【新電力】期待高まる蓄電池事業 収益化は至難の業


【業界スクランブル/新電力】

今、系統用蓄電池に大きな注目が集まっている。長期脱炭素電源オークション応札に向けた準備に追われる事業者のみならず、各種電力市場を活用して高収益を目論む事業者もかなりの数に上る模様だ。特に需給調整市場三次②が一時、異常な高騰を記録したこともあり、系統用蓄電池アグリゲーションビジネスは、新電力の新たな収益源になるとの期待がある。

電力卸市場は需要期・不需要期に関係なく比較的高値で安定、一方で発電事業者との相対卸契約にしても燃料価格の高値安定が続き割高感が継続、という状況。電力小売業は、逆ザヤリスクは低下したものの、魅力の乏しい低収益事業となっている。アグリゲーションビジネスは多くの新電力にとり、魅力的な新事業と映るのであろう。今後も、特定卸事業者登録をする事業者が増えていくと思われる。

ただ、系統用蓄電池アグリゲーションビジネスは、従来の電気事業の知見のみでは成功し得ない、という点を新電力各社は強く認識すべきだ。系統用蓄電池事業の収益の柱と目される需需給調整市場の応札単位時間は、今の3時間から30分に短縮される。これに加えて同時市場の導入により、従来の電力市場区分は抜本的に見直されることとなる。

アグリゲーターは、⊿kW・kW時双方の市場予測を30分単位で正確に行うと同時に、蓄電池の充電計画と両立する最適応札戦略を実現し市場から収益を上げねばならない。各種制約条件下での最適モデル構築は、まさにAIが得意とする分野である。市場制度改革が、電力とAI業界の融合と業界のイノベーションを促進することに期待したい。(S)

トランプ再選で政策大転換 エネ基やNDCへの影響注視


【ワールドワイド/環境】

11月の米大統領選で共和党のトランプ前大統領が民主党のハリス副大統領に圧勝した。上下両院でも共和党が過半数を制し、第2次トランプ政権の政策遂行上の自由度は極めて高い。

トランプ氏は「米国の石油、天然ガスの採掘を推し進め(ドリル・ベイビー・ドリル)、米国を輸入エネルギーに依存しないエネルギードミナントな国にする」と強調してきた。

バイデン政権は発足直後、連邦所有地でのシェールオイル・ガスの採掘を禁止し、石油ガス採掘に関する環境規制を強化。昨年1月には脱化石燃料の一環として一部のLNGの輸出許可を一時停止した。このようなアンチ化石燃料的政策は即時に撤廃される。バイデン政権下で推進された証券監視委員会による炭素情報開示義務も撤廃されるだろう。

他方、クリーンエネルギー転換の柱としてバイデン政権が導入したインフレ抑制法については、多くの共和党州も裨益しているため、何らかの形で存続する可能性が高い。

国際面ではパリ協定から再度離脱することは確実であり、気候変動枠組条約そのものから離脱する可能性もある。これで温暖化防止の国際的取り組みが崩壊するわけではないが、先進国中最大の排出国である米国が温暖化防止に背を向け、気候資金への拠出を一切行わないことになれば、温暖化防止の国際的なモメンタムが低下することは避けられない。

中東依存度の高い日本のエネルギー安全保障にとってはプラスだ。第1次トランプ政権時代の日米戦略エネルギーパートナーシップのようにLNG供給、原子力、重要鉱物分野などで協力が考えられる。他方、パリ協定離脱と歩調を合わせることは外交上のコストが余りに高い。日本はパリ協定にとどまりつつ、国益を毀損しないエネルギー・温暖化政策をしたたかに追求するしかないが、日本の温暖化目標の前提となっている「1・5℃」目標、2050年カーボンニュートラルが、米国の離脱によりいよいよ不可能になっていることを肝に銘ずる必要がある。

トランプ政権のように温暖化問題を無視することは誤りだが、国益最優先の考え方そのものは当たり前でもある。第2次政権の誕生がわが国のNDC(国別目標)やエネルギー基本計画に与える影響が注目される。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

【電力】自ら傷口広げた自民 エネ政策の空白に懸念


【業界スクランブル/電力】

10月27日に投開票が行われた衆議院議員選挙の結果、自民・公明の連立与党は大幅に議席を減らし、2009年以来、15年ぶりの過半数割れとなった。その時は民主党が過半数の議席を獲得して政権交代となったが、今回は野党第一党の立憲民主党が議席数を増やしたものの風が吹いたわけでもなく、特別国会では自民党総裁の石破茂氏が再び総理大臣に指名され、当面は少数与党として政権を運営していくことになる。

今回の与党の議席減について、筆者としては、政治とカネに絡めてあることないこと言い立てれば与党の足を引っ張れる、という成功体験をメディアに味わわせてしまった残念な結果だと思っている。すなわち、メディアが多用した裏金問題というレッテル貼りは、司法も政治資金報告書への不記載以上の問題はないと結論付けたものを、まるで脱税や収賄でもしたかのような印象操作のために使われた。

筆者はここで、福島第一原子力発電所の処理水海洋放出を想起する。「汚染水」というメディアの非科学的なレッテル貼りに対して、科学的な説明を貫徹して対抗した。時間はかかったが、中国の理不尽な水産物禁輸措置も今は解除に向かっている。

ところが、今回自民党は非論理的なレッテル貼り報道に迎合して、一部議員を公認しない、比例区との重複立候補を認めないなどの追加処分を行って傷口を広げていった。

この二重処分のおかげで議席を失った議員の中には、エネルギー問題に理解の深い議員も複数含まれている。第7次エネルギー基本計画の議論はこれから正念場であるのに、悪影響がないことを願うばかりだ。(V)

PJM管内で電力需要が増大 予備力の維持に懸念


【ワールドワイド/市場】

米国北東部地域の地域送電機関であるPJMは米東部13州とコロンビア特別区をカバーし、系統運用および卸電力市場運営を行っている。PJMでは安価な天然ガス供給を背景に、ファンドなど民間資本が所有するガス火力の新設が継続的に行われてきた。この結果、電源構成が2023年末時点で天然ガスが48%(設備容量ベース)と半分を占め、高い供給予備力を保っている。しかし現在、接続待ちをしている新規発電設備は太陽光など再生可能エネルギー電源が中心である。50年には再エネと電力貯蔵設備の割合(設備容量ベース)が47%に達するとの予測もあり、電源構成に占める火力の割合は段階的に減少する見通しだ。

