【ガス】LNG確保に必死の欧州 日本は危機感が欠如


【業界スクランブル/ガス】

ウクライナ危機によってLNG需給状況は激変している。特に、長期契約の余剰分であるスポットLNGは2026年ごろまで欧州各国が全量押さえてしまったとの情報も聞こえてくる。一昨年冬のLNG不足は石炭火力停止に伴う中国エネルギー企業のスポット買いあさりが原因の一つといわれている。また、冬場の需要が夏場の10倍に及ぶ韓国は長年冬場のスポットLNGに依存してきた。そこに、欧州各国がスポット購入競争に参入してくるのだ。

仮に液化トレイン故障などで長期契約分の供給量が減少した場合、日本買い主は減少分の手当を容易にはできないことになる。サハリン2からの長契LNG輸入がストップする可能性もゼロではない。もちろん、TTFより高値を出せば購入できる可能性もあるが、とてつもなく高価なLNGとなろう。特に冬場の需要期には相当危機的な状況が起こり得る。

今年2月、JERAが長年購入してきたカタールの長契更改を行わなかったとの報道があった。カタールは黎明期から中部電力を中心に日本買い主が支えてきたプロジェクトで、3.11の時はスポットLNGを優先的に融通してくれた実績もある。JERAが更改しなかった理由として、仕向け地条項に関する公正取引委員会の判断があったともいわれている。

一方、ロシア産ガスの依存度を下げたいドイツはカタールとの間で、LNG長期契約を含む協力関係強化で合意したとの発表を5月に行った。EUも長年仕向け地条項撤廃に向けて動いてきたが、今回はエネルギー安全保障の観点で目をつむって世界最大級のLNG生産国カタールとの関係構築を優先させたのだとすると、日本のエネルギー安全保障に対する危機感欠如が問われることになろう。(G)

【マーケット情報/7月18日】欧米原油が下落、需要後退の予測


【アーガスメディア=週刊原油概況】

7月11日から18日の一週間における原油価格は、米国原油を代表するWTI先物、および北海原油の指標となるブレント先物が下落。経済減速を背景とした需要後退の予測が、価格の重荷となった。

中国では、上海など一部地域で、新型コロナウイルスの感染が再拡大。ゼロコロナ対策にともなう厳しい制限が再度敷かれるとの懸念が台頭した。また、国際エネルギー機関は、エネルギー価格の高騰と経済の冷え込みを要因に、2022~23年の石油需要予測を下方修正した。

供給面では、ロシアがカスピ海パイプライン・コンソーシアム(CPC)輸出港の停止命令を撤回。カザフスタン産の供給不安が解消された。

一方、中東原油を代表するドバイ現物は、前週から上昇。米国バイデン大統領のサウジアラビア訪問を受け、サウジ外相が16日、原油増産の確約は出来ないと発言。また、リビア国営石油は、原油出荷のフォースマジュールを解除。ただ、政情不安は続いており、引き続き供給は安定しないとの見方が強い。

【7月18日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=102.60ドル(前週比1.49ドル安)、ブレント先物(ICE)=106.27ドル(前週比0.83ドル安)、オマーン先物(DME)=102.68ドル(前週比0.64ドル高)、ドバイ現物(Argus)=102.23ドル(前週比0.78ドル高*)

*11日がシンガポール休場のため、ドバイ現物のみ12日との比較。

【新電力】未納金450億円 問われる在るべき姿


【業界スクランブル/新電力】

 託送料金・インバランス料金の未納額が2020年4月から22年4月までの2年間で450億円に上ると報じられている。当然ながら、託送収支の悪化につながるものであり、新電力撤退の増加に伴い、未納額の総額は膨らむ可能性がある。この状態は真面目に事業運営を行っている新電力にとっても不幸である。既に新電力は、インターネット上で「転売ヤー」といった批判を浴びており、非常に厳しい立場に追い込まれている。自身が率先して業界の在るべき姿、業界秩序を正していくべきではなかろうか。

なぜこのような状況に陥っているのだろうか。現在の環境は、容量市場の導入が遅れているにもかかわらず、自由化の枠組みが進展したことで、固定費回収ができなくなった火力発電所が廃止され、供給力不足が起きたことのあおりを受けている側面と、国際的なエネルギー価格が上昇しているという二つの側面がある。特に前者については、過去数年間の破滅的な価格競争や、容量市場の受渡開始時期前倒しの議論を止めてしまった代償を払っているといえる。

小売り電気事業者のビジネスモデルは、2000年の部分自由化以来、「価格が安い」以外の価値がなかったが、いよいよ限界に達している。小売り電気事業者は市場価格連動でなくては自社のリスクを過大に抱えることになる。

他方、最終保障契約が市場価格連動となったことで、燃料価格や電力市場価格が低下したときには、小売り電気事業者の価格よりも、最終保障契約の方が割安となる可能性がある。小売り電気事業者は「安定した価格で安定的に電力供給を行う」機能を需要家に提供していくことになるが、新電力が単独で生き残る姿が見えない。新電力の将来は暗い。(M)

【電力】首をかしげる主張ばかり 再エネTFは廃止を


【業界スクランブル/電力】

 河野太郎前規制改革担当相の肝いりで発足した再エネ等規制等総点検タスクフォース(TF)だが、もう廃止した方がよいのではないか。

もともと規制改革推進会議ではエネルギー問題は投資等ワーキンググループが取り組んできており、知見を有する委員が総理から指名されている。つまりTFは屋上屋なのであり、河野大臣の交代とともに本来の姿に戻すべきだった。

