むつ中間貯蔵施設が操業へ 背景に宮下知事の協力姿勢


少なくとも核燃料サイクルの第一歩が動き出す」(新潟県柏崎市の桜井雅浩市長)

青森県とむつ市、リサイクル燃料貯蔵(RFS)は8月9日、むつ市に立地する使用済み燃料の中間貯蔵施設について、施設の使用期限を50年とする安全協定を結んだ。同施設は昨年8月に原子力規制委員会の審査が終了し、今年3月に安全協定締結に向けた議論に着手していた。9月中にも柏崎刈羽原子力発電所から使用済み燃料が運び込まれる見込み。

再稼働を目指す柏崎刈羽原発の使用済み燃料の保管量は、6号機で92%、7号機で97%と余裕がなくなっている。桜井市長は再稼働を認める条件として6、7号機の保管量をおおむね80%以下にするよう求めていた。保管量が最も少ない4号機の使用済み燃料を中間貯蔵施設に搬入し、6、7号機から4号機へと号機間移動を行うとみられる。 青森県の宮下宗一郎知事は7月23日、長期保管の懸念払しょくのため、経済産業省で斎藤健経産相と面会。斎藤経産相は搬出先について、六ヶ所再処理工場を念頭に次期エネルギー基本計画で具体的に盛り込む方針を示した。安全協定を締結した3者とRFSに出資する東京電力ホールディングス、日本原子力発電は同日、事業実施が困難となった場合に、使用済み燃料の施設外搬出を求める覚書を交わした。同様の覚書は1998年に再処理工場を巡って青森県と六ヶ所村、日本原燃が結んでおり、踏襲した形だ。また青森県とむつ市は中間貯蔵施設への搬入後、それぞれウラン1㎏当たり年620円の使用済燃料税を徴収する。

安全協定に署名する宮下宗一郎・青森県知事(右から2番目)、山本知也・むつ市長(右)ら(8月9日)


原子力と共存共栄 業界の不安は解消か

むつ中間貯蔵施設を巡っては2020年12月、電気事業連合会が関西電力など原発を保有する各社での共同利用を申し入れた過去がある。当時むつ市長だった宮下氏は「あり得ないことだ」と猛反発。結果的に関電は、原発敷地内での中間貯蔵施設建設などの対応策を打ち出し、共同利用の必要はなくなった。こうした過去から電力業界では「宮下氏は原子力政策に理解がないのでは」と不安視する向きもあった。しかし知事就任以降は、むしろ原子力政策と「共存共栄」する姿勢を示している。

宮下知事は「立地地域に光が当たっていないという思いがずっとあった」として、地域が発展するための取り組みを自治体と国、事業者が一体となって検討する「原子力共創会議」の開催を国に要請。資源エネルギー庁はこれまでに2回の会合を開き、今秋をめどに具体的な取り組みの工程表を策定する。

こうした動きは、津軽地方の実情を理解する宮下知事ならではといえよう。宮下知事が昨年6月の県知事選で掲げた「国策としてのエネルギー政策に協力し……電源立地県としての責任を果たしていきます」との選挙公約は実行されつつある。

【特集1/対談】変遷から課題までを徹底討論 国内産業の成長に資するか 目指すべき開発の方向性とは


社会情勢や政策の変化を踏まえ、新たな思想でのエネルギー技術開発が迫られている。

電力・ガス利用技術の変遷を知り尽くす専門家が今後目指すべきビジョンを語り合った。

【出席者】
柏木孝夫/コージェネレーション・エネルギー高度利用センター「コージェネ財団」理事長
内山洋司/日本エレクトロヒートセンター代表理事・会長

左から、柏木氏、内山氏

柏木 かつて、電力とガス業界は互いに切磋琢磨しながら、世界に誇るさまざまな技術を開発してきました。例えば電力は発電所の高効率化を進め、末端ではヒートポンプ開発などに注力。ガスは、当初は吸収式冷凍機にコージェネレーションなどを組み合わせ、排熱を活用した冷暖房システムの導入にまい進してきました。事業法で規制された範囲内で、国民全体に必要量の電力や熱を廉価に供給すべく、最大限努力してきたのです。

しかし発電部門の自由化を機に、電力会社は自分たちが所有するガスを使い、今度は熱電併給システムを、大規模ビルの熱需要規模に合わせる形で導入・拡大し始めました。一方、ガス会社は取り組みをさらに面的に広げ、周辺の既存ビルの熱需要も含めてバランスを取るべく、ガス&パワーの真骨頂を追求。分散型の面的活用の拡大は、再エネ接続量が拡大し続ける中、電力系統にその分空きができるというメリットももたらします。

全面自由化、さらにカーボンニュートラル(CN)を目指す時代となる中、私はエネルギーの真の合理性はガス&パワーの世界にあると考えています。その意味で自由化は行き過ぎた面がある一方、新しいガス&パワーモデルの道筋が日本で見えきたという点については、喜ばしく受け止めています。

内山 私はむしろ、両業界が国の政策と規制改革に翻弄され続けてきたと思っています。わが国の一次エネルギー供給の伸び率は1990年代から停滞し、2008年のリーマンショックを機にマイナスに。ただ、当時はLNG複合発電の建設ラッシュでLNG供給量は拡大し続けました。ガス業界は需要の伸び代がある電力への参入を図り、ガスインフラを生かした分散型技術開発を積極的に進めます。

しかし東日本大震災と福島第一原子力発電所事故が発生し、今度は電力事業もマイナス成長に転じ、徐々に大型設備で規模の経済が働きにくくなりました。さらに再生可能エネルギーの主力電源化が掲げられ、電力・ガス全面自由化も実施。伸び代がない市場に新規参入者が殺到し、業界は疲弊する一方です。

