再エネとEVの掛け合わせ 移動限界費用ゼロ社会を創造


【エネルギービジネスのリーダー達】渡部健/REXEV社長

東日本大震災以降の電力不足からエネマネ事業が必要になると見抜くなど、鋭い先見性を持つ。

現在は、再エネとEVを利用し、全国のエネルギーと交通、二つの課題を一挙に解消することを目指す。

わたなべ・けん 2000年早大大学院理工学研究科修了、住友商事入社。海外電力事業を経て、子会社サミットエナジーで発電所の開発業務、電力需給管理業務や小売り営業など幅広く担当。09年エナリスへ入社、常務取締役として、経営企画や新規事業開発などを手掛ける。19年1月REXEVを設立。

太陽光や風力など再生可能エネルギーの最適な運用には蓄電池が必要であり、電気自動車(EV)には再エネの電気が求められている。この二つを掛け合わせたら、スマートシティー実現や分散型エネルギー構築における一つの解になるのでは―。そんなアイデアから設立したのがREXEVだ。

低い自動車の稼働率 動く蓄電池として利用

蓄電池のコスト削減がなかなか進まない中、定置型蓄電池を利用したVPP(仮想発電所)では費用対効果のめどが立たない。そこで、EVの蓄電池に目を付けた。「一般消費者が利用する自動車の稼働率は平均で5〜10%、カーシェアでも20〜30%程度。残りの稼働していない時間帯は搭載する蓄電池を束ねて、VPPの調整用電源に利用すれば良い」と考えた。

さらに今後、再エネが普及すれば、発電コストは限りなくゼロに近づく。その電力を用いてEVでの移動に利用すれば、この限界費用もゼロに近づく。これがREXEVの事業コンセプトだ。

渡部社長がエネルギーに関心を持ったのは大学時代。電力システム工学の研究室に所属し授業を受けて関心を持った。研究室では、電力自由化をテーマに託送制度や安定供給について研究。さらに、大学院でも電力自由化に加え、風力発電の安定化などをテーマに研究に取り組んだ。

就職先は多くの友人や先輩、後輩が大手電力を志望する中、「安定供給を守る側より自由化の下、新たなビジネスを創出し事業化する攻める側に回りたい」と商社を選んだ。そこで、海外の電力事業を経て、自由化開始直後に電力小売り事業に携わり、発電所の運用、営業、需給管理など事業に関連する一通りの業務を経験した。ただ、当時の自由化はまだ大手電力にビジネスで伍していくような環境になく、競争原理を働かせて事業運営したいという理想と現実のギャップに苦しんだ日々だったという。

2009年にエナリスに入社してからは新規事業の立ち上げを担当した。スマートシティーや需要家PPS、自治体新電力の立ち上げのサポート、電力事業のコンサルティング、需給管理の代行などを手掛けた。自由化した市場で競争原理を働かせるには、たくさんの仲間をつくり、実現できることを増やしていく。地道な努力が必要との考えからだった。

そうした中、11年に東日本大震災が発生した。計画停電が実施され、地域全てが停電し病院などへの供給が止まった。初めて電気が足りなくなる事態を目の当たりにした。「これは業界にとって大きなターニングポイントになる。市場全体の電気が不足しコスト高になり、少ない電気を有効活用するビジネスモデルが求められる」。そのようにとっさに思いついたという。

そして震災発生の翌日、当時エナリスの役員であった渡部社長は、自ら手掛けていたPPS事業を即終了し、限られた電力を有効活用するデマンドレスポンス(DR)やVPP、需要家のエネルギーマネジメント事業といったビジネスにかじを切る決断をした。「そのスピード感は今も大きな経験になっている」と振り返る。

EVシェアとエネマネを開始 全国にノウハウ普及拡大へ

現在、REXEVが手掛ける事業は、①神奈川県小田原市を中心としたEVのシェアリング事業、エネルギーマネジメント事業、②自治体や環境志向の高い法人向けにEVのマネジメントプラットフォーム提供事業、③将来的にEVと自動運転を掛け合わせた新たな地域サービス創出―、などだ。

小田原市では20年6月からEVカーシェアサービス「eemo」を開始した。今年度47台のEVを導入し、今後100台の導入を目指す。同サービスでは、カーシェアとエネマネを両立、SOC(充電状態)予測やカーシェア需要予測を行い、EVの電力を有効活用し、BCP対策、電気代削減、CO2削減など、移動手段以外の価値も提供する。「開発が終わり、今後は広くお客さまにサービスを知ってもらう広報活動やマーケティングを行うフェーズに入ってきた」とのことだ。さらに、小田原市で得た構築ノウハウを地方にも広めていき、EVの移動手段とエネルギーリソース(動く蓄電池)としての価値を最大化することでエネルギーと交通の課題を一挙に解決していく日本版ドイツ・シュタットベルケモデルを目指していく。

渡部社長は、新規性のある事業を数多く立ち上げてきた。このことについて「こうしたら世の中が良くなる。そんなアイデアを想像し、実際に創造する。事業立ち上げには両方が欠かせません。二つの『そうぞう』を好んで使っています」と語る。

座右の銘は、吉田松陰の名言「至誠にして動かざるものは、未だこれあらざるなり」。電力システム改革、モビリティーシフト、新型コロナウイルスの感染拡大など、目まぐるしく変わる世の中に、その精神で立ち向かう。

