【マーケット情報/4月14日】原油急伸、需給緩和感が台頭


【アーガスメディア=週刊原油概況】

4月8日から14日までの原油価格は、前週から一転し、主要指標が軒並み急伸。需要回復の見通しと、供給の先行き不透明感で、価格が反発した。

中国は、上海における新型ウイルス感染拡大防止策のロックダウンを一部緩和。移動および経済活動の再開と、それにともなう石油製品の需要回復へ、期待が高まった。

また、ロシア産原油の供給不安も価格に対する上方圧力となった。欧州連合は、原油とガスも含め、ロシアのエネルギー輸出に対する追加制裁を検討している。

ただ、現時点では、加盟国間で意見が分かれている状態だ。アイルランドやリトアニアがロシア産原油への規制を促す一方、ルクセンブルグは禁輸措置の効果に疑問を呈している。また、スペインは経済への影響に懸念を示した。

【4月14日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=106.95ドル(前週比8.69ドル高)、ブレント先物(ICE)=111.70ドル(前週比8.92ドル高)、オマーン先物(DME)=105.36ドル(前週比7.54ドル高)、ドバイ現物(Argus)=105.54ドル(前週比7.24ドル高)

ドイツに学ぶエネルギー安全保障


【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

ついにロシアのウクライナ侵攻が始まったが、これにより注目を集めるのがEUのロシアに対する天然ガス依存だ。ウクライナにはその主力供給ルートが通る。EU全体では需要の3分の1、ドイツは2分の1をロシアからの輸入に頼っている。

なぜドイツは戦略物資であるガスのロシア依存をここまで高めたのか。振り返れば、脱ロシアを決断する機会は何度もあった。2009年のロシア・ウクライナ間のガス価格交渉のこじれによる欧州向け供給停止、あるいは14年のロシアによるクリミア半島併合などだ。このときドイツが選択したのは、脱ロシアではなくウクライナのバイパスだ。そして、発電の不安定な再生可能エネルギーを増加させる一方、原子力、石炭火力などを削減してきた。

昨年春の低温、秋の風力不調などの需給変動の多くをガス火力が引き受けることになり、ガスの需給が逼迫したのはそのためだ。この備蓄の難しい、冬場に需要が偏るエネルギーを電力供給の「最後の砦」としてしまった上に供給の大半を危うい国に預けてしまったのだ。

ドイツ人は、ロシアに対して第二次大戦の贖罪意識が強く、冷戦時代から旧ソ連と独自の「平和外交」を築いてきた歴史がある。冷戦を終結させたのも、その経済外交の成果だと思い込んでいる国民が多いとのこと。元首相のシュレーダーがロシアの石油・ガス会社の要職にあるのもこの流れだ。

第一次大戦時、英国が軍艦の燃料をウェールズの石炭から海外の石油に転換したとき、海軍大臣のチャーチルは石油の安定確保に関し “variety and variety alone”(分散,分散に尽きる)と語っている。ちなみにロシアは、今年に入り中国と新たな契約を結び、静かに買い手を確保している。

ドイツが悩む再エネ力不足 エネルギー安保の原点回帰へ


【ワールドワイド/環境】

ロシア軍によるウクライナ侵攻は今後の世界のエネルギー・温暖化政策動向に大きな影響を与えるだろう。とりわけ影響が大きいのはドイツである。

ドイツではメルケル政権下で2023年の脱原発、38年の石炭フェーズアウトを決めた。緑の党の参加を得て昨年12月に発足したショルツ連立政権の下では、総発電量に占める再生可能エネルギーのシェアを30年までに80%に引き上げ、石炭火力のフェーズアウトを30年に前倒しするとの方針が打ち出された。  

変動性再エネのバックアップと閉鎖される原子力、石炭の代替を期待されていたのがロシア産の天然ガスであり、そのための切り札がノルドストリーム2であった。これが稼働すればドイツの対ロシア天然ガス依存度は7割に達する予定であった。

ロシアのウクライナ攻勢の強まりや、米国などからの圧力もあり、さすがにドイツもノルドストリーム2の承認を停止せざるを得なくなった。そこへ今回のロシア軍によるウクライナ侵攻が始まった。欧米諸国が厳しい経済制裁を課す中でロシアからの石油、天然ガス調達に影響が出ることは必至だ。こうした状況下で、ドイツによるロシア頼みのエネルギー転換の胸算用はむなしくなった。

ついにショルツ首相は「ここ数日の動きにより、責任ある、先を見据えたエネルギー政策が、わが国の経済と環境のみならず安全保障のためにも重要である」とエネルギー政策を大転換するとの方針を示した。緑の党出身のハベック連邦経済・気候大臣は原発閉鎖の先延ばし、石炭火力の長期稼働も選択肢の一つとしている。

反原発は緑の党のDNAのようなものであり、温暖化防止至上主義からすればガスの穴を石炭で埋めることなどあり得ない。それでも、ショルツ首相らがこうした選択肢を検討せざるを得なくなった。それは、国民生活、産業活動にとって決定的に重要なのはエネルギーの安定供給であり、何事にも優先する他にないからだ。

環境至上主義者はウクライナ戦争によって再エネ100%へのスピードが加速すると強弁している。しかし、現実が示しているのは再エネの力不足である。つまり脱炭素に偏重したエネルギー政策のエネルギー安全保障への回帰である。ドイツを礼賛していた元首相五人はどうコメントするだろうか。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

