カーボンニュートラル支援を収益化 分散型リソースで事業の発展目指す


【四国電力】

四国電力は顧客のカーボンニュートラル実現を支援し、VPP事業の拡大につなげる。

次世代電力取引のプラットフォーム構築に向けて、グループが一丸となって力を合わせていく。

 分散型エネルギーリソースであるPV(太陽光発電)や蓄電池、EVは、カーボンニュートラル(CN)への切り札として注目されている。

四国電力は2021年3月、分散型エネルギー事業を今後の成長領域と捉え、利用拡大を目的に「分散型エネルギー事業推進室(DER室)」を設置した。

篠原義人DER室長は「電力ビジネスの環境が激変する中で、系統電力による一方通行の電力供給だけでなく、分散型エネルギーリソースとデジタル技術を駆使して、CNをはじめとする顧客の多様なニーズにしっかりと応えていくことが、電力会社の新たなミッションになっている」と説明する。

自治体や法人からはCN実現のために何から取り組めばいいのかという問い合わせが増えた。より一層の提案力の強化と迅速化を図るため、今年3月、四電はDER室を新規事業部から営業推進本部下に置く組織体制とした。

CNコンサルティングを得意とするグループ会社などと連携し、よんでんグループが一体となって、現状把握や計画策定からソリューションの提供まで一元的に提案活動を実施する構えだ。

DER室の大元峰司総括・EVユニットリーダーは「営業車をEVにすることや、自社の屋根に第三者がPVを設置して自家消費するオンサイトPPAが取り掛かりやすい。まずは簡単なところからスタートさせたいという要望や、コンサルによる設備改修や運用改善の支援、非化石証書の提供まで、幅広く対応しています」と、顧客のニーズに合わせた提案を行う。

EVは甚大な被害をもたらした18年の西日本豪雨災害で、“動く蓄電池”として注目された。自治体や法人では、EV利用をBCP(事業継続計画)の一環として捉え、導入の検討が進む。四電も充電器とセットでEVをリースできるサービスや、充電にCO2フリー電気を供給するオプションなど、CNへの取り組みにつながるソリューションをラインアップする。

リソースを束ね事業を拡大 鍵を握るのは蓄電池

四電は自治体や法人に分散型エネルギーを提案する一方、これらを活用したVPP(仮想発電所)事業に取り組んでいる。

VPPでは既に産業用自家発電や工場の需要家設備によるデマンドレスポンスを用いて、容量市場と調整力公募電源`Iに参入。19~20年度には、VPPアグリゲータとしての技術・運営に関する知見の習得と、ほかのプレーヤーとの関係構築のために、国のVPP実証事業に関西電力コンソーシアムのリソースアグリゲーターとして参画した。NAS電池やリチウムイオン電池を導入している顧客3者の蓄電池合計2650kWを活用したVPP実証を行い、需給調整市場の要件に適合した制御ができることを確認した。

また、需給調整市場への参入・収益化に向けては、リソースの絶対量を増やすことを必須とし、21年度は自家発電を組み合わせたより高度な実証も行った。

篠原室長はVPP事業の主要なターゲットになるのは需給調整市場で、その鍵を握るのは蓄電池だと言う。国の方針でも30年までにPVを最大4400万kW増やす計画があることを挙げ、「PVを蓄電池と組み合わせれば、発電を無駄にすることなく使えるとともに、VPPでも制御しやすい有力なリソースになる」と強調する。

現在の蓄電池の導入は家庭用が先行しているが、脱炭素への関心の高まりや低価格化によって自治体や法人への導入が加速的に進むとみている。

「BCP対策やピークカットでの活用を切り口に、第三者所有モデルなどのスキームを使いながら蓄電池の拡大を図っていく。さらに蓄電池としてのポテンシャルを持つEVについても、VPP活用の肝となる制御技術はグループ会社と協力して見極めていく」。利用時間帯の予測が比較的容易なバスや営業車などのEVを束ね、複数拠点の遠隔充放電制御が可能なシステムの検討も進める。将来は個人のEVもVPPリソースとして活用することを見据えている。

PVを全国展開 次世代電力取引へ発展

設置が拡大しているPVについては、シンガポールのサンシープ社、住友商事とともに「サン・トリニティー合同会社」を設立し、今年3月、事業を開始した。サンシープ社は屋根置きソーラーを中心に幅広く事業を展開。シンガポールを拠点に東南アジアで圧倒的なシェアを誇る。資機材調達の面でも複数の有力メーカーと取引があり、その調達力が強みだ。

四電は住友商事と共にPV事業を全国展開し、オフサイトPPAやため池を活用した水上ソーラーなども手掛けていく。顧客のCN実現を支援しながら分散型エネルギーのリソースを増やすことで、VPP事業の規模拡大を図り、容量市場や需給調整市場での収益化につなげる。将来的にはこれらリソースを有機的に結び付け、個人間電力取引(P2P)や、環境価値の取引まで行う次世代電力取引のプラットフォーム構築を目指す。

脱炭素×分散型エネルギーのサービス開発ロードマップ

火を噴いたウクライナ危機 資源価格は激しく乱高下


ロシア・ウクライナ危機が火を噴いた。2月24日のロシア軍の侵攻開始以降、西側諸国はロシアへの経済制裁としてSWIFT(国際銀行間通信協会)からの排除や、ロシアの外貨準備凍結などを矢継ぎ早に発表。対抗するロシアは、欧米や日本などを「非友好国」に指定し、ロシア産天然ガスへの支払いをルーブルに限るなど、応酬が続く。

ウクライナ北部の石油貯蔵タンクが燃える様子を写した衛星画像(3月21日)(提供:AFP =時事)

エネルギー資源大国に対する制裁だけに国際市場への影響は甚大で、化石燃料価格はすさまじい乱高下ぶりを見せた。石油価格は、3月8日に米国が発表したロシア産原油禁輸措置を受け、WTI原油先物が終値で1バレル123ドル超に急騰した。実際に途絶に至らないと先物市場が認識すると価格は落ち着き、95ドル前後に急落。だが、その後再び上昇し、23日現在110ドル台で推移している。

天然ガスも、特にロシア依存度の高い欧州で価格が急騰。欧州の指標価格であるオランダTTFは7日、100万BTU当たり約72ドルの最高値をつけた。TTFにつられる形でアジアスポット指標のJKMも同日、約85ドルまで上昇した。その後、両指標ともに下落し、TTFは23日現在は30ドル前後で推移する。

