【コラム/6月7日】「電力需給逼迫警報を考える~電力システム改革誤謬(電力自由化)の早期是正を」


飯倉 穣/エコノミスト

1,経産省は、3月21日東京電力管内に電力需給逼迫警報を発出した。供給面の応急手当や需要サイドの協力で凌いだ様だが、日本で電力の安定供給懸念が日常化している。

報道は伝える。「夏の電力需給 懸念広がる 火力電源停止響く」(日経22年4月12日)、そして「電力不足 新たに「注意報」経産省方針「警報」基準に至らなくても」(朝日同5月18日)。

経産省は、総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会(以下小委員会という)で、今後の電力需給対策の事務局案を提示し、委員のご意見拝聴を継続している。どんな立場の有識者か今一不明である。現状、電力の安定供給の責任者の姿も見えず、役所の役割も判然とせず、また過去に頼りとした肝心の電気事業者の声も聞こえず、需要家は戸惑うばかりである。電力需給逼迫から電力システム改革の誤謬と見直しの方向を考える。

2,今回の東日本の需給逼迫は、3月16日の福島沖地震で火力発電所(335万KW)が停止し、その後発電所(134万KW)トラブルが継続し、そこに寒さによる需要の大幅増(想定需要4300~4500万から4840万KW予想)と悪天候による太陽光の出力減(1000万強から175万KW)が重なったと説明される。つまり原因として電力自由化の過誤を連想させず、発電所の停止、連係の運用容量低下、気温、悪天候を述べる。顛末は、追加供給(含む融通)もあったが特に節電要請(結果500万KW減)で需給均衡し、計画停電やブラックアウトを回避できた。

この事態を受け、小委員会は、需給検証、警報発出経緯、逼迫時の対応、節電要請を検証した。対応案は、需要抑制策で警報の発令時期・方法の検討、デイマンドリスポンス(DR)の強化に加え、法的な電力制限、計画停電の準備を挙げ、供給面で実現曖昧なKW公募である。消費者を蔑ろにする策が目立つ。電力システム改革後の所謂「自由化電力市場の歪み」を見直さず、膏薬張りを続けていいのか。

3,最近の小委員会(4・5月)は、電力・ガス小売全面自由化の進捗状況、直近の卸電力市場の動向、今後の小売政策、22年度の電力需給対策、3月の東日本における電力需給逼迫に係る検証等を紹介・意見交換している。

自由化進捗状況報告は、安定供給強化の度合、効率化によるコスト低下を示さない。小売政策は、事業者リスク管理、料金未払い対応に加え、家庭料金ガイドライン・産業用料金標準メニューと最終保障供給のあり方等を談義する。本来市場任せの話題である。22年度電力需給対策は、予備率の引き上げ、追加供給対策でKW、KWH公募・電源確保、需要対策でデイマンドリスポンス(DR)公募・使用制限令検討等を挙げる。いずれも官の需給関与強化である。

待てよ。各事業者の経営や需要家の問題は、自由市場なら放置だろう。電力自由化は、需給を市場に委ね、価格で調整する姿を夢とした。その実現で電源確保も可能で、且つ需要家の節電も実施され、需給も安定する。そして競争で価格低下という話だった。

需要抑制策や、供給対策(稼働可能な電源の確保、予備電源の確保、燃料調達リスク対応、新規電源投資促進、地域間連携選の増強)を殊更検討する姿は、電力システムが機能麻痺に陥っていることを示す。

4,現電力システムなら、今後も需給ひっ迫は継続する。小委員会の検討内容からも、原因は明らかである。現状の電力需給は、需給見通しの精度と乖離の場合の対処責任不在。電力供給体制で予備率の根拠不明(担当官庁の思惑優先)、予備率確保対策の意志薄弱。将来の供給に対する電源開発見通し不透明、小売り業者の責任曖昧。需要面で電力不足対応需要削減行動依存等の渦中にある。

市場に電力安定供給能力はあるか。市場は、需給変動による価格変化で需給均衡を達成する。需給は、参加者の需給の増減(含む供給者の参入・退出)で調整される。ショック等が起これば、均衡点から離脱し、次の均衡に向かう。自由化論者は、電力も通常の商品と考え 価格変動による需給調整の姿こそ安定的と考えた。それが自由化の罠である。加えて自由化の根拠でもあった分散型電源出現(技術革新)で供給サイドは自由参入可能(電源投資の制約なし)という前提の崩れもある。

現状は電力自由化の行き詰まりで、毎年需給ひっ迫が恒例行事化する様相である。国民が考える安定供給とは異質である。電力は通常の商品と違い、非弾力性(必需品)がある。どうするのか。多くの消費者は、選択自由な電力メニューの幻想より、合理的価格の安定供給希望であろう。今は電力システム改革の見直しが必要であり、それを担当官庁は考えるべきである。

5,電力業は、事業の発生経緯や電磁気学の視点では、発送配電一体が本来合理的なビジネスモデルである。システム統合のメリットで、コスト最小化を目指す限界費用ベースの運営を可能とする。適正予備率確保で、経験値を最大限活用出来、また固定料金と変動料金の組み合わせが、必要電源投資を可能とする。つまり安定性・適正価格の面で発送配電一貫体制が合理的かつ自然である。それを疑似する卸電力市場は機能不全且つ余計である。

発送電分離なら投資の不確実性増大で、投資不足となり、予備力低下を招き(担当官庁・小委員会の瑕疵)、且つ供給義務の所在が不透明なため、安定供給が覚束なくなる。又海外調達エネルギーの不確実性、国内自然エネ電源の振幅の大きさ(天気次第)に十分対応・吸収できない副作用も顕在化した。

6,今必要なことは何か。電力需給逼迫は、意味曖昧な電力自由化という制度設計失敗で生起している。その対応として電力自由化を見直さず、その場凌ぎの弥縫策、そして抜本策の先送りでは困る。そこに永遠の市場の存在はない。

電気供給の本質は、電気の性格から、発送配電一貫体制、適正コストを反映した料金規制が現在も妥当である。通常の商品と違う電場の供給に相応しい供給体制は、供給責任の明確化、地域独占、発送配電一体の経営形態、第三者アクセス容認、2部料金制、総括原価、公的なコスト監視の仕組みがより適切である。依然公益事業体制は合理的な解である。この事実を踏まえ、電力システム改革を再検討することが必要である。

その際実業のことは、実業家に任せる。虚業家は静かに見守る。行政は、民間事業に横やりを入れず、介入を最小限にし、調整に徹することが賢明である。市場とは何か。「短期の政策、長期は市場」の言葉のように政策には限界がある。現状は、長期市場の展望なく、短期のやりくり政策に終始している。担当者は粋がるだろうが、国民には迷惑である。電力自由化は、一部担当官僚の情念だったが、欧米物真似の失敗例となっている。

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。

関電・中国電が社長交代 公取委問題は「関係ない」


4月下旬、関西電力と中国電力が社長交代を発表した。 関電では森本孝社長が特別顧問に退き、後任の森望副社長が昇格する。2020年3月に就任したばかりの森本氏の交代は予想外だっただけに、周辺には驚きの声が聞こえた。会長の榊原定征氏は続投する。森氏は1988年に京都大学大学院電気を修了後、同社に入社。電力需給や再生可能エネルギー事業に携わってきた技術系だ。

関電は大手電力会社の中で唯一、今年度の決算見通しを明らかにしており、連結純損益で750億円の赤字を予想。そんな苦境下での社長就任について、森氏は27日の会見で「タイムリーにできることを総動員する。安定供給、脱炭素化、経済性の課題に対応できる電気を供給する」と述べ、原発稼働の重要性を示唆した。

