【インフォメーション】エネルギー企業・団体の最新動向(2024年12月号)


【東京都/水素社会の早期実現を目指す国際フォーラム開催】

東京都は10月22日、グリーン水素の社会実装化の加速をテーマとした国際会議「HENCA Tokyo 2024」を都内で開いた。会議には小池百合子知事のほか、ENEOSや川崎重工業、豪州やインドネシアの関係者らが出席。小池知事は「都は大規模なグリーン水素の製造拠点の整備に着手している。官民で連携し水素導管を含む供給体制の構築へ議論をしている」と述べた。豪州関係者は「ニューサウスウェールズ州では世界最大のグリーン水素製造拠点を目指しており、これにインセンティブを与え、2026年から市場を通じてグリーン水素を供給する」と発言した。


【Looop、EcoFlowなど/電気代を減らせるポータブル電源の実証販売開始】

Looopは11月1日、ポータブル電源事業で実績を持つEcoFlow 、エネルギーマネジメントを強みとするYanekaraの2社と共同で、業界初となる「市場連動型」充放電サービスと連携したポータブル電源の実証販売を開始した。市場連動型充放電サービスとポータブル電源を連携させることで、Looopが提供する市場連動型電気料金プランの価格が安い時間帯に充電し、高価格帯に電力を放電するようにポータブル電源を自動制御、家電などに使用される電気代を抑える。蓄電池市場が拡大する中、3社は賃貸住宅や集合住宅なども視野に入れ、市場開拓を進めたい考えだ。


【マクニカ/港湾でペロブスカイト太陽電池の大規模実証】

マクニカはこのほど、薄くて曲がるペロブスカイト太陽電池の実用化に向け、港湾などの苛烈な環境下で大規模な実証実験を始めた。海風が強い屋外で普及の鍵を握る耐久性などについて検証するのが狙い。光電変換技術を専門とするペクセル・テクノロジーズや薄膜加工品を手掛ける麗光と共同で取り組む。実験の場所は、横浜港大さん橋国際客船ターミナル(横浜市)の屋上広場で、モジュールの容易な交換を可能にする着脱方法についても確かめる。期間は来年1月末まで。国内最大規模の実験で、環境省の「地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業」に採択された。


【東京ガス/初の「人的資本レポート」でキャリア支援強調】

東京ガスは、「東京ガスグループ人的資本レポート2024」を公開した。人的資本に特化したレポートの発行はグループ初。説明会で、同社常務執行役員CHROの斉藤彰浩氏が紹介した。取り上げた人事施策の一つが人材の成長支援。例えば、社員の専門性を見える化するシステム「CIRCLE」で、個人の理想を踏まえたキャリア形成などを後押ししている。


【日豪経済会議/脱炭素社会実現に向けた連携の在り方など議論】

日本とオーストラリアの財界人らが集う「日豪経済会議」が10月23~25日に名古屋市で開かれ、脱炭素社会の実現に向けた連携の在り方などを議論した。豪州のキング資源相が、豪州産ガスの日本への安定供給などについて講演。同委員会の広瀬道明委員長(東京ガス相談役)は「両国の協力関係を東南アジアや島しょ国に広げていくことが重要だ」と述べた。


【レモンガス/LPガスや器具販売で優秀な成績の社員を表彰】

LPガス販売事業者のレモンガスはこのほど、2023年度にLPガスやガス器具などの販売で優秀な成績を収めた社員をたたえる表彰式を横浜市内で開いた。最優秀賞には400件近い新規顧客を獲得した社員が選ばれた。「(無償配管の改善に向けた)液化石油ガス法省令改正で不透明感が漂う中、ターゲットを絞りお客さまの数を増やした」と評価を受けた。

自動車産業は注目&困惑 SDVの正体とは


【モビリティ社会の未来像】古川 修/電動モビリティシステム専門職大学教授・学長上席補佐

メルセデス・ベンツが2016年にCASEというキーワードを発表した。これはConnected(通信)、Autonomous(自動運転)、Share & Service(シェアサービス)、Electric(電動化)という単語を結び付けた造語で、今後の自動車技術の方向性を示すもの。以来、自動車産業はこの言葉の呪縛のもとに技術開発の方向性を模索してきた。

そこに新たに加わったキーワードがSDVである。Software Defined Vehicle(ソフトウェアで定義された自動車)の略語で、自動車の機能をソフトウェアで自由に設定するという新たなコンセプトのシステム構造を示すもの。テスラが最初に採用した。

SDVへの関心は高まるが……

18年に米国の製品評価メディアであるコンシューマーリポートは、テスラのモデル3のブレーキ性能が同クラスの他車に比べて大きく劣っている評価結果を発表した。これに対してテスラはOTA(Over The Air:無線通信で車両のソフトを更新する手段)を用いてブレーキ性能を1週間で10数%も改善して、再テスト評価の時には「お勧め」の結果を獲得した。従来は、クルマの性能を改善するには消費者がディーラーにクルマを持ち込まないとならなかったのが、その手間もコストも必要なかったことから、注目を集めた。

SDVによってソフトウェアを自由に設定して、クルマの機能を運転者や走行条件に応じて最良の状態にすることが可能となる、ということでメディアは自動車の開発の最先端の方向性とあおる記事を盛んに発信するようになり、自動車メーカーもSDVを今後必要となる重要なシステムコンセプトとして受け取るようになった。そしてメディアは、SDV技術開発競争では、テスラと中国メーカーが先行しており、日本の自動車メーカーは遅れていると評価していることが多い。

SDV技術によって自動車の概念が変わると期待されているようであるが、自動車がスマートフォンやタブレットPCのように、いろいろなアプリを自由に設定できる柔軟な構造にすぐになれるかというと、そう簡単な話ではない。自動車をソフトウェアによって自由に機能変更できるようにするには、ハードウェアもそれに対応する構造にする必要があるが、これが難しいからである。

スマートフォン、タブレットPCにしても、数十年同じ仕様のものを使えることはなく、何年かごとに新しいバージョンに機種変更をする必要がある。それは、年数が経過した古いバージョンのものは、新しいソフトウェアであるアプリに対応できなくなるためである。では、自動車のコンピューターのハードも同時に更新すればいいかというと、自動車のコンピューターは数百台が機能別に存在しており、スマートフォンやタブレットPCとは比較にならないくらい多数のハードウェアと連携しているので、不可能と言える。

また、自動車のコンピューターはADASや運動制御などの安全性を左右する機能ともつながっているので、機能不全となることは許されない。

このようなSDVの課題と将来の方向性について、次回紹介することとする。

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ふるかわ・よしみ 東京大学大学院工学研究科修了。博士(工学)。ホンダで4輪操舵システムなどの研究開発に従事。芝浦工業大教授を経て現職。

DXや電力消費の不確実性踏まえ 安定供給の継続に向け議論を


【オピニオン】小宮山 涼一/東京大学大学院工学系研究科教授

最新の電力供給計画によれば、データセンター(DC)などの建設を背景に、今後10年間の国内の電力消費は増加の見通しとなった。国内の電力消費は2007年頃を境に減少基調にあるが、生成AI普及などDXがもし今後、本格的に電力消費に影響を与えることになれば、電力安定供給が極めて重要になる。

