【コラム/2月8日】これでいいのか、第6次エネルギー基本計画


福島 伸享/元衆議院議員

 昨年の秋以降、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会で第6次エネルギー基本計画の策定に向けた議論が行われている。私は、エネルギーフォーラム誌の昨年2月号・3月号や拙著『エネルギー政策は国家なり』において、2018年に閣議決定された第5次エネルギー基本計画は従来の電源構成に焦点が当てた基本計画とは異なり、日本の産業構造全体の中での将来のエネルギー産業の姿を描いた革新的なものであること、技術や金融といったこれまでのエネルギー政策のツールとして中心的に捉えられてこなかった分野に焦点が当てられていること、などを指摘してきた。この路線を引き継いだ、革新的なエネルギー基本計画が策定されるのかどうかが、第6次エネルギー基本計画の見どころである。

 これまでの議論を見ると、事務局資料の「次期エネルギー基本計画検討の進め方(案)」のスタート地点が「3E+Sを目指す上での課題を整理」というものであり、旧来型の基本計画に戻りそうな出だしであった。菅新総理が10月26日に臨時国会の所信表明演説で「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします」とぶち上げると、議題は「2050年カーボンニュートラルの実現に向けた検討」というものに衣替えしている。しかし、ここでも「カーボンニュートラルを目指す上で、脱炭素化された電力による安定的な電力供給は必要不可欠」として、各電源の目標「参考値」を定めた複数のシナリオ分析を行うこととしており、電源構成に焦点が当たった基本計画路線に固執しているように思われる。

 議事概要を読んでみると、毎回「電源構成のベストミックスを探ることが大事」などとして、「原子力が重要」との意見が組織的に連携しているかのように繰り返し出される。エネルギーの安定供給のために、さらにカーボンニュートラルの実現に向けても、原子力の役割が重要であることは否定しないが、第6次エネルギー基本計画で電源としての位置付けや目標値を明確にすれば原子力の推進が進むような状況ではない、と私は考える。これからのエネルギー供給において原子力に一定の役割を与えるのであれば、日本社会の中で再び原子力が受容されうるよう、バックエンド問題や核燃料サイクル路線も含めた原子力政策の根本的な再構築が必要なのではないだろうか。3.11以降10年以上もこうした議論から逃げ続けることは、許されないであろう。今こそ、ゼロベースでの原子力政策の再構築の議論をするため、エネルギー基本計画の議論とは別の座敷を設けることが必要なのではないか。

 さらに、これまでの議論を見てみると、民間企業の委員を中心に「投資の予見可能性が必要」、「海外輸出プロジェクト創出を期待する」、「政府が強いリーダーシップを発揮してほしい」、「政府がスピード感を持って方向性を示すべき」、「政府が長期の研究開発の旗を振ってほしい」などという「業界からのお上への要望」のようなコメントが何度も何度も出てくる。政府の予見に頼ったり、政府が方向性を示さなければ行動できないような企業が、今後世界的なカーボンニュートラルの進展の中で競争に生き抜くことはできないであろう。これまでの議論の中で、第5次エネルギー基本計画でその芽が出た革新的なエネルギー政策が生まれるようなやりとりは、あまりにも少ないのだ。

 委員のメンバーを見ると、かつてのような電力、ガス、石油の業界代表者が口角泡を飛ばし合うような構成ではなくなっているが、伝統的大企業の関係者やさまざまな審議会の委員を兼任しているような学者や役人OBがその大宗である。このようなメンバーでは、カーボンニュートラルの実現を旗印にした世界的な時代の変革、競争の時代に対応するための、革新的なエネルギー基本計画を作ることはできないであろう。

 第5次エネルギー基本計画を作るにあたっては、当時の日下部資源エネルギー庁長官は総合資源エネルギー調査会基本政策分科会と並行して「エネルギー情勢懇談会」というインフォーマルな議論の場を設けて、業界の利害調整や学者的議論にとらわれない自由な議論を行った。この場で議題を提供するのは、ほとんどが海外の有識者であった。今回もこれと同様に、いつもの代わり映えのしない審議会委員とは違う、年齢や国籍、ポストにこだわらず、現場感覚や最先端の技術的専門性を持ち、戦略的な思考ができる人材による議論の場を設けることが必要なのではないか。いつもと同じようなメンバーで、同じような過程によるエネルギー基本計画の策定を行えば、今度こそ2050年に日本はエネルギー敗戦、いや経済敗戦を迎えることになってしまうであろう。

【プロフィール】東京大学農学部卒。通商産業省(現経産省)入省。調査統計、橋本内閣での行政改革、電力・ガス・原子力政策、バイオ産業政策などに携わり、小泉内閣の内閣官房で構造改革特区の実現を果たす。2009年衆議院議員初当選。東日本大震災からの地元の復旧・復興に奔走。

地域を見守る北陸電力グループ 「空き家管理サービス」を開始


【北陸電力】

北陸電力送配電は、全国で急増している空き家を見守る新規事業に参入する。地方の過疎化、高齢化に伴い発生する課題解決に向け、北陸電力グループを挙げて取り組んでいく。

北陸電力送配電は、地域の課題解決に資する新サービス「空き家あんしんサポート」を2020年12月22日からスタートしている。

このサービスは、同社の検針員が空き家の外観・内観の確認やポストの清掃、部屋の通気、クモの巣や大きな埃を除去する簡易清掃、通水を行い、所有者に代わって空き家の状態を確認するというもの。点検した内容は報告書にまとめられ、空き家所有者にメールで送付される。サービスは北陸電力と契約していなくても利用することができる。

