青森・風間浦村も応募か 文献調査に関心高まる


電力業界が長年頭を痛めてきた高レベル放射性廃棄物の処分場選定が前進し始めている。2020年、北海道寿都町・神恵内村で文献調査が開始。それに刺激を受けたのか、調査への応募を検討する自治体が増えている。

青森県風間浦村では21年12月、村議会の一般質問で、冨岡宏村長が「原子力関連施設を含めて、企業・産業誘致の勉強を始めた」と答弁。文献調査に応募か―。マスコミが駆けつける騒ぎになった。しかし、「再エネを本命に考えている。いずれにしても勉強から始める段階」(村関係者)。風間浦村では過去に地熱発電の調査をしたことがあり、地熱・風力を中心に検討するようだ。だが、文献調査の可能性も否定できない。

全国的に文献調査への関心は高まる一方だ。ガラス固化体の保管状況を見ようと、青森県六ケ所村の使用済み燃料再処理工場を見学に訪れる自治体関係者が絶えないいう。文献調査を行う自治体が増えれば、寿都町・神恵内村の概要調査への移行もスムーズになる。

ようやく進む処分場の選定作業。それに呼応するように、原発再稼働も進展してもらいたい。

エネルギー・環境を調査した50年 社会問題の最前線に立ち続ける


【日本エヌ・ユー・エス/近本一彦 代表取締役社長

原子力や国際協力など、官民のプロジェクトを支え続けてきた日本エヌ・ユー・エス。

これまで積み重ねた50年の歩みと今後の展望について、近本一彦社長に話を聞いた。

ちかもと・かずひこ 1986年東海大学大学院工学研究科修了、日本エヌ・ユー・エス入社。2009年リスクマネジメント部門長、14年理事・新ビジネス開発本部長、15年取締役、20年から現職。

 ――日本エヌ・ユー・エスは2021年6月に創業50周年を迎えました。

近本 当社は原子力分野のコンサルティングやエンジニアリング・サービスを行う米NUSと、プラントエンジニアリング会社である日揮、東京電力の合弁会社として、1971年6月3日に創業しました。当時の主な業務は米国の原子力規制関連の情報をNUSから入手・翻訳して電力会社に提供することでしたが、発電所建設の前段階で必要になる環境アセスメントの調査も行うようになりました。

――原子力や環境問題など、創業当時と現在とでは社会情勢は大きく変わっています。

近本 原子力では、スリーマイルアイランド(TMI)やチェルノブイリ、そして福島第一原子力発電所の事故が起きました。また環境分野についても、創業当時の環境問題と言えば、イタイイタイ病や水俣病などの公害問題が中心でしたが、今は気候変動対策、マイクロプラスチックも大きく取り上げられるようになりました。

――現在はどのような事業を行っていますか。

近本 当社は海外の原子力規制情報を各社に提供し、安全性評価・解析を行う原子力事業部門に加え、環境アセスメント、温暖化対応、大気・海洋環境、化学物質、水産資源、国際条約対応などを手掛ける環境事業部門、最新IT技術と専門知識の組み合わせによるソリューションを提案するシステム開発事業―の3本柱で事業を進めています。さらに水素サプライチェーンや水素社会構築を支える水素・アンモニア関連事業やCCUS(CO2回収・利用・貯留)、二国間クレジット制度(JCM)、激甚化する災害への対策など、時代の変化に応じて、さまざまな分野の事業を請け負っています。

時代に応じた業務を実施 CCUS・JCMも

――さまざまなエネルギー・環境分野の事業に取り組まれていますが、CCUSやJCMの取り組みについてお聞かせください。

近本 まずCCUSは、これまで当社が環境アセスメントの調査を数多く行ってきたことや、法改正に従事した実績を買われ、CCS(CO2回収・貯留)の調査業務受注するようになりました。21年7月からはインドネシア・グンディガス田で行われるCCS事業を主導してきました。これはガス田の掘削井にCO2を注入しながら生産することで、CO2貯留と高効率生産を両立するCO2―EGRを行うというもので、現地企業では国営石油会社のプルタミナや学術機関などが参加し、日本側ではJパワーと日揮グローバルが参加しています。

CO2を古いガス田に注入し、ガス田に残ったガスを圧力で押し出しつつ、CO2を地中に貯留する
出典:経済産業省ウェブサイト

――JCM関連はどうですか。

近本 当社では90年代から水力発電所や石炭・天然ガス火力の環境アセス業務のほか、クリーン開発メカニズム(CDM)の開発や組成支援をしています。その後も環境省や経済産業省、国際協力機構(JICA)などの予算を活用した環境技術導入に関する実現可能性調査も実施し、脱炭素に向けた制度構築支援や政策提言を行ってきました。中でも、最近では都市間連携の枠組みを利用した富山市と愛媛県の海外事業のコンサルティングを行っています。

 富山市ではモルディブ・マレ市と連携して、公共交通システムや再生可能エネルギー、有機性廃棄物の循環利用設備などの導入支援を行っています。昨今はゼロカーボンシティ宣言を行う自治体も増えています。地元が持つ技術を海外に展開することで、世界の省エネと経済発展を両立できます。当社としてもこうした事業を支援したいと考えています。

常に社会問題の最前線に 気の利く人材を世に提供

――今後の展望はありますか。

近本 例えばマイクロプラスチック問題は、ここ数年の間に欧州で問題提起されたことで日本でも大きく扱われるようになりましたが、当社は環境省や自治体とともに十数年前から取り組んできたテーマでした。社内では、われわれの業務は先見の明をつけ続けることだと話しています。世の中をウォッチすることで、社会問題の最前線に常に立っていることが重要です。

――常に最前線に立ち続けるためには何が必要ですか。

近本 少し高い視座を持つことではないでしょうか。日常業務を行う中で少し周囲に目配せをすることだけでも広い視野を持つことができますし、少し気の利く人材になることで、新たな仕事につながることもあります。

 これまで「エネルギー」と「環境」は異なる分野として論じられてきましたが、SDGs(持続可能な開発目標)に代表されるように社会問題はより複雑さを増してボーダーレス化しています。当社ではこうした状況下でも、若手社員を中心に横断的な取り組みが行われているのは非常に心強いと思います。また当社は技術性評価に強みのある会社でしたが、現在はLCA(ライフサイクルアセスメント)や経済波及効果など、経済性の観点も求められています。官民のニーズに応えられるよう鍛錬を積み、社会問題にコンサルティングの力で貢献していきます。

迅速に世に出たコロナワクチン 日本で開発が進まないワケ


【業界紙の目】中村直樹/科学新聞 編集長

コロナ禍でm(メッセンジャー)RNAワクチンが1年以内に開発・生産された。

欧米で新型コロナワクチンが迅速に開発できた理由と、いまだそれができない日本に足りないものは何か。

 この原稿を書いている2021年12月初め時点では、日本国内の新型コロナウイルスの感染は落ち着いているものの、オミクロン株の出現と世界での感染拡大、国内での患者の発生により、予断を許さない状況になってきている。