一方、PJM管内では特にAIやデータセンター(DC)による電力需要の増加が電力システムに与える影響が懸念されている。将来的にDCがけん引する電力需要の増加に加え、石炭火力などの廃止の加速、新規発電設備の導入が遅れる事例が続いた場合、現状の高い供給予備力を維持することは難しい。PJMの電力需要は19年ごろまではほぼ横ばいであったが、DCの急増と各州の電化目標の達成に向けた動きにより、大きく増加した。これに伴い、PJM管内では39年までに夏季ピークが4200万kW、冬季ピークが4300万kW増加すると予測している。特に顕著なのがバージニア州で、ドミニオン社管内では24~34年にかけて消費電力量の増加率は平均で年率5・5%が見込まれている。

電力需要の増加への対応策として、PJMは24年に再エネ電源や電力貯蔵設備など2600万kWの新規プロジェクトを承認し、25年内には追加で4600万kWのプロジェクトを承認する予定だ。さらに、既存発電設備の運転延長を進めており、メリーランド州の石油火力発電所の運転期間を28年まで延長するなどの措置が取られている。またPJMの24年地域送電拡張計画では電力需要の増加に対応するための費用として約51億ドルが試算され、新規変電所および送電線の建設、既存施設の改善が必要と示された。

PJM管内の電気事業者はそれぞれ新規の設備容量の建設や既存の発電設備の運転延長などを実施しているものの、運開の遅延や系統増強費用の増加に伴うコストへの影響など課題は多く、信頼性を確保しつつコストを抑えるための対策をさらに強化する必要がある。

(長江 翼/海外電力調査会・調査第一部)

米LNGに依存するエジプト 外貨不足や債務問題に拍車


【ワールドワイド/資源】

エジプトは今年4月30日、国内の電力不足対策として、同年5月からLNGの輸出を一時的に停止すると発表した。この決定には、国内ガス生産量の低迷に加え、人口増加や夏季の気温上昇によるガス需要増加、さらにはイスラエルからのガス輸入量の減少が影響している。加えて、通貨安やインフレなどによる債務危機と中東情勢の不安定化に伴うスエズ運河使用料の外貨収入が減少に転じる中、同国は外貨準備高を確保するため、夏季期間において計画停電を実施した。

こうした状況を受け、同国政府は国内の電力不足、ガス需要に対処するため約6年ぶりにLNG輸入を再開した。24年において約52隻のLNG貨物を調達し、25年第1四半期に需要の少ない冬季としては前例のない最大20カーゴを調達するための新たな入札が準備されている、と報じられている。

なお、スエズ以東からの供給懸念により輸入の大部分は米国LNGに依存している。LNG輸入増加はエジプトの財政に大きな負担をかけ、同国の深刻な外貨不足や債務問題に拍車をかけている。

湾岸同盟国や国際通貨基金(IMF)、欧州連合(EU)、世界銀行からの大規模な米ドル預金を受けて今後約2年は、LNG輸入を継続できるものと市場では評価されているが、中長期的な対応策はいまだ見出だされていない。

エジプトでは通常、発電燃料の約80%をガスが占めているが、電力不足の影響により、約70%まで落ち込んでおり、電気を供給し続けるためにLNGだけでなく燃料油の輸入も増加させている。

また、ノルウェーのHoegh LNG社からFSRU(浮体式LNG貯蔵・再ガス化設備)をチャーターし、さらには2基目のFSRU導入を検討することで、LNG輸入のさらなる安定化を図ろうとしている。

しかし、政府による石油会社への未払い債務が新たな投資の妨げとなっている。上流部門への新たな投資を刺激しなければ、持続可能なエネルギー供給体制の確立には課題が残る。

今後もエジプトはLNGを輸入し続けるとみられるが、輸入依存からの脱却にはガス生産の増強や再生可能エネルギーの利用拡大が不可欠であり、早急な対策が求められている。

世界のガス市場に影響を与える国として今後のエジプトのLNG輸入動向が注目される。

(野口洋佑/エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

【インフォメーション】エネルギー企業・団体の最新動向(2024年12月号)


【東京都/水素社会の早期実現を目指す国際フォーラム開催】

東京都は10月22日、グリーン水素の社会実装化の加速をテーマとした国際会議「HENCA Tokyo 2024」を都内で開いた。会議には小池百合子知事のほか、ENEOSや川崎重工業、豪州やインドネシアの関係者らが出席。小池知事は「都は大規模なグリーン水素の製造拠点の整備に着手している。官民で連携し水素導管を含む供給体制の構築へ議論をしている」と述べた。豪州関係者は「ニューサウスウェールズ州では世界最大のグリーン水素製造拠点を目指しており、これにインセンティブを与え、2026年から市場を通じてグリーン水素を供給する」と発言した。


【Looop、EcoFlowなど/電気代を減らせるポータブル電源の実証販売開始】

Looopは11月1日、ポータブル電源事業で実績を持つEcoFlow 、エネルギーマネジメントを強みとするYanekaraの2社と共同で、業界初となる「市場連動型」充放電サービスと連携したポータブル電源の実証販売を開始した。市場連動型充放電サービスとポータブル電源を連携させることで、Looopが提供する市場連動型電気料金プランの価格が安い時間帯に充電し、高価格帯に電力を放電するようにポータブル電源を自動制御、家電などに使用される電気代を抑える。蓄電池市場が拡大する中、3社は賃貸住宅や集合住宅なども視野に入れ、市場開拓を進めたい考えだ。


【マクニカ/港湾でペロブスカイト太陽電池の大規模実証】

マクニカはこのほど、薄くて曲がるペロブスカイト太陽電池の実用化に向け、港湾などの苛烈な環境下で大規模な実証実験を始めた。海風が強い屋外で普及の鍵を握る耐久性などについて検証するのが狙い。光電変換技術を専門とするペクセル・テクノロジーズや薄膜加工品を手掛ける麗光と共同で取り組む。実験の場所は、横浜港大さん橋国際客船ターミナル(横浜市)の屋上広場で、モジュールの容易な交換を可能にする着脱方法についても確かめる。期間は来年1月末まで。国内最大規模の実験で、環境省の「地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業」に採択された。