70年排出ゼロ目指すインド 再エネ導入で送電投資拡大へ


【ワールドワイド/経営】

インドのモディ首相は2021年11月1日、英国で開催された第26回国連気候変動枠組み条約締国会議(COP26)の首脳級会合で演説し、70年までにカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)を達成するという目標を発表した。

国際エネルギー機関(IEA)によると、インドの19年のCO2排出量は世界全体の約7%の23億tで中国、米国に次ぐ第3位のCO2排出国である。

モディ首相はカーボンニュートラル達成に向け、30年までに①非化石電源発電設備容量を5億kwに引き上げること、②国内で使用する電力の50%を再生可能エネルギー由来とすること、③GDP当たりのCO2排出原単位削減目標を現状の05年比33~35%減から45%減に引き上げること、④CO2排出量をBAU(対策なし)比で10億t削減すること―の4項目を示した。

設備容量で37%を占める同国の再エネ電源は今後一層の拡大が見込まれるが、ポテンシャルが西部や南部などに偏在していることから、州間送電線の効率的な増強が急務となっている。米国ローレンスバークレー国立研究所の21年12月公表のレポートによると、インドで30年までに4億5000万~5億kwの再エネを導入する場合、必要となる州間送電線の送電容量は現状の2倍以上の2億8000万kwで、投資規模は3兆円近くと試算されている。

同国の送電事業は、外資の参入実績は少ないが、民間事業者に開放されている。モディ政権は送電事業を含めたインフラ整備全般において民間投資の活用を積極的に進める方針だ。21年12月には州間送電線計画23件を承認し、このうち13件は競争入札で事業者を決定する。さらに22年1月、第2期「緑のエネルギー回廊」プロジェク(GECII)について、約1900億円の予算を承認した。

GECIIは、再エネが豊富な州で発電した電力を全国で利用するための送電線建設計画で、25年度までの5年間で送電線1万750㎞(回線延長)と変電所(変圧器容量計2万7500MVA)を新設する。GECIIでも競争入札を実施し、政府がコストの33%を補助する。

インドで送電事業を行うインフラ投資信託のIndiGridは今後4年以内に、州間・州内送電線合わせて1・4兆円規模のプロジェクトが競争入札に付されると予想。今後は外資を含めた民間事業者による送電投資機会の増加が見込まれる。

(栗林桂子/海外電力調査会 調査第二部)

ロシア財政の要である石油生産 迫られる新規フロンティア開発


【ワールドワイド/資源】

ロシアにとって石油天然ガス輸出は財政の要であることは疑いの余地がない。中でも、税収としての重要性は石油の方が大きい。輸出総額では原油および石油製品の輸出総額は1530億ドル、全体の45%に上る。地政学的にはロシアからの天然ガス供給やパイプラインプロジェクトが着目される傾向があるが、天然ガスの輸出総額は全体の9%に当たる320億ドルで、石油の5分の1にとどまる。

石油収入確保がロシアにとって喫緊の課題である一方で、原油生産量は早晩減退を迎えることが予想されている。短期・長期見通しでは、足元ではコロナ禍からの需要回復と、OPECプラス協調減産の順次解除による生産増加を見込むが、2025年~30年のどこかで生産ピークを迎え、その後減退する公算が高い。長期的な見通しでは、最大で50年までに現在の生産量の8割まで減少する可能性も指摘されている。

増産傾向にある天然ガスと随伴する液分であるコンデンセートの含有率の高い、いわゆる「ウェットガス」が石油生産を補完していくと予想される。コンデンセート生産量は25年以降、6・5%という高い上昇率で増加傾向にあり、30年に日量108万バレルであるピーク生産量に達する可能性がある。増産基調から、ロシアはOPECプラス協調減産の枠組みで、コンデンセート生産量の減産対象からの除外を主張し、認められている。

生産を維持し、石油産業からの歳入を持続的に確保するには新規フロンティア開発が急務となる。世界最大のシェール層「バジェノフ」と地球上に残された最後の炭化水素フロンティアである北極域。減退する石油生産量を補完する新たなソースとして期待されるが、14年の欧米制裁で開発は遅延してきた。制裁発動から丸8年、外資に依存してきた分野では国内技術・製品への代替が加速している。14年当時の対外依存度が51%であったのに対し、21年には40%へ低下した。欧米制裁という環境がロシアの石油・ガス産業を強靭化している。

ウクライナを通る原油・天然ガスパイプラインへの影響も心配されるが、限定的な流量であることから、途絶した場合でも欧州市場への影響は軽微なものと考えられている。ロシアによるウクライナ侵攻で、日本も含め欧米は「これまでにない規模」の制裁をロシアに課している。今後の両国の戦闘の趨勢と欧米制裁の動きが注目される。

(原田大輔/石油天然ガス・金属鉱物資源機構調査部調査課)

再エネ100%で危機回避? あまりに能天気な東京新聞


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

実用日本語表現辞典によると、「能天気」には相手をさげすむニュアンスがあるため「楽天的」と言い換えた方がいいらしい。東京3月3日「ウクライナ侵攻、世界でエネルギー危機」に、どちらを使うべきか少し悩んだ。

