【電力】需給のタイト化 政策選択の失敗


【業界スクランブル/電力】

本誌1月号の今井尚哉氏のインタビュー記事を興味深く読んだ。首肯する部分も多かったが、氏が資源エネルギー庁次長として関わった電力システム改革についてはもう少し踏み込んでほしかった。すなわち、「電力は自由化しても安定供給マインドのない、つまり容量を持たない人を市場参入させてはならない」「容量市場創設が自由化の前提」であるのに、現状は「太陽光事業者や一部新電力のつまみ食いを許している」という現状認識は筆者も共有するが、その元凶である余剰電力全量をスポット市場に限界費用で入札する大手電力による自主的取り組みに触れてほしかった。筆者の理解では、この取り組みは当時の審議会委員であった一部学識者が強く主張したものだ。その学識者は、需給がタイトなときの市場価格のスパイクにより固定費は回収できる、市場で固定費が回収できないとしたら、それは設備が多すぎるとの主張だった。

これは一つの考え方ではある。だが、政府がこの主張を採用する選択をするのであれば、信頼度目標を達成すべく政府が介入して、価格スパイクの可能性をふさぐべきではない。市場でコストが回収できる設備量こそ正しい設備量であり、設備形成はあくまで市場に委ねるのでなければ首尾一貫しない。残念ながら政府関係者のコミュニケーション不足か、この認識が共有されていなかったようだ。価格スパイクの可能性がふさがれた帰結として、設備の退出が静かに進展する。これに対する歯止めを企図して、容量市場の導入が決まったが、本格導入前のこの冬の需給はここ10年で最もタイトになっている。

若干の皮肉を込めて言えば、この状況は政策の失敗ではない。このようになる政策を選択した結果だ。問題は、そういう選択をしたのだという自覚に乏しい関係者が多いように見えることだ。だから、需給のタイト化も市場価格上昇も「これは予定していたことだ」とのメッセージが政府ないし当該学識者から出されないものか、いや出すべきではないかと、筆者は思っている。(U)

欧州電力危機と第四の電力価値「ΔkW時」


【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

一般に電力の価値には「kW(容量)」「kW時(電力量)」「ΔkW(調整力)」の三つが挙げられる。ところが最近の欧州の電力危機を見ると、不足したのは一定期間の発電量を柔軟に増減する「ΔkW時」とでもいうべき第四の価値である。商取引でいうオプションだ。在庫を持てない電力の市場取引において、実は非常に大きな価値を持つものである。

欧州では昨年5月まで長引いた冬の寒さと、秋口の風力発電の不調に対してガス火力の発電量増加で対応したが、ガスの在庫が限界近くまで下がり価格高騰につながった。昨年のわが国の電力危機も、数週間にわたる需給変動に対して発電量を増減する能力の欠如が原因だ。対策として再生可能エネルギーや原子力を増やせとの声もあるが、再エネはかえって発電量の調整ニーズを増し、原子力は発電量の増減は苦手だ。結局、この任務を中心的に担うのは火力であり、その価値の源は燃料の柔軟な確保である。

燃料の柔軟な確保には、まず燃料種(炭・ガス・油)や調達先の分散、輸送の確保、備蓄の保有などの仕掛けが前提だ。加えて契約、売買スキル、取引相手との信頼関係が欠かせない。変動再エネが増えてΔkW時の要請が増す中、対応可能な電源をガス火力に集約し、そのガスも「じきに使わなくなるよ」と取引先にけんかを売るのは、ほとんど自殺行為だ。そもそもガスは貯蔵が容易でなく、需要は冬に偏り、LNGはスポット取引も限られる。相当量の在庫なしには、冬に発電量の増減などできないのだ。

今後、蓄電池やデマンド・レスポンス(DR)がΔkWを担うと言われるが、残念ながらΔkW時を担うのは容易ではない。毎冬繰り返される電力危機から脱却するためにも、脱炭素に向けた歩みを着実に進めるためにも、議論を深めたい“価値”である。

EUタクソノミーで欧州紛糾 ドイツ連立政権の選択が鍵に


【ワールドワイド/環境】

2022年1月1日、欧州委員会は持続可能な経済活動を分類する制度である「EUタクソノミー」に合致する企業活動に原子力や天然ガスを含める方向で検討を開始したと発表した。50年カーボンニュートラルを目指すEUは、その目的に実質的に貢献する事業や経済活動の基準を「タクソノミー」において明確化することで、クリーンな投資を促進しようとしている。

 タクソノミーでの原子力や天然ガスの扱いは、加盟国間で意見が大きく割れてきた。原子力への依存度が高いフランス、フィンランド、チェコなどは、CO2を多く排出する石炭火力からの移行を果たすために原子力は欠かせないとするが、原発廃止を掲げるドイツ、オーストリア、ルクセンブルクなどは頑強に反対してきた。

 欧州委員会が今回、このような方針を掲げた背景には欧州を席巻するエネルギー危機が大きい。欧州諸国は風力を中心に再生可能エネルギーを遮二無二推進する一方、ベースロード電源であった石炭火力は炭素排出量が多いとの理由で次々に閉鎖。その結果、再エネの出力変動の調整の役割を天然ガスが担うこととなった。しかしコロナ禍からの経済回復に伴い電力需要が拡大する中で、昨年は風況が非常に悪く風力発電の出力が大幅に低下する。欧州で天然ガス需要が例年以上に高まると同時に、世界規模で天然ガス需要が増加したことで欧州のガス価格は6倍にまで上昇。電力価格高騰が発生した。

 根本的な原因は化石燃料の需給ギャップだが、価格が上昇しても新規投資は停滞している。この背景には欧州発の環境原理主義に立脚する化石燃料たたきの傾向があり、COP26で化石燃料セクターへの公的投資の差し止めを求める共同声明に米国、EU諸国が名前を連ねたのはその表れである。

