安定供給支える一人ひとりの思い 信頼の輪がもたらす大きな力

【リレーコラム】工藤 信一/関西電力エネルギー需給本部燃料部長

 エネルギー業界関係者にとって心休まらない日々が続いている。欧州情勢は依然として収束に向かう兆しはなく、2023年も需給面で厳しい状況が続く見方が多勢である。

こうした状況下、政府は安定供給確保を前提とする脱炭素への取り組み方針を発表した。再エネや原子力の活用など化石エネルギーへの依存脱却を掲げる一方、移行期間におけるLNG確保の重要性も列記しており、わが国の取るべき選択として妥当な内容と受け止めている。電力事業に携わる一員として気を引き締めて実務の遂行に取り組みたい。

しかし、この先いかなる難局が待ち受けているのか全く読めない。燃料調達を例に挙げれば、策定した計画がその通りになったことはまれで、余るならまだしも足りない方向に振れれば必死のパッチで調達に駆けずり回らなければならない。私もいくつかの危機的事態を経験したが、その時々で幸運にも恵まれ乗り切ることができた。重要なのは平時からの備え、そして頼れる仲間の存在である。

燃料は届いて「あたりまえ」

燃料調達に関わる取引先は多岐に渡る。生産から輸送、受入、貯蔵、消費に至る巨大なサプライチェーンの中で国内外のさまざまな事業者がおのおのの役割を果たすことによって安定供給が成り立っているのである。

もしどこかで不具合が発生すれば前後の工程に変更が生じるため誰かが調整に応じなければならないが、自社の都合のみで変更を拒めば安定供給に支障が出てしまう。商慣習の違いや契約条件の解釈を巡って調整が難航することも少なくはない。しかし最終的には解決してしまう。外部からみれば「あたりまえ」に見えてしまうわけだ。

なぜか。燃料供給が途絶した場合の社会的影響を考慮すれば、供給不可という答えはあり得ない。事業に関わる一人ひとりがモラル高く平時から準備を進め、想定外の事態になっても安定供給への執着を忘れずに真摯に検討し続けるからこそ、時には神業ともいうべき最適解が生まれるのである。美談めいた話だが、コロナ禍でも現場の士気を保ちながら出荷や輸送の実務に携わる方々の知恵や熱意によって救われた例は多々あり、燃料の安定供給はそうした方々の使命感によって支えられていることを忘れてはならない。

危機は去ってまた訪れる。1社で出来ることには限界があるため、連携の輪を広げてより大きな力を生み出せるよう普段からの備えが求められる。信頼できる仲間とともに我々が目指すのは「あたりまえ」を守ること。世代を超えてつないでいきたい。

くどう・しんいち 1993年一橋大学社会学部卒、関西電力入社。燃料部門を中心に電力需給、ガス/ユーティリティ事業にも従事。2020年6月から現職。

※次回はenechain社長の野澤遼さんです。

【竹詰 仁 国民民主党 参議院議員】「電気事業は安全が大前提」

たけづめ・ひとし 1991年慶応大学経済学部卒、東京電力入社。2001年東電労組本店総支部書記長。05年外務省出向・在タイ日本大使館一等書記官。16年東電労組中央書記長。関東電力総連会長などを経て22年7月、参院初当選(比例区)。

東電労組から関東電力総連会長などを歴任。常に働く者の視点に立ってきた。

電力業界の労働者を代表する議員として、国会の場に現場の声を届ける。

 慶応大学から東京電力に入社。電力の需要想定や自由化への対応などに取り組んできた。その後、東電労組から全国電力関連産業労働組合総連合(電力総連)、外務省出向、連合本部などを経て、関東電力総連会長に就任。「自分の人生で、政治家を志したことはこれまでなかった」というが、労組で働き痛感したのは、会社の協議や交渉だけでは解決できない「政治的な領域」だった。

「電気事業は法律や省令、ガイドラインの規定約款など、国が定めるルールに基づいている」。業界の枠組みを整えるのは政治の分野であり、国会議員であると話す。電力総連はこれまで小林正夫前参院議員、浜野喜史参院議員らを支援。小林氏の後任として、2021年に自身が各関連労組から推薦を受けた。東電出身ということもあり、福島第一原子力発電所事故の重責を感じることもあったが、電気事業の現場の声を届ける、という使命を果たすため、国民民主党から立候補。22年7月の参院選で約24万票と党内トップの得票を獲得し初当選を果たした。

所属する国民民主党は、エネルギー政策などで電力総連と意見が一致する部分が多いという。「他の野党が訴える『原発ゼロ社会の実現』との主張は相容れなかった。国民民主党は、参院選前から原子力政策に踏み込み、原発のリプレース、SMR(小型モジュール炉)開発の必要性などを訴えてきた」。現政権へは「対決よりも解決」の姿勢を示し、電力価格高騰対策に尽力する。

22年11月に政府が発表した第2次補正予算について、電気代やガス代の抑制策により負担軽減が実現したと評価する。一方で「値下げのやり方に問題がある」と指摘。電力会社への補助金支給ではなく、再エネ賦課金の徴収停止などによる電気代軽減策を取るべきだと話す。事業者への補助金支給は「果たして補助金が適切に使われるのか」と、国会で追及され、電力会社に責任を押し付ける形になるという。「事業者側に負担が増える政策であり、国が物価高騰対策として取り組む電気代負担軽減なのに、この手法は正しいのか」と疑問を呈した。

現在は総務委員会や資源エネルギー・持続可能社会に関する調査会などに所属。党の参院国会対策副委員長も務めるが、隙間を縫って議員としての研鑽に励む。自身に求められているのは「政治資金問題などよりは、エネルギーや電力産業、電気事業の問題点や現状の指摘」として、12月には総務委員会で電力需給問題について質問を行った。

質問では「デジタル社会にとって、電力安定供給は欠かすことができない」と今冬の需給ひっ迫に懸念を示し、供給力確保に向けた対策の徹底を要望した。また、国や自治体、電気の使用者が節電目標へ行動するにはどうすればよいか、国の施策を問いただした。

