【コラム/3月22日】米国における電力自由化の評価


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

米国では、1997年にロードアイランド州で産業用需要家に限定した電力小売自由化が、そして1998年には、カリフォルニア州とマサチューセッツ州で家庭用需要家も対象とした電力小売全面自由化が始まり、その後本格的な電力の小売自由化時代に突入した。しかし、電力小売自由化の道のりは決して平坦なものではなかった。カリフォルニア州では、2000年夏場から2001年の冬場にかけて、電力需給の逼迫に端を発した電力価格の高騰や大規模停電が発生した。卸電力価格は、2000年12月には前年比で10倍、また2000年8月には小売料金規制が撤廃されていたSDG&E地区で、小売料金が同年4月比で2倍に高騰している。この電力危機は、電力供給が州管理下に置かれるという最悪の事態で幕を閉じた。

さらに、2003年8月14日には、北米大停電が発生した。米国北東部とカナダで起きた大停電では、最大6180万kWの電力供給が停止し、約5000万人が影響を受け、経済・社会の蒙った被害は約60億ドル規模に達した。原因としては、設備の脆弱性や系統連系の弱さなどの系統上の問題があったところに、自由化で長距離大容量送電が増えたことが挙げられた。完全復旧までに2日以上かかっている 。復旧に時間がかかった理由の一つは、発送電分離により、発電側と送電側の情報交流がスムーズにいかなかったことである。

このような出来事の結果、すでに電力小売自由化に踏み切った州でも自由化を中断、延期、また自由化法を廃止する州が続出し、米国では電力小売自由化の動きは後退していった。このような出来事から約20年たった現在、あらためて米国の電力小売自由化はどのように評価できるだろうか。現在、小売全面自由化を行っている州は、コネチカット、デラウェア、イリノイ、マサチューセッツ、メリーランド、メイン、モンタナ、ニューハンプシャー、ニュージャージー、ニューヨーク、オハイオ、ペンシルベニア、ロードアイランド、テキサスの14州とコロンビア特別区である。これらのうち、家庭用需要家による供給事業者の変更率が高いのは、テキサス州(約8割)、オハイオ州(約7割)、イリノイ州(約6割)であるが、テキサス州は規制当局による強制的措置として供給事業者の変更を行った結果であり、あとの2州は、自治体によるアグリゲーションプログラムの結果である。また、ペンシルベニア州では約3割の家庭用需要家が供給事業者を変更しているが、これは州の公式の価格比較サイトの存在によるところが大きい。これら以外の州における供給事業者の変更率は、2割を下回っている。

 電気料金(家庭用)については、1997年当時、全米平均8.4¢/kWhに対して、自由化州10.1¢/kWh、規制州7.2¢/kWhであったが、2019年では、全米平均12.8¢/kWhに対して、自由化州14.6¢/kWh、規制州11.5¢/kWhとなっている。自由化州と規制州の料金格差は、1997年では2.9¢/kWhであったが、2019年には、3.1¢/kWhまで拡大している。

米国の事例から、自由化が電気料金を引き下げたかといえば、否である。電気料金は、自由化州でも規制州でも1997年以降、上昇基調にあるが、料金動向に大きな影響を及ぼしているのは、供給コスト、とりわけ燃料(天然ガスなど)価格であり、自由化要因ではない。米国では、1997年に小売自由化に踏み切ったが、その限界も見えてきている。このような状況の中で、連邦政府が発布した電力関係の規制(オーダー)では、DR、省エネルギー、エネルギー利用効率向上などが重視されている。政策の重点は、市場自由化から環境へシフトしつつあるといえるだろう。わが国でも、グリーン成長戦略がポストコロナの重要政策として打ち出されているが、電力政策もやがて自由化から環境へ大きくパラダイムシフトしていくことになるだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【LPガス】容器流出に本腰 法令で規定へ


【業界スクランブル/LPガス】

「災害に強いLPガス」。大規模災害が発生するたびに、被災地での炊き出しや非常用発電機の燃料として、その認知度は向上している。一方、水害による洪水時には軒先に設置されたLPガス容器が流出するケースが多く、経産省の審議会などでは委員から「水害時には容器流出が繰り返され、災害に強いといえるのか」などの指摘もあり、早期の対策が求められてきた。そしてこのほど、LPガス供給設備などを扱う企業で組織する日本エルピーガス供給機器工業会(JLIA)が、「現在流通している高圧ホース(気相用)を全て災害対応型のガス放出防止型高圧ホースに一本化する」と表明した。

容器流出対策については、昨年6月から経産省、全国LPガス協会などLPガス関係団体が「容器流出対策に向けた検討会」を組織し、昨年10月に報告書をまとめている。その中で基礎的な対策として、①鎖またはベルトによりゆるみなく容器を固定、②ガス放出防止型高圧ホースを使用、③外壁の金具は、容器が浮上しても鎖またはベルトが外れにくいものを使用―などのルール化を検討する方向性を示した。これを受けJLIAは昨年12月、①集合用高圧ホース(気相用)は2021年4月製造分より防止型に一本化、②連結用高圧ホース(気相用)は同年10月製造分より防止型に一本化する―と表明していた。