新型コロナウイルスは、その表面にスパイクタンパク質という多数の突起を持っており、それが人間の細胞のACE2受容体(細胞表面にあるタンパク質が結合する部分)と結合し、ウイルスを構成するRNAゲノム(人間のDNAに相当する)を細胞の中に流し込むことで感染する。ウイルスのRNAゲノムは人間の細胞が持つシステムを利用して細胞内で自分のコピーを作り、それを細胞の外に出すことで増えていく。そして次の細胞に結合してさらに増殖する。

こうしたウイルスに対して、人間の身体は二つの免疫システムで対抗している。一つは自然免疫と呼ばれ、体外から入ってきたウイルスや細菌などを、それらの種類には関係なく攻撃する。もう一つは獲得免疫で、一度入ってきたウイルスを覚えておいて、それに特化した対抗手段でウイルスの増殖を抑えたり、攻撃したりする。

ワクチンは、この獲得免疫の役割を強化する。つまり、ウイルスが最初に細胞に取り付くときの目印となるACE2受容体と似たものを作ってウイルスのスパイクタンパク質に被せてしまうことで、そもそも感染できなくする。また、対象のウイルスを攻撃する能力も強化する。

ウイルスの許容量がカギ 欧米ではmRNA研究に実績

ウイルスが自分のコピーを作るときにミスをすることがある。このRNAゲノムのコピーのミスによって、いろいろな変異が起こるが、ダーウィンの進化論でいう適者生存によって、たまたま環境に適して生き残ったものが変異株と呼ばれる。そのため、市中に出回るウイルスの種類は、初期の武漢株からアルファ株やベータ株に変異し、より感染力の高いデルタ株に置き換わってきた。

また、ワクチンを2回打ったのにどうして感染するのか。一言でいうと、自然免疫とワクチンで強化した獲得免疫による許容量を超えるウイルスが喉や肺などに入ったためだ。呼吸する以上、人体内には常にウイルスや細菌が入ってくるが、免疫システムが攻撃して感染を防いでいる。例えば居酒屋で飲んだ時、近くに感染者がいたとして、○分間に入ってくるウイルス量は自然免疫で対抗できるが、それ以上経つと許容量を超えて感染する。ワクチンで免疫を押し上げると許容ウイルス量が増えて、□時間までは免疫システムが入ってきたウイルスに対応するが、それを超えると感染してしまう。同じ空間にウイルスを排出する感染者が多いほど、感染までの時間は短くなる。従って2回打っていても許容量を超えれば感染する。

新型コロナウイルスのワクチンとして最初に登場したのが、mRNAワクチン。mRNAは、体内でさまざまな情報を伝えることでタンパク質を作らせたり、免疫の機能を強化したりする。上手く利用すれば、さまざまな病気の治療に使えるのではないかと1970年代から考えられてきたが、成功しなかった。mRNAを体外から入れると激しい拒絶反応が起こり、細胞が死んでしまうからだ。

この拒絶反応を防ぐ方法を開発したのが、ハンガリー人の女性研究者カタリン・カリコ博士。彼女は70年代に当時社会主義国家だったハンガリーから米国に研究者として渡りmRNAの研究を続け、2005年に拒絶反応を抑えることに成功する。しかしペンシルベニア大学では冷遇され、09年には上級研究員から非常勤研究員に降格されてしまう。それでも諦めず研究と講演活動を進めていると、ドイツのビヨンテック社(08年設立)の創業者ウダル・サヒン博士と出会い、同社のバイス・プレジデントに就任し、mRNAワクチンの開発に取り組む。

ワクチンと言うと、日本では感染症に対するものというイメージが強いが、世界の研究界で主流になっているのはさまざまな疾患に対するワクチンだ。ビヨンテックが開発を進めていたのは、ガン、インフルエンザ、ジカウイルスに対するワクチンで、18年からはファイザーと共同でmRNAを使ったインフルエンザワクチンの開発に着手していた。

20年1月に中国・武漢で発生した新型コロナウイルスに関する論文が出ると、同社はすぐにワクチンの検討を始め、3月にはファイザーと共同研究契約を締結し、4月には臨床試験を開始。11月には臨床試験の結果が出て、FDA(米食品医薬品局)での認可を得て、接種が始まる。

日本は基礎研究不足 ベンチャー巡る環境も不利

凄まじいスピード感で開発が進んだ欧米と異なり、日本では新型コロナワクチンは開発できなかった。さまざまな理由があるが、一つはワクチン開発の基礎研究が不十分だったことだ。一部の研究者はmRNAワクチンも検討していたが、カリコ博士の40年来のノウハウに敵うはずもない。また不活化ワクチンなどについても、感染症に対する研究資金が元々少ない。新型インフルエンザ流行時(09年)から数年間は増えたものの、その後予算は縮小され、多くの研究者が離れていった。

国産ワクチンの流通はいつになるのか

決定的な違いは、創薬系ベンチャーと大企業の姿勢だ。米国では、新薬の約半分がベンチャー発であり、そうしたベンチャーには投資が集まり、製薬大手も投資や買収に活発に取り組んでいる。一方、日本では創薬ベンチャーが増え始めたものの、ベンチャーキャピタルの投資はIT系に集中し、時間のかかる創薬系への投資は少ない。また大手製薬企業も買収や投資、共同には消極的だ。こうした姿勢を変えない限り、同様の危機に対応することは難しいだろう。

日本政府は、ワクチン開発・生産体制強化戦略を閣議決定し、今回の補正予算でも8101億円を計上しているが、重要なことは、基礎研究から実用化に至る継続的なエコシステムを構築できるかどうかだ。

〈科学新聞〉〇1946年創刊〇発行部数:週4万部〇読者構成:大学、公的研究機関、民間研究機関、科学機器メーカー、官公庁、自治体など

ガス事業の課税方式変更 全面見直しには至らず


政府・与党の2022年度税制改正大綱が決定し、都市ガス事業者12社や製造事業を行う新規参入者を対象とする事業税の課税方式が見直されることになった。現行では、一般の事業者よりも負担が重くなりやすい収入金課税の方式が採られており、小売り全面自由化後の競争激化や、22年に控える東京・大阪・東邦の大手3社の導管分離を踏まえ、業界側がほかの事業者と同じ所得割方式に見直すよう要望していた。

これに対し、強硬な反対姿勢を見せたのが地方税収を安定的に確保したい総務省。結果的に、西部、北海道、静岡、京葉など大手3社以外については全面的に所得割に見直す一方、大手3社とそのエリア内にある製造事業者については、課税額の4割についてのみ所得割と「付加価値割」「資本割」の外形標準課税を組み合わせる課税方式を採用することになった。

課税方式見直しにより、税負担の軽減につながるものの、ガス導管の普及促進のために設けられている固定資産税特例が廃止されるため、実質の軽減効果は半減する見通し。規制が残る導管部門は、今回の見直しの対象外だけに、業界関係者にとっては腑に落ちない結果と言えそうだ。