関電の会見には大勢の報道陣が・・・・・・

中国電は、清水希茂社長が代表権のある会長に退き、瀧本夏彦副社長が社長に昇格する。瀧本氏は81年東京大学経済卒で、同社では経営企画や販売部門を歴任。6年ぶりの社長交代になる。

両社は昨年4月と7月の2回にわたり、価格カルテルの疑いで公正取引委員会の立ち入り調査を受けた。今回の社長交代との関連について、両社の関係者はともに「関係ない」と否定している。

【覆面ホンネ座談会】原発早期再稼働を阻む壁 鍵握る岸田首相の政治判断


テーマ:原子力緊急再稼働の可否

ウクライナ有事、そして3月の東日本の電力需給ひっ迫を受け、原子力の活用を求める声が強まっている。果たして緊急時対応として再稼働を急ぐことは可能なのか、否か。

〈出席者〉  Aマスコミ B元官僚 C電力関係者 

―原子力を取り巻く局面がここ数カ月で一変したが、クリーンエネルギー戦略の中間整理でも再稼働迅速化の具体策は示さなかった。

A ロシア問題や世界的なエネルギー高騰を受け、政治家からは一般論として原子力再稼働を求める発言が相次いでいる。岸田文雄首相は5月上旬の英国金融街・シティーでの講演で、原発1基の再稼働は年100万tのLNGを世界に新規供給するのと同効果、などと強調した。だが、新規制基準適合性審査の効率化などの具体策は述べず、一般論にとどまっている。石炭に続き5月9日にロシア産石油の禁輸を発表したときも、首相からは同様の発言しか出なかった。

B チェルノブイリ原発やザポリージャ原発への攻撃を受けて「核物質飛散のリスクから原子力は危険」との意見が、案の定出ている。だが、原子力の稼働と軍事攻撃は無関係だ。原発のリスクだけを抜き出すのではなく、国防全体としての対応を検討するべきだが、国民やマスコミ、政治家にはそういった認識が希薄だ。

C 一方、福島事故以降は原子力に対して厳しい意見を持つ人が多い中、今回のウクライナ有事を機に原子力の稼働を求める具体的な声が上がっているとも感じている。日本維新の会や国民民主党が再稼働の迅速化を訴えていることも前向きな変化だ。しかし両者の意見がある中で、原子力政策をどうしていくかという方向性がよく見えてこない。

岸田氏は観測気球上げたまま? 3月ひっ迫時の対応検証必須

B 与党が率先しなければ物事は動かない。その意味で安倍・菅政権より踏み込んで岸田首相が観測気球を上げたこと自体は良かった。しかし参院選を控えていることから、観測気球のままで終わりそうだ。さらに、首相発言はコロナ禍やウクライナ有事といった外圧によるものだ。日本は相変わらず、国内事情をくんだ積極的な意思決定ができていない。

―他方で自民党の電力安定供給推進議員連盟が3月、特定重大事故等対処施設(特重)の整備待ち施設の緊急稼働を萩生田光一経済産業相らに要請した。だが萩生田氏は原子力規制委員会の所管だとして、前向きな発言はなかった。

A 萩生田氏は安倍晋三元首相の側近としての立ち位置を取っており、ロシア産化石燃料の禁輸には後ろ向きだ。G7(先進7カ国)との協調重視の官邸との間には温度差がある。萩生田氏には政治家として、全体を見渡して国益をどう考えるのか示してほしい。ロシア産資源を調達し続けることは真の国益なのか。省益ではないかと思う点もある。

B 経産省でなく、規制委が原発稼働の権限を持つようになったことで、官僚も首相や官房長官に発言を振り付けるようになっている。

A やはり自民党の路線がはっきりしていないことが問題の根幹だ。昨年の第六次エネルギー基本計画を巡っても、自民党内の反原発派は公明党を巻き込もうと動いた。党内対立が原子力政策を足止めしている。

B 今夏、冬の需給は相当厳しい見通しだ。垂直一貫体制からの転換が全ての原因だと一概には言えないが、構造的問題を含めてこれまでの検証はきちんとすべきだ。

A 3月の需給ひっ迫時も、本来は官邸に本部をつくって対応すべきだった。前日21日夜の経産省担当課長の会見では、記者から「警報発令という理解でいいのか」と問われ、ようやく認める状態。しかも22日当日は、夕方前に萩生田氏が会見して節電を呼びかけたが、実は夜にはパリ出張で日本をたっていた。最も停電の危機が高まった時間帯、国内に責任者が不在だったということだ。危機管理の問題として政府の対応を検証すべきだ。

緊急再稼働の可否 制度・技術面での課題は

―そうした中で求められるのはやはり迅速な原子力再稼働だが、新規制基準対応の一連のプロセスを終えていない段階での早期再稼働は、制度的、技術的に可能なのだろうか。

C 原子炉等規制法において、新規制基準の許可が規定されており、許可が得られていない発電所は再稼働できないルールとなっている。仮に超法規的に再稼働できるようにしたとしても、本来の要求事項を満たさずに再稼働することに対して社会から理解が得られないのではないか。エネルギー問題というよりは、社会的な問題が大きな壁になるのではないかと考えられる。再稼働を達成するためには、やはり政治判断が必要になる。

B ただ、現場の職員に聞くと、規制のプロセス以外の部分については、時間はかかるが技術的に再稼働は可能だと言う。かといって安全をないがしろにしているのではなく、規制とは別に、事業者は稼働前に必ず使用前検査で問題がないか確認している。万が一の際に最も危険な状況になるのは現場の人たちであり、入念な検査は自分の命のためでもある。

 地元の合意については、官邸が対応するしかない。岸田首相が立地地域を行脚して説得などすれば、難色を示す自治体の空気も変わるかもしれない。だが、先日の需給ひっ迫を節電で乗り切れたこともあり、現政権にそこまでのやる気はない。北海道ブラックアウトの検証でも泊原発に一言も言及しなかったことを鑑みれば、停電による損害が生じない限り、事態は動かないのだろう。

A 審査の迅速化については、規制委は三条委員会ではあるが、行政手続法では努力規定として審査期限を明示するよう求めている。そして規制委は審査の標準処理期間を2年としているものの、実態は乖離している。これについて昨年国会で滝波宏文参院議員が更田豊志委員長に見解を求めた際、更田氏からは「2年はあくまで標準的な目安であり、審査では徹底的に安全を確認するよう指示している」といった回答だった。規制委トップが処理期間2年を守ろうとしない以上、首相が具体的に審査の迅速化に動くしかない。

C 審査の短縮化が早期稼働につながることは間違いない。他方、既に設置許可が出ている東海第二、女川2号機、柏崎刈羽6、7号機、島根2号機などは、許認可手続きではなく、安全対策工事に時間がかかっていて稼働できずにいる。こうしたプラントでは、物理的にすぐ稼働することは難しい。安全対策工事では、既設を取り除いて新しい設備を設置する作業が敷地の至るところで進行している。工事途中で稼働できるか否かは、進捗状況と、新設の設置を後回しにしても既設で運転に必要な設備が即動かせる状況かどうか、といったあたりにかかってくる。

B 確かに事業者の中でも、本社の人は「工事が終わっていない段階での稼働は難しい」と言うが、現場の人は「工事を一時中止しての稼働でも問題はない」と答える。地元合意の問題もあるにせよ、まさに緊急時対応なのだから、常時のプロセスにこだわらない対応も排除せず検討すべきではないか。

審査をクリアした女川2号機の早期稼働は東日本の需給改善に貢献するが……(提供:朝日新聞社)

【マーケット情報/6月3日】原油続伸、ロシア産禁輸で逼迫感強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み続伸。欧州連合(EU)がロシア産原油の禁輸措置で合意し、需給逼迫感がさらに強まった。

