【コラム/9月6日】次の電力政策を考える~競争政策から産業政策に転換を


飯倉 穣/エコノミスト

1,電力システム改革見直しの覚束無い中、暑い夏が過ぎる。酷暑の中、停電の懸念がよぎる。

近時電力需給に関わる記事が多い。「東電、料金3割上げ 来月、「電力難民」企業向け 中部電・関電も引上げ」(日経22年8月20日)、「首相指示 原発 新増設を検討 運転期間延長も」(朝日同25日)等々。

90年代、官は、電力の地域独占の問題(新規参入困難、再エネ不熱心、適正コスト不明・総括原価、電力会社の態度)の除去を狙い、電力システム改革を始めた。発送電を分離して独占が残る送電には公平な規制を導入する。発電と配電は自由市場とする。卸売のスポットマーケットを育成する。そして長期的な視点の設備投資市場の整備を目指した。

そして20数年、東日本大震災・福島第一原発事故ショック時の政権の思惑が、電力システム改革推進に走り、続く政権も踏襲した。16年小売全面自由化、20年発送電分離で官製電力自由化が完成した。改革キャッチフレーズは、自由競争市場で安定供給強化、市場競争・効率化で料金(価格)低下、電気を選べる時代だった。競争政策は、消費者重視を謳った。その消費者が、電力需給逼迫警報等で不安を煽られている。何故だ。 

2,電力自由化は、様々な政治的・政策的・行政的・他産業不満配慮等の思惑で出発した。技術革新乏しき電力業で、自然独占・事業規制の論理を超える正しい経済論があったわけでない。

米国、EUの電力自由化をヒントに 公益事業(独禁法の適用除外)の扱いでなく米国要求消費者重視・競争政策の徹底(独禁法強化)を画策した。つまり新自由主義・市場重視の流れで電力需給を市場に委ね価格で調整することを良とした。

すべて市場が解決する。一般の商品同様需給逼迫なら価格高騰し需要減・供給増で需給均衡すると見た。停電は、品不足であり、電源は誰でも開発できる時代、供給力不足なら即時電源建設可能と装った。電源・小売りで新規参入・退出自由という競争促進が、電力の低廉安定供給に有効である。且つ効率化が進み料金も低下すると喧伝された。 

3,現状をどう評価するか。競争政策の専門家は、発電・送配電・小売りという垂直的な取引関係を内部に持つ大手電力会社を分割することが社会厚生上望ましいか一概に言えない。垂直統合は、取引コスト低減、不慮の事故生起時の安定供給確保に寄与する。他方垂直統合は、独立系の発電・小売事業者の送配電アクセス困難、競争が鈍る可能性がある。需給調整市場の整備の姿、自然災害対応の議論も重要と指摘する(大橋弘「競争政策の経済学」21年4月)。競争重視・独禁法強化の論者も現実を前に判断先送りである。

日本を前に進める官僚・自由化論者は、電力自由化万歳であった。卸電力市場開設、長期的設備投資市場整備で、安定且つ低廉な電力供給可能と見た。最近ある自由化論者の発言が流れた(NHK6月13日「ある日電気が来なくなる!?」。「電力料金は安くなると楽観していたが・・」という発言であった。耳にしたとき、吉田茂首相の南原繁東大総長批判を思い出した。

4,現状の需給逼迫状態の打開を探る動きもある。「総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会電力・ガス基本政策小委員会」は、22年度電力需給対策として、引き続き厳しいLNG燃料購入環境を踏まえ、点検中の発電所運転開始の確認、追加供給力(kW)の公募、燃料確保に向けたkWh公募を提示した(7月20日)。これは小手先対応である。需給逼迫は今後も継続すると示唆した。

又中期の視点から「卸電力市場、需給調整市場及び需給運用の在り方に関する勉強会」は、現行制度の下で安定供給を図る対策を検討した。そして取りまとめを公表した(6月20日)。目指すべき姿として①電力の安定供給確保、②持続可能、効率的かつ公正な電力供給の実現を掲げ、日本全国で最適運用が可能な需給運用・市場システムを作ると述べる。これまでの電力システム改革(自由化)が機能してないことを明らかにした。問題は、目指す方向である。

経産省は、「あるべき卸電力市場、需給調整市場及び需給運用の実現に向けた実務検討作業部会(以下作業部会という)」を立ち上げた(7月29日)。

作業部会は、需給運用上の不確実性が拡大する中で 日本全国で最適運用が可能な需給運用・市場システムを目指し、①中長期(数年~2か月前)的に確実な燃料確保の姿、短期(実需給1週間前)の安定供給の電源起動とメリットオーダーを検討する。②そして卸電力市場の先物取引拡大で燃料確保に先見性を付加するという。機能しない卸電力市場の欠点に継ぎ接ぎを試みる。そして欧米市場を参考に、先物に金融資本の活用を期待する。投資金融は、投資的性格でなく投機的性格が強い。果たして安定供給に寄与するだろうか。また先物市場で需要見通しを明確にする試みは、効果不明の思い込みで、対外的な購買力強化にならないであろう。

電力システム改革の本質を問う問題、安定供給と料金安定対策としてどのような体制が適当か、つまり競争政策(自由競争市場)か産業政策(安定供給義務と公益事業的扱い)か等の問題提起を回避している。

5,繰り言となるが、国内の電力需給安定と合理的な価格形成を図るためには、次を考慮する必要がある。電磁気学に従えば、電力産業は、電場を提供している産業である。需要家は、スイッチ一つで電場の利用を行う。電場の提供とは、電力会社が、需要家のつなぐコンセントに、常時電場(電流としての電子)を、発送配電というサーキット内で需要を見越し維持することである。

自由化で発送配電を分離すると、第一に発電事業者は、電場販売で在庫ゼロを合理的と考え、発電は利潤最大化を目指し、需要を少なめに見積もる傾向となる。第二に発電部門と送電部門は、契約関係で言えば、不完備契約となる。そこでは情報不十分で、投資は必要水準より少なくなる。第三に電力産業は、自然条件や需要の視点を含めて、不確実性が大きい。投資リスクが高いので、投資を躊躇する。また需要家に必要なベース電源の共有・負担が必要である。((南部鶴彦「電磁気学と経済分析の接合の試み」(公益事業研究72巻第1号20年9月)等の指摘)。

また対外的にエネルギー確保の方策を熟慮する必要がある。日本が持てるのは、国民(需要家)負担の計画的な購買力だけである。それを分散すれば、購買力は低下する。また一定の計画がなければ、調達量を確定できないであろう。この意味でも、電力業は、産業政策的管理が適当である。過去30年間の消費者重視・競争促進・市場任せの競争政策は、功を奏していない。再考が必要である。

6,日々電力需給逼迫問題がマスコミを賑わせ,大本営本部発表は、国民を困惑させている。ある高名な政治ジャーナリストは岸田文雄政権の課題(難題と難局)として、11項目を挙げた。コロナ感染危機、安保防衛力整備、物価高騰対策、エネルギー・電力ひっ迫、10増10減区割り法案、人口減少社会、新しい資本主義、150兆円GX投資、日銀総裁人事、憲法改正問題、外交・安全保障である。その中に電力需給逼迫を挙げた。優先課題として産業政策で今後の電力システムを見直すことを期待したい。

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。

培った技術・技能を次世代へ 業務効率化と人材育成の課題に挑む


【中国電力ネットワーク】

中国電力ネットワークは、設備の巡視点検を効率化するモービルマッピングシステムを導入した。

災害時に核となり配電設備の復旧に当たる部署も発足させ、技術継承と早期復旧に取り組む。

 人材の高齢化や労働人口の減少が進む中、限られた要員で効率的に業務を進め、スキルを伝承することは、送配電事業においても大きな課題になっている。

中国電力ネットワーク(NW)は、配電業務の効率化と技術・技能の継承につながる二つの取り組みを進めている。①電柱などの配電設備の画像を取得する「モービルマッピングシステム(MMS)」の導入と、②災害復旧の専門家集団「配電広域復旧課」の設置――だ。

