新たなモビリティの活用を実証へ 丸紅と共同でEVバスを運用


【中部電力】

中部電力が丸紅と共同で設立した合同会社「フリートEVイニシアティブ」(FEVI)は、EVバスの運用を1月15日より開始した。長野県飯田市、信南交通、中部電力が取り組むEVバスの充電を活用したエネルギーマネジメントの実証を行うものだ。

実証は、飯田市の市内循環線など信南交通の商用路線でEVバスを運行させ、乗合バス事業におけるEVバスの最適運用に関する知見を得ることを目的に実施。期間は、2022年3月31日までを予定している。

カラフルなラッピングが施されたEVバス

最適な充電方法を検討 新たな価値の創出

具体的には、中国のBYD(比亜迪)製小型EVバス1台を使用し、運行スケジュールに応じた最適な充電方法を検討することで、次の五つの効果を実証する。

①バスをディーゼルから電動化することに伴う走行距離、燃費(軽油→電気)、CO2排出係数の変化や、バスに充電する電気を再生可能エネルギー由来の電源とすることによるCO2削減、②EVバスを災害時に被災者の休憩場所として活用したり、避難所で携帯電話の充電や扇風機、電気ポットなどの電源として活用するなど、EVバスの新たな価値の創出に資するBCP(事業継続計画)対策など、③再エネの過剰出力分をEVバスへ充電して消費することによる再エネの利用拡大、④充電器を制御し、最大電力(kW)抑制(ピークカット)し、事業場の電力消費の少ない時間帯に充電(ピークシフト)することに伴う電力消費のピークコントロールによる電気料金の抑制、⑤運行状況を考慮した最適な充電制御により充電設備をコストダウンすることで、急速充電器の稼働率の向上によるコスト低減―。

FEVIは、実証の運営・評価や、EVバスの導入支援、急速充電器の設置、充電マネジメントなどを担い、信南交通は、EVバスの運行、運行データの提供などを行う。

また、物流・運輸事業者などの車両電動化を通じて、CO2削減に貢献。同時に、電動車両の蓄電機能を活用したBCP対策や、再エネのさらなる活用についても提案を進めていくことで、持続可能な社会の実現に努めていく。

「脱炭素」でなく「炭素循環」社会へ 化学産業は実現の担い手となるか


【業界紙の目】伊地知英明/化学工業日報編集局記者

宣言が各国で相次ぐが、脱炭素化本質的に問われているのは地球の炭素循環の正常化だ。環境と経済の両立を図る上で化学産業の役割が期待されるが、日本がリードすることはできるのか。

人類が抱える課題を世界が一丸となってどのように解決していくのか―。この問題は、大きくは地球上の「誰一人取り残さない」ことを目的とする国連の「持続可能な開発目標」(SDGs)と、「パリ協定」に集約されるだろう。ようやく米国の国際社会への復帰が期待される中、各国の施策だけでなく民間の経営も含めて、押し戻すことができないムーブメントとなる現実味を帯びる。さらに新型コロナウイルスのパンデミックは、モノづくりを含めたデジタル・トランスフォーメーション(DX)を加速し、「社会全体のデジタル化」というパラダイムシフトを引き起こそうとしている。

ただ、IoT社会の浸透は使用電力を増大させ、化石燃料、太陽光、風力、水力、地熱、排熱や、安全性を担保した原子力といったあらゆるエネルギーの「電気への変換」と、さらなる省エネが大前提となる。このためにもセンサー、集積回路、電力変換素子、蓄電池などのデバイスの高機能化に欠かせない革新的な素材・材料が必須だ。学術としての化学、産業としての化学技術は日本のお家芸とされ、ゲームチェンジャーとしての真価が問われる。

人類が目指す「持続的発展」 CO2の滞留をどう改善するか

地球はこれまで、さまざまな生き物のための「場」を提供してきた。この営みは「資源の循環」が基本であり、「有限な元素の使い回し」で成り立っている。物質を構成する分子は複数の原子の組み合わせであり、原子の種類は元素と呼ばれる。元素を性質ごとに整理したのが周期表だが、記載された元素は118種類ある。

この中で地殻に存在する元素は限られる。全体の5割近くは酸素で、あとは2~8%のケイ素、アルミニウム、鉄、カルシウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウムの8元素でほぼ地表はできている。ちなみに炭素は0・1%以下だ。さらに化学反応に用いる触媒や、半導体といったデバイス、リチウム二次電池(蓄電池)、燃料電池などに用いる金や白金といった貴金属や希土類は、極めて希少な元素で、産地も偏在している。

一方、石油(原油)は化石資源であり、産業革命以降の人類の豊かな暮らしを支えてきた。熱エネルギー源(動力)としての役割だけでなく、プラスチックをはじめとした炭化水素系製品などの原料となっている。この地球の恵を「無駄なく使いこなす」のが石油化学である。つまり、生き物から化石に引き継がれた炭素を活用して、有用な物質となる素材・材料に変換する役目を果たしている。

また、「現代の大気」は窒素が約8割、酸素が約2割と大半を占め、炭素は100ppmオーダー(1%は1万ppm)だ。「人類最大の敵」と名指しされている温室効果ガスのCO2は、数百ppmレベルとなる。このCO2は地球の資源循環の視点からすれば、基本的に植物の光合成(森林への吸収)や海洋への吸収などによって再び地球表面に戻る。地表と大気の間の循環を繰り返し、生き物などを形づくっている。

人類が今、突きつけられていることは「環境保全と経済的格差を生じさせない持続的発展の両立」である。現在の共通認識では産業革命以降、人為的に大気へ排出されたCO2が大気温度の上昇を招いている。CO2も人類が出し続けている廃棄物の一つであり、そろそろプラスチックなどとともに、この滞留を是正しなければならない時期に入っている。つまり、循環する元素にどのように向き合うかである。地球の営みからすれば、「脱炭素」には違和感があり、「循環する炭素」として扱うべきではないだろうか。