EUは、ロシアのウクライナ侵攻を受け、加盟国によるロシア産原油と一部石油製品の購入、転売、輸送、およびそれらの海上輸送に対する保険の発行などを、段階的に停止すると決定。ただ、ロシアからのパイプライン供給に頼る一部加盟国は、一時的に例外とすることで、合意を結んだ。

これにより、欧州勢の米国原油に対する買い意欲が強まるとの予想が広がった。さらに、中国・上海では1日、新型ウイルス感染拡大対策のロックダウンを解除。経済活動の再開にともない、石油需要が回復するとの見込みがさらに広がり、需給が一段と引き締まった。

一方、OPECプラスは7〜8月の増産幅を拡大。月毎に日量64万8,000バレルの追加増産で合意した。当初の計画では9月まで毎月、日量43万2,000バレルの追加増産だった。ロシア産の供給減少をある程度カバーするとの意向が、価格の上昇を幾分か抑制した。

【6月3日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=118.87ドル(前週比3.80ドル高)、ブレント先物(ICE)=119.72ドル(前週比0.29ドル高)、オマーン先物(DME)=112.10ドル(前週比0.17ドル安)、ドバイ現物(Argus)=112.05ドル(前週比0.37ドル高)

【イニシャルニュース】原子力に積極的立場 I議員を地元は歓迎


原子力に積極的立場 I議員を地元は歓迎

原子力立地県選出の自民党I議員が、以前にも増して原子力発電所の再稼働、リプレース、新型炉の研究開発支援などに意欲を見せている。原子力関連の同党のある議連会長に就いていたが、カーボンニュートラルの方針やウクライナ戦争でさらに積極性を強め、専門家との会合やエネルギー関係議員の会合に意欲的に出席し、陳情を受け付けているという。エネルギー業界や地元から歓迎の声が広がっている。

I氏の選出県は保守王国で、党内で有力議員がしのぎを削っている。原子力推進に積極的な国会議員は主に原発が集中立地する県南部の出身で、「北部を選挙区とするI氏は、どちらかというと原子力を客観的に見ていた」(事情通)と言われている。

しかし、原油・天然ガスの高騰でガソリン価格や電気料金が上昇し、ウクライナ戦争でエネルギー安全保障が大きくクローズアップされる中、原発の再稼働などは、国民生活や経済活動を守る「即効薬」になる。

「I氏が本心からエネルギー問題を憂いていることは確かだ。それに加えて県内の支持、そして全国からの評価のために、原子力政策で成果を出そうとしている」(同)と見る向きもいる。

もともとI氏は政策理解力が高く、手腕も評価されている。元首相のA氏やK氏とも親しい。原子力推進への意欲について、「将来、政権や党の中枢を担う政治家。継続してほしい」(同)との声が出ている。

電源は足りている? TF提言に業界憤り

「火力発電所の現場は、夏・冬の電力不足を何とか回避しようと点検停止の日程調整に苦心している。火力発電への投資も原発の再稼働も解決策になり得ないと言い切るのは的外れ。おかしな言説を流布するのはいかがなものか」

電力業界関係者のX氏が憤慨するのは、内閣府の「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース(再エネTF)」が4月25日に公表した提言に対してだ。

提言では、3月22日に電力需給が危機的状況に陥り初の需給ひっ迫警報が発出されたことについて、「需要を満たす供給力は十分に存在し、燃料が不足していたわけでもない。全体の設備容量が足りていた以上、過剰に発電所を持つことは経済性を低下させるし、仮に発電所が用意されていたとしても、地震により運転停止していた可能性もある」と断言。安定供給確保に向け、火力発電への投資拡大や、原発の再稼働を急ぐべきだとの主張を真っ向から否定している。

これに対し、大手電力関係者のT氏は「地震の影響がなくても関東地方は電源不足であり、地震の影響が残っていれば、次の夏・冬のピーク時の需給はさらにタイトになりかねない」と反論する。

冬の最大需要発生日である1月6日の例を挙げ、「予備率3%は確保したものの、デマンドレスポンス(DR)の発動、自家発のたき増し要請に加え、火力増出力運転、信頼度低下を伴う連系線マージン利用、供給電圧の低め調整というリスクを伴う対策を実施してかろうじて確保したにすぎない」と実態を語り、再エネTFに対し「影響力を持って提言するからには、もっときちんとした情報源を持つべきだ」と苦言を呈する。

再エネTFの提言に関係者は憤慨(内閣府)

いずれにしても、次の冬に備え計画停電を準備しなければならないほど、東日本エリアの電力需給は危機的状況にある。資源エネルギー庁や電力業界が総力を挙げて対応策を講じている中、難癖を付けるような提言を受け入れて本当に停電したら、再エネTFは責任を取れるのだろうか。

反原発の「著名ペア」 袂を分かった理由は

I氏とO女史。エネルギー業界では有名な反原子力・再生可能エネルギー推進の運動家だ。

東大と双璧をなすK大で原子核工学を学び、卒業後、原子力関連会社に勤めながら後に反原発派に転じたI氏。NPO法人のシンクタンク、「KE政策研究所」を設立し、原発に代わる電源として再エネの普及拡大に向けて、国の審議会委員を務めたり、マスコミへの出演など精力的に活動を続けている。

一方、O女史も筋金入りの反原発・再エネ推進論者。現在は大物財界人、S.M氏が設立したS財団で事務局長の要職を務める。以前は、海外の再エネ普及団体で管理職に就いたり、在日E国大使館のアドバイザーを務めたこともある。

実はI氏とO女史は、共にKE政策研究所の設立に参画した仲間同士。長く机を並べ活動していた。しかしある日、O女史が研究所を去り、袂を分かつことになる。「Iさんが研究所設立当初の気持ちを失ったためではないか」。ある関係者はO女史の心境をこう語る。

FITが導入されてから、膨大な資金が再エネ市場に流入している。「再エネ開発の案件で、Ⅰ氏の名前が出ることが多くなった」(事情通)。巨額マネーを前にI氏が見せ始めた剛腕事業家としての一面。O女史はそれに愛想を尽かしたのかもしれない。

CCS技術は必要か 大手電力幹部が苦言

「X社あたりは前のめりになっている印象だが、これだけ地震が多い日本で、CO2回収・貯留(CCS)は(商業化)できるのだろうか」

こう話すのは、大手電力会社幹部のH氏だ。発電所や工場から排出されるCO2を分離、地中深くに貯留するCCS技術について、国は脱炭素化と産業・エネルギー政策を両立する重要なオプションと位置付ける。2050年カーボンニュートラル(CN)達成の切り札としても関心を集めている。

5月11日には、経産省がCCS長期ロードマップ検討会の中間取りまとめ案を発表した。年間CO2貯留量の目安を1.2~2.4億tと想定。30年までのCCS事業開始や関連法の整備について検討を行い、年内にもロードマップの最終取りまとめ案を示す方針だ。

CCSは商業化できるか(実証プラント)

環境づくりへ躍起となる経産省とは対照的に、現場の反応は冷ややかだ。「CNに取り組んでいる、というパフォーマンスも必要だ」。電力関係者はこう明かす。H氏も「(CCSの)候補地は確かにいくつかある。しかしCO2を貯留する段階になった時、誰が責任を持って管理するのか、誰が住民や社会に理解を得るよう動くのか、国の施策はその部分を欠いている」と苦言を呈する。

そもそも、地震大国の日本と、CCSプロジェクトが盛んな欧州、オーストラリアでは、貯留量のポテンシャルにも差がある。CCSの拙速な推進で地盤の脆弱さを露呈し、貯留したCO2が抜け出しては意味がない。文字通り「気の抜けた」政策にならなければいいが……。

