仙台市ガスが手続き再延長 背景に土壌汚染への危惧?


仙台市が昨年9月からガス事業の譲渡に向け進めている公募手続きで、応募者による最終提案審査書類の提出期限が3月31日から6月末に延期された。優先交渉権者の決定も3カ月遅れの8月下旬となる。

新型コロナウイルス感染拡大を理由に、市が譲渡手続きを延期するのは2回目で、今回は応募者側からの申し入れを受けたもの。応募者は、東北電力、東京ガス、石油資源開発(JAPEX)に地元企業のカメイを加えた4社連合とみられる。

表向きはコロナの影響とされているが、その真相は、もともとガス製造工場があった同局庁舎敷地の土壌汚染への懸念にあるのではないかとの憶測が広がっている。市は、2022年度中に事業を譲渡するスケジュールに変更はないとしているものの、汚染の度合いによっては400億円という破格の最低譲渡価格ばかりか、民営化そのものに影響しかねない。

仙台市ガス民営化を巡っては、09年にも東北電など3社連合が検討し、景気後退を理由に辞退した経緯がある。その二の舞いだけは避けたいところだろう。

「二刀流」でカーボンニュートラルへ オンサイト水素製造「suidel」誕生


【東京ガス/東京ガスケミカルほか】

東京ガス、東京ガスケミカル、三浦工業の3社は共同で、熱量調整された都市ガスを改質して水素を発生させる「suidel」を開発し、3月から販売を開始した。

東京ガス、東京ガスケミカル、三浦工業が共同開発したsuidel

東京ガスの都市ガス改質を用いた水素製造技術、産業ガス販売を手掛ける東京ガスケミカルのオンサイト水素供給のノウハウ、三浦工業によるボイラーで培った高効率ガス利用技術や水処理技術などを組み合わせて開発した。主に製造業の生産プロセスにおける産業ガスとして水素を利用するユーザー向けに販売する。販売目標は現時点では掲げていないが、3社がそれぞれのチャネルで全国に販売していく。

「製品の最大の特徴は水素発生量が1時間当たり5N㎥と小容量であることです。従来の小型機種では30~50㎥タイプが一般的でしたが、それと比較し大幅に小さくしました」(東京ガス産業エネルギー事業部水素ソリューショングループ事業企画チームの佐藤航さん)

「開発のポイントは都市ガスから硫黄を除去して水素を製造する技術です。固体高分子型の家庭用エネファームで培った改質技術を活用し、今回スケールアップしました」(東京ガス基盤技術部江口晃平さん)

商品化に当たっては、ニーズとシーズの両方の側面があったという。東京ガスは、2009年に世界で初めて家庭用燃料電池「エネファーム」を発売。水素を製造する技術を年々ブラッシュアップさせて本体価格を引き下げてきた中、せっかく培った技術をさらに応用できないか―。そんな発想があったという。

一方、需要側の産業用水素市場に目を向けると、30㎥以下の少量ニーズが存在していることを確認。シーズとニーズを照らし合わせながら、17年から開発に着手し、4年をかけてこのたび商品化にこぎつけた。

販売手法が変わる可能性 配送の課題解決に貢献

これまではシリンダーによる水素(圧縮水素)供給が一般的だった。しかし、こうした新しい発想の商品によって都市ガス導管が整備されているエリアでは、設備(suidel)を設置するだけで簡単に水素をつくれることから、従来の販売手法が変わる可能性を秘めている。東京ガスケミカルのソリューション営業部ES推進グループの吉田宏さんは次のように説明する。「シリンダー供給では配送面でコストや人員に課題を抱えています。その傾向は年々顕著になっており、そうした課題の解消につながればと考えています」

東京ガスでは、カーボンニュートラル都市ガスの普及を推進し、suidelのようなオンサイトによる新発想の仕組みと組み合わせた「二刀流」によるカーボンニュートラルの世界を目指していく。

【マーケット情報/5月7日】原油上昇、需給逼迫感強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。石油需要増加への期待が高まるなか、供給逼迫感が強まり、需給を引き締めた。

米国では、失業者指数が2020年3月以来の最低を記録。景気改善の見方が強まり、石油需要が回復するとの予測が台頭した。また、中国では5月初旬の長期休暇で、国内の移動者数とガソリン消費が増加した。

欧州でも、移動用燃料の消費が増える見通しだ。欧州共同体(EC)は新型ウイルスのワクチン普及を受け、欧州連合(EU)加盟国に、不要不急の域内移動に対する規制緩和を提案。さらに、フランス、ポルトガル、スペイン、ベルギーは、移動や経済活動の規制を段階的に緩めている。

他方、供給逼迫感も台頭。米国の週間在庫統計は、輸出増加と製油所の高稼働を背景に減少。加えて、米国Colonial Pipelineの石油パイプラインが7日、サイバー攻撃を受けて停止。9日に一部を再稼働させたが、全面復旧の見通しは立っていない状態。また、イラク北部の油田が爆破され、中東情勢が緊迫化し、供給不安が強まった。

【5月7日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=64.90ドル(前週比1.32ドル高)、ブレント先物(ICE)=68.28ドル(前週比1.03ドル高)、オマーン先物(DME)=66.03ドル(前週比0.81ドル高)、ドバイ現物(Argus)=65.82ドル(前週比0.61ドル高)

