【コラム/10月17日】エネルギー転換実現のための課題

矢島正之/電力中央研究所名誉シニアアドバイザー

パリ協定の気候目標を達成するためには、今後四半世紀の間に化石燃料によるエネルギー供給を再生可能エネルギーなどへと大きく切り替えていくことが求められる。こうした転換を実現するには、どのような課題に取り組むべきかが問われている。本コラムでは、将来のエネルギー供給システムのあり方(集中的・分散的要素)を考察した、ドイツ国立科学アカデミー・レオポルディーナなどによる論文(2020)に基づき、この問題を考察してみたい。

同論文において、エネルギー転換実現のために対応すべき主要な事項として指摘されているのは、次の通りである。

・より分散化されたシナリオでも、ネットワークの拡張は避けられない。
・分散型システムの調整には、デジタル化が必須要件。
・規制を合理化し、CO2価格を誘導手段(guiding instrument)とすることが効率的なエネル
ギー転換達成の鍵。
・ネットワークの安定性に貢献する再生可能エネルギー発電の拡大・運用が求められる。
・エネルギー転換の実現のためには、住民の主体的な関与が重要。

以下、個別に詳しく考察したい。


より分散化されたシナリオでも、ネットワークの拡張は避けられない

エネルギー転換実現のためには、再生可能エネルギー電源を大幅に拡大する必要がある。分散型エネルギーシステムの支持者の中には、同電源の拡大により分散化が進展し送配電網の拡大が不要になると主張する者もいるが、様々な研究によると、エネルギー転換を成功させるためには、送電網と配電網の両方を大幅に拡大することが避けられない。送電網は、再生可能エネルギー電源の大量導入によって必要となるフレキシビリティを全国レベルで(また、ドイツでは輸入により)確保する観点から重要な役割を担う(2025年6月13日掲載のコラムを参照のこと)。

また、現在のエネルギー転換に関する議論では、送電網が中心となっており、配電網はあまり注目されていない。しかし、配電網は系統の大部分を占めており、過去10年間で配電網の運用者に求められる役割は大きく増加しており、今後もさらに拡大していくことが予想される。これは、再生可能エネルギー電源の大幅な拡大に伴い、配電網における需給調整の重要性が高まっていくことに加え、セクターカップリングにより、需要が大きく増大していくためである。配電網の新たな課題に対応するための技術的アプローチは、配電網の拡張のほか消費者が所有するフレキシビリティ(電気自動車やヒートポンプなど)の制御などである。


分散型システムの調整には、デジタル化が必須要件

再生可能エネルギー電源の大量導入により、需給調整の重要性は増す。従来は、発電設備から提供されていたフレキシビリティは、分散化が進展していく中で、蓄熱設備、蓄電設備、電気自動車、充電設備などによっても提供され、これら設備間の調整が課題となる。より集中化したシステムでも、より分散化したシステムでも、システムの構成要素の調整は、大きな技術的課題の一つだが、集中型のシステムよりも分散型のシステムの方が、より多様かつ多数の機器およびアクターの調整が求められ、より複雑な作業となるだろう。

そのため、一層のデジタル化や自動化が不可欠な条件となる。人工知能や自律・自己学習型の技術は、非常に複雑なシステムを技術的に制御する上で大きな可能性を秘めている。しかし、デジタル化されたエネルギーシステムにはリスクもある。設備がネットワーク化されればされるほど、サイバー犯罪者による潜在的な攻撃対象となる可能性は高くなる。とくに、設備がインターネットに接続されている場合はなおさらである。そのため、デジタル化されたエネルギーシステムは、外部からの攻撃に対しても耐性を持ち、被害の拡大を防ぐ構造となるよう設計される必要がある。

ペロブスカイト開発の現在地㊦ 国内産業の最適な育成へ 適材適所の海外技術活用を

【識者の視点】薛婧/イーソリューションズ執行役員副社長

国内産業創出や脱炭素化への期待がかかるペロブスカイト。

シリコン太陽光での失敗を乗り越え、軌道に乗せることができるか。

これまで2回にわたって、6月に中国で開催された「SNEC」で発表された中国のペロブスカイト技術開発の現状と、サプライチェーン構築の動向を解説した。本稿では、世界のペロブスカイト技術との組み合わせを念頭に、日本国内の関連産業の最適な育成の在り方と海外製品の活用方法について考察する。


都市部の脱炭素化 分散型電源活用の鍵に

海外情勢やインフレの影響で、水素や洋上風力などの脱炭素プロジェクトから日本企業が撤退する事例が相次いでいる。このままでは第7次エネルギー基本計画の再生可能エネルギー導入目標の達成が難しくなる。今後は地熱や水力など多様な再エネ活用が求められるが、都市部では電源立地や系統の空き容量が限られるため、分散型電源の活用が鍵となる。データセンター自体の分散立地や電力インフラと最適に組み合わせる「ワット・ビット連携」が注目を集めており、その文脈でも理論効率が高く、日射量が少ない地域でも発電可能なペロブスカイトの活用が期待される。

ペロブスカイト技術の適材適所な活用イメージ

例えば、耐重性が低く形状が不規則な軽量屋根などには、軽量で柔軟性が高い「樹脂フィルム型」ペロブスカイトを適用できる。ただし、これを活用するにはいくつかの課題がある。

まず、「寿命」や「発電効率」などの性能を評価する基準の整備が必要である。ペロブスカイトはシリコン太陽光と発電挙動が異なるため、シリコン太陽光の国際基準をそのまま適用することは難しい。7月に開催されたNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の成果報告会では、メーカー各社で「寿命」の測定項目や条件、判定基準がバラバラであった。そのため、国がリードして業界基準を作る必要があるだろう。

次に、「安全性」の確保も重要だ。ペロブスカイトは極めて電圧が高いため、それに対応する保安基準と対策が必要である。さらに、シリコン太陽光で求められる「不燃性」や「難燃性」を、樹脂フィルム型ペロブスカイトでどのようにクリアするかも課題となる。加えて、ごくわずかだが、ペロブスカイトには水溶性鉛が含まれており、モジュールが破損した際の鉛の流出リスクと対症も検証が必要だ。

このように、性能と安全性などを測る国際的な基準がまだない中で、日本が先んじてその基準を作ることで主導権を握り、日本のメーカーが優位に立つ可能性が期待できる。

一方で、コスト面の課題は無視できない。流通・設置を含めたペロブスカイトのトータルコストを1W当たり150円以下に抑えられれば、経済産業省の2030年に1kW時当たり14円の発電コスト目標達成は可能とされる。しかし、仮に「樹脂フィルム」の寿命が10年の場合、発電コストは倍近くなる可能性があり、国民や企業の負担増は不可避だ。さらに都市部では、屋根面積が限られているほか、北海道などの雪国では積雪すると屋根では発電できない。このため、高層ビルの窓や壁面の活用も検討すべきだ。国内の大手建材メーカーの試算では、ペロブスカイトを全国の既存ビルのカーテンウォールに設置すると、約5・2GW(1GW=100万kW)の発電ポテンシャルがあるとしている。これは国が掲げる40年度までのペロブスカイト導入目標の約4分の1に相当する。

