支援体制の現状に問題あり!? 国産化失敗の反省生かせるか


【多事争論】話題:ペロブスカイトの社会実装

政府の補助金制度がスタートし、ペロブスカイト導入拡大への機運が高まっている。

技術開発の活性化に向け、求められる支援体制の在り方は。


〈現状は萌芽期、長い目で開発を 「分散型」支援で人材育成へ〉

視点A:池上和志/桐蔭横浜大学大学院工学研究科長

ペロブスカイト太陽電池を巡る動きが加速している。昨年11月、経済産業省から2040年までに20‌GWのペロブスカイト太陽電池導入を目指す方針が発表された。この方針を受け、国内では日本政策投資銀行も出資した新会社の設立および製造拠点の設置が発表された。東京都や大阪府を中心として大規模な実証試験も進められ、実用化が近づいているかのように見える。

かつて日本国内では、大手電機メーカーが競い合い、太陽電池の製造・販売を行い、世界市場でのシェアを席巻していた。しかし、ペロブスカイト太陽電池の社会実装において、日本のメーカーが世界をリードするためには、最終的にシェアを奪われたシリコン太陽電池の轍を踏むことは避けたいところである。すでに中国では、ガラス型ペロブスカイト太陽電池の開発が進んでおり、日本への輸入も現実味を帯びてきている。この状況の中で、日本国内の材料メーカーが、国内製造を目指すのではなく、中国メーカーへの輸出を模索している動きがあることも否定できない。

ペロブスカイト太陽電池の導入拡大に向けた次世代型太陽電池および産業競争力強化を目指す官民協議会の開催は記憶に新しい。この協議会には多くの地方自治体が参加しており、各自治体が脱炭素戦略やカーボンニュートラル戦略の一環として、次世代型太陽電池をいち早く導入したいという意向がみて取れる。ペロブスカイト太陽電池の早期社会実装に向けては、そのポテンシャルを実証することが必要である。その一方で、早期社会実装への支援が設置場所の提供に偏っているという懸念も存在する。


曲がる太陽電池が進化 統合型の研究開発支援に見直しを

現状、ペロブスカイト太陽電池は依然として研究開発の段階にあり、製品としては未成熟である。ペロブスカイト太陽電池は複数の多層構造から成り、その組み合わせによっても出力特性が異なる。一概に「ペロブスカイト太陽電池」といっても、それは一種類の太陽電池を示すものではない。シリコン太陽電

池とペロブスカイト太陽電池の大きな違いは何だろうか。語弊を恐れずに述べるならば、シリコン太陽電池の製造は、その他の半導体産業に比べて生産時間が短く、単モジュール型の製造工程により、ターンキービジネスが成り立つ環境が整っている。一方で、ペロブスカイト太陽電池は、その構造から製造プロセスに至るまで、シリコン太陽電池とは大きく異なり、「進化する」太陽電池である。ペロブスカイト太陽電池の「ペロブスカイト」は光吸収層を担っているが、その製造には透明導電基板、電子輸送材料、正孔輸送材料、電極材料に至るまで、さまざまな材料の組み合わせが検討されている。そして、肝心のペロブスカイト材料においても、その組成や成膜方法には無数の組み合わせが存在する。

製品開発のS字カーブ理論に照らすならば、ペロブスカイト太陽電池の開発は依然として萌芽期にあると言える。政府などの大型支援は、技術の醸成期間を短縮し、ある意味でターンキーによって製品レベルを急速に高める支援に向かっているようにもみえる。しかし、果たしてペロブスカイト太陽電池においてそのモデルが当てはまるのだろうか。

日本国内では、ガラス型ペロブスカイト太陽電池製造で先行している中国からの技術導入により新規参入に関するプレスリリースもある。まさにペロブスカイト太陽電池のターンキーモデル化ともいえる。しかし、ペロブスカイト太陽電池は、使用する材料も、製造方法もまだまだ進化の余地を残す。ペロブスカイト太陽電池の特徴の一つは軽量フレキシブル化であるが、ここには、素材開発を得意とする日本の勝ち筋が隠れている。この素材開発を含む研究開発の裾野拡大が、ペロブスカイト太陽電池の今後の普及のカギとなる。

国においても、GX政策により再エネへの積極的な投資策が発表されている。これらの動きの中では、高い経済効果が見込まれる大型投資に注目が集まるが、ペロブスカイト太陽電池の長期的かつ持続的な成長に結びつくかどうかの懸念もぬぐえない。ペロブスカイト太陽電池の研究開発には、まだまだ掘り起こしの必要な技術が眠っている。その点では、各都道府県レベルでも進んでいる中小企業の研究開発支援にみられるように、研究開発人材の育成・サポート事業が、ペロブスカイト太陽電池のさらなる発展のカギになると思われる。ペロブスカイト太陽電池の社会実装を進めるためには、統合型の研究開発支援から、人材育成を重視した分散型の研究開発支援への拡充も必要なのではないだろうか。

いけがみ・まさし 2005年にペクセル・テクノロジーズに入社。現在は桐蔭横浜大学大学院工学研究科の研究科長。また、ペクセル・テクノロジーズでは、2009年から取締役役も兼務。ペロブスカイト太陽電池の研究においては、成膜装置や測定装置の開発にも関わる。

【コラム/3月25日】「東日本大震災・福島原発事故14年を考える~最高裁判決と福島再出発への願い」


飯倉 穣/エコノミスト

1,東日本大震災

東日本大震災・福島原発事故から14年となる。今年も3月11日午後2時46分追悼の祈りがあった。岩手や宮城の三陸沿岸の市町村の人的・物的被害は甚大だった。人の死、大事な住宅やコミュニテイの喪失等があった。震災前から大きく変わった地域社会の中で生活再建する被災者の複雑な思いが伝わる。そして直近の大船渡山林火災である。福島県浜通りは、津波に加え、福島第一原発事故があった。強制的な避難も要請され苦難が継続した。