苦境の新電力業界 胡散臭い業者の実態

多くの新電力事業者が厳しい経営状況に陥っている。昨年から新電力の倒産が目立ち始めたが、中にはうさんくさい実態の事業者も存在している。その一例を見てみよう。

17年の設立で昨年10月に破産したF合同会社の場合。法人向けや新電力向けの電力供給に加え、事業プランニングや運営サポートなどを手掛け、年間売り上げ3億円前後で推移していた。しかし21年1月の電力需給ひっ迫に伴う市場高騰が経営を直撃。インバランス分割払いの特例措置を受けたものの、再エネ賦課金の未払いで9月、10月に経済産業省から社名公表されており、資金繰りが危ぶまれていた。その直後に、F社は破産手続きの開始決定を受けていた。

破産直前の時期にF社を訪問しても、社員はほとんどいない状態だったという。なお、F社と同じフロアには、外資系で電力小売り事業者支援サービスを展開するZ合同会社、別の新電力J社が入居していた。3社の関係性は不明だが、仮にF社がZ社に事業委託していたのであれば、小売り事業者登録を受けさえすれば、簡単に電力販売事業をスタートできたことだろう。

結果として、F社は賦課金未払いの末に破産した。今後同様に経営体力のない新電力の倒産・撤退の加速が予想されるが、怪しげな事業者の退出が進むことは良しとして、「立つ鳥後を濁す」状況が続出するようでは困る。

CE戦略会合が中間整理 原子力など「最大限活用」明記


経済産業省のクリーンエネルギー(CE)戦略検討合同会合は5月13日、脱炭素化社会実現に向けた中間整理を取りまとめた。中間整理では、2030年代半ばまでの10年間で、脱炭素関連の投資を官民合わせて約150兆円必要だと試算。岸田政権の「新しい資本主義」の柱の一つとして、年内にも最終的な戦略をまとめる方針を示している。

笛吹けど踊らずの原発再稼働

注目はロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー問題への危機感だ。「CE戦略(中間整理)の全体像」の中で、エネルギー安定供給の確保を最優先課題に位置付け、脱炭素よりも重視する方針を提起。ウクライナ危機、電力需給ひっ迫を踏まえ、原子力などを「最大限の活用」すると明記した。

12日には、日本商工会議所の広瀬道明特別顧問が資源エネルギー庁の保坂伸長官を訪れ、政府のCE戦略に関して「原発の位置付け明確化と早期再稼働」をはじめエネルギー安全保障や安定供給などを求める意見書を手渡した。原子力活用については16日、自民党の原子力規制に関する特別委員会(鈴木淳司委員長)が提言をまとめ、岸田文雄首相に提出。原発再稼働に向けた規制委員会の審査効率化や40年運転制限ルールの見直しなどを求めている。

一方、萩生田光一経産相は17日の閣議後会見で「(原発再稼働は)引き続き安全最優先で進めていく」「(新増設・リプレースは)現時点で想定していない」などと慎重姿勢を示したが、「エネルギー危機を乗り切るには原発の早期再稼働しかない。岸田さんの決断次第」(自民党重鎮)と政治決断に期待する声が党内から上がる。安定供給と脱炭素化の両立へ原子力活用の流れを加速できるか。

2050年CO2削減へ行程表 企業にゼロカーボンパッケージを提案


【関西電力】

関西電力は社会全体のCO2排出量削減を目指すロードマップを作成した。

業務・産業分野の「ゼロカーボンパッケージ」などを通じて社会のCO2削減に貢献する。

 関西電力は、昨年策定した「ゼロカーボンビジョン2050」実現の具体策として、2030年度時点の目標や道筋を示した「ゼロカーボンロードマップ」を今年3月に発表した。ロードマップには、ゼロカーボンビジョンで書かれた「デマンドサイド(需要側)のゼロカーボン化」「サプライサイド(供給側)のゼロカーボン化」「水素社会への挑戦」の3本柱を「関西電力グループ自ら取り組むこと」「お客さまや社会の皆さまと取り組むこと」に整理し、それぞれどのように取り組みを進めるかを記載。関電グループだけでなく、顧客や事業パートナー、自治体と連携しCO2削減目標を達成する道筋が示されている。

関電が提案する「ゼロカーボンパッケージ」

CO2削減のロードマップ 30年度に向け目標を設定

ロードマップ内の「30年度に向けた削減目標」では、関電として発電によるCO2排出量を25年度時点で13年度比半減、以降削減率トップランナー水準を実現することや全ての社有車の電動化に取り組むと表明。それに加え、顧客に届ける電気のCO2排出量削減に貢献するとした。電力のCO2排出係数をトップランナー水準とすることや各種サービス提供を通じて社会全体の排出量を700万t以上削減する目標を設定。700万tのCO2は、関西エリアの削減想定量の約3割に相当するという。

発電によるCO2排出量削減に向けては「再生可能エネルギー」「原子力」「ゼロカーボン火力」「水素」の各分野で取り組みを推進する。再エネ分野では40年までに洋上風力を中心とした国内1兆円規模の投資を行い、再エネを主力電源化。国内新規500万kw、累計900万kw規模の電源開発を推進する。原子力では、安全安定運転の継続と再稼働の着実な推進、次世代軽水炉や小型モジュール炉(SMR)などのリプレースに取り組むほか、火力ではCCUS(CO2回収・利用・貯留)技術の導入や検討を進め、水素の海外調達・国内製造にも力を入れる。

社会全体の排出量700万t以上削減に向けては、①省エネ(省エネ機器の導入や最適制御でのエネルギー消費量減)、②電化(化石燃料機器から電気機器へ置き換え)、③創エネ・蓄エネ(太陽光などで電気を創る)、④オフセット(CO2フリー電気料金メニューへの置き換え)―に取り組む。

計画策定から具体策の実行まで包括的に手掛ける

「パッケージ」で企業に提案 企業側の選択肢の多さ魅力

特筆されるのが、業務・産業分野の企業向けサービス「ゼロカーボンパッケージ」だ。これまで全国の製造業、物販業など法人企業を相手に、「太陽光発電オンサイトサービス」やエネルギーマネジメント、CO2フリーの電気料金メニューなど脱炭素を支援するサービスを提供。「ゼロカーボンパッケージ」では、企業の脱炭素目標に応じて、計画策定のコンサルティングから各サービスを組み合わせた具体策の実行まで包括的に提供。企業ごとのニーズや取り組みフェーズに合わせて脱炭素化をトータルでサポートする。

「包括的なパッケージにすることで、よりお客さまごとの特性に応じてカスタマイズしたご提案ができるようになります」と、営業部門法人ソリューショングループの中谷和樹課長は話す。

これまで19年の太陽光発電オンサイトサービスをはじめ、21年7月には、関電エネルギーソリューションと共同開発した空調制御サービス「おまかSave-Air」などをリリースしてきた。「脱炭素を支援するサービスのラインアップがそろっていること、電力会社として従来より培ってきた、エネルギーマネジメントに関する知見がわれわれの強みです。全国のお客さまに対し、上流(計画策定)から下流(具体策の実行)までワンストップでご支援させていただくことが可能です」(中谷課長)。CO2削減のポテンシャルを示すことで企業側も取り組みのイメージがしやすい。豊富な知見とノウハウを持つ関電ならではの「選択肢の多さ」が魅力だ。

パッケージの提案は、①現状把握(現在のエネルギー使用量と使用設備、およびそれらの構成比率のヒアリング)、②ロードマップ策定(目標年までの削減のポテンシャル、費用対効果を見える化し、取り組みの優先度を提示)、③具体策の実行(ロードマップに沿った具体的な削減方策を提案)、④効果検証アップデート(削減実績や技術進歩を踏まえロードマップ更新)―の順で進める。営業部門法人ソリューショングループの小出健人副長は「脱炭素に先進的なお客さまを中心に、ご好評をいただいております。お客さまと共にゼロカーボンの実現に取り組んでいきたい思いです」と話す。