マレーシア・サラワクにて 富める者の悩み

【オピニオン】廣瀬直己/日本動力協会会長

マレーシアのサラワクに来ている。ボルネオ島の北3分の1はマレーシア領で、その西側の大半がサラワク州である。Sustainable and Renewable Energy Forum(SAREF)と題した国際会議が開催中(9月3、4日)で、お招きいただき話をさせていただいている。

今回にわか勉強したところだが、サラワクという地は興味深い。まずエネルギー資源に恵まれ、発電設備の6割以上が水力で、大きなガス田もある。日本はマレーシアのペトロナスからLNGを輸入しているが、ガスはサラワク沖産でLNGにして日本に輸出されている。太陽光もバイオマスもポテンシャルは大きい。

電気事業体制も特別である。クアラルンプールのあるマレー半島側はわれわれにも馴染み深いTENAGA Nasionalが垂直統合で電力供給を担う。政府が約70%を保有する準国営企業である。サラワクの東側にあるサバ州にも垂直統合の電力会社があり、同社が8割を保有する。ところがサラワク州で垂直統合の電気事業を営むSARAWAK Energyは同州政府が100%出資しており、電気料金の認可権も連邦政府ではなく、州政府が持っている。

そもそもサラワクは、かつて多くの部族の群雄割拠であったところ、19世紀半ばに英国人冒険家James Brookeが白人王としてサラワク王国を建国し一世紀に渡り統治し、その後英国の植民地となり、1963年にマレーシア連邦に帰属した。民族構成も宗教の割合も半島側とは異なる。サラワク産ガスはほぼ輸出され、同州での消費は5~6%にとどまる。またガスや石油資源の権益は全てペトロナスに帰属し、同州はロイヤルティを5%受け取るに過ぎない。こうした背景も相まって、サラワクは半島側のマレーシアとは異なる独自色を打ち出しているように見える。

サラワクの最大の課題は、豊富な再生可能エネルギー資源に比して需要が小さいという何ともうらやましい課題である。当然電力輸出を目指すが、半島側への送電線(海底ケーブル)建設は容易ではない。距離は約700km、最大水深が数百mあるという。97年にASEAN(東南アジア諸国連合)パワーグリッド構想が掲げられ、域内の電力融通拡大を目指すが、サラワクからの送電線建設は南へ地続きのインドネシア向けが完成しているだけである。ご多分に漏れず水素にしての輸出なども検討されているがこれも容易ではない。

昨日(3日)の全体会議では、いっそのことデータセンターを誘致し、光ファイバーを半島に向けて建設し、データをシンガポールやクアラルンプールに送ったらどうかと提案してみたら、翌日地元メディアに大きく報じられた。本日は原子力のセッションに登壇し、福島事故後の状況を話す予定である。

ひろせ・なおみ 1976年一橋大学社会学部卒後、東京電力入社。イエール大学経営大学院MBA。2012年同社代表執行役社長就任。福島第一原子力発電所の廃炉や損害賠償、福島復興などを主導し21年同社退任。同年から現職。

どうなる洋上風力 鍵は「オフテイカーの確保」

【脱炭素時代の経済評論 Vol.19】関口博之 /経済ジャーナリスト

出ばなをくじかれるとはこのことだろう。三菱商事などの企業連合は、洋上風力発電を巡る国の公募制度の第1ラウンド(R1)で落札した秋田県沖と千葉県沖の3海域の事業から撤退すると表明した。2021年、入札で3海域を総取りしたものの、その後のインフレ、円安、資材高騰で採算が見込めなくなったとされる。三菱商事は欧州での洋上風力参加の経験から建設コストが低減する見通しを立てていたが、実際は逆になった。メーカーの寡占で風車の価格も高騰。想定を超えるコスト上昇が撤退要因なのは確かだが、挫折の理由はそれだけだろうか。

記者会見する三菱商事の中西勝也社長

入札時に三菱商事が示した供給価格は3海域で1kW時当たり11・99~16・49円。次点より5円以上安い「価格破壊」だった。当時はFIT(固定価格買い取り)制度を前提にしていたが、この価格で大丈夫なのかといぶかる声も少なくなかった。ただ入札では価格点の評価が5割を占め、この最高点をとった事業者を他の項目で逆転するのは事実上困難だった。R2、3でも価格点の重みが5割なのは変わっていない。価格抑制は国民負担を抑えるために重要だが、計画自体がとん挫してしまっては意味がなく、再設計が必要だ。

三菱商事は無理な安値を付けたという指摘も多いが、実は全てをFITで売るつもりではなく一部はオフテイカー(特定の大口需要家)に相対取引で買ってもらうPPA(電力購入契約)を想定していたという説もある。それならPPAで高く売ることで採算を取ることも可能。

ところが、その後のコスト上昇でオフテイカーが降りてしまったのではないかとの見立てだ。世界的に脱炭素の機運が退潮する中で需要側のウィリングネス・ツー・ペイ(支払意思額)も同時に低下しているのかもしれない。

PPAは洋上風力のR2、3で利用されている。この公募ではFITに代わり、FIP(市場連動価格買い取り)が採用され、発電事業者は市場価格に上乗せするプレミアムを入札する。一方、PPAを通じて自分でオフテイカーを自由に探してくる。実際はR2、3の7海域のうち6海域が「ゼロプレミアム」で落札された。つまり売買価格でオフテイカーと〝握れた〟ので国の支援は要らない、としたわけだ。ただし、これもすんなりいくかはまだ分からない。

当面の焦点は三菱商事が撤退した第1ラウンド3海域の再公募。国は地元の要望も受け、早期にとしているが難題も多い。入札評価の方式を見直すのかどうか、工事に必要な基地港湾の使用スケジュールで他の海域との調整はできるのか。最大の懸念はすでに進行中のR2、3のプロジェクトとオフテイカーを奪い合わないかだ。ましてや需要側がここまでなら出せるとする値付け額は低下気味だ。高い電力は国際競争力も削ぐ。 発電事業者から政策要望では、現在30年の海域使用期間の延長や計画決定後のインフレに対応する価格調整スキームなどが挙がるが、オフテイカーへの支援という声も強い。まずは「買い手を増やす策を」というわけだ。黎明期の日本の洋上風力は全てがまだ手探りだ。

