【業界紙の目】宗敦司/エンジニアリング・ジャーナル社編集長
脱炭素化が急速に進む中で、エンジニアリング産業も事業構造の大転換に本腰を入れている。
これまでのノウハウも生かしつつ、この激変を乗り越えチャンスをつかめるか、各社の戦略が試される。
プラントビジネスの事業環境は急速な変化が進んでいる。日本のエンジニアリング会社が得意とする大規模LNGプラントは、2019年の記録的な規模の発注量から一転し、20年はわずか1件にとどまった。そして今年はカタールの大規模LNGプロジェクトが発注となったものの、最終投資決定が予定されていた案件の約半分は先送り、もしくは中断となっている。
実行が予想されるLNGプロジェクトも、今後はCCUS(CO2回収・利用・貯留)を併設するよう計画を変更している。また石炭火力発電は世界的に投資からの撤退が進み、日本の石炭火力プラントメーカーも今後の新規受注を諦めているのが実情だ。
水素・アンモニアに積極姿勢 洋上風力では温度差も
その一方で、水素や燃料アンモニア関連のプロジェクトが世界各地で立ち上がってきた。発電設備は昨年の投資減少から今年は増加に転じるとみられているが、IEA(国際エネルギー機関)では発電設備投資の70%が再生可能エネルギーとなると予測している。
脱炭素化はプラント市場に大きな影響を与えており、エンジニアリング産業がこれまで軸足としてきた分野の多くで持続可能性に疑問が生じ、事業分野のシフトは必須となった。4月以後、エンジニアリング会社の多くが、こうした状況に対応した事業の長期ビジョンや経営計画を相次ぎ公表している。その多くは、既存の事業分野を継続しつつ、新規事業の育成を図っていくというものだ。
専業エンジ会社の事業の基本はEPC(設計、調達、建設)である。特に大型のプラント建設プロジェクトのEPCで日本は優位性を確保してきた。そのノウハウそのものは、化石資源関連以外の分野でも生かすことができる。
例えば、ガス処理や石油精製、LNG、石油化学プラントには、水素や燃料アンモニア関連技術も使われており、プラント建設そのもののノウハウはさほど変わらない。実際、千代田化工建設や日揮ホールディングス、東洋エンジニアリングはこれまでも、水素やアンモニア設備について長年の実績がある。これらの設備の規模はこれまでより飛躍的に大きくなるのだが、スケールアップもエンジニアリング会社の得意分野だ。そのため、各社はこれらの分野に積極的に取り組んでいくことを表明している。
30年以後は、既存のEPC分野の比率は50%程度となり、新規分野のEPCやサービス事業、あるいは事業運営などが残りを占めるという事業イメージを描く。分野の広がりだけでなく、EPC以外の仕事に幅を広げようとしている点が注目される。
再エネに関しても建設実績は多く保有している。ただ、今後主力となる洋上風力は各社で若干温度差があり、日揮ホールディングスは積極的だが、東洋エンジニアリングは日鉄エンジニアリングとのコラボレーションの中で対応していく程度だ。
一方、これまで積極的に洋上風力に取り組んでこなかったJFEエンジニアリングは、180度方向転換する方針だ。JFEグループが取り組みを強化する中、国内で初めて基礎構造物であるモノパイルの生産工場を、約400億円を投じて構築する計画を打ち出している。
相次ぐ組織変更 分野横断で技術を統合
脱炭素化は、エンジニアリングビジネスそのものを大きく変化させてきている。
IHIはプラント事業ユニットとボイラー事業ユニットを統合して新たに「カーボンソリューション」ユニットとした。三菱重工業も今年、三菱パワーを本体に統合する。ほかにもプラント事業関連分野の組織やセグメントを変更する重工メーカーは多い。
その理由は、今後求められる脱炭素化エンジニアリングは、従来事業の枠を突破しなければ実現できないからだ。
例えば川崎重工業は液化水素チェーンの確立を図っているが、これにはプラントビジネスだけでなく船舶も関与する。そのためセグメントを「エネルギーソリューション&マリン」とした。住友重機械工業も、同様に船舶や産業機械とプラント事業のセグメントを統合。「エネルギー&ライフライン」として、液化空気エネルギー貯蔵、バイオマスの地域別事業展開、バイオリアクター展開などを進める。こうした動きに象徴されるように、脱炭素化は個別技術で対応するのではなく、分野横断的に各種技術を統合したソリューションを展開していかなければならない。
川重などが豪州ビクトリア州に建設した水素液化基地
ケミカルや航空機燃料なども、これまでのようにナフサなどの安定した原料を使用できなくなると、バイオマス由来や再エネ由来の原料、さらにCO2から合成した炭素循環原料を使っていく必要がある。LNGも先述のようにCCUS設備付きが標準となり、カーボンニュートラルLNGでなければ販売できなくなる。
これらの脱炭素化需要を満たしていくには、まずCO2を回収する技術が必須だ。CO2回収が低コストで可能となればガスタービン複合発電は将来的に適用可能だし、石炭火力の復権もあり得る。
また、化石資源由来の水素やアンモニアもクリーン化することができる。さらに再エネ由来の水素と、回収したCO2を電気分解することで得られるCO(一酸化炭素)を組み合わせた合成ガスを原料に、触媒反応を用いて液体炭化水素を合成するFT合成(フィッシャー・トロプシュ法)技術経由で、各種の燃料製造や化学品原料の製造も可能となる。
これら技術のほとんどをエンジ業界は既に持っている。そして自社技術に限らず、廃棄プラスチックのガス化リサイクルなど他業界が保有する技術をいかに組み合わせ、脱炭素社会に実装していくか。その統合化ソリューションを構築していく上でも、エンジ産業が重要な役割を担うことになる。
エンジ産業の覚悟は示された。脱炭素をチャンスとし、前進していくのみだ。
〈エンジニアリングビジネス〉〇1981年創刊〇発行部数:1万部〇読者構成:エンジニアリング会社、プラントメーカー、機器ベンダーなど