現在、全国に6242万戸(18年総務省調査)ある住宅戸数のうち、売却・賃貸など二次利用を目的にされていない空き家の軒数は全国で約347万戸(同)に上る。そのうち富山・石川・福井の北陸3県だけでも約10万戸(同)あるという。

全国に広がる空き家問題 経営資源を有効活用

空き家が増えれば、その間、家屋は適切な管理が施されなくなる。庭木の管理もされなくなることで害虫や害獣の温床となり、地域の景観にも悪影響を及ぼす。また所有者が長期間不在にしていることが目に見えて分かってしまうことで、家屋の不法占拠や放火の対象になりやすくなる危険性もある。

さらに全国的に少子高齢化、若者の都市部への流出、過疎化が進んでおり、空き家の件数は今後も増加すると見込まれている。こうした事情もあって、地域の景観・治安の悪化につながるリスクを防ぐ観点からも、空き家の適切な管理が求められている。

空き家の代行管理するサービスは、14年11月に全国に広く存在する空き家の有効活用を目的とした「空家等対策特別措置法」が成立したことで、広まりつつある。主にハウスメーカー、不動産会社、警備会社など、本業と隣接する事業者を中心に事業が展開されている。インフラ業界では住宅事業にも参入している鉄道系の企業のほか、都市ガス業界では東京ガス、日高都市ガスなどが参入しており、電力業界からは九州電力に次ぐ2例目の事例だ。

サービス概要図

こうしたサービスの多くは各社支店・営業所を中心にサービスを利用できる地域が決められるため、サービスを受けられるのは市街地に近い一部の市町村に限られることが多い。そのため全自治体を網羅しているサービスは少なく、全地域を網羅していても料金が高額であるなど、なかなか条件に合ったサービスを探すのも難しい。

そうした中で、北陸電力送配電のサービスは同社の営業エリアである富山県、石川県の全自治体、福井・岐阜県の一部自治体がサービスの対象。遠隔地でも同社の営業エリア内であればサービスに申し込むことができ、また地域住民にとっても馴染みのある同社検針員が空き家の維持管理を代行するため、ユーザーにとっても安心感を持てるというメリットがある。

費用は月額6000円で、他社サービスと比べて安価に設定されている。北陸電力送配電も「当社としても経営資源である検針員を有効活用できる。また料金もアンケート調査の結果や競合他社状況などを総合的に勘案したもので、一定の競争力がある」とアピールする。サービス内容についても、通水以外の作業のみ、外観巡視のみを依頼するなど、ユーザーが必要としている作業のみ代行してもらうことも可能だ。

現在は月に1回の巡視のみのサービス提供だが、今後のサービス展開について同社は「ユーザーのニーズを見極めながら考えていきたい。サービスの提供により、空き家を所有しているお客様のニーズにお応えするとともに、地域の課題解決に貢献できると考えている。今後も事業領域の拡大に向けて挑戦していきたい」と意気込んでいる。

地域を守る北陸電力グループ 安心見守りサービスを開始

送配電網の保守・管理だけではなく、空き家管理サービスを通じて地域の安全を支える北陸電力送配電。北陸電力も、同様のコンセプトのサービスを近年スタートしている。

北陸電力は自社電力と契約しているユーザー向けに高齢者向け見守りサービス「安心みまもりサービス」を、地元の事業者と共同で19年9月25日から開始している。これは高齢者宅に人感センサーと火災報知機を設置し、いつもと異なる活動をしていたり、煙または熱を検知したりした場合に、事業者のコールセンターから電話で本人に安否を確認し家族や友人に連絡をするというサービスだ。

北陸電力送配電の検針員が空き家の管理を行う

カメラ画像などによる監視ではないためプライバシーに配慮しながら行動を見守ることができるほか、コールセンターには看護師が常駐。現在、富山県富山市でサービスを展開する中で、市場性を考慮しながらサービスの拡充を検討している。

地方の過疎化、高齢化は今後深刻化していくと予想される。北陸電力、北陸電力送配電は地域に根差したインフラ企業として、ハード・ソフトの両面から地域を見守り続けていく構えだ。

記録的な暴風雪で停電発生 悪天候の中で早期復旧に尽力


今季最強の寒波が到来した1月7~8日にかけて、日本海側を中心に広い範囲で記録的な暴風雪に見舞われた。この影響で東北電力ネットワーク管内(青森、岩手、秋田、山形、福島、新潟の6県)で約17万戸、北陸電力送配電管内(石川、富山、福井の3県)で約1万5000戸が停電した。

東北電エリアにおける主な停電の要因は、雪によるものではなく、暴風に伴う倒木や飛来物により電線が断線したことだった。特に低気圧に近かった東北北部では、秋田県八峰町で7日夜に観測史上最も強い42・4mの最大瞬間風速を記録するなど、外出が危険なほど猛烈な風が吹き荒れたのだ。同社は、多くの世帯が停電した秋田・新潟両県に他県から応援隊を派遣するなど、最大1500人で復旧作業に当たり8日夜遅くまでに停電を解消した。

一方、北陸電エリアにおける停電の主因は、積雪による倒木などで、高圧線が断線したことによるものだったという。富山市で30数年ぶりに1mを超える積雪があるなど、各地で近年にない大雪が降り、その重みが直撃したのだ。同社は、管轄する支社に「警戒体制本部」を設置、12日午前8時までに復旧させた。