復興の進捗も気に掛る。被災地の多くが、過疎地だったことも、人口減に拍車を掛けている。とりわけ福島第一原発周辺地域は、変容した。最近まで帰還困難となっていて、復興がほぼ終了したといっても、賑わいが戻りそうにない。その様相を伝える報道があった。「福島 進まぬ帰還 居住人口当時の17% 東日本大震災14年」福島県内7町村(毎日25年3月11日)。避難が長引いた地域ほど帰還の動きは鈍いことや原発避難見直しの再考を書いた。直前に長い公判を経た東電福島原発事故刑事裁判最高裁判決もあった。

福島復興の状況を見ながら、改めて福島第一原発事故の対応と現在を考える。


2,福島復興の状況

福島県「ふくしまの現在~復興・再生の歩み第15版」(新生ふくしま復興推進本部24年12月)は、復興の現況を8項目(産業は細目6)で整理している。(以下カッコ内は現状)。 

現況は、①除染(空間線量低下)、②避難指示区域の縮小、③県民健康(調査継続)、④帰還者等生活環境整備進展、⑤公共インフラ99%完了、⑥産業は、・農林水産物輸入規制国減少(残6か国)、・観光県産品は回復基調、・企業立地(出荷額1/4水準)、・福島イノベーションコースト構想具体化中、・福島国際研究教育機構設立、・再エネ拡大過程(県内エネ需要比再エネ55%)で、⑦廃炉・ALPS処理水(取組中)、⑧風評・風化対策努力継続である。

復興が進んでいる点は、空間線量率低下、観光誘客促進、道路等交通網整備、福島イノベーションコースト構想、県産物の消費拡大・販路開拓、災害記憶の継承等である。他方未達成な継続課題は、廃炉推進、ALPS処理水処分対応、復興途上の26千人の避難者の存在、中間貯蔵施設の除去土壌県外処分、風評対策、農林水産物価格の全国との価格差である。つまり残された課題は、原子力発電所関係問題に絞られてきている。

多くの被災者は、10年ひと昔であろうか。現国力の下で、全体の復興関連予算支出40.9兆円(12年間うち復興財源対象経費32兆円、含む福島)で漸くここまで到達した(他に原発事故処理費用計23.4兆円:廃炉汚染水処理8兆円、賠償9.2兆円、除染4兆円、中間貯蔵2.2兆円:23年末)。


3,人口と経済は

浜通りの人口(2市7町3村)は、震災前195千人(11年3月)から現在110千人(24年1月)で、△85千人減(△ 44%減)である。福島原発立地近接町村(第一:大熊、双葉、第二楢葉、富岡。浪江、葛尾)は、67千人(11年)から現在7千人(24年1月)で、△30千人減(△90%減)だった(この時点で大熊、双葉、浪江は未帰還)。

経済の動きをみれば、福島県県内総生産は、震災で1割程度落ち込み、現在約8兆円(22年度)であり、震災前(10年度)の5%上方の水準である。原発のあった相双地域の市町村内総生産計は、震災で生産が半減した後、現在8400億円程度(21年度)で震災前の9割程度の水準にある。火力発電の再稼働や再エネ等の推進はあったが、地場産業的に定着していた福島原発の停止・廃止が大きく影響している。今後の経済拡大は、一次産業再生、地場産業起こし、サービス産業期待となっているが、公的関与の低下が懸念される。故に働く場との絡みで人口の戻りや流入に難渋が予想される。今後の展開を考えるうえで、地場産業的な福島第二原発や事故を免れた福島第一原発5・6号機の扱いに疑問を抱く。

(注)浜通り2市7町3村(=相双地域):相馬市、南相馬市、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、新地町、飯館村)

【政策・制度のそこが知りたい】数々の疑問に専門家が回答(2025年3月号)


統合コストの必要性/間接送電権の導入の狙い

Q 再生可能エネルギーの統合コストという考え方はなぜ大事なのでしょうか?

A 電源別のコストとしては、通常、均等化発電コスト、いわゆるLCOEという指標がこれまでよく用いられてきました。電源単独で評価した時の平均的なkW時単価とも言えます。

他方で、電力は高い品質を維持しつつ消費者に届ける必要があります。そのためには、瞬時瞬時で電力の需給を一致させる、いわゆる同時同量が求められます。しかし、とりわけ太陽光発電や風力発電のような変動性再エネ(VRE)は、天候に依存するため単独では同時同量の実現が事実上できません。

温暖化対策としてVREの比率が高まってくると、需給をバランスさせるために要する費用が大きくなっていきます。そのため、統合コストに対する理解を深めることが重要になってきます。

電力市場取引においても、卸取引市場(kW時)から容量市場(kW)や需給調整市場(⊿kW)へと、異なった価値の取引を行う市場が広がってきています。これも統合コストの重要性が高まってきたことと深く連関しています。

第7次エネルギー基本計画の策定に併せて実施された発電コスト検証においても、統合コストの重要性が指摘され、統合コストを含めた場合の各種電源の発電コストの2040年の推計値が提示されました。例えば事業用太陽光発電は、LCOEでは安価と推計されるものの、統合コストを含めると(ただし極端気象時の再エネ出力の予測誤差、送電網の追加整備費用などは含まず)、VREの設備容量比率が5割程度を超えると、原子力や火力よりも高価になると推計されました。今後、ますます増大する再エネ導入に際し、統合コストも含めたコストの理解が一層重要になっていきます。

回答者:秋元圭吾/地球環境産業技術研究機構主席研究員


Q 間接送電権はなぜ導入され、今見直されようとしているのでしょうか?