その場合は第一に、電力供給力の確保が一層求められる。安定した電力供給力の存在により、DC建設やAI活用が可能となり、生産性向上など産業成長の機会が創出されると考えられる。その中でCO2削減の社会背景も踏まえ、着実な低炭素・脱炭素電源の新増設やリプレースと、需要に応じた適切な管理・運用が大切になり、投資はその技術を磨き、競争力を高める機会にもなり得る。近年、地域や時期により電力の供給余力(予備力)が十分とは言えない状況もみられ、電源新設が計画される一方、既設火力の廃止や非効率石炭火力のフェードアウト、送配電網の老朽化など、供給力にはリスク要因も存在する。原子力は社会の信頼獲得や放射性廃棄物処分、再生可能エネルギーは地域共生や送配電網の混雑管理、低炭素火力は燃料調達など、諸課題への取り組みとともに供給力への貢献が期待される。

第二に、レジリエンスの強化、いわゆる不測の事態での電力安定供給が重要になる。DX進展や電力化は、社会の電気への依存が高まり、電気が果たす役割がより重要になることを意味し、平時に加え、想定を上回る数十年に一度といった予期せぬ大災害でも電力供給の継続や早期復旧が求められる。日本は大地震などさまざまな自然災害のリスクにさらされ、近年は自然災害の影響の甚大化も指摘される。十分な供給余力の確保や分散型リソースの活用などを通じた緊急時対応の強化が大切になると考えられる。

最後に、電力消費の見通しの不確実性への留意が大切になる。電力消費の増加要因としてDCに加えEVなどが挙げられる一方、消費の抑制要因としてDCの省エネ可能性も指摘され(半導体高集積化や光電融合など)、長期的な電力消費の正確な予測は容易ではない。また、電力と情報インフラを統合的に形成する「ワット・ビット連携」がもし実現すれば、電源近傍でのDC建設の誘導など、地域的な電力消費の見方も変わりうる。電力消費の将来の不確実性を考慮の上、電力安定供給と脱炭素を実現し得る電源選択や送配電網増強を見極めて最適な投資を行う意思決定が必要になる。そこに電源や送配電網の建設期間を考慮すれば、さらに複雑な課題となる。将来、DX進展などで電気の社会価値が一層高まる可能性も踏まえ、電力安定供給の継続に向けた議論がさらに深まることを期待したい。

こみやま・りょういち 2003年東京大学大学院工学系研究科電気工学専攻博士課程修了、博士(工学)。日本エネルギー経済研究所主任研究員、東大大学院准教授などを経て22年から現職。

割れる世界のLNG需給予測 日本は長期契約をどう取るか


【脱炭素時代の経済評論 Vol.09】関口博之 /経済ジャーナリスト

10月、エネルギーの長期見通しに関する恒例の報告が二つの専門組織から出された。国際エネルギー機関(IEA)の「ワールド・エナジー・アウトルック(WEO)」と日本エネルギー経済研究所の「IEEJアウトルック」だが、世界のLNG需給の将来展望にはかなりの開きがある。

IEAは2030年までにLNGの供給能力が現在の50%近く増える一方、需要は30年でピークに達し、その後もほぼ横ばいと予測。このため供給過剰になり価格も低下すると見る。そして各国の脱炭素政策が公約通り進められるとすれば、既存生産設備と既に投資決定済みのプロジェクトだけで50年までの需要は賄えると試算する。

さらにIEAが脱炭素化という目標から逆算して描く「ネットゼロシナリオ」では50年の需要は急激に細り、今後の新規投資案件は資金回収すら難しくなるという姿が描かれている。

LNGは新興国との共同購入も視野に

一方、エネ研の長期見通しでは、脱炭素技術が進展するシナリオでさえ、50年の世界のLNG需要は現在の4億tと変わらないと推定。既存設備の減耗も考えれば、今後も毎年1000万t分の生産能力投資が必要だとする。

かたや「生産増強はもう打ち止めに」と言い、他方は「安定的な投資継続を」と提言する。ともに権威ある機関だけに業界は当惑するかもしれない。

言うまでもなく日本にとってLNGはカーボンニュートラルへの「移行期」にとりわけ重要な役割を果たす。IEAが予測するように供給過剰の時代が来るのなら慌てて動かなくてもよいかもしれないが、だとしても大半をスポットや短期買いに頼るのは危うい。安定調達のためには長期契約がやはりベースだ。ただ国内でもガス火力発電へのLNG需要は再エネ・原子力を最大に入れた後のいわば調整弁になるので、先行きが見極めづらい。電力ガス業界からは「さすがに20年契約では取れない」という本音も聞こえてくる。

一方でカタールのガス田拡張で欧米メジャーや中国はプロジェクトに出資もし、生産の一定量を25年にわたって引き取る契約を結ぶ。日本が取り負けることはないのか。

個別企業ではリスクを負い切れない。LNGのリポートを作成したエネ研の橋本裕上級スペシャリストは「東南アジアの新興国とタッグを組んで共同購入などを」と提言する。需要をプールすることで量がまとまる。仮に日本の国内需要が見込みを下回った場合でも新興国側に転売できればバッファーになる。新興国の需要自体が伸びるとすれば長期契約でも座礁資産化は避けられる。仕向け地条項の廃止・弾力化を求める必要はあるが、輸出国側にしても無制限の仕向け地変更よりは受け入れやすいはず、と橋本氏は見る。

スキームには国の支援があればなお有効だろう。民間ベースの契約を両国政府がエンドースするといった形はどうだろう。日本が提唱し11カ国で形成したアジアゼロエミッション共同体(AZEC)の活用もあり得るのではないか。まずは具体案件の開拓から。アイデアは民間が出し、国を動かしていく、こうした官民連携が望ましい。

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.01】ブルーカーボンとバイオ炭 熱海市の生きた教材から学ぶ

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.02】国内初の水素商用供給 「晴海フラッグ」で開始

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.03】エネルギー環境分野の技術革新 早期に成果を刈り取り再投資へ

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.04】欧州で普及するバイオプロパン 「グリーンLPG」の候補か

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.05】小売り全面自由化の必然? 大手電力の「地域主義」回帰

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.06】「電気運搬船」というアイデア 洋上風力拡大の〝解〟となるか

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.07】インフレ円安で厳しい洋上風力 国の支援策はあるか?

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.08】これも「脱炭素時代」の流れ 高炉跡地が〝先進水素拠点〟に

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せきぐち・ひろゆき 経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

【コラム/12月13日】長期脱炭素電源オークションの課題:再論


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

前々回のコラム(2024年10月18日)では、2023年度に創設された長期脱炭素電源オークションの課題について述べた。そこでは、本オークションの下でも、原子力発電のような大型電源の投資リスクは完全には払拭できないこと、小規模再生可能エネルギー電源がオークションに参加しやすいような工夫が必要であることなどを述べた。本稿では、本オークションの課題について、さらに掘り下げてみたい。

長期脱炭素電源オークションの目的は、「脱炭素化に向けた新設・リプレース等の巨額の電源投資に対し、長期固定収入が確保される仕組みにより、容量提供事業者の長期的な収入予見性を確保することで、電源投資を促進する」ことにあるが、電源種によっては、達成できない可能性があることは、前々回のコラムでも指摘した通りである。リードタイムが長く、総事業期間が60~100年程度に及ぶ原子力、大型揚水、大型火力のような大型電源に関しては、投資判断時点で予見できないコスト変動の可能性を考慮すると、依然投資リスクは大きいと言わざるをえないからだ。このことは、とくに、建設から廃止措置に至るまでの総事業期間が100年程度となる原子力発電の新設に関して当てはまる。