こうした変化は技術開発にも大きく影響し、例えばコストの高いCN技術開発を進めざるを得ません。本来は日本の産業や経済、雇用をいかに維持するかという広い視野での技術開発を行うべきですが、現在は企業が自由な選択をできない「不自由化政策」に陥っています。それらが全て料金に跳ね返った結果、製造業が海外に流出してしまっているのです。

柏木 さらに、今はデータセンターや半導体なしにはビジネスが成り立たず、今後電力需要が急増するといわれています。ただ、電源の拡大よりも、GX(グリーントランスフォーメーション)の一丁目一番地に掲げている省エネの方が重要ですし、需要が実際どうなるかは分からない面が多分にあります。

そして同時同量が基本であるのに、変動性再エネを基幹電源にするという政策には、強烈な矛盾があります。安定した工業国家には、大規模と分散型電源が百花繚乱し、共存する世界が求められます。石炭火力など既存電源が50年ごろまで残る可能性もあり、アンモニア混焼のほか、高効率化やガス化技術の開発は重要です。加えて、大規模と分散型をエリアごとにうまく重ね合わせるプラットフォームごと、発展途上国の成長に資する形で輸出するような戦略が期待されます。

【特集1】コージェネを巡る環境変化の深層 時代に即した技術開発が必要に


高効率な省エネシステムとして分散型電源の一翼を担ってきたガスコージェネレエーション。

エネルギーの自由化や脱炭素化は、その技術開発にどんな影を落としているのか。

コージェネレーションシステム(CGS)は1980年代から、その高効率性によって省エネルギーを達成する方策として普及拡大してきた。その背景には次のような技術開発が大きく貢献しており、個々の技術からシステム全体の技術まで多岐にわたっている。

具体的には、①標準化・パッケージ化による低コスト化、高信頼性への対応、②大型火力にも迫るガス発電システム(ガスエンジン、ガスタービンなど、左図参照)の高効率化、③窒素酸化物の排出を抑制する低NOX化、④吸収式冷凍機などと組み合わせた排熱回収、⑤逆潮流ありでの系統連系、⑥停電時のブラックアウトスタートをはじめとした自立運転―などだ。

ガス発電システムの発電効率一覧


自由化と脱炭素化 技術開発体制に変化

こうした技術開発の下でCGSは順調に普及してきたが、ここにきて次のような変化が表れている。

一つは、エネルギー小売事業の自由化だ。まず都市ガス事業の自由化により、ガス事業者にとってはCGSの普及が必ずしも自社のガス販売量拡大に結び付くとは限らない状況になると、CGS技術開発にかける予算、人材もガス自由化前とは状況が大きく異なってきた。またガス事業者間の競争も起こり、従来のような複数のガス事業者とメーカーが協力して技術開発することも難しくなっている。

電力事業に目を向けると、CGSはガス事業者にとって新たな市場であった唯一の「電力」を獲得するための手段であった。しかしながら、電力市場の自由化が進展し、2016年には家庭用需要も含め全面自由化され、ガス事業者にとって「電力」を獲得するマーケットが整備された。従って、CGSは「電力」を獲得するための唯一の手段ではなくなったのだ。

もう一つは、脱炭素化だ。カーボンニュートラル(CN)が叫ばれる昨今、CGSはその省エネルギー効果によって一次エネルギー、ひいてはCO2排出量を削減できる極めて実現性の高いシステムである。一方、天然ガスなどの化石燃料を使用するため、CO2排出量をゼロにすることはできない側面がある。将来的には、燃料に水素・アンモニアなどを使用可能とする技術開発が着実に進められている。


CNでも重要性変わらず 今後の技術開発の展望

〈電力の価値を最大限に利用〉

従来CGSの価値は基本的には電力量(kW時)と排熱をいかに多く取り出すか、換言すればいかに高負荷率、かつ長時間(すなわち高稼働率)で運転するかがその活用のポイントだった(CGSを複数台設置するなどの場合によっては、需要家の契約電力を削減できる場合もありそれは電力kWの価値を生かしていると言える)。その背景には、電力量の価値(価格)およびガスなどの燃料の価格が一定だったことがある。

それが今や電力全面自由化などのシステム改革が進み、電気事業者が多様になったことで、電力市場連動の契約など電力契約メニュー、すなわち電力量の価値(価格)が多様化している。さらには20年から容量市場、24年から需給調整市場が創設され、容量(kW)や調整力(ΔkW)の価値も認められている。

これらの価値を活用しながら、導入したCGSの価値を最大化することが必要であり、従来の「高負荷率かつ長時間で運転する」だけではなく、電力市場をはじめ容量市場、需給調整市場の動向を視野に入れ、オペレーションズリサーチの手法を取り入れながら、経済的収益を最大にする運用計画の策定やそれに向けた研究が求められている。

〈再生可能エネルギーとの調和〉

現在の貴重な化石燃料や将来の高価な水素・アンモニアを使用するCGSなどの火力発電設備は、その機動力、調整能力を活用して十分な価値を引き出すことが必要である。

CGSには、起動停止が機敏であることに加え、出力調整も高速で行うことができるメリットがある。それだけに、CN達成のため再エネ主力電源化を目指す中でCGSの機動力を生かした運用、および通信システムなども含めた制御システムの進展が期待される。

一方で、再エネとりわけ太陽光発電などインバーター型の発電設備が増加することにより、電力系統の擾乱時(周波数や電圧に変動が起きた時)に保護装置が働き、電力系統から解列(分離)されることで、さらに電力系統の擾乱を拡大するという現象が起こり得る。このような現象を回避するために、CGSなどは系統擾乱時も一定程度連系を維持することが必要だ。