燃料高騰による国富流出を懸念 「日本らしいエネルギー政策」訴える

今日のエネルギー政策の課題として、日本の地理的な問題から資源を購入せざるを得ず、燃料費高騰により国富が流出している点を指摘。「日本らしいエネルギー政策で国力を高めていく必要がある」と話し、日本の持つ原子力技術を有効に活用するべきだと主張する。電力システム改革やカーボンニュートラル政策など、これまで国が行ってきた電力政策についても「『国を発展させ、国民を幸せにする』という本質的な目標を失ってはいけない。現在の電気事業に関わるさまざまな政策制度は、国を発展させ、国民を幸せな方向に導いていないのではないか」と分析する。

また、労組で長年働く人を見てきた視点から、今の政治に足りないのは労働への安全意識だと話す。人件費の削減など、経営のスリム化を図り、電気事業の効率化を進めることには理解を示した上で、電気を安全に届けるために必要な人材も削減される現状に危機感を抱く。休止中の火力発電の再稼働についても、設備の経年劣化や脱炭素によるさまざまな休止理由がある中で、安定供給のために事業者が多くのリスクを負っていると話す。

「電気事業の効率化は、安全の確保が大前提。安全を犠牲にしたコストダウンだけはしてはいけない」と、労働災害の防止に強い決意を表した。

座右の銘は「知って行わざるは、知らざるに同じ」。元は中国・陽明学の「知行合一」から江戸時代の儒学者、貝原益軒が残した言葉だ。知っていても行動に起こさなければ、知らないことと同じ、という理念は幕末の維新志士たちに大きな影響を与えたという。「労組でも職場の悩みを聞いて、それを解決する仕事をしてきた。政治家となった今も同じ。現場の思いを知るからには、解決するために行動したい」。電力業界を代表する議員の一人として、これからも現場の思いを国会に届けていく。

【需要家】需要家議論左右するWG 「熱」巡る主張の是非

【業界スクランブル/需要家】

経産省の「省エネ小委工場等判断基準WG」で、改正省エネ法の詳細内容が議論されている。本改正で非化石転換に関する報告やデマンドレスポンスも含めた電気需要最適化の報告も必要となり需要家への影響は大きく、例えば、需要家が2023年7月に報告する将来非化石目標をどう設定させるべきかなどの重要な議論がある。

一方、重要度が低い任意報告記載議論を巡り「大気熱と地中熱が熱力学的に異なる」と繰り返し主張している委員がいる。熱力学的な「温度差で仕事をする」ことにのみ着目し、地中熱は「大気熱との温度差」で仕事が可能だが、当然、大気熱は「大気熱との温度差」を持たないため「温度差で仕事ができない」との主張である。しかし今回議論しているのはヒートポンプ利用(熱力学の逆カルノーサイクル)であり、低温熱源から吸収した熱エネルギーを、高温熱源側で放出し活用する熱力学利用である。この場合の熱力学的な「河川水熱・地中熱・大気熱の差」は低温熱源温度の差でしかなく、熱力学的には同一だ。

そもそも、熱エネルギーとは分子の振動エネルギー(絶対零度では振動ゼロ)であり、太陽放射エネルギーで河川水・地中・大気の温度は保持されている。これらの直接活用が困難な「常温に近い低温自然熱」を有効利用可能温度まで引き上げて活用するのがヒートポンプ利用技術である。

また昨年11月のWGでは「河川水熱利用は大気温度との差分を自然熱利用として、省エネ部分と分離評価できる」と熱力学的根拠のない独自説を主張している。同委員は工学的な知識を持ちながら、大気熱のみを除外する目的のために、意図的に熱力学の一部を歪曲しており、審議会に知見を提供する委員の行動としては悪質だろう。(O)

【再エネ】陸上風力導入が停滞 目標達成に至急の策を

【業界スクランブル/再エネ】

昨年末、政府はこれまでの原子力政策を転換する決定をした。2011年以降に総合エネルギー調査会などで議論し、原発の新増設、期間延長はせず、依存度を可能な限り減らすとした方針を、国会審議もせずに再稼働、稼働年数延長、新型革新炉開発へ方針転換した。長期安全対策にはふたをしたままであり、少なくとも福島第一原発の廃炉見通しや、核のゴミ問題などの方向性を出し、国民的議論の上で判断することが最低条件ではないかと考える。

一方、50年カーボンニュートラルを目指すため、洋上風力を推進するも、民間事業者計画頼りのためリードタイムを要し、運転開始が30年以降になりかねない。その間、陸上風力の導入促進策が必要だが、21年の風力導入量はわずか21万kWで、22年も同程度にとどまる見込みである。にもかかわらず、買い取り価格が市場連動型のFIP入札で低下し、原油、原材料費高騰、為替変動影響で、発電事業の凍結案件が増加している。政府は30年エネルギーミックス導入目標達成のため、至急手を打つべきである。

ちなみに英国は、日本同様に風車メーカーはないが、国内調達比率65%程度以上を条件に海外メーカーが参入可能とし、国内で海外風車メーカーの工場建設が進んでいる。今回の新型コロナやウクライナ侵攻で際立ったサプライチェーン問題も、冷静に見れば、風車本体の国内調達率を確保することで、産業育成にも役立つと考えられる。

20年度以降、制度改革が進んだが、地方自治体においては規制強化などへ揺り戻しが発生している。まずは陸上風力導入拡大のため、政府主導の地域振興策やさらなる規制制度改革を進め、加えて洋上風力導入加速のための参入制度見直しを進めるべきである。(S)

市場競争激化が招いた違法行為 法令順守・信頼回復が急務に

【多事争論】話題:電力カルテル問題

大手電力4社が関わったカルテル問題に業界が揺れている。

真相を明らかにし、ルールに基づいた競争の原則を再確認すべきだ。

〈 電気事業合理化・効率化の障害に システム改革の見直しが欠かせず 〉

視点A:伊藤敏憲 伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー代表取締役兼アナリスト

2022年12月、中部電力、中部電力ミライズ、中国電力、九州電力および九電みらいエナジーは、21年4月あるいは7月に特別高圧電力および高圧電力の供給に関して、独占禁止法違反(不当な取引制限、いわゆるカルテル)を行っていた疑いがあるとして、公正取引委員会が調査していた案件において、公取委から独禁法に基づく課徴金納付命令書(案)、あるいは排除措置命令書(案)とこれらに関する意見聴取通知書を受領したと公表した。

