パンデミックから1年、CO2排出量は今


【ワールドワイド/コラム】

「二酸化窒素(NO2)の排出量が大幅に減少し大気汚染が改善した」「観光客が減りベネチアの運河がきれいになった」「デリーからヒマラヤ山脈が見えるようになった」―など、新型コロナウイルスの感染拡大により世界各地で経済活動が収縮したため、地球環境が大きく改善した2020年初頭。だが、コロナ禍由来の環境改善は、かりそめのものになる可能性がある。

国際エネルギー機関(IEA)は3月2日、20年のCO2排出量をまとめたレポートを公表した。レポートによると、20年4月に世界のCO2排出量が大幅に下落し、同年の排出量は19年から約20億t減少する史上最大の下落幅を記録。しかし、20年12月には前年同月比6000万t増を記録するなど、各国の経済活動が徐々に回復し始めエネルギー需要が増加したことで、21年のCO2排出量は19年の水準に戻る可能性があるという。

電力部門からのCO2排出量は、前年比4億5000万t減少しているが、IEAのビロル事務局長は「世界各国でクリーンエネルギーへの移行を加速しなければ、CO2排出量は過去の水準に戻る」と指摘。パリ協定で定められた2℃未満目標を達成するには、毎年約5億tの排出量削減が必要など、目標達成までの壁はまだまだ高い。

とはいえ、ビロル事務局長は「中国が野心的なカーボンニュートラル目標を設定し、米国の新政権はパリ協定に復帰して気候変動対策を政策の中心に掲げた。11月には国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)もあるなど、より強力な気候変動対策に向け世界中で勢いを増す」と展望を述べている。新型コロナ対策と気候変動対策の折り合いをどうつけるのか、各国首脳は難しい判断を迫られている。

【電力】モリカケ騒動再現 内閣府の再エネTF


【業界スクランブル/電力】

この冬の電力需給ひっ迫・市場価格高騰が内閣府再生可能エネルギー規制総点検タスクフォース(TF)会合で、2月末までに2回取り上げられた。その内容は、一言で言って「いただけない」。

この冬の需給ひっ迫が突き付けたLNGへの過剰な依存という安全保障の課題を受け止める姿勢は全くなく、ひたすら「大手電力による出し惜しみが原因」という願望に拘泥し、2回目の会合では予防線のつもりか、「売り惜しみがなかったとしても大手電力による寡占状態が悪い」とまで言ってきた。だが、寡占と市場価格上昇の因果関係は全く説明されていない。需給がひっ迫すれば、寡占だろうがなかろうが価格は上昇する。それは2月のテキサス州を見れば明らか。そもそも大手9社のシェアが8割の市場など珍しくもない。仮にこの寡占を解消したら国としての燃料購買力がどうなるかなど想像もしていなさそうだ。

この一連の流れに既視感がある。第2次安倍政権のモリカケ騒動だ。首相周辺の犯罪という願望にこじつける国会質疑と、何を言っても「疑惑は深まった」を繰り返した特定野党が一部の支持層を除いて国民の支持を失っていったのは記憶に新しい。そのせいか、菅政権の政権運用は決してスムーズとは言えないのに野党の支持率は全く上がらない。当時も、文部科学省が獣医学部新設の申請すら受け付けない異常な姿勢を長年貫いていた背景など本質的な問題はほかにあったであろう。しかしこれらについぞスポットが当たることはなく、ただただ国会と行政の貴重な時間が浪費されていった。今回も、貴重な時間を浪費させられている経済産業省の皆さんには気の毒というしかない。

TFは良い取り組みもしている。技術力が低い中小工務店に過度に忖度した護送船団方式で一向に進まない建物の高断熱化に切り込むところなどは良いと思う。その一方で、電力市場高騰に対する再発防止策が「支配的事業者に燃料確保と市場玉出しを義務付ける」という新たな護送船団方式では、ダブルスタンダードというものだろう。(T)

迫るバイデン気候サミット エネ基議論にも影響か


【ワールドワイド/環境】

バイデン大統領は大統領就任当日にパリ協定復帰の手続きを取り、2月19日に法的にパリ協定締約国に復帰した。ケリー気候変動特使率いる米国の気候変動外交の次の見どころは4月22日のアースデーに合わせて米国が主催する気候サミットである。

 この気候サミットはオバマ政権下で行われた主要国経済フォーラム(MEF)を復活したものと見なされている。MEFには先進7カ国(G7)に、EU、豪州、ロシア、メキシコ、韓国、中国、インド、ブラジル、南アフリカ、インドネシアの17カ国・地域が参加したが、今回どの国が招致されるかは不明。いずれにせよ会議の目的は国際的な温暖化防止努力への米国の復帰を誇示するとともに他国に国別目標の引き上げを迫り、リーダーシップを発揮することだ。