〈レジリエンスへの貢献〉

電力系統の停電時に、CGSの自立運転によって需要家構内の負荷に電力を供給できることは、以前からCGSのメリットとしてうたわれている。しかしながら、それを実現するにはCGSの仕様だけでなく、需要家構内の負荷選択など構内設備のエンジニアリングも重要だ。

災害などに対応できる強靭な街づくりにCGSが貢献するためには、電力系統の停電時にCGSが自立運転できることに加え、街全体の配電系統の運用も含めた入念な設計が必要である。防災への活用の観点からCGSは電力だけでなく熱(給湯、蒸気)の供給も可能であるため、災害時の総合的なエネルギー供給に貢献することが期待されている。

いずれにせよ、省エネの重要な役割を担ってきたCGSは、自由化やCNの影響を受けているものの、再エネを主力とする将来においても、その重要性には変わりなく、時代に即した技術開発が求められている。

【特集1】高効率HPの技術開発に黄信号 再エネと自由化の影響を読む


脱炭素化に向け重要な技術として世界から認められたヒートポンプ技術。

半面、技術開発で優位にあったはずの日本で開発意欲が低下している。

ヒートポンプ(HP)は、高効率な脱炭素化技術であり、比較的技術成熟度も高いため、カーボンニュートラル(CN)の実現に向けて足元から実装していくことが可能な技術である。また、日本のHP産業は国際競争力が高く、技術自給率も高い技術である。

欧州では2010年代後半から、米国ではバイデン政権が誕生した21年から、HPを脱炭素と経済成長の両立にとって重要な技術であることを認識し始めた。特に欧州では、ウクライナ危機を契機として、ロシア産天然ガスへの依存度低下、すなわち安全保障にとっても、HPは重要技術として認識され、技術開発や普及を促進するための政策が積極的にとられている。

一方、日本はどうか。この約10年間で実施してきたエネルギー政策が、HPの技術開発や普及にとって少なからぬマイナスの影響を与えている。中でも、再生可能エネルギー発電促進賦課金の導入と電力システム改革による影響について述べる。

二次エネルギー価格比の推移


電力のみに課される賦課金 電化技術普及を阻害

HPは、一般に燃焼機器と比べて設備費が高いが、省エネによるエネルギーコスト削減によって投資回収が可能な技術である。ただし、投資回収が可能であるか否かは、エネルギー価格やHPのエネルギー消費効率(COP)などに依る。特に、重要な因子である二次エネルギー価格比(電力単価と都市ガス単価の比)は、この約10年間で2・1から3まで増加しており、ヒートポンプにとって厳しい状況にあるのが実態だ。

二次エネルギー価格比が増加した主な理由として次の二つが挙げられる。一つは東日本大震災を契機とした原子力発電所の長期停止によって、比較的高コストな火力発電比率が増加したこと。これによって二次エネルギー価格比は2・5まで増加している。もう一つは12年に導入された再エネ賦課金。再エネ賦課金は電力のみに課せられているため、再エネ電源を増やすほど、電気料金のみが増加する構造になっている。これによって二次エネルギー価格比は3まで増加してしまった。

二次エネルギー価格比が高いほど、HPには高いCOPが要求される。このため、10年前であればHPが経済的に成立していた条件、用途であっても、現在では成立しないケースが生じている。電源の脱炭素化と高効率の電化をセットで進めるべきところ、再エネ賦課金によってHPや電化技術の普及が阻害され、非電力部門で化石燃料を使い続けることにインセンティブを与えてしまっている。また、日本では10年前までは産業用高温HPの技術開発が活発化していたが、高い二次エネルギー価格比によって開発意欲が削がれている。

再エネ賦課金は、現行制度のままであれば30年代前半まで増加する見通しである。電力のみに課される状況がこのまま続くと、HPの普及が進まないどころか技術開発を停滞させ、10年後には技術力で欧州に抜かれてしまう可能性もある。

HP技術開発では、メーカーだけでなく、大手電力会社も大きな役割を果たしてきた。小売自由化前は、地域独占であったが故に、販売地域の異なる他電力会社と協力して技術開発に取り組むことができた。またはメーカーが特定地域の電力会社と共同開発した場合であっても、その技術を別の地域に展開しやすい体制だった。しかし共通の電力市場で競争しなければならなくなった現在、小売電気事業者は他の事業者と協力して技術開発することが困難になった。

【特集1】自由化・再エネ・DXで新局面に 利用技術開発競争の往古来今


電力・ガス業界は技術開発で切磋琢磨し、需要の争奪線を繰り広げてきた。

時代ごとに両者の競合の変遷や最新事情に迫りながら、新局面を展望する。

時は1980年代。電力事業全体の高コスト構造の一因となっていた負荷率を改善し、海外に比べて割高な電気料金を引き下げるという政策が、当時の通商産業省主導で打ち出された。コストの高い石油火力が担う昼間の電力ピークを抑え、割安なベースロード電源が主役となる夜間の電力需要を引き上げる、いわゆる「負荷平準化」だ。

これを切り口に、分散型エネルギー、地域熱供給システムの普及が進んでいった。当時、電力業界はヒートポンプ(HP)・蓄熱・ターボ冷凍機など、都市ガスはガス冷房やコージェネレーションを武器に、エネルギー機器の技術開発と普及合戦を繰り広げることになった。