そのようにならなかったのは、後任の牧島かれん大臣が河野前大臣と同じ自民党神奈川県連だからという話も側聞するが、真偽は定かではない。

自然エネ財団関係者が2人入ったのは河野大臣人脈だろう。経済産業省OBも2人加わって、そこそこバランスが取れた議論になるのかなと当初想像したが、そのようなことは全くなかった。

住宅の省エネ基準に切り込むなど良い取り組みもしていることは理解する。他方、電力分野は首をかしげるものばかりだ。先日の「2022年3月の福島沖地震による停電や需給逼迫警報を受けた提言」で「火力発電への投資も原発の再稼働も解決策になり得ない」と主張するに至っては、情報源の偏りが深刻で、ほぼデマと言ってもよい。

加えて、「悪天候により太陽光が十分に発電しなかったと、再生可能エネルギーの責任を問う声があるが、筋違い」と来ては、火力・原子力サゲと再エネアゲへの先鋭化が過ぎないか。これが一定の政治力を持って「再エネ最優先」のスローガンを振り回すのは危うさしか感じない。

再エネが良いものなら普通に選択されるはずだ。不足ならカーボンプライスなどで後押しすればよい。こんなスローガンは本来不要だ。偏った主体にこん棒のように振り回されれば、害しかない。(U)

英国の再エネ接続は最大10年待ち


【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

フィナンシャルタイムズによれば、英国では変動再エネ(VRE)の系統接続が6~10年待ちになっているとのこと。このため、昨年のCOP26やロシアのウクライナ侵攻で盛り上がるVRE大量導入計画に暗雲が立ち込めている。この国の送配電を独占的に担うナショナル・グリッドに不満が集まるが、どうやら問題は規制当局のOfgemが、系統の強化費用を託送料(最終的には電気料金)に転嫁することを渋っていることが根っこにあるようだ。

日本でもVRE大量導入に向け、地域間連系線の強化がうたわれているが、必要なのはそれだけではないはずだ。現に英国は国営電力庁時代から全国的に整備したネットワーク型の系統である。“地域ごとの独占事業者が連系線の整備を怠ってきた”わけではない。結局、いずれの国においても既設の系統でVREを容易に受け入れられる段階が終わり、より抜本的な系統強化が必要になっているということではないか。短時間に集中する大量の発電量を広範囲にシェアしたり、下位系の電圧から上位系に流したり、天候次第でダイナミックに変化する潮流を制御したりと、素人が考え付くだけで従来とは全く次元の違う系統のイメージが浮かび上がる。送配電網に加え、現在は火力発電が担う調整力の役割を脱炭素化するには、蓄電池などにも大きな投資が必要だ。

相変わらず各国政府は安易な「再生可能エネルギー」の導入量を競っているが、再エネそのもののコストが低下する中、むしろ大変なのは、系統側の受入体制だろう。送電網の整備には高所作業員や鉄塔の製造能力の確保などの問題もある。再エネには気前よく補助金が出されるが、地味なこの分野は、なかなか政治の光が当たらない。どこの国でも矛先は送配電会社に向かうようだ。

石炭火力のフェーズアウト 排出削減対策の解釈に幅


【ワールドワイド/環境】

5月27日に閉幕したG7気候・エネルギー・環境大臣会合の争点の一つは国内石炭火力の廃止年限を定めるかどうかという点にあった。議長国ドイツは「2030年までに排出削減対策を講じていない国内石炭火力のフェーズアウト」を共同声明に盛り込むことを提案していた。報道によれば欧州諸国は30年廃止を支持、米国は「30年代」を提案する一方、日本は難色を示していた。

原発の再稼働が遅れている中で、石炭火力は安価なベースロード電源として電力料金の上昇を抑える役割を果たしてきた。昨年秋以来のエネルギー危機やウクライナ戦争によってLNG価格が大きく上昇する中、国内石炭火力を放棄することはただでさえ諸外国に比して高い日本の産業用電力料金をさらに引き上げることになるのだから日本の懸念も当然である。

共同声明では「35年までに電力セクターの大宗を脱炭素化する目標へコミットし、30年の温室効果ガス排出削減目標及びネット・ゼロのコミットと整合性をとりながら、国内の排出削減対策の講じられていない石炭火力発電を最終的にフェーズアウトさせるという目標に向けて具体的かつ適時の取り組みを重点的に行う」とされ、年限を明示することは見送られた。「35年までに電力セクターの大宗を脱炭素化(predominantly decarbonized electricity sectors by 2035)」との整合性が論点となるが、predominantlyの解釈には幅があり、発電部門における化石燃料のシェアを41%に抑えることを目指す日本の30年目標がこれに反していることにはならない。

「排出削減対策を講じていない(unabated)」の定義も明らかにされていない。共同声明ではメタン削減に関し、「フレアリングやメタン削減(abatement)プロジェクトを推進し、石油ガスセクターにおけるメタン排出削減のための政策を強化するための他の産油・産ガス国との協力にコミットする」としている。ここでいう「abatement」という用語を火力発電に当てはめれば、石炭火力のCO2排出削減のために日本が推進するアンモニア混焼、バイオ混焼も立派なabatement である。

天然ガス価格上昇によりアジア諸国で石炭が想定より長く使われる可能性がある。「CCSでなければunabated ではない」という解釈ではアジア諸国がついてこない。現実的対応が求められる。 

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

エネルギー・環境政策を強化 第二次マクロン政権で省再編


【ワールドワイド/経営】

フランスでは今年4月に行われた大統領選挙でマクロン大統領が再選を果たした。同氏は、昨今の欧州大でのエネルギー価格高騰やロシアによるウクライナ侵攻などへの対応として、エネルギー・環境政策の強化を掲げており、5月に行われた組閣では、それぞれの政策のより強力な推進を目的とした省の再編が行われた。これまでエネルギー・環境政策を一括して担っていた環境移行・連帯省が、エネルギー転換省およびエコロジー転換・地域結束省という二つの省に分割されたのである。