金融畑から核融合の最前線へ 経験を武器に商用化に奔走

【エネルギービジネスのリーダー達】田口昂哉/ヘリカルフュージョン代表取締役CEO

安定的かつ連続運転に適したヘリカル方式の核融合発電で、2030年代の実用発電を目指す。

金融畑出身のノウハウを生かし、世界初の商用化に挑戦している。

たぐち・たかや 京都大学大学院文学研究科(倫理学)修了後、みずほ銀行に入行。その後、国際協力銀行、PwCアドバイザリー、第一生命、金融スタートアップCOOなどを経て、2021年10月にヘリカルフュージョンを共同創業。

「現在の技術力で実用化に至る唯一の道はヘリカル方式だ」

核融合スタートアップのヘリカルフュージョン創業者で、代表取締役CEO(最高経営責任者)の田口昂哉氏はこう意気込む。2021年10月に設立された同社は次世代エネルギーとして期待される核融合発電のヘリカル方式で30年代の実用発電を目標に掲げており、日本から世界初の商用化を狙っている。


研究者との出会い転機に ヘリカルの優位性に着目

ヘリカル方式の核融合発電は、らせん状の磁場でプラズマを閉じ込める仕組み。安定かつ連続運転に適しているのが強みだ。このほかトカマクやレーザーなど多様な方式があり、商用化に向けた動きが各国で加速している。これまで世界的に主流と目されてきたトカマク方式は磁場と電流を併用しプラズマを閉じ込める仕組みで、一部パラメータで好成績をあげてきたが、急激なプラズマ崩壊(ディスラプション)のリスクを抱えている。田口氏は「定常運転、正味発電、保守性という商用炉に不可欠な三要件を満たしつつ、経済性を確保できる」と、ヘリカル方式に目を付けた理由を明かす。

同氏は京都大学大学院文学研究科を卒業後、みずほ銀行や国際協力銀行、PwCアドバイザリー、金融系スタートアップにCOO(最高執行責任者)として参画するなど核融合とは接点のない領域でキャリアを積んでいた。では、なぜ核融合分野に足を踏み入れたのか。それは、研究者の宮澤順一氏と後藤拓也氏から起業相談を受けたことがきっかけだ。二人は核融合科学研究所などで長年ヘリカル方式を含む核融合炉の研究に取り組み、20年ごろにはヘリカル型核融合炉の基礎研究が完了したと判断。アカデミアを離れ、商用化に向け起業する道を探っていた。しかし、起業のノウハウを持ち合わせておらず、共通の知人を通じて田口氏に声がかかった。太陽と同じ原理でエネルギーを生み出す核融合の革新性に魅力を感じた田口氏は、「歴史の転換点に立ち会ったと実感した。当然、核融合の業務経験はなかったし、自分以上に適任はいるかとも考えたが、ここで誰も動かず頓挫するのは惜しい」と考え、共同創業を決断した。

創業当初から手掛ける技術はヘリカル方式と決まっていた。宮澤氏と後藤氏は長年の研究成果から商用炉に最も適していると判断していたが、その考えを田口氏に押し付けることはなく、科学的根拠に基づいて各方式の特性を説明したという。田口氏にとって核融合の知識を習得するには大きな労力を要したが、理解が深まるにつれ、自らもヘリカル方式の優位性を確信した。

創業後は、金融業界やスタートアップで培った経験が武器となった。資金調達のノウハウや培った人脈が、初期の立ち上げを後押しした。田口氏は「会社経営の土地勘があった分、最初の動き出しに役立った。ファイナンスからコンサルまで、これまでの経験がすべて生きた」と振り返る。こうした強みを背景に、創業から約4年でSBIインベストメントなどから融資を含め約23億円を新規調達。累計調達額は、文部科学省の補助金を含め52億円に達した。

7月には従来の基幹計画を更新し、核融合の実用発電を30年代に実現するための新計画「Helix Program」を策定した。商用発電炉「Helix KANATA」を30年代に稼働させることを目標に掲げ、着工までの間に統合実証装置「Helix HARUKA」で各種試験を進める方針だ。

同社はすでに核融合研で確立されたプラズマ物理と炉設計のノウハウを受け継いでおり、実用発電に向けた課題は残り二つ。一つは核融合で生じるエネルギーを熱として取り出す「ブランケット」の開発。もう一つは、従来の低温超伝導コイルより強力な磁場を発生できる「高温超伝導コイル」の開発だ。これにより、コンパクトで高性能な発電炉を実現する。いずれも大規模な投資となるため、投資家の存在や、パートナー企業との連携は不可欠だ。「従来の基幹計画は第三者には伝わりづらい内容だったが、戦略名を掲げ、開発状況を明確にすることで理解されやすい形にした」と、新計画には協業体制の拡大を狙う意図も込められていることを語る。


発電炉は全て自社設計 新たな産業創出狙う

同社の強みは次世代技術を扱うという先進性だけではない。発電炉の設計を全て自社で行っている点にもある。「部品や要素技術にとどまらず、最終的に発電炉そのものを日本でしか作れない状態にしなければならない」と田口氏は強調する。産業の果実を得るにはサプライチェーンの上流を抑えることが不可欠という考えからだ。新たな産業の創出で日本を活気づけたいという強い思いが挑戦を支えている。

三菱商事の撤退から何を学ぶか 洋上風力推進へ問われる政策哲学

【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

8月27日、三菱商事が秋田・千葉の3海域での洋上風力発電事業からの撤退を表明した。応札した他社と比べ破格の安値による落札で三菱商事の事業見通しが甘かったという批判や、再エネ海域利用法に基づく入札制度の不備などの意見が出されている。政府は、この間FIT制度に基づく固定価格からFIP制度によって価格上乗せを可能とするよう制度改正を検討していた。一方、三菱商事の中西社長は「投資を回収できない、制度が追いついていない」などと記者会見で語っているが、政策上の本質的な問題はそこではないと考える。

本年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画では、「再生可能エネルギーの主力電源化を徹底」するとして、中でも洋上風力発電は「我が国の再生可能エネルギーの主力電源化に向けた『切り札』」と位置付けられた。

私は、この記述を読んで、1997年に京都議定書が採択された後のエネルギー政策を思い起こした。同議定書での6%の温室効果ガスの削減目標の達成のためには、省エネの徹底や新エネの導入などだけでは間に合わず、約16~20基の原発を増設することが地球温暖化対策推進本部で決定された。当時エネ庁で電源特会と原子力立地を担当していた私は、その目標を達成するための政策立案に大わらわであった。自由化によるコスト低減も同時に要請されていた当時、3E(安定供給・効率性・環境)を同時に満たす電源として、机上の計算で帳尻を合わせるために原子力は便利な電源であり、この時の無理な原子力増設計画のひずみがその後の原子力政策の混乱と停滞を招いた一因でもあると反省している。


原子力の失敗と同じ轍 国の責任と役割は?