公取委の処分が決定されておらず確定情報ではないが、マスメディアの報道や関係者へのヒアリングから、カルテルが疑われている行為は、①18年ごろから行われていた、②3社の相手先はいずれも関西電力だった、③関西電力は、調査が始まる前に最初に違反行為を自主申告したため、独占禁止法におけるカルテル・入札談合に適用される課徴金減免制度により、課徴金が全額免除されるもようである(課徴金減免制度の適用事業者は後日公表される)、④3社に課される課徴金の総額が1000億円を超える可能性がある(中部電力は独占禁止法関連損失引当金繰入額275億5500万円を特別損失に計上すると公表)―などが明らかになっている。

電力小売事業は、2000年に受電規模2000kW以上の特別高圧領域が部分自由化され、04年および05年に高圧領域まで自由化範囲が拡大された。さらに16年に電力小売りが全面自由化され、併せて電力卸取引市場の整備など競争を促進する仕組みが導入されたことから、異業種からの新規参入、旧一般電気事業者(電力各社)による供給域外販売などが広がっていた。この影響により、電力各社の供給域内の販売シェアは低下し、小売り部門の経営が圧迫されていた。

ちなみに10年代後半には新電力がシェアを拡大していたが、電力系でも東京電力系のテプコカスタマーサービス(TCS)が特別高圧および高圧の販売電力量を15年度の57万4000kW時から18年度105億5900万kW時に、関西電力系の関電エネルギーソリューション(Kenes)が15年度1億2500万kW時から18年度11億2100万kW時へと域外販売量を大幅に増やしていた。

なお、15年度から17年度に特別高圧および高圧の販売電力量は、市場全体が2・2%増となる中で、関西電力(10%減)をはじめ北陸電力を除く電力各社が減販となった。18年度は、市場全体が前年度比0・1%減に対して、関西電力10・5%増と、電力会社では関西電力だけが販売量が増やした。これは、関西電力が原子力利用率の改善(17年度23・9%、18年度54・6%)によって電力供給コストが低下したことなどを背景に、拡販に取り組んだ成果だったと考えられる。

違法行為で企業価値が毀損 より公正な競争の実現も

経営が圧迫されていたとしても、カルテルなどの法令違反行為を行うことは許されることではない。違法行為が発覚すると、処分や課徴金が課されるだけでなく、お客さまや取引先、さらには社会一般からの信頼が損ねられ、企業価値が大きく毀損されかねないからだ。違法行為の発生を未然に防ぐためには、全ての社員に法令を正確に理解させる、法令を遵守するためのルールを作る、そのルールを社内外に周知徹底する、内部監査を適時実施するなどの取り組みが必要になる。

関西電力は、課徴金が免除される見込みであることから、当カルテルにおける直接的な損失は回避される見通しだが、調査開始前に違反行為を自己申告したということは、カルテルを行っていたことを自ら認め、独善的に対応したことになる。

別件ではあるが、関西電力では昨年末に送配電会社が管理していた新電力の顧客情報を社員が閲覧して利用するという違法行為を行っていたことも発覚している。法令順守に加え、信頼回復に努めるための取り組みも必要不可欠だろう。カルテル問題は、関連各社および電力業界の今後の対応いかんによっては、電気事業全体の合理化・効率化につながる事業提携・統合などの障害につながりかねない。速やかに適切な対策を講じることが求められよう。

最後に、電気事業の健全化を図るために電力システム改革のあり方を一部見直すことも検討の余地があるのではないだろうか。新規参入の促進は電気事業全体の合理化・効率化につながっておらず、電力の供給信頼性の低下、複数の電力会社の経営体質悪化などが起きていることなども勘案すると、電力各社に課せられている非対称規制、行為規制を撤廃するなどにより、より公正な競争環境を実現することが必要と思われる。

いとう・としのり
1984年東京理科大学卒、大和証券入社。大和証券経済研究所出向、HSBC証券を経て2012年から現職。

【火力】「基本方針」の前提 ズレてないか?

【業界スクランブル/火力】

昨年12月22日のGX実行会議で、エネルギーの安定供給とGX推進を両立させるための基本方針が決まった。原子力政策やカーボンプライシング導入などで政策の大転換と報道されているが、GX実行会議に先立って開催された基本政策分科会において「大きな方針転換であり、第6次エネルギー基本計画の見直しにも着手すべき」との委員からの意見に対し、従来から「あらゆる選択肢を追求する」との方針であり、すぐにエネ基を見直す必要はない、というのが政府からの回答だった。

それを聞いた委員の「あらゆる選択肢と言っておけば何でも有りになってしまう」との感想はもっともであり、今後時間軸や定量的なバランスの作り込みをしなければ政策の実現など絵に描いた餅でしかない。エネ基の見直しをする、しないにかかわらず、検討すべき課題は山積みとなっている。

あらゆる選択肢を追求せざるを得ないのは、それだけ不確定要素が多いからではあるが、基本方針の中には、それでもさすがにこれは拙いと思われる記載がいくつか見受けられる。

その一つが、揚水や蓄電池が脱炭素型の供給力・調整力と位置付けられている点だ。再エネ余剰を吸収する機能が期待される揚水・蓄電池ではあるが、現状の運用では、充電原資の大半を火力発電に頼らざるを得ず、今のまま利用拡大すると充電ロスでコストもCO2もむしろ増加することになってしまう。

前提がズレていると正しい答えに行きつくことはできない。今回の方針のベースは安定供給の確保であり、再エネも原子力も一朝一夕で拡大できるわけではないことを考えると、地味ではあるが、火力発電をGXの中でどのように活用していくのかについて時間軸を意識しつつ検討することが不可欠だ。(N)

【コラム/2月22日】東日本大震災から12年、原子力を考える~情報が偏ると政策も偏るか

飯倉 穣/エコノミスト

1,山手線で車内広告を見かけた。「情報ソースが偏ると自分まで偏る気がする」(N新聞)。若い目が貴方は如何と凝視する。原子力を巡る新聞報道やテレビ番組のコメントが頭に浮かんだ。多くの人は報道頼りである。