 長期化するエネルギー危機の下で、再エネ、天然ガス二本足打法の限界は明らかである。欧州委員会が天然ガス、原子力をクリーンエネルギーに加えたのはこうした行き過ぎた政策の軌道修正とみるべきだろう。しかしこれはあくまで欧州委員会の提案であり、今後、専門家グループの検討を経て欧州議会、欧州理事会で決定されることとなる。連立政権に緑の党が参加したドイツがタクソノミーに原子力を含めることをすんなり受け入れるとは考えにくい。熾烈なバトルはまだまだ続きそうだ。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

故荒木浩氏の思い出


【追悼】

東京電力、電気事業連合会の会長を務めた荒木浩氏が永逝された。

優れた時代感覚と実行力で、東京電力の改革を前進させた。

好きな天体観測の話になると思わず笑みをこぼす一面も

 時代の転換を自ら担う覚悟 先を読む力で「自由化」にも対応

「(私は)エリートじゃないから」。荒木浩氏は、東京電力のトップに上り詰めても諧謔的な物言いを変えようとしなかった。だがよく耳を傾ければ率直な心情と分かる。同じ総務部門を土台に強固な体制を築き上げた前任の那須翔元社長、経団連会長を務めた平岩外四元会長のラインと比べると確かにその経歴は、起伏に富んでいた。

東京生まれ、1954年東大法学部を卒業し入社。転機になったのは燃料部燃料調査課長の時である。絶大な力を持っていた上司と衝突し、行き場を失った。東電人生の危機、救ったのは慧眼の持ち主平岩総務部長だった。しかし英語が行き交うような前職場と比べると総務部門の仕事は過酷だった。人脈も細く苦労が積み重なった。

79年総務部長。やがて光明がさす。営業部門でくすぶっていた山本勝氏(62年京大法卒)を見出し、総務部門要職に就けるとまさに型破りの活躍をした。「清濁併せ呑んで物事をまとめあげる才覚、大胆で柔軟な発想」(荒木氏評)は、政・官・財・マスコミ各界に幅広い人脈を作り上げた。背番号のない同じ〝拾われ組〟の上司・部下の関係は、以後太いきずなとなり、東電改革にまい進する(山本氏は2001年不帰の人に)。

「普通の会社を目指そう」「『電』の字のつかない人と付き合おう」等々。93年社長、95年電気事業連合会会長に就任し、99年会長に退くまで荒木氏は、常にキャッチコピーを編み出し社員・グループ、さらには業界人へ呼び掛けた。

荒木経営の特色は、優れた時代感覚と実行力。〝聞く耳〟を持ち施策に結びつけた。バブル崩壊後の低成長下の電気事業を「初めて供給サイドから需要サイドへと事業運営のパラダイム変換が行われた時代」と見て「需要増~設備増強~資本費増大という悪循環サイクルを断ち切る」とした。電事連会長として「送電線を開放する」と表明した電力自由化も〝中年太り〟東電の改革に取り入れた。

「先を読む力」が備わっていて時代の転換を自ら担っていく覚悟があったのだろう。象徴的場面が、02年「東電データ不正問題」での荒木氏ら首脳陣5人の一斉辞任と次世代への引き継ぎである。過去の責任をとる形で平岩相談役の退任を含めた決断は、まさに戦後電気事業の総決算といった意味合いさえ感じる。その荒木氏を同世代の電力首脳は、「友人」「戦友」と呼び、付き合いは多年に及んだ。

懸案の電源開発の原子力進出問題が決着したのち、一方の田中眞紀子元科学技術庁長官は、「荒木さんは財界で一番笑顔が素敵」と伝えたことがあったという。そういえば好きな天体観測の話になると少年のような笑みをこぼすことがあった。笑顔も似合う人だった。

21年12月6日、90歳で逝去。

文:中井 修一/電力ジャーナリスト

ASEANで広がるネットゼロ アップル・アマゾンも資金援助


【ワールドワイド/経営】

第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)では、多くの国がネットゼロ目標を発表する中、各国のさらなる目標引き上げに向けて活発な議論が繰り広げられた。

 東南アジア諸国連合(ASEAN)では、COP26開催前からインドネシアが2060年ネットゼロを公表したほか、タイ(65~70年)、マレーシア(50年)もネットゼロを宣言し、これに追随してベトナムがCOP26で50年ネットゼロを発表し注目を集めた。さらに国としては目標未設定のフィリピンやシンガポールでも、現地企業が相次いで独自のネットゼロ目標を掲げ、政策立案に先行してカーボンニュートラルに向けたエネルギー転換に取り組んでいる。

 火力発電比率が約7割、石炭火力だけでも約3割を占めるASEAN諸国が突如ネットゼロにかじを切ったことは驚きだが、その背景には国際社会からの圧力に加え、気候変動による実害を受け始めた点が挙げられる。世界最大の群島国であるインドネシアや長い海岸線を持つベトナムでは海面上昇に直面、メコン川流域のラオスやカンボジアでは洪水が頻発している。

 ASEAN地域でネットゼロに向けたエネルギー転換の鍵を握るのは、省エネ・再生可能エネルギーの飛躍的な普及、CCUS(CO2回収・有効利用・貯留)などの脱炭素化技術、および社会全般の電化だ。ただしASEAN諸国は資源構成や経済発展の度合いが異なるため、目標経路にそれぞれ特徴が見られる。

 例えば、薪などの利用が中心のミャンマーの未電化地域では、系統整備や分散化電源による電化の加速が優先され、再エネの普及が遅れているインドネシアでは、火力発電の代替としての再エネ転換や遠隔地のミニグリッド構築が重視される。ベトナムのように近年急速に再エネ普及が進んだ地域では、既に出力変動への対応が課題として浮き彫りとなっている。

