電力販売カルテル被疑事件 自由化の進展と新たなリスク


【識者の視点】松田世理奈阿部・井窪・片山法律事務所パートナー弁護士

大手電力を含む4社への公取委立ち入りは、業界の枠を超えて社会に対して大きな衝撃を与えた。

今後の展開を踏まえ、事業者には激化する競争に対する新たな備えが必要となる。

報道各社は4月13日、「中部電・関電に公取委立ち入り」「大手電力カルテルの疑い」などと大々的に報道した。

公正取引委員会が、電力販売に関するカルテル(不当な取引制限)の疑いで、中部電力、中部電力ミライズ、関西電力、中国電力の計4社に立入検査を行ったというのだ。また、公取委は同日に、中部電力、中部電力ミライズ、東邦ガスの計3社について、別の被疑事実により立ち入ったとも報じられている。

報道によれば、中部電力、中部電力ミライズ、関西電力、中国電力の4社は2018年ごろから、中部、関西、中国の各エリアの「特別高圧と高圧の電力販売」に関し、顧客獲得競争を制限するようなカルテルを結んでいた疑いがある。

また、中部電力、中部電力ミライズ、東邦ガスの3社は、同じく18年ごろから、中部エリアの「商店や家庭向けの低圧電力や都市ガスの料金」について、値下げ競争をせずに価格を維持することを目的としたカルテルを結んでいた疑いがある。

いずれも、独占禁止法で禁じられているカルテルが結ばれていた疑いがあるという点で共通している。

カルテルとは、競争事業者同士が市場の独占を目的として、販売価格や販売地域などに関して、互いに競争を制限するような示し合わせを行っていたことをいう。そのような行為があった場合には、独禁法違反として、事業者に対し行政処分などが下されることになる。

当事者申告で発覚か 結果次第で多額の課徴金

どうしてこのタイミングで今回の事件の調査が行われることになったのか。

公取委は、事件調査の具体的な内容に関して、正式な行政処分を下すまで一切対外的に発表しない。また、事件調査の端緒については、正式な行政処分を下した後でも公表せず、秘密を保持している。そのため、今回の事件について、公取委が立入検査を行った契機や、その判断材料が何であったのかという点については、正確なところは不明である。

他方で、一般論として、カルテルのように通常は当事者同士にしか知られない行為については、リニエンシー、つまり当事者による自主的な公取委への申告により発覚することが多い。今回の事件についても、関係者によるリニエンシーにより発覚したのではないかとみる向きが多い。

なお、事業者が立入検査などの正式調査が始まる前に最も早くリニエンシーを行うと、その事業者は公取委の行政処分を免れることができる。

今後は、公取委による関係者の取調べなど、事件の調査が当面続くことになる。調査期間は、最近の例を平均すると1年半程度になると思われるが、事案の複雑さや事業者の協力度合いによって前後し、1年程度で終わる場合や、2年近くかかる場合もある。

調査の結果、公取委がカルテルの事実を認定すれば、事業者に対し「排除措置命令」と「課徴金納付命令」という2種類の行政処分が下される。カルテルの場合に課される課徴金は、基本的に違反行為の対象となった取引の売上額の10%となる。しかし、事業者が違反行為を認めて申告し、公取委の調査に協力することで減算されることがある。

仮に報道された疑いが事実であると認められ課徴金納付命令が下されるとすれば、特に販売金額の高い「特別高圧および高圧の電力販売」が対象となっている事件について、その課徴金が多額に上ることが予想される。

KDDIと5G共同検証を開始 業務効率化とレジリエンス強化へ


【中部電力】

2020年3月に運用が開始され、利用エリアが拡大する第5世代移動通信システム(5G)。昨今は対応モバイル端末やIoT機器が続々と登場し注目を集める。

本格的5G社会の到来に先駆け、中部電力はKDDIと共同で、5Gを活用した遠隔監視などの共同検証を20年10月1日から21年1月21日まで行った。

常に安定した供給が求められる電力業界において、「現場業務のさらなる安全確保や効率化」「災害発生時の迅速な設備復旧」などは常々課題となっている。中部電力パワーグリッドでは改善施策の一つとして、変電所の現場業務について、ロボットによる遠隔監視・診断などの開発に取り組んできた。その中で、従来の無線による遠隔操作ではリアルタイムでの操作が難しいという課題が挙がっており、大量かつ低遅延な情報伝送が求められていた。

「高速・大容量」「低遅延」「多接続」といった特性を持つ5Gにかかる期待は大きく、業界に先駆けて今回の検証が行われた。

巡視ロボットを遠隔操作 データの送受信を確認

今回の検証では、中部電力パワーグリッド大高変電所と中部電力技術開発本部先端技術応用研究所の2拠点に5G環境が構築された。変電所の実環境における通信性能の検証を行うとともに、①遠隔からの巡視ロボット運転操作、②高精細カメラやスマートグラス(SG)による遠隔監視と作業支援、③マルチアクセスエッジコンピューティング(MEC)活用によるAI分析―など、実運用を見据えた検証が実施された。

5Gを活用した検証のイメージ

①では、中部電力と三菱電機で共同開発中の巡視ロボットが投入され、5Gを活用した遠隔運転操作とその検証が行われた。ロボットアームを操作することにより視点の移動が可能であり、リアルタイム性が上がることで、より人に近い巡視が可能となる。

②では、現場作業者が装着したSGの視界を、遠隔にいる作業指示者と高精細映像で共有するとともに、作業指示をSGの画面上へ同時並行して表示させた。これにより、リアルタイム性が要求される遠隔からの作業支援の有用性が検証された。

③では、通信端末に近い場所にサーバーを配置することで通信の遅延時間を短縮させる技術であるMECを活用した、ストリーム映像のAI分析が行われた。

今回の検証を通して、5G環境により高精細映像や画像などのデータが安定的に送受信できることが確認された。検証場所では、検証終了後の2月以降も追加的なデータ取得などを継続している。今後も両社は5Gを活用し、現場業務の効率化とレジリエンス強化に向けた取り組みを推進していく構えだ。

美浜3号機が40年超運転 脱炭素化に延長が不可欠


関西電力の美浜発電所3号機(82・6万kW)が、日本初の運転開始から40年を超えた60年間の稼働を行う。「老朽原発」であり危険性が高いとして、異論を唱える声もある。しかし、日本原子力産業協会によると、世界では95基の原発が40年超運転を行っている(2021年1月時点)。

最長は運転開始から51年6カ月がたつインドのタラプール1・2号機(各16万kW)。米GE社製のBWR(沸騰水型軽水炉)で、現地専門家はあと15~16年運転が可能と話している。

