【インフォメーション】エネルギー企業・団体の最新動向(2025年2月号)


【東京ガス/新工法でスレート屋根に薄型太陽光パネル】

東京ガスはこのほど、薄くて軽い太陽光パネルを接着剤でスレート屋根に設置する工法を開発したと発表した。平らな陸屋根だけではなく、波形のスレート屋根にも対応できる。工場などに広く採用されているスレート屋根は、軽量で耐震性にも優れる一方、耐荷重や施工の安全面の観点からパネルの取り付けが困難だった。こうした課題に対応して今回の工法を追求。材料評価試験や実機を用いた耐風試験を通じて、信頼性の高い新たな施工法を確立した。特殊なネジなどの工具を不要にできるため、工期短縮にも役立つ。同社は「施工するための人員の確保を進めていきたい」としている。


【高砂熱学工業/月面用水電解装置をロケットで打ち上げ】

高砂熱学工業は1月15日、同社が開発した水電解装置を搭載した月着陸船「ランダー」が米フロリダ州のケネディ宇宙センターから打ち上げられたと発表した。ランダーは宇宙関連事業を手掛ける国内スタートアップのispaceが開発し、米SpaceX社のロケットで飛び立った。高砂熱学とispaceは2019年に民間月面探査プログラム「HAKUTO―R」のパートナー契約を結び、ランダーの開発を進めていた。月面への着陸は4~5カ月後を予定。着陸後は世界初となる月面での水素や酸素の生成に挑むとともに、月面を探査。地球と月を結ぶ輸送サービス構築に向けた技術検証も行う。


【サイサン/80周年を迎える今期、売上高2000億円目指す】

LPガス事業者のサイサンは1月18日、新年賀詞交歓会を開催。川本武彦社長が2024年8月期の連結決算について、電力卸売り事業の伸長が寄与し13%の増収を果たした23年8月期から一転、売上高が0.2%減の1980億円、投資費用の増加で経常利益も前期を下回り、減収減益となったと報告した。80周年となる今期は増収増益を見込んでおり、売上高2000億円を目指す。昨年4月には、液化石油ガス法の改正省令が公布された。過大な営業行為の制限などが改正の柱で、この対応について「事業者もお客さまも望むものであり、真摯に取り組む」と述べた。


【三菱UFJ銀行、REXEV/金融業界初、EV活用しVPP事業に参画】

三菱UFJ銀行は、年初よりEVを活用したVPP事業に乗り出している。具体的には、昨年末に府中支店(東京都府中市)に導入した18台のEVを活用し、電気の市場価格や車両の利用状況に応じ経済的に充電する仕組みの構築を目指す。府中支店ではEV導入支援に強みを持つREXEV製の充電器を活用。両社は、持続可能な社会の構築に貢献する構えだ。


【セブン―イレブン・ジャパンほか/業界の垣根を越え7社で廃食油を燃料活用】

セブン―イレブン・ジャパンはENEOS、三井住友銀行など6社と連携し、家庭で使用した食用油を回収する事業を1月15日に始めた。千葉県内のスーパーなど小売店やマンションで廃食油を集めて、当面はバイオディーゼル燃料向けに再利用する。2027年以降には、ENEOSが脱炭素につながるSAF(持続可能な航空燃料)の原料に利用する計画だ。


【ヤマトHD/JERAと協業し再エネ電力供給へ新会社を設立】

ヤマトホールディングスは1月7日、再エネ由来電力を販売する新会社「ヤマトエナジーマネジメント」を設立した。JERAと協業し、来年度中に電力事業を始める。JERAから電力需給運用のサポートを受け、ヤマト運輸をはじめ車両を使う事業者に、地域の発電事業者が発電した再エネ電力などを提供。地域社会とともに物流の脱炭素化を実現する考えだ。

技術シーズありきに限界 ニーズオリエントへ


【モビリティ社会の未来像】古川 修/電動モビリティシステム専門職大学教授・学長上席補佐

これまで、CASE(通信・自動運転・シェアとサービス・電動化)、SDV(ソフトウェアで機能定義される自動車)の技術開発の現状と課題、将来向かうべき方向性について、個別に論じてきた。今回は、原点に立ち戻って日本のモビリティ社会の向かうべき方向性を考察してみる。

日本では、産官学連携体制で上記の技術領域の研究開発・環境整備・実証評価などを進めてきているが、技術シーズありきの考え方が主体となっている。自動運転技術領域でいえば、自動化レベル5の完全自動運転が最終目標において、レベル3、レベル4と技術進化していくことを是としている。これは欧米などとの国際的な議論の場でも同じである。

技術シーズから社会ニーズへ

しかし、技術シーズありきの議論は社会課題解決のニーズと乖離してしまう可能性が大きい。その考え方をリセットして、日本の重要な社会課題解決を目標としたニーズオリエントの考え方に切り替えて、あるべきモビリティ社会を総合的にデザインすることから出発する必要がある。

例えば、自動運転技術領域については、レベル5完全自動運転を目標とするのではなく、安全性・利便性・社会受容性の課題解決から、あるべきモビリティ社会を総合的にデザインし、その中の各モビリティの自動運転機能要件を目標に設定すべきである。この観点からは、日本では自動車の交通事故ゼロへ向けた究極の安全性を獲得することと、高齢化による地域交通手段として自動運転技術を活用することが極めて重要であると考えられる。究極の安全性とは必ずしもレベル5の完全自動運転とは一致しない。手動運転であっても、車載AIが交通事故リスクを予測して、事故を回避するようにドライバーの運転操作を支援してくれる機能が付加されていれば十分である。これはADAS(先進運転支援システム)の究極の目標となる機能とも言える。

また電動化技術領域であれば、BEV(内燃機関を持たない電気自動車)が最終目標となるのではない。交通社会がもたらす環境への負荷を最小とするニーズオリエントな施策が必要である。つまり、個別の自動車が走行した場合の環境への負荷だけを考えるのではなく、自動車製造・走行・修理・廃棄・リサイクルまで含めた環境負荷評価を行うライフサイクルアセスメント(LCA)が必要である。特にバッテリー製造時の環境負荷は高く、ボルボ社がBEVがICE(エンジン車)より有利となるには10万㎞以上の走行が必要だと発表したことを以前紹介している。

また、Well to Wheel(油田から自動車へ)のプロセスでの環境負荷を考慮に入れる必要がある。その観点では、BEVとHEVのカーボン排出量の違いは大きくないことも以前紹介した。