近年の水害などによる軒先容器流出は、「平成30年7月豪雨(西日本豪雨)」では岡山・広島・愛媛の3県で580本が、一般家庭などから流出したり土砂に埋没するなどした。同様の被害は、「令和元年台風19号」では1都11県で303本、「令和2年7月豪雨」では熊本、大分の両県を中心に286本に上っている。

今後、水害対策については、容器設置時の流出防止措置を法令などで規定する方向性で議論していくという。災害対応型高圧ホースのスタンダード化のみならず、安全対策の先行投資の観点からも、LPガス業界を挙げて取り組むことで、「真に災害に強いLPガス」と言われることに期待したい。(F)

【都市ガス】LNGが一転余剰 再度同じことも


【業界スクランブル/都市ガス】

今冬、なぜLNGが不足したのか。主な原因は一昨年の暖冬にさかのぼる。2019年は暖冬で、エネルギー企業は例年になくLNGの余剰在庫を抱えることになった。たださえ発射台が高い状態で、20年は新型コロナ禍の影響で需要が低迷し、さらに余剰在庫を上乗せした。各企業はスポット調達の停止はもちろんのこと、長期契約で仕向け地自由なLNGの転売、下方弾力性の行使などを駆使して、適正在庫を下回るスリム化を急いだ。JKM(日本・韓国への持ち届け価格)市場は夏場に100万BTU(英国熱量単位)当たり2ドル前後まで値が下がったが、LNGタンク満杯回避のために逆ザヤでの転売は実施した。相当量の在庫調整をする裏には「冬場に何かあっても、いざとなれば安価なスポットを購入できる」という安易ともいえる考えが担当者になかったとは言い切れない。

いろいろな要因も重なった。10月前後からのマレーシア・豪州などでのLNG出荷基地の故障、豪州の石炭出荷設備の故障、パナマ運河の混雑、大飯原発の未稼働、日本海側の天候不順による太陽光発電の不調、そして厳冬による中国・韓国のスポットLNG買い漁りなどだ。

そこに、例年より若干寒い冬がやって来た。通常なら十分に対応可能な需要増に対して、LNGをスリム化しすぎた分、燃料が足りない状況が際立ってしまった。このため発電所の出力を絞り込むことに。自社需要への供給を優先する電力会社は市場への投入量を一時的に抑えざるを得ない。それがかつてない電力市場の高騰を生み出し、結果として市場に軸足を置いている新電力各社は壊滅的な影響を受けることになった。

通常、スポットLNGは購入を決定してから到着まで3カ月以上かかる。12月ごろに電力会社が慌てて買い急いだ高価なスポットLNGの到着は2月末。それなのに2月後半以降は暖冬の見通しでLNG在庫はまた余剰になろうとしている。既に、4月以降のJKM市場は買手がつかない状態だ。残念だが、同じことはまた起こりそうだ。(G)

電力と通信の大手が協業 社会貢献とビジネスを両立へ


【エネルギービジネスのリーダー達】髙瀬憲児/TNクロス代表取締役社長

社会への貢献と課題解決がビジネスとして成り立つ革新的な事業の創造に奔走する。

通信分野で数々の新規事業に携わってきた経験を生かし、エネルギーという新たな分野に挑む。

たかせ・けんじ 1990年東大大学院工学系研究科修了、日本電信電話入社。97年マサチューセッツ工科大学スローン経営大学院修了。2014年NTTコミュニケーションズサービス基盤部企画部門長、19年TNクロス副社長などを経て、20年4月から現職。

東京電力とNTT―。日本のインフラを支える大企業2社の共同出資により、TNクロスは2018年7月に誕生した。取締役として入社し、20年4月に社長就任。世の中にある社会課題の解決につながる事業をビジネスとして成立させることを目指し、新会社のかじ取り役を担う。

ビジネス創出の先駆者に 時には思い切った行動を

同社の事業は、電力と通信それぞれが持つ設備や技術を融合することで、分散型エネルギーシステムの構築やレジリエンスの強化など、新たなエネルギーソリューションを企画すること。各事業の主な実働部隊は東電やNTT、グループ各社が担当するが、事業そのものがなければ何も始まらない。同社は新たな事業を生み出す、いわば先駆者としての役割を担う。

「パイオニアであれ。プロであれ。全ての人に寄り添い、誠実に」。社員にはこう説きつつ「時にはやんちゃも必要」とも話してきた。この言葉には、既成概念にとらわれない発想や思い切った行動も必要との思いが込められている。

この「やんちゃ」が実を結んだのが、千葉市と取り組む実証事業だ。従来であれば担当部局に提案するところ、真っ先に熊谷俊人市長のもとを訪れた。プレゼン当日には、各部署の担当者も集合。提案内容が評価され、災害時と平常時に活用できるエネルギーソリューションの検討に向け、市との協定締結がすぐさま決定した。それが、現在進めている小中学校など182カ所の避難所に太陽光発電(PV)とリチウムイオン電池を設置する事業にもつながっている。