【東京ガス/初の「人的資本レポート」でキャリア支援強調】

東京ガスは、「東京ガスグループ人的資本レポート2024」を公開した。人的資本に特化したレポートの発行はグループ初。説明会で、同社常務執行役員CHROの斉藤彰浩氏が紹介した。取り上げた人事施策の一つが人材の成長支援。例えば、社員の専門性を見える化するシステム「CIRCLE」で、個人の理想を踏まえたキャリア形成などを後押ししている。


【日豪経済会議/脱炭素社会実現に向けた連携の在り方など議論】

日本とオーストラリアの財界人らが集う「日豪経済会議」が10月23~25日に名古屋市で開かれ、脱炭素社会の実現に向けた連携の在り方などを議論した。豪州のキング資源相が、豪州産ガスの日本への安定供給などについて講演。同委員会の広瀬道明委員長(東京ガス相談役)は「両国の協力関係を東南アジアや島しょ国に広げていくことが重要だ」と述べた。


【レモンガス/LPガスや器具販売で優秀な成績の社員を表彰】

LPガス販売事業者のレモンガスはこのほど、2023年度にLPガスやガス器具などの販売で優秀な成績を収めた社員をたたえる表彰式を横浜市内で開いた。最優秀賞には400件近い新規顧客を獲得した社員が選ばれた。「(無償配管の改善に向けた)液化石油ガス法省令改正で不透明感が漂う中、ターゲットを絞りお客さまの数を増やした」と評価を受けた。

自動車産業は注目&困惑 SDVの正体とは


【モビリティ社会の未来像】古川 修/電動モビリティシステム専門職大学教授・学長上席補佐

メルセデス・ベンツが2016年にCASEというキーワードを発表した。これはConnected(通信)、Autonomous(自動運転)、Share & Service(シェアサービス)、Electric(電動化)という単語を結び付けた造語で、今後の自動車技術の方向性を示すもの。以来、自動車産業はこの言葉の呪縛のもとに技術開発の方向性を模索してきた。

そこに新たに加わったキーワードがSDVである。Software Defined Vehicle(ソフトウェアで定義された自動車)の略語で、自動車の機能をソフトウェアで自由に設定するという新たなコンセプトのシステム構造を示すもの。テスラが最初に採用した。

SDVへの関心は高まるが……

18年に米国の製品評価メディアであるコンシューマーリポートは、テスラのモデル3のブレーキ性能が同クラスの他車に比べて大きく劣っている評価結果を発表した。これに対してテスラはOTA(Over The Air:無線通信で車両のソフトを更新する手段)を用いてブレーキ性能を1週間で10数%も改善して、再テスト評価の時には「お勧め」の結果を獲得した。従来は、クルマの性能を改善するには消費者がディーラーにクルマを持ち込まないとならなかったのが、その手間もコストも必要なかったことから、注目を集めた。

SDVによってソフトウェアを自由に設定して、クルマの機能を運転者や走行条件に応じて最良の状態にすることが可能となる、ということでメディアは自動車の開発の最先端の方向性とあおる記事を盛んに発信するようになり、自動車メーカーもSDVを今後必要となる重要なシステムコンセプトとして受け取るようになった。そしてメディアは、SDV技術開発競争では、テスラと中国メーカーが先行しており、日本の自動車メーカーは遅れていると評価していることが多い。

SDV技術によって自動車の概念が変わると期待されているようであるが、自動車がスマートフォンやタブレットPCのように、いろいろなアプリを自由に設定できる柔軟な構造にすぐになれるかというと、そう簡単な話ではない。自動車をソフトウェアによって自由に機能変更できるようにするには、ハードウェアもそれに対応する構造にする必要があるが、これが難しいからである。

スマートフォン、タブレットPCにしても、数十年同じ仕様のものを使えることはなく、何年かごとに新しいバージョンに機種変更をする必要がある。それは、年数が経過した古いバージョンのものは、新しいソフトウェアであるアプリに対応できなくなるためである。では、自動車のコンピューターのハードも同時に更新すればいいかというと、自動車のコンピューターは数百台が機能別に存在しており、スマートフォンやタブレットPCとは比較にならないくらい多数のハードウェアと連携しているので、不可能と言える。

また、自動車のコンピューターはADASや運動制御などの安全性を左右する機能ともつながっているので、機能不全となることは許されない。

このようなSDVの課題と将来の方向性について、次回紹介することとする。

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ふるかわ・よしみ 東京大学大学院工学研究科修了。博士(工学)。ホンダで4輪操舵システムなどの研究開発に従事。芝浦工業大教授を経て現職。

DXや電力消費の不確実性踏まえ 安定供給の継続に向け議論を


【オピニオン】小宮山 涼一/東京大学大学院工学系研究科教授

最新の電力供給計画によれば、データセンター(DC)などの建設を背景に、今後10年間の国内の電力消費は増加の見通しとなった。国内の電力消費は2007年頃を境に減少基調にあるが、生成AI普及などDXがもし今後、本格的に電力消費に影響を与えることになれば、電力安定供給が極めて重要になる。

その場合は第一に、電力供給力の確保が一層求められる。安定した電力供給力の存在により、DC建設やAI活用が可能となり、生産性向上など産業成長の機会が創出されると考えられる。その中でCO2削減の社会背景も踏まえ、着実な低炭素・脱炭素電源の新増設やリプレースと、需要に応じた適切な管理・運用が大切になり、投資はその技術を磨き、競争力を高める機会にもなり得る。近年、地域や時期により電力の供給余力(予備力)が十分とは言えない状況もみられ、電源新設が計画される一方、既設火力の廃止や非効率石炭火力のフェードアウト、送配電網の老朽化など、供給力にはリスク要因も存在する。原子力は社会の信頼獲得や放射性廃棄物処分、再生可能エネルギーは地域共生や送配電網の混雑管理、低炭素火力は燃料調達など、諸課題への取り組みとともに供給力への貢献が期待される。

第二に、レジリエンスの強化、いわゆる不測の事態での電力安定供給が重要になる。DX進展や電力化は、社会の電気への依存が高まり、電気が果たす役割がより重要になることを意味し、平時に加え、想定を上回る数十年に一度といった予期せぬ大災害でも電力供給の継続や早期復旧が求められる。日本は大地震などさまざまな自然災害のリスクにさらされ、近年は自然災害の影響の甚大化も指摘される。十分な供給余力の確保や分散型リソースの活用などを通じた緊急時対応の強化が大切になると考えられる。