先進国では、米国のナインマイルポイント原発1号機(62・8万kW、BWR)が51年5カ月運転を続ける。米原子力規制委員会(NRC)は安全が確認された原発の運転延長に前向きで、19年にフロリダ州のPWR(加圧水型軽水炉)、ターキーポイント原発3、4号機(各76万kW)の80年運転を認可している。

50年カーボンニュートラルを宣言した日本。新増設・リプレースが難航する中、運転を最長60年とした現在の規制の見直しを求める声は多い。しかし、肝心の政界内で見直しの気運は高まっていない。脱炭素社会に原発は不可欠。政治家の勇断に期待したい。

福一処理水海洋放出がついに決定 「断固反対」の旗降ろせぬ漁業者


【業界紙の目】八田 大輔/水産経済新聞社 報道部部長代理

福島第一原発の処理水海洋放出という政府の方針決定に、地元関係者の間では「残念」のため息が漏れた。

漁業者の取り組みが無駄にならないよう、福島の漁業の未来に対する政府や東京電力の対応が問われている。

今回の決定は、福島県の沿岸漁業が操業自粛しながら試験操業するという不自然な状況を、東日本大震災後10年経ってやっと抜け出したタイミングでのものだった。

漁業者の反応はさまざまだったが、改めて「断固反対」を掲げた同県の漁業団体幹部らの間では、憤りよりも「残念」というため息が勝った。そこにはさまざまな意味を含んでいる。沿岸漁業の震災前水準への復帰が遠のいたことへの「残念」。覆しようのない政府の決定に対する「残念」。次の世代を担う後継者らに負の遺産を引き継がせることへの「残念」―。

政府は丁寧に説明を尽くし、海洋放出の開始までに漁業者の納得を得るとしているが、それは不可能に近いだろう。なぜなら海洋放出「断固反対」の旗はもう降ろせないからだ。

沿岸漁業はその土地ありき 分断内包し進んだ試験操業

沿岸漁業の多くは、ビジネスよりも家業の性格が強い。生まれた土地で前浜に漁に出て日銭を稼ぐ。地域の食文化や観光産業と根強く結び付き、地元を離れては仕事ができない。

福島の沿岸漁業は震災からまもなく、そのまま土着して漁業を続ける道を探るか、諦めて廃業するかの2択を迫られ、ほぼすべての沿岸漁業者が継続を選択した。

ただ、その理由は一様ではなかった。後継者がいるかそもそも若手の漁業者は、漁業を生業として今後も生きていく強い意志を貫いた。しかし、後継者のいない高齢の漁業者は、廃業までの賠償金を得られれば御の字だという本音が見え隠れする者も少なからずいた。

そんな分断を内包しつつも福島県の沿岸漁業はこの10年、手探りで実績を積んできた。

県による「緊急時環境放射線モニタリング検査(モニタリング)」での膨大な知見の積み重ねで、震災直後に海洋に漏えいした放射性物質の希釈・拡散が不十分な段階でも、タコ類や貝類などには放射性物質が残りにくいことが分かってきた。

そこで科学的に安全が確認されたミズダコ、ヤナギダコ、シライトマキバイ(ツブ貝の一種)の3魚種から、震災直後に海洋漏えいした放射性物質の影響が少なかった県北の相馬沖150m以深の沖合限定で試験的に漁獲し流通させ、市場の反応を確かめることにした。時は2012年6月。いわゆる試験操業の始まりだった。

試験操業の枠組みは非常に特殊だ。モニタリングで科学的な安全が確かめられた魚種から、3つの会議体による討議で第3者の意見も聞いて承認するという手続きを踏んでから、初めて実行に移した。石橋を叩いても渡らないのではと思えるほど、慎重に事を運んだ。

水揚げ日ごとに1魚種あたり1検体を自主的に調べ、放射性セシウムが国の基準値の半分に相当する50ベクレルを超えたら出荷を差し止め、漁獲を当面見合わせるという厳格な基準を設定。基準値超えの水産物が間違っても出回らないようにした。「ただの一度も基準値超えの魚をマーケットに出したことがない」という実績がいつしか小さな誇りにもなっていた。

セリ販売も見合わせ、買受人が新たに組織した組合が一括で引き受けて消費地に出荷し、売れた値段でそれぞれの手取りを逆算する形をとった。買受人からは早期の水揚げ増を求める声が強かったが、産地の受け入れ機能弱体化に目をつぶっても安全最優先を貫いた。

海洋への地下水流入による操業の一時中断、廃炉に必須とされた建屋への流入地下水の低減を目指す地下水バイパスやサブドレン水の海洋放出容認問題も苦心しつつ乗り越えた。

時間の経過による放射性物質の能力減衰、さらなる希釈・拡散、海産魚の世代交代が進む中で科学的な安全を慎重に確認しながら、対象魚種の追加、対象海域の拡大、セリ販売再開などを着実に実施していった。17年8月に漁場を原発から10㎞圏を除く全海域に広げた時までには、商業ベースに乗る魚種はすべて試験操業の対象魚種となっていた。

海産魚の出荷制限魚種がいったんゼロとなり1年以上が過ぎた21年3月末(注:5月現在はクロソイ1魚種が対象)に試験操業と決別。本来の漁業権に基づいて操業する体制に移行した。放射性物質の自主検査の継続や、出漁回数などの制限、隣県海域への入り会い(漁場の相互利用)見合わせなど、震災前と同じというには隔たりが大きいが、確実に前進してきた。正常化を急げば賠償がなくなると危惧する一部漁業者と折り合いを付けつつ、ようやくたどり着いた。政府の処理水海洋放出の基本方針決定はそこに冷や水を浴びせた。

地に足ついた脱炭素に向けて エネルギー企業に集まる期待


【論説室の窓】吉田博紀/朝日新聞論説委員

脱炭素社会実現には、エネルギー起源の二酸化炭素(CO2)を減らすことが欠かせない。

そのカギを握る「エネルギー企業」が、強みを生かした具体的な動きに力を入れ始めている。

100年以上、化石燃料で商売してきた会社が「脱炭素」を宣言したきっかけは、若手社員の危機感だった。

東京ガスはおととし発表した中期経営計画で、供給先も含めて排出されるCO2を2050年に実質ゼロにする方針を表明した。

30代中心の30人が議論に参加した。30年後の50年は、自らがまだ会社にいるであろう時期。まさに自分事の世代から「CO2の実質ゼロに挑戦すべきではないか」と声が上がった。

「本当にそこまで言うのか」「超低炭素を目指す、でいいんじゃないか」

新たな世界に挑戦すべき 若手社員が社長に直訴

議論は沸騰したというが「LNG導入を世界で初めて実現した会社として、今度も新たな世界に挑戦したい。いま想定できるシナリオを積み上げるだけでなく、年限を切って技術を総動員すべきだ」と内田高史社長に訴え、採用された。