【コラム/5月10日】新型コロナ1年を考える~構造改革所以の制度劣化、活力委縮、開発力低下に嘆息


飯倉 穣/エコノミスト

 新型コロナ感染が始まり、1年過ぎて三回目の非常事態宣言発出となった。当面行動自粛期待で、海外依存のワクチン接種終了まで国民の苛立ちと観念が継続する。この間の感染症対策は、目標設定、感染防止対策の手落ち(基本の踏み外し)、戦略なき国産ワクチン開発、影響業種・企業・困窮者への対策で反省に満ちている。その背景に誤った構造改革に起因する海外偏重、制度変質、活力委縮、開発力低下がある。今一度日本に適した体制に建て直すことが必要である。感染症対策も基本に戻った対応が求められる。政権のモットーである当たり前に期待したい。

1,新型コロナ感染拡大から1年超を経過した。第二次緊急事態宣言全面解除後、小康状態は続かず、新年度に入りまん延防止等重点措置となった。大阪圏は感染者急増で医療体制逼迫、東京圏も不安蔓延である。

 報道は伝える。「緊急事態3度目宣言 4都府県あすから来月11日」(朝日21年4月24日)、「緊急事態宣言3度目発令」(日経同)。三回目の宣言発出となった。

中央・地方政府の状況対応は行き詰まり、収束の姿が見えない。政府の方針「感染防止と経済の両立(ウイズコロナ)」は、なぜ功を奏しないのか。今後の方向を再度考える。

2,感染症対策の基本は、繰り言になるが、感染予防策としての衛生管理・行動自粛・ワクチン接種と共に「早期発見、早期隔離、早期治療」である。反省点は以下の通りである。

第一に目標設定の在り方が問われる。感染ゼロかウイズコロナか。コロナ抑制一定成果国は、ゼロ感染を目標とした。故に行動規制に重点を置きロックダウン、検査徹底等の対策を強行した。政府・専門家は、ウイズコロナ政策で、行動自粛・検査抑制・GOTO推進と曖昧政策に終始した。

第二にワクチン確保に批判がある(朝日4月13日)。国内専門家の見方(開発に数年必要)は間違っていた。自国の現状に捉われた予測外れだった。欧米先進国の政府・製薬企業の遂行意志・実力を過小評価した。開発力の内外格差に愕然とする。

第三にコロナ行動抑制で経済的影響を受ける弱者の扱いが揺れた。自然災害と捉えれば、被災者は、患者そして経済的影響を強く受ける人々である。患者には的確な医療供給、コロナ影響業種の困窮者には社会政策的な対応であろう。給付金等は、無用な散財だった。

 第四に新型コロナ感染症対策の行政対応がわかりにくい。政府内に首相本部長の新型コロナ感染症対策本部、新型コロナ感染症対策分科会がある。感染症専門家集団は、検査拡充軽視で衛生管理を強弁する。政治家・専門家のショーでなく、実務的事項を担う官僚の説明と行動が不明である。

3,反省点の背景には、日本的対応の危うさ・心もとなさがある。第一は、海外事例の調査不足である。海外で起きることは、日本でも起きることが多い。専門家集団は、海外事象を受け流したり、別と推論しがちである。

東日本大震災・福島原発津波事故の例がある。スマトラ沖・津波(04年)からの検証・連想力不足があった。新型コロナも同様である。サーズ騒ぎ(03年)の北京封鎖の評価不足等である。原発事故は、原子力村の失敗。今回は、感染症村の視野狭窄が問題を深刻にしている。

第二に国家国民戦略欠如である。サーズワクチン開発も話題になったが、雲散霧消した。

ワクチン開発に1兆円投じる話はなかった。その戦略を考える人もいなかった。過去30年間、誤謬・誤解の構造改革で政府・行政・企業の組織的・行動的な混乱・彷徨の継続で「模倣から創造」も色褪せ、今は「模倣力」も低下した。

 第三に公衆衛生と医療体制の責任所在が不明瞭である。地方分権改革で、機関委任事務廃止となり、国と自治体の関係は対等になった。その下で医療行政の都道府県単位化が進んでいる。能力多様な首長連である。非常事態なら、中央政府が全体の指揮命令系統を掌握し資源配分すべきである。

第四に経済は、飲食業・観光業等の苦境報道の一方、堅調な業種も散見される。コロナショックを考慮した経済変動に合わせた経済対策が十分意識されず、国民の不満を掻き立てた。

4,医学・医療従事者の言を参考にすれば、コロナ克服は、一にも二にもコロナ感染拡大防止に尽きる。一本足打法と称された飲食業の時間短縮要請から、今はワクチン期待になっている。その実現に暫く時間を要する。経験からコロナ感染防止の良策は少ない事情を踏まえ、まず基本の実施であろう。

第一に感染防止として、移動規制、ワクチンも含めた感染ゼロ計画案を作成し実行する。検査体制整備に加え防止方法(些事の積み重ね)を多面的に考え徹底する。第二に適切・十分な予算措置で明確かつ効果ある医療体制の充実を行う。第三に行動規制に伴うコロナ関連弱者への対応と救済である。コロナで影響を受ける業種の事業維持費に対する政府保証・無利子融資(収束後一部免除考慮の返済)の実施、困窮者に対する雇用・生活維持金支給であろう。また今後の統治体制見直しでは、日本に適した当たり前を期待したい。

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。

ガスの技術革新へ官民協調 エネ庁が脱炭素で指針


脱炭素社会のガス事業の在り方を模索する資源エネルギー庁の有識者会議「2050年に向けたガス事業の在り方研究会」が、中間取りまとめを行い今後の指針を示した。その柱は、トランジション(移行)期におけるCO2削減と、イノベーションによる将来の脱炭素社会実現への貢献だ。

移行期においては低炭素なガスの強みを生かし、①日本のエネルギー消費量の約6割を占める熱利用分野での活用、②石油・石炭などからの燃料転換、③再エネの調整力としての活用―の三つの取り組みを引き続き進める。