A 間接送電権とは、日本卸電力取引所(JEPX)が運営するスポット市場で市場分断が発生した場合にエリア間値差を精算する商品です。2018年4月からJEPXの間接送電権市場において取引が開始されました。従来、事業者は先着優先に基づき連系線容量を確保していたため、市場分断の影響を受けませんでした。しかし、公正な競争環境の整備と広域メリットオーダーの達成を促す観点からスポット市場を介した連系線利用制度である間接オークションに同年10 月以降、切り替えられました。この制度では、スポット市場でエリア間値差が発生する場合、相対取引などのエリア間取引を行う事業者は、事業者間で合意した取引価格で受渡しができなくなるリスクを抱えます。この値差リスクをヘッジするために間接送電権が導入されました。

JEPXが運営する間接送電権市場では、週間24時間の商品が2カ月前に4~5週間分まとめて取引されます。また、値差が発生する蓋然性が高く、ある程度の取引量が見込まれる5連系線6商品が提供されています。一方、間接オークションが導入される以前に、先着優先に基づき連系線容量を確保していた事業者には無償でエリア間値差の損益を調整する経過措置が26年3月まで適用されます。経過措置の終了後、間接送電権市場の取引量は増加すると考えられます。こうした背景を踏まえ、1月24日に「間接送電権の制度・在り方等に関する検討会」が立ち上がり、他の連系線における商品設定、長期の商品設定、直近での取引追加などについて検討される方向です。連系線を利用する事業者のニーズに合った商品が設定されることが期待されます。

回答者:大西健一/日本エネルギー経済研究所電力ユニット電力グループマネージャー

【需要家】太陽光買い取り新制度 初期支援で普及なるか


【業界スクランブル/需要家】

本年度の調達価格等算定委員会で太陽光発電の初期投資回収を早める「初期投資支援スキーム」が公表された。新たな買取制度では、導入後の数年は系統電力単価をやや下回る価格で買い取り、その後は卸電力価格程度で買い取る見込みだ。将来的には支援期間の短縮を進める方針である。この制度改定が家庭部門の需要家や関連事業者に与える影響について考えてみたい。

新築住宅に太陽光発電を設置する場合、設備費用が住宅の建設・購入費用の一部として組み込まれるため、投資回収期間が大きな障壁にはならないとの指摘がある。一方で、ローコスト住宅の購入者は初期費用を抑えたい傾向があるため、新たな買取スキームが一定の訴求力を持つ可能性がある。

事業者目線に立つと、初期費用の負担低減を売りとしているPPA事業にとっては、制度改定は逆風になりそうだ。委員会資料では、支援期間短縮がファイナンス組成に与える影響について指摘されているが、それより新スキームの導入自体が事業への関心を低下させる一因になりかねない。

既築住宅における太陽光発電の導入は、FIT制度開始直後に急速に進んだが、近年は低調と聞いている。今回の改定では、初期のような高額な買取価格とはならず、既築住宅の需要家にどこまで訴求できるかは不透明だ。

買取価格が系統単価を下回る場合、発電分の自家消費が最も経済的な選択肢となる。このような環境下では、買取価格の在り方よりも、自家消費を促進する対策を進める方が、太陽光発電の普及を効果的に後押しする鍵になるのだろうと考えている。(K)

【コラム/3月24日】激動の2024年度から実行の2025年度へ


加藤真一/エネルギーアンドシステムプランニング副社長

2025年も早3カ月が経とうとしており、あっという間に新年度の息吹が聞こえる季節になった。24年度は、エネルギー業界にとって、大きな3つの政策がまとめられるなど、慌ただしさが目立つ1年であったが、25年度は、そうした政策をいかに具体的な施策に落とし込み、実行に移すことができるかといった段階に入ると見られる。

そこで今回は、25年度以降の主な施策について取り上げたい。


GXの政策は産業立地と成長志向型カーボンプライシングから始まる

2月に閣議決定された「GX2040ビジョン 脱炭素成長型経済構造移行推進戦略 改訂」では、エネルギーと産業政策が一体となった政策で、40年度という目標年度を設定し、GX2.0として大きく8つの論点について課題や他対応の方向性が整理された。エネルギーについては、第7次エネルギー基本計画と整合される形で記載がされている。

このビジョンをいかに具体化していくかが25年度からの課題となる。産業界にとっては、新たなビジネス機会にも繋がる一方で、排出量取引制度や化石燃料賦課金といった新たに課される義務への対応が必要なことには留意が必要である。

25年度に、まず取組が行われるのが、GX産業立地にある「ワット・ビット連携」である。この1年ほど、AIの進展などによるデータセンターの新増設に伴い電力需要が伸びる見通しが注目されており、GX2040ビジョンや第7次エネルギー基本計画の中でも、そうした電力需要に必要な脱炭素電源の確保や系統増強が謳われている。現在、日本国内で東京圏と大阪圏に集中しているデータセンターの地方への分散化、通信ネットワークインフラの整備といった課題を解決するために、3月には「ワット・ビット連携官民懇談会」が立ち上がった。デジタル行財政改革会議での石破茂首相からの指示に基づき実行されたもので、今後、6月を目途に、総務省・経済産業省が共同で具体化を進めていくことなる。これにより、現在、計画されている広域系統のマスタープランや局地的大規模需要対策、再エネの導入拡大、原子力発電の既設炉の最大限活用(再稼働、運転延長)および次世代革新炉の建設、LNG火力の活用、内外無差別な卸売など、様々な制度への影響も出てくるだろう。

次に、GX財源を活用した先行投資であるGX経済移行債の償還原資となる成長志向型カーボンプライシング構想のうち、排出量取引制度と化石燃料賦課金の制度設計が具体化することなる。2月には「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律(GX推進法)」の一部を改正する法律案が閣議決定され、開会中の通常国会に提出された。特に、26年度から本格運用される排出量取引制度については、この改正法案で正式に法定化され、CO2の直接排出10万t以上の企業や発電事業者に全量無償割当の形で制度参加が義務化されることとなる。義務対象となる企業にとっては、割当量次第だが、熱や燃料の省エネや非化石燃料あるいは電化への転換により排出量の削減を強いられることとなり、仮に割当量を超えて排出した場合に排出枠やクレジットを調達・償却することになれば、その分、CO2対策コストがかかることとなり、製品への上乗せ(転嫁)が行われることが予想される。CO2削減対策をするにしても設備投資などのコストがかかるため、いずれにしてもコストが転嫁されることになるが、その中でもCO2排出量の低い製品を選ぶといった評価の在り方(GX製品の評価)も確立していく必要があるだろう。