驚くべきは石炭。豪州産先物価格を見ると、2月25日の1t当たり239ドルが7日には422ドルへと暴騰した。23日現在も330ドルで高止まりしている。

G7(主要7カ国)は3月10日に臨時エネルギー大臣会合を開催。これまで欧州では天然ガス投資に否定的な声が強まっていたが一転、共同声明には現在の危機を乗り越えるためLNG投資が必要だと認める一文が入った。この問題は14頁からの特集で詳報する。

電気料金の負担増どう回避!? 燃料高騰で露呈した制度矛盾


小売り全面自由化後も、競争政策と需要家保護の二律背反状態が続く電気料金制度。

燃料高騰の局面でその矛盾がさらに鮮明に浮き彫りにされようとしている。

 「前年と使用量はそれほど変わらないのに、なぜこんなに高い料金を請求されるのか」――。

全国の大手電力各社のコールセンターには最近、このような問い合わせが相次いでいるという。平時であれば、多くの人が金額の多寡をほとんど意識することなく自動引き落としで支払って終わりの一般家庭の電気料金。だがこの1年、上昇の一途をたどり続け、いよいよ関心の薄い消費者でさえ無視できないほど高い水準に到達してしまったのだ。

価格の押し上げ要因には、再生可能エネルギー賦課金の増大や各種割引制度の廃止などさまざまあるが、何より大きく寄与しているのが、燃料価格の変動を迅速に料金に反映させるために設けられている燃料費調整(燃調)制度に基づく調整単価の影響だ。

石炭やLNGなど火力発電燃料の調達価格高騰に歯止めがかからず、4月の大手電力10社の標準家庭の料金は、燃調がマイナス調整だった1年前と比べ月額800~1900円もの大幅な値上がりとなった。料金低減には、燃料市場の正常化が前提条件となるが、ウクライナ情勢の緊迫化でその見通しは立ちそうにない。当面の間は、料金の高止まりを覚悟しなければならないだろう。

電力10社の電気料金比較
(単位:円) △は燃料調整費が上限に到達

自由化と需要家保護のはざま 浮上したコスト回収問題

そして、この状況下で浮上しているのが、現行料金制度の下、増大し続ける発電燃料コストを誰がどう負担すべきかという問題だ。

小売り全面自由化後も、一般家庭向けの電気料金には「総括原価方式」による経過措置規制が残されている。その燃料調整単価には、急激な燃料価格上昇による家計負担増を防ぐ目的で上限(各社の基準燃料価格の1・5倍)が設定されており、北陸が2月分、関西、中国が3月分、四国と沖縄が4月分でそれぞれ上限に到達。東北、九州も時間の問題だ。基準価格水準の高い北海道、東京、中部でさえ、もう一段の原油価格高騰と円安が進めば、上限に到達する可能性がある。

これが何を意味するかと言えば、今後さらに燃料コストが上昇したとしても、上限に到達したところでは、家庭の電気料金負担がそれ以上に増えることはないということだ。その代わり、大手電力会社は燃料費超過分を電気料金に転嫁することができず、自助努力によるコスト吸収の範囲を超えてしまうと、さらなる収益悪化は免れないことになる。

この事態に大手電力関係者の一人は、「採算が取れているならともかく、赤字を引き受けてまで需要家を保護することは民間企業としての一線を越えている。このままでは安定供給を担保できない」と現行制度の限界を指摘する。

不満を募らせているのは、新電力関係者も同様だ。新電力は小売り全面自由化以降、大手電力会社の規制料金よりも割安であることを自社の料金メニューで訴求し契約を獲得してきたにもかかわらず、燃料費の高騰で両者の料金が逆転してしまったからだ。ある新電力の幹部は、「大手電力の規制料金を契約するのが最も割安になってしまうと、競争が阻害され自由化を後戻りさせかねない」と危機感を露わにする。

こうした問題を解決するには、大手電力会社が、東日本大震災後の原発停止時以来となる規制料金の本格改定を行い、それと同時に燃調を見直すほかない。ところが、現段階で大手10社が料金改定に向け動いている様子はない。

別の大手電力関係者は、「原価の洗い替えや燃調の前提となる電源構成の見直しなど、複雑なプロセスを経て経産省の認可を得なければならない値上げ改定には、どの電力会社も二の足を踏まざるを得ない」と、その理由を明かす。

実のところ、販売電力量のうち燃調が上限に達した比率は北陸電力で10%、関西電力でも15%程度。その改善のため「料金改定に膨大な労力をかけるのは費用対効果からいって見合わない」(大手電力関係者)。ましてや各社の先陣を切りたくないというのが本音のようだ。

萩生田光一経産相は3月15日の日本維新の会幹部との面談の最中、「家庭の電気・ガスについては、料金上昇に歯止めがあるメニューを選択可能。事業者に対して必要な支援を行っていく」と発言した。原油価格高騰対策として石油元売り会社に対し実施している補助金と同様に、電力・ガス会社に対しても自助努力を超えるコスト増分について国が何らかの支援策を講じるのかが、今後の一つの焦点となりそうだ。だが、それだけでは、料金制度の矛盾解消には程遠いと言わざるを得ない。

市場価格高騰で見直し急務 最終保障供給の意義

規制料金が撤廃され、完全自由化に移行している大口需要家向けの高圧・特別高圧分野でも、ある料金制度が問題化しようとしている。需要家がどの小売り事業者とも契約できない場合に、次の契約先が見つかるまでの期間限定で一般送配電事業者が供給を担う「最終保障供給約款料金」だ。

卸電力のスポット市場価格が高騰したことで、事業を停止したり需要家を抱えきれずに契約を打ち切ったりする新電力が続出。他の新電力や大手電力会社と契約しようにも条件が折り合わず、行き場を失う需要家が増えていることが、その背景にある。 

大手電力会社の営業担当者は、「販売量を増やすには、新たにスポット市場で燃料を調達する必要がある。この燃料高騰局面で供給ニーズに応じることはそう簡単ではない。どうしても契約に至らない需要家には、最終保障約款という選択肢があることを丁寧に説明している」と話す。

最終保障供給は、送配電事業者が大手電力会社の標準メニューの1・2倍の料金で1年間の期限付きで供給することになっている。このまま市場価格の高騰が続けば、申し込みが増え続けることが想定されるが、そうなった場合、現行水準だと赤字化する可能性も否定できない。