先駆者として風力に挑戦し続ける 地域との共生で事業を継続し発展


【Jパワー】

Jパワーの風力事業は、2000年に営業運転を開始した苫前ウィンビラ風力発電所から始まった。20年目を迎え、築いてきた地域との信頼と実績で事業を継続し、風力発電のさらなる発展に挑む。

1997年、民営化が決まったことを機に、Jパワーの風力発電事業への取り組みは始まった。数々の新規事業を検討する中で風力に着目したのだ。検討を開始した当時、国内に商用での大規模風力発電はなかった。

「水の力で培った発電技術があるなら、風の力でもできるのではないかという発想でした」と、再生可能エネルギー本部・風力事業部事業推進室の戸田勝也室長は振り返る。

先行する海外の風力発電を研究し、試行錯誤を重ねながら、技術者たちは力を結集。そして2000年12月に営業運転を開始したのが、北海道の苫前ウィンビラ発電所だ。20年が経ち、昨年8月、リプレース工事に着工した。

リプレース工事に着工した苫前ウィンビラ発電所

21年1月末時点で、Jパワーの風力発電設備は全国25カ所、稼働風車は300基以上に上る。出力合計は約58万kWで国内のシェアは第2位。全国の風力発電出力の15%を占める。これに加え、現在建設中および建設準備中、環境影響評価の手続き中の地点が10カ所以上ある。これら陸上での取り組みにより、国内トップシェアに躍り出る勢いだ。「25年度の再エネ出力100万kW増」の目標に向け、風力発電事業を加速させる。

洋上風力への挑戦 30 GW目標の実現を目指して

菅義偉政権は、昨年末の成長戦略実行計画で「40年までに洋上風力発電の設備容量を30 GWにする」(1GW=100万kW)との目標を掲げている。

一方で、Jパワーの稼働する25カ所の風力発電は、全て陸上風力だ。国内全体でも商用化されている洋上風力はほとんどない。

山や谷が多い日本は風が乱れやすく、今後は安定した風が吹く洋上風力が主流になるといわれる。設備も大型化しているため、海の方が運びやすいという利点もある。

Jパワーの風力発電設備一覧

こうした現状を踏まえて、Jパワーも今後は洋上風力に力を入れる。現在推進している国内の洋上風力は、①福岡県響灘、②北海道檜山エリア、③秋田県能代市、三種町および男鹿市沖―など計6カ所だ。

①の響灘は、現在事業化に向けて調査中であり、25年度の運転開始を目指している。②の檜山エリアは開発の可能性を調査中で、候補地は全長100㎞を超える。運転を開始すれば最大約72万kWの大規模電源になる。③の能代市、三種町および男鹿市沖は既に国の促進区域に指定されている海域だ。昨年11月から公募を開始しており、応札に向けた準備を進めている。

また、菅政権の掲げる30 GWの目標は、今後の浮体式洋上風力の必要性も示唆する。

着床式の洋上風力は、遠浅の海が続く欧州で主流だ。陸上と同様、風車基礎を海底に固定する。だが日本では、着床式に適した遠浅な海域は限られている。そのため、風車基礎を浮かべ、海底に係留する浮体式が適しているが、海外でも実証から商用を目指す段階だ。

戸田室長は、「ハードルは高いですが、Jパワーのこれまで蓄積してきた知見や技術力で挑戦していきたい。私たちの強みは、自社完結型で事業を検討・展開できる点です。風況や電気、土木に強いエンジニアがいる。私が所属する事業推進室はそれぞれの事業の方向性を示す重要な役割を負っています」と、自信を見せる。

事業推進室の戸田室長

地域と共生する風力発電 信頼を築きリプレースを実現

第1号の苫前ウィンビラ発電所を建設した時、初めての挑戦は成功ばかりではなかった。技術を磨き、地域の声に真摯に向き合い、信頼関係を築いてきた。そうした地道な取り組みがリプレースという事業継続につながったのだ。今後も複数の風力発電所でリプレースに向けた準備が進む。

「熊本地震の後、阿蘇にしはらウィンドファームではブレードを外して運転を中止した時期がありました。2年半後に風車が回り始めた時、地元の方から『やっと震災から復興したと思えた』との声をいただきました。既に地域に必要な景色の一部になっていたのがとてもうれしかった」(戸田室長)。地域と共生してきた発電所の証だ。

民営化後を見据えた新規事業として始まったJパワーの風力発電。全国2位のシェアとなり、カーボンゼロ達成の一翼を担うまでに成長した原動力は、20年間絶えることなく受け継がれてきた社員一人ひとりの情熱だ。

次は洋上風力だ。戸田室長は「未知な分野でも、できることを見つけていく。技術力を磨き、より高みを目指して期待に応えたい」と、エネルギー政策の一翼を担う気概を力強く示した。

広域機関理事長に大山氏 技術・制度の両面に精通


2015年の電力広域的運営推進機関発足当初から理事長を務めてきた金本良嗣氏が3月末で任期満了を迎えることに伴い、大山力・横浜国立大学大学院教授が新理事長に就任することが分かった。3月2日に開催される通常総会で正式決定する。

大山氏は電力システム工学が専門。経済産業省の審議会で委員を歴任しエネルギー政策に関与してきたほか、広域機関の「調整力及び需給バランス評価等に関する委員会」では委員長を務めるなど、技術、自由化制度の両面で電力システムに精通した人物といえる。

広域機関は、1月の電力需給ひっ迫時に「非常災害対応本部」を立ち上げ、地域間の電力融通を指示するなどして停電回避に力を発揮。発送電分離時代の電力安定供給体制の強化に向け、今後も重責を担うことになる。さらに技術的な検討を含む制度の詳細設計を担うなど、設立時の想定を超える役割が求められているのも事実だ。