復旧作業は昼夜を徹して行われた

自然災害に伴う停電被害は、どうしても避けられないものだが、記録的な寒さの中では人命にもかかわるだけに、復旧作業は時間との戦いになる。今回も、天候の回復を待たずに夜を徹して作業が行われていた。過酷な状況の中で懸命に復旧に当たる作業員の姿に、両社のSNSには、「寒い中、不眠不休の作業ありがとう」「けがや事故がないように気を付けてください」といったコメントが多く寄せられていた。

脱炭素に逆行するパーム油発電 FIT認定見直しも骨抜きの懸念


バイオマスの中でも特に環境負荷が大きいパーム油発電を巡り、FIT認定に関する見直しの議論が進む。だが生産国との外交にも絡むことから官邸が介入。議論が骨抜きにされないか、懸念が広がっている。

温室効果ガスの排出を抑えた発電として注目されるバイオマス発電だが、トータルで排出量が高い燃料を燃やしている問題が浮上している。FIT(固定価格買い取り制度)に基づく認証制度の甘さが原因で、排出量の多い安い燃料を燃やしている事業者が後を絶たない。脱炭素の潮流に逆行する動きを、所管する経済産業省も問題視し、持続可能性を担保したバイオマス発電を導入するための制度改革に着手した。だが経産省の狙いとは裏腹に、前政権が残した負の遺産が大きな障壁となって立ちはだかっている。

経産省が設置したバイオマス持続可能性ワーキンググループ(WG)が昨年8月から議論を進めている。輸入燃料の持続可能性を担保する第三者認証の追加や、食料と競合しない基準をどう策定するかなどについて検討。また、燃料の栽培から加工、輸送、燃焼に至る全ての過程で温室効果ガス(ライフサイクルGHG)をどれぐらい排出しているかを確認する手法も大きな論点だ。

問題大ありのパーム油 GHGはLNG火力以上

燃料で最大の問題に浮上しているのが、ヤシの果実から得られる植物油のパーム油を使ったバイオマス発電の在り方だ。パーム油発電については、FIT創設時には第三者認証が必要なかった。主にインドネシアやマレーシアといった東南アジアからの輸入燃料で、安く大量に仕入れられることから多数の事業者が参入して、認定量が急増した。

2018年当時にあまりにも認定量が多くなったことが問題になり、経産省はいったん認定を制限する方向に傾いた。しかし事業者からの反発などで認定制限の期限を半年延ばしたところ、駆け込みでさらに認定量が増加した経緯がある。その後、新規認定する場合にRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)認証などの第三者認証によって持続可能性を確認するようになった。

しかしこのパーム油は、温室効果ガスを大量に排出する燃料なのだ。三菱UFJリサーチ&コンサルティングがまとめた調査によると、パーム油を使ったバイオマス発電のライフサイクルGHGは、LNG火力と同等か、それ以上の値を示している。温室効果ガスの排出を抑制するという触れ込みで、太陽光発電などの再生可能エネルギーと同じくFITが認められている燃料のはずなのに、である。このほかにもキャノーラ油、落花生油、ひまわり油、大豆油などについても、パーム油と同様の結果が報告されている。

しかも、パーム油は泥炭地と呼ばれる大量の炭素を含む湿地を改良して栽培されているところが多い。泥炭地を土地改良した場合のGHGは、通常の農園で栽培する場合に比べて5~139倍も排出が増えることが指摘されている。脱炭素の最大の敵である石炭をはるかに上回るのだ。FITで国民負担を強いていながら、温室効果ガスは化石燃料以上という話は、到底受け入れられないだろう。

現に日立造船が計画していた京都府舞鶴市の国内最大規模のパーム油バイオマス発電所は、地元住民や環境団体の猛反発に遭い、外資系の出資予定者が出資をしないことで断念した。

旅行大手のエイチ・アイ・エス(HIS)の関連会社が所有する宮城県角田市の発電所についても、環境団体などが反対署名を提出している。脱炭素機運の高まりとともに、厳しい事業環境に追い込まれている。

経産省のWGは、既存の認証案件については認証取り消しなどを行わない方向で一致しているが、今後新規に認証を取得する燃料については、ライフサイクルGHGを考慮した上で制限を掛ける意向を示している。パーム油は当然、認証外になるとの期待感が生まれている。ところが、どうもそう簡単にはいかないようだ。

問題大ありのパーム油発電もFITの恩恵を受けている

外交問題への影響を忖度か パーム油制限の着地点は

ある政府関係者は、「バイオマス燃料は外交問題の側面もあり、官邸がグリップしている」と打ち明ける。

安倍政権時代、インドネシアとマレーシア政府が当時の安倍晋三首相と会談した際に、自国の経済発展を後押ししてほしいと懇願。安倍首相は両政府に対して「支援する」と約束してしまったのだ。その方針は菅義偉政権にも受け継がれており、菅首相の外交デビューになったインドネシアでも支援を約束している。前出の政府関係者は「中国の脅威が東南アジアで広がる中、相手国の要望をむげにすることは今後の外交戦略に響いてくる。そういう判断が官邸内では共有されており、経産省だけで決められる案件ではない」と語る。

政権の顔色をうかがってか忖度してか、経産省WGも当初は燃料の線引きに前向きだったが、ここに来て「ライフサイクルGHGの高いものについては『買わない』ということではなく、買ってもいいが『使わせない』という方向にするように知恵を絞っている」(経産省関係者)とトーンダウンしている。トウモロコシなどの食料品燃料は認証外にする、とした明瞭さとはずいぶん差がある。

WGの審議は今後も継続するが、最終的な結論がいつまとまるのかが判然としない。その様子は、新型コロナウイルス対策が後手後手となり、支持率低下で早くも「秋まで持たない」とささやかれる菅政権の終焉を待っているかのようにも見受けられる。