このため、総事業期間が超長期に及ぶ原子力発電に関しては、投資費用を総括原価方式に基づいて回収することで、投資リスクを可能な限り抑制すべきとの見解もある。英国で原子力発電に適用されている規制資産ベース(RAB)モデルは、総括原価方式による規制料金により需要家からコストを回収する仕組みであり、わが国でも同モデルに対する関心は高く、原子力発電への投資の促進に向けての事業環境整備として有力な選択肢となりうる。しかし、電力市場は自由化されているのに、原子力発電だけが過去の総括原価に世界の戻ることが、消費者から是認されるだろうかという疑問の声も聞かれる。わが国の産業界は原子力推進で盛り上がっているが、特定の電源を特別扱いする場合は、合理的な理由があり、消費者や国民が納得することが重要だ。

わが国では、日本原子力文化財団が行った「原子力に関する世論調査」で今後の原子力発電の利用に対する考えとして、「原子力発電をしばらく利用するが、徐々に廃止していくべきだ」が最多の42.3%、「増加+維持」は年々増加傾向にあるものの19.1%にとどまっている(2023年10月)。一方英国では、エネルギーコンサルタント会社Radiant Energy Groupによる調査では、原子力発電に対する支持は43%と不支持の29%を大きく上回っている(2023年10~11月)。米国でも、Biscontiの調査では、支持77%、不支持23%と支持が圧倒的に多い(2024年4~5月)。規制当局や産業界は、CN実現やエネルギーセキュリティ確保のために原子力発電が欠かせない電源であることをもっと丁寧に消費者や国民に説明し、その理解を得る努力をしていかなくてはならないだろう。

また、前々回のコラムで指摘したように、再生可能エネルギー電源により目を向け、同電源が長期脱炭素電源オークションでもっと落札できるような条件整備を行うべきだろう。再生可能エネルギー電源は、今後とも生産コストの低下が見込めるだけでなく、消費地に設置されることが多く、電力の供給者は、地域共生型再生可能エネルギー事業者として、消費者との密接な関係や安定した取引関係を構築することができる。現在、FITやFIPが適用されている電源に関しても、補助金終了後はリパワリングなどでこのようなビジネスを模索する事業者が増えてくるだろう(再生可能エネルギー電力の地産地消型PPAなど)。電力の供給者と消費者が密接な関係にある場合、消費者は、必ずしも低い価格ではないかもしれないが、安定的で予測可能な価格で供給を受けることが可能となるだろう。同時に、供給者は、投資の安全性が確保されることになるだろう。このような供給者と消費者の安定的な関係を構築することは、電力取引所を介して電力を販売する集中型電源では困難である。

さらに、再生可能エネルギー電源からなる分散型電力供給システムは、事故に対するレジリエンスが高いとの指摘もある。再生可能エネルギー電源の事故では、非常に局所的な損害しか発生しない。集中型システムでは、事故が連鎖的に伝播し、直ちに広域停電が発生し、復旧にも時間がかかる。当然、間欠性の再生可能エネルギー電源にはデメリットも指摘されるが、上述したメリットにも注目し、CN達成のために、再生可能エネルギー電源の最低入札容量の引下げやアグリゲーションの要件緩和などにより、同電源のポテンシャルを可能な限り引き出すべきだろう。


【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

開設から1年超 役割高まる炭素クレジット市場


【マーケットの潮流】松尾琢己/東京証券取引所カーボン・クレジット市場整備室長

テーマ:カーボン・クレジット市場

東京証券取引所のカーボン・クレジット市場が開設から1年超が経過した。

GX―ETSの本格導入を控え、同市場が果たす役割とは。

国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(COP29)の開催初日である11月11日、東京証券取引所のカーボン・クレジット市場は開設から1年1カ月を迎えた。来年はパリ協定に基づく各締約国の温室効果ガス排出削減目標更新の年にあたる。わが国においても、GX(グリーントランスフォーメーション)リーグの排出量取引「GX―ETS」の2026年度以降の第2フェーズにおける本格的な制度導入に向けて、一定規模以上の排出企業の参加義務化を含めて政府において検討が進められており、カーボン・クレジット市場が果たす役割は増している。

本誌6月号の当コーナーでは、東証のカーボン・クレジット市場開設の経緯と市場の概要について紹介した。本稿では、その続編として、市場開設以来の歩みを振り返りつつ、今後の展望について言及したい。なお、以下、文中における意見などは個人的見解である。

東証カーボン・クレジット市場は、日本政府が認証した、国内の温室効果ガス削減・吸収プロジェクトから生み出される「J―クレジット」の売買からスタートした。11月15日時点で、市場開設後の累計売買高は57万7681t―CO2で、1日平均2148t―CO2となる。J―クレジットは年間100万t程度創出され、他方で過去の認証量の半分程度がオフセットなどで使われて償却されていることを考慮すれば、東証市場はカーボンプライシングに必要な相応の流動性と価格形成の場として有効に機能していると思われる。

カーボン・クレジット市場でのJ―クレジットと超過削減枠の制度概要


売買の7割を占める再エネ 価格も上昇傾向

東証の市場の特徴として、個々のプロジェクトのクレジットごとではなく、類似したオフセット需要や価格形成がされるクレジットをカテゴリー化した売買の区分を設定している点が挙げられる。内訳をみると、売買の7割弱が「再生可能エネルギー(電力)」、3割弱が「省エネルギー」となっており、直近の約定値段の水準は、前者が5900円、後者が2000円程度となっているが、特に前者は昨年の3000円台中心の価格形成から継続して価格が上昇しているのが注目される。

カーボン・クレジット市場において売買に参加するには、市場参加者として登録が必要となるが、幅広く参加いただけるよう、基本的に、政府が運営するクレジット登録簿システムで取引の決済に必要なクレジット口座を開設できれば、誰でも参加できる制度としている。当面の間、各種手数料は無料だ。

市場開設時点で188者の参加登録があったが、11月13日時点では305者と、1年強で約1・6倍に増加した。参加業種は多岐にわたるが、電気・ガス業などのエネルギー多消費型の産業のほか、商業、金融、サービスといった、クレジットの仲介やプロジェクトの実施支援を行うような業種からの参加が増えている。

歴史的波乱の第50回衆院選を終えて 自公の枠組みを超えた政権づくりを


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

石破茂内閣が誕生してわずか8日目に解散して行われた衆議院選挙は、自公合わせても過半数割れという歴史的な結果で終わった。私自身はおかげさまで再び無所属で国会に戻ることができたが、候補者として戦ってみて、確かに裏金問題などでの自民党への反発や不信があったのであろうが、あまりにも急ごしらえの総選挙で大義も争点が明確ではなく、多くの国民にとっては白けた選挙であったとも言えるのではと感じた。

自公で過半数割れということは、一定数の野党の賛同を得なければ、予算案も法案も通らないということを意味する。石破内閣は当面、国民民主党を連携の相手として交渉をするようであるが、来夏の参院選を控えて泥舟の石破政権と連立を組む政党はないだろうから、戦後初めて予算案も法案も野党の協力がなければ成立しない、少数与党の国会となる。要の予算委員長や最大の山場の政治改革特別委員長は立憲民主党のものとなり、前例のない国会の状況が今後どんな展開となるのかは私にも予測がつかない。