PVなどの新たな設備を入れるには、自治体側にコスト負担が発生し、予算化には時間がかかる。だが、まずは導入しないと先に進まない。そこで選択したのが、電力購入契約(PPA)という方法だ。TNクロスが設備・施工費を負担し、PVが発電した電気を自家消費しながら電気料金として回収する。このスキームによって導入のハードルが大きく下がった。

今後、小中学校でPVと蓄電池がうまく活用されて必要性が認識されれば、将来的には予算化される可能性も出てくる。「社会的ニーズに応え、かつそれを事業として成立させる。その仕組みづくりが重要になる」

プライベートでは、社会的課題を事業により解決することを目指す社会起業家に対し支援を行う団体の理事を務める。一時的な支援や寄付で終わるのではなく、持続的な事業により社会のニーズに応えていく仕組みづくりは、TNクロスの事業でも生きている。

数々の新規事業を経験 エネルギー分野にも挑戦

技術畑出身ながら学生の頃からビジネス分野に興味があった。転機は、NTT入社の5年目に、社内制度で経験したマサチューセッツ工科大学への留学だ。目的意識の高い学生たちとともに机を並べ、仕事に対する考え方に多くの刺激を受けた。また、大学のプログラムで学生を日本に招くイベントに主催者として参加し、主体的に動く楽しさややりがいを実感する。

「このまま会社にいてもいいのか」。帰国後、自問自答を繰り返しつつも、社内のさまざまな先輩と話していく中、印象的な社員に出会う。当時、まだ公社体質が抜けきれていなかったNTTにおいて、その枠にとらわれず道を切り開こうとしている彼の姿を見て「自ら主体的に動けば可能性は広がる」と活路を見いだした。その社員が、現在のNTT社長の澤田純氏だった。

NTTでは公衆Wi-Fiの整備やデータセンターの立ち上げ、オフィスのIT化ビジネスをはじめ、10年には南アフリカの大手システム会社の買収という大型の海外案件も経験した。いずれも新規事業や既存ビジネスの再構築といったゼロから立ち上げる仕事ばかり。これらの経験を経たからこそ、分野外のエネルギー事業にも挑戦できる。

千葉市の事業は20~22年度の3カ年プロジェクト。小中学校はそれぞれ、建物の配置や電力配線の敷設箇所が全て異なる。1カ所ずつ、PV・蓄電池の設置を進める中で、今後の展開に向けた類型化を進めるなど、1年目は下地づくりに注力した。2年目となる今年、いよいよ事業が本格化する。また、今年1月には、NTT東日本の通信ビルから敷設した自営線で市内の中学校に直流送電を行う実証試験も始まった。

TNクロスの設立当初、「お手並み拝見」と冷ややかに評するメディアもあったが、この言葉が社員たちの心に火をつけ、徐々に形となってきた。千葉市の担当者とは、毎日のように電話でのやり取りが続いている。相談を受け、時には相談することもあり「今では困難を乗り越えた仲間のような存在」だという。千葉市での取り組みをきっかけに、東京都ともスマートエネルギーシティに関する勉強会を行うなど、電力、通信に自治体が加わったコラボの成果が、徐々に広がり始めている。

長年手掛けたノウハウを活用 洋上でリーディングカンパニー目指す


【コスモエコパワー】

政府は昨年10月、2050年までにカーボンニュートラルを達成すると宣言、同12月には「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会」を開催し、梶山弘志経済産業相が「温暖化ガス排出削減における鍵の一つが洋上風力」と発言するなど、風力発電業界はさらなる成長期を迎えつつある。

コスモエネルギーグループでは第6次連結中期経営計画にて風力発電事業を新たな柱と位置付けており、このような流れの中、傘下のコスモエコパワーの取り組みをより一層強化し、国を挙げて取り組む脱炭素化社会の実現に貢献したいと考えている。

波崎ウインドファーム(茨城県神栖市)

大切な地元との合意形成 地域支援を通し関係を構築

コスモエコパワーは前身となる会社が日本初の風力発電専門企業として1997年に創業。現在、国内シェア第3位に位置する業界の老舗だ。これまで20年以上にわたり、25カ所以上の地域で風力発電所の建設を行い、設備容量は約26万kWを有する。

同社の強みは、発電所建設における風況の知見があることや、開発地域住民との合意形成、設計、施工、O&M(オペレーション&メンテナンス)まで一貫して手掛け、それぞれノウハウを持っている点だ。

特に、事業化に向けて注力しているのは地元との合意形成だ。地権者や地元町内会、自治体などの理解を得るに当たっては、相手の立場を尊重しながら、不安や課題を取り除くべく丁寧に話し合い、さらに自社事業を理解してもらうよう努めている。時には、風力事業と直接的に関係しないが、地域活性化につながるような、独自の地域支援を通して、各地で良好な関係を築いているとのことだ。このような取り組みにより、これまで円滑に事業を拡大してきた。