 国際エネルギー機関は、ASEAN地域の電力需要が今後も高い伸びを示し、40年には現在の約2倍に増加すると予想している。域内では経済発展と環境を両立させる取り組みが進展しているが、課題は資金不足だ。これに対し、最近ではアジア開発銀行による脱石炭火力スキームのほか、アマゾンやアップルなどによる巨額の投資ファンド設立といった支援の動きも活発化し始めた。電力・通信など基礎インフラの整備が遅れていたASEAN地域は最先端技術の導入による「リープフロッグ現象」のポテンシャルを秘めている。

(柳 京子/海外電力調査会調査第二部)

低コスト・低炭素で再評価 プレソルト開発を図るブラジル


【ワールドワイド/資源】

ブラジルの石油生産量はこの10年間で日量約100万バレル増加し、日量300万バレル程度となった。

 成熟油田の生産減退を補い、さらに生産増をけん引してきたのが、リオデジャネイロやサンパウロの沖に延長約1000㎞、幅約100㎞にわたり広がるプレソルト(下部白亜系岩塩層直下の炭酸塩岩を貯留岩とする地質構造)の油田だ。ブラジルでは2006年以降、プレソルトで大規模な油田の発見が相次ぎ、09年以降に順次生産が開始された。現在はプレソルトで生産される石油が同国の石油生産量の75%を占めている。

 当初、プレソルトの開発は国営石油会社ペトロブラスが中心となり進められていたが、17年にプレソルトの鉱区を対象とする入札が実施されるようになると、メジャーをはじめとする大手石油会社もプレソルトでの探鉱・開発に積極的に参入するようになった。最大の要因は、プレソルトの油田は、坑当たりの生産量が日量数万バレルと生産性が極めて高く、スケールメリットを生かして、低コストで生産が可能であることであると思料される。ペトロブラスによると、16~20年のプレソルトの石油生産コスト(操業費)はバレル当たり3・7ドルとなっている。

 順調に進むプレソルトの開発だが、19年11月以降のプレソルトを対象とする鉱区入札では入札する石油会社が少なく、低調な結果に終わり、石油会社のプレソルトへの関心が冷めたかと懸念された。

 しかし、直近の21年12月、プレソルトの生産中鉱区への参入を認める入札は、活況を呈した。すでに生産中の鉱区が対象とされたことや政府が入札条件を緩和したこと、油価が回復を見せていることなどに加え、世界的に脱炭素化への取り組みを求める声が高まる中、プレソルトの油田は温室効果ガスの排出量が少ないことが、石油会社の関心を集めたと考えられる。ペトロブラスによると、世界最大規模の沖合でのCO2再圧入プログラムを実施していることもあり、プレソルトの大規模油田ではバレル当たりの温室効果ガス排出量は0・01t以下だという。

このような状況から、低コスト、低炭素のプレソルトでは、生産中鉱区やその周辺鉱区を中心に、引き続き活発な開発が続き、ブラジルの石油生産量は増加を続けるとみられている。また政府は、さらに石油会社の関心を引こうと、22年以降は複数の種類があった鉱区入札の制度を一本化し、石油会社の負担を軽減する計画がある。今後の動向が注目される。

(舩木弥和子/石油天然ガス・金属鉱物資源機構調査部)

【マーケット情報/2月11日】原油続伸、供給不足感さらに強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み続伸。供給不足感が一段と強まり、買いが優勢となった。米国原油を代表するWTI先物は、11日時点で93.10ドルを付け、2014年9月末以来の最高価格を記録。また、北海原油の指標となるブレント先物も94.44ドルとなり、前週に続き、2014年10月初旬以来の高値となった。

ロシアのウクライナ侵攻の可能性が一段と高まり、情勢が緊迫化。米国の対ロシア経済制裁発動と、それにともなうロシア産原油供給の急減が危惧されている。

供給不安に加え、OPECプラスの生産不足に対する見方も広がっている。国際エネルギー機関(IEA)によると、OPECプラスの1月産油量は、目標を日量90万バレル程度下回った。IEAは、一部加盟国の増産が追い付かず、生産が計画を下回る傾向が続くと予測している。 米国の週間在庫が減少したことも、需給逼迫感を強めた。米エネルギー情報局が発表した先週の国内原油在庫は4憶1,039万バレルとなり、2018年10月中旬以来の最低を記録した。

【2月11日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=93.10ドル(前週比0.79ドル高)、ブレント先物(ICE)=94.44ドル(前週比1.17ドル高)、オマーン先物(DME)=90.47ドル(前週比0.18ドル安)、ドバイ現物(Argus)=90.14ドル(前週比0.25ドル高)

数学や統計データが苦手な朝日 受験シーズンは注意して読もう


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

余計なお世話だろうが、朝日1月3日「声」の欄に掲載された読者の投稿を見て心配になった。

「今年こそ」をテーマに新年の抱負をまとめている。

例えば、90歳主婦は「声出して『天声人語』読み続ける」。東京都内77歳「山の動く日そろそろ来ないか」は「虐げられてきた女性の歴史の転換点」に、と。

朝日ファンらしい読者の思いが溢れる中で気になったのは、49歳会社員の「高校数学、30年ぶりに挑戦するぞ」である。高校生の娘の数学の教科書を目にして「今年は熱い思いで高校数学に挑戦したい」と宣言している。

志は素晴らしい。問題は朝日新聞を読むときの心構えだ。政治や経済の記事より客観的なはずの数学でも首をひねることがある。

中でも、同紙12月24日「ピタゴラスよ、遅かったな」「バビロニア人、三平方の定理使った測量図」には驚いた。

 「紀元前2000年ごろから数百年にわたって栄えた古バビロニアの遺跡で見つかった粘土板に、直角三角形の3辺の長さの比を表す数の組み合わせや、それを利用した図形の面積などが描かれているのが見つかった」との内容だ。

