日本版シュタットベルケ目指して 僧侶が経営する新電力が事業拡大中


【事業者探訪】TERA Energy

社会に必要な活動を支えるため、僧侶が設立した新電力が順調に事業を拡大している。

市場に調整力を拠出するサービスも始めた他、神社仏閣への分散型電源普及にも一役買う。

仏教都市ならでの新電力が京都市に存在する。僧侶4人が設立した、その名もテラエナジーだ。〝ソーシャルグッド〟な活動と再生可能エネルギーの活用にこだわり、2018年の設立以降、販売量を順調に伸ばしてきた。沖縄以外の全国に供給し、低圧~特別高圧の顧客数は3300件ほど。6月の販売電力量は全国の新電力で82位(2590万kW時)だった。これほどの規模の新電力をなぜ僧侶が運営するに至ったのか―。

何足ものわらじを履く竹本代表

代表取締役の竹本了悟氏は、浄土真宗派の西照寺(奈良県葛城市)住職を務めながら、同社の経営に取り組む。広島県の寺の次男として育ち、自分の生き方を模索する中、まず自衛官を務めたが家族を犠牲にしかねない働き方などに疑問を感じて退官。大学院で哲学・仏教を学び直し、宗教者として人々の孤独に寄り添う道を歩むと決意した。

浄土真宗本願寺派の本山である西本願寺の研究職員として社会課題解決の研究に取り組みつつ、NPO法人・京都自死・自殺相談センター(Sotto)を設立。現在も同法人理事を務める。助けを求める人は多く、窓口は常時パンク状態に。社会に必要な活動を次代につなぐため、ボランティアベースでなく、安定して資金を稼ぐ方法を模索するようになった。

そんな折、シュタットベルケの存在を耳にした。「エネルギー事業の収益で地域の他の社会インフラを維持する仕組みに感銘を受けた。寄付付き電気でSottoの運営支援というアイデアを思いついた」(竹本氏)


寄付付き再エネ由来を提供 適正価格にこだわり

竹本氏は起業を一念発起し、志を共有した他の僧侶3人とともに企業経営、そして電力事業を一から勉強した。顧客情報管理システム(CIS)は当初外部の利用を検討したが、費用の高さに悩んでいたところ、米国勤務を経て帰国した市内のシステムエンジニアから「ニュースを見て活動を応援したい」との連絡が。結局、彼が独自でシステムを構築してみせた。受給管理についてはみんな電力(現アップデーター)のシステムを、料金を抑えてもらい利用。そして同社のサポートを受けつつ、バランシンググループ(BG)も独自で運用し事業開始にこぎつけた。その後インバランスリスクの高まりを感じ、2年前からは同社のBGを活用する。

神社仏閣への分散型設備導入が進む(壬生寺)

料金の特徴は、まず寄付付きであること。料金に上乗せせず、同社の純利益から105団体に寄付し、顧客に「この団体を応援したい」と思ってもらうことを目指す。例えば22年4月からの1年間で、売上高18億円のうち2300万円を寄付した。

また、再エネ由来を志向し、電源構成の8割をFIT(固定価格買い取り)が占め、非化石証書付きのオプションもある。従量料金も基本料金もできるだけシンプルな構成とし、顧客への分かりやすさを重視する。

さらなるこだわりが適正価格販売だ。市場価格が安い時期に固定価格で利ザヤを稼ぐモデルが一般的だったが、同社は市場連動1本で勝負。「インフラ事業は誠実であるべきで、固定価格でもうけ過ぎることを避けたかった」(同)ためだ。現在は、21年初頭の市場価格スパイクの経験からニーズが高まった固定価格プランも用意する。

こうした戦略で3年前の市場価格高騰時も赤字を回避。多くの他電力が高圧以上への供給を停止する中、これらの顧客を積極的に取りに行き、同社の市場連動の顧客離脱も1~2割で済んだ。「手数料を抑え、長いスパンで見れば今でも市場連動の方が顧客にメリットがあると思っている。中長期の視点で腹を据えた戦略が重要だ」(同)。なお、24年度決算(25年6月期)では売上高80億円を見込む。

【火力】応札ゼロが証明 予備電源制度の現場軽視


【業界スクランブル/火力】

今年もはや師走である。緊迫する国際情勢や長引く残暑などの影響はあったものの、幸いなことに著しい電力不足や卸価格の高騰などは起こらなかった。しかし、表面的に平穏であっても、水面下での供給力不足はのっぴきならない状況となっている。