国内のみならず、タイやベトナムといった海外に拠点を持つ日本企業に対してもゼロカーボン化のサポートを実施している。脱炭素化待ったなしの世界情勢の中、関電のサービスが日本企業のCO2削減の一翼を担っていく。

天然ガス・LNGに及ぶか 資源巡る対ロ制裁の行方


石炭、石油と拡大してきたG7(主要7か国)による資源エネルギー輸入を巡る対ロシア制裁が、天然ガス・LNGにも及ぶのではないかとの観測が広がっている。

G7首脳会議に臨む岸田首相(提供:共同通信)

G7は5月8日、オンラインで首脳会議を開き、エネルギー分野での脱ロシア依存を進めることで一致。岸田文雄首相は、ロシア産石油の原則禁輸の方針を示した。残るはガスだが、ただでさえ需給が厳しい中、世界の貿易量の25%を占めるロシア産の排除は安定供給の観点で言えば現実的ではない。

とはいえ、当初はあり得ないとされた石炭・石油の禁輸措置に踏み切っており、ガスもこれに加わる可能性は皆無ではない。EUがロシア産ガスの禁輸に踏み切れば当然、日本も同様の措置を取るよう迫られることになるだろう。

実際、ある政府高官は、「支払ったお金がウクライナに残虐非道を行っているロシアに流れていることを国民感情が許さない。いつまでもロシアからLNGを調達できると思わない方がいい」と、もはや時間の問題と見る。だが、西側諸国が輸入を停止したところで、制裁に加わらない中国やインドが安く資源を手に入れるだけで制裁の効果は極めて薄いのが実情だ。

日本が権益を持つサハリン1、2について、政府も企業も維持する方針を変えていないが、「権益を手放すことも含めロシアの資源輸入を止めろ」という世論が高まりつつある。しかし、そうした声に唯々諾々と耳を傾けていたのでは判断を誤る。少なくとも、原子力発電の再稼働、石炭・石油を含む資源の増産、LNG設備の増強といった代替手段を講じた上でなければ、制裁どころか国民生活を苦しめる結果が待つだけだ。

ベースロード再エネの真価 地熱発電で地域振興・共生へ


日本の国情に合い、ベースロード電源で活用できる再エネの一つが地熱発電だ。

「振興」や「共生」を合言葉に、地熱の導入に取り組む地域の事情を追った。

 2050年カーボンニュートラル社会実現の有力手段として脚光を浴びる再生可能エネルギー。だが、代表格の太陽光や風力は天候次第で発電量が大きく変動してしまう短所を抱える。対して、安定した出力で稼働しベースロード電源として活用できる特徴を持つのが地熱や水力だ。「特に地熱発電は火山国で温泉も豊富な日本の国情に合った再エネ。太陽光や風力よりも供給安定性に優れることを考えても、国や自治体は地熱の普及拡大にもっと力を入れるべきではないか」。再エネ業界の関係者はこう指摘する。

事実、日本は世界3位の地熱資源量を誇る。設備利用率で見ても、20%弱の太陽光や、約30%と言われる風力と比べ、地熱発電は約70%と高い。発電方法としては、地下で減圧沸騰した200~300度を超える高温の天然熱水・蒸気でタービンを回すフラッシュ発電が一般的だ。ただ温度が150℃以下だとタービンを回せないため、沸点の低い媒体(水とアンモニアの混合物など)と熱交換し、その蒸気でタービンを回すバイナリー発電が開発された。バイナリー発電は、これまで必要な熱源に届かなかった中小規模の地熱発電の可能性を広げることになった。

スマグリ化狙う土湯温泉 小国町は地域共生を実現

「もし地熱発電に取り組んでいなかったら、この町は大変なことになっていた」

福島県の北部「土湯温泉」のある旅館に勤める従業員は、地熱発電事業についての思いを吐露した。土湯温泉は東日本大震災で大きな被害を受けた町の一つだ。福島第一原発事故による風評被害もあり、観光客が激減する中、起死回生の一手として地熱発電プロジェクトを立ち上げ、温泉協同組合が中心になって挑んだ。

「土湯温泉16号源泉バイナリー発電所」が稼働を始めたのは2015年11月。自然エネルギー財団によると、346日の稼働で売電量は300万kW時を超えた。固定価格買い取り制度(FIT)は1kW時当たり40円で、年間1億2000万円ほどの売電収入が見込まれている。地熱発電の収入で地元温泉設備の費用も捻出。運開以降懸念された熱量や蒸気の減少もないという。

地熱事業が軌道に乗ると、温泉協同組合に収益の一部を還元した。投資した初期費用の回収は稼働から10年程度を見込む。「源泉の状態を考えると、土湯温泉地区の地熱発電の規模拡大は難しい」(自然エネルギー財団)中で、付近の水力発電を加えた分散型電源による供給網構築を目指す。プロジェクトを主導した「元気アップつちゆ」の加藤勝一社長は、「地熱発電の買い取りが終了する30年までに地区内で送配電網と蓄電池を整備したい」と、将来的なスマートグリッド化を視野に入れている。

一方、地元との共生を軸に、粘り強い交渉と信頼関係で地熱発電事業を手掛けたのが、熊本・小国町の「町おこしエネルギー」だ。

町おこしエネルギーは、業務スーパーで知られる神戸物産を立ち上げた沼田昭二氏が設立。小国町の地熱発電事業に17年から携わり、今年3月には設備容量4490kW、年間想定発電量約3449万kW時とする地熱発電所稼働に関する融資契約を締結した。運転開始は24年4月を予定しており、調査開始から7年弱という前例のないスピード開発となった。

町おこしエネルギーの担当者は「このスピードは地元の皆さまや自治体の協力があってこそ」と語る。小国町の地熱発電のポテンシャルは高く、これまで多くの事業者が参入。住民からは根強い反発もあったが、沼田氏自ら説明会に赴き、住民を説得した。「熱水利用の養殖事業や地産馬放牧など、地域の特性に合った事業内容が評価された」と、担当者は話す。

一方、町おこしエネルギーが懸念する地熱発電の課題に「掘削技術者の高齢化、技術の継承」を挙げている。「25年前の技術で現状維持をしていたが、技術の継承・発展ができず、最新の掘削機器は海外製。このままでは日本の技術は完全に失われてしまう」

現在は鉱山産業で有名なモンゴルから技術者を招く傍ら、北海道・白糠町に専門学校を開校し、日本の技術を残そうと奔走。こうした取り組みに共感する自治体も多く、全国から地熱開発の依頼が届いている。純国産の再エネである地熱活用への期待は大きい。

地熱発電の事業が地域に活力もたらす

欧米発の技術を応用 将来的な主力電源化も

大手電力会社も負けてない。九州電力では今年4月に鹿児島・霧島市の烏帽子岳地域で地熱発電所建設を発表。4月14日付で霧島市との合意書が交わされた。設備容量4500kWで24年度末の営業開始を見込んでいる。九電は1998年からこの地域の調査を行っており、完成すれば鹿児島県内4カ所目、九電グループとして9カ所目の地熱発電所となる。

資源エネルギー庁は、地熱発電について「エネルギー基本計画にもあるように、地熱はベースロード電源を担うエネルギー源。エネルギーの多段階活用も期待できるが、中長期的視点を踏まえた開発が必要」と強調する。石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)では、地熱導入拡大に向け、地質構造を把握する先導的資源量調査を実施。環境省の協力を得ながら、国立公園を中心に21年、22年度で30地点を超える調査を実施するという。

一方で地熱を巡っては、発電に必要な高温熱水区域「地熱貯留層」の発見が難しいという課題もある。実は、この解決に貢献すると見られているのが、米国系の日本アイパルス(東京・虎ノ門)の資源探査技術と、米国や欧州で実用化が進められている「地熱増産システム(EGS)」だ。