「バブル全盛期に突入しつつあった当時の日本では、電力の需要がぐんぐん伸びていて、電力ピークを抑えるシステムを積極的に導入していく必要があった。片や、21世紀には省エネが進んで電気は逆に売れなくなり、電力需要をつくっていかないと事業の安定化が図れなくなるとの見方もあった。この状況に対応すべく、当時の東京電力は営業開発部をつくった。メーカーと一緒に機器開発に取り組みながら需要を開拓する部隊で、法人営業部の前身だ。その後全国の電力会社に広がっていった」

大手電力会社の法人営業部門に所属していた元幹部は、こう話す。一方で、ガス業界側の事情はというと……。

再開発エリアの熱供給を巡り競合が展開された


オール電化機器の登場 ガスも対抗製品を続々開発

「互いに売り物が電気かガスしなかった80年代、両業界の競争はイデオロギー的な意地のぶつかり合いだった」

こう振り返るのは、大手都市ガス会社の元幹部だ。利用技術の質の向上をいかに図るかが、勝負の分かれ目となったという。とはいえ、電気や他の化石系燃料と違って、強力な商流がなく知名度が低いガスは不利な状況。それを挽回するため注力したのが、需要家に直接アプローチする独自の営業手法を確立し、省エネ技術を磨くことで他燃料との差を埋めることだった。

90年代は、燃焼系技術が次々と花開いた時代だ。都市ガスの供給エリアが急拡大し産業用部門でも一気に存在感が増した。ボイラーや空調、発電機、さらには排熱利用のコージェネシステムが黎明期を迎え、排ガスクリーン化や高効率化などの技術開発を巡り、従来主力だった石油系燃料と競争を繰り広げるだけではなく、電力ともしのぎを削るまでになった。

そうした競合の中で、大手電力による需要開拓の矛先は、ガス・石油会社の牙城だった熱需要の獲得に向かっていった。その象徴が、空気熱を利用したHP式給湯器のエコキュートであり、電磁誘導加熱を利用したIH調理器だ。これらをベースにしたオール電化機器が登場し業務・家庭用で普及し始めると、大手ガス会社は猛烈な危機感を抱き、メーカーとの共同開発体制の下で対抗製品を続々と市場に送り出した。

エコキュートに対しては潜熱回収型高効率給湯器「エコジョーズ」を、IHに対してはガラストップコンロを、電化厨房に対しては「涼厨」を武器に交戦。さらにはオール電化対抗として、家庭用ガスエンジンコージェネ「エコウィル」や燃料電池コージェネの「エネファーム」を開発、市場投入したのだ。

このように、電力対ガスの競合が産業用から業務用、家庭用へと拡大する中で、「双方の業界が競い合い、さまざまな商品やシステムが生み出されていった」(都市ガス会社幹部)のが90年代から2000年代にかけての時代だ。政策面では、都市ガスが1995年から、電力が2000年からそれぞれ大口部門が自由化されたことで、相互参入も徐々に進み始めた。とはいうものの、この時点ではあくまで部分的な動きに過ぎず、エネルギー間競合は変わらず激しさを増していった。

こうした局面を大きく変えたのが、11年3月の東日本大震災だ。これを機に、政府は電力・ガス小売りの全面自由化や大手事業者を分割するシステム改革を断行。また、福島第一原子力発電所事故の影響で原発が長期稼働停止に追い込まれるのと時を同じくして、再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)がスタートし、太陽光や風力など自然変動再エネの大量導入が本格化した。

【関西電力 森社長】最新知見を取り込み安全・信頼性を高め 原子力を活用していく


事業の不確実性が高い中で、ゼロカーボン化や新事業に挑戦し、中期経営計画の前半3カ年の財務目標を達成した。

これを受けて後半2カ年の財務目標を引き上げ、25年度までに自己資本比率28%以上を目指す。

【インタビュー:森 望/関西電力社長】

もり・のぞむ 1988年京都大学大学院工学研究科修士課程修了、関西電力入社。執行役員エネルギー需給本部副本部長、常務執行役員再生可能エネルギー事業本部長、取締役執行役副社長などを経て2022年6月から現職。

志賀 原子力発電が7基体制となり、高浜3、4号機は運転期間延長が認可されるなど、安定的な運用に着々と手を打っていますね。

 高浜発電所3、4号機は、特別点検の結果などを含めた劣化状況評価を実施した結果、60年までの運転を想定しても問題がないことを確認したため、運転期間を延長する方針を2022年11月25日に決定しました。そして今年5月29日、原子力規制委員会より運転期間延長認可をいただき、60年までの運転が可能となりました。また、6月26日には大飯発電所3、4号機が30年以降運転における長期施設管理計画の認可を受けました。

今後とも国内外の最新知見を積極的に取り込み、プラントの設計や設備保全に反映していくことで、原子力発電所の安全性・信頼性の向上に努めていきます。そして、地元をはじめとする皆さまのご理解を賜りながら、原子力発電を重要な電源として活用していきます。

志賀 美浜原子力の増設をはじめ、いよいよ新増設の検討にも着手することになりますか。

 新増設について、何か決定したことがあるわけではありません。とはいえ、2050年カーボンニュートラル(CN)の実現を描くためには、原子力を一定規模稼働させる必要があります。それには、既存のみならず新しいプラントが必要であり、リードタイムを考えるといよいよしっかりと検討するべき時期に差しかかっていると考えています。

高浜発電所3、4号機は60年までの運転が可能に


中計は着実に進捗 財務目標を見直し

志賀 グループの中期経営計画(21~25年度)が残り2年を切りました。進捗はいかがでしょうか。

 21年度以降、事業運営の大前提である真にコンプライアンスを徹底できる企業グループへの再生に向け、内部統制強化と組織風土改革を両輪で推進しつつ、「EX(エナジートランスフォーメーション)」「VX(バリュートランスフォーメーション)」「BX(ビジネストランスフォーメーション)」の3本を柱に、ゼロカーボン化や新たな価値創出に向け取り組んできました。