見出しは「わき出る原発回帰論」「戦時には標的、少ない供給量、核ゴミ未解決」で、締めは識者のコメントだ。「再生可能エネルギー100%になれば、今回のような事態でもあわてなくて済む」という。

日本の電源構成をご存じか。最も比率が大きいのは4割近くを占めるLNGで、石炭の約3割が続く。再エネは2割弱にすぎない。目前の危機に太陽光発電や風力発電などの再エネでは対応できない。そもそも再エネ100%が怪しい。

日経クロステック2月8日「日本の再エネ、狭い国土と安定供給に難」は「太陽光発電や風力発電は広い設置面積を必要とする割に発電量が小さい」と指摘する。

例に挙げるのは「日本最大級の太陽光発電所『瀬戸内 Kirei 太陽光発電所』」だ。「約260ha(東京ドーム56個分)の敷地を持ち、最大出力235MW。一般家庭約8万世帯分に相当する電力を供給できる」。だが、「この数字は最新の火力発電所1基の出力に満たない」。非力である。

事態は深刻だ。特に欧州は、天然ガスの4割をロシアから輸入している。中でもドイツは依存度が5割を超える。ロシア制裁のため大幅な引き下げが必要だ。

日本のロシア依存ははるかに低い。それでも日経3月4日「商社や電力、LNG調達に奔走、輸入量8%がロシア産」と、業界は対応を急ぐ。燃料費上昇を抑えるには、安全性が確認された原子力発電所の安定稼働が欠かせない。

同日、国際エネルギー機関(IEA)が発表した「脱ロシア依存に向けた10の計画」は「ロシアとの新たなガス供給契約を結ばない」や「輸入を他国に切り替える」を提言した。「再エネ導入加速」「原子力発電活用の最大化」も挙げた。総力戦である。

ロシアはエネルギー資源を背景に欧州への影響力を強めてきた。しかも欧州は脱炭素のため天然ガスの利用拡大に期待する。ウクライナを侵略しても欧州に大したことはできまい。ロシアはそう考えていた、との指摘は多い。

対するウクライナは国際的な世論工作に力を入れ、欧米など多くの国を味方に付けた。情報戦は実際の戦闘に劣らずしれつだ。

読売3月5日社説「原発が標的に、プーチン氏は正気を取り戻せ」は、「原子力施設への攻撃は取り返しのつかない大惨事を招きかねない。人類と文明社会に対する許しがたい暴挙である」と指弾した。ロシア軍がウクライナ南東部のザポリージャ原子力発電所を攻撃した、と現地の通信社が伝えたことを踏まえている。

ロシア側はツイッターで同日、攻撃は「ウクライナの破壊工作グループ」による挑発行為で、「西側メディアがあおり立てたヒステリー」と主張した。両国が発信する情報は多くが食い違う。

何が事実か。日本の記者はほとんど戦地におらず、直接の取材は少ない。戦地の住民へのネット取材もあるが、最新情勢は海外メディアの記者がネットで伝えるニュースから判断するしかない。

1990年の湾岸戦争で憎悪をあおった虚偽告発(ナイラ証言)など紛争に世論工作はつきものだ。能天気なエネルギー報道を含め冷静にニュースを読み解きたい。

いかわ・ようじろう デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

『太陽の都』*の幻想 ソーラーパネルの否定的側面


【オピニオン】セルゲイ・デミン/ロスアトム東南アジア日本支店代表

新型コロナウイルスによるパンデミック以前の15〜20年よりも、この2年間の方が世界は変わっている。原始的な消費の時代が終わり、創造の時代が始まる。持続可能な開発は、あらゆるレベルの生産の基盤になりつつある。エネルギー分野も例外ではない。

私たちは、エネルギー生産をできるだけ環境に配慮したものにしようと努めている。その点から、いま、多くの人たちによって万能薬として提供されている、太陽光発電や風力発電など「グリーンエネルギー」という選択肢を批判的に見ることは非常に重要である。

例えば、非常に「グリーン」なソーラーパネルは、有害な半導体の製造工程を経て作られている。パネルは、比較的効率の低い結晶シリコン製だ。比較的効率の高いパネルは、ガリウムとヒ素の化合物で有害なガリウムヒ素をベースに作られている。

使用済みソーラーパネルの処理の際にも、パネルに大きな炭素と化学物質の足跡が残っていることは、結論付けられている。そのうち、大量リサイクルの問題が人類の関心事になるだろう。 

電力は安定的に供給することが不可欠である。時間帯に左右されるソーラーパネルは、信頼性に欠けることがある。この意味では、風力発電も同じように信頼性が低い。このようなソースが広く使われることはユートピア的な発想と言わざるを得ない。

可変エネルギーを完全になくせとは言わない。しかし、われわれは原子力発電をもう一度見直す必要があると確信している。

原子力発電は、低炭素で信頼性の高い唯一の基礎電源である。天候に左右されず、24時間体制で送電網に接続されている。原子力発電所の敷地は、同規模の太陽光発電所よりもはるかに小さな面積を占める。