MMSは、車両にステレオカメラやGPSなどの機器を搭載し、走行しながら設備などの画像を取得するシステムで、NTTグループが開発した。これを地上から15m程度の高さの電柱全体に対応できるようカスタマイズし、配電設備の巡視点検に活用する。

車両の前方と後方に3次元の画像データを取得できるステレオカメラを2台ずつ設置。さらに進行方向の左側を撮影する単眼カメラ2台、合計6台のカメラを搭載した車両を走らせ、道路左側の電柱や設備の画像を2mおきに撮影する。取得した画像と位置情報をPCに取り込んだ後、画像を確認することで、配電設備の正確な位置や現地の状況が把握できる。メンテナンスが必要な設備の判断を事務所で行えるというわけだ。

MMS導入で効率化に期待 AI活用でさらなる展開も

従来、配電設備の巡視点検は、技術者が現地に出向いて実施してきた。電柱全体や、電線、引き込み線、支線などを目視点検しながら、必要に応じて設備を計測することもある。MMSを活用することで、一日で100本程度の画像を事務所で計測できるとともに、そのエビデンスを画像として保存することも可能になった。例えば、たるみのありそうな電線の地上高など、計測が必要だと判断した設備の始点を画面上で触れると、鉛直方向真下の距離を瞬時に測れる。電線付近の樹木との距離や設備の奥行き、支線の角度なども画面上で簡単に計測が可能だ。

MMSの仕組み。画面上の計測値は実測とほぼ一致する精度の高さだ

配電部の上田明正部長は「設備は問題がなくて当たり前。問題のある数少ない設備を発見するために、歩いて電柱を確認していた。その労力を減らし、改修計画などに専念できるようにしたかった」と導入のきっかけを振り返る。

中国電力NWが管理する電柱は約170万本。8割近くは道路沿いに立っており、MMSで撮影が可能だ。昨年12月に導入し、22年度中に対象電柱の撮影完了を目指しており、今後は2年ごとに更新したいと考えている。

技術者が現場に出向く負担が減る一方で、後進へのノウハウの伝承機会が減るのでは? と聞いてみた。「現在検討中の重要な課題。経験の浅い社員には熟練技術者と一緒に画像の確認作業を行わせて、熟練技術者からノウハウを受け継ぐ機会としたい。短期間に多くの事例を見て、より早く覚えられるため、一定レベルまでの到達は早くなるだろう」。

不具合が発見された場合には、現地に出向く熟練技術者に同行して経験を積んでいく。

今後はAIが、錆による劣化や電線の地上高不足などを画像診断できるよう、さらに開発を進める。老朽化した電柱の立て替え時にも、必要な材料や立て替え位置を自動設計できる機能を追加するなど、さらなる効率化を目指す。

災害対応の専門部署 迅速復旧を目指す

近年、自然災害が激甚化し、災害時のレジリエンス強化の必要性が高まっている。中国電力NWは、社内の復旧体制を強化するため2022年2月、災害復旧の専門家集団「配電広域復旧課」を発足させた。

従来の災害復旧作業は、配電業務を行う社員が、月例訓練などの定期的な訓練を受け、有事の際には業務を調整しながら現場に向かっていた。同課の設置により、災害発生時の供給エリア内外への迅速な復旧応援体制が強化された。

四つの事業所に設置された同課には、計50人が所属。若手からベテラン社員まで幅広い層で構成され、配電社員の技術・技能教育の中心も担う。平時は各拠点を定期的に訪問し、復旧作業の教育・訓練を行い、スキルの向上を図る。自らの災害対応力向上のための自主的な訓練や、自衛隊や海上保安庁などの社外関係機関との連携強化に向けて、災害を想定した合同訓練などにも取り組む。

送配電会社4社で「西地域共同訓練」を実施した

「災害時に真っ先に駆け付ける配電広域復旧課は、常に高い使命感と責任感を持ち、災害時には現場の核となる。専門部署があると、ノウハウの蓄積にもつながる」と、上田部長は期待を寄せる。

業務効率化のために導入したMMSは、災害時にも活用が見込まれる。大規模災害時は、まずMMSで画像データを取得する。被害状況を把握して、被災エリア全体の復旧計画策定の迅速化に活用するなど、レジリエンス向上にも役立つと考えている。

中国電力NWは、引き続きMMSの活用や配電広域復旧課の取り組みで、効率化と技術・技能の継承による人材育成を進め、電力の安定供給に取り組んでいく。

「導入したMMSは活用性が広い」と話す上田部長

【イニシャルニュース 】 エネ政策の旗振り役へ 資燃部の組織改革に注目


 エネ政策の旗振り役へ 資燃部の組織改革に注目

資源エネルギー庁資源・燃料部石油流通課でLPガスの政策課題を担当してきた企画官のポストが廃止され、「エネ庁におけるLPガスの政策的位置付けの後退を象徴している」(エネルギー業界関係者X氏)と、業界を騒然とさせた。

これに対しエネ庁幹部S氏は、「地方の人口減少という大きな構造転換とカーボンニュートラル(CN)の流れを踏まえれば、業界の垣根を超えて考えるべき課題が大きくなっている。その第一歩として、石油流通課が石油、LPガス両業界を一元的に所管することになった」と、その意義を強調する。

S氏のこの言葉から推察されることは、資源燃料部の組織改革はこれにとどまらないということだ。エネルギー行政に詳しい大物学識者のK教授も、「資燃部は来年4月に向け大々的な組織変更を行おうとしている」と指摘する。

エネ庁内で存在感を増す資源燃料部

これまでのエネルギー政策の焦点は、低・脱炭素時代に向け、電源構成における原子力と再生可能エネルギーの比率をどこまで引き上げられるかにあった。これらを管轄するのは、電力・ガス事業部と省エネルギー・新エネルギー部であり、炭素を排出する化石資源を管轄する資燃部の影は薄かった。

ところが、2020年10月の菅義偉前首相による50年CN宣言以降、脱炭素化の鍵を握るアンモニアやCCS(CO2の回収・貯留)技術が欠かせなくなり、それによって資燃部のプレゼンスも一気に上昇。「これをきっかけに、資燃部がCNの旗を振ろうという思惑が見えてくる」(K教授)

当然、CN系のアンモニア燃料やCCSなどを所管する部署の新設は避けて通れない。新時代の政策展開を見据え、エネ庁内の組織を統廃合する動きが来年にかけて本格化しそうだ。

再処理工場の完成遅延 日本原燃M氏に賛否

日本原燃の最高幹部であるM氏への風当たりが強まっている。六ケ所再処理工場の完成時期の遅れに加え、パワハラ批判などが一部月刊誌に掲載された。しかし、原燃を取り巻く社外の電力関係者の間では逆に、同氏への同情の声が強まっている。

原燃は9月に再処理工場を完工する予定だったが、原子力規制委員会・規制庁の審査が遅れ、実現はほば不可能になっている。規制庁、原燃の双方が審査の遅れを批判する中、審査の対応を巡り、社内ではM氏に対し「強権的」「現場の声を聞かない」といった声がささやかれているという。経済誌Sの2月号に、このような論調の批判記事が掲載され波紋を広げた。

一方、社外からはM氏にエールを送る向きが広まっている。原燃は各電力会社の出向者が幹部を占める寄り合い所帯で、社風はかなり緩い。それを真面目なM氏が是正しようとした結果、あつれきを生んだというのが周囲の見方だ。