エネルギー政策はエネルギー転換省の管轄となり、マクロン大統領の「原子力と再エネの拡大」という方針を推し進める。具体的には、50年までに6基のEPR2(改良型欧州加圧水型炉)建設、50カ所の洋上風力発電所建設、太陽光発電の設備容量を1億kW以上へ引き上げといった、大統領の一連の公約実現に向けた工程を監督する。また、石炭火力発電所の閉鎖や産業部門の脱炭素化なども同省の担当となる。一方、環境政策はエコロジー転換・地域結束省が担い、地域ごとの環境保護、生物多様性、建物・交通部門の温室効果ガス(GHG)排出削減対策などを各自治体と連携して進める。

さらに新首相には、マクロン前政権下で環境移行・連帯大臣を務めた経験のあるボルヌ氏が任命された。同氏には、首相業務に加えてエネルギー・環境関係の新計画策定を行う任務が与えられ、前述の2省の大臣が補佐に当たるとともに、首相直下に事務局が新設されるなどの体制が整えられた。

この新計画に関する詳細は明らかになっていないが、国内の新たな環境目標を設定し、省庁・部門を横断した議論や大規模な国民討論などが行われる可能性が報じられている。同計画で国内の30年GHG削減目標(1990年比40%)を、EU目標の55%に合わせ引き上げる可能性もあり、第二次マクロン政権における重要なイベントの一つとなるだろう。 

このほか、国内の10カ年エネルギー計画や脱炭素化に向けたロードマップの改定、欧州委員会とのEDF(フランス電力)再編に関する交渉再開、脱ロシア産ガスに向けた供給力確保といった重要案件も新政権には待ち受けている。

第一次マクロン政権は20年再生可能エネルギー開発目標が未達に終わるなど、エネルギー・環境政策が不十分との批判を受けることが多かった。このような評価の払拭を図る新政権が、今後、どのように野心的な国内目標や対策で成果を上げるか、注目される。

(西島恵美/海外電力調査会調査第一部)

インドネシアの生産減退 石油メジャー撤退などが影響


【ワールドワイド/資源】

 インドネシアの原油・ガス田は成熟しており生産減退が続いている。原油とガスを胚胎している貯留層が比較的小さいためである。原油の2022年生産目標は日量70万3000バレルだが、15年実績(同77万9000バレル)と比べ約10‌%減少している。天然ガスも同様に22年生産目標は日量60億9000万立方フィート(ft3)と15年実績(73億7000万ft3)と比べ17・4%減少している。

政府は30年において原油日量100万バレル、天然ガス同120億ft3を生産するという目標を掲げている。この高い目標を達成するため、国営石油会社プルタミナが中心となり既存油ガス田における追加井の掘削およびEOR(Enhanced Oil Recovery:二次・三次回収)を実施している。また、エネルギー鉱物資源省は鉱区入札を通じて新規鉱区への開発投資を積極的に誘致している。

上流開発における問題点は、①エネルギー移行期の中で、投資意欲が湧いてくる新規油・ガス田の減少、②プルタミナによる既存権益の取得と、それに応じて大手石油会社(IOC)が保有してきた権益の減少、これに伴うIOCの同国からの撤退および開発技術力の低下、③上流規制監督機関(SKK Migas)の非効率さと投資意欲をそぐ高いローカル・コンテンツの存在にある。

①については、広大な領土と水域の資源探査は完了していない。アラフラ海など遠隔かつ大水深に可能性がある。一方、エネルギー移行の観点から化石燃料の新規エリアに投資する風潮が乏しい。

②については、従来の生産物分与契約(PSC)を見直し、コストリカバリー方式からコントラクターに多く配分し、そこからコスト回収を行うというグロス・スプリット方式へと転換を試みたが、大型プロジェクトにおいてコスト回収に年数がかかりすぎることから、どちらかを選択できるようになった。③は最終投資判断(FID)と同じくFEED(Front End Engineering Design)に入る前段階でのPOD(Plan of Deve-lopment)の政府承認が重要であり、SKK Migasの審査が技術およびコスト面に及ぶ。コストリカバリーの場合、政府負担コストがあるため審査は厳格でありかつ時間がかかることがある。

一方、小規模開発でグロス・スプリットの場合、審査期間が短くなる利点がある。ローカル・コンテンツ要求はオフショア大型プロジェクトの場合55%と高く、投資に影響を及ぼしている。

(加藤 望/独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

「読売よ、おまえもか」 地裁判決でアンフェアな批判


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

 電力会社を指弾して、全て責任を負わせればうまく行く問題なのだろうか。読売6月3日社説「原発再稼働、電源確保を着実に進めたい」である。

前半は、中国電力島根原子力発電所2号機を扱う。「再稼働すれば、昨年6月の美浜原発3号機以来、11基目となる。福島第一原発と同じ沸騰水型としては初めてで、意義は大きい」と述べる。

島根県の丸山達也知事が2日、再稼働に同意する考えを表明したことを受けている。

電力供給は、不安定な状況が続く。電気料金は上昇し、政府の対応が定まらない。そこにロシアのウクライナ侵略だ。世界的なエネルギー危機が深刻化している。少しでも安定な電源を増やしたい。妥当な内容といえよう。

問題は後半だ。

札幌地裁が5月31日、北海道電力泊原発に対して運転差し止めを命じたことについて、地裁は「理解が不十分」と疑問を呈しつつ、「北海道電力側にも問題が多い」と指摘する。

