月24日までの期限で一般からの意見募集(パブコメ)の受け付けが終わったところだ東京都による意見募集ホームページはこちら

経済性、系統安定性、土砂災害、景観、ジェノサイドへの関与など、ここにきて問題点が噴出している太陽光発電だが、本稿ではさらに最近気づいた二つの問題点について述べよう。

東京都の太陽光パネル 大水害時に感電事故の懸念

火災の際、太陽光パネルに放水すると、水を伝って感電の危険があることはよく知られるようになった。消防庁資料の冒頭だけ紹介しよう(全文はこちら

消防庁が都道府県担当課に発出した太陽光発電に関する消防活動の留意点

消防の放水が問題になるぐらいだから、水害の場合にももちろん感電の危険がある。これは政府機関NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の委託で太陽光発電協会(JPEA)が作成した資料に説明がある。これも一部だけ紹介する全文はこちら

水害時の太陽光発電システムに関する注意喚起

普通の電気であれば、大水害の時には送電線のスイッチをいったん切れば感電の心配はなくなるが、太陽光パネルは光が当たる限り発電を続けるので感電の危険がある。従って水害が起きやすい場所では太陽光パネルの設置には気を付けねばならない。東京都で特に心配なのは江戸川区だ。

江戸川区資料では、最悪の場合、最大で10m以上の浸水が1~2週間続くと警告されている。この資料は「ここにいてはダメです」という衝撃的なメッセージで話題を呼んだものだ。一部だけ紹介する全文はこちら

江戸川区水害ハザードマップでは広域避難などを呼び掛ける

さて、大規模な水害が起きた時に、太陽光パネルは感電で二次災害を起こさないのだろうか。それによって復旧が遅れたりすることは無いのだろうか。

問題はもちろん江戸川区だけに止まらない。洪水が起きかねない場所は東京都の至る所にある。太陽光パネル導入を急ぐ前に、まずは安全性の確認が必要なのではないか。

問題は再エネの「規律」だけか 悪意ある事業者が停電を起こす危惧  

「再エネ発電の一部で規律に課題、停電に至ったケースも」と、電気新聞が6月7日付で報じている。

記事によると、「送配電網協議会は6月6日、経済産業省などが開いた再生可能エネルギーの事業規律を強化するための有識者会合で、一部再エネ発電事業者の運用や工事面の問題を提起した。運用面では、給電指令を受けた再エネ事業者の認識不足と機器の誤操作で、系統が停電したケースがあったと報告」としている。

これについて説明しよう。再エネ事業者は、送電線・配電線を管理する送配電事業者の指令に従って、発電した電気を送電する。工事中の時などは、指令があれば、スイッチを切らねばならない。この電気新聞記事は、その指令に誤って従わなかった事業者がいて、停電が発生した、としている。

今回は再エネ事業者の「規律」の問題として扱われているが、もしもこの再エネ事業者が「悪意」を持っていたらどうするのか。

かつての電気事業者は日本の大企業ばかりだから、そんな心配は無かった。だが電力自由化と再エネ大量導入によって多数の事業者が参入した。中国系の企業も多い。

現代の戦争は「ハイブリッド戦争」であり、武力による攻撃に並行してインフラを攻撃するのは世界の常識になっている。

太陽光・風力を大量導入した結果、いまや日本の多くの地域で、瞬間的ではあるが電力供給の半分以上、九州に至っては7割を太陽・風力が占めることがある。経産省資料の図の最下段の赤枠がそれに当たる。

再エネ比率は九州が突出するが、他のエリアでも高くなっている

このうちのいったいどれだけが中国系の企業なのか。それが一斉に悪意を持って、送配電事業者に従わず、本国の命令によって送配電網のかく乱を試みたらどうなるのか。

例えば一斉に出力を落とす、あるいは過剰に出力する。他にも電気的にかく乱するさまざまな方法がありうるのではないか。同時多発的に各地で停電を起こしたり、その復旧を妨害したりすることで日本を混乱に陥れ、それに乗じて武力攻撃をしてくる可能性は無いのか。 杞憂であることを祈りたいが、早急に、再エネ事業者の実態の調査と対策が必要ではないか。

【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める。「中露の環境問題工作に騙されるな! 」(共著)、「脱炭素は嘘だらけ」、「15歳からの地球温暖化」など著書多数。

エネルギー安全保障と脱炭素 両立へ新たな首脳会議創設を


【論説室の窓】竹川 正記/毎日新聞 論説副委員長

ロシアのウクライナ侵攻と西側諸国の経済制裁はエネルギー危機を招来した。

エネルギー安全保障と脱炭素の両立に向け、新たな首脳会議を創設し国際協調を強化すべきだ。

「戦争を終わらせるためにロシアに最大限の圧力をかける」―。ロシア産石油の輸入禁止で合意した5月末の欧州連合(EU)首脳会議。マラソン協議を終えたミシェルEU大統領は、こう強調した。欧州はロシア産石油の最大の輸出先で、ウクライナや国際社会から「プーチン露大統領に軍資金を提供している」と厳しい批判を浴びてきた。

今回の合意により、年末までにロシアからの輸入の9割が止まるという。専門家は「ロシアは中国やインドなどとの取引拡大に動いているが、EUの禁輸分を完全に穴埋めするのは難しい」と解説する。追加制裁に一定の効果ありというわけだ。だが、ミシェル大統領が言うようにプーチン政権への圧力を最大化するには「石油より依存度が高い天然ガスの禁輸に踏み込む必要がある」(米証券アナリスト)。