それと同じ轍を、洋上風力は踏もうとしているように思える。原子力政策の失敗は、国策で16~20基も増設すると決めながら相も変らぬ国策民営で、国の責任や役割はあいまいなまま、結局民間が全てのリスクを背負わなければならないことに致命的な問題があることが、福島第一原発の事故で明らかとなった。洋上風力の政策的な問題の根幹も、そこにある。私は、洋上風力には原子力のような国が取らなければ解決できないリスクはほとんどないと考える。いかに民間の資金で、事業者が自らリスクを取りながら、他の再エネ電源とも競争しながら利益を上げていくのか、その適切な事業環境を整えることこそが政策目的でなければならない。原子力とは異なり、洋上風力にはいくらでも代替の電源はある。

今必要なことは、洋上風力を進めるためにどこまで国が責任や役割を負うのか、というそもそもの政策哲学だ。

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: EF-20230501-068.jpg
ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

【フラッシュニュース】注目の「政策・ビジネス」情報(2025年10月号)

NEWS 01:台湾で「原発ゼロ」当面継続へ 世界的な活用の潮流に乗れず

台湾で当面、「原子力ゼロ」の状態が続く見通しとなった。8月23日に実施された第三原子力発電所(PWR、95万1000kW×2基)の再稼働の是非を問う全有権者投票が不成立となったためだ。

台湾の原発を巡っては、1978年以降、第一~三原発の原子炉各2基が順次稼働したが、2011年の東京電力福島第一原発事故を契機に脱原発の機運が高まった。40年の運転期間に達した原発を段階的に停止し、今年5月に唯一稼働していた第三原発2号機を停止。台湾で稼働する原発はなくなった。

投票率の低迷が不成立につながった

ただ、原子力利用継続を求める世論は根強く、5月に最大野党・国民党が主体となり40年超運転を可能にする法改正を実施。その後、第2野党の民衆党が第三原発の再稼働を問う今回の有権者投票を提案していた。

可決要件は「賛成票が反対票を上回る」とともに、「賛成票が有権者の4分の1を超える」こと。だが、賛成票が反対票を大幅に上回っていたにもかかわらず、後者の要件を満たすことができなった。要因は投票率の低さだ。この結果は法的拘束力を持ち、今後2年は同じ議題を扱うことができない。

頼清徳現政権は、小型モジュール炉(SMR)など次世代原発導入の議論は排除しない方針だ。ただ、具体的な議論は進んでおらず、原発活用に動く世界の潮流に乗り切れない状況にあることは間違いない。


NEWS 02:苫小牧沖で初の試掘許可 官民一体でCCS推進へ

官民が一体となり、2030年までのCCS(CO2回収・貯留)事業開始に向けた動きが加速している。経済産業省は2月に、出光興産、北海道電力、JAPEXの3社が参画する北海道苫小牧沖を「特定区域」に指定。9月17日には、JAPEXに対し試掘を許可したと発表した。特定区域の指定と試掘許可はいずれも国内初だ。

JAPEXはCO2の貯留ポテンシャルを正確に見極めるため、区域内の2カ所で井戸を掘削し、砂岩などから成る「貯留層」とその上部で封じこめの役割を担う「遮蔽層」から試料を採取し、成分分析を行う。掘削リグは海岸近くに設置し、深度1540ⅿまで掘り進める。期間は1本目の試験が11月から来年5月まで、2本目は来年6月から27年1月までを予定。得られたデータを基に、26年度内に最終投資判断を下す見通しだ。

苫小牧沖では、出光興産の北海道製油所(苫小牧市)と北海道電力の苫東厚真発電所(厚真町)から排出されるCO2をそれぞれ回収し、パイプラインを通じて地下深部に圧入する計画が進む。JAPEXはパイプラインの建設のほか、貯留作業やモニタリングに必要な設備設計を担う。

懸念材料であった地元合意も整っている。CCSは環境団体の批判や地震時の風評被害など、社会受容性の低さが課題だったが、道側が提出した意見書にも「反対」の声はなかった。

経産省は、千葉県九十九里沖の一部地域を2カ所目の特定区域に指定した。こちらは東京湾沿岸の工業地帯から排出されるCO2を貯留する構想で、「首都圏CCS」として検討が進んでいる。

苫小牧と九十九里の両案件は、国内CCS事業の成否を占う試金石となるか。


NEWS 03:オランダで大規模な系統制約 EU諸国は教訓を生かせるか

オランダで深刻な系統制約が生じている。家庭や産業分野の急速な電化の進展に対し、送電網の整備が追いついていないためだ。同国の送電網事業者協会ネットベヘール・ネーデルラントによると、7月時点で1万1900を超える企業に加え、病院や消防署といった公共施設までもが新たな電化設備の系統への接続が待機状態にある。半導体大手ASMLなどが拠点を置き、先端技術産業の集積地として知られる南部アイントホーフェンのブレインポート地域でも、系統への投資が進まず今後の産業活動に影響を及ぼしかねない。

同国は2023年、欧州最大規模の北部フローニンゲン・ガス田の生産停止を決定し、電化を推進してきた。ロシアによるウクライナ侵攻を契機としたエネルギー価格の高騰が背景にあり、電化を促すことでガス依存からの脱却を図ることが狙いだ。

しかし、急速な電化に対し、送電インフラの整備は明らかに遅れている。発電側においても送電線に空きがなく、系統接続ができない事態が発生しており、風力や太陽光といった再生可能エネルギーの導入拡大の妨げとなっている。国営送電会社テネットは7月13日付の英フィナンシャル・タイムズ紙で、オランダがガス資源に長年依存してきたことが送電網の近代化を遅らせたと説明した。

このような事象は、十分なインフラを整えずに電化や電源の脱炭素化を急速に進めるリスクを浮き彫りにした。脱炭素化を野心的に進めるEU(欧州連合)諸国は、これを他山の石とするべきだ。

オランダ政府は下院総選挙を10月29日に実施する方針で、電力の系統問題は争点の一つになると見られている。エネルギー政策の転換点となるのか―。有権者の判断が注目される。


NEWS 04:上関中間貯蔵は建設可能 関電は「35年末」の新目標

中国電力は8月29日、山口県上関町で関西電力とともに建設を検討している使用済み燃料の中間貯蔵施設について、技術的に建設可能との調査結果を西哲夫町長に報告した。調査は2023年8月に開始していた。