「M氏は熱い。しかし審査対応の人に同じ熱量は感じない」と、事業者に冷たいとされる更田豊志規制委員長さえ、今年1月の意見交換会で同情を寄せた。

また23年の青森県知事選を機に引退が見込まれるM知事が、任期中に再処理工場完成の目処をつけたいと、原燃への支援を強める意向らしい。とはいえ、再処理工場の完成が遅れれば、M氏らの進退を含めた責任論が出そうだ。もとっとも、「彼がもし辞任すれば後任探しは大変だ」(関係者)との身勝手な意向も電力業界にはある。

S商事が狙うSガス株 断続的に買い増し

S市エリアで、地域のエネルギー会社同士による株式取得劇が密かに関係者の関心を集めている。

大手石油元売りE社系の大手特約店、S商事は8月8日、都市ガスS社の株式を1・04%買い増し保有比率が27・9%になったと、財務局に報告した。Sガスの筆頭株主であるS商事は16年ごろから同社の株式を断続的に取得し始め、昨年は3月1日、5月20日、6月3日、7月7日、19日、8月3日、8月17日、10月7日の計8回にわたって、約1%ずつ株を買い増した旨を報告している。

これまで対外的にS商事の意図は不明だったが、ここにきて理由の一端が明らかになった。関係者によれば、S商事とSガスは、S市エリアを舞台にした環境省の「脱炭素先行地域」事業で協業する計画だ。

脱炭素先行地域に指定されたS市

具体的には、E社を含めた3社が中心となり、S市内の一円から太陽光発電の「オフサイトPPA(電力購入契約)」モデルで集めた余剰電力を、同エリアに供給する。「両社の協業がようやく実を結び始めた」。地元のエネルギー事情に詳しい関係者X氏はこう話す。

ただS商事では今後もSガス株を買い進め、3分の1以上を保有する展開も想定される。「もしそうなれば、Sガスの経営は実質的にS商事の支配下に置かれることになりかねない」(X氏)。水面下では、両社の熾烈な駆け引きが繰り広げられているのかも。

環境切り札に足場固め 小泉元環境相が奔走

「自民党が旧統一教会問題に揺れるこのタイミングで存在感を示そうとしているのは、さすがかつて郵政解散を演出した、あの父親の血を引く息子だ」

こう話すのは、自民党最大派閥、清和会に所属する重鎮議員の秘書K氏。郵政解散を演出した「あの父親」とは、当時の総理大臣、小泉純一郎氏。その息子とはもちろん、小泉進次郎元環境相のことだ。清和会を率いていた安倍晋三元首相が凶弾に倒れ、旧統一教会と自民党保守派の関係に非難の声が集まる中、冷や飯食らいの続く進次郎氏にとって、ここがチャンスと捉えている関係者も多い。

「旧統一教会系団体と関係が深い清和会と違って、資金力や集票力に優れる進次郎氏は彼らの力を借りる必要がない。ある意味、クリーンな立場で第二次岸田改造内閣に意見する役目を狙っている」(秘書K氏)

環境相時代の進次郎氏は、中井徳太郎前事務次官らとカーボンプライシング(CP)導入に向けて精力的に動いてきた。保守派の一部からは「ドラスティックな環境政策に消極的な保守系議員との対立軸を作り、味方を募る可能性がある。これは小泉親子が得意とする手法だ」(秘書K氏)という指摘も聞こえる。

最近では従来主張してきた風力・太陽光だけでなく、バイオマス混焼によるCO2削減にも理解を示し「現実路線に修正してきた」(メディア関係者)と評価する声もある。環境政策を切り札に、将来を見据えた足場固めへ奔走している。

安倍氏が水面下で画策 K再稼働のウルトラC

安倍晋三元首相の死去を機に、その影響力の大きさを再認識する状況が続く。原子力については自らの長期政権時代に前進させることはなかったが、実は最近、長期停止中のK原発再稼働に向けた「ウルトラC」の実現を働きかけていたようだ。

K原発を巡っては、T電力が新規制基準への対応を進める中、相次ぐトラブルが発覚。事業者への信頼が揺らぎ、地元での議論も進んでいない。H知事は再稼働容認派であるものの、これまで二度の県知事選では再稼働に関する議論を封印してきた。

事態が膠着する中で安倍氏が考えた秘策とは、再稼働とのバーターで、参院選も見据え、S島の世界遺産登録を進めることだった。S島はH知事の出身地である。それにこれまでも、他地域で原子力への反発が強まった際に新幹線建設の話を進めるなどの前例があったようだ。

「S島の世界遺産登録には外交問題が絡むため、当初外務省も文部科学省も消極的だったが、そこに安倍氏が働きかけ、急きょ申請をすることになった」(政府関係者X氏) 

しかし本来のプロセスではドラフト版を出して正式版を出すところ、文科省はドラフトを出さずいきなり正式版を提出。結果としてユネスコに不備が指摘され、登録は見送られた。

「県議会などの政府への信頼は失墜し、文科省の大失態だ。もし参院選前に公になっていれば選挙の結果も変わっていた可能性がある」(同)。事業者に続き、今度は政府のオウンゴールで、再び振り出しに戻ってしまった格好だ。

九州・卸電力市場の特異性 夜間で0.01円に張り付く日も


LNGや石炭輸入価格の高騰がとどまる所を知らない状況下で原子力の稼働が進む西日本と、いまだ稼働ゼロである東日本の間で、電力市場の価格差が一層広がっている。西日本の中でも特に安値で推移しているのが、現在、川内1、2号と玄海4号の計3基の原子力発電所が稼働する九州エリアだ。

JEPX(日本卸電力取引所)のスポット市場価格の月平均は、システムプライスが5月の1kW時16.95円から8月には26円台へと上昇し続けている。これに対し、九州のエリアプライスは5月の13.97円から6月は16円台に若干上がりはしたものの、7、8月は再び13円台と落ち着いている。

さらに特徴的なのが、夜間の価格が一ケタ台の日がたびたびあることだ。場合によっては0.01円に張り付くような極端な日もある。こうした日の他エリアでは、夜間の価格はほぼシステムプライスと同水準で推移しているのに対し、九州だけが平均から乖離して低い価格が続いている状況だ。

九州の価格動向については、「夜間に原子力の余剰電力を限界費用で市場に出しているということだろう。九州に本社を移す会社が出てくれば、電力需給上は良い方向にいくかも。ただ、この状況はあくまで九州限定。夜も0円で札入れできるということが変なメッセージになりはしないかという懸念もある」(新電力関係者)といった見方が出ている。

各社の規制料金に残る「深夜料金」は多くの社では実態に即していないが、九州だけは例外のようだ。いずれにせよ、九州の特異な状況は、原子力の稼働が電力価格の引き下げに大きく寄与することを改めて示したと言える。

【マーケット情報/9月2日】原油反落、需給緩和の見込み強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み反落。需給緩和観を反映した。特に、米国原油を代表するWTI先物および北海原油の指標となるブレント先物は、それぞれ前週比6.19ドルと7.97ドルの急落となった。

中国で新型コロナウイルスの感染が再拡大。四川省の成都市で厳しいロックダウンが敷かれ、経済がさらに冷え込み、石油需要が弱まるとの観測が強まった。加えて、欧州の8月製造業指標は前月から一段と悪化している。

また、イラクからの供給は、現時点では継続。政情不安を背景に出荷減が懸念されていたが、供給不安がある程度和らいでいる。

一方、G7はロシアの原油輸出に対し、12月以降価格上限を設けることを決定。これに対しロシアは、価格上限を受け入れた国には原油および石油製品を出荷しないと表明。供給減少の可能性が台頭するも、価格を支えるには及ばなかった。

【9月2日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=86.87ドル(前週比6.19ドル安)、ブレント先物(ICE)=93.02ドル(前週比7.97ドル安)、オマーン先物(DME)=94.67ドル(前週比4.85ドル安)、ドバイ現物(Argus)=94.37ドル(前週比4.73ドル安)