追加で調整力を確保しようとすれば送配電事業者のコスト増は避けられず、それは周り回って全ての需要家の負担となる。3月24日、電力・ガス取引監視等委員会が最終保障供給料金の在り方についての議論をスタートさせた。これを機に、実情に合った制度の見直しが求められる。

【マーケット情報/4月1日】原油反落、需給緩和観が台頭


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み急落。需給緩和観を受けて売りが優勢に転じ、価格が反落した。

米国原油を代表するWTI先物は1日時点で99.27ドルとなり、3月中旬以来初めて100ドル台を下回った。北海原油の指標となるブレント先物と中東原油を代表するドバイ現物も、それぞれ104.39ドルと101.18ドルを付け、3月中旬以来の最低となった。

米国は、今後6カ月に渡り、1億8,000万バレルの戦略備蓄を放出する方針。また、国際エネルギー機関の加盟国も1日、戦略備蓄の追加放出で合意。供給増加の予測が広がり、価格に対する下方圧力となった。

需要後退の観測も、売りを強める要因となっている。中国は新型コロナウイルスの感染再拡大を背景に、上海でロックダウンを導入。経済活動の減速と、燃料など石油需要が後退するとの見通しが強まった。

一方、OPECプラスは、5月の追加生産を当初の計画通り日量43万2,000バレルとすることで合意。増産幅の拡大を求められていたものの、原油価格の高騰は政情不安によるもので、実際に供給が逼迫しているわけではないと主張した。ただ、価格の上げ要因にはならなかった。

【4月1日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=99.27ドル(前週比14.63ドル安)、ブレント先物(ICE)=104.39ドル(前週比16.26ドル安)、オマーン先物(DME)=101.18ドル(前週比11.11ドル安)、ドバイ現物(Argus)=101.18ドル(前週比10.87ドル安)

風雲急を告げる原発「早期再稼働」 危機回避へ超党派の政治判断


化石燃料価格の高騰や需給不安を背景に、エネルギー安全保障の確保が国家的課題に急浮上の様相だ。

要となる原子力発電の緊急再稼働に向け与野党の一部が動き出す中、岸田政権の政治判断に業界の関心が集まる。

「野党が原発再稼働を求めるという異例の事態が起きている。本来なら、与党が率先して動かなくてはならないのに。岸田内閣はこの現実を重く受け止めるべきだ」

元経済産業省官僚で社会保障経済研究所代表の石川和男氏は3月10日、自身が司会を務めるオンライン番組で、こう批判を投げ掛けた。ロシアのウクライナ侵攻が本格化した3月初旬、日本維新の会の松井一郎代表や、国民民主党の玉木雄一郎代表が相次ぎ記者会見の場などで、原発再稼働を要望したことへのコメントである。

そんな石川氏の指摘が伝わったかのように、自民党の電力安定供給推進議員連盟(会長・細田博之衆院議長)は3月15日、「ロシアによるウクライナ侵略等を踏まえた原子力発電所の緊急的稼働について」と題する決議書をまとめ、萩生田光一経産相に手渡した。

決議書は火力発電依存による電気料金の高騰、原発再稼働プロセスの長期化を指摘。「安全の確保を優先しつつ緊急的に稼働させ、国民生活を守るための措置を講じる必要がある」として、稼働に関わる規制上の制約を一時除外するなどの措置により、停止中の原発の速やかな再稼働を求めている。具体的には、特定重大事故等対処施設(特重施設)の工事が期限内に終わらず止められている原発について、「設置期限の見直しを図るなど、稼働継続を可能とする措置を講ずること」を例示した。

自民議連の決議書を受け取る萩生田氏(右)

慎重姿勢の萩生田氏 規制委は見直しを否定

「特重施設の工事をしながら(原発を)動かしていくべきだと考えている」。萩生田氏のもとを訪れた高木毅・国会対策委員長は、原発の早期再稼働の必要性を改めて訴えた。これに対し、萩生田氏は提案への理解を示しつつも、「再稼働が円滑に進むよう国も前面に立ち、エネルギーを巡る状況や原子力の課題に関係者からの理解を得られるよう粘り強く取り組む」とコメントするにとどまった。安全審査の規制緩和に関しても「原子力規制委員会の管轄のため、経産省からのコメントは差し控える」と距離を置いた。

面談後、ぶら下がり取材に応じた高木氏は「政府のスタンス以上の話はなかった。残念なことだ」とコメント。帰り際、記者から「(萩生田氏は)一蹴でしたね。『経産省ではなく、規制委に言ってくれ』なんて」と声が上がると、高木氏は「寂しいよな、同じ研究会(清和会=安倍派)にいるのに」と失望感をにじませた。

その1時間ほど前、維新の幹部が萩生田氏を訪れ、「ウクライナ危機等から国民を守るための緊急経済対策提言」を手渡していた。「美浜3号機、高浜1、2号機はじめ運転計画の前倒しが可能な原発については、緊急の特別措置としてエネルギー基本計画を改訂し再稼働させる。少なくとも課題の洗い出し作業をスタートするよう強く求める」と、自民議連の決議書よりも踏み込んだ内容が特筆される。しかし、当の規制委は……。

「委員会として行動することは考えていない」「安全に妥協は許されない」―。更田豊志委員長は翌16日の会見で、特重など規則の運用見直しに否定的な考えを重ねて強調した。エネルギー非常事態の情勢下にもかかわらず、経産省も規制委も平時の政府見解に終始しており、23日現在、緊急再稼働の道筋は見えていない。

国内の原発の現状を改めておさらいすると、廃炉が決まった24基を除く36基のうち、再稼働を果たしたのは関西電力大飯3、4号、同高浜3、4号、同美浜3号(特重工事で停止中)、九州電力玄海3、4号、同川内1、2号、四国電力伊方3号の計10基だ。

また新規制基準に合格し設置変更許可を受けた原発で、地元自治体の同意が得られているのは東北電力女川2号(本体工事中)、関西電力高浜1、2号(特重工事で停止中)の計3基。東京電力柏崎6、7号(工事未着工)、中国電力島根2号(本体工事中)、日本原子力発電東海第二(本体工事中)の計4基は設置変更許可を受けたものの、地元との協議が続く。