政策情報や様々な報道は、どの程度原子力利用の賛否に影響を与えるだろうか。原子力利用推進の立場から、今日必要な情報の提供を考える。

2,経済で国内物価上昇と賃上げの話題が続く。海外発なので、現経済の流れは自然である。対策は総需要抑制の下で、節約、エネルギー供給対策、便乗値上げ監視が基本である。当面緊縮的な金融・財政政策で望み、非化石確保で、再エネ推進は当然なので、原子力が鍵となる。  

政府は、「GX実現に向けた基本方針―今後 10 年を見据えたロードマップ(以下GX基本方針という)」を閣議決定した( 23年2月 10 日)。報道は語る。「原発回帰 閣議決定 GX基本方針」「熟慮なき原発回帰 パブコメも説明会も方針案後」(朝日2月11日)、「政府GX方針決定、拡大探る 脱炭素投資米の1/6 原発建て替え明記」(日経同)。公正・公平・中立を旨とする各紙の見出しが原子力の賛否を暗示する。

3, GX基本方針は「原子力は、出力が安定的であり自律性が高いという特徴を有しており・・脱炭素のベースロード電源としての重要な 役割を担う。・・原子力比率 20~22%の確実な達成に向けて、安全最優先で再稼働を進める・・厳格な安全審査が行われることを前提に・・一 定の停止期間に限り、追加的な延長を認めることとする」と述べる。S&B推進、新規建設面で弱さもあるが今後のエネ情勢を考えれば前進である。 

原子力委員会も原子力利用に関する基本的な考え方の改定に向けて意見募集した。又従来から幾つかの原子力発電所の再稼働説明会で、地球温暖化、エネルギー安定供給、脱炭素化の視点から、原子力の必要性を説明している。政府・事業者は、原子力政策関連の広報をしているが、国民はその活動と主張内容にどの程度関心があるか。関係者どまり、マスコミ報道次第の面がある。

4,90年代以降、マスコミは、担当官庁・事業者の原発事故対応を非議してきた。現在も、福島事故の経験から「益なく負では」と伝える。再生エネ信奉者は、再エネで十分エネ確保可能と、原子力利用に首を振る。

故に岸田政権の方針に、メデイアのコメントは批判的である。国民的議論や国会討議が乏しいと報道する。原子力懐疑の立場から見れば、原子力依存復帰に耐えられない。物価高騰に伴う家庭負担を、補助金バラマキ、再エネ推進の国内対策で解決可能という主張を紹介する。その力説と裏腹に、再エネ開発の困難さも浮き彫りになっている。国土利用計画も無い中で、所謂「開発・環境問題」「土地利用問題」が浮上すれば、調整は長期となる。  

5,現在国民の雰囲気は変化している。何故か。東日本大震災・原発事故は、歴史的、政治・社会的、科学的に大衝撃を与えた。当時先行き悲観的な見方が支配した。経済的事案として調査すれば1%問題であった。ショックの影響で直後の実質GDPは減少したが、11年は微減だった。それを菅直人政権の震災対応とりわけ原子力発電停止で、電力供給不足を招来し、生産面から全国に不安を拡散させた。そして10年一昔である。福島原発再構築の夢は放棄されたままだが、物理的復興は一段落である。  

東日本大震災後、原子力停止で約3兆円弱/年(現在燃料費増で5兆円弱)の負担に加え、再エネ料金の加算(3兆円弱)もある。そこに今回のロシア・ウクライナ戦争に伴うエネルギー価格上昇である。輸入増で年間数十兆円前後の所得移転が生じる。その影響は国民125百万人すべてに及ぶ。石油価格、電力・ガス料金の大幅値上げが負担を強い且つ食品等生活必需品の値上げに波及する。当然給料増は少ない。国民は、マスコミに知恵を求める訳にもいかず、他の選択肢もないので原子力活用やむなし且つ現実的な対策と考える。 

思えば12年以降毎回国政選挙で、原子力廃止を社説とする新聞等は、常に原子力を選挙の争点に掲げた。選挙民は紙面とは別の反応であった。雇用・経済問題に関心が高く、その延長に世論はある。現下の空気は、財布の中身が軽くなる現実に抗しえない、国民の毎日の生活感覚が支配している。

6,その先の原子力をどう考えるか。発電事業者の原子力推進理由は、燃料安定供給、電力安定供給、発電時CO2非排出、電気料金安定貢献を挙げる。政策サイド(経産省)は、エネルギー政策として世界のエネルギー事情(地政学的不安定)、エネルギー自給率の低さ(資源小国)、環境問題(非化石エネ選択)から説き起こし、安定供給(ウラン資源分布状況、準国産エネルギー、大量供給可能)、安定低廉な電源(変動費を資本費に転嫁、他電源比較)、温室効果ガス排出抑制への貢献(非化石エネ)を利点と述べる。そして福島事故考慮の安全対策の徹底(安全規制の強化)を強調する。

具体例として他電源と原発のコスト比較(21年8月試算)を説明する。原子力約11円/kwh、太陽13円、風力20円、LNG火力11円(現在20円超)である。又エネルギー密度考慮の開発面積比較(100万KW発電所用面積原子力0.6㎢、太陽光発電58㎢、風力214㎢)等も紹介する。暫く政府方針に多くの人は黙諾か渋々であろう。 

7,次の課題は何か。原点に戻る。原子力不承不承の立場なら、政策担当官庁の説明に今は沈黙しても,疑念を消さない。批判的報道と論調も根強い。どうも原子力を必要とする論拠・情報に何か不足がありそうである。その一つに原子力利用への反対派の問題提起・懐疑に対する世間的な意味での回答情報不足がある。原子力反対派・批判派・懐疑派の問題提起を、文献等から拾い上げれば、利用物質、利用施設、放射能汚染、管理時間(人間的時間スケールとの乖離)に係る16項目(字数の関係で省略)で、概括すれば、7つである。①原子力施設の立地条件(自然災害)、②原子力施設の材料・機器・システムの健全性(放射線劣化等)、③原子力施設の運転管理体制(人間の限界)、④核燃料物質と放射能管理・処分(立地問題)、⑤実証による検証不可問題、⑥事故の影響の大きさと未曾有さ、⑦核拡散等の問題に及ぶ。