柏崎刈羽で問われる決断 整いつつある再稼働への道


緊迫度を増すエネルギー情勢から柏崎刈羽原発6、7号機稼働への期待は高い。

しかし再稼働までのハードルは依然高く、政権の関与が欠かせなくなっている。

柏崎刈羽原子力発電所6、7号機が再稼働を前に足踏みしている。6、7号機は2017年12月、BWR(沸騰水型軽水炉)では最も早く新規制基準の適合性審査に「合格」。だが、その後東京電力の核物質防護での不手際、地元新潟県での「混乱」などで、稼働に必要な①国の許認可、②地元同意―が得られていない。現時点で運転開始の時期は見通せない。
電力需給ひっ迫、料金高止まりの解決策として原発再稼働への期待が高まっている。中でも大規模な6、7号機(出力各135万6000kW)は首都圏への電力供給で大きな役割を果たす。岸田政権での政策上の優先度も高い。再稼働はいつになるのか―。

原子力部門の改革に本腰 中部電「大物OB」を起用

柏崎刈羽では21年1月、他人のIDカードを使って中央制御室に不正入室をしていたことが発覚。不審者侵入を検知する設備の故障問題なども続いた。重く見た原子力規制委員会は原子炉等規制法に基づいて東京電力に是正措置を命じ、原子力規制庁は追加検査を開始。規制委は21年3月、事実上の運転停止となる核燃料の移動禁止措置を命じている。

移動禁止措置により、再稼働に向けた終盤の段階である使用前事業者検査がストップ。燃料装荷前に行う検査は昨年8月から進めているが、装荷後の検査を行うことはできない。先に進むには規制庁が追加検査を終えた後、規制委による制限解除を待つ必要がある。

東電は問題への対応として21年9月、原因分析と改善措置計画をまとめた報告書を規制委に提出した。今は計画に盛り込んだ36項目の対策を講じている(長期の案件である2項目を除く)。

原子力部門の改革にも本腰を入れる。柱は本社機能の柏崎市への移転と外部人材の登用。本社勤務の約300人を柏崎市に異動させ、中部電力OBで取締役専務執行役員・浜岡原子力総合事務所長を務めた水谷良亮氏が発電所長補佐に就く異例の人事を行った。さらに自衛隊出身者や警察、消防などから専門家の登用も行っている。

東電の対策が奏功し、国の審査をクリアしたとしよう。次のステップになる新潟県の同意にも、高いハードルが存在する。

花角英世知事は再稼働について、①安全性を巡る県独自の「三つの検証委員会」の結果が出た後で議論を始める、②自ら判断を示した後、県民の意志を確認する―との方針を掲げている。

まず、①の議論の前提となる検証結果が出る状況にない。三つの検証委員会(県技術委、健康・生活委、避難委)での審議は頻繁に行われ、取りまとめなどが進んでいる。だが、三委員会の検証をまとめる「検証総括委員会」が二回目の会合(21年1月)から開かれていない。再稼働に慎重だった米山隆一前知事に指名された池内了委員長(総合研究大学院大学名誉教授)と、知事との間で開催について合意ができていないためだ。

検証総括委の運営要綱には、委員会の任務として「三つの検証の総括」と「総括に関し知事の求める事項」と記載されている。県側は要綱に沿って池内氏に開催を要請。だが池内氏は①県民の要望を聞く場を開催する、②柏崎刈羽の安全性についての議論を付け加える、③東電の(原子力事業者としての)適格性を多角的に論じる―などの求めに応じないことを理由に要請を受け入れていない。

検証総括委員長の「反乱」 意思確認の具体策は不明

検証総括委の開催について、本誌の取材に池内氏は「真に県民のための総括と考える事項の議論を行うという私の方針を県(花角知事)が容認しない限り、妥協の余地はない」と回答。県側との話し合いについては、「対立点をいったん白紙に戻して、検証総括委の運営を私に一任してもらえるなら話し合いの余地はある。しかし現時点(8月19日)において県からその意向は全く伝わってきていない」と述べている。池内委員長の検証総括委が再度開催される可能性は、極めて低い。

7月の県議会で与口善之県議(自民)は、花角知事に対して「池内委員長の処遇に一定の判断を下すべきではないか」と解任を求めた。これに対して知事は「任務・役割を理解した上で職責を果たしてほしい」と答弁している。委員長は23年3月末までが任期。県政界関係者は「知事は池内氏に態度を硬化させている。解任は世論の反発もあり難しいが、再任をしないのでは」と見る。

次のハードル、県民の意思確認も具体策は不透明だ。知事の答弁などから、①再稼働を判断した後で出直し知事選、②県民投票、③県議会での意見集約―が考えられる。このうち①②は「反対」が多数を占めた場合、再稼働へのダメージは致命的になる。世論調査で「反対」が過半数を超える中、現実的な選択肢とはいえない。

新潟県議会は23年4月に任期が満了し選挙が行われる。自民党が再稼働推進を打ち出し選挙戦に挑み、結果により県民意思を確認する―。この選択肢があり得る。

新潟県は国の関与を望んでいる(柏崎刈羽原発)

では、どう再稼働に至るか。次は本誌の予想である。

〈22年12月〉規制庁が核燃料防護などの追加検査を終了。〈23年1月〉規制委が核燃料の移動禁止措置を解除。〈2月〉国の使用前確認が終了。

〈3月〉知事が検証総括委の委員長に〇〇氏を指名。〈4月〉統一地方選を前に自民党幹事長が再稼働推進の方針を言明。

〈5月〉新潟県議選で自民党が勝利・検証総括委の報告書まとまる・県内各地で「県民の声を聞く会」開催。〈6月〉首相が新潟県を訪問し再稼働を要請・知事が県議会に再稼働の検討を要請。

〈7月〉県議会全員協議会が再稼働に同意。〈8月〉知事が再稼働を表明。〈9月〉7号機が運転開始。

これは推進側から見た楽観的なシナリオだ。最も高いハードルは「県民の意思確認」であり、自民党関係者の間では県議会での意見集約を望む声が多い。しかし「県内で広くアンケート調査を行い、県民のおおよその考えを知る方法もある」(上杉知之県議、未来にいがた)との声も出ている。知事は「力業を嫌う」(県政界関係者)といわれ、どの方法を選ぶかは誰も読み切れていない。

推進側の県政界関係者が望んでいるのは、知事の判断をバックアップする国の関与だ。与口県議は「国が責任を持って進めると表明すれば理解が進む」と話す。首相自ら新潟県を訪れ、「国益の観点から再稼働が必要」と県民に再稼働を要請する―。最後に問われるのは政権の実行力だ。

GX実行会議が始動 首相「原子力の政治決断」


岸田文雄首相が「新しい資本主義」の柱の一つに位置付けているGX(グリーン・トランスフォーメーション)の具体的戦略を検討する「GX実行会議」が、7月27日に始動した。足元のエネルギー危機を見据えた安定供給の再構築を前提に、GXに向けた今後10年のロードマップを検討する。特に注目されるのが、新たに創設する「GX経済移行債」の償還財源の在り方と、原子力政策をどこまで前進させるかだ。

後者については、会議に先立つ14日の首相会見で今冬に向け原発9基を稼働させると表明したものの、「既に織り込み済みの電源であり、特に需給が厳しい東日本の改善には寄与しない」(電力関係者)と冷ややかな受け止めが広がっていた。ところが27日の会議では岸田首相から格段に踏み込んだ発言が飛び出した。「原発の再稼働とその先の展開策など具体的な方策について、政治の決断が求められる項目を明確に示してほしい」と指示したのだ。実行会議には関係閣僚に加え民間から有識者も議論に加わるが、そのメンバーに勝野哲・中部電力会長も選ばれている。政府のエネルギー・気候変動関連の会議に電力関係者が名を連ねることは久しいだけに、今回こそは原子力政策がいよいよ動く可能性がありそうだ。

