【都市ガス】脱炭素化の一手 5年後に大差


【業界スクランブル/都市ガス】

脱炭素化時代を迎え、電力業界はアンモニア専焼や小型原子炉など、目指すべき方向が見え始めている。それに比べて、都市ガス業界は目指すべき方向性がまだ見えていない状況と言っていいだろう。もちろん、資源エネルギー庁主催の「2050年に向けたガス事業の在り方研究会」でも議論はされているが、解決策の主軸となるメタネーション(合成メタン)や水素などは技術的なブレークスルーが必須である。したがって、業界を超えた産官学の協力体制を築いて検討していかなければ、実現は難しい。しかも、時間がかかるであろうし、実現の保証もない。

個々の都市ガス事業者にとって、「先が見えていない状況下で、何をやるべきなのか」が、今課せられた大きな課題となっている。不確実性の高い状況ではあるものの、世界的に脱炭素の流れが止まることがない以上、電化の蓋然性は高いというトレンドの見極めが重要になってくる。そして、そこには企業規模や地域特性による違いはないのだ。

2050年を見据えると、ガス事業に安住し電力を静観しているだけではいられない。どうしたら電力事業を展開できるのか、発電所を持つことが難しければ、必要な電力を市場などから調達することも検討する。取り扱っているLNGもコモディティー化している。デリバティブ取引なども勉強しながら、市場の不安定さをヘッジする策を習得する必要もある。

都市ガス業界は上流から下流までを一気通貫と考え、そこに強みがあると考えがちだ。上流と下流を別々のものとして捉え、ガス事業者の得意とする下流分野で需要家目線から戦略を構築する方向性を検討する必要がある。今後、脱炭素化の手段である再生可能エネルギーの導入は最大限に行われることになる。FIP(市場連動価格買い取り制度)導入後を見越して、いかにクリーンパワーをアグリゲートして商品化していくかも検討していくべきだろう。これからやるべきことはごまんとある。次の一手で5年後、10年後に業界内に大きな差が生ずることになる。(C)

【新電力】脱炭素への取り組み 実態に即した評価を


【業界スクランブル/新電力】

菅義偉首相所信表明演説における2050年温室効果ガス実質排出量ゼロ目標に向け、金融機関や海外に展開しているメーカーを中心に、再生可能エネルギーの投資が過熱している。セカンダリと呼ばれる建設済みFIT(固定価格買い取り制度)再エネ発電所の売却マーケットでは、IRR法(内部収益率法)では説明がつかないほどの高値で売買が行われ、一部関係者からは「金融緩和と、投資環境の悪化に伴い投資先が限定的であることに起因した再エネバブル」との声が聞かれる。電力業界では、一部旧一般電気事業者や石油会社、通信会社がセカンダリマーケットに参加しているようだが、さすがに昨今の取引価格では手が出ないようだ。

ここで懸念されるのは、初期FITにおける高値買い取り価格案件ばかりが収益を生む状況となって、発電投資に結び付いていないのではないか、との疑問である。新電力においても再エネ電力をブロックチェーンでトラッキングし、P2Pなどで需要家に直接販売する取り組みが注目を浴びたが、このような取り組みも建設済みのFIT発電事業者に追加収益をもたらすものであり、必ずしも再投資に結び付かない恐れがある。

先行者利益が大きいのは世の常であるものの、50年実質排出量ゼロといった脱炭素目標が存在し、再エネ適地が減少し、建設費コストの圧縮が困難になりつつある中、再エネの新設投資に結び付かない取り組みをもてはやすのはいかがなものであろうか。実質排出量ゼロ目標に向け、「ESG投資」「脱炭素」「再エネ価値」といった言葉ばかりが先行し、必ずしも目標に結び付かない取り組み、「手段」と「目的」をはき違えた取り組みが横行しているのではないだろうか。

新電力には、機動力と発想力で再エネ導入拡大に資するような新たな取り組みを期待したい。また、政策当局、特に環境省には、そのような取り組みを支援し、他方で再エネ新設投資に結び付かない取り組みに対する線引きを強く期待したい。実質排出量ゼロ目標に資する取り組みなのか、各種取り組みの評価が必要になろう。(M)

【電力】自然エネ財団が提示 再エネ100%の世界


【業界スクランブル/電力】

3月に自然エネルギー財団が公表した報告書「日本の気候中立への自然エネルギーによる経路 2050年までにエネルギーシステムにおける排出ゼロの達成を目指す」を興味深く読んだ。フィンランドのラッペンランタ工科大学などとの共同研究であり、慣性力の扱いなど課題もあるものの、きちんと需給シミュレーションがされていると理解した。

2050年断面の自然変動電源の導入量は、産業用の高温熱需要の脱炭素化などに必要なグリーン水素を半分輸入に依存するメインシナリオでも、太陽光5億kW以上、風力は陸上と洋上合わせて1.5億kWと膨大だ。それでも1kW時当たりの発電コストが太陽光、陸上風力は5円以下で石炭火力の燃料費並み以下、洋上風力も7円以下という前提なので、北海道・本州間に1700万kWの直流ケーブルを新設しても、電力供給コストは現状よりも安くなる。原子力は20円以上で、モデルを回しても選択されない。