【電力】コストに無知 環境相の不見識


【業界スクランブル/電力】

2020年12月15日の環境大臣定例記者会見でおおむね次のような質疑があった。

記者「再エネ倍増計画は結構ですが、国民負担がついて回ることの仕組みとか環境整備についてきちっとセットで考える必要があると思うのですが」

大臣「まさにコストを度外視はできませんよね。そのコストを下げていくという前に、再エネ、イコール高いという思い込みを変えていきたいと思います。今、100%再エネ導入に進んでいる中で、現実に調達をすると今よりも安くなるケースもあるわけです。私も自宅の契約を100%、(再エネに)変えました。電力料金は下がるんです。いろんな方と話していて、それすら知られていないということに今気づきますね」

大臣の自宅で消費されている電気はおそらく固定価格買い取り制度(FIT)電気に非化石証書を組み合わせたものであろう。FIT電気は火力発電の燃料費相当の回避可能費用で調達できるが、これはFIT電気1kW時当たり15~35円を国民全体に広く薄く付け回しをした結果である。加えて、非化石証書を購入するメリットは、今は「意識高いと褒められる」以上のものはないので、最低価格の1 kW当たり1.3円でほぼ購入できる。

大臣が答えにならない答えをするのは今さら驚かないが、これはいささか深刻だ。FIT電気が比較的安価で調達できるのは、まさに記者が質問した「国民負担が付いて回る」ことの典型例である。付け回しの結果で安く見えるだけであるのに、そのことに全く触れずに聞こえが良い「再エネは安い」だけを強調するのは、知っていて発言しているのであれば不誠実であるし、本心からそう信じているのであれば、勉強不足を指摘せざるを得ない。

世界的に再エネの建設コストは下がっているが、残念ながら日本の再エネは高いままだ。カーボンニュートラル推進を自分のミッションと考えるのであれば、この再エネ建設コストの内外価格差を解消するために何をするのかを語ってほしいところだ。(T)

中国IT大手がEV事業に参入


【ワールドワイド/コラム】

ノルウェーでは新車販売台数の半数を電気自動車(EV)が占め、米テスラの年間生産台数が約50万台まで伸長するなど、世界各国でEVシフトが進み始めている。そうした中、中国のIT大手企業・バイドゥ(百度)は1月11日、EV事業に参入すると発表した。

同社は中国最大手のネット検索エンジンを運営するIT企業。これまでは自動運転技術の開発に乗り出していたが、中国大手の自動車メーカー・浙江吉利控股集団と提携し、次世代のスマートカーを作り上げると宣言している。

中国IT企業のEV参入はこれが一例目ではない。米国にGAFAM(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル、マイクロソフト)と呼ばれるIT業界の巨人がいるように、中国にもBATH(バイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)と呼ばれる大手企業がある。そのうち、EC大手のアリババ、SNS大手のテンセントは新興EV企業に多額の出資を行うほか、通信機器大手のファーウェイはEV向けの基幹部品を多数提供している。米テスラの成功を追いかけようと、BATH各社は躍起になってEV投資を推し進めている。

とはいえ、自動車団体の発表によると、2019年の新車販売台数は約2577万台に上るが、そのうち純EVの販売台数は約97万台(対前年比1.2%減)にとどまる。過熱する企業をよそに、市場はEVにそこまでの関心を寄せていないようだ。

そうした中、中国政府も60年までのカーボンニュートラルを宣言するなど、脱炭素政策にこれまで以上に注力していくと予想される。さらなる政府の後援を受けながら巨人たちは低調な中国EV市場を喚起できるのか。注目が集まる。

菅首相50年CN宣言に歓迎の声 洋上風力のコスト減には課題


【ワールドワイド/環境】

昨年10月の菅義偉首相による2050年カーボンニュートラル(CN)目標の表明を受け、経済産業省は12月末に「2050年CNに伴うグリーン成長戦略」を発表した。

50年CNに向けて成長が期待される洋上風力、燃料アンモニア、水素、原子力、自動車・蓄電池、カーボンリサイクルなど14産業分野について、工程表に基づく高い目標(導入量、性能、コスト、CO2削減量など)を設定し、予算、税、金融、規制改革・標準化、国際連携などの政策ツールを総動員して支援するというものである。

本戦略の特色の一つは、50年CNを実現するためのエネルギー政策および、エネルギー需給の見通しを参考値として示した点だ。50年の発電量に占める再生可能エネルギー割合50~60%、洋上風力の30年1000万kW、40年3000~4500kW、30年代半ばの乗用車新車販売の電動車率100%などの数値が提示されている。

EUは50年CNを、中国は60年CNを表明し、1月に誕生したバイデン政権も50年CNを打ち出している。21年には先進7カ国にインド・韓国・豪州を加えたD10(英国)、主要20カ国・地域(G20・イタリア)、国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26・英国)と気候変動が主要テーマとなる国際会議が目白押しだ。

バイデン政権も政権発足後100日以内に気候サミットを主催するとしており、菅首相のCN目標はこうした動きを念頭に置いたものだろう。グテーレス国連事務総長は日本の表明を歓迎しているが、50年目標表明だけでは事は済まない。欧米諸国は「日本の50年CN目標を多とするが、それと整合した30年目標の引き上げが必要だ」と迫ってくるだろう。

30年目標の再検討に当たって、成長戦略にある導入量目標が独り歩きすることは危険だ。再エネの中で特筆大書されている洋上風力は高コストで、35年にkW時8~9円というコスト目標があるものの、日本の洋上風力が、風況に恵まれた欧州並みの設備利用率、コスト実現は非常に難しい。コスト減なしに導入量目標のみ実現すれば、電力コストの高騰につながる。

戦略では30年で年額90兆円、50年で190兆円の経済効果が強調されているが、30年に向け家庭用、産業用のエネルギー価格がどの程度上昇するのか、足元の「値札」が明示される必要がある。