同時に、脱炭素化の鍵を握るメタネーション(合成メタン)実用化に向け、技術革新にも挑む。30年までのメタネーションの実用化、水素直接利用などそのほかの方法と合わせて50年には都市ガスのカーボンニュートラル化を目指す。それに向けて、官民が一体となって課題解決に向けた取り組みを推進する体制を整備する。

菅義偉首相は、50年カーボンニュートラルを達成するため2兆円の基金を創設し、野心的なイノベーションに挑戦する企業を支援することに言及した。メタネーションなど技術革新にはこれを活用していくことになる。

ゼロカーボン・スチールに挑戦 超革新技術の実装に向け本腰


【業界紙の目】高田 潤/鉄鋼新聞社編集局鉄鋼部長

菅義偉首相のカーボンニュートラル宣言を受け、日本の鉄鋼業界の動きが再び加速している。

技術開発の壁が何層もある「ゼロカーボン・スチール」の実装に挑戦し、国際競争力を保てるのか。

日本の鉄鋼業界は2018年秋、「ゼロカーボン・スチール(CO2を排出しない製鉄法)」の技術開発に挑戦する方針を打ち出していたが、首相の宣言を受けて今年2月、改めて「2050年カーボンニュートラルに関する日本鉄鋼業の基本方針」を公表した。これに続き、最大手の日本製鉄は3月に発表した中長期経営計画の中で、「カーボンニュートラル・ビジョン2050」を打ち出した。

日本鉄鋼連盟(鉄連)の場合、18年秋の方針表明と今回の表明との違いは何か。ゼロカーボン・スチールの実現を目指すという基本線は同じだが、時間軸に微妙な違いがある。18年の方針では「2100年までをターゲットにした長期ビジョン」とあえて明記。ゼロカーボン・スチールの実用化に関しても「目標ではなく、挑戦」と控え目な表現にとどめた。

一方、今年表明した基本方針は「50年カーボンニュートラルという(政府の)野心的な方針に賛同する」と強調。「50年までに開発・実用化」という明確な目標を示してはいないが、50年を強く意識している。鉄連会長を務める橋本英二・日本製鉄社長は今年に入ってからの定例会見で「(目標達成時期を)これまでは2100年としていたが、2年そこそこで50年に前倒ししたのはなぜか」と問われ、「世界のライバルとの開発競争は既に始まっている。50年実用化でも遅いかもしれない」と、50年や100年という目標の設定自体、ナンセンスと切り捨てた。

業界は政府方針に賛同 革新技術の実用化という外圧

いずれにせよ、鉄鋼業界は今もゼロカーボン・スチール実用化の目標時期を明示していない。それは地球温暖化対策に後ろ向きなのではなく、実現のハードルが極めて高いからだ。この高さを認識しているからこそ、日本の鉄鋼業にとって「何年までに開発・実用化できます」といった発言はむしろ無責任なスタンスとなる。

だがこうした慎重姿勢にもかかわらず、外野の期待は増す一方だ。昨年末に政府が策定したグリーン成長戦略の関連資料「カーボンニュートラルの産業イメージ」では、水素で鉄鉱石を還元するゼロカーボン・スチールが50年時点で実現している姿を紹介。同戦略では既存の高炉+CCUS(CO2回収・貯留・利用)など複数の選択肢を提示してはいるが、50年の絵姿としてゼロカーボン・スチールの実現を描く。

もとよりESG(環境・社会・統治)投資の広がりとともに、鉄鋼業への風当たりは年々強まっている。30年時点のCO2削減目標の引き上げを打ち出した欧州連合(EU)では、世界最大手のアルセロール・ミタルなど有力鉄鋼メーカーが相次いで水素を活用した次世代製鉄法の開発に挑む方針を発表した。規制強化を狙うEU当局との駆け引きが垣間見えるとはいえ、ESG投資がこうした動きを促しているのは間違いない。

日本も例外ではない。ESG投資を背景とした投資家からのプレッシャーは強まる一方だ。日本製鉄が「カーボンニュートラル・ビジョン」を策定した背景にもそれは確実にある。「50年」を意識しながら、ハードルは高くとも技術開発・実用化に向けて前進しなければならないのが現状なのだ。

東北発のスマート社会実現をけん引 「東北電力フロンティア」が誕生


【東北電力】

東北電力は、スマート社会実現事業の早期収益化に向け、中核的役割を担う新会社を設立した。暮らしに役立つサービスと電気をパッケージ化したさまざまなサービスを開発・提供していく。

東北電力は、2020年2月に公表したグループ中長期ビジョン「よりそうnext」で、基盤事業である電力供給事業の競争力を徹底強化することに加え、スマート社会実現事業を成長事業と位置付け、ビジネスモデルの転換にも挑戦している。

同社はスマート社会について、地域の人口減少や少子高齢化により、交通や教育、福祉など、さまざまな分野で顕在化する社会課題を、次世代のデジタル技術やイノベーションの活用などにより解決。地域に住む人々が快適・安全・ 安心に暮らすことができる社会と定義する。

その実現に向け、東北電力グループは「電力のプロフェッショナルであること」「東北6県と新潟県を中心とした地域との絆を有していること」といった強みを最大限生かすとともに、デジタルイノベーションの積極的な推進と、幅広いパートナーとの連携・協働により、新たな価値を創造していくとしている。

そのためには、次世代のデジタル技術やイノベーションを駆使して顧客ニーズを取り込み、事業化につなげる戦略的な役割を担う主体が必要であり、さまざまなパートナーと連携するため、迅速かつ柔軟な意思決定も求められた。