 そのためには米国自身も野心的な2030年目標を掲げる必要がある。オバマ政権下では25年までに05年比26~28%減という目標を掲げていたが、パリ協定を離脱したトランプ政権下で放棄されていた。今回は30年目標も提出する必要があり、各種情報によれば米国はサミットの主導権を取るため、05年比45~50%減という目標を出すとの話もある。とはいえ裏付けとなる国内規制や法制が4月までに整備されるとは思われず、共和党からの批判は確実だ。しかし根拠よりも数字の野心レベルが歓迎される昨今、国連や欧州はこれを歓迎するだろう。

 サミットでは日本も50年カーボンニュートラル目標を宣言したことで、政策の整合性を取るよう圧力があると予想される。日本は第6次エネルギー基本計画の策定途上にあり、4月のサミットで新たなエネルギーミックスや目標を発表できる状況にないが、6月には英国主催のG7、10月にはイタリア主催の主要20カ国・地域(G20)、11月には英国主催の国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)が控えている。目標改定は早晩することになるだろう。

 エネルギー需要の伸びは現行目標を下回る見込みであるが、原発再稼働は進展していない。原発に代わって安価なベースロード電源を提供した石炭火力の利用にはさらなる制約が掛かる。そうした中で洋上風力を中心に再エネ目標を大幅に積み上げて目標を上方修正すれば日本の電力料金は確実に上昇する。産業競争力、雇用への影響を見極めた対応が必要だ。

EV普及を後押しする米国 州にも広がる脱ガソリンの波


【ワールドワイド/経営】

2021年1月に誕生したバイデン政権は、50年までのカーボンニュートラル達成という意欲的な目標を掲げている。

 運輸部門は、国内の温室効果ガス排出量のうち部門別では最大となる28%を占めている。連邦政府は運輸部門の電化促進が有効な気候変動対策と考え、電気自動車(EV)購入時に最大7500ドルの補助金を拠出するなどの施策を実施している。

 バイデン大統領は1月27日に署名した気候変動対策に関する大統領令の中で、連邦政府機関の車両にEVを積極的に採用すると明記した。米国のEV販売台数(プラグインハイブリッド車を含む)は、15年の累計40万台から、20年には累計157万台と、約4倍に増加している。カリフォルニア州などでは、州内の自動車メーカーに一定割合のゼロエミッション車(EV、燃料電池自動車など)の販売が義務付けられており、EV販売台数は順調に増加している。

 EV充電インフラの整備も行われており、連邦政府が充電器設置費用の30%(上限3万ドル)の補助金を付与するほか、各州政府も補助金制度を実施している。2月現在、米国内には充電ステーション4万カ所以上、充電器9万8000基以上もある。30年までに50万カ所のEV充電設備を整備する計画もあり、充電インフラの大規模な拡充が予想される。

 また2月時点で連邦政府によるEV販売比率の義務付けや、ガソリン車の販売規制などは制定されていないが、民主党のジェフ・マークリー上院議員(オレゴン州選出)とマイク・レビン下院議員(カリフォルニア州選出)が20年10月に、ガソリン車の新車販売を35年までに終了させる「20年ゼロエミッション自動車法」法案を連邦議会に提出した。

 法案は、新車販売のうちゼロエミ車が占める割合を25年までに50%、以降毎年5%ずつ増加させ35年までに100%にすることを目標としている。同法案が前会期中に審議されることはなかったが、新政権の下で同様の法案が提出されるか注視が必要だ。

 州レベルでもガソリン車の段階的な廃止が進んでおり、オレゴン州のブラウン知事は19年7月、35年までに新車販売台数の90%をゼロエミッション車にすることを目指す法案に署名した。カリフォルニア州のニューサム知事は20年9月、35年までに新車販売の100%をゼロエミッション車とする知事令に署名した。

 これらEV促進政策がどう実現するか、動向が注目される。

政情不安が続いたリビア 原油生産回復へ外資と連携


【ワールドワイド/資源】

リビアでは2011年にカダフィ政権が崩壊して以来、情勢不安が10年近く続いていた。

 19年4月には同国東部の軍事勢力「リビア国民軍(LNA)」がリビア全土の支配を狙ってトリポリに侵攻し、以来、1年以上にわたり国民合意政府(GNA、国連の承認を受けた統一政府)との間で大規模な戦闘が行われた。

 20年1月からLNAが支配地域の油田や原油積出港の大部分を封鎖したため、同国の石油生産量は日量120万バレルから10万バレル弱まで激減した。しかし20年10月にGNAとLNAが停戦合意に署名し、原油生産は徐々に再開。原油積出港の操業も同月までに全て再開した。石油生産量・輸出量は、関係者間の予想を上回るペースで回復。21年3月時点の生産量は日量125万バレル程度とみられる。

 しかし現在の同国情勢は、完全に落ち着いているとは言い難い。20年11月にはトリポリにあるリビア国営石油会社(NOC)本部で民兵武装グループによる襲撃事件が発生、また21年1月にPFG(石油施設の保護を任務とする国家治安部隊)が東部の複数の原油積出港を封鎖した。いずれの事件も収拾したものの、同様の事件が再度発生する可能性は否めない。