最後に、電力消費の見通しの不確実性への留意が大切になる。電力消費の増加要因としてDCに加えEVなどが挙げられる一方、消費の抑制要因としてDCの省エネ可能性も指摘され(半導体高集積化や光電融合など)、長期的な電力消費の正確な予測は容易ではない。また、電力と情報インフラを統合的に形成する「ワット・ビット連携」がもし実現すれば、電源近傍でのDC建設の誘導など、地域的な電力消費の見方も変わりうる。電力消費の将来の不確実性を考慮の上、電力安定供給と脱炭素を実現し得る電源選択や送配電網増強を見極めて最適な投資を行う意思決定が必要になる。そこに電源や送配電網の建設期間を考慮すれば、さらに複雑な課題となる。将来、DX進展などで電気の社会価値が一層高まる可能性も踏まえ、電力安定供給の継続に向けた議論がさらに深まることを期待したい。

こみやま・りょういち 2003年東京大学大学院工学系研究科電気工学専攻博士課程修了、博士(工学)。日本エネルギー経済研究所主任研究員、東大大学院准教授などを経て22年から現職。

割れる世界のLNG需給予測 日本は長期契約をどう取るか


【脱炭素時代の経済評論 Vol.09】関口博之 /経済ジャーナリスト

10月、エネルギーの長期見通しに関する恒例の報告が二つの専門組織から出された。国際エネルギー機関(IEA)の「ワールド・エナジー・アウトルック(WEO)」と日本エネルギー経済研究所の「IEEJアウトルック」だが、世界のLNG需給の将来展望にはかなりの開きがある。

IEAは2030年までにLNGの供給能力が現在の50%近く増える一方、需要は30年でピークに達し、その後もほぼ横ばいと予測。このため供給過剰になり価格も低下すると見る。そして各国の脱炭素政策が公約通り進められるとすれば、既存生産設備と既に投資決定済みのプロジェクトだけで50年までの需要は賄えると試算する。

さらにIEAが脱炭素化という目標から逆算して描く「ネットゼロシナリオ」では50年の需要は急激に細り、今後の新規投資案件は資金回収すら難しくなるという姿が描かれている。

LNGは新興国との共同購入も視野に

一方、エネ研の長期見通しでは、脱炭素技術が進展するシナリオでさえ、50年の世界のLNG需要は現在の4億tと変わらないと推定。既存設備の減耗も考えれば、今後も毎年1000万t分の生産能力投資が必要だとする。

かたや「生産増強はもう打ち止めに」と言い、他方は「安定的な投資継続を」と提言する。ともに権威ある機関だけに業界は当惑するかもしれない。

言うまでもなく日本にとってLNGはカーボンニュートラルへの「移行期」にとりわけ重要な役割を果たす。IEAが予測するように供給過剰の時代が来るのなら慌てて動かなくてもよいかもしれないが、だとしても大半をスポットや短期買いに頼るのは危うい。安定調達のためには長期契約がやはりベースだ。ただ国内でもガス火力発電へのLNG需要は再エネ・原子力を最大に入れた後のいわば調整弁になるので、先行きが見極めづらい。電力ガス業界からは「さすがに20年契約では取れない」という本音も聞こえてくる。

一方でカタールのガス田拡張で欧米メジャーや中国はプロジェクトに出資もし、生産の一定量を25年にわたって引き取る契約を結ぶ。日本が取り負けることはないのか。

個別企業ではリスクを負い切れない。LNGのリポートを作成したエネ研の橋本裕上級スペシャリストは「東南アジアの新興国とタッグを組んで共同購入などを」と提言する。需要をプールすることで量がまとまる。仮に日本の国内需要が見込みを下回った場合でも新興国側に転売できればバッファーになる。新興国の需要自体が伸びるとすれば長期契約でも座礁資産化は避けられる。仕向け地条項の廃止・弾力化を求める必要はあるが、輸出国側にしても無制限の仕向け地変更よりは受け入れやすいはず、と橋本氏は見る。

スキームには国の支援があればなお有効だろう。民間ベースの契約を両国政府がエンドースするといった形はどうだろう。日本が提唱し11カ国で形成したアジアゼロエミッション共同体(AZEC)の活用もあり得るのではないか。まずは具体案件の開拓から。アイデアは民間が出し、国を動かしていく、こうした官民連携が望ましい。

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せきぐち・ひろゆき 経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

【コラム/12月13日】長期脱炭素電源オークションの課題:再論


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

前々回のコラム(2024年10月18日)では、2023年度に創設された長期脱炭素電源オークションの課題について述べた。そこでは、本オークションの下でも、原子力発電のような大型電源の投資リスクは完全には払拭できないこと、小規模再生可能エネルギー電源がオークションに参加しやすいような工夫が必要であることなどを述べた。本稿では、本オークションの課題について、さらに掘り下げてみたい。

長期脱炭素電源オークションの目的は、「脱炭素化に向けた新設・リプレース等の巨額の電源投資に対し、長期固定収入が確保される仕組みにより、容量提供事業者の長期的な収入予見性を確保することで、電源投資を促進する」ことにあるが、電源種によっては、達成できない可能性があることは、前々回のコラムでも指摘した通りである。リードタイムが長く、総事業期間が60~100年程度に及ぶ原子力、大型揚水、大型火力のような大型電源に関しては、投資判断時点で予見できないコスト変動の可能性を考慮すると、依然投資リスクは大きいと言わざるをえないからだ。このことは、とくに、建設から廃止措置に至るまでの総事業期間が100年程度となる原子力発電の新設に関して当てはまる。

このため、総事業期間が超長期に及ぶ原子力発電に関しては、投資費用を総括原価方式に基づいて回収することで、投資リスクを可能な限り抑制すべきとの見解もある。英国で原子力発電に適用されている規制資産ベース(RAB)モデルは、総括原価方式による規制料金により需要家からコストを回収する仕組みであり、わが国でも同モデルに対する関心は高く、原子力発電への投資の促進に向けての事業環境整備として有力な選択肢となりうる。しかし、電力市場は自由化されているのに、原子力発電だけが過去の総括原価に世界の戻ることが、消費者から是認されるだろうかという疑問の声も聞かれる。わが国の産業界は原子力推進で盛り上がっているが、特定の電源を特別扱いする場合は、合理的な理由があり、消費者や国民が納得することが重要だ。

