福島原発事故に翻弄 原子力学識者の悲哀
福島第一原発事故から10年。当時原子力界をリードしていた学識者の中にも、世間の批判を浴びた人たちがいた。
親しい原子力業界関係者が集まり、当時の学識者を評価する会合が開かれた。それぞれを「能力」「迫力」「人柄」の3分野で5段階で評価し合い、点数を決めるものだ。
会合出席者の同情を集めたのが、福島事故時に安全委員長に就いていたM・H氏。能力・人柄は5点だが迫力は1点。福島事故では、ヒステリー状態になったK首相に話を聞いてもらえず、なすすべもなく耐えていた。事故後、公の場に出ることもほとんどない。「温厚な人柄で学者としても一流なだけに残念」(関係者)との声が聞かれる。
3分野で全て5点の評価を得たのは一人のみ。M・S元安全委員長だ。国営原子力研究機関で初のプロパー理事長を務め、原子力規制行政でも実績を積んだ。福島事故の後も、産業界が設立した安全関連の組織の会長に乞われて就任している。
新設された規制委員会の長に就任したT・S氏の評価は、バラツキがあった。能力4点、迫力5点だが人柄は1点。新組織での専横的な進め方が批判されていたが、さらに「目下の者に横柄」(関係者)な態度で評価を下げている。
福島事故に直面した学識者の評価は
番外編は、経産省の安全保安院の長だったT・N氏。事故発生時に首相から質問され、「私は文系です」と答えひんしゅくを買った。だが、「コピーを人に任せず、自分で取るような人」(経産省関係者)。経済学部を首席で卒業した能吏でもあり、事務系ながら事故時にトップに就いていた巡り合わせを気の毒に思う関係者は多い。
エネ庁幹部叱責 K大臣の政策能力は?
2050年カーボンニュートラル実現を標榜する現政権。その意向を受け、再エネ導入推進のためにスタートしたK大臣直轄のタスクフォース(TF)だが、最近の傍若無人ぶりに本来自陣営であるはずの再エネ関係者からさえすこぶる評判が悪い。
再エネ事業者のA氏は、「特定の新電力や再エネ事業者を厚遇するような公平性に欠く議論が繰り広げられており、このままでは将来の再エネ普及にとって、マイナスにはなってもプラスにはならない」と目を覆う。
TFの議論に反発する人たちが口々に言う共通ワードがある。それは、「まるでかつての民主党政権を見ているよう」―だ。
6月3日の会合では、TF側が策定中の第6次エネルギー基本計画に「再エネ最優先の原則」を明記するよう要望したのに対し、エネ庁幹部が回答には審議会での議論を踏まえる必要があることもあり、「エネルギー政策の原則は『S+3E』だ」と述べるにとどめ、回答を見送る場面があった。これに対し、K大臣は「言葉遊びはいい加減にしてもらいたい」と強い口調で言い放った。
学識者のX氏はその様を「どう喝だ」と言い、「『原則』は審議会でさえ変えることは難しい。その場で即断など役人にできないことなど大臣なら知っているはずだ。審議会に諮るにしたって大臣判断になるし、梶山大臣にK大臣の指示に従えと言っているようなものだ」と憤る。
何より、エネ庁側から出席していたM部長は、再エネ振興に尽力してきた功労者。エネ基議論に携わるZ教授も、「K大臣には、エネルギー政策の担当能力がないと言わざるを得ない」ときっぱり言う。
地球環境産業技術研究機構(RITE)が試算した、再エネ大量導入時の統合コストにもおかんむりの様子だったが、「そもそもTFには、再エネの系統統合についてまともに議論できる人はいない。K大臣にとっては不幸な話だ」(X氏)。
TFが主張するように再エネが安いのであれば、そもそも「再エネ最優先」をエネ基に明記しなくても市場原理で主力電源化は進むはず。実はそうではないということを、大臣も周囲の人々もよく分かっているのかもしれない。
エネルギー業界からは、「現政権がよもやエネルギー安定供給に相反するようなことはするまいと信じてきたが、このまままい進するならこれ以上支持はできない」との声も聞こえる。