確実に言えることは、参議院選挙の前までには、与野党の賛否が割れるような法案の審議や価値判断が問われるような政策は何も打ち出せないということだ。これは、エネルギー政策にとっても大きな影響を与えよう。現在策定中の第7次エネルギー基本計画は閣議決定なので国会情勢の影響はあまり受けないが、それを実行するために必要な法案は国会情勢に大きく影響を受ける。つまり、国会の状況によっては画餅に帰する可能性があるエネ基が閣議決定されるということである。


現実的な国民民主の政策 与党入りの材料にならず

エネ政策では、現実的な政策を掲げる国民民主に期待する向きもあるが、国民民主とて参院選挙への影響を考えると与党入りするわけにはいかず、簡単に自公政権と妥協し得るエネ政策はそもそも交渉の材料にはならない。当面エネ政策の何かを動かすモメンタムにはならないだろう。米国ではトランプ政権が誕生し、ウクライナ・中東情勢が極めて不安定で不透明な中、世界的な何かが起きればこのような脆弱な政権の下では対応できないことは明らかだ。私は、参院選前のこの数カ月の間に、そうした国際情勢の大きな変化が起きるような予感がしてならない。

こうした事態を打開するためには、結局既存の自公政権の枠組みを超えた政権を作る以外に方法はない。救国のための大連立か、野党それぞれから志を同じくする議員が飛び出して与党を巻き込んだガラガラポンをやるか。自公政権にも、国のために大胆な決断をすることが近いうちに求められるのではないか。

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ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

【フラッシュニュース】注目の「政策・ビジネス」情報(2024年12月号)


NEWS 01:伊豆諸島沖に大規模風力整備 COP29で小池知事が発表

東京都の小池百合子知事が、アゼルバイジャンで開かれた地球温暖化防止国際会議・COP29の会合で、伊豆諸島沖に大規模浮体式洋上風力発電(1GW級)の整備方針を表明した。突然のことに、業界からは「小池知事らしい」との声が上がっている。

実はこの発表には前段がある。昨年9月、都が開催した専門家会議「再エネ実装専門家ボード」で、伊豆諸島の海域が洋上風力に適しているとの見解が示された。技術的専門家として出席した東京電力リニューアブルパワーの池ノ内岳彦風力部長代理は「伊豆諸島周辺はおおむね風速が毎秒9mを超える好風況の海域」と紹介。「洋上風力ポテンシャルが高い」と評した。

伊豆諸島沖への洋上風力設置は実現可能か

こうした意見をもとに都が発注した「再エネポテンシャル等調査委託」および「都の海域における洋上風力発電事業ゾーニング調査委託」を航空測量サービス大手のパスコが受託。今年 4月に当該海域における共同調査の基本協定を締結した。

伊豆諸島沖は水深が深く、大型台風の通過も多い。気象庁によれば、台風接近数は2021年7回、22年4回、23年3回、24年はこれまでに3回だ。また、離島という立地上、資機材の輸送・調達も課題だ。

小池知事はこれまでも新築住宅への太陽光設置義務化で物議を醸してきた。今回の洋上風力整備計画もまた、新たな議論を呼び起こしそうだ。


NEWS 02:電気ガス代補助が再開へ 野党の主張がまだましか

エネルギー関係者の懸念が現実になった。政府は11月策定の経済対策で、電気・ガス代への補助金を来年1~3月に再開する施策を盛り込むことを決めた。

具体的には、1、2月使用分について今年10月の補助と同水準で、電気は家庭向けで1kW時当たり2・5円、都市ガスは1㎥当たり10円を助成。3月は補助額を縮小し、電気1・3円、都市ガス5円とする。また、年末で終了することになっている燃料油補助については、来年1月以降も継続するが、段階的な終了に向け補助額を縮小させていく方針だ。

先の衆院選の公約の中で、自民党は〈電気・ガス料金、燃料費高騰対策と併せて、物価高が家計を圧迫する中、国民の皆様の生活を守るため(中略)物価高への総合的な対策に取り組む〉と、継続の方向を提示。公明党も〈家計を圧迫している電気・ガス料金、ガソリン等の燃料費への支援を続ける〉とした。それだけに特段の驚きはないが、業界内外では「何も生み出さない筋違いの巨額の国費投入をいつまで続けるのか」「市場の価格決定機能をゆがめる愚策は、もういい加減やめてもらいたい」といった批判の声が渦巻いている。

一方、日本維新の会は、事業者への補助金投入ではなく需要家への直接給付、最終消費者の省エネ・節電へのインセンティブが働く激変緩和制度の導入を提起。国民民主党は、再エネ賦課金の一時停止による電気料金の引き下げを求めている。ただ、同党はトリガー条項の凍結解除も訴え、これは補助金以上の「悪手」との評がある。

十数兆円に上るエネルギー料金補助の投入が、国民経済にどの程度の具体的効果をもたらしたのか。政府による検証が不可欠だ。


NEWS 03:四国で大規模停電の真相 背景に同期協調の難しさ

四国エリアで11月9日夜、約1時間半にわたって最大36万戸超の大規模な停電が発生した。発電所のトラブルや、自然災害などによる送電設備の損かいがあったわけではない。なぜこのようなことが起きたのか。

本州と四国をつなぐ連系線は、交流の本四連系線(本四)と直流の阿南紀北直流幹線(DC)の2カ所4回線。四国電力送配電によると同日、本四とDCそれぞれ1回線が作業停止していたところ、午後2時20分ごろに運用中だった交流回線が事故で自動停止し交流連系が途絶した。DC1回線でエリア内の周波数を制御するという、危うい状態に陥ったのだ。

そこで同社は、作業停止していた交流回線の復旧を開始。午後8時ごろ、本州側との同期運転に戻そうと試みたものの、位相が大きくずれたままうまくいかなかった。DCがエリアの周波数を制御している状態では、位相のずれを修正することが難しかったと考えられる。

自ら位相調整を行うため、四国送配はDCを共同運用する関西電力送配電に周波数制御と潮流制御を止めるよう要請した。だが意図が正確に伝わらず、関西送配が周波数制御のみを止め潮流制御が生きたままになったところ、四国から関西への潮流が急増。四国内の供給力が不足したことで、需給バランスを維持する周波数低下リレー(UFR)が働き大規模停電に至った。

停電の要因は、両送配電会社の連携ミスだ。とはいえ、電力業界関係者は「位相がずれると潮流の乱流があることは分かっていても、実際に経験したのは日本の電力業界としても初めて」と、極めてまれな事象が起きていたことを強調する。改めて、同期協調の難しさとその意味を知らしめることになったと言えそうだ。


NEWS 04:GXに若干の石破色 年末にビジョン案提示へ

GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議が10月31日に開かれ、石破茂首相はGX2040ビジョン、エネルギー基本計画、地球温暖化対策計画の案を年内にまとめることなどを改めて指示した。GX加速への当座の取り組みをまとめ、経済対策に盛り込むことも求めたが、ここで若干の石破カラーが出た。

中小水力や地熱政策が存在感を増すのか

再エネ関連では、以前より地熱や中小水力が目立つ立て付けとなっている。石破首相はあいさつで「地域の森林資源の活用などにも効果的な脱炭素先行地域の拡大や、地熱、中小水力の開発は、地域経済にGXの恩恵をもたらす」などと強調。GX実行推進担当相が提出した資料でも、当座の取り組みの中で再エネ関連は「地熱などの再エネ拡大」とくくり、「地域が高いポテンシャルを持つ地熱や中小水力の開発加速」をまず掲げた。