暮らし直結のサービスを提供 将来は全国展開を目指す

こうして誕生したのが「東北電力フロンティア」だ。

電気を含むエネルギーマネジメントをベースとし、「地域の商品・サービスの情報」や「趣味嗜好といった日常の楽しみにつながるサービス」など、暮らしに直結するサービスをパッケージ化して、定額制を基本に提供する。事業開始は21年度下期を予定している。

サービスの一例として、東北電力ソーラーeチャージが提供する「太陽光・蓄電池のサービス(分散型電源サービス)」と、それだけでは賄えない電力(系統電力)をパッケージにして販売する。

積極的なマーケティング活動を通じて、顧客の期待やニーズに応えるサービスを企画・立案し、提供する方針だ。

東北電力フロンティア 岡信愼一社長(右)、東北電力 樋口康二郎社長(中央)、
東北電力ソーラーeチャージ 伊藤篤社長

サービスの対象エリアは、東北6県と新潟県を基盤とするが、これらのエリアで培ったノウハウを生かし、将来的にはエリアを限定せずビジネス展開する予定だ。30年には、数百万件の顧客獲得を目指している。ロゴマークには、「顧客の快適・安全・安心な暮らしの実現」という旗印の下、「大空を羽ばたき、大海原を航海するようにフロンティア精神を持って、新たな未来を切り拓く」との思いが込められている。

東北電力ホームページでは、2030年代の東北・新潟の暮らしをイメージした動画を公開している

東北電力フロンティアは、電気事業というエネルギーサービスの枠を越えた「挑戦」を担う。

東北電力グループは今後、新会社による積極的なマーケティング活動を通じて、顧客の豊かさの最大化や社会課題の解決に資する革新的なサービスの幅広い提供を目指す。

東北発の新たな時代のスマート社会の実現に貢献し、社会の持続的発展とともに成長する企業グループとなるべく、新会社とともに一丸となって取り組んでいく。

再生可能エネルギーの拡大 したたかな戦略を描けるか


【論説室の窓】黒川茂樹/読売新聞論説委員

世界的に「脱炭素」のうねりが強まる中、再生可能エネルギーの大幅な拡大は喫緊のテーマである。
だが、楽観論ばかりが先行している現状のままでは先行きは危うい。

今年に入って気候変動問題を巡る世界の動きはめまぐるしい。

「欧州は気候変動対策でリーダーシップを取る」(欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長)、「世界的な対応を米国が主導しなければならない」(米国のジョー・バイデン大統領)―。欧米の指導者は、環境対策で優位に立ち、国力を強めていく戦略を明確にしている。

6月11日から英南西端の保養地コーンウォールで開かれるG7(主要7カ国)首脳会議で、主要議題になるのは気候変動だ。

いまや、G7の全ての国・地域が「2050年に温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする」との目標を掲げている。11月の英グラスゴーでの気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)に向け、英ジョンソン首相の意気込みは相当のものだろう。

排出削減を巡る国際的なルール作りをリードしたいというG7各国の思惑がぶつかり、攻防は激しさを増していく構図だ。

菅義偉首相は3月31日、首相官邸で初めて開いた「気候変動対策推進のための有識者会議」で、「国際社会の議論をリードするため、政府一体となって検討を深める」と語ったが、政府の出遅れ感は否めない。

日本が掲げている30年の温室効果ガス削減目標は「13年度比26%」にとどまる。英国は「1990年比68%以上」、EUは「90年比55%以上」と野心的な数字を掲げており、日本も目標を引き上げるほかないだろう。

政府は昨年末、温暖化への対応を経済成長につなげる「グリーン成長戦略」を策定し、政策を総動員する構えだ。

戦後の日本は、1985年のドル高是正のプラザ合意、その後の日米半導体・自動車交渉といった荒波にさらされたが、気候変動を巡る攻防もそれに匹敵するような「通商交渉」になる覚悟が求められよう。

期待が先行したままに 課題解決策は進まず

「民間はその気になっているので、政府もしっかりと受け止めていただきたい」。経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)は今年2月の政府の経済財政諮問会議で力を込めた。

温室効果ガスを減らすには、再生可能エネルギーの大量導入がどうしても必要だ。経済界では、再生エネ拡大を求める声がかつてないほど強まっている。再エネを調達できなければビジネスに悪影響を及ぼすからだ。

米アップルは、iPhone(アイフォーン)などの部品を生産する取引先に対し、電力の100%を再エネで賄うよう協力を求めている。こうしたグローバル企業は今後増加するとみられ、日本の中小企業は対応できないとサプライチェーン(供給網)から外されてしまうかもしれない。

東日本大震災から10年に当たる3月11日、日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)が強い危機感を示したのは印象的だった。「再エネの普及が進まなければ日本で生産した車が(海外で)使ってもらえなくなる」と述べ、「エネルギーのグリーン化」を訴えた。

材料加工から部品製造・製品化・廃棄までの一連のサイクルでCO2の排出量を評価する動きが今後、世界的に広がると、再生エネの調達コストが極めて重要になる―という主張だ。

自工会によると、自動車の主要な生産国・地域である欧州や米国、中国は太陽光や風力などの再エネのコストダウンが進み、火力発電より安上がりになっている。

これに対し、日本は、CO2を排出する火力発電の比率が75%と高い上、いまだに火力よりも再エネのコストが高い「唯一の国」なのだという。

国内で550万人が働いている自動車産業は、輸出の減少で「70万~100万人の雇用に影響が出る」との試算も示した。政府は、脱炭素の潮流が産業界を覆いつつあるというメッセージを深刻に捉えるべきだ。