こうした状況下での大山氏の理事長就任に新旧双方の電力業界関係者から「打ってつけの人選だ」と、その経験値に期待を寄せる声が上がっている。

複合要因による電力ひっ迫 将来の政策に向けた検証を


【論説室の窓】関口博之/NHK論説委員

この冬、複合的な要因が重なり、全国規模で電力ひっ迫が発生した。今回の件を検証した上での長期的なエネルギー政策を考えていく必要がある。

「なぜこの程度の寒波で?」「大規模な発電所の停止や脱落があったわけでもなさそうだが?」この冬、電力の需給のひっ迫が全国規模で起きた際、最初に持った印象だ。気温の低下で電力需要が「10年に1度程度」と想定される規模を多くのエリアで上回ったこと、加えて火力発電の燃料のLNGの在庫不足が重なったことなど、複合的な要因によるものであることが分かってきたが、当然ながらしっかりした検証が必要だ。

各送配電会社の綱渡りぶりは、エリアを越えた電力融通の状況にうかがわれる。かつては電力各社がいわば相対で要請・受諾していた電力の融通だが、今は電力広域的運営推進機関の指示で行われる。例えば1月8日、中国電力管内は実に計42回、関西電力は18回、他社から供給を受けている。ほかに供給を受けたのは九州・北陸・東京の各電力。東電の場合、未明は受ける側、日中は送る側に回ったりで忙しい。1月12日は関西・四国・中国が受ける側で計47回の融通が行われた。

さらによく見ると時間帯では「午前0時~0時半」とか「0時半~3時」など家庭での需要がほとんどない時間にも行われている。これは午前中に電気を使うピークの朝食時間帯に向けて、揚水発電のために貯水池に水をポンプアップするための電力を賄ったとみられる。

LNG依存度が上昇 安定した資源の確保を

このことは今回の電力ひっ迫の特徴でもあって、ピークのkW=「供給力」ではなく、kW時=「供給量」が足りなくなったのだ。つまり夏場に最大電力のピークを抑える場合のように、時間帯をずらした電気の利用を呼び掛ければ済むという問題ではなかった。

寒波に加え、さまざまな要因が絡んでいる

なぜ「供給量」の問題になったのか。そこにLNGの在庫不足がかかわってくる。例えば深夜に揚水発電用の水のくみ上げを行う、太陽光発電の出力が落ちる時間に向け、同様にくみ上げをしておく、という場合でも結局、燃料のLNGが使われてしまうわけだ。その意味では、ベースロード電源として、終日一定の出力を保てる原子力発電が十分稼働できていないことも影響している。この年末年始の寒波の時期に運転されていた原発は3基だけだった。

LNGの不足自体についても複合要因があったとされる。JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)の白川裕調査役によれば、まず去年秋以降、豪州・マレーシアなど世界各地のLNGの生産拠点で設備トラブルが相次いで発生したこと、さらにメキシコ湾岸から来るLNG船が、パナマ運河の「渋滞」につかまって荷が遅れたことも影響したという。

スポット調達をしようとしても2カ月程度のリードタイムが必要だし、一方で超低温での貯蔵が必要なLNGは、備蓄に向かないといった背景もある。とはいえ、日本が輸入するLNGは長期契約に基づくものが多い。輸送のための配船も当然、計画的に行われているはずだ。それなのになぜ不足と考えると、何らかの「見込み違い」があったのか、当然ここも検証の要だ。

これについては新型コロナウイルスの感染拡大による経済活動の低下や太陽光発電など再生可能エネルギーの発電量の増加などを受け、電力各社が「LNGを多く持ちすぎないように」と慎重になっていたのではないかという見方もある。世界最大のLNG輸入国、日本の思わぬ脆弱性を露呈したのは確かだ。

今回のLNG不足は、将来に向け、二つの意味でシミュレーションの材料になると思われる。一つは「移行期の主力としてのLNG」という視点だ。2019年度の電源構成でLNGは37%と、最も高い割合を占める。化石燃料の中ではCO2の排出が比較的少なく、脱炭素社会の手前、CO2排出をできるだけ減らしていく「移行」の時期には、特に大きな役割を果たすとされている。足元でも石炭火力が国際的にも厳しい目で見られ、比重を下げる方向に向かう中、既にLNG火力はベースロード電源的に使われているといってもいい。従来のミドル電源、あるいは再エネ電源の出力の増減を調整する役割にとどまらないことが依存度の上昇に表れている。

当面はLNG需要が高まる方向にあることは間違いない。今回の経験を基に、安定的な資源の確保をどう図るか、戦略を描く必要がある。当然その際には、急速にLNGへの需要を高めている中国との「争奪戦」も想定しておかなくてはならないだろう。

脱炭素期に向けLNG削減 原発の位置付けを明確に

もう一つはより長期での課題。こちらは「脱炭素期に向けたLNGの代替」というシミュレーションだ。今回は予想外の事態としてLNG不足が起きたわけだが、50年の温室効果ガス実質ゼロを目指すのであれば、LNGも含めて、火力発電を大幅に減らしていくことになる。つまり当面の「LNGを有効活用する」ではなく「徐々に減らしていく」に局面が変わる。

一方では再エネを増やし、主力電源化することが想定されている。となれば気象条件次第で出力が大きく変わる再エネ電源をどう補完し、バックアップするのかが、欠かせない課題になるわけだ。そのために一つは、原子力発電の位置付けを改めて明確にすることが必要と思われる。ベースロード電源として使い、カーボンニュートラルの実現に一定の役割を担わせるならば、今進められているエネルギー基本計画の見直しにおいても、方向性をしっかり示すべきだろう。

もう一方の「解」はやはり蓄電池だ。大容量で高効率の蓄電池の開発が望まれる。そうなればメガソーラーとの一体での運用が大きな効果を生むことになろう。さらには広く需要側も巻き込んだ、DR(デマンドレスポンス)の活用やVPP(仮想発電所)の構築も大事な要素になる。

寒波が過ぎ去れば「やれやれ」というわけにはいかない。今回の電力のひっ迫は、長期的なエネルギー政策の課題をさまざまな面で浮き彫りにしたといえる。

電力高騰で東ガスに打撃 380万件獲得への宿題も


年明けの需給ひっ迫に端を発した日本卸電力取引所のスポット価格の高騰局面は、大手エネルギー系新電力の経営も直撃した。東京ガスは、1月下旬に発表した2020年度通期見通しで、電力事業の営業利益が前回(第2四半期)に比べ、125億円減との見通しを示した。卸販売電力量は増加したが、市場高騰に伴うマイナス分が大幅に上回った。