 これらの背景もあり、OPEC(石油輸出国機構)プラスはリビアが協調減産に復帰できる状況にないと認識しているもようだ。同国自身も生産量が日量170万バレルで安定するまでは協調減産に参加しない意向を示した。NOCも21年末までに160万バレル、210万バレルを将来的な生産目標に掲げている。

 そのためにも既存坑井の改修や回収技術の改善、損傷タンクの補修などに取り組む構えだが、実行には知見・技術、資金ともに国際大手石油会社(IOC)に頼らざるを得ない。同国では複数の上流開発計画が予定されており、多くの外資企業が携わることになりそうだ。特に昨年夏ごろよりNOCとIOCの協力が活発化しており、将来の開発に向けて技術ワークショップやトレーニングの実施など、人的交流を中心に動き始めている。

 加えて、今年12月に予定されている大統領選挙・議会選挙の準備が進められている。IOCがいかなる規模や速度で開発・操業を本格化させるのか、また内戦によって損傷著しいインフラの復旧を進めて原油生産量を増加させられるかも、結局のところ政治や治安の安定が第一の鍵となる。このため、IOCは当面は今後の状況を注視しつつ、慎重に動く見込みだ。

コロナ感染拡大は都民のせい? メディアは首長責任を問わず


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

少し前、映画監督の石井裕也さんがラジオで高校時代の体験を語っていた。担任教師がホームルームで突如怒ったという。理由は期末試験でクラスの平均点が下がったことだが、生徒個人に言って何になるのか。教師は挙げ句に「お前ら普段の生活から考えて行動しろよ」とも言い放った。石井さんの回想通り、訳が分からない。

政府は3月5日、新型コロナウイルス対策で首都圏に発令した緊急事態宣言の2週間延長を決めた。小池百合子東京都知事も同日夕、記者会見した。ネットで見始めて石井さんの回想を思い出した。小池氏が冒頭、「現在、緊急事態宣言中であるということ、都民の皆さんは今も続いていることを認識されているのか」と笑みを浮かべながら言い放ったからだ。悪いのは都民なのか。笑みも含めて、訳が分からない。

菅義偉首相が口にすれば大騒ぎだろう。実際は、「小池知事『2週間の延長、重く受け止める』」(3月5日NHK)など、当たり障りない報道がほとんどだった。

そもそも感染症対策は一義的に都道府県が担う。小池氏は自らの責任をどう認識しているのか。

本音をあぶり出したのは6日読売「『小池劇場』今回は不発」だ。小池氏は2日から「森田健作千葉県知事や黒岩祐治神奈川県知事らと連絡を取り、『ワンボイス』で政府に2週間延長を突きつけるために動いていた」

「政府が要請をのめば、小池氏は存在感をアピールできる。はねつけられても、宣言解除で感染が再拡大した場合の批判は政府に向かう」「1月の宣言発令前にも近隣3県の知事をまとめ、政府を突き上げた『成功体験』がある」

今回は「不発」だった。

「小池氏は事前調整の際、森田氏には黒岩氏らが延長要請に乗り気で、黒岩氏には森田氏らが乗り気だと、それぞれ説明していた」が、「森田、黒岩両氏が連絡を取り合うと、小池氏の説明が事実と食い違っていることが露見した」。その結果、3日の会議で「黒岩氏が小池氏に不満を爆発させ、森田氏も同調した」

小池氏には、6日朝日社説「宣言再延長、確実に抑え込む期間に」は心強いだろう。「7日での解除を何度も口にしながら、約束を果たせなかった菅首相の政治責任は重い」と政府をなじる。

コロナは一気になくせない。生活や経済への悪影響を最小限に感染を抑える。求められるのはそうした科学的、合理的な対応だ。2月成立の改正新型インフルエンザ等対策特別措置法は、この観点から「蔓延防止等重点措置」を設けた。都道府県単位の緊急事態宣言と異なり、感染リスクの高い特定地域に限定して、知事が検査拡充などの対策を講じる。前掲6日読売記事にはこれを「1都3県側が断った」とある。理解に苦しむ。

こうした感情が左右する世論におもねる政治が10年前の東日本大震災以降、常態になった。メディアもあおる。国内に限らない。

新刊『クララとお日さま』を著したノーベル賞作家カズオ・イシグロさんが3日読売のインタビュー記事「科学と感情、対立に懸念」で警鐘を鳴らす。コロナ禍の下、「科学的裏づけを無視し感情のままに信じたいものを信じる態度が広がり、強い懸念を覚えます」。「小説を書くことで感情を共有する、共感を得ることが本当に正しいのか」と苦悩も語る。

新刊は、人の感情と人工知能が織りなす慈愛の物語だ。その著者からの重い言葉である。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

