【論点】マスタープランの見直し〈前編〉/長山浩章・京都大学大学院総合生存学館教授
広域連系系統のマスタープランの見直しの要否が検討されている。
長山浩章氏が2回に渡ってそのポイントを解説する。
電力広域的運営推進機関(OCCTO)は昨年3月、地域をまたがる広域での電力系統の長期的な増強方針を示す「広域系統長期方針(広域連系系統のマスタープラン=MP)」を公表した。これは、2020年10月のカーボンニュートラル(CN)宣言後の第6次エネルギー基本計画、国のエネルギー政策を踏まえ、50年CN実現を見据えた将来の広域連系系統の具体的な絵姿として策定されたものである。需要をどこに配置するかで複数シナリオ(需要立地誘導シナリオ、ベースシナリオ、需要立地自然体シナリオ)が検討された。

50年度の各エリアの電源設備量を固定した上で、地域間連系線および地内増強を行ったケース(Withケース)と、行わないケース(Withoutケース)で、費用便益(以下B/C)計算、必要な調整力、慣性力の試算などを行っている。増強した系統の費用便益分析の結果を提示し、OCCTOが「基本要件」を提示した上で応募者を募る手順となっている。
今年3月の再生可能エネルギー大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会では、日本海ルート(400万kW:北海道~東北~東京ルート新設)で、英国などで実施されている評価ルールと同じ評価期間25年、割引率4%でB/Cが0・67~1・07程度と、便益としては必ずしも十分に高いとは言えない水準であり、関門(九州~中国ルート増強)は、22年間の評価でいずれの割引率でもB/Cが0・29~0・62程度と1以下で、便益がコストを下回る見込みとなる資料が提示された。
これが影響してか、関門連系線の増強工事において本来の締め切りまでに応募意思の表明はなく、提出期限を1カ月延長する事態が起きていた。(その後、9月4日に中国電力ネットワーク、九州電力送配電、電源開発送変電ネットワークの3社が応募意思を表明し、応募資格要件を満たすことが確認された)。また、日本海ルートについても計画の取りまとめが1年繰り延べとなった。
大規模需要立地の計画浮上 次期エネ基見据え検討着手
このような状況下、昨今ではデータセンターや半導体工場などの大規模需要立地の計画が立ち上がり、MPの前提条件が大きく変動する可能性が出てきた。こうしたことから、今般の第7次エネ基改訂を踏まえ、9月11日に再エネ大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会などでMPの見直し要否の検討が始まった。
現行のMPは、長期モデルなどを用いた電源計画の最適化を目的としていないために、50年における本州の9エリアの発電設備量を前提にゾーンごとのロードカーブを構築し、それに供給を合わせている。ロードカーブには、EV、HPを含む電化需要、水素水電解、DAC(ダイレクト・エア・キャプチャー)による吸収などが反映される。
火力、水力は、供給計画や契約申込済電源を反映(CCS、水素、アンモニア混焼・専焼は考慮)、原子力は既存、もしくは建設中の設備が全て60年運転すると仮定している。太陽光、風力は一定の出力パターンを前提としている。モデルの構成は下の図のようなものであると想定されるが、需給、潮流シミュレーションはノーダルモデルで実施し、調整力、アデカシーのシミュレーションはゾーナルモデルで実施している。ノーダルモデルにより送電ロスおよび、連系線、基幹送電線の潮流8760時間のシミュレーションを行い、ゾーナルモデルでkW時、ΔkW、アデカシーを評価する。
あくまで、発電設備容量、全体の需要は変えないが、B/Cにおける費用には系統整備が行われない場合(Without)と、系統整備が行われる場合(With)の総費用の差分を用いている。総費用の差分は、系統整備に係るコスト(減価償却費、運転維持費など)となる。なお、電源はWithとWithoutで配置や導入量が変化しないことを前提としているため、電源開発コストは、総費用の差分(With―Witout)には表れない。
発電設備容量などの変化に対する系統整備への影響は、別途感度分析により評価し、アウトプットとして提示している。もし、火力設備が過剰であっても、メリットオーダーにより稼働しないため、最終的なシミュレーション結果に大きな影響はないものとなっている。
増強後に再エネの出力制御低下があれば、発電電力量が増し、これによって調整力kW時費用は増え、ΔkWは広域連系で必要量を融通するため、必要量は減少するなどの提示がOUTPUTの範囲である。この意味からOCCTOは広域系統監視者としてできる最大限の分析業務は行っているように思える。ただし、全ての前提が明確に示されているわけではないので、表現方法に今後工夫をしていく必要はあるだろう。
ここまで現行のOCCTOのMPについて解説した。次号では、今後の追加検討が必要と思われる点について述べたい。
