海洋放出に中韓が猛反発 透けて見える「敵対心」


東京電力は8月4日、福島第一原子力発電所の処理水の海洋放出に必要な海底トンネルなどの工事を開始した。2023年春までの完成を目指す。

処理水は100倍に希釈され、トリチウム濃度は世界保健機関(WHO)が定める飲料水基準の7分の1に低下する。地元の漁業関係者は反対の姿勢を崩していないが、安全性について国民の理解は得られたといえるだろう。

処理水が貯蔵されている保管タンク

一方、猛反発しているのが中国、韓国だ。そのかたくな姿勢からは、台湾情勢や防衛費増額、徴用工問題などを巡る日本への敵対心が透けて見える。

中国の趙立堅報道官は昨年4月、日本人記者から中国の原発も放射性物質のトリチウムを放出していることを問われ、事故が起きた原発と正常に稼働している原発の処理水は別物である―と科学的根拠のない回答をした。

韓国では前政権から、国際海洋法裁判所への提訴が検討されている。しかし、韓国の原発のトリチウム放出量は日本よりも多いので、全く的外れである。

要するに中国、韓国は意趣返しをしているにすぎない。政府は国内外に海洋放出の安全性を繰り返し訴え、東電は粛々と工事を進めるべきであろう。

「ちりつも」で今冬のひっ迫改善へ 家庭向けDRサービスの効果と期待


【SBパワー/ファミリーネット・ジャパン】

物価高騰と電力需給ひっ迫を受け、政府は「節電ポイント」などで需要家向けDRの拡大を後押しする。

以前からDRを積極展開してきた事業者にこれまでの成果や、需給緩和への寄与の可能性を聞いた。

岸田政権が物価高騰や今冬の電力需給ひっ迫対策として節電ポイントを付与する事業を行うと発表して以降、需要家向けDR(デマンドレスポンス)への注目が高まっている。ただ、新規でDRサービスをいざ提供しようとしてもシステム構築などのハードルに直面するケースが多い。また、特に家庭向けDRについては、特高や高圧と異なり1件ごとの節電量はわずかで、需給改善効果は限定的と見る向きもあった。こうした意見に対し、以前からDRに積極的な事業者からは「ちりも積もれば山となる」とひっ迫改善への貢献に期待する声が挙がる。

専用アプリでDR通知 積極的に他社にも提供

ソフトバンク系の小売り事業者であるSBパワーは、専用のスマホアプリ「エコ電気アプリ」を使った家庭向け節電サービスを2020年夏から提供する。当時は21年初頭の市場高騰前で、周囲からは「家庭向けDRは手間暇はかかるが、積み上げても効果はそれほど期待できない」との見方が多かったが状況は変わり、参加者はサービス開始時の数万世帯から最近は50万世帯を突破。ほかの事業者でも、九州電力や東京電力エナジーパートナー、東邦ガスなど数社が「エコ電気アプリ」をベースにしたシステムの提供を始め、今後も拡大するという。

SBパワーは専用アプリのプッシュ通知でDRを要請

同サービスでは、JEPX(日本卸電力取引所)からの調達価格が提供価格を上回った際などにDRを発動し、「節電チャレンジ」として節電に参加協力してもらえるよう需要家に依頼。参加した需要家が、その時間帯の前日予測需要量=ベースラインを下回り節電に成功すると、報酬をキャッシュレス決済サービス「PayPay」で還元する。21年度の節電効果は約508万kW時だった。

当初の成功報酬は1回1~2円程度相当だったが、今の高騰局面では数十円程度のケースもあり、6月以降は毎日のようにDRを発動。さらに3月22日の需給ひっ迫警報時の実績を検証したところ、節電チャレンジ不参加に比べ、参加者の節電効果が10%高かった。ひっ迫警報や政府の呼びかけに加えての同サービスの展開で、節電効果が高まることが確認できた。

ソフトバンクは「アプリを通じて顧客が状況を理解し活動することで、ある程度の塊として節電を制御できる可能性が出てきた。ゲーム感覚で節電を楽しんでもらえるサービスにすることで継続的に協力いただけるようにすることがポイントだ」(エナジー事業推進本部事業開発部)と説明する。

同社では世帯ごとに翌日の需要を予測しベースラインを算出しており、グループ会社のエンコアードジャパンの特許技術を活用している。ただ、別の事業者が同様の仕組みを新たに自社で始めようとするハードルは高い。

「DRだけで家庭向けサービスが完結できるわけではなく、新電力各社の限られたリソースをDR開発だけに割り当てられないと思われる。かといって導入を見送るのではなく、当社のシステムを広く活用してもらうことで、全体として節電量を増やし効率的なエネルギー消費に向かうことができれば、ソフトバンクらしい取り組みとして提供の意義が示せる」(同)と強調する。

一括受電でもDR実績 デマンドを3段階で評価

マンション一括受電でも、DRの実績を培ってきた事業者がいる。ファミリーネット・ジャパン(FNJ)は、2012年から新築マンション向け一括受電でのDR型電気料金プラン「スマートプラン」を提供する。一括受電は、計画停電の経験から東日本大震災後に急増し、当時は大手電力の経過措置規制料金と比べて数%安いとのうたい文句形が主流。それと「スマートプラン」は一線を画し、当初からエネルギーマネジメント志向のプランを提供してきた。エネマネ志向に理解を示したデベロッパーに採用を続けてもらい、現在は首都圏、名古屋市、仙台市でサービスを提供している。

同プランの特徴は、デマンドを3段階に分けて料金を変動させ、節電を促す点だ。リアルタイムの節電量と、ピークが立つかどうかで、30分ごとに料金が変動する。ピークを立てないよう家電を使うタイミングを変え、ベースライン(2段階目)以下に納まるように家電を使うと、東京電力の従量電灯B、Cより5%安くなる。最も低い1段階目の範囲に収まった場合は、さらに安くなる。自社開発のインジケーターでリアルタイムの電気の利用状況を知らせ、ピークを抑制するような行動を促す。スマートメーターなどを使い30分値で料金変動するプランはほかにもあるが、リアルタイムの使用量を反映するプランは珍しいという。

FNJのインジケーターイメージ図

野村不動産と共に、14年夏、冬に千葉県船橋市の5棟約1500世帯を対象に行った実証では、スマートプランと見える化、さらに省エネアドバイスレポートの提供まで実施した場合、kWを低減するピークカット効果が約11%、kW時を削減する省エネ効果は約7%との結果が示された。今年3月の需給ひっ迫時も、顧客向けに料金確認画面や専用ホームページなどで政府からの情報を随時発信し、無理のない範囲の節電を呼び掛けた。今冬に向けては、さらに啓蒙の仕方を検討する考えだ。

同社は「スマートプランは10年目となり、その趣旨がようやく政策と合致するようになってきた。デベロッパーの関心も高まっており、DR自体が定着してきている」(草刈和俊・取締役常務執行役員)と手応えをつかんでいる。

本番の冬に向け、今後各社のDRサービスが続々発表されそうだ。緊急措置的な側面はあるにせよ、「ちりつも」DRが需給改善にどれだけ貢献できるのか、引き続き検証していくことが重要になる。

電力供給不安は「冬」が本番 求められる事業者の知恵


【論説室の窓】五郎丸 健一/朝日新聞 論説委員

繰り返される電力の供給不安を乗り切るには、発電側だけでなく、使う側の対策も欠かせない。

「節電ポイント」では政府が前面に出ているが、電力事業者が主体的に取り組むべきだ。

 夏や冬の電力の供給不安が、世の中の一大関心事になっている。記録的な猛暑に見舞われた6月下旬には、東京電力管内で「需給ひっ迫注意報」が連日出て、大きなニュースとなった。この原稿を書いている8月上旬の時点では、幸い深刻な事態は避けられているが、気は抜けない。来年1~2月は各地で供給余力が夏よりさらに乏しくなる見通しだ。「本番」への備えを急がねばならない。

6月のひっ迫は、古い火力発電と広域融通のフル活用や、節電の呼びかけで乗り切った。ただ、節電に対しては「電気を使いたい時に使えないとは、日本は先進国なのか」といった批判がネット上で散見された。また、近年の電力システム改革や、再生可能エネルギーを増やしてきた政策を「大失敗」と決めつける言説や、原発の積極活用を求める中で安全規制や再稼働に必要な手続きを軽んじるかのような主張も見受けられる。