具体的には、「泊原発の安全審査は9年に及んでいる。北海道電力は原子力規制委員会の審査が続いていることを理由に、裁判で防潮堤の安全性を十分に説明せず、訴訟が滞っていた」とし、「規制委は安全審査が進まない理由に、北海道電力の対応のまずさを挙げている。地裁も今回、説明不足を厳しく批判した。安全審査や裁判に対応できる専門的な人材の確保が急務である」と説く。

この地裁判断を報じた6月1日の読売記事でも、見出しは「津波対策に不備」「提訴10年『安全』立証できず」「『規制委審査』理由に先延ばし」と北海道電力に対して極めて厳しい。

一方的に過ぎないか。必要なのは審査状況の客観分析だろう。

東日本大震災の後、基準そのものが抜本的に変わった。過去の審査データは全てゼロから再評価される。特に難しいのは地盤や地層のデータだ。発電所の建設は大規模な工事を伴う。地盤や地質は改変され、表土も削り取られる。改めてデータを取り直し、安全な地盤であると証明せよ。そう迫られても容易なことではない。

範囲を広げてデータを取る必要がある。海底の断層は、船から音波を発信して反射波を調べるが、漁業関係者の了解を得るのが大変だ。地上のボーリング調査も地権者の同意なしには実施できない。必要な費用の確保、専門業者の手配も手間がかかる。火山や地震の研究文献を広範に収集し解析・整理するにも時間を要する。

泊発電所の敷地内断層について、こうした調査データに基づき規制委が「活断層ではない」と認めたのは、やっと21年だ。

日経電子版5月6日によると、「(原発対応に当たる)160人のうち50~60人は(地震や火山などに対応した)経験者を充てている」(北海道電力)という。かなり多い。これ以上どう増やすか。国内にそれほどの数の地震、火山の専門家はいるのかどうか。

規制委は発足以来、審査長期化は電力側の責任としてきた。実態はどうだろう。求められるのは、その検証である。岸田首相も「審査の合理化・効率化を図る」(読売4月2日)と述べている。

むろん、地裁の判断は疑問だらけだ。規制委の審査中に独自の判断を下すのも越権行為にしか見えない。朝日電子版31日は見出しで「『規制委に代わり判断』原告ら安堵」と称賛するが、司法への信頼を傷つけないか。心配だ。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

【インフォメーション】エネルギー企業の最新動向(2022年7月号)


【東京電力エナジーパートナー/首都圏の分譲住宅に「バーチャルメガソーラー」導入】

東京電力エナジーパートナーは野村不動産と共同で「バーチャルメガソーラー」を開始する。東電エナジーパートナーが提供する太陽光PPAサービス「エネカリプラス」を活用し、野村不動産が首都圏を中心に展開する分譲戸建「プラウドシーズン」の約300戸に、メガソーラー発電と同規模となる総発電出力1000kW相当の太陽光発電(PV)を導入。住宅の購入者は契約期間の10年間、初期費用や月額サービス料なしで、PVで発電した電気を利用できる。さらに、空気の熱とPVの電気でお湯を沸かす「おひさまエコキュート」の併用で、光熱費の節約にもつながる。両社は休閑地が少ない首都圏における省エネ・創エネを推進し、「電力の地産地消」を目指していく。

【アストモスエネルギー/CNLPガスの供給・受入でCO2削減に貢献】

アストモスエネルギーは、盛岡ガス燃料や山代ガス、食協、広島ガスプロパン、吉武産業などと、カーボンニュートラル(CN)LPガスの売買に関する契約を締結し、供給・受入を開始した。アストモスエネルギーが調達・輸入するCNLPガスは、生産から燃焼までの工程で発生する温室効果ガスを、カーボンクレジットによってオフセットしたもの。このカーボンクレジットは、地球規模での温室効果ガス削減・排出抑制、現地での雇用創出や生物多様性の保護など、SDGsに関連する環境保全プロジェクトによって創出。第三者検証機関により、二酸化炭素などの温室効果ガス排出の削減あるいは吸収を認証されている。

【大京/分譲マンションでのEV充電コンセントを標準化】

大京は、今後開発する全ての新築分譲マンションの駐車区画にEV充電コンセントと、将来的にコンセントの増設が可能な空配管を設置する。現在は駐車区画数の10%にEV充電コンセントを標準設置している。設置率を50%に引き上げ、残りの区画は空配管にする計画で、業界初の取り組みとなる。EVの普及を促進し、持続可能な社会の実現に貢献することを目指す。この取り組みでは、ユビ電社の電気自動車充電サービス「WeCharge」を導入。全てのEV・PHV(プラグインハイブリッド)車に対応し、スマートフォンのアプリを使って利用手続きから充電量の算出、精算までを完結できる。使用料金はユビ電を通じて管理組合に支払われるため、管理会社の集金の手間を軽減する。

【静岡ガス/ガスエンジン増設で発電出力2倍に】

静岡ガスはこのほど、電力事業を手掛ける子会社の静岡ガス&パワーが富士発電所(富士市蓼原)のガスエンジン発電設備を2基増やすと発表した。8月に着工し、2023年度の運転開始を見込む。増設により、発電能力は既存設備の出力1万7000kWの約2倍の最大3万2610kWとなる。新設備は川崎重工業のものだ。発電した電力は同社が提供する「SHIZGASでんき」として販売予定。自社発電比率を向上させ、電力の安定供給と調達コストの低減化・平準化を図る。

【北海道電力/1000kW級の水素製造装置を導入】

北海道電力は苫小牧市に1000kW級の水の電気分解による水素製造装置を導入する。資源エネルギー庁の補助事業で2023年3月の運用開始を予定している。水の電気分解による水素製造は、再生可能エネルギーの余剰電力や出力変動を吸収し、再エネのさらなる導入拡大を図ることができる。運用開始後は、設備性能を評価するとともに、寒冷地における運用・保守技術の確立を図り、将来の水素社会の実現に向けた各種の検討を進める。