アイパルス社のコア技術「パルスパワー」は、短時間に最大1000万kWの強い電流を流し、エネルギーを瞬間的に集中させるもので、大深度地下構造の調査に活用可能。また関係者によれば、地下の高温の岩体を掘削し配水管などを人工的に造るEGSを導入することで、十分な熱水が存在しなくても熱資源さえあればどこでも発電が可能になるという。日本では現在の地熱発電の70倍に相当する3800万kWの発電が可能との試算もあり、将来の主力電源化につながる可能性を秘めている。

地熱発電のさらなる発展には、地域共生型ベースロードへの投資促進が不可欠だ。日本の将来を見据えたエネルギー戦略において本当に必要なものは一体何なのか。太陽光・風力偏重政策から脱却すべき時が来ている。

業界ごとの明暗くっきり 主要エネ各社の21年度決算


 電力、ガスなど主要エネルギー各社の2021年度決算(22年3月期連結)が出そろった。対前年度比で見た全体傾向として、大手電力が減収減益だったのに対し、石油、都市ガス、LPガスは軒並みの増収増益と、明暗がくっきり分かれる格好になった。

大規模増収増益の決算発表で会見する出光興産の木藤俊一社長(5月10日) 提供:朝日新聞社

まず沖縄を含めた大手電力10社については、北海道、九州を除く8社が減収。経常利益では全社が減益となった(収益認識に関する会計基準適用などで、東京が売上高、利益とも、沖縄が売上高で前年度比の記載はなし)。とりわけ利益面で厳しかったのが、東北(赤字492億円)、中部(同593億円)、北陸(同176億円)、中国(同618億円)、四国(同121億円)の5社だ。各社とも、燃料価格高騰による燃料費調整制度の期ズレの影響や、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格高騰が収支を直撃した。

一方でJERAは売上高62・5%増、経常60・9%減益となったものの、燃料調達費の期ズレ要因を除くと大幅増益に。またJパワーは電力販売価格の上昇などを受け、2割近い増収増益と好調だった。新電力大手のイーレックスは、電力調達コストや発電燃料費などが上昇する中で、営業力の強化による販売電力量の増加や価格の見直しなどが奏功し、売上高は62・5%の大幅増、経常は7・4%減にとどまった。

化石系事業者は好業績 過去最高益の更新も

大手電力とは対照的に、決算書上の好業績が目立つのが、化石エネルギー系事業者だ。石油元売りの出光興産は売上高46・7%増、経常323・8%増、ENEOSは売上高42・6%増、経常234・3%増と、いずれも大幅な増収増益。原油価格高騰に伴う在庫評価益の上昇やタイムラグによる製品マージンの改善などが影響した格好だが、在庫影響を除いた営業利益でも増益に変わりはない。コスモエネルギーも同様の状況で、3社ともに過去最高益を更新した。石油資源開発は売上高が3・8%増にとどまったが、経常は原油高騰の影響などで336・7%の大幅増益だった。

都市ガス会社はどうか。東京、大阪、東邦、西部、北海道、広島の主要6社は売上高がいずれも増加した半面、利益面ではLNG調達や電力販売など関連事業の状況により格差が出た格好で、大阪と西部が減益に。特に西部は調達国側のトラブルの影響で、割高なLNGスポット調達を余儀なくされたことが大きく響き、87・5%の大幅減益となった。

LPガス会社については、主要上場企業の岩谷産業や伊藤忠エネクスが増収増益。TOKAIは5期連続の増収に加え、各利益項目で過去最高を記録した。ニチガスは売上高13・3%増、経常8・1%減だったが、当期純利益では過去最高益を更新した。

総じて、大手電力の苦境が際立つ結果といえ、設備投資拡大などで資金不足に陥っている状況も浮かび上がる。一方、脱炭素時代と言われる中で、化石系事業者の多くが好業績だった点は興味深い。これが理想と現実の違いなのか。

原子力発電の現状に強い危機感 審査効率化でより速やかな再稼働を


【自民党の原子力規制に関する特別委員会/鈴木淳司 委員長】

自民党の原子力規制に関する特別委員会は、5月に安全規制・防災の充実・強化について提言をまとめた。

原発再稼働に向けて規制行政の見直しなどを求めるもので、鈴木委員長に提言の骨子を聞いた。

すずき・じゅんじ 1982年早稲田大学法学部卒、松下政経塾入塾。瀬戸市議会議員を経て2003年衆議院議員(当選6回)。経済産業副大臣、自民党副幹事長、総務副大臣などを歴任。

―今年2月に提言の作成に着手しました。どういう心境で臨みましたか。

鈴木 わが国の原子力の現状について非常に危機感を抱いていました。偶然ですが、特別委員会の会合を開いていた3月22日、電力需給がひっ迫し、東北地方と首都圏で停電寸前にまで至った電力危機が起こりました。われわれは将来にわたる原子力の安全確保の議論をしているのですが、今まさに目の前で起こっている危機に原子力発電所が何も対応できていない。そのことに強いもどかしさを覚えました。

 ロシアのウクライナ侵攻に伴う世界的なエネルギー危機や、円安による石油、天然ガスなどの価格高騰は、国民生活や産業活動を圧迫し始めています。また、世界的な要請のカーボンニュートラルへの対応も待ったなしの課題です。電力需給ひっ迫は、今年度の夏、冬も起こり得ると言われています。それらの課題を解決できるのは、当面、原子力しかありません。まず、その点をしっかり位置付けたい思いがありました。

―福島第一原発の事故の後、日本の原子力は著しい停滞が指摘されています。

鈴木 多くの原子力発電所が長期間運転停止をしている間に、実績のある運転員が退職し、稼働経験の乏しい職員がそれに代わることになります。また、運転再開に向けた予見可能性が著しく低いことは、投資へのインセンティブを減少させてしまう。優秀な人材の確保も難しくなり、安全・安定運転の基盤となるサプライチェーンも衰えます。原子力発電所は、止めていれば安全だと考える人が多い。しかし、実は長期の停止はかえって安全を損なることになりかねないのです。

 一方、先日、米国から高速炉(FR)の共同開発を持ち掛けられたように、日本の原子力産業にはまだ豊富なポテンシャルがあり、世界から評価されています。原子力産業を今後も維持、発展させていくことができるか、今はまさに正念場だと思っています。

―まず、どういう課題を優先すべきだと考えましたか。

鈴木 停止中の原子力発電所の再稼働です。今回のエネルギー基本計画でも、2030年に原子力比率20~22%という目標が示されています。しかし、福島第一原子力発電所の事故から11年、原子力規制委員会の発足から10年がたちましたが、まだ再稼働した発電所は10基にすぎません。現在停止中の17基が運転しなければ、この目標は達成できない。その点からも、速やかな再稼働についての検討が絶対に欠かせません。

―原子力規制委員会の新規制基準の適合性審査で、いまだに多くの原発が停止しています。提言では、審査の在り方について、さらなる見直しを求めています。

鈴木 われわれは規制を緩めるべきだとは、一切主張していません。申し上げるまでもなく原子力は安全が最優先ですから、規制はしっかりと行うべきです。ただ、審査は効率よく進めていただきたい。現在の審査の在り方には、まだ改善すべき点が多くあると思います。

断層などの審査で多くが停止している(敦賀2号機)

理学系の論点で審査長期化 事前に問題意識の提示を

―具体的にどういう点を見直すべきですか。

鈴木 規制委の審査会合は、事業者にとって「一発勝負」のような側面があります。いわば事前通告のない国会質問のようなもので、質の高い良い議論にはなりません。しかも、審査が長引いている主要因でもある断層や地震、津波、火山などの自然科学系の論点は、そもそも取得すべきデータが膨大かつ困難です。

