現場作業の進捗を「見える化」ICT・IoTで新しい働き方を


【中部電力パワーグリッド】

中部電力子会社の中部電力パワーグリッドはこのほど、ICT・IoTを活用し、現場作業の業務進捗や設備状態を事務所などからいつでもどこでも「見える化」する、「らくモニサービス」を開始した。同サービスは、自治体や法人向けに三つのサービスを展開する。

「らくモニCamera」で進捗管理

一つ目は現場作業の情報を管理する「らくモニIoT」。二つ目は作業場所に設置し、自動撮影が可能なサービス「らくモニCamera」。最後にセキュリティーの高い通信サービスを安価で提供する「らくモニSIM」だ。

三つの「らくモニ」サービスに共通するのは、現場の設備状況や作業状況を事務所からでも遠隔監視によりリアルタイムで把握できる点だ。

「らくモニ」の全貌 新しい働き方の実現へ

らくモニIoTは、現場作業員の位置情報など、GPS端末を用いて現場の情報を把握し、クラウドで一元管理する。現場の働き方改革を推進し、協力会社とスムーズに連携するなど、遠隔での情報共有が容易になる。具体的には、GPS端末を携帯した作業員の位置情報を事務所や在宅などで管理し、作業員はスマホで作業の進捗状況などを報告することができる。

らくモニCameraは、現場に設置する自動撮影カメラからデータのクラウドサービスまで、ワンストップで提供するサービス。会社や在宅からでも現場を写真撮影することができる。あらかじめ設定した日時に定時撮影も可能だ。 自動撮影カメラが活躍するのは、作業現場の着雪状況を監視したい時。会社や自宅からでも撮影指示ができるので、除雪タイミングをいつでもチェックできるため、現場出向削減や安全品質向上につながる。

らくモニSIMは、同社が携帯電話会社から通信回線を借り、自治体や法人向けにデータ通信サービスを提供するサービス。最大の特長は、データ通信量を現場間でシェアすることができるため、実質料金が安くなる点だ。NTTドコモとauのエリアで選ぶことができる。また、閉域通信とSIM間通信も実現するプランもあるため、インターネットにつながらない環境下においても安心して通信することができる。

中部電力パワーグリッドでは、らくモニサービスを利用することで、現場作業の見える化を可能にし、業務の効率化やリモートワークの定着など、新しい働き方を実現する構えだ。

先行地域100カ所で脱炭素 「再エネ交付金」構想が進行


地域の脱炭素化への移行を後押しするため、政府が6月9日に地域脱炭素ロードマップを策定した。再生可能エネルギーのほか、省エネや電化、電動車の活用などを組み合わせ、地域課題の解決も図る。2030年度までに「脱炭素先行地域」100カ所以上をつくるとしているが、資金支援のスキームとして、エネルギー対策特別会計を活用した新たな交付金構想が浮上。8月末までに具体化し、環境省が22年度概算要求に盛り込む予定だ。

自家消費型太陽光など再エネ活用を駆使する

小泉進次郎環境相は会見で原発立地地域への交付金を引き合いに出し、「今までだったら電源立地交付金、これからは再エネ立地交付金だという議論を正面からしていきたい」と強調。ただ、「電源立地対策」ではなく、再エネや省エネの推進などを図る「エネルギー需給構造高度化対策」に組み込む形で調整されるとの見方もある。

気になるのがFIT(固定価格買い取り制度)との関係。環境省は「FIT電源の活用は排除しないが、賦課金を受け取っている事業者がさらに交付金も受け取るような形はイメージしていない」(環境計画課)と「二重取り」は認めないという。ただ、地域の脱炭素化のためには一層の公的資金の投入は避けられそうもない。

貸付配管問題に行政のメス LP減少には歯止め掛からず


LPガス需要の減少に歯止めが掛からない。電力・都市ガス全面自由化による競争激化のあおりを受け、全電化や都市ガスへのシフトが加速。最盛期の1996年度に約1970万tだった需要規模は、2020年度には1200万t台へ。全国の利用世帯数もついに2000万を割り込んだという。販売店数は90年代に3万数千店あったが、現在は半分の約1万7000店程度にまで減少している。

賃貸住宅のオーナーにとっても貸付配管は魅力的だった

「全国のガス利用世帯をLPガスと都市ガスが二分していると言われていた話も、今は昔。その差は着実に広がっている。90年代後半、業界全体が21世紀は2000万t時代の幕開けだと盛り上がっていたのがウソのようだ」。LP業界の幹部はこう嘆く。

そんな中、LP業界が顧客囲い込みの商慣行として長年続けてきた集合住宅向けの「貸付配管」に行政のメスが入った。エネ庁と国土交通省はこのほど、LP業界や不動産業界の団体に対し、LP仕様の集合住宅については入居希望者にガス料金の明示を求める通知を出したのだ。従来、配管などガス設備の貸与料が料金に含められ、「LPガス物件はガス代が不透明で高い」との批判を招いてきたが、入居前から料金水準を確認できるようにすることで、利用者保護を図る狙いがある。

「あくまで行政指導なので実効性は大いに疑問だが、そもそも今は脱炭素化対応などで『太陽光+電化設備』という物件が増えつつある。LP仕様は自然淘汰されていくだろう」(前出幹部)