調整力は、水素製造のために設置される7000万kWの水電解装置が、恒常的に余剰となる再エネ発電に合わせて稼働するので、膨大な蓄電池が必要となるわけではないようだ。水電解装置の稼働率は報告書に記載はなかったが、挿入図から想像するに、冬場は相当の高稼働となっていそうだ。

このほか興味深かったこと。数字の記載はないが、挿入図から見るに、50年断面の電気事業は固定費の塊だ。可変費はせいぜい1割に見える。現在のような短期限界費用で価格が形成されるkW時市場では、大半の時間で価格はゼロに張り付いてしまい、費用回収はおぼつかないだろう。

財団が目指すカーボンニュートラルの世界では、市場はkW時中心からkW中心に移行していくのが、少なくとも自然だろう。財団関係者が4人中2人を占める内閣府の再エネタスクフォースが容量市場に反対し、エネルギーオンリーマーケットを対案に掲げているのは、筆者には奇妙に思える。目指す世界にあるべき市場とはどんなものか、聞いてみたいと思った。(T)

英プレミアリーグで繰り広げられるもう一つの戦い


【ワールドワイド/コラム】

サッカーの母国としても知られるイングランド(イギリス)のプロサッカーリーグ・プレミアリーグ。2020-22シーズンが佳境に入る中、各クラブはサッカーだけではなく「気候変動対策にどれだけ力を入れているのか」も順位付けされている。

英BBCは1月25日、「プレミアリーグのクラブはどれだけ環境に優しい?」と題したニュースを報道。これはBBCと国連が支援するSports Positive Summitが共同で、プレミアリーグに所属する20クラブが「再生可能エネルギー」「エネルギー効率」「廃棄物管理」「使い捨てプラスチックの削減」など8項目と「クラブがファンに対して環境に配慮した生活に変容するよう行動しているか」などを調査し、採点するというもの。

20年の順位はトッテナムが21ポイントで優勝。アーセナル、マンチェスターU、ブライトンが20ポイントで同率2位、マンチェスターCが19ポイントで3位という結果に終わった。

気候変動対策に向けては、スポーツにかかる期待は大きい。国連はパリ協定の目標達成に向け「スポーツを通じた気候行動枠組み」を18年に立ち上げている。同枠組みにサッカー界からは国際サッカー連盟(FIFA)を筆頭に、英トッテナム、ドイツのヴォルフスブルク、フランスのPSGといった名だたるクラブが参加。Jリーグのヴァンフォーレ甲府や福島ユナイテッドなども加わっている。

こうした脱炭素社会に向けた取り組みが進められる一方、欧州の環境団体からは「かつてのタバコ広告のように、化石燃料産業の広告をスポーツ界から排除すべきだ」と、さらなるアクションを促す声もある。世界で巻き起こる脱炭素シフトは、スポーツ産業の在り方を一変させるかもしれない。

【マーケット情報/5月14日】欧米原油上昇、供給不安が支え


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、北海原油の指標となるブレント先物と、米国原油を代表するWTI先物が前週から上昇。供給不安が価格に上方圧力を加えた。

サイバー攻撃を受けて操業停止した米国Colonial Pipelineの石油パイプラインは、13日に復旧。ただ、同社のパイプラインが走っている東南部ではパニック買いが発生し、ガソリンや軽油などの供給が逼迫した。他方、中東では、イスラエルがガザ地区を空爆し、情勢が緊迫化。中東産原油の供給不安が台頭し、欧米原油の強材料となった。

一方、中東原油を代表するドバイ現物の価格は下落。燃料需要が一段と後退するとの見込みが、供給不安を上回った。中東の治安悪化を受け、欧州諸国の航空会社はイスラエルへの国際便を一時停止。また、アジアでは引き続き、新型コロナウイルスの感染者数が増加しており、シンガポールやマレーシアなど複数の国が移動と経済活動の規制を強化。UAEとクウェイトは、バングラデシュやパキスタンなどの南アジア諸国からの入国を停止した。

【5月14日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=65.37ドル(前週比0.47ドル高)、ブレント先物(ICE)=68.71ドル(前週比0.43ドル高)、オマーン先物(DME)=65.39ドル(前週比0.64ドル安)、ドバイ現物(Argus)=64.90ドル(前週比0.92ドル安)

信頼と実績の通信技術を活用 遠隔検針でEV社会の課題を解決


【NTTテレコン】

今年1月、菅義偉首相は2035年までに新車の乗用車を全て電動車(EV・PHV・FCV)にすると表明した。

EVがなかなか普及しない理由の一つに、充電への不安がある。そのため、普及には充電スタンドの整備が欠かせない。現在は、販社ディーラーや高速道路のパーキングエリア、自治体などが充電できる環境を提供しているが、本格的なEVの普及に呼応して、充電スタンドの整備も急務となる。

社用車や社用バイクをEV化する際、課題となるのは充電の電力使用料金の支払い方だ。ビルや建物のオーナーに、充電スタンドの運営会社が利用料金を支払う場合、その検針作業が必要になる。