背景をみると、再生可能エネルギー比率の増加や脱炭素の取り組み、デジタル化の進展による需要増などの要因が絡み合っているが、電力システム改革で整備を進める市場制度が思惑通り機能していないことによる影響も無視できない。予備電源制度もその一つで、9月30日を期限に東西で100万kWずつ募集したものの、発電事業者からの応札はゼロだった。

予備電源は、想定を超える需給ひっ迫時に休止中の電源を再稼働させ、供給力不足を補うという仕組み。主に経年火力が対象で、休止している間は手間とコストを極力かけないようにするが、再稼働時には適切な設備の点検と修繕が必須となる。その際、停止中の状況や経年化の影響で思わぬ不具合に見舞われることも多く、再稼働に係る費用を事前に正確に把握することは極めて難しい。

予備電源の募集要項によると、事前に提出された想定立ち上げコストを上回らないことを確認するとされている。これでは発電事業者にリスクがのしかかるばかりで、こんな制度に応札できないのは当然の結果だったのである。

遅ればせながら事業者へのアンケートを始めたようだが、このことは現場の実情を理解しないで制度をつくったことを示している。火力発電への配慮が足りない市場制度が、供給力不足を引き起こしているのである。(N)

エネルギー伝道者として 国の将来見据えた選択訴える


【リレーコラム】関口美奈/リゾナンシア代表

バブル崩壊後、不良債権売却が始まる直前に米国から帰国した私は、いきなり日本経済の怒涛の波に放りこまれた。アーサー・アンダーセン(現KPMG)というコンサル会社の米ダラスから東京に転籍直後、不良債権の買い手が外資ファンドであったため、英語要員として不良債権売却支援チームにアサインされた。日本の会計規則も知らなかった私に、時価評価の不良債権評価はありがたかったが、今ではあり得ない残業や休日返上が続いた。

ほどなくしてエネルギーに出会う機会がやってきた。バブル期の不動産投資で財政危機に陥った商社の風力発電事業に関するM&A案件に携わったのだ。その頃は再生可能エネルギーに関する世間の認知は低く、事業価値を正しく認識できる買い手も多くはなかった。

当該事業は、2000年に東京電力が買収し、社名をユーラスエナジーと変更した。が、11年の東日本大震災による原子力発電所事故で資金を要した同社は、持ち分の半分を豊田通商に譲渡。その後豊田通商は徐々に持ち分を増やし、22年完全子会社化した。ユーラスは今では日本有数の再エネ電力事業者だ。


自由化を機に国内ニーズ生じる

08年、リーマンショック後に投資家は変動幅が大きい株式市場を敬遠、行き場を失った資金が余っていた。そんな投資家に、欧州で始まった再エネブームへの意欲を探ったところ、長期安定かつ将来的な香り漂う再エネに強い関心が示された。グローバルネットワークを活用し、海外の再エネ投資に力を入れた。そんな頃に震災が起き、自由化に向かう国内市場に新たなコンサルニーズが生まれたことをきっかけに、KPMG社内でエネルギーセクター事業を立ち上げ、セクター統括責任者を10年超務めた後、独立した。私自身は、エネルギーについて専門的に勉強したことはない。エネルギーの知識は全て業務を通じて学んだ。そんな私がいまだにエネルギーに携わり価値創出ができるのかと自問する。

エネルギー・電力は生活に不可欠であるが、あまり深く理解されていない。政治に任せればどうにかしてくれるのだろうか。多く人々に自分達の使うエネルギー・電力をもう少しだけ知り、この国の将来に向けて今何を選択すべきか考えてほしいという思いが募る。エネルギー貧国に暮らし、いくつかの悲劇を経験した私達が客観的、合理的にこの問題と向き合うことは、それ自体が大きな試練かもしれない。

深い知見を有する専門家が多い中、必ずしも専門家でない私は、エネルギー・エバンジェリストとして業界の来し方行く末を俯瞰し、感情的でないストーリーを語っていきたい。

せきぐち・みな 大学卒業後、テキサス州立アーリントン校大学院でMBAを取得。2012年から現KPMG Japanおよび同アジア・パシフィック地域でエネルギー・インフラストラクチャー統括責任者。22年、リゾナンシアを設立した。

次回は、マトリクスKの近藤寛子代表です。

【原子力】原子力の必要性は明白 関係者は政局の心配無用


【業界スクランブル/原子力】

先の総選挙では原子力への理解者を多数失った。自民党への不信感が強い中、新総裁誕生の雰囲気を利用して政策論争に時間をかけず選挙に打って出る作戦は、政党支部への2000万円支給問題で功を奏さず、与党全体が国民の厳しい判定を受ける失策となった。この結果を受けて、エネルギー政策への影響を心配する向きもあろう。