コロナ禍による在宅増加で販売業者の足元の収益は改善されているものの、潮流は「脱LP」。新たな一手が求められている。

【イニシャルニュース】福島原発事故に翻弄 原子力学識者の悲哀


福島原発事故に翻弄 原子力学識者の悲哀

福島第一原発事故から10年。当時原子力界をリードしていた学識者の中にも、世間の批判を浴びた人たちがいた。

親しい原子力業界関係者が集まり、当時の学識者を評価する会合が開かれた。それぞれを「能力」「迫力」「人柄」の3分野で5段階で評価し合い、点数を決めるものだ。

会合出席者の同情を集めたのが、福島事故時に安全委員長に就いていたM・H氏。能力・人柄は5点だが迫力は1点。福島事故では、ヒステリー状態になったK首相に話を聞いてもらえず、なすすべもなく耐えていた。事故後、公の場に出ることもほとんどない。「温厚な人柄で学者としても一流なだけに残念」(関係者)との声が聞かれる。

3分野で全て5点の評価を得たのは一人のみ。M・S元安全委員長だ。国営原子力研究機関で初のプロパー理事長を務め、原子力規制行政でも実績を積んだ。福島事故の後も、産業界が設立した安全関連の組織の会長に乞われて就任している。

新設された規制委員会の長に就任したT・S氏の評価は、バラツキがあった。能力4点、迫力5点だが人柄は1点。新組織での専横的な進め方が批判されていたが、さらに「目下の者に横柄」(関係者)な態度で評価を下げている。

福島事故に直面した学識者の評価は

番外編は、経産省の安全保安院の長だったT・N氏。事故発生時に首相から質問され、「私は文系です」と答えひんしゅくを買った。だが、「コピーを人に任せず、自分で取るような人」(経産省関係者)。経済学部を首席で卒業した能吏でもあり、事務系ながら事故時にトップに就いていた巡り合わせを気の毒に思う関係者は多い。

エネ庁幹部叱責 K大臣の政策能力は?

2050年カーボンニュートラル実現を標榜する現政権。その意向を受け、再エネ導入推進のためにスタートしたK大臣直轄のタスクフォース(TF)だが、最近の傍若無人ぶりに本来自陣営であるはずの再エネ関係者からさえすこぶる評判が悪い。

再エネ事業者のA氏は、「特定の新電力や再エネ事業者を厚遇するような公平性に欠く議論が繰り広げられており、このままでは将来の再エネ普及にとって、マイナスにはなってもプラスにはならない」と目を覆う。

TFの議論に反発する人たちが口々に言う共通ワードがある。それは、「まるでかつての民主党政権を見ているよう」―だ。

6月3日の会合では、TF側が策定中の第6次エネルギー基本計画に「再エネ最優先の原則」を明記するよう要望したのに対し、エネ庁幹部が回答には審議会での議論を踏まえる必要があることもあり、「エネルギー政策の原則は『S+3E』だ」と述べるにとどめ、回答を見送る場面があった。これに対し、K大臣は「言葉遊びはいい加減にしてもらいたい」と強い口調で言い放った。

学識者のX氏はその様を「どう喝だ」と言い、「『原則』は審議会でさえ変えることは難しい。その場で即断など役人にできないことなど大臣なら知っているはずだ。審議会に諮るにしたって大臣判断になるし、梶山大臣にK大臣の指示に従えと言っているようなものだ」と憤る。

何より、エネ庁側から出席していたM部長は、再エネ振興に尽力してきた功労者。エネ基議論に携わるZ教授も、「K大臣には、エネルギー政策の担当能力がないと言わざるを得ない」ときっぱり言う。

地球環境産業技術研究機構(RITE)が試算した、再エネ大量導入時の統合コストにもおかんむりの様子だったが、「そもそもTFには、再エネの系統統合についてまともに議論できる人はいない。K大臣にとっては不幸な話だ」(X氏)。

TFが主張するように再エネが安いのであれば、そもそも「再エネ最優先」をエネ基に明記しなくても市場原理で主力電源化は進むはず。実はそうではないということを、大臣も周囲の人々もよく分かっているのかもしれない。

エネルギー業界からは、「現政権がよもやエネルギー安定供給に相反するようなことはするまいと信じてきたが、このまままい進するならこれ以上支持はできない」との声も聞こえる。

未来の総理大臣と目されるK大臣。ワクチンのみならず、エネルギーを巡る言動も画面を通じて国民は注視していることをお忘れなきよう。

小泉環境相の珍問答 業界紙が大々的に報道

〈菅首相、角栄氏創設「電源三法」改正視野 脱炭素化へ「再エネ交付金」制度創設 政府内で検討へ 切り込み隊長は小泉環境相〉

これは、環境分野の大手業界紙K新聞6月16日付1面トップ記事の見出しである。メイン8文字・サブ10文字前後、漢字の羅列・単語の重複はNG、可能な限りシンプルにといった新聞見出しのセオリーをことごとく無視した文章が気になって内容が頭に入ってこないが、要は再エネ主力電源化に向けて立地地域に政策資金を投入する目的で「電源三法」を改正するという内容。それを菅義偉首相が判断したと報じていることから、インパクトは絶大だ。

記事を書いたのは、この業界の名物・ベテラン記者のK氏。独特の切り口やツッコミが持ち味で、小泉進次郎環境相も定例会見でたびたび名指しするなど、「環境官僚で知らない人はいない」(環境省A氏)と言われるほどだ。

再エネ交付金を重ねて強調した小泉環境相

そんなK氏と小泉氏が業界紙重鎮記者S氏を交え、6月11日の会見で珍問答を繰り広げた。口火を切ったのはS氏。国の専門家会議がまとめた地域脱炭素工程表に関連して、担い手となる再エネ事業者の多くが中小で財務基盤が脆弱な問題を投げ掛けた。