有馬 純/東京大学公共政策大学院教授

【コラム/2月15日】電気事業のデジタル化とカスタマーセントリック思考


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

電気事業のデジタル化への対応は、プロダクトやプロセスのみならず、組織、イノベーションマネジメント、価値創造ネットワーク、マネジメント改革、協調の文化、およびカスタマーセントリック思考の様々な観点から論じられなくてはならない。組織、イノベーションマネジメント、価値創造ネットワーク、マネジメント改革と協調の文化については、それぞれ以前のコラム(2018/07/09、2020/10/05、2020/11/09、2020/12/14)で触れたので、今回は、カスタマーセントリック思考について述べてみたい。

電気事業のデジタル化への対応として、カスタマーセントリックの考え方を強化することが、とりわけ重要な課題と考えられる。エネルギー市場自由化による競争激化や電力生産の分散化は、顧客の意識や行動および電力会社との関係を変える。また、デジタル化はこの傾向に拍車をかけている。デジタル取引に慣れた顧客は、顧客体験の期待の高まりから、既存事業者へのロイヤルティは減少していく。電力会社は、顧客の要求に最も相応しい提案を行わなければ選択されない。そのため、企業経営において、カスタマーセントリックの考え方が中心に据えられなくてはならない。

カスタマーセントリック経営では、顧客に感動体験を提供することを重視する。顧客が感動体験を得るプロダクトに関しての企業とのコンタクトポイントは、プロダクトの購入決定前と決定後に分けられる。購入決定前の段階では、コンタクトポイトは、デジタル化により大幅に増やすことができる。伝統的なコミュニケーションのチャネルは、店頭、新聞雑誌、ダイレクトマーケッティング、スポンサリングなどであるが、近年、ウェブサイト、オンラインマーケッティング、ソーシャルネットワークなどのデジタルチャネルも増大している。とくに、潜在顧客に対しては、ますますデジタルチャネルを通じてコンタクトされるようになってきている。とりわけ、コンテンツマーケッティングやレコメンデーションは非常に重要な意味を持つようになってきている。コンタクトポイントの数が増えるにつれて、コミュニケーションの内容の一貫性は大変重要となる。また、顧客の情報行動も変化している。顧客は、購入決定前に、選好するデジタルチャネル(カスタマーレビュー、比較ポータルなど)を通じてより良い情報が入手可能となっている。購入決定前のマーケティングに関しては、プル戦略とプッシュ戦略の組み合わせが重要と考えられている。

購入決定後は、なによりも、プロダクトの約束および顧客の購入前の期待が満たされなくてはならないが、長期的に顧客を繋ぎとめ、その満足度を維持するためには、顧客との持続的で積極的なインタラクションと顧客サポートや保守などのサービスの質が重要である。満足している顧客は、当該プロダクトを推薦し、レビューサイトでの評価を通じて、企業にフィードバックを行うインセンティブを有する。企業は、デジタルチャネルを通じて、顧客に新たなデジタルプロダクトを提案することが可能である。例えば、セルフサービスによる請求書のデータに基づく簡単なゲーミフィケ―ションにより、電力会社は顧客に対してスマートホームソリューションの長所を示すことが可能である。

また、電力会社は、顧客についての知識を継続的に拡大していかなくてはならない。電力会社は、ソーシャルネットワークでなどで、顧客についての知識を深めるほど、その顧客に特化した対応が可能になる。さらに、電力会社は、顧客行動分析を通じて、早期にどの顧客が他社にスイッチングしそうか把握でき、早めに対応を図ることが可能である。デジタル戦略における顧客とのインターフェイスは、一貫性のある、顧客に固有なコミュニケーションや情報、サービス品質、ユーザビリティなどに関して、最適化されなくてはならない。

本コラムでは、ドイツを事例に、電気事業のデジタル化への対応を多面的に述べてきた(2018/07/09、2020/10/05、2020/11/09、2020/12/14、2021/02/15)。これまで紹介してきたドイツにおける電気事業のデジタル化への対応や議論は、わが国における今後の経営を考える上で重要な情報を提供しているといえるだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

10カ年目標を更新したフランス 原発と再エネのバランスが鍵


【ワールドワイド/経営】

脱炭素化が世界的な潮流となっている昨今、フランスでも気候変動対策が一層強化されている。2019年6月には、それまでの50年目標だった「温室効果ガス(GHG)排出量を1990年比で75%削減」が、「カーボンニュートラル達成」へと引き上げられた。7割を超える原子力発電比率を35年までに50%に低減し、再生可能エネルギーを拡大する方針も示されている。

このような長期目標実現を視野に入れた10年間のエネルギー計画が「エネルギー多年度計画」(PPE)である。20年4月には、19~23年および24~28年を対象とした改訂版が発表された。

PPEでは、減原子力・再エネ拡大の方向性が明確に見て取れる。発電電力量に占める原子力および再エネのシェアは、23年がそれぞれ67%および27%、28年がそれぞれ59~61%および33~36%に増加する方針。再エネ出力は19年末時点の約5360万kWから、23年に7350万kW、28年に1億100万~1億1300万kWと、10年以内でほぼ倍増を見込んでいる。中でも大きな期待が寄せられるのは洋上風力で、進行中の7件のプロジェクトの大半は、反対派による訴訟で運開が遅れているが、23年に240万kW、28年に520万~620万kWの出力を目指している。

原子力については、35年までに58基中14基を閉鎖する方針が示された。これに基づき、20年2月と6月にはフェッセンハイム原子力発電所の2基が閉鎖され、その後は25~26年および27~28年に2基ずつ、そして29~35年に8基が閉鎖予定となっている。さらにこれまで触れていなかった新設についても言及があり、欧州加圧水型炉(EPR)の新設について、建設中のフラマンビル原子力発電所3号機の運開に合わせ、21年中ごろに決定するとされた。