科学的な分析を欠く現状 論点の「見える化」が必要

経団連の中西会長は「エネルギーの問題は今まで専門家だけでやり過ぎた。難しい問題が多くあるので、徹底して『見える化』しなければならない」と指摘している。

気掛かりなのは、再エネなどを巡る科学的なデータ分析がどこまで、政府や産業界で共有されているか、という点だ。

小泉進次郎環境相は、「再エネのポテンシャル(潜在能力)は現在の電力供給量の最大2倍ある」と力説している。洋上風力や太陽光などを最大限導入すれば年に約2・6兆kW時を生み出せるという。19年度は、水力を含めて1850億kW時ほどで、その約14倍に相当する量だ。

再エネの固定価格買い取り制度(FIT)が始まったのは12年7月。太陽光発電が大きく伸び、国内の再エネ比率は、11年度の10・4%から19年度に18%に高まった。8年ほどの年月と巨額の費用をかけた結果でもある。

太陽光発電に偏重し風力や地熱は伸びていない

電気料金に上乗せする賦課金は年2・4兆円に達し、産業用では15%、家庭用は11%高くなっている。政府は買い取り価格を徐々に引き下げてきたが、今後も電気料金の上昇は続く。発電コストの低下は進まず、国の制度見直しもあって、投資する動きは足踏み状態になっている。

パネル設置が容易な太陽光に偏重した結果、より安定的に発電できるはずの風力や地熱などは伸びていない。政府は、再エネの切り札として洋上風力発電を30年までに1000万kWにする目標を掲げたが、これは現状の500倍近い規模だ。欧州は、遠浅の海が広がり、強い偏西風で安定的に発電できるが、日本近海で採算が取れるかどうかは未知数だ。

気候変動対策で投資を呼び込めれば経済が活性化できる。逆に打つ手を間違えれば、自国の産業が打撃を受け、国民の暮らしに大きな負担が生じる事態になりかねない。甘い見通しと生煮えの戦略では通用しないことを肝に銘じるべきだろう。

処分場誘致に住民NO! 南大隅町長選で賛成派落選


地元住民が下した判断は、やはり「NO!」だった。

4月18日、高レベル放射性廃棄物の最終処分場誘致問題が争点となっていた鹿児島県南大隅町の町長選が行われ、誘致反対を訴える元町総務課長で無所属新の石畑博氏が初当選した。得票数は2562票。同じく誘致反対の前町議で無所属新の水谷俊一氏の得票数は1425票だった。

これに対し、誘致賛成を掲げて立候補した元衆院議員秘書で無所属新の田中慧氏の得票数はわずか687票。一部報道によれば、田中氏は処分場誘致で町の持続的な発展を目指す考えを表明し、選定のための「文献調査」の受け入れに伴う交付金を原資に、町民一人に30万円の商品券を配ると公約していた。

「北海道の寿都町と神恵内村では、現職首長が文献調査を表明したことで誘致が進み始めたが、地元の民意としてはやはり反対という傾向が浮かび上がった。誘致がたびたび問題となってきた南大隅町の経緯を踏まえても、厳しい結果と言わざるを得ない」(事情通)

文献調査を検討する他地域への影響が注目される。

【覆面座談会】市場リスクをどう制するか 新電力生き残りの条件


テーマ:新電力経営

電力需給のひっ迫に伴い1月、数週間にわたり日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格が高騰した。今も調達コストとインバランス精算という二重苦が新電力経営に影を落とす。電力小売り事業を巡る制度の問題を関係者が語り合った。

〈出席者〉  A新電力関係者 B新電力関係者 C新電力関係者

―電力の需給ひっ迫とそれに伴う市場価格の高騰は、新電力各社にとっても予想を超える異常事態だった。

A 当時の状況を振り返ると、非常に大変だったの一言に尽きる。新型コロナウイルス禍の影響で年度当初から需要が落ち込み、新規顧客の獲得も難しい中で、市場価格も低迷する状況が年間を通じて続くことを念頭に事業を行っていた。だから12月中旬に市場価格が上昇に転じても、一過性なのではないかと考え、すぐに高騰に手を打てず、それなりの損失が生じてしまった。

 新年度に入ってからも市場高騰の影響から卸融通の需給状況が大きく変わり、大手電力会社から相対契約の玉がなかなか出てこなくなっている。今は市場価格が落ち着いているけど、事業環境全体が高騰の後遺症に引きずられているような状況ではないか。次の夏や冬のひっ迫時に向けどうするべきなのか、読み切れないのが悩ましい。

B 新電力の選択肢は、調達を断念してインバランスを発生させるか超高値で市場で調達するかの二択しかなかった。1月の3連休明けから当社を含め新電力各社が資源エネルギー庁と折衝を重ね、その甲斐あってインバランス単価の上限設定や需給カーブの公表が決まったけど、その時には相当の損失が積み上がっていた。これがトラウマになって、2月以降は大手電力会社との相対契約に走る新電力が多い。しかし、価格水準は上がっているので合意しにくい。

 需給ひっ迫の検証と並行して非効率石炭火力のフェードアウトの議論が進んでいるけど、連続的な玉切れがあり得る中でこれを進めれば、全体的に発電力が枯渇しかねない。一定の発電設備を日本国内に確保するという検討があってもよいはずだ。今のままで2024年度からの容量市場で、リクワイアメントで発電事業者を締め上げるようなことがあれば、発電所の退出が続出し、ますますひっ迫しやすくなる。再度同じようなことが起きるのではないかと心配になる。

C 当社は相対契約でかなり調達しているが、それでも相当なダメージを受けた。起きたことは仕方がないとしても、事業の継続性にまで関わる問題なので、制度上想定していなかったことが起きたのだという認識をして、こうした事象が起きた際のインバランス料金の考え方や、同時同量義務の在り方などを丁寧に議論してもらいたいと思う。