欧州連合(EU)が策定した「EU-RED2」(欧州再エネ指令)では、バイオマス燃料を生産するための森林開発を、直接的にも間接的にも禁止している。日本国内でも一種の脱炭素ブームが起きているが、EUのようにバイオマスの分野でも野心的になれるかは疑問だ。

安倍前政権の負の遺産を引きずり、温室効果ガスの排出減につながらないバイオマス発電に継続的に金をつぎ込み続けることに国民は納得するだろうか。結論次第では、50年カーボンニュートラル宣言で気を吐く菅政権の欺瞞が垣間見られる一例となりそうだ。

【マーケット情報/1月29日】原油混迷、方向感を欠く値動き


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は引き続き、強弱材料が混在し、各地で方向感を欠く値動きとなった。29日時点で、米国原油の指標となるWTI先物は前週比で小幅に下落。中東原油を代表するドバイ現物も下落した一方、北海原油の指標となるブレント先物は上昇した。

経済の冷え込みにともなう石油需要後退への懸念が、WTI先物およびドバイ現物の重荷となっている。世界の新型コロナウイルス感染者数は1億人を超えた。変異株の感染も拡大しており、米国では28日、初めて南アフリカで変異したウイルスの感染者を確認。各国で移動規制が強化され、燃料用需要が一段と後退する見込み。また、米国の新政権は対中関税をただちに取り下げる方針はないと表明。米中関係の緊張が続くとの予測が台頭している。

一方、ロシアの2月輸出量は、前月比で減少する見通し。また、米国の週間在庫統計は、2020年7月以来の大幅減少を示し、ブレント先物を支えた。

【1月29日現在の原油相場(原油価格($/bl))】
WTI先物(NYMEX)=52.20ドル(前週比0.07ドル安)、ブレント先物(ICE)=55.88ドル(前週比0.47ドル高)、オマーン先物(DME)=54.63ドル(前週比0.51ドル安)、ドバイ現物(Argus)=54.70ドル(前週比0.34ドル安)

【マーケット情報/1月22日】原油、強弱材料入り混じり、方向感欠く


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、北海原油の指標となるブレント先物価格は小幅に上昇した一方で、米国原油の指標となるWTI先物原油価格は小幅に下落。強弱材料が入り混じり、方向感欠く展開となった。

価格を下支えしているのは、サウジの減産だ。

同国では、2月および3月の原油生産量を削減するため、契約者らへの供給量も同期間減少すると伝えられている。

一方、先週発表された米原油在庫統計は輸出量の減少を背景に増加を示した。世界的な原油需要の低下により、他国からの需要が弱い。

また、国際エネルギー機関は今年の原油需要予測に下方修正を加えた。世界各地で新型コロナウイルスの感染が再拡大しており、需要が鈍化する可能性が高い。ただ、後半はワクチンの効果もあり、急成長する見通しだ。

供給面では、イランからの輸出量が増加傾向にあることも下方圧力として働いている。

【1月22日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=52.27ドル(前週比0.09ドル安)、ブレント先物(ICE)=55.41ドル(前週比0.31ドル高)、オマーン先物(DME)=55.14ドル(前週比0.24ドル安)、ドバイ現物(Argus)=55.04ドル(前週0.29ドル安)

【コラム/1月25日】温暖化パニックに陥らずサプライチェーンに生き残る方法


杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

日本の産業界は、昨年10月の菅首相の所信表明における「2050年CO2実質ゼロ」宣言以来、温暖化問題で浮足立っている。また海外のIT企業などが、サプライチェーンにもCO2ゼロや再エネ100%を求めると聞いて動揺している。近頃では日本政府に30年の再エネ比率を高める要望を出す企業も増えてきた。

だが、太陽光発電にしろ、風力発電にしろ、バイオマス発電にしろ、火力発電や原子力発電に比べればはるかに高価だ。これは誰が負担するのか?

もしもこの費用は再エネ賦課金等などの形で他の企業に負担させて、自分だけはそのCO2や再エネとしての価値を安く買って、他のすべての企業の犠牲のもとに自分だけ生き残ろうというのであれば、ずいぶんと利己的な話だ。

そうではない、というなら、自分で費用を全額支払ってでも再エネ100%にしようという意思のある企業はどれだけあるのだろうか?ここで言う費用とは、もちろん補助漬けで安価になっている見かけの費用のことではなく、現実に社会全体として負担している費用のことである。これは平均発電費用だけではない。再エネを接続するための送電網の増強などの、電力システム全体に掛かる費用だ。

本当に自分で費用を全て負担する用意があるというなら、国に頼らずとも、自前で電気を調達すれば済むことだ。今ではCO2ゼロ電気や再エネ電気を売る企業は沢山ある。それでも足りなければ、だれでも電気事業に参入できるのだから、そうすれば良い。

国全体として経済とのバランスを考えるならば、現在進行中の長期エネルギー需給見通しの見直しにおいて最も重要なことは、日本はこれ以上高コスト体質になってはならない、ということだ。だから、30年の再エネ比率を高めることには慎重になるべきだ。もしも比率を高めたいというならば、それにかかる費用がどの程度になるかはっきりさせるべきだ。十分に安価になるならば別に反対しない。だが一定の費用がかかるであろうから、それが受容可能かよく検討し、制度設計に当たっては、その費用が決して膨らむことの無いようにすべきだ。

「それでは海外IT企業などのサプライチェーンから外される」と言う意見がある。だが本当にサプライチェーンに残りたいなら、何よりもまず、コストこそが最重要課題だ。CO2がゼロであろうが、再エネが100%であろうが、高コストではそもそもサプライチェーンに残れない。

そして、冷静に競合相手を見てみることだ。日本と競合してさまざまな部品を供給しているのは、中国を筆頭に、アジアの開発途上国がその大半である。これらの国々は日本以上に化石燃料に大きく依存している。CO2や再エネを理由に日本企業をサプライチェーンから外すというなら、いったいどこの企業から調達するというのか?