さらに、エネルギー設備自体のLCAを考慮した環境負荷についても評価すべきである。ソーラー発電・風力発電などは、その設備自体の環境負荷が高いことが懸念される。このように、まずは技術シーズありきの考え方を、ニーズオリエントに切り替えることが必要である。

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ふるかわ・よしみ 東京大学大学院工学研究科修了。博士(工学)。ホンダで4輪操舵システムなどの研究開発に従事。芝浦工業大教授を経て現職。

自治体の国策への協力 欠かせない地域循環構造の視点


【オピニオン】井上武史/東洋大学経済学部教授

次期エネルギー基本計画の方向性が見えてきた。注目されているのは原子力発電の位置付けであるが、本稿では、エネルギー基本計画を実現するためには供給拠点の立地先が必要であることを踏まえ、立地を受け入れる自治体の立場からエネルギー基本計画の在り方を述べたい。

エネルギー政策は「国策」であり、自治体はそれに「協力」する立場である。自治体としては、政策の合理性や政策への協力によって得られる便益の内容などから、協力するかどうかを判断する。協力する場合、自治体は消費者としての住民や企業が省エネに取り組む際に啓発や設備投資への支援を行い、供給者としての発電所を受け入れる際に雇用機会や交付金収入などを獲得する。

自治体にとって特に重要なのは便益の面で、協力によって自治体が直面している課題の解決に資するかどうかが問われる。とりわけ重視されるのは持続可能性の向上、すなわち人口減少や地方創生への寄与で、そのカギとなるのが地域経済における「循環」の構築である。地域経済の循環とは、企業などが生み出した付加価値(生産)が、企業の利益や雇用者所得などに分けられ(分配)、それが企業の設備投資や原材料購入、雇用者の生活費などに充てられる(支出)。さらに、それらの需要を満たすために再び生産が行われ、分配→支出へと循環していく……という経済活動の流れである。そして、それぞれの段階で域外への流出を抑制することが、強い循環と地域経済の自立をもたらす。では、エネルギー政策の軸となる電源立地は循環の視点からどう評価されるのか。

例えば、再生可能エネルギーは太陽光や風力、水力などの地域資源を生かして電力を生産し、地元企業や住民などに提供することで電気料金の支出が域内に留まる、という地産地消の仕組みで循環に寄与する。また、原子力発電は地元住民の雇用と域内企業との取引、交付金の活用によって循環をもたらす。このように電源ごとに地域にもたらす循環への作用は多様である。従って、自治体が国策としてのエネルギー政策に協力する際には、地域ごとの循環構造にどのような効果をもたらすのかが考慮されることになるだろう。

エネルギー政策に自治体の協力が不可欠であるならば、こうした要素も国策に盛り込まれる必要があるのではないか。エネルギー政策の軸となる電源ミックスは「S+3E」の観点が考慮される。これは電源ごとの多様な特徴を反映したものであるが、ここに自治体の立場から地域経済の循環への寄与も加わることになる。エネルギー基本計画を実現するためには「S+3E」だけでなく、協力する自治体の立場を踏まえて、電源ごとの特徴に循環を加味することが重要であると考える。

いのうえ・たけし 2000年福井県立大学大学院経済学研究科後期博士課程修了、博士(経済学)。敦賀市役所、福井県立大学地域経済研究所准教授などを経て20年から現職。

【コラム/2月14日】ドイツにおけるパワークラウドの実態と課題


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

ドイツでは、家庭の太陽光発電(PV)設備への蓄電池の併設が増大している(2023年に設置されたPV設備では併設率77%)。これに伴い、蓄電池の設置台数は、2022年に55万台だったのが、2023年には108万台となり、2024年には200万台になったと推定されている。その背景には、電気料金の上昇傾向が続く中で、蓄電地導入のメリットが向上し、エネルギー自給自足への関心が高まっていることがある。

当然だが、PV設備と併せて蓄電池を設置することで、発電した電気の自家消費を増やすことができる。日中に発電し余った電気を蓄電池に貯蔵し、太陽が出ていない時間に自家消費することができるからだ。しかし、家庭に設置されるローカルな蓄電池では、発電した電気を数か月というような長期間にわたって蓄えることはできず、年間を通じて自家消費を向上させることには限界がある。例えば、日照量の多い夏季には、蓄電池の利用で需要のほぼすべてを賄い、余剰分は系統側に売却できる。しかし、その長期貯蔵はできないため、ドイツのように電力需要が増え日射量が大幅に減少する冬季には、系統側からの大量の電力購入が必要となる。

このため、同国では、年間を通じて自家消費を向上させる目的で、余剰電力を仮想的に保存し、後日(数か月後や半年後などに)引き出すことのできるサービスであるパワークラウド(Stromcloud)が多くの事業者によって提供されている。事業者のタイプとしては、顧客がローカルな蓄電池を運営していることを条件に、その補完としてパワークラウドを位置づけるもの、ローカルな蓄電池をパワークラウドの提供者から購入する場合に、その利用を可能とするもの、さらにローカルな蓄電池を必要とせずパワークラウドの利用を可能にするものなど様々である(ただし、大手のSenec、E.ON、LichtBlick、E3/DC等のパワークラウドでは自社または指定するローカルな蓄電池の設置を求めている)。

注意を要するのは、余剰電力をクラウドに保管するとは、物的な貯蔵を意味しているわけではないということである。実態は、余剰電力は、系統に注入されるだけである。引き出しも物的に保管されていた電力を使うわけではない。系統からの電力を消費するだけである。しかも、多くの事業者は、保管料を徴収する。そのため、PV設備の運営者は、つぎのような疑問に直面する。すなわち、余剰電力を固定価格買取制度の下で電力会社に売却し、その対価を得るとともに、必要な時に電力を購入するほうがパワークラウドを利用するよりも安いのではないのかという疑問である。

実際、パワークラウドの最大手Senec の最新のプロダクトであるSenec Cloud 3.0についてのいくつかの評価を見ると、パワークラウドの利用はより高価であるとの結論が出ている(2024年時点)。パワークラウドの利用者にとってのコストは、事業者に支払う保管料に固定価格買取制度の下で電力会社に売却していたら得られたであろう収益を加えたものである。これに対して、パワークラウドを利用しないPV設備の運用者にとってのコストは、必要な時に電力を購入するコストから固定価格買取制度の下で電力会社に売却した収益を差し引いたものである。年間の引き出し量2,000kWhのケースでコスト比較をすると、前者は726€であるのに対して後者は528€と計算され、後者のコストのほうが低い(Zolar、2024年11月1日)。