 今年度の暫定措置として、「複数エリアで予備率が3%以下」の場合のインバランス料金単価の上限が80円と決まったけど、これは妥当な額だといえるかもしれない。だけど、市場価格が1カ月にわたって80円に張り付いても耐える覚悟で経営しなければならないということであり、これを突き詰めていくとほとんどを相対で調達しなければならないということになる。これでは市場自体が後退してしまうし、何らかの打開策が必要だ。

新電力の淘汰は進むか 水面下で進む再編の動き

―相当額のマイナスを抱えることになる新電力の中には、発電・送配電事業者が得ることになる利得を小売りに還元するよう求めるような声があった。会社の存亡の危機で背に腹は代えられなかったのだろうが、結局、支払いの猶予措置は講じられたものの負担の免除はされなかった。今のところ目立った動きはないようだが、新電力の再編は起きるのだろうか。

C 新電力のグループがいくつか形成され、各所にそうした支援を求める要望書を出していた。市場調達に頼っていた新電力は、年度の前半は安い調達コストで利益を出していたわけで、高くなったら助けてくれというのでは、ベースロード市場などでヘッジしている事業者とフェアではなく、さすがに筋が通らないのでは。当社にもいろいろ声をかけてもらったけど、結局、どこにも参加しなかった。新電力として、自由化の制度をより良くするための意見を出すべきで、起きてしまったことをぐずぐず言っているようでは世間からますます「けしからん新電力」と見られてしまうよ。

 新電力再編という意味では、当社にも事業譲渡の打診がいくつかあった。当社も余裕があるわけではないのでお断りしたが、同じように切迫している事業者はほかにもあるだろう。連帯保証などの契約見直しを含めたバランシンググループ(BG)の再編もあるだろうし、水面下では相当動いている。

B 当社にも相談が持ち掛けられたが、その新電力は結局大手電力会社の取り次ぎに落ち着いたようだ。そういう事例も多いんじゃないかな。参入障壁が低すぎて、資本金数百万円で会社を立ち上げ需給調整は他社に依存するというビジネスモデルが成り立ってしまっているが、そうした新電力はある程度淘汰されても仕方がない。当社としても他人事ではなく、本業ではない事業でこんなリスクが生じるのかと社内全体がそんな雰囲気に陥っている。

A 今後、電力小売り事業をどうしていくのかという議論になっているのは当社も同様だ。このようなリスクが発現してしまうことは理屈では分かっていたけど、こういうレベルでこういう時間軸で出てくるとは誰も予想できなかったからね。1月の時点で3月末には新電力の倒産が相次ぐだろうと予想されたけど、実際はFパワー以外の倒産の話がほとんど出てきていない。相当厳しいはずなのに無理やり存続させているところもあると考えられ、そうした話はこれから出てくるのかもしれない。一部の新電力の無理な主張は、新電力業界に対する社会の信用低下につながるのではないかと危惧している。

 あくまでもうわさレベルの話だけど、100円超に高騰した際、2日後の支払いではキャッシュがもたないということで、キャッシュアウトを遅らせるためにわざと落札しないかった新電力があったそうだ。インバランスの速報値と確報値の差が問題になったけど、こうしたことでインバランス需要が増えたことも影響したのかもしれない。

Fパワー倒産は自業自得 新スポンサー探しに焦点

―Fパワーの倒産を新電力業界はどう見ているのだろう。

C 自業自得でしょう。入札などでもかなり安価で顧客を大量に獲得していたと聞いている。自信があったのかもしれないが、何度同じことを繰り返すのかと思ったし、社長はじめ経営者の考えは理解できない。

A 逆ザヤの契約を解消し、収支はある程度改善していたと聞いていただけに驚いた。これまで親会社の大和証券がさまざまな事業者に買収を持ち掛けたが、誰も引き受けなかった。会社更生法申請で新しいスポンサー探しをしているようだが、難しいと思うよ。

B この業界、仕入れと販売のバランスを取れない人が多くないかな。営業担当は、拡販のインセンティブがあるので調達の状況に関係なく売ってきてしまうから仕方がないのかもしれないが、当社でも2月にセールスに行くのかと違和感を覚えることが起きていた。

会社更生法を申請したFパワーに続く新電力も出てきそうだ(東京高等地方簡易裁判所合同庁舎)

kW時不足の燃料確保で指針 義務なしで実効性に疑問符


今年1月、LNG不足に端を発し、全国的に電力需給がひっ迫状態に陥ったことを受けて、経済産業省資源エネルギー庁は、kW時不足を考慮した火力燃料確保の方向性を盛り込んだ指針の作成に乗り出した。

1月の需給危機は火力燃料不足が一因だった

指針には、将来のkW時不足の可能性を判断する基準や、需給ひっ迫時の必要量を考慮した燃料在庫量の目安などが盛り込まれる見通しだが、事業者の燃料調達交渉などへの影響に配慮し、「義務」ではなく事業者がとる燃料調達行動の「目安」との位置づけにとどまることになるため、業界関係者からはその実効性を疑問視する声も上がっている。

有識者の一人は、「実効性のある仕組みを作ろうとすれば、当然、新電力にも新たな負担を求めなければならなくなる。ただでさえ容量市場で負担が増える新電力への配慮から、今一歩踏み切れなかったのではないか」と、苦肉の策に一定の理解を示す。

だが、事業者の努力だけで今回のような危機を回避するには限界があるのも事実。このため、「現行の電力市場が非常に危険な構造であることを全市場参加者が理解した上で、少しでも改善するような方法論を議論するべきだ」と警鐘を鳴らす。