この中で特重工事中の3基については、規制委の規則不適合によって停止を余儀なくされているため、官邸が規制委を説得するなどして規則の運用が見直されれば工事と並行しながらの再稼働は可能。一方、設置変更許可済みで本体工事中や地元協議中の5基については、「官邸が超法規的措置でも発動しない限り、早期再稼働は困難」(経産省関係者)な状況だ。

東側の再稼働が急務 試される有事対応力

「特重工事中の3基が動いたとしても、電力需給が厳しい50‌Hz地域では全ての原発が止まったままだ。しかも、16日の宮城福島沖地震で損壊した一部の大型火力で復旧のめどが立っていない。夏場に向けて電力不足の懸念が強まる中、ロシアへの経済制裁としてサハリン産LNGの輸入停止という事態になれば、LNG型火力の稼働に支障が出る恐れも。1基でもいいから東側の原発を動かしたい。それが電力業界の本音だろう」(エネルギー関係者)

2012年6月8日、当時の野田佳彦首相(旧民主党政権)は官邸会見で「国民の生活を守るために、再起動すべきだというのが私の判断」「立地自治体のご理解を改めてお願いしたい」などと述べ、需給ひっ迫の回避に向けて大飯3、4号の再稼働を政治主導で進める考えを示した。「再稼働の必要性を国民に訴えてほしいという西川(誠一・福井県)知事(当時)の要望を受けての対応だったが、今思い返しても鳥肌が立つような英断だった」。大手電力会社の幹部は、こう振り返る。

10年後の現在、電力供給を取り巻く環境は一段と厳しさを増している。脱炭素化の影響で不安定な自然エネルギー発電が急増する一方、大型火力は続々と休止。燃料となる石炭、LNG、石油の市況は全面高の様相を呈している。加えて円安の加速だ。ウクライナ戦争、資源高騰、インフレ不況という危機の連鎖に対し、わが国政府はどう立ち向かうか。岸田政権の有事対応力が試されている。

宮城・福島で震度6強の揺れ 火力停止でまたも電力危機


 3月16日深夜、東日本大震災から11年目を迎え、鎮魂と復興への祈りに包まれていた東北地方を再び大規模地震が襲った。最大震度6強を観測した宮城・福島県では、電線の混線や電線を支える碍子の損傷など送配電設備の不具合が発生。両県で約15万戸が停電し、翌17日夜に全面復旧した。18~19日にかけて冷たい雨や雪に見舞われるなど寒さが続いたこともあり、早期に供給を再開できたことは不幸中の幸いだ。

地震発生直後、都心部でも広い範囲で停電が発生した(3月17日未明の東京都港区)

一方この地震では、東北電力の原町火力1号機(石炭、100万kW)や、JERAの広野火力5、6号機(石炭、計120万kW)など、東北から関東の太平洋側に位置する11カ所の火力発電所が相次いで停止。地震発生の直後には一時、約600万kWもの供給力が失われた。

UFR(周波数低下リレー)の仕組みが機能し、ブラックアウト(全域停電)に至ってしまう最悪の事態は回避したものの、この影響で東北電力ネットワークと東京電力パワーグリッド(PG)エリアは、その後しばらくの間、綱渡りの安定供給確保を迫られることになった。

最も深刻な事態に陥ったのは地震発生から6日後の22日。この時点で、東北、東京エリアでは依然として6基(計約330万kW)の火力発電所が停止中。そこに、悪天候と低気温が重なり、広域の電力融通など対策を講じたとしても、十分な供給力を確保できない恐れがあるとの判断から、経済産業省が初の「需給ひっ迫警報」を両エリアに発令し、企業や家庭に節電を呼び掛けたのだ。

この日東京エリアは、午前7時から午後4時まで、ほかの一般送配電事業者7社から最大141・78万kWの電力融通を受けた。それでも、節電が想定通りに進まず、午後2時台には供給力に対する需要の割合を示す「使用率」が107%に。システム上で需要が供給を上回るあわや停電危機に、経産省は午後3時から8時までの間、毎時200万kWのさらなる節電協力を要請した。

夜には2度目の電力融通を受け、午後9時ごろ、同日中の停電の恐れがなくなったことが発表された。まさに、極限の緊張感の下、総力を挙げて首都圏の電力危機を乗り切ったといえる。

厳しい需給を反映 スポット市場80・02円に

厳しい電力需給状況は、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット取引市場にも波乱を巻き起こした。22日受け渡し分のシステムプライスは、ほぼ全時間帯で実質的な上限価格である1kW時当たり80円に張り付き。東日本エリアでは、午後5時半~6時に80・02円と、今シーズンの最高値を付けた。昨年の市場価格高騰で苦境に立つ新電力にとっては、「とどめ」になりかねない事態だ。

ここ数年、厳気象や自然災害のたびに脆弱性を突き付けられてきた日本の電力システム。競争政策に重きを置いた改革は、結局は新規参入者をも苦境に立たせている。危機を頻繁に繰り返さないために、システムの冗長性を取り戻すための政策転換を急ぐべきだろう。

脱炭素・デジタル時代の企業誘致 再エネ100%地産地消で価値訴求


【石狩市のエネルギー基地を訪ねて〈後編〉】草野成郎(株式会社環境都市構想研究所代表)

脱炭素・デジタル時代への対応を視野に、新たな企業誘致を目指す試みが加速している。

再エネ100%の地産地消を実現する取り組みとは。前号に引き続き、草野氏が報告する。

 石狩湾新港地域を舞台にした「分散型エネルギーインフラプロジェクト」の委託調査事業の概要を見てみよう。

石狩市にあるさくらインターネットのデータセンター

主題は、「工業団地内でのエネルギーの需給に関する最適利用」「災害時におけるエネルギー融通」「災害時における食料・医薬品など必需品の安定供給と被害者救済拠点の整備」「工業団地内企業と石狩市庁舎を結ぶICT利用の具体化などの検討」とし、別件として「最新鋭技術としての超電導事業の可能性の検討」を加えた。具体的な作業は、次の通りである。

域内を区分して消費量分析 大規模洋上風力の検討も

①全体を特徴的な地域ゾーンに区分して分析する、すなわちエネルギー消費量が大きい食品工場群地域、電力需要が大きいデータセンター地域および冷蔵・冷凍倉庫群地域、市役所・給食センター等管理建物群地域などに区分して、それぞれのエネルギー消費量データを収集する。