今後、洋上風力発電事業に注力していくに当たっては、これまで以上にコスト競争力や開発に関わる人材力、サプライチェーンを形成する力が求められる。

そんな新市場に向けて、同社では長年にわたり培ってきた陸上風力発電事業でのノウハウを生かした展開を進めていく方針だ。

例えば、洋上風力事業に適した海域における漁業では、ほかの地域と同様に、後継者問題や漁獲高の減少など多くの課題を抱えている。新たな産業として洋上風力事業を加え、融合することで、漁業の効率化や、地域社会における新たな雇用機会や産業の創出のほか、風車を観光資源化し旅行者を呼び込める可能性もある。このような課題に一つひとつ丁寧に取り組むことで地域社会の活性化と共生につなげ、同社は洋上風力事業のリーディングカンパニーを目指していく。

大手ガス株価に上昇・下降の二局面 ROE低下と気候変動問題が影響


【羅針盤】荻野零児/三菱UFJモルガン・スタンレー証券 シニアアナリスト

東京ガス、大阪ガスの過去10年の株価上昇率は東証株価指数(TOPIX)の上昇率を下回った。

競争激化による都市ガス事業の利幅縮小と成長事業の成果が出ていないことが影響している。

過去10年間(2010年末~20年末)の東京ガスと大阪ガスの株価上昇率は約3割であり、同期間のTOPIXの上昇率(約2倍)を大きく下回った(図1と2を参照)。

注:月末値、2010年12月末を100として指数化
出所:Quick Workstationに基づきMUMSS作成

注:2010年末から2020年末の10年間の株価パフォーマンス
出所:Quick Workstation に基づきMUMSS作成

本稿では、過去10年間のガス業界(都市ガスおよびLPガス)の株価とファンダメンタルズを振り返り、今後の中長期的な経営課題を述べる。前半では、東ガスと大ガスについて、後半では、株価上昇率が高かった日本ガスと岩谷産業について述べることにする。

株価に二つの局面 上昇期と下降期

図1に示すように、過去10年間の東ガスと大ガスの株価の推移は、二つの局面に大別される。前半期間(10年~15年ごろ)は、両者の株価はTOPIXと同様に上昇した。しかし、後半期間(15年ごろ~19年)は、TOPIXは上昇したが、両社の株価指数は大きく下落した。

東ガスと大ガスの過去10年間の株価上昇率がTOPIXを大きく下回った主な要因は、ROE(=純利益÷自己資本)が低下したことと、株式市場で気候変動問題への関心が高まったことの2点と考える。

第一の要因であるROEは、株式市場で最も重要視されているKPI(重要業績評価指標)である。その理由は、ROEは、会社が株主から預かっている資金(自己資本)を使って、どのくらい稼いでいるかを示す指標であるからだ。

脱炭素の動きの中、天然ガスへの評価も低下している

本稿では、利益に対する原料費調整制度によるタイムラグ影響を平準化するため、3年平均のROEを計算する(例えば、19年度のROEは、17年度から19年度の3年間平均である)。

東ガスと大ガスの19年度のROEは10年度よりも悪化した。前述の株価の推移と同様に、過去10年間は、二つの局面に大別される。次に見るように、前半期間(10~15年度)にROEは改善し、後半期間(15~19年度)にROEは悪化した。

・東ガス:10年度7・9%→15年度10・2%→19年度5・9%

・大ガス:10年度6・7%→15年度8・0%→19年度3・8%

15年度以降の両社のROEが低下した主な要因は、稼ぐ力の悪化だったと考える。

稼ぐ力のKPIであるROA(=経常利益÷総資産)の3年平均値は、次の通りである。株価とROEの推移と同じように、前半期間と後半期間と同じトレンドである。

・東ガス:10年度4・8%→15年度7・7%→19年度4・2%

・大ガス:10年度5・3%→15年度6・5%→19年度3・7%

15年度以降に両者の稼ぐ力が悪化した主な要因は、次の2点だったと考える。

①全面自由化などによる競争激化を背景とした都市ガス事業の利幅縮小

②成長事業への新規投資の成果が出ていないこと

第二の要因である気候変動問題への関心が高まったことは、本誌2月号の羅針盤で述べた通りである。機関投資家が脱炭素を目指す動きの中、石炭や石油だけでなく、天然ガスの将来性に関する評価も低下したと考える。