また、排出量取引制度では、発電事業者も対象になることから、特に非効率石炭火力については、容量市場の稼働抑制リクワイアメントを考慮すると、例えば、春や秋の電力需要の軽負荷期には稼働率をかなり減らすといったことに繋がるだろう。その場合、再エネ出力制御量は軽減され、その間の系統電力のCO2排出係数も低減することが予想される。

まずは法案の審議と成立・公布が必須条件となるが、対象となる企業、また間接的に影響を受ける企業も、法律公布後の詳細設計含め、その状況は注視しておく必要があるだろう。


電力システム改革検証を踏まえた制度改正の動きが進むか

15年度に電力広域的運営推進機関が創設されてから今年で10年が経つが、この間、電力小売全面自由化、送配電分野の法的分離といった第5次電力システム改革が実行され、その検証が24年度に行われた。多くの関係者からのヒアリングをもとに、今後の電力システムが目指す姿や事業者に求める役割といったことが整理された。

その検証結果の中には、制度改正を伴うものも多く含まれる。そのため、25年度には、そうした制度改正に係る議論を行う新たな会議体を設け、年内に方向性を整理することが記載されている。その中で、法改正が必要なものがあれば、おそらく26年通常国会に電気事業法改正が法案として提出されることになるだろう。

対応が必要な施策のうち、既に関連審議会で議論されているものも多い。例えば、大規模脱炭素電源の事業期間中の市場環境の変化に伴う収入・費用の変動に対応できる制度措置や市場環境の整備では、洋上風力発電において再エネ海域利用法の促進区域での公募落札事業者への物価変動を配慮する価格調整スキームや保証金没収要件の緩和、セントラル方式の基本化などのルール整備が整理されており、今後、促進区域が指定される第4ラウンドから適用される予定となっている。また、短期的な需給運用の効率的な実施として、同時市場の検討を本格化することが挙げられているが、既に同時市場の在り方等に関する検討会では再キックオフがなされ、引き続き各検証が行われている。

一方で、経過措置料金の今後のあり方や小売電気事業者に量的な供給能力(kWh)確保のための責任・役割や遵守を促す規律や制度的措置、広域系統マスタープランの見直しなど、まだ具体的な議論に着手していない施策も多い。

事業者にとって、制度変更は、事業機会とリスクの双方を併せ持つものであることから、この動きも注視すべきものになるといってもよいだろう。

PCS不要の蓄電池技術を開発 独自技術で世界市場を開拓する


【エネルギービジネスのリーダー達】ジェフ・ルノー/RelectrifyCEO

蓄えた電気を直接交流として放電する蓄電池技術を開発した。

来年度から豪州と台湾で商用化。日本市場への参画も目指す。

ジェフ・ルノー 米南部テキサス州ヒューストン出身。大学卒業後、ケミカルエンジニアとして約3年勤務。その後、GEやエナノックなどのクリーンテクノロジー業界で20年のキャリアを積み、2023年から現職。

「kW時を使い倒す(more energy)」―。こうしたビジョンを掲げるのが、豪州発のスタートアップで蓄電池メーカーの「Relectrify(リレクトリファイ)」だ。蓄電池の性能をセル単位で把握・制御し、蓄えた電気を直接交流として放電する独自技術を持つ。ジェフ・ルノー最高経営責任者(CEO)は、「来年度から順次、各国で商業用モデルを導入していく」と、グローバル展開に意欲を見せる。


従来の構造から簡素化 劣化低減で延命も

開発した蓄電池は、インバーターやパワーコンディショナー(PCS)といった交直変換装置を必要としない。従来技術と比べて、構造が簡素化された分、製造コストの負担を抑えられるほか、設置面積を必要としないため、限られた用地でより大容量のエネルギーを貯蔵・供給できる。

さらに、セル単位で性能を把握・制御することで、劣化を低減し蓄電池の長寿命化が図れる。太陽光や風力といった変動型の再生可能エネルギーのkW時をフル活用する、脱炭素時代の鍵となる技術だ。

こうした技術のポテンシャルの高さへの期待から、豪州に加え、米国、欧州、日本を含めたアジアといった、各国のベンチャーキャピタルなどからサポートを受けている。ルノー氏は「その関心に応えられる高い目標を掲げて開発を進めている」と、自信をのぞかせる。

商用化を前に2023年には、日産のEVの中古バッテリーを利用したプロトタイプ「ReVolve(リボルブ)」を豪州やニュージーランドなどに導入した。系統接続が可能で、すでに20台ほどが実際に利用されているという。

この成果を追い風に、25年度には初の商業用モデル「AC1」の市場投入を決定した。リボルブでは三元系(NMC)の中古バッテリーを採用していたが、AC1ではリン酸鉄リチウムイオン(LFP)の新品セルを採用。容量はリボルブの約10倍に当たる1100kW時を誇り、系統接続にも対応する。

最初の導入先として、豪州と台湾を選定した。産業向けの高圧・特別高圧領域の需要家を対象に、電力使用量の低減や需給調整市場に相当する市場取引での運用を視野に入れる。拠点の豪州に加え、台湾を選んだことについて、「当社の蓄電池の製造拠点があることに加え、最近の制度変更によって市場環境が整い、投資回収の加速を見込めると判断した」(ルノー氏)と、ビジネスを展開する上で好条件であることを理由に挙げる。

そして26年度以降、日本市場への参入も目指す。他国に比べ土地が限られる日本では、設置面積を抑えられるAC1の優位性が際立つ。また、「日本はエネルギーを大切にし、節電に積極的だ。この『もったいない』の価値観は、当社の社是『kW時を使い倒す』に通じる」と強調する。