再生可能エネルギーの最大限導入などと並んで、同社が力を入れようとしているのが、燃やしてもCO2が出ない水素だ。

09年に発売した家庭用燃料電池エネファームは、今年1月までに14万台を販売。その実績を生かして技術を伸ばせば、水電解装置の低コスト化が期待できるとして、20年代半ばの実証実験スタートを想定する。さらに、できた水素から都市ガスの主成分であるメタンを合成(メタネーション)すれば、ガス導管など今ある設備を活用でき、社会コストの増大を防ぐことも可能になると考えている。

さらに、天然ガスの採掘時や燃焼時で発生する温室効果ガスを、植林などのクレジットで相殺する「カーボンニュートラルLNG」の導入や、海外での削減分をカウントするなどして実質ゼロを達成する計画だ。

今年1月には大阪ガスも50年の脱炭素を宣言した。従来方式より高い約90%の変換効率で、水をCO2と一緒に電気分解してメタンを生成できる独自のSOECメタネーション技術に注目。社外の研究機関などと連携して30年ごろに確立するとうたう。25年の大阪・関西万博では、生ゴミから出るバイオガスを使ったメタネーションの実証実験にも取り組むことにしている。

ENEOSホールディングスは19年春、自社が直接排出するCO2を40年に実質ゼロにする目標を打ち出した。CO2を回収して油田の地下に注入し、その圧力で原油の増産を図る技術の拡大を掲げる。CO2と水素を反応させてつくる合成燃料では、触媒の高性能化を急ぐという。

技術面の取り組みだけでなく、経営陣へ意識向上を促そうと、役員報酬制度にしかけを施したのもENEOSの特徴といえる。昨年6月、業績に連動させた株式報酬制度の指標に、CO2排出の削減量を導入した。

環境や社会問題、企業統治の取り組み状況を判断材料に、投資先を重視・選別するESG投資が、国内外で活発になったことも背景にある。環境省によると、日本国内のESG投資残高は18年、約220兆円と16年の4・2倍に増え、総運用資産の18%強を占めるまでになっている。

大手発電事業者にも、脱炭素への動きが相次ぐ。その先駆けが昨年10月、国内外で50年の実質ゼロに挑戦すると発表したJERA。前月に就任したばかりの菅義偉首相が、カーボンニュートラル宣言をする直前のことだった。

同社は東京、中部両電力から引き継いだ火力発電を主力に、国内発電量の約3割を占める。政府が昨年、非効率石炭火力を30年までにフェードアウトさせる方針を打ち出し、逆風にさらされた。

一方で、再エネの主力電源化を進めるほど、調整電源として火力は不可欠な存在になる。そこで、アンモニアや水素を石炭に混ぜた火力発電を実用化することにした。

アンモニアについては、技術的なめどが付いている20%程度の混焼を、30年代前半までに商用化。40年代には専焼の火力発電所も予定している。水素混焼も30年代の本格運用開始を掲げる。

発表会見で奥田久栄・取締役経営企画本部長は、発電事業者として国内だけでなく台湾など海外に進出していることもあり、実質ゼロへの挑戦は「必要条件であり、入場券のようなもの」と話した。

電源開発は、50年カーボンニュートラル宣言の中に盛り込んだ水素社会実現の第一歩として、1981年に運転開始した松島火力発電所2号機(長崎県西海市、50万kW)にガス化設備をつけ加えて生まれ変わらせる計画を立て、環境影響評価(アセスメント)の準備に入った。

同じく50年のCO2実質ゼロを目指す沖縄電力。エリアに多い離島で、外部からの融通なしでも再エネの拡大につなげるための具体策などを挙げた。ほかにも関西、中国、中部、東北、九州各電力や出光興産が50年脱炭素の方針を明らかにしている。

東ガスはエネファームの実績を踏まえ水素に注力する

「気候危機」とまで表現されるようになった温暖化対策問題が喫緊の課題なのは間違いなく、「乗り遅れるな」とばかりに地方自治体、大企業などでもカーボンニュートラル宣言が相次ぐ。ただ中には、ともすれば意思が先行して、その裏打ちがあいまいなものが散見されるのも否めない。

裏打ちあいまいな宣言に 魂入れる選択肢の提示を

エネルギー各社には、長らくエネルギーを安定的に供給してきたこれまでの経験を生かし、地に足ついた策を積み上げ、需要側がそれぞれの事情に合った脱炭素を進められるような選択肢を提示し、魂の入った計画づくりを助けることが求められる。

脱炭素社会は一足飛びに実現できない。時間をかけて炭素依存を和らげていく過程で積極的に貢献していくことも、エネルギー企業に期待される役割だろう。

国内の温室効果ガス排出の8割はエネルギー起源のCO2が占めている。脱炭素社会の成否を左右するであろう、エネルギー企業のこれからの動向から目が離せない。

特定計量制度の基準固まる 多様な電力取引が可能に


電気計量制度の合理化を図る「特定計量制度」が2022年4月にスタートする。これまで取引に用いるデータは、計量法の検定を受けたメーターで計測する必要があったが、新制度では、計量対象となる機器が特定されるなど一定の基準を満たせば、検定を受けていないメーターでも取引への活用が認められることになり、電力取引の可能性が広がる。

経済産業省の有識者会議「特定計量制度及び差分計量に係る検討委員会」は4月、特定計量の定義や要件、届出者が従うべき基準などといったガイドラインを取りまとめた。特筆すべきは、取引当事者間の合意によって計量器の精度を7段階から選択できるなど、需要家目線でより柔軟なサービス開発を可能にしたことだ。

屋根置き太陽光発電設備など分散型リソースの普及拡大が見込まれる中、事業者は電力の双方向取引などによる新たな商品・サービスの創出でしのぎを削ることになりそう。資源エネルギー庁の担当者は、「非化石価値取引の活性化にもつながる」と語り、政府が掲げる脱炭素社会実現の後押しになると期待を寄せる。

安定供給のためにできる備えを 橘湾発電所で津波防護設備が完成


【四国電力】

紀伊水道を臨む小勝島に立地する橘湾発電所は営業運転を開始して21年目を迎えた。今年2月、巨大な地震・津波を想定した防潮堤が完成した。

橘湾発電所は四国の南東部、徳島県阿南市の小勝島に立つ。太平洋に面した四国最東端の蒲生田岬から大きく回り込んだ、紀伊水道の湾内に位置する。

小勝島の西側を埋め立てて建設され、2000年6月に営業運転を開始した。四電が23万㎡、電源開発が36万㎡を保有し、共有部分が約5万㎡ある、共同立地の発電所だ。

四国電力 橘湾発電所

四電側の出力は70万kWで、同社の発受電電力量の約15%を占める。ベースロードとしての役割に加え、近年では再生可能エネルギー増加などに伴う需給調整の役割も担う主力電源だ。今年2月、約3年の歳月をかけた津波防護設備の設置工事が完了した。