【新電力】消費者のリスク 市場高騰で顕在化


【業界スクランブル/新電力】

卸電力市場価格高騰に伴い、市場連動メニューのリスクが社会で話題になっている。SNS上では主に新電力と市場連動メニューを契約している消費者から「電気代が1日5000円を超えてしまう」「今月の電気代が10倍になってしまう」といった悲痛な声が注目を集めた。市場連動メニューは主に風力発電所の導入が進む欧州で盛んだ。特に深夜時間帯を中心に風力発電所の余剰電力が発生し、市場価格が低下する。この安価な電力を活用して、小売電気事業者が消費者の電気自動車(EV)やヒートポンプ(電気給湯器)の充電制御を行うことで再生可能エネルギーの出力抑制量を減らすことができ、電気料金を削減できる画期的なメニューだった。欧州の市場連動メニューには上限価格が存在することから、消費者のリスクは少なく顧客の支持を集めている。

一方で、日欧を比較すると見落とせない大変重要なポイントがある。日本は資源輸入国であり、資源国とガスパイプラインでつながっていない。また、欧州は異なる電源構成の国の系統が相互につながり、電力取引を通じて相互補完する仕組みが確立されている。

日本は資源産出国から遠く離れており、ガス大量消費国の中国・韓国との購買競争にさらされている。電力需要や再エネの発電量の予測が外れた場合、すぐにエネルギー(ガス・電力)を輸入できる欧州と異なり、日本はすぐにエネルギーを輸入できる環境にない。今回の事態は日本のエネルギー供給体制の課題が顕在化した出来事だったといえよう。

今後の議論のポイントは3点である。①新電力は供給条件説明義務、契約締結前・締結後の書面交付義務を果たしていたのか、②市場連動メニューを利用している消費者は卸電力取引所の価格変動リスクを認識していたのか、③顧客が価格リスクをヘッジできるオプションは用意されていたのか―。

電力・ガス取引監視等委員会において「電力の小売営業に関する指針」の改正について検討が進むと思うが、消費者保護の観点から議論が必要だ。(M)

韓国が北朝鮮への原発輸出を検討か


【ワールドワイド/コラム】

国産原子炉の輸出禁止や、月城原子力発電所1号機の早期稼働停止を図るなど、脱原発政策を進める韓国・文在寅政権。そんな文政権には1月末から「秘密裏に北朝鮮で原発を建設する案が進められていたのでは」との疑惑が広がっている。

そもそも韓国では、月城原発の早期閉鎖問題を巡り、「早期閉鎖の根拠となっている『経済性』は、文政権に忖度したもので、妥当性に欠けているのではないか」との問題が浮上していた。監査院が本件の調査に乗り出そうとしたところ、産業通商資源部(日本の経済産業省に相当)は調査が入る前に内部文書530件を違法に削除した。

だが、その削除データはマスコミの手に渡り、その中に「北朝鮮への原発輸出プラン案」が含まれていたことが発覚した。

最大野党の「国民の力」は、「衝撃的な利敵行為だ」と文政権を批判し、「この文書を2018年に行われた南北首脳会談で韓国の対北支援プランとして金正恩に手渡した」と主張する。一方の文政権は「そのような事実はない」と反論。当の産業通商資源部も本文書について「あくまでも政策立案を行う上でのアイデア出しにすぎない」として、実効性のあるものではないと説明している。

輸出の実現性について、国際原子力機関(IAEA)元事務次長のオリ・ハイノネン氏は「原発は韓国と北朝鮮が独自に議論して建てられる類の施設ではない」と指摘。「1994年にあった朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)での原発建設計画とは比べ物にならない規模の投資が必要になる。どのような国際的合意を結ぶかというのも問題だ」と語っている。真相はやぶの中だが、実現の可能性は限りなく低そうだ。

【電力】新電力に打撃 脆弱な電源構成


【業界スクランブル/電力】

昨年末からの電力需給ひっ迫・市場価格高騰で一部新電力の経営がダメージを受けていることについて、審議会の主要メンバーである学識者の言。

「多くの有識者や発電事業者は、今冬の需給ひっ迫の前には、『変動再エネが普及すれば卸市場価格は傾向的に低下する』『卸市場価格には少なくとも一部の固定費は含まれておらず、取引所で電力を調達する小売事業者は固定費負担を免れてただ乗りしている』などと、ミクロ経済学のイロハが分かっているのか怪しい、物事の一面しか見ない愚かな議論を振りまいてきた。これが正しければ、固定費の乗ったベースロード電源市場を活用せず、小売事業者が過度にスポットに頼る経営をしたとしても、価格高騰への備えを怠っても、むべなるかな」

新電力がリスク管理を怠ったのは発電事業者のせいとは随分と乱暴な話だ。今行われている限界費用によるスポット市場への投入は、当時審議会メンバーであった某氏の強い主張で実現したものだが、氏は相応の頻度で市場が玉切れによる価格スパイクを起こし、電源が固定費を回収することを想定していた。

ところが、日本の市場ではほとんどスパイクが起こらない。まるで、凪のような市場だ。玉切れが相応の頻度で起こる市場が社会的に望ましいという感覚が共有されず、例えば予備率8%を必達目標としたなら、そんな凪の市場になるのもむべなるかな。

ところが、kWの不足でなく燃料不足により価格スパイクが起きた。これが3週間ほど続いたことを世界的に異常だとか災害級だとか言う向きがあるが、水力発電中心の国で渇水が起きたようなもので、北欧に行けば渇水か豊水かで月平均でも市場価格が数倍違う。