そこで活用できるのが、NTTテレコンの無線端末「グッとびくん」だ。充電スタンドの使用電力量を計測する電力量計から出力するパルスを、パルス電文変換器を通じ、グッとびくんでNTTテレコンの集中監視センターに送信する。運営会社はインターネット経由で検針データを確認し、数値に基づき電気料金を支払う。通常は売電側であるビルや建物のオーナーが検針を行うが、このモデルでは充電スタンドを設置した運営会社も検針値を確認できるため、電力料金支払いへの信用度が高まる。

EV充電器の電力使用量遠隔自動検針の流れ

グッとびくんと集中監視センター間の通信には、全国最多の基地局を持ち、電波の安定性にも信頼が高いNTTドコモのLPWAを利用する。グッとびくんは、メーターに直結して利用するタイプのほか、複数のメーターに子機を接続し、1台の親機に最大256台の子機を集約する「集約タイプ」もある。子機の中継機能や最大4段のマルチホップ機能を利用すれば1㎞以上の接続も可能だ。1親機配下のエリア内で充電サービスの提供数が増えるほど、トータルコストの削減につながる。

ガス事業のノウハウを生かす EVの普及に大きく貢献

NTTテレコンは、LPガスの集中監視市場で業界一のシェアを誇る。NTTグループである強みを生かし、1988年から電話回線を使った遠隔検針・保安を開始。現在はLPWAを使って検針業務の効率化・省力化や保安の高度化に貢献している。

検針データを管理する集中監視センターは110万件を超えるデータを守る。LPガス使用時のトラブルに対処する保安センターはライフライン監視という重要な役割の中で培ったノウハウで24時間365日稼働し、盤石の体制だ。

原田充新規ビジネス開発部長は「安定した遠隔検針とデータセンターの信頼性で、30年以上の支持を得てきました。培った技術がEV普及の一助になれたらと思います」と事業への意気込みを語る。

NTTテレコンは、LPガス業界での実績と信頼を、EV社会の課題解決に生かしていく。

中国「脱炭素化」計画の矛盾 波紋呼ぶ石炭火力維持路線


【ワールドワイド/環境】

中国の習近平国家主席は、昨年9月の国連総会において「中国は2060年までにカーボンニュートラルを目指す」と表明して環境関係者の賞賛を受けた。他方、コロナ禍からいち早く経済回復を達成し、20年上半期に全世界で計画された新設石炭火力発電容量の90%を占める51.2GWを計画し、11.4GWを完工している。

要するに60年カーボンニュートラルという長期目標と足元の行動が整合していない。このため、環境団体は本年3月の全国人民代表大会においてカーボンニュートラル目標と整合的な方針、すなわち30年ピークアウトの前倒し、石炭火力フェードアウトの方向性などが出ることを強く期待していた。

しかし彼らの期待は裏切られたと言っていい。3月5日から開催された全人代で発表された第14次5カ年計画(21~25年)では温室効果ガス排出の30年ピークアウトを目指し、期間中にエネルギー原単位を13.5%、炭素原単位を18%削減するとの目標が盛り込まれたが、これまでの5カ年計画にあったエネルギー消費量の数値目標は設定されていない。30年ピークアウトの前倒しや石炭火力建設利用制限についての方針は書き込まれておらず、むしろ「石炭のクリーンで効率的な利用促進を続ける」とされている。このためグリーンピースなどの環境団体は「内容が不十分であり、60年カーボンニュートラルを実現させるものではない」と批判している。

4月22~23日の米国バイデン大統領が主催する気候サミット、G20、さらにはCOP26に向けて中国は60年カーボンニュートラルに整合的な行動強化を求められることになるだろう。しかし中国はそんなことは先刻承知のはずであり、今回打ち出された方針はさらなる深掘りを見越してあえて保守的なものを出したと考えられる。

ウイグル人権弾圧を巡る制裁など、欧米諸国の中国を見る目は厳しさを増している。こうした中で気候変動は中国が欧米との協力をプレーアップできる数少ない分野であり、気候変動分野での対応深掘りの代償として欧米の圧力を緩和したいところだ。米国のケリー気候変動特使は温暖化分野での協力とそのほかのイシュー(人権、安全保障、知的財産権、貿易など)を交渉材料にするつもりはないとしているが、中国はこれらの相互関係を明言している。神経戦は始まったばかりである。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院教授)

韓国が電力需給新計画を発表 脱炭素化へ再エネシフト加速


【ワールドワイド/経営】

昨年12月末、韓国政府は当初の予定から大幅に遅れて「第9次電力需給基本計画(2020~34年)」(新計画)を発表した。同国では電気事業法に基づき2年ごとに中長期計画を策定している。本稿では発表に至る経緯とその概要を紹介する。

韓国の新型コロナ感染者数は欧米と比較して少ないものの、断続的拡大に見舞われた。経済活動の制約が続き、同国の20年の電力需要は前年比2.2%減となった。感染拡大防止と経済復興を優先させたため、年初に予定されていた新計画の発表は先送りとなり、その過程では各国の脱炭素化を巡る動向を観察していたとみられる。

