【エネルギービジネスのリーダー達】木南陽介/レノバ代表取締役社長CEO
創業から20年、将来の気候変動問題の解決に向け、再エネの大規模開発で実績を積んできた。地域との信頼関係の下で実現した発電所は、自然と共存しながら稼働を続けている。

再生可能エネルギーの電源開発と運営を専業とするレノバは今年、創業から20年目を迎えた。「気候変動問題に責任を持って対応するには民間企業が事業として行っていくしかない」。木南陽介社長はこう力を込める。こだわりは大規模開発。「CO2削減には一定の規模が必要」だからだ。有望地域の選定、事業性評価や発電所の設計、電力会社との協議、許認可・設備認定の取得から建設、運転管理まで、自社に専門性の高い社員をそろえ、ほぼ全てのプロジェクトのリード企業として、パートナー企業との協働の中核を担う。
再エネの開発には、立地地域と発電所の共生が常に課題となる。「多くの地域の方々にとって、電源立地は初めての経験であることが多い。懇切丁寧に説明するのは当然のこと」。時間をかけ、地域住民ととことん向き合う。環境影響評価法(環境アセスメント)に基づく説明会に加えて、個人・団体・町内会など、さまざまなステークホルダーにも個別に事業内容を説明。幾度もの質疑応答や対話を重ねるうち、徐々に地元の要望や期待が見えてくる。雇用創出、観光資源としての活用、林業や漁業など地場産業へのメリット―。発電所の設計・運用に、こうした要望や期待を反映して開発を進めていく。
「地域の資源は使わせていただくもの」。だからこそ、発電所は地元住民の意向に沿い、地域にプラスになるべきだ。そうした思いで太陽光、風力、木質バイオマス、地熱の電源開発・運転に取り組み、現在運営・建設中(工事準備中を含む)の発電所は国内外で20カ所、合計設備容量は約91万kWで、開発中の案件も含めると約180万kWに上る(10月末日現在)。
自然を最大限に生かす 共生を目指して開発
エネルギー業界においてレノバは新規参入組。故に、最初に取り組んだ太陽光発電では、建設が容易な案件はほぼなく、さまざまな障壁との闘いの連続だった。一つが三重県の「四日市ソーラー発電所(2万1600kW)」。三重県は大規模太陽光に関する独自の条例に基づき、環境影響評価法で求められる水準に近い環境アセスメントの手続きを定めており、業界ではハードルが高い地域。そうした中、適地と見込んで、開発を決めた。また、事前調査で複数の希少生物の生息を確認し、建設計画を大幅に変更。追加投資で1haのビオトープを造成した。
一方、岩手県の山中に建設した「軽米西ソーラー・東ソーラー発電所(計約13万kW)」では、斜面を削る平地化を行わず、山肌を残し、日の当たる南側に太陽光パネルを敷設。地面は緑化し、雨水の流量を加減する調整池は約30カ所に造成し、自然災害に備えた。
一手間も二手間もかけるのは、発電所が地域の付加価値となり、将来にわたって長く運用される電源となるべきとの思いからだ。「価値を高める提案にこそ意義がある」。レノバは投資会社ではない、事業会社だという自負がある。
身近にあった環境問題 会社設立のきっかけに
神戸市の出身。幼少期を過ごした1980年代、山を削り、臨海部を埋め立て、新たな街が生まれる一方、自然の変わり果てた姿を目の当たりにしてきた。エネルギー・環境問題に関心を抱き、京都大学に進学後、環境政策論と物質環境論を専攻。在学中、地球温暖化防止京都会議(COP3)が開催され、議論の行方を見守った。しかし、一部の学識者などの関心事にとどまり、社会全体の問題意識になっていないと実感。ビジネスを通じた環境問題の解決への貢献を目指し、会社設立を決意する。
コンサルティング会社勤務を経て、創業時はリサイクルワンという社名で環境・エネルギー分野の調査・コンサルティングやリサイクル事業の開発などで実績を積みつつ、再エネ事業参入の機会をうかがった。東日本大震災でエネルギー政策が大きく転換。2012年、調査・検討を進めてきた再エネ事業への本格参入を果たす。
今後、注力するのが洋上風力だ。参入を決めたのは15年のこと。秋田県の新エネ戦略を踏まえ、由利本荘市沖での事業計画を策定した。漁業関係者との海底地盤調査のほか、環境アセスメントについては、法定の説明会に限らず大小数十回の自主説明会を開催した。
今年6月には、準備書に対する経済産業相からの勧告を受け、評価書提出の最終段階に入った。また、由利本荘市沖が国の促進区域に指定され、公募への準備を進めている。洋上風力は、風車やその据付け、海底送電線など、関連する技術分野が多岐にわたり、エンジニアリング力を今まで以上に高める絶好の機会。また、地域の期待に応える上でやりがいもある。 国が洋上風力推進の方向性を示し、日本は今、普及に向けたスタート地点に立ったところだ。「国民負担を抑えた、持続可能な洋上風力開発のモデル事業となる責務を感じている」。自身にプレッシャーを掛け、挑戦する日々が続く。