しかしロシアのウクライナ侵略と北朝鮮の参戦から抑止力としての安全保障政策はもとより、戦地から遠い国でもエネルギーと食料供給の確保、ひいては経済全体に悪影響を被っている現状からエネルギー政策の重要性は国民に理解されている。またカーボンニュートラルを目指す政策も、欧州が国境炭素税で脅している以上、無視できない。原子力エネルギーの必要性は火を見るより明らかである。

万が一、政権交代が起ころうとも、日本維新の会も国民民主党も原子力活用に賛成だし、立憲民主党の野田佳彦代表は福島事故から約1年後に大飯3、4号機の再稼働を容認した実績がある。再稼働を実現できたのは電力会社が迅速に緊急安全対策をとったからであり、現在は新規制基準により原発の安全性は一段と向上している。従って、どんな政権でも原子力積極活用の方向に変わりはないだろう。原子力関係者は心配せずに前を向いて仕事に励むべきだ。

一方、経産省のエネルギー政策当局は第7次エネ基の素案をいつ発表するか慎重に見極めようとしているはずで、問題は閣議決定に臨む総理である。難しい政局対応に忙殺される石破茂首相に、いまだきちんとしたエネルギー政策のレクができていないとすれば心配である。(H)

【シン・メディア放談】電気・ガス補助事業で不祥事 同情するが復活だけはもう勘弁


〈業界人編〉電力・石油・ガス

エネルギー補助金は市場機能をゆがめただけでなく、
透明性の面でも問題があった。

─資源エネルギー庁が電気・ガス料金への補助金を巡って、不十分な審査で業務委託の承認をしていたことが会計検査院の調査で分かった。

ガス 事務局業務は広告代理店大手の博報堂が319億円で受けた。同社はその約7割で子会社に委託、子会社はさらに約8割で別会社に再委託。委託率が5割を超える場合は理由を書類で説明する必要があるが、博報堂の提出書類に理由の記載はなし。エネ庁にもこれらの委託を承認した記録がなかった。

電力 博報堂にほぼ丸投げだったのだろう。電気・ガス補助金はスピード勝負だった。どれくらいの手間がかかるのかは分からないが、料金の引き落とし期日は決まっている。本来であれば役人が一連の流れをある程度把握しておくべきだが、気を遣う余裕もないのだろう。

石油 補助金の業務委託といえば、かつては納税義務のない公益法人(外郭団体)が担っていた。そして団体の専務理事の多くは天下り。世間の目が厳しくなり外郭団体への委託は減ったが、代わりに請け負うようになったのが広告代理店だ。


電通の次は博報堂 事務作業に事業者も疲弊

電力 今回の不祥事を聞いて思い出したのが、新型コロナ禍での持続化給付金。電通やパソナが設立した社団法人に支払われた業務手数料が多すぎると騒がれた。社団法人が電通に95%で再委託していて、下請けは最大9次まであった。驚いた人も多かっただろう。

ガス 今回はそこまでの大騒動にはなっていないが、大きい額を請け負っているわけだし、電通の次は博報堂で「やっぱりね」という感じだ。

電力 電通の時もスピード重視だったからね。今回と同じように問題が起こりやすい環境だった。行政改革で官僚の数が減ったし、1人の役人がカバーする範囲が大きすぎる。補助金制度を活用する以上、こうした問題がなくなることはない。スピードを求められているなら、なおさらだ。

電力 受託業者の事務作業も大変だろうが、電力・ガス会社の苦労も相当なものだ。例えば電気料金の請求書に「値引き額」を掲載する欄がない。こうしたシステム上の不備について、コストをかけて見直すのか。それとも「激変緩和」というだけに、一時的な措置にとどめるのか。細かい事務作業にみんな疲弊していたよ。

ガス LPガスは自治体を通じての補助金だったが、担当者は「もう二度とやりたくない」と言っていた。一方、ガソリンなどの燃料油補助金は直接補助。エネ庁が30社くらいの元売りと輸入業者に補助金を投入している。事務手続きは楽だし、エネ庁の担当官が担当すると計算もラフ。電気・ガスのように間接補助で業者に任せると細かくチェックされる。

石油 業界団体で補助金業務を担当したが、本当にややこしい。手慣れた人でないと作業が滞ってしまう。それに会計検査院の検査は厳しい。検査院の聴聞室に通ったが、いろいろと事細かに聞かれて疲れた。逆に言えば、よく働いている。

