【論点】台湾の脱原発/鄭 方婷 日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員
台湾の蔡政権は、数回実施した国民投票の影響を受けつつも、脱原発政策を維持してきた。
ただ、そこに脱炭素目標もかぶさり、電力需給ひっ迫という日本と同様の課題に直面する。
台湾の蔡英文現総統は、2016年に政権交代を果たして以降、「持続可能なエネルギー政策」を推進してきた。その柱となるのが、脱原発(「非核家園」=原発のないふるさと)と再生可能エネルギーの拡大である。
具体的な数値目標は、16年当時の石炭火力発電設備容量(約35・5%)を25年には30%に、原子力発電は約10・4%からゼロに縮小または廃止する。一方、これにより減少した電力供給は、天然ガスを約31・6%から50%に、再エネを約9・5%から20%に拡大して補う。特に台湾では原発の完全な廃止を目指すが故に、その道のりも平たんではない。
脱原発のプロセスが本格化したのは17年の「電業法」(電気事業法)第95条改正である。これにより、台湾最南端に位置する第三(馬鞍山)原発(屏東県恆春鎮)の稼働停止予定の25年をもって、全ての原発を停止させる計画に法的根拠を与えた。さらに政府は既存の原発について稼働免許を延長させない立場をとっており、実際はすでに一部の原発で廃炉プロセスが始まっている。
既存の4基の原発の中でも、第四(龍門)原発の廃止は、現与党民進党の政治方針における核心の一つである。民進党は原発反対の市民運動を支持するなど、脱原発の姿勢を貫いてきたが、現野党の国民党は、発電コストや電力供給の安定性などから一貫して原発支持の立場である。
国民投票で紆余曲折も 原発「段階的廃止」維持
その民進党が政権の座に就いて以降、台湾で行われた2回の国民投票では、脱原発自体の是非、第四原発の稼働の是非を問う投票案も含まれていた。台湾ではエネルギー問題が最優先の政治課題の一つであるといっても過言ではない。
しかし、これまでの脱原発への道のりは必ずしも順風満帆ではなかった。18年11月に実施された1回目の国民投票では、脱原発の是非を問う投票案が否決され、改正電業法第95条にある「すべての原発は25年までに稼働停止とする」との規定が直ちに廃止された。その上、2年間は同様の法改正ができない仕組みとなっており、「25年の脱原発」は法的根拠を失ったのである。
その後、第四原発の商業運転再開に関する国民投票運動が組織され、21年12月下旬に国民投票が実施されることが決定した。国民投票案は、有効同意票が反対票よりも多く、かつ有権者総数の4分の1以上であれば可決される。第四原発の商業運転再開を求める投票案はこの条件を満たさなかったことから、現在の「原発の段階的廃止」という政府方針が今後も継続される見込みである。
台湾で脱原発の準備が着々と進む背景として、民進党への政権交代のほかに、いくつかの理由も挙げられる。まずは福島第一原子力発電所の事故である。地震が頻発する台湾では社会に大きな衝撃が走り、13年3月には大規模な反原発デモが組織され、22万人以上の市民が参加したといわれる。
また、13年には第四原発の所在地および付近の海域に新たな断層帯が発見されている。その上、第四原発については設計上のトラブル発生、安全確認・試運転テストを完全にクリアできなかったといった事情があり、安全性そのものへの不安が解消されていない。
さらに日本と同様、核廃棄物の処理も深刻な問題として強く認識されるようになった。台湾においても、核廃棄物の処理や安全性対策などを考慮すると、原発はもはや安価な発電手段とは言えなくなっている。
第四原発の稼働は先送りされることに
出典:台湾電力会社
CNと脱原発両立は可能か 電力ひっ迫が最大の課題
台湾では「温室効果ガス削減管理法」により、温室効果ガスの排出を「50年に05年比で50%削減」と定めている。また、蔡総統は昨年4月の「世界地球日」に際し、「カーボンニュートラル」を新たな政策目標として打ち出すなど、世界的な脱炭素の潮流に合わせた積極的な姿勢をとっている。カーボンニュートラルとは、50年前後にCO2などの温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることで、地球全体の気温上昇を1・5℃以内に抑えるための必要条件の一つとされている。
16年から本格的にスタートした台湾のエネルギー・トランジションは、20年までの途中経過を見ると、確かに原発は減って約 6・7%に、再エネと天然ガスは増えてそれぞれ16・4%、32・4%になっているが、同時に電力需要の急増に伴い石炭火力も36・4%と増えてしまっており、新たな課題に直面している。
電力需要の増加の裏には、好調な経済がある。半導体・精密機器をはじめとする製造業は内需・輸出ともにパンデミック下でも好調を維持しており、昨年、通年のGDP成長率も6%以上と推定されている。こうした状況下で電力需要も高い水準で推移しているが、さらに熱波・寒波といった異常気象が発生すると、電力需要の突然の増加に現行の電力網が対応できず、供給トラブルに(再び)陥る可能性は小さくない。
実際、昨年5月中旬には、新型コロナウイルス感染症の急拡大と連日の猛暑が重なり在宅勤務者が増えたことで、全国で大規模停電が複数回発生する事態となった。これを受け、政府は4カ所ある原発のうち唯一稼働している第三原発の2号機を発電量の上限まで稼働させ、さらに年度整備・メンテナンス中の1号機も予定を繰り上げて運転を再開させ、事態の収拾を図った。
エネルギー・トランジションで、原発に依存せずカーボンニュートラル目標の達成を目指す台湾だが、好調な経済活動や異常気象による電力需要のひっ迫は、今後も最大の課題であり続けるだろう。
ちぇん・ふぁんてぃん 2005年国立台湾大学政治学部卒。09~14年に東京大学法学政治学研究科で修士号、博士号(法学)取得。14年から現職。