原油価格高騰で異例の判断 国家備蓄放出から見えるもの


【論説室の窓】関口博之/NHK 解説委員

原油価格が高騰する中、政府はバイデン米大統領の呼び掛けに応じ、初の国家備蓄放出に踏み切った。

カーボンニュートラルを目指す中、「移行期」には最適な現実解を求めることも必要になる。

 原油高騰が続く中、日本政府は2021年11月24日、石油備蓄の「放出」を決めた。アメリカのバイデン大統領の協力呼び掛けに応じたもので、日本のほか、中国、インド、韓国、英国が協調して放出することとなった。過去に備蓄放出を主導したIEA(国際エネルギー機関)が参加せず、インドや中国といったIEA非加盟国が加わる。アジアの主要消費国と米英が組んだ形で、日本エネルギー経済研究所の小山堅首席研究員は「異例の組み合わせという点にも注目すべきだ」としている。

日本にとって国家備蓄の放出は初めてだ。ちなみに1991年の湾岸戦争時や2011年の東日本大震災の際に備蓄放出は行われたが、これは民間備蓄についてだった。石油備蓄法は放出を、紛争などによる供給途絶の恐れや災害時、つまり供給が不足する事態に限定していて、価格の抑制を目的とした放出は想定していない。このため政府は、今回の事実上の放出も「定期的な油種の入れ替えを前倒しするもの」との説明だ。いずれにしても異例の判断であることは間違いない。

国家備蓄は紛争など供給不足を想定している

数百万バレルを放出 価格高騰を抑止できるか

21年9月末時点での備蓄は国家備蓄が国内消費量の145日分、民間備蓄が90日分、産油国共同備蓄が6日分となっている。国家備蓄・民間備蓄とも目標値を大きく越えているが、実際に石油元売りや商社などへ今後、売却される量は1~2日分、数百万バレルにとどまる見込みだ。一方、アメリカは今後数か月で5000万バレルを放出するとしている。

では、これが原油の価格を抑え、反転させることにつながるのか。業界関係者の多くは、マーケット規模に比べこの程度の量では効果は限定的だと見る。いわば口先介入的な効果にとどまるとの見方だ。となると今回の日本の立ち位置も「お付き合い的参加」ということになろう。10月後半に1バレル85ドルを付けたWTI先物価格は、アメリカの備蓄放出の観測を織り込んで、11月中旬に76ドル台まで下がった後、協調放出が発表された後はいったん、78ドル台まで上げる形となった。

次の焦点は産油国側の出方になる。そもそもバイデン政権の協調放出の呼び掛けは、大幅増産に否定的なOPEC(石油輸出国機構)プラスを牽制する目的で行われている。産油国側が反発し、いわばしっぺ返しに出てくることも考えられた。市場が固唾を飲んで見守る中、21年12月2日のOPECプラスは、1月の生産も既定方針通り増産を続けることを決めた。消費国と産油国の全面対立は、ひとまず杞憂に終わった。折しも新型コロナの新たな変異株「オミクロン株」が各国で確認され、世界経済への悪影響への懸念から原油価格が急落したこともあって、増産を見送るのではないかという観測もあったが、OPECプラスは毎月40万tの小幅増産は維持した。景気の先行きが不透明だからこそ、今はアメリカなどとの衝突は回避しようと考えたとみられる。 

一方、少し長い目で見た場合、今回の備蓄放出の対応は、中東産油国と独自の友好関係を築いてきた日本にとって、アメリカと中東産油国との間で板挟みになりかねないおそれもはらんでいる。この点について石油連盟会長のENEOS杉森務会長は「産油国にも日本の立場は理解されている。関係悪化は心配していない」とするが、今後も資源外交上、神経を使わざるを得ない課題だ。

それ以上に俯瞰した視点でみると、高騰と足元での価格の乱高下が、「脱炭素化」という大きな潮流の中で起こっていることに注目すべきだろう。折しも11月13日に閉幕したCOP26(気候変動枠組み条約締約国会議)は1・5℃目標に向けた努力の追求を明記し、何らかの形でカーボンニュートラル、あるいはそれに近い目標を表明した国も排出量全体の9割に達した。総じてみれば気候変動問題への大きな前進といえる。

こうした脱炭素の機運が加速する中で、必然的に化石燃料の資源開発への投資は縮小されてきている。近年は投資家や金融機関による投融資案件の選別も進んでいる。IEAによれば、原油や天然ガスの開発や生産に投じられた資金は、20年には前年比で3割も減ったとされる。そのIEA自身も、50年のカーボンニュートラル(ネットゼロ)から逆算すれば、化石燃料への新規の開発投資は不要になるとの趣旨を21年5月の報告書に盛り込み、波紋を呼んだ。

思惑が市場を不安定に 「移行期」の難しさを露呈

化石燃料の生産が先細りしていくという展望がリアルなものとなってくる一方で、人類はしばらくは化石燃料に頼らざるを得ないのも現実だ。となればいずれ化石燃料の需給ひっ迫が起こるのではないか、こうしたことが意識される中で、原油にしろ天然ガスにしろ、石炭にまで価格上昇の圧力が掛かってきている。まさに脱炭素を見越した市場の動きと言っていいだろう。実需の反映だけでなく、こうした思惑が市場を不安定なものにし、価格の振れ幅をより大きくしかねない。ここに「移行期」であればこその難しさがある。

考えてみれば、COP26で脱炭素化へ国際社会が決意を固めた直後に、一転して〝産油国に石油の増産を要求している〟というのは皮肉な事態だ。そこにわれわれが抱える矛盾があるともいえる。だとすれば理想論をかざすだけでなく、「最適な現実解」を求めていくことも重要だろう。たとえば化石燃料を脱炭素化して使い続けるという発想だ。例えばアジアでの火力発電でのCCUSの実装しかり、同じく火力発電での水素・アンモニアの混焼もそうだろう。

こうした「移行期を乗り切る」戦略をわれわれは考えていく必要がある。一定の期間、一定の上流投資を続けていくことも考えれば、産油国などと消費国の協力・協調も必要になる。「最適な現実解」を模索するため、日本が持っている中東産油国との良好な関係という外交的な資産を有効に使い、橋渡し役を果たすことが重要になってくると思われる。

経産省がCP議論を加速 炭素取引新市場の検討開始


経済産業省が、カーボンプライシング(CP)の一環として創設する「カーボンクレジット市場」に関する議論をスタートさせた。2022年度中に実証を始める予定だ。同省は将来的な排出量取引制度の導入を見据えており、ほかにも企業の自主的な取り組みを促す「カーボンニュートラルトップリーグ」に取り組む。CP政策をけん引し、炭素税議論を封じ込める狙いもあるようだ。

12月8日に新たな検討会を設置。新市場の基本設計などを議論し、報告書を22年春に取りまとめる。企業の間ではカーボンニュートラルLNGなどクレジットの活用が盛んになっているが、民間主導のクレジットには多様な方法論や性質のものが混在する。どんなクレジットがNDC(国別目標)に計上できるかなど、用途に応じた活用方針を整理していく。