原子力発電を続けることは、今後、何年にもわたる予測可能な電力価格とエネルギー自立を意味する。

原子力、放射線、環境の安全確保を含め、使用済み核燃料や放射性廃棄物を取り扱う技術を、ロスアトムを含む世界有数の企業は数多く持っている。

一方では持続可能性への関心が高まり、他方ではエネルギー消費の増加が予想されることから、エネルギー源である原子力への需要が高まることになる。このことの理解は広まっており、脱原発支持派が2019年の60%から36%に低下しているドイツの世論調査が非常に示唆的である。

 再生可能エネルギーだけで持続可能なエネルギーシステムを持つことは不可能であることを認識し、21世紀に『太陽の都』を建設するという約束を盲信することをやめるべきだと思っている。

原子力発電所を閉鎖しても、自然エネルギーが増えるわけではなく、炭化水素が増えることを認識しなければならないのだ。

*トマソ・カンパネラによる哲学的作品で古典的なユートピアの一つ

セルゲイ・デミン 1990年モスクワ国際関係大学卒、ノーヴォスチ通信社入社。石油・天然ガス会社、大手不動産会社幹部を経て、2015年からロスアトム・インターナショナル・ネットワーク社東アジア地域副社長。日本語、英語に堪能。

大震災機に地産地消へ本腰 官民連携で目指す持続可能な地域


【地域エネルギー最前線】神奈川県小田原市

カーボンニュートラルの実現に向け、地域社会はそれぞれどんな戦略を描いているのか。

各地の挑戦を追う連載初回は、東日本大震災を機に官民連携を進めた小田原市を取り上げる。

11年前の東日本大震災は、多くの地域にエネルギーの地産地消を意識づけるきっかけとなった。神奈川県小田原市も、計画停電に伴う市民生活への影響や、観光業などの地域経済が打撃を受けた経験から、エネルギーシステムの在り方を再考するようになった。

震災後に環境省の再生可能エネルギー関連事業に市が採択され、地元企業などと立ち上げた検討会が、現在に至る一連の取り組みの土台となった。地元商工会議所には温暖化対策に積極的な企業が多く、多様な主体がエネルギーの地産化に関わる機運が醸成された。

2012年4月に市は、専門部署となるエネルギー政策推進課を設置。事業者への奨励金などで再エネの利用促進を図る条例や、エネルギー計画を制定した。その延長線上で19年、50年カーボンニュートラル(CN)という長期目標を掲げ、その後全国的に広がった自治体の「ゼロカーボン宣言」の先駆けとなった。今春には、22年度から環境省が着手する「脱炭素先行地域」第一弾にも応募した。

地域ではこの間さまざまなプロジェクトが展開されてきたが、いずれにも市は出資せず民主導の形を貫いている。「再エネは持続可能なまちづくりのために必要なインフラ。その事業が自走し、地域経済を回していくことが最も重要だ」(山口一哉・市エネルギー政策推進課長)との考えからだ。 

軌道に乗る「0円ソーラー」 屋根置き太陽光さらに拡大へ

まず手を付けたのは再エネ電源の拡充だ。地元企業二十数社が出資した発電事業者「ほうとくエネルギー」が中心となり、太陽光をメインに導入を進めた。徐々に拡大する地産電源を活用するため、再び地元企業が出資した地域新電力の「湘南電力」も誕生。売電収益の一部をパートナー企業に還元するなど、地域循環を意識した経営方針を取る。現在約3800件の顧客を抱えている。

都市部で有望な屋根置き太陽光の導入加速が急務となる中、力を入れているのが第三者所有モデルの「0円ソーラー」だ。パネル設置費用の一部に県の補助金を活用し、残りは湘南電力が負担して10年間で電気代から回収。導入実績は約180カ所まで増えた。ほうとくエネルギー立ち上げから関わり、現在湘南電力の経営も担う小田原ガスの原正樹社長は「自前電源を増やすだけでなく、顧客が地域で再エネを生み出す主体になるという側面にも大きな意義がある」と強調する。

21年度は0円ソーラーの環境価値を地域内で循環させる実証も行った。市や湘南電力のほか、新電力向けサービスを展開するエナリス、CO2削減可視化サービスを提供するゼロボードが参加した。環境価値をJ―クレジット化し、電気とセットで販売するメニュー「湘南のカーボンフリー」を活用。顧客の和菓子店が、同メニューで商品の「カーボン・オフセット」を実現するとともに、削減したCO2の量に応じ店で使えるクーポンを0円ソーラー所有者に還元する。スキームにはクレジット化の煩雑さなど課題も多いが、この経験を次のビジネスにつなげていく。

「地元の商品を地元の電気でオフセットし、発電側と利用者間の絆も生まれる。こうした試みを引き続き模索しつつ、持続的なインフラを地域で担う必要性を市民にも認識してもらいたい」(原氏)。

CNを見据えた市の現在の再エネ導入目標は30年度15万kW。現状の5倍で、屋根置き可能な建物の3分の1に相当するチャレンジングな水準だが、地域全体を巻き込んでその達成を目指していく。

【北神圭朗 有志の会 衆議院議員】「平和で豊かな日本を次世代に」


きたがみ・けいろう 1992年京都大学法学部卒、大蔵省(現財務省)入省。2005年衆院議員。拉致問題特別委員会筆頭理事、経済産業大臣政務官、内閣府大臣政務官(原子力損害賠償支援機構担当)、首相補佐官などを歴任。