策定当時は、需要の低迷や再生可能エネルギーの大量導入に原油価格の下落も相まって、電力取引価格が大幅に低下し、新電力との競争激化から収支の悪化を見込んでいました。その後、ウクライナ情勢を受けた燃料市況の変動など、不確実性が高い状況の中においても、あらゆる角度から事業コストの構造改革を進めるとともに、グループを挙げてゼロカーボンに向けた取り組みや新事業にも挑戦。引き続き課題はありますが、3本柱の取り組みは概ね着実に進捗し、前半3カ年の財務目標を達成することができました。

これを受けて、今年4月には中計のアップデートを行いました。財務目標については、収支の状況を踏まえ財務目標を見直し、資本収益性を重視する経営を実践すべくROIC(投下資本利益率)の指標を追加しました。ROA(総資本利益率)は4・4%以上、ROICは資本コストを上回る4・3%以上を目指していきます。このほか、市況の影響を受けやすいエネルギー事業の収支が大きく変動する中にあっても安定的に利益を出していくべく、経常利益を2500億円から3600億円以上に見直し、当初、5カ年累計で黒字化することを目標としていたフリーキャッシュフロー(FCF)については、利益拡大の中、しっかりと将来に向けた投資を行うため5カ年累計で3000億円以上としました。財務体質の改善に向けて有利子負債の返済を進め、自己資本比率を23%から28%以上に引き上げました。

【コラム/8月29日】暑い夏に考える~環境収容力と原子力、そして原子力規制如何


飯倉 穣/エコノミスト

1、サイレントキラー

酷暑である。テレビ・ラジオから「不要不急の外出を控え、室内ではエアコンを利用してください」(NHK)のアナウンスが聞こえる。「屋外活動取りやめ勧告」も飛び交った。そしてエネルギー(電力)需給に不安を抱くばかりでなく、人々の生活から生存に関心が及ぶ。 

報道は伝える。「7月の平均気温、過去最高 平年比2.16度高く、昨夏超す」(日経24年8月2日)、「温暖化加速 酷暑が命を奪う 熱中症死、1週間で23人 心臓・呼吸器持病悪化」(朝日同日)。そしてILOのニュース(7月25日)もあった。「命脅かす「サイレントキラー」アジア4人に3人が被害」(毎日NET8月7日)。暑さはサイレントキラーで労働者の健康・人命を脅かしているという。

現在CN・GX絡みでエネルギー基本計画の策定が進んでいる。眼前の地球温暖化・エネ対策の検討は当然として、今日の人々の置かれた現況は、これらの施策を大胆に実施することに加えて、根本であるエネルギー・生態系・経済の姿の再認識が必要である。環境収容力の概念である。地球温暖化問題と人口・経済水準のあり方から見たより広範なエネルギー政策の視点を考える。そして原子力規制への疑問も呈したい。


2、環境収容力とは

人間活動を考える上で、生態学(エコロジー)の視点、とりわけ地球生態学は、我々に様々な示唆を与えてくれる。現在同じ地球上で存在する一般の生物の行動から見た我々の姿である。(以下「生態学入門2004年」参照・引用)。

生態系とは、ある地域あるいはある空間に生息している生物とその生活に関与する無機的環境で構成するシステムである。地域的な広がりで局所生態系とその集合である地球生態系としてとらえる。生物は、無機的環境と相互作用して、気圧30気圧、CO2濃度95%の原始大気を現在のCO2濃度400ppm(0.04%)以下、1気圧の大気を形成した(環境形成作用)。太陽エネルギーが生物の活動を助けCO2をストック化(化石エネ)した。ストックの使用は慎重であるべきと主張もあった(Small is beautiful 1973)。

エネルギーの流れで捉えれば、太陽エネルギー、地球に作られた地球生態系、そのなかで生物は生態系を構成し、存在(生活)している。人はどうか。狩猟の時代と違い、その生態系の一部を改質(都市化)して我々の人間活動(経済活動)がある。

環境収容力は自然の摂理

その生物たちは、生態系の中で無限に増殖するわけでない。増殖に一定の制約がある。環境収容力の概念で説明される。「生物の個体数は、供給される資源の量と、それを利用する生物種の特性に依存して決まる。生物集団の環境収容力と呼ばれる。個体群密度に依存して生物集団の規模は調節される」(生態学入門p240~)。密度が高まると、個体数の増加は、何らかの要因(えさ、種内競争、自己間引き等)で増加率が減少する(密度効果)。自然の摂理と言える。

局所生態系を破壊する

人間はどうか。人類は、地球生態系の一部である局所生態系を破壊・改質し、都市を構築し活動を行っている。その活動でエネルギーを消費し、密度効果を超克してきた。都市内の活動は、エネルギーを利用し、経済財を生産・消費し、廃棄物を処理することで営まれている。そこに問題の発端がある。都市内の廃棄物のなかで炭酸ガスの処理が困難なことである。消費エネルギーの85%が化石エネルギーでCO2排出を伴うため、大気を通じて全地球的な生態系に影響を及ぼす。局所生態系の改質で人口増を実現しながら、その過程の副作用が地球生態系の変容という制約に直面させる。いわば人類特有の密度効果という現象である。その症状から脱出可能であろうか。