それに、海外のIT企業自体がやっていることも、よく確認すると良い。CO2ゼロとか再エネ100%とか言っていても、その費用を全額負担している訳では無く、他の国民に多くを負担させて調達していることがほとんどだ。これがいつまで長続きするかは、気まぐれに移ろいやすい政策次第である。

また、物理的な裏付けがあるとも限らない。たいていの場合はCO2排出権を買ってきたり、再エネ証書を買ってきたりして帳尻を合わせている。

日本企業も、どうしても必要ならば、海外の支店でCO2排出権を買ったり、再エネ証書を買ったりして、国内と通算して帳尻を合わせればよい。無理に国内だけで済ますよりも、その方が安上がりになる。COP(国連気候変動枠組み条約締約国会議)などの国際交渉の場では「排出権の国際移転」と言った途端に面倒な議論が始まるが、私企業であるサプライヤーが世界全体のどこで排出権や証書を買って帳尻を合わせても、海外IT企業がそれをことさら問題にするとは思えない。

むしろ、海外IT企業の側で排出権や証書をサプライヤーに売るサービスを始めるのではないか、と筆者は予想している。というのは、海外IT企業自身が大量に排出権や証書を調達するスキルを身に着けつつあるのみならず、品質が良く安い部品であれば、どの国の製品であれ、何とかして買おうとすることは間違いないからだ。

メディアがあおるパニックに陥るのではなく、どのような政策と企業戦略のセットがあり得るのか、冷静に検討したいものだ。

【プロフィール】1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。慶應義塾大学大学院特任教授も務める

【省エネ】排出ゼロと移行期 施策に明確な区分を


【業界スクランブル/省エネ】

省エネにはさまざまな手法がある。家庭分野の具体例としては暖房の設定温度を低くする、断熱性の高い窓にリフォームする、不使用時の照明を消灯する、省エネ型の電気製品を購入する、省エネ型の燃焼式給湯器を購入する―などだ。つまり、家庭・業務・産業・運輸分野において、我慢省エネ(最終的な効用の量、快適性などを抑制する)、必要負荷量の抑制(断熱性向上により、同じ快適性を維持するための空調負荷量を削減)、省エネ制御機器導入、エネルギー変換効率の高い高効率機器導入―などの省エネ手法があり、これらはどれも重要で、各需要家が費用対効果を考慮しながら導入判断をしている現状にある。

2050年のカーボンニュートラルを目指す場合、人類活動に伴うCO2排出量を実質ゼロにする必要があり、「徹底した省エネルギー化」を実現した上で、「再生可能エネルギー等によるエネルギー供給」が必要となる。国内最大の火力事業者は海外の再エネ・CCSを利用した、グリーンアンモニアなどの輸入による50年ゼロエミッション宣言をした。一方、メタネーションでは需要場所でのCO2排出を抑えられず、化石燃料起因でないC供給が限定されることから、化石燃料CO2の分散排出になるだけという懸念がある。

よって、50年には需要場所での炭化水素燃焼(ガソリン車や燃焼暖房・給湯)をストックでゼロにする必要がある。環境先進国・州では30年代にガソリン車の新規販売中止を宣言しており、米国の一部自治体では熱分野の脱炭素対策として、新設住宅・建物への燃焼暖房・給湯の禁止を実施済みである。つまり、ガソリン車の燃費向上や燃焼暖房・給湯機器の効率向上の省エネは、最終的なCO2ゼロ社会では必要ない施策となる。なお、現在のZEH・ZEBも燃焼機器を採用しているケースもあり、50年にCO2ゼロとはならない。省エネ施策はさまざまだが、脱炭素社会に向けた省エネ政策への移行として、「CO2ゼロにつながる省エネ」と「移行期の省エネ」を明確に区分し、脱炭素社会に向けた省エネ施策に注力する必要がある。(T)

【住宅】再エネからのみ蓄電 課題解消の政策を


【業界スクランブル/住宅】

2020年9月の調達価格等算定委員会の資料では、「住宅用太陽光発電は、20年度の調達価格がkW時当たり21円であり、さらに調達価格を低減させる場合、設置者の調達期間中の経済合理的な選択(自家消費を行うか、余剰売電を行うか)を変え得るという意義がある中で、21年度の調達価格をどのように設定するか」との記述がある。やや分かりにくいが自家消費を促進するような対策が出てくる予感がする。

また、21年度の概算要求の説明資料においても、「ZEHの実証支援:需給一体型を目指したZEHモデルや、超高層の集合住宅におけるZEH化の実証等により、新たなモデルの実証を支援します」との記載があり、自家消費電力量を増加させる需給一体型モデルが21年度の主流になると思われ、その主役は太陽光発電と蓄電システムのセット導入が考えられる。

「太陽光発電の余剰電力を昼間蓄電池にためて夜間に活用する」。再エネ推進者にとっては理想の姿であり、50年までにCO2排出量実質ゼロを目指すには必須であると思う。だが、実際の導入・活用に関しては課題がある。

まずは天候による発電量の問題であるが、雨・曇天日では、太陽光の発電電力は昼間の直接自家消費に回ってしまい、蓄電池に充電できるだけの余剰電力は出てこず、蓄電池の稼働率低下につながる。悪天候を予測して深夜の充電に切り替えるようなAI技術が期待される。蓄電池には太陽光発電からのみの充電を許容するような政策は愚策であるといえる。