持続可能な社会の構築 工学者は連携して挑戦を


【オピニオン】岸本喜久雄/日本工学会会長

新型コロナウイルス感染症は世界的な大流行となり、われわれに「新しい社会様式」への転換を迫った。その中で、デジタルトランスフォーメーションとともに環境問題への意識の変化も見られ、カーボンニュートラル社会の実現が強く希求されるようになった。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は「持続可能な社会の実現に向けた技術開発総合指針2020」を公表している。そこでは、CO2排出量を2050年時点で実質ゼロにするためには世界で年間約400億tの削減が必要で、従来技術だけでは毎年1000兆円規模のコストがかかると試算している。

一方,コロナ禍による世界の経済的損失は1000兆円規模と推定されている。これと比較してもカーボンニュートラル社会の形成のためには莫大な投資を必要としていることが想像できる。実現のためには革新的技術の開発が必要であり、その担い手となるべき工学関係者の役割は大きい。

日本工学会は、1879年に工部大学校(東京大学工学部の前身)の第1回卒業生23人によって創立された、日本で最初の工学系学術団体である。わが国の工学の発展に伴い、分野ごとに個別の学会が設立されるのに伴って、1922年に個人会員制から学協会を会員とする体制に変更され、現在に至っている。現在は約100学協会により構成されている。わが国の工学系学術団体の原点であるとの認識の下に、学協会の連合体組織であることを生かして、工学および工業の進歩発展を図ることを目的に活動している。

日本工学会は、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の援助の下に68年に設立された世界工学団体連盟(WFEO)に日本学術会議とともに72 年に加盟が承認された。2015年には第5回世界工学会議(WECC2015)を主催し、わが国の「社会を支える工学」「社会イノベーションを創る工学」の実践例を世界に発信し、会議での議論を「WECC2015 京都宣言」として公表した。

ユネスコは、WFEOが創立50周年を迎えたことを契機にエンジニアの活動を広く人々に認識してもらい、あわせてSDGsの推進に貢献することをアピールする目的で創立日の3月4日を「世界エンジニアリングデイ」として採択した。これを受けて、世界各国で記念行事が開催されるようになった。わが国でも、日本工学会が日本学術会議、日本工学アカデミーや関係学協会の協力を得て世界エンジニアリングデイ記念シンポジウムを開催している。第2回の本年は「多様性と包摂性のある社会のための工学の未来」をテーマとした。

環境問題をはじめ多くの社会課題の解決には工学分野を専門とする人々の弛まない挑戦が求められる。日本工学会は工学に携わる技術者・研究者の活躍を支援するとともに、「未来社会のための工学の挑戦」のために分野を越えた連携の推進を目指している。このような活動に多くの皆さまの参画をお願いしたい。

きしもと・きくお 1975年東京工業大学工学部機械物理工学科卒。87年ケンブリッジ大客員研究員、95年東工大教授、2012年東工大副学長、大学院理工学研究科工学系長・工学部長。

【マーケット情報/4月9日】原油下落、需要後退の懸念強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

4月1日から9日までの原油価格は、主要指標が軒並み下落。需要後退の観測が台頭した。

新型コロナウイルスの感染再拡大を背景に、移動や経済活動の自粛が再導入されている。インドでは、一部地域がロックダウンを再開。また、ブラジルで変異株の感染者数が増加していることから、周辺国が国境を封鎖、あるいはブラジルからの出入国を規制。日本では、東京や大阪など一部都道府県がまん延防止等重点措置を導入し、外出や飲食店の営業、イベント等を制限。経済が冷え込み、石油需要が後退するとの懸念が広がっている。

また、米国の新大統領は、直ちに対中関税を取り下げることはないと改めて強調。米中貿易摩擦が続くとの見方が台頭し、経済および石油需要回復に対する不透明感が一段と強まった。

一方、米国の週間在庫統計は、製油所の高稼働と生産減により減少。加えて、OPECプラスの3月産油量は前月比で増加し、価格の下落をある程度抑制した。

【4月9日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=59.32ドル(前週比ドル2.13安)、ブレント先物(ICE)=62.95ドル(前週比1.91ドル安)、オマーン先物(DME)=61.07ドル(前週比1.37ドル安)、ドバイ現物(Argus)=61.00ドル(前週比0.33ドル安)

【コラム/4月12日】2020年度の棚卸と21年度に向けて


加藤真一/エネルギーアンドシステムプランニング副社長

2020年度が終わり、2021年度が始まった。

20年度は新型コロナウイルス感染症拡大の影響に伴い、生活や働き方のスタイルが一変する1年であった。緊急事態宣言が解除されたとはいえ、まだ予断を許さない状況であることに変わりない。そして、エネルギー業界の世界も大きな変化があった年度であった。