瀬戸内海に面する上関町

同日、関電は懸案となっている使用済み燃料の県外搬出を巡り、今年2月に見直した搬出計画の実行状況などを福井県に報告。各サイトの敷地内に乾式貯蔵施設の建設を決め、28~30年頃に搬入開始を予定する。今回、新たに乾式施設から中間貯蔵施設への搬入期限を「35年末」に定めた。青森県むつ市の中間貯蔵施設の場合、現地調査の開始から貯蔵建屋(1棟目)の完成まで8年近くを要した。上関も同等に見積もれば31年頃の完成が見込まれ、35年末は余裕を持った目標と言える。

ただ、六ヶ所再処理工場や東通、大間原発が立地する青森県と異なり、山口県には原発関連施設がない。今年3月に近隣町議会が建設反対を決議するなど、今後は県や周辺自治体の理解が鍵を握る。

中間貯蔵施設は、再処理工場への搬出までの「つなぎ」の役割に過ぎない。周辺自治体が気を揉むのは、施設が最終処分地になる不安があるからだ。こうした懸念を払しょくするには、やはり再処理工場のしゅん工しかない。日本原燃が目指す26年度中のしゅん工まで、残された時間は1年半だ。

岐路に立つ石油業界 戦後80年に問う存在意義

【論説室の窓】神子田 章博/〈NHK〉記者

終戦直後の混乱期には石油会社の存続を懸けて奮闘した経営者がいた。

需要減と脱炭素への対応が迫られる現代、業界はどんな価値を社会に示すのか。

今年は戦後80年ということもあり、8月から9月にかけて太平洋戦争に関係する映画を何本か見た。先の大戦では、石油資源の確保が、日本が戦争に突き進む理由となり、戦況の悪化で石油が確保できなくなったことが戦争の継続を困難にさせた。石油という燃料がなければ、戦艦を動かすこともできないのである。資源の乏しい日本にとって、石油が重要な戦略資源であることを改めて意識させられた。

その石油といえば、実在の人物をモデルに、異色の経営者が戦後の混乱期を生き抜く様子を描いた『海賊とよばれた男』(百田尚樹氏原作)という映画では、次の逸話に石油業界の今昔について考えさせられた。終戦直後、海外からの石油の輸入が途絶え、国内にわずかに残る民需用の石油の配給を国策会社に要請するも断られてしまう。主人公は、会社の存続のためには何でもする覚悟を固め、畑違いのラジオの修理事業を請け負う決断をするくだりだ。

石油販売会社が、売り物の石油を調達できなくなって大変困ったという話だが、今日でも、中東で大規模な戦争が起きた場合にホルムズ海峡を通過するタンカーによる供給が途絶える懸念は残る。ただ、先のアメリカによるイランへのミサイル攻撃の際もそうだったが、産油国自らが、自国の収入源である石油の輸出を停止する可能性は低いという指摘もある。万が一、そうなった場合でも、国家・民間備蓄を合わせると200日分を超える石油備蓄がある。一方で、今日懸念されるのは、将来に向けて販売先をどう確保していくか、ということかもしれない。

ガソリンスタンドの数は激減している


次世代燃料は課題山積 過渡期をどう乗り越えるか

石油からつくられる輸送用の燃料の販売量は、減少傾向が続いている。ガソリンがピーク時の2004年度に比べて71%に減少。背景には自動車メーカーによる燃費向上の取り組み、そしてガソリンエンジンだけでなく電気モーターを動力源とするハイブリッド車の普及がある。さらに最近ではEVも販売を増やしている。脱炭素が叫ばれ、化石燃料の利用をできるだけ抑えようという時代の流れに加え、そもそも少子化で人口減少が進む中で、ガソリンをはじめとする石油製品の需要減少は避けられないのかもしれない。こうした需要の減少は今に始まったことではなく、全国のガソリンスタンドの数はこの20年の間に、半分以下に減少している。一方でセルフスタンドの比率は4割程度にまで増え、コストダウンの取り組みも進んでいるようだが、収益源としての伸びは期待できない状況だ。

こうした中、脱炭素への対応という文脈で考えると、消費者の理解がより得られやすい商品、具体的には二酸化炭素の排出を抑えた環境に優しい燃料の開発が求められ、実際にその取り組みが進んでいる。航空機については、天ぷらなどを揚げた廃食油を原料とした持続可能な航空燃料(SAF)が、実際に燃料の一部として利用が始まっているが、自動車を巡っても、水素と窒素を合成してつくるアンモニアを燃料とした試作車がつくられているほか、水素と炭素を合成して作る合成燃料の開発が進んでいる。大阪・関西万博では会場と大阪駅を結ぶシャトルバスにこの合成燃料が使用されるなど、実用化の段階にいたっている。

【コラム/10月10日】英国保守党も脱・脱炭素へ 日本はいつまで続けるのか

杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

英国保守党が、明確に脱・脱炭素を党の方針として打ち出した。10月2日付けで発表された「気候変動法の廃止」という文書だ。(まだ公式の保守党HPには掲載されていない。筆者はこのサブスタックから入手した)。

イギリスの「気候変動法」は、2050年CO2ゼロ(同国ではネットゼロという)に向けて、直線的に5年ごとの国全体の排出枠を決めて割り当てるなど、ネットゼロの根幹を成してきた法律だ。それを廃止するということは、ネットゼロを放棄することである。

サマリーを邦訳しよう:(全文の機械翻訳はこちら

気候変動法の廃止

要約:2025年10月2日、保守党は気候変動法の廃止計画を発表した。

気候変動法は機能していない。この法律は閣僚に、国民を貧困化させ、家庭や企業のエネルギー料金を上昇させ、英国の産業を衰退させる政策を採用させている。

だからこそ、われわれの努力にもかかわらず、世界の排出量は増加している。機能しないものは機能しないと認めるべきだ。だからこそわれわれは気候変動法を廃止し、安価なエネルギーを最優先とするエネルギー戦略に置き換える。

これは気候変動対策の放棄を意味しない。安価なエネルギーに焦点を当てた戦略で同法を置き換え、家計に合えば排出削減可能な電気製品を採用できるようにし、自然を保護し、世界的な排出削減につながる製品を革新する。これが地球規模の気候変動に与えるわれわれの最大の影響だからだ。

労働党は実現計画もなく目標を掲げ、国民を貧困に陥れる。改革党は見せかけだけの政策しか提案しない。明確な計画を策定する困難な作業に取り組んでいるのは保守党だけだ。

英国は現在、労働党政権だが、支持率はわずか19%しかない。支持率1位はブレクジット運動の後継にあたる新興政党「改革UK」で何と31%もある。この改革UKはScrap Net Zero、つまり脱炭素を潰せ、と明言してきた。なお支持率の数字はpoliticoによるもので、9月18日現在のもの。