ある有識者は、今年初めのとある研究会で地球温暖化問題などについて講演した際、当時無役の石破氏がすっと手を挙げ「地熱と中小水力で賄えないのか」と質問。これを聞き、「石破さんは個人的に地熱などが好きなのだと感じた」と振り返る。

とはいえ、GXは基本的にはこれまでの路線を踏襲する方針だ。事務局は、「地域経済の成長に資する再エネや省エネは、総理の経済対策の指示の中でもフォーカスされているが、LNGの確保や原子力などが不要ということではない」と説明する。

復旧・復興に全力で取り組んだ1年 来年も地域貢献・支援活動に尽力


【北陸電力】

未曾有の大災害、直後の停電復旧から現在まで地域に寄り添い「こころをひとつに」復興を支援。

ボランティア、バイオマス混焼、廃瓦の活用、応援メッセージなど幅広い活動に取り組んでいる。

今年1月に大規模地震、さらに9月の記録的豪雨と2度の大災害に見舞われた石川県能登地方。この1年間、北陸電力グループは地域の復旧・復興活動に尽力してきた。その取り組みを紹介する。

11月11日のボランティア活動に勤しむ


災害ボランティアに参加 移住支援メニューを検討

度重なる災害により甚大な被害のあった能登地域では、冬本番前の復旧が喫緊の課題となっており、とりわけ各自治体は不足する平日のボランティア支援を呼びかけている。

同社グループの社員からは、発災当初から「地域の一員として被災地の力になりたい」との声が多数あり、これまでに、地震により大きな被害を受けた志賀町などへ延べ520人、その後の豪雨被害が大きかった奥能登地域には延べ350人を災害ボランティアとして派遣。社員らが日々、泥かきなどのボランティア活動に取り組んできた。

11月11日には、国際環境経済研究所の竹内純子理事と、ネクストエナジー・アンド・リソースの伊藤敦社長と同社の社員ら総勢40人が、輪島市内で側溝にたまった泥出し作業に汗を流した。同日ボランティア活動に参加した北陸電力の松田光司社長は、「被災地の厳しい状況を広く伝えていくとともに、地域に寄り添いながら何ができるか考えていきたい」と力強く語った。

能登半島豪雨の復旧活動の様子

復旧活動のみならず、同社は能登の復興に向けてさまざまな取り組みを進めている。地域の継続的な復興、そして移住・定住人口の増加に貢献するため、被災地へ移住した人を応援する料金プランや、新たな企業進出を促すような法人向けメニューなどを検討している。さらには、被災地の未来を担う子供たちに、勇気と元気を届ける復興イベント開催なども予定している。

震災がれきのバイオマス混焼も、復興支援の取り組みの一つ。今回の地震に伴う災害廃棄物の量は県内で332万t、うち7割の223万tを、被害が甚大だった奥能登の珠洲市、輪島市、穴水町、能登町の4市町が占めるという。

膨大な災害廃棄物の処理は社会課題であり、北陸電力では家屋などの解体がれきから生じる木くずを木質チップに加工したものを、七尾大⽥⽕⼒発電所2号機のバイオマス燃料として混焼する計画を打ち出している。豪雨により発生した流木の処理も同様に大きな課題であり、震災がれきと併せて混焼計画を進めている。

廃瓦の復興工事への活用も試みている。地域の社会資本整備を支援する「北陸地域づくり協会」が、震災を契機に防災・減災・復興をテーマに「北陸地域の活性化」に関する研究助成事業を公募。北陸電力が石川工業高等専門学校と共同で応募した「能登半島地震の復興工事における廃瓦の地域コンクリートへの活用研究」が採択された。

能登半島豪雨で土砂に埋まった国道

県内では、古くから「能登瓦」が製造・利用されてきた。能登の水田の土を使い、黒色で厚みがあり、風や雪に強いこの能登瓦は、奥能登の美しい景観を形作る大切な要素だ。しかし今年元日の地震で、相当量の廃瓦が発生した。北陸電力がこれまで火力発電所から生じた石炭灰をコンクリートなどに再利用してきた知見を生かし、廃瓦をコンクリート骨材としてリサイクルし、復興工事に活用する計画であり、廃棄物処理の課題解決をしながら、地域の復興支援の一助となることが期待されている。

そして、電柱広告による復興メッセージの掲示も支援の一環だ。被災者に元気を届ける取り組みとして、同グループの復旧・復興スローガンである「こころをひとつに能登」の電柱広告を輪島市内に設置した。このスローガンは1月10日、松田社長、北陸電力送配電の棚田一也社長がグループの全社員に向けて発信したものだ。

元日の地震発生により、復旧作業や後方支援などの指揮に当たっていたため、年頭のあいさつすらままならなかった両社長にとって、今年最初のメッセージとなった。このスローガンには、地域、協力会社、復興を願う全ての人々と心を一つにして、グループ一丸で災害対応に当たるという思いが込められている。

同グループで電柱広告事業を担当する北配電業は、復興応援プロジェクト「石川応援キャンペーン」として能登半島地震の被災地復興を応援するメッセージ看板のオーナーを募集。広告料の一部(千円/本)を県に寄付する取り組みを行っている。


グループのDNAを再認識 来年も地域の発展に全力

北陸電力グループにとって、能登半島地震、奥能登豪雨という未曽有の災害が重なったことで、今年は電気の安定供給という使命、そして地域とともに歩んできたグループのDNAを再認識し、今後のあるべき姿をあらためて見つめ直した1年となった。「こころをひとつに能登」の復旧・復興スローガンに込めた思いを胸に、活気あふれる地域の再生、さらなる発展に貢献するため、来年も全力で前進していく。

逆風に立ち向かう石炭火力発電 燃料転換で活路も難題積もる


【論説室の窓】神子田 章博/NHK 解説主幹

日本は火力の脱炭素化に向け、アンモニア利用などに力を注ぐ。

火力廃止の圧力を跳ね返すためにも、一段の商用化努力が必要だ。

10月、英国で唯一稼働していた石炭火力発電所が運転を停止した。石炭火力が全て廃止となったのは、G7(主要7カ国)参加国の中では初めてだ。産業革命の地でさかのぼること1882年から経済発展を支えてきたエネルギー源の終焉は、化石燃料からの脱却という時代の波を強く印象付けた。

翻ってわが国では、石炭火力がエネルギーに占める割合が2022年で30・8%に上る。現在のエネルギー基本計画では、30年度時点でも19%程度となっており、廃止時期も決まっていない。それには事情がある。政府が力を入れる再生可能エネルギーは、太陽光発電、風力発電とも伸び悩んでいる。 

また普及が進んだとしても、再エネは発電量が天候に左右される。電力の需給をバランスさせるには、再エネの発電量の多寡に応じて、発電量を比較的柔軟に調整できる火力発電を一定の割合で稼働させておくことが欠かせない。 

火力発電の燃料を巡っては、より CO2排出量の少ない天然ガスの活用も進んでいるが、日本は化石燃料を輸入に依存しており、エネルギー安全保障の観点から、石炭も含めたさまざまな燃料をバランス良く使っていく必要があるという指摘もある。そうした中で求められているのは、石炭を燃料として活用しつつ、CO2の排出を抑えていくことである。