三平方の定理については「直角三角形の3辺は、斜辺の長さの2乗が、もう2辺のそれぞれの(長さの)2乗を足した数に等しい」「発見したとされていた紀元前6世紀の古代ギリシャの哲学者の名前から『ピタゴラスの定理』とも呼ばれる」とある。

アレレなのは、「バビロニア人は、三平方の定理を満たす数だけでなく、ルート2の正確な値や二次方程式の解法も知っていたとされる」の部分だ。絶対に、「ルート2の正確な値」を「知っていた」わけがない。

ルート2は正方形の1辺と対角線の長さの比である。中学校では近似値「1.4」も教えるが、あくまで近似値で、終わりのない数が永遠に続く。無限小数なのだ。

そもそも、正確な値が分かるならルートの記号は要らない。

ピタゴラスも正確な値があると信じていた。全ての数は分数で正確に表せるはず、と。だが、ルート2は分数で表せないと弟子が証明したため、船から海に投げ込んで殺したと伝えられる。

朝日は統計データもねじ曲げる。新型コロナウイルス感染を扱った12月28日夕刊コラム「素粒子」は「論拠の曖昧な対応を続け、夏に五輪を催し感染爆発、明らかな『失政』」と総括した。

理解に苦しむ。NHK9月10日「小池都知事 東京五輪・パラ開催による感染拡大への影響を否定」は、「小池知事は、1人が何人に感染を広げるかを示す『実効再生産数』が大会期間中に下降したデータを示し、『大会が感染爆発につながる、という懸念は結果としてなかった』と述べた」と伝えている。「データは8日開かれた厚生労働省の専門家会合で出された」という。朝日は、統計データが読めないのだろうか。

NHK8月6日「デルタ株、1つの起点から全国拡大か、 国立感染症研究所が分析」は決定的だ。

 「(同)研究所が遺伝子データを分析したところ、海外から首都圏に流入した1つの起点から全国に広がったとみられることがわかりました」と報じる。起点は「5月18日に首都圏で検出されたウイルス。さらに調べると、これと似たウイルスが4月16日に空港の検疫で見つかっていた」という。五輪よりだいぶ前だ。

受験の季節。朝日にご用心。

いかわ・ようじろう(デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員)

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鬼首地熱発電所をリプレース 末永く地元と共存できる存在に


【Jパワー(電源開発)】

東北屈指の温泉地のそばで40年以上にわたり運転を行ってきた鬼首地熱発電所。

グループの力を結集し、環境保全にも取り組みながらリプレース工事を進めている。

東北新幹線古川駅から北西に約‌60‌km。秋田・山形の県境にほど近い宮城県大崎市の鬼首カルデラに「鬼首地熱発電所」がある。宮城県内で唯一の地熱発電所だ。駅から発電所に向かう途中にある鳴子温泉郷は、400を超える源泉数を誇り、日本にある11種類の泉質のうち9種類もの泉質が集まる。みちのく随一の湯治場としても名高い温泉地だ。

湯けむりが風情を醸し出す鳴子温泉郷

この地熱エネルギー豊かな土地で鬼首地熱発電所が運転を開始したのは1975年。出力1万5000kW、東北地方の主要な地熱発電所として電力の安定供給に貢献してきた。40年を経てもなお、地下には今後も利用できる豊富な地熱資源があることが確認されたため、高経年化した設備の更新を決定。2017年に運転を停止し、19年からリプレース工事に入った。運転開始は23年4月の予定だ。

工事では、発電用の蒸気を得ていた9本の生産井と、取り出した熱水を地下に戻す8本の還元井を全て埋め戻し、新たに5本ずつ掘削する。蒸気タービン・発電機の性能が向上し、生産井を9本から5本に減らしても発電出力はリプレース前と同等の1万4900kWとなる。

グループの力を結集 より安全に配慮した設計

訪れた21年11月14日は、発電所本館の建設工事、生産井・還元井の掘削工事と配管基礎工事などを進めていた。ちょうどその日、5本目の生産井を掘り当てたところで、能力評価に移る現場には慌ただしくも活気が感じられた。

掘り当てた報告を受け、生産井の前で笑顔の茅野所長

同発電所の約13万9000㎡の敷地は、地熱活動が活発な自然噴気地にある。地表の温度が高く、硫化水素の噴出が認められる場所もある。敷地内は安全対策に万全を期し、地下50m地点の地温や地震、振動、傾斜を常時監視。異常が確認されると警報を出し、作業員を安全なエリアに避難させる。特に地熱活動が活発なエリアへの立ち入りは事前許可制にして記名を徹底させている。

リプレースではさらに安全性を高める設計にした。地表の温度が高いエリアに点在していた生産井と還元井をより安全なエリアに集約して発電する。

同発電所は、地下1000~1600mに滞留する約250℃の熱水を利用する。生産井は、一度地上から圧力をかけて減圧すると蒸気混じりの熱水が継続して噴出する。これを気水分離器で蒸気と熱水に分け、1時間に約130tになる蒸気のエネルギーでタービンを回し発電する。蒸気を一度だけ利用するシングルフラッシュ方式で、タービンを回した後の蒸気は復水器で冷却して温水に戻す。この温水は、蒸気と分離した熱水と共に還元井から地下に戻す。地下に戻った温水は年月をかけ、岩盤の割れ目を通って、地熱によって再び高温になり生産井から噴出する。地熱発電は天然の資源を循環再利用する、究極のエコ発電なのだ。