それよりも深刻なのは、日本の電源ミックスが大量の備蓄が難しいLNGに過度に依存し、海路が封鎖されればひとたまりもないほど脆弱だと国内外に知れ渡ったことだ。このような国家安全保障にかかわる課題を尻目に新電力の経営問題ばかり騒ぐのでは、平和ボケと言われても仕方ないのではないか。(T)

温暖化外交に注力する米国 注目される米中関係の行方


【ワールドワイド/環境】

1月20日、厳戒態勢の中で米国にバイデン新政権が誕生した。公約通り、就任と同時にパリ協定復帰に署名し、1カ月後に米国は法的にパリ協定に復帰する。

 4月にはアースデーに合わせて気候サミットを主催し、国際的な温暖化防止運動への復帰を誇示するとともに他国に国別目標の引き上げを迫り、リーダーシップを発揮したい考えだ。それには野心的な2030年目標を掲げる必要があるが、民主党は新法制定に必要な絶対多数を上院で有していない。そのため行政命令や既存法の解釈に基づく施策が中心となるが、巨額なインフラ予算を通すことは過半数あれば可能だ。それをテコに4月のサミットで何らかの数字を出してくる可能性も十分ある。

 バイデン政権の温暖化外交で注目されるのは米中関係の行方だ。気候変動特使に任命されたケリー元国務長官は気候変動に対する思い入れが極めて強く、ほかの懸案事項を横に置いても米中協力の深化に突き進むのではないかとの見方がある。民主党に近いブルッキングス研究所のトマス・ライトが書いた「バイデンが独自の対中政策に走るリスク」という論文で、彼はオバマ政権時代から米中関係での最重要分野は気候変動との信念の持ち主で、政権の対中方針からは乖離していたと評される。

 中国はこれをチャンスと捉え、1月初めには王毅外相が米中関係の関係改善や協力促進を呼び掛けている。真の狙いは気候変動分野で前向きな姿勢を示しケリー特使の歓心を得て、南シナ海、香港、台湾などの安全保障分野や人権、知的財産権、貿易などの分野で米側の譲歩を得ようというものだ。ケリー特使が政権発足直後、中国に飛んで温暖化分野での米中協力をうたい上げるのではないかという懸念は、バイデン政権に近い専門家からも公然と囁かれていた。

 本人もそういう懸念を認識していたのだろう。政権発足直後の記者会見で「知財の盗用、南シナ海など、米国と中国の間には深刻な意見の食い違いがあり、これらが気候変動分野の進展の交渉材料になることは決してない」と言明。米国では中国(正確には中国共産党)に対する反感は民主党、共和党を問わず一致している。米中が手を携えてパリ協定を作った5年前とは状況が大きく異なっている。

 とはいえ、ケリー特使の気候外交は船出したばかり。日本としても引き続き注視が必要であろう。

脱炭素社会への展望がテーマ 電力のシンポジウムを開催


【公益事業学会】

識者で作る公益事業学会政策研究会(電力)のシンポジウムが1月18日に開催された。今回のテーマは、「電力自由化20年の検証と2050年への展望」。年初からの電力需給ひっ迫と、それに伴うスポット価格高騰のさなかの開催とあって、将来の安定供給に向けた電力システムの在り方についてさまざまな意見が噴出した。

初めに論点提起した山内弘隆会長(一橋大学大学院特任教授)は、「今回の電力需給ひっ迫を教訓に、どのような形でこの先の安定供給を維持していくのか。市場原理に委ねることの限界を認識した上で、詳細な政策、制度を考えていく必要がある」と強調した。

シンポジウムはオンライン形式で開催された(提供:電気新聞)

どう安定供給を維持するか 多角的観点から提言

基調講演した資源エネルギー庁の小川要・電力基盤整備課長は、①電源の投資回収、②再生可能エネルギー変動の調整、③イノベーション、④市場の機能―などを課題として挙げ、「自由化に伴い変化、変動が大きくなっていることを踏まえ、制度としてどのような仕組みを作るか。同時に、小売り、発電のプレーヤーが、どのような経営戦略を描いていくかも重要だ」と述べた。

続いて、12人の学識者、電力業界関係者が「マクロ制度設計」「競争設計」「発電投資・容量市場」「再エネ」「脱炭素」「イノベーション」といった多角的な観点から、現状の課題と最新の知見に基づく電力システムのあるべき姿を提言した。

最後に行われたパネルディスカッションでは、需給ひっ迫により足元の安定供給体制に課題が突き付けられた中、50年の脱炭素社会の実現に向けて電力システムをどう再構築するかが大きなテーマとなった。東京大学の高村ゆかり教授は、「脱炭素化を目指す上で、必要な供給力を維持しながら電源の差し替えをいかに円滑に進めるかという視点が、これまでの脱炭素議論の中で欠落していた」と指摘した。