日本国内においては、再エネの普及に伴う出力抑制が増加し、発電事業者の売電量の減少が懸念されている。発電した電力(kW時)を無駄にしないためにも、「蓄電池による調整力(⊿kW)を提供し、再エネプロジェクトの投資回収を少しでも早められるよう貢献していきたい」と意欲を見せる。


ケミカルから転身 20年以上の経験誇る

ルノー氏は、リレクトリファイが研究開発フェーズから商用化へかじを切るタイミングでCEOに就任した。もともとは、ケミカルエンジニアとしてキャリアをスタートさせたが、次第にエネルギートランジション(移行)の必要性を感じ、3年ほど勤めた後、クリーンテクノロジー分野へと転身した。

「気候変動対策につながるだけでなく、それを民間主導で実現し、ビジネスとして成立させられる可能性に惹かれた」と振り返る。

GEやエナノック(現エネル・エックス)など複数の企業で20年にわたってキャリアを積み、クリーンテクノロジー領域で新技術の商用化やグローバル展開に数多く関わってきた。特に、バーチャルパワープラント(VPP)事業での経験が豊富で、複数の電源を束ね、数GW規模のVPPを運用した経験もある。「顧客を深く理解することが全ての基本。その上で、深く洞察し、戦略を立てる。そして、クリエイティブかつオープンマインドな姿勢で協業パートナーを見つけることが、ビジネスの成長には欠かせない」と、これまでの経験から導き出した成功の法則を語る。

いつの時代も産業の発展を押し進めるにはイノベーションが重要だが、技術を広め、社会に根付かせるには開拓者の存在が不可欠だ。こうしたマインドセットを持って脱炭素時代を切り拓こうとしている。

【再エネ】米国でも40年再エネ8割 難局こそ政策強化を


【業界スクランブル/再エネ】

第7次エネ基は2月末には閣議決定される見込みである。2040年の電力需給見通しと電源構成は、以前のエネ基と比較すると、22年末の岸田政権下での原子力回帰方針に沿った形で大きく方向転換したように映る。福島第一原子力発電所事故の経験、反省と教訓を肝に銘じつつとしながらも、再エネと原子力は二項対立では無く、経済合理性と自給率向上を前提に、脱炭素電源を最大限活用すべしという方針である。エネルギー政策は、将来のあるべきエネルギー需給形態を創造し、それに近づく中長期的アクションプランを明示すべきと思うが、従来通りに、国内外の周辺環境に流される結果を想定しているかのようだ。

最近の米国エネルギー情報局の予想では、米国でさえトランプ政権に替わっても、40年の全電力量の8割を再エネが占める(太陽光37%、風力37%)可能性が高いとしている。日本の政策が海外の見通しから大きく乖離しており、海外の潮流からすら目を背けているように感じる。

特に風力発電については、陸上、洋上ともコロナ禍以降、ウクライナ侵攻、中東紛争があり、為替変動や資材費・輸送費の高騰なども重なり、決して当初目標通りの安価な発電コスト実現には向かっていないのが実情だ。

しかし、それだからこそ政策が最も重要で、一段ギアを上げて対応する必要性を感じる。経済合理性評価でも、一部の学識経験者が指摘しているように、再エネの脱炭素価値評価が無い点、原子力の放射性廃棄物処分費用が入っていない点なども含め、国民が納得する確固とした政府の考え方が明確に出されているとは言い難い。(S)

新たな人材と「安全・安心」にまい進 民営化で着々とサービス拡充


【事業者探訪】金沢エナジー

公営事業を引き継ぎ3年。民間企業としての自立化は最終段階に入り、サービス拡充も進む。

県では昨年、大地震と豪雨が発生。「安全・安心」への責務を果たしつつ、被災地支援を続ける。

金沢市は加賀百万石の城下町として栄え、きらびやかな伝統文化が息づく町だ。一方、石川県内では昨年、能登半島地震、さらに豪雨と災害が相次いだ。奥能登地方ではいまだ多くの人が被害の爪痕に苦しんでいる。

民営化準備段階から携わる石本社長


3年で完全自立化へ 25年度は民営化仕上げの年

エネルギー的には4年前、大きなトピックスがあった。2021年に市企業局のガス・水力発電事業の譲渡先として、北陸電力、東邦ガス、北國銀行、北國新聞社、松村物産、小松ガスのコンソーシアムが発足。5月に前身の「金沢ガス・電気」が設立され、社名公募を経て11月に新会社・金沢エナジーが誕生した。公営事業の実績を引き継ぎ、「100年続く地域密着の総合エネルギー企業」を目指す。なお、同社は都市ガス会社で水力発電所を有する唯一の存在だ。

北陸電力から出向し、2年前社長に就任した石本毅氏は「当時はコロナ禍の影響で議会承認が数カ月ずれこむ中、半年後の翌春には事業を開始。その後も、企業局の人材が順次市の部局に帰っていく中、その期間のうちに万全な事業継承を目指してきた」と怒涛の日々を振り返る。約80人いた企業局の人員が3年の間に順次社を離れるため、人員確保が急務に。現在、派遣社員も含めた全社員175人のうち、企業局は30人弱、出資企業の出向者は50人ほどに対し、新規採用の正社員は86人だ。

前職でエネルギーに縁がなかった人もおり、「インフラ会社の矜持」を伝えることを特に意識したという。例えば、22年8月に豪雨が発生。犀川上流の5カ所に計3・4万kWの水力発電所を所有しており、設備の一部が停止した。土砂災害で道が寸断した中、道なき道を行き、なんとか復旧に当たった。

被災地での泥出しなどの活動を続けていく

苦労も経て新体制を構築しつつ、数十年の実績がある公営事業を引継ぐ作業は、ようやく完了に近づいている。25年度は企業局派遣職員が全員市へ戻り、完全自立の年となる。なお、企業局から同社に転籍する職員もおり、民営化の事例では珍しい。