②北海道ガスのLNG基地および北海道電力の火力発電所におけるエネルギー消費量と発生エネルギー量を収集する、併せて別枠の超電導事業との関連から必要となるLNG冷熱エネルギーデータを収集する。

③地域ごとの都市ガス配管系統および送電系統を図面上で整理し、地域ごとの利用容量と可能量データを作成する。

④以上のデータに基づき、年間および月間、状況に応じて時間別の熱需要と電力需要データを作成し、利用効率が最大となるようなコージェネレーション規模を算定する。

⑤適用コージェネに関する設備費用および年間費用を算定する。

⑥工場群ごとに算出される電力・熱コストと系統電力・系統ガスとの比較計算を実施する。

⑦工場群ごとのエネルギー費用に関する経済性比較表の作成。

⑧団地内企業群に対して、こうした事業への理解と意欲に関するヒアリングを実施する。

⑨超電導については、電線の冷却コストの観点から、北海道ガスLNG基地内の冷熱の利用および運搬について、従来型の液体窒素の利用との比較を行う。

⑩再生可能エネルギーの導入に関して、太陽光発電所の導入によるデータセンター電力の経済性の検討と工業団地沖合地区で予定している大規模洋上風力発電の可能性を検討する。

⑪石狩地域における再エネの物理的な賦存量の推定に基づくそれぞれの利用可能量の計算など。

 これらの作業は、石狩市のスタッフによって着実かつ精力的に進められ、併せて本委託作業の再委託先となった日本設計(東京都新宿区)の並々ならぬ意気込みが相まって実施された。改めて頭の下がる思いである。

画期的な共同センター構想 進出企業に多様なメリット

事業調査結果の概略は次の通りである。いずれの数値も全ゾーンの合計値であるが、炭酸ガス排出量は30~40%減、コージェネの規模は2万5000kw程度、設備投資額は熱供給配管を含めて約50億円と算定されたが、本方式による電力および熱費用と従来型の方式(系統電力による電力費用+ボイラ、冷凍機等による温冷熱費用)との比較において、残念ながら投資採算性が乏しいこと、一定の補助金によって一部は改善するものの、関連する業界からの出資の可能性も極めて低いことが判明した。

従って結論としては、この調査を進める過程において、団地内の企業群との真剣な議論が進んだおかげで、高いエネルギー効率を発揮するコージェネの導入や地元企業による再生可能エネルギーの活用についての理解は格段に深まったものの、今回の方式による分散型エネルギーインフラ事業の具体的な展開は、今の段階では困難となった。すなわち、電力需要および熱需要がこの程度の規模の場合は、投資採算性の確保が難しく、通常の製造業種に加えて、24時間操業となるホテルや病院など熱需要の多いエネルギー多消費型の工場や事業所の新たな進出がない限り実現は難しいことなどが明らかになったのである。

しかし今回の調査を通じて、こうした工業団地においては、進出企業がそれぞれ単独でエネルギーセンターを建設するよりも、各企業が共同化することによって、より規模が大きく、そして結果的に各企業のエネルギー使用量の月間および時間の振幅を吸収できるようなエネルギーセンターを建設することの方が、効率、コスト、リスク、安定性などの面で良策ではないかとの見解も議論された。すなわち、時期の整合性の問題があるものの、工業団地内の各企業の工場・事業所の増設や改造や老朽化に伴う新設などの機会を利用した共同エネルギーセンターの建設を考慮すべきであるという問題提起がなされ、これも成果の一つであった。

さらに論を進めることにより、仮に工業団地内に未分譲の土地があれば、初期投資額や回収の問題があるものの、工業団地の運営・管理側が分譲に先立って、当該地区に進出しようとする企業・事業所のために一定規模のエネルギーセンターを建設する。

官邸が主導するデジタル田園都市国家構想実現会議

つまり、進出する企業・事業所は自分自身で用意することなく、別に建設される共同エネルギーセンターから、脱炭素時代に向けた再エネを活用した安定的で低コストのエネルギーの供給を受けることができる、というシステムが新しい事業形態の画期的な方策も検討された。そして、これらの将来の事業システムの検討に関して、今回の委託調査の手法ならびにデータ集積などが極めて有効であることも、併せて確認したところである。

【省エネ】エコキュート昼利用 再エネ利用を最大化


【業界スクランブル/省エネ】

 東京電力エナジーパートナーから太陽光発電(PV)、蓄電池、昼間沸上エコキュートを初期費用無料の定額サービス料金で利用できるサービスがリリースされた。併せて、PVと昼間沸上エコキュートを設置した顧客を対象とした、新しい料金メニューも発表された。今後、一戸建て住宅へのPV拡大が想定されており、政府の有識者会議でも2030年の新築一戸建て住宅のPV普及率目標を6割としている。また自治体レベルでは、東京都が住宅供給事業者などへPV設置義務を検討している。なお新築住宅へPV設置を義務化しているカリフォルニア州では、23年から電化レディ(電化機器設置に備えた配線などを敷設)の義務化が決まった。

このように、住宅へのPV設置が標準的となった場合には、PV自家消費を進めるために、エコキュートの蓄熱運転を夜間から昼間へ移行するのが理想だ。

エコキュートの給湯熱量の約4分の3は「空気の熱」からの取得熱で、運転時の外気温度と貯湯温度の温度差が小さい方が高効率なシステムだ。つまり、「冬より夏」「夜間より昼間」に蓄熱する方が省エネとなる。ヒートポンプ・蓄熱センターが公表した報告書では、夜間蓄熱の給湯システム効率4.0に対し、昼間沸上主体に運転時間を変更した場合の効率を4.6と試算している。蓄熱運転時間を昼間にシフトするだけで、15%もの効率向上を達成していることになる。

もちろん使用者にとっては、いつもの入浴行動の時間に必要な湯量は確保されているので不便ではない。純粋な技術開発で15%の効率向上を実現するのは大変で、機器価格が上昇する懸念もある。よって、省エネルギー推進・PV自家消費拡大の観点からは、昼間沸上エコキュートの普及拡大が望ましい。一方、現状のJIS基準のAPFは夜間蓄熱が前提の効率基準であり、住宅の省エネルギー評価にも当該JIS基準が使われるため、昼間沸上エコキュートの実際の効率が反映されない。早急なJIS基準策定とエネルギー消費性能計算プログラムへの反映が必要である。(M)

