【エネルギービジネスのリーダー達】一倉健悟/JERA Cross代表取締役社長
最適な電源構成の提案に加え、再エネの調達、運用まで、企業のGXを包括的に支援する。
365日・24時間カーボンフリーな電力の供給も視野に入れ、国内GX市場を拓いていく。
いちくら・けんご 神奈川県川崎市出身。慶応義塾大学理工学研究科を卒業後、東京電力に入社し、国内外の火力発電事業に従事。18年よりJERAでDX室長としてデジタル戦略構築および実行を経てデジタル発電所プロジェクトを推進。23年4月にJERA Crossを設立し、本格運営を牽引。
「国内ナンバー1のGX(グリーントランスフォーメーション)推進企業を目指す」―。企業のGX戦略の立案を支援する「コンサルティング事業」と再生可能エネルギーの調達・運用を担う「マネジメント事業」を展開するJERA Crossの一倉健悟社長は、自社の将来像をこう語る。
同社はJERAグループ全体の脱炭素化を加速させるべく2023年の4月に設立され、翌年の6月より本格始動した。この1年間で映画配給大手の東宝とオフサイトPPA(電力販売契約)を締結し、さらにヤマトグループと再エネ設備の連携・最適活用などに関する基本合意を結ぶなど短期間で実績を積み上げ、企業のGXを一気通貫で支援する体制を着実に築きつつある。
再エネのノウハウ乏しく 拡大見据え新会社を発案
次フェーズの目標として掲げるのが、365日・24時間どの時間帯でもカーボンフリー電力を100%供給する「24/7カーボンフリー」の実現だ。グリーン証書やJクレジットを活用したオフセットが企業の脱炭素戦略の中で一般化しているが、これには、「実際の排出削減効果が限定的」との見方が広がっている。ただ、同社が目指す24/7カーボンフリー電力の供給が実現すれば、単なる帳尻合わせではなく、真に効果のある脱炭素化を進めることができる。現在、ヤマトグループには各拠点に設置した太陽光発電設備の電力を供給しているが、将来的にはこれに加え、24/7カーボンフリー電力を供給する計画だ。
一倉氏は、JERAグループの強みを「大規模電源の開発力・販売力」にあるとしながらも、「再エネなど小規模・分散型電源を顧客ごとに最適な組み合わせを模索して供給するとなると、これまでのやり方が通用しないケースも出てくる」と指摘する。実際、22年にJERAが太陽光発電設備の開発に強みを持つウエストホールディングス(HD)と提携した際は、「再エネ電源の開発はできても、それをどう売り、どう運用していくかといったノウハウが社内に乏しかった」という。
そこで一倉氏は市場調査から商品開発・オペレーションまでを統括し、グループとして再エネ領域に進出する足がかりを築いた。その過程で、再エネ事業の拡大にはよりスピーディに意思決定できる組織作りが不可欠だと痛感し、経営陣に新会社設立を提案。これが23年のJERA Cross設立のきっかけとなった。
これらの一連の実績が評価され、一倉氏は今年7月に代表取締役社長に抜擢された。若干43歳での社長就任となり、グループ内で厚い信頼を得ていることがうかがえる。こうした信頼を積み上げてきた背景には、一倉氏自身の多岐に渡るキャリアがある。大学で熱力学を学んだ後、東京電力HDに入社。火力発電所の現場業務を経て、15年のJERA設立時には東京・中部電力の両社の事業・資産価値の評価を取りまとめた。18年にJERAに入社してからはDX推進、再エネ分野への進出などを主導してきた。未経験の分野でのプロジェクトの立ち上げを任されることも多かったが、徹底的に先行事例を調べ、そのエッセンスを目の前のプロジェクトに落とし込むことで結果を出してきた。新会社設立時も、海外の事業者の事例を参考にしたという。
コミット力で難局打開 国内初のスキームを実現
座右の銘は「明日死ぬかのように生きろ、永遠に生きるのかのように学べ」で、実際、各プロジェクトにアサインして間もないころは、「空いている時間の全てを学習に費やした」という。これまでに幾度なく壁に当たってきたが、「修正点を探りながら、兆しが見えるまで前進し続けてきた」と振り返る。
その姿勢が端的に表れたのが、前述の東宝とのオフサイトPPAの締結だ。袖ケ浦火力発電所(千葉県袖ヶ浦市)構内に設置した水素専焼火力発電設備からゼロエミッション火力による電力を供給するという国内初のスキームを実現させたわけだが、この際も、水素専焼の発電設備の開発、燃料調達先の選定、太陽光設備と組み合わせるためのオペレーションシステムの構築など、課題が山積みだった。それでも暗中模索しながら、目の前の課題を一つひとつ確実にクリアしてきた。
「真にカーボンフリーな電力を供給し、企業のGXを最適化していくための市場はまだ未成熟だ。企業の脱炭素化への技術的課題を解消するのはもちろん、それが企業戦略の最適化につながるようなパッケージを提供し、こちらから相手を突き動かしていく必要がある」と一倉氏は強調する。国内産業のGX市場をけん引する唯一無二の存在となることを目指す同社の挑戦は、まだ始まったばかりだ。