新たに手掛けるようになった事業もある。ガス供給エリアを行政区域に制限する必要がなくなり、設立当初からエリア拡大を重要課題に据え、隣接する野々市市へ導管を延伸。昨春、粟田地区への供給を開始した。さらに2㎞ほどの延伸工事を続けており、この他の計画もある。6・2万件、4000万㎥のガス販売をさらに拡大する構えだ。

23年6月には電力小売りをスタート。水力で約1・42億kW時(24年度見込み)を発電し、従来は基本的に全て卸供給していたところ、現在は順調に小売販売件数を伸ばしている。 カーボンオフセット都市ガスの取り扱いも始めた。例えば市の学校給食共同調理場にはカーボンオフセットガス、さらに自社水力由来の電気を供給し、使用エネルギーを全て実質ゼロに切り替えた。「水力は当社の魅力の一つ。地元で発電した電気を地元で使ってほしい。オフセットガスの引き合いもある」と、一層の拡大を見据える。

【火力】発電最大手がシンクタンク 知見の積極活用を


【業界スクランブル/火力】

JERAが国内外のエネルギー情勢を分析するシンクタンク組織「JERA Global Institute」を1月に立ち上げた。同社は国内最大の発電会社で、燃料の取扱量も世界最大級の規模を誇っている。今回の組織は、英石油大手シェルをモデルにしたとのことだが、エネルギー事業を営む企業が自らこのような取り組みを進めることに大いに期待している。

それというのも、第7次エネルギー基本計画の議論は、複数のシンクタンクが作成したシナリオをベースに進められていたが、どれも現実から乖離した印象を拭えない。

2050年カーボンニュートラルからのバックキャストという点が、縛りとなっている影響も大きい。一般のシンクタンクでは、調査・分析に秀でていても発電所運用などの実務に精通しているわけではなく、事業リスクをわが事として実感することが難しいものと思われる。

そのため、JERAのような事業者をシナリオの作成から検討に参加させ、現場実態を反映し、責任ある姿勢で実行させるのが有効ではないか。もちろん自社の利益より国益を優先する姿勢が求められるが、それ以外でも懸念が無いわけではない。

今回の組織では、30人のチームメンバーの多くを社外から招聘しているように見受けられる。グローバル化が進むエネルギー事業において、外部とのコミュニケーション力の強化は重要ではあるが、電気は全て国内で発電されているのが現実だ。国内最大の発電設備を日々稼働させることから得られる知見というアドバンテージを、ゆめゆめ無駄にすることがないようにしてもらいたい。(N)

成長の限界に直面する今世紀 通信・情報技術の活用がカギ


【リレーコラム】伊藤伸泰/理化学研究所 計算科学研究センター研究チームリーダー

還暦を迎えた私が小中学生を過ごした1970年代は、物価高騰・公害激化・交通戦争と、戦後復興の問題が顕在化した時代だった。国際的にはオイルショック、文明論的には18世紀以来続いてきた動力機械の指数関数的な成長が鈍化し始めた時代でもある。産業革命以来、連綿と続いた成長シナリオが破綻した時代と言ってもよい。そして72年には「成長の限界」が発表された。当時のコンピューターシミュレーションが「指数関数的に増える人口は100年以内に食料・資源の供給や環境の限界を超える」と警鐘を鳴らした。

以来、半世紀にわたりグローバルに食料・資源・環境の限界が認知され、その対策が最重要課題と認識される一方、日本を含めた多くの国々で少子化・人口減少が加速していく。現在約80億人の世界人口は2080年代に約100億人に達した後に、減少に転ずるとの推計がある。人類に成長の限界が先にくるのか、それとも逃げ切るのか、今世紀は知恵が問われている。

私にかぎらずみんな、うまく逃げ切ってより明るく幸せな未来を期待しているだろう。そこで重要となるのは、知恵と知識を涵養し活用することだ。グローバルに協力し合うことで最大の効果が得られよう。幸い現在において、活用のためのインフラはこれまでになく整っている。そのインフラとは、情報・通信技術を指す。観測データを収集し、分析・予測のためのシミュレーション技術も「成長の限界」の頃と比べて相当に進んでいる。付け加えると、人々を協力に導くにはどうすれば良いか、という研究分野でも現代のスーパーコンピューターの活用が成果をあげている。

実際に、1970年代以降の半世紀、世の中を大きく変えたのは言うまでもなく、コンピューターの成長だった。60年代から1年半で2倍のペースの指数関数的な成長を続けてきた。また、通信性能も90年代から9か月で2倍のペースで、その成長とともに活用分野は広がり、生成AIの実現を支えるまでになった。


インテル4004との出会いが今に

小学生の時に秋葉原で売られていたインテル4004を眺めて心躍らせていたことを思い出す。4004は日本のビジコン社とインテル社が共同開発した世界初のCPUだ。中学校に上がると、NECが発売したワンボードマイコンを組み立てて、日がな一日プログラミングで過ごしたのは良い思い出だ。以来、コンピューターに取りつかれ、神戸の「富岳」を楽しみつつ、将来の量子コンピューターなどに思いを馳せているところである。

いとう・のぶやす 1986年東京大学卒業、91年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了・理学博士。日本原子力研究所・東京大学を経て理化学研究所に入所。専門は計算物理学・統計物理学。

※次回は、キャベンディッシュ・ニュークリア・ジャパンの彦坂淳一さんです。

【原子力】英がプルトニウム廃棄決定 日本所有分の行方は


【業界スクランブル/原子力】

英国の民生用プルトニウム保有量は約141tでセラフィールドサイトにある。これには日本に所有権のある21・7tが含まれている。

1月、英国政府は自国に所有権のあるプルトニウムを原子力発電の燃料として使うことなく、再取り出し不可能な処理をして深地層処分すると発表した。これを受けて、日本の保有分をどうするかを考えなければならない。

日本は利用目的(発電用燃料という平和利用)のないプルトニウムは持たない方針で、英国にある日本のプルトニウムも将来使うとしてきた。しかし今回、英国ではMOX燃料工場の新設(再建設)は行われないことが確定した。その結果、英国にある日本のプルトニウムは「利用目的はあるが、利用することができない」状態となってしまった。