だが、いま求められるのは短絡的な「答え」に飛びつくのではなく、需給両面を見渡して問題点や解決策を冷静に見定めることだ。電力不足が起きやすい背景には、多くの要因がある。目先でやれることと、中長期で取り組むことを整理し、時間軸を意識しながら対処していくしかない。

供給側の構造要因で大きいのは火力の休廃止の増加だ。電力システム改革で供給体制の効率化が進んだが、大手が余分な電源を減らすことにもつながった。太陽光の拡大に伴う火力の稼働率低下も、この流れを加速させた。

以前から指摘されてきた問題で、本格的な対策が急務だ。社会的に適正な供給余力の水準と費用負担の在り方を詰めた上で、予備電源の維持や新規の整備を促す仕組みを整える必要がある。経済産業省は、将来の発電能力を取引する容量市場の拡充を検討中で、これが機能するかが焦点となる。

供給側だけではコスト過大に 即効性ある需要側の対策

足元の動きで特筆すべきは、これまで遅れていた需要をならす取り組みに光が当たっている点だ。従来は供給側の対策に力点が置かれてきたが、ひっ迫時のピーク需要を満たすのに十分な供給力を確保するやり方一辺倒では、非効率な電源が増え、社会全体のコストがいたずらに膨らむ弊害がある。

緊急時に即効性があるのは需要側への働きかけであり、事業者や政府による節電要請がしばしば行われてきた。ただ、「お願い」が繰り返されると、「なれ」が生じて効果は弱まることが、経済学者の実証研究で分かっている。

依田高典・京都大教授や田中誠・政策研究大学院大学教授らが、2012年度に行った興味深い社会実験がある。翌日のピーク時間帯に電気の使用を控える要請を繰り返し受けた世帯では、最初は8%の節電効果があったが、すぐに効果は急減した。一方、ピーク時間帯に大幅に値上げする変動型料金を導入した世帯では、17%の節電効果が持続した。

また、依田教授らが最近行った別の実験では、以前より電力消費を減らした世帯に1kW時当たり100円の報酬を与えたところ、2・7~5・6%の節電効果が見られたという。

このように利用者の負担を変えることで消費抑制のインセンティブを与える手法はDR(デマンドレスポンス)と呼ばれる。最近は使用状況を随時把握できるスマートメーターが家庭に普及し、広く導入環境が整いつつある。

田中教授は「需要側の対策は、社会全体にメリットがあるもの。節電要請やDRの実験で得られたエビデンスは、電力会社がどんな方策をとるかや、政策を考えるのに役立てられる」と話す。

節電ポイントに尽きぬ疑問 官主導ではなく民間を中心に

対価支払い型のDRは、政府が6月に決めた需給ひっ迫対策でも柱の一つと位置づけられた。ただ、経産省の4月の調査では、DRの料金メニューを持つ小売り事業者は全体の15%にとどまる。

そこで政府が打ち出したのが、事業者が展開する節電プログラムへの補助だ。参加登録した人に2千円分、企業などには20万円分のポイントを支給する。投じる予算は1800億円にのぼる。また、節電実績に応じて事業者が出す分にも国が上乗せする方針だ。

DRを普及させる狙いは理解できるが、やり方は疑問が多い。節電ポイントは、物価高対策の一環で参院選前に突如打ち出された。実際に節電につながるかわからない登録段階で多額の公金を配ることには「バラマキ」との批判があり、当の電力業界からも「愚策」との声が漏れ聞こえる。

節電ポイントの効果やいかに……

お金を配るなら、節電量に応じて出す部分を手厚くする方が効果的だし、そもそも政府が前面に出ていること自体、違和感が強い。事業者側には、ピーク需要がならされれば、ひっ迫時の高い供給コストを抑えられるメリットがある。官主導ではなく、民間が中心的な役割を担うのが筋だ。

家庭への報酬額は、節電1kW時当たり5円や10円といった水準が目につくが、これで多くの人に反応してもらえるだろうか。ひっ迫時に卸市場のスポット価格が急騰すると、1kW時当たり数十円以上の「逆ざや」が発生することを踏まえれば、今の報酬は少なすぎる、という指摘が専門家から出ている。国の上乗せに多くを頼る仕組みにした場合、支援策がなくなった後に節電の機運が急速にしぼむ懸念もある。

このほか、対象がスマホを使える人に限られないか、節電量を公平に測れるのか、といった実務的な課題もある。多くの人が節電に取り組む利点を実感し、行動変容する仕組みにできるか。各事業者の知恵と本気度が問われる。

DRの普及は、利便をあまり損なわずに需給の安定や効率向上につなげられる点で、意義が大きい。関連技術も進歩しており、空調機器の自動制御などが実用化されている。脱炭素化や分散化などで電力供給と利用の形が大きく変わりつつある中、多くの企業が新しい技術と発想を取り込み、競い合いながら社会に貢献することを期待したい。

熱い視線集まるSMR 一時的と冷ややかな声も


米国ニュースケール社の小型モジュール炉(SMR)に関する米原子力規制委員会の設計認証審査が最終段階に入り、日揮、IHIなども出資していることから注目を集めた。8月には経済産業省の委員会において「小型軽水炉を2030年代後半に着工し40年代に運転を目指す」という趣旨を含む革新炉開発の技術ロードマップが提示され、あたかもSMRの将来はバラ色のごとく映る。

MRブームが起きつつある
提供:ニュースケール社ウェブサイト

この動向は「07~08年ごろの米国の原子力ルネサンスを思い出させる」(アナリスト)。当時、資源価格高騰と地球環境問題から来る原子力新設への期待は相当なものだった。融資保証などの後押しもあり、電気事業者はどこも新設の設置許可を申請した。しかし、原子力が問題解決の切り札と信じたのは原子力産業界などにとどまった。電力会社は安価なシェールガスや太陽光を選択し、社会の広い層からの支持には至らなかった。

SMRブームは「大型軽水炉プロジェクトの失敗に懲りた原子力関係者のわらにもすがりたい動機から発している」(同)。脱炭素や価格高騰の解決策として、市場と消費者の支持を取り付けた結果ではない。ある業界関係者は「原子力ルネサンスのデジャブを見ているようだ」と漏らす。

【覆面ホンネ座談会】電気料金高騰が示した現実 自由化政策の破たん露呈か


テーマ:電力価格の行方

燃料費調整制度で価格転嫁に一定の歯止めがかかる中、大手電力は料金見直しへの対応をそれぞれ発表している。電力価格の動向、そして自由化政策の先行きはどうなるのか。

〈出席者〉 A電力関係者  Bエネルギー企業関係者  C新電力関係者 

―中部電力が10月分で燃調の上限に達し、10社すべてが上限超えとなった。大手電力各社の対応をどう見ているか。

A 各社の事情は異なる。例えば北陸電力が最終保障供給料金を上げたのは、需要家の駆け込みが止まらないことへの緊急手当てだ。他方、原子力安全投資の償却が進んでいる社では規制料金を改定しても大した値上げにならず、むしろやらないという考えもある。

 今回の最終保障供給料金の見直しで、料金全体の思想が明らかに変わった。かつての議論では「電力自由化で大手電力の体力を吐き出させるべき」との思想が強調されてきたが、資源エネルギー庁は、マーケット変動のコスト増分は根拠なく小売りがすべて吸収するのではなく、どうヘッジしているかを説明すべきだとし、また規制料金以外の顧客もヘッジの代償を支払うことになる。大手電力の高圧標準約款が今後出てくるが、これもそれぞれの事情で決まってくるのだと思う。

B 中部が7月末に規制料金以外の値上げと、最終保障供給料金の値上げにもかじを切り、他社も追従するかと思ったが一部にとどまった。このままでは新電力はすりつぶされる。低圧規制料金には触りたくないのが大手電力の本音だ。制度上は、燃調の基準価格の切り上げであれば、上がりも下がりもする可能性があり、認可でなく届け出でできると聞く。しかし物価高の状況を踏まえ、エネ庁が難色を示しているようだ。節電ポイントは規制料金にも適用されるようだが、低料金措置なのに参加表明で2000円与えるのもおかしい。これでは低圧でも競争にならない。

C エネ庁が燃調の見直しを嫌がっているというが、大手数社が発表した自由料金の改定では大幅に値上げしようという中、低圧の規制料金は安いままという状況を放置することはどうなのか。自由化の果実は高圧需要にも低圧需要にも平等に配分するという当初の思想に反するとも言える。一時期、高圧の標準メニューはダンピングだと指摘されていたが、今回も同様な指摘をされてもおかしくない。