【石油】日米の民意は生活重視 環境政策は後退か


【業界スクランブル/石油】

日本では衆院選で自民党が少数与党に転落し、米国では大統領選で勝利したトランプ氏の復帰が決まった。この結果は賃金や雇用を問題視するなど生活を大切にする有権者の民意の表れだろう。

また選挙で環境政策が聞こえなくなり、欧州では緑の党の後退が目立つ。環境重視が「票」にならない時代が来た。

国内では、環境政策に逆行した燃料油補助金やガソリン税の「トリガー条項」について議論する機運も高まり、EV化の議論はどこかに行った。やはり国民が、現在の脱炭素政策は高くつく、物価が上がる、エネルギー転換で賃金・雇用が減るという事実に気が付いたのだろう。

米大統領選で民主党候補のハリス氏が近代石油産業誕生の地で知られる激戦州のペンシルベニアで、シェールオイル・ガス生産の中核技術「水圧破砕法」を禁止するつもりはないと明言した。水質汚濁の懸念や石油・ガスの増産につながる同技術の禁止を主張していたが、その主張が一転。トランプ陣営は、左派・環境派であったハリス氏の過去の発言との矛盾を指摘した。

この点についてバイデン氏は当時の大統領選で沈黙し、ペンシルベニア州を制した。シェール技術は米国を最大産油国に押し上げてコストを下げ、国際競争力の向上や国際収支の改善につながった。

トランプ氏は、石油・ガスの増産を主張するが、今後のエネルギー政策は不透明で、原油価格には下降要因も上昇要因もある。当初、「パリ協定」の再脱退を掲げ、EV推進に反対していたが、起業家イーロン・マスク氏の応援を受けてからは発言しなくなった。とにかく、予測不能な要素が増えている。(H)

【ガス】液石法省令改正から半年 競争の舞台は戸建てに


【業界スクランブル/ガス】

7月2日に「過大な営業行為の制限」などに関する液石法改正省令が施行され、半年ほど経過した。これまで賃貸集合住宅について駆け込み営業による切り替えの声が盛んに聞こえ、経済産業省の通報フォームにもこれらの案件が殺到した。一方、施行後の競争は戸建てにシフトし、いわゆる紹介斡旋業者(ブローカー)の旧態依然な営業手法が展開されているようだ。

関東の事業者によると、戸建て住宅の切り替えで暗躍しているのが「正規代理店」と呼ばれるブローカーだ。最近は新聞勧誘業を母体とする保安を知らない事業者が、以前の新聞勧誘のごとく委任状にはんこを求め、エリアを決め集中的に切替えを行っている。勧誘に使われるのが、安価な販売価格、菓子折り、商品券などで、その額はまちまち。昔、洗剤や野球のチケットなどで新聞を勧誘していたのと同様だ。しかし、明確な断りを入れても2、3回は訪問し、長時間の居座りも常態化。これらは特商法違反と言えるだろう。切り替えなかった場合も、無理やり景品を置いていくというからタチが悪い。

激戦区では「突然訪問してきたガス会社を名乗る者から、断ってもしつこく勧誘を続けてくるといったトラブルの相談が寄せられている」と警察が注意喚起する。経産省は「利益供与行為については過大なものかどうかにかかわらず一切行わない方向で取り組むこと」と方向性を示すが、競争の範囲内としてイタチごっこになってしまうのか―。

経産省が通報フォームを立ち上げて12月で1年が経つ。一定の抑止力にはなっているが、ズルをする人が得をしないよう、毅然とした対応を望みたい。(F)

EVとBESSで中国勢攻勢 テスラとの競争激化


【ワールドワイド/コラム】国際政治とエネルギー問題

トランプ前大統領が再選し、世界が新政権発足に向けた動きに注目している。中でも、私財を投入し献身的に選挙運動に貢献したテスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)はトランプ氏の再選直後、ウクライナのゼレンスキー大統領との電話会談に同席し、その言動と影響力に世界の関心が寄せられている。

マスク氏は11月、ドイツ連立政権崩壊に際し、ドイツのショルツ首相に「愚か者」と暴言を吐いた。止まらない激情ぶりは、3月の環境保護運動過激集団の放火によるテスラのドイツ工場閉鎖などが背景にあると考えられる。今後、米国の対中国貿易政策が注目されるが、ここでは、その背景となるマスク氏率いるテスラと中国製品との競合関係について整理したい。