一部では、カーボンニュートラルへの企業の足並みをそろえるため、50年までのどこかの段階で義務的な排出量取引の導入が必要になるとの意見が出ている。その時期は、新市場やトップリーグ、代替技術開発の進捗などに左右されることになる。

ITでグループの基幹業務を支える データセンターを中心に外販にも注力


【ほくでん情報テクノロジー/魚住 元 取締役社長】

北海道電力グループのほくでん情報テクノロジーは、電力関連のITソリューション構築を担う。

現在は、電力以外の商材開発にも積極的に取り組むなど新たな一歩を踏み出している。

うおずみ・げん 1983年北海道大学大学院卒、北海道電力入社。2009年原子力部原子燃料統括室長、12年広報部長、16年泊原子力事務所長を経て、20年6月から現職。

 ――北海道電力グループのIT企業として、電力システム改革に関連するシステム開発は大きな仕事だったと思います。どのようなことに取り組みましたか。

魚住 2016年4月に開始となった電力小売り全面自由化が大きな山場でした。託送システムの開発、スマートメーターシステムとの連携、自由化料金メニューへの対応など大規模開発が続きました。昨年度は法的分離にも対応し、一区切りをつけることができました。

 今後も需給調整市場や発電側託送課金など制度へのシステム対応や、配電・火力などの大規模業務システムの再構築、ホスト(メインフレーム)の廃止に向けた対応が続く見込みです。

営業システムの改修など 大規模なプロジェクト続く

――現在、電力関連で取り組む代表的な仕事を教えてください。

魚住 ホストコンピューターのクライアントサーバーへの移行を進めています。特に大規模改修となるのが、北電が扱う営業システムのサーバー移行です。電気料金の受付、検針、計算、請求・収納を行うもので、主に規制料金メニューを契約する低圧のお客さまを扱っています。データ量が膨大で大きなプロジェクトになります。

――北電グループにおけるDXの位置づけは。また、具体的にどのようなことに取り組んでいますか。

魚住 DXの推進をグループの経営基盤強化の柱の一つに位置づけています。現在、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を活用した現場作業支援や発電所内での通信ネットワーク構築実証試験などの取り組みを進めており、HMDのPoC(概念実証)には当社も加わっています。今後も継続してグループ内のDXに主体的に携わっていくため、AIやIoTなどの技術力を積み上げているところです。組織面では、20年度に社外へのソリューションサービス提供、DX推進専任の「デジタルソリューション部」をつくり体制強化を図っています。

――電力関連でお客さまに提供するサービスではどのようなものを手掛けていますか。

魚住 北電ネットワークが手掛けたスマホアプリ「LINE」で停電情報を通知するサービスを開発しました。18年の北海道胆振東部地震の大停電以降、停電情報はお客さまからも関心が高い情報です。

――情報セキュリティーへの要求は日増しに高まっています。どのような対応をしていますか。

魚住 電気事業は社会の重要インフラとして、情報セキュリティーの確保が至上命題です。高度化、巧妙化するサイバー攻撃に対し、北電ではセキュリティー事故対応体制「CSIRT」や監視体制「SOC」を設置し、対応の強化を図っています。SOCに関しては、当社が北電から委託を受けて、全面的にその役割を担っています。今後、ワークスタイルの変革、DXの推進など、クラウドの利用が拡大していくことから、さらなる充実と強化が求められます。

――北電グループ外への販売事業について聞かせてください。

魚住 当社はデータセンター事業を01年に開始しました。現在、約180社のお客さまにご利用いただいており、外販の柱になっています。まずは、同事業の営業活動の強化と充実を図るとともに、サービスを充実させ顧客の幅を広げていきたいと考えています。

 このほか、RPAや企業用メッセンジャー、情報セキュリティーサービスなどを提供しています。また、近年のワークスタイルの変革は、ビジネスチャンスでもあります。20年度には、リモートデスクトップ方式のテレワークソリューション「スプラッシュトップビジネス」やウェブ会議導入支援サービスの提供を開始しました。さまざまなサービスを提供していますが、まだ収益は少なく主要事業には育っていません。当面の柱はデータセンター事業です。将来的には、新サービスとのシナジー効果によって、データセンター事業の顧客拡大につなげていければと思っています。

外販事業の中核となるH-IXデータセンター

成長に向けた二つの目標 グループ貢献と事業拡大

――今後、北電グループにおける貴社のミッションや果たすべき役割はどのようにお考えですか。

魚住 まずは、北電および北電ネットワークの基幹業務システムと情報インフラを一貫して支えていくことです。当社売上高の8割以上は北電と北電ネットワークからの収入で賄われています。本社のシステム開発に注力していくとともに、DXの実現に向けて必要なサービスを提供していきます。

 今後数年は北電グループからの仕事によって一定水準の収入が期待できますが、近い将来には縮小に向かうものと想定しています。

当社は20年6月で創立30年周年を迎えました。今後も持続的な成長を果たしていくためには、グループ以外の事業領域をさらに拡大していかなければなりません。データセンター事業を中核に一般市場での収益拡大を目指します。技術動向を的確にキャッチアップし、機会を逸することなく挑戦していきたいと思っています。これらを果たすことで、北海道の電力安定供給と北電グループの発展に貢献していきます。

【覆面ホンネ座談会】原子力再構築の本気度は!? 「政治主導」の意味を問う


テーマ:岸田政権下のエネルギー政策

業界が注目するクリーンエネルギー(CE)戦略の議論が、2021年12月16日に始まった。第六次エネルギー基本計画の失敗を挽回するのか。それとも引き続き政策は停滞を続けるのか。

〈出席者〉 A元経産官僚  B電力関係者  C霞が関事情通

――衆院選を経て岸田政権のカラーが見え始めてきた。12月6日の所信表明演説でも、エネルギー政策について何点か語っていた。

A しかし「新しい資本主義」が何を指すのか、哲学やビジョンが見えなかったし、エネルギーも同様に何をやりたいのか不明だ。特に一丁目一番地に「社会のあらゆる分野の電化」を掲げるなんて、何をしたいのか全然ピンとこない。これまでのエネルギー政策から見てかなり違和感がある。まずできることは供給面のグリーン化なのに、いきなり電化なのか。送配電網や蓄電池に関しても具体性を欠き、光り輝くものが見えない。役人の作文だとしても安倍、菅政権時代よりも熱がなく、記事の見出しにもなっていない。

B 確かに「あらゆる分野の電化」だけでは説明不足。電源のゼロエミッション化は既定路線だが、熱需要でCO2を出し続けていたらカーボンニュートラル(CN)にはならない。この熱をできるだけ電化するという方針を言わんとしたのではないかと推察する。