B 英国政府も本来値上げすべきところにプライスキャップをかけ、日本とよく似た構造だ。日本より半年ほど先行している英国の場合、行き詰った小売り事業者が前払い金を踏み倒すケースが問題となり、日本でも託送料金や再エネ賦課金を踏み倒す例が出ている。両国とも需給対策が小手先の断熱や節電であり、需給構造の抜本見直しには踏み込んでいない。日本は英国の先例を見て、原発再稼働や電源の手当てなどの本筋の議論をしてほしかった。結局システム改革の三つの目標は何も達成できず、総括しないからパッチワークの対応ばかりだ。節電、節ガスは国内経済を沈滞させ、国力にもマイナス。英国の悪い先例を参照して、速やかに対策を講じるべきだ。知らなかったでは済まない。

各社の料金の判断はまちまち 秋以降市場はさらに大混乱

A エネ庁も自由化の失敗を分かっているが、もう元には戻れない。最終保障供給料金を市場連動とし需要家にリスクを取らせるようにしたことも、苦渋の決断だ。そして現在のエネルギー危機下などの最後の駆け込み寺として経過措置を残している以上、解除は永遠に来ないように思えてしまう。燃調で必要な切り上げを制限なく行えるようにすれば、日本の最終保障供給に当たる、米国の市場連動のデフォルトメニューに近い形にはなる。

C 今の燃調は中途半端で、電源構成が変われば原価の変化をカバーできない。ただ、米国のようなデフォルトメニューが理想的かは分からない。日本でも21年の価格高騰時は市場連動型メニューの価格が何倍もの高値になったことを振り返れば、デフォルトメニューが真の消費者保護となるのかは疑問だ。

―ある大手電力の規制部門は黒字だと聞く。ならば規制料金を値下げ改定して実態に合わせるべきではないか。

A とにかく各社の状況による。例えばLNGの長期契約のウエイトが下がった理由は、新電力に需要を取られて長契を持てなくなった社もあれば、スポットが安いと思い込んだ社もある。それぞれの事情で料金も変わり得るし、必ずしも赤字になる訳ではない。

C 仮に自由料金を値上げする社の規制料金が十分に黒字なのであれば、そうした対応には矛盾を感じる。一方、規制料金の値下げ改定はとても無理で、するにしても値上げしかできないという声もあり、本当に事情はまちまちだ。

B いずれにせよ抜本的な原価の洗い替えは時間がかかる。よって燃調の上限切り上げはしやすいようにしていくべきだ。また、大手電力は現在、「戻り需要」の受け入れは市場連動を条件にしている。一部では戻り需要を標準メニューで受け入れることを求める意見があるが、やはり自社供給力を超えた分は市場連動とする形が自然だ。それが経済学者の好きな限界費用の理屈だろう。

A 確かに安値攻勢で破綻した新電力からの戻り需要に、これまで大手電力と契約し続けていた需要家と同じ料金を提供することは、ある意味道理に合わない。ただ別の視点として、昔からの商習慣を大事にして戻り需要を市場連動とするだけだと、電力・ガス取引監視等委員会や公正取引委員会の存在意義をなくしかねない。エネ庁はそこのバランスを取ろうとしているが難しい。これは、結局自由化はなんだったのかという本質的な話だ。

―最終保障供給料金は市場連動に見直されるが、目的通りに需要家は動くかな。

B 実装はこれからだ。需要家はこれから地獄が始まることに、まだ気がついていない。

A エネ庁は戻り需要に対して大手電力が標準約款を値上げして出すように言っているね。

C 見直し後の最終保障料金は9月から始まるが、多くのエリアでは新たな標準メニューは来年4月からしか出ない。その半年間は大変な状況になる。特に予算が決まっている自治体は料金が見通せることを重視しているから、パニックになりそう。

A 表面上はうまく進んでいるように見えるが、最終保障料金が上がり、次の料金体系が見えてくるまで、最終保障に逃げ込んだ人はまた困り、大手電力とずっと契約していた人の料金も2割増し程度になる。秋から年明けごろまではいろいろな場面で大騒ぎになる。

自由料金と規制料金の逆転現象是正に、公正取引委員会などは動かないのか

【コラム/9月6日】次の電力政策を考える~競争政策から産業政策に転換を


飯倉 穣/エコノミスト

1,電力システム改革見直しの覚束無い中、暑い夏が過ぎる。酷暑の中、停電の懸念がよぎる。

近時電力需給に関わる記事が多い。「東電、料金3割上げ 来月、「電力難民」企業向け 中部電・関電も引上げ」(日経22年8月20日)、「首相指示 原発 新増設を検討 運転期間延長も」(朝日同25日)等々。

90年代、官は、電力の地域独占の問題(新規参入困難、再エネ不熱心、適正コスト不明・総括原価、電力会社の態度)の除去を狙い、電力システム改革を始めた。発送電を分離して独占が残る送電には公平な規制を導入する。発電と配電は自由市場とする。卸売のスポットマーケットを育成する。そして長期的な視点の設備投資市場の整備を目指した。

そして20数年、東日本大震災・福島第一原発事故ショック時の政権の思惑が、電力システム改革推進に走り、続く政権も踏襲した。16年小売全面自由化、20年発送電分離で官製電力自由化が完成した。改革キャッチフレーズは、自由競争市場で安定供給強化、市場競争・効率化で料金(価格)低下、電気を選べる時代だった。競争政策は、消費者重視を謳った。その消費者が、電力需給逼迫警報等で不安を煽られている。何故だ。 

2,電力自由化は、様々な政治的・政策的・行政的・他産業不満配慮等の思惑で出発した。技術革新乏しき電力業で、自然独占・事業規制の論理を超える正しい経済論があったわけでない。

米国、EUの電力自由化をヒントに 公益事業(独禁法の適用除外)の扱いでなく米国要求消費者重視・競争政策の徹底(独禁法強化)を画策した。つまり新自由主義・市場重視の流れで電力需給を市場に委ね価格で調整することを良とした。

すべて市場が解決する。一般の商品同様需給逼迫なら価格高騰し需要減・供給増で需給均衡すると見た。停電は、品不足であり、電源は誰でも開発できる時代、供給力不足なら即時電源建設可能と装った。電源・小売りで新規参入・退出自由という競争促進が、電力の低廉安定供給に有効である。且つ効率化が進み料金も低下すると喧伝された。 

3,現状をどう評価するか。競争政策の専門家は、発電・送配電・小売りという垂直的な取引関係を内部に持つ大手電力会社を分割することが社会厚生上望ましいか一概に言えない。垂直統合は、取引コスト低減、不慮の事故生起時の安定供給確保に寄与する。他方垂直統合は、独立系の発電・小売事業者の送配電アクセス困難、競争が鈍る可能性がある。需給調整市場の整備の姿、自然災害対応の議論も重要と指摘する(大橋弘「競争政策の経済学」21年4月)。競争重視・独禁法強化の論者も現実を前に判断先送りである。

日本を前に進める官僚・自由化論者は、電力自由化万歳であった。卸電力市場開設、長期的設備投資市場整備で、安定且つ低廉な電力供給可能と見た。最近ある自由化論者の発言が流れた(NHK6月13日「ある日電気が来なくなる!?」。「電力料金は安くなると楽観していたが・・」という発言であった。耳にしたとき、吉田茂首相の南原繁東大総長批判を思い出した。

4,現状の需給逼迫状態の打開を探る動きもある。「総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会電力・ガス基本政策小委員会」は、22年度電力需給対策として、引き続き厳しいLNG燃料購入環境を踏まえ、点検中の発電所運転開始の確認、追加供給力(kW)の公募、燃料確保に向けたkWh公募を提示した(7月20日)。これは小手先対応である。需給逼迫は今後も継続すると示唆した。

又中期の視点から「卸電力市場、需給調整市場及び需給運用の在り方に関する勉強会」は、現行制度の下で安定供給を図る対策を検討した。そして取りまとめを公表した(6月20日)。目指すべき姿として①電力の安定供給確保、②持続可能、効率的かつ公正な電力供給の実現を掲げ、日本全国で最適運用が可能な需給運用・市場システムを作ると述べる。これまでの電力システム改革(自由化)が機能してないことを明らかにした。問題は、目指す方向である。