中長期的政策方針の皮切りとなったのが、20年7月に発表された「韓国版ニューディール」である。これは経済の構造転換を目指した総合的対策であるが、経済の低炭素化を眼目とした「グリーン・ニューディール」が、デジタル化、雇用確保とともに3本柱の一つとされた。この中では25年断面の太陽光・風力の電源目標が4270万kWとされ、「第8次計画(17~31年)」から実に51%も上方修正された。さらに、文在寅大統領は10月に国会で「2050年カーボンニュートラル」を宣言。それを受けて政府は12月初めに再エネ、EV、水素などを含む「カーボンニュートラル推進戦略」を決定したほか、パリ協定に基づく「国家温室効果ガス削減目標」の改訂作業を行った。

これら一連の流れに沿って発表された新計画では、最終年次(34年)における発電設備容量の目標が1億9301万kWに設定された。構成は、再エネ40.3%、LNG火力30.6%、原子力10.1%、石炭火力15.0%、その他4.0%となっている。特に再エネは、34年の設備容量7776万kW(20年比3.7倍)と野心的目標が掲げられた。水素利用重視の観点から、燃料電池発電も20年比で5.5倍の320万kWまで引き上げられ、新エネルギーの拡大も積極的に進める方針が示されている。

一方、原子力と石炭火力については段階的に縮小される。石炭火力は、第8次計画から20基が追加され計30基が廃止(うち24基はLNG転換)されることとなった。

このように再エネ重視に傾斜した政府の方針に対して、現地では需要家負担増加への危惧、目標の実現可能性への疑問、原子力縮小と脱炭素化の矛盾を突く論調も出ている。今後、同国の電気事業者がどのように気候変動対応と電力の安定供給を実現していくのか注目していきたい。

(工藤歩惟/海外電力調査会調査第一部)

豪雪地域で太陽光のある生活 冬の発電量で意外な結果


【太陽光生活研究所】

長野県最北部に位置する飯山市は日本でも有数の豪雪地域だ。年間の最深積雪平均は平地で176㎝、山間部では350㎝にも達する。豊富な積雪によって、市内には戸狩温泉、斑尾高原などのスキー場、飯山駅近くにはスキーのジャンプ台もあるなど、ウィンタースポーツの施設が点在する。

豪雪地帯に建てられた太陽光生活研究所

2020年春、スキー関連書籍の編集者である尾日向梨沙さんは同地に移住した。尾日向さんは、冬のシーズン中は取材活動に、オフになると編集作業に取り組み1年を過ごす。「元々、雪国で毎日スキーができる環境を望んでいたこともあり、山に囲まれ、季節を感じ取れる飯山が気に入り移住することにしました」と話す。

移住するに当たって、家を新築した。こだわったのが、環境負荷が少ないエネルギーを使った住まいだ。ここ最近の取材活動で、雪国では積雪が大幅に減少したり、突然の大雪に見舞われたりなど、極端な気候が続き、温暖化を意識するようになった。

「自然の中に身を置き、変化を感じ取ることが多かったです。その経験から、環境負荷の少ない生活を送りたいと考え始めました」(尾日向さん)。建設では基礎工事を工務店に任せ、壁塗りや棚づくりなど内装は自分たちで施工した。合わせて、太陽光や蓄電池を設置し、可能な限りエネルギーを自給自足したいと考えた。

家の壁面に太陽光を設置 安定出力を得るため工夫

そうした中、デルタ電子が太陽光発電設備を設置するモニターを探していることを聞きつけ、尾日向さんは手を上げた。だが、飯山のような豪雪地域では、屋根への太陽光発電の設置は雪の重みに潰されてしまうため不可能。そこで考えたのが壁面への設置だ。事業所などの金属用の架台を応用し、壁面に取り付けた。屋根ほどの面積が確保できない分、東南面と南西面の2面に取り付けている。こうすることで、日の出とともに出力が上昇し、1日を通じて安定した発電量を得られる。

尾日向梨沙さん(右)とパートナーの健さん

太陽光発電は昨年秋に稼働を開始し、本格的な冬を迎えた。同年末の記録的な大雪を経て、数カ月間で分かったのは、①付着した雪はパネルの急角度と流れる電流で溶けて落ちること、②雪が降る日も日によって発電すること、③天気が良い日は夏よりも発電することだ。今年2月6日には最高の発電量29 kW時を記録した。 尾日向さんは飯山に移住して1年が経とうとしている。今後、オフグリッドでの生活を視野に入れており、電気自動車など、新たな設備導入も検討している。

サウジアラムコが44%減益も 設備投資拡大と水素開発に注力


【ワールドワイド/資源】

サウジアラムコは3月21日、2020年通期の業績を発表した。純利益は490億ドルで前年同期比44%減少、売上高は同30%減の2050億ドルとなった。コロナ禍による原油価格の下落、減産により収益の減少を余儀なくされたが、エクソン、シェル、BPなど石油大手が軒並み赤字となる中で、減益とはいえ突出して高い水準の利益を確保し、年750億ドルの配当公約も達成した。

