多くの命を奪った熱海市の土石流災害。約4km西にある函南町内でメガソーラー計画が進む。
山林の乱開発を止められるのか。現地取材で見た生々しい実態をレポートする。
偶然にしては、あまりにも暗示的な出来事だった。静岡県熱海市を襲った土石流災害の4日前に当たる6月30日、函南町でのメガソーラー計画に反対する市民団体が、川勝平太・県知事の元を訪れ、事業者への指導を求める要望書を手渡していたのだ。
約65 haに及ぶ山林を切り崩し、約10万枚もの太陽光パネル(総出力2万9800kW)を敷き詰める同計画。設置予定地付近にある丹那沢は、甚大な土砂災害が懸念される「砂防指定地」に指定されている。付近には約60人が通う丹那小学校も。大雨によって、小学校を巻き込む土砂災害が発生しない保証などどこにもなく、住民の不安は大きい。
太陽光設置が予定される丹那小学校の裏山
事業主体は、中部電力系工事会社のトーエネック(愛知県名古屋市)だ。同社は2018年4月にFIT認定IDを「ある開発会社」から取得した。その名は、ブルーキャピタルマネジメント(東京都港区)。ゴルフ場の開発などを手掛ける、不動産会社だ。ブルー社がパネル設置工事までを受託し、完成後、トーエネック社が事業を受け継ぐ仕組みになっている。
全国各地でメガソーラー事業を手掛けるブルー社を巡っては、工事に関わるトラブルが頻発している。例えば、8月中旬の大雨に見舞われた大分県杵築市でのメガソーラー事業では、県当局から林地開発行為中止の指示が出された。同社の特徴を一言で表すと「とにかく住民軽視」だと、地元関係者は口をそろえる。
これを象徴するのが、函南計画について、ブルー社などの事業者側が昨年12月22日に開いた住民への方法書説明会だ。環境アセスの不備などを理由に方法書の変更を求める住民側と、計画を断行したい事業者側とで平行線の協議が続く中、「時間が来たので終わりにしたい」とするブルー社に対し、住民側は質疑不十分を理由に説明会の継続を要求。いったんは「継続する」と話したものの、いつやるのかと食い下がる住民に対し、ブルー社は突然こう言い放った。
「方法書に基づく説明会は行いません。質問がある場合は、弊社のホームページに質問フォームがあるので、そちらで」
その瞬間、会場は怒号に包まれた。「それじゃあ、話し合いにならないだろうが!」「もう一、二度、説明会をするべきだ」―。これに対し、ブルー社は「検討する」として強引に終了。「説明会になってないね」。住民の一人は、最後にこう吐き捨てた。
今回の取材を通してはっきりしたのは、悪徳業者を排除したければ、地方自治体が法的措置を講じるしかない、という現実だ。
函南町「調和条例」の謎 なぜ遡及適用できない?
「(函南計画は)条例施行日前に林地開発の許可申請がなされていることから、条例をさかのぼって適用させることはできないものと考えています」。住民が耳にタコができるほど聞かされているのが、この「条例の遡及適用はできない」との文言だ。実は、町は19年10月に「函南町自然環境等と再生可能エネルギー発電事業との調和に関する条例」を施行している。メガソーラーを規制するための条例で、第7条には「自然災害が発生するおそれがある区域」で事業を行う場合、事業の見直しを求めることができる旨が記されている。
ところが、同計画では施行前の18年10月に林地開発許可申請を静岡県に届け出たため、町側は「既に事業に着手している」と解釈、条例の遡及適用はできないと判断しているのだ。しかし、実際には工事すら始まっていない。
他方、山梨県も同様の太陽光条例を施行しているが、「事業の開始=工事の着手」と条例に明記。つまり、着工していない事業に対して規制をかけることができる制度体系になっている。
町都市計画課は本誌の取材に対し、「(条例)第9条に『町内において事業を実施しようとするときは、事業に係る法令の規定に基づく許認可等の申請又は届出の前までに必要事項を町長に届け出なければならない』とあるので、当該事業は開始しているとの判断」と答えたが、第9条を素直に読めば、事業を行う際に必要な書類や、その申請方法について書かれているだけで、「必要書類の申請=事業の開始」とは記載されていない。行政と事業者の裏約束が疑われても不思議ではない。
「約1万集まった反対署名に町側は驚いて『何かやらなければ』と思ったのでしょう。ただ、事業者とのこれまでの関係が絡んでいるから、計画を潰すわけにはいかない。苦肉の策として、アリバイ的にあの条例を制定したのではないか」(函南町の住民)
ただ、函南町議会の長澤務議長は「今後、事業者から町が管理する河川などを工事のために使わせてほしいと言われれば、反対する可能性もある」と取材に答えている。ともあれ、あいまいな町の態度が、多くの住民を困惑させていることは確かだ。
規制に及び腰の自治体 災害発生の脅威は続く
「まるでブルー社の代理人のようだ」。19年5月、ある町議会議員の同事業に関する説明を聞きながら、参加者の一人はこう感じざるを得なかった。実はこの議員、選挙戦での公約に「ブルー社によるメガソーラー建設反対」を掲げていた。しかし当選後、住民向けの説明会で手のひらを返し、事業者が用意したパワーポイントのスライドを用いて「町の税収が1億円アップ。100億円投資を呼び込むことができます」と賛成の立場を表明したのだ。
同様のことは他地域でも頻発している。市長が太陽光開発に関する答弁に応じない、反対を唱えた市議会議員が村八分にされた―。疲弊する地方自治体にとって、大型投資を伴うメガソーラーが魅力的な事業に映る側面は否定できない。地元の建設業者も潤う。
「自治体関係者が開発事業者の規制に及び腰なのは事実だ。裏では買収行為のような話も聞いたことがある。何より、FIT事業は国という〝お上〟が推進している以上、自治体が独自に待ったを掛けるのは難しいという見方が根強くあることが、本質的な問題かもしれない」。某政令指定都市の市議は実情を打ち明ける。
しかし、そんな及び腰の姿勢が結果的に住民を危険にさらすことになりかねない。8月中旬の記録的大雨では、河川の氾濫や土砂災害が各地で発生した。自治体のハザードマップを確認したところ、危険エリアで太陽光開発が行われている事例が少なからず見受けられた。脅威は今も続いている。