経産省は、「あるべき卸電力市場、需給調整市場及び需給運用の実現に向けた実務検討作業部会(以下作業部会という)」を立ち上げた(7月29日)。

作業部会は、需給運用上の不確実性が拡大する中で 日本全国で最適運用が可能な需給運用・市場システムを目指し、①中長期(数年~2か月前)的に確実な燃料確保の姿、短期(実需給1週間前)の安定供給の電源起動とメリットオーダーを検討する。②そして卸電力市場の先物取引拡大で燃料確保に先見性を付加するという。機能しない卸電力市場の欠点に継ぎ接ぎを試みる。そして欧米市場を参考に、先物に金融資本の活用を期待する。投資金融は、投資的性格でなく投機的性格が強い。果たして安定供給に寄与するだろうか。また先物市場で需要見通しを明確にする試みは、効果不明の思い込みで、対外的な購買力強化にならないであろう。

電力システム改革の本質を問う問題、安定供給と料金安定対策としてどのような体制が適当か、つまり競争政策(自由競争市場)か産業政策(安定供給義務と公益事業的扱い)か等の問題提起を回避している。

5,繰り言となるが、国内の電力需給安定と合理的な価格形成を図るためには、次を考慮する必要がある。電磁気学に従えば、電力産業は、電場を提供している産業である。需要家は、スイッチ一つで電場の利用を行う。電場の提供とは、電力会社が、需要家のつなぐコンセントに、常時電場(電流としての電子)を、発送配電というサーキット内で需要を見越し維持することである。

自由化で発送配電を分離すると、第一に発電事業者は、電場販売で在庫ゼロを合理的と考え、発電は利潤最大化を目指し、需要を少なめに見積もる傾向となる。第二に発電部門と送電部門は、契約関係で言えば、不完備契約となる。そこでは情報不十分で、投資は必要水準より少なくなる。第三に電力産業は、自然条件や需要の視点を含めて、不確実性が大きい。投資リスクが高いので、投資を躊躇する。また需要家に必要なベース電源の共有・負担が必要である。((南部鶴彦「電磁気学と経済分析の接合の試み」(公益事業研究72巻第1号20年9月)等の指摘)。

また対外的にエネルギー確保の方策を熟慮する必要がある。日本が持てるのは、国民(需要家)負担の計画的な購買力だけである。それを分散すれば、購買力は低下する。また一定の計画がなければ、調達量を確定できないであろう。この意味でも、電力業は、産業政策的管理が適当である。過去30年間の消費者重視・競争促進・市場任せの競争政策は、功を奏していない。再考が必要である。

6,日々電力需給逼迫問題がマスコミを賑わせ,大本営本部発表は、国民を困惑させている。ある高名な政治ジャーナリストは岸田文雄政権の課題(難題と難局)として、11項目を挙げた。コロナ感染危機、安保防衛力整備、物価高騰対策、エネルギー・電力ひっ迫、10増10減区割り法案、人口減少社会、新しい資本主義、150兆円GX投資、日銀総裁人事、憲法改正問題、外交・安全保障である。その中に電力需給逼迫を挙げた。優先課題として産業政策で今後の電力システムを見直すことを期待したい。

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。

培った技術・技能を次世代へ 業務効率化と人材育成の課題に挑む


【中国電力ネットワーク】

中国電力ネットワークは、設備の巡視点検を効率化するモービルマッピングシステムを導入した。

災害時に核となり配電設備の復旧に当たる部署も発足させ、技術継承と早期復旧に取り組む。

 人材の高齢化や労働人口の減少が進む中、限られた要員で効率的に業務を進め、スキルを伝承することは、送配電事業においても大きな課題になっている。

中国電力ネットワーク(NW)は、配電業務の効率化と技術・技能の継承につながる二つの取り組みを進めている。①電柱などの配電設備の画像を取得する「モービルマッピングシステム(MMS)」の導入と、②災害復旧の専門家集団「配電広域復旧課」の設置――だ。

MMSは、車両にステレオカメラやGPSなどの機器を搭載し、走行しながら設備などの画像を取得するシステムで、NTTグループが開発した。これを地上から15m程度の高さの電柱全体に対応できるようカスタマイズし、配電設備の巡視点検に活用する。

車両の前方と後方に3次元の画像データを取得できるステレオカメラを2台ずつ設置。さらに進行方向の左側を撮影する単眼カメラ2台、合計6台のカメラを搭載した車両を走らせ、道路左側の電柱や設備の画像を2mおきに撮影する。取得した画像と位置情報をPCに取り込んだ後、画像を確認することで、配電設備の正確な位置や現地の状況が把握できる。メンテナンスが必要な設備の判断を事務所で行えるというわけだ。

MMS導入で効率化に期待 AI活用でさらなる展開も

従来、配電設備の巡視点検は、技術者が現地に出向いて実施してきた。電柱全体や、電線、引き込み線、支線などを目視点検しながら、必要に応じて設備を計測することもある。MMSを活用することで、一日で100本程度の画像を事務所で計測できるとともに、そのエビデンスを画像として保存することも可能になった。例えば、たるみのありそうな電線の地上高など、計測が必要だと判断した設備の始点を画面上で触れると、鉛直方向真下の距離を瞬時に測れる。電線付近の樹木との距離や設備の奥行き、支線の角度なども画面上で簡単に計測が可能だ。

MMSの仕組み。画面上の計測値は実測とほぼ一致する精度の高さだ

配電部の上田明正部長は「設備は問題がなくて当たり前。問題のある数少ない設備を発見するために、歩いて電柱を確認していた。その労力を減らし、改修計画などに専念できるようにしたかった」と導入のきっかけを振り返る。

中国電力NWが管理する電柱は約170万本。8割近くは道路沿いに立っており、MMSで撮影が可能だ。昨年12月に導入し、22年度中に対象電柱の撮影完了を目指しており、今後は2年ごとに更新したいと考えている。

技術者が現場に出向く負担が減る一方で、後進へのノウハウの伝承機会が減るのでは? と聞いてみた。「現在検討中の重要な課題。経験の浅い社員には熟練技術者と一緒に画像の確認作業を行わせて、熟練技術者からノウハウを受け継ぐ機会としたい。短期間に多くの事例を見て、より早く覚えられるため、一定レベルまでの到達は早くなるだろう」。

不具合が発見された場合には、現地に出向く熟練技術者に同行して経験を積んでいく。

今後はAIが、錆による劣化や電線の地上高不足などを画像診断できるよう、さらに開発を進める。老朽化した電柱の立て替え時にも、必要な材料や立て替え位置を自動設計できる機能を追加するなど、さらなる効率化を目指す。

災害対応の専門部署 迅速復旧を目指す

近年、自然災害が激甚化し、災害時のレジリエンス強化の必要性が高まっている。中国電力NWは、社内の復旧体制を強化するため2022年2月、災害復旧の専門家集団「配電広域復旧課」を発足させた。

従来の災害復旧作業は、配電業務を行う社員が、月例訓練などの定期的な訓練を受け、有事の際には業務を調整しながら現場に向かっていた。同課の設置により、災害発生時の供給エリア内外への迅速な復旧応援体制が強化された。

四つの事業所に設置された同課には、計50人が所属。若手からベテラン社員まで幅広い層で構成され、配電社員の技術・技能教育の中心も担う。平時は各拠点を定期的に訪問し、復旧作業の教育・訓練を行い、スキルの向上を図る。自らの災害対応力向上のための自主的な訓練や、自衛隊や海上保安庁などの社外関係機関との連携強化に向けて、災害を想定した合同訓練などにも取り組む。

送配電会社4社で「西地域共同訓練」を実施した

「災害時に真っ先に駆け付ける配電広域復旧課は、常に高い使命感と責任感を持ち、災害時には現場の核となる。専門部署があると、ノウハウの蓄積にもつながる」と、上田部長は期待を寄せる。

業務効率化のために導入したMMSは、災害時にも活用が見込まれる。大規模災害時は、まずMMSで画像データを取得する。被害状況を把握して、被災エリア全体の復旧計画策定の迅速化に活用するなど、レジリエンス向上にも役立つと考えている。