わが国では、日本原子力文化財団が行った「原子力に関する世論調査」で今後の原子力発電の利用に対する考えとして、「原子力発電をしばらく利用するが、徐々に廃止していくべきだ」が最多の42.3%、「増加+維持」は年々増加傾向にあるものの19.1%にとどまっている(2023年10月)。一方英国では、エネルギーコンサルタント会社Radiant Energy Groupによる調査では、原子力発電に対する支持は43%と不支持の29%を大きく上回っている(2023年10~11月)。米国でも、Biscontiの調査では、支持77%、不支持23%と支持が圧倒的に多い(2024年4~5月)。規制当局や産業界は、CN実現やエネルギーセキュリティ確保のために原子力発電が欠かせない電源であることをもっと丁寧に消費者や国民に説明し、その理解を得る努力をしていかなくてはならないだろう。

また、前々回のコラムで指摘したように、再生可能エネルギー電源により目を向け、同電源が長期脱炭素電源オークションでもっと落札できるような条件整備を行うべきだろう。再生可能エネルギー電源は、今後とも生産コストの低下が見込めるだけでなく、消費地に設置されることが多く、電力の供給者は、地域共生型再生可能エネルギー事業者として、消費者との密接な関係や安定した取引関係を構築することができる。現在、FITやFIPが適用されている電源に関しても、補助金終了後はリパワリングなどでこのようなビジネスを模索する事業者が増えてくるだろう(再生可能エネルギー電力の地産地消型PPAなど)。電力の供給者と消費者が密接な関係にある場合、消費者は、必ずしも低い価格ではないかもしれないが、安定的で予測可能な価格で供給を受けることが可能となるだろう。同時に、供給者は、投資の安全性が確保されることになるだろう。このような供給者と消費者の安定的な関係を構築することは、電力取引所を介して電力を販売する集中型電源では困難である。

さらに、再生可能エネルギー電源からなる分散型電力供給システムは、事故に対するレジリエンスが高いとの指摘もある。再生可能エネルギー電源の事故では、非常に局所的な損害しか発生しない。集中型システムでは、事故が連鎖的に伝播し、直ちに広域停電が発生し、復旧にも時間がかかる。当然、間欠性の再生可能エネルギー電源にはデメリットも指摘されるが、上述したメリットにも注目し、CN達成のために、再生可能エネルギー電源の最低入札容量の引下げやアグリゲーションの要件緩和などにより、同電源のポテンシャルを可能な限り引き出すべきだろう。


【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

開設から1年超 役割高まる炭素クレジット市場


【マーケットの潮流】松尾琢己/東京証券取引所カーボン・クレジット市場整備室長

テーマ:カーボン・クレジット市場

東京証券取引所のカーボン・クレジット市場が開設から1年超が経過した。

GX―ETSの本格導入を控え、同市場が果たす役割とは。

国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)の開催初日である11月11日、東京証券取引所のカーボン・クレジット市場は開設から1年1カ月を迎えた。来年はパリ協定に基づく各締約国の温室効果ガス排出削減目標更新の年にあたる。わが国においても、GX(グリーントランスフォーメーション)リーグの排出量取引「GX―ETS」の2026年度以降の第2フェーズにおける本格的な制度導入に向けて、一定規模以上の排出企業の参加義務化を含めて政府において検討が進められており、カーボン・クレジット市場が果たす役割は増している。

本誌6月号の当コーナーでは、東証のカーボン・クレジット市場開設の経緯と市場の概要について紹介した。本稿では、その続編として、市場開設以来の歩みを振り返りつつ、今後の展望について言及したい。なお、以下、文中における意見などは個人的見解である。

東証カーボン・クレジット市場は、日本政府が認証した、国内の温室効果ガス削減・吸収プロジェクトから生み出される「J―クレジット」の売買からスタートした。11月15日時点で、市場開設後の累計売買高は57万7681t―CO2で、1日平均2148t―CO2となる。J―クレジットは年間100万t程度創出され、他方で過去の認証量の半分程度がオフセットなどで使われて償却されていることを考慮すれば、東証市場はカーボンプライシングに必要な相応の流動性と価格形成の場として有効に機能していると思われる。

カーボン・クレジット市場でのJ―クレジットと超過削減枠の制度概要


売買の7割を占める再エネ 価格も上昇傾向

東証の市場の特徴として、個々のプロジェクトのクレジットごとではなく、類似したオフセット需要や価格形成がされるクレジットをカテゴリー化した売買の区分を設定している点が挙げられる。内訳をみると、売買の7割弱が「再生可能エネルギー(電力)」、3割弱が「省エネルギー」となっており、直近の約定値段の水準は、前者が5900円、後者が2000円程度となっているが、特に前者は昨年の3000円台中心の価格形成から継続して価格が上昇しているのが注目される。

カーボン・クレジット市場において売買に参加するには、市場参加者として登録が必要となるが、幅広く参加いただけるよう、基本的に、政府が運営するクレジット登録簿システムで取引の決済に必要なクレジット口座を開設できれば、誰でも参加できる制度としている。当面の間、各種手数料は無料だ。

市場開設時点で188者の参加登録があったが、11月13日時点では305者と、1年強で約1・6倍に増加した。参加業種は多岐にわたるが、電気・ガス業などのエネルギー多消費型の産業のほか、商業、金融、サービスといった、クレジットの仲介やプロジェクトの実施支援を行うような業種からの参加が増えている。

歴史的波乱の第50回衆院選を終えて 自公の枠組みを超えた政権づくりを


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

石破茂内閣が誕生してわずか8日目に解散して行われた衆議院選挙は、自公合わせても過半数割れという歴史的な結果で終わった。私自身はおかげさまで再び無所属で国会に戻ることができたが、候補者として戦ってみて、確かに裏金問題などでの自民党への反発や不信があったのであろうが、あまりにも急ごしらえの総選挙で大義も争点が明確ではなく、多くの国民にとっては白けた選挙であったとも言えるのではと感じた。

自公で過半数割れということは、一定数の野党の賛同を得なければ、予算案も法案も通らないということを意味する。石破内閣は当面、国民民主党を連携の相手として交渉をするようであるが、来夏の参院選を控えて泥舟の石破政権と連立を組む政党はないだろうから、戦後初めて予算案も法案も野党の協力がなければ成立しない、少数与党の国会となる。要の予算委員長や最大の山場の政治改革特別委員長は立憲民主党のものとなり、前例のない国会の状況が今後どんな展開となるのかは私にも予測がつかない。