一般的に言えば知的水準の高い人の言説である。指摘はそれぞれ論者の経験や事実に根ざしており、ある意味で可成り的確な見方を提供している。原子力と縁が薄い人なら頷く見方もある。何故か、あの元首相達も同調した。市民・メデイアの中には、情熱的に問題提起する批判書や報道を好む。それらの情報は容易にアクセス出来る。 

8,これらの疑問に推進サイドは網羅的、的確に答えているだろうか。個別に原子力専門家に問えば、合理的且つ納得出来る回答を得ることは可能である。ただ提起項目について、物理・化学等学問的基礎を踏まえた専門的知識も紹介し且つ一般人にも分かりやすい広報や解説書に接した経験がない。ネット上でも網羅した説明を見かけない。原子力関係科学技術者・政策担当者は、疑問点の説明を専門的過ぎると判断し、あるいは周知のことと考え重ねて説明する意識が希薄な感もする。

今後の原子力展開を考えれば、改めて各論点を平易に情熱的に分かりやすく説明する偏りのない情報が必要である。原子力批判派の情熱的な主張に、それを越える熱意で、丁寧に反論・解説情報を作り、公開情報にしていただきたい。勿論基礎知識のない素人に伝えることはかなり難しい事であるが。

批判派の指摘事項を原子力開発の担い手が止揚することが出来なければ、偏る自分を膨らまし、原子力の展開は厳しくなる。 

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。

デジタルで水産業の課題を解決 持続可能な社会づくりに貢献する

【エネルギービジネスのリーダー達】秋田 亮/海幸ゆきのや社長

持続可能な社会の実現に向け、環境やエネルギーとともに大きな課題を抱える農業・食料分野。

「スマート養殖」で水産業に変革を起こそうとしているのが、関西電力系の「海幸ゆきのや」だ。

あきた・りょう 1998年一橋大学商学部商学科卒、関西電力入社。原子力、火力などの資機材調達、コスト構造改革などの業務に従事し、2019年に発足した経営企画室イノベーションラボにて農業・食料分野での新規事業開発を検討。20年に陸上養殖事業(海幸ゆきのや合同会社)を立ち上げ、代表職務執行者に就任。現在に至る。

 「Power to Food~でんきの力を食分野に~」をコンセプトに掲げて、静岡県磐田市でバナメイエビの陸上養殖事業を手掛ける合同会社「海幸ゆきのや」。関西電力発の農業・食料分野のスタートアップ企業として、2020年10月に発足した。

初代社長に就任した経営企画室イノベーションラボの秋田亮・副部長は、「農業・食料分野での事業化は関電として初の取り組み。エネルギーと情報通信の分野で培ってきた技術を掛け合わせることで養殖事業の最適化、高度化を図り、農林水産業・食料・環境を巡る社会問題の解決につなげていきたい」と狙いを語る。

養殖管理をAIで自動化 国産エビの安定供給を実現

事業開始に当たっては、IMTエンジニアリング(新潟県妙高市)の「屋内型エビ生産システム」(Indoor Shrimp Production System:ISPS)を採用。約1万6000㎡の敷地内に40m×12mの水槽を六つ設置し、稚エビから4カ月をかけて育成したバナメイエビを加工し、「幸えび」としてホテルやレストラン、スーパーマーケットなどに卸販売している。

世界的に水産物の需要が高まる一方で天然物の漁獲量が減少する中、陸上養殖には①適切な水質管理を行うことで、台風や赤潮といった気象条件に左右されない、②フンや残餌を含んだ養殖排水を海に排水することなく、環境への負荷が低い―など、海上養殖が抱える問題を解決しながら安定的に生産できるというメリットがある。実際、同社のプラントの生産効率は高く、一つの水槽に60万尾の稚エビを放流し、約45万尾を出荷することができる。

こだわりは、「安心安全」「美味しさ」「サステナブル」という三つの条件を兼ね備えたエビを育て出荷するということ。これを実現するのが、飼育条件や給餌、清掃計画といった養殖管理をAIで自動化する「スマート養殖」だ。

例えば、従来は育成開始時に、ゴマ粒ほどしかない稚エビを目視で数えなければならなかったが、同社のプラントでは画像を解析することで正確な尾数を把握できるシステムを開発・導入した。労働者の負担を軽減するだけではなく、給餌などの育成計画を精緻化し生産性を向上させることにも貢献している。

エビの育成に最適な養殖の仕組みは作り上げたものの、「当初は本当にうまく育つのか内心ひやひやだった」(秋田社長)。昨年11月に初めての出荷を迎えた時には、商品として自信を持って販売できるエビを育成できたことに胸をなでおろしたという。

テクノロジーの力を駆使 養殖業界に革命を超こす

関電入社後は、火力や原子力発電所の資機材調達に長く携わってきた。美浜発電所3号機の2次系配管破損事故が起こり、原子力安全が揺らぎかねない事態に直面した際には、下請け会社が技術やノウハウを維持できるよう、資金が循環する仕組みを作るなど、保全業務改革に腐心した。

電力マンとしてキャリアを積んできた秋田社長が、突如として農水産業に携わることになったのは、関電が19年3月に策定した中期経営計画の中で、少子高齢化や地域活性化といった社会課題解決に貢献し成長するために取り組む新領域の一つとして、農業・食料分野を掲げたことがきっかけだった。

早速、農業・食料分野に生かせる社内のアセットを探し始め、19年末には環境浄化の研究成果や発電所などを維持管理するためのデジタル技術をエビの養殖に活用できると思い至った。そして、20年2月には社の意思決定にこぎ着け、とんとん拍子に事業化の方向性が固まった。

ところが、いよいよ会社を立ち上げようという矢先に発生したのが新型コロナウイルス禍だ。実は事業化の前提として、年間生産される80tのエビを基本的には航空会社の機内食用に出荷する販路が見込まれていた。

コロナ禍で国際的な人の行き来が止まったことでその思惑は頓挫。そのため、養殖事業を開始する傍ら販路開拓にも苦心することになった。今後は、ECサイトなどを通じた最終消費者への直販を拡大するなど、これまでの水産業の慣例にない新たな販路の開拓にも意欲を見せる。

さらには、養殖業界に革命をもたらすべく、この陸上養殖システムを国内外に普及させることも視野に入れる。自ら事業に取り組まなくとも、関電が持つデジタル技術を含めた養殖システムとして提供することも考えられる。