中国電力NWは、引き続きMMSの活用や配電広域復旧課の取り組みで、効率化と技術・技能の継承による人材育成を進め、電力の安定供給に取り組んでいく。

「導入したMMSは活用性が広い」と話す上田部長

【イニシャルニュース 】 エネ政策の旗振り役へ 資燃部の組織改革に注目


 エネ政策の旗振り役へ 資燃部の組織改革に注目

資源エネルギー庁資源・燃料部石油流通課でLPガスの政策課題を担当してきた企画官のポストが廃止され、「エネ庁におけるLPガスの政策的位置付けの後退を象徴している」(エネルギー業界関係者X氏)と、業界を騒然とさせた。

これに対しエネ庁幹部S氏は、「地方の人口減少という大きな構造転換とカーボンニュートラル(CN)の流れを踏まえれば、業界の垣根を超えて考えるべき課題が大きくなっている。その第一歩として、石油流通課が石油、LPガス両業界を一元的に所管することになった」と、その意義を強調する。

S氏のこの言葉から推察されることは、資源燃料部の組織改革はこれにとどまらないということだ。エネルギー行政に詳しい大物学識者のK教授も、「資燃部は来年4月に向け大々的な組織変更を行おうとしている」と指摘する。

エネ庁内で存在感を増す資源燃料部

これまでのエネルギー政策の焦点は、低・脱炭素時代に向け、電源構成における原子力と再生可能エネルギーの比率をどこまで引き上げられるかにあった。これらを管轄するのは、電力・ガス事業部と省エネルギー・新エネルギー部であり、炭素を排出する化石資源を管轄する資燃部の影は薄かった。

ところが、2020年10月の菅義偉前首相による50年CN宣言以降、脱炭素化の鍵を握るアンモニアやCCS(CO2の回収・貯留)技術が欠かせなくなり、それによって資燃部のプレゼンスも一気に上昇。「これをきっかけに、資燃部がCNの旗を振ろうという思惑が見えてくる」(K教授)

当然、CN系のアンモニア燃料やCCSなどを所管する部署の新設は避けて通れない。新時代の政策展開を見据え、エネ庁内の組織を統廃合する動きが来年にかけて本格化しそうだ。

再処理工場の完成遅延 日本原燃M氏に賛否

日本原燃の最高幹部であるM氏への風当たりが強まっている。六ケ所再処理工場の完成時期の遅れに加え、パワハラ批判などが一部月刊誌に掲載された。しかし、原燃を取り巻く社外の電力関係者の間では逆に、同氏への同情の声が強まっている。

原燃は9月に再処理工場を完工する予定だったが、原子力規制委員会・規制庁の審査が遅れ、実現はほば不可能になっている。規制庁、原燃の双方が審査の遅れを批判する中、審査の対応を巡り、社内ではM氏に対し「強権的」「現場の声を聞かない」といった声がささやかれているという。経済誌Sの2月号に、このような論調の批判記事が掲載され波紋を広げた。

一方、社外からはM氏にエールを送る向きが広まっている。原燃は各電力会社の出向者が幹部を占める寄り合い所帯で、社風はかなり緩い。それを真面目なM氏が是正しようとした結果、あつれきを生んだというのが周囲の見方だ。

「M氏は熱い。しかし審査対応の人に同じ熱量は感じない」と、事業者に冷たいとされる更田豊志規制委員長さえ、今年1月の意見交換会で同情を寄せた。

また23年の青森県知事選を機に引退が見込まれるM知事が、任期中に再処理工場完成の目処をつけたいと、原燃への支援を強める意向らしい。とはいえ、再処理工場の完成が遅れれば、M氏らの進退を含めた責任論が出そうだ。もとっとも、「彼がもし辞任すれば後任探しは大変だ」(関係者)との身勝手な意向も電力業界にはある。

S商事が狙うSガス株 断続的に買い増し

S市エリアで、地域のエネルギー会社同士による株式取得劇が密かに関係者の関心を集めている。

大手石油元売りE社系の大手特約店、S商事は8月8日、都市ガスS社の株式を1・04%買い増し保有比率が27・9%になったと、財務局に報告した。Sガスの筆頭株主であるS商事は16年ごろから同社の株式を断続的に取得し始め、昨年は3月1日、5月20日、6月3日、7月7日、19日、8月3日、8月17日、10月7日の計8回にわたって、約1%ずつ株を買い増した旨を報告している。

これまで対外的にS商事の意図は不明だったが、ここにきて理由の一端が明らかになった。関係者によれば、S商事とSガスは、S市エリアを舞台にした環境省の「脱炭素先行地域」事業で協業する計画だ。

脱炭素先行地域に指定されたS市

具体的には、E社を含めた3社が中心となり、S市内の一円から太陽光発電の「オフサイトPPA(電力購入契約)」モデルで集めた余剰電力を、同エリアに供給する。「両社の協業がようやく実を結び始めた」。地元のエネルギー事情に詳しい関係者X氏はこう話す。

ただS商事では今後もSガス株を買い進め、3分の1以上を保有する展開も想定される。「もしそうなれば、Sガスの経営は実質的にS商事の支配下に置かれることになりかねない」(X氏)。水面下では、両社の熾烈な駆け引きが繰り広げられているのかも。

環境切り札に足場固め 小泉元環境相が奔走

「自民党が旧統一教会問題に揺れるこのタイミングで存在感を示そうとしているのは、さすがかつて郵政解散を演出した、あの父親の血を引く息子だ」

こう話すのは、自民党最大派閥、清和会に所属する重鎮議員の秘書K氏。郵政解散を演出した「あの父親」とは、当時の総理大臣、小泉純一郎氏。その息子とはもちろん、小泉進次郎元環境相のことだ。清和会を率いていた安倍晋三元首相が凶弾に倒れ、旧統一教会と自民党保守派の関係に非難の声が集まる中、冷や飯食らいの続く進次郎氏にとって、ここがチャンスと捉えている関係者も多い。

「旧統一教会系団体と関係が深い清和会と違って、資金力や集票力に優れる進次郎氏は彼らの力を借りる必要がない。ある意味、クリーンな立場で第二次岸田改造内閣に意見する役目を狙っている」(秘書K氏)

環境相時代の進次郎氏は、中井徳太郎前事務次官らとカーボンプライシング(CP)導入に向けて精力的に動いてきた。保守派の一部からは「ドラスティックな環境政策に消極的な保守系議員との対立軸を作り、味方を募る可能性がある。これは小泉親子が得意とする手法だ」(秘書K氏)という指摘も聞こえる。

最近では従来主張してきた風力・太陽光だけでなく、バイオマス混焼によるCO2削減にも理解を示し「現実路線に修正してきた」(メディア関係者)と評価する声もある。環境政策を切り札に、将来を見据えた足場固めへ奔走している。

安倍氏が水面下で画策 K再稼働のウルトラC

安倍晋三元首相の死去を機に、その影響力の大きさを再認識する状況が続く。原子力については自らの長期政権時代に前進させることはなかったが、実は最近、長期停止中のK原発再稼働に向けた「ウルトラC」の実現を働きかけていたようだ。

K原発を巡っては、T電力が新規制基準への対応を進める中、相次ぐトラブルが発覚。事業者への信頼が揺らぎ、地元での議論も進んでいない。H知事は再稼働容認派であるものの、これまで二度の県知事選では再稼働に関する議論を封印してきた。

事態が膠着する中で安倍氏が考えた秘策とは、再稼働とのバーターで、参院選も見据え、S島の世界遺産登録を進めることだった。S島はH知事の出身地である。それにこれまでも、他地域で原子力への反発が強まった際に新幹線建設の話を進めるなどの前例があったようだ。

「S島の世界遺産登録には外交問題が絡むため、当初外務省も文部科学省も消極的だったが、そこに安倍氏が働きかけ、急きょ申請をすることになった」(政府関係者X氏) 

しかし本来のプロセスではドラフト版を出して正式版を出すところ、文科省はドラフトを出さずいきなり正式版を提出。結果としてユネスコに不備が指摘され、登録は見送られた。

「県議会などの政府への信頼は失墜し、文科省の大失態だ。もし参院選前に公になっていれば選挙の結果も変わっていた可能性がある」(同)。事業者に続き、今度は政府のオウンゴールで、再び振り出しに戻ってしまった格好だ。

九州・卸電力市場の特異性 夜間で0.01円に張り付く日も


LNGや石炭輸入価格の高騰がとどまる所を知らない状況下で原子力の稼働が進む西日本と、いまだ稼働ゼロである東日本の間で、電力市場の価格差が一層広がっている。西日本の中でも特に安値で推移しているのが、現在、川内1、2号と玄海4号の計3基の原子力発電所が稼働する九州エリアだ。