確実に言えることは、参議院選挙の前までには、与野党の賛否が割れるような法案の審議や価値判断が問われるような政策は何も打ち出せないということだ。これは、エネルギー政策にとっても大きな影響を与えよう。現在策定中の第7次エネルギー基本計画は閣議決定なので国会情勢の影響はあまり受けないが、それを実行するために必要な法案は国会情勢に大きく影響を受ける。つまり、国会の状況によっては画餅に帰する可能性があるエネ基が閣議決定されるということである。


現実的な国民民主の政策 与党入りの材料にならず

エネ政策では、現実的な政策を掲げる国民民主に期待する向きもあるが、国民民主とて参院選挙への影響を考えると与党入りするわけにはいかず、簡単に自公政権と妥協し得るエネ政策はそもそも交渉の材料にはならない。当面エネ政策の何かを動かすモメンタムにはならないだろう。米国ではトランプ政権が誕生し、ウクライナ・中東情勢が極めて不安定で不透明な中、世界的な何かが起きればこのような脆弱な政権の下では対応できないことは明らかだ。私は、参院選前のこの数カ月の間に、そうした国際情勢の大きな変化が起きるような予感がしてならない。

こうした事態を打開するためには、結局既存の自公政権の枠組みを超えた政権を作る以外に方法はない。救国のための大連立か、野党それぞれから志を同じくする議員が飛び出して与党を巻き込んだガラガラポンをやるか。自公政権にも、国のために大胆な決断をすることが近いうちに求められるのではないか。

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ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

【フラッシュニュース】注目の「政策・ビジネス」情報(2024年12月号)


NEWS 01:伊豆諸島沖に大規模風力整備 COP29で小池知事が発表

東京都の小池百合子知事が、アゼルバイジャンで開かれた地球温暖化防止国際会議・COP29の会合で、伊豆諸島沖に大規模浮体式洋上風力発電(1GW級)の整備方針を表明した。突然のことに、業界からは「小池知事らしい」との声が上がっている。

実はこの発表には前段がある。昨年9月、都が開催した専門家会議「再エネ実装専門家ボード」で、伊豆諸島の海域が洋上風力に適しているとの見解が示された。技術的専門家として出席した東京電力リニューアブルパワーの池ノ内岳彦風力部長代理は「伊豆諸島周辺はおおむね風速が毎秒9mを超える好風況の海域」と紹介。「洋上風力ポテンシャルが高い」と評した。

伊豆諸島沖への洋上風力設置は実現可能か

こうした意見をもとに都が発注した「再エネポテンシャル等調査委託」および「都の海域における洋上風力発電事業ゾーニング調査委託」を航空測量サービス大手のパスコが受託。今年 4月に当該海域における共同調査の基本協定を締結した。

伊豆諸島沖は水深が深く、大型台風の通過も多い。気象庁によれば、台風接近数は2021年7回、22年4回、23年3回、24年はこれまでに3回だ。また、離島という立地上、資機材の輸送・調達も課題だ。

小池知事はこれまでも新築住宅への太陽光設置義務化で物議を醸してきた。今回の洋上風力整備計画もまた、新たな議論を呼び起こしそうだ。


NEWS 02:電気ガス代補助が再開へ 野党の主張がまだましか

エネルギー関係者の懸念が現実になった。政府は11月策定の経済対策で、電気・ガス代への補助金を来年1~3月に再開する施策を盛り込むことを決めた。

具体的には、1、2月使用分について今年10月の補助と同水準で、電気は家庭向けで1kW時当たり2・5円、都市ガスは1㎥当たり10円を助成。3月は補助額を縮小し、電気1・3円、都市ガス5円とする。また、年末で終了することになっている燃料油補助については、来年1月以降も継続するが、段階的な終了に向け補助額を縮小させていく方針だ。

先の衆院選の公約の中で、自民党は〈電気・ガス料金、燃料費高騰対策と併せて、物価高が家計を圧迫する中、国民の皆様の生活を守るため(中略)物価高への総合的な対策に取り組む〉と、継続の方向を提示。公明党も〈家計を圧迫している電気・ガス料金、ガソリン等の燃料費への支援を続ける〉とした。それだけに特段の驚きはないが、業界内外では「何も生み出さない筋違いの巨額の国費投入をいつまで続けるのか」「市場の価格決定機能をゆがめる愚策は、もういい加減やめてもらいたい」といった批判の声が渦巻いている。

一方、日本維新の会は、事業者への補助金投入ではなく需要家への直接給付、最終消費者の省エネ・節電へのインセンティブが働く激変緩和制度の導入を提起。国民民主党は、再エネ賦課金の一時停止による電気料金の引き下げを求めている。ただ、同党はトリガー条項の凍結解除も訴え、これは補助金以上の「悪手」との評がある。

十数兆円に上るエネルギー料金補助の投入が、国民経済にどの程度の具体的効果をもたらしたのか。政府による検証が不可欠だ。


NEWS 03:四国で大規模停電の真相 背景に同期協調の難しさ

四国エリアで11月9日夜、約1時間半にわたって最大36万戸超の大規模な停電が発生した。発電所のトラブルや、自然災害などによる送電設備の損かいがあったわけではない。なぜこのようなことが起きたのか。

本州と四国をつなぐ連系線は、交流の本四連系線(本四)と直流の阿南紀北直流幹線(DC)の2カ所4回線。四国電力送配電によると同日、本四とDCそれぞれ1回線が作業停止していたところ、午後2時20分ごろに運用中だった交流回線が事故で自動停止し交流連系が途絶した。DC1回線でエリア内の周波数を制御するという、危うい状態に陥ったのだ。

そこで同社は、作業停止していた交流回線の復旧を開始。午後8時ごろ、本州側との同期運転に戻そうと試みたものの、位相が大きくずれたままうまくいかなかった。DCがエリアの周波数を制御している状態では、位相のずれを修正することが難しかったと考えられる。

自ら位相調整を行うため、四国送配はDCを共同運用する関西電力送配電に周波数制御と潮流制御を止めるよう要請した。だが意図が正確に伝わらず、関西送配が周波数制御のみを止め潮流制御が生きたままになったところ、四国から関西への潮流が急増。四国内の供給力が不足したことで、需給バランスを維持する周波数低下リレー(UFR)が働き大規模停電に至った。