未来の総理大臣と目されるK大臣。ワクチンのみならず、エネルギーを巡る言動も画面を通じて国民は注視していることをお忘れなきよう。
小泉環境相の珍問答 業界紙が大々的に報道
〈菅首相、角栄氏創設「電源三法」改正視野 脱炭素化へ「再エネ交付金」制度創設 政府内で検討へ 切り込み隊長は小泉環境相〉
これは、環境分野の大手業界紙K新聞6月16日付1面トップ記事の見出しである。メイン8文字・サブ10文字前後、漢字の羅列・単語の重複はNG、可能な限りシンプルにといった新聞見出しのセオリーをことごとく無視した文章が気になって内容が頭に入ってこないが、要は再エネ主力電源化に向けて立地地域に政策資金を投入する目的で「電源三法」を改正するという内容。それを菅義偉首相が判断したと報じていることから、インパクトは絶大だ。
記事を書いたのは、この業界の名物・ベテラン記者のK氏。独特の切り口やツッコミが持ち味で、小泉進次郎環境相も定例会見でたびたび名指しするなど、「環境官僚で知らない人はいない」(環境省A氏)と言われるほどだ。
再エネ交付金を重ねて強調した小泉環境相
そんなK氏と小泉氏が業界紙重鎮記者S氏を交え、6月11日の会見で珍問答を繰り広げた。口火を切ったのはS氏。国の専門家会議がまとめた地域脱炭素工程表に関連して、担い手となる再エネ事業者の多くが中小で財務基盤が脆弱な問題を投げ掛けた。
これに対し、小泉氏は「ポイントの一つが、複数年度にわたる自治体に対する資金支援を抜本的に見直し、『再エネ立地交付金』のような新たなスキームをつくることだ」と強調。その上で「再エネ立地交付金をどのような制度設計にするか、議論を通じて明らかにしていく」と述べた。
これにすかさずK氏が食らいついた。エネルギー対策特別会計の電源立地地域交付金制度を引き合いに、再エネ交付金創設に向け梶山弘志経産相と話をつけたのかと質問したのだ。小泉氏は政府部内の調整はこれからだとしながら、次のように回答した。
「電源立地交付金の使い道については、一部からは批判もある。本当にそれ、電力と関係あるんですかという。再エネ立地交付金は、よりよいものにしたい。そして国が全面的に資金支援する形で(国策民営の下で)日本から再生可能エネルギーメジャーを生み出していく」
冒頭のK紙は、小泉氏が電源三法の改正を視野に入れているという前提で、会見でのやり取りを事細かに記している。ただ関係者によると、政府が想定しているのは、おそらくエネルギー需給勘定をベースにしたもので、電源立地対策ではないとのこと。なお電源三法所管の経産省関係者はK紙報道に対し、冷ややかな姿勢を見せている。
脱炭素傾倒のN紙 行き過ぎで方針微修正
ここ数年、再生可能エネルギーや水素など新エネ重視の方針から「脱炭素新聞」と言われることもある大手経済紙のN紙。裏事情に通じたS誌には、N紙を「脱炭素商売」とやゆする記事も掲載された。記事は、O会長の方針で編集と営業が一体となり、広告や協賛金狙いで報道がゆがんでいると批判している。
一方の企業側も、そんなN紙の編集方針を利用しつつ、営業戦略として再エネなどには宣伝費用をかけ、自社のPRに力を注いでいる。
ただ、ここに来てN紙はその方針を微修正し始めたようだ。これまでは新エネの技術開発絡みのネタであれば、中身を問わず紙面を割く傾向にあった。しかし「玉石混交がすぎる」との批判があったのか、さすがにその方針が露骨すぎるとして、実装まで多くの課題を包含する水素やアンモニア、全固体電池については、上層部から記者に対して慎重に取り扱うよう指示があったという。
現場記者の中には、過度な脱炭素・再エネ追求は非現実的との考えを持つ人も少なくないと聞く。今回の編集方針修正は、「中正公平」「経済の平和的民主的発展を期す」という社是に立ち返る第一歩となるのか。