「脱ロシア化」を進める欧州 中東産などアジアと争奪戦に

天然ガス調達の半分以上をロシア産に頼るドイツでは、産業界から「製造業への打撃が深刻で、大量の倒産や失業を生む」と懸念する声が出ている。だが、「法の支配に基づく国際秩序維持」を掲げる欧州各国は、ロシア軍によるウクライナでのさらなる大規模な人道被害や、生物化学兵器の使用などが明らかになれば、ロシア産ガス禁輸に踏み切らざるを得なくなるだろう。逆に、ロシア側が報復措置としてガス供給を削減・停止するシナリオも指摘される。

このため、欧州各国は代替調達先の確保や、電源構成の見直しを急いでいる。ただし、欧州の「脱ロシア」化は国際エネルギー市場で大きなハレーションを引き起こしている。結果的に、中東産などの原油・天然ガス調達を巡り、日本を含むアジア各国との争奪戦を招いているからだ。市場では「歴史的な相場の高騰が長期化する」との見方が大勢となっている。

温暖化対策の後退も懸念される。EUは表向き「再生可能エネルギーの導入による脱炭素化の手は緩めない」(フォンデアライエン欧州委員長)と強調するが、実際は化石燃料への回帰が進む。環境政党である緑の党と連立を組む独シュルツ政権が、二酸化炭素(CO2)を多く排出する石炭・褐炭の火力発電の全廃時期を大幅に先延ばししたのは象徴的だ。

エネルギーの供給不安やインフレ急進を前に、他の西側諸国も「背に腹は代えられない」として、環境よりもエネルギー安全保障を優先する姿勢を鮮明にしている。昨秋の第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)の議長国を務めた英国は、北海油田での石油・天然ガス増産に動く。脱化石燃料が看板公約のバイデン米政権も11月の連邦議会中間選挙に向けてエネルギー価格抑制に躍起で、国内シェール業界に石油・ガスの増産を求めている。

また、温室効果ガス排出量が世界1位の中国と3位のインドは、ロシア産石油の調達を拡大するほか、国内での石炭生産や石炭火力の発電量を大幅に増やしている。先進国がウクライナ支援や軍備増強への支出を拡大させる中、温暖化防止を巡る国際支援が滞れば、東南アジアなど途上国の脱炭素化政策が停滞するのも必至だ。

ミシェルEU大統領は最大限の圧力をと訴えた
出所:EUウェブサイトより

化石燃料に回帰する主要国 温暖化対策が頓挫する懸念

一方で、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告によると、各国が提示した現状の温室効果ガス削減策では、2050年までに産業革命以来の気温上昇を1・5度以内に抑えるパリ協定の目標達成は困難という。脱炭素化の取り組み加速が必要な局面にもかかわらず、COPの協調体制はエネルギーショックに直撃されて頓挫しかねない状況だ。

エネルギー安全保障と、脱炭素化のトレードオフに直面する世界。従来のようにエネルギー政策と温暖化対策を「縦割り」で議論していては、難題に対応できない。両政策を統合した新たな国際的コンセンサスづくりが不可欠だ。

本来なら、議論の舞台として、G20(主要20カ国地域)首脳会議がふさわしい。G7(先進7カ国)から、中国、インド、資源国のサウジアラビア、ブラジルやインドネシアなど有力新興国まで網羅しているからだ。だが、ウクライナ危機を起こした張本人のプーチン露大統領もメンバーのため、G20は事実上、機能不全に陥っている。

そうならばエネルギー安保と脱炭素政策の統合にテーマを絞った形で主要国・地域による首脳会議を新たに立ち上げ、国際協調を探るしかない。ウクライナ侵攻で国際情勢が激変したことを踏まえ、エネルギー安保と地球温暖化対策の両立を目指す現実的な解を首脳レベルで見出す努力を行うべきだ。「早期の100%再エネ化」などという野心的すぎる目標を追求するのではなく、当面のエネルギー安定供給確保にも配慮した現実味のある脱炭素時代へのトランジション(移行)シナリオを構築する必要がある。

再エネのバックアップ電源に使われる石炭を含む化石燃料の扱いを巡っては、今後も相当期間、活用し続けなければ経済が回らない現実を直視し、火力発電の低炭素化に協力して取り組まなければならない。金融市場でのESG投資の広がりで、化石燃料の上流部門の開発に投資マネーが回らず、供給不足に拍車が掛かる事態に対処する必要もある。

サウジアラビアなど資源国に石油・天然ガスの増産協力を求めるなら、先進国は中長期的に資源国が化石燃料を活用した水素(ブルー水素)供給国に転換できるよう技術支援を強化しなければならないだろう。途上国対策も肝要だ。天然ガス争奪戦からはじき出されないように配慮するとともに、国際通貨基金(IMF)など国際機関を巻き込んだ大規模な基金をつくり、脱・低炭素発電へのシフトに向けた資金支援を強化することが必須だ。

秩序なき化石燃料の争奪戦による世界経済の混乱を防ぎ、温暖化対策を破綻させないためには、主要国の首脳がエネルギーと環境政策のグローバルガバナンス体制を立て直すことが急務だ。