政府関係者によると「今回の論点は再稼働を9基以上に増やせないか、そして運転期間40年の延長を1回限りとせず60年以上にできないか。後者の延長問題についてはGX実行会議と同時並行で、原子力委員会でも方向性を示していく」ことになるという。目下の安定供給が切羽詰まる中、クリーンエネルギー戦略のように肩透かしに終わることはないだろう。

両西村氏が経産・環境相に 問われる「政策断行」の実力


今回の改造内閣では、骨格を維持しながら、有事に対応する『政策断行内閣』として、山積する課題に対し、経験と実力を兼ね備えた閣僚を起用した」

第2次岸田改造内閣の顔ぶれ (提供:朝日新聞社)

7月の参院選大勝の勢いに乗って、19閣僚中14人を交代させる大掛かりな内閣改造を行った岸田文雄首相。8月10日の発足会見で、第二次改造内閣についてこう表現してみせた。しかし直後から、政務3役を巡り旧統一教会との関係性が次々と明るみに。野党からは「統一教会隠ぺい内閣」(泉健太・立憲民主党代表)といった批判が噴出し前途多難の船出となったが、エネルギー政策の観点からは価格高騰・安定供給対策、GX(グリーン・トランスフォーメーション)対策、原子力発電の利活用、福島第一原発の処理水対策など、重要課題が山積みの状態だ。

そうした中で、注目の経済産業相には西村康稔・元経済再生担当相が就いた。原子力経済被害担当、GX実行推進担当、産業競争力担当、ロシア経済分野協力担当、内閣府特命担当大臣(原子力損害賠償・廃炉等支援機構)を併任しており、原子力からGX、ロシア問題に至るまでエネルギー産業に関わる重要政策を一手に担う。

元通産官僚の西村氏(1985年入省)は、経産省の多田明弘事務次官(86年)とは1年違いの先輩であり、省内には友人・知人が少なくない。また副大臣には、同じく元通産官僚の太田房江氏(75年入省)が就いた。こちらは西村氏の10年上の先輩だ。

「元官僚議員が出身省に正副大臣で戻ってくるのは珍しい。本来なら、経済産業政策に精通する政治家2人が大臣となったことを喜ぶべきなのだろうが、2人とも自己主張の強いタイプというのを考えると、人間関係に気を使いそう。両氏就任の一報が入ったとき、省内にはお通夜みたいな空気も漂っていたようだ」(元経産官僚)

とはいえ西村氏は慎重な滑り出し。就任会見でも、エネルギー資源の調達や価格高騰、原発の再稼働などの問題について事務局ペーパー通りの公式答弁に終始し、記者からは「自分の考えを何も言っていないに等しく、独自色は一切なかった」との声が聞こえた。

経済政策通の環境相 「税の議論は少々乱暴」

一方で、初入閣となった西村明宏・環境相。環境行政の手腕は未知数だが、かつて故三塚博衆院議員の秘書を務め、党の経済産業部会長の経験を持つなど経済政策通で知られる。

就任後の会見では、「税をかけて縛るのではなく、カーボンプライシング(CP)でより前向きに進めるよう企業の背中を押すことを考えていく」「CPで税をかけて厳しくすればいいという議論は少々乱暴」「経産省、環境省それぞれに省としての思いがある。そこを踏まえて、しっかり話をしていく」などと、自身の言葉で環境・経済両立の重要性に言及した。

エネルギー関係者の間では「産業界の事情に配慮し、バランスの取れた環境政策を展開してくるのでは」との期待感が漂う。「政策断行内閣」の実力を見せられるか。西村両大臣の手腕が問われる。

最新技術の「アップサイクル」 CO2フリー発電への第一歩


【Jパワー 松島火力発電所】

Jパワーは2021年4月、次世代エネルギーシステム「GENESIS松島計画」を発表した。

運転開始から40年を過ぎた松島火力発電所2号機に新設備を付加し、CO2排出削減や水素発電につなげる。

 長崎県の西彼杵半島沖に位置する松島は、大正初期から昭和初期まで「炭鉱の島」として隆盛を極めていた。石炭火力発電所の建設により、現在では「電力の島」として生まれ変わっている。対岸の港から市営船で10分ほど、島一周が10㎞弱で、島の大半が山林の自然豊かな土地だ。

島内には、発電所運転開始のタイミングで植えた桜の木が並ぶ。松島火力運営事業所の椎屋光昭所長は「社員寮への道に桜を植林して40年。桜坂と呼ばれ、春には島民の憩いの場になっている。これからも松島火力は地元の皆さんと一緒に歩み続ける」と話す。

松島火力発電所は1981年1月に1号機(50万kW)が、同年6月に2号機(同)がそれぞれ運転開始。高度経済成長後の石油危機の影響で、石油に大部分を依存してきたエネルギー供給源の多様化・分散化が叫ばれた時期。石炭火力の重要性が改めて見直され、日本初の海外炭専焼の大規模火力発電所として稼働を始めた。

島内から望む発電所(上)と内部のタービン(下)

石炭火力で初となる「超臨界圧貫流ボイラー」を採用。主蒸気圧力24・1MPa、主蒸気温度538℃は、当時世界最高水準の効率を達成していた。50万kWの単機出力も、石炭火力として当時最大級だった。燃料となる石炭は、豪州のほか世界各国の銘柄を輸入。異なる銘柄の石炭を組み合わせて燃やしている。1号機と2号機の発電電力量は、長崎県の平均電力需要量の約7割に相当する。

訪れた2022年7月12日は1号機、2号機ともに定格出力運転を続けていた。施設内部、特にボイラー付近の室温は50℃に迫る。

現地に駐在するJパワー火力エネルギー部の大根田健一審議役は「松島火力は運転開始から40年を過ぎたが、適切なメンテナンスと機器の入れ替えを行い、発電効率もほぼ変わらない状態で運転できている」と語る。

CNと水素社会実現へ 新技術を既存設備に付加

日本の石炭火力発電の高効率化は世界に冠たる技術だ。一方で50年カーボンニュートラル(CN)へ向け、石炭を含む火力発電所のさらなる低炭素、脱炭素を求める声が高まっている。JパワーではCNと水素社会実現のため、さまざまな次世代技術の開発・実装を進めている。

Jパワーが21年2月に公表した「J-POWER”BLUE MISSION 2050“」では、CN実現へ30年までに国内発電事業でのCO2排出量の4割削減(17~19年実績平均比)を目標に掲げている。その達成のための柱の一つが、新技術を採用した設備を既存の設備に付加する「アップサイクル」だ。

こうしたCN社会における次世代エネルギー供給に関するビジョンについてJパワーは「J-POWER GENESIS(Gasification ENErgy Sustainable Integrated System)Vision」と命名。CNと水素社会実現に新たな価値を生むという意味を込めた。このビジョンを実現するため、開発中のエネルギー転換システムを他施設へ展開していく。

GENESIS松島計画の概要

Jパワーは21年4月、「GENESIS松島計画」として、松島火力2号機にガス化システムを付加し、水素発電への第一歩とすることを発表した。2号機は高効率の酸素吹石炭ガス化複合発電(IGCC)への転換を進めていく。IGCCへの転換で発電効率が約1割上昇、CO2排出量も約1割削減できる。

将来的にはアンモニアやバイオマス燃料の混焼とCCUS(CO2回収・利用・貯留)を組み合わせCO2の排出量を実質ゼロとすることを目指す。さらに、既設のボイラーを撤去することで、大気中のCO2を燃焼前より削減することも視野に入れる。