これに対し、小泉氏は「ポイントの一つが、複数年度にわたる自治体に対する資金支援を抜本的に見直し、『再エネ立地交付金』のような新たなスキームをつくることだ」と強調。その上で「再エネ立地交付金をどのような制度設計にするか、議論を通じて明らかにしていく」と述べた。

これにすかさずK氏が食らいついた。エネルギー対策特別会計の電源立地地域交付金制度を引き合いに、再エネ交付金創設に向け梶山弘志経産相と話をつけたのかと質問したのだ。小泉氏は政府部内の調整はこれからだとしながら、次のように回答した。

「電源立地交付金の使い道については、一部からは批判もある。本当にそれ、電力と関係あるんですかという。再エネ立地交付金は、よりよいものにしたい。そして国が全面的に資金支援する形で(国策民営の下で)日本から再生可能エネルギーメジャーを生み出していく」

冒頭のK紙は、小泉氏が電源三法の改正を視野に入れているという前提で、会見でのやり取りを事細かに記している。ただ関係者によると、政府が想定しているのは、おそらくエネルギー需給勘定をベースにしたもので、電源立地対策ではないとのこと。なお電源三法所管の経産省関係者はK紙報道に対し、冷ややかな姿勢を見せている。

脱炭素傾倒のN紙 行き過ぎで方針微修正

ここ数年、再生可能エネルギーや水素など新エネ重視の方針から「脱炭素新聞」と言われることもある大手経済紙のN紙。裏事情に通じたS誌には、N紙を「脱炭素商売」とやゆする記事も掲載された。記事は、O会長の方針で編集と営業が一体となり、広告や協賛金狙いで報道がゆがんでいると批判している。

一方の企業側も、そんなN紙の編集方針を利用しつつ、営業戦略として再エネなどには宣伝費用をかけ、自社のPRに力を注いでいる。

ただ、ここに来てN紙はその方針を微修正し始めたようだ。これまでは新エネの技術開発絡みのネタであれば、中身を問わず紙面を割く傾向にあった。しかし「玉石混交がすぎる」との批判があったのか、さすがにその方針が露骨すぎるとして、実装まで多くの課題を包含する水素やアンモニア、全固体電池については、上層部から記者に対して慎重に取り扱うよう指示があったという。

現場記者の中には、過度な脱炭素・再エネ追求は非現実的との考えを持つ人も少なくないと聞く。今回の編集方針修正は、「中正公平」「経済の平和的民主的発展を期す」という社是に立ち返る第一歩となるのか。

【マーケット情報/7月2日】米国、中東原油が続伸、需給逼迫の観測強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、米国原油の指標となるWTI先物と、中東原油を代表するドバイ現物が続伸。需給逼迫の見込みで、引き続き買いが優勢となった。一方、北海原油の指標となるブレント先物は、前週比で小幅に下落した。

米国では、製油所の高稼働で、週間在庫統計が6週連続で減少。また、インドでは、新型コロナウイルスの感染拡大が減速し、ロックダウンが緩和。車による移動が増え、6月前半の燃料需要が前月同期比で増加した。それにともない、国営製油所が徐々に稼働率を引き上げている。

さらに、米国が、親イラン武装勢力を空爆したと発表。米国とイランの関係悪化にともない、米国の対イラン経済制裁が継続し、イラン産原油の供給回復が見込めないとの予測が強まった。

欧州でも、ワクチン普及が進み、ロックダウンの緩和、および燃料需要の増加が続く。ただ、英国では、新型ウイルスのデルタ変異株の感染が拡大。欧州諸国は、英国からの入国規制を導入し、航空機用燃料の需要回復は限定的との見方が広がった。加えて、オーストラリアやマレーシアも、デルタ変異株の感染者数増加を受け、ロックダウンを再導入。ブレント先物の重荷となった。

OPEC+の8月以降の生産計画は、アラブ首長国連邦の意見に相違があり、合意に至らず。方針の決定は、5日に持ち越された。

【7月2日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=75.16ドル(前週比1.11ドル高)、ブレント先物(ICE)=76.17ドル(前週比0.01ドル安)、オマーン先物(DME)=74.39ドル(前週比0.98ドル高)、ドバイ現物(Argus)=73.73ドル(前週比0.16ドル高)

【コラム/7月5日】英国の電力自由化を振り返る


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

英国は、1990年に欧米先進国ではいち早く電力の小売自由化に踏み切った。当初は、小売の部分自由化であったが、1999年には全面自由化に移行している。卸電力市場では、小売自由化の開始とともに集中的な取引制度である強制プールが導入されたが、主要な発電事業者による市場支配力の行使が排除できなかったため、2001年に相対取引制度であるNETA(New Electricity Trading Arrangements)が導入された。NETAは、2005年にはイングランド・ウェールズのみならずスコットランドもカバーするBETTA( British Electricity Trading and Transmission Arrangements )に発展している。NETAの導入時に、英国政府は需給調整市場の設立のみに責任を負い、取引に強制プールのような規制的な要素を排除し、民間の自由な市場活動を重視した。

しかし、その後10年ほど経ち、英国は急速に規制に回帰するようになった。その背景にあるのは、市場メカニズムに依存するだけでは、低炭素社会の実現や供給保障の確保は困難と判断したことが挙げられる。そのため、英国政府は、2011年に電力市場改革 (Electricity Market Reform: EMR)を発表し、自由化市場の下での低炭素電源促進のために、1)再生可能エネルギー電源、原子力、CCS設置の石炭火力等を対象に差金決済型の固定価格買取制度(Contract for Difference Feed-in Tariff: FIT-CFD)の導入(2014年から実施)、2)CO2排出価格の下限値の導入(2013年から実施)、3)新設火力のCO2排出基準(年間450g/kWh)の導入(2014年に建設許可を受けたプラントから適用)を決めるとともに、供給保障の確保としては、キャパシティメカニズム (Capacity Market: CM)を導入することとなった(2018年から実施)。