同社は300万kW程度の自社電源を供給力のベースとしており、市場依存度は低い。にもかかわらず、今回ほどの高騰局面では深刻な打撃を受けることが明らかになった。

一方、一部需要家が高額な料金を請求されたことを念頭に、「電気へのお客さまの関心が上向いている。この機を捉えていく」(早川光毅専務執行役員)とも強調。22年度380万件の目標達成に向けた好機との見方を示した。

だが、市場高騰に備えたリスクヘッジはどうするのか。再エネ導入目標は示しているが、投資回収の見通しが立ちにくい火力の新たな開発計画はない。また、相対取引を選択肢としているが、それはほかの新電力も同じ。380万件分の供給力をどう確保するかが、今後の宿題となりそうだ。

異なる分野の需要を束ねて管理 再エネ電力の最大活用で脱炭素を


【電力中央研究所】

たかはし・まさひと 東京大学大学院工学系研究科 博士号(工学)取得。
1995年電力中央研究所入所。エネルギーエシステム分析・需要分析やデマ
ンドレスポンスなどの研究に携わり、2016年10月から現職。

需要と供給側のエネルギー管理によって、脱炭素化を図る「セクターカップリング」という考え方がある。電気自動車、太陽光発電、エコキュートなどを用いて研究する、高橋雅仁・上席研究員に話を聞いた。

―セクターカップリングとは何でしょうか。

高橋 エネルギーは運輸、家庭、工場、店舗など、さまざまな部門で消費されています。エネルギーの利用効率を高め、再生可能エネルギーを活用するために、エネルギーの需要側と供給側を部門横断で管理して脱炭素を行うのが、セクターカップリングという考え方です。省エネやCO2削減だけではなく、電力系統の安定化と再生可能エネルギーを最大限活用することもできます。これらのメリットは需要家、小売り電気事業者、送配電事業者のコスト低減にもなり、社会全体の利益として還元されます。電中研では、電気自動車(EV)を活用した需給協調や、HP給湯機のエコキュートと住宅用太陽光パネル(PV)を用いたシステム、また産業部門の電化とネガワットの研究を行っています。

EVバッテリーで系統安定 余剰電力をHPに活用

―EVを用いたセクターカップリングについて教えてください。

高橋 EVに搭載されている蓄電池を系統に接続することで、昼間に発生するPVの余剰電力を蓄電池に充電し、PVの出力がない夜(点灯帯)には系統に逆潮流させるV2G(Vehicle to Grid)技術があります。電中研は九州電力、日産自動車、三菱自動車工業、三菱電機の5社が参画するV2Gを用いたVPP(仮想発電所)実証に2018年から参加しています。

―実証で電中研はどういった役割を担っていますか。

高橋 まず、九州エリアのPV出力制御量の低減やダックカーブ対策にEVがどれほど効果的かを検証しています。その中で電中研はV2Gのシミュレーションを担当しています。

 もともと電中研では道路網内のEVの交通行動を模擬し、充電スタンドを効率的に配置するにはどうするのかを計算をする「EV-OLYENTOR」というシミュレーターを開発していました。実証では九州全域でEVが120万台普及し、かつ各所にEVスタンドがあるという条件で、PVの出力制御時にEVの蓄電池をどれだけ有効活用できるのか試算しました。

その結果、夜から昼間にシフトしてEVの充電を行うV1Gでは最大37万kW、V2Gの場合は最大130万kW分のPV出力を活用できるという結果を得られています。しかし、EVユーザーにアンケートを行ったところ、8割近いユーザーが「対価があれば実証に参加したい」とコメントした一方、「電池の劣化」や「電欠」などの懸念も聞こえました。今後は、こうした問題が解消できるのか、またビジネスに発展させられるのかを評価していく予定です。

V1G:夕方18時以降のEV充電量を、翌日昼間9時-15時にシフトして需要創出する
V2G:V1Gに加えて、点灯帯18時-21時に放電、EVの蓄電残量の空き容量を確保。翌日昼間9時-15時にこの空き容量に充電して需要創出する

―住宅用PVとエコキュートを組み合わせたセクターカップリングとはどのようなものですか。

高橋 19年11月からFITの買い取り期限を終える住宅用PVが大量に発生し、買取価格が下がるため、昼間に発生するPV余剰電力を蓄電池に蓄えて、自宅で消費するニーズが増しています。そこで、電中研ではその卒FIT後のPV余剰電力をエコキュート向けに使えないのか、検証と評価を進めています。研究は関西地域の戸建住宅(4人世帯)を想定し、PVの余剰電力を①売電する、②蓄電池(容量6kW)に充電し夜間に消費、③売電+エコキュートを活用(夜間蓄熱)、④売電+エコキュートで余剰電力による昼間蓄熱と、本来の夜間蓄熱を併用する最適運転―のCO2排出量や1次エネルギー使用量を考慮した環境面、再エネ自家消費率、需要家にかかる年間コストを評価しました。

――どのような結果が出ましたか。

高橋 まず環境面では、都市ガスを使わない分、蓄電池や売電よりもエコキュートを活用した③と④が最もよい評価が出ています。自家消費率は②の蓄電池が最も効率がよい評価でしたが、④の最適運転を行うエコキュートは日中に発生する電気を蓄熱に回しているため、2番目によい評価でした。

需要家にかかる年間コストについては、エコキュートの導入費用は蓄電池よりも安価のため、エコキュートの方が経済的との結果が出ています。さらに①の売電との比較でも都市ガス料金が発生しないことから、ガス給湯器との差額を考慮しても④の最適運転を行ったエコキュートが最も経済性がよいという評価となりました。

電力会社と産業間を橋渡し 未来のビジネスに向け後押し

―政府は50年までにカーボンニュートラルを実現すると宣言しています。

高橋 政府のカーボンニュートラル宣言には、エネルギー業界のみならずさまざまな業界から反応がありました。CO2の排出削減には、需要の電化と電源の脱炭素化が不可欠です。電力を供給する電気事業者とともに、モノづくりの専門家であるメーカーと電力に関する専門家集団である電中研の強みを組み合わせながら、カーボンニュートラル実現に向けて研究を進めていきます。