湾岸戦争での日本のあいまいな対応をきっかけに、「祖国に貢献したい」と政治家を志す。

幼少時から米国に長く滞在するが、政治活動の底流には「日本人の魂」がある。

 「北神さんは腰が低いなあ」。大蔵省の調査企画課(当時)に勤めていたときのこと。ある大手都市銀行からの出向者に、こう言われたことがある。調査企画課には、金融機関から10人ほどが出向し、職員と机を並べて働いていた。いずれも優秀な銀行マン。だが、大蔵省のキャリア官僚から見れば、「民」の人たち。尊大な態度に、眉をひそめる出向者もいた。

しかし、北神圭朗氏には、そもそも相手の所属や地位で対応を変えるという意識がなかった。米国滞在18年の帰国子女、京大法学部、大蔵省、衆議院議員―。絵に描いたようなエリートコースをたどる。だが、生い立ちや国会議員になるまでの経緯などを聞くと、経歴から思い浮かぶエリート像とはかけ離れた政治家の姿が浮かび上がる。

1967年、まだ1ドル360円の時代。父・泰治氏は夫人と生後9カ月の圭朗氏を連れて米国に渡った。大企業から派遣されたわけでも、就職口の保証があったわけでもない。高いドルを稼いで、日本に戻って一旗揚げる―。そんな考えだけの、やや無謀な渡米だった。

決して治安良好とはいえない加州ロサンゼルスのダウンタウン。ここに住居を定め、日本からボルトやナットを仕入れて販売する事業を始める。米国のネジ業界は、コネもないアジア人がすぐに入り込める世界ではなかった。差別的な発言は日常茶飯事。売掛金の回収に赴き、拳銃を突き付けられたことも。そんな体験を重ねながら、ビジネスの足場を築いていった。

一方、圭朗氏は米国での暮らしが水に合った。小学校から成績は常にトップクラス。自由で個性を重視する米国で、充実した学園生活を送る。そんな圭朗氏にも、週に一度、気持ちが沈むことがあった。ロサンゼルス郊外に日本人のための補習校、朝日学園がある。通うのは主に米国に赴任した企業人の子女。泰治氏は土曜日、この学園に通うことを子供たちに義務付けた。「お前、漢字もろくに書けないのか」。現地の学校のクラスメートの視線から一転、朝日学園では日本人生徒から見下される存在に。気が付くと、劣等生のレッテルを貼られていた。

やがて問題児扱いになり、教師は両親を呼び、「周りの子供たちに迷惑。無理に通わせることはない」と退学を勧告。しかし、泰治氏はやめることを許さなかった。日本人としての自覚をなくしたら、自分たちは根無し草になってしまう―。激しい差別や不条理に向き合って痛感した「日本人の魂」を持つことの大切さ。それを子供たちにも、しっかり胸に刻んでほしかった。

自民党の強固な地盤で立候補 選挙で鍛えられ役に立つ政治家に

帰国し京大に入学。湾岸戦争での日本のあいまいな態度に違和感を覚え、「自分も祖国に貢献できる」と考え始める。前原誠司氏(現国民民主党代表代行)の選挙応援などをしながら、政治の道に進むことを決心。「そのためには、まず財政の勉強」と大蔵省に入る。約10年間、官僚として働き、2003年、民主党公認で衆議院選挙に出馬した。

選挙区は、自ら京都4区を選んだ。野中広務元自民党幹事長が7回当選を重ねた、強固な自民党の地盤だ。「初陣」は野中氏の後継者を相手に落選。それから選挙での戦績は四勝四敗(参議院選一敗、衆院繰り上げ当選を含む)。楽な選挙は一度もない。だが、4区を選択したことを後悔していない。「政治家の仕事は人に動いてもらうこと。この選挙区で人間が鍛えられれば、役に立つ政治家になれる」。民主党が大敗した12年を除き、選挙のたびに1万票ほど得票数を増やしている。21年の総選挙では、自民候補に約1万6000票の差をつけて当選を果たした。

11年9月、野田内閣の経済産業大臣政務官に就任。真っ先に取り組んだのは、原発の再稼働だった。福島第一原発事故を受けて関西電力の原発が停止し、近畿圏の電力需給は危機的な状況に陥る。停電回避に大飯原発の再稼働が欠かせなかったが、枝野幸男経産相も経産官僚も原発事故で委縮、腰が重い。そのため自ら周辺自治体の首長との交渉を行い、強硬に反対していた橋下徹・元大阪府知事とは直談判。「暫定的な再稼働」とすることで了解を得た。

いま最大の課題は、人口減少に歯止めをかけることだ。全人口に占める現役世代が減り始め、このままでは国力は衰退の一途をたどる。先祖が築いた平和で豊かな日本を次の世代につないでいく―。強い信念を持ち、少子化対策などに取り組んでいる。

かばんには折口信夫の『口訳万葉集』をしのばせている。時折ページを開き、劣等生として過ごした朝日学園での日々を思い返すという。

【マーケット情報/4月8日】原油続落、需給緩和感強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み下落。供給増加と需要後退の見通しが一段と強まり、価格が続落した。

国際エネルギー機関の加盟国は、今後6か月間に渡り、戦略備蓄(SPR)を追加で1憶2,000万バレル放出する計画。このうち6,000万バレルは米国からで、同国が3月末に発表した1億8,000 万バレルのSPR放出の一部となる。米国の放出分と合わせて、合計で2億4,000万バレルの原油が追加で供給される見通しだ。