そこで、今回は20年度を振り返りつつ、21年度以降の特に電気事業に関する制度設計について簡単に書いていくこととする。

20年度の大きな2つの動き

まず、20年度には大きく2つの動きがあった。一つは、6月に成立・公布された「エネルギー供給強靭化法」。もう一つは10月に菅首相の所信表明演説で出された「2050年カーボンニュートラルの実現」。

前者は、電事法、再エネ特措法、JOGMEC法の束ね法として、エネルギーセキュリティの確保、レジリエンス強化、再エネ大量導入に向けた各施策が盛り込まれている。

この法律は22年4月に施行(一部、前後するもあり)されるため、20年度の夏以降、具体的な制度設計が進められている。

後者は、成長戦略の柱として経済と環境の好循環を掲げ、その中でグリーン社会の実現に最大限注力することを目的に発出されてものである。これにより、政府は新しい成長戦略を立て、そのもとで、投資促進、経済成長を目指していく。すでに成長戦略の14の重要分野について2050年までのロードマップや目標が出されている。エネルギー分野でも洋上風力や蓄電池といった分野で産業ビジョンや導入目標が議論、整理されてきている。

新たに浮き彫りになった課題

こうして大きな政策・方針のもとで走り始めた日本のエネルギー業界であるが、12月中旬以降に起きた電力需給におけるkWh不足と、それに端を発した卸電力取引所価格の断続的な高騰により、市場設計の在り方に課題が投げかけられた。

3月末までに事象の検証・報告がなされ、新電力に対してインバランス料金および再エネ特定卸料金の分割支払い措置が実施されている。

制度設計については、情報公開や供給力確保、リスク管理、セーフティーネットの在り方等の論点を取り上げ、現時点においても議論は継続中である。

この4月で電力小売全面自由化から6年目が始まる。まだまだ市場は成熟しておらず、丁寧かつスピーディーな制度設計、措置を取ることが求められるだろう。

20年度に整理されたこと(3月28日時点)

ざっと20年度に整理されてきたことを以下に挙げてみる。

・エネルギー基本計画見直し

第6次計画は今年夏頃に策定となるが、現状の整理、2050年目標、2030年の政策といった順に議論が展開され、現時点では2050年のシナリオ分析と関係者ヒアリングを踏まえた2030年の政策策定が並行して進展している。

 ・カーボンプライシング

従前より環境省の小委で検討、中間整理されていたが、経産省の研究会を加え、あらためて議論が始まっている。まずは国内外の情勢、検討の視座を整理し、複数ある手法(炭素税、クレジット、国境調整など)の状況確認、想定される枠組みが議論されている。

 ・非効率石炭フェードアウト

第5次エネ基に織り込まれた内容だが、本格的に議論が始まったがの昨年7月の梶山経産大臣の会見以降。方向性としては、省エネ法による規制的措置、容量市場等と整合した誘導措置、一部の大手事業者に対するフェードアウト計画の策定の三本柱で議論が進み、方向性が纏まりつつある。

・再エネ特措法改正

強靭化法に盛り込まれている再エネ特措法改正の諸施策について、詳細設計が整理された。具体的には、FIP・地域活用電源の各種要件、太陽光パネル廃棄処理費用の外部積立、長期未稼働案件の失効要件、交付金の返還等になる。これらは今年夏頃には省令等が改正される予定である。

・容量市場

24年度分メインオークション実施・約定結果公表から、次回以降の入札のあり方について見直しの議論が始まっている。供給曲線の設定、入札価格の事前確認制、オークション回数の2段階化、維持管理費用設定の明確化、小売への激変緩和、非効率石炭退出の誘導措置など整理が進むが、こちらは内閣府のタスクフォースでもゼロベースでの見直しとの意見が出ており、まだ完全に決着はついていない。

活況呈するグリーンファイナンス 模索続く再エネ投資の最適解


【識者の視点】中島みき/国際環境経済研究所・主席研究員

2050年の脱炭素社会実現に向け、企業による再生可能エネルギーへの投資意欲が高まっている。
再エネの市場統合が進む中、新たなビジネスの可能性を探る動きが注目される。

2050年カーボンニュートラルに向けた動きが加速している。

ESG(環境・社会・統治)投資は、18年に16年比4倍に拡大。20年時点の資産残高は約310兆円で、日本の総運用資産に占める割合は51・6%をになっている。17年に約2000億円だったグリーンボンドの国内の発行総額は、20年に1兆円を突破した。

再生可能エネルギーの導入が加速されている印象を受けるが、現実はそう単純ではない。ESG投資は、環境のみならず社会、企業統治も考慮した投資をいい、必ずしも再エネ投資とは限らないのだ。

グリーンボンドに関する公表データを見ると、太陽光発電事業に関連するものが多いが、新規建設に伴う資金調達のみならず、(第三者からの)既存の設備取得に伴うリファイナンス資金も一定数見受けられる。既存設備を売買するセカンダリーマーケットでの取引も、新規の投資としてカウントされはするが新たな再エネ設備が追加されるわけではない。