中国のEVメーカーは2021年にBYDや上海汽車が世界のEV販売トップ10に入り、テスラに脅威を与えた。1位のテスラは上海ギガファクトリーなどで価格の低下を図り、販売を増加させたが、23年にはBYDがテスラに迫る勢いで成長し、販売台数はテスラの181万台に次ぐ約157万台に達した。BYDは低コストのリチウム鉄リン酸塩(LFP)電池技術を強みに、欧州、ラテンアメリカ、アジア市場への輸出が好調だ。25年3月には、中国スマートフォン大手のシャオミが新規参入し、ポルシェのタイカンに対抗する1700万円の高級EVを発売すると発表。テスラとの競合が予想される。

中国のEV躍進の背景には政府の政策がある。中国政府は、消費者には購入補助や免税といった金銭的インセンティブを与える一方、完成車メーカーや自動車の輸入事業者に対しては、新エネルギー車を作らなければガソリン車の輸出や生産ができないという規制を設けた。結果として、新エネルギー車(その8割はEV)の国内販売台数は年々増え続けた。

ここを米政府がたたく。今年5月、中国からの輸入EVに対する制裁関税を25%から4倍の100%に引き上げた。さらに、この競争はEVにとどまらずエネルギー貯蔵システム(BESS)にも広がっている。BESS製品は、太陽光や風力発電からの余剰電力を蓄電し、需要が高まる時間帯に放電する。今後拡大する再生可能エネルギー市場に極めて重要なインフラだ。

テスラは「パワーウォール」などのBESS製品を提供し、23年、北米を中心に世界市場の15%とトップシェアを保持している。一方で、中国企業は世界シェアのトップ10社のうち6社を占め、その存在が際立つ。特に中国のサングロウは低コスト製品を武器に北米市場でテスラと競合を深めている。EVバッテリー大手のCATLやBYDも米国市場への参入を進めている。

テスラと中国企業との競争は今後の激化が予想される。激しい人格のマスク氏は、米政府の対中国政策に大きな影響を与えるものと考えられる。

(平田竹男/早稲田大学大学院スポーツ科学研究科教授、早稲田大学資源戦略研究所所長)

中国が誇張する「電力新幹線」


【ワールドワイド/コラム】海外メディアを読む

英BBCが11月16日、中国の超高圧送電(UHV)の現状を紹介した。「電力の新幹線」と同国は誇る。高圧なので同じ電力なら電流は小さく熱損失を抑えながら効率的に遠くへ送電できる。総延長は4万8000kmと地球の円周を超え、需要の多い東部の都市などに西部から電力を届ける。

近年は、西部砂漠地帯から太陽光、風力発電の電力を送る意義を政府が強調しており、広い国土を生かして大規模なクリーンエネルギー利用を実現する最先端の送電網と喧伝する。さらに、この技術で世界規模の電力網を中国主導で構築する野望を抱き、国連などで各国に参加を呼びかけている。記事中に言及はないが、日本は最大の標的となっており、送電網連系による影響力拡大、供給力支配の意図が以前から指摘されてきた。

ただ運用の実態は怪しいらしい。UHVで送電される太陽光と風力は発電量が安定しないため3割に達しておらず、政府は水力で水増しして再生可能エネルギーは5割以上と発表している。それでも残る空きは石炭火力発電で穴埋めしており、クリーンな送電網かどうかが疑われる。そうでもしないと、UHV整備に投じてきた1.6兆元(32兆円)の資金を回収できないという。

長距離送電網ならではの課題もある。例えば四川省の水力発電所の多くはUHV向けに建設されたため地域の電力網に接続されていない。同省は今夏、電力不足に陥ったが、こうした水力の電力は東部に送られてしまった。加えて、大規模な送電網は一部が故障すれば大停電のリスクがあるとの米国の専門家の懸念も紹介されている。

記事は、多くの研究者がUHV技術は環境問題の唯一の解ではないと考えていると指摘する。中国の野望達成はそう容易ではない。

(井川 陽次郎/工房YOIKA代表)

【新電力】期待高まる蓄電池事業 収益化は至難の業


【業界スクランブル/新電力】

今、系統用蓄電池に大きな注目が集まっている。長期脱炭素電源オークション応札に向けた準備に追われる事業者のみならず、各種電力市場を活用して高収益を目論む事業者もかなりの数に上る模様だ。特に需給調整市場三次②が一時、異常な高騰を記録したこともあり、系統用蓄電池アグリゲーションビジネスは、新電力の新たな収益源になるとの期待がある。