建設中の発電所本館。奥に見えるのは還元井

発電所では生産井を5本同時に使用して運転開始する計画だ。発電条件に合う生産井を掘り当てるのは難しいといわれる中、5本の生産井を全て掘り当てた。

茅野智幸所長は「地熱発電の開発では、資源開発会社が蒸気を供給し、電力会社が発電を担うことが多い。Jパワーは掘削から発電までをグループ内で行うので、ノウハウが蓄積されます」とグループの強みを話す。5本の掘削が100%の成功率になったのも、長年の知見の賜物だ。「一気通貫で技術が磨かれて、次の現場にも生かされます」

Jパワーは新たな地熱発電所建設に向け、近隣の高日向山地域で資源量調査に取り組んでいる。

築いてきた地元との信頼 地球と環境に配慮した発電

鬼首地熱発電所は環境や地域との共生にも力を注ぐ。1975年に運転を開始する前から、鳴子温泉郷のひとつ、鬼首温泉の源泉のモニタリングを毎月欠かさず続けている。運転中だけでなく、運転を停止している現在も源泉の温度や成分、湯量などが変わらないことを確認し、データを提供し続けている。温泉は地域にとって大切な観光資源。客観的なデータを示し、コミュニケーションを図ることで信頼関係を築いている。年に数回の事業説明会も設け、対話の場を作ってきた。

調査開始から数えると60年。鬼首で発電を続けてこられたのは、代々の所員がこうして地元との信頼関係を築いてきたからだろう。

近隣の川はかつて硫黄鉱山だったことを思い起こさせる 

信頼を得る努力は発電だけでなく、環境保全にも及ぶ。発電所は栗駒国定公園内に立地しているため安全教育と同じくらいの重要度で自然保護に関する入構教育を行う。気づかないほど小さな希少高山植物や、クマタカが生息しているので、新しい工事関係者が加わるたびに入構教育を行っている。

火山国である日本は世界第3位の地熱資源量を誇る。地熱発電は太陽光や風力のように自然条件に左右されず安定的な運用ができる再生可能エネルギーとして、大きな期待が寄せられている。カーボンニュートラル社会の実現に向けた取り組みの方向性と道筋を掲げた「ブルーミッション2050」では、25年度までに17年度比で150万kW増の再エネの新規開発を目標としている。

国も再エネに力を入れている現在、鬼首地熱発電所でも生産井を増やして、発電量を上げればいいのでは? と疑問を投げかけてみた。茅野所長は明確にこう答えた。「これからも長い期間発電を続けるためには、地球の恵みである地熱資源を適正な量で大切に利用し、自然環境にも地球にも配慮して発電していくことが大事なのです」

インフラメンテナンス大賞で受賞 煙突内部のドローン点検手法を開発


【関西電力】

 関西電力はこのほど、経済産業省、国土交通省などが行うインフラメンテナンス大賞で、「経済産業大臣賞」を受賞した。インフラメンテナンス大賞は、国内のインフラメンテナンスに関わる優れた取り組みや技術開発を表彰し、理念の普及とメンテナンス産業の活性化を図ることを目的としたものだ。全247件の応募の中から関電の「自律飛行型ドローンを活用した火力発電所煙突内部点検手法の開発」が同賞に輝いた。

火力発電所の煙突点検は、ゴンドラでの目視点検方式が主流だ。高さが200mにも及ぶ煙突内では、自律飛行して撮影するドローン技術が必須。だが煙突内は非GPS環境に加え一様な景色のため、一般的な映像認識技術だけでは安定した飛行ができない。

そこで関電はドローンに、①水平制御用カメラとLiDARセンサーを搭載し、水平を制御、②気圧センサーで高度を制御、③方位制御用カメラを搭載し、煙突底部のLEDテープライトを認識させ、方位角を制御―の三つの組み合わせで安定した飛行と高精度な点検が可能な手法を開発した。

鍵は煙突底部に設置するLEDテープライトだ。これにより、ドローンは円の中央と方位を保持しながら自律飛行で上昇し、カメラ正面の範囲を撮影する。1回の上昇で約200枚を撮り、別の方位に機体を回転させ撮影を繰り返す。画像は専用の画像処理ソフトで自動合成し、展開図化したものをチェックする。ひび割れの分布状況などをソフトで定量的に評価できるため、優先すべき補修箇所も見つけやすい。ゴンドラで目視点検する0・3mm幅のひび割れもしっかり捉え、既に自社設備の実点検で適用している。

開発した手法は多方面での活用に期待できる

ドローンの活用で仮設の足場が不要となり、工期も約90%を短縮。点検コストも約50%の削減につながった。何より高所での作業がなくなり安全性が向上した。

土木建築室保全技術グループの森井祐介さんは「ゴンドラ点検はその場で補修できるというメリットがある。ドローン点検と組み合わせて活用したい」と話す。

高さ方向の形状が同一であれば内部が金属であっても対応が可能で、ボイラーや石炭サイロ内部、水力発電所への活用も見込まれる。

洋上風力の点検にも期待 発電コストの低減に貢献

関電は、洋上風力でも自律飛行するドローン点検の実証を進めている。嶋田隆一チーフマネジャーは、「被雷して風車の点検が必要な時に、波浪で船が出せないことがある。ドローンならそのような場面でも迅速に対応できる」と、有用性を強調。いち早く確認ができれば、発電機会の損失を防ぎ発電コストの低減につながる。自社の開発技術を活用し、社会的コストの削減に貢献したいとしている。