高い出力調整機能有し 次世代エネルギー支える

GENESIS松島計画は、21年9月に設備の追加工事に向けた環境影響評価手続きを開始。24年の着工、26年度の運転開始を目指す。酸素吹IGCCに関しては、大崎クールジェンでの実証試験の成果を踏まえ、商用化へつなげていく。バイオマス燃料やアンモニアなどの燃料設備エリアやCCUSの追設可能エリアも発電所敷地内に設置する。

この計画が実現した場合、松島火力発電所はこれまでのベースロード電源としての役割に加え、石炭ガス化炉の高い出力調整機能を生かし、負荷追従性に優れた発電所となる。再生可能エネルギーのさらなる導入の課題となる出力の変動を補える発電所に大きな期待が寄せられている。ガス化設備で発生する水素に関しては、発電設備に利用するほか、他産業への供給も視野に入れているという。

椎屋所長は「新設のガス化炉にも負けないように、60年、70年と運用を続けていき、皆さまへ安定供給をしていかなければならない」と、今後の松島火力発電所の未来を語る。

既設火力をアップサイクルすることで、CO2フリー火力運用へ第一歩を踏み出した松島火力発電所。かつて石油危機後の石炭燃料活用の道を切り開いた松島が、今度は次世代のエネルギー供給を支える道標となる。CNと水素社会実現へ、松島から始まる新しい挑戦に注目だ。

松島火力発電所とその周辺地図

電源の脱炭素化と安定供給の両立なるか 新制度の初回オークション開催へ


低炭素電源への投資拡大を目的にした新制度が、2023年度にスタートすることになった。

脱炭素化の潮流が加速し大規模電源投資が停滞する流れを変えられるかが焦点だ。

 2050年のカーボンニュートラル実現に向け資源エネルギー庁が検討を進めてきた、低炭素電源への投資拡大を目的にした新制度の概要が固まった。23年度の初回オークション実施を目指しており、大型電源の新規投資計画が次々と頓挫する中、実効性のある投資確保策となるかが注目される。

新制度の名称は、「長期脱炭素電源オークション」。エネ庁は、総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)電力・ガス基本政策小員会制度検討作業部会(座長=大橋弘・東京大学大学院教授)において、新制度の①位置付け、②対象とする電源、③リードタイムの考慮、④調達方式、⑤制度適用期間、⑥拠出金の負担者、⑦リクワイアメント・ペナルティ―などについて昨年末から議論を重ねてきた。

容量市場の一部として運用 水素・アンモニア専焼に道筋

既に、供給力(kW)を確保する仕組みとして容量市場があるが、落札しても収入を得られるのが4年後の1年間のみで長期的な収入確保の見通しが立てられず、新設を促す手段として機能していない。新制度には、中長期の費用回収の予見性を高め、安定・大型電源への投資を促し安定した供給力確保を図る狙いがある。

まず新制度の位置づけについては、脱炭素電源への投資を促し、その容量を長期にわたって確保する狙いがあることから、「容量市場の一部」とする。容量市場では、「事前に決まっていない政策的な対応などを行う場合に特別オークションを開催する」としており、新制度はその一類型との考えだ。

対象は、カーボンニュートラルの実現が制度の前提条件であることを踏まえ、「CO2の排出防止対策が講じられていない火力発電所(石炭、LNG、石油)を除く、あらゆる発電所・蓄電池の新設・リプレース」を想定している。とはいえ、当初は、脱炭素燃料として有力視されるアンモニアや水素専焼の電源を新設することは困難。そこで、アンモニア・水素の混焼を前提とする新規投資について、①LNG火力の新設、②既設石炭火力の改修、③既設LNG火力の改修―を対象とし、石炭火力の新設は除外する。

この場合の混焼率については、第六次エネルギー基本計画などを基に策定された電力分野の「トランジション・ロードマップ」で、20年代後半にアンモニア20%、水素10%混焼を実装していくことを目標としていることから、新制度においても当面は、石炭火力へのアンモニア混焼率20%、ガス火力への水素混焼率10%以上(いずれも熱量ベース)を求め、今後の技術開発や商用化の状況を踏まえながら見直していく。

一方、今年3月の東日本エリアにおける電力需給ひっ迫を受けて浮上したのが、供給力の早期確保の観点からの新規電源投資の必要性だ。比較的短期に運転開始できる火力電源の建設を促進しなければならないが、①建設リードタイムが長くなり短期的に供給力に貢献することが期待できない、②CO2排出量の多い石炭火力や石油火力も対象となる―といった懸念も生じかねない。そこで、早期に供給力の提供を開始でき、CO2排出量も比較的少ないLNG火力の新設・リプレース案件のみを一定期間内に限り、対象とすることにした。

このほか、落札電源を決定する調達方式については、性能などを含め評価する「総合評価方式」ではなく「価格競争方式」を採用すること、制度の適用期間を20年とし、供給力の提供開始から収入が得られるようにすることなどが方向づけられた。

日本の電力安定供給は堅持されるか

新制度の実効性は 業界からは問題点指摘も

将来の安定供給確保へ、非常に期待が高まる新制度だが、業界関係者の間からは、狙い通りに機能するのか疑問視する声も上がっている。その理由の一つが、短期的な供給力確保のための投資対象としてLNGのみを認め、石油、石炭を除外していることだ。

昨今、供給力不足が懸念される背景には、老朽火力の長期停止や廃止によるkW不足があることは間違いない。一方で、ウクライナ危機に端を発し世界的なLNG価格の高騰と供給の不安定化が加速しているのが実情。エネ庁には、CO2排出削減に貢献しない石油や石炭を加える考えはないようだが、これに対し、「安定供給を目的とするからにはこうした燃料種も一定程度維持し、kW時不足に対応するべきだ」(大手電力関係者)との指摘がある。

もう一つは、新設・リプレースを計画している水素・アンモニアを燃料とする火力発電所が、サプライチェーンも含め脱炭素化された電源であることを担保する仕組みがないことへの問題意識だ。

これについて日本エネルギー経済研究所の小笠原潤一研究理事は、「低炭素型エネルギーシステムへの移行を目指し、イギリスが進めている政策パッケージが参考になる」と語る。イギリス政府は、CFD(差額決済契約)制度を活用した水素製造への支援などを通じ、30年までに500万kWのグリーン・ブルー水素の製造と、それを供給するための大規模ネットワーク・貯蔵のためのインフラ構築を目指している。

高度な専門性が求められる中、水素の輸送を含めた投資計画や各種技術的規則の策定など、円滑な低炭素エネルギーシステムへの移行で中心的な役割を担うため、系統運用者であるナショナルグリッドESOの機能を強化し「FSO(Future System Operator)」とすることも検討されているという。

日本では、今年3~4月に開催された、省エネルギー・新エネルギー分科会と資源・燃料分科会 合同会合が8月末に再開し、水素・アンモニアの商用サプライチェーン構築に向けた議論が本格化する。発電効率の低下の評価方法など「混焼利用」という特殊性を反映した議論が行われるのか、FSO的な役割を誰が担うのか―。電源投資促進策として有効に機能させるためには、こうした課題を解決し脱炭素燃料の大規模実装に道筋を付けなければならない。

【マーケット情報/8月26日】原油上昇、供給減見通しが支え


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。サウジアラビアが減産を示唆したことで、需給が引き締まった。

サウジアラビア石油相が、先物市場の流動性が低く、現物市場と乖離していると発言。また、ボラティリティも大きいため、市場の安定化を図るべく、OPECプラスが供給を引き締める可能性を示唆した。

また、カスピ海パイプライン・コンソーシアム(CPC)輸出港では、一部設備に損傷が見つかり、修繕開始から最低1カ月の稼働率低下が見込まれている。CPC輸出港はカザフスタン産原油の主な出荷元となっており、同原油の供給が減少する見通し。ただ、カザフスタンの生産は定修等で既に減っており、影響は限定的との見方もある。