一方、アラムコの株価はコロナ禍で一時公開価格(32リヤル)以下まで下落したが、昨年後半以降はおおむね35リヤル前後の水準で堅調に推移している。時価総額は、ムハンマド皇太子が唱えた「2兆ドル」には届かないものの、3月末現在で1兆9200億ドルと、アップル(2兆500億ドル)に次ぐ世界第2位である。昨年11月の2回目の社債発行(80億ドル)の際は募集規模の10倍の応募があったとされ、アラムコに対する市場の信頼は厚い。

アラムコの好調の要因としては、バレル5ドル以下とされる生産コストの低さに加え、設備投資の削減やプロジェクトの延期など、支出の最適化・効率化策が挙げられる。180億ドルを投じたマルジャンとベリの海上油田の拡張事業は、当初23年に完了予定だったが、25年に延期された。この結果、20年の資本支出は最終的に270億ドルと、19年の330億ドルから大幅に縮減された。

アラムコの業績は20年第2四半期を底として改善基調にあり、21年の資本支出を350億ドルに増額する方針である。このうち、上流部門の設備投資は60億ドル増の256億ドルになり、パンデミック以前のレベルに回復する。ただし、原油生産能力(現状日量1200万バレル)の1300万バレルへの増強計画については、アラムコから具体的な実施時期は示されなかった。「現状の低レベルの上流投資が続けば、将来的に供給ひっ迫が生じる恐れがある」(20年10月、アミン・ナセルCEO)との発言もあり、スペアキャパシティー拡大に向けたアラムコの今後の取り組みが注目される。

アラムコはさらに、低炭素化に向けた取り組みとして、今後、ブルー水素の開発・生産に注力する方針を示した。アラムコは従来、国内でのLNG生産を視野に入れたガス開発計画を掲げていたが、今回、LNG生産計画を棚上げにして、余剰生産ガスは全量水素・アンモニア燃料とする方針とした。水素事業のマーケットや経済性が明らかになっていない中での大胆な方針転換といえよう。

(猪原 渉/石油天然ガス・金属鉱物資源機構調査部)

膨らむFITの国民負担 洋上風力で一段増加も


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

消費税には「所得の少ない人ほど重くのしかかる逆進性」(共産党)との批判がある。こちらはどうだろう。日経3月25日「再生エネ買い取り増加、家計負担が年1万円超」である。

「再生可能エネルギーの普及を支える国民負担が膨らんでいる。再エネ電力の固定価格買い取り制度(FIT)にもとづく家計負担は2021年度に1世帯あたり1万476円となり、20年度と比べて1割強増える見込み。太陽光発電などの導入拡大に伴って負担が増す」「加えてこれから新規に導入される洋上風力発電などの分が上乗せされるため、国民負担は一段と増加が見込まれる」とある。

記事の通り「経済産業省が24日発表した」内容だが、他メディアはほとんど報じていない。当たり前の負担と考えているのか、関心がないのか。頼りない。

同紙4月3日夕刊コラム「海の水辺の散歩」では、外部筆者の川辺みどり東京海洋大学教授が再エネの現状に切り込む。ほのぼのしたコラムのタイトルとは対照的に、見出しの「福島沖の洋上風力発電、撤去、消える復興の夢」との文言に事態の深刻さが漂う。

問題とされたのは、政府などによる「福島沖洋上風力発電実証事業」だ。「世界初の複数基による浮体式洋上風力発電システムの安全性・信頼性・経済性の実証や、関連産業の集積促進」を目指し、「楢葉町沖合に3基の浮体式洋上風力発電施設と1基の変電機が設置された。ところが昨年12月、政府は不採算を理由に、設置した施設を21年度に全て撤去すると決めた」という。

「投じられた国費は約600億円」と巨額だ。なのに「県や自治体が切望した自然エネルギーも地元の雇用も産業も生み出されなかった」。大失敗である。川辺教授は「事業の検証を望みたい」と述べる。当然だ。公金をドブに捨てて知らぬ顔の半兵衛はない。

反原発運動家に転じた中川秀直・元自民党幹事長のインタビューに託して「再エネ100%」をアピールするのは毎日だ。4月2日(夕刊)「特集ワイド」は、中川氏が「政界引退後の今、『原発再稼働は犯罪的。亡国の政策だ』とまで言い切る」と紹介する。

「たまっている放射性廃棄物だけでも広島・長崎の原爆数百万発分に相当する。原発は日本最大の危険物」「もうチェルノブイリのような巨大な石棺を造って建屋全体を覆うしかない」。中川氏の主張というが、理解に苦しむ。科学的には、放射性廃棄物は原爆のようには爆発しない。石棺で覆うと安全性が向上する根拠もない。

締めはこうだ。「再生可能エネルギー100%になれば、化石燃料を輸入する年間25兆円が不要、国富は海外に流出しない。設備投資や地域産業の活性化で日本経済は大発展する」。福島沖の風車についてはご存じないらしい。

朝日4月1日夕刊のコラム「取材考記」も原子力を疑う。「『脱炭素社会に不可欠』と主張する前に―、原発の負の側面、国は直視すべきだ」との見出しで、経済部の記者が「本当に原発は不可欠か」と書く。理由は東京電力や関西電力で不祥事が続いていること。「原発に関わる問題がいまも後を絶たないのはなぜなのか。総括ができていない」となじっている。