カーボンニュートラルの実施 わが国の国情に則した政策を


【オピニオン】加藤文彦/全国石油商業組合連合会副会長・専務理事

 「2035年乗用車新車100%電動車方針」について、今後、現実的な修正を加えていくべきと考える。その端緒として次の諸点を提起したい。

まず、国の政策は、S(安全)+3E(経済・エネルギー・環境)が基本。環境(E)に偏ることなく、安全(S)そして経済(E)・エネルギー(E)含め、国民の生命と財産を守ることを国家の責務として取り組むべき。第一に、安全(S)について、11年前の3.11の東日本大震災からその後の幾多の地震・台風など、また北海道などの停電で明らかな通り、分散型エネルギーの石油燃料がどれだけ生命・財産を守ってきたか。

今、全国3万SS(サービスステーション)の半分が自家発電機を備え停電時でも給油を続け、また病院や避難所、あるいは停電修復の電源車への緊急配送給油で地域の人々の生命・財産を守っている。一昨年12月の豪雪で関越道に2000台以上の車が立ち往生した際、全国の石油組合が47都道府県と災害協定を結んでいるので、新潟県庁から石油組合、SSそして自衛隊と連携が取れ、ガソリンの配送により、立ち往生の車に補給して、みな無事だった。EVだったら、どうだったか。安全(S)の確保は、災害の多いわが国にとって、不可欠の政策。

第二に、自動車関連産業では550万人(うちSS業界35万人)が働いており、カーボンニュートラルは経済・雇用問題として極めて大きな課題。世界的ルールチェンジを画策する欧州に引きずられてわが国が持てる自動車関連技術を捨てることになってはならない。

そもそもわが国と欧州とでは、フランスの原子力、北欧の再エネなど電力事情が全く異なる。加えて、ここ百年マグニチュード6以上の地震が発生していないドイツと、世界の地震の2割が発生するわが国とで、同一の議論をすべきでなく、わが国の国情(電力事情、災害)に即した独自の政策を進めるべき。

わが国自動車産業はハイブリッド技術などによって、20年間で23%という国際的に極めて高いレベルでCO2削減をしてきた。難しい原子力・再エネ事情を考慮すると、電力は極力、産業や家庭で利用して、自動車は系統電力に頼ることのないガソリンと電気で走るハイブリッド車を進めるべき。今冬も東京電力は電力供給が限界になり他系統電力の支援を求めている状況から、現実的方策だ。

その先には、CO2とH2から製造する「合成燃料(e-fuel)」の技術開発を急ぐべきだ。合成燃料は、SS設備をそのまま使用できる分散型の液体燃料。石油燃料と同様、可搬性・貯蔵性に優れ、災害時でも最後のとりでの役割を果たせる。 また、新車・中古車含め、今走っている6000万台以上の車全てカーボンニュートラルを達成できる。最近、ドイツが35年にEVとともに合成燃料を選択肢に加える方針を決めた。わが国も国情に即して、合成燃料を選択肢に加え、持てる技術を狭めないよう、独自のカーボンニュートラル政策を進めるべきである

かとう・ふみひこ 1976年東京大学経済学部卒、通商産業省(当時)入省。95年石油部流通課長、2006年中小企業庁次長、13年ウズベキスタン大使。17年から現職。

「原発排除は非現実的」 経済3団体代表が強調


原発の排除は現実的ではない」。1月5日にあった経済3団体新年祝賀会後の記者会見で、日本経団連の十倉雅和会長はこう強調した。GX(グリーントランスフォーメーション)の課題の一つとして、「再生可能エネルギーだけではエネルギー需要の全てを賄えない」「原発はもちろん、関連技術や専門人材を維持し、その先の核融合にしっかりとつなげていく必要がある」と訴えた。

さらに桜田謙悟・経済同友会代表幹事と、三村明夫・日本商工会議所会頭も、「原子力の問題に現実を直視しながら取り組んでいかなければならない」(桜田氏)、「欧州がクリーンエネルギーに指定しようとしている原子力の位置付けを明確にする必要がある」(三村氏)などと、それぞれ原発の重要性を指摘した。特に、2030年エネルギーミックスで再エネ40%を提言していた同友会からもこうした発言が出たことは注目すべきだ。化石燃料の急騰で、幅広い業種で低廉で安定的な電気の必要性が再認識された表れだろう。

ただ、岸田政権は参院選前の原発政策強化は封印するもよう。経済界の声はどこまで届くのか。

【コラム/2月10日】地域における再エネ導入による脱炭素の実現に向けて


渡邊開也/リニューアブル・ジャパン株式会社 執行役員 社長室長

2022年が始まって早1か月、オミクロンに関するニュースが毎日流れている一方、脱炭素に関するニュースも日々何らかの形で目にすると感じる。ただ、最近の脱炭素に関するニュースは、洋上風力の選定された入札価格が従来の業界の常識を覆す価格であったことや「再生エネ普及へ送電網、2兆円超の投資想定」、「交流→直流へ送電大転換、…、再エネ普及へ構築」といったように、大企業の動きや大型発電所で発電した電力を大都市に届けるという強靭化法案でいうところの競争型電源の話、洋上風力をはじめとした再エネBULK電源を大送電網を整備して3大都市へ如何に届けるか?といったニュースばかりではないか?コロナ禍でワーケーションをはじめとした人の分散化が起こり始めているのに、地域による地産地消やマイクログリッド、レジリエンスはどうなっているのか?と思うのは私だけだろうか?