パワークラウドの評価でとくに問題視されているのは、契約条件が複雑であるとか、保管料を求める場合、その設定根拠が明らかでないという透明性の欠如である。そのため、消費者のレビューサイト(Ttustpilot)では、Senec社に対しての厳しい評価も多い(2023~2024年)。ドイツにおける消費者団体の全国組織である vzbv(Der Verbraucherzentrale Bundesverband)も、PV設備の運営者にとって、必要な電力を安価なグリーン電力の供給者から購入するほうが安くつくとしてパワークラウドの利用は価値がないと断じている( 2024年10月24日)。ドイツにおけるパワークラウドは未だに発展途上にあるといえるだろう。


【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

統合的なトランジションの推進提言へ 産学協創フォーラムを開催


【日立東大ラボ】

東京大学と日立製作所による「日立東大ラボ」は1月10日、カーボンニュートラル(CN)社会へのエネルギー転換について意見を交わす産学協創フォーラム「Society5.0 を支えるエネルギーシステムの実現に向けて」を開催した。

約630人が専門家らの意見に耳を傾けた

同ラボは2018年以降毎年度、電力システムを巡る提言書を発刊、これまで第6版まで重ねてきた。そして今春には、日本を取り巻く情勢変化を反映した、CNにとどまらない、社会・地域・産業を包括的にとらえた「統合的トランジション」の推進を提言として盛り込んだ第7版の発刊を予定している。

提言書の概要について解説した日立の楠見尚弘・研究開発グループサステナビリティ研究統括本部長は、「イノベーションが実装できなければ、40年に1・4兆~2・2兆円のエネルギーコスト増が見込まれる」との危機感を強調。技術イノベーションを起こし社会実装することの重要性に加え、CNだけでなく生物多様性や地方創生、防災など他の社会課題との統合的なトランジションを進めるべく、社会システムの転換を促す政策づくりの必要性を訴えた。


脱炭素電源投資促せるか 官民の役割で意見を交わす

その後、「グリーン変革の新たなフェーズにおける日本」「エネルギートランジション~デジタル活用で創る発展的カーボンニュートラル社会」と題した二つのパネルディスカッションが行われ、学識者や有識者、資源エネルギー庁関係者が登壇した。

「エネルギートランジション」のセッションではエネ庁の筑紫正宏・エネ庁電力基盤整備課長が、CN社会を支える脱炭素電源投資の在り方に触れ、「PPA(電力販売契約)などを通じて長期で取引されることが大事。それでも取り切れないリスクを制度でどう手当てするかが課題だ」と述べた。これに対し東大の大橋弘副学長は、「電源の社会的な意義が変わると事業者が困る。政策当局が長期でスタンスを変えないことが重要であり、その上での採算性の話だ」と注文を付けた。

産業GXに向けたエネルギーシステムの構築に言及した日立の山田竜也・エネルギー営業統括本部営業企画・国際本部担当本部長は、「需要家の脱炭素電源ニーズが高まっている。発電・送配電・産業集積の統合計画を策定し予見性を高めることが必要」との認識を示した。

新エネ基の明確な「メッセージ」 投資促す「シグナル」になるか


【脱炭素時代の経済評論 Vol.11】関口博之 /経済ジャーナリスト

政府がほぼ3年に一度見直すエネルギー基本計画の改定案が公表された。第7次エネ基に込められた「メッセージ」はかなり明確だったのではないか。生成AIの普及、データセンターの増設などで電力需要が増えることを見込み、それに見合う脱炭素電源の確保を掲げた。再生可能エネルギーと原子力発電を脱炭素電源と捉え「最大限活用」するとした。現計画での「原発依存度を可能な限り削減」との表現を削除したのも大きな転換だ。電源構成比率の細かい数字にこだわるのではなく、大局的に脱炭素電源への投資を促す「メッセージ」になっている。

ただそれが関連産業に投資の決断をさせるに足る「シグナル」になっているかは別問題だ。例えば原発の新増設。新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉(主に想定するのは革新軽水炉)の開発設置に取り組むとし、これまでは廃炉原発の同一敷地内としていた建て替えを同じ事業者の別の原発敷地でも認めると緩和した。方向性は示されたものの、現状、原発事業者自身によるリプレース計画が不在な中、新増設への〝ひと押し〟が見えてこない。

「投資」の観点でエネ基を見ると……

エネ基改定に関わる経済産業省の審議会で議論になったのが、期間が長期にわたり投資回収リスクもある原発の事業環境整備だ。投資規模の大きさ、インフレなどによる費用の増大、将来的な電力収入の不確実性などで事業者が投資を躊躇する懸念があるとされた。「事業者が投資の意思決定と十分な資金調達をできるような環境を整えることが必要」「リスクは発電事業者だけが担うのでなく国・メーカー・投資家や金融機関、需要家などが分担すべき」などの声が出た。エネ基の原案では「脱炭素電源への投資回収の予見性を高める」ことはうたわれたが、まだ様子見という新増設の状況は変わらないのではないか。具体的な制度作りが急がれる。

投資を促していく上で、原発の長期の見通しを明確にすべきという議論もあった。発電事業者のみならず、立地地域、サプライチェーン、金融機関などさまざまなステークホルダーがいる以上、重要な点だ。「2040年以降の長期にわたり原発の設備容量をどの程度維持していくのか目標を設定」「例えば2000万、3000万kW規模の維持を目指すといった記載を」―といった指摘が出たものの結局、原案には盛り込まれていない。

対照的なのがペロブスカイト太陽電池への積極姿勢。エネ基の原案にも「40年までに20‌GW」の目標が盛り込まれ、記述の具体度は突出している感がある。過去に太陽光発電の普及で中国に遅れた反省を踏まえ、早期の社会実装を掲げる。国のグリーンイノベーション基金を活用し、25年に1kW時当たり20円、30年に14円、40年に10~14円以下を目指して量産技術を確立するとした。業界にはまさにGOの「シグナル」になるだろう。

新エネルギー基本計画もあくまで起点だ。脱炭素化への道筋は一つでなく選択肢は多様でいい。さらに環境変化も次々と起こるだろう。国が的確に「シグナル」を発し続けること、企業はそれを見逃さず必要な投資を続けること、そうしてはるかな道を登り切る覚悟がいる。


・【脱炭素時代の経済評論 Vol.01】ブルーカーボンとバイオ炭 熱海市の生きた教材から学ぶ

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.02】国内初の水素商用供給 「晴海フラッグ」で開始

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.03】エネルギー環境分野の技術革新 早期に成果を刈り取り再投資へ

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.04】欧州で普及するバイオプロパン 「グリーンLPG」の候補か

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.05】小売り全面自由化の必然? 大手電力の「地域主義」回帰

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.06】「電気運搬船」というアイデア 洋上風力拡大の〝解〟となるか

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.07】インフレ円安で厳しい洋上風力 国の支援策はあるか?