再エネ投資は拡大するも 設備の増加は限定的

実際、資源エネルギー庁の資料で再エネの年度別導入量を見てみると、導入量の大宗を占める事業用太陽光の導入量は、14年度の857万kWをピークに低下し、至近3カ年は480~490万kW前後で横ばいが続いている。無論、新規の建設資金を投じてから運転開始までには一定の期間を要するためタイムラグはあるが、前述した資金の伸びほど拡大していないことは明らかだろう。

事業用太陽光の買取単価は、制度導入当初(12年度)の40円から毎年、コストの低減傾向に従って低下。17年度からは段階的に入札制が導入され、20年度には平均落札価格が11円台となった。

政府の調達価格等算定委員会は、システム費用がトップランナー水準でkW 14・2万円、土地造成費が同0・4万円、そして接続費が同1・35万円程度と想定している。

この水準では林地開発を伴う大規模造成は困難であり、多額の接続費用を要する立地地点のプロジェクトの実行は難しい。おのずと限定的な地点で、中小規模案件が開発のメインにならざるを得ない。

全国銀行協会によれば、大規模案件の資金調達には、レバレッジ効果により事業者の収益性を高められるプロジェクトファイナンスが活用されることが多い。

格付け機関が公表する評価ポイントでは、極めてプレーンな太陽光開発プロジェクトの場合、スポンサーの想定するキャッシュフローをベースに、DSCR(Debt Service Coverage Ratio=元利返済前のネットキャッシュフローを元利金返済額で除したもの)の要求水準は、格付けAレンジで1・5前後、BBBレンジで1・3台の前半と考えられている。もちろん、個々のプロジェクトのリスクによるが、この水準のキャッシュフローを生み出せるかが焦点だ。

新規開発のハードルが高くなると、メガソーラーを獲得したい事業者はセカンダリー市場へと向かう。最近では、ガス・石油会社も含めたエネルギー企業はもとより、RE100の加盟企業やサプライチェーンの要請を受けた事業会社などの関心も高まっている。

楽天が日本郵政と提携 電力・ガス販売に弾み


電力・ガスの小売り業界の中で、楽天グループの存在感が急速に高まっている。最大の理由は、全国に物流網も持つ日本郵政と資本業務提携を結んだことだ。

「世界に類を見ない新しい提携のパターン」。3月12日、楽天の三木谷浩史社長はこうぶち上げた。今回の提携では、楽天が実施する第三者割当増資を日本郵政が引き受け、3月中に1500億円を出資。これにより日本郵政は8・32%を出資する、楽天の第4位の株主となった。今後、物流面で両社が持つデータを共有しながら、配送拠点やシステムを共同で構築。また全国の郵便局で、携帯電話など楽天サービスの申し込みを受け付けるようにするという。

これまで楽天はポイント加算や1年間無料サービスを武器に〝楽天経済圏〟への顧客取り込みに力を入れてきた。サービスをたくさん利用するほどトータルでの割安感が強まり、解約しづらくなる効果を狙う。その際ネックだったのが窓口となる店舗の少なさだが、日本郵政との提携で解消されることになるのか。4月1日付に設立される楽天エナジーの展開にも弾みをつけそうだ。

関電が新増設に言及 水素社会に向け新型炉導入


関西電力が2月末に発表した「ゼロカーボンビジョン2050」で「高温ガス炉、小型モジュール炉(SMR)の活用」をぶち上げ、関電幹部の会見でも言及されたことが話題となっている。

大手電力の50年ゼロエミ宣言は、JERA、沖縄電力、中国電力、Jパワーが公表している。その中で中国電とJパワーがCO2フリーの電源である原発の活用に言及しているが、新増設にまで踏み込んでいるのは関電のみだ。

注目は、水素製造を目的とした高温ガス炉建設やSMRなど次世代炉の導入を明記し、「原子力を活用することで水素社会の実現にも貢献する」という他社にはない特徴を打ち出していること。関電幹部はビジョンについて「打ち出したからにはしっかりと取り組んでいく」と話している。

意気上がる関電だが、これまでSMRなどの新型炉には消極的だった。それだけに「内々にどんな方針転換があったのか」(大手電力幹部)と勘繰る向きもある。 とはいえ50年カーボンニュートラル実現という難題達成には原子力の活用は不可欠で、野心的なビジョンに希望を感じた原子力関係者は多いだろう。関電の取り組みに大きな期待がかかる。

福島原発事故10年の教訓 エネ戦略は国民的議論で


【論説室の窓】竹川正記/毎日新聞論説委員

10年前の東日本大震災・福島第一原発事故で日本はエネルギー政策の転換を迫られた。

だが、政府はこの間、問題先送りを続けてきた揚げ句、「脱炭素化」を一足飛びに進めようとしている。

「十年ひと昔」というが、2011年3月11日以降の福島第一原発危機の記憶は今も鮮明だ。1、3、4号機が連続して水素爆発を起こし、一時はメルトダウン(炉心溶融)による放射性物質拡散の深刻な影響が東日本全域に及ぶことも想定された。欧州の大使館員や外資系企業の社員らは相次いで東京を離れた。同盟関係にある米国大使館はとどまったが、追随していれば、東京はパニックに陥っていたかもしれない。