先日、自治体、メーカー、地域新電力、鉄道会社、金融機関、地元企業等の方々による地域における再エネ導入による脱炭素の実現に向けてどんな課題があるのかというテーマで座談会があり、そこに出席させていただいた。2時間余りの座談会の中で、参加された方がそれぞれの立場からの見方はあるものの異口同音におっしゃっていたのは、地域における再エネ導入の現実的な課題の中でキーとなるのは、「自治体の役割が大きい反面、それを推進する人材が圧倒的に不足しているということ」に集約されるのではないかと感じたことだ。

環境省の資料によると、2021年8月31日時点で「2050年二酸化炭素排出実質ゼロ表明」をした自治体は444自治体(40都道府県、268市、10特別区、106町、20村)である。表明自治体総人口約1億1140万人※(※表明自治体総人口(各地方公共団体の人口合計)では、都道府県と市区町村の重複を除外して計算。)で、表明市区町村の人口は6414万人である。日本の総人口が約1億2000万人であるから、人口カバー率でいうと2人に1人は2050年カーボンニュートラルを表明していることになる。これだけ見ると如何に脱炭素リテラシーが高いかと思ってしまう。しかしこの表明した市区町村に住んでいる方々がそういう意識を持ち、30年後に向けて具体的に活動しているのだろうか?前述の座談会での話ではないが、総論賛成、各論何から取り組んでいけば良いのかわからない、限られた人材や予算の中でどうして良いかわからない、能動的にというより受動的に取り組んでいる(まるで、親から宿題ちゃんとやりなさいよと言われている子供のような気持ち)、というのが本音ではないだろうか。やりたくないのではなく、わからない、だからきちんと知りたいと思っている全国の自治体担当の方は多いと思う。

そこで、ジャストアイディアべースではあるが、例えば、全国市長会議のように各自治体の脱炭素実務担当者連絡会を定期的に開催して、情報交換や意見交換をするとか、ロボットコンテストならぬ脱炭素取り組みコンテストみたいなものをやって、取り組みを競う(披露)しあう、上位自治体は国から交付金が積み増しされるとか、大学入試合格者ランキングならぬ全国脱炭素取り組み市区町村ランキングをビジネス雑誌に特集してもらってアピールする場にするといったようにもっと前向きに取り組める要素を出してはどうだろうか?取り組み事例が取り上げられれば、その自治体はモチベーションになるし、何をして良いかわからない自治体は、先進的な自治体がどこなのか知りそこに教えを乞うことができるし、また、自分たちと似たような条件の中でどう取り組んでいるのかも参考になると思う。

つまるところ、地域における脱炭素の実現とは、何か特別なことではなく、先行している自治体の事例を如何に横展開し、各自治体にノウハウを貯めて人材を育てていくかということに尽きると思う。

参考図:脱炭素取り組みランキング(イメージ)

出 典

・日本経済新聞「再生エネ普及へ送電網、2兆円超の投資想定 首相が指示」 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA231B1023122021000000/

・日本経済新聞「交流→直流へ送電大転換 日立やNTT、再エネ普及へ構築」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC2119E0R21C21A2000000/

・環境省「地域の脱炭素化の促進について(改正地球温暖化対策推進法等)」https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/conference/energy/20210907/210907energy12.pdf

【プロフィール】1996年一橋大学経済学部卒、東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行。2017年リニューアブル・ジャパン入社。2019年一般社団法人 再生可能エネルギー長期安定電源推進協会設立、同事務局長を務めた。

集合住宅の環境価値を有効活用 使用電力のグリーン化を推進


【東京電力エナジーパートナー】

 2050年度カーボンニュートラルの達成に向けて、再生可能エネルギーの活用が推進される。

旭化成グループの旭化成と旭化成ホームズが本社を置く東京ミッドタウン日比谷と神保町三井ビルディング(ともに東京都千代田区)での使用電力において、旭化成ホームズの集合住宅「ヘーベルメゾン」に設置した太陽光発電設備で創出する環境価値を有効活用し、非FIT(固定価格買い取り制度)非化石証書付電力を調達することにより、本社使用電力のグリーン化推進を21年11月に発表した。

東電と三井不動産の協業 今年4月から提供予定

今回の取り組みは、両ビルに電力を供給する東京電力エナジーパートナー(東電EP)と両ビルを旭化成と旭化成ホームズに賃貸している三井不動産との協業により22年4月から提供される予定だ。

東電EPは、20年8月に「ヘーベルメゾン」から発電された電力を買い取り、買い取った電力に含まれる環境価値を非FIT非化石証書として使用することで、旭化成の川崎製造所(川崎市)に実質再生可能エネルギー由来の電力として供給する取り組みを開始。この非FIT非化石証書を同一企業グループ内で有効活用するスキームは国内初だった。

20年12月には、東電EPが三井不動産との間で「使用電力のグリーン化に関する包括協定」を締結し、オフィスビル等のテナント向けに安定的にグリーン電力を提供する「グリーン電力提供サービス」を構築したことにより、テナントはグリーン電力の調達が可能となった。

グループ内活用を更に拡大するにあたり、本社での活用を志向する旭化成や旭化成ホームズと、オフィスビルでの使用電力のグリーン化を推進する東電EPや三井不動産の意向が合致し、今回の取り組みの実現に至った。

なお、再エネ活用の取り組みは旭化成グループの他の事業会社(旭化成エレクトロニクス、旭化成建材、旭化成ファーマ、旭化成メディカル)の本社でも同様に行われている。

東電EPは、今後も地球環境を重視し、持続可能な社会の実現に貢献していく。

燃料価格上昇で物流業界に打撃 「2024年問題」にも影響


【業界紙の目】田中信也/物流ニッポン新聞社 東京支局記者

原油高による軽油価格の上昇は、トラック運送事業者の経営に大きな打撃を与えた。

働き方改革に関する「2024年問題」も抱える中、運賃への燃料価格の適正な反映が至上命題となる。

 2021年はレギュラーガソリンの全国平均小売価格が10週連続で値上がりし、1ℓ当たり169円と約7年ぶりの高水準に達した。全日本トラック協会(全ト協)は11月9日、軽油高騰対策を緊急決議し、斉藤鉄夫国土交通相に要望書を提出した。