【マーケット情報/3月25日】原油急伸、需給逼迫の見込み強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週までの原油価格は、主要指標が軒並み急伸。需給が一段と引き締まるとの予測で、買いが優勢となった。北海原油の指標となるブレント先物は25日時点で、前週比12.72ドル上昇の120.65ドルを付けた。米国原油を代表するWTI先物、および中東原油の指標となるドバイ現物はそれぞれ、9.2ドル高の113.9ドル、5.87ドル高の112.05ドルとなった。

スロベニアやルーマニアなど、複数の欧州連合(EU)加盟国が、ロシア産原油に対する制裁強化を呼び掛けた。EU加盟国の間では、ロシアのエネルギー産業に対する制裁で意見が割れていたが、ここにきてドイツが、今年半ばまでにロシア産原油の輸入量を半減させると発表。加えて、年末までに、国内製油所をロシア依存から脱却させるとの方針を示した。

フランスのトタルエナジーズ社は、遅くとも年末までには、ロシア産原油および石油製品の輸入から撤退するとしている。日本のエネオスと出光も、ロシア産原油の新規購入を停止。需給逼迫観がさらに強まる見通しで、価格が急伸した。

また、イエメンを拠点とする武装勢力フーシが25日、サウジアラビアの石油施設をミサイルで攻撃。同国のエネルギー施設は20日にもミサイル攻撃を受けている。供給不安に対する懸念が広がり、価格にさらなる上方圧力を加えた。黒海ターミナルが台風で損傷し、23日から一時的に出荷が停止したことも、需給逼迫観を強めた。その後、輸出は再開したとみられるものの、復旧時期については不透明な状態だ。

【3月25日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=113.90ドル(前週比9.20ドル高)、ブレント先物(ICE)=120.65ドル(前週比12.72ドル高)、オマーン先物(DME)=112.29ドル(前週比5.64ドル高)、ドバイ現物(Argus)=112.05ドル(前週比5.87ドル高)

【住宅】急進した省エネ 需要家側も最適化へ


【業界スクランブル/住宅】

今回は直近の四半世紀における住宅の省エネについて考えてみる。省エネの発端は1973年と79年のオイルショックであるが、97年の京都議定書から目標がCO2削減に切り替わり、エネルギー使用量の削減とともに、利用するエネルギーの質も評価されるようになった。

底上げ政策としての断熱基準の改定に合わせ、ヒートポンプ性能の向上(エコキュート)、給湯器の性能向上(エネファーム)、LED照明といった個々の住宅設備が大きく進化した。また、住宅用太陽光発電という再エネを直接ユーザーが利用する画期的な発電設備の普及も始まった。

2011年にはエネルギー基本計画で「高効率家電・照明や高効率給湯器、太陽光発電の利用、住宅の省エネ基準の適合義務化等により、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の普及を推進する」とZEHの概念が導入され、個々の仕様、機器別の導入推進から、住宅全体の総合的な取り組みへと方向性が進化していった。21年の段階では、大手住宅メーカーの新築一戸建て住宅の約半数がZEH基準に達しており、30年には「(省エネ)新築される住宅・建築物についてはZEH・ZEB(ビル)基準(水準)の省エネ性能が確保され、(再エネ)新築一戸建て住宅の6割において太陽光発電設備が導入される」との高い目標が設定されており、ZEHの普及が加速するであろう。

今後の展望であるが、21年の第六次エネルギー基本計画では「50年にカーボンニュートラルを目指す」との野心的な目標が設定された。達成に向け住宅・建築物ではZEH・ZEB、太陽光発電などのより高レベルな導入促進を挙げているが、これで十分であろうか。

高い目標に向けては住宅・建築物というくくりを超えて、建物内で利用される家電機器などとの最適化(ピークカットの運転)、自家用車(EV)との連携、さらには通勤通学での消費エネルギー削減(テレワーク活用)まで含めた、居住者の生活シーンにも踏み込んだ総合的なエネルギー最適化が求められる。(Z)

【太陽光】国益を守る再エネ 太陽光を使い尽くせ


【業界スクランブル/太陽光】

一次エネルギーの9割近くを海外に依存しているわが国にとって、エネルギー価格の高騰はダメージが大きく、長引けば国民生活への影響は計り知れない。しかし、なぜかエネルギー業界からも有識者からも、純国産であり、かつ燃料価格高騰時でも価格が安定している太陽光発電などの再生可能エネルギーへの期待論があまり聞こえてこない。それどころが、「出力が不安定な再エネがLNG価格の高騰を招いている」など、おとしめるような論調の報道さえある。

地球に降り注ぐ太陽エネルギーは膨大であり、その1~2時間分を全て活用できれば、全世界の1年分のエネルギーを賄えるともいわれている。日本でも、人が居住できる平地の約4%の面積に太陽電池パネルを設置すれば、国内の電力需要を全て賄えるだけ発電することも可能だ。建物の屋根・壁面や耕作放棄地、溜池などの未利用地の有効活用もできる。しかし、「日本は太陽光に向いていない」「これ以上の導入は困難」など誤った認識を持つ人が多いのに驚かされる。

もちろん太陽光に加え、洋上風力や水力、地熱、バイオマスなどの国産の再エネ、揚水発電や蓄電池のほかEV、ヒートポンプなどの需要側資源を組み合わせれば、電力自給率8割だって夢ではないはず。なのに、再エネは頼りにならない、将来もエネルギー供給は海外に依存して当然といった考えの人がいまだにいる。

国民負担の観点から、太陽光発電の大量導入を問題視する人がいるが、これも誤った認識だ。新規に認定される太陽光のFIT価格は1kW時当たり10円程度に下がっており、同20円を超えるような足元の卸電力スポット価格より随分安く、国民にとっては負担どころか利益になり得るレベルとなっている。

カーボンニュートラル実現のための再エネ活用は当然だが、一次エネルギーのほとんどを海外からの輸入に頼っている日本だからこそ、純国産でかつ燃料価格の高騰から国益を守ってくれる太陽光発電のポテンシャルを正しく評価し、国民のために使い尽くすことを真剣に考える人が多数派になる日を切に願う。(T)