【IHI/アンモニア専焼に成功 低炭素社会の実現へ】

IHIはこのほど、相生事業所内(兵庫県相生市)の小型燃焼試験設備で、NOX(窒素酸化物)を抑制した状態でのアンモニア専焼に成功した。アンモニアは多量の窒素分を含むため、燃焼時にはNOXの排出濃度が上昇するほか、難燃性のため安定燃焼が課題になる。今回の成功により、火力発電用ボイラーにおけるアンモニア専焼技術の実用化が大きく前進した。

【コスモ石油ルブリカンツ/初のバイオマスマーク取得 ディーゼルエンジンオイル】

コスモ石油ルブリカンツは、植物由来のベースオイルが80%以上のディーゼルエンジンオイル「コスモディーゼル“カーボニュート”10W-30」を開発し、国内で初めて「バイオマスマーク(バイオマス度80%)」を取得した。製品中の植物由来成分が成長過程でCO2を吸収するため、CO2排出の低減が可能。販売開始は8月を予定している。

石油産業における革新的技術 官民一体で開発加速を


【オピニオン】髙橋直人/石油エネルギー技術センター 専務理事

 CO2排出量削減に向けた動きが世界的に加速している。グリーンディール政策やFit for 55 パッケージ法案が公表された欧州では、石油大手が温暖化対策目標の見直し・具体化、製油所の集約化やバイオリファイナリーへの転換、クリーン水素製造プロジェクトの立ち上げなどを進めている。各国政府もファンドの創設などにより積極的に支援している。

米国でも、大統領令による気候変動対策が打ち出され、石油大手は製油所の低炭素化戦略と連動しつつ、グローバル水素ハブ構築によるエネルギー転換戦略を掲げるなどCO2排出削減に動き始めている。

わが国も、第6次エネルギー基本計画における新たな削減目標の設定、グリーンイノベーション基金の創設などカーボンニュートラル社会実現に向けた動きが盛んになっている。わが国の石油産業も、低・脱炭素や資源循環に係る革新的技術開発をさらに加速し、その実現に貢献していかねばならない。

分子成分情報やデジタル技術などを活用した製油所操業最適化のさらなる高度化によりエネルギー消費量を大幅削減することや、製油所や給油所など既存のインフラを最大限に活用して水素の利活用に取り組むことが重要である。また、EV化が推進される自動車に関し、全てがEV化した場合の需要に見合うグリーン電力の確保について現段階では不透明である。SAF(持続可能な航空燃料)を含めバイオ燃料の開発・製造も進められているが、これも量的な課題がある。そうした中、CO2を有効利用して液体合成燃料を製造することは、選択肢の一つとして内外の期待も大きい。ただし、これも社会実装させるためには生産効率の向上や大量の安価なグリーン水素の調達など課題が山積し、官民が一体となって取り組む必要がある。

一方で、人口減少を含む社会構造の変化などにより石油製品に対する需要は減少していくことが見込まれるものの、平時・緊急時を問わず、石油が引き続き国民生活・経済活動に不可欠なエネルギーであることはエネルギー基本計画にも明示されている。しかし、カーボンニュートラル下における石油産業の将来を不安視して優秀な人材が石油から離れつつあるという話を聞く。プラントの保守点検を含め石油精製に関わる技術や新たな可能性にチャレンジする研究開発が滞るといった事態は避けねばならない。石油産業は、カーボンニュートラル社会における自らの将来像をしっかり描き、優秀な人材の確保に努めなければならない。

カーボンニュートラル社会の実現のためには旧来の取り組みの延長線上ではなく、イノベーションが不可欠である。それは、特定の企業・産業界のみの努力・負担によってなし得るものではなく、官民あげて連携・協力、必要に応じて適切な負担の分かち合いをしながら取り組んで初めて可能となる。2050年まで長いようで短い。取り組みを一層拡充・加速化していかねばならない。

たかはし・なおと 1988年東京大学法学部卒、通商産業省(当時)入省、商務情報政策局流通政策課長、特許庁総務部長、九州経済産業局長、日本政策金融公庫取締役などを経て2021年6月から現職。

【コラム/7月12日】まだまだ終わらない制度設計


加藤真一/エネルギーアンドシステムプランニング副社長

前回の寄稿から約半年が経ったが、当初のカーボンニュートラルブームに、ウクライナ情勢の悪化によるエネルギー安全保障の確保や電力需給ひっ迫への需給両面での対策の必要性が新たに加わり、さらに4月には新たな法施行、そして通常国会で多くの法案が審議・成立と、まさにカオスといった様相を呈している。

さて、今回はこうしたカオス状態の日本の電力を中心とした制度設計の状況について、前回からのアップデートをしていきたい。なにぶん、多くの制度・施策が並行して検討・実施されているので、ざっと振り返りたいと思う。

とにかく多い審議会と議論の範囲

毎月、国の審議会を追っているが、ここ数か月は情勢変化もあり、開催回数はさらに拍車がかかって増えている。私が毎月動向を追っている審議会について、今年の開催状況を数えてみたが、1月26件、2月34件、3月46件、4月43件、5月23件、6月35件と半年で約200件と、膨大であることがわかった。1日に数件の審議会が重なることも多々あり、人は密になるなと言いながら、会議のスケジュールは平気で密になるという、まさにコロナ時代ならではの珍現象も起きている。

分野についても、2050年カーボンニュートラル宣言以降は、脱炭素全体に係る議論や再エネ・地域に関する議題が多くみられたが、ここ最近は、足下の課題であるエネルギー安全保障や電力需給ひっ迫対策といった上流側の議論が多く取り上げられている。

ここまで多くなると論点がぼやけて見失いそうで、全体を網羅・把握して戦略立てできるのか心配になる。

大きな方向性としては、クリーンエネルギー戦略の中間整理でもあるように、エネルギーの安全保障と電力安定供給を前提に、炭素中立型社会実現に向けた政策を講じ、脱炭素と経済の好循環を巻き起こそうといったところだが、まだ目次が提示されたに過ぎず、そうした方向性に「魂」を込める作業は、この夏以降になるだろう。

今後のエネルギー関連制度の行方は?