また2019年には、英国政府は、原子力発電に対して、FIT-CFDとは異なる新たな価格設定方式として規制資産ベース(regulatory asset base: RAB)の価格設定を提案している。FIT-CFDは、政府と原子力発電事業者との間で合意された投資回収に必要な基準価格(strike price)と卸価格に基づき算定される指標価格(reference price)との差を事後的に決済するものである。これに対して、RABは、資本収益率も考慮し、すべての費用を積み上げ総収入を決定し、費用は最終的に需要家に転嫁するものである。しかも、FIT-CFDとは異なり、建設段階から安定的な収入を得られるようにし、大きな影響を及ぼす経済的、政治的リスクへの対処にも政府が支援するとしている。これは、独占時代の総括原価主義への回帰といってよいであろう。

また、同じ2019年には、高齢者や経済的に困窮している需要家層が多く契約している標準料金が割高に設定されているとのマスコミ等からの批判を受け、価格競争は完全には機能していないとして価格上限規制を導入している。

1990年の電力自由化から20年ほど、英国は自由化の旗手として、欧米各国のお手本を示したが、現在では最も規制色の強い国となってしまった。自由化当初は、多くの識者は、環境保全や供給保障の確保は市場の自由化と基本的に矛盾しないと述べていた。果たしてその見解は正しかったのであろうか。実際は、市場の自由化が環境保全や供給保障の問題の解決を難しくしたというのが正解であろう。言い換えれば、自由化市場に大幅な制約を設けなければ、環境保全や供給保障の問題の解決は難しいことを、英国の例は示したといえるだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

地域資源を生かし再エネの導入を拡大 カーボンニュートラルへ挑戦


【東北電力】

東北電力グループは、再生可能エネルギーをカーボンニュートラルに向けた重要な電源と位置付け、「再エネ電源の開発」と「再エネ発電事業の持続的・安定的なサポート」の両面から、再エネの導入拡大を図ることで、地域の再エネポテンシャルを最大限に活用する方針だ。

地域における責任ある事業主体として、再エネの導入拡大を図る

同社グループは、1951年の創立以来、70年にわたり、東北6県および新潟県において、豊かな自然を生かし、多様な電源開発に取り組んできた。

創立70年の経験を生かし 再エネの有効活用へ

地域の豊富な再エネポテンシャルを生かすべく、さらなる再エネの導入拡大に向け、200万kWの新規開発を目標に掲げ、積極的に取り組んでいる。今年4月末時点で持分出力を約55万kWまで積み上げている。

これまでの取り組みで得られた知見やノウハウを最大限に活用し、太陽光、陸上風力、着床式、さらには浮体式の洋上風力までを見据え、2030年以降、できるだけ早期の目標達成を目指す考えだ。

また、21年4月には、地域の再エネ電源の持続的かつ安定的な運営をサポートする「東北電力リニューアブルエナジー・サービス」を設立した。

電気事業のノウハウと、技術者などの人的ネットワークを生かし、再エネ電源のメンテナンスやオペレーション、技術者のトレーニングなどのサービスを提供する。再エネ発電事業者と協議を進めており、今後も積極的な営業活動を展開していく考えだ。

東北電力リニューアブルエナジー・サービスの基本サービス

東北電力グループは、世界的な脱炭素の動向を踏まえ、「東北電力グループ“カーボンニュートラルチャレンジ2050〟」のもと、「再エネや原子力の最大限の活用」と「スマート社会実現事業の展開」を中心に、カーボンニュートラルに向け、主体的に挑戦していく。

太陽光被害のまん延防止ならず FIT機能不全ぶりの実態


政権が再エネ拡大路線を進む中、トラブルの被害者はFITの機能不全ぶりを嘆き続けている。

エネ庁は段階的に対応を強化するが、初期に導入された不適切設備への対応は後手後手が続く。

5月末、50 kW未満の小型太陽光発電設備を巡る訴訟が、東京高等裁判所で始まった。小型太陽光を巡る訴訟で高裁まで行くのは初の例だという。原告は山梨県北杜市の住民ら。太陽光の乱開発に悩む同市の近況は、本誌6月号の特集で報じた通りだ。この訴訟のケースでは、斜面の上に建つ家を囲むように並ぶパネルにより、さまざまな悪影響が生じたと住民側が主張。事業者にパネル撤去と損害賠償を求めたが、甲府地裁での第一審では原告の請求がいずれも棄却された。この判決が高裁で覆るのか否か、注目されている。

原告は、電磁波障害や低・高周波音による健康影響、眺望障害、生活妨害など、さまざまな問題点を訴えている。例えば、パネル下で暖められた空気が流れ込み住宅内の温度が上昇。住民が5カ所で30分ごとに1年間測定したデータを提示したが、甲府地裁は信頼性に欠けると判断した。また、住民はパワーコンディショナーの電磁波が原因とみられる呼吸困難や息苦しさといった健康被害を主張。医師の診断書を提出したが、WHO(世界保健機関)などの見解を理由に、これも採用されなかった。

一方、当該設備がFIT(固定価格買い取り制度)法や電気事業法違反であるとの訴えについては、特に何の判断も示されず。そして訴訟の途中で裁判長の交代があり、後任の裁判長は原告が求めた現地視察に応じないまま判決を下した。