【メディア放談】加熱する資源高騰報道 問題の根本議論は深まらず


<出席者>石油・ガス・電力/3名

昨年来の化石燃料高騰を受け、一般紙では消費者への影響などを訴える記事が目立つ。

ただ資源高の深層に迫り、問題の根本的な解決を訴える記事は限られる。

 ――岸田政権が踏み切った異例の石油価格高騰対策がついに発動。だが業界内で評価する声は少ない。

石油 7年ぶりに指標原油が軒並み1バレル90ドル台となった。石油元売りや商社などに補助金を支給したが、末端価格は下がっていない。上昇した価格を発動要件のレギュラーガソリン1ℓ当たり170円に〝戻す〟という感じだ。業界の仕組み的に末端価格が下がりにくく、やはり筋が悪い。そして北国は大寒波なのに、灯油は1ℓ当たり100円ほどまで上がり、地方紙が批判的に報じている。

構造問題報じる業界紙 朝日はLP料金問題を続報

――元売りや商社の決算が良いことも批判の要因になりそうだ。

石油 消費者の不満が高まれば石油業界のイメージが悪くなるだけだ。ただ、消費者の問題以上に物流業界など産業・業務用部門への影響の方が重要。その点の突っ込みが一般紙は甘い。

――今は自然発生的なカーボンプライシング強化状態。そこに補助金を投入し緩和することはカーボンニュートラル政策とは矛盾する。

電力 一般紙にはそんな論調は出てこない。また、電気やガス価格の高騰も徐々に取り上げられているが、石油のような緊急対策はなし。欧州で深刻化する「エネルギー貧困」が対岸の火事ではなくなりつつある。

ガス 資源高騰の問題は複層的だ。欧州で風力の稼働率が下がったことや、ウクライナを巡るロシアとの関係悪化、こうした欧州事情のアジアへの伝播などもあるが、根本的な問題は化石燃料開発投資の世界的な停滞だ。一般紙は消費者の視点やウクライナ危機にフォーカスしすぎている。

 その点、業界紙は構造問題を取り上げている。電気新聞は「化石燃料に適切な投資を」という日本エネルギー経済研究所の小山堅氏のインタビューを掲載。ガスエネルギー新聞も、同じくエネ研のガスグループマネージャーの分析で、2021年のLNG生産部門への投資が拡張案件ばかりだったと指摘している。

石油 ところで朝日は、昨年末1面で報じたLPガス料金問題を、2月上旬に3回連載で続報。今回は不動産関係者の問題も指摘したものの、LPガスの末端価格が上がっている時期に再度記事が出て、業界には再びのイメージダウンだ。日頃から不透明な価格問題の解消に取り組んでいれば、経済産業省との距離も縮まり、こうした事態は防げたかもしれない。

電力 電力全面自由化から丸5年以上経ち、燃料在庫を余分に持つことが難しくなった。EUタクソノミーの素案では原子力が認められたが、日本も再稼働に本気で取り組まなければ。だが、電力会社内でも部門間の隔たりが大きくなってきている。松野博一官房長官が2月9日の会見で欧州へのLNG融通について述べた際、国内の安定供給については「原子力を含め、あらゆる選択肢を活用していくことが必要」と答えたようだが、政府内からこうしたコメントが続くことを期待している。

日経は路線変更へ 洋上風力入札への関心続く

ガス ウェッジ2月号には政策アナリスト・石川和男氏の「規制委に全てを委ねる姿勢やめ政府指示で原発再稼働を」と題した原稿が載っていた。12年に大飯3、4号再稼働を指示した野田佳彦元首相のような決断が、今の政府にもできればよいが……。

電力 難しいだろうね。クリーンエネルギー戦略で原子力関連はエネルギー基本計画以上のことを書かないだろうし、電力業界は参院選まで事は動かないと思っている。

石油 毎日、朝日、東京は相変わらず「SMRで原子力復活か」などと書いていて、石川氏のようなコメントは扱わないはずだ。

ガス タクソノミーを受けて日経はさすがに再エネ押しから路線変更し、化石燃料と原子力の重要性を再認識する論調になった。ちなみに日経は「脱炭素商売」とやゆされた「選択」の記事を巡って訴訟中だ。どんな決着になるのか興味を持っている。

電力 それにしても、首相経験者5人が欧州委員長宛てに、原子力のグリーン認定に反対する書簡を出したことには失望した。5人は福島の子供たちが甲状腺がんに苦しんでいるなどと主張したが、これに自民党政調審議会が非難決議を了承したり、環境相が差別や偏見につながるなどと指摘する書簡を送付したりと、非難轟轟だ。

――産経は論説で「首相経験者としてあまりにも軽率」「速やかな撤回・謝罪が必要」などと断罪。ネットでも「恥ずかしい」といった声が多く上がったようだ。

 一方、自民党の再生可能エネルギー普及拡大議員連盟は洋上風力入札の結果で盛り上がっている。

ガス 総裁選に負けた河野太郎氏や小泉進次郎氏、そして河野氏らの取り巻きの巣窟と化している。環境・温暖化対策調査会も同じようなメンバーだが、こちらは井上信治氏が調査会長でコントロールが効いている。

石油 メディアも注目したね。年明けから洋上風力関連の記事を複数目にしたが、東洋経済の特集は読みごたえがあった。三菱商事はもちろん、敗戦の理由をJERA担当者に聞いたインタビュー、レノバや東電の誤算に踏み込んだレポートなどは面白かった。

ガス 萩生田光一経産相が年明けの閣議後会見で、入札結果について「個人的にはいろいろな仕組みを見てみたかったという気持ちがある」と述べたことも印象深い。萩生田氏はほかの場面でも、資料を読み上げるだけでなくたびたび自分の考えを差し込んでいるね。

―洋上風力は次の公募が始まったし、資源高騰問題も継続。今後も数多の記事が出るだろうが、どの媒体が抜きん出るかな。

脱炭素時代のセメント生産 新たな価値創造を目指して


【リレーコラム】深見慎二/太平洋セメント環境事業部長

セメントは1t製造するために420kgの廃棄物・副産物を原燃料としてリサイクルしている。総量は年間2600万t、品目としては石炭灰、高炉スラグ、下水汚泥、都市ごみ焼却灰、廃プラスチックなどであり多岐にわたる。セメントは石灰石、粘土、珪石、鉄原料などを調合して、石炭を熱エネルギー源として製造するが、それぞれの天然原料に代替できるものは「廃棄物」ではなく「資源」として再利用できる。既存の製造設備を利用するので新たな廃棄物処理施設が必要なく経済的であり、可燃物の焼却残渣もセメント成分として利用できるため2次廃棄物を発生させることなく完全なリサイクルを実現する。セメントの品質は天然原料を使用したものと変わらない。ゼロエミッションを実現するリサイクル方法として評価され、CE(サーキュラーエコノミー)の実現に向けた取り組みに一定の役割を担っている。