だが、英国で加工できないというだけであり、利用目的を失ったわけではない。MOX燃料工場を持つ他の先進国に運んで加工してもらうか、しばらく英国に保管して(処分には10年かかるとのこと)、将来日本に持ち帰り、やがて操業開始する日本原燃のMOX燃料工場で加工することも考えられる。

プルトニウムは資源の乏しい日本にとって貴重なエネルギー資源である。数%の濃度でウランと混ぜて300t程度のMOX燃料にすれば、日本の年間電力需要の約1割、およそ1000億kW時の電気を生み出し、1兆~2兆円の価値がある。これを使わなければ別に燃料を買わねばならないし、英国で廃棄してもらうとなれば、処理費用と処分場建設費を負担させられることになる。安易な「処分」を選ばず、真剣に今後の方策を練るべきである。(H)

【シン・メディア放談】クライアントや株主の理解得られず フジ問題に見るメディアの危機


〈メディア人編〉大手A紙・大手B紙・大手C紙・大手D紙

フジテレビ問題は収束どころかグループ全体に飛び火。

メディア関係者とすれば他人ごとではない。

―今回は番外編。エネルギーは抜きにして、炎上し続けるフジテレビ問題を扱う。

A紙 1月17日のクローズ会見から、27日の10時間超の会見での新要素は、社長・会長の辞任、被害者に対する社長の謝意、加害者への具体的な聞き取り回数くらい。「公開処刑」でも状況は変わらなかった。この一連で印象的なのはフジの危機管理、特に初動の悪さだ。何か隠しているのではないかと疑われ、「社員の関与はない」と説明しても誰も信じない。一方、事実関係が不明な段階にスポンサーが一斉に離れるという判断に至るのもどうかとは思う。

B紙 関西電力が変圧器のPCB(ポリ塩化ビフェニル)基準値越えに関して、2月頭にコンプライアンス委員会の調査結果を公表。原因としてコンプラ意識の弱さ、業績優先の意識、正当化論理の構築―などを挙げたが、まさしくフジにも当てはまる。ただ、エネ会社の不祥事では業界紙やステークホルダーがかばうものだが、フジにはそうした味方はいない。


東電会見を彷彿? グループ傘下にも波及

C紙 フジの現場の人と付き合いがなく、これほど女性の権利が守られない職場なのかと衝撃を受けた。新聞の社風も遅れているが、テレビは輪をかけている。また、会見は1時間を超えたら後は見世物で、記者批判やフジ同情論などエンタメと化した。ところで10時間会見で思い出したのが、原発事故直後の東京電力の会見だ。中身が分かりづらく混乱ぶりも似ていた。

D紙 毎日6時間ほど開いていたね。東電には「ゼロ回答の天才」がいた。その頃からフリー記者が増え、当時の某政権幹部が記者クラブを批判していた。

いずれにせよ今回、記者は新しい情報を引き出せなかった。加害者が何をしたのか、なぜフジがかばい続けたのかを知りたいのに、質問が練れていない記者が多かった。むしろフジは同情論が出てきて助かったと思う。

C紙 引き出すような質問といのは存外難しく、特定の記者を批判する気はない。中には鋭い質問もあり、それに答えなかったフジが評価を上げたとは思えない。日枝久取締役相談役が辞めない限り状況は改善しないとの危機感があるのではないか。

D紙 日枝氏が辞めても重用された人が残る。幹部だけでなく、何人も同氏のコネで入社している。少なくとも第三者委員会の報告書ではプライバシーを隠れみのにせず、踏み込まないと収まらない。日頃、企業の不祥事をたたきまくる自分たちが逆の立場になったわけで、とにかく大手メディア不振が広がっている。スポンサーの反応を含め、嫌な雰囲気が漂い始めている。

C紙 これはフジ特有の問題で他局では起き得ないのか、もしくはテレビ局全体の問題なのか、はっきりさせるべきだ。一部の局は自主的に調査したというが、こうした視点をマスコミが持たないと今後足元をすくわれる。

ところで、フジと他局の文化の違いはあるのかな?

A紙 TBSは他社より上層部に意見を言える風土があり、社長のあいさつに役員がガヤを入れるそうだ。フジや日テレ、ましてやテレ朝ではできない。

B紙 かつてはフジテレビと産経新聞のトップは緊密な関係で、鹿内家を追放できたのもそのおかげだ。だが産経のトップが変わる中、日枝氏だけが残り続け、もうツーカーではない。

とはいえ、今回の件で産経も無傷とはならないだろう。産経の広告営業やイベントの協賛などは巻き込まれていると聞く。

A紙 フジから産経への広告もそれなりにあるようで、これがなくなると痛手となる。

B紙 日枝氏が辞めた後、フジと産経のつながりがどうなるかも注目だ。読売や産経はある程度エネルギーを冷静に報じる媒体。その一角が仮になくなると、エネルギーフォーラムの読者にとってショックかも?