また、太陽光発電と蓄電池のセットでは停電時のレジリエンス上のメリット訴求も導入拡大には非常に有効であるが、この提案は昼間しか発電できない太陽光発電所の弱点も同時にさらけ出すことになり、太陽光単体での導入とセット導入を切り分けてユーザーに説明することも重要なポイントになる。

需給一体型モデルに関しては、そのメリットだけではなく課題も明確にして、課題を解消できるような対策の立案、実施が望まれる。(Z)

【太陽光】50年ゼロエミ宣言 太陽光で水素製造も


【業界スクランブル/太陽光】

2020年はコロナ禍で世界中が未曽有の危機に瀕し日本も大打撃を受けた。一方で、7月に梶山弘志経済産業相が「再エネ型経済社会」の創造を表明、10月には菅義偉首相が所信表明演説で「2050年カーボンニュートラル」への挑戦を宣言し、一気に脱炭素化へとかじが切られる大転換の年となった。

この脱炭素化宣言はパリ協定の国際的な潮流に沿ったもので、気候変動対策を成長戦略として位置付けたものだが、具体的にどう進めていくかが鍵になる。審議会などでもさまざまな意見が交錯しているが、なぜカーボンニュートラルを目指すのか、その意義と絵姿を示した上で「国民の総意」形成が重要だ。イノベーションや事業構造・ライフスタイルの変化は、期待と覚悟を伴うものであり、国民や企業がどう対処するか改めて考え行動に移すためにも必要だ。

もちろん、太陽光は主力電源化への一層の取り組みとして①長期安定稼働、②技術革新、③地域との共生――を加速させるとともに、コスト削減と量の拡大も求められる。国民負担の抑制が課題だが、電力コストだけを見ても、将来的に便益が費用(国民負担)を上回ることがJPEAビジョンで示されており、将来世代への便益拡大に向け、今が戦略的投資のタイミングといえる。

また、電力系統増強・調整力は、再エネを最大限導入するために系統・調整力はどう在るべきかを考えるのが合理的であり、地方創生・地域経済循環の面からも国のエネルギー総合政策としての主導を期待する。

かつて日本は、公害対策先進国に転換、産業界では痛みを伴いながらも雇用創出・技術革新が進み、国際競争力を飛躍的に向上させた歴史を持つ。そして今、エネルギー輸入国から省エネ・再エネ先進技術輸出国へと転換を果たし、地域経済循環・レジリエンス強化による豊かで安全安心な都市・地域社会の創造を目指す。太陽は全てのエネルギーの源であり太陽のエネルギー源は水素である。太陽光で水素を製造し、電力貯蔵・供給する究極の世界をぜひとも見てみたい。(T)

【再エネ】相次ぐ閣僚発言 推進旋風吹く


【業界スクランブル/再エネ】

菅義偉首相や閣僚らによる洋上風力発電などの再エネ推進発言が相次いでいる。世界的な脱炭素の流れから再エネ比率目標の引き上げが求められており、閣僚らの発言から政府の本気度がうかがえる。きっかけは、安倍政権下で行われた2020年7月の経済産業省と国土交通省による「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会」の初会合だ。洋上風力の導入拡大、関連産業の競争力強化を官民一体で進めることが目的で、海洋土木工事などのインフラ整備、事業者の投資やコスト削減などの課題を熱心に議論してきた。

続いて菅首相は10月の所信表明演説で「省エネルギーを徹底し、再エネを最大限導入する」と表明。これに前後し、「脱炭素化実現に向け洋上風力など地域の再エネ導入の支援を行っていく」(加藤勝信官房長官)、「洋上風力発電投資拡大のチャレンジをする事業者を全力で応援する」(梶山弘志経産相)、「洋上風力発電について、汗をかくのが得意な国交省が力を合わせる」(赤羽一嘉国交相)、「再エネ推進の課題を洗い出し、一つずつ見ていきたい」(河野太郎規制改革相)、「国立公園内で再エネ発電所設置を促す規制緩和をする」(小泉進次郎環境相)など、内閣一丸となった再エネ推進旋風が巻き起こり、風力発電の普及は菅内閣の看板政策となった。

現行の第5次エネルギー基本計画は30年の風力などの再エネ電源構成比の目標を「22~24%」としているが、その底上げは既定路線だ。自民党の議員連盟は20年11月、再エネ比率を30年度に30%以上にする必要があるとし、導入を促すための規制緩和など具体策の提言をまとめることにした。日本経済団体連合会も新成長戦略を発表し、「政府は手広く再エネ全般を支援する政策を抜本的に転換し、競争力ある再エネに支援を重点化すべき」「例えば、調整コスト込みでも価格競争力を有する屋根置き等の太陽光や、大規模洋上風力発電など」と主張した。政治家や産業界の援護射撃を受け、第6次エネ基で洋上風力が主役の座を射止めるのは間違いなさそうだ。(B)

【石炭】炭治郎の人生観 『鬼滅の刃』の魅力


【業界スクランブル/石炭】

加藤勝信官房長官自ら「『鬼滅の刃』のアニメを見た」とした上で「メディア芸術はわが国が誇る日本文化として重要だ。引き続き支援したい」などと述べたことが報じられた。とにかく『鬼滅の刃』はすごい人気だ。「炭」と名が付く「炭治郎」の主人公名に興味をそそられる。