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.08】これも「脱炭素時代」の流れ 高炉跡地が〝先進水素拠点〟に

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.09】割れる世界のLNG需給予測 日本は長期契約をどう取るか

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.10】開発機運高まる核融合 「産業化」目指す日本の強み

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せきぐち・ひろゆき 経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

途上国中心に旺盛な需要 2025年の一般炭市場を展望


【マーケットの潮流】高橋禎明/日本エネルギー経済研究所 石炭グループマネージャー 研究主幹

テーマ:一般炭の市場動向

3年前のロシア・ウクライナ戦争勃発を機に、一般炭価格は一時異様な高騰を見せた。

足元では落ち着いてると思われる市場・価格の今後の動向は。専門家の見解を紹介する。

2024年の世界の石炭需要は、前年より増加し87・7億tと過去最高になると見られている。ただし、需要が増加する国と減少する国の差が顕著となり、中国・インドをはじめとしたアジア新興国で増加する一方、欧州・米国・日韓台などでは減少傾向となっている。コロナの影響を除くと、近年の世界の石炭需要は地球温暖化対策が進められているにもかかわらず増加が続いており、この傾向はしばらく変わらないと予測する。

背景としては中・印での需要増が最大要因と考える。2大国は近代化と経済成長をけん引するために電力を要し、石炭火力が重要な役割を果たしているからにほかならない。両国には豊富な石炭資源が国内に賦存しており、安定かつ安価に利用できる環境にある。このことが、エネルギー安全保障とコストの両面から石炭利用拡大に大きなモチベーションとして働いていると考えるのが自然だろう。

一般炭のFOB価格推移
出所:gC NEWC index , globalCOAL , a division of Global Commodities Holdings Limited


中印の国内供給量が拡大 輸出国の生産も足元安定

石炭は基本的に世界に広く賦存しており、地産地消で必要な量だけ生産し消費してきた。両国とも、国内需要を国内炭供給で満たすことが基本だが、足元では伸びる需要に対して国内炭の供給が追いついていない。もちろん、両国政府は国内炭増産政策を推進しており、今後もこの対応を強化するとしている。一方で供給不足が顕在化しており、需給ギャップを輸入炭で補うことで対応している。背に腹は代えられないというわけだ。結果、24年の需給バランスは、中国では国内炭生産47億t超に対し、需要は50億t程度、つまり約3億tの不足を輸入炭でしのいでいることになる。なお実際の輸入量は4億tを超える。インドでも国内炭生産量11億t超に対し、需要が13億t程度と約2億tの不足が発生し、2億t超の輸入炭で対応している。

25年の需給バランスはというと両国の増産強化策が軌道に乗り始め、国内炭供給量が拡大し、需要量伸長に徐々に追いつくだろう。つまり、中国は国内経済の減速とも相まって、輸入量は前年対比で減少または横ばいに、インドは国内経済が引き続き堅調に推移すると見られることから、前年対比で微増もしくは横ばいと輸入量の増加が抑えられると考える。世界の石炭貿易で大きな影響力を持つ両国動向を前述のように仮定すれば、今年の一般炭輸入貿易量は前年対比で横ばいから微減と予測できる。すなわち、中・印がけん引し世界の一般炭需要は増加を続けるが、2大国の輸入量は伸びず、また先進国の需要減もあり、貿易量は増加しない可能性があるということである。

供給網強靭化に向け巨額投資 コスト低減で次世代太陽電池を促進


【積水化学工業】

昨年度には政府による補助制度がスタートするなど、次世代の太陽電池として期待されるペロブスカイト(PSC)の導入拡大への機運が盛り上がる中、積水化学工業は、「PSC量産体制の確立」に乗り出している。

昨年11月、資源エネルギー庁が示した2030年までに1GW(1GW=100万kW)、40年までには20‌GWという導入目標の達成に向け、同社は「早期のGW級供給体制の構築をリードしていく」(加藤敬太社長)方針を発表。まずは27年度内に100MW(1MW=1000kW)級の製造ラインの稼働開始を目指す。

加藤社長(左)と上脇専務執行役員(右)

その拠点となるのが、昨年末に約250億円で買収したシャープの堺工場(堺市)だ。現在、同工場内に100MW級の製造ラインを建設中で、この第一生産ラインの設備投資にさらに750億円を投じる。「かつてない規模感とスピードでPSC事業を推進する」と加藤社長が意気込むように、その後も第二・第三ラインを増設する予定で、総経費は3145億円に上り、半分は補助金で賄う見込みだ。


知見生かした技術開発 政府銀と新会社設立

同社は、技術面においても優位性を確保している。具体的には、液晶パネルの研究開発で培った封止技術や、基材をロール状にして加工するロール・ツー・ロール方式を採用。これにより15%の発電効率と10年相当の耐久性を備えた30㎝幅PSCの生産効率化を実現した。今年度中には、幅1m化と20年相当の耐久性を、30年までには発電効率を18%まで引き上げることを目標に掲げるなど、さらなる技術向上に余念がない。

PSCの普及に関して、PVプロジェクトヘッドの森田健晴氏は「課題は発電コストの低減。早期にGW級の供給を実現し量産化が進めば、1kW時当たりの発電コストを14~20円に抑えることが可能になる。これは現在主流のシリコン型との価格競争でも勝機がうかがえる数値だ」と説明。続けて、「原料であるヨウ素の安価さと、独自のリサイクル技術を活用し、一層のコスト低減を目指す」と述べ、課題解決への熱意を示した。

1月6日には日本政策投資銀行と共同で積水ソーラーフィルム(大阪市北区)を設立。新会社は積水化学からライセンスを受け、設計・製造・販売を担う。同社は、他社の出資の受け入れを検討する方針で、新会社の社長に就任した上脇太氏は供給網の強靭化に向けて「オールジャパンで取り組んでいく」構えだ。太陽光発電を照らす新たな可能性の光は、もう見え始めている。