地裁判決は到底受け入れられないとして、原告は控訴。事業者は訴訟中にもパネルをたびたび増設しており、原告側は当初と状況が変わっているとして、高裁で改めて裁判官の現地視察を求めるとともに、気温データについても詳しく説明したいと訴えた。しかし裁判長は、証拠の検証や現地視察は必要なしと判断。このまま8月頭には判決が言い渡される予定だ。

原告側の梶山正三弁護士によると、太陽光訴訟で住民側の勝訴は1例にとどまるという。梶山氏は「FIT法や電事法で求める項目を強制する構造になっていないことは制度的な欠陥だ。例えば太陽光発電の架台については日本工業規格で定める強度の確保を求めているが、チェックするシステムもないし、違反してもFIT認定に影響がない」と強調する。

裁判に発展した設備は係争中も増設が続いた

たびたび制度見直しも 初期認定設備の是正難しく

このようなトラブルは後を絶たず、防護柵や標識がないケースもいまだ散見される。資源エネルギー庁新エネルギー課は「地元とのさまざまなトラブルが生じていることは承知している」(清水淳太郎課長)とし、これまで数回実施した法や省令の改正に加え、現在も複数の措置を準備していると説明する。

例えば20年の法改正では、全ての事業用太陽光に対する廃棄等費用の確保を担保する仕組みを措置。また10~50 kW未満の太陽光に対し、20年度から一定の自家消費比率を求めるなどの「地域活用要件」を設け、小型設備の規律強化を進める。ほかにも、FIT認定取得後の未稼働案件対策として、一定期間内に運転開始しない場合の認定失効制度を創設する。エネ庁は、特に未稼働案件には段階的に対策を講じ、措置が一定程度仕上がっているとの見解を示す。

確かに今後新たに導入される設備に対する規律は強化されているが、問題は初期の緩い網を抜けて急増した不適切設備への対応が追い付いていない点だ。

エネ庁は不適切設備の情報提供フォームを設けているが、数の多さに地方の経済産業局の人手が間に合っておらず、違法設備を放置しやすい構造が常態化しつつある。エネ庁は対応のスピードアップに向け、取り締まりに関する補助作業への予算措置を講じるものの、現状は一歩一歩の改善になってしまっていると釈明する。

例えば北杜市のトラブルは主に、規制が緩かった50 kW未満への意図的な設備分割の案件に多い。設備分割は14年の省令改正で禁止されたが、一度認定された設備への事後対応は難しいという。同一事業と思しき一区画に標識が複数枚あるような場合でも、1年さかのぼって事業者や地権者が別々であれば、別物の事業であると判断されてしまう。

2030年の太陽光導⼊⾒通し出所:資源エネルギー庁作成資料

また16年の法改正では、関連法令の遵守など、基準に適合しない事業に対する認定取り消しができるようになった。しかしこうした認定取り消しは、19年に沖縄県内の8件の太陽光設備に対し、農振法違反などを理由に取り消しとした1回だけだ。エネ庁は、取り消しに至らずとも途中の指導などで改善するケースがあると説明するが、実態はその説明通りなのか、検証が必要だろう。

人手不足改善されず さらなる対応は条例頼み

エネ庁は違反設備に対し、遡及適用も含めたさらなる規制強化や、認定失効の迅速化・強化といった対応には及び腰だ。

「再エネとの共生の在り方は地域によってさまざま。全国一律の基準を設けるよりも、地域の実情に応じた条例の策定が重要」(清水課長)との考えから、条例策定のサポートを強化するとしている。しかしFITが機能不全のままでは、自治体に負担のしわ寄せが行くだけだ。

関係者の中には、現在は未稼働案件への対策強化を受け稼働が進みつつあることや、カーボンニュートラルの盛り上がりの裏でネガティブな報道も増えていることから、トラブルが目立ちやすいと語る人もいる。そんな見解を、トラブルに悩む当事者はどう受け止めるだろうか。

政権が再エネ拡大路線を突き進む中、「温暖化ガス30年46%減目標の達成にはリードタイムの短い太陽光導入の加速が不可欠」といった声が強まっているが、トラブルを見逃してしまう構造の抜本見直しも待ったなしだ。

配電事業への新規参入を解禁 強靭化や再エネ拡大など狙う


資源エネルギー庁は6月、エネルギー供給強靱化法に位置付けられている配電事業制度の詳細設計を取りまとめた。今後、パブリックコメントを踏まえて正式決定し、2022年4月のスタートに向け省令改正などの手続きに着手する。

配電設備を活用した新たなビジネスの創出が期待される

同制度は、①供給安定性やインフラの強靱化、②電力システムの効率化、③再生可能エネルギーなど分散型エネルギーリソース(DER)の導入促進、④地域サービスの向上―といった効果を狙い、小売り全面自由化後も規制が継続している配電分野への新規参入を可能とするもの。制度により、配電事業者は、特定のエリアの配電網を一般送配電事業者などから譲り受け、または借り受けて事業を運営することが可能になる。

想定されているビジネスモデルの一つが、災害に伴い長期間の停電が想定される際に上位系統と切り離し、配電網につながる再エネやDERを利用して独立運用する「緊急時独立運用型」。事業エリア内の供給安定性や、インフラの強靱化が期待される。

もう一つが、デジタル技術による出力制御の高度化や地域のDERを活用した運用の高度化により、特別高圧の設備増強を回避しながら再エネ大量導入に貢献する「送電下位系統の混雑管理型」。再エネやDERビジネスの活性化も期待される。