碧南火力発電所のアンモニア貯蔵タンク


碧南発電所で進む実験 コスト低減が高いハードル

その一つが、石炭にアンモニアを混ぜて燃やすこと。アンモニアは化学式で書くと「NH3」。窒素と水素でできている。

これを燃焼させると水と窒素酸化物ができる。窒素酸化物は有害物質なので排気から除去する必要があるが、あとは水と大気中にもともと存在する窒素が出るだけで、CO2は一切出ない。このため、通常の石炭火力発電所に比べて、アンモニアを混ぜて使う分だけ、発電段階でのCO2を抑えることができる。

このアンモニア混焼を実証段階まで進めているのが発電事業者のJERAだ。愛知県碧南市にある石炭火力発電所では、燃料の20%をアンモニアにして発電する実証実験を今年4月に始めた。28年にはアンモニアの割合を50%以上に高め、40年代には、100%アンモニアだけで発電する技術の導入を検討するとしている。

ただ発電に向けてはいくつかの課題がある。第一に、アンモニアを製造する段階でのCO2の排出をゼロにすることだ。アンモニアを作るには、まず水素を得る必要があるが、その作り方には二通りある。

一つは、天然ガスや石油などから作る方法。この場合、製造過程でCO2が発生するため、そのCO2を地中に埋めるなど新たな技術の確立が必要となる。その際、貯留したCO2が漏えいするのでは、という懸念にも応えなければならない。JERAの場合、20年代後半に、この方法で製造段階からCO2の排出を抑えたアンモニアを使った発電を行う計画だという。

もう一つの水素の製造方法は、水を電気で分解して作るというもので、この電気が太陽光など再エネで作られたものであれば、製造過程でのCO2の発生はゼロに抑えられることになる。しかし、この技術は、コストも含めた実用化のレベルにまでは至っておらず、今後の技術の進展が望まれる。

こうした技術面に加え、商業化の上でもいくつか課題が残る。その一つが、燃料のアンモニアの調達をどうするか。例えば、国内の石炭火力発電所全てで20%のアンモニアを混ぜて燃やすとなると、それに必要なアンモニアの量は2000万tに上る。これは現在の国内のアンモニア消費量のおよそ20倍にあたる膨大な量で、世界各地から安定的に確保できるように、サプライチェーン(供給網)を構築する必要がある。

一方、消費者から見て気になるのが、アンモニア混焼で作られた電気の料金がどうなるかだ。実はアンモニアを使った発電の場合、天然ガスを使った発電と比べてコストが1・5倍程度になる。

このためJERAは、アンモニアで発電した電気は、石炭で発電した部分とは分けて、「ゼロエミッションの電気」として売っていくという。CO2排出ゼロという特徴をいわばブランド化して、環境意識の高い消費者に、その分のコストを電気料金の一部として負担してもらうというのだ。

脱炭素にはそれなりのコストがかかるという意識がどれだけ消費者に浸透していくかがカギとなる。


CO2排出抑制で工夫 電力の需要増にも備える

石炭という燃料を使いながらCO2の排出量をできるだけ抑える取り組みは、Jパワーでも進んでいる。広島県大崎上島町にある最新鋭の火力発電所では、まず石炭と酸素をガス化炉で反応させ、一酸化炭素と水素を主成分とする「石炭ガス化ガス」を生成する。そのガス燃料を利用し、タービンへ供給して発電する。さらに、その過程で発生する熱で水を蒸気化し、その蒸気を使ったタービン発電も合わせて行うことで、複合的に発電を行う。これによって、同じエネルギーを得るのに、使う石炭の量をより少なく抑えることができるという。

加えて、石炭ガス化ガス中の一酸化炭素と水蒸気を反応させて、CO2と水素に変換し、このうちCO2のみを90%回収する技術が確立された。将来的に、このCO2を地中に埋める技術を活用し、さらに残る10%についてもバイオマスを活用すれば、将来大気中へのCO2の排出を100%抑えることも可能になるという。

国内の電力需要は生成AIの普及などに伴って、一段と増えることが見込まれている。全ての電気を、原発や再エネで確保できず、一定の割合を石炭火力に頼らなければならないとすれば、CO2の排出量を抑えながら効率的に活用するさまざまな取り組みが今後も求められる。

米国で議論紛糾の共立地負荷 系統費用の負担に一石


【識者の視点】小笠原 潤一/日本エネルギー経済研究所研究理事

データセンターのエネルギー源として原子力発電を活用する可能性が浮上している。

先行する米国では、系統費用負担を巡り議論が紛糾。一筋縄ではいかないようだ。

米国では電気事業の在り方を巡り「共立地負荷(Co―Located Load)」問題が議論を呼んでいる。これは、発電所の系統に接続する地点での計量器の背後に負荷設備が接続する仕組み。負荷設備の計量器の背後に発電設備を接続させる「ビハインド・ザ・メーター」の負荷版だ。

現在係争中の案件では、PJM(米国北東部地域の地域送電機関)に属するペンシルベニア州のTalen Energyが所有するサスケハナ原子力発電所からアマゾンのデータセンター(DC)が直接供給を受けている。今年6月3日、連邦エネルギー規制委員会(FERC)に発電所の連系申請書の修正版を申請した際に、DCは電力系統から電気を購入しない「非系統負荷(Not Network Load)」だと宣言して、託送料金や(周波数安定などの電力品質を維持する)アンシラリーサービス料金の負担から免除されるとした。

共立地負荷の仕組み

同申請は、PJMと送電会社PPLとの共同で提出された。これに対して、Exelonなど既存公益事業者が、DCは安定した周波数・電圧や停電時のブラックスタートなど、系統とつながることで利益を得ており、相応の負担をすべきとしてFERCに異議を申し立てた。Exelonなどの異議申し立てには、PJMの市場監視ユニットも支持を表明している。

非系統負荷という主張は分かりにくいが、サスケハナ原子力発電所は発電機が2基あり、DCは通常1号機から電気の供給を受けるが、1号機が停止している際には2号機から供給を受けること、そして両方の発電機が事故で停止した場合にはリレーで受電を停止することから、系統から一切の電気を購入しないと主張している。通常、託送料金とアンシラリーサービス料金は系統から購入する電気の規模(kW)と量(kW時)に基づいて支払い額を計算する。そのため系統から電気の受電規模・量がゼロである当該DCはこれら料金負担から免除されるという理屈である。


規則改正はないまま 賛成・反対双方の主張は

PJM内では、2021年12月の市場適用委員会で課題提起が行われたが合意に至らず、規則改正が行われないまま現在に至っている。共立地負荷に対応するための規則が無いにも関わらず、共立地負荷の問題を含むサスケハナ原子力発電所の連系申請の修正申請を行ったことが、問題を複雑化させた。PJMとしては既に原子力発電所からDCへ直接電力供給が行われていることと、サスケハナ原子力発電所から系統へ売電する規模が減少しているという事実があり、現行の規則で対応できる方法を模索したと言える。

この共立地負荷を認めることに対して、原子力発電協会やクリーンエネルギー購入事業者協会、一部電力会社は賛成の立場を表明している。特に原子力発電協会は、ライセンスの更新を控える発電所が増える見込みである一方で、再生可能エネルギー発電の増加によりエネルギー市場で卸売価格が低迷していることから、長期契約で安定的に電気を売ることができる共立地負荷の枠組みは魅力的だとしている。またDC側では、系統への接続申請を行っても、同様の申請の増加で申請から接続完了までの期間が長期化していることから、短期間かつ低費用で接続できる共立地負荷を希望する事業者が増えている模様だ。

【覆面ホンネ座談会】米国は「トランプ2.0」へ 石破政権との相性は?