四国地方は、南海トラフ巨大地震や、東南海・南海地震が予想されるエリアだ。このため四電は、04年に「東南海・南海地震対策検討委員会」を設置し、10年度まで、従来の想定に基づいた地震と津波対策に、全社を挙げて取り組んできていた。

本店では非常用電源を確保したほか、四電エリア内の送電線支持碍子などに免震対策を施し、復旧資機材や衛星通信設備を増備。停電にも備え、徳島県南部地区の早期復旧のため、送電線の張り替え工事を行った。

東日本大震災で想定見直し 防潮堤の追加工事を実施

ところが、11年に東日本大震災が起こり、政府は「あらゆる可能性を考慮した巨大地震・津波について検討が必要」とし、最新の科学的知見に基づいて検討が行われた。中央防災会議では従来の想定を大きく上回る被害想定を発表。東日本大震災の被害状況からも、津波は浸水だけでなく、波にのまれた建物や車などの漂流物による被害が出ることが分かり、四電は発電所全体を囲う防潮堤が必要だと判断する。

小勝島を埋め立てて建設した橘湾発電所は、高潮対策として海面から4.5mの高さにかさ上げして建設している。だがあらゆる可能性に備えるため、隣接する電源開発と情報連携しながら、地震・津波対策の追加工事を実施することにした。

橘湾に回り込む津波のシミュレーションを行うなど、専門家を交えて計画を立て、18年に工事を開始。場所に応じて高さ2.5~3.5m、全長約1500mの防潮堤で囲い込む工事になった。

建設は土地の状況などに応じて、①鋼矢板、②親杭横矢板、③重力式擁壁、④盛土固化、⑤逆T式擁壁―の5方式を採用。

主に幅0.9m、長さ9mの矢板を地面下に約6m打ち込む、①の鋼矢板方式で進めた。配管などの埋設物がある場所では、約2~7m間隔で打ち込んだ親杭で水平方向に設置した矢板を支え、埋設物を跨ぐ、②の親杭横矢板方式を取った。

設置スペースが広く、地盤の支持力が十分にある場所では、③の重力式コンクリート擁壁で建設。約2~3mの厚みをつくり、躯体の重量で外力に抵抗する擁壁とした。

親杭横矢板方式

重力式コンクリート擁壁

そのほか、防潮堤設置以前からある盛土を有効活用する、④の盛土固化方式や、主要道路や既設機器に隣接し設置スペースが取れない場所では、⑤の逆T式擁壁方式で建設を進めた。

こうして、矢板や鉄筋など約1000tの鋼材と、約4000㎥のコンクリートを使い、約3年をかけた津波防護設備設置工事が完了した。

鋼矢板方式の防潮堤前に立つ高橋所長

常に想定外への備えを 訓練で災害適応力を高める

阿南火力事業所長を兼務する橘湾発電所の高橋尚司所長は、自然災害は想定外のことが起こり得るとし、「ハード面の対策が完成しても安全には謙虚に向き合っていきたい。新たな知見を取り入れながら、これからもできる備えをしていきます」と気を引き締める。

地震が発生した際、設備を安全に止め、点検して復旧するまでをいかに正確に迅速に行うか―。

高橋所長は従業員だけでなく、関係グループ会社や協力会社に対しても災害対応の適応力を高めたいと言い、被災時の復旧体制の整備や、定期的な防災訓練、避難訓練などを行って、避難場所や避難経路を再確認することにも力を注いでいる。 四国電力は日々の安定供給に努めながら、いつ起こるかもしれない自然災害についてもできる備えに取り組みつつ、これからも持続可能な地域社会に貢献していく

LPガスもグリーン化へ 研究進む「有望技術」


LPガスのグリーン化実現に向けて検討を行う「グリーンLPガスの生産技術開発に向けた研究会」は4月23日、研究会の最終報告を発表した。

LPガスは時代の変化についていけるか

会合はLPガス元売り会社で構成する日本LPガス協会が主催し、メンバーとして学識者のほか小売り団体の全国LPガス協会や、資源エネルギー庁石油流通課も参加している。会合についてLPガス関係者は「政府の2050年カーボンニュートラル宣言を受けて、小売店からも『LPガス業界はどうなるのか』との声も上がっている。元売り・小売りに加え、行政も交えて業界の将来像について議論した意義は大きい」と語る。

報告書では有望な技術として、①LPガスと性質の近いジメチルエーテル(DME)をグリーン化し、これをLPガスに混和することでCO2排出量を削減、②水素とCO2からLPガスを製造するSOEC共電解によるCO2フリー化―の2点を挙げている。両技術ともに既に基礎研究が進んでいるメリットもあるという。

今後は両技術を軸に据え、社会実装につながる技術開発を行う構え。ほかのエネルギーにない特徴を持つLPガスを次世代へと残していくためには、着実に研究開発が行える環境づくりが重要だ。

【覆面座談会】NDC「46%減」を一刀両断 国益なき目標決定の全舞台裏


テーマ:30年温暖化ガス削減目標の見直し

2030年の温暖化ガス削減目標(NDC)の大幅引き上げが発表されたが、電源構成に基づき削減量を積み上げる従来の手法は取らず、政治主導で決めたことに対する批判の声も噴出する。事情通がその舞台裏を明かした

〈出席者〉  A製造業関係者 Bエネルギー業界関係者 Cジャーナリスト

―4月22日に菅義偉首相が新NDCを発表し、30年26%減から一挙に46%減まで引き上げた。直前までは「45%」と漏れ伝わってきたが、ふたを開けてみるとそれに1%プラスした中途半端な数字だった。

A 経済産業省の中でも官邸に出入りしていたのは局長以上だ。課長以下は最後まで何も聞かされていなかったようで、46%と聞いて絶句していた。その前にメディアから45%という話が出たが、この数字を聞いた時、役所の手を経ていないトップダウンの数字だと理解した。全く積み上げをしていない印象だ。

B その通りで、かん口令が敷かれていた。政府内では「積み上げてぎりぎり45%」という主張と、「欧米と肩を並べるには50%」と訴える小泉進次郎環境相の間でせめぎ合いが続いた。節目は4月14日の加藤勝信官房長官、梶山弘志経産相、小泉環境相の3大臣会合だ。ここで45%を軸にする方向が決まった。会合後、メディアの前を通った小泉大臣の表情はしかめ面だったと聞く。

―土壇場で46%になったのはなぜか?

