【福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.10】石川迪夫/原子力デコミッショニング研究会 最高顧問
炉心溶融で生まれた水素ガスは5階フロアに上昇し爆発した。
ガスは濃い放射能を伴い、廃炉工事を困難にしている。
廃炉工事は発電所の壊れ方に大きく関係する。今回は2、3号機の水素爆発による破壊と汚染を中心に述べる。
BWR(沸騰水型軽水炉)の格納容器は、水素爆発防止のために空気を排除し窒素ガスに置換しているから、福島での爆発は原子炉で起きたのではない。全て空気の存在する原子炉建屋の5階フロアーでの発生だ。
原子炉の溶融で誕生した水素が5階に至る道筋は、格納容器を出て、その上にある遮へいプラグを押し上げて流入する経路だ。水素は軽いからこの道の通過が得意で、爆発を起こした水素は全てこの道を通っている。溶融炉心生まれの水素ガスは濃い放射能を伴っているから、汚染跡をたどれば道筋は自然に分かる。
2、3号機の炉心溶融は圧力容器の中で起きた。水素ガスが発生すれば圧力容器の圧力は上昇する。水素は軽い上に、溶融炉心から出てきたので温度が高い。軽い水素ガスは圧力容器の頂部に集結して上ぶたの締め付けボルトを熱で伸ばして、圧力上昇との合わせ技で上ぶたを押し上げて、フランジの合わせ目に隙間を作った。この隙間から水素は格納容器に漏れ出た。
格納容器に出た水素は、同じ手口(圧力と熱膨張)で格納容器上ぶたのフランジに隙間を作り、上の小空間に流出した。小空間の上には重量約600t、厚さ約2ⅿの遮へいプラグが置かれていて、5階フロアーの床を兼ねている。水素ガスは、この重い遮へいプラグをガス圧力で持ち上げて、運転フロアーに流入した。ガス圧力が下面に掛かるとプラグが容易に持ち上がることは、第6回で述べた。
以上が、炉心で発生した水素が5階に到った経路の説明だ。この道筋は覚えておいてほしい。
開口部から水素が流出 爆発を免れた2号機
2号機は、1号機爆発のあおりで、5階フロアーの壁の一部をなすブローアウト・パネルが落下し、大きな開口部ができていた。5階に流入した水素ガスは、この開口部から柱状の気塊となって流出したので、空気と混じることはなく、爆発は生じなかった。従って2号機には爆発による被害はない。
被害の主体は強い汚染だ。汚染は水素ガスが通過した道筋に限定されているが、その放射線は強烈で、入域は今なお許されないという。2号機の被害は、この他に、炉心溶融がある。汚染による被害とどちらが難事は、廃炉工事終了の後に分かる事柄だ。廃炉での苦労を見守るしかない。
3号機の爆発は、5階フロアーでまず起き、原子炉建屋下階の爆発がそれに続いた。爆発の引き金は、持ち上げられた遮へいプラグが落下した時の着地衝撃だ。
3号機は、丸1日にわたってジルカロイ燃焼がじくじくと続いた。恐らく燃料棒の温度が低く、反応は細々と続いたのであろう。しかし丸1日掛けて発生した水素は大量で、格納容器からの漏れもあって、原子炉建屋全体に水素は漏れ出ていた。この漏れによる下層階の爆発は強烈で、噴煙が600mの高さに立ち昇ったという。
黒煙をあげる3号機
爆発した水素は強い放射能を伴っているので、廃炉工事に先立つがれきの取り片付け作業には十分な注意が必要だ。壊れたコンクリートなどは水素の流出と爆発との2度の汚染を受けており、表裏両面が汚染している可能性もある。
じくじくと続いた長時間の反応で格納容器に出た放射能は、格納容器スプレーによって洗い落されて、濃い汚染となって床に染みついている。この汚染は、溶融炉心と同一の放射能であるから、両者の区別はつかない。
東京電力は、3号機の溶融炉心は格納容器床に落下していると発表しているが、どうだろうか。僕は疑問を持つ。
その根拠は二つある。一つは、爆発後も原子炉の水位が東電報告書に記録されていることで、圧力容器が健全である事を示している。圧力容器が健全なのに、その中にある熔融炉心が格納容器の床に落下することは物理的にあり得ない。 二つは、東京電力発表の圧力容器底部の温度推移測定のグラフだ。2012年以降の温度は2、3号機が全く同じで、春夏秋冬、等量の崩壊熱が圧力容器の中で発生していたことを示している。言い換えれば、2、3号機に残った燃料は等量で、2号機と同じく、全燃料が3号機に残っていることとなる。
以上の理由から、格納容器床の高い放射線は溶融炉心から出たものではなく、沈殿した放射能が出す放射線と考えるのだが、このような主張を述べるのは、溶融炉心が圧力容器の中にあれば廃炉工事は楽であり、計画も変わるからだ。東電のご一考を待つ。