しかし、フランスにおける新設の状況は順調とは言えず、同機は度重なる運開遅延に見舞われており、PPE発表後にもさらなる遅延が決定。新設決定も23年へと見送られ、原子力産業の先行きが見通せない状況が当分続く。  また、将来的な原子力発電比率維持のために必要とされるのが、事業者であるフランス電力(EDF)の財務体質改善だ。再エネ重視のPPEと呼応するように、EDFの組織再編計画の交渉が、欧州委員会とフランス政府の間で行われている(21年1月現在)。再エネ導入拡大と原子力産業維持とのバランスをいかに図るか、引き続き注目される。

西島恵美/海外電力調査会調査第一部

【マーケット情報/2月12日】原油続伸、需給逼迫観さらに強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油市場は、主要指標が軒並み続伸。需給逼迫観がさらに強まり、価格に上方圧力を加えた。

米国の週間原油在庫統計は、製油所の稼働率上昇を背景に前週から日量660万バレル減少。4週連続の減少を示した。また、米エネルギー省(EIA)は、今年の国内産油量予測を下方修正。加えて、来年中も生産量がパンデミック前の水準に戻ることはないとの見方を示した。

米新政権は、イランに対する経済制裁を直ちに解除することはないと表明。イラン産原油の市場復帰は依然見通しが立たない状況だ。供給が引き続き逼迫するとの予測が買いを強めた。

一方、米国では新型コロナウイルスのワクチン調達を急いでおり、7月にはほぼ全人口である3億人にワクチン供給が行き渡る見込み。また、OECDの景気先行指数(CLI)で主な加盟国である米国、日本、ドイツやフランスなどの欧州諸国で景気の回復がみられ、経済回復にともなう石油需要の強まりへ、期待感が高まった。

【2月12日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=59.47ドル(前週比2.62ドル高)、ブレント先物(ICE)=62.43ドル(前週比3.09ドル安)、オマーン先物(DME)=59.86ドル(前週比0.90ドル高)、ドバイ現物(Argus)=60.50ドル(前週比1.68ドル高)

上流開発を推進するノルウェー フロンティア探鉱に強い期待


【ワールドワイド/コラム】

欧州では上流開発に逆風が吹いており、デンマーク、フランスなどが新規探鉱を規制する措置を発表した。一方、西欧最大の石油・天然ガス生産国であるノルウェーは2020年11月、第25次ライセンスラウンドの実施を発表した。公開された136鉱区のうち、125鉱区は北極に面したバレンツ海にあり、同国のフロンティア探鉱への意欲が読み取れる。

ノルウェー政府は、新型コロナウイルスの流行と油価の下落により、新規プロジェクトへの投資が落ち込んだことを受けて20年6月に、設備投資の一部について特別税からの控除を認めるなどの税制優遇策を行った。この税控除の対象は22年末までに政府が受領した開発・操業計画になるため、同年には駆け込みで最大30件弱の最終投資決定(FID)がなされるという見方もある。

 またこうした政策に加え、ノルウェーには他国と比較して探鉱開発の強みが三つ挙げられる。

一つ目は探鉱ポテンシャルの高い点だ。同国石油管理局(NPD)によると、ノルウェー大陸棚にある回収可能な資源のうち、半分以上はまだ生産されていない。未開発資源の多くは、今回のライセンスラウンドの中心となったバレンツ海にあるとみられている。

二つ目は、温室効果ガス排出量に配慮した開発が比較的容易な環境である点だ。ノルウェーでは風力発電やCCS(CO2回収・貯留)と組み合わせた資源開発も盛んで、北海のスノーレ油田ではプラットフォームに電力を供給する世界初の浮体式洋上風力発電所が建設中で、生産現場での電化も進んでいる。23年には生産量の約半分を「オール電化」のプロジェクトが占めるとみられている。さらにCCSのポテンシャルも高く、20年12月に同国政府は大規模CCSプロジェクトに142億クローネ(約16・8億米ドル)の支援を正式に決定した。

三つ目は、生産コストが低く価格競争力がある点だ。現在生産中の油ガス田の多くは、ブレント価格が1バレル当たり20ドルを下回っても操業可能といわれている。

 しかし、バレンツ海開発には課題も多い。まず同海域における探鉱はこれまで厳しい結果が続いている。さらに自然環境が厳しく既存インフラも少ないため、成熟地域と比べると開発・生産コストやカーボンフットプリントの面で劣ると想定されるのが最大の理由だ。とはいえ洋上風力やCCSを組み合わせたノルウェーの持続可能な開発事例は、他国にも参考となり得る。今後の展望が注目される。

川田眞子/石油天然ガス・金属鉱物資源機構調査部

次の成長の原動力はデジタル化技術 エネルギーテックでナンバーワンを目指す


【ENECHANGE】城口洋平/ENECHANGE代表取締役CEO

―昨年12月、会社設立から5年を経て東証マザーズへの上場を果たしました。

城口 エネルギーテック企業として、当社が初めて上場を果たすことができました。これまでは、大手電力・ガス会社に出資いただくことでエネルギー業界における知名度向上を図ってきましたが、これを機に、中立的な立場でテクノロジーを業界に提供し、デジタル化や脱炭素化に貢献するサービス事業者としての社会的な認知度を高め、信頼を得られる企業として成長していきたいと考えています。

―エネルギー業界の変化をどう後押ししていきますか。

城口 2016~20年は、エネルギーシステム改革のうち「自由化」が先行し、当社も契約切り替え(スイッチング)支援事業で市場競争の活性化を後押ししてきました。現在、当社の売り上げの約6割をこのスイッチング支援事業が占めています。

