【事業者探訪】TERA Energy
社会に必要な活動を支えるため、僧侶が設立した新電力が順調に事業を拡大している。
市場に調整力を拠出するサービスも始めた他、神社仏閣への分散型電源普及にも一役買う。
仏教都市ならでの新電力が京都市に存在する。僧侶4人が設立した、その名もテラエナジーだ。〝ソーシャルグッド〟な活動と再生可能エネルギーの活用にこだわり、2018年の設立以降、販売量を順調に伸ばしてきた。沖縄以外の全国に供給し、低圧~特別高圧の顧客数は3300件ほど。6月の販売電力量は全国の新電力で82位(2590万kW時)だった。これほどの規模の新電力をなぜ僧侶が運営するに至ったのか―。

代表取締役の竹本了悟氏は、浄土真宗派の西照寺(奈良県葛城市)住職を務めながら、同社の経営に取り組む。広島県の寺の次男として育ち、自分の生き方を模索する中、まず自衛官を務めたが家族を犠牲にしかねない働き方などに疑問を感じて退官。大学院で哲学・仏教を学び直し、宗教者として人々の孤独に寄り添う道を歩むと決意した。
浄土真宗本願寺派の本山である西本願寺の研究職員として社会課題解決の研究に取り組みつつ、NPO法人・京都自死・自殺相談センター(Sotto)を設立。現在も同法人理事を務める。助けを求める人は多く、窓口は常時パンク状態に。社会に必要な活動を次代につなぐため、ボランティアベースでなく、安定して資金を稼ぐ方法を模索するようになった。
そんな折、シュタットベルケの存在を耳にした。「エネルギー事業の収益で地域の他の社会インフラを維持する仕組みに感銘を受けた。寄付付き電気でSottoの運営支援というアイデアを思いついた」(竹本氏)
寄付付き再エネ由来を提供 適正価格にこだわり
竹本氏は起業を一念発起し、志を共有した他の僧侶3人とともに企業経営、そして電力事業を一から勉強した。顧客情報管理システム(CIS)は当初外部の利用を検討したが、費用の高さに悩んでいたところ、米国勤務を経て帰国した市内のシステムエンジニアから「ニュースを見て活動を応援したい」との連絡が。結局、彼が独自でシステムを構築してみせた。受給管理についてはみんな電力(現アップデーター)のシステムを、料金を抑えてもらい利用。そして同社のサポートを受けつつ、バランシンググループ(BG)も独自で運用し事業開始にこぎつけた。その後インバランスリスクの高まりを感じ、2年前からは同社のBGを活用する。

料金の特徴は、まず寄付付きであること。料金に上乗せせず、同社の純利益から105団体に寄付し、顧客に「この団体を応援したい」と思ってもらうことを目指す。例えば22年4月からの1年間で、売上高18億円のうち2300万円を寄付した。
また、再エネ由来を志向し、電源構成の8割をFIT(固定価格買い取り)が占め、非化石証書付きのオプションもある。従量料金も基本料金もできるだけシンプルな構成とし、顧客への分かりやすさを重視する。
さらなるこだわりが適正価格販売だ。市場価格が安い時期に固定価格で利ザヤを稼ぐモデルが一般的だったが、同社は市場連動1本で勝負。「インフラ事業は誠実であるべきで、固定価格でもうけ過ぎることを避けたかった」(同)ためだ。現在は、21年初頭の市場価格スパイクの経験からニーズが高まった固定価格プランも用意する。
こうした戦略で3年前の市場価格高騰時も赤字を回避。多くの他電力が高圧以上への供給を停止する中、これらの顧客を積極的に取りに行き、同社の市場連動の顧客離脱も1~2割で済んだ。「手数料を抑え、長いスパンで見れば今でも市場連動の方が顧客にメリットがあると思っている。中長期の視点で腹を据えた戦略が重要だ」(同)。なお、24年度決算(25年6月期)では売上高80億円を見込む。