エネ基とはそもそも何なのか 源構成ばかりに注目は問題だ


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

第7次エネルギー基本計画の原案が公開された。2019年に出した拙著『エネルギー政策は国家なり』で、私は従来のエネルギー基本計画が電源構成にばかり注目が集まる中で、そこに重点は置かず技術革新とファイナンスに注目している日下部聡・資源エネルギー庁長官の下での第5次エネ基を高く評価した。

今回の第7次エネ基では、技術革新に関する記述は薄いものの、「再生可能エネルギーか原子力かといった二項対立的な議論ではなく、再生可能エネルギーと原子力をともに最大限活用しくことが極めて重要」として、「脱炭素電源への投資回収の予見性を高め、事業者の新たな投資を促進し、電力の脱炭素化と安定供給を実現するため、事業期間中の市場環境の変化等に伴う収入・費用の変動に対応できるような制度措置や市場環境を整備する」「様々な電気事業の制度見直しと併せ、民間資金を最大限活用する形で、電力分野における必要な投資資金を安定的に確保していくためのファイナンス環境の整備に取り組む必要がある」などと明記。拙著での主張に極めて近いことが書かれており、一定の評価をしたい。


電源構成は別添資料 骨太の政策体系が必要

一方、メディアの報道ぶりは〈「原発依存」は続かない(東京新聞)〉〈「原発依存度低減堅持を(朝日新聞)」〈脱炭素には原発活用が必要だ(読売新聞)〉など、エネルギー需給の見通しにおける40年の電源構成に注目したものばかりだ。この「需給の見通し」は基本計画そのものではなく、あくまで別添の関連資料に過ぎない。エネルギー基本計画は02年に制定されたエネルギー政策基本法に基づいて策定される。

同法は、電力・ガスの自由化やシステム改革が進む中で、原子力推進などへの公的関与がなくなっていくことを危ぐする業界側からの声によって議員立法で制定された。

一方、ここでいくら電源構成の目標や見通しを定めてみたところで、その実現を担保する政策手段は存在しない。電力システム改革が実現した中において、かつての地域独占の公益事業として電力会社が供給計画を作り、それに見合った資金を開銀などの政府系金融機関が供給し、認可料金によってそれらを回収するなどということはあり得ないからだ。

そうであればこそ、エネ基は電源構成ばかりに注目が集まるようなものではなく、現下の複雑で不透明な国際情勢の中、中長期的なわが国のエネルギー需給構造の見通しを示し、その実現に向けた制度的な環境整備や技術開発の基本方針、ファイナンス環境の整備などの骨太な政策体系を定めるものにすべきだ。

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ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

【フラッシュニュース】注目の「政策・ビジネス」情報(2025年2月号)


NEWS 01:知多7・8号機を共同開発 JERAと東邦ガスが合意

火力縮小に歯止めがかかる流れにつながるか―。JERAが進めていた知多火力(愛知県知多市)7・8号機建設計画について、昨年末、東邦ガスとの共同開発に合意したと発表した。両者は知多地区でのLNG基地の共同運用などの実績があり、業界の垣根を越えたアライアンスを検討。競争力の高い最新鋭LNG火力建設に関してニーズが合致し、合意に至ったという。

7・8号機の完成予想図
提供:JERA

発電効率世界最高水準の設備を計約132万kW建設。7号機は2029年10月、8号機は30年1月の運開を予定する。合弁会社への出資比率は、JERAが75%、東邦ガスが25%となる。JERAは「電力自由化、市場制度の動向や省エネ法への対応など、電力業界を取り巻く事業環境の変化を踏まえると、共同事業を行うことで、事業リスクの低減と大規模な電源開発による規模の経済のメリットが得られると考えている」。東邦ガスは「JERAの発電事業者としての高いシェアに基づく知見の活用に期待している」とコメントしている。

エネ基では、脱炭素技術の進展があまり進まない場合の「リスクシナリオ」で「40年の天然ガスの一次エネルギー供給量は7400万t」と目安を示した。とはいえ需給や電源構成の内容には幅があり、火力の内訳も示されず。予見可能性が低い中、今回のような事業者連携が今後トレンドとなるのだろうか。


NEWS 02:電力大手4社が参画意向も HVDC事業化に暗雲

北海道・本州間の日本海側の海底に、国内初の大規模高圧直流送電(HVDC)を整備するという一大プロジェクトに、早くも暗雲が垂れ込めている。

昨年末までに、北海道電力ネットワーク(NW)、東北電力NW、東京電力パワーグリッド、電源開発送変電NWの4社連合が、事業実施主体となるべく応募意思を表明した。だが、資機材高騰を背景に資金調達規模が膨らみ、未確定の要素もあることから、実施案提出に向けては「十分な事業性の確立やリスクを見積る必要がある」として、場合によっては「辞退もあり得る」という条件を付けたのだ。

洋上風力の導入が見込まれる北海道、東北エリアと大消費地である東京エリアを結ぶHVDCは、2050年カーボンニュ―トラル社会実現への切り札とされる。だがただでさえ、概算工事費は1・5兆~1・8兆円と試算され莫大。インフレ傾向が続けば、これがさらに膨れ上がる可能性は大きい。いざという時に退路が断たれたままでは、企業の存続にかかわりかねない。

実施主体となれば、SPC(特別目的会社)を組成し送電事業ライセンスを新たに取得する。そして、北海道北部風力送電がそうであるように、再生可能エネルギー事業者などとの相対契約をベースに収益を上げるのが本来の姿だ。にもかかわらず「政府はHVDCがまるで既存の電力網と一体であるかのように低い事業報酬率での実施を求めていて、ビジネスとして成り立つわけがない」(エネルギー業界関係者)。

データセンターや半導体工場など新たな電力需要が再エネ適地で創出されようとしている今は、国が計画策定プロセスの開始を要請した22年7月当時とは状況が全く変わってしまった。実情に合わせ、再考する時だ。


NEWS 03:燃料費補助縮小で消費者困惑 省エネ促進策への転換必要

ガソリンなどの燃料油価格の上昇を抑制する補助金が昨年12月から段階的に縮小されたことを巡り、利用者に困惑が広まっている。1ℓ当たり175円程度で推移していたガソリン平均価格が、補助縮小によって10円程度値上がりしているからだ。