聴講者からの「需給ひっ迫の原因は制度、プレーヤーのどちらにあるのか」「経営難に陥った新電力の支援は必要か」といった需給ひっ迫に関連する質問に対して登壇者からは、「プレーヤーをよくするのも悪くするのも制度。(安定供給の確保を)どこまで市場に任せ、どこまで政府が担保するのか長期的な議論が必要だ」(竹内純子・国際環境経済研究所理事)、「経営難に陥った新電力を支援してしまうと、リスクヘッジをしていた事業者が損をしてしまう。今後の制度設計にどう生かすかが、重要だ」(井手秀樹・慶応大学名誉教授)といった回答があった。

ポーランドも脱炭素へ 大手電力が50年ゼロエミ宣言


【ワールドワイド/経営】

欧州最大の産炭国であり発電量の7割を石炭に依存するポーランドでも、脱炭素化に向けた動きが加速している。

 同国の電力最大手PGE(政府資本57%)は2020年10月、石炭火力発電所を段階的に閉鎖し、30年までに自社電源の50%を再エネに、50年までにゼロエミッション化することを目指す新たな経営戦略を発表した。同社ダブロフスキCEOは石炭火力の段階的な閉鎖に備え、今年末までに自社の石炭火力資産を別の国営企業として分離することを提唱している。

 19年12月の欧州グリーンディール発表後、欧州ではカーボンニュートラルに向けた動きがますます活発化しており、石炭火力の前途には暗雲が垂れ込めている。そうした中、新型コロナウイルス感染拡大によって、ポーランドでも昨年3月以降経済活動が制限され電力需要が急減、一方、欧州排出量取引制度(EU−ETS)の排出権価格や国内炭価格が上昇を続け、石炭火力の経済性は悪化した。PGEはこうした情勢や政府の原子力・再エネを主軸に据えるエネルギー戦略案を受けて、再エネ電源に活路を見いだそうとしている。

 PGEは自社発電設備の8割を占める石炭火力を今後約10年で天然ガス火力にリプレースし、コージェネと地域暖房設備についても石炭から天然ガスへ転換する方針を示している。さらに同社は30年までに総額750億ズロチ(約2兆円)を投じ、再エネ開発を進める計画だ。洋上風力と太陽光発電をそれぞれ250万kW新設、これらの出力変動を補完するため80万kW以上のエネルギー貯蔵システムを設置するとしている。

 再エネに注力する新戦略を発表後、同社の株価は上昇するなど、投資家からは高評価を得ているが、環境保護団体からは「石炭火力をスピンオフするだけならエネルギー変革にならない」との批判も残る。この石炭火力分離案については現在政府と協議中とされており、その行方が注目されている。

 こうした中、今年1月21日にドゥダ大統領が「洋上風力法」に署名し、近く施行される見通しとなった。同法は固定価格での差額決済契約(英国のFIT−CDFと同様)による洋上風力の開発、投資促進を目指すものである。PGEはバルト海沖に30年までに250万kW、40年までには最大650万kWの洋上風力発電所を建設することを目指している。今回、洋上風力法が成立したことで、50年の電源のゼロエミッション化を目指す新たな経営戦略は現実味を帯びてきている。

新たな石油生産エリアに成長? ガイアナとそれを追うスリナム


【ワールドワイド/資源】

南米・スリナム沖合第58鉱区では、2019年9月から21年1月までに4坑の探鉱井が掘削され、全坑井で油層が確認された。具体的な埋蔵量は公表されていないが、大規模な炭化水素の埋蔵が確認されたという。

 この第58鉱区に接する隣国ガイアナのStabroek鉱区では、15年に米エクソンモービル率いるコンソーシアムがLiza1号井で油層を確認。その後に掘削した17坑でも油層を確認した。現在、同鉱区の可採埋蔵量は80億バレル以上と推定されている。19年12月にはガイアナ初の石油生産が始まり、20年には石油輸出を開始。20年12月以降、石油生産量は日量12万バレルを上回っている。同社は26年までに5基の浮体式石油・ガス生産貯蔵積出設備を用いて、日量75万バレルの石油を生産することを計画している。

 ガイアナでは、政党間の争いにより20年3月2日に実施された総選挙の正式な結果が出ない状況が続いたことや、新型コロナウイルスの感染拡大で油田開発に一部遅れが見られた。しかし8月にイルファーン・アリ大統領が就任し政情が安定したことや、同国沖合油田の損益分岐点は原油価格1バレル当たり25~32ドルであることも相まって、開発が進展するようになった。これまでに油層が確認できなかった坑井もあったものの、油層の広がるエリアの確定につながり、開発を後押ししている。

 一方、スリナムでは国営石油会社Staatsolieにより1980年代から陸上で原油の生産が行われていたが、近年の生産量は日量1万5000バレル程度と小規模なものだ。沖合ではガイアナ沖合でLiza油田が発見されて以降、メジャーをはじめとする石油会社の参入の動きが活発化し、探鉱が行われてきた。だが、これまで商業規模の油田の発見はなく、ガイアナの後塵を拝していた。