毎度、出しているマップ(表1)を見ると、2022年度以降の主な制度関連のスケジュールも、カオス状態を継続することになりそうだ。このシートを作成するために、詳細にスプレッドで施策を落とし込んでいるが、膨大、かつ毎月のように進化していく。

昨年、今年については、電事法などの改正も目白押しなので、その都度、新たな施策がプロットされている。例えば、22年4月には、通称、「エネルギー供給強靭化法」が施行され、再エネ分野ではFIP制度、太陽光パネルの廃棄等積立制度、FIT認定失効が、新たな事業形態では配電事業、特定卸供給事業(アグリゲーター)の位置付けが、需要側を含めた取り組みでは特定計量制度や電力データ利活用といった制度が始まっている。まだ、始まったばかりなので、なかなか浸透していないが、特定計量制度では太陽光のPCSやEVの充電器での適用事例が出ており、電力データ活用では、ようやく認定協会が認定され、箱の用意はできた。FIP制度は、認定情報をまだ見ていませんが、1000kW以上を対象にした第1回入札では計5件の落札があった。ただし、募集容量には届かず、まだこれからといったところだ。逆にFIP電源を含めた再エネアグリゲーションビジネスを提供する事業者が複数でてきている状況だ。

この6月に閉会した第208回通常国会では久しぶりに提出した法案すべてが成立したが、エネルギー・環境関連でも多くの法案が審議・成立し、今年度以降、順次、施行される予定になっている。以下、少し紹介する。

脱炭素関連では温対法改正により、10月に株式会社脱炭素化支援機構が創設され、エネルギー起源問わずGHG排出量削減に資する事業等に国がリスクマネーを供給することになる。既に環境省の方でも人材獲得に動いているとの噂も出ている。いわゆる官製ファンドであり、しっかりと案件のソーシングをし、最適な投資ができるのか人材確保も急務となっている。

省エネ法も従来の化石エネルギーのみを対象にしたものから、非化石エネルギー(電気・熱・燃料)の利用促進が加えられ、特定事業者等にとっては、中長期計画に非化石エネルギーの目標策定と実行・報告が追加されることになる。電気であれば、自前で設置した自家発型やオンサイトPPA、系統を介したオフサイトPPA、自己託送といった需要家自らが非化石電源拡大に取り組むものは重み付けを、ある意味、お金を払えば誰でも買えてしまう再エネ100%小売りメニューやJ-クレジット、非化石証書、グリーン電力証書などは、非化石電気として評価されるものの、重み付けはないといった方向で議論が進んでいる。

また、エリア需給制約による再エネの出力制御発生時や、この6月末のように需給ひっ迫した際に、電力使用を最適にシフトすることを促す施策も取られる。需要家にとっては、非化石エネルギーも計画的に使わないといけない、電力需給状況に応じて使い方も工夫しないといけないといった両面での対応が必要となるが、逆に、エネルギー事業者にとっては、新たなビジネスのネタが転がってくる可能性もあるので、チャンスかもしれない。

また、産業保安についても規律強化や規制緩和をしていくことになる。特に影響が大きいと思われるのが、小出力発電設備への規律強化。具体的には、10~50kWの太陽電池発電設備と20kW未満の風力発電設備を小規模事業用電気工作物と位置付け、これまで高圧以上に課せられていた使用前確認や技術基準適合義務、高圧以上で求められる主任技術者選任や保安規程提出に代替する基礎情報の届出が必要になる。他にも、今回の法改正以外では、4月から電事法施行規則改定で非FIT発電の分割への規制や、現在、経産・環境・農水・国交の4省連携で検討している再エネの適切な導入・管理等、再エネ主力電源化を目指すといっても、ただ闇雲に設備をつくればよいのでなく、しっかりとルールは守ったうえで導入・管理・廃棄までのライフサイクルを運営してほしいとの想いがある。

その他にも、政府の骨太の方針、クリーンエネルギー戦略中間整理、規制改革実施計画といった政府による大きな方向性は提示されつつある。また、再エネ海域利用法のラウンド2向けの公募指針の見直し、電力市場のあり方の見直し、容量市場・ベースロード市場の次回オークションに向けた準備、系統マスタープランのシナリオ策定等、多くの施策が並行して議論・審議されている。

これだけ多くの論点があるなかで、さらに電力需給対策を急務でこしらえ、あまり陽の目に当たっていなかったDRが活況し、脱炭素電源の新設が急がれ、原子力の再稼働や革新炉の開発検討が加速と、課題が積み上げられているのが、現在の日本のエネルギーや環境に係る制度設計の現場になっていると感じる。

筆者も、毎月多くの審議会等をウォッチしていて、全体感を見失いがちになることがあるが、そういう時は、一度、頭をリフレッシュして、あらためて全体像を俯瞰しなおしている。引き続き、このコラムでは全体の動向について取り上げていきたいと思う。