 そのような中、事業者は審査会合に備えて、膨大な取得データなどの証拠を整理し、大変な時間と労力をかけて資料を準備します。しかし、規制委の関心事項やポイントと、事業者の認識がずれていると、膨大なロスが生じます。その過程での手戻りで審査がストップし、再開するまでに長い時間がかかってしまう。やはり審査会合の場で、規制委の委員と事業者の議論がしっかりかみ合うようにしなければならない。

―求められていることは。

鈴木 審査の過程で、規制側から事業者に対して「規制当局としては、こういう問題意識と関心事項を持っている」ということがしっかり伝わり、共有されていることが大切です。その点、北海道電力泊3号機の審査では、今年3月末に、規制側から審査会合で論点となるポイントが初めて明文化された形で示されました。これは、これまで例のなかったことで、今回の提言の中でも評価しています。

 審査会合の前に、規制側が質問や確認する項目を文書で示し、それに対して事業者が適切な準備をしっかり積み重ねていけば、会合を効果的・効率的に行うことができます。他のサイトでの審査でも、引き続きこういった取り組みを進めていただきたい。

―今後、提言をどう扱いますか。

鈴木 5月12日に山口壯環境相に提出し、16日には岸田文雄首相に申し入れを行いました。今後、党の総合エネルギー戦略調査会などとも連携して、提言内容の実現を求めていきたいと思います。

―ところで、今回の提言は「中間報告」ですが。

鈴木 われわれは、提言の内容がどう実行されていくか、今後、その状況を引き続き確認していきます。規制の在り方については、引き続き安全第一の原則は堅持しつつ、必要に応じて原子炉等規制法などの改正も視野に入れ、より効果的・効率的な規制に向けて、議論の深掘りを進めていきます。

現実味帯びる首都計画停電 供給システム脆弱化の対策が急務


今年度夏・冬も厳しい電力需給が見通され、計画停電の実施も視野に対策が講じられようとしている。

短期的な停電回避策はもちろん、システムの脆弱化を招く構造的な問題の解決が求められる。

 「東京エリアが暖冬になることをただ祈るしかない。そうでもない限り、いよいよ計画停電の実施は現実のものになるだろう」

そんな話が今、電力業界でまことしやかにささやかれている。業界関係者にとって「予備率マイナス」のインパクトは、東日本大震災発生時以来の計画停電を覚悟しなければならないほど大きかったようだ。

予備率マイナスの衝撃 繰り返される電力危機

資源エネルギー庁が示した今年度冬季の電力需給見通しによると、東京エリアの厳気象H1需要(10年に1度の厳気象を想定した最大需要)に対する安定供給に最低限必要な予備率(需要に対する供給力の余力を表す割合)は、23年1月がマイナス1・7%、2月はマイナス1・5%と惨憺たるものだ。中部、北陸、関西、中国、四国、九州の6エリアでは安定供給に必要な予備率3%を下回っており、全国的にも厳しい。

大手電力会社のOBは、「この予備率の数値が日本の電力需給の実態を表しているのであり、相当深刻だと受け入れざるを得ない」と、電力供給システムの信頼性が崩れつつあることへの失望を隠せない様子だ。

3月22日、福島県沖地震に伴う大規模な供給力の脱落と季節外れの低気温により、東京・東北エリアに全国初の「電力需給ひっ迫警報」が発出されたことは記憶に新しい。このときは、追加的な供給対策に加え、需要家の節電協力も功を奏し、大規模停電という最悪の事態は免れた。だが、なぜこのような電力危機が毎年繰り返されてしまうのか。

その要因として考えられるのが、競争促進と脱炭素化をエネルギー政策で優先した結果、安定供給を支える火力電源の休廃止を促進し、供給力(kW)の減少に歯止めがかからないことだ。このため、ただでさえ高需要となる夏・冬は需給がひっ迫しやすくなっている上に、今年度は福島県沖地震に伴う火力電源停止の長期化の影響が追い打ちをかける。

もう一つは、20年度冬に燃料制約により全国的な電力不足に陥ったことが象徴するように、たとえkWが足りていても燃料確保が不十分であればkW時(発電電力量)が不足してしまうことだ。足元ではロシアのウクライナ侵攻により燃料調達リスクが顕在化しており、kWと合わせてkW時不足への対応の必要性がますます高まっている。

脆弱化した供給システムの根本的な立て直しは急務だが、まずは目の前に迫る危機を回避するべく、エネ庁や電力業界が総力を挙げた対策に乗り出している。

供給側の対策としてエネ庁が打ち出しているのは、「kW公募による休止火力の稼働」と「kW時公募の拡充による燃料在庫水準の引き上げ」、そして燃料調達リスクに影響されない「再生可能エネルギー電源の最大限の稼働の担保」「安全性が確保された原子力発電の最大限の活用」―の四つ。

休止火力の稼働についてはJERAが、夏季の需給ひっ迫回避に向け、4月1日に長期計画停止に入っていた袖ケ浦火力1号機(60万kW)を再稼働させた。さらに、21年度冬季に需給対策として再稼働させていた姉崎火力5号機を含むそのほかの長期計画停止電源についても、運転再開に必要な工事内容や期間の精査を進めている。

夏季、そして冬季のひっ迫回避に向け、「(一般送配電事業者や小売り事業者など)ステークホルダーの要請に応えられるよう準備を進めていく」(JERA)考えだ。

JERAは袖ケ浦火力1号機を再稼働させた

原発再稼働は非現実的 急がれる需要対策

エネ庁が供給対策として再エネと原発を挙げるのは、「休止火力の稼働はkW不足に対しては有効である一方、燃料調達リスク(kW時不足)への対応としては不十分であるため」(エネ庁幹部)だ。

4月8日には、岸田文雄首相が「夏・冬の電力需給ひっ迫を回避するため、再エネ、原子力などエネルギー安全保障と脱炭素に効果が高い電源の最大限の活用を図る」と記者会見で述べるなど、原発再稼働への足場固めは着々と進んでいるかに見える。

しかし、その実現性について大手電力会社の幹部は、「現行ルールのままでは、安全対策工事を進めている原子力を今年度冬季に合わせて再稼働させることは現実的ではない」と否定。そして、「比較的余裕のある他エリアからの電力融通に加え、それでもひっ迫が避けられない場合にはやはり節電しかない」と、より一層の需要側の対策の重要性を強調する。

本来であれば、インセンティブを伴うデマンドレスポンス(DR)で需要を抑制することが望ましいのだろうが、蓄電池などの普及が十分に進んでいない現状では難しく、3月22日と同様、ひっ迫警報により広く需要家に節電を呼び掛けるしかない。

このときは、警報の発令が前日の午後9時と遅れたことが、企業などの対応の遅れを招き十分な節電効果を引き出せなかったとの指摘がある。そこでエネ庁は、これまで前日午後6時をめどとしていた発令のタイミングを4時に前倒しするとともに、警報発令の基準となる予備率3%が確保されていても、5%を下回ることが見込まれる場合に「注意報」を発令することにし、需要家に対する早めの注意喚起につなげる方針だ。

このような需給双方の対策を講じたとしても、そのギャップを埋められるかは不透明なまま。そこで万が一に備え、計画停電の実施や電力使用制限令の発令も視野に準備が進められようとしている。とはいえ、自然災害などが要因でもない限り、経済と国民生活に多大な影響を及ぼす強制措置を講じることに国民の理解を得られるとは考えにくい。

繰り返される需給ひっ迫危機の背景には、政府主導で進めてきた自由化と再エネ政策がもたらした供給システムの構造上の問題があることは間違いない。それによって国民に不利益を強いるというのであれば、その反省を踏まえた問題解決の具体策を指し示す必要があるのではないか。