 現在行われている技術実証事業は、将来のビジネスにつながっていきます。そのためにも協力をしていきたいですし、より情報発信を行っていきます。

関電と福井県との「合意」 共用化案にむつ市長が反発


関西電力の運転開始から40年を超える三つのプラント(高浜1・2号機、美浜3号機)の稼働が実現に近づいた。

関電の森本孝社長は福井県の杉本達治知事と2月12日に会談。森本社長は、知事が3プラント稼働の条件とした使用済み燃料の中間貯蔵施設の県外立地点提示について、2023年末までに確定すると発言。青森県むつ市の中間貯蔵施設の共同利用を含め、あらゆる可能性を追求するとした。オンライン参加した梶山弘志経産相も国の支援を約束。終了後、知事は稼働の議論を進める意向を示した。

一方、関電に不信感を募らせているむつ市の宮下宗一郎市長は、即座に反応。翌13日に文書を発表し、「(関電が)むつ市に立地する施設を県外搬出先の候補地の一つとして提示、あるいは共用化がその選択肢の一つになることはあり得ない」と反発した。資源エネルギー庁幹部は「宮下市長の態度は軟化していない」とみる。

関電による中間貯蔵施設の県外立地は、今まで難航を極めた。だが今回、あえて23年までに確定と確約。いよいよ瀬戸際に立たされることになった。

【覆面座談会】今冬の電力暴騰問題で激論 政治・行政の責務を問う


テーマ:電力不足と卸市場の異常事態

今冬の電力需給ひっ迫を受け、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格が年明け早々から連日のように100円超えの異常な高値局面に突入した。制度の欠陥と政治・行政の責務を巡り関係者が激論を交わした。

〈出席者〉  A官界人 B政界人 Cマスコミ人 D電力業界人

―卸市場価格が高騰した問題で、経営難に陥った新電力は公的な支援を求めて政治家に陳情する動きが活発化している。

A 事業者が陳情をすることに何ら問題はないが、これまで自由化市場下で利益を享受していたにもかかわらず、いざ高値になったら「自分たちを救済しろ」というのは虫のいい話。認識が甘かったと言わざるを得ない。本件について10社以上の大手電力・新電力の経営者らと話をした。市場依存度の低い新電力や市場に電力を卸している大手電力も、この騒動の影響で損をしている。JEPXの制度を見直すことに異論はないが、安易な新電力救済には反対だ。

C 新電力といえども、大手電力系や他業種の大資本が入っているところもある。事業形態はさまざまで真面目にやっている事業者も含め、この騒動で全て潰れてしまうのではというぐらい多くの新電力が影響を受けた。陳情内容にもろ手を挙げて賛成しないが、徹底した真相究明は必要だ。今回は市場への供給が落ち込んだため高騰が起きたが、新電力に話を聞くと需要予測を行う材料が公開されていないので、直前予測すらできないそうだ。これではフェアな競争にならないだろう。

D 今回の騒動が拡大した原因の一つは、経済産業省が手を下さなかった点にある。高値を放置したことで状況が悪くなってしまったのではないか。海外の電力卸市場は、基本的に電気不足が発生したときに必ず予備電源の市場が稼働して市場価格を抑える仕組みがある。制度設計の段階でこうした状況の対処法を誰も想定しておらず、玉切れ時の価格決定プロセスが完備されていないため起きた。新電力の経営責任と言い切れる話ではない。

B JEPXの価格高騰という短期的問題と、JEPXの市場設計という制度的問題を区別しなければならない。まずkW容量は足りているが、LNGが足らなかったため起きたkW時不足に対し、経産省が法的根拠をもってできることはほぼない。経産省の対応を疑問視する声もあるが、やむを得ない。

 またJEPXは売り手が圧倒的に強いマーケットだ。新電力などの買い手は同時同量の制約を守る義務が課せられているが、発電事業者にどれぐらいの余剰能力があるかを知るすべがない。そして発電事業者は寡占的だ。本来、市場はマーケットメカニズムによって需給を調整する役割があるにもかかわらず、情報の非対称性とプレーヤーの力関係のインバランスによってそれが働かないという欠陥が、今回の騒動で明らかになった。そうした観点から考えると、新電力が陳情すべき内容は救済ではなく、制度の見直しだ。

自民党、経産省の動向に業界の関心が集まっている

経産省不介入はなぜか 立ちふさがる「権限」の壁

D 東日本大震災の発生直後、JEPX価格が15円に跳ね上がると政府は市場に介入した事例もある。今回は200円を超えても放置した。市場を一時的に止める、ないしは適正価格を指導するなど、何らかの手を下すべきだったのではないか。

B 私は問題だとは思わない。それは今回の騒動が災害由来ではないからだ。日本には災害対策基本法で災害の定義がされている。洪水、地震、噴火などと異なり原子力災害は「政令で定める」として別カテゴリーで位置付けられているから大震災直後は災害対象となっただけで、事業者由来のアクシデントは一般的に災害とはなっていない。経産省もこの程度のことでは、市場調整メカニズムに委ねる基本姿勢を示したかったのだと思う。

―経産省は今回の事態について「数年に一度程度の寒波」と説明した。一方で有識者の一人は「災害級の事態」と話している。

D 人や建物に被害がなければ国は動かないのか。今回は全国で広範囲に電力がひっ迫するという、実質的には東日本大震災を超えるインパクトがあった。この状況を柔軟に判断し対処することも経産省には必要なはずだ。

B 原発事故の後処理も東京電力があれだけの責任を負っている。騒動の原因は電力会社がLNGのオペレーションを間違えたことと、制度設計に欠陥があった点に尽きる。国がすべきは、売り手・買い手が対等になれるような制度設計の見直しだ。

A 病気がはやらなければ対処法やワクチンが開発されないように、何か問題が起きなければ制度が是正されることはない。今回の事態はまさにそのきっかけになったので、ルール作りは変わっていくだろう。Bさん、Dさんの主張はよく分かるが、やはり現在の権限では経産省は介入しようがないと思う。