時は大正時代。木炭を売ることで田舎の家族は生計を立てていた。木炭が家庭用燃料として浸透していきながらも、石炭の流通は未整備であったという時代背景が読み取れる。

日本は西欧先進国の産業革命からの影響を受けて、明治時代の45年の間に国内での工業化も進みインフラは整備され、経済は着実な発展を遂げた。鉄道網の形成や汽船による水運が発達、「無限列車」が普通に走る。伊之助が戦いを挑もうとして失笑を買うが、石炭は一般化した。

背景に大正ロマンが見え隠れすることも興味深い。19世紀を中心にヨーロッパで展開した「ロマン主義」の影響を受け、大正時代の個人の解放や新しい時代への理想に満ちていたが、一方でどこか切ない現実逃避的願望が見られる。

仲間を失っても戦い続ける鬼殺隊の一員としての炭治郎には家族愛、復讐でなく修復、この世は捨てたものではないという人生観が認められる。退治されて当然という鬼もかつては弱い人間で、彼らも彼らなりの感情があることが共感を生んでいる。

戦国時代、炭治郎の先祖「炭吉」が「ヒノカミ神楽」を継承した。火に関わる仕事の中で、安全や災いが起きないよう、一晩中舞いを踊って祈りを捧げる。これは「水の呼吸」のような鬼側との戦いの型の原型だったのだが、炭焼き一家は技を伝承し、ついに子孫の炭治郎がこれを用い、鬼を退治する。

そして鬼のいなくなった現代、子孫の日常が平和な時代の中で対比される。人の生死と運命を正面から描き、生きることの切なさを訴えるこの物語は、多くのヒトを魅了し続けている。(T)

【石油】死刑宣告!? ネットゼロの衝撃


【業界スクランブル/石油】

2021年、新しい年が始まった。

新型コロナウイルスのまん延は、「グリーンリカバリー」(緑の復興計画)という副産物を生み、世界各国で脱炭素化の動きを加速させた。コロナ禍で対策と経済のバランスが意識され、気候変動対策もバランスある方向に進むに違いないと見た筆者の予想は見事に外れた。米国で環境対策重視のバイデン政権誕生も、コロナ禍の副産物かもしれない。

わが国も例外ではなく、昨年10月末には菅義偉首相が50年カーボンニュートラルを宣言した。これを受けて、総合資源エネルギー調査会はエネルギー基本計画改訂の審議を開始した。脱炭素化の方向が具体化される中で、石油業界も将来に向けて正念場を迎えることになった。

化石燃料業界にとって、脱炭素化は「死刑宣告に等しい」とする論評もある。しかし、現時点では、石油業界では、カーボンニュートラルは比較的冷静に受け止められている感がある。菅首相発言があまりに唐突で、実現可能性が極めて疑問であるからかもしれない。それ以上に、ネットゼロの実現は、政府や供給者側だけでなく、需要家・消費者が経済性や利便性に基づいて決める問題であろう。

19年度エネルギー需給実績によれば、最終消費ベースでは、電力化率は全体の26%にすぎず、74%は熱利用や輸送用の消費で、いまだ石油が48%を占める。この10年間、エネルギー政策の議論は供給側の再エネと原発に止まっていたが、今後は電化・水素化の可能性やエネルギーの消費形態にも踏み込んでいかざるを得ない。さらに、「ネットゼロ」の観点から、二酸化炭素回収・利用・貯留(CCUS)や炭素循環経済(CCE)の重要性が大きくなる。 石油業界も将来に向けた経営基盤の転換・拡大の中で、既存のインフラやノウハウなど優位性の発揮できる技術開発に取り組んでいく必要がある。その意味で、むしろ石油業界の役割や貢献は、これまで以上に重要になるに違いない。(H)

【メディア放談】米新政権のエネルギー・環境政策 バイデン政権をウオッチせよ!


<出席者>電力・ガス・石油・マスコミ業界関係者4人

米国大統領選の報道では、他国の選挙にもかかわらず日本のマスコミも過熱気味だった。だが、肝心の新大統領がどう政策を展開するのかについて、踏み込んだ記事は見られない。

――バイデン氏がアメリカ大統領に就任する。新政権はパリ協定、イラン核合意に復帰すると表明している。トランプ政権が温暖化対策に後ろ向きだっただけに、日本でも新政権の動きに敏感になっている。

電力 アメリカにかなりの数の日本人特派員がいるけれど、エネルギー・環境政策では、これといった報道は少ない。きちんと米国の政策の動きを見ているのはエネ研で、会員に配布している資料に網羅している。

石油 大統領選の報道は日本でも過熱したけれど、バイデン氏が当選した後、新政権のエネルギー・環境政策をマスコミはフォローしていない。パリ協定に戻るとしても、アメリカでは石油・ガス産業がものすごく力を持っている。石炭産業も健在だ。再エネを中心にCO2を減らしていくのは、簡単なことじゃない。そこに踏み込んだ記事がない。

マスコミ イラン核合意にしても、トランプ大統領は、イスラエルによるイランの核開発責任者の暗殺を容認している。トランプ政権の「置き土産」で、イランの姿勢を硬化させて、わざと復帰を困難にしたといわれている。これでイランの核開発が進むとの見方もある。バイデン大統領の政権になって、中東情勢は混乱を増すかもしれない。そんなことを分析する記事がない。

――バイデン大統領の民主党政権は、温暖化防止に大きく政策のかじを切り直しそうだ。

ガス バイデン氏は、初めは民主党左派への配慮から環境重視を打ち出していた。しかし、選挙戦が進むにつれて、現実路線に方針を修正している。民主党政権は雇用を重視するから、就労者の多い石油、ガスなどのエネルギー産業に大きなダメージを与えるような政策は取らないはずだ。

