【多事争論】話題:再エネ規制総点検タスクフォース
政府の再エネ規制総点検タスクフォース(TF)提言が、業界に波紋を呼んでいる。
その意義と本来あるべき規制改革の絵姿について、有識者に話を聞いた。
<TFが各省庁に問うている本質 実質ゼロに本気で取り組むのか?>
視点A:原 英史 株式会社政策工房 代表取締役社長
昨年11月から、政府の再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース(TF)の委員を務めているが、この会議はどうやら、「極論を主張する過激派」と認識されているらしい。せっかくの機会なので私の考えを紹介したい。あくまで個人の考えであってTFの意見ではない。
私自身はこれまでも諸分野の規制改革に関わってきた。過去には内閣府の規制改革推進会議で、エネルギー分野も担当するワーキンググループの座長を務めたこともある(2017〜19年)。当時、実は再エネに関する規制改革はほとんど会議で扱わなかった。なぜかというと、再エネ主力電源化が政府方針として閣議決定され、「あとは各省庁に任せておいても進むだろう」と思っていたからだ。ところが今回TFに入って改めて事業者要望などを集めた結果、見立てが違うことに気付かされた。再エネ主力電源化というお題目に対し、現実の諸制度は乖離したままだ。
例えば、新たな再エネ電源を作ろうとしても、送電網は先着優先ルールが敷かれているため、新規参入者はなかなか使わせてもらえないし、莫大な負担金を求められることもある。また風力発電所の場合は環境影響評価法(環境アセス)に何年もかかる。農地や林野に作ろうとすると、やたら厳しい制約で阻まれる――いずれも長らく指摘されてきた問題で、とっくに片付いたかと思っていたが、未解決のままだった。なぜそんなことになっていたのか。端的にいえば、誰も本気でなかったからだ。資源エネルギー庁の本音はおそらく、「本当は原発再稼働にかじを切りたいが、そうもいかないので、当面は再エネを強調しておこう」という程度だったのではないか。そんな姿勢が関係業界や他省庁にも見透かされ、現状維持の慣性力が働いたのだと思う。
現状維持のままで構わないなら、それでもよい。しかし日本が止まっている間に世界は先に進む。グローバルに展開する企業を中心に、再エネ電力利用を調達基準などとする動きも拡大している。「再エネ拡大はいわゆるお題目」と言っていると、日本は世界のサプライチェーンから外れることにもなりかねない。そんな中で昨年10月、菅義偉首相は50年実質ゼロを宣言した。その実現のため、河野太郎規制改革担当相の下にTFが設けられ、送電網への接続ルール、環境アセス、農地、建築物の省エネなど、さまざまなテーマについて各省庁と議論した。
私からみれば、各省庁に問うてきたことは本質的には一つ。「50年実質ゼロに本気で取り組むのか?」という点だ。幸いにして、いくつかの省庁はこれまでとは違う「本気」度を見せ始めており、環境省は環境アセスの要件見直しの方針を固め、国土交通省も建築物の省エネ基準義務化を進める方向に転じた。
腰を据えない資源エネルギー庁 「ウィンウィン」の規制改革を
その一方、相変わらず腰が定まらないように見える省庁もある。その一つが、再エネ拡大の中核となるべきエネ庁だ。
昨年末来の電力市場価格高騰を巡っても、曖昧な姿勢が浮き彫りになった。今回の事態は、私の理解では数年に一度レベルの寒波と、LNG調達の混乱が原因だ。決して稀有な異常気象に襲われたわけではないにもかかわらず、平時の10倍以上の価格が数週間続くという異常事態が発生した。原因と結果を見比べれば、その間に市場の機能不全があったことは明らかで、「市場ではこんなことも起きる」といって済ませてよい話ではない。市場の不備解消に直ちに取り組むべきであり、これは再エネ拡大とも表裏一体の課題のはずだ。
ところが、これまでエネ庁は市場の不備に正面から向き合っているようには見えない。原因の一つに「太陽光の出力低下」と説明するなど、再エネ悪玉論に乗じて責任逃れをしている―ようにさえ見える。これでは市場の信頼も回復できないだろう。エネ庁は「電力自由化」や「再エネ拡大」に本気で取り組む気があるのか、そろそろ明確にすべきだ。
最後にもう一点、規制改革は、誰かを犠牲にして誰かが利益を得る取り組みではないこともお伝えしておきたい。例えば農地での再エネ利用の議論をすると、「農業を犠牲に再エネを拡大しようというのか」との批判がつく。しかし、適切な形での再エネ導入は農業経営の改善、耕作放棄地の再生にもつながる。現行の農地規制のように、「太陽光を入れると農業がないがしろにされる」との推定を前提に、過剰な制限を課していることで、むしろ農業強化の道を閉ざしているのではないか。再エネと農業はともに強化することが可能だ。TFではそういった社会全体にとってウィンウィンの規制改革をさらに模索したい。
はら・えいじ 通商産業省(当時)入省後、中小企業庁制度審議室長、規制改革・行政改革担当大臣補佐官などを経て退職。2009年に株式会社政策工房を設立。国家戦略特区ワーキンググループ座長代理、大阪府・市特別顧問、NPO法人万年野党理事なども務める。