財務省幹部が当時「国民に仕える身として逃げるわけにはいかない。家族にも東京に残るように言い渡した」と語った姿が今も印象に残る。私も正直、同じような思いだった。避難を迫られた福島の人々と比べようもないが、原子炉の冷温停止が確認されるまで東京でも緊迫感が続いた。

電力不足で石炭火力依存 問題先送りを続けた政府

深刻な電力不足に見舞われた首都圏では3月14日以降、約2週間にわたり断続的に計画停電が実施された。電力不足からの脱却が当面の最優先課題となり、原料が安価な石炭を中心に火力発電が急ピッチで増強された。

当時はシェールガス革命が本格化しておらず、LNGの輸入コストは割高だった。バブル崩壊以降の長期的な経済低迷による税収減少と累次の景気対策に伴う歳出膨張で国の財政状況は既に主要国で最悪の水準だった。財務省内では「LNG輸入が急増すれば、慢性的な経常赤字に陥り、国債暴落など財政危機の引き金になりかねない」と懸念する声もあった。

一方で、LNGに比べて発電時のCO2排出量が多い石炭火力への依存は、地球温暖化対策に逆行するジレンマが指摘されていた。

「安全神話」が崩壊した原発の位置付けを含めてエネルギー戦略をどう見直し、電力の安定供給と温暖化対策の両立を目指すかは、大震災直後から日本が突き付けられた最大の課題だった。

旧民主党政権は12年に「革新的エネルギー・環境戦略」を発表し、「30年代に原発稼働ゼロ」を掲げた。代替電源として再生可能エネルギーの普及を急ぐとし、太陽光発電などの固定価格買い取り制度(FIT)を導入した。買い取り価格を高く設定したため、設備導入が比較的容易な太陽光発電は確かに伸びた。だが、海外で再エネの主力となっている風力発電導入は進まなかった。日本の大手電機メーカーが軒並み風車製造から撤退したのもそんな事情からだ。

再エネにとって、日本は欧米などに比べて気候や地理的条件が悪い。基幹電源化を目指すなら、蓄電池開発や送電網の増強など包括的な推進策が必要だった。しかし、旧民主党政権のエネルギー政策はそんなスケール感が乏しく、脱原発・脱炭素依存に全くの力不足だったと言わざるを得ない。

13年末に自民党の安倍晋三政権(当時)に交代して以降、水面下で原発回帰の道が探られた。原発はカーボンフリー電源で、再エネと異なり発電量が天候に左右されない。安倍政権下で策定されたエネルギー基本計画は原発を「重要なベースロード電源」と明記。30年度の電源構成目標の原発比率は20~22%とした。

しかし、国民の不興を買うことを恐れてか、肝心の再稼働の判断は原子力規制委員会と地元自治体に丸投げした。地元住民の不安解消に欠かせない避難計画策定にも積極的に関与しなかった。原発の位置付けはあいまいなままで、国民の不信は払拭されなかった。

この結果、大震災後に再稼働した原発は9基に止まり、18年度の原発比率はわずか6%。エネ基の目標は「絵に描いた餅」となっている。再エネ比率は17%と大震災前から倍増したが、発電の不安定さは解決されていない。

にわか仕立ての脱炭素化 原発の位置付け定まらず

原発の再稼働停滞の穴埋めと再エネの調整電源を引き続き担う火力発電の割合は7割超と高止まりし、日本は世界的な脱炭素化の潮流に大きく出遅れた。専門家は政府の無策ぶりをエネルギー版「失われた10年」と批判する。

菅義偉政権は昨年10月、50年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル(CN)」を宣言したが、にわか仕立ては明らかだ。経済産業省はCNに向けてグリーン成長戦略を策定したが、技術革新への期待感を総花的に網羅した「作文」の域を出ず、実効性が疑われている。原発に関する記述は「可能な限り依存度を下げつつも最大限活用」と矛盾に満ちている。

カーボンニュートラル宣言はにわか仕立てが否めない

関係筋によると、政府や経産省は「まずは野心的なCN目標をぶち上げて、世論の脱炭素化ムードを醸成することが重要」と考えているという。その上で再エネ活用にはコストや技術面で限界があることを国民に徐々に浸透させ、その延長線上で原発のリプレースや新増設方針を打ち出すシナリオを描いているとされる。

だが、福島原発事故の影響は今も続いている。避難者がいまだに数万人に上り、廃炉作業は何十年続くか分からない。そんな状況下で「脱炭素化」を隠れみのにするような原発復権論が国民に受け入れられるとは到底思えない。