B 報道で事前に45%が出たことと、現在の排出量から50年ネットゼロまで直線を引くと30年は46%になるからという見方もある。整理すると、菅首相の発表までに三つの段階があった。①45%に収れんした後、②46%になり、③併せて「さらに50%の高みに挑戦」という文言も入った。全体を通して官邸で決まったことで、経産省は46%でも面白くないのに、小泉大臣は「さらに50%の高みに挑戦」という部分をメディアに対して強調していた。

C ここまで引き上げざるを得なくなったのは米国の影響が大きく、ケリー大統領特使と小泉氏は頻繁にやり取りしていた。そして初めに共同通信が「45%軸に」と報じたのを見た菅首相が、「勝手に決めるな」と総理案件にした。最後に1%上乗せしたのは、首相の力を誇示するためにほかならない。

 さらに新たな問題も出ていて、ホワイトハウスのウェブサイトでは日本の新NDCを「46~50%」と紹介している。外務省が訂正を要請しているが、どうなることやら。

過度なグリーン政策は日本経済を支える製造業に深刻な影響を与えかねない

再び小泉氏のスタンドプレー 経産・環境省の関係にひび

―小泉氏の「おぼろげ発言」も話題だ。

A ある番組のやり取りで、キャスターが「積み上げではないでしょう?」と迫ったのに対し、小泉氏は「0・1%ずつ積み上げ、その先におぼろげながら見えてきた数字」なんて答えていた。明らかに矛盾しているが、弁が立つからこの時もうまくけむに巻いた。

C 発表直前の地球温暖化対策推進本部の後、麻生太郎財務相が梶山氏に「46%は積み上げか?」と聞いて、梶山氏は「40%が積み上げだ」と回答。じゃあ6%はどうするのかという話になったら、茂木敏充外相が「後は環境省がやればよい」と言ったそうだ。麻生大臣は直後の会見でもこの話題について、米国が1970年に制定した排ガス規制のマスキー法で、日本だけが大金をかけ達成した例を挙げ「若い人は歴史を勉強した方がよい」と述べた。小泉氏に対して苦言を呈したわけだ。

A 菅首相は自身のポイントになると思ったのだろうが、鉄鋼や造船重機などの基幹労連(日本基幹産業労働組合連合会)は怒りまくっていて、自民党支持派が支持をやめると言い出している。基幹労連が出身母体の連合の神津里季生会長もこの政策を評価していない。メディアがポジティブに報じるから、首相も受けると誤解しているのだろう。このままいけば重厚長大が大けがを負うことになる。でも、日本経済団体連合会含め異議を唱えることを自粛してしまっている。

C 小泉氏のスタンドプレーは初めてではない。これまでも石炭火力輸出方針厳格化や、所管外の容量市場に口を出してきた。梶山氏は鳥肌が立つほど小泉嫌いになっていて、電話も取らないそう。4月14日の三大臣会合でも小泉氏を一喝した。でもそこから小泉氏が逆襲し、菅首相に「日米首脳会談で何を言われるか分からない」と吹き込んだ。ケリー氏の影響力に加え、水野弘道・国連特使や環境NGOの援護射撃もあった。小泉氏は「気候変動担当相」就任で、外交担当でもないのに気候変動なら交渉は自分の仕事と思い込んでいる。梶山氏以外にも怒っている人は多い。

A 温暖化防止国際会議・COP25の時も、小泉氏のスピーチ直前まで役人の前で水野氏が原稿を直していたというが、この時から水野氏の手の上で踊らされ続けている。環境省の役人もできもしない46%に決着したことに戸惑っているようだ。小泉氏は夏の税制改正要望までにカーボンプライシング(CP)で次のひと花を咲かせようと考えているが、新NDCに続いてCPでもコロナ禍で短兵急に進めれば産業界の猛反対に合い、炭素税などの導入は未来永劫不可能になる。環境省事務方は両者の板挟みでかわいそうだ。

B 小泉氏が「50%の高みに挑戦」に重きを置いた発言を繰り返していることに、経産省幹部も怒っている。怒りの矛先は、小泉氏を止めない環境省幹部に向かっているようだ。NDCの調整と同時並行だった官邸の気候変動対策推進室設置の動きも、経産省抜きに進めていた節がある。ここ数年、両省の事務方は協調関係にあったが、その関係が危うくなっており、環境省事務方の苦労が増えている。少し前までは炭素税導入について一歩前進するような文言が税制改正要望に入るかとも思っていたが、どうなるか分からなくなった。

エネルギー貧困のリスク議論せず 電力業界は原子力政策前進を歓迎

A 大事なことは、いまの潮流を主導する米国も、6月の主要7カ国首脳会議(G7サミット)や11月のCOP26(温暖化防止国際会議)の議長国を務める英国も、30年までには政権交代するということだ。特に米国はそれで気候変動政策は全てチャラになる。しかし日本は政権交代が起きにくく、自爆テロのような政策が継続されるリスクが大きい。

―しかし30年まであと9年しかない。46%減達成は不可能としか思えない。

A 現時点の削減量は14%しかなく、短期間でさらに32%も減らすなんてミッションインポッシブルだ。欧米では高い目標を言うものの細かい計画に落とし込んだりしないが、日本はこれからエネルギー基本計画、エネミックス、そして温対計画を立て、業種ごとの対策に落とし込もうとする。それをしたが最後、日本の経済成長の芽は摘まれる。既存のエネルギー設備を使いながら46%というキャップをはめれば、供給力不足の可能性が高まる。電気はもちろん、例えばガソリンをつくらなくなれば原油の輸入量が減り、それに伴い灯油が高くなり北国の生活に影響を与える。

 エネルギー以外でも、例えば数万人の直接・間接雇用を生む高炉を一つ止めるだけで地域の人口の数割が失業するが、これを全国に広げようという話だ。「日本はかつて炭鉱廃止ができた」と言う人がいるが、それはエネルギーをより便利な石油などに切り替えるものであり、高度経済成長の中で雇用の再配置もできた。しかし、いまのグリーン政策はエネルギー貧困をもたらすリスクが高い。

B 気候変動政策強化で電気料金が上がるかという問いに対し、梶山氏は「それは仕方ない」と答えるが、小泉氏は「再エネとのトレードオフで化石燃料輸入額を減らせる」と、ピントがずれた答弁をしている。

【マーケット情報/6月4日】原油続伸、需要一段と強まる見込み


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週までの原油価格は、主要指標が軒並み続伸。需要が一段と強まるとの見通しが価格を支えた。