電力卸市場は需要期・不需要期に関係なく比較的高値で安定、一方で発電事業者との相対卸契約にしても燃料価格の高値安定が続き割高感が継続、という状況。電力小売業は、逆ザヤリスクは低下したものの、魅力の乏しい低収益事業となっている。アグリゲーションビジネスは多くの新電力にとり、魅力的な新事業と映るのであろう。今後も、特定卸事業者登録をする事業者が増えていくと思われる。

ただ、系統用蓄電池アグリゲーションビジネスは、従来の電気事業の知見のみでは成功し得ない、という点を新電力各社は強く認識すべきだ。系統用蓄電池事業の収益の柱と目される需需給調整市場の応札単位時間は、今の3時間から30分に短縮される。これに加えて同時市場の導入により、従来の電力市場区分は抜本的に見直されることとなる。

アグリゲーターは、⊿kW・kW時双方の市場予測を30分単位で正確に行うと同時に、蓄電池の充電計画と両立する最適応札戦略を実現し市場から収益を上げねばならない。各種制約条件下での最適モデル構築は、まさにAIが得意とする分野である。市場制度改革が、電力とAI業界の融合と業界のイノベーションを促進することに期待したい。(S)

トランプ再選で政策大転換 エネ基やNDCへの影響注視


【ワールドワイド/環境】

11月の米大統領選で共和党のトランプ前大統領が民主党のハリス副大統領に圧勝した。上下両院でも共和党が過半数を制し、第2次トランプ政権の政策遂行上の自由度は極めて高い。

トランプ氏は「米国の石油、天然ガスの採掘を推し進め(ドリル・ベイビー・ドリル)、米国を輸入エネルギーに依存しないエネルギードミナントな国にする」と強調してきた。

バイデン政権は発足直後、連邦所有地でのシェールオイル・ガスの採掘を禁止し、石油ガス採掘に関する環境規制を強化。昨年1月には脱化石燃料の一環として一部のLNGの輸出許可を一時停止した。このようなアンチ化石燃料的政策は即時に撤廃される。バイデン政権下で推進された証券監視委員会による炭素情報開示義務も撤廃されるだろう。

他方、クリーンエネルギー転換の柱としてバイデン政権が導入したインフレ抑制法については、多くの共和党州も裨益しているため、何らかの形で存続する可能性が高い。

国際面ではパリ協定から再度離脱することは確実であり、気候変動枠組条約そのものから離脱する可能性もある。これで温暖化防止の国際的取り組みが崩壊するわけではないが、先進国中最大の排出国である米国が温暖化防止に背を向け、気候資金への拠出を一切行わないことになれば、温暖化防止の国際的なモメンタムが低下することは避けられない。

中東依存度の高い日本のエネルギー安全保障にとってはプラスだ。第1次トランプ政権時代の日米戦略エネルギーパートナーシップのようにLNG供給、原子力、重要鉱物分野などで協力が考えられる。他方、パリ協定離脱と歩調を合わせることは外交上のコストが余りに高い。日本はパリ協定にとどまりつつ、国益を毀損しないエネルギー・温暖化政策をしたたかに追求するしかないが、日本の温暖化目標の前提となっている「1・5℃」目標、2050年カーボンニュートラルが、米国の離脱によりいよいよ不可能になっていることを肝に銘ずる必要がある。

トランプ政権のように温暖化問題を無視することは誤りだが、国益最優先の考え方そのものは当たり前でもある。第2次政権の誕生がわが国のNDC(国別目標)やエネルギー基本計画に与える影響が注目される。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

【電力】自ら傷口広げた自民 エネ政策の空白に懸念


【業界スクランブル/電力】

10月27日に投開票が行われた衆議院議員選挙の結果、自民・公明の連立与党は大幅に議席を減らし、2009年以来、15年ぶりの過半数割れとなった。その時は民主党が過半数の議席を獲得して政権交代となったが、今回は野党第一党の立憲民主党が議席数を増やしたものの風が吹いたわけでもなく、特別国会では自民党総裁の石破茂氏が再び総理大臣に指名され、当面は少数与党として政権を運営していくことになる。

今回の与党の議席減について、筆者としては、政治とカネに絡めてあることないこと言い立てれば与党の足を引っ張れる、という成功体験をメディアに味わわせてしまった残念な結果だと思っている。すなわち、メディアが多用した裏金問題というレッテル貼りは、司法も政治資金報告書への不記載以上の問題はないと結論付けたものを、まるで脱税や収賄でもしたかのような印象操作のために使われた。