今回は、これに加えて、議席数では今なお最大野党であり、伝統的な二大政党の一つだった保守党が、はっきりとネットゼロ廃止に舵を切ったことになる。なお保守党の支持率は凋落して今は17%とどん底に落ちている。

もうこの段階で、ネットゼロは、もはや国民の多数の支持を受けているとは言い難くなったことが判明した。
英国は、もはやネットゼロを放棄するか否かではなく、いつするのか、という問題だ。

【覆面ホンネ座談会】始動したシステム改革検証 地方ガスの持続性が焦点か

テーマ:ガスシステム改革検証

資源エネルギー庁は8月27日、ガスシステム改革を検証するガス事業環境整備ワーキンググループ(WG)の初会合を開いた。
2022年の導管部門の法的分離から3年、検証のポイントは何か。

〈出席者〉A 大手都市ガス関係者   B 地方都市ガス関係者   C 学識者

―事業環境整備WGが始まったが、特に注目している点は。

A 事務局であるエネ庁が提示した資料は、前半がガスシステム改革の歩みやファクト整理、後半が将来の人口推移やカーボンニュートラル(CN)化の進展、さらに地方事業者の取り組みなどを中心に構成されていた。このことから、事務局の関心は、法的分離や競争環境整備といったテーマにとどまらず、地方を含めた今後の都市ガス事業全体の在り方と持続的発展をどう図るかにあるのではないか。とはいえ、初会合の様子を見る限り、議論のゴールはまだ明確には定まっておらず、まずは論点を幅広く出していく段階だろう。

検証作業が始まったが、議論のゴールは見えていない

B 今回のWGは、17年の小売り全面自由化から大きく事業環境が変わったことを受け、単なる検証ではなく「総仕上げ」の位置付けで開催されるものと考えている。自由化以降、ロシアによるウクライナ侵攻や米国でのトランプ第二次政権誕生など、国際情勢は激変した。加えて、政府がGX(グリーントランスフォーメーション)戦略を打ち出し、eメタンや水素といった脱炭素化技術が登場した。エネ庁としては、こうした複合的変化を踏まえた上で、ガス事業の将来像を一度整理しておきたいということだろう。

事業環境の変化には、地方のガス会社が人口減少という厳しい課題に直面していることが含まれ、将来生き残りが困難なケースが出てきてもおかしくない。事業継続には経営の多角化が不可欠であり、事務局資料にもガス会社による地域密着の取り組みが多数紹介されていた。自由化前から地方はオール電化やプロパンガスとの激しい顧客争奪戦を繰り広げていた。大手、準大手とは違い、第3、4グループに属す地方ガス会社のエリアの小売り事業に新規参入を促しながらインフラ整備を促す目論見は現実的ではなく、むしろ、何も手を打たなければ潰れてしまう地方ガス会社をどう残すかが、今後の議論の焦点になるのではないか。

C 人口減少の波が押し寄せ事業継続が困難になることを簡単に「仕方がない」で済ませてはならない。最近では、AIを活用した営業手法も出てきている。人口減少や業務の担い手不足への対応としてAIは非常に有用であり、その戦略を明確にWGの論点に組み込むべきだ。地方特有の競争環境を踏まえた上で、地元経済の活性化といった要素も視野に入れながらエネルギー企業がどう振る舞うべきか考える必要がある。

A 地方における競争という点では、やはり自由化前からオール電化やプロパンガスなどとの激しい競争が行われていると理解している。新規事業者がそのエリアで採算を確保することが難しいと判断すれば、ガス小売りには参入せずオール電化を選択することが合理的だし、新規参入実績だけでは競争環境を適切に評価できない。また、電力とガスは同じ枠組みで語られることが多いが、ガス会社の大半は事業規模や企業体力において新規参入者である電力会社に遠く及ばない。そういった構造の違いにも十分留意して、WGの議論を進めていただきたい。


業界の集約化は進まず 競争は首都圏限定で地方は無風状態

―22年の導管部門の法的分離でガスシステム改革が完了したわけだが、安定供給確保、競争環境の整備や料金抑制、導管事業の在り方、CNへの対応などから、ガスシステム改革をどう評価するか。

B ガスシステム改革は大きな問題もなく、おおむねうまくいったと評価している。本来、自由化されれば業界の集約化が進んでもおかしくないが、そこまでには至らなかった。現状は都心部を中心としたガス小売市場で新規参入と競争が進み、地方の市場構造は自由化前から大きく変化していない。人口減少に伴い家庭の調定数が減少し、結果として業務用・大口需要向けの比率が高まっていることだけが変化した点だ。結局のところ、大手、準大手のエリアだけ自由化すれば十分だったのではないかとすら思う。

A ガスシステム改革は、安定供給と保安を確保しながら競争原理を導入して需要家の利益を増進することを目的としており、競争促進による事業者間の「弱肉強食」までは意図していなかったと思う。もともとガスは他燃料と競争していたこともあり、規制なき独占が起きる懸念も小さかった。その中で、ガス小売りの競争を促進しつつ、安定供給や保安を損なうことなくこの8年間を乗り切れたことは評価していいと思う。

中立性の観点では、導管部門と小売部門の情報共有などの問題は、ガスの分野では発生していないし、近年のLNG需給がひっ迫した際にも供給制限には至らず、これまでに安定供給面でも支障はなかった。ただし、ガスは料金に占める原料費の比率が高く、LNGの価格高騰による影響を受けたことから、料金の抑制の点では、消費者が十分に実感し難い8年間だったかもしれない。

C 一つ気がかりなのは、スタートアップ卸など競争促進策の効果だ。競争環境整備で重要なのは供給量の確保と卸ルートの充実であり、初会合でも松村敏弘委員(東京大学教授)が同様の指摘をしていた。どうしても、この部分の評価が問われることになるだろう。加えて、都市ガス導管の延長もまだまだ議論される余地があるのではないかと見ている。これまでも、ニーズの把握などからの議論が行われても、なかなか思うように延伸が実現しないということはあった。延伸の目標をどの水準に設定するべきか、議論の焦点となるのではないか。

A ガス事業は気体を輸送しているため、圧力をかけて送る必要があり、届く範囲が限定される上、ガス導管を地中に埋めることから敷設できる地域にも制約がある。供給網を形成することはもちろん重要だが、投資コストが大きく、定期的なメンテナンスを要すため、需要と供給をセットで構築するなどの経済合理性を考慮する必要がある。

【イニシャルニュース 】新潟県知事選の構図は? 気になるY氏の動向

新潟県知事選の構図は? 気になるY氏の動向

立憲民主党のY衆院議員の動きが関心を集めている。

Y氏は柏崎刈羽原発の再稼働を巡り、新潟県の花角英世知事が県民の信を問う「出直し知事選」を選択した場合、野党候補として立候補するのではとうわさされていた。ただ「出直し」の可能性は低くなり、知事選は任期満了に伴い来年6月実施が濃厚だ。再稼働の是非が主要争点ではない限り、Y氏は出馬しないと考える関係者は多いが、自民党関係者が異を唱える。