ただ、「負の側面」は何にでもある。再エネも、火力も。メディアの負の側面さえ指摘されている。完璧なエネルギー源はない。負の側面を減らしつつ、補い合う。切り札は多い方がいい。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

変動価格時代の到来 ヘッジ取引の普及推進を


【オピニオン】三田真己/アーガス・メディア・リミテッド日本支局代表

今年1月、日本卸電力取引所のスポット取引価格が高騰したことが大きな話題となった。この高騰によって大きな再販差損を被った小売り事業者もあると聞く。これらのことを受けて、電力市場自由化の制度の在り方や、そもそも自由化することの問題点を指摘したり批判したりする意見が多く聞かれた。

ただ、対案なき指摘や批判は必ずしも建設的なものとはいえないのも事実である。世界の資源市場は統制的な構造から変動的な構造に変化している。特定の国や企業が仕掛けたのではなく、市場に参加する国や企業の大多数が変動的な市場がもたらすメリットを求める結果に起きている変化である。

統制的な市場においては価格が大きく変化しないというメリットが期待できる。しかし価格や生産は統制できたとしても、その商品を求める動機、すなわち需要を統制することは困難である。そのため、価格と需給の乖離が常で、多くの場合その市場に参加する企業の成長を阻害する。

一方変動的な市場においては、価格と需要と供給それぞれが互いに呼応しながら変動して、市場を持続的に成立させる。各企業はそれらの変動要因を見ながら、新規参入や、追加投資、あるいは事業縮小や撤退などの手段を採ることで事業運営の最適化を図る。そうした企業努力は、技術革新や品質向上あるいは価格低減といったメリットを需要家にももたらす。

しかしながら、急激な価格変動にただ身を委ねていては、企業経営が困難になるほどの費用負担を強いられることもあり得る。このため、各企業が価格変動に対して何らかの事前対処を施しておくことが強く望まれる。

その事前対処として、先物契約やスワップ契約などヘッジ商品の活用が、おそらく最も容易かつ効果的な手段である。そうしたヘッジ商品は、将来の価格を今時点で確定することを可能にする。つまり、将来の価格変動リスクから、自らを解放するために利用される保険商品である。社会から事故を根絶するよりも個々が保険に入る方が容易であろう。

今日、日本国内においても将来の電力価格を固定するための先物契約やスワップ契約が国内外の取引所や仲介事業者によって提供されている。また、燃料価格については、国際市場においてそれらの価格を固定するヘッジ商品が盛んに取引されている。しかし、日本企業によるこれらの活用は依然として少ないのが現状である。

わが国の電力市場は全面自由化によって変動価格が所与の市場に変化した。その市場で価格の急騰が起きたわけだが、これは価格が需要と供給に正常に呼応した結果でもある。完全自由化からわずか5年、制度が配慮に欠けているのも事実ではあろう。しかし、市場原理がもたらす個別事象について感覚的に議論することに終始せず、ヘッジという保険の活用について理解と実践を深めることが望まれる。

みた・まさき 米マグローヒル社を経て2003年英アーガス・メディア・リミテッド入社。
各種エネルギー市場に関わるコンサルティング、より効率的な市場形成の提案などに携わる。

EV導入支援事業をスタート グループを挙げ脱炭素社会構築へ


【中部電力】

脱炭素社会を実現する上で、走行時にCO2を排出しない電気自動車(EV)が注目されている。中部電力グループ・中部電力ミライズは2020年12月25日、トヨタ自動車と提携してEVの導入支援を行うサービス「TOYOTA GREEN CHARGE」を開始している。

工事も中部電力グループが担当する

サービスは、トヨタ自動車が販売する超小型EV「シーポッド(C+pod)」を導入する法人向けに、①充電設備の工事、②充電状況を見える化するシステム導入、③CO2フリーメニュー―などEV導入に必要な各種サービスをワンストップで提供するもの。全国各地でサービス導入が進んでおり、現在の対応車種は1車種のみだが、今後は順次拡充を図っていく。

充電設備工事は、ユーザーの受電・充電設備、電線敷設が含まれ、それら設備は中電ミライズが保有する。料金は月額料金を半年ごとにまとめて支払う形式のため、ユーザーには充電設備の工事費用を負担することなく、EVを導入できるメリットがある。

充電状況などを可視化 CO2フリープランも用意

各種サービスについても、ユーザー専用サイトで充電量、電気料金の確認に加え、ガソリン車との燃料費比較、CO2排出量の計算などを閲覧可能にした。こうしたデータは月に1回所定のメールアドレスへ通知され、専用サイトではメーターの通電制御機能によって充電時間をユーザーが設定できるタイマー機能も搭載している。

あらかじめ充電スケジュールを決めておくことで、基本料金の引き上げにつながる電力デマンド超過が回避でき、安価な夜間電力を効果的に活用することでランニングコストの低減にもつながる。

またCO2フリー電力充電は、走行距離相当分のCO2フリー電力が提供される。東京電力エナジーパートナー(EP)、関西電力のCO2フリー料金プランへの加入もできるが、中電ミライズと契約した場合は充電器の導入台数に応じて充電電力分の電力料金を割引するサービスも実施している。