一方、CO2排出の点で、セメントは石灰石が主原料であり、製造で排出される年間4100万tのCO2のうち、60%が石灰石の脱炭酸反応から生じる。CEでは合格点でもカーボンニュートラル(CN)ではその域に至らない。排出されるCO2のうち、熱エネルギー由来は回収して燃料化すれば循環して使用が可能だが、石灰石由来は燃料化しても生産拠点では消費できない。

地域のエネ拠点にセメント生産拠点

解決のヒントとしては、セメントは元来地産地消の商品であり全国に生産拠点が点在することにある。生産拠点をエネルギーも供給する地域ハブの一部に転換できないだろうか。再生可能電力で水素を作り、CO2を燃料とし地域に供給することで、需要と供給を同時に創出し、新たな炭素循環を産み出すことができる。災害時には瓦礫などの処理も行うとともにセメントとエネルギー供給することで、地域のレジリエンスにも貢献が可能となる。

もう一つのヒントはセメント・コンクリート中のカルシウムにCO2を固定化させることだ。コンクリートは共用並びに解体時には一定量のCO2を吸収することが知られている。また一部のセメント鉱物は炭酸化することで強度を発現することが判っており、生コンや製品の製造時にもCO2を固定化できる。

理想は描けるが、実装には解決すべき課題は山積みであり、到底セメント業界単独ではゴールに到達することはできない。産官学の方々との継続的な交流、連携が必要となる。新たなCSV(共通価値の創造)=CE×CNという共通の頂きを目指して、決して平坦ではない道のりを一歩ずつ進んでいきたい。

ふかみ・しんじ 1986年京都大学工学研究科分子工学科卒、太平洋セメント入社。新規分野研究開発・営業、環境分野営業を経て2015年海外事業本部企画部長、18年から現職。

※次回はパンパシフィックカッパーの副社長・新井智さんです。

【再エネ】欧州エネルギー危機 多様化の重要性


【業界スクランブル/再エネ】

 昨年来の欧州エネルギー危機により、域内の電気料金が軒並み高騰している。コロナ禍からの経済回復が進み電力需要が回復した半面、風が吹かず風力発電の稼働率が低下。これを補う火力燃料の天然ガスの需給がひっ迫し、価格が急騰したためだ。フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長が「安定した供給源である原子力と、(再生可能エネルギーへの)移行期にはもちろん天然ガスも必要」と明言したことや、グリーン投資を定義する基準となるEUタクソノミーに、一定の条件を付して原子力と天然ガスを加える案を提案したことは、このエネルギー危機と無関係ではあるまい。

では、日本も今後同様に高騰が生じる可能性があるのだろうか。日本の場合、長期契約の比率が高いため、欧州の天然ガス価格の上昇が直接与える影響は限定的である。しかし、中期的にはどうだろうか。日本の需要は、夏は冷房需要で昼間の一点ピークが立つのに対し、冬は暖房需要などで朝晩含め長い時間高需要が続き緩やかなカーブが続くことから、kWよりもkW時の確保が重要となる。対する供給力は、冬場の太陽光発電の稼働率は天候に左右されやすく、特に朝の立ち上がりなどの変動が大きい上、直前まで予測が困難。また、超厳寒期になると日中の稼働も見込めなくなる。こうした変動を主に補うLNG火力の燃料不足に端を発した2020年度冬季の需給ひっ迫は記憶に新しい。

長期的には30年以降、洋上風力が本格的に導入される。年間を通じて比較的安定して偏西風が吹く欧州と比較し、日本は夏場にあまり風が吹かず、稼働率は大きく低下するため、実は夏場のピークにはほとんど寄与しないといわれている。こうなると、洋上風力を大量導入した後も、これを補完する役割の電源が必要ということになる。

30年のエネルギーミックスによれば、火力はおよそ半減する。では、何で風況や日射量の不足を補うのか。デマンドレスポンスやバッテリーで足り得るものなのか。安定供給の基本は、電源の多様化だ。いま一度、欧州の事象からあるべき姿を考えたい。(N)

【石炭】褐炭から液体水素 豪州輸送始動


【業界スクランブル/石炭】

 原子記号「H」の水素は、原子番号「1」の元素で、原子が二つ結び付いた水素が 水素分子である。水素分子は、無色無臭で、地球上で最も軽く、宇宙全体で一番多く存在している物質である。HII領域では太陽をはじめとした恒星が水素をエネルギー源として輝き、炭素などほかの元素が形成していく。水素は、燃焼させても空気中の酸素と結び付いて水となり、地球温暖化の原因となるCO2を一切出さない。また、貯蔵性、可搬性(運搬)、柔軟性(利用) といった優れた特性を有している。そのために、現在世界的な課題となっている脱炭素社会の形成に向け、最有力な候補として水素に関わる技術開発が進んでいる。

その中でもオーストラリアの石炭利用の技術は注目される。ビクトリア州の褐炭から液体水素を製造し日本へ大規模輸送を目指すものだ。このプロジェクトは川崎重工業が日豪の政府による金融支援を受けて進めているもの。ビクトリア州に賦存する世界有数の埋蔵量の褐炭を、Jパワーの技術を活用してガス化。それを液化して日本に輸送するもので、日本が2050年までに炭素排出を実質ゼロとする目標を達成する上でも重視されているプロジェクトである。日本は、年間の水素需要を50年までに2000万tに増やすことを計画している。一方でオーストラリアは主要な水素輸出国を目指すきっかけにしたいところだ。

褐炭はエネルギー含有量が比較的少ないため低品位な石炭とみられており、産出箇所近くの発電所の一部で長らく利用されているものの、発電所の中には既に閉鎖されたり、閉鎖が予定されているものもあり扱いづらいとされてきた。石炭中の炭素ではなく、水素に注目し、脱炭素社会の形成に役立てていくことになるプロジェクトの成功に期待したい。

石炭を必要とする国々や機関と協力・連携して、引き続き重要なエネルギー源として、革新的なクリーンコールテクノロジーのイノベーションでゼロエミッションに挑戦し、世界のSDGsに貢献する社会を形成していく必要があろう。(C)