電力 それにしても、日本の新聞はどの記事も面白くない。一番注目していたのは、新政権の環境政策と外交とのリンケージがどうなるかだけど、どこも取り上げていない。

 温暖化対策は、先進国だけ力を入れても意味がない。これから急速にCO2排出が増える途上国を巻き込まないと、実効性のある枠組みはつくれない。そのための調整役を務めるのは、やはりアメリカが中心になる。

習主席「宣言」に不信感 化石賞を喜ぶ「識者」たち

――中国が温暖化防止に力を入れ始めた。それで、日本もうかうかとしていられなくなった。

マスコミ 中国の言うことは、まともには信じられない。習近平主席が2060年のゼロエミッションを宣言したけれど、本気でやろうとはしていないはずだ。アメリカがパリ協定に復帰すれば、先進国が足並みを揃えて中国の「約束違反」を批判できる。

電力 地球環境問題は、本来ならば先進国と途上国のそれぞれの温室効果ガスの現状と予想を分析して、対策を立てていくべきこと。だけど、それをマスコミも有識者もやろうとしない。そうかといえば、「COPで再び日本が化石賞を受賞しました」とかは熱心に報道する。

マスコミ また、日本にはそれをなぜか自虐的に喜ぶ「識者」たちがいる。

石油 新聞、テレビには期待していないけど、老舗月刊誌も以前のような「権威」や「威厳」がなくなった。昔の『文藝春秋』は、通して読むと知的レベルが上がったような気がした。ところが今は、途中で読むのを止めるような記事が多い。『中央公論』も読売の傘下に入ってからつまらなくなった。

ガス 『文藝春秋』『中央公論』にエネルギー環境問題で、読もうと思う記事はまずないね。週刊経済誌も似たり寄ったりだけど。

マスコミ 週刊ダイヤモンドが電力再編の連載を掲載していた。それなりに読ませたが、なぜ将来、再編が必要になるのか深掘りが足りなかった。

 国際大の橘川武郎教授のインタビュー記事も掲載されていた。エネルギー関連の学者では第一人者だけに、「なるほど」と思うところがあった。だけど、「事故を起こした東京電力には、柏崎刈羽原発を動かせない」との指摘はおかしい。

 仮に東北電力や日本原子力発電に参画させて、会社の「看板」を替えても、実際に運転・管理をするのは東電の社員と関連企業の作業員たち。地元の人たちは、彼らが再稼働に向けて汗を流しているのを見ている。それで原発を間近に見てきた自治体の首長らも、「運営は東電以外、考えられない」と言っている。

花盛りのゼロエミ報道 原発は継子扱い

――菅義偉首相が50年カーボンニュートラル宣言をしてから大手紙では再エネ、水素、EV(電気自動車)などの記事が目白押しになっている。

電力 まさに花盛りだね。再エネだけでカーボンゼロを実現できる、と勘違いしているんじゃないか。再エネを進めるのはいい。だけど原子力の役割も欠かせない。しかし、ほとんどのマスコミが原発は継子扱いだ。

ガス 特に最近の日経はバランスを欠いた記事が多い。科学部の気候変動の記事は、首をかしげるものばかりだ。むしろ、朝日の方がしっかり取材した記事を載せている。もっとも、結論は決まっているけど。

マスコミ 日経はとにかく景気優先の紙面づくりだから、先細りの原発には見切りを付けたんじゃないか。再エネ偏重の報道になっているけど、それで将来、国民が高いつけを払うことなっても、彼らは責任を取らないんだよ。

――また、最後は日経批判になってしまった。

【火力】発販分離後の責任 砂上の楼閣を懸念


【業界スクランブル/火力】

2020年、菅義偉首相から50年に向けたカーボンフリーへの取り組みが明示されたこともあり、今年は、これからの30年を見据え腰の据わったエネルギー政策の議論がなされることを期待している。しかし足元を見ると、昨年猛威を振るったコロナ禍の影響もあり、20年で完結するとされた電力システム改革の整備が十分できたとは言えないのが気に掛かる。

20年4月に送配電部門の法的分離がなされ発送電分離が実現したが、発電部門と小売部門、いわゆる発販分離については、最も根本的な前提条件が曖昧のまま次の議論が進められており、今後さまざまな不都合が生じるのではと懸念している。旧一般電気事業者の対応を見ても、火力燃料事業を分離してJERAを設立した東京電力、中部電力に対し、ほかは発販一体のままであり、制度が固まらないことで対応を決めかねていることがうかがえる。この根本的な前提条件とは、一点は供給義務の役割分担であり、もう一点は、CO2削減に向けた責任の在り方についてである。

発送電分離に伴い、最終的な供給義務は送配電事業者が負うことになり、小売り事業者には供給力確保義務が課されている。この結果、発電事業者は、契約の履行義務は負うものの供給義務からは解放された。またCO2の削減については、発電事業者に課せられているのは省エネ法による熱効率(≒CO2排出原単位)の規制でしかない。CO2排出量については、エネルギー供給構造高度化法で非化石電源の比率を30年に44%以上とすることを求められているが、義務を負っているのは、実は小売り事業者だ。

発電事業者が果たすべき責任について、発販一体なら簡単なことでも分離では整理すべき事柄は山ほどある。内部補助などといった観点から発販分離を徹底すべきというのであれば、まずこの点をはっきりと決めなければならない。より良い制度にするために、移行期に試行錯誤を重ねるのは必要なことだ。だが、いくら新たな施策を積み重ねても足元がしっかり固まっていなければ文字通り砂上の楼閣となってしまう。(Z)