C 需給ひっ迫のピークを迎えた1月8日には電気事業連合会や大手電力各社が電気事業法第27条に基づく節電要請を経産省に求めた。しかし経産省は政治的な思惑を尊重してか、「それは絶対にダメだ」と突っぱねている。ウェブサイトなどでも需給ひっ迫関連の情報を一切出さなかった。事業者からは「極限の緊張状態にある」という切実な訴えが聞こえていたのに、おかしな話だ。

A その点は私もそう思う。コロナ禍による緊急事態宣言の発出などで国民の間に不満や不安が広まっている中で、全国的な電力不足が起きているというネガティブな話を表に出したくなかったのだろう。

―とはいえ、経産省はガス会社に対し大手電力会社にLNGを緊急融通してほしいとお願いしたり、石油元売り会社に対しても石油火力向けの燃料供給を要請したりしている。

C あくまで水面下の話だよね。一方で、梶山弘志経産相は連休明けの1月12日の記者会見で、記者から「なぜ節電要請をしないのか」と問われると、「切迫した状態にないので、効率的な電気の使用をお願いする」と答えた。この発言が事実上の政府から発出した節電メッセージになったが、既に需給ひっ迫はピークを過ぎていた。とにかく経産省はこの騒動で常にぼんやりしていた印象だ。

B 戦争などによる本当の緊急事態は、いずれ来ると思ったほうがよい。そのためには、新型インフルエンザ特別措置法のような、電力危機対応特別措置法のような緊急事態法制を定め、場合によっては発電命令を下す権限を経産省に持たせることなどが必要になる。そうした法制度を準備しなければならない時代になったことに気付かされた。

河野行革相率いるTFの暴走 風力アセス緩和に疑問の声


河野太郎・行政改革担当相が率いる「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース(TF)」の議論が大きな波紋を呼んでいる。

昨年12月以来、会合では現行の「風力発電の環境影響評価法(環境アセス)」「農地法改正」「容量市場」の3点が再エネ導入を阻害していると断定。経済産業省、環境省、農林水産省に対し、導入拡大に資するよう各制度の早急な見直しを指示した。

うち環境アセスを巡っては、TFが主張する「出力1万kWから5万kWへの要件引き上げ」について、専門家の意見を募る会合を1月21日と2月8日に開催。再エネ事業者は「他発電より環境アセス適用件数が多い。英米、中韓などは5万kWが主流だ」といった点を根拠に規制緩和を訴えた。

これに対し、委員からは「規制を緩和した際、自治体が条例で定めるアセスを改正するまで空白期間ができる」「出力5万kW以下の事業でも計画の見直しなどを含む是正勧告がなされている」といった指摘が続出。「何度聞いても、要件緩和に値する合理的な説明だとは思えない」との厳しい意見も寄せられた。

TFの拙速な規制緩和案を、不安視する声は多そうだ。

風力でも太陽光の失敗が繰り返されるのか

【マーケット情報/3月5日】原油続伸、供給減少の見込みが強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み続伸。供給減少の予測が、買い意欲を一段と強めた。

サウジアラビアが、3月に続き4月も、日量100万バレルの自主的な追加減産を継続すると表明。また、ロシアおよびカザフスタンを除くOPEC+が、4月中の減産継続に同意を示し、供給逼迫感がさらに強まった。OPEC+の決定を背景に、米国の金融機関ゴールドマン・サックスとオランダABN Amroが、今年および来年の原油価格予測を上方修正したことも強材料となった。

加えて、中東では情勢が緊迫化。イエメンを拠点とする武装勢力フーシが、サウジアラビアの石油関連施設をミサイルで攻撃したと発表。また、イスラエルは、自国の船舶がオマーン湾で爆破されたとしてイランを非難し、中東産原油の供給不安が台頭した。

他方、米国では新型ウイルスのワクチン普及が進んでおり、経済回復にともなう石油需要増加への期待感が高まった。

ただ、最近の原油価格上昇を受け、中国の5月着カーゴに対する需要が後退。また、欧州では感染防止のためのロックダウンが続いており、原油価格の上昇をある程度抑制した。

【3月5日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=66.09ドル(前週比4.59ドル高)、ブレント先物(ICE)=69.36ドル(前週比3.23ドル高)、オマーン先物(DME)=66.41ドル(前週比ドル2.32高)、ドバイ現物(Argus)=66.39ドル(前週比2.25ドル高)

高まる洋上風力への期待 普及拡大に死角はないのか


【アクセンチュア】岩上昌夫/アクセンチュア マネジング・ディレクター ビジネス コンサルティング本部コンサルティンググループユーティリティー プラクティス日本統括

いわかみ・まさお 外資系コンサルティング会社、監査法人などを経て2016年入社。20年以上にわたり電気事業者、ガス事業者向けのコンサルティングに従事し、経営戦略からプロセス改革、システム導入などをリード。20年3月から現職。

前回は「CO2排出量の少ない電力への切り替えが脱炭素化を促進し、持続的な技術革新も必要」と提言した。2回目の今回は、電力セクターに関連する風力発電における技術革新についてレポートする。

2020年12月2日に経済産業省の資源・燃料分科会が開催され、50年カーボンニュートラルに向けた資源・燃料政策の方向性を議論した。電力セクターでは非化石電源の拡大、脱炭素化できない領域はCCUS(CO2回収・利用・貯留)をはじめカーボンリサイクルなどを最大限活用することが必要と報告した。

同会議は主に燃料の観点での議論だったため、CO2の捕集・貯留、水素、脱炭素燃料にやや焦点が当たったが、電力部門という観点では再生可能エネルギーの導入拡大に向けての技術的課題も多い。