配電事業者は、特定のエリアにおいて独占的にネットワークを運用する主体となるため、一般送配電事業者と同等の法的義務を負う。エネ庁電力産業・市場室は、「事業者の適格性については、参入許可段階のみならず、設備の引継計画などにより、事業開始後もしっかり確認していく」としている。

政治事情がエネ基議論に影響か 原発政策で与党内に温度差


国のエネルギー基本計画の見直し作業が延び延びになっている。5月13日に開かれた総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)基本政策分科会の会合で、資源エネルギー庁事務局が次期エネルギー基本計画の目次といえる骨格案を提示したのが最後。理由不明のまま次回開催が5月下旬、6月初旬と次々に先延ばしにされ、結局30日に開かれることになった(23日現在の情報)。

国益の観点から立法府の役割が改めて問われている

エネルギー関係者によれば、7月4日の東京都議選や秋の衆院選などを前にして、政治的な事情が関係しているもよう。「2030年に温暖化ガスを13年比46%削減する目標達成に向け、経産省、自民党サイドは原子力発電の最大限の活用やリプレース・新増設の推進をエネ基に書き込むよう動いていたが、これに難色を示したのが党内の再エネ推進派と公明党だ。特に公明は、党の方針として『原発ゼロ社会の実現』を掲げているだけに、原発推進にはかなり神経質。これが5月以降の混迷の一因になっている」(政策事情通)

確かに、原子力政策に対する両党の方針の違いは、それぞれの政策提言にも表れている。自民党の総合エネルギー戦略調査会が5月25日にまとめた「第6次エネルギー基本計画の策定に向けた提言案」を見ると、「安全性が確保された原子力発電について、防災体制の構築・拡充を図るとともに、立地地域の理解を得ながら最大限活用していく」「リプレース・新増設を可能とするために必要な対策を講じる」などと明記する一方、「脱原発」や「原発ゼロ」といった文言は見当たらない。

これに対し、公明党の地球温暖化対策推進本部が同月28日に策定した「カーボンニュートラルの実現に向けた提言」では、原子力に関して「原発の依存度を低減しつつ、将来的に原発に依存しない社会をめざすべき」だと強調。再稼働については、「原子力規制委員会が策定した世界で最も厳しい水準の基準を満たしたうえで、立地自治体等の関係者の理解と協力を得て取り組むべき」だとして、「最大限」を盛り込んだ自民との温度差を浮かび上がらせた。もちろん、「リプレース・新増設」の表記はどこにもない。

「選挙後なら公明党も……」 求められる国家戦略議論

自民党のエネルギー有力議員は、公明党との関係について「ベクトルが違うだけで意見はぶつかっていない。ていねいに議論すれば合意点は見えてくる」と指摘。その上で、「エネ基がまとまるタイミングは秋。選挙後なら公明党もとやかく言わないだろう」と、暗に衆院選との関係を示唆する。

だが現実は選挙がどうのと言っていられるほど甘い状況ではない。「46%減のためには最低でも原発23基の再稼働が不可欠だ」。政府審議会の有力委員は、こう強調する。原子力の国家戦略を巡る議論が何もない中で、現行の稼働原発9基を23基まで引き上げられるとは到底思えない。求められるのは、国家戦略を通じて政治の本気度を国民に示し、世論に訴えることだ。選挙は重要だが、それに流されると国益を見失うだろう。

全電源vs火力の神学論争再燃 省エネ法改正論が引き金に


経済産業省・資源エネルギー庁が、省エネ法の合理化の対象に非化石を加える方向で制度の体系見直しに乗り出している。

これを機に水面下で再燃しているのが、「全電源」対「火力」の係数を巡る神学論争だ。

政府が掲げる2050年カーボンニュートラルの実現に向け、資源エネルギー庁が省エネ法の体系を見直す検討に乗り出している。同法が定義する「エネルギー」の対象を、非化石を含む全エネルギーに広げることが柱で、実現すれば、化石エネルギーの使用合理化を目的としてきた同法の本質が大きく変容することになる。

エネルギーの定義変更 業界内外から疑問の声

省エネ法の正式名は、「エネルギー使用の合理化等に関する法律」。石油危機を契機に、化石燃料の消費抑制を目的として1979年に制定された。同法で合理化が求められているエネルギーは、あくまでも化石燃料や化石燃料由来の熱・電気であり、太陽光や風力などの再生可能エネルギー由来の電気や、水素・アンモニアといった非化石エネルギーは含まれていない。

これまでは、同法に基づく規制と補助金などによる支援を通じて、事業者の高効率機器・設備への投資を後押しすることで省エネを推進してきた。ここに来てエネ庁が見直しを急ぐのは、エネルギーが脱炭素化に向かおうとする中で「使用の合理化=使用を減らす」という考えに基づくこうした取り組みが、もはや時代遅れとなりつつあることを意味する。

とはいえ、「所管する省エネルギー課にとってはレーゾンデートル(存在意義)」(大手エネルギー会社関係者)ともいえる省エネ法をおいそれとなくすわけにもいかず、脱炭素に向けた「非化石エネルギーの利用促進」という新たな役割を持たせることで、同法を「延命」させようとしているとみる向きも少なくない。

有識者の一人は、「非化石エネルギーには再エネのみならず原子力も含まれるのだろうが、次期エネルギー基本計画で新設・リプレースがどう位置付けられるかもあやふやな状況下で、電化を強力に推進するような省エネ法見直しの検討がなされることに違和感がある」と疑問を呈す。

前出の大手エネルギー関係者も、「非化石の合理化(低減)と促進を一つの法律で進めようとすることに無理がある。『非化石エネルギー推進法』にでも衣替えし、現行の省エネ法は資源・燃料部に移管してはどうか」と皮肉を込めて提案する。