JEPX(日本卸電力取引所)のスポット市場価格の月平均は、システムプライスが5月の1kW時16.95円から8月には26円台へと上昇し続けている。これに対し、九州のエリアプライスは5月の13.97円から6月は16円台に若干上がりはしたものの、7、8月は再び13円台と落ち着いている。

さらに特徴的なのが、夜間の価格が一ケタ台の日がたびたびあることだ。場合によっては0.01円に張り付くような極端な日もある。こうした日の他エリアでは、夜間の価格はほぼシステムプライスと同水準で推移しているのに対し、九州だけが平均から乖離して低い価格が続いている状況だ。

九州の価格動向については、「夜間に原子力の余剰電力を限界費用で市場に出しているということだろう。九州に本社を移す会社が出てくれば、電力需給上は良い方向にいくかも。ただ、この状況はあくまで九州限定。夜も0円で札入れできるということが変なメッセージになりはしないかという懸念もある」(新電力関係者)といった見方が出ている。

各社の規制料金に残る「深夜料金」は多くの社では実態に即していないが、九州だけは例外のようだ。いずれにせよ、九州の特異な状況は、原子力の稼働が電力価格の引き下げに大きく寄与することを改めて示したと言える。

【マーケット情報/9月2日】原油反落、需給緩和の見込み強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み反落。需給緩和観を反映した。特に、米国原油を代表するWTI先物および北海原油の指標となるブレント先物は、それぞれ前週比6.19ドルと7.97ドルの急落となった。

中国で新型コロナウイルスの感染が再拡大。四川省の成都市で厳しいロックダウンが敷かれ、経済がさらに冷え込み、石油需要が弱まるとの観測が強まった。加えて、欧州の8月製造業指標は前月から一段と悪化している。

また、イラクからの供給は、現時点では継続。政情不安を背景に出荷減が懸念されていたが、供給不安がある程度和らいでいる。

一方、G7はロシアの原油輸出に対し、12月以降価格上限を設けることを決定。これに対しロシアは、価格上限を受け入れた国には原油および石油製品を出荷しないと表明。供給減少の可能性が台頭するも、価格を支えるには及ばなかった。

【9月2日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=86.87ドル(前週比6.19ドル安)、ブレント先物(ICE)=93.02ドル(前週比7.97ドル安)、オマーン先物(DME)=94.67ドル(前週比4.85ドル安)、ドバイ現物(Argus)=94.37ドル(前週比4.73ドル安)

柏崎刈羽で問われる決断 整いつつある再稼働への道


緊迫度を増すエネルギー情勢から柏崎刈羽原発6、7号機稼働への期待は高い。

しかし再稼働までのハードルは依然高く、政権の関与が欠かせなくなっている。

柏崎刈羽原子力発電所6、7号機が再稼働を前に足踏みしている。6、7号機は2017年12月、BWR(沸騰水型軽水炉)では最も早く新規制基準の適合性審査に「合格」。だが、その後東京電力の核物質防護での不手際、地元新潟県での「混乱」などで、稼働に必要な①国の許認可、②地元同意―が得られていない。現時点で運転開始の時期は見通せない。
電力需給ひっ迫、料金高止まりの解決策として原発再稼働への期待が高まっている。中でも大規模な6、7号機(出力各135万6000kW)は首都圏への電力供給で大きな役割を果たす。岸田政権での政策上の優先度も高い。再稼働はいつになるのか―。

原子力部門の改革に本腰 中部電「大物OB」を起用

柏崎刈羽では21年1月、他人のIDカードを使って中央制御室に不正入室をしていたことが発覚。不審者侵入を検知する設備の故障問題なども続いた。重く見た原子力規制委員会は原子炉等規制法に基づいて東京電力に是正措置を命じ、原子力規制庁は追加検査を開始。規制委は21年3月、事実上の運転停止となる核燃料の移動禁止措置を命じている。

移動禁止措置により、再稼働に向けた終盤の段階である使用前事業者検査がストップ。燃料装荷前に行う検査は昨年8月から進めているが、装荷後の検査を行うことはできない。先に進むには規制庁が追加検査を終えた後、規制委による制限解除を待つ必要がある。

東電は問題への対応として21年9月、原因分析と改善措置計画をまとめた報告書を規制委に提出した。今は計画に盛り込んだ36項目の対策を講じている(長期の案件である2項目を除く)。

原子力部門の改革にも本腰を入れる。柱は本社機能の柏崎市への移転と外部人材の登用。本社勤務の約300人を柏崎市に異動させ、中部電力OBで取締役専務執行役員・浜岡原子力総合事務所長を務めた水谷良亮氏が発電所長補佐に就く異例の人事を行った。さらに自衛隊出身者や警察、消防などから専門家の登用も行っている。

東電の対策が奏功し、国の審査をクリアしたとしよう。次のステップになる新潟県の同意にも、高いハードルが存在する。

花角英世知事は再稼働について、①安全性を巡る県独自の「三つの検証委員会」の結果が出た後で議論を始める、②自ら判断を示した後、県民の意志を確認する―との方針を掲げている。

まず、①の議論の前提となる検証結果が出る状況にない。三つの検証委員会(県技術委、健康・生活委、避難委)での審議は頻繁に行われ、取りまとめなどが進んでいる。だが、三委員会の検証をまとめる「検証総括委員会」が二回目の会合(21年1月)から開かれていない。再稼働に慎重だった米山隆一前知事に指名された池内了委員長(総合研究大学院大学名誉教授)と、知事との間で開催について合意ができていないためだ。

検証総括委の運営要綱には、委員会の任務として「三つの検証の総括」と「総括に関し知事の求める事項」と記載されている。県側は要綱に沿って池内氏に開催を要請。だが池内氏は①県民の要望を聞く場を開催する、②柏崎刈羽の安全性についての議論を付け加える、③東電の(原子力事業者としての)適格性を多角的に論じる―などの求めに応じないことを理由に要請を受け入れていない。

検証総括委員長の「反乱」 意思確認の具体策は不明

検証総括委の開催について、本誌の取材に池内氏は「真に県民のための総括と考える事項の議論を行うという私の方針を県(花角知事)が容認しない限り、妥協の余地はない」と回答。県側との話し合いについては、「対立点をいったん白紙に戻して、検証総括委の運営を私に一任してもらえるなら話し合いの余地はある。しかし現時点(8月19日)において県からその意向は全く伝わってきていない」と述べている。池内委員長の検証総括委が再度開催される可能性は、極めて低い。

7月の県議会で与口善之県議(自民)は、花角知事に対して「池内委員長の処遇に一定の判断を下すべきではないか」と解任を求めた。これに対して知事は「任務・役割を理解した上で職責を果たしてほしい」と答弁している。委員長は23年3月末までが任期。県政界関係者は「知事は池内氏に態度を硬化させている。解任は世論の反発もあり難しいが、再任をしないのでは」と見る。

次のハードル、県民の意思確認も具体策は不透明だ。知事の答弁などから、①再稼働を判断した後で出直し知事選、②県民投票、③県議会での意見集約―が考えられる。このうち①②は「反対」が多数を占めた場合、再稼働へのダメージは致命的になる。世論調査で「反対」が過半数を超える中、現実的な選択肢とはいえない。

新潟県議会は23年4月に任期が満了し選挙が行われる。自民党が再稼働推進を打ち出し選挙戦に挑み、結果により県民意思を確認する―。この選択肢があり得る。

新潟県は国の関与を望んでいる(柏崎刈羽原発)

では、どう再稼働に至るか。次は本誌の予想である。

〈22年12月〉規制庁が核燃料防護などの追加検査を終了。〈23年1月〉規制委が核燃料の移動禁止措置を解除。〈2月〉国の使用前確認が終了。

〈3月〉知事が検証総括委の委員長に〇〇氏を指名。〈4月〉統一地方選を前に自民党幹事長が再稼働推進の方針を言明。

〈5月〉新潟県議選で自民党が勝利・検証総括委の報告書まとまる・県内各地で「県民の声を聞く会」開催。〈6月〉首相が新潟県を訪問し再稼働を要請・知事が県議会に再稼働の検討を要請。