需要面では、16日までの一週間におけるカナダの製油所稼働率が上昇。西部では2018年以来の最高を記録した。さらに、アジア太平洋地域における国際便の乗客数は7月、新型コロナウイルス感染拡大前の2020年以来初めて1,000万人を上回った。日本も9月7日から感染対策の入国規制を一段と緩和する方針。需要増加の見通しが、価格に上方圧力を加えた。

一方、米連邦準備理事会のパウエル議長は、インフレを抑え込むため、引き続き金利を引き上げると発言。経済の減速と、それにともなう石油需要後退の予測が強まった。ただ、価格の下方圧力とはならなかった。

【8月26日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=93.06ドル(前週比2.29ドル高)、ブレント先物(ICE)=100.99ドル(前週比4.27ドル高)、オマーン先物(DME)=99.52ドル(前週比4.50ドル高)、ドバイ現物(Argus)=99.10ドル(前週比4.79ドル高)

世界で戦えるチームに成長 夏に基礎練習重ね冬の本番へ


【中部電力】カーリング部

2009年創部。11年に日本選手権優勝し14年まで4連覇を達成。日本代表としてパシフィック・アジア選手権、世界選手権にも出場。

 5月の日本選手権決勝で北京五輪代表チームと激闘を繰り広げた中部電力カーリング部(松村千秋、北澤育恵、石郷岡葉純、中嶋星奈、鈴木みのり)。中部電力グループの地元であり、活動拠点となっている長野県はカーリングが盛んな地域で、選手たちも軽井沢町で基礎練習とフィジカルトレーニングに汗を流す毎日だ。8月からツアー大会が始まるが、北澤育恵選手は「シーズンは始まったばかり。今は基礎をもう一度見直す時」と前を見据える。

5人全員、誰が試合に出ても良いパフォーマンスを発揮

2009年に会社のクラブ・サークル活動として創部。11年には日本選手権で優勝するなど、日本のトップチームの一つとして活動を続け「世界で戦えるチーム」へと成長してきた。モットーは「良きカーラーであると同時に良き社会人であること」。部員全員が中部電力グループの一員として長野県内の各社に所属しながら練習を行っており「自分たちの活動が中部電力グループの一体感につながるとうれしい」と語る。

20年の日本選手権では、大会会場であり練習拠点の軽井沢アイスパークに多くの社員が駆け付けるなど、グループ全体がチームを支えている。「過去には、勝利できず思うような結果が出ない時期もあったが、会社や職場の仲間の継続的な支えや励ましがあり、現在の活動がある。サポートしてもらった感謝の気持ちを、これからもプレーで表現できるようにしていきたい」と話している。

また「確かに世界で戦えるチームに成長したが、世界で勝つチームになるには海外の強豪チームとの試合経験がまだ足りない」とさらなるレベルアップも目標にする。3月の世界選手権では、海外チームの戦略や毎回状態が変わるアイスリンクへの対応に苦慮した。多くの試合経験を積むため、今年の秋口からはカーリングの本場、カナダでの大会参加など海外転戦を計画する。

チームの状態については「今は6割から7割くらいの基礎固めの状態」と分析している。来年1月下旬の日本選手権までに100%の状態に持っていくつもりだ。日本選手権でライバルチームとの戦いを勝ち抜けば、次は世界選手権でリベンジの機会が待っている。

粘り強く最後まで戦うことを信条にする中部電力カーリング部。日々の地道な活動が本番で大きな実を結ぶと信じ、目標達成に向け一つひとつ課題に取り組んでいく。

インタビュー代表:北澤育恵選手(中部電力ミライズ所属)

次代を創る学識者/浅利美鈴・京都大学大学院地球環境学堂准教授


大学時代からごみ・環境問題の啓発活動に注力してきた。

資源循環の視点で、持続可能な社会づくりを後押しする。

ごみ問題や環境教育をテーマに研究に取り組む京都大学大学院地球環境学堂の浅利美鈴准教授。「脱炭素や地域活性化、食や教育といった社会課題の解決に貢献したいという思いが学びのベースにある」といい、環境、SDGs(持続可能な開発目標)などを切り口に学生や地域社会を巻き込んだ活動を展開するとともに、社会に向けた情報発信に力を入れる。

子供のころから環境問題に高い関心を持ち、工学系からアプローチしたいと京大工学部地球工学科に進んだ。そこで廃棄物管理や環境教育を専門とし、環境漫画家としても活躍する高月紘・京大名誉教授と出会ったことが、ごみの研究に進むきっかけとなった。

まだ社会の環境意識が低かった当時、大学構内でもごみがきちんと分別されておらず、不夜城のように遅くまで研究室の明かりがともり続けるなど、非常に環境負荷が高いと感じていた。そのため4回生になると、同級生らと環境サークル「京大ゴミ部」を立ち上げ、ごみや環境問題の啓発活動を始めた。大学による環境マネジメントシステムの国際規格「ISO14001」取得を訴えたが、当時は検討・試行にとどまった。

「企業は、環境問題への対応に本腰を入れようとしていたが、まだまだメインストリームではなかった。それも変えたかった」と、学生時代を振り返る。今や、製品やサービス開発において、企業は環境を無視できなくなっており、「この20年間で社会は大きく変革した」と、感慨深く語る。

衰退する地方創生へ ローカルSDGsを実現

もともとはマスコミ志望だったという浅利准教授。だが、活動を通じて専門家や地域住民などさまざまな人と交流し学ぶほど、ごみ・環境問題の奥深さを知り、研究を続けるために大学院へと進学することを決めた。海外では、大学が環境問題などについて革新的な取り組みで社会を先導する事例が多くあり、今後も、京大発の社会の変革に挑んでいく考えだ。

2021年8月には、京都市の里山「京北地域」にある廃校を活用した「京都里山SDGsラボ(ことす)」を開設した。少子高齢化で地方が衰退しつつある中、脱炭素型の地域づくりは地方創生への活路の一つ。都市部と里山を連携させた地域資源・エネルギーの脱炭素型循環モデルを構築し、「ローカルSDGs」を達成しようというのが取り組みの狙いだ。

今年度中に一定規模のバイオガスプラントを導入し、地域内や都市部から回収した生ごみからメタンガスを製造し、農業や新産業、地域貢献などのエネルギー源として活用していく計画。「自ら実践し、持続可能な地域づくりをモデル化したい」と意気込む。

ごみ問題の解決には、大量の廃棄物の発生を前提とする「リニアエコノミー(直線型経済)」から、サーキュラーエコノミー(循環型経済)への転換は避けて通れない。その実現に貢献することこそが、生涯の活動テーマだ。

あさり・みすず
1977年京都府生まれ。2000年京都大学工学部地球工学科卒、04年同大学院工学研究科博士課程修了、07年助教、16年から現職。専門は環境教育論。著書に『ごみゼロ大作戦! めざせ! Rの達人』(ポプラ出版)。

【メディア放談】参院選後のエネルギー政策 圧勝で追い風の与党はどう動く


<出席者>電力・ガス・石油・マスコミ/4名

7月10日投開票の参議院選は、大方の予想通り与党の圧勝に終わった。

ただ、安倍元首相死去で永田町の勢力図が一変。今後の政策はどう動くのか。

 マスコミ 7月11日のガス事業制度に関する審議会で、節ガスの話題が出た。各紙翌日付で報じる中、特に日経はかなり紙面を割いていた。ひっ迫に応じて3段階の対策を用意し、企業に制限令が出る可能性など細かく説明している。

充実のダイヤモンド特集 ZAITENは「戦犯」追及

ガス しかし審議会の資料を見てもピンとこない。大口への制限令を出すとして、本当に産業政策上重要な分野への供給を止められるのか。打てる手は限られる。かといって家庭のガス給湯器は1台しかなく、余計手段がない。そもそも気温が1℃上がれば給湯のガス使用量は数%減るのだから、自助努力より気温の影響の方が大きい。

