【業界スクランブル/電力】
10月26日、菅義偉首相は臨時国会冒頭の所信表明演説で、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにする目標を掲げた。それまでの日本政府の公式な目標は、19年6月に閣議決定された「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」による「50年に温室効果ガス80%削減」「今世紀後半のできるだけ早期の脱炭素社会の実現」だったので、これを大きく前倒しすることになる。
折しも、第6次エネルギー基本計画策定の議論が始まろうとしている時期の表明である。どのようなシナリオとロードマップが示されるのだろうか。第5次計画では、「50年温室効果ガス80%削減」という目標は掲げつつも、非連続なイノベーションなしでは実現困難であり、かつイノベーションの実現には不確実性が伴うという認識の下、30年以降については個別の数値目標を設定したり、単一のシナリオに決め打ちしたりすることを回避していた。
しかし、最終目標である脱炭素社会実現を「50年」と表明した今回の計画では、シナリオの絞り込みは不可避なのではないか。そして、そのシナリオは、「エネルギーの電化+水素化」であろう。水素化とは、水素をそのまま活用するだけでなく、アンモニアなどエネルギーキャリアの形での活用も含む。ピュアな水素にこだわり過ぎない方が社会実装は早まろう。電気は化石燃料フリーの一次エネルギーから作られる電気であり、水素も多くはそのような電気から作られるCO2フリーの水素だ。
必然的に50年に向けてCO2フリーの電気が大量に必要になる。人口減少時代なのに、電力需要は5割増にもなりかねない。この大量の脱炭素電力を供給する担い手と、それを支える社会システムの姿を早急に描く必要がある。それが、東日本震災以降次々に論点が浮上し、今も継続している電力システム改革議論の延長線上にあるとは実はあまり思われない。電力システム改革議論にも、実は非連続なイノベーションが求められるのかもしれない。(T)