担当者は「今後もお客様や社会の課題を解決する新たな価値の創出・提供を目指すとともに、脱炭素社会の実現に向けた取り組みをより一層推進していきます」と話している。EVなどモビリティーの電動化や再生可能エネルギーによる充電で、脱炭素社会の実現を目指している中部電力グループ。3月17日からはEVやプラグインハイブリッド(PHEV)を保有する一般家庭に向けた同様のサービスを展開中。グループを挙げてEV社会を支えていく構えだ。

「負の遺産」抱えるバイデン政権 イラン核合意への復帰は楽観できず


【論点】米国の中東政策/須藤 繁 帝京平成大学客員教授

トランプ前米大統領はパレスチナ和平プロセスを無視、イランとの核合意離脱など中東外交で「負の遺産」を残した。

新大統領は政策の再構築に乗り出すが、域内の勢力均衡は大きく変化しておりイランとの関係修復は困難が伴いそうだ。

米国トランプ前大統領は、第二次世界大戦以後、歴代の大統領が世界を導くために採用した外交理念の全てと決別したといわれる。その理念とは、大きくはリアリズム(パワーバランスを維持して影響力を行使)とリベラリズム(国際協調の推進により国際秩序を実現)に収斂するが、トランプ政権は経済的利益に焦点を当てるだけで外交政策の理念をほぼ完全に無視した。

そのトランプ政権は、いくつかの「負の遺産」というべきものを遺した。環境政策ではパリ協定からの離脱が挙げられる。

外交活動の相手は責任ある政府・国家であり、感情のある国民である。トランプ政権の外交政策の負の遺産には、米軍基地の撤退、貿易合意からの離脱があり、中東政策の誤りが挙げられる。

パレスチナとの仲介を放棄 イランへの対抗路線構築

中東和平に関しては、米国はパレスチナの仲介者の役割を果たしてきたが、トランプ政権はその枠組みを完全に放棄し、和平プロセスの一切を無視した。パレスチナ人は弱体で当事者たりえないとし、イランと対抗するため、スンニ派アラブ諸国をイスラエルと協力させる路線を構築しようとした。

在イスラエル米国大使館をエルサレムに移転し、パレスチナ難民への資金拠出を停止し、イスラエルによるゴラン高原編入を認めた。さらに、西岸地区の一部併合の道筋を描き出したのもトランプ政権の4年間で行われたことである。

イランの核協議は、オバマ政権下の2015年7月14日に最終合意された。核合意はイランに対し制裁解除と原油輸出の再開を保証し、テロ支援につながる外貨を確保させるものであり、イスラエル、サウジアラビアを筆頭にアラブ諸国は大きく反発した。中でもサウジは合意の翌日、核合意への対応としてイランが支援するイエメン・フーシ派への攻撃をエスカレートし、拠点を奪還している。

米国は18年5月イラン核合意に関しては一方的に離脱し、制裁措置を強化した。イランは核合意で定められた限界を超える行動を取り、イラク、シリア、イエメン情勢に介入することで、中東のパワーバランスを変化させた。

トランプ政権の4年間で起きたことは、イスラエルと湾岸アラブ諸国の連携強化であった。中でもトランプ大統領が初めて外遊先として選んだサウジは、米国製先端兵器を大量に導入し、反イランで連携することを通じてイスラエルと良好な関係を構築した。

その見返りというべきか、トランプ大統領は記者殺害への関与が疑われたムハンマド皇太子を擁護し、イエメン内戦に対する同国の軍事介入を全面的に支持した。

一方、イスラエル、UAE、バーレーンは20年9月15日、米ホワイトハウスで国交を正常化させる合意文書に署名した。これらの動きは米国の反イラン包囲網の拡大を意味し、安全保障の分野で中東地政学の枠組みは大きく変化した。

こうした米国の対応に対し、イランは軍事力の強化で対抗、19年秋までに無人機(ドローン)および巡航ミサイル攻撃でサウジの石油関連施設を攻撃できるまでに戦闘能力を整備した。

また米国の離脱後、イランは核合意を破る核兵器開発に着手し、本年1月には短期間で核兵器に必要な90%レベルに引き上げられる20%レベルへの核濃縮を始めた。これらは地域内のパワーバランスの均衡を求めてのものである。

バイデン政権にとっては核合意への復帰が対イラン政策の軸になるが、大統領はEUを仲介させる条件でイランとの対話を用意することを表明している。米国は本年6月のイラン大統領選挙で保守強硬派の勝利を阻止したい考えであり、その点では対イラン経済制裁を解除してビジネス関係を再開したいEU諸国と思惑が一致する。

バイデン大統領がイラン核合意への復帰の可能性を示唆する一方で、イスラエルによるパレスチナ地域の入植活動やサウジにおける人権侵害を問題視していることも重要である。

バイデン政権のイラン政策は核合意への復帰が軸になる

バイデン政権が抱える難題 中国ファクターと核合意

それでは、こうした基本構造の中で、バイデン政権は今後どのようなイラン政策を取るのか。具体的な方向はまだ確定しないものの、二つの出来事を踏まえ、事態の推移を注視したい。