米国の5月28日までの一週間における製油所の原油処理量は、2020年3月下旬以来の最高となった。また、同国では、夏季のガソリン需要期に突入。新型ウイルス感染拡大防止を目的とした移動規制の緩和が進むなか、燃料消費が増加するとの予測が広がった。加えて、米国の5月失業率は、2020年3月以来の最低を記録。同国の経済が回復しつつあるとの見方がさらに強まり、石油需要増加への期待感が高まった。

また、インド国営石油会社Hindustan Petroleumの代表は、新型ウイルス感染拡大の減速とワクチンの普及で、7月にインドの石油需要が回復すると予想。また、ニュージーランド航空の4月利用者数は、オーストラリア間の移動規制緩和により、過去4カ月で最高を記録した。

一方、OPEC+は予定通り、6~7月にかけて段階的に増産する方針。また、マレーシアは感染者数増加を受け、全土でロックダウンを開始。需給緩和観が台頭し、価格の上昇を幾分か抑制した。

【6月4日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=69.62ドル(前週比3.30ドル高)、ブレント先物(ICE)=71.89ドル(前週比2.26ドル高)、オマーン先物(DME)=70.38ドル(前週比2.66ドル高)、ドバイ現物(Argus)=69.86ドル(前週比1.94ドル高)

【コラム/6月7日】国有東京電力の10年を考える~会長人事の前に政府・経産省・財務省は、働く人に恕と展望を


飯倉 穣/エコノミスト

1,東京電力が国有化されて10年弱となる。震災後東電で働く人は、法人としての責任を抱え、様々な無理難題を克服し、賠償、廃炉、安定供給に努めてきた。第三次計画認定後4年を経た。今後の方向を考える時期に、業務、経営、需給で気になる報道が交錯した。

「東電の行政処分確定へ 規制委、テロ対策不備で」(日経2021年4月8日)、「胆力の人・小林喜光氏、会長就任へ 東電改革「最終形」託される 安全文化の再構築急務」(同5月18日)、「休止火力の稼働要請へ 電力不足 経産省が対策」(朝日5月26日)

 各記事は、業務面での規律低下、国有企業の経営体制の在り方、電力改革に伴う電力需給不安と国家管理の歪みを問いかける。改めて国有東京電力の今後の方向と経営の在り方を考える。

2,20年度東電決算が公表された(4月28日)。売上高5兆8,668億円(前年度比6%減)、営業利益1,434億円(同32%減)、経常損益1,898億円(同28%減)であった。競争とコロナ影響の販売電力量の減少を主因とする。収支推移を見れば、特別事業計画に沿った所謂「経営改革」の下で、合理化の限界、販売競争力低下、原子力稼働の遅れに加え展開力が気懸りである。

そして公表ベースでも企業経営上様々なリスクを抱えている。廃炉、政策・規制変更、競争等15項目に及ぶ。これに政府の監督・経営者・株主リスクも追加すべきかもしれない。電力自由化の下で、旧9電力は、活動制限的な行政指導を受け、競争条件の劣勢が顕著である。営業収益増は難儀であろう。今日の東電の実力は、賠償・廃炉負担抜きで売上6兆円弱、営業利益2000億円、経常利益2000億円程度である。

これまで役所主導で、分社化(ホールデイング・カンパニー制)や合弁等を実施した。また意識改革と称するガバナンス改革(委員会設置会社)や取締役会長の監督機能を強化した。これらの経営改革の効果は明瞭でない。雰囲気的に自虐性が垣間見えても、経営層の自覚、働く人の健全さ・意欲は判然としない。

3,何故こうなるのか。まず国有化の経緯とその後の政府・担当官庁の思惑が頭をよぎる。東日本大震災津波に起因した福島第一原発事故があった。震災は、原賠法3条但し書きの「異常に巨大な天災地変」であった。東電も、被災者であった。当時政府は、法の不備を包み隠し東電に事故生起者として責任を押し付けた。左派的頑固さがなく、理性的寛容さ、福島への思いが受忍した。東電は賠償、廃炉、安定供給の責任を負った。

政府は、原賠機構法を制定し、賠償に必要な資金を機構に国債交付し、機構が東電に資金交付するスキームを用意した。また東電の債務超過回避名目の出資で、国有企業(12年7月)とし、経営権を機構(政府・経産省)に奪取した。資金交付申請時の主務大臣認定の特別事業計画作成を義務付け、合理化による収益向上で東電の経営(安定供給)を図り、将来の企業価値アップによる株式売却で投資回収する姿を描いた。その責任者が、外部登用会長の役割である。そこに働く人・関係者の置かれた複雑な思いがある。

4,国有東電の在り方は、担当官庁の意向を組み込んだ特別事業計画が基本である。経産省・機構が大枠を考え、その意向に従い実務者東電が作成する。これまで主要4計画がある(11年11月、12年、14年、17年作成)。当初計画は緊急対応で資金不足対策・合理化要求・財務調査を行い、次の総合計画で経営責任追及・経営体制変更(国有化)・合理化・資産売却を求めた。政権交代後の新総合計画は、国有化後の東電に電力改革に沿った分社を指示し、廃炉・除染等で役割分担を明確にした。新々総合計画は、政府関与継続を確認し責任貫徹・収益向上を求める。各段階の会長の役割は、担当官庁の指示に従った役員・社員の監督である。

5,国有企業は、民間とどこが違うか。行政(含む政府機関)は、法律目的(法定主義)達成である。法がなければ、行為はない。又税収確保はあっても、利益創出という概念はない。民間企業の目的は、利益追求で法に反しなければ環境変化に合わせ且つ自己都合で何でも遂行可能である。

国有企業や政府機関を見ると興味深い。行政目的に沿った業務を淡々と消化する姿がある。公的使命感、ルーテイン的、規則に照らした活動が望まれる。社会的に必要な事務処理に生甲斐を見出す。問題提起は少なく改善提案も僅かである。行政の延長故、創造性は乏しく、新規業務は賦与される姿となる。業務遂行の判断は、担当官庁の指導・監督・さじ加減となる。

それらの機関の長の仕事は、目的に適った業務の適切な執行管理である。民間企業のような経営でない。働く人は、法、規則に従って行動し、裁量権は著しく少ない。逸脱は、法令違反となる。故に国有企業に多くを期待することは、お門違いかもしれない。

東電は、原賠機構法が求める賠償・廃炉業務実施のコストに見合う収入を確保する機関となった。会長の仕事は、官庁意向の尊重、判断不要で、働く人への叱咤激励であろう。

6、国有東電は、最後の一人の補償と廃炉達成まで継続する。そして安定供給と収益の確保が求められる。環境変化で資金不足になれば、努力も求められるが、政府・担当官庁・原賠機構の法的責任の枠組みで対応となる。ある意味で働く人は、寡黙の人となる

