【私の経営論(3)】比嘉直人/ネクステムズ社長
「ベンチャーの社長は資金調達に時間を取られ、技術開発に没頭できないよ」。信頼する方の言葉。すぐに痛感することになる。
われわれの構想に活用できる補助事業があることを知り、理想的な普及モデルの証明のために総額3億円の補助事業への申請に躍起になっていた。手元資金は数百万円。早速銀行へ。
補助事業の申請や第三者所有と呼ばれる普及モデルで利用者建物に無料で太陽光発電などを設置して、利用料金で投資回収を図ることなどを説明したが、前例がほとんどない事業であるため銀行側は一向に納得しない。
一つの銀行では10回目の訪問で別の支店管轄になる宣言を受けた。一つの銀行ではベンチャーファンドのチラシを渡しただけだった。望みの綱の地元銀行を幾度も訪問し、融資の取り付けに成功した。この金融機関とのやりとりは大変骨が折れる作業だったが、資金調達に必要なさまざまな資料が出来上がる頃、私の知識もかなり潤沢になっていた。
メーカーへの受発注頓挫 脱補助金で普及モデルを
こうして2018年度は市営住宅40棟に太陽光発電とエコキュートを導入する事業を行った。翌年度は福祉施設や事業施設など加え、前年度の4倍程度に対象範囲を拡大して補助金申請を行った。他方、事業に新規性や魅力を感じていただけた商社や企業から出資の申し出があったので、第三者割当増資を実施することにした。巨額の資金調達のためにも企業与信を高めるためにも必要であった。
各社との協議で依頼される資料を、一つひとつ頭を抱えながら作成した。どうにか各社と出資条件が整った頃、補助金の採択結果が出たが不採択3件、条件付き1件というがくぜんとする内容だった。
後日、理由を確認したが、前年度の事業内容に類似しており先進性に欠けるとのこと。前年度とは異なる点が多数あったので食い下がったが覆すことはできなかった。
この衝撃で、3社が出資を辞退し、銀行融資も白紙に。出資意向をつないでくれた3社と協議して、融資無しで済む程度に採択された1件を仕立て直し、交付申請した。問題はメーカーなどへの受注準備をいったんキャンセルしなければならないことだった。交付決定までは発注不可だが、資機材が多量だったため、メーカー側も計画生産を必要としていた。それをキャンセルするのだから相手も尋常ではなかった。心苦しかった。
さらに、宮古島は当時異常なまでのホテル建設ラッシュがあり、現場職人の手配が難しい状況だったので補助事業を見越して人員や宿泊先も確保してもらうなどの準備を施工会社にしてもらっていたが、これも全て白紙に戻した。
当初計画の8分の1の規模で交付決定となったので、機器調達をメーカーと再度協議して資機材を購入したが、資金調達も十分でなかったので一時は口座に数百円しかない状況にまで追い込まれた。
この苦い経験で当初目標であった「補助金に頼らない事業」の実現を強く思い返した。補助金があれば事業収支は良くなるが、今回のように採択の有無で事業推進が大きく影響を受け、企業としての信用に関わり機器調達などが危ぶまれる。単年度事業であるため労力を過度に集中させる必要もある。
逆に、補助金に頼らなければ不安定性がなくなり、補助金に不慣れな事業者でも取り組むことができる真の普及モデルとなり得る。事業性を高めるためには自家消費量を引き上げる必要があった。太陽光とエコキュートでは沖縄地域の給湯需要が少ないこともあり、自家消費量は高くならない。建物に電力供給しても昼間需要のみでは大きく改善はしない。