 期待を込めた見方をすれば、粛々と仕事をこなしていく意思はにじんでいたと思う。火力の燃料転換や送配電網のバージョンアップなどやるべき実務を挙げ、特にエネルギー政策の重要なピースである原子力を名指しはしなかったが、CE戦略において政策を見直していくのだろう。大上段から国民に原子力の是非を問うていては、なかなか前進しない。原子力に関する国民の確たるコンセンサスはまだないが、必要なオプションとして、華々しく語らなくとも、運転期間の延長問題をはじめ地に足のついた政策の推進を望みたい。

CE戦略は評判倒れ? サイクル見直しの棚上げ続く

C (温暖化防止国際会議の)COP26で、岸田文雄首相がCE戦略のことを「グリーン」と言い間違え、その後あえて「クリーン」と言い直したから、余計に注目された。岸田氏は官邸記者クラブのインタビューで、CE戦略で需要側のエネルギー転換の方策を示すと説明し、「現実的なエネルギー転換」と二度も口にしたという。第六次エネ基は積み上げではなくなった。熱の分野を水素社会にしていくまでのトランジションが宙ぶらりんだ。それを補う内容にするため、経済産業省も環境省もトランジションや「現実的な燃料転換」を意識した予算を計上している。ただ、鉄や化学などエネルギー多消費産業の水素化のプロセスが大問題で、電化だけでは話が進まない。これを岸田氏がどこまで把握しているのか。ビジョンを訴えるだけだった小泉進次郎氏、河野太郎氏の後始末をどうつけるかが重要だ。

A 21年の前半はエネルギーが政局を決めるような雰囲気だったが、総裁選をピークにその後は無風状態。しかしエネルギーの世界情勢が大きく動く中、熱の入らない所信表明でいいのか。国の曲がり角なのに、CNに日本が外交戦略上どう対応するのか具体的に語っていない。

 このままなら日本の原子力はなし崩し的なフェードアウトになってしまう。再稼働の議論だけではだめで、核燃料サイクル政策が破綻したままでは、バックエンド問題も含めて将来原子力がどうなるのか、国民にきちんと説明することができない。これは安倍政権も菅政権もやってこなかった。政策資源を配分し直し、原子力政策を根本的に組み立て直さなければ、国民の理解は永遠に得られない。しかし岸田氏は所信表明で原子力に一文字も触れなかった。紋切型でも触れていた安倍政権からも後退している。

B 資源の乏しい日本にとって核燃料サイクルは必要だが、さまざまな課題があることも確かで、このままでいいわけがない。しかし、総裁選での河野氏のように単に「手じまい」せよと言うだけでは、原子力政策全体がスタックしてしまいかねない。原子力というオプションを手放さずにどのような着地点が見出せるか、知恵を絞る必要がある。

望ましい「政治主導」とは 与党の責務果たせるか

C 岸田氏に近い人たちのうち、木原誠二・官房副長官はメディアに「首相はリプレースをしなければCNは無理だと考えている」と述べている。一方、宮沢洋一・党税制調査会長が自身の懇談会で語ったように、「参院選はきつい戦いになる。7月に向けては安全運転でいかなければならない」面もある。経産省幹部もCE戦略にはエネ基以上のことは入れない方針のようで、「安全運転」には原子力も入るのだろう。CE戦略は6月に提示する予定だが、トランジションの議論の中で原子力がどこまで表に出てくるかは微妙そうだ。

A  それはうそ。原子力は選挙に関係ない。国民は冷静で、スローガン的な「原発ゼロ」を信じていない。サイクル事業に関わる青森県との調整など、政治家が覚悟を持って前面に立つかどうかだ。河野氏の問い掛けは、そうしたことへの一歩となる問題提起にはなった。現実的にはサイクルをやるしかないと考えているが、塩漬けが一番だめで、自民党が今の態度を続けることは怠慢だ。現状維持でなく具体的な一歩を踏み出せるか、萩生田光一経産相の手腕に期待したいが、官僚が委縮していないか気がかりだ。

B 官僚は自らの失敗を決して認めない。でも間違えることもあるから失敗を糊塗して軌道修正しようとする。それで事態がますますややこしくなってしまう。だからこそ政治のリーダーシップが必要だ。安倍政権は当初、憲法改正という悲願のために原子力政策を封印したが、最後は政権維持のために原子力の議論から逃げているように見えた。

 一方、岸田氏は、安倍氏の憲法改正のような祖父の代からの悲願やポリシーがないように映る。ただ、政治の役割は全てトップダウンで決めることではなく、最後の方向性を示すこと。政治と官僚の二項対立でなく、スクラムを組んでほしい。特に菅政権はこれが全くできなかった。自ら「聞く力」をアピールする岸田氏には、官僚の意見をよく聞いた上で、官僚にはできない政策転換や縦割りの是正といった本来の政治主導を期待したい。

C ただ、自民党の「安全運転」にエネ庁も乗ればCE戦略にはSMR(小型モジュール炉)以上のことは書かないだろう。今取り組むべき課題を動かすけん引力に誰がなるのか。

A 国民や地元の説得は政治の役割。昔の自民党にはその知恵があったが、今は調整役の人材などもおらず政治が機能していない。軽水炉を動かさないままのSMR政策などあり得ず、民間も投資できない。原子力政策の一歩を記すことは与党の責務だ。

「岸田カラー」のエネルギー政策は、今後どのような展開を見せるのか。

中国が石炭輸入を再開 くすぶり続ける供給懸念


今秋、歴史的な石炭価格の高騰が引き金となり、広い範囲で停電が発生した中国。深刻な電力不足を解消するため、政府は国内炭の生産増強を指示し、関係が悪化しストップしていたオーストラリアからの輸入再開に踏み切った。

ひとまず停電状態は解消されたが……

石炭輸入量は、11月に入って前月比3割増の3515万tと2021年最高を記録。強力な価格抑制策により、価格も短期間のうちに半分まで急落したという。ただ、有識者の一人は、「生産・輸入量ともに増加傾向にあるとはいえ、電力需要は10月までに12%ほど増加しており、とても需要を賄いきれるものではない。今後も需給がひっ迫する可能性は高い」と、危機は去っていないと見る。

北京五輪を控える中国にとって、今冬は特別な冬だ。前回の北京五輪開催時と同様、期間中の「青空」を確保するための大気汚染対策として、企業が工場の操業を停止させられたり、自動車の走行を禁止されたりすることが予想される。

ただでさえ、冬は暖房需要で燃料使用量が増える。五輪対策が、中国の旺盛なエネルギー需要にどのような影響を与えるのか―。世界のエネルギー情勢に影響を与えかねないだけに、関係者の耳目が集まっている。

【イニシャルニュース】 労組の期待とは逆展開? 立民で泉体制が始動


 労組の期待とは逆展開? 立民で泉体制が始動

衆院選で「惨敗」した立憲民主党。枝野幸男前代表の下、エネルギー政策では「気候危機に歯止め」「自然エネルギー立国の実現」など非現実的なビジョンに終始した。

エネルギー専門家のY氏はウェブコラムで「エネルギー政策を見る限り立民は労働者のことを考えているとは思えないし、多くの国民のことも頭にないようだ」と批判を展開した。そんな再エネ主義者の枝野氏が辞任に追い込まれ、泉健太氏が新代表に選出された。泉氏は旧国民民主党出身の中道路線。原子力政策に関しては、代表選の中で限定的な原発再稼働を容認するなど、左派の論調とは一線を画している点が注目される。