【マーケット情報/5月27日】原油続伸、需給逼迫感強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み続伸。品薄感と需要回復の見通しで、需給がさらに引き締まった。

欧州連合は、ロシア産原油の禁輸措置を検討。30~31日の欧州理事会の会合で、方針の決定を目指す。ロシアへの依存度が特に高いハンガリーは反対しているが、欧州連合の高官は禁輸措置に意欲的な姿勢を見せている。ロシア原油回避の動きが強まるなか、サウジアラムコ社は、世界の産油能力の余剰は、2%以下しかないと警告した。

加えて、イランのイスラム革命防衛隊が27日、中東を航行していたギリシャ国旗の船舶2隻を拿捕。26日には、地中海を航行中だったイランの原油タンカーが米国に拿捕されている。中東における政情不安、および安定供給に対する懸念が台頭した。

品薄感が強まる一方で、中国・上海では、新型ウイルス感染拡大対策のロックダウン解除を開始。6月には製油所の稼働率も徐々に上昇すると予測されており、経済再開と石油需要回復の見通しが広がった。また、北半球では夏季に入り、燃料消費の増加見込みが根強い。需給の引き締まりで、買いが一段と優勢になった。

【5月27日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=115.07ドル(前週比1.84ドル高)、ブレント先物(ICE)=119.43ドル(前週比6.88ドル高)、オマーン先物(DME)=112.27ドル(前週比3.76ドル高)、ドバイ現物(Argus)=111.68ドル(前週比3.56ドル高)

入社の決め手は「笑顔」 家族のような関係で二人三脚


【サイサン】小西 杏奈

 サイサンとの出会いは中京大学在学時。日本オリンピック委員会によるアスリート就職支援制度「アスナビ」の企画で、プレゼンテーションを行ったところ「終了直後に真っ先に笑顔で走ってきて『小西さん、ぜひっ!』と名刺をいただいた」。それがサイサン副社長の川本知彦氏だった。

筋力を生かした泳ぎが特徴

当時の印象について「優しそうな笑顔で温かみを感じた。名刺をいただいた瞬間に(就職を)決めた」と和やかな雰囲気を語る。小西選手の入社を決めたサイサンも「(迎え入れた)決め手は笑顔。ポジティブな雰囲気が会社に良い影響を与えてくれる」と話す。笑顔を共通点にした両思いの関係で競技に取り組み、小柄ながら筋力を生かしたバネのある泳ぎで、サイサン入社後さらに力を伸ばした。

これまでのトレーニングが実を結んだのは2021年4月の日本選手権だ。東京五輪代表選考会も兼ねたこの大会、100m背泳ぎと200m背泳ぎで優勝し2冠を達成。東京五輪のメドレーリレー代表に内定した。「会社の皆さんが日本選手権に臨むときに、各拠点で応援動画を作り、送っていただいた」。コロナ禍で会場での応援ができない状況下でも、できる限りの応援を続けるサイサンには「感謝してもしきれないほどの恩しかない」と話す。

東京五輪では女子400mメドレーリレーで8位入賞を果たし、初の五輪の舞台で輝きを見せた。サイサン本社で行われた五輪報告会では、世界中のグループ拠点から祝福を受けるなど、サイサンを「家族のような温かさ」と表現する。「今まで良い成績を残すことができたのは、たくさんの応援をいただいたおかげ。おこがましいが、これからも元気を届けられるよう結果を求めて頑張る」と、4月末から開催する日本選手権での活躍を誓った。

サイサンは、小西選手について「オリンピックに出る、という小学生時代からの夢を実現したことは、誠に素晴らしいこと」と、これが他の社員のモチベーションアップにつながったと評価。競泳に真摯に取り組む姿を通じ、社員への波及効果に期待しているという。アスナビによるアスリート採用は19年から始まり、小西選手らが「一期生」となる。「ガスワン・サイサンというブランドを広めてもらう役割を担っている」と、トップアスリートの競技活動の支援に力を入れる。今後は9月のアジア大会出場、そして24年パリ五輪出場を目指し、小西選手とガスワングループの二人三脚は続いていく。

こにし・あんな
1996年兵庫県出身。姉の影響で2歳から水泳を始める。上半身の強さを生かし、専門の背泳ぎで頭角を現す。2018年アジア大会100m背泳ぎで銀メダル、21年日本選手権では100m、200m背泳ぎで2冠を達成し東京五輪メドレーリレー代表に選出。

次代を創る学識者/所 千晴・早稲田大学理工学術院創造理工学部環境資源工学科教授


資源循環の鍵を握る「分離技術」の研究開発を主導する。

目指すのは、生活の利便性や経済性を損なわない循環型社会の実現だ。

 SDGs(持続可能な開発目標)達成やカーボンニュートラル社会を実現するには、限りある地球資源の循環利用が欠かせない。製品寿命を終えた廃棄物の再資源化に資する「分離技術」の研究開発を進める早稲田大学理工学術院環境資源工学科の所千晴教授は、「省エネルギー、低環境負荷、低コストで高精度の分離を実現することで循環型社会構築に貢献していきたい」と研究の狙いを語る。

循環型社会を目指す上で、人々は「大量生産・消費型社会」で培われた価値観の大転換を促されることになる。同時に製造現場も、性能と価格のみを重視した製品設計から、より資源の循環に配慮したモノづくりへの移行を強く求められる。所教授は、生産の段階から再資源化を考慮した製品づくりを後押しする技術研究の傍ら、製品の供給から回収して再資源化するまでの社会システム構築に向けた研究にも携わり、これまでも積極的に政策提言を行ってきた。

日本では、「環境対応」といえば自己犠牲やボランティア精神を伴うものだと考えられがち。所教授が志すのは、生活の利便性や経済性を損なわずに循環型社会を実現することで、「well-being(幸福)」な暮らしの実現に貢献することであり、研究指導を通じて学生たちにも環境をビジネスに結び付けることの重要性を伝え続けているという。

「環境」に興味を持つきっかけとなったのは、1992年にブラジル・リオデジャネイロで開催された「環境と開発に関する国際会議(地球サミット)」で、当時12歳だった少女が行ったスピーチに感銘を受けたこと。そして、環境問題を解決することで社会に貢献できる人材になりたいと、早大理工学部に進み資源循環工学を専攻しようと決めた。

とはいえ、最初から研究者を目指したわけではなく、「キャリアウーマンになって大手町を闊歩しよう」と、自身の社会人像を思い描いていたことも。転機となったのは、4年生で研究室に入り研究の面白さを知ったことだ。「研究者としての視野を広げるためにも、博士課程に進むのであれば研究室を変えた方がいい」という恩師のアドバイスを受け、修士課程から東京大学大学院工学系研究科に進み、実験やシミュレーション手法など研究者としての基礎を培った。

多岐にわたる社会問題 バランスを考慮し解決を

気候変動問題は、社会が一致して取り組むべき大きな課題だと認識する一方で、「それだけが地球への環境負荷ではないにもかかわらず、政策や企業の取り組みも含めてカーボンニュートラルのみに注力し拙速に進める傾向が強まっているのではないか」と、昨今の風潮に危機感を覚えている様子。

社会問題は、エネルギー安定供給や資源の有限性、環境汚染など多岐にわたる。「さまざまな問題のバランスを図りながら解決していかなければひずみが生まれてしまう。これらを一緒に解決する手法を考えるべきだ」と強調する。

ところ・ちはる
1975年兵庫県生まれ。早稲田大学理工学部資源工学科卒、東京大学大学院工学系研究科地球システム工学専攻修士課程および博士課程修了。博士(工学)。早稲田大学理工学部(現理工学術院)助手、専任講師、准教授を経て、2015年から現職。