【プロフィール】1999年東京電力入社。オンサイト発電サービス会社に出向、事業立ち上げ期から撤退まで経験。出向後は同社事業開発部にて新事業会社や投資先管理、新規事業開発支援等に従事。その後、丸紅でメガソーラーの開発・運営、風力発電のための送配電網整備実証を、ソフトバンクで電力小売事業における電源調達・卸売や制度調査等を行い、2019年1月より現職。現在は、企業の脱炭素化・エネルギー利用に関するコンサルティングや新電力向けの制度情報配信サービス(制度Tracker)、動画配信(エネinチャンネル)を手掛けている。

原発と再エネの共生目指し新会社 首都圏への送電事業参画も視野に


【地域エネルギー最前線】新潟県柏崎市

世界最大の原発立地地域である新潟県柏崎市が今春、民間企業とともに地域エネルギー会社を設立した。

地域への電力供給から始め、今後は政府が進める海底直流送電に絡んだ事業への参画も目指す構えだ。

 柏崎市役所の住所「日石町」には、地域のこれまでの歩みが如実に表れている。この地は明治時代、ENEOSの系譜につながる日本石油が創業した場所だ。そして50余年前には柏崎刈羽原子力発電所を誘致。長年首都圏へのエネルギー供給を担ってきたことは、市の誇りとなっている。ただ、中越沖地震や東日本大震災の影響で原発停止期間が長期化する中、カーボンニュートラル(CN)に向けた対応が地域でも迫られるようになった。そんな状況下で今春、市は地域エネルギー会社「柏崎あい・あーるエナジー」を設立した。社名はIdeal(理想的な)、Realistic(現実的な)の頭文字から取っている。

「原子力はエネルギーセキュリティー上も、環境特性からしても当面優位性がある。ただ、地域経済が原子力だけに依存し続けることは現実的ではない。今後は原子力再稼働を限定的に進めて規模を減らしつつ、再生可能エネルギーを増やし、新たに産業を組み立て直す必要がある」。新会社社長を務める櫻井雅浩市長は、その意義をこう説明する。

多様なCN電源を確保 電力小売りは状況見定めて

こうした構想は6年前の市長選から掲げ、3年前に「地域エネルギービジョン」として示した。短中期としては「再エネと原子力のまち(2・5)」、そして将来像としては「脱炭素エネルギーのまち柏崎3・0」を掲げる。市民意識調査ではビジョンへの賛成が7割に上り、その中核を担う新会社設立を後押しした。

市が67・7%、INPEXと、自治体新電力事業を手掛けるパシフィックパワーが10%ずつ、JAPEX(石油資源開発)が3・3%、北陸ガスが3%出資するほか、金融機関や地元企業も出資。各者の知見を生かし、再エネの調達拡大や、地域への電力供給、そしてゆくゆくは地域エネルギー会社としては前例がほぼない送電事業にも挑戦する意向だ。

当面は電源確保に注力することになるが、INPEX参画によりクリーンな水素の利活用が見込める点は同社の強みになる。INPEXは現在、新潟県内で水素製造・利用実証を進める。南長岡ガス田からのパイプラインガスを使い柏崎市内で水素を製造。その際に発生するCO2は減退ガス田に圧入してEGR(ガス増進回収)の実施を目指す。同社は、この水素を使った発電を2024年度にも開始する予定だという。商用発電ではないものの、新会社にとっては水素発電という次世代の電源確保がいち早く見込めるのだ。

自前の太陽光発電所も今年は1500kW程度を整備し、さらに来年以降も拡充する計画だ。同時にPPA(第三者所有)モデルや、ほかの再エネ発電事業者からの調達も進める。さらに櫻井市長は「原発の受け皿となるよう、新会社でも原発由来の電力を取り扱いたい」との考えも示す。市場調達を活用した電気、原発由来、再エネ由来と、さまざまなメニューをそろえたいと語る。

ただ、足元はJEPX(日本卸電力取引所)のスポット価格が大きく変動し、追加の電源調達が難しいなど、新電力事業にとって悩ましい状況が続く。新会社の小売りライセンスは早ければ秋にも取得できる見通しで、まずは公共施設への電力供給から取り組む予定だ。しかし、逆ザヤ状態が続くようなら売電開始時期を遅らせるなど、状況を見定めて戦略を練り直していく。結果的には、事業開始前に新電力を巡る課題が噴出したことで対応を選べるようになった。

海底直流送電計画に注目 陸揚げ地点として提案

櫻井市長が「中期目標」と力を込めるのが、政府が再エネ拡大に向け検討中の海底直流送電線に起因する、首都圏向け送電事業への参画だ。政府が策定を進めるマスタープラン(広域系統長期方針)の中間整理では、主に洋上風力の整備を見込み、北海道~東京間に800万kW規模の海底直流送電線を新設するとしている。海底からの陸揚げポイントはまだ決まっていない。

新会社設立の意義を説明する櫻井市長

市としては、日本海側のルートについては柏崎で陸揚げすれば、原発から首都圏向けの送電線の一部を活用できるメリットがあるとして、政府に提案している。柏崎市内での陸揚げが決まった暁には、①海底送電線と、首都圏向け送電線および地域系統線をつなぐ部分での送電事業参入、②直流・交流変換、③蓄電池を活用した潮流制御―に新会社として関わりたい意向だ。送電・変電・調整拠点を整備し、原子力に加え再エネを首都圏に送るエネルギー供給のハブ拠点化という構想を掲げている。

現在登録されている送電事業者は、電源開発送変電ネットワーク以外では、再エネ事業者などが出資する北海道北部風力送電と、福島復興支援の一環で設立された福島送電の二者のみ。両者とも一般送配電事業者が関わっている。あい・あーるエナジーの場合も今後、一般送配電事業者との連携や、どういった体制を整備できるかが重要になるだろう。さらに、送電・変電設備などには少なくとも1000億円レベルの投資が必要で、そのねん出も課題だ。