人口減少で技術者不足 維持困難化するインフラ


【今そこにある危機】河合雅司/人口減少対策総合研究所理事長

人口減少と設備の老朽により、日本のインフラは危機に直面している。

先端技術による省力化や人口集積を図るなど、社会の抜本的な変革が求められる。

人口減少は国民生活に多大な影響を及ぼすが、電気やガス、水道といったインフラもその例外ではない。人口減少で利用者が減れば、必然的に料金は値上げされる。事業者の収入が減り、長期的に経営体力が削がれていくためだ。

送電線の老朽化も著しい


水道料金は値上がり必至 全国格差は20倍に

例えば、水道料金は全国各地で大幅値上げの動きが目立ってきた。節水機器の発達もあって1人当たりの使用量は減ってきているが、人口減少社会では独居の高齢者が増えるため、各世帯の使用量はさらに減る。総務省が料金徴収の対象水量である有収水量を紹介しているが、1日当たり4100万㎥だった2000年でピークアウトし、50年には2700万㎥と3分の2程度の水準にまで落ち込むと予想している。

収入が減る見込みの一方で、施設・設備は老朽化してきている。厚生労働省によれば、全管路延長(導水管や配水管を全てつなげた総延長)約73万㎞のうち、法定耐用年数(40年)を超えた管路は約14万㎞に及んでいる。その割合を示す管路経年化率は毎年上昇しており、19年度は19・1%であった。実務上の更新基準は平均するとおおむね60年であり、今後20年程で更新を完了しなければならない。施設・設備の更新にかかる巨額な費用を賄うためには、さらに料金を徴収せざるを得ない。利用者総数が減った分、利用者1人当たりに求める負担額も大きくなり、大幅値上げになるということだ。

EY Japanと水の安全保障戦略機構事務局による「人口減少時代の水道料金はどうなるのか?(2024年版)」によれば、分析対象の96%に当たる1199事業体が46年度までに値上げが必要になるという。平均値上げ率は48%に及ぶ。利用者数が少ない事業者や人口密度が低い地域の事業者ほど値上げ率が高くなる傾向にあり、全国の水道料金格差は21年度の実績値8倍から、46年度には20・4倍に広がるとも予測している。50%の値上がりとなる事業体が4~5割程度になるという。住居が点在する過疎地域では利用者数の割に水道管の距離が長く、その維持管理に見合う収入が得づらいのだ。

こうした状況に、水道事業者の中には広域化を模索する動きがある。だが規模を大きくすれば良いということではない。全国規模で人口が減って行くため、広域化では根本解決とはならない。人口減少がインフラに及ぼす影響は、国民の負担増では終わらない。技術者の不足こそ最大の危機であろう。

労働政策研究・研修機構の「労働力需給の推計」(2023年度版)は、「電気・ガス・水道・熱供給」の就業者は経済が成長し、労働参加率が現時点より上昇したとしても22年の31万人から40年には8万人少ない23万人になると推計している。十分な人数の技術者を確保できなければ、老朽化した施設・設備の大規模更新は計画通りに進まなくなり、日常の保守点検作業すら困難にする。日本は地震や台風など自然災害が多い国であり、停電や断水などがいつ起きても不思議ではないが、技術者が不足すれば復旧に時間がかかるようになる。

ガス料金体系に革命起こす 時間帯・用途別計量を実現


【技術革新の扉】ハイブリッドカウンター/東洋計器

エネルギー自由化を背景に、2000年に販売開始となったハイブリッドカウンター。

多様な料金メニューを創出できるため、ガスの需要開拓の切り札と言われている。

1台のメーターで厨房、給湯、暖房の用途別に分けてガス使用量を計ることはできないか―。北海道のLPガス会社エア・ウォーター赤津敏彦常務(当時)のリクエストを受け、東洋計器のハイブリッドカウンター「HyC―5」の開発が始まった。北海道の暖房は灯油の床暖房やストーブがメイン。LPガスは台所でしか使われず、一般家庭の平均ガス使用量は3㎥程度だ。

そこで「灯油の壁を打ち破り、LPガスで需要開拓できるメーターがほしい」という難題を、東洋計器の土田泰秀現会長にぶつけてきた。

土田会長は三部制料金への利用をアピール

東洋計器としても、新規性のある製品開発を行う必要を感じる背景があった。1990年代からエネルギーの自由化が始まり、電力市場やガス市場での競争が本格化する時代が訪れようとしていたのだ。

これに合わせて、電力業界はオール電化を推進、使用時間帯によってお得になる料金プランも同時につくった。これに対し、LPガスは顧客によって何十種類もの料金メニューがありながら、需要家が利用できる料金は単一の料金プランのみ。「これならお得だ」と感じるプランをつくることができなかった。

その後、エア・ウォーター赤津常務の要望から3年の開発期間を経て、2000年にHyC―5は誕生した。


五つのカウンターで計測 時間帯や用途別で分割表示

HyC―5はS型(機械式)マイコンメーターや、同じ機能を内蔵した都市ガスメーターなどを用いることで、時間帯別使用量や特定器具別使用量を分割表示することが可能。時間帯や給湯器、暖房など用途別に料金設定できる。またIoT端末機器に接続することで、一週間単位でどの時間にガスを使用したかを判別できるため、在宅時間の推定が可能で営業効率の向上に寄与する。さらに、24時間ガス不使用の場合は携帯電話網を通じてセンターに通報を送る機能も有している。

ハイブリッドカウンターでは主に五つのカウンターで時間帯別、需要帯別のガス使用量を設定した優先順位によって分割表示する。主に監視するのは指定時間、大流量、長時間、通常の四つだ。指定時間は設定した時間内のガス流量、大流量は指定時間に該当せずガス使用流量が設定値を超えるもの、長時間は指定時間や大流量に該当せず長時間設定値を超えかつ大流量設定値を超えない場合、通常はいずれも該当しない場合、それぞれを計測する。