 今後は、容量市場や需給調整市場、スマートメーターのデータ開放といった新たな制度がスタートすることになっており、デジタルの利活用や多用な電力価値取引などが活性化することが想定されます。そして、ベンチャー企業の主戦場もこうした分野に移っていくことになるでしょう。当社としても、デジタル化技術に関する事業にウェイトを移すタイミングですので、上場で得られた資金を活用しテクノロジーへの投資を本格化することで、需給調整市場、蓄電池・EVの利活用といったエネルギーテックの分野でナンバーンワを目指していきます。

―売上高など、今後の成長目標について教えてください。

城口 今期は17億円の売り上げを計画していますが、まだまだ伸びるポテンシャルはあり、25年から30年の間に100億円を超える売り上げ規模にするのが目標です。もちろん、現行の事業だけでは達成できませんから、VPP(仮想発電所)やEVといった新しい分野のシステム開発・サービス提供にしっかりと取り組んでいかなければなりません。「自由化」「デジタル化」「脱炭素化」「分散化」の4分野でテクノロジーを提供する、日本におけるエネルギーテック企業の第一人者でありたいですし、エネルギー市場の健全な競争促進と、業界の脱炭素化に向けたトランスフォームを促していくことが当社の役割と自任しています。

きぐち・ようへい 東大法学部卒、ケンブリッジ大工学部博士課程(休学中)。ケンブリッジ大在学中に電力データに関する産学連携研究機関「ケンブリッジ・エナジー・データ・ラボ社」を設立。2015年にENECANGEを共同創業し代表取締役会長に就任、現在に至る。

差し迫る中国の脅威 脳天気な「天声人語」


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

新聞業界で元旦紙面は特別な存在だ。各社が渾身の特報や時代を見据えた企画を一面に掲載し、業界で言う「紙価」を競う。今年の主要紙は、さまざまな観点から「中国」を取り上げた。

まず共通するのは新型コロナウイルスのニュースだ。東京都で大みそかに初めて感染者が1000人以上確認され、「都内コロナ感染1337人、過去最多」(読売)などと、各紙が一面で報じた。

このウイルスは中国から拡散して、世界の各地で人命を奪い、経済や社会に壊滅的なダメージをもたらしている。

拡散を防ぐ適切な措置が取られなかったのはなぜか。危険なウイルスはどう出現したのか。中国の消極姿勢もあり、国際的な究明は進んでいない。頬かむりでは済まない。あらためて、そう思わせた。

コロナを序の口として、各紙一面トップの中で日本に対する中国の脅威を具体的に指摘したのは読売「中国『千人計画』に日本人、政府が規制強化へ」だ。

「海外から優秀な研究者を集める中国の人材招致プロジェクト『千人計画』に、少なくとも44人の日本人研究者が関与」「中国軍に近い大学で教えていたケースも」と書いている。

ぶっそうな話である。ただ、中国への技術流出という意味で最も深刻なのは、12万人を超える中国人留学生だろう。大学の国際化を目指し、日本政府は「留学生30万人計画」を掲げて奨学金などあの手この手で留学生を集めてきた。中国人は最も数が多い。

国立大学の先端部門でも留学生が目立つ。東大キャンパスでは中国語をよく聞く。留学生なしで成り立たない研究室まである。

しかも政府機関の調査では、学部生は卒業後に日本で働く例が多いのに対し、博士課程を終えて高度な技能を習得した学生は半数以上が母国に戻る。

中国に渡る日本人研究者を縛っても、焼け石に水ではないか。深掘りを期待したい。

毎日は「中国『闇』ワクチン流入、日本の富裕層接種」だ。「中国で製造したとされる新型コロナウイルス感染症の未承認のワクチンが日本国内に持ち込まれ、日本を代表する企業の経営者など一部の富裕層が接種」という。

「富裕層」の呼称を含めて気持ちが悪い。むしろ心配なのは、これを読んで中国製ワクチンを求める日本の客が増えることだ。まさかそこは狙っていないだろうが、広告効果が懸念される。

産経は企画「自由/強権」だ。「中国型の権威主義、南太平洋で猛威」「民主主義が消えてゆく」と真正面から警鐘を鳴らす。香港の例もある。警戒を怠れない。

日経の企画「カーボンゼロ」は「脱炭素の主役、世界競う」と題して、中国内モンゴル自治区に建設された最大級の太陽光発電所をルポしている。「巨大な内需を背景に中国は価格競争力をさらに高めつつある」との指摘だ。

問題は「内需」が、どこまで「民需」かである。ここを見極めないと、日本に通用しない。

朝日だけは、一面に「中国」がない。吉川貴盛・元農林水産相のスキャンダルを大扱いした。

特に謎なのは天声人語だ。英作家オーウェルの著書「動物農場」を枕に日本の政治を「緊張が失われて久しい」と腐す。全体主義、独裁政治を皮肉る作品を使うなら批判すべきは中国だろう。作品中の豚の権力争いは、うわさされる習近平国家主席と李克強首相の相克に重なる。朝日はズレている。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

革新的アイデアの技術開発 地球誕生時の歴史にヒント


【オピニオン】吉野彰/産業技術総合研究所ゼロエミッション国際共同研究センター長

政府の革新的環境イノベーション戦略にもうたわれているように、地球環境問題の解決、そのための持続可能な低炭素社会の実現が21世紀の最重要課題といえる。パリ協定以降の低炭素化の機運は世界的に高まっており、その中でもゼロエミッション(カーボンニュートラル)、さらにはそれを超えるものとしてのビヨンドゼロ(つまりネガティブエミッション)は究極の目標である。その実現には従来の技術の延長ではない革新的なアイデアの実現が必要になると考えられる。このような背景から日本政府は2050年にトータルカーボンニュートラル社会の実現という方向性を宣言した。