ただ、櫻井市長は、海底直流送電の計画に一定程度関与できれば、首都圏あるいはRE100対応を目指す地元企業に、再エネを有利な条件で供給することができると強調。加えて「18年の北海道ブラックアウトや、本年3月の東日本の電力ひっ迫、そして今夏・冬の厳しい状況を踏まえれば、洋上風力のポテンシャルがある日本海側から太平洋側への電力供給は重要な取り組み。そこで柏崎のロケーションを生かしてほしい。送電事業なしのご当地新電力で終わるつもりはない」と意気込む。

原発と再エネが共存する新産業創出に向け動き出した柏崎市。取り組みは緒に就いたばかりだが、その事業構想には地域エネルギー会社の新たな可能性が感じられる。

【マーケット情報/7月8日】原油下落、需給緩和感が台頭


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み下落。供給増加および経済減速の見込みで、需給緩和感が台頭した。

OPECプラスの6月産油量は、前月から大幅に増加。日量73万バレル増で日量3,826万バレルとなり、2020年8月以来の増加幅となった。当初の目標を下回ったものの、価格に下方圧力を加えた。さらに、ノルウェーEquinorが複数の油田で生産を再開。政府の介入で、労働者のストライキが収束した。続いていた場合、ノルウェー国内の石油ガス生産のうち40%が停止する可能性があった。

また、米国では、6月の製造業指数が過去2年で最低を記録。5月の消費指数も減速を示した。欧州でも、6月の製造業指数が低下しており、経済の冷え込みで、石油需要が弱まるとの見方が強まった。

一方、中国需要は回復の兆しを見せている。加えて、ロシアが、カザフスタン産原油の主要輸出港であるCPCターミナルの操業を、石油漏洩時の対策に不備があったとして一カ月停止するよう命令。ただ、価格の強材料とはならなかった。

【7月8日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=104.79ドル(前週比3.64ドル安)、ブレント先物(ICE)=107.02ドル(前週比4.61ドル安)、オマーン先物(DME)=102.12ドル(前週比4.28ドル安)、ドバイ現物(Argus)=103.07ドル(前週比2.73ドル安)

海外からの大量調達に対応 海上輸送にも「水素の時代」


【脱炭素時代の経済探訪 Vol.4】関口博之 /経済ジャーナリスト

 エネルギーの脱炭素化を担う水素、その水素の時代を拓く開拓者に、という願いからだろう、その船は「すいそ ふろんてぃあ」と名付けられた。今年の「シップ・オブ・ザ・イヤー」に選ばれた世界初の液化水素運搬船だ。日本船舶海洋工学会が選ぶこの賞、今年は船の世界でも“水素の時代”が来ているのを実感させてくれた。

川崎重工業が建造したこの船、タンクと船体をそれぞれ播磨工場・神戸工場で組み立てていた時に取材したことがある。水素が液化するのはマイナス253度、断熱には巨大な魔法瓶のような特殊加工技術がいる。タンクは1250m³とまだ小型なプロトタイプ船だが、日豪の水素サプライチェーンプロジェクト・HySTRAの一環として、今年2月には豪州から液化水素を無事、神戸まで運んできた。海外で製造した水素を日本に持ってくる、その幕開けを飾った意味で、まさに「今年の船」に相応しいだろう。

「すいそ ふろんてぃあ」は世界発の液化水素運搬船だ(提供:HySTRA)

実は今年のシップ・オブ・ザ・イヤーにはもう1隻、水素に関連する受賞船があった。こちらは水素で動く。広島県尾道市のツネイシクラフト&ファシリティーズが建造した「ハイドロびんご」という船だ。双胴型旅客船で小型客船部門賞を受けた。ユニークなのは水素も軽油も混焼できるエンジンを積んでいること。これなら仮に航海中に水素が切れても、ディーゼルエンジンで航行を続けられる。

さらにこの船、水素タンクトレーラーをそのまま船上に積み込んで、水素を供給する仕組みなのだ。船を想定した水素燃料のルールが未整備なこともハードルだったが、こうすることで船へのバンカリングの問題を乗り越えたという。何でもやってみるという開発チームの心意気を、そんなところにも感じた。

水素発電などで2050年には2000万tの水素が必要になると国は想定している。太陽光発電などの再生可能エネルギーによる電力で作る「グリーン水素」であれ、化石燃料を改質した「ブルー水素」であれ、その大半を日本は海外から調達しなければならない。

こうした水素の商用サプライチェーン化に向け、川崎重工業は液化水素の大型運搬船も計画している。基本設計によればタンク容積は16万m、約1万tの液化水素を積めるという。ほぼ今のLNG船と同規模で、20年代半ばの実用化を目指している。しかもこの船は、積み荷の液化水素が自然気化してしまって発生するボイルオフガスを燃料にする。つまりそれさえムダにしないよう考えられているのだ。

脱炭素化の切り札、水素をいかに大量に、かつ安価に運ぶか、これは大命題だ。「水素キャリア」としては液化水素だけでなく、水素をトルエンと反応させたMCH(メチルシクロヘキサン)や、水素と窒素でつくるアンモニアも有力な候補とされている。コストや使い勝手など、それぞれ長所短所はあるが、競い合いながら水素時代のフロンティアを拓いて行ってほしい。

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.1】ロシア軍のウクライナ侵攻 呼び覚まされた「エネルギー安保」

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.2】首都圏・東北で電力ひっ迫 改めて注目される連系線増強

【脱炭素時代の経済探訪 Vol.3】日本半導体の「復権」なるか 天野・名大教授の挑戦

せきぐち・ひろゆき
経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。