脱炭素と再エネ共存を目指す 蓄熱運用を変革する時代へ


【ヒートポンプ蓄熱の新潮流/第1回

地域熱供給事業者として、国内最大の蓄熱槽を保有する東京都市サービス。脱炭素・再エネ共存を目指して従来の「ピークカット・シフト」の運用を変えようとしている。

東京大学の松本真由美・客員准教授が同社福嶋岳夫社長に今後の展望について話を聞いた。

松本真由美 東京大学客員准教授

福嶋岳夫/東京都市サービス代表取締役社長

松本 東京都市サービスが手掛けている、晴海トリトンスクエアの熱供給事業の施設を見学しました。大都市のど真ん中で大規模な熱源機器や蓄熱槽を運用しながら、熱供給事業を行っていたことを知りびっくりしました。高い省エネ性を誇っているとは聞いていたのですが、改めてこの晴海トリトンスクエアの地域熱供給についての概要やポイントについて教えてください。

福嶋 晴海トリトンスクエアの熱供給施設は2001年に運用を開始しましたが、再開発の段階から非常に計画的に作られています。三つの大きな棟に囲まれており、熱供給のアクセスを考えてプラントは建物群のちょうど真ん中に配置しています。また各棟の地下には、巨大な水の蓄熱槽がプラントを囲むように設置されています。

 それともう一つの特徴は水槽、つまり蓄熱槽の容量が大変に大きいことです。1万9000tの規模で、これは熱供給事業としては日本最大です。この蓄熱槽のおかげで、全体の熱需要に対して、ヒートポンプを中心とした熱源機器の容量を約半分に抑えています。

 仕組みはいたって単純で、電力需要の少ない夜間に熱源機を動かして蓄熱し、昼間の時間帯に蓄熱槽から放熱します。そうすることで昼間の電力のピークを半分に抑えることができるわけです。

1万9000tの蓄熱槽を保有する晴海トリトンスクエア

松本 効率的な熱利用ができるように再開発と熱供給施設の計画が一体となって進んだ。さらに蓄熱を活用することで電力の負荷平準化に寄与しているわけですね。

福嶋 はい。当社では現在、関東エリアを中心に19カ所で熱供給事業を行っていますが、特に銀座周辺の地点が多いですね。地価が高いところには熱供給事業、つまり地域冷暖房が採用されやすい特徴があります。熱供給のような熱源機器のセントラル方式によって、ビルのオーナーは各フロアの空調用の機械スペースを省けます。また熱供給を受けるビルは、自前で冷暖房するための地階や屋上に設置する機器を大幅に省略できるため、その分貸し出すスペースや屋上利用スペースが広がります。さらに熱供給プラントが設置されるビルは容積率が緩和されるなど、地価が高いところに向いている特徴がありますね。

松本 こういった蓄熱槽は有事の際の防災対策にもなるわけですか。

福嶋 はい。われわれは蓄熱槽をコミュニティータンクと呼んでいまして、火災発生時には消火用水としても利用できます。晴海トリトンスクエアでは年1回は消防車が来て、蓄熱槽から放水する試験を実施して機能を確認しています。

 また、東京の京橋地区では清水建設さんの本社ビルの地下に熱供給プラントがありますが、行政側と連携し、有事の際には清水建設さんが帰宅困難者を受け入れることになっています。ここでは蓄熱槽がトイレ洗浄のための生活用水として利用できる仕組みになっているなど、いろいろな機能を蓄熱槽は兼ね備えています。

松本 平時には省エネ対策として稼働し、有事の際には近隣に対しての防災対策、レジリエンス機能を高めていくということですね。さて、今、政府がカーボンニュートラルを目指しています。そこを目指す上で大前提となるのが省エネです。その意味で熱供給の導入は省エネ対策として重要だと思います。そうした中、東京都市サービスの地冷では、あまり使われていない熱を有効に使う取り組みなど、さらに省エネ性を高めようとしています。

大手事業者にカルテル疑惑 制度改革の行方に影響も


電力・ガスの小売り市場で圧倒的な市場支配力を持つ大手事業者が、価格カルテルを結んでいた疑いが浮上している。小売り市場でのカルテル疑惑は、発電・卸市場でも同様なことが行われているのでは、との懸念を招きかねない。今後の制度改革に影響を与える可能性もある。

公正取引委員会は4月13日、関西電力、中部電力、中国電力に独占禁止法違反の疑い(不当な取引制限)で立ち入り検査を行った。2018年ごろから特別高圧・高圧電力の分野で、顧客の争奪戦を防ぐ話し合いを行ったという。また同日、中部電力、中部電力ミライズ、東邦ガスにも低圧電力と都市ガスでカルテルの疑いで立ち入り検査を行っている。

価格消耗戦を避けたかったのか

全面自由化による競争激化で、大手事業者の収益力は大きく低下。各社とも価格面で「消耗戦」を避けたい意向があったのか―。ならば、その代償も大きい。

東京大学の松村敏弘教授は「今回の事案が事実なら、大手電力・ガス事業者間の根強い競争制限体質を疑われることになる。小売りだけでなく調整力・容量市場を含む発電、卸市場での競争性にも疑念が生じ、これからの制度改革の議論にも影響を与えるだろう」と指摘している。

石炭火力「輸出停止」の波紋 裏で途上国の新設計画が激減


3月29日付の日本経済新聞が、政府が石炭火力の輸出支援の新規案件を全面停止する検討に入ったと報じた。政府は昨夏インフラ輸出戦略を見直し、石炭火力では脱炭素化を目指す国に対してUSC(超々臨界圧)以上に限定する、などと要件を厳格化したばかりだった。