全国地球温暖化防止活動推進センター(JCCCA)の資料によれば、18年時点で日本のCO2排出の部門別内訳はエネルギー転換部門(主として発電所)約40%、産業部門約25%、運輸部門約18%、その他(家庭部門など)約17%となっている。50年に向けて各部門からのCO2排出量をゼロにすることがカーボンニュートラル社会実現への一つの道筋である。そのために部門ごとに革新的な技術開発努力が進んでいくであろう。

もう一つの道筋がビヨンドゼロ、つまりネガティブエミッションである。ネガティブエミッション技術とは既に排出してしまった大気中のCO2を吸収することである。この二つの道筋が合わさって50年トータルカーボンニュートラルにつながっていくと考えられる。

それでは、具体的にネガティブエミッション技術として何が考えられるであろうか。そのヒントは地球誕生以降の歴史にあるのではないだろうか。46億年前に地球誕生時の大気組成の大半はCO2であったが、現在では約400ppmまで激減している。その要因は二つとされている。一つは光合成生物の誕生でありCO2を吸収するとともに、光合成反応の副生成物である酸素を放出し現在の大気組成となっている。もう一つは塩基性化合物(アルカリ土壌)による中和反応によるCO2吸収である。この反応によりCO2はカルシウム、マグネシウムなどの炭酸塩として固定化されている。もちろん地表近くの大半の塩基性化合物による中和反応は既に終了しているが、地中にはいまだ残存している可能性がある。

現在、ネガティブエミッション技術として検討されているBECCS(Bioenergy with Carbon Capture and Storage )、DACCS(Direct Air Capture with Carbon Storage)などの技術は上記二つの要因に基づいた考え方である。もちろん大気中のCO2を吸収するのであるから、そのためにエネルギー、コストがかかってはならないという厳しい条件が課せられる。従ってこのBECCS、DACCSのイメージとしては人手、設備不要の自然現象に近いCO2吸収プロセスでなければならないであろう。BECCSについてはバイオ分野での技術革新により、またDACCSについては地質学的分野での技術革新により、このようなプロセスが可能になってくるのではないだろうか。

よしの・あきら 京都大学大学院工学研究科修士課程修了。1972年旭化成に入社、リチウムイオン電池の開発に従事。現在、旭化成名誉フェロー。2019年ノーベル化学賞受賞。20年から現職を兼務。

50年脱炭素化に向けての提言 中長期的な独自組織が不可欠


【アクセンチュア】石澤賢/アクセンチュア 素材・エネルギー本部 シニア・マネジャー

いしざわ・けん 2013年アクセンチュア入社。主に電力・ガス会社向けの市場分析調査・戦略立案などを10年以上経験。15~17年経済産業省に出向。電力・ガス取引監視等委員会取引監視課課長補佐として市場監視・制度設計に関わる。

日本では、VPPなどの試みを実証レベルで進めているが、欧米では既に商用レベルで稼働する事例も多い。今回から4回、アクセンチュアが次世代エネルギーの最新動向を紹介する。第1回は日本の脱炭素化に迫る。

昨年10月、菅義偉首相は臨時国会の所信表明演説で「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことをここに宣言する」と発言した。従来の「13年度比で80%削減」から大きく修正され、日本も欧米に肩を並べる政策が示された格好だ。

カーボンニュートラルを目指すに当たって、私たちは何をすればいいのか―。一般に、経済が成長すればCO2排出量も増えるわけだが、排出量を抑えたいからと経済成長を抑えたり、生活の質を落としたりするのでは意味がない。

排出量を消費行動から分析 CO2排出電源を減少へ

資源エネルギー庁では、そうした分析にCO2を排出する主な要因を分解し、式の形で示している。図1はこれをアクセンチュアが独自解釈し簡素化したものだ。

図1 CO2排出要因分解式を簡素化したもの
資源エネルギー庁の資料を基にアクセンチュアが作成

ここから①消費電力に対するCO2の量はより小さい値になると相対的に低炭素な電源が用いられている、②生産時に必要な消費電力は小さい値になると相対的にエネルギー効率(ここでいうと消費電力)が高く生産できる、③一人当たりの生産性はより大きい値になると相対的に高い生産性を示す―といったことが見えてくる。

次に10~18年までの一人当たりのCO2排出量の推移(図2)と、10年基準で10~18年の消費電力係数から一人当たりのCO2排出量の推移を国別に示す(図3)。

図2 10~18年の一人当たりのCO2排出量の国別推移
IMF、OWID、ENERDATAのデータを基にアクセンチュアが作成

図2の一人当たりのCO2排出量を見ると、日本は米国や韓国より少なく、ドイツと同水準。フランスは原子力を中心とした低炭素電源を背景に相対的に低水準、英国もこれに追随している。

図3 10~18年の消費電力量を係数に用いたときの一人当たりのCO2排出量の国別推移(2010年基準)
IMF、OWID、ENERDATAのデータを基にアクセンチュアが作成

図3は、消費電力から見た一人当たりのCO2排出量だ。日本が相対的にCO2の排出量の多い電力を使っている状況がうかがえる。11年の東日本大震災以降、火力発電の割合が増えている課題が浮かび上がる。

日本が脱炭素を推進するに当たってこの点は課題だ。少しでもCO2が少ない電源に切り替えていくことが脱炭素の促進につながる。

企業の動きも加速している。足元ではESG投資に代表されるように環境・社会活動などの複数の観点から企業の持続可能性の優位性を高めていく傾向にある。具体的には、①需要側の変化や供給側に再エネが導入されることなどを背景に、従来の需給環境は崩れつつある。また、エネルギー市場に自動車、ITなど異業種が参入することで市場環境そのものが変化している、②政府が掲げたカーボンニュートラルを含む環境目標に対するコミットメントが求められ、投資家も企業の姿勢に注目しつつある、③デジタル技術の発展に伴い、家庭のエネルギー制御の最適化、顧客のエネルギー消費を吸い上げた発電計画の策定へのAIの活用―などの新しい動きが出つつある。このように、消費者がよりエネルギーを効率的に使用し、環境に配慮した活動するなど、CO2の排出量を抑えるのに直結する行動が出てきた。