石油 ところで週刊ダイヤモンド7月16・23日合併号の「エネルギー大戦」特集は充実した内容だ。洋上風力の最新事情、原子力再編、LNG調達事情など幅広い。しかし悲しいかな、表紙の扱いがひどい。最初は同じ号の「ひとり終活」特集しか目に入らず、エネルギー特集に気付かなかった。この号にはサハリン2に関するロシア大統領令に伴い、最悪シナリオでの広島ガスなどへの影響を試算した記事も面白かっただけに、残念。

マスコミ 橘川武郎・国際大学副学長が最近「自民も役所も原発新増設と言わなくなった」と語っているが、その通りだ。原子力に関わる自民党の三つの会合の提言全てに「新増設」の単語はなく、再稼働より先のことは言わない。

―ただ、7月14日の会見で岸田文雄首相は今冬に向け最大9基稼働するよう指示したと表明。9基と踏み込んだのは意外だった。

マスコミ しかし、どんな手段でどう動かすのかは不明なままだ。追い風が吹いても、風が流れているだけ。各紙は首相の「原発の最大限活用」という発言を取り上げるが、これは第六次エネルギー基本計画の表現そのまま。岸田政権が新たに言及したことではない。

石油 本当に大規模停電しなければ原子力問題は進まないのかも。ZAITEN8月号「電力崩壊の戦犯」特集に書かれている通り、東電の小早川智明社長からは責任感が感じられない。他電力はホールディングス社長が節電のお願いをしていたが、東電は表に立つのは基本パワーグリッド。東電の顔は一体誰なのかと言いたい。

安倍氏急逝の余波 業界人の選挙注目点は

―7月8日に突如死去した安倍晋三元首相は、安全保障の観点から核燃料サイクルに理解を示していたと思う。

電力 サイクルの今後を考える上でも大きな事件だ。安倍氏は自ら希望し、青森県の六ヶ所村の施設を二度見学、職員に「頑張ってください」と語り掛けたそうだ。原子力業界はあまり接点がない人もシンパシーを感じていた。これで右派の求心力が失われることは心配だ。月刊WiLLやHanadaには毎号のように安倍氏が登場していた。こうした対応を、今後安倍氏の代わりに誰が務めるのか。

マスコミ 細田派が分裂しかねない。衆院にくら替えできてない世耕弘成氏は焦っているはずだし、後継者として萩生田光一経産相や西村康稔氏はまだ実績不足だ。

電力 高市早苗氏の首相の芽も消えたのだろう。右の論客からは「日本の終わりだ」といった声が上がっているし、安倍氏に近かったジャーナリストは、本当に夜も眠れないほどショックを受けていると聞くよ。

マスコミ ちなみに高市首相誕生となった場合、経産省から送り出す秘書官は既に決まっていたそうだ。エネ庁のMさんだったらしい。

―参院選の結果はどうかな。柏崎刈羽問題を抱える新潟選挙区は自民が接戦を制し、電力総連の竹詰仁氏も無事比例当選した。

ガス 大混戦の京都では、維新候補の大阪ガス職員が1万7000票差で次点だった。完全に個人としての出馬だったが、仮に当選していたら大ガスは微妙な立場になっただろう。ちなみに、かつて旧民主党が大勝した選挙で、比例名簿に名前を貸した関電社員のまさかの当選があったが、休職して議員を務めていた。その次の選挙に落選後、会社に復帰した。

―最近はエネルギー業界の選挙での動きが目立たないね。

石油 全石連は以前ほど選挙に積極的ではない。阿達雅志氏も当確までかなり時間がかかっていた。

 むしろLPガス業界の方が盛り上がっている。東京都LPガス協会は会長の地元が八王子。そのつながりで萩生田氏がプッシュした生稲晃子氏を応援していた。でもせっかく当選したのに、インタビュー拒否で早速のバッシングだ。

―手に入れた「黄金の3年間」で岸田政権はどう動くのか。これまでの動きを見ると、過剰な期待はしない方がいいのかも……。

マスコミ 電力のkW不足と燃料不足のダブルパンチの今冬は本当に危機的だが、経産省もメディアも審議会も目先のことだけ。誰も中長期のスケジュールを示さない。電力会社の収支問題も重なり、このままでは電力もガスも毎年ひっ迫が繰り返されてしまう。

電力 柏崎刈羽は東電単独での早期稼働は無理だろう。六ケ所もここ数年でどう立て直せるのか。また、女川は23年冬、東海第二は24年秋まで安全対策の工事が終わらず、稼働は見込めない。

 驚いたのが、福島第二は廃炉するのにまだ計画が出ていないからと、原子力規制委が水面下でテロ対策の特重建設を要求しているといった話も聞く。それがまかり通るようでは、原子力政策の再構築はこの先も望めない。

―政治決断に期待して小誌も長年問題提起をしてきたが、最近は虚しさすら感じる。とはいえ危機はすぐそこまで迫り、今こそ与党の奮起に期待したい。最後に、安倍元首相のご冥福をお祈りします。

日本の「構造的な社会課題」とは 過去のビジネスモデルを転換へ


【リレーコラム】小野隆一/トゥルーバグループホールディングス代表取締役社長

 第二次世界大戦後、高度経済成長期を経て、わが国の国民は豊かな生活を手にした。しかしながら、それを支えてきたビジネスモデルはすでに過去のものとなっていることの認識は薄い。気が付けば、首都圏と地方の経済的格差、少子高齢化、食料自給率の低下、エネルギー・環境問題など、わが国は多くの「構造的な社会課題」に直面している。

さらに、コロナ感染の長期化、ウクライナ戦争に端を発した世界的な食料の高騰と供給のアンバランスがその課題を一層深刻なものとしている。

振り返ってみると、わが国は成長を実現するために「ヒト・モノ・カネ」の経営資源を首都圏に集中した。農村部からは多くの労働者が都市に移住し、工業化を支えた。わが国は成長を謳歌し、生活水準は上がり、便利で豊かな世の中になった。国力が上がり、円高も進み、海外からの食料の調達も問題なく行われ、小さな国土にもかかわらず1億人以上の国民が豊かに暮らせる国になった。そして、その暮らしがこれからも持続可能であると多くの国民が思っている。

しかし、現実を見ると、高度経済成長をけん引した第二次産業は成長力を失い、地方から都市へ「ヒト・モノ・カネ」の経営資源を集中させた結果、先進国で最低の食料自給率となり、21世紀に入ってからは国際競争力も大きく低下した。一方で、戦後、米国、ドイツ、フランスなどの欧米先進国はわが国にナンバーワンの座を渡したものの、国民の大事な食を支える農業を維持し、今も高い食料自給率を堅持している。農業従事者が減り、畑が荒れ、食料の自給能力を失ったわが国とは対照的である。

地方創生、農業再生、食料自給率の改善など、政治や行政からは聞こえのいい言葉が並ぶが、「主語」のない議論が多い。果たして誰が本気に向き合い、行動を起こしていくのであろうか。国民が一致団結して今すぐに取り組むべきことは明確である。経済成長を支えてきたビジネスモデルを早期に転換し、都市部中心の経済運営を見直すべき時である。

人口の地方分散こそが急務

何よりも都市部に集中している人口を地方に分散すること、そして分散された「ヒト」をベースに経済のビジネスモデルを再構築することである。国民の食の確保は必須である。食は「ヒト」にとってのエネルギー源であり、食がなければ人は生きていけないという原点に改めて立ち返り、わが国の将来の在り方について国民一人ひとりが真剣に考える時が来ている。

おの・りゅういち 1987年第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。1999年GEキャピタルを経て、2003年トゥルーバグループ設立、代表取締役社長に就任。現在に至る。

※次回はバイオマスリサーチ代表取締役社長の菊池貞雄さんです。