一方、決選投票で敗れた逢坂誠二氏は、選挙区の対岸にある大間原発の建設中止を長年訴えており、代表選中には寿都町などが手を挙げる最終処分場に関する文献調査にも慎重姿勢を示していた。

立民は泉氏の代表就任により、枝野氏の下で左に寄り過ぎた路線の軌道修正が期待できる。そのため、電力会社などの旧同盟系労組もさぞ歓迎しているのかと思いきや、実はひそかに望まれていたのは逢坂氏の勝利だったという。どういうことなのか。

泉氏が選ばれていなかったら……

「労組関係者にとっては、枝野路線を継承すると見られた逢坂氏がトップになることで、立民の分裂が進むというのが歓迎するシナリオだった。そうなれば、立民の中道派と国民民主の合流という展開もあり得た」(電力関係者X氏)

蓋を開けてみれば、代表選で泉氏と争ったほかの3者が新執行部入りするなど、立民は党の結束をアピール。電力労組など支持層の望みとは逆の展開になっているようだ。

市長の同意義務なし!? 泥沼化する太陽光訴訟

静岡県I市で、メガソーラー建設を巡る訴訟合戦が泥沼化の様相を呈している。

話は2019年に遡る。太陽光事業者のI社が工事用の橋を架けるため申請した河川の占有許可について、市が条例を理由に出さなかったことから、I社側が静岡地裁に提訴。一審では市の処分を取り消す判決を下し、続く東京高裁の控訴審でも処分取り消しは覆らなかった。

ただ、判決内容は「理由の提示が不十分」という手続き上の不備を指摘しただけで、不許可の判断自体は「裁量権の逸脱に当たらない」として市側の主張を一転容認。これを受け、I市のO市長は「実質的な勝訴」として21年7月、地元住民の反対を理由にI社側の占有申請を再び却下した。すると11月に入り、今度はI社側が市の工事中止要求に法的根拠がないことなどを確認するための訴えを、静岡地裁に起こしたのだ。

具体的には、I社が開発を行うにあたり、①太陽光条例に基づく市長の同意を受ける義務がない、②市側に事業を中止する義務がない―ことの確認を求めている。これに対し、O市長は「市条例に基づく対応の正当性を主張する覚悟」とコメントした。

「窮地に立たされたI社による破れかぶれの提訴にしか思えない」。太陽光訴訟問題に詳しい関係者Y氏は、こう指摘する。「義務がないから事業を継続しても問題ないという身勝手な理屈が通るとでも思っているのだろうか。FIT法では自治体条例を遵守するよう義務付けているので、市長の同意を得ずに着工しようとするなら、経産省は毅然と認定を取り消すべきだ」

異色の裁判だからこそ、その行方が注目される。

系統資料に「S+3E」 エネ庁がようやく明記

資源エネルギー庁の新エネルギー小委員会の下にある専門家会合。再生可能エネルギー導入量を最大限増やすため、既存の電力系統との接続条件が制約とならないよう、座長O氏のもとで中立的な立場の委員が議論を重ねてきた。

21年秋に開催された会合で、事務局が提示した「再エネ出力制御の低減に向けた取組について」と題する資料の中に、「S+3E」の文言が初めて明記され、業界関係者の関心を集めている。具体的には、「S+3Eを大前提に、電力需給の調整力を担う火力発電の最低出力を引き下げる」といった趣旨だ。

「エネ庁が供給安定性や経済合理性を軽視していたわけではないだろうが、実務的な議論の中で、ようやくこの文言が明記された」。議論を傍聴してきた、X団体の関係者はため息交じりにこう話す。

そもそもS+3Eはエネルギー政策の一丁目一番地のはずだ。この大前提が抜け落ちた再エネ導入論など意味がないに等しい。

再エネの出力変動に火力発電が調整力として対応することは業界の常識。にもかかわらず、これまでの会合で火力業界が発言の機会を得ることができたのはごくわずかだ。実質的な政策議論も「再エネ業界最優先」で展開されている様子が浮かび上がる。

「安定供給」を口にすれば、「抵抗勢力」のレッテルを貼ってきた東日本大震災以降のシステム改革論議。10年の時を経てようやく現実に目を向け始めたようだ。

SMR時代の到来か カナダがGE日立製建設


カーボンニュートラルに向けて、既存の大型炉に対して安全性、経済性などに優れているSMR(小型モジュール炉)に熱い視線が集まっている。各国の電力会社に先駆けて、カナダ・オンタリオ電力が建設予定のSMRとしてGE日立製のBWRX―300(30万kW)を採用と発表した。

冷却材損失事故の発生を極限まで低減する

カナダは政府、産業界などが国を挙げてSMRの建設を支援している。規制当局は審査をスムーズにするために、非公式の「サービス審査」を実施。BWRX―300はその対象に選ばれていた。今後、正式な審査を経て早ければ2028年の完成を予定している。

「カナダで実績のある炉を輸入できないか」。日本でもこんな声が高まりそうだが、現在の制度では、新しいタイプの原子炉には原子力規制委員会による審査の「高い壁」がある。また、メーカーが独自に審査を申請することはできない。

航空機の分野では相互承認制度により、協定を結んだ国で生産された旅客機は安全審査を省いて自由に飛行できる。SMRにより原子力発電も「商品化」しつつある。SMRに詳しい田中隆則・原子力学会フェローは「航空機のように輸出入ができる仕組みが望ましい」と話している。

小型原子炉で豊富な実績 ロシア製SMRの抜き出た実力


【ロスアトム】

地球温暖化防止の「切り札」としてSMR(小型モジュール炉)に関心が高まっている。

ロスアトムは、原子力砕氷船での実績などから、SMR開発で他企業の一歩先を走っている。

 地球温暖化が人類の将来に大きな脅威となり、CO2を排出しない電源として、再生可能エネルギーとともに原子力発電に期待が高まっている。特に注目されているのが、SMR(小型モジュール炉)だ。高い安全性や、投資額が大型炉に比べて安価であることなどから、米ニュースケール・パワー社など欧米の企業が開発を急ピッチで進めている。

その中で、ロシア国営原子力企業「ロスアトム」は、SMRの開発で他社を一歩先行している。原子力砕氷船への搭載など、ロシアには既に小型原子炉の開発・運転で豊富な実績があるためだ。

原子力砕氷船で積んだ実績 最新小型原子炉を使用

ロシア(当時はソビエト連邦)は1959年、OK―150型原子炉(電気出力9万kW)3基を搭載した世界初の原子力砕氷船「レーニン」を就航させた。以後、原子力砕氷船は60年以上にわたり北極海航路を航行し、同国にとって、小型原子炉の効果的な商業利用の一例となっている。