トラック運送事業での営業費用のコスト構成を見ると、「燃料油脂費」が約15%と「人件費」の40%に次いで高い割合を占めており、トラックの主要燃料である軽油の価格が高騰すれば、事業者は大きな打撃を受けることが分かる。

業界求めるトリガー条項解除 政府は消極姿勢崩さず

このため、要望では「軽油価格の高騰が続けば、中小零細事業者が99%以上を占めるトラック運送業界の経営は悪化の一途をたどり、将来的に安定した輸送力を確保できなくなることも懸念される」として、政府備蓄原油の放出に加え、①燃料高騰分の価格転嫁対策、②税制および補助金による燃料費の負担軽減措置、③高速道路料金の割引制度の拡充―など、マクロ、ミクロの両面で支援策を求めた。

マクロ対策のうち政府備蓄原油の放出は、米国が協調放出を要請したこともあり、日本政府は初めて国内需要の1~2日分に相当する420万バレルを放出する方針を表明。だが、税制措置として求めていた、燃料高騰時に軽油引取税の課税を停止する「トリガー条項」の凍結解除については、政府与党は消極的な姿勢を崩さない。

これに代わる政策として創設されたのが、レギュラーガソリン小売価格(全国平均)が1ℓ当たり170円を超えた場合、5円を上限に石油元売りへ給付する激変緩和措置だ。ただ、原油価格の変動に合わせて価格を示す元売りへの支援より、「ガソリンスタンドや自動車ユーザーに直接補てんすべき」との声はトラック事業者のみならず根強く、日本維新の会と国民民主党、立憲民主党は、トリガー条項を発動させるための法案をそれぞれ臨時国会に提出した。

導入できない理由として政府与党は、発動後にトリガー条項を解除するのに最低3カ月を要するため税収低下が懸念されることや、凍結解除に法改正が必要なことを挙げているが、「自公政権として、民主党政権時に創設されたトリガー条項を復活させたくない」といった事情も見え隠れする。これに対し、全ト協の坂本克己会長は「われわれへの経済対策はしょぼい」と断言。軽油価格はこの1年で25円程度上がっており、5円ではどうにもならないのだ。トラック業界は12月2日、「燃料価格高騰経営危機突破総決起大会」を開き、自民、公明両党の国会議員に対し、トリガー条項に代わる制度も含む財政出動を求めた。

一方、荷主との交渉が基本となる価格転嫁の対策については、国交省は全ト協からの要望を踏まえ、直ちに荷主関係団体に対して「燃料費の上昇分を反映した適正な見直しを行う」よう書面で要請した。

価格転嫁対策としては、燃料価格の上昇・下落によるコスト増減分を別建ての運賃として設定する「燃料サーチャージ制」が08年に規定されている。同年、ガソリン小売価格が180円超と未曽有の高騰にひんしたことから導入する事業者が拡大したものの、その後、軽油価格が安定したことで導入の動きは鈍化。現状、全事業者の2割程度の導入にとどまっている。

サーチャージ制「もろ刃の剣」 標準的な運賃導入も推進

全ト協は「燃料サーチャージなどによる適正な運賃・料金の収受に向けた荷主関係団体・企業の理解・醸成」を求めているが、軽油価格が下落した際、荷主からの過度な値下げ圧力につながる「もろ刃の剣」になることも懸念される。また、適正なコストや利潤が反映されていない契約運賃のままサーチャージ制を導入すれば、「運賃本体の値上げがしづらくなる」として導入を敬遠するトラック事業者も一定数あり、軽油価格高騰対策の決定打とはなり得ていない。

全ト協を中心に財政出動を要望している

こうした中、サーチャージ制の導入以上にトラック業界が尽力しているのが「標準的な運賃」に基づく運賃・料金の導入だ。働き方改革関連法に基づき、24年度からトラック、バス、タクシーの各事業者に対し、時間外労働を「年間960時間以内」とする罰則付き上限規制が適用される。これにより、ドライバー不足や業績低下が懸念される「2024年問題」に備えるための特例措置が、標準的な運賃の導入で、改正貨物自動車運送事業法の規定に基づき、23年度末までの時限措置として、国交省が20年4月に告示した。

ただ、即座に値上げにつながるものではなく、標準的な運賃に基づいて適正なコスト・利潤を確保できる運賃・料金を算出し、これを基に荷主と交渉を行い、合意に基づく運賃・料金の変更を所管の運輸支局に届け出るのが通常の流れだ。また、「標準」ではなく、あくまで「標準的」と称するように、かつての認可運賃とは異なり、導入に対する強制力もない。

標準的な運賃は、新型コロナウイルス感染拡大の本格化と重なる最悪のタイミングで告示されたため、出鼻をくじかれた。その後、経済活動の復調や、国交省、全ト協とその傘下の都道府県トラック協会の普及推進運動により、導入するケースが徐々に増えてきた。

実際に、どの程度の事業者が告示に基づく適正運賃を実現したか把握するのは困難だが、導入状況を測るデータとして、全国の運輸支局などへの届け出状況を国交省自動車局が公表している。これによると、届け出件数は21年11月末時点で2万2806件あり、届け出率は40%に上っている。ただ、運賃・料金の届け出を先行し、荷主との交渉を「後回し」にしているケースが相当数に上ると見られる。加えて、都道府県ごとの届け出率の格差も顕著になっており、特例措置の期限まであと2年強と迫る中、問題は山積している。

12月以降、原油高は落ち着きを見せているが、「24年問題」の解決には、燃料費と人件費の収支改善は避けて通れない。トラック業界は高い政治力を生かすとともに、荷主に対しても毅然とした態度で臨むことが求められる。

〈物流ニッポン〉〇1968年創刊〇発行部数:15・8万部〇読者構成:陸上貨物運送業、貨物利用運送業、倉庫業、海運業、港湾運送業、官公庁・団体、荷主など