CN目標達成への道筋づくりは菅首相や経産省が喧伝するようなバラ色の絵図にはならない。日本にとってオイルショック以上の厳しい試練となるだろう。電源の脱炭素化を進めるには、産業構造や生活スタイルの抜本的な転換も必要だからだ。世論調査では、原発への不信や不安が大きい一方、「即時廃止」を求める意見は少数派にとどまっている。日本のエネルギーの現状を直視した国民の冷静な認識が背景にあるのだろう。

そうならば、政府がまずやるべきはこの10年間のエネルギー無策を真摯に反省することだ。その上で、国民と幅広く対話しながら原発の位置付けも含めたCN目標実現の道筋を探ることだろう。有識者会合のお墨付きを得て新たなエネ基や電源構成目標を決めても再び「絵に描いた餅」になるだけだ。国民の理解なしにエネルギー政策の見直しは進まない。3・11が遺した貴重な教訓だ。

目指すはLP託送業務革命 完全無人化の充填基地をオープン


【日本瓦斯】

「ニチガスが目指しているのは、地域の特性や増え続ける社会課題を解決するソリューションの実装。新しい技術を現場に導入し続けることで、新技術のトキワ荘や梁山泊になりたい」

手塚治虫を慕い、赤塚不二夫、石ノ森章太郎、藤子不二雄などの漫画界の巨匠が切磋琢磨したトキワ荘や、108人の英傑が集った中国文学の水滸伝に登場する梁山泊―。これらになぞらえて同社和田眞治代表取締役社長執行役員が目指しているように、社外を含むさまざまな能力を持った人々が連携してデジタルトランスフォーメーション(DX)技術を導入し、LPガスの充填・配送業務の効率化を進めているニチガス。その集大成ともいえる世界最大級のLPガスハブ充填基地「夢の絆・川崎」が3月16日にオープンした。

流線形の屋根が特徴的な「夢の絆・川崎」

夢の絆は川崎市浮島地区にあり、基地の広さは約8700坪。最大充填能力は一般的な充填基地の100倍となる5万t/月で、14連全自動回転充填機を3基、30tのLPGタンクを2基、容器検査所、研修センターなどを完備。世界最大級の規模を誇っている。

充填業務の完全無人化 他社と連携し改革目指す

最大の特徴は、容器の仕分けや充填、車両および作業員の入退場といったバックヤード業務の管理を無人で行っている点だ。

そもそも同社には、LPガスの自動検針を行える「スペース蛍」というIoT端末がある。同端末は定期的に自社クラウドサービス「雲の宇宙船」に各種データをアップロードする機能を搭載。この機能を活用し、同社では作業員が手作業でチェックせずともLPガスボンベ残量を自動で識別するなど高度なデータ利用を行っている。

夢の絆ではこうしたデータの活用に加え、LPガスボンベに装着されたバーコードタグを基地各所に設置されているカメラで読み取ることで、AIが最適なレーンに自動で振り分け、千葉、神奈川、茨城県など首都圏各地にあるデポステーションへの配送で使用されるトレーラーもGPSやバーコードによる管理がなされている。積載するLPガスボンベの数量や基地レーンへの誘導などが全て自動的にドライバーに指示される。

また夢の絆のデータや各デポステの在庫データ、またその他保安情報や顧客情報なども、全て雲の宇宙船で共有されている。容器の検査から充填、車両への積載、配送先の指示、実配送など、LPガス託送の各工程で徹底したDX化を図ることで高度化を実現した。

和田社長は3月16日に開催した会見で「テクノロジーが世の中を変えていく。当社もやっと入り口に立てた。競い合う競争から、共に創り出す共創の時代に向かいたい」と話すなど、競合会社とも共創の輪を広げる意欲を示している。

インバランスで大激震 新電力業界再編の現実味


一般送配電事業者が1月のインバランス料金(確定値)を公表した3月5日、新電力業界に激震が走った。1kW時当たりの月間平均価格が78円となり、速報値に比べ19円も上回ったからだ。特に、需給が厳しかった11、12の両日は、500円を超える時間帯も。速報値の段階で「この水準であれば事業を継続できる」と、資金調達に奔走した新電力関係者にとっては青天のへきれき以外の何物でもない。

資源エネルギー庁は、事業者の負担増を考慮し一定の要件を満たせばインバランスの分割払いを認める特別措置について、従来の5か月から9か月に回数を増やす追加支援を打ち出したが、効果のほどは未知数だ。

新電力関係者の一人は、「多くが4月以降の事業継続を念頭に、速報値ベースの支払いを踏まえた資金調達をしていた。追加融資を引き出せない限り、事業継続が危ぶまれる新電力も出てくるだろう」と、業界へのインパクトを語る。 事業からの撤退か譲渡か、はたまた大手資本の受け入れか―。最善の選択を模索する動きが水面下で活発化している。