「目指しているのは、次の社会により良いものを提供すること。テクノロジーの力で水産業の在り方に変革を起こし、やがて訪れるタンパク質クライシス(タンパク質の需要と供給のバランスが崩れること)に対応し、持続可能な地球環境や人々の生活につなげる必要がある」(秋田社長)。磐田市でエビの養殖を手掛けているのは、そのための第一歩なのだ。

【原子力】政府が推進を決断 新たな一歩に期待

【業界スクランブル/原子力】

2022年を振り返ると、エネルギー安定供給の難しさと重要性を強く認識した年だったといえる。そして23年は、日本のエネルギーを安定的に供給させるシステムを再構築し実行に移すべき年といえ、社会の発展と変革に貢献していくことが求められる。

昨年、原子力政策についてGX実行会議で重要な動きがあった。政府が主導し、原子力発電の最大限の活用や、60年超の運転を認めるルールの新設に踏み出した。さらに、これまで「想定していない」としていた原発の建て替えも盛り込んだ。ようやく新たな一歩に踏み出したことは評価できる。

今後、法制化などの国による環境整備が行われる。一方、今春開始予定の福島第一原発のALPS処理水の海洋放出は、確実な工事の遂行と、引き続きの理解活動の推進が喫緊の課題になっている。

現在、わが国の原子力はサイクルに限らずいろいろな点でターニングポイントに立っている。原子力に関する世界に誇る高い技術・人材、強固なサプライチェーンは福島第一原発事故以降、具体的な建設が進まなかったこともあり、強みが急速に失われつつある。官民連携による海外プロジェクト参画の動きも踏まえて、原子力産業界をあげて特に人材育成に注力することが急務である。

日本が原子力政策を大きく転換させたことを米国も高く評価している。SMR(小型モジュール炉)など革新軽水炉の開発協力や、既存の原発の最大限の活用などで合意する方向が示された。日本と米国との間のエネルギー協力の重要性は原子力分野に限らない。再生可能エネルギー、化石燃料の調達など幅広い分野で協力が進み、わが国のエネルギー安全保障がさらに進むことを期待したい。(S)

【検証 原発訴訟】40年超プラントで初の司法判断 規制委の高経年化評価を尊重

【Vol.11 美浜決定】森川久範/TMI総合法律事務所弁護士

運転開始から40年を超えた原子炉の運転差止めに関する初の司法判断が、昨年末に示された。

債権者側は高経年化対策の評価の是非などを指摘したが、司法側は原子力規制委員会の判断を尊重した。

 今回は、関西電力の美浜発電所3号機について運転差止めの仮処分を周辺住民(債権者)が申立てたことに対し、2022年12月20日に大阪地裁が同申立てを却下した決定(美浜決定)を扱う。美浜発電所3号機は1976年12月に運転開始後、2016年10月には設置変更許可処分を、同年11月には36年までの運転期間延長認可処分をそれぞれ受け、21年6月から40年超プラントとして国内で初めて再稼働した加圧水型軽水炉(PWR)である。美浜決定は、運転開始から40年を超えたプラントの運転差止めに関する初めての司法判断である。

本件の主な争点は、①司法審査の在り方(判断枠組み)、②高経年化対策(特に中性子照射脆化評価)、③基準地震動の策定の合理性(特に「震源が敷地に極めて近い場合」、いわゆる極近傍への該当性)、④避難計画の不備による人格権侵害の具体的危険性―であったが、本稿では①を概観した上で各争点への判断を考察する。

中性子照射脆化対策等の是非 従前の判断枠組みで見解

美浜決定は、司法審査の判断枠組みとして「原子力規制委員会が新基準に適合するものとして安全性を認めた発電用原子炉施設は、当該審査に用いられた具体的審査基準に不合理な点があり、又は当該発電用原子炉施設が当該具体的審査基準に適合するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点が認められない限り、社会通念上求められる程度の安全性を具備するものというべきである」とした。

その主張立証責任については、他の原発を巡る従前の運転差し止めなどに関する司法判断での主張立証責任の配分と同様に解した。すなわち、21年3月18日の広島高裁決定(22年2月号参照)などとは異なる。

「債務者(関西電力)において、当該具体的審査基準に不合理な点のないこと、及び、本件発電所が当該具体的審査基準に適合するとした原子力規制委員会の判断について、その調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落がないなど、不合理な点がないことを、相当の根拠、資料に基づいて主張、疎明する必要があり、債務者がこの主張疎明を尽くさない場合には、前記の具体的危険が存在することが事実上推認されると解すべき」とした。

なお、「中性子照射脆化」とは、放射線の照射を受けて金属材料がもろくなる現象をいう。債権者は、債務者らが中性子照射脆化の評価において用いた民間規格のモデル式には誤りがあるなどと主張。これに対して美浜決定は、有識者らの議論や規制委における技術評価などを踏まえ「(モデル式など)債務者の行った中性子照射脆化評価及び原子力規制委員会の審査が不合理であったものとは認められない」と評価した。

その上で、「本件発電所が運転開始後40年以上経過していることをもって、新規制基準が定める高経年化対策以上に、本件発電所の安全性を厳格、慎重に判断しなければならないとする事情は認められない」と判断した。規制委が新規制基準に適合するとして安全性を認めた発電用原子炉に対する裁判所の審査態度として妥当なものであろう。

また、新規制基準では、検討用地震の震源が敷地に極めて近い場合において、特別考慮を求める規定(本件特別考慮規定)を設けている(設置許可基準規則の解釈別記2の第4条の5二⑥)。美浜決定は、本件特別考慮規定が設けられた際の規制委での議論状況などやその趣旨を検討した上で、「その適用範囲を画する定量的な定めをしていないことなどからすれば、本件特別考慮規定の適用の有無については、原子力規制委員会が、中立的な立場から、専門的技術知見に基づき(中略)個々の検討用地震の震源と当該原子力発電所の敷地との位置関係等に照らして判断することが前提とされているものと解される」とした。

そして、美浜発電所の東側約1㎞に位置する白木―丹生断層などについて、同発電所は震源から一定の距離があると認められることや、適用範囲について解釈の指針を示すような明確な議論は行われていないことなどを踏まえて、債務者が「震源が敷地に極めて近い場合」に当たると判断しなかったことが不合理であるとまでは言えないと判断した。 