この姿が日本経済にとり良策であろうか。国有といえども、出自を踏まえた姿に戻り、公的使命感を持ちエネルギー事業を通じて国民経済に貢献することも可能である。それは時間関数的なステークホルダーの意志次第である。今のところ役所支配の対応に精一杯で働く人の意志を見てとれない。革新的経営者が就任し、東電内に事業革新者が生まれる環境を作り、民の本性に帰り政府・経産省を巻き込んでエネルギー政策をリードすることを期待したい。賠償・廃炉業務の継続と並行して、国有体制の下でも、働く人の創意工夫で効率的な経営を行い、まず配当可能な枠組みを構築してほしい。次の特別事業計画に必要なことである。

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。

太陽光がエリア需要上回る 域外送電でバランス維持


発電が天候に左右される再生可能エネルギーの普及により、電力需給の制御が困難さを増している。大型連休期間中の5月3日午前11~12時、四国電力のエリアでは再エネの出力(太陽光232万kW、風力2万kW)が需要(229万kW)を上回った。

火力発電は負荷調整を強いられた(橘湾火力)

四電は火力発電などの負荷調整に加え、揚水発電所のポンプアップ(61万kW)、エリア外送電(86万kW)でバランスを維持。再エネの出力制御をせずに安定供給を続けた。ちなみに2日後の5月5日、悪天候で太陽光の出力は38万kWにまで低下している。

それから2週間ほど経った5月19日。四電は午前10時に349万9000kWの需要を予想していたが、天候悪化で太陽光がダウン。電力広域的運営推進機関に融通を依頼し、午前9時30分~12時まで関西電力から50万kWを受電、停電を回避している。

また、北海道電力は連休前に再エネ出力制御の可能性を発表していた。5月4日午後12~13時、再エネ出力は165万kWとなったが、需要(293万kW)の半分以下にとどまり実施されなかった。

再エネは今後も拡大を続ける。天候次第で出力が目まぐるしく変わる電源に、翻弄される制度でいいのだろうか。

アプリで安全運転支援サービスを提供 社会サービスのプラットフォーム目指す


【関西電力】

自動車分野のIoT化は目覚ましく、渋滞情報や車両管理など多方面で活用されている。関西電力は安全運転をサポートするサービスを開発し、安心・安全の新たな価値を創出する。

自動車などにカーナビのような通信システムを搭載し、リアルタイムな情報やサービスを提供することをテレマティクスサービスという。交通事故の軽減や安全運転意識の向上、燃費向上などに利用できる。企業では業務効率化や生産性の向上などにつながり、多くのメリットがある一方、月々の利用料に加えて車載機器の購入といった初期費用が壁となり、導入を断念するケースもある。

関電はこの点に着目し、初期費用がかからない低価格のテレマティクスサービスを開発した。

提供する安全運転支援サービス「関電Safety Support Service」(関電SSS)は、スマートフォンやタブレットに専用アプリをダウンロードし、月々の利用料金のみでサービスを受けられる。

個人に合わせて安全講習 独自のルール設定も可能

基本サービスとして、①安全運転サポートと②動態管理サポート、オプションサービスとして③日報作成サポートを用意。基本サービスは、1カ月当たり1アカウント1100円、オプションは同1アカウント550円で提供する。低価格を実現するために、既存のテレマティクスサービスで使用頻度が高い3機能に絞った。

①の安全運転サポートでは、システム管理者とアプリ利用者が運転結果を共有する。急ブレーキや速度超過などの回数を基に、「安全運転スコア」として点数化。実績の推移はグラフで表示される。

管理者側の画面

アプリのスコア画面

ほかに類を見ないサービスでは、運転者の特性に合わせた安全運転講習の動画を個別に提供する。オプションとして導入する予定だ。毎日の業務終了後や1週間に1度、安全運転週間のみなど、配信頻度の設定をし、スマホやタブレットにポップアップで表示する。

動画は追突事故防止や出会い頭の事故防止など、ポイントを一つに絞った2~3分の長さにし、まずは約50種類をラインアップ予定。隙間時間や運転前の視聴で、すぐに実践に生かせるようにする。一般的な安全運転講習に比べ、実績を基に個人にレコメンドするため、より運転改善につながる。

独自にルールを設定できるのも大きな特長だ。複数人が急ブレーキをかけている場所や、構内などで一時停止が必要な場所を表示。管理者が地図上で規制速度エリアを設けて速度制限を付けたり、一時停止を設定して、事故を防ぐ。

規制速度を設定したエリア。安全の注意を促す

②の動態管理サポートでは、管理者がリアルタイムでアプリ利用者の現在位置を把握する。客先への急な訪問が発生した際に、最も近い従業員に指示を出し、顧客サービスの向上を図ることができる。スマホやタブレットで使用するアプリなので、自転車利用や徒歩での業務にも使え、滞在時間の分析も可能だ。

オプションサービス③の日報作成サポートは、運転開始時と終了時に操作するだけで自動で日報を作成。労務時間の削減につながる。データは、エクセルの管理台帳として保存できる。

車両単位で集計すれば稼働状況が分かり、所有台数の見直しにもつながる。任意で入力する給油量や給油料金の項目からは、コスト分析ができる。

車載タイプではないため、バイク利用時にも有効だ。

関電は中期経営計画で、グループの目指す姿として「エネルギー、送配電、情報通信、生活・ビジネスソリューションを、改めて中核事業に据え、その周辺に、その重なり合うところに、新たな価値を創出し続ける」を掲げる。達成に向け、サービスプロバイダーへの転換を柱の一つに据える。

サービスを進化させ 新たな価値を提供

営業本部・新領域事業化推進プロジェクトチームの里美謙一部長は「サービスの開発に聖域なくチャレンジする。新しい視点から顧客の課題やニーズに向き合い、サービスで認知される企業を目指しています」と、新たな価値の提供に向けて意気込みを語る。

関電SSSの発案から市場調査、開発、商品化までを担当した同チームの三浦佑貴さんは、客先を訪問する中でこのサービスを思いついた。「社用車は事業に不可欠な点で電気と同じ。提供してきた安心・安全サービスの進化形です」と、提案した当時を振り返る。

関電Safety Support Serviceを開発した三浦佑貴さん(左)と里美謙一部長

里美部長に背中を押され、半年かけて安全運転や交通事故について綿密に調査。自動車教習所や損害保険会社にもヒアリングした。約1年間の実証試験を行いながら、機能を絞り込み、アプリ画面をシンプルにして、直感的に使えることに最も重点を置いた。