補助金を巡っては、原油価格高騰が国民生活や経済活動に与える影響を最小化する激変緩和措置として、2022年1月に導入され、段階的に縮小されながら延長してきた。経済産業省によると、1月中旬時点で補助がなければ、ガソリン平均価格は197円程度で、効果はおよそ17円。一方で、計上した予算は累計8兆円に達し、財政的な負担が大きい。国が価格を一定水準に抑え込むことは市場機能をゆがめ、脱炭素に逆行するとの批判も根強い。

移動に車が必須な地方在住者ほど、今回の縮小には否定的な意見が目立つ。その代替策となるのが、国民民主党が公約に掲げきたガソリン暫定税率の廃止だ。昨年12月、自民、公明、国民民主の3党が合意したものの、実施時期をはじめ具体策は未定のままで、出口戦略として機能するかは不透明だ。

他方、電気・ガス料金に対する補助金は3月使用分で終了予定だが、夏の需要期を前に参院選が予定されており、三度目の復活も否定できない。

「政府が取り組むべきは、価格補助の延長や復活ではなく、自動車などエネルギー利用機器における省エネ型への買い替え促進策の強化だ。来年度予算にも計上されているが、補正などを通じ、それを一段と手厚くする施策が求められている」(エネルギー関係者)。

選挙対策的な単なる金のバラマキではなく、持続可能な社会づくりに貢献する政策こそが王道だ。


NEWS 04:洋上風力第3弾が結果発表 丸紅と東ガスがようやく落札

ここ数年、年の瀬の恒例行事が洋上風力公募の結果発表だ。クリスマスイブに示された今回の第3ラウンドは、青森県沖日本海(南側)と山形県遊佐町沖が舞台に。FIP基準価格が1kW時当たり3円の「ゼロプレミアム」の鉄則が踏襲され、運開時期も横並びになる中、地域との調整点や事業の実施能力で差が付いた。

第3ラウンドは初落札組が名を連ねた

青森県沖の勝者は、JERAが代表を務め、グリーンパワーインベストメント、東北電力のコンソーシアム。国内調達率を最大限高めた風車モデルをアピールし、事業全体で85%、風車単体で40%(一般は5%以下)を掲げる。風車はシーメンスガメサ製で、同社と国内企業とのマッチング、産業発展などで1・6兆円の経済波及効果、9・5万人の雇用創出を見込む。

一方、山形は丸紅を代表に、関西電力、BP、東京ガス、丸高の連合軍が勝利。こちらも地域共生の取り組みなどが評価され、海面漁業、内水面漁業、地域の多様な領域で振興策を講じる構えだ。3度目の正直で落札に至った丸紅や東ガスは、これで一安心といったところか。ただ、第2ラウンドまでの事業者が苦労するインフレなどに伴う諸課題に、いよいよ直面することとなる。

そして2海域にはそれぞれ、洋上の事業統合を発表したJERAとBPが入った。今後調整が行われるかどうかも注目点だ。(覆面座談会に関連記事)

エアコン選びに役立つ支援ツール 簡単入力で最適な機器容量を提案


【電力中央研究所】

エアコン選定で広く用いられる畳数目安は、過大な冷暖房能力を選択してしまう課題がある。

設置部屋の条件から最適な容量を提案できる選定支援ツールで、省エネと利便性の向上を支援する。

エアコンの最適な容量(kW)は部屋の広さだけでは決められない。利用者の居住地域や階数なども考慮する必要があるが、自分で調べるのは手間がかかる。そこで、電力中央研究所が開発したのが「エアコン選定支援ツール(ASST)」だ。スマホやPCで手軽に利用でき、入力した情報を基に最適な容量を提案してくれる。2024年度省エネ大賞(省エネルギーセンター主催)の製品・ビジネスモデル部門で審査委員会特別賞を受賞した。

開発者の安岡氏(右)と上野氏


60年前の住宅仕様を想定 畳数目安の課題浮き彫りに

ASSTは地域や住宅特性、自身のライフスタイルに関する質問に答える形式を採用している。省CO2や立ち上がり性能、コストといった利用者がエアコン選びで重視するポイントも考慮し選定できる点が特徴だ。

所要時間はわずか3分ほどと、手短に利用できる点も魅力の一つ。条件を入力すると、普及型モデルと高機能モデルの二種類から、最適な機器容量が提案される。畳数を目安とする従来の選定方法に比べ約16%の消費電力削減効果が見込まれている。

カタログや店頭に掲示されているポップなどで広く用いられてきた畳数目安は、過大な冷暖房能力を選択してしまう点や、情報収集に労力を要するといった課題があった。こうした背景から新たな選定手法の開発が12年に始まった。家庭の消費電力量に占めるエアコンの割合が増加する中、ツールを用いた省エネ対策へとつなげることが狙い。開発者の一人であるグリッドイノベーション研究本部ENIC研究部門の安岡絢子主任研究員は、「省エネと利便性の向上に寄与することを目指した」と、ツールの意義を説明する。

開発に当たりまずは、主流である畳数目安の基準や規格に関する文献調査を実施するとともに、メーカーや家電量販店を対象に、消費者への提案方法についての聞き取り調査を行い、課題を抽出した。

文献調査では、畳数目安の基となる冷暖房負荷価値が1964年に制定されて以降、一度も改定されていないことを確認。当時の住宅仕様を想定しているため、断熱機能などが向上した現代の住宅性能に適さないことが明らかになった。

聞き取り調査では、各家庭の住宅仕様やライフスタイルの多様性を考慮することは難しく、大きめの冷暖房能力を持つ機種が推奨される傾向があることが分かった。他にも、利用者が合理的かつ簡単に選定できる仕組みが見当たらないことや、利用者の生活の実情と乖離した使用電力量を表示しているなどの課題が浮き彫りとなった。

こうした課題を踏まえ、同研究所でもともと開発されていた二つのシミュレーションツールを活用することに。「当初は選定方法に関するガイドブックの作成も検討したが、最終的には利便性などを重視してツールを開発した」(安岡氏)

脱炭素電源で新たな産業集積へ 「失われた30年」脱却なるか


【論説室の窓】宮崎 誠/読売新聞 論説委員

第7次エネ基の原案に再エネと原発を最大限活用する方針が明記された。

両電源の周辺に企業の投資を呼び込み、経済成長の原動力とすべきだ。

「脱炭素電源が豊富な地域に企業の投資を呼び込み、新たな産業の集積を目指す」―。

石破茂首相は昨年12月26日、東京都内での講演会で、新たな産業政策の目標を示した。この発言に込められているのは、脱炭素分野への投資を促進させ、30年にわたる経済停滞から脱却するための大きなチャンスにするという狙いだ。