テーマ:米国大統領選と今後のポイント

米国大統領選は、近年まれにみる接戦で大勢判明まで時間を要するという大方の予想を裏切り、即日決着でトランプ氏が勝利した。各国は「トランプ2・0」のアクションを固唾を飲んで見守っている。

〈出席者〉 A米国在住アナリスト Bエネルギーアナリスト C経済産業省OB

―日本では大統領選の結果が予想外というトーンで報じられたが、米国はどうだった?

A 現地でも驚きを持って受け止められた。民主党支持者の間では、2016年のトランプ勝利よりも衝撃が走った。民主党の支持基盤のラテン系や黒人系、若年層、あるいは低中所得者の票がトランプに流れた。物価高・高金利での生活苦、不法移民拡大に伴う不利益など、バイデン政権への強い不満がトランプを後押しした。対立軸の一つがエネルギーで、トランプは「ドリル、ベイビー、ドリル」と、脱炭素に傾倒したバイデンの政策を取り除くとアピール。実際に化石燃料が増産するかは疑問だが、インフレ対策の柱に位置付けた。一方、ハリス氏はトーンを弱めながらも現路線を継続。産ガスが基幹産業のペンシルベニアや、EV推進ノーの自動車産業労働者が多いミシガンなどで支持を失った。民主党が路線を修正しないまま現実の身近な不安への答えを示さず、中絶の権利などの理念的問題ばかり強調したことが、敗因の一つだ。

第二次トランプ政権のエネルギー・環境政策はどこへ向かうのか

B 民主党が勝つifの世界を考えた場合、まずバイデン氏が老衰問題で撤退を余儀なくされなかったら、展開は違っただろう。民主党の中でも左派がハリス、中道がバイデンと役割分担があり、バイデンの方が有色人種・マイノリティの支持は強かった。しかし左派がバイデン下ろしに動き、自ら中道の支持基盤を失った。二つ目のifは、ハリスがシャピロ・ペンシルベニア州知事を副大統領候補にできていたら、ということ。シャピロはシェールの水圧破砕法推進派であり、元々は反対派だったハリスが発言を変えてまで秋波を送ったが、結局失敗。しかもトランプから「ハリスはうそつき」と批判されてしまった。さらにイーロン・マスクなどのテクノ・リバタリアンがバイデン政権を評価せずトランプ支持にまわり、勝負あった。

C どちらが勝とうとも対応できるようにすることが役所の基本的な対応スタンスだが、一番恐れたのは「決まらない」こと。僅差での決着となり「投票結果がおかしい」と暴動が起きるなど、確定までしばらく時間がかかるようなことがあれば、世界各国もどちらを見たら良いのか悩み、政策が停滞しただろう。その点、すぱっと決まったことは良かった。

A 今回、脱炭素に伴うエネルギー高騰に抗議するフランスの「イエローベスト運動」を思い出した。「エリートが地球の終わりを語る時、私たちは月末の支払いに苦しんでいる」というスローガンを掲げたものだ。まさに米国民も、自分たちの苦しみを民主党は軽視し、トランプは理解していると受け止めた。


現政策を大幅見直し 内政どう変わる?

―トランプはパリ協定脱退や化石燃料生産拡大、IRA(インフレ抑制法)見直しなどを示唆しているが、どう見るべきだろうか。

B 大統領権限では化石燃料生産をコントロールできない。バイデンが水圧破砕法を禁止した中でも生産量は過去最大規模となった一方、今年に入り生産は鈍化。トランプがいくら「掘れ」といっても生産量にはあまり影響しない。エネルギーでは内政より外交への影響が大きい。また、パリ協定離脱も世界的に織り込み済みで、脱炭素のトレンド自体は変わらず、というのが一般的な見方。ただ、日本の政策はとにかく米国の意向を気にする。NDC(国別目標)などの議論が進む中、トランプ路線に合わせていく可能性もあり得る。

C その通りで、実態はバイデン政権下でも化石燃料利用が拡大した。大統領がいくら発破をかけても、増産し価格が落ちれば誰も掘らなくなる。生産量は需給で決まるものだ。

B IRAに関しては、共和党系の州に有利に働いている部分もある。トリプルレッドの状況下で共和党自身がIRAを覆す事には反対だろう。EVや再エネに関して細かく条件を修正し、骨抜きにする程度ではないか。

A また、車の排ガス規制はEPA(環境保護庁)の権限ではないとし、力を削ぐ方向に動くと見ている。しかも連邦最高裁は6月、これまでの行政法の考え方の基となる「シェブロン法理」を覆す判断を下し、規制を巡る政府の裁量は制限されていく。中長期的には気候変動政策に積極的なカリフォルニア州などの裁量権も奪われていくのではないか。4年後に民主党が政権を奪還しても、こうした流れは変わらない可能性がある。

B EPA長官には、トランプが「法律に詳しい」と評価するゼルディン元下院議員を、さらにノースダコタ州のバーガム知事を、エネルギー・環境政策全般の権限を持つ国家エネルギー会議議長に任じた。憲法問題にまで発展するイシューとなる可能性が人事からも見えてくる。

【イニシャルニュース 】若者にもCO2懐疑論 支持集める識者S氏


若者にもCO2懐疑論 支持集める識者S氏

ここ数年、若者の間では「気候危機」の認識がすっかり定着したと思われがちだ。今夏には、「安全な地球で暮らす権利を持ちたい」との考えから、全国の若者16人が大手火力発電事業者10社を相手に、CO2排出削減を求める訴えを名古屋地裁に起こした。日本で全国規模の気候集団訴訟としては初だという。ただ、彼らとは真逆の考えを持つ若者も確実に存在している。

W大学のX教授は、温暖化対策の必要性を前提に講義したところ、学生から「人為的に地球温暖化が進行しているというのは正しくない」といった考えをぶつけられ、驚いたという。一体その発想の根拠は何なのかを聞くと、エネルギー・環境問題に関する意見を積極的に発信する有識者・S氏の動画配信チャンネルとのこと。

S氏のチャンネルでは、「人間活動が主に温暖化させてきたことには疑う余地がない」などとするIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書とは一線を画す見解などを、さまざまな点からそれぞれの専門家を交えて議論している。

太陽フレアも温暖化の一因か

今や日本の有識者やエネルギー業界の中で人為起源の温暖化そのものを公に否定する意見は少数派だ。しかし、むしろフラットな視点を持つ一定層の若者に刺さっているという事実は、注目に値する。

余談だが、今年は異例の高気温状態が続いている。気候変動論者は事あるごとにCO2の影響を口にするが、いま太陽ではフレア活動が活発化し極大期に突入中。光が強くなることで地球に温度上昇をもたらすわけだが、なぜかそれは話題にならない。おかしい。


原子力政策に暗雲? 関係議員落選の余波

「エネルギー、とりわけ原子力政策に造詣のある有力議員がいなくなってしまったのは大変残念。今後、党内の体制をどう立て直すかを真剣に考えていかなくてはならない」。

10月27日の衆議院選挙を受け、自民党関係者のS氏は頭を抱える。折しも、国のエネルギー基本計画見直しの議論が佳境を迎える中で、原子力政策に関係してきた重鎮、中堅議員が軒並み落選してしまった影響は小さくない。