 そんな中、米国の独立系石油会社アパッチは、スリナム沖合第58鉱区で19年9月に探鉱井の掘削を行った。同社は当初掘削の結果を公表せずに、掘削を続けるとしたことから「有望な結果を得られなかったのでは」とみられていた。しかし同年12月に仏トタルが同鉱区の権益50%を取得し、その後、油層の確認が相次いだため同鉱区やスリナムでの探鉱・開発への関心が一気に高まった。21年1月からはトタルがオペレーターを引き継ぎ、今後は評価井の掘削キャンペーンが実施される。

 スリナムが石油生産量を増やし、ガイアナと併せて新たな石油生産エリアとなれるのか注目が集まる。

新電力ビジネスの「困りごと」に対応 パートナー企業獲得で事業拡大目指す


【ダイヤモンドパワー】

中部電力グループのダイヤモンドパワーは、電力小売り競争が激化する中でさらなる事業拡大を図るため、小売り電気事業者向け支援サービスとして展開している「新電力プラットフォーム事業」の強化に乗り出した。

2000年に高圧需要家向けの電力小売業に参入し、「新電力1号」となった同社は、16年4月の全面自由化を機にそれまでの実績を生かし同事業を開始。事業者登録や営業活動、電源調達、需給管理、顧客管理といった、新電力に必要な業務を包括的にサポートしてきた。

電源調達やインバランスのリスクを同社が全面的に引き受けることで、加入する事業者はリスクフリーで販売活動に専念できるのが特徴で、これまでに地方都市ガス会社やLPガス販売会社、地域新電力といった約50社が同プラットフォームに参加している。

今後は、電源調達のみ、需給管理のみといったように、事業者の個別の「困りごと」に柔軟に対応していく。また、再生可能エネルギーやCO2フリー電気の販売、自社の発電機を持つ顧客に対する自己託送といった、新たな顧客ニーズに対応できるよう、メニューづくりやサービス提案の支援にも力を入れる。中部電力ミライズが提供している生活支援サービスを付加価値サービスとして活用することもできるようになる。

ホームページでは「困りごと」に応じた支援を提案

パートナー企業100社へ ホームページも刷新

宮下功嗣営業部長は、「販売量の拡大には、本業で顧客との接点のあるパートナー企業の存在が欠かせない」と語る。実際、取り扱い電力量約60億kW時のうち、約7割を新電力プラットフォームを通じた販売が占めている。「困りごと」に応じたきめ細かい支援を通じて、パートナー企業を100社まで増やし電力販売量の拡大につなげたい考えだ。

1月15日には、ホームページを全面的に刷新し、自社の顧客、新たに電気事業を始めたい事業者、「困りごと」がある新電力、発電事業者―といった対象ごとに、事業内容に関する説明を充実させた。新型コロナウイルス禍で新規にパートナーを獲得するための営業活動が難しい中、ホームページを通じた問い合わせをきっかけに契約交渉が進むことへの期待は大きい。

現在は、昨年末からの電力需給ひっ迫やスポット市場価格高騰に伴う相談が多く寄せられているといい、電力事業を安定的に継続したい新電力に対してプラットフォームを提案する好機となっている。

【マーケット情報/3月12日】欧米原油上昇、需給緩和観が台頭


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、米国原油の指標となるWTI先物と、北海原油の代表であるブレント先物が、需給緩和の見込みを背景に下落。一方、中東原油の指標となるドバイ現物は、前週比で上昇した。

米国の週間原油在庫は、寒波に見舞われたテキサス州で生産が再開したことで増加。また、米エネルギー情報局は、原油価格の上昇を背景に、今年および来年の国内産油量に上方修正を加えた。さらに、リビアは今年の終わりまでに、産油量を2012年以来の最大にする方針を示した。他方、クウェイトとオマーンは、新型コロナウイルス感染拡大防止のため、入国規制を延長。供給増加の見込みと燃料需要回復への不透明感が、WTI先物とブレント先物の重荷となった。

一方、ドバイ現物には、中東の情勢悪化による供給不安が強材料として働いた。イエメンを拠点とする武装勢力フーシが7日、サウジアラビアの石油関連施設をミサイルで再度攻撃。サウジアラビアは、それを迎撃したと発表した。

また、米国の新大統領は、ベネズエラの原油輸出に対する制裁を直ちに解除する意向はないと表明。加えて、同国大統領は、1.9兆ドルの新型コロナウイルス追加経済支援を承認。経済再建とワクチン普及にともなう石油需要増加への期待感が高まり、ドバイ現物を支えた。

【3月12日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=65.61ドル(前週比0.48ドル安)、ブレント先物(ICE)=69.22ドル(前週比0.14ドル安)、オマーン先物(DME)=67.91ドル(前週比ドル1.50高)、ドバイ現物(Argus)=67.90ドル(前週比1.51ドル高)