脱炭素時代に必要な技術 再エネ拡大に向けた課題

再エネの中で、注目されているのが太陽光発電と風力発電だ。19年度の実績によると、日本の総発電量に占める太陽光と風力の割合は、おのおの7・6%、0・8%であり、太陽光の存在感が強い。太陽光発電は、12年7月にスタートしたFIT(固定価格買い取り制度)により導入が加速し、約7900万kWの太陽光発電が事業認定され、約5500万kWが稼働している(未稼働の太陽光発電は社会的な課題となっており、そのためにFIT法の改正や運転開始期限の設定などの措置が実施されている)。しかし、FIT制度がFIP(市場連動価格買い取り制度)に移行し市場に統合されることによって、投資インセンティブの確保が難しくなることが想定される。また、太陽光発電に適した土地も減ってきている。

これに対し、風力はグリーン成長戦略の柱の一つと位置付けられているほか、昨年12月15日に開催された第2回洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会において洋上風力産業ビジョン(第1次)が提出され、日本においても洋上風力の本格導入の機運が高まっている。

同ビジョンでは直近の検討課題として、案件安定化スキーム、電源系統インフラの整備、港湾インフラの整備が挙げられている。

設備利用率向上に 浮体式の普及が必須

アクセンチュアでは、それに加え中長期的な技術課題として、欧州で注目されている浮体式技術の確立、タービン大型化への取り組みが非常に重要だと考える。浮体式は、水深50〜300mの海域に対応しているため、設置海域の自由度が広がるとともに強風に対応しているため、設備稼働率の向上に貢献する。

また、設置時の海底への浸食が少なく、海洋環境への影響が低減される。

これに加え、欧米ではタービンサイズが大きくなり最大出力が向上しつつある。大型タービンは、風の弱い状態でも従来の小型ユニットと比較して効率よく発電できるため、同じサイト条件で2~7%の設備利用率の改善が可能となる。同時に、タービン当たりの出力が高いため、伝送損失の低減によるスケールメリットが得られる。またMW当たりの運転・保守コストの削減が可能だ。

2050年カーボンニュートラルに向けた資源・燃料政策の検討・方向性に関する資料

浮体式風車のタイプ

風車容量の変化

18年度の北海道における年間設備利用率は26・5%だった。風力発電の設備稼働率は地域依存性が高いが、ほかの地域においてもおおむね同じ程度と考えられる。これは、スペインの25・4%(14年IEAの調査結果)に比べても勝っており、日本の設備利用率は国際的に見ても優秀だといえる。しかし、日本はタービンの大型化に後れを取っている。また、日本周辺の浮体式ポテンシャルも十分に生かしきれていない。そのため、設備利用率を向上させる取り組みが今後は求められる。具体的にいうと、IoTやデジタル技術を活用したO&M(オペーレーション&メンテナンス)の効率化と高度化だ。スペインのイベルドローラ社は運用中に洋上風力発電所から収集されたデータの分析と管理を可能にするO&M情報管理プラットフォームを開発し、これらの施設の運用および保守コストを削減する戦略を立案するためのプロジェクトであるロミオプロジェクトを17年6月に開始している。日本においても同様の取り組みが今後求められると考えられる。

このほか、風力発電の普及には産業レベルの蓄電池(蓄電所)の開発も必要だ。

日本には、風力発電用のタービンメーカーがない。過去には存在したが、全て撤退してしまっている。前述のデジタル技術や蓄電技術を含め、どこまで国内産業育成ができるかが今後の鍵になる。太陽光発電の二の舞いとなってはいけない。

年内の再稼働は絶望か 不正入室の重い代償


東京電力の再生に欠かせない柏崎刈羽原発の再稼働。「年内にも、まず7号機の運転再開を」。関係者はこう願っていたが、絶望的になりつつある。

柏崎刈羽原発の年内再稼働は困難に

東京電力の社員が昨年9月、柏崎刈羽原発の中央制御室に、他人のⅠDを使い不正で入室していた。1月にこの不祥事が明らかになると、今まで再稼働に協力姿勢を示してきた地元政界関係者も態度を一変。東電新潟本社の橘田昌哉代表が県政与党、自民党の県連合会幹部に謝罪に行くと、幹部は橘田氏を激しく叱責。小野峯生幹事長は「年内の再稼働はなくなった」と伝えたという。

2月25日から始まった県議会で、野党議員はこの件を厳しく追及する方針。ある県議は「あぜんとした。セキュリティをないがしろにするのは、あり得ないこと」と怒りを隠さない。同時に花角英世知事に対しても、「県民の安全・安心にかかわること。なぜ国、東電に対して厳しい姿勢に出ないのか」と批判の矛先を向ける。

ほかにも、7号機の安全対策工事が未完成にもかかわらず、「完了した」と公表していたことが明らかになっている。「今はとても、再稼働など言い出せる状況になっていない」。野党県議はこう言い切った。

エネ庁支援策の効果は 新電力を襲う「3月危機」


昨年12月下旬からの急激な電力需給ひっ迫を受けて発生した、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格高騰。最高値でkW時当たり251円を記録するなど、1月初旬から中旬にかけては連日100円超の高騰局面が続き、これが電力小売り事業者にとって大きな打撃となった。

需給ひっ迫の背景にはLNG不足があった

新電力の苦難はこれだけにとどまらない。高額が予想される1月分のインバランス料金の請求と支払いが3~4月に控えているのだ。このため、新電力の事業撤退や譲渡などの淘汰が進む「3月危機」がささやかれている。

資金繰りが悪化した新電力の経営を支援しようと、経済産業省はインバランス料金の支払いについて最大で5カ月の均等分割払いを可能とする特別措置を設けることを決めた。ただ、この措置には直近の2会計年度のいずれかで黒字計上していることなど事業の健全性を要件として求めており、ある新電力関係者は「中小事業者の多くが支援の対象外ではないか」と話し、効果は限定的だと見る。

一方で、3~4月にドラスティックな再編・淘汰劇が起きる可能性は下がったと見る向きも。新電力からの相談に応じているエネチェンジ法人ビジネス事業部の千島亨太事業部長は、「新電力の事業撤退や譲渡のムードは少しトーンダウンしている。むしろ、加入するバランシンググループを変更し、再起を模索する動きが出ている」と明かす。

背景には、支援措置で支払い交渉の猶予期間ができたこともさることながら、2月に入りJEPX価格が大幅下落し短期的には利益が出せるようになった事情もある。業界再編の本格化は、もう少し時間を要するかもしれない。