これらを用いて、①時間で測る引き出しA(例=土・日料金)、②時間で測る引き出しB(例=深夜料金)、③大流量で測る引き出し(例=給湯器帯料金)、④長時間で測る引き出し(例=暖房帯料金)、⑤通常利用の引き出し(例=厨房帯料金)―といった五つのカウンターで分割表示が可能となる。

実際、使用器具別にガス使用量を計測すると、それぞれの特長が現れる。給湯やシャワーは一気に短時間にピークが立つようにガスを使用する。暖房は長時間にわたり一定のパターンで使用するといった具合だ。土田会長が説明する。

「ハイブリッドカウンターで一般家庭のガス使用量を計測すると、夏と冬では全く異なる使用パターンが出てくる。給湯や暖房の使用パターンを分析することで用途別、時間帯別の料金体系を構築でき、ガス利用シーンに応じた料金戦略を打ち出せる。例えば、衣類乾燥機を希望する顧客に一週間のうち5時間だけ10%オフでガス提供といった販売方法も可能だ。価格に敏感な主婦にアピールできる」

実際、ハイブリッドカウンターを導入し料金プランを多様化したことで、需要拡大につながったという事業者も多数ある。静岡ガスエネルギーではHyC―5の活用により、ガス暖房の利用が3万世帯を超えている。この情報を聞いた他の地方ガスも大幅にガス販売を増やすなど実績を挙げているとのことだ。


三部制料金を基に需要開拓 魅力的なプランを創出

HyC―5のデータをLTE回線で送信する「IoT―R」も好調だ。LPガスマイコンメーターに接続し、メーターの検針値や保安情報などをスマートセンターに送信。最大1時間ごとの検針値を毎日送信できるのが特長だ。毎年おおむね100万台を出荷しており、今年8月には累計400万台出荷を達成する見通し。

マイコンメーターと接続した「HyC-5」と「IoT-R」

また、ガス事業者からの委託を受けて、東洋計器が24時間365日体制で集中監視センターを管理するマルチセンターを運営する。こちらもIoT―Rの出荷とともに年々規模が拡大している。

LPガスを巡っては、今年4月に液化石油ガス法の省令改正が公布された。この中に「三部料金制の徹底」が改正事項に含まれており、来年4月から施行される。三部料金制はLPガス検針票の料金内訳を基本料金・従量料金・設備料金の3段階に区別して記載することを指す。LPガス料金に含まれていた設備費用を外だし表示にすることで、請求料金の透明化を図ることが狙いだ。

ここにハイブリッドカウンターを用いて新料金メニューを打ち出すことを、土田会長は提案する。「従来の料金体系を踏襲するのではなく、ライフスタイルに合わせたプランを打ち出すべきだ。ガスの魅力を伝える最大の好機となる」と訴える。20年以上にわたり販売してきたハイブリッドカウンター。今回の省令改正を契機に、LPガスのさらなる需要開拓に貢献していきそうだ。

【鷲尾 英一郎 自民党 衆議院議員】地元住民に再稼働のメリットを


わしお・えいいちろう 1977年新潟県生まれ。2001年東京大学経済学部卒業後、新日本監査法人に入社。05年鷲尾英一郎公認会計士・税理士・行政書士事務所を開業。同年の衆議院議員選挙初当選以降、6期連続当選。農林水産大臣政務官、外務副大臣、衆議院環境委員長などを歴任。

小学生の頃から政治家を志し、28歳で衆院選に初当選した。

柏崎刈羽原発の地元・新潟4区の声を国政に届ける。

政治とは無縁な家庭で育った。先天的に肺の中に腫瘍ができる肺嚢胞症を患い、3歳で肺の3分の2を摘出。この経験から両親に野口英世の伝記を勧められ、「医師になりなさい」と言われて育った。医療従事者として人の命を救う道も考えたが、最終的に志したのは政治家だった。「医療技術の進展にも政治の力が必要。社会をより良くしたい」と思い、小学生の時に将来を決めた。その後は「若くして政治家になるには、手に職をつけた方が良い」と考え、公認会計士となった。

2005年、新潟県は前年に発生した7・13水害や新潟県中越地震の復旧に追われていた。衆議院選挙の足音が近づく中で、「地元の復旧に貢献したい」と自民党からの出馬を模索。しかし、当時の自民党の候補者は世襲がほとんど。そんな中、民主党(当時)の菅直人氏の秘書を務める同級生と話す機会があった。民主党では野田佳彦氏や前原誠司氏ら、松下政経塾出身で非世襲の保守派議員が活躍。当時は鳩山由紀夫氏や枝野幸男氏も改憲論者で、旧社会党とは違う雰囲気があった。「自民党から立候補できないなら『保守の二大政党制』を目指そうと考え、民主党からの出馬を決意した」。選挙区では自民党の候補者に敗れたが、比例で復活当選。弱冠28歳で衆議院議員となった。

その後も当選を重ねたが、政権を下野して以降の民主党は、共産党との選挙協力など左旋回が目立った。15年の安全保障法制では共産党とともに成立阻止を訴え、国会では議員のスキャンダル追及や揚げ足取りばかり。執行部に抵抗したものの、状況は変わらなかった。17年に希望の党への合流を拒否して民進党を離党、無所属で出馬し当選。その後、菅義偉前首相の導きもあり、19年3月に自民党に入党した。