いずれにしても、5月21日の総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問会議)省エネルギー小委員会(委員長=田辺新一・早稲田大学教授)において、省エネ法におけるエネルギーの定義見直しとともに、非化石化・エネルギー転換を促す制度や、デマンド・レスポンス(DR)など需要側の最適化を図る枠組みを検討していく方向性が示され、見直しに向けた議論は着実に進み出したといえる。

今後、白熱化が必至の論点がある。次回の小委でエネ庁事務局が満を持して提案するであろう、電力の一次エネルギー換算係数の見直しだ。現行では、節電によって稼働が減るのは火力発電であるとの考えから「火力平均係数」が採用されているが、これを地球温暖化対策推進法(温対法)と同じ「全電源平均係数」に変更することが検討されようとしている。

省エネ法の新たな体系 (出展:資源エネルギー庁)

「系統経由の電気を一律火力発電所の熱効率係数で報告する現行の評価方法では、再エネ100%の電気料金メニューなどに対応できない」として、かねてから全電源平均への変更を主張してきた電力業界はこれを歓迎。

一方、都市ガス業界は「これまで省エネ対策として導入されてきたコージェネレーションや燃料電池などのガスシステムが、実態とは異なる評価方法への変更で増エネになる」と危機感を強める。

昨今のエネルギー情勢を念頭に、慎重論を唱えるのは元官僚。「今の時点でコージェネや燃料電池の評価が変わることは大きな問題。足元の厳しい電力需給状況を踏まえれば、換算係数の変更で需要側の電化が進めば、老朽火力の稼働増や温存につながりかねない」と指摘する。係数の変更は供給サイドの非化石化、安定性向上と歩調を合わせる必要があるとの見方だ。

こうした意見に対し、大手電力関係者は「電源ごとの一次エネルギー換算係数を求め電源構成比率(ミックス)を掛ければ、実態に合った係数が算出できる。省エネを推進しながら低炭素に誘導していくには、今スタートして早すぎるということはない」と反論。事態は、かつて温対法のCO2排出係数を巡って電力業界とガス業界が繰り広げた、いわゆる「神学論争」再燃の様相を呈している。

エネ庁が旗振り役 関連制度への影響も

全電源平均化に賛同する一部審議会委員の間でも、「長期的には全電源平均だが、高度化法目標を達成した時点での採用がよい」(飛原英治・東京大学大学院教授)、「このタイミングで全電源平均というあるべき姿にするのがよい」(林泰弘・早稲田大学大学院教授)といったように、導入のタイミングを巡っては意見が分かれる。

とはいえ、「全てのエネルギーが合理化の対象となるのであれば、換算係数は全電源平均とするのが妥当」とするエネ庁こそが、実は全電源平均化への強力な旗振り役であることから、既に決定事項との見方も。そうであれば、今後の議論は双方納得できるよう落としどころを探るものになるだろう。

この省エネ法上のエネルギーの定義見直しと一次エネルギー換算係数変更議論は、同じ換算係数を採用する国土交通省所管の「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)」にも影響が及ぶ可能性が高い。

省エネ法の目的を変えるのであれば、そこから派生した建築物省エネ法も見直しを検討し、ともに非化石エネルギーの利用促進を目指していくべきではないか。

【省エネ】経産省の組織改編 電化促進で必須


【業界スクランブル/省エネ】

2030年の温室効果ガス削減目標が13年度比46%削減に引き上げられた。また、米国は目標を05年比50~52%削減に引き上げ、米大統領の施政方針演説でも、雇用を考慮した気候変動対策に注力することを示した。英国は35年目標を1990年比78%削減に引き上げ、英国気候変動委員会の提言を踏まえた実現方策を検討している。実現不可能との声も聞こえるが、50年の脱炭素社会を担保するには、革新的技術の開発と大規模普及が極めて困難な事実を直視し、世代間の努力量の均等化のためにも、既存技術で最大限の削減努力をする30年目標の引き上げは妥当である。

英国の産業脱炭素戦略でも、「比較的低い温熱需要の電化技術は商業的に確立しており、世界の産業燃料消費量の最大半分の電化が技術的に可能」と記載している通り、さまざまな電化技術の中でも、低コストな電化技術の普及促進が重要である。英国では28年までに暖房・給湯ヒートポンプを毎年60万台設置という目標を掲げており、当該分野で技術的優位性を持つ日本の三菱電機やダイキンの機器が導入されつつある。英国気候変動委員会がガスボイラー新設禁止を提言しているように、都市ガス託送原価に組み込まれているガス需要開発費の役割は実質的に終了している。当該使途を「暖房・給湯電化補助」に変更し、脱炭素実現のために世界的に導入拡大が見込まれる電化機器の国内導入支援制度として、国内雇用拡大、国内メーカーの国際競争力向上に戦略的に活用するのも一案だ。

30年目標実現には、供給側の電力低炭素化、需要側の省エネ・再エネ導入拡大・電化に注力する必要がある。再エネが主力電源となる以上、経済産業省の組織改編も必須だ。省エネ・新エネ部に所属する新エネ課は電力・ガス事業部に再エネ政策課として移管し、供給側の再エネ大幅拡大に注力。省エネ・新エネ部の省エネ課は省エネ・再エネ課に発展させ、省エネ法を実質的な需要側脱炭素法に衣替えし、需要側の省エネ強化と再エネ導入拡大、電化推進を一体的に推進する組織に改編するべきではないか。(Y)