筆者はここで、福島第一原子力発電所の処理水海洋放出を想起する。「汚染水」というメディアの非科学的なレッテル貼りに対して、科学的な説明を貫徹して対抗した。時間はかかったが、中国の理不尽な水産物禁輸措置も今は解除に向かっている。

ところが、今回自民党は非論理的なレッテル貼り報道に迎合して、一部議員を公認しない、比例区との重複立候補を認めないなどの追加処分を行って傷口を広げていった。

この二重処分のおかげで議席を失った議員の中には、エネルギー問題に理解の深い議員も複数含まれている。第7次エネルギー基本計画の議論はこれから正念場であるのに、悪影響がないことを願うばかりだ。(V)

PJM管内で電力需要が増大 予備力の維持に懸念


【ワールドワイド/市場】

米国北東部地域の地域送電機関であるPJMは米東部13州とコロンビア特別区をカバーし、系統運用および卸電力市場運営を行っている。PJMでは安価な天然ガス供給を背景に、ファンドなど民間資本が所有するガス火力の新設が継続的に行われてきた。この結果、電源構成が2023年末時点で天然ガスが48%(設備容量ベース)と半分を占め、高い供給予備力を保っている。しかし現在、接続待ちをしている新規発電設備は太陽光など再生可能エネルギー電源が中心である。50年には再エネと電力貯蔵設備の割合(設備容量ベース)が47%に達するとの予測もあり、電源構成に占める火力の割合は段階的に減少する見通しだ。

一方、PJM管内では特にAIやデータセンター(DC)による電力需要の増加が電力システムに与える影響が懸念されている。将来的にDCがけん引する電力需要の増加に加え、石炭火力などの廃止の加速、新規発電設備の導入が遅れる事例が続いた場合、現状の高い供給予備力を維持することは難しい。PJMの電力需要は19年ごろまではほぼ横ばいであったが、DCの急増と各州の電化目標の達成に向けた動きにより、大きく増加した。これに伴い、PJM管内では39年までに夏季ピークが4200万kW、冬季ピークが4300万kW増加すると予測している。特に顕著なのがバージニア州で、ドミニオン社管内では24~34年にかけて消費電力量の増加率は平均で年率5・5%が見込まれている。

電力需要の増加への対応策として、PJMは24年に再エネ電源や電力貯蔵設備など2600万kWの新規プロジェクトを承認し、25年内には追加で4600万kWのプロジェクトを承認する予定だ。さらに、既存発電設備の運転延長を進めており、メリーランド州の石油火力発電所の運転期間を28年まで延長するなどの措置が取られている。またPJMの24年地域送電拡張計画では電力需要の増加に対応するための費用として約51億ドルが試算され、新規変電所および送電線の建設、既存施設の改善が必要と示された。

PJM管内の電気事業者はそれぞれ新規の設備容量の建設や既存の発電設備の運転延長などを実施しているものの、運開の遅延や系統増強費用の増加に伴うコストへの影響など課題は多く、信頼性を確保しつつコストを抑えるための対策をさらに強化する必要がある。

(長江 翼/海外電力調査会・調査第一部)

米LNGに依存するエジプト 外貨不足や債務問題に拍車


【ワールドワイド/資源】

エジプトは今年4月30日、国内の電力不足対策として、同年5月からLNGの輸出を一時的に停止すると発表した。この決定には、国内ガス生産量の低迷に加え、人口増加や夏季の気温上昇によるガス需要増加、さらにはイスラエルからのガス輸入量の減少が影響している。加えて、通貨安やインフレなどによる債務危機と中東情勢の不安定化に伴うスエズ運河使用料の外貨収入が減少に転じる中、同国は外貨準備高を確保するため、夏季期間において計画停電を実施した。

こうした状況を受け、同国政府は国内の電力不足、ガス需要に対処するため約6年ぶりにLNG輸入を再開した。24年において約52隻のLNG貨物を調達し、25年第1四半期に需要の少ない冬季としては前例のない最大20カーゴを調達するための新たな入札が準備されている、と報じられている。

なお、スエズ以東からの供給懸念により輸入の大部分は米国LNGに依存している。LNG輸入増加はエジプトの財政に大きな負担をかけ、同国の深刻な外貨不足や債務問題に拍車をかけている。

湾岸同盟国や国際通貨基金(IMF)、欧州連合(EU)、世界銀行からの大規模な米ドル預金を受けて今後約2年は、LNG輸入を継続できるものと市場では評価されているが、中長期的な対応策はいまだ見出だされていない。

エジプトでは通常、発電燃料の約80%をガスが占めているが、電力不足の影響により、約70%まで落ち込んでおり、電気を供給し続けるためにLNGだけでなく燃料油の輸入も増加させている。