原子力砕氷船に搭載する原子炉には継続的に改良が加えられ、現在は最新のRITM―200型(熱出力17・5~19万kW)が使用されている。2020年10月、RITM―200型を2基搭載した最初の原子力砕氷船「アルクティカ」が就航。北極海の砕氷船隊に加わった。

RITM—200型を積んだ原子力砕氷船「アルクティカ」

今後、ロスアトムはアルクティカ級砕氷船の建造、運用を進める。将来は合わせて7隻が砕氷船隊に加わり、より強力な体制となって北極海航路での安全な運航に貢献することになる。

小型原子炉をSMRとして発電用などで陸上に建設、運転する計画も進んでいる。21年8月、極東のサハ共和国のウスチ・ヤンスク地区でのSMR建設に対して、連邦環境・技術・原子力監督庁が建設を許可した。ロスアトムは、この地区に陸上設置タイプのRITM―200N型(電気出力5・5万kW)を建設し、28年までに完成する計画を立てている。

ウスチ・ヤンスク地区の人口は約7000人。北極海に面した極寒の地だ。SMRの建設により、原子力によるCO2排出のないエネルギーで住民に電気と熱を供給し、大気中に有害物質を排出し環境を汚染することもない。この地域への投資を促進し、雇用を生み産業や鉱業を発展させることも期待されている。

サハ共和国では現在、石炭・ディーゼル燃料を利用した火力発電で発電などが行われている。ロスアトムは、サハ共和国でSMRプロジェクトを実施した場合、年間約1万tのCO2排出を削減することができるとしている。

ロスアトムの小型原子炉の活用で欠かせないのが、海上浮揚式原子力発電所(FNPP)だ。ロシアでは、既に小型原子炉を搭載した海上浮揚式発電所が稼働している。19年12月、原子炉KLT―40S型(電気出力3・5万kW)を2基搭載した「アカデミック・ロモノソフ」が、ユーラシア大陸の最北東端に位置するチュクチ自治区の港湾都市、ペヴェクで運転を開始した。ロシア本土の送電網から隔離されたチャウン・ビリビノ系統に送電を行っている。

アカデミック・ロモノソフは、チャウン・ビリビノ系統での電力需要の約2割を賄っている。この地域では長く、ビリビノ原子力発電所が電力・熱供給を行ってきたが今後、経年化で発電所は閉鎖されていく。それに伴い、アカデミック・ロモノソフが、地域での主力電源の役割を担っていくことになる。

SMRは極寒の地に電気、熱を供給する

工事期間を大幅に短縮 ロスアトム製のメリット

ロスアトムはRITM―200型原子炉をベースとしたSMRについて、次のようなメリットを挙げている。

①広い地域での展開 

設計上の特徴から、立地可能な地域を砂漠から北極まで、大きく拡大することができる。

②コンパクト

ほかの発電方式と比べて設置面積が最も小さく、土地資源のより効率的な使用を可能にし、周辺地域の生態系のバランスを保てる。ロスアトムが設計するSMRの設置面積は、同程度の容量を持つ化石燃料、水力、再生可能エネルギーの発電設備と比べて、大幅に小さくなる。

③モジュール化

設計がモジュール化されているため、工場内でプレハブ工法で製造できる。また量産時には高い品質を実現し、製造コストを削減することができる。結果として、資金調達コストが低減でき、顧客のエネルギー需要に応じて容量を増やすこともできる。

④工事期間の短縮

建設期間が、原子力発電産業の競争力を左右する主な要因の一つになっている。モジュール式の設計と、建設・備え付け作業の規模が小さいため、ロスアトムが設計するSMRの建設は、最初のコンクリート打設から試運転まで平均3~4年間で完了する。

⑤操作性

大規模な原子力発電所は主にベースロードで運転するように設計されているが、周波数・電力制御モードで運転ができ、最終利用者にとって効率的、経済的な発電所になる。

⑥安全性

ロスアトムによるSMRは、安全性を最優先に設計されている。RITM―200型の発電所は、最先端の第3世代以上の原子力発電所と同等の安全性を備えている。

各国が将来のカーボンニュートラルを宣言する中、今後、再エネとともに原子力発電に関心が高まることは間違いないだろう。その中で、他企業の一歩先を行くロスアトム製SMRが、世界の各地で電力供給と地球温暖化防止にどう役割を果たしていくのか、大きく注目されそうだ。

大手都市ガスに温度差も 合成メタン開発で団結なるか


O2と水素を反応させてメタンガスを精製するメタネーション(合成メタン)は、都市ガス業界が「2050年カーボンニュートラル実現」への切り札として研究開発を推進している注目技術だ。日本ガス協会では昨年6月に発表した行動計画の中で、「カーボンニュートラルメタンの都市ガス導管への注入1%以上」を30年目標に掲げている。

そうした中、東京、大阪の大手都市ガス2社がそれぞれ開いた社長会見(内田高史・東京ガス社長=11月26日、藤原正隆・大阪ガス社長=11月19日)で、合成メタンに対する両社のスタンスの違いが図らずも浮かび上がった。

まず藤原社長は、技術系出身で大阪ガスケミカル社長を務めた経験もあることから、合成メタン開発には積極姿勢。19日の会見でも「水電解・サバティエ反応方式」と「共電解・革新的SOEC方式」の二種類の技術がある状況を解説しながら、「完成された技術のサバティエ方式を今後さらにスケールアップするとともに、新たな触媒を開発することで効率を上げ、ガス協会の30年1%目標に向けて取り組む」と意欲を示した。

一方、内田社長は26日の会見で合成メタンについてコスト面での課題を指摘しながら、「(30年ごろまでに)合成メタンを持ってきて(導管に)入れるのは不可能とは言わないけれども、かなり難しい。どうしても無理なら、カーボンニュートラルLNGで代替していくことになるのかもしれない」と、慎重な姿勢を見せた。

個社の方針の違いといえばそれまでだが、経産省からは「業界が一致団結しないと、合成メタンの社会実装は困難」との苦言も。将来、合成メタン時代は来るのか。

方向性の違いが浮き彫りに(内田・東京ガス社長㊤と藤原・大阪ガス社長)

気候変動巡る主導権争いが激化 欧米けん制で中国は新たな枠組み模索


分断が鮮明化したCOP26では、気候変動対策を巡る主導権争いも顕在化した。

欧米は来年にかけて中国封じ込めを本格化し、対する中国は新たな枠組みづくりを模索する。

 「分断」「途上国との対立鮮明」。英国グラスゴーで開かれた温暖化防止国際会議のCOP26を巡る報道は、2015年のパリ協定合意後最も厳しい論調に支配された。

目玉だった首脳会議に、世界最大の温暖化ガス排出国、中国の習近平国家主席が欠席し、中ロにインドも加わって先進国に対する批判を繰り広げた。議長国の英国は、石炭火力の段階的廃止や自動車のゼロエミッション化を合意させようとしたが、思惑通りには事が進まず分断のイメージだけが残った。COPは「京都議定書のように空中分解する兆候が見えた」とする見方もあるが、あくまで気候変動対策を誰がどうけん引するか、という主導権争いが顕在化しただけという捉え方が適当だろう。