文春にブーメラン 訂正に批判の声

―一方、週刊文春がフジ社員の関与を巡る文章を訂正し、そのやり方が批判されている。

C紙 よく読めば方向を少し変えたと分かるが、週刊誌を丁寧に読み込む人はいないよね。また文春側は、報道の大筋は変わらないので裁判になっても負けないという判断もあったのだろう。ただ、会見でもっと指摘する質問があってもよかった。

B紙 訂正は致命的ではない。従軍慰安婦論争と似ているが、直接的な「狭義の強制性」はなくとも、間接的な「広義の強制性」はあったとの強弁は可能だ。また、続報で上書きしての手打ち経験がある記者は多いはずだ。

A紙 訂正を出すかどうかは、社内でかなりもめたという。文春としては誠意で訂正したつもりが、結局批判されるのなら出さない方が良かったとなる。ただ、そこもメディアが世間ずれしている部分なのかも。

D紙 一般紙も大スクープだと報じ、結局間違っていてもそのまま、ということはある。文春は訂正しただけよくやったが、取材が甘いことがたたかれるのは仕方がない。それだけ世の中に見られる媒体となった。

A紙 最近、文春で特派の記者から本社のデスクになった人がいると話題になった。従来、特派は真偽不明の情報を集め見出しで突っ走る傾向にあり、本社のデスクが冷静に見てバランスを取るものだが、先ほど述べたような体制には危うさを感じる。

―奇しくもフジ特集の誤記で販売を中止したダイヤモンド社には賞賛の声が。文春編集部は何を思うのか。

【石油】ガソリン価格で混乱継続 税制の行方いかに


【業界スクランブル/石油】

高止まりを続けるガソリンの全国平均価格。経済産業省は補助金がなければ2月第1週で205・5円と想定していたが、この価格と新基準価格185円の差額20・5円が同週の補助単価となった。これを石油元売りにスタンド向け卸価格の値下げ原資として支給し、スタンド小売価格を185円に抑制。想定価格は、主にドル建て原油価格と為替相場の前週比変動幅を計算し、毎週改訂される。

補助率圧縮による補助金の2段階縮小を決めた昨秋時点でガソリン価格は約190円と想定し、185円との差額は5円。もし原油価格が1バレル当たり5ドル程度、または1ドル10円程度の円高になれば補助単価がゼロとなり、補助金は自然消滅していた。

ところが、昨年末から1月にかけての想定外の原油高と円安で、補助金が約10円に圧縮されたにもかかわらず、逆に毎週の補助単価は拡大した。補助単価10円で月間の補助金総額は約1000億円に上り、補助開始以来の2年強の総額は8兆円近い。そんな補助金をいつまでも続けるわけにはいかない。

メディア業界には補助金否定論が多く、役所も早く止めたがっているが、地方を支える自動車や灯油暖房などへの影響を考えれば、政治が許すはずがない。特に今年は、参院選と都議選を控えている。

ガソリン税に上乗せされる「いわゆる暫定税率」は、自民、公明、国民民主の3党が廃止で合意した。EV普及でガソリン税収が激減すれば、暫定税率の廃止は可能であろうが、すぐの実施は難しい。

国民民主党提出の暫定税率廃止法案は国会で継続審議案件となった。ガソリン価格を巡る混乱は続きそうだ。(H)

【ガス】米国産LNG輸入 企業はコミットできるか


【業界スクランブル/ガス】

2月上旬、トランプ米大統領と石破茂首相による初の首脳会談が行われた。業界が注目したのが、米国産LNGの輸入拡大とアラスカLNG開発への参画検討だ。

米国産LNGの輸出拡大は、日本のエネルギー安全保障上、化石燃料の調達先をさらに分散化させ、有効であるように見える。しかし実現可能性はどうだろう。日本の各社は大半のLNGを長期契約しており、足元で不足感がある事業者はいないのではないか。確かに2030年前半ごろに満期を迎える既存長契が複数あり、それを米国産に切り替えることは考えられるが、自由化による将来の不透明性や人口減による需要の縮小が見込まれる中、どれだけの量をコミットできるかは不明瞭と言わざるを得ない。日本だけでなく欧州なども米国産LNGの輸入拡大を示唆する中、米国の出荷能力面も危惧してしまう。今から新たな輸出基地の建設を検討しても、トランプの任期中の完成は不可能だろう。最後の懸念点は、契約条件だ。LNGを購入するのは民間企業であり、トランプではないが変な条件では「ディール」できない。いずれにせよこの先、米国産LNGの動向には注視が必要だ。

より不透明なのがアラスカLNG開発である。アラスカのLNGはホルムズ海峡やパナマ運河を通る必要がなく、運搬コストや地政学上のリスクの抑制が可能になるメリットがある。一方で、アラスカを横断する1300㎞ものパイプラインの敷設工事など、膨大な開発コストが必要と言われる。これもトランプの任期中に完成することは不可能であり、どれだけの日本企業がこのプロジェクトにコミット出来るのかも注目だ。(Y)

rDME活用をあきらめない欧州勢


【ワールドワイド/コラム】海外メディアを読む

昨年秋、欧州のLPGディストリビューターであるSHVエナジーとUGIインターナショナルのrDME(再生可能ジメチルエーテル)合弁会社ディメタ社が破綻し、その事実が10月下旬開催の「5thアジアパシフィックLPGエキスポ・ベトナム2024」で正式に伝えられた。英国北東部ティーズワークスでかねてより計画されていた年間5万t生産のrDME工場が、24年初めの稼働に至らず開設に失敗したとのことだった。

同社のホームページによると、当該プロジェクトは北欧から中古のDME生成プラントを購入し、資源ごみを原料にrDMEを生成。既存のLPGに混入させてrLPGとして販売する計画だった。しかし、生成プラントは木質バイオ系セルロース原料をメインにrDMEを作ることを想定しており、資源ごみからの生成がうまくいかなかった。

加えて、UGI社の経営変調により運転資金が回らない状況に陥り破綻したとのことだった。同社は22~23年に、ネットやLPG関連の国際セミナーでプロジェクトの先進性、複数のごみ廃棄物源を処理できる「原料ニュートラル」技術を使用することで、rDMEを「今すぐ」実現できるとしていたが、二つの要因により計画が頓挫した。

一方、欧州オランダでは大規模なコングロマリットでもあるSHV社が、新たにアイルランドのDCCエナジーとrDMEに関する開発促進に関する覚書を締結したことを11月下旬に南アフリカで開催された「WLGA(世界リキッドガス協会)LPG WEEK2024」の総会で発表した。欧州勢は、LPGにrDMEを混合させ低炭素時代に適合させるエネルギー源として末永く有効活用していく矛先は緩めていないのである。たとえ先駆者の屍を乗り越えても。

(花井和夫/エネルギーコラムニスト)