停電の要因は、両送配電会社の連携ミスだ。とはいえ、電力業界関係者は「位相がずれると潮流の乱流があることは分かっていても、実際に経験したのは日本の電力業界としても初めて」と、極めてまれな事象が起きていたことを強調する。改めて、同期協調の難しさとその意味を知らしめることになったと言えそうだ。


NEWS 04:GXに若干の石破色 年末にビジョン案提示へ

GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議が10月31日に開かれ、石破茂首相はGX2040ビジョン、エネルギー基本計画、地球温暖化対策計画の案を年内にまとめることなどを改めて指示した。GX加速への当座の取り組みをまとめ、経済対策に盛り込むことも求めたが、ここで若干の石破カラーが出た。

中小水力や地熱政策が存在感を増すのか

再エネ関連では、以前より地熱や中小水力が目立つ立て付けとなっている。石破首相はあいさつで「地域の森林資源の活用などにも効果的な脱炭素先行地域の拡大や、地熱、中小水力の開発は、地域経済にGXの恩恵をもたらす」などと強調。GX実行推進担当相が提出した資料でも、当座の取り組みの中で再エネ関連は「地熱などの再エネ拡大」とくくり、「地域が高いポテンシャルを持つ地熱や中小水力の開発加速」をまず掲げた。

ある有識者は、今年初めのとある研究会で地球温暖化問題などについて講演した際、当時無役の石破氏がすっと手を挙げ「地熱と中小水力で賄えないのか」と質問。これを聞き、「石破さんは個人的に地熱などが好きなのだと感じた」と振り返る。

とはいえ、GXは基本的にはこれまでの路線を踏襲する方針だ。事務局は、「地域経済の成長に資する再エネや省エネは、総理の経済対策の指示の中でもフォーカスされているが、LNGの確保や原子力などが不要ということではない」と説明する。

復旧・復興に全力で取り組んだ1年 来年も地域貢献・支援活動に尽力


【北陸電力】

未曾有の大災害、直後の停電復旧から現在まで地域に寄り添い「こころをひとつに」復興を支援。

ボランティア、バイオマス混焼、廃瓦の活用、応援メッセージなど幅広い活動に取り組んでいる。

今年1月に大規模地震、さらに9月の記録的豪雨と2度の大災害に見舞われた石川県能登地方。この1年間、北陸電力グループは地域の復旧・復興活動に尽力してきた。その取り組みを紹介する。

11月11日のボランティア活動に勤しむ


災害ボランティアに参加 移住支援メニューを検討

度重なる災害により甚大な被害のあった能登地域では、冬本番前の復旧が喫緊の課題となっており、とりわけ各自治体は不足する平日のボランティア支援を呼びかけている。

同社グループの社員からは、発災当初から「地域の一員として被災地の力になりたい」との声が多数あり、これまでに、地震により大きな被害を受けた志賀町などへ延べ520人、その後の豪雨被害が大きかった奥能登地域には延べ350人を災害ボランティアとして派遣。社員らが日々、泥かきなどのボランティア活動に取り組んできた。

11月11日には、国際環境経済研究所の竹内純子理事と、ネクストエナジー・アンド・リソースの伊藤敦社長と同社の社員ら総勢40人が、輪島市内で側溝にたまった泥出し作業に汗を流した。同日ボランティア活動に参加した北陸電力の松田光司社長は、「被災地の厳しい状況を広く伝えていくとともに、地域に寄り添いながら何ができるか考えていきたい」と力強く語った。

能登半島豪雨の復旧活動の様子

復旧活動のみならず、同社は能登の復興に向けてさまざまな取り組みを進めている。地域の継続的な復興、そして移住・定住人口の増加に貢献するため、被災地へ移住した人を応援する料金プランや、新たな企業進出を促すような法人向けメニューなどを検討している。さらには、被災地の未来を担う子供たちに、勇気と元気を届ける復興イベント開催なども予定している。

震災がれきのバイオマス混焼も、復興支援の取り組みの一つ。今回の地震に伴う災害廃棄物の量は県内で332万t、うち7割の223万tを、被害が甚大だった奥能登の珠洲市、輪島市、穴水町、能登町の4市町が占めるという。

膨大な災害廃棄物の処理は社会課題であり、北陸電力では家屋などの解体がれきから生じる木くずを木質チップに加工したものを、七尾大⽥⽕⼒発電所2号機のバイオマス燃料として混焼する計画を打ち出している。豪雨により発生した流木の処理も同様に大きな課題であり、震災がれきと併せて混焼計画を進めている。

廃瓦の復興工事への活用も試みている。地域の社会資本整備を支援する「北陸地域づくり協会」が、震災を契機に防災・減災・復興をテーマに「北陸地域の活性化」に関する研究助成事業を公募。北陸電力が石川工業高等専門学校と共同で応募した「能登半島地震の復興工事における廃瓦の地域コンクリートへの活用研究」が採択された。

能登半島豪雨で土砂に埋まった国道

県内では、古くから「能登瓦」が製造・利用されてきた。能登の水田の土を使い、黒色で厚みがあり、風や雪に強いこの能登瓦は、奥能登の美しい景観を形作る大切な要素だ。しかし今年元日の地震で、相当量の廃瓦が発生した。北陸電力がこれまで火力発電所から生じた石炭灰をコンクリートなどに再利用してきた知見を生かし、廃瓦をコンクリート骨材としてリサイクルし、復興工事に活用する計画であり、廃棄物処理の課題解決をしながら、地域の復興支援の一助となることが期待されている。

そして、電柱広告による復興メッセージの掲示も支援の一環だ。被災者に元気を届ける取り組みとして、同グループの復旧・復興スローガンである「こころをひとつに能登」の電柱広告を輪島市内に設置した。このスローガンは1月10日、松田社長、北陸電力送配電の棚田一也社長がグループの全社員に向けて発信したものだ。

元日の地震発生により、復旧作業や後方支援などの指揮に当たっていたため、年頭のあいさつすらままならなかった両社長にとって、今年最初のメッセージとなった。このスローガンには、地域、協力会社、復興を願う全ての人々と心を一つにして、グループ一丸で災害対応に当たるという思いが込められている。

同グループで電柱広告事業を担当する北配電業は、復興応援プロジェクト「石川応援キャンペーン」として能登半島地震の被災地復興を応援するメッセージ看板のオーナーを募集。広告料の一部(千円/本)を県に寄付する取り組みを行っている。