「彼は首相や県知事など組織のトップをやらないと気が済まない人。だから知事選に出るのではないか。負けたら、2年後の参院選で国政に戻ればいい」。花角氏はもう1期で退任というのが大方の見方だ。その上で「参院議員で食いつないだら、また次の知事選に出ればいい。新人同士の対決になれば、経験のあるY氏が有利になる」。いずれにせよ、新潟はY氏と付き合い続けなければならない。


宮城知事選で現職批判 太陽光開発計画など巡り

10月26日に行われる宮城県知事選挙が、注目を集めている。5期20年知事を務め、今回も出馬を表明した村井嘉浩知事への評価が焦点だ。知事は自民党県議出身で、経済活性化の政策を打ち出した。ところがその政策を巡って保守派からの批判が聞こえている。

知事は建設規制を強化するが……

一つの例が、温泉地として知られる仙台市秋保地区でのメガソーラー建設計画だ。実は宮城県は2022年に太陽光条例を施行しメガソーラーの建設規制を強化しているのだが、知事に批判的な保守系新興政党のSやNの支持者が7月の参院選前後から、この計画を巡り「知事の対応が鈍い」などと批判を強め始めた。こうした状況を受け、村井知事は9月初旬の定例会見などでこの計画に対し「大反対」を表明したが、事業の中止には至っていない。

またS党のN代表をはじめとする保守派は、知事による、イスラム教徒の土葬墓地の県内建設容認と外国人労働者の受け入れ姿勢のほか、水道など公共事業の一部売却と外国資本の活用を問題視している。9月中旬現在、自民党から出馬し前回参院選で落選、知事選に出馬表明したW氏への新興政党のあいのり推薦の可能性がささやかれている。

立憲民主党は同党の県議が辞職して出馬し、共産党も支援の意向だ。村井知事は自民党が支持してきたが、地元の保守系政治家は「分裂選挙で左派が当選するかもしれない。仙台市長も左派で厳しい状況になる」と頭を抱える。 宮城県知事選では、右も左も関係なく、誰が当選したとしても、面倒な問題と対峙することになる。メガソーラーはその象徴だ。


動き出したリプレース UPZへの対応欠かせず

関西電力が7月下旬、美浜発電所で廃炉となる1号機の建て替えに向けた調査の再開を発表した。革新軽水炉を視野に入れた具体的な動きが始まったことで、関係者の期待は大きい。

続けて8月下旬には、福井県と立地町の地域振興のための新たな仕組みを発表した。関電が年50億円を基準に信託銀行に毎年度資金を拠出し、そこから県・町が寄付を受けるという「あまり聞いたことがない仕組み」(電力関係者)。使用済み燃料の県外搬出先が決まっていないといった課題は残りつつも、立地地域の関係者からは前向きな反応も示されている。

併せて重要なのが、発電所から30㎞圏内のUPZにかかる自治体への対応だ。一部がUPZ圏内となるS県M知事は、美浜の調査再開のリーク記事が出た際、「事前に聞いていない」として立腹。県内首長からは、安全対策の徹底と市民への説明責任を果たしてほしいといった要望が出た。後日M知事は「現実的な選択肢かよく見ていかなければならない」とくぎを刺すコメントも出した。

柏崎刈羽や東海第二などの再稼働を巡っても、むしろ周辺自治体で理解醸成に苦労する傾向がある。直接的な資金支援がないという事情はありつつも、これまで電力供給の恩恵を受けてきた消費地ができる協力の形もあるはずだ。

KK再稼働議論が最終局面 〝新潟スペシャル〟の行方は

柏崎刈羽原発の再稼働を巡る動きが大詰めを迎えている。今夏以降、新潟県の花角英世知事が県民の意思を見極める「最終ステップ」として、8月末までに公聴会と首長との意見交換を実施。県民意識調査は9月末までに終えた。

同県の再稼働同意プロセスは、知事が再稼働を容認し、その判断について県議会が追認する形が想定されていた。しかし、ここにきて順序が逆になる可能性が出てきた。

原子力閣僚会議は前年に続き柏崎刈羽再稼働を議論した(8月29日)

つまり、まず県議会が再稼働を求める決議を可決し、それを受けて知事が容認するパターンだ。県議会が「お膳立て」することで、知事の負担は減る。既に再稼働している原発では、この形式を取ることが多かった。

ただ、新潟県は事情が異なる。県議会で過半数を握る自民党は、県議によって再稼働に対する姿勢の温度差が大きい。「東京はそういう筋書きを描いているのだろうが、党内をまとめるハードルは相当高い」(自民党関係者)。また花角氏は初当選時の知事選から、最初に自身が再稼働の認否を示した上で、県民の意思を確認するとしてきた。県議会の決議を先行させることは、従来方針の転換を意味する。

政府は8月末、立地地域の財政支援の対象範囲を従来の10㎞から30㎞に拡大し、官房副長官をチーム長とする監視強化チームを設置した。東京電力も地域経済の活性化に向けて、資金的な貢献を行う方針を打ち出した。〝新潟スペシャル〟とも言われる支援策が打ち出される中で、本格的な冬の需要期を前に再稼働する未来はやってくるのだろうか……。

エネルギー分野でも活躍中 新たな専門人材が開く未来

【気象データ活用術 Vol.7】加藤芳樹・史葉/WeatherDataScience合同会社共同代表

気象データのビジネス活用というテーマは、実は古くて新しい。飛行機の運航計画作成、船舶の航路選定、高速道路の管理など、交通分野では古くから気象情報を活用して業務を行っている。より身近なところでは「気温が何度以下でおでんが売れ始め、何度以上でアイスの売り上げが上がる」という経験則も以前から知られており、コンビニなどの事業で活用されている。これらは古い、というより古くから現代まで続く気象データのビジネス活用の代表例だ。

一方で近年はコンピューター技術が発達したことで、企業が大量のデータを蓄積して高度に解析し、ビジネスに有効活用できるようになった。このような流れの中で気象データとビジネスデータを掛け合わせた分析も行われるようになり、今では(気象予報士ではなく)データサイエンティストが気象庁ウェブサイトからアメダス観測データをダウンロードする、ということも増えてきた。