その第一は中国ファクターである。3月27日、イランのザリーフ外相が中東歴訪の一環でテヘランを訪問した中国の王毅外相とイラン・中国包括的協力協定に署名した。協定は16年1月に発出した包括的戦略パートナーシップ共同宣言に基づくもので、経済や文化などの分野で今後25年間にわたって両国関係を発展させる。

協定は、イランに中国からの軍事・政治面での後ろ盾と原油輸出を通じた外貨獲得という経済的利益をもたらす。協定が20年6月の閣議で承認されていたにもかかわらず、署名が先延ばしされた理由には、米国大統領選挙の結果に配慮したことが考えられる。イランは、米国からの制裁を無効化する手段として、今回、中国への接近という保険的措置を講じた。

第二は、4月6日にイラン核合意関係国がウィーンで開催した合同委員会が二つの専門部会の設置を決めたことだ。専門部会は、イランによる核合意の順守と米国による対イラン制裁解除に向けた措置を分担して議論する。米国とイランは、欧州を介してようやく間接協議を実施できるようになった。

専門部会の設置により、プレーヤー全員がステージに登場しつつあることは歓迎される。他方、地域の軍事バランスが18年当時とは大きく変わり、イラン側がこれを是正するには弾道ミサイルの開発に取り組まざるを得ない事情を抱えた以上、核合意への立ち戻りを楽観視することはできない。

すどう・しげる 1973年中央大学法学部卒。石油連盟、三菱総合研究所、
国際開発センターを経て2011年帝京平成大学教授。21年から現職。専門は石油産業論。

動き出した需給調整取引の課題 改革の鍵は「需要側資源の参加」


【識者の視点】西村 陽/大阪大学大学院招聘教授

全国の一般送配電事業者の調整力入札の場として、需給調整市場が開設され取引が始まった。

より低廉に供給信頼度を高めるかは、蓄電池など需要側資源の参加をいかに促せるかにかかっている。

一般送配電会社9社と電気事業連合会から枝分かれした送配電網協議会が3月17日、電力需給調整取引所の開設を発表。31日に初めての調整力入札が行われ、約3000万kWが落札した。

この需給調整市場は、一体的に運用されてきた発電・送配電(系統/需給運用)・小売りが、分離された電力システムへと移行する過程で必要になるものである。例外的に需給調整機能と前日・当日市場が一体運営されている米国などのパワープール地域では、1日前市場に入札された発電能力の中から信頼度維持用の⊿kWを供出してもらう発電機が抜き出され、発電事業者に支払う対価も自動計算される(相互最適化=コ・オプティマンゼーション)ので、はっきりした取引は存在しない。

一方、欧州のようなバランシンググループ(BG)制度で、発電・小売りと系統・需給運用者の間に分担点(いわゆるゲートクロージャー)がある場合は、両者間の取引が必要になる。欧州の場合、通常は調整速度別にプライマリー、セカンダリー、ターシャリーといった枠が設定され、多くは週単位で入札・契約が行われる。

日本もBG制度を採用しているため、同様の取引が必要となる。応動時間に応じた各種商品の取引が順次始まるが、今回始まったのは最も低速の三次調整力②(再エネ予測誤差補正の30分調整力)で、1日を八つのブロックに分けた3時間コマで取引される。

2017年以降、送配電各社は調整力公募という形で需給調整市場開設前の「つなぎ」として年間ベースの需給調整用のいわゆる⊿kWを契約してきた。調整力Ⅰ―a、Ⅰ―b、Ⅰ(DR=デマンドレスポンス)といった類型がそれで、年間を通じて⊿kWを供出できる発電機を持っている発電事業者はほぼ旧一般電気事業者系に限られるため、実態としては契約時点の入札発電機と運用ベースで動く発電機に差し替えがあるなど、どちらかといえば供給信頼度重視の運用をしてきたと言える。

これが、需給調整取引所での週単位の契約に変わることでより効率的な調整力調達と必要調達量の弾力化が期待され、週単位であることから年間では供出できないプレーヤーの入札も可能になる。なお、Ⅰの契約は容量市場発足とともにそちらに移された上で、発動指令については現状と同じく系統運用者から受けることになる。

海外では価格低下効果も 市場調達への期待

実際、同じ形で需給調整市場を運営してきたドイツでは、当初風力大量導入による再エネ予測誤差が増大した結果、特にセカンダリー(ドイツの場合は秒ではなく15分程度の中速調整力)市場価格が高騰した後、分散型の小規模発電機や既存火力発電機の改造分など、多様な入札者が現れたことや、再エネ予測誤差の多くをゲートクロージャー前でBGやBRP(バランス責任主体)に引き取らせる制度改正によって、数年で大きな価格低下が見られた。

「参入者が増える」→「価格を見て参入したプレーヤーの増加と制度改革により落札価格が低下する」→「ネットワークコスト負担が小さくなる」という正の循環こそが、需給調整力調達を短期市場化する利点であり、それは⊿kWのポテンシャルが広がり、供給信頼度維持の基盤がより堅牢になることも意味している。