何よりもエネルギー・経済政策を取り仕切ってきた甘利明氏が落選。ほかにも石川昭政氏、細田健一氏、鷲尾英一郎氏、鈴木淳司氏、高木毅氏らが落選した。原発立地地域の議員も多い。

安倍政権では、原子力には「中道」のⅠ議員が原子力規制特別委員会委員長に就くなど、人事面で積極性が感じられなかった。岸田政権では原子力活用派の人が党、政府内で経産省関係の仕事に就いた。しかし今回の選挙で御破算になってしまった。

自民党の中堅層ではY衆院議員、S衆院議員、T衆院議員の、党内のエネルギー関係の役職就任が下馬評に上がるが、「石破首相の人事は党内に知人が少ないためか、情報不足で変なことが起きる」(メディア)と警戒する声が聞こえる。

「改選を来年に控えるT議員らは選挙に注力しなければならず、次期参院選に向け自民は党勢の立て直しに大変な状況」(党関係者)。ともすれば原子力政策の行方に暗雲が垂れ込めそうだが、慎重派の公明党が議席を減らす一方、推進派の国民民主党が大躍進したという情勢もある。決して暗い話ばかりではない。

1Fでデブリ試験的取り出し 千里の道も〝ひとつまみ〟から


東京電力ホールディングス(HD)は11月7日、福島第一原子力発電所(1F)2号機で炉心溶融によって溶け落ちた燃料デブリの試験的取り出しを完了した。採取したデブリの量は〝耳かき一杯〟分の0・7g。デブリは茨城県の日本原子力研究開発機構(JAEA)大洗原子力工学研究所で分析され、同機構が1年以内に総括的な評価を行う。

1Fで採取した0.7gのデブリ
写真提供JAEA

1F内のデブリは安定状態と推定されるが、この状態が長期に継続される保証はない。東電HDは30年代に大規模取り出しを開始する方針で、その手法については3月、原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)の小委員会が報告書を公表した。同社は小委の提言に基づいて、デブリに水をかけながら作業する「気中工法」を軸に検討を進めている。

過酷事故を起こした原発の廃炉を巡っては、チェルノブイリ原発ではデブリが原子炉下に流れ込んで固まり、巨大なドームで原子炉を石棺化した。スリーマイル島(TMI)原発ではデブリが圧力容器の中にとどまり、原子炉内を水で満たす「冠水工法」で99%を回収した。しかし1Fは圧力容器や格納容器が損傷し、デブリには燃料だけでなく金属などが多く混ざっている。量もTMI原発の約6倍だ。

「石棺化の方が合理的」との声がある中で、デブリ全量取り出しに向けて一歩を踏み出した1Fの廃炉作業。今回使用した「釣りざお式装置」の接続順のミスなど東電の対応の甘さは否めないが、生命の危険を伴うだけに静かな環境下で安全第一での作業が望まれる。

都心の地域冷暖房で新たな一歩 50年の蓄積土台に提供価値を拡大


【丸の内熱供給】

丸熱はビジネス街「大丸有」などで熱エネルギーを絶え間なく届けてきた。

培った経験と技術でサービスを拡充し、脱炭素社会づくりも支援する構えだ。

「都心の地域冷暖房を通じ、より良い都市環境の創造をめざす」―。そんな基本使命を掲げて約50年にわたり街づくりを支えてきた丸の内熱供給(丸熱、東京都千代田区)が、次の半世紀へ向けて新たな一歩を踏み出した。防災機能の強化や脱炭素化など、数々の時代の変化に向き合いながら事業を成長させてきた丸熱の歩みに迫った。

都心の地下に広がる配管網

日本を代表するオフィス街で知られる東京都千代田区の大手町・丸の内・有楽町地区。3地区の頭文字をとって「大丸有」とも呼ばれる同地区の地下にはエネルギー供給用のトンネルが張り巡らされ、その中を総延長約30‌kmに達する配管が走っている。その配管ネットワークを通じて、冷暖房用の熱エネルギーを絶え間なく届けているのが丸熱だ。 

現在は、大丸有以外も含めて23カ所のプラントで熱を製造し周辺の建物へ供給している。1970年代当時の大丸有地区は、皇居の松が枯れるなど大気汚染が深刻化し、公害防止の観点から地域冷暖房を推進する動きがあった。そこで、親会社の三菱地所をはじめとする同地区の地権者が中心となって、73年に丸熱を設立した。


大手町にプラント第1号 環境要請で役割が変化

営業を開始したのは76年。同年に丸熱初の地域冷暖房プラントである旧大手町センターが完工し、大手町に建つ複数のビルを対象に蒸気と冷水の供給を始めた。これが、常駐する専門技術員が供給状況を監視して冷暖房需要に対応する「メインプラント」の第1号だ。80年代に入ってからは、内幸町や丸の内一丁目にもプラントを構え、業容を拡大していった。

大丸有地区はその後、国内外の有力企業が集積する国際ビジネスセンターとして存在感を発揮。同地区の整備強化が望まれる中、88年には「大手町・丸の内・有楽町地区再開発計画推進協議会」(現大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり協議会)が立ち上がった。丸熱もインフラ部会のメンバーとして同協議会に参画し、再開発に積極的に貢献した。

2000年代に入ると、環境庁が省に昇格し、先進国に温室効果ガス排出量の削減を課す「京都議定書」が発効されるなど、国内外で環境問題を重視する機運が醸成。こうした動きを背景に熱供給事業者へ期待する役割も、当初の都市公害対策から省エネルギー化や地球温暖化防止へと変化していった。

丸熱がそうした要請に応えて、大手町を舞台に追求してきたのが、「スパイラルアップ効果」だ。既存・新設の7カ所の冷水プラントを連携させて高効率の最新プラントを優先的に運転することで、エリア全体のエネルギー効率を高める取り組みだ。

東日本大震災が発生した11年以降に防災や事業継続への対応を強化する意識が高まる中で丸熱は、供給体制の強靭化や効率化に向けた取り組みを強化し始めた。

そうした狙いで機能を強化したプラントの一つが、18年に新設した「丸の内二重橋ビルプラント」。コージェネレーションシステムを導入したことが特徴で、そこで発電した電気を非常時に周辺ビルの帰宅困難者受け入れスペースへ供給できるようにした。20年5月には、旧大手町センターを高効率プラントに更新し敷地内移転する工事を終えたのを機に、重油とガスの両燃料に対応した非常用発電機を取り入れた。

丸熱の視線の先にあるのが、脱炭素社会という潮流だ。20年10月には、新時代を見据えた中長期計画「MARUNETU VISION 2030」を発表。同計画を通じて、従来から重視してきた「強靭化」「省エネ」「環境」という三つの価値を深掘りするとともに、「熱供給エリアへの貢献」と「三菱地所グループ内外のパートナーとの共創」という展開に力を注ぐ方針を明示した。

丸熱の中長期ビジョンの概要


外部パートナーとも共創 AIシステムの活用に意欲

エリア貢献に向けては例えば、熱利用に伴うCO2の排出量を相殺する「カーボンオフセット熱メニュー」を用意し、25年度からの供給を目指す。共創の成果の一つが、地域冷暖房プラントの効率を高める「AI最適制御システム」だ。新菱冷熱工業(同新宿区)と共同開発したもので、既存プラントへの採用拡大を狙う。

「時代の変化やニーズに的確に対応しながら、脱炭素社会をリードする新しい丸熱へと進化していきたい」と広報担当者。都市インフラの未来を照らす挑戦から今後も目が離せない。