技術革新に期待高まる 脱炭素化に10年間で2兆円

しかし、これらはあくまでCO2を減らすための取り組みだ。50年カーボンニュートラルの目標を達成するのであれば、発電の大部分をCO2を排出しない再エネに切り替えることが求められるし、原子力の扱いについて議論する必要がある。

現状から脱却するには、技術革新による成長は従来にも増して期待が高まるだろう。特に、再エネの制御技術、水素技術などは脱炭素を加速させる。国も10年間で2兆円の基金を準備し、目標に向けた取り組みを後押ししている。ESG投資に代表されるように、持続可能な取り組みを行う企業により効率的に資金が集まる仕組みも必要だ。現状、徐々に投資家の行動がESG投資に向いている状況であり、集まった資金を企業が研究開発費に充てていく流れをつくる必要がある。

さらに、脱炭素実現に向けた技術開発、社会実証などが適切に行われていることを中長期的な観点から監視し、助言する立場も必要となる。人事異動や政権交代などに左右されない方針に沿った一定の権限を与えられた独立組織を設けることは欠かせない。技術開発に関しては、さまざま有望な技術がある。次回以降はその詳細に触れていきたい。

政府がグリーン戦略を策定 エネ転換の負担も説明せよ


【論説室の窓】井伊重之/産経新聞論説委員

政府が2050年の温室効果ガス排出の実質ゼロに向けた「グリーン成長戦略」をまとめた。高い目標に挑戦するのは大事だが、エネルギー転換に伴う負担増の説明も必要だ。

菅義偉首相が「2050年に温室ガスの排出の実質ゼロを目指す」と表明した。これを受けて政府が昨年末に策定したグリーン成長戦略では、洋上風力発電や水素、自動車の電動化など14の重点分野に対する数値目標や政府の支援策を盛り込んだ。

政府が高い目標を掲げ、それに対する公的な支援を呼び水に民間企業の積極的な投資を促すのが狙いだ。菅首相はこの成長戦略について「50年実質ゼロの実現は成長の制約ではなく、成長戦略として経済の好循環を生み出す方向に進めたい」と意欲を示した。

日本のエネルギーは今、化石燃料に大きく依存している。太陽光発電を中心に再生可能エネルギーが大きく伸び、19年度には水力を含めて18%の電源比率を達成した。その一方で同じ非化石電源の原子力発電は7%にとどまり、再エネと合わせた非化石電源比率は25%にすぎない。残る75%はLNG(液化天然ガス)や石炭火力を中心とした化石電源が占めている。

この高い化石電源比率を50年までに実質ゼロに低減するのがグリーン成長戦略の役割となる。CO2排出量の約4割を占める電力部門では、50年時点の再エネ比率を参考値ながら50~60%にまで高めると想定。そして30~40%を原発とCO2の回収をセットにした化石燃料とし、残る10%を水素やアンモニア発電とした。

発電コスト低減が不可欠 「市場の力」による政策に

既に世界各国が「50年実質ゼロ」を目指しており、日本もこの目標達成に参加する必要がある。だが、問題は今回の成長戦略には過程が描かれておらず、新たな技術革新(イノベーション)に依存していることだ。50年までの途中段階でどのような姿が想定されるかは誰も分からない。

そして何より多額の投資を費やせば、それだけエネルギーコストが高くなるのは避けられない。コストがきちんと分析できなければ、そのエネルギーが実際にどれだけ普及するかは判断できない。そこではカーボンプライシングも有効だろうが、エネルギーである以上、そのコストによって普及の度合いは大きく異なる。

エネルギーに関するコストは、最終的に国民負担となって跳ね返るが、今回の成長戦略にはそうした負担増は詳しく触れられてはいない。

成長戦略という産業政策なのだから致し方ない面もある。ただ、投資を促してグリーンエネルギーという新たな産業を興す産業政策として目標価を示すのは理解できるが、安定供給を前提に暮らしや産業を支えるためのエネルギー政策としては疑問も残る。

グリーン成長戦略がこれから30年近くにわたる長期戦略である以上、民間の継続的な取り組みが欠かせないが、そのためには「市場の力」を通じたエネルギー政策でなければならない。

固定価格買い取り(FIT)制度で太陽光発電の普及を進めた日本では、既に家庭用電気料金の1割超を賦課金が占めるようになり、電気料金は欧米よりもかなり高い。東日本大震災前の10年度と比べて18年度は家庭用で16%、産業用では20%も値上がりしている。

再エネを主力電源として広く活用していくには、その発電コストを引き下げることが不可欠である。現在のような高コストのままで再エネ比率を50%まで高めれば、電気料金の負担も重くなり、国民生活の負担だけでなく、わが国産業の国際競争力の低下も招くことになる。

電力自由化が進んだ米カリフォルニア州では再エネの電源比率が4割以上に達しているが、それは発電コストが他の電源よりも安いという「市場の力」が機能していることが最大の理由だ。

原発再稼働の遅れ あいまいな政府方針が影響

温室ガスの排出ゼロに向けて水素やアンモニア発電などの技術革新はもちろん重要だが、エネルギー政策としてはまず、再エネを主力電源化するための具体的な方策を検討するべきだろう。グリーン成長戦略では今後の再エネとして、日本ではまだ導入されていない洋上風力を有力な候補として位置付けている。