電力市場混乱の真犯人は誰か? 需給ひっ迫と価格高騰の真相


今冬の電力需給のひっ迫と卸市場価格の高騰を巡っては、各所で原因や対策について激論が交わされている。エネルギーフォーラムでは2月3日に緊急セミナーを開催。有識者4人が問題の根幹に迫った。

「電力暴騰問題を徹底討論」と題し、オンライン形式で開催された緊急セミナーには、日本エネルギー経済研究所電力グループマネージャーの小笠原潤一氏、エネルギーアナリストの大場紀章氏、社会保障経済研究所の石川和男氏、前衆議院議員の福島伸亨氏の4人が登壇し、激論を交わした。

まず話題に上がったテーマは、今回の需給ひっ迫を引き起こした原因は何かだ。これについては、昨年12月後半から今年1月にかけて、設備トラブルなどによる火力発電の停止が相次ぎ、そこに寒波による需要増が加わったことで需給がタイトになったことが、資源エネルギー庁などの公表データからも明らかになっている。

では、このような事態をあらかじめ予想することはできなかったのだろうか。小笠原氏は、昨年10月に電力広域的運営推進機関がまとめた「電力供給検証報告書」が、厳冬の場合、1月を中心に需給がひっ迫する可能性を指摘していたことを紹介。「報告書では、広域融通すれば予備率3%を確保できるとしており、実際に今回は融通指示により停電を回避できた」として、広域機関の見通し通りに推移したとの見方を示した。

厳冬を予想していれば、それに備えて燃料を確保することもできただろう。しかし、昨秋の時点で厳冬を予想しておらず、逆に大手電力会社は、昨夏ごろからだぶついていた在庫を絞り込んでさえいた。この需要の読み間違いが、結果として供給量(kW時)不足を招いてしまったわけだ。

需給ひっ迫が長期化 背景に過度なLNG依存

「今回の特徴は、需給ひっ迫や市場価格高騰が短期的に起きたのではなく長期間継続してしまったことだ」と語ったのは大場氏。「発電量の4割をLNGに依存している国は世界でも日本だけ。ほかの電源によるバックアップがない状態では、こういうことが数週間にわたって起きてしまう」と、図らずも日本の電力構造の弱さが露呈したと解説した。

福島氏は、①太陽光発電の導入量が劇的に増えたことで、供給力が厳しくなる季節が夏から冬に変わってしまったこと、②原子力発電が停止しLNG一本足打法であること、③電力システム改革後、供給責任を誰が負うのかが不透明であること―といった根本的な問題が潜んでいることへの危機感を強調。その上で、「放置すればさらに大きな問題が起こりかねない。一つひとつ課題を点検していくべきだ」と主張した。

司会役の石川氏は「3・11後、原発が停止し火力燃料の輸入に最大で4兆円もの国富が流出したにもかかわらず、(電気料金が)自動引き落としであることもあって国民はそれを実感していなかった。今回も結果的に停電などは起きなかったため、多くの国民は電力不足を実感しなかったのではないか」と、エネルギー問題に対する危機意識の低さゆえに議論が広がらないことに疑問を投げかけた。

この需給ひっ迫に伴い発生したもう一つの問題が、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格の暴騰だ。時間帯によっては1kW時当たり200円を超え、卸市場で調達する新電力の経営に大きな打撃を与えることになった。

小笠原氏は「需要側が高い買い札を入れマッチングしてしまうと、高い価格で約定することになる。供給側の限界費用を反映したわけではなく、価格高騰は人為的な供給曲線の設定にあった」と、その背景を説明した。

大場氏も「LNGの在庫量が減り、発電事業者が燃料節約のためにぎりぎりまで出力を落とした結果、市場に出す玉が減った。インバランス回避のために小売り事業者が高値で入札したことで暴騰した」と、小売り事業者の行動が価格高騰を招いたとした。ただ、聴講者からの「市場高騰の責任の一端は新電力にあるのではないか」との質問に対しては、「インバランスを絶対出さないよう求められる今のシステムでは、小売り事業者はどんなに高くても買うというマインドになる。それを新電力の責任というのは少しかわいそう」と否定的な見解を示した。

福島氏の見方は「小売り事業者と発電事業者の情報の非対称性や小売り事業者の寡占性による卸市場の不全にこそ、価格高騰の要因がある」というもの。「小売り事業者に供給力確保義務を負わせて、インバランスを出させないよう厳しく対応する一方、発電事業者側には責務がない。卸市場制度の設計を見直すことが必要」と話し、是正の必要性を訴えた。

討論はオンラインで開催した

システム改革の功罪 曖昧化した責任の所在

電力自由化が走り出し、安定供給は後回しにされてきた感は否めない。討論の終盤は、今回の経験を踏まえ電力システムはどうあるべきかに議論が及んだ。

福島氏が「仮に今回ブラックアウト(全域停電)が起きたとしても、エネ庁は法的には何もできなかっただろう。3・11のような想定外を繰り返してはいけない。オイルショック並みの危機や戦争などに備えるエネルギー危機管理法制が必要だ」と政府に注文を付けると、大場氏は「政府の公式見解は、長期的な供給力の担保は市場を通じて達成されるというもの。自由化によってエネ庁にも事業者にも、責任者不在のムードが醸成されてしまっているのではないか」と、現状への危機感を示した。

小笠原氏は「現状、安定供給維持の責任は広域機関が担っている。ただ、かつて広域機関が容量市場創設前に需給ひっ迫に陥るリスクがあるとの報告書を経産省に提出したが、所管する電力・ガス取引監視等委員会にはそれを受けて安定供給について議論をする部署がなかった。そういう構造的な問題もある」と組織の改善を求めた。

石川氏は「何らかの形で電源投資の回収を担保する仕組みが必要だ。それでこそ発電事業者は責任を持って供給しようとするだろうし、その責任を負うことが国家としてのエネルギー安全保障だ。次期エネルギー基本計画では、そうした政策を盛り込んでもらいたい」とまとめた。