「先進国はCOP26で種をまいただけだ。勝負どころ、つまり本番は22年の先進国首脳会議(G7)ドイツだ」。ある国際交渉官はCOP26はあくまで序章にすぎないと解説する。インドの猛反発で後退した文言に修正された石炭火力の段階的廃止について、COP26で合意できないと当初から見込み、まずはどうリアクションが起きるかを試したというのだ。

先進国はG7ドイツで石炭火力の段階的廃止、または年限を区切って全廃という方針を合意する方向に舵を切っていく。議長国のドイツは気候変動対策に積極的だったメルケル首相が去り、「信号機連合」と呼ばれる小党連立政権に変わった。当初は路線転換がささやかれたが、連立には緑の党が参加。メルケル政権時代の路線は継承され、G7ドイツで合意形成される可能性が大きくなった。

ドイツG7で打ち上げへ 先進国が狙う石炭火力廃止

青写真はこうだ。G7ドイツで対中国を鮮明にし、先進国が一致した姿を見せるため合意を取り付ける。その流れのままCOP27に突入して踏み込んだ合意に持ち込む。そして23年のCOP28で予定されている35年目標を具体的に決める「グローバルストックテイク」で、先進国主導でよりパリ協定を進化させて1・5℃目標に近づけるという算段だ。

なぜ22年のG7ドイツが勝負どころなのか。それには二つの要素がある。最も大きいのは米国の政治日程で、24年に大統領選挙がある。失業率の上昇とインフレなどがバイデン政権を直撃し、早くも次の大統領選で「トランプがまた台頭してくる」とささやかれている。目玉政策の一つの気候法案も今だ見通しが立たない。「米国が気候変動対策に積極的なうちに決めてしまおう」(前出の国際交渉官)という目論見だ。

もう一つは日本への失望だ。23年夏のG7開催は日本。米国の事情はともかく、COP28のグローバルストックテイクまでに野心的な合意を得ればいいはずだ。しかし「日本は国内対策がつまずいている。資金面でも途上国支援に威勢良く100億ドル拠出するというが、中身があやしい。議長国として野心的な議長提案がなされるとは思われていない」(外交関係者)という。つまりは「日本はアテにできない」というレッテルが貼られてしまっているわけだ。

いずれにせよ、COP26はあくまで前座であって、京都議定書時代の09年COP15の「コペンハーゲンシンドローム」と呼ばれる失敗と同じような道筋はたどらないとの見方が強い。実際にCOP26でも1・5℃目標達成への野心は共通認識として確認された。ある国際機関の幹部は「パリ協定以前は気温が4℃上昇するといわれていたが、21年は2・1℃まで軽減している。この事実がパリ協定の実績になり、推進力につながっている」と強調する。

途上国巻き込む中国の思惑 日本は存在感低下の一途

一方で中国の動きが不穏だ。中国に詳しい専門家は「習政権は中国が気候変動対策でも主導権を握っていると自負している。国連に代わる新たな枠組みを中国が作り出す可能性は否定できない」と指摘。経済的にも強国となり、米国の没落、移民問題で疲弊する欧州を尻目に国際社会のリーダーとして、途上国を巻き込んで新機軸を模索しているというのだ。

豊富な資金力を武器に中国が対欧米戦略を画策する

欧米がけん引する国連中心の枠組みへの反発がCOP26でも随所に見られた。実際、公式な交渉ではのらりくらりを繰り返していたが、世界の企業が集まるパビリオンではビジネス交渉と併せて中国としての戦略会議を開いていたという。何といっても豊富な資金力が魅力だ。先進国が途上国支援にあくせくする中、中国は安くてそん色ない自らの技術を供与して途上国を抱き込んでいる。約束を果たさない先進国への不信感は募る一方、間隙を縫って中国の求心力が高まっているという図式だ。

温暖化ガス削減目標も先進国側が50年を軸にしているのに対し、中国は10年先の60年に設定。「先進国が苦しむ姿を見ながら、中国はそれをテキストにして良いとこ取りをしようという狙いが透ける」(専門家)と分析する。

G7ドイツで中国封じ込めを目論む先進国だが、やり方次第ではパリ協定の実効性が無くなる可能性も秘める。COP26で垣間見せた気候変動対策を巡る主導権争いは来年以降さらに深化していくだろう。

翻って日本。COP26では存在感低下が目立った。フロンガス対策連合など一部で途上国からの注目を集めたものの、「交渉の場ではいるんだかいないんだか分からないぐらい影が薄かった」(米国関係者)。菅義偉前政権時代に急進的にやり過ぎた反動が国内で起き、表裏一体であるエネルギー対策の立て直しの最中なのは仕方がない。しかし、存在感がなく、巨額の資金援助もいぶかしがられ、失望を買っている状況は打開しないといけない。

かつて日本は湾岸戦争時、総額130億ドルもの巨額支援をしたが、侵攻されたクウェートはおろか国際社会からもこの支援を認識されなかったことがあった。気候変動対策でも再び同じ道を歩むのか。岸田文雄政権は日本が国際社会でアピールできる術を急いで示すべきだ。

効果不明の石油高騰対策 減税議論の封印が狙い


ガソリン価格が一時7年振りの高値となり、政府は石油元売りなどへの補助金と、国家備蓄放出という異例の措置を決めた。負担軽減策として揮発油税などを減税する「トリガー条項」があるが、東日本大震災の復興財源確保のため凍結されている。日本維新の会と国民民主党は共同で同条項の凍結解除に向けた法案を提出しており、「これが参院選でイシューになると困る官邸が、財務省の意向も踏まえ税の議論を封じようと手を打った格好」(政府関係者)だが、評判は芳しくない。

異例の国家備蓄放出などの対策効果は……(写真は苫小牧東部国家石油備蓄基地、提供:朝日新聞社)

2021年12月~22年3月まで、資源エネルギー庁が公表するレギュラーガソリン小売価格(全国平均)が1ℓ当たり170円以上となった場合、元売りなど29社に対し5円を上限に支給。激変緩和措置のため、いったん発動後は4週間ごとに基準価格を1円ずつ引き上げる。ガソリン、軽油、灯油、重油の4油種が対象だ。

ただ、橘川武郎・国際大学副学長は「元売りの上期決算が好調なところへの補助金で、しかも末端価格に反映されるのか見通せず、筋悪だ。逆に170円まではOKだと線を引いたように見える」とし、消費者にとっても元売りにとっても減税の方が歓迎されたと指摘する。

米中などと足並みをそろえた価格抑制のための国家備蓄放出については、「他国では経済的な理由での放出はたびたびある。日本は安定供給上の理由で制度が窮屈だが、今回うまくいけば良い経験にはなる。ただ、国備放出は簡単ではない。東日本大震災時、石油はLPガスと異なり技術的な問題などから放出できず、現在もすぐ対応できそうな基地は限られる」(橘川氏)といった事情もある。