気象データアナリストの仕事のイメージ

では気象データをビジネス活用する流れが十分に広がってきたかというと、そうとは言えないのが現状だ。気象庁が国内企業向けに行った2019年の調査では、自社の事業が気象の影響を受けると考えている企業は6割を超えていた。しかし実際に気象データを分析してビジネス活用している企業は1割にとどまった。気象の影響を受けると認識していながら気象データを活用した対策をしていない企業にその理由を尋ねたところ、多くの企業から「気象データの使い方が分からない」「気象データを扱える人材がいない」との回答を得た。つまり専門人材不足が原因ということだ。

そこで、気象データに関する深い専門知識を持ち、データ分析を通して企業におけるビジネス創出や課題解決ができる人材として、21年に新しく登場した職業が気象データアナリストだ。これが気象データのビジネス活用の新しい側面だ。気象データアナリストは気象データ×ビジネスデータの分析を行い、商品需要予測や混雑予測、物流の最適化などを通じて、気象の影響を受ける事業の利益アップ・コストダウンを実現する役割が期待される。エネルギー業界でも電力需要や再エネ発電量の予測技術開発などで活躍できる。

気象データアナリストは気象庁の認定制度に基づくものだが、気象予報士のような国家資格ではない。厳密には気象データアナリスト育成講座の認定制度であり、気象庁は一定の要件を満たす講座を気象データアナリスト育成講座として認定し、その講座を修了した者が気象データアナリストと名乗って仕事ができる―という仕組みだ。現在四つの法人が認定講座を開講しており、これまでに約150人が修了している。 気象データアナリストは先述のアメダス観測データにとどまらず、数値予報データや気象衛星データなど、より専門性の高いデータも活用してビジネスを推進することが期待される。筆者も含めてエネルギー分野で活躍する気象データアナリストも誕生しており、ぜひ一緒にエネルギー分野のビジネスを盛り上げていけたら幸いだ。

かとう・よしき/ふみよ 気象データアナリスト。ウェザーニューズで気象予報業務や予測技術開発に従事。エナリスでの太陽光発電予測開発などの経験を生かし、2018年から「Weather Data Science」として活動。

・【気象データ活用術 Vol.1】気象予測を応用 電力消費や購買行動を先読み

【気象データ活用術 Vol.2】時をかける再エネ予測開発⁉ 三つの時間軸を俯瞰する

【気象データ活用術 Vol.3】エネルギー産業を支える 気象庁の数値予報モデル

【気象データ活用術 Vol.4】天気予報の信頼度のもと アンサンブル予報とは

【気象データ活用術 Vol.5】外れることもある気象予報 恩恵を最大限に引き出す方法

・【気象データ活用術 Vol.6】気象×ビジネスフレームワーク 空間・時間スケールの一致とは

新研究開発拠点が9月稼働 「CNリサーチハブ」の新たな目玉に

【大阪ガス】

大阪ガスは、大阪市酉島地区の「カーボンニュートラルリサーチハブ」に新たな研究開発拠点を設立した。カーボンニュートラル(CN)に向けた研究開発を集約し、情報発信や、オープンイノベーションなど社外との共創を強化し、同社独自技術の社会実装の加速を狙う。

新拠点は約2・7万㎡の敷地に建設した新研究棟「Daigas Innovation Center」と屋外フィールドからなる。新研究棟は、9月末に先端技術研究所の機能を移転し稼働を始める。600㎡超の大空間ラボや高耐薬性ラボなどを有する。これに先駆け、6月には、屋外フィールドにSOEC(固体酸化物形電解セル)方式でe―メタンを製造するSOECメタネーションのベンチスケール試験施設が竣工した。

テープカットを行う藤原社長(中央)ら

研究面では、従前から取り組む①メタネーションなどのCN技術、②ガスインフラ保全や天然ガス高度利用など既存事業の高度化に資する技術、③シミュレーションやバイオ、新素材など独自技術を事業創造につなげる技術―の開発をさらに進展させる。

特にSOECメタネーションについては、ラボスケール(一般家庭2戸相当)からベンチスケール(同約200戸相当)へと拡大。2025~27年度はベンチスケール、28~30年度はパイロットスケールでの検証を予定する。SOECはサバティエ反応を大幅に上回るエネルギー変換効率が期待でき、同社は30年代後半~40年ごろの実用化を目指している。


空間設計にこだわり ZEBレディを取得

研究以外の施設の空間設計にもこだわりが。ワークエリアではオープンな議論、あるいは1~2人でアイデアを深めることに適した特徴的なスペースを配置。そして共創エリアには、多目的ホールや、社外との多様な交流に適したスペースを設けた。

環境性能も重視し、太陽光パネルやガスコージェネレーション、ジェネリンク、全熱交換器、クールチューブ、外皮断熱など多様な創・省エネ対策を導入。基準一次エネルギー消費量から50%以上の省エネを達成し、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)レディを取得した。

9月2日の新研究棟竣工式で藤原正隆社長は、研究開発の歴史を振り返りつつ、「創業から120年を迎えるこの年に当社研究開発の聖地・酉島でDaigas Innovation Centerが新たにスタートすることは感慨深い。今後ともDaigasグループをけん引する研究開発拠点として、CNをはじめ中長期の研究開発に取り組み、未来の社会課題の解決に貢献できるよう進めてまいりたい」と強調した。

暫定税率廃止は排出量に影響? 環境省が試算公表し警鐘鳴らす

ガソリン暫定税率の年末廃止に向けて与野党協議が進む中、「待った」をかけるのが環境省だ。先月28日に行われた2026年度概算要求に関する会見で同省は、「暫定税率が廃止されればCO2排出量が増加し、政府の削減目標の達成に支障を来す」と指摘し、来年度の税制改正で新税などの代替案を検討する必要性を訴えた。

国立環境研究所の試算によると、仮に26年に暫定税率が廃止された場合、CO2排出量は30年に610万t増加すると見込まれる。これは同年の全体排出量の約1%に相当する規模で、会見では「かなりインパクトのある数字」と強調された。

暫定税率の廃止がCO2排出量に与える影響はいかに

一方、運輸部門の排出量は23年度時点で13年度比15・2%減にとどまり、政府目標である30年度に35%減の達成は現状でも不透明な状況にある。廃止によりガソリン価格が低下すれば、運輸部門だけでなく他部門の排出量も増加しかねず、これらを相殺する「代替措置」が講じられなければ、目標の達成は一段と厳しくなる――というのが同省の主張だ。

ただ、これには懐疑的な見方も。石油関係者は、「生活必需品であるガソリンは価格弾力性が低く、暫定税率の廃止が長期的な需要増につながるとは考えにくい。需要動向は人口の推移といった構造変化に左右されるもので、税制などの価格政策による影響は限定的だ。試算が示すほど排出量は増加しないのでは」と指摘する。  

要は、話題のカーボンプライシングも効果薄ということか。

廃止を巡っては、恒久財源の確保など論点が多いだけに、 一層丁寧な議論が求められる。