エネルギーの主役の座が入れ替われば、産業構造も変わる。

1962年に原油の輸入が自由化され、発電燃料は石炭から石油へと移行していった。この年に石油が国内のエネルギー供給で初めて石炭を上回り、73年には1次エネルギーの8割近くを占めるようになる。

産業振興の呼び水も担う再エネ

こうした「エネルギー革命」に連動して太平洋ベルト地帯に重厚長大型の産業が集積し、昭和時代の経済成長をけん引した。臨海部に展開された火力発電所に隣接して工場群が形成され、効率的に石油が生み出すエネルギーを活用したことが成長の原動力になったと言えるだろう。

一方、令和の今、新たなエネルギー革命が大きく加速しようとしている。

政府が昨年12月に発表した第7次エネルギー基本計画の原案は、2040年度の電源構成として、再生可能エネルギーを4~5割、原子力を2割とし、両者を合わせて、脱炭素電源を6~7割へと高める目標を掲げた。

これに適応する形で、令和型の産業集積を図っていくことが求められる。具体的には、電力を大量に使用するデータセンターや大規模な半導体工場のほか、人工知能(AI)やロボット技術を活用する生産拠点などが想定されよう。

脱炭素電源の周辺に産業立地を集約していけば、送配電網の整備コストが削減できる。地方経済への波及効果も大きい。

政府は電気料金の負担軽減策などを講じて、効率的な立地を誘導してほしい。


巨大テック企業が存在感 環境経営で外圧が高まる

脱炭素電源の拡大は環境政策ではなく、産業政策と位置付けられる。特に、多くの企業が、脱炭素エネルギーに対して、旺盛な需要意欲を示している状況に対応すべきだ。

米アマゾン・ドット・コムは昨年7月、青森県六ヶ所村の陸上風力発電所と、山口県下松市の大規模太陽光発電所への投資を発表した。

これにより、アマゾンが日本で参画する再エネのプロジェクトは計20件となり、「世界だけでなく日本においても最大の再生可能エネルギー購入企業であることが確認されました」とアピールしている。

【覆面ホンネ座談会】GXの2大看板に暗雲 洋上風力・水素の裏事情


テーマ:洋上風力と水素事業の課題

GX(グリーントランスフォーメーション)の目玉である洋上風力、そして水素関連事業の動向が芳しくない。しかし政府は引き続き巨額投資を続ける方針で……。

〈出席者〉Aメーカー関係者 Bメディア関係者 C有識者

―洋上風力で日本は欧米の後塵を拝したと言われるが、欧米でも黄信号が灯り始めた。

A トランプ米大統領は任期中、主に洋上風力の新設を認めない方針だ。GEは昨年末に洋上風力向けタービンの新規受注を凍結すると報じられており、日本の事業にどう影響するのか。また、3~4年前は欧州各地や米国、豪州や台湾などで開発が活況だったが、足元2年ほどで停滞感が強まり、特に台湾は国内サプライチェーンの重視がコストで裏目に出た。日本は今後本格的な事業化フェーズに入るが、発電コスト低減に向け、市場停滞で余力が生まれる海外の供給力活用を含めてサプライチェーンをどう構築するのか、改めて問われているのではないか。

B 陸上風力の話だが、中近東での開発に関わる日本の関係者が面白いことを言っていた。実は中国のブレードは、価格はもちろん性能も一番優れていて、本来であれば採用したいという。英フィナンシャル・タイムズは、スウェーデン政府が巨額投資したEV用電池企業・ノースボルトの経営破綻を「欧州の夢が絶たれた」と報じたが、洋上もこうした状況になりつつある。

A 中国製の性能は全くそん色なく、数年前時点でも欧米製より3~4割安かった。もともと中国勢は欧州の設計を買って真似ることから始めている。さらに国内向け生産量が膨大で学習効果が高く、性能がどんどん高まるサイクルができ、その上激しい国内競争にさらされているメーカーに他国はかなわない。

C 中国メーカーを十把一からげにはできない。事業者目線で重要なのは結局バンカブルがどうか。レンダーの技術審査をクリアした中国製が浸透していくのは必然の流れだ。

A 日本国内でも中国製風車を採用したいとの声は多い。富山県入善町沖では、既に中国ミンヤン製の風車を使った洋上風力設備が稼働している。同事業はウインドファーム認証などの許認可手続き面を含め業界の注目を集めたが、稼働の事実はエポックメーキングだ。

トランジションで「LNG頼み」の期間がますます長引くのか……


国内どの地点も課題山積 R3は予想通りの結果

―国内について、特に第2ラウンド(R2)は政治判断で運転開始時期を重視するなどルールが変更されたが、進ちょくはどうか。

B 今は岐路に差し掛かっている。あおったのは政府だ。電力・ガス自由化によく似た構図。政府が主導権を握りたいというだけで、目的に哲学はなくパッチワーク。事業者にとってはたまらない。

R2で一番進んでいるのはJERAの秋田・潟上沖だ。スケジュール的には今のところ順調で1月から陸上工事が始まる予定だが、採算状況は多分に漏れずかなり悪い。他方、新潟は陸上工事、特にグリッドなどを巡りゼネコンは採算が合わないと引き受けず、下請けが捕まらないなどの事情があると聞く。いずれもスケジュールが守られるのか不透明だ。

C 競争をするのは安価な再エネ電気の恩恵が最終的に国民や産業にもたらされるためだ。R1で三菱商事の総取りが良くないとの一部事業者の声に対し、電力多消費産業からは「電力価格が安ければ良い」との声が多かった。結局、FIT(固定価格買い取り)の「利潤配慮」の恩恵を受けてきた一部事業者が価格競争の回避を志向し、そして政策変更のタイミングでインフレが襲来した。

A R1では最初に運開予定の千葉・銚子が試金石だ。地元関係者との協議がかんばしくなく、千葉県庁と資源エネルギー庁の関係もうまくいっていないと聞く。また、秋田・由利本荘では具体的な課題が聞こえてくる。例えば、陸上連系変電所までの送電線は長距離の国道縦断を計画していた模様だが、元より許可を得ることは困難で、計画変更に伴うコスト増や工程見直しは避けられないだろう。