グループのDNAを再認識 来年も地域の発展に全力

北陸電力グループにとって、能登半島地震、奥能登豪雨という未曽有の災害が重なったことで、今年は電気の安定供給という使命、そして地域とともに歩んできたグループのDNAを再認識し、今後のあるべき姿をあらためて見つめ直した1年となった。「こころをひとつに能登」の復旧・復興スローガンに込めた思いを胸に、活気あふれる地域の再生、さらなる発展に貢献するため、来年も全力で前進していく。

逆風に立ち向かう石炭火力発電 燃料転換で活路も難題積もる


【論説室の窓】神子田 章博/NHK 解説主幹

日本は火力の脱炭素化に向け、アンモニア利用などに力を注ぐ。

火力廃止の圧力を跳ね返すためにも、一段の商用化努力が必要だ。

10月、英国で唯一稼働していた石炭火力発電所が運転を停止した。石炭火力が全て廃止となったのは、G7(主要7カ国)参加国の中では初めてだ。産業革命の地でさかのぼること1882年から経済発展を支えてきたエネルギー源の終焉は、化石燃料からの脱却という時代の波を強く印象付けた。

翻ってわが国では、石炭火力がエネルギーに占める割合が2022年で30・8%に上る。現在のエネルギー基本計画では、30年度時点でも19%程度となっており、廃止時期も決まっていない。それには事情がある。政府が力を入れる再生可能エネルギーは、太陽光発電、風力発電とも伸び悩んでいる。 

また普及が進んだとしても、再エネは発電量が天候に左右される。電力の需給をバランスさせるには、再エネの発電量の多寡に応じて、発電量を比較的柔軟に調整できる火力発電を一定の割合で稼働させておくことが欠かせない。 

火力発電の燃料を巡っては、より CO2排出量の少ない天然ガスの活用も進んでいるが、日本は化石燃料を輸入に依存しており、エネルギー安全保障の観点から、石炭も含めたさまざまな燃料をバランス良く使っていく必要があるという指摘もある。そうした中で求められているのは、石炭を燃料として活用しつつ、CO2の排出を抑えていくことである。

碧南火力発電所のアンモニア貯蔵タンク


碧南発電所で進む実験 コスト低減が高いハードル

その一つが、石炭にアンモニアを混ぜて燃やすこと。アンモニアは化学式で書くと「NH3」。窒素と水素でできている。

これを燃焼させると水と窒素酸化物ができる。窒素酸化物は有害物質なので排気から除去する必要があるが、あとは水と大気中にもともと存在する窒素が出るだけで、CO2は一切出ない。このため、通常の石炭火力発電所に比べて、アンモニアを混ぜて使う分だけ、発電段階でのCO2を抑えることができる。

このアンモニア混焼を実証段階まで進めているのが発電事業者のJERAだ。愛知県碧南市にある石炭火力発電所では、燃料の20%をアンモニアにして発電する実証実験を今年4月に始めた。28年にはアンモニアの割合を50%以上に高め、40年代には、100%アンモニアだけで発電する技術の導入を検討するとしている。

ただ発電に向けてはいくつかの課題がある。第一に、アンモニアを製造する段階でのCO2の排出をゼロにすることだ。アンモニアを作るには、まず水素を得る必要があるが、その作り方には二通りある。

一つは、天然ガスや石油などから作る方法。この場合、製造過程でCO2が発生するため、そのCO2を地中に埋めるなど新たな技術の確立が必要となる。その際、貯留したCO2が漏えいするのでは、という懸念にも応えなければならない。JERAの場合、20年代後半に、この方法で製造段階からCO2の排出を抑えたアンモニアを使った発電を行う計画だという。

もう一つの水素の製造方法は、水を電気で分解して作るというもので、この電気が太陽光など再エネで作られたものであれば、製造過程でのCO2の発生はゼロに抑えられることになる。しかし、この技術は、コストも含めた実用化のレベルにまでは至っておらず、今後の技術の進展が望まれる。

こうした技術面に加え、商業化の上でもいくつか課題が残る。その一つが、燃料のアンモニアの調達をどうするか。例えば、国内の石炭火力発電所全てで20%のアンモニアを混ぜて燃やすとなると、それに必要なアンモニアの量は2000万tに上る。これは現在の国内のアンモニア消費量のおよそ20倍にあたる膨大な量で、世界各地から安定的に確保できるように、サプライチェーン(供給網)を構築する必要がある。

一方、消費者から見て気になるのが、アンモニア混焼で作られた電気の料金がどうなるかだ。実はアンモニアを使った発電の場合、天然ガスを使った発電と比べてコストが1・5倍程度になる。

このためJERAは、アンモニアで発電した電気は、石炭で発電した部分とは分けて、「ゼロエミッションの電気」として売っていくという。CO2排出ゼロという特徴をいわばブランド化して、環境意識の高い消費者に、その分のコストを電気料金の一部として負担してもらうというのだ。

脱炭素にはそれなりのコストがかかるという意識がどれだけ消費者に浸透していくかがカギとなる。


CO2排出抑制で工夫 電力の需要増にも備える

石炭という燃料を使いながらCO2の排出量をできるだけ抑える取り組みは、Jパワーでも進んでいる。広島県大崎上島町にある最新鋭の火力発電所では、まず石炭と酸素をガス化炉で反応させ、一酸化炭素と水素を主成分とする「石炭ガス化ガス」を生成する。そのガス燃料を利用し、タービンへ供給して発電する。さらに、その過程で発生する熱で水を蒸気化し、その蒸気を使ったタービン発電も合わせて行うことで、複合的に発電を行う。これによって、同じエネルギーを得るのに、使う石炭の量をより少なく抑えることができるという。

加えて、石炭ガス化ガス中の一酸化炭素と水蒸気を反応させて、CO2と水素に変換し、このうちCO2のみを90%回収する技術が確立された。将来的に、このCO2を地中に埋める技術を活用し、さらに残る10%についてもバイオマスを活用すれば、将来大気中へのCO2の排出を100%抑えることも可能になるという。

国内の電力需要は生成AIの普及などに伴って、一段と増えることが見込まれている。全ての電気を、原発や再エネで確保できず、一定の割合を石炭火力に頼らなければならないとすれば、CO2の排出量を抑えながら効率的に活用するさまざまな取り組みが今後も求められる。