また、米国の石油サービス会社ベーカー・ヒューズが先週発表した国内の石油掘削リグの稼働数は546基となり、前週から13基増加。2020年4月以来の最高を記録した。

中国・上海におけるロックダウン延長も、価格下落の要因となっている。上海では新型コロナウイルスの感染拡大が続いており、移動や経済活動に対して厳しい制限が敷かれている。これにより、移動用燃料の消費減少や、経済の冷え込みにともなう石油需要後退の予測が一段と強まった。

一方、OPECプラスの3月産油量は日量3,806万バレルとなり、2021年2月以来初めて前月比で下落した。また、当初の生産計画を日量148万バレル下回り、価格下落をある程度抑制した。

【4月8日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=98.26ドル(前週比1.07ドル安)、ブレント先物(ICE)=102.78ドル(前週比1.61ドル安)、オマーン先物(DME)=97.82ドル(前週比3.36ドル安)、ドバイ現物(Argus)=98.30ドル(前週比2.88ドル安)

ロシア軍のウクライナ侵攻 呼び覚まされた「エネルギー安保」


【脱炭素時代の経済探訪 Vol.1】関口博之/経済ジャーナリスト

ロシアによるウクライナ侵攻が世界経済を暗雲で覆った。核大国であるロシアの軍事力行使は、国際秩序を揺るがすだけでなく、平時には当たり前のエネルギーの安定供給がいかに死活的に重要かを、改めて思い知らせた。

プーチン大統領の戦争に、西側諸国はかつてない経済制裁で対抗した。全面的な軍事衝突の事態を避けるには、西側には経済制裁しか現実的な手立てはない。国際決済網である国際銀行間通信協会(SWIFT)からロシアの大手銀行を排除したことは、ロシアを貿易体制から締め出す強力な手段だ。制裁は(露中銀保有の外貨準備凍結も含め)間違いなくロシア経済に打撃を与え、確実に効いていく。ただ、それは日本を含め西側諸国の経済にも跳ね返る。その「覚悟」は必要だ。

その際、いわば「人質」にされるのがロシアからのエネルギー供給だ。欧州は天然ガスの4割強、原油の3割弱をロシアに依存する。EUはSWIFTからの遮断でもロシア最大手のズベルバンクやガスプロムバンクは外した。エネルギー調達に決済の道を残すためだ。ガスや原油の途絶というリスクを自国民に背負わせるわけにはいかない。「覚悟」の一方でエネルギー安全保障上の「細心」の判断が求められる。EUはそのことを体現した。ただしそれも、ロシアが自ら供給を絞り、経済制裁への報復に出れば元も子もないが。

キエフ近郊から逃げる避難民
提供:ANA/時事通信フォト

日本にとっての「覚悟」と「細心」は何になるだろうか。WTI原油先物が3月7日、1バレル130ドルと13年8カ月ぶりの高値を付けるなど、エネルギー高騰が日本経済への一段の重石になるのは間違いない。政府はガソリン価格などの抑制に石油元売りへの補助金を拡充し、国民生活への打撃を抑える考えだ。ただ、この資源高は、ある意味、対ロ包囲網の国際連帯のコストを分かち合うものともいえる。

むしろ今、「細心」になるべきは、極東での石油ガス開発プロジェクトだろう。「サハリン2」からシェルが撤退を決め、「サハリン1」はエクソンモービルが撤退表明した。いずれもロシア国策企業と欧米メジャー、日本企業が権益を持つ。サハリン2は三井物産・三菱商事が参画し、LNG生産量の6割は日本の電力・ガス会社向けだ。サハリン1には国も間接出資する。長い経緯のある資源開発事業に欧米メジャーがいち早く撤退を表明したことは日本勢には衝撃だ。国際世論の風圧もあるが、ここは日本勢としては軽々に手を引くとは言えない。慎重な判断がいる。ロシアからのLNG調達は輸入量の8%余を占めているのだ。

このコラム、初回から歴史的局面に遭遇することになった。NHK解説委員時代も世界経済の外的ショックは多く経験してきた。リーマンショック、トランプショック、ブレグジットしかり。ただ達観してみると、どこかで世界経済に働く「復元力」「治癒力」も実感する。ウクライナ危機にもこれが効くだろうか。少し引いた目で見届けたい、と思った矢先に欧州最大級の原発をロシア軍が制圧。暗雲が晴れる兆しはない。

せきぐち・ひろゆき
経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

原発攻撃への不安広がる 国は自衛隊活用など検討へ


ウクライナにある複数の原発をロシア軍が武力攻撃したことを巡り、わが国でも原発攻撃への不安が広まっている。

国内最多の原発が立地する福井県の杉本達治知事は3月8日、岸信夫防衛相や山口壮環境相兼原子力防災担当相を訪れ、原発の防御や安全対策、攻撃時の避難経路確立などを求める要請書を提出。「地域住民は大きな不安を抱いている」と訴えた。

すると翌9日、原子力規制委員会の更田豊志委員長が国会の場で、原発が攻撃を受けた場合「放射性物質をまき散らす懸念がある」と発言。山口環境相も11日の会見で原発攻撃による被害想定について「チェルノブイリの時よりもすさまじく、町が消えてしまうぐらいの話」との見解を示した。