動画作成で提携する損保会社にとっても、ワンポイント講習の動画は初めての取り組み。関電としては異業種も巻き込んだ新規事業となった。

サービスプロバイダーとしても歩み始めた関西電力。快適で安全な暮らしや事業を守りながら、さまざまな社会インフラサービスを提供するプラットフォームの担い手になることを目指している。

石炭供給に大きなリスク 中国が権益を戦略的に利用


石炭価格の行方が不透明感を増している。国際的な脱炭素化・脱石炭の潮流があるが、アジアでは中国、インドをはじめ東南アジア諸国で需要は堅調に推移。一方、BHPグループ、アングロ・アメリカンなどの欧米の大手鉱山会社は、地球温暖化への猛烈な反発や金融機関からの圧力を受け、石炭事業からの撤退を急ぐ。今後、新規投資が減ることで供給力の減少は避けられそうもない。

豪中関係は良好でないが中国企業には既に存在感がある

欧米資本に代わりオーストラリアなど資源国の石炭事業に乗り出そうとしているのが中国、インドの企業だ。中でも中国企業は積極的で、豪中関係が悪化する中、BHPグループがオーストラリアの権益を石炭大手・兗州煤業に30億ドルで売却する話があったという。オーストラリアではインド系企業が事業を展開しているが、中国系もヤンコールが複数の炭鉱を保有するなど存在感を示している。

さらに中国は、石炭権益を戦略的に利用しようとしている。中国は石炭火力プラントの建設でも「日本と同等の技術力を持っている」(業界関係者)という。途上国などに石炭火力を建設し、燃料も供給することで、「一帯一路」構想を実現していく狙いだ。

石炭事業の主導権を握りつつある中国・インド企業。彼らが今後、国際市場に十分な供給を行うかは疑問符が付く。日本は非効率石炭火力をフェードアウトさせる方針だが、今後も高効率プラントは電力供給で重要な役割を果たす。「アフターコロナ」の景気回復基調などで、足元の一般炭価格はt当たり90ドル台後半。業界関係者は「今後、70ドルくらいから少しずつ上がっていくのでは」と予想するが、「将来、供給障害のリスクもある」と指摘する。

脱炭素目指す「一丁目一番地」技術ヒートポンプを最大活用へ


【ヒートポンプ蓄熱の新潮流/第2回

誰もが認める、世界をリードする日本のヒートポンプ技術。

空調や冷凍など、この技術を用いたアイテムは枚挙にいとまがない。

松本真由美氏が、前川製作所の町田明登執行役員に最新事情を聞いた。

松本真由美 東京大学客員准教授

松本 ずいぶんおしゃれな本社建屋ですね。建築物の環境性能が非常に高い社屋だと聞いています。

町田 2008年にここ門前仲町(東京都江東区)にある本社の自社ビルを建て替えました。空調のシステムを工夫していて、当時主流だったビル用マルチエアコンのような個別分散空調方式ではなく、当社のヒートポンプを使用して冷温水を循環するセントラル方式を採用しました。建築施工を請け負っていただいた大手建設会社の技術協力を得ながら、地中熱を利用したヒートポンプの仕組みを取り入れています。

 地中熱は地中に埋め込んでいる基礎杭にチューブを巻き付けて熱を取り出しています。一方、室内側の空調システムは、床下全面からドラフトの少ない風を吹き上げるようなシステムで空調しており、省エネ性と快適性を両立しています。この技術の一部は最新の建築物にも生かされています。

松本 ドイツで普及している、冷暖房機器をあまり使わないパッシブハウスの仕組みに似ています。機械設備類はどこにありますか。

町田 ヒートポンプ設備や氷蓄熱システムは屋上に、受電設備・非常用電源・サーバーなどの電気設備は3階に設置しています。こういった設備は地下フロアに置くケースが一般的ですが、(建屋前には)川が流れていて、万が一の津波対策を考慮して電気類の設備は高いフロアに設置したのです。

松本 氷蓄熱を使っているのですか。珍しいですね。

町田 これも当社開発のシステムで、ダイナミックアイス氷蓄熱システムを使っていることも特徴の一つですね。通常の水蓄熱の冷水よりも水温が低く、その冷熱で室内の除湿などに利用しています。

環境に優しい自然冷媒 アンモニアとCO2

松本 ヒートポンプ設備は冷媒とセットとなる技術です。昨今、この冷媒の規制が厳しくなっています。そこで、GWP(地球温暖化係数)値の低い冷媒が注目されています。ここのヒートポンプ設備の冷媒には環境に優しい自然冷媒を使っているそうですが。

町田 はい。当社では代替フロン冷媒以外に、自然冷媒、つまりアンモニア、二酸化炭素、水、空気、炭化水素―の五つの冷媒を用いた技術開発に取り組んでいます。いずれもGWP値は1程度と、地球温暖化対策としては、極めて環境に優しい冷媒です。それぞれの冷媒が得意とする温度帯は異なりますが、その中でも、ここのビルではCO2冷媒とアンモニア冷媒を使っています。

松本 地球温暖化の観点で目の敵にされているCO2ですが、冷媒としては環境に優しいわけですね。

町田 そうです。CO2冷媒は家庭用給湯機のエコキュートで本格的に利用されました。従来の冷媒に比べて圧力が高く、技術開発が困難でした。そうした課題に対して、電力会社を中心とした日本の技術力によってクリアしてきました。こうして開発されたCO2冷媒を使った業務用エコキュートがここでは導入されています。

松本 もう一つの冷媒であるアンモニアは、国のゼロエミッション宣言で、火力発電用燃料としてにわかに注目され始めています。冷媒分野では既に技術が活用されているわけですか。

町田 はい。アンモニア冷媒は、空調や冷凍分野に至る広範囲の温度帯に対応でき、しかも単位動力当たりに得られる熱量が高いという特徴があります。

松本 効率が良いのですか。

町田 理論COPで言いますとアンモニアに勝るものは今のところ存在していません。ただ、毒性や可燃性があるので取り扱いが少し難しいのです。そのため、高圧ガス保安法の下で、しっかりと安全面を考慮しながら運用しています。

ここ20年あまりで、当社製設備で運転中に起きた重大事故はありませんが、メンテナンス時には設備を開放点検しますので注意が必要です。また設備の経年劣化に伴う配管からの「冷媒漏れ」もケアしないといけないため、その辺の管理も大切ですね。

 東京都内の公的な機関で、当社のアンモニア冷媒式空調設備が導入されているケースがあります。

町田明登 前川製作所技術企画本部執行役員