だがこの報道について、加藤勝信官房長官や梶山弘志経済産業相は即座に否定。どうやら水面下で話はあったものの、環境省の一部からのリークに経産省側が怒り、結局立ち消えとなったもようだ。

今年に入り、途上国の石炭火力を巡る状況は急変している。米バイデン政権の誕生で世界的に気候変動政策強化に拍車が掛かり、日本がカーボンニュートラルを宣言したことも背景にある。

中国の一帯一路で2017年に建設されたパキスタンの石炭火力発電所(提供:朝日新聞社)

ASEAN(東南アジア諸国連合)で日本が関わり、現在具体的に動きがある石炭火力建設計画は、何とバングラデシュのマタバリ発電所1件のみ。現地国営電力を事業主体にJICA(国際協力機構)が支援するUSCで、10年ほど前に計画が立ち上がった1、2号機が建設中、その拡張工事として3、4号機の検討も進んでいる。しかしASEANでほかの案件はガス火力に変更したり、住民の反対で止まったままだったりと、マタバリ以降の新設計画はゼロだ。「ASEANも本音では石炭を使いたいはずだが、日本の動向なども見て潮目が変わった。中国も石炭火力から太陽光輸出にかじを切っている」(火力部門関係者)

アフリカでも石炭火力建設計画は1件のみで、あとはIGCC(石炭ガス化複合発電)案件が世界規模で1、2件出るかどうかという状況。脱炭素ブームは既に途上国をものみ込みつつある。

【イニシャルニュース】波紋広がるY参事官発言 内閣府は勉強不足!? ほか


1.波紋広がるY参事官発言 内閣府は勉強不足!?

「容量市場の必要性について非公式の場で必ず語られるのが、電力自由化と引き換えに経産省が電力に切った手形であるということだ。これは検証できるものではないが、仮に真実であるとすれば、国民に対する重大な背信行為であり、真実でないとしても、そのような話でしか腹落ちしない説明不能な制度」

3月26日の電力・ガス基本政策小委員会(経済産業相の諮問会議)で、内閣府Y参事官が発言した内容がエネルギー関係者の批判を招いている。

この発言に対し、1週間後に開かれた内閣府の「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース(再エネTF)」では、資源エネルギー庁幹部が「大変心外に感じている。揶揄的な憶測の批判発言は、審議会で制度設計議論に携わる委員に大変失礼な不適切な発言だ」と強く抗議。当の審議会委員からも、「内閣府はあまりにも勉強不足だ」と反発の声が上がっている。

新旧問わず、電力会社側からも「建設的な議論を呼ばない」と異論の声は大きい。電力業界関係者のX氏は、「TF意見で当初、容量市場の対案としていたテキサス州が大停電を起こしてしまい、言うに事欠いたのかもしれないが、平場で陰謀論を持ち出すのには驚いた」とあきれ顔。

別の業界関係者Z氏も、「要は内閣府と蜜月の環境団体SやK大チームがこういう思考に立っていて、Y参事官もそれをそのまま発言の論拠にしているという印象だ」と、逆に一部企業や団体への利益誘導が目的ではないかと疑念を強める。

実際、1月の電力卸市場価格の高騰を受け、再エネTFは一部新電力の経営を優遇するような主張を繰り返し、大手電力会社やほかの新電力関係者らの不評を買った。

容量市場は世界で複数の導入実績があるものの、それが将来の容量確保策として有効かどうか、国内でさまざまな意見があるのは事実。だが、このような陰謀論を持ち出したのでは、本質的な議論から遠ざかるばかりだ。

2.Fパワー波乱の更生開始 新スポンサーはどこに?

東京地方裁判所は3月30日、新電力大手Fパワーが申請していた会社更生法の適用に基づく更生手続きの開始を決定した。

今冬の日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格高騰などが業績を直撃し、負債総額は464億円。今年に入り、事実上最大の経営破綻劇だ。

東京地裁の決定を受け、Fパワーでは保全管理人の富永浩明弁護士が、埼玉浩史氏や沖隆氏ら旧経営陣に代わって、管財人として事実上の経営権を持ち、更生計画の策定に取り組むことになる。

「さまざまな憶測が飛び交っているが、当社の業務は従来通り行われ、お客さまに提供する電力(料金・サービスなど)の営業活動に影響が及ぶことはない。ステークホルダーの方々には大変なご迷惑をお掛けし、申し訳ない気持ちでいっぱいだが、新たなスポンサーの下で、より一層充実したサービスを提供できるよう、誠心誠意、今後の経営再建に取り組んでいく」。Fパワー関係者はこう話す。

業界の関心事は、Fパワーの新スポンサーにどの企業が選定されるかだ。複数の関係筋によると、情報通信系大手のH社のほか、IT系大手のD社、中堅新電力のE社、大手エネルギー会社のT社、C社、K社などの名前が浮上している。

「中でも、資金力でいえばH社が最有力。またD社関係の実力者I氏がFパワーの再建に関心を見せているとの話も聞こえている。ただ、いずれも電力販売事業には深い知見やノウハウがなく、課題山積状態のFパワーの経営を実際に立て直せるかは極めて微妙。外資系ファンドなどが絡んでくると見る向きもあり、今後数カ月の動きに要注目だ」(事情通)

現在、全国的に電力需給は落ち着いており、JEPX価格も安値圏で推移しているが、電力需要が増加する夏場や冬場にいつまた高騰するとも限らない。不安定な市場価格に影響されない経営改革をどこまで実現できるのか。再建は前途多難の様相だ。

地裁はFパワーの更生手続き開始を決めた