【気候危機の真相 Vol.12】杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹
本連載では「科学的には気候危機は存在しない」というさまざまな意見を紹介してきた。
CO2ゼロを強引に進めることの深刻な弊害を、エネルギー関係者は声を大にして訴えるべきだ。
災害のたびに地球温暖化のせいだと騒ぐ記事があふれるが、ことごとくフェイクニュースである。
台風は増えても強くなってもいない。発生数は年間25個程度で一定し、「強い」に分類される台風の発生数も15個程度と横ばいだ。猛暑は都市熱や自然変動によるもので、温暖化のせいではない。温暖化によって気温が上昇したといっても過去30年間当たりで0・2℃と、感じることすら不可能だ。豪雨についても、理論的には過去30年間に0・2℃の気温上昇で雨量が増えた可能性はあるが、それでもせいぜい1%だ。よってこれも温暖化のせいではない。
観測データを見ると、温暖化による災害は皆無だと分かる。温暖化で大きな被害が出るという数値モデルによる予測はあるが、往々にして問題がある。第一に、被害予測の前提とするCO2排出量が非現実的なまでに多すぎる。第二に、モデルは気温予測の出力を見ながら任意にパラメータをいじっており、高い気温予測はこの産物である。第三に、予測は不確かな上に悪影響を誇張している。
FITの二の舞 グリーン成長の陥穽
政策決定に当たってはシミュレーションをうのみにせず、その妥当性を一つ一つ検証すべきである。実際、温暖化に関する不吉な予測はこれまで外れ続けてきた。海氷が減り絶滅すると騒がれたシロクマは、人々が保護した結果、むしろ増えている。海面上昇で沈没して無くなるといわれたサンゴ礁の島々は、実際は拡大している。サンゴは生き物なので海面が上昇しても追随するのだ。
CO2濃度は既に江戸時代の1・5倍となり、その間地球の気温は0・8℃上がったが、観測上、何の災害も起きていない。むしろ経済成長によって人類は長く健康に生きるようになり、食料生産は増えた。今後も緩やかな温暖化は続くかもしれないが、破局が訪れる気配は無い。「気候危機」「気候非常事態」といったものは、どこにも存在しない。これらの点について、本連載での小島正美氏の提案(2020年9月号)を受けて「地球温暖化ファクトシート」をまとめた(次頁の表参照)。
政府は20年12月25日に公表した「グリーン成長戦略」で、経済と環境を両立させて50年CO2排出実質ゼロを目指すとしている。ある程度のCO2削減であれば、経済成長と両立する政策は存在する。だが、50年CO2ゼロという極端な目標は、経済を破壊する可能性の方が高い。
政府は化石燃料の利用を規制し、CO2の回収貯留を義務付ける、ないしは不安定な再エネや扱いにくい水素エネルギーで代替するという。30年に年額90兆円、50年に190兆円の経済効果を見込んでいるが、莫大なコストをかけ、それをもって経済効果とするのは明白な誤りだ。もちろん巨額の温暖化対策投資をすれば、事業を請け負う企業は潤う。だが、それはエネルギー税などの形で原資を負担する大多数の企業の競争力を削ぎ、家計を圧迫し、トータルでは国民経済を深く傷付ける。
政府が太陽光発電の強引な普及を進めた帰結として、年間2兆4000億円の賦課金が国民負担となっている。かつて政府はこれも成長戦略の一環で経済効果があるとしていた。実質ゼロのための費用は年間100兆円規模となる可能性もある。FITの二の舞を一般会計に匹敵する規模でやるならば、日本経済の破綻は必定だ。