この判断も規制委の見解を尊重したものであり、裁判所の審査態度として妥当なものであろう。

美浜3号機は40年超で再稼働した国内初のプラントだ

避難計画不備を巡る主張 深層防護の考え方に沿い判断

さらに債権者は、「深層防護の第5レベルである避難計画に不備があると言える場合には、直ちに人格権侵害の具体的危険性についての疎明があると認めるべき」と主張した。

これに対して美浜決定は、「深層防護の考え方の基礎である『前段否定(ある防護レベルの安全対策を講ずるに当たっては、その前に存在する防護レベルの対策を前提としない)』『後段否定(その後に存在する防護レベルの対策にも期待しない)』という概念は、あえて各々を独立した対策として捉え、各段階における対策がそれぞれ充実した十分な内容となることを意図したものであることは明らか」であること。また、「人格権侵害による被害が生ずる具体的危険が存在するか否かにおいて、第1から第4までの各防護レベルの存在を捨象して無条件に放射性物質の異常放出が生ずるとの前提を置くことは相当でない」こと。さらには「仮に第5の防護レベルに不備があること自体に基づいて人格権侵害の抽象的なおそれの疎明があると認めるとすれば、放射性物質放出の抽象的・潜在的な危険性のみをもって本件発電所の運転差止めを認めることとなって相当でない」ことなどを指摘した。

そして、「債権者が避難を要するような事態(放射性物質が外部に放出される事態)が発生する具体的危険性について十分な疎明があるとはいえない」ことから、「避難計画に不備があるか否かについて検討するまでもなく、(債権者の主張を認める)理由がないものというほかない」と結論付けた。前回1月号・東海第二判決の回で紹介した深層防護の考え方の基本を正しく捉えた妥当な判断である。

・【検証 原発訴訟 Vol.1】 https://energy-forum.co.jp/online-content/8503/

・【検証 原発訴訟 Vol.2】 https://energy-forum.co.jp/online-content/8818/

【検証 原発訴訟 Vol.3】 https://energy-forum.co.jp/online-content/8992/

・【検証 原発訴訟 Vol.4】https://energy-forum.co.jp/online-content/9410/

・【検証 原発訴訟 Vol.5】https://energy-forum.co.jp/online-content/9792/

・【検証 原発訴訟 Vol.6】https://energy-forum.co.jp/online-content/10115/

・【検証 原発訴訟 Vol.7】https://energy-forum.co.jp/online-content/10381/

・【検証 原発訴訟 Vol.8】https://energy-forum.co.jp/online-content/10786/

・【検証 原発訴訟 Vol.9】https://energy-forum.co.jp/online-content/11164/

・【検証 原発訴訟 Vol.10】https://energy-forum.co.jp/online-content/11397/

もりかわ・ひさのり 2003年検事任官。東京地方検察庁などを経て15年4月TMI総合法律事務所入所。22年1月カウンセル就任。17年11月~20年11月、原子力規制委員会原子力規制庁に出向。

【石油】2023年の悪夢 一物二価・人民元決済

【業界スクランブル/石油】

ロシアのウクライナ侵攻で世界の分断が顕在化した。権威主義国家と民主主義国家、独裁国と先進国の分断であるが、両陣営とも途上国・産油国の取り込みに必死である。当然、その影響は世界の石油市場にも及んでいる。

ロシア産原油上限価格60ドルとその対抗措置の影響・評価は今後の問題だが、既にG7とEUのロシア産原油禁輸に伴い、仕向け先の中国、インド、トルコなどへのシフトが起こっている。ある意味、ロシア原油を巡る国際石油市場の分断が始まっているのだ。

G7・EU向けは中東原油が埋めている形で、現時点では大きな影響は生じていない。だが、OPECプラスではロシアと協調関係にあるだけに、今後の動向に注意が必要だ。

わが国の原油輸入も、ロシア産の44%が減った分、中東産が増え、中東依存度は95%を超えた。それ以上に懸念されるのは、G7などの上限価格とロシアの値引きを契機とする原油価格の一物二価化である。

途上国は対ロ経済制裁に同調していないだけに、先進国だけ高い原油を買うという分断もあり得る。加えて、原油決済のドルと人民元への分断も考えられる。習近平主席のサウジ訪問・GCC(湾岸協力会議)首脳との会談でも、原油の人民元決済の打診があったとの観測もある。

さらに問題を難しくしているのが気候政策だ。温暖化防止国際会議のCOP27で、先進国は損失・損害の補償で途上国を何とかつなぎとめた。途上国の経済成長への渇望を抑えることはできない。欧米の上から目線の排出削減要請は途上国や産油国を独裁国側に追いやるだけだ。

原油の一物二価、原油の人民元決済、気候政策の空中分解―。そんな悪夢が筆者の初夢であった。(H)

【マーケット情報/2月17日】原油反落、米経済の先行き懸念が重荷

【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み下落。米経済の先行き不透明感や在庫増が重荷となり、売りが優勢となった。

先週発表された米消費者物価指数や生産者物価指数などの伸びが、市場予測を上回った。このため、米連邦準備制度理事会(FRB)による金利引き上げ政策が維持されるとの見通しが強まり、景気と原油需要への影響が懸念され、油価を押し下げた。

また、米当局は5~6月にかけて戦略備蓄から最大2,600万バレルを売却する方針を決定。加えて、寒波の影響で国内製油所の稼働率が下がっていたことなどから、原油在庫が2021年6月以来の水準に積み上がったことも材料視された。さらに米エネルギー情報局は、今年の原油生産量が過去最大になるとの見解を示した。

シェルが、欧州最大級のぺルニス製油所の定修を、3~5月にかけて実施すると発表したことも、原油価格の下方圧力となった。

一方で、欧州連合(EU)は2023年の景気見通しを上方修正。また、ロシアは、G7諸国による同国原油価格の上限設定に対抗して、3月の生産を日量50万バレル削減する計画を発表。サウジアラビア石相は、OPECプラスはこの動きに対応せず現状の減産計画を年内維持すると強調した。ただ、足元の油価への影響は限定的だった。