B イベルドローラが日本の事業から撤退するかもという話も聞く。やはりコスト上の理由のようだ。

A 昨年末結果が公表されたR3では、イベルドローラがコスモの陣営から抜け、結果コスモの洋上撤退につながった。

【イニシャルニュース 】参院選新潟は女の戦い W氏に迫りくる危機


参院選新潟は女の戦い W氏に迫りくる危機

田中角栄の影響で群馬県や島根県のような「保守王国」と誤解されやすい新潟県。だがかつては農民運動が盛んで、革新系が強い土地柄だ。保守系は第2次安倍政権時代にやや盛り返したが、昨年の衆院選で自民党が県内5選挙区で全滅。角栄の威光は見る影もない。

さて今夏の参院選。新潟県は勝敗のカギを握る1人区だ。3年前の参院選では自民党の小林一大氏が立憲民主党の森ゆうこ氏との接戦を制したが、今回も一筋縄ではいかない。

自民党県連は昨年9月、2000年のシドニー五輪競泳メダリストの中村真衣氏を公認した。年末に選対本部を立ち上げるなど急ピッチで準備が進む。同氏は県民栄誉賞を受賞するなど県内での知名度は抜群。「実際に会ってみたが、とてもいい人。明るくて声が大きく政治家向き」(自民党関係者)と評判は悪くない。しかし公認の経緯から、党内ではあつれきが生じているという。

参院選の行方に注目の新潟県

ある県議が打ち明ける。「選対本部ができたものの、司令塔は不在。なかなか中村氏を支えようという動きが出てこない。政策的な話を聞かれた時にどう答えたらいいか分からず、本人は困っている。問答集などがあればいいが、誰も作ろうとしない」

公募では、本来なら候補者選びを取り仕切る立場の佐藤信秋県連会長が事実上落選した。同氏は全国比例で3度の当選を誇り、官僚時代には国土交通事務次官を務めた大物だ。温厚な性格で同僚議員からの信頼も厚く、柏崎刈羽原発の避難道路整備を巡っても重要な役割を果たしたとされる。だが選挙区で勝てるかどうかは心もとなかった。77歳という年齢に加えて、相手は若手で勢いのある立憲民主党の打越さくら氏だ。

そこで前衆議院議員のW氏が「勝てる候補」として送り込んだのが中村氏だった。最終的に佐藤氏が応募を撤回し、「全会一致」で中村氏の公認を決定。打越対中村の構図が出来上がった。ただW氏は旧民主党出身で、古くからの自民党支持者にとっては旧敵。「素直に応援できない」という関係者もいると聞く。

そんなW氏に追い打ちをかける出来事があった。昨年の衆院選である。W氏は小選挙区で惨敗。比例復活も叶わなかった。週刊誌では「資金不足」も取り沙汰されており、中村氏が参院選で落選すれば求心力のさらなる低下は必至。次回衆院選で2回連続の敗戦を喫すれば、政治生命をも断ち切られかねない。

「総力結集」―。角栄が作ったとされる造語だ。果たして県連は「一度決めたらまとまる」という自民党の強みを発揮できるか。


CNの旗降ろさずも 翻弄される業界の本音

昨年末、第7次エネルギー基本計画の素案が公表された。GXビジョン2040と合わせ、今後、脱炭素社会と産業振興の両立を目指していくための重要な指針として、エネルギー業界のみならず産業界全体から大きな注目を浴びている。

第7次は、カーボンニュートラル(CN)達成への野心的目標を掲げた第6次とは違い、ロシア・ウクライナ危機後の「安定供給」や「経済安全保障」への要請を受け、「現実路線」が強調されている。とはいえ、CNの旗を降ろしたわけではなく、その実現にはさまざまなハードルが待ち構えているだろう。

足元では、「人件費や資材費の高騰を受け、洋上風力や海底直流送電の整備事業など、GXの目玉プロジェクトは、いずれも民間企業が投資判断できるようなものではなくなっている」(電力業界のX氏)。それでも「補助金が出る限りは、政策にお付き合いせざるを得ない」(エネルギー大手のZ氏)というのが、業界の本音のようだ。

世界を眺めても、CN一辺倒だった一時期と比べると、化石燃料への揺り戻しの動きが目立つ。気候変動対策に後ろ向きのトランプ第2次政権がスタートしたことが、これにどう影響を与えるのか。

とはいえ、GX予算20兆円を引っ張ってきたエネ庁幹部のH氏は、次の次の経済産業事務次官候補の最右翼。「そうなると、日本は少なくともあと4年はCNの旗を降ろせないだろう」と、前出のX氏。

エネルギーを巡る国際情勢の不確実性が増す中、官民が同じ方向を向いて正しい手段を採れるかが、産業立国・日本を再興する鍵となることは間違いない。

LNG設備の大型投資続くか 北ガスが苫小牧で基地新設を検討


昨年11月、西部ガスがひびきLNG基地(北九州市)における3号タンク(23万㎘)の増設を投資決定したのに続き、今年1月には北海道ガスが、将来の水素・e―メタン導入を見据えた新たなLNG基地を苫小牧地区に建設する方向で検討に着手したと発表した。

外航船受け入れ設備やLNGタンク、気化器、内航船・ローリー出荷設備のほか、水素・e―メタン活用設備を導入し、GX(グリーントランスフォーメーション)を推進するカーボンニュートラル(CN)拠点としての整備を目指す。タンク容量や運用開始時期などの詳細を検討し、2025年度中に決定する方針だ。

LNGタンク新設を検討する苫小牧港
提供:北海道ガス

北海道は国内随一の再生可能エネルギーポテンシャルを有している。その利点を生かし苫小牧地区は、グリーン水素やアンモニア、e―メタンといったエネルギーインフラが集約され、GX推進の一大拠点として機能を果たすことが期待されている。

北ガスにとっては、石狩基地に次ぐ外航船を受け入れる1次基地ともなる。このため学識者の一人は「自前で複数のLNG基地を持つことで、定義上、東京・大阪・東邦ガスと同じ第1グループに属す大手の一角と見なせるようになる」とも言う。

第7次エネルギー基本計画の素案で、現実的なCNを進める上での重要なトランジションエネルギーとして位置付けられたLNG。経済安全保障や成長を損なわない現実的な脱炭素化へその役割が拡大していくことは間違いなく、さらなる大型設備投資の案件が浮上するか、エネルギー業界の関心は高まる。