一部報道によれば、政府は軍事攻撃を想定し、自衛隊を活用した原発防衛策を検討する構えだ。外交・防衛の基本方針「国家安全保障戦略」などに反映させるという。原発を巡っては、エネルギー危機対策の一環として早期再稼働を求める政治的な動きが活発化しており、大前提となる安全安心の確保が急務となっている。

原子力再構築を国会で訴求 萩生田経産相の心動かしたか


【永田町便り 第一回】福島伸享/衆議院議員

今年の通常国会では「提案型野党」を標榜する野党第一党の物分かりが良すぎる国会対応のせいか、戦後2番目に早いタイミングで衆議院を予算案が通過した。国会の花形委員会とされる予算委員会の議論も盛り上がることはなかった。そんな中、私は萩生田経済産業大臣と以下のような原子力政策に関する議論を行った。

第六次エネルギー基本計画では、原子力の比率を2019年度の6%から20年度には22%にすると言っている。しかし私の地元の東海第二や柏崎刈羽など個々の状況を見れば、それが絵に描いた餅なのは明らかだ。私は「国が本気でやろうとしているのか。やるつもりがないんだったらやらなくてもいいんですよ、原発なんて。やるというんだったらちゃんとやるべきではないですか」と訴えた。

私は、拙著『エネルギー政策は国家なり』で、安倍政権時代、原子力をエネルギー政策の中核に据えながら、政権は安定しているにもかかわらず、肝心の原子力政策の無為無策を約10年間続けるうちに原子力産業は衰退し、なし崩しに「脱原発」が進んでいることを指摘した。

これらを萩生田大臣に紹介しながら、「この国自身が原子力政策全体の体系、今の現実を踏まえた上で、どういう産業として、将来どういう姿を描くのか……3.11の後、それがなくなってしまっている。それを示していないからこそ、どうせ国も本気でやらないだろう、絵に描いた餅だろう、そう思って受け入れられていないのが現実の姿だと思う」として、国が本気で原子力政策の再構築に取り組むべきことを渾身の思いを込めて訴えた。

再稼働かゼロの二項対立 本質的議論から逃げてきた

この訴えに、大臣も政治家としてちょっと心が動いたのか、官僚が書いた答弁を読み上げた後に、「これから先どうするのかと、熱い思いで話をされた。私も感ずるところはあります」として、「国際情勢を見ても、やはり国民の暮らしに電気は絶対必要です。それを守っていくために、コストと責任をどう見合っていくかということが政治家に課せられた使命だ」と、自分の役割として取り組む決意を語ってくれた。

この議論が、停滞する原子力政策をどれくらい動かす力になったかは分からない。原発問題では、再稼働かゼロかの政治の二項対立の中で、政治家たちが本質的な議論や判断から逃げ続けてきたことが、今の状況を生んでしまっている。萩生田大臣には、私との議論を通じて政治家として何かを感じていただき、自らの役割を自覚し行動することを強く期待したい。文部科学大臣時代の働きぶりなどから、それができる政治家であると思っている。

本質的なエネルギー政策を国会で展開し、この欄で紹介していく予定なので、ご期待をいただきたい。

ふくしま・のぶゆき
1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

システム改革の集大成 大手ガス導管3社が発足


東京・大阪・東邦の大手都市ガス3社の導管部門の法的分離が4月1日に実施される。2020年の大手電力会社の送配電部門の法的分離に遅れること2年、電力システム改革に追従する形で進められてきたガスシステム改革が総仕上げを迎えた。

国内の都市ガス導管の総延長は約26.6万㎞(21年3月末時点)。このうち、60%近い約15.8万㎞を大手3社が保有している。法的分離の狙いは、大規模な導管ネットワークを保有する3社によるガス製造・小売り事業との兼業を禁じることで、導管運用の中立化の強化を図り、小売り事業者間の競争を促進することにある。

「単に導管部門を別会社化するだけでは意味がない」と語るのは、大手都市ガス会社の幹部。新設された導管3社は、導管によるガス供給の安定性と効率性の向上というこれまでの役割に加え、新たな需要開拓や脱炭素化に向けたメタネーション技術の確立、スマートメーターを活用したサービスなど、新規の事業分野に主体的に取り組んでいくことになる。

本格的な脱炭素化時代を見据え、3社が都市ガス業界発展のけん引役となることこそが、導管分離の真の意義だといえそうだ。

排出量取引か炭素税か 手法を明確化し議論深掘りを


【業界紙の目】濱田一智/化学工業日報 編集局行政グループ記者

「カーボンプライシング(CP)の賛否は?」との問いは、大ざっぱすぎて正確性を欠く。

政府内でCPの検討が進むが、どの手法に関する議論なのかを明確にしないと話がかみ合わない。

カーボンプライシング(CP)に関する議論がかまびすしい。CPを巡っては、やれ経済産業省が反対で環境省が賛成だとか、やれ経団連が前向きな姿勢を示し始めたとか、いささか雑に語られる傾向がある。だがCPは読んで字のごとく炭素価格付け政策の総称にすぎず、排出量取引や炭素税といった性格の異なるものが混在している。これらを区別しないと議論の解像度が低くなる。