〈7月〉県議会全員協議会が再稼働に同意。〈8月〉知事が再稼働を表明。〈9月〉7号機が運転開始。

これは推進側から見た楽観的なシナリオだ。最も高いハードルは「県民の意思確認」であり、自民党関係者の間では県議会での意見集約を望む声が多い。しかし「県内で広くアンケート調査を行い、県民のおおよその考えを知る方法もある」(上杉知之県議、未来にいがた)との声も出ている。知事は「力業を嫌う」(県政界関係者)といわれ、どの方法を選ぶかは誰も読み切れていない。

推進側の県政界関係者が望んでいるのは、知事の判断をバックアップする国の関与だ。与口県議は「国が責任を持って進めると表明すれば理解が進む」と話す。首相自ら新潟県を訪れ、「国益の観点から再稼働が必要」と県民に再稼働を要請する―。最後に問われるのは政権の実行力だ。

GX実行会議が始動 首相「原子力の政治決断」


岸田文雄首相が「新しい資本主義」の柱の一つに位置付けているGX(グリーン・トランスフォーメーション)の具体的戦略を検討する「GX実行会議」が、7月27日に始動した。足元のエネルギー危機を見据えた安定供給の再構築を前提に、GXに向けた今後10年のロードマップを検討する。特に注目されるのが、新たに創設する「GX経済移行債」の償還財源の在り方と、原子力政策をどこまで前進させるかだ。

後者については、会議に先立つ14日の首相会見で今冬に向け原発9基を稼働させると表明したものの、「既に織り込み済みの電源であり、特に需給が厳しい東日本の改善には寄与しない」(電力関係者)と冷ややかな受け止めが広がっていた。ところが27日の会議では岸田首相から格段に踏み込んだ発言が飛び出した。「原発の再稼働とその先の展開策など具体的な方策について、政治の決断が求められる項目を明確に示してほしい」と指示したのだ。実行会議には関係閣僚に加え民間から有識者も議論に加わるが、そのメンバーに勝野哲・中部電力会長も選ばれている。政府のエネルギー・気候変動関連の会議に電力関係者が名を連ねることは久しいだけに、今回こそは原子力政策がいよいよ動く可能性がありそうだ。

政府関係者によると「今回の論点は再稼働を9基以上に増やせないか、そして運転期間40年の延長を1回限りとせず60年以上にできないか。後者の延長問題についてはGX実行会議と同時並行で、原子力委員会でも方向性を示していく」ことになるという。目下の安定供給が切羽詰まる中、クリーンエネルギー戦略のように肩透かしに終わることはないだろう。

両西村氏が経産・環境相に 問われる「政策断行」の実力


今回の改造内閣では、骨格を維持しながら、有事に対応する『政策断行内閣』として、山積する課題に対し、経験と実力を兼ね備えた閣僚を起用した」

第2次岸田改造内閣の顔ぶれ (提供:朝日新聞社)

7月の参院選大勝の勢いに乗って、19閣僚中14人を交代させる大掛かりな内閣改造を行った岸田文雄首相。8月10日の発足会見で、第二次改造内閣についてこう表現してみせた。しかし直後から、政務3役を巡り旧統一教会との関係性が次々と明るみに。野党からは「統一教会隠ぺい内閣」(泉健太・立憲民主党代表)といった批判が噴出し前途多難の船出となったが、エネルギー政策の観点からは価格高騰・安定供給対策、GX(グリーン・トランスフォーメーション)対策、原子力発電の利活用、福島第一原発の処理水対策など、重要課題が山積みの状態だ。

そうした中で、注目の経済産業相には西村康稔・元経済再生担当相が就いた。原子力経済被害担当、GX実行推進担当、産業競争力担当、ロシア経済分野協力担当、内閣府特命担当大臣(原子力損害賠償・廃炉等支援機構)を併任しており、原子力からGX、ロシア問題に至るまでエネルギー産業に関わる重要政策を一手に担う。

元通産官僚の西村氏(1985年入省)は、経産省の多田明弘事務次官(86年)とは1年違いの先輩であり、省内には友人・知人が少なくない。また副大臣には、同じく元通産官僚の太田房江氏(75年入省)が就いた。こちらは西村氏の10年上の先輩だ。

「元官僚議員が出身省に正副大臣で戻ってくるのは珍しい。本来なら、経済産業政策に精通する政治家2人が大臣となったことを喜ぶべきなのだろうが、2人とも自己主張の強いタイプというのを考えると、人間関係に気を使いそう。両氏就任の一報が入ったとき、省内にはお通夜みたいな空気も漂っていたようだ」(元経産官僚)

とはいえ西村氏は慎重な滑り出し。就任会見でも、エネルギー資源の調達や価格高騰、原発の再稼働などの問題について事務局ペーパー通りの公式答弁に終始し、記者からは「自分の考えを何も言っていないに等しく、独自色は一切なかった」との声が聞こえた。

経済政策通の環境相 「税の議論は少々乱暴」

一方で、初入閣となった西村明宏・環境相。環境行政の手腕は未知数だが、かつて故三塚博衆院議員の秘書を務め、党の経済産業部会長の経験を持つなど経済政策通で知られる。

就任後の会見では、「税をかけて縛るのではなく、カーボンプライシング(CP)でより前向きに進めるよう企業の背中を押すことを考えていく」「CPで税をかけて厳しくすればいいという議論は少々乱暴」「経産省、環境省それぞれに省としての思いがある。そこを踏まえて、しっかり話をしていく」などと、自身の言葉で環境・経済両立の重要性に言及した。

エネルギー関係者の間では「産業界の事情に配慮し、バランスの取れた環境政策を展開してくるのでは」との期待感が漂う。「政策断行内閣」の実力を見せられるか。西村両大臣の手腕が問われる。

最新技術の「アップサイクル」 CO2フリー発電への第一歩


【Jパワー 松島火力発電所】

Jパワーは2021年4月、次世代エネルギーシステム「GENESIS松島計画」を発表した。

運転開始から40年を過ぎた松島火力発電所2号機に新設備を付加し、CO2排出削減や水素発電につなげる。

 長崎県の西彼杵半島沖に位置する松島は、大正初期から昭和初期まで「炭鉱の島」として隆盛を極めていた。石炭火力発電所の建設により、現在では「電力の島」として生まれ変わっている。対岸の港から市営船で10分ほど、島一周が10㎞弱で、島の大半が山林の自然豊かな土地だ。

島内には、発電所運転開始のタイミングで植えた桜の木が並ぶ。松島火力運営事業所の椎屋光昭所長は「社員寮への道に桜を植林して40年。桜坂と呼ばれ、春には島民の憩いの場になっている。これからも松島火力は地元の皆さんと一緒に歩み続ける」と話す。

松島火力発電所は1981年1月に1号機(50万kW)が、同年6月に2号機(同)がそれぞれ運転開始。高度経済成長後の石油危機の影響で、石油に大部分を依存してきたエネルギー供給源の多様化・分散化が叫ばれた時期。石炭火力の重要性が改めて見直され、日本初の海外炭専焼の大規模火力発電所として稼働を始めた。

島内から望む発電所(上)と内部のタービン(下)

石炭火力で初となる「超臨界圧貫流ボイラー」を採用。主蒸気圧力24・1MPa、主蒸気温度538℃は、当時世界最高水準の効率を達成していた。50万kWの単機出力も、石炭火力として当時最大級だった。燃料となる石炭は、豪州のほか世界各国の銘柄を輸入。異なる銘柄の石炭を組み合わせて燃やしている。1号機と2号機の発電電力量は、長崎県の平均電力需要量の約7割に相当する。

訪れた2022年7月12日は1号機、2号機ともに定格出力運転を続けていた。施設内部、特にボイラー付近の室温は50℃に迫る。

現地に駐在するJパワー火力エネルギー部の大根田健一審議役は「松島火力は運転開始から40年を過ぎたが、適切なメンテナンスと機器の入れ替えを行い、発電効率もほぼ変わらない状態で運転できている」と語る。

CNと水素社会実現へ 新技術を既存設備に付加

日本の石炭火力発電の高効率化は世界に冠たる技術だ。一方で50年カーボンニュートラル(CN)へ向け、石炭を含む火力発電所のさらなる低炭素、脱炭素を求める声が高まっている。JパワーではCNと水素社会実現のため、さまざまな次世代技術の開発・実装を進めている。

