【巻頭インタビュー】武藤容治/経済産業相
トランプ政権誕生をはじめ、日本を取り巻くエネルギー情勢は一層先行きが見通せない。
脱炭素と経済成長の両立に向けどのようにかじを取るのか、武藤経産相に考えを聞いた。
衆議院議員。当選6回。慶應義塾大学商学部卒業。2005年岐阜3区から衆議院議員に初当選。外務副大臣、経産副大臣、自民党経産部会長、総合エネルギー戦略調査会事務局長などを経て、24年から現職。
―経済産業政策全般において、どのような課題意識を持ち、何を成し遂げたいですか。
武藤 一つは価格転嫁を可能にする環境を整え、物価上昇を上回る賃上げを実現することです。これが経済の好循環を生み出すための課題と言えます。中小・小規模事業者の経営においてエネルギーコストが大きな圧迫要因にならないようにすることも重要です。第7次エネルギー基本計画やGX(グリーントランスフォーメーション)2040ビジョンを踏まえ、成長型の投資を呼び込み、好循環を生み出すことも目指していきます。
―エネルギー価格補助金の度重なる延長については、業界から批判の声が上がっています。
武藤 いつまでも継続すべき政策でないのは確かです。段階的に縮小させてはいますが、物価高に苦しむ国民生活や事業者を支える観点から必要な措置であり、よく状況を見定めながら今後の対応を考えていきます。
―日本を取り巻くエネルギー情勢をどう見ていますか。
武藤 世界情勢は依然として混迷しており不確定要素が多い。国内需要についても、半導体産業の進出や、生成AIの台頭などで電力需要の増加が見込まれています。S+3E(安全性、供給安定性、経済合理性、環境適合性)を前提に、安定的に国際的に遜色ない価格水準で電力供給を実現させなくてはなりません。輸入燃料に依存していると為替変動による影響が大きいため、エネルギー自給率の向上は必須で、再生可能エネルギーと原子力の拡大がその鍵を握ります。ペロブスカイト太陽電池や、洋上風力発電など、次世代技術の進展を視野に、需給の両面で包括的に対応することが不可欠です。トランジションに向け、今年はまさに正念場を迎える時期に差し掛かっています。
―資源小国である日本にとって、化石資源の安定的な調達確保は依然として避けられない課題です。
武藤 長期的には脱炭素化を進めていく一方で、化石燃料の供給と確保は、引き続き必要です。特に、LNGはCO2排出量が比較的少なく、脱炭素化へのトランジション期を支える重要なエネルギーとなります。長期契約をベースに、安定した価格で調達することが重要です。今後も、積極的な資源外交やJOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)によるリスクマネーの供給を通じて支援していきます。一方、合成燃料などの次世代燃料や水素、CCS(CO2回収・貯留)への目配せも欠かせません。AZEC(アジア・ゼロエミッション共同体)などを通じて価値観を共有する国々と、協力体制を整えていきます。
―世界的な脱炭素の潮流の中で、経済成長とどのように両立していくべきだと考えますか。
武藤 現実的なアプローチが求められます。例えば、自動車産業において、すべての車両を一斉にEVに切り替えるのは適切ではないでしょう。その点、日本は自国の自動車メーカーが強みを持ち、環境性能が高いハイブリッド車(HV)を電動車の一種として位置付けています。
発電分野でも、アンモニア混焼をはじめ、日本ならではの技術が発展してきました。こうした技術を国内にとどめず、AZECなどを通じて、火力発電を含めた脱炭素化の取り組みを進めていきたい。こうして日本が具体的な貢献策を実現していくことこそ、現実的なアプローチといえるでしょう。
―米国との関係についてはどうお考えですか。
武藤 トランプ大統領は、パリ協定から離脱しましたが、いずれにしても気候変動対策は世界全体の課題であり、前進させていく必要があります。また同盟国として、エネルギー安全保障の観点からも、価値観を共有することが重要です。主張すべきことはしっかり主張しながら、協調を図っていきます。
自立した体制を構築 かじ取りに重い責任
―首都圏の電力供給で焦点となっている柏崎刈羽原子力発電所の再稼働は、地元同意が得られずにいます。
武藤 地元のご理解があって初めて実現できるものだと考えています。実情を踏まえつつ丁寧に進めていく方針です。
―次世代革新炉の開発や建て替えについて、前進に向けた動きはあるのでしょうか。
武藤 革新軽水炉の規制に関しては、事業者と規制当局との対話が進展し、予見性が高まる見通しです。これまでの取り組みが一つの区切りを迎え、次のステップに進む準備が整いつつあります。ようやくここまで来た、との思いです。新設を後押しするには、ファイナンス面での予見性を確保するとともに、国民の理解を得ることが欠かせません。依然として高いハードルがありますが、これらの課題に着実に取り組み、次の一歩を踏み出すことが求められます。
―最後に、大臣の考えるエネルギー分野での「国益」とは何か、お聞かせください。
武藤 なるべく他国に依存せず、自国で賄える体制を整えることです。例えば、日本はこれまでエネルギー資源を海外に依存する中で、原子力を活用し、安定供給の一端を担ってきました。しかし、福島第一原発事故を契機に原発の運転停止を経験しました。新たに生成AIなどがもたらす電力需要の増加も懸念される中で、改めて原子力の重要性が認識されつつあります。こうした課題を前に、政府としてのかじ取りが問われており、その責任は重い。今後も国益を見据えた政策の実現に努めていきます。