日本で中心となる浮体式はコスト高が懸念される

だが、洋上風力が普及している欧州では遠浅の海が多く、風車の土台を海底に取り付ける固定式が主力となっている。これに対し、遠浅の海が少ない日本では風車を洋上に浮かべる浮体式が中心になるとみられ、それだけコストも高くなってしまう。洋上風力の普及を図っていくには、太陽光のような割高な価格設定にしないことが肝要だ。

そして再エネを円滑に大量導入するには、大手電力会社が主導するべきだろう。老朽化した石炭やLNG火力を段階的に休廃止する一方、それを代替する形で再エネの導入を進める方が効率的だからだ。大手電力が再エネのための地域子会社を設立するなどの取り組みも進めたい。

温室ガスの排出ゼロを実現するためには、原子力発電の活用も重要である。ただ、今回のグリーン成長戦略でも原発の必要性についてはあいまいなままだ。原発をめぐってはSMR(小型モジュール炉)を30年までに日本で実用化するとしているが、果たして可能なのか。国内では足下で原子力規制委員会が安全性を認めた原発でも再稼働が遅れており、そうした中でSMRの急速な実用化が進むとは思えないからだ。

国内で原発の再稼働が遅れているのは、規制委による安全審査の停滞に加え、地元同意を獲得する難しさや高まる司法リスクなどの問題が挙げられる。

これは、いずれにおいても政府が原発に対する姿勢を明確にしていないことが影響している。今回の成長戦略でも原発については「できる限り依存度を引き下げる」と従来の政府方針を示しながら、一方で積極的な活用を図るとも記している。

こうした政府のあいまいな姿勢が裁判官の独自解釈による原発の運転差し止めなどの司法判断を招いていることを厳しく受け止めてもらいたい。

進む革新的低炭素石炭火力の技術開発 カーボンリサイクル実証研究拠点化も


【中国電力】

中国電力と電源開発が共同出資して革新的低炭素石炭火力の実現を目指す大崎クールジェン。カーボンリサイクル技術の実証研究拠点化で期待は高まるばかりだ。

広島県竹原市からフェリーで30分。瀬戸内の柑橘の島、大崎上島町で、中国電力と電源開発(Jパワー)が共同出資する大崎クールジェン(OCG)は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業として革新的低炭素石炭火力発電の実現を目指す一大プロジェクトを進めている。

2019年9月、経済産業省は、CO2を資源として再利用するカーボンリサイクル技術の実証研究拠点に大崎上島を指定した。世界最先端の実証試験と研究開発が進む現場を取材した。

革新的低炭素石炭火力の実証を行っている大崎クールジェン

順調に進むOCG実証事業 CO2分離回収実証も進捗

OCGの実証事業は3段階で構成されている。19年2月末に完了した第1段階では、究極の高効率発電技術である石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)の基盤技術である酸素吹石炭ガス化複合発電(IGCC)の大型設備実証試験を行った。

発電システムの性能や信頼性、経済性など全ての試験項目で目標を達成。商用機での送電端効率約46%(HHV)を達成する見通しが得られたほか、再生可能エネルギーの急な出力変動にも対応できる高い調整力が実証できた。

現在進行中の第2段階では、酸素吹IGCCにCO2分離回収設備を組み合わせたシステム検証が行われている。当該設備では、石炭ガス化ガスの一部をCO2分離回収設備へ送り、触媒を用いてガス中の一酸化炭素を蒸気と反応させ、CO2と水素に変換。CO2吸収塔でCO2を分離回収する。CO2を取り除いたガスは、水素濃度の高い燃料としてガスタービンで活用される。

実証試験では、「CO2回収効率が90%以上」「回収CO2の純度が99%以上」の目標を既に達成している。大崎クールジェン取締役・総務企画部の久保田晴仁部長は「現在は、商用機でCO2を90%回収した上で、送電端効率40%(HHV)程度の見通しを得るために、分離回収によるエネルギー損失を抑える試験を行っており、目標達成に向け、着実に取り組みます」と気を緩めることはない。

さらに21年度に実証を開始する第3段階では、現行の設備に燃料電池を組み合わせ、CO2分離後の水素リッチガスの燃料電池への適用性を確認し、最適なシステムの実現に向けて実証を行う。

第2段階で用いたCO2分離回収設備

【マーケット情報/2月5日】原油1年振りの高値、米在庫更に減少


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油市場はすべての指標が前週から急伸。米国原油の指標となるWTI先物価格は5日、バレルあたり56.85ドル、北海原油の指標となるブレント先物価格は同日、バレルあたり59.34の終値を付け、両価格ともに2020年1月振りとなる高値を更新した。

先週米エネルギー省(EIA)から発表された週間原油在庫統計は、前週比100万バレル減となり、3週連続の減少を示した。

また、12月に増産していたアゼルバイジャンおよびイラクが1月生産量を計画通り減産する意向を示した。石油輸出国機構(OPEC)とロシアなど非加盟国で構成する「OPECプラス」はナイジェリア石油相にアフリカ5か国の減産改善を支援するよう指示もしている。OPECプラスの協調減産体制が結束力を強め、順守率上昇への期待感が高まったことも価格の上昇に貢献した。

英蘭系石油大手ロイヤル・ダッチ・シェルのベン・ファン・ブールデン最高経営責任者(CEO)が下半期には原油需要が回復し、2022年には「ほぼ元通りになる」と言及したことも需要回復への期待から買いを強めた。

【2月5日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=56.85ドル(前週比4.65ドル高)、ブレント先物(ICE)=59.34ドル(前週比3.46ドル高)、オマーン先物(DME)=58.96ドル(前週比4.33ドル高)、ドバイ現物(Argus)=58.82ドル(前週4.12ドル高)