【2月17日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=76.34ドル(前週比3.38ドル安)、ブレント先物(ICE)=83.00ドル(前週比3.39ドル安)、オマーン先物(DME)=82.22ドル(前週1.42ドル安)、ドバイ現物(Argus)=82.25ドル(前週比0.95ドル安)

テレメータサービス専業会社を設立 検針データ生かしたサービス展開

【中部電力】

 中部電力グループは2月にテレメータサービス専業会社「中電テレメータリング合同会社」を設立する。中部電力と中部電力パワーグリッドの共同出資により、電力スマートメーターの通信網を活用したさまざまなサービスを行う。

テレメータとは、「テレ=遠方」と「メータ=測定機」を組み合わせた造語で、ある地点のリアルタイムの様子をオンラインで監視できる遠隔自動データ収集装置のこと。労働人口の減少やIoT技術の進展を受け、検針や保安業務の高度化が求められるエネルギーインフラ分野において必要不可欠な技術だ。検針データなどを活用したサービスは時代の要請であり、新会社は旧一般電気事業者で初となるテレメータサービスの専業会社となる。

テレメータサービスの概要

約10万口の自動検針に活用 サービス拡充へ実証中

中部電力は2018年にテレメータサービスの実証をスタートさせ、21年4月から中部エリアのガス・水道事業者向けにサービスの提供を開始。ガス・水道事業者は自動検針や警報情報の取得、メーターの制御を遠隔で実施でき、通信品質の良さや通信方式の長期安定性などが評価され、現在はLPガス15社をはじめ、約10万口のガス・水道の自動検針などに活用されている。この4月からは、これらの事業を新会社へ移管する。

中部電力グループは、①マーケットの拡大、②サービスの拡充―という二つの軸で新会社の事業を展開していく。①では多くの都市ガス・水道事業者への導入を目指すとともに、②では時間帯ごとの検針データを活用した高齢者の見守りやフレイル(心身が虚弱した状態)の検知、スマートフォンアプリなどから電気・ガス・水道の使用量や請求金額を一括して確認できるサービスの開発などに取り組む。サービス利用者数は、25年度に50万口を目指す。

フレイルの検知については、21年7月から水道・電気の使用量を用いて、愛知県豊明市、藤田医科大学病院と実証を開始した。また22年9月には静岡県湖西市や豊橋技術科学大学、サーラエナジーなど6者と検針データの利活用を検討・推進する包括連携協定を締結。フレイル検知のほかAIによる将来需要の予測など、ビッグデータの利活用を展開していく。

新会社の設立に関して、中部電力グループは「ビジネスモデルの変革に挑戦し、エネルギーにとどまらず、社会課題の解決やお客さまのニーズにかなったサービスの提供を進めていく」としている。

【ガス】防衛費だけではない 自給率向上で国を守る

【業界スクランブル/ガス】

ロシアがウクライナに侵攻を開始してから約1年が経ち、戦争は長期化の様相を見せている。連日のニュースなどから戦争は身近な存在になり、中国による台湾侵攻や第三次世界大戦の可能性も取り沙汰される。仮に世界大戦が勃発すれば、西側陣営に属する日本は中ロ陣営との戦争に否応なく巻き込まれるだろう。そうなった時に、日本はどうなるだろうか。

戦争が長期化した場合、勝敗を分ける最大のポイントは軍事力ではなく、エネルギーと食料の自給自足力だ。戦争になればシーレーンは封鎖され、エネルギーや食料の輸入は途絶えることになる。それでも中国やロシアはエネルギーと食料を自給自足できるため、長期の戦争に耐えることができる。

一方、日本の自給率はエネルギー12%、食料38%と、OECD諸国でも最下位クラスに位置する。戦争開始とともに輸入は途絶え、早々に国を支えることが困難となる。ある軍事評論家の話では、日本は戦争を始めたら確実に負けるという。ちなみに、第二次世界大戦直前の日本のエネルギー自給率は軍用石油を除けばほぼ100%、食料自給率は90%前後であった。いかに現代の日本が他力本願で成り立っているかが分かる。

日本は全力で戦争回避の道を探し求めるべきだ。それでも回避できない場合、危機管理の観点でエネルギー確保のために何をすべきか。ウクライナ危機において、ロシア産ガスに比重を置いてきたドイツなど欧州各国は岩盤貯蔵のガスによって、今冬を乗り切ることを可能にしている。例えば、日本においても焼け石に水かもしれないが、枯渇ガス田を備蓄に活用するなど、さまざまな策を積み上げていくしか方法はない。国を守るために国家予算を費やす先は国防費のみではない。(G)

【新電力】電源へのアクセス コストの再定義が必要

【業界スクランブル/新電力】

小売り電気事業者(新電力)のビジネスモデルが変革を迫られている。2023年度からは、これまで新電力が個別に交渉を行ってきた相対契約の交渉が、おおむね旧一般電気事業小売り各社が行っている卸電力販売に関わるオークションに変更。その結果が出そろい始めている。

ベースロード電源市場の約定結果と合わせ、見直し後の規制料金単価との料金水準の整合性の検証が追ってなされることを期待するが、新電力からは「卸電力価格の水準を原価とした場合に規制料金単価での販売で利益を確保することは難しく、これをベースに価格での勝負をするビジネスモデルは成立しない」との声が聞こえている。

電力自由化によって実現されるべき国民に対する効用、国益の再定義は何だったか。需要側においては、電力価値の観点での効用向上という意味ではデマンドレスポンスなどが、また別の角度から見た効用向上という意味では複合的なサービスの提供があったはずだ。

各事業者の引き続きの経営努力を促しつつも、適切な価格水準で電源にアクセスできることは事業環境の基盤であり、改善が必要である。安定供給を実現するために、新電力が負担すべき電源のコストを再定義し、それを過不足なく負担できるような仕組みの見直しが必要だ。

電力自由化によって多彩なプレイヤーが参入したことは、カーボンニュートラル実現のための電源の多様化にもつながる。FIPやコーポレートPPA(電力供給契約)の活用は良い例だ。需要側のビジネスモデルの多様化は、供給側の新しいビジネスモデルにもつながる。今起きている課題に向き合いながら、一つひとつ問題を解決していく姿勢を取り続けていくことが必要だ。(K)