さらに話をややこしくしているのが政府、とりわけ経産省が多用する「成長に資するCP」との表現だ。だがCPの中でも炭素税は明らかに税金であり、税金が「成長に資する」と言われても直感的には理解しにくい。どういうことだろうか。

CPの三つの手法 どれが「成長に資する」のか

始まりは1年半前にさかのぼる。翌年に控えたCOP26の開催も見据え、菅義偉前首相が2020年10月の所信表明演説で「50年カーボンニュートラル宣言」を行い、同年末、温暖化対策を経済成長につなげる「グリーン成長戦略」を政府が発表した。そこでは「CPなどの市場メカニズムを用いる経済的手法は、産業の競争力強化やイノベーション、投資促進につながるよう、成長に資するものについてちゅうちょなく取り組む」とした。

そして21年2月に経産省が立ち上げた「世界全体でのカーボンニュートラル実現のための経済的手法等の在り方に関する研究会」が、端的に「成長に資するCP」と表現した。これ以降は「成長に資する」との枕詞を冠するのが通例になった。

さて、CPは冒頭に述べた通り、炭素価格付け政策全般を意味する。しばしば引き合いに出されるのが排出量取引、クレジット取引、炭素税だ。(他に企業が自主的に価格付けして投資家へのアピール材料に使うインターナルCPなどもあるが、とりあえず除外する)

排出量取引とクレジット取引の発想は近い。いずれも排出削減に金銭価値を付与して市場で取引させるというものだ。

排出量取引は、政府が企業ごとに炭素排出量の上限(キャップ)を決め、上限を超過してしまう企業と超過せず余裕がある企業との間で売買する「キャップ&トレード」に象徴される。

クレジット取引は、企業が削減策を講じない場合の排出量見通し(ベースライン)と、講じた場合の排出量の差を、クレジットと見なして売買する「ベースライン&クレジット」が典型だ。各国でクレジット取引の専門市場を設立する動きがあり、経産省もその流れに乗って「カーボン・クレジット市場」の創設を日本で進めている。

これらと比較すると炭素税は単純明快。炭素排出量に応じて税金を課すだけだ。日本では、石油石炭税の「上乗せ部分」に当たる温暖化対策税が炭素税としての性質を持つ。だが「本体部分」は排出量と比例しておらず、ここを改変して一層本格的な炭素税を導入すべしとの意見は強い。

炭素税で経済成長は強弁? 以前の議論と整合性取れるか

この三つをCPと総称するにしても、「成長に資する」という観点で見ると様相は異なる。排出量取引やクレジット取引は、なるほど成長に資する余地があるかもしれない。実際、経産省もカーボン・クレジット市場の狙いとして「世界のESG(環境・社会・統治)投資を誘導し、脱炭素時代の情報ハブを日本に引き込む」と気宇壮大な理念を掲げている。

翻って炭素税はどうか。実はCPについては経産省の研究会が発足する以前から、つまり「成長に資する」の枕詞が付く以前から、環境省の有識者会議が数年にわたり議論を重ねてきた。炭素税も当然議題に上ったが、あくまでも「外部不経済を内部化する」といったとらえ方で、経済成長に寄与するといったトーンは控えめだったはずだ。

従って「成長に資するCP」というときのCPが何を意味するかに注意を向ける必要がある。これが炭素税を指すとの解釈は、環境省の数年来の議論と、果たして整合性が取れるだろうか。

炭素税を肯定する論拠として、導入しないと気候変動対策に後ろ向きなメッセージになるとのレピュテーションリスクを挙げる論者もいるが、だからといって導入が「成長に資する」というのは強弁ではないだろうか。

反論はあり得る。「成長に資する」とは日本全体にとっての話であって、炭素税を課される企業にとっての話ではない、と。

確かに、いわゆる「二重の配当」論によれば、炭素税には環境改善効果(第一の配当)と、経済全体の活性化効果(第二の配当)が期待できるという。だが、大の虫を生かして小の虫を殺すには、それ相応の説得力が要る。「外部不経済の内部化」という理屈で押し通せるものだろうか。

環境省はCP議論を長年続けるが……

ここで改めて「成長に資するCP」の来歴を確かめておきたい。

まず20年末に政府のグリーン成長戦略がCPを「市場メカニズムを用いる経済的手法」と位置付け、「(CPで)成長戦略に資するものについてちゅうちょなく取り組む」と述べた。次いで21年2月に経産省が「世界全体でのカーボンニュートラル実現のための経済的手法等の在り方に関する研究会」を立ち上げ、枕詞をつけて「成長に資するCP」と呼び始めた。通底するのが「経済的手法」という言葉だ。

そもそも温暖化対策には規制的手法(法律など)や情報的手法(省エネラベルなど)もある。これらと違って経済的インセンティブに働きかけるのが経済的手法で、その代表格がCPということになる。それを前提に、CPならよろず良しではなく「成長に資するCP」に限定した。

こうした沿革を踏まえれば、CPというぼんやりしたキャッチフレーズをあげつらうことが不毛だと分かる。排出量取引の話なのか炭素税の話なのか、それは成長に資するのか――。主張がかみ合わない空中戦を避けるためにも、論点をクリアにしなければならない。

〈化学工業日報〉〇1937年創刊〇読者数:10万人〇読者構成:化学・総合・専門商社、電子材料、医療・バイオ、プラントエンジ、海外など