【マーケット情報/6月25日】原油上昇、需給逼迫観一段と強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。供給減少の予測と燃料需要の増加で、需給逼迫観が一段と強まった。

米国とイランの、核合意復帰に向けた協議に不透明感。米国は、深刻な意見の相違があると表明した。このため、米国の対イラン経済制裁は続き、イラン産原油の供給増加は当分見込めないとの悲観が台頭した。また、米国の週間在庫統計は5週連続で減少し、2020年3月以来の最低を記録した。

供給減少の見通しに加え、燃料用需要の回復も需給を引き締めた。欧州では6月、航空機の稼働数が増加。米国では、航空機の4月搭乗者数が、過去14カ月で最高を記録した。欧米では、新型コロナウイルスのワクチン普及が進み、石油需要が増加するとの楽観が広がっている。さらに、インドでは、新型ウイルスの感染拡大が減速。各地でロックダウンが緩和され、6月中旬時点の車両の運転者数は、前月比で増加した。

一方、OPEC+は、8月に日量50万バレルの増産を検討している。原油価格の続伸と、OECD加盟国の原油在庫減少が背景にある。ただ、需要回復が増産を上回るとの見方が大勢で、価格に対する弱材料にはならなかった。

【6月25日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=74.05ドル(前週比2.41ドル高)、ブレント先物(ICE)=76.18ドル(前週比2.67ドル高)、オマーン先物(DME)=73.41ドル(前週比2.45ドル高)、ドバイ現物(Argus)=73.57ドル(前週比2.70ドル安)

【住宅】脱炭素化の波紋 義務化の正当性は


【業界スクランブル/住宅】

4月から国土交通省で「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」が始まった。昨年10月に菅義偉首相が宣言した「2050年カーボンニュートラル」を踏まえ、住宅・建築分野の脱炭素化を推進することが狙いだ。4月22日に行われた気候変動サミットで、日本は「30年46%減」も宣言。現行政策における住宅・建築分野の30年削減率目安は40%だが、新目標の達成には単純計算で倍近い削減が必要となる。今回の検討会の争点は、新築の省エネ基準と、住宅屋根の太陽光発電の二つの義務化だ。これまでも日本の住宅は省エネ性能が低いことが問題となっていた。元々20年に省エネ基準義務化が予定されていたが、小規模事業者の技術的対応の事情を踏まえ、先送りされた経緯がある。

新築一戸建て住宅のうち、省エネ基準に適合する住宅は80%超(19年時点)となっており、その義務化は不可能なレベルではない。4月28日に行われたヒアリングで、全国建設労働組合総連合は、経験不足の施工者が一定数存在し、教育訓練は必要としながらも、義務化に関して「問題ない」との認識を示している。

しかし、脱炭素目標の達成には、約5000万戸ある既設住宅の88%を占める省エネ基準非適合住宅の扱いが課題である。また、現行の省エネ基準は海外と比べ低すぎるため、基準自体の見直しも急務だ。

一方、住宅屋根の太陽光発電の義務化は、小泉進次郎環境相の発言でも注目されたが、FIT買い取り価格が安くなって設置が低迷する中で、義務化における消費者の負担をどう措置するのかが課題である。

省エネ住宅も屋根上設置太陽光も、従来は補助金などの促進政策が基本だった。一律義務化になると平等性・公平性の観点からさまざまな問題が出てくる。例えば、省エネ住宅の施工能力のない事業者が撤退を余儀なくされたり、太陽光の屋根上設置に不向きな立地にも設置を求めることもあり得る。二つの義務化に際し、消費者の負担や不公平性・非合理性を軽減するための、きめ細かな制度設計が望まれる。(Z)

【太陽光】低圧設備の保守 長期安定へ強化


【業界スクランブル/太陽光】

今年も台風の季節が訪れようとしている。近年、風雨災害が激甚化し、太陽光発電の事故事例も増えつつある。そうした中、政府や業界関係者は太陽光発電システムの保安強化を図るためのさまざまな取り組みを進めている。太陽光発電が主力電源として長期安定的なエネルギー供給を担うために、効果的な保安と保守の実施は、大変重要なことである。

最近の取り組み事例として、太陽光発電設備の事故報告義務の範囲が、10kW以上の一般電気工作物(50kW未満)に広がったことがある。従来、この範囲の低圧設備は、一般電気工作物であることから事故報告の義務はなかったが、近年の風雨災害などで被災太陽光発電システムが増加し、発電事業者としての自覚を促す意味でも重要な取り組みである。一般工作物として導入された低圧設備の太陽光発電設備は、高圧設備や特別高圧設備としての太陽光発電に比べて、それほど高い保安技術や対応を求められない。このため、関係者の保安への関心が薄くなる傾向があるのではないかと思われる。

保安に関してはもう一つ大きな取り組みがあった。太陽光発電システムの技術基準の改正が行われたのだ。低圧設備による発電事業を行う関係者を大いに助けてくれることになると期待している。より体系的に正確な保安知識を広めるためにも大いに役立つことであろう。こうした保安促進の取り組みや知識のインフラ整備は、適切な保守にもつながるといえる。また、こうした整備は実際に現場で電気保安の業務に当たる技術者の新たな仕組みづくりにも役立つことを期待したい。

太陽光発電システムの機会創出にもつながるさまざまな設置形態、傾斜地や水上での設置、農地での発電などへの対応のための設計ガイドラインの策定も進みつつある。さまざまな場面での太陽光発電システムの利用を想定し、より安全に設計、施工がなされ、適切な保守と組み合わせて、長期安定電源の普及につながることを期待したい。(T)