Jパワーが21年2月に公表した「J-POWER”BLUE MISSION 2050“」では、CN実現へ30年までに国内発電事業でのCO2排出量の4割削減(17~19年実績平均比)を目標に掲げている。その達成のための柱の一つが、新技術を採用した設備を既存の設備に付加する「アップサイクル」だ。

こうしたCN社会における次世代エネルギー供給に関するビジョンについてJパワーは「J-POWER GENESIS(Gasification ENErgy Sustainable Integrated System)Vision」と命名。CNと水素社会実現に新たな価値を生むという意味を込めた。このビジョンを実現するため、開発中のエネルギー転換システムを他施設へ展開していく。

GENESIS松島計画の概要

Jパワーは21年4月、「GENESIS松島計画」として、松島火力2号機にガス化システムを付加し、水素発電への第一歩とすることを発表した。2号機は高効率の酸素吹石炭ガス化複合発電(IGCC)への転換を進めていく。IGCCへの転換で発電効率が約1割上昇、CO2排出量も約1割削減できる。

将来的にはアンモニアやバイオマス燃料の混焼とCCUS(CO2回収・利用・貯留)を組み合わせCO2の排出量を実質ゼロとすることを目指す。さらに、既設のボイラーを撤去することで、大気中のCO2を燃焼前より削減することも視野に入れる。

高い出力調整機能有し 次世代エネルギー支える

GENESIS松島計画は、21年9月に設備の追加工事に向けた環境影響評価手続きを開始。24年の着工、26年度の運転開始を目指す。酸素吹IGCCに関しては、大崎クールジェンでの実証試験の成果を踏まえ、商用化へつなげていく。バイオマス燃料やアンモニアなどの燃料設備エリアやCCUSの追設可能エリアも発電所敷地内に設置する。

この計画が実現した場合、松島火力発電所はこれまでのベースロード電源としての役割に加え、石炭ガス化炉の高い出力調整機能を生かし、負荷追従性に優れた発電所となる。再生可能エネルギーのさらなる導入の課題となる出力の変動を補える発電所に大きな期待が寄せられている。ガス化設備で発生する水素に関しては、発電設備に利用するほか、他産業への供給も視野に入れているという。

椎屋所長は「新設のガス化炉にも負けないように、60年、70年と運用を続けていき、皆さまへ安定供給をしていかなければならない」と、今後の松島火力発電所の未来を語る。

既設火力をアップサイクルすることで、CO2フリー火力運用へ第一歩を踏み出した松島火力発電所。かつて石油危機後の石炭燃料活用の道を切り開いた松島が、今度は次世代のエネルギー供給を支える道標となる。CNと水素社会実現へ、松島から始まる新しい挑戦に注目だ。

松島火力発電所とその周辺地図

電源の脱炭素化と安定供給の両立なるか 新制度の初回オークション開催へ


低炭素電源への投資拡大を目的にした新制度が、2023年度にスタートすることになった。

脱炭素化の潮流が加速し大規模電源投資が停滞する流れを変えられるかが焦点だ。

 2050年のカーボンニュートラル実現に向け資源エネルギー庁が検討を進めてきた、低炭素電源への投資拡大を目的にした新制度の概要が固まった。23年度の初回オークション実施を目指しており、大型電源の新規投資計画が次々と頓挫する中、実効性のある投資確保策となるかが注目される。

新制度の名称は、「長期脱炭素電源オークション」。エネ庁は、総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)電力・ガス基本政策小員会制度検討作業部会(座長=大橋弘・東京大学大学院教授)において、新制度の①位置付け、②対象とする電源、③リードタイムの考慮、④調達方式、⑤制度適用期間、⑥拠出金の負担者、⑦リクワイアメント・ペナルティ―などについて昨年末から議論を重ねてきた。

容量市場の一部として運用 水素・アンモニア専焼に道筋

既に、供給力(kW)を確保する仕組みとして容量市場があるが、落札しても収入を得られるのが4年後の1年間のみで長期的な収入確保の見通しが立てられず、新設を促す手段として機能していない。新制度には、中長期の費用回収の予見性を高め、安定・大型電源への投資を促し安定した供給力確保を図る狙いがある。

まず新制度の位置づけについては、脱炭素電源への投資を促し、その容量を長期にわたって確保する狙いがあることから、「容量市場の一部」とする。容量市場では、「事前に決まっていない政策的な対応などを行う場合に特別オークションを開催する」としており、新制度はその一類型との考えだ。

対象は、カーボンニュートラルの実現が制度の前提条件であることを踏まえ、「CO2の排出防止対策が講じられていない火力発電所(石炭、LNG、石油)を除く、あらゆる発電所・蓄電池の新設・リプレース」を想定している。とはいえ、当初は、脱炭素燃料として有力視されるアンモニアや水素専焼の電源を新設することは困難。そこで、アンモニア・水素の混焼を前提とする新規投資について、①LNG火力の新設、②既設石炭火力の改修、③既設LNG火力の改修―を対象とし、石炭火力の新設は除外する。

この場合の混焼率については、第六次エネルギー基本計画などを基に策定された電力分野の「トランジション・ロードマップ」で、20年代後半にアンモニア20%、水素10%混焼を実装していくことを目標としていることから、新制度においても当面は、石炭火力へのアンモニア混焼率20%、ガス火力への水素混焼率10%以上(いずれも熱量ベース)を求め、今後の技術開発や商用化の状況を踏まえながら見直していく。

一方、今年3月の東日本エリアにおける電力需給ひっ迫を受けて浮上したのが、供給力の早期確保の観点からの新規電源投資の必要性だ。比較的短期に運転開始できる火力電源の建設を促進しなければならないが、①建設リードタイムが長くなり短期的に供給力に貢献することが期待できない、②CO2排出量の多い石炭火力や石油火力も対象となる―といった懸念も生じかねない。そこで、早期に供給力の提供を開始でき、CO2排出量も比較的少ないLNG火力の新設・リプレース案件のみを一定期間内に限り、対象とすることにした。

このほか、落札電源を決定する調達方式については、性能などを含め評価する「総合評価方式」ではなく「価格競争方式」を採用すること、制度の適用期間を20年とし、供給力の提供開始から収入が得られるようにすることなどが方向づけられた。

日本の電力安定供給は堅持されるか

新制度の実効性は 業界からは問題点指摘も

将来の安定供給確保へ、非常に期待が高まる新制度だが、業界関係者の間からは、狙い通りに機能するのか疑問視する声も上がっている。その理由の一つが、短期的な供給力確保のための投資対象としてLNGのみを認め、石油、石炭を除外していることだ。

昨今、供給力不足が懸念される背景には、老朽火力の長期停止や廃止によるkW不足があることは間違いない。一方で、ウクライナ危機に端を発し世界的なLNG価格の高騰と供給の不安定化が加速しているのが実情。エネ庁には、CO2排出削減に貢献しない石油や石炭を加える考えはないようだが、これに対し、「安定供給を目的とするからにはこうした燃料種も一定程度維持し、kW時不足に対応するべきだ」(大手電力関係者)との指摘がある。

もう一つは、新設・リプレースを計画している水素・アンモニアを燃料とする火力発電所が、サプライチェーンも含め脱炭素化された電源であることを担保する仕組みがないことへの問題意識だ。

これについて日本エネルギー経済研究所の小笠原潤一研究理事は、「低炭素型エネルギーシステムへの移行を目指し、イギリスが進めている政策パッケージが参考になる」と語る。イギリス政府は、CFD(差額決済契約)制度を活用した水素製造への支援などを通じ、30年までに500万kWのグリーン・ブルー水素の製造と、それを供給するための大規模ネットワーク・貯蔵のためのインフラ構築を目指している。

高度な専門性が求められる中、水素の輸送を含めた投資計画や各種技術的規則の策定など、円滑な低炭素エネルギーシステムへの移行で中心的な役割を担うため、系統運用者であるナショナルグリッドESOの機能を強化し「FSO(Future System Operator)」とすることも検討されているという。

日本では、今年3~4月に開催された、省エネルギー・新エネルギー分科会と資源・燃料分科会 合同会合が8月末に再開し、水素・アンモニアの商用サプライチェーン構築に向けた議論が本格化する。発電効率の低下の評価方法など「混焼利用」という特殊性を反映した議論が行われるのか、FSO的な役割を誰が担うのか―。電源投資促進策として有効に機能させるためには、こうした課題を解決し脱炭素燃料の大規模実装に道筋を付けなければならない。