【マーケットの潮流】野神隆之/エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)首席エコノミスト
テーマ:国際原油価格
イスラエル・ガザ戦争開始後、この1年間の国際原油価格はどのような値動きを見せたのか。
そして終結が見通せない中での今後の展望は―。JOGMECの野神隆之氏が解説する。
昨年10月7日にイスラエルとイスラム武装勢力ハマスとの間で、ガザ地区における戦闘が開始されてから約1年が経過した。戦闘は両者間に限らず、最近ではイスラエルとイスラム武装勢力ヒズボラとの間で、レバノンを舞台にし、激化しつつある。世界の主要な産油地域である中東情勢の不安定感が増しつつある中、石油市場はどう反応しているのだろうか。足元にかけての約1年間を中心に、世界石油市場の動向とその背景、今後を展望する上で重要と考えられるポイントなどにつき説明したい(10月18日時点の情報に基づく)。

出所:CME及びICEデータをもとに作成
まず、昨年10月以降の原油価格(WTI、以下同)を概観したい。イスラエルとハマスとの戦闘が開始した直後には原油価格は上昇基調となり、19日には1バレル当たり89・37ドル(終値、以下同)に到達した。また、その後も原油価格は、しばしば上昇する局面が見られた。例えば今年4月5日、7月3日、8月12日および10月7日には局所的な高値に到達した。
当事者間の対応が抑制的 局所的高値は沈静化へ
局所的な高値の要因は、全てイスラエルとイランおよびイランが支援するイスラム武装勢力との戦闘を含む中東情勢に関連する。昨年10月の高値は、イスラエルとハマスとの戦闘開始に伴うもの。今年4月は、1日にシリアにあるイランの在ダマスカス大使館周辺に攻撃があり、イラン革命防衛隊の精鋭部隊「コッズ部隊」の上級司令官が殺害された。7月は3日にイスラエル軍がレバノン南部を攻撃した結果、ヒズボラの上級司令官が死亡した。8月はハマスの指導者ハニヤ氏がイランの首都テヘランで攻撃を受け死亡した旨が7月30日夜(米国東部時間)以降報じられ、10月は、9月27日にレバノンの首都ベイルートを空爆した結果、ヒズボラの指導者ナスララ師が死亡した、といった具合である。
しかし、4月5日の高値は86・91ドル、7月3日は83・88ドル、8月12日は80・06ドル、そして10月7日は77・14ドルと、その水準は時間を追うごとに下振れしている。背景には、中東情勢の不安定化に伴う石油供給途絶の可能性を巡る市場の懸念が後退しつつあることがある。イスラエルとハマスとの戦闘が開始された当初は、ハマスを支援するイランが軍事面を含めどのように行動し、中東の石油供給にどのような影響が発生するかを巡り、不透明感が相当強かった。不透明感の強まり故に市場関係者間では、中東からの供給途絶の懸念が増大した結果、原油相場が押し上げられた側面がある。
その後、イスラエルとイランとの対立が先鋭化する場面が見られ、両者がお互いの領土への攻撃を実施したと見受けられる場面があったものの、両国の対応は総じて抑制的で、石油供給が実際に脅かされる場面は見られなかった。対立の先鋭化をもってしても、石油供給への支障が発生する可能性は低いとの感覚が市場関係者間に広がった結果、原油価格の上昇が抑えられる格好となった。