また、ノルウェーのHoegh LNG社からFSRU(浮体式LNG貯蔵・再ガス化設備)をチャーターし、さらには2基目のFSRU導入を検討することで、LNG輸入のさらなる安定化を図ろうとしている。

しかし、政府による石油会社への未払い債務が新たな投資の妨げとなっている。上流部門への新たな投資を刺激しなければ、持続可能なエネルギー供給体制の確立には課題が残る。

今後もエジプトはLNGを輸入し続けるとみられるが、輸入依存からの脱却にはガス生産の増強や再生可能エネルギーの利用拡大が不可欠であり、早急な対策が求められている。

世界のガス市場に影響を与える国として今後のエジプトのLNG輸入動向が注目される。

(野口洋佑/エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

【インフォメーション】エネルギー企業・団体の最新動向(2024年12月号)


【東京都/水素社会の早期実現を目指す国際フォーラム開催】

東京都は10月22日、グリーン水素の社会実装化の加速をテーマとした国際会議「HENCA Tokyo 2024」を都内で開いた。会議には小池百合子知事のほか、ENEOSや川崎重工業、豪州やインドネシアの関係者らが出席。小池知事は「都は大規模なグリーン水素の製造拠点の整備に着手している。官民で連携し水素導管を含む供給体制の構築へ議論をしている」と述べた。豪州関係者は「ニューサウスウェールズ州では世界最大のグリーン水素製造拠点を目指しており、これにインセンティブを与え、2026年から市場を通じてグリーン水素を供給する」と発言した。


【Looop、EcoFlowなど/電気代を減らせるポータブル電源の実証販売開始】

Looopは11月1日、ポータブル電源事業で実績を持つEcoFlow 、エネルギーマネジメントを強みとするYanekaraの2社と共同で、業界初となる「市場連動型」充放電サービスと連携したポータブル電源の実証販売を開始した。市場連動型充放電サービスとポータブル電源を連携させることで、Looopが提供する市場連動型電気料金プランの価格が安い時間帯に充電し、高価格帯に電力を放電するようにポータブル電源を自動制御、家電などに使用される電気代を抑える。蓄電池市場が拡大する中、3社は賃貸住宅や集合住宅なども視野に入れ、市場開拓を進めたい考えだ。


【マクニカ/港湾でペロブスカイト太陽電池の大規模実証】

マクニカはこのほど、薄くて曲がるペロブスカイト太陽電池の実用化に向け、港湾などの苛烈な環境下で大規模な実証実験を始めた。海風が強い屋外で普及の鍵を握る耐久性などについて検証するのが狙い。光電変換技術を専門とするペクセル・テクノロジーズや薄膜加工品を手掛ける麗光と共同で取り組む。実験の場所は、横浜港大さん橋国際客船ターミナル(横浜市)の屋上広場で、モジュールの容易な交換を可能にする着脱方法についても確かめる。期間は来年1月末まで。国内最大規模の実験で、環境省の「地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業」に採択された。


【東京ガス/初の「人的資本レポート」でキャリア支援強調】

東京ガスは、「東京ガスグループ人的資本レポート2024」を公開した。人的資本に特化したレポートの発行はグループ初。説明会で、同社常務執行役員CHROの斉藤彰浩氏が紹介した。取り上げた人事施策の一つが人材の成長支援。例えば、社員の専門性を見える化するシステム「CIRCLE」で、個人の理想を踏まえたキャリア形成などを後押ししている。


【日豪経済会議/脱炭素社会実現に向けた連携の在り方など議論】

日本とオーストラリアの財界人らが集う「日豪経済会議」が10月23~25日に名古屋市で開かれ、脱炭素社会の実現に向けた連携の在り方などを議論した。豪州のキング資源相が、豪州産ガスの日本への安定供給などについて講演。同委員会の広瀬道明委員長(東京ガス相談役)は「両国の協力関係を東南アジアや島しょ国に広げていくことが重要だ」と述べた。


【レモンガス/LPガスや器具販売で優秀な成績の社員を表彰】

LPガス販売事業者のレモンガスはこのほど、2023年度にLPガスやガス器具などの販売で優秀な成績を収めた社員をたたえる表彰式を横浜市内で開いた。最優秀賞には400件近い新規顧客を獲得した社員が選ばれた。「(無償配管の改善に向けた)液化石油ガス法省令改正で不透明感が漂う中、ターゲットを絞りお客さまの数を増やした」と評価を受けた。