航空燃料不足が顕在化 石油・航空業界の問題意識とは


【多事争論】話題:航空燃料不足問題

インバウンド需要増に航空燃料の供給が追い付かないとの課題が浮上している。

政府は官民タスクフォースを立ち上げたが、石油産業側、航空業界側はどうみるのか。

〈 増産に石油会社のメリット乏しく CNも見据え複合的視点で検討を 〉

視点A:平野 創/成城大学経済学部教授

昨今の航空燃料不足は、供給量が現行の需要量を大きく割り込むような絶対的不足ではなく、足元および将来の新規需要に対する供給余力の不足であるという点を認識する必要がある。つまり、新規に日本への就航や増便を目指す事業者(価格に敏感な格安航空会社・LCCなど)の需要に応えきれていないというのが問題の本質である。この点で、コロナ禍において人員削減を実施した結果、需要が回復した現在に至っても旧来の人員数に復していない「グランドハンドリング人材の不足」問題とは異なっている。2023年度の国際線向けの航空燃料の出荷数量は、既にコロナ渦以前の19年度と同水準にまで回復しているのである。

この問題は、内航海運などロジスティクスも含む複合的な問題であるものの、石油産業側の事情に起因する部分が大きい。その理由は、石油製品の生産プロセスにある。原油を分解することによって各種石油製品(例えばガソリンや灯油、重油など)は生産される。その際、各製品が一定の比率ずつ得られる、いわゆる連産品構造となっているため、航空燃料のみを増産することは困難なのである。

もちろん、①現時点では原油処理設備の稼働率に余力があるため、処理量を増加させる(全ての石油製品の生産量を増やす)ことで航空燃料を増産する、②海外から航空燃料を輸入する―という解決策がある。しかし、どちらもコスト高であり現行の価格での追加的供給を求められた場合、石油会社にとっての経営上のメリットは乏しい。また、性状が近い灯油の生産を航空燃料の生産に先々振替えることも可能ではあるが、冬季に灯油が不足すれば国民生活に大きな影響が出るため、この選択肢を取ることも困難である。

加えて、ロジスティクス面での影響、とりわけ働き方改革に伴う労働時間管理の厳格化の影響も受ける。内航船およびタンクローリーの数が従前と変わらなくとも、労働時間の減少で内航船やローリーの稼働時間(回転率)が低下し、輸送可能量が減少しているからである。さらに、長らく続く製油所の統廃合によって、航空燃料をより遠方へ運ぶ必要があり、輸送効率は以前より低下している。ただし、日本内航海運組合総連合会の河村俊信理事長の「ジェット燃料の海上輸送が滞っているとは聞かない」(日本経済新聞24年6月29日、北海道地方面)との発言にあるように、現時点では副次的な問題の可能性もある。


化石資源の生産減とSAF導入 両立へ難しいかじ取りに

これらの問題の解決策は、第一に経済的メリットの創出である。適正な価格設定を行い、事業としての経済的利益が見込まれるのならば、供給量は必然的に増加する。また、これらの利益は物流業者にもしっかりと配分されるべきである。賃金が上昇すればロジスティクスに関係する人員確保や内航船などの拡充への投資促進にもつながると考えられる。

第二に輸入を前提とした港湾、受け入れ設備などのインフラ整備が挙げられる。これらは足元の航空燃料不足の解消のみならず、将来の国内航空路線維持にも資する。石油製品の需要減が見込まれる中、生産得率の大きいガソリン(22年度の原油処理量に占める得率は29・7%)や軽油(同25・0%)に合わせて生産計画を立てるならば、今後、航空燃料の国内生産量は減少し、国内需要のためにも一定量の輸入が必要となる可能性もある。

第三にロジスティクスに関わる労働者の数を増加させるために仕事としての魅力度の向上、場合によっては資格要件の緩和、給油作業方法の統一などについても踏み込んで考える必要がある。労働人口が減少する中で新規の人材確保は困難であり、賃金のみならず労働環境や労働条件の向上が不可欠である。

第四に、新技術の活用により労働者数の削減や確保の容易化を図ることである。こうした事例はグランドハンドリング人材確保に向けた取り組みにおいて既に見られる。ANAは空港の地上業務においてリモコン式のトーバレストラクターの導入で、資格取得の短期化を可能とするとともに、力仕事をなくすことで、性別や年齢に関係なくプッシュバック作業に携われることを可能とし、多様な社員の活躍につながっているという。

航空燃料を巡っては、カーボンニュートラル(CN)社会の実現に向けてSAF(持続可能な航空燃料)の国内生産や海外からの調達も必要とされる。同時にCN化へ向かい化石資源の生産量の減少が見込まれる中でも、化石系の航空燃料を安定的に調達する必要性があり、一見相反するかに見える取り組みを両立させる難しいかじ取りが迫られる。

ひらの・そう 2008年一橋大学大学院商学研究科博士後期課程修了。博士(商学)。専門は経営史、経営学。同大学院特任講師を経て、20年から現職。総合資源エネルギー調査会脱炭素燃料政策小委員会委員なども務める。

【政策・制度のそこが知りたい】数々の疑問に専門家が回答(2024年8月号)


再エネ賦課金の廃止は可能か/新SHK制度で何が変わるか

Q 国民民主党が主張する再エネ賦課金の徴収停止は、財源確保も含めて実現可能ですか。

A エネルギー高騰対策として、国民民主党は再エネ賦課金の徴収停止を提案し、今年の通常国会においても、議員立法で「再エネ賦課金一時徴収停止法案」を提出しました。政府の電気・ガスに対する補助金は、5月料金まで支給されましたが、6月以降は打ち切りとなりました。

一方、再エネ賦課金は、4月まで1kW時当たり1.4円だったものが、5月からは同3.49円とこれまでの約2.5倍に増加しており、5月の電気代は、14.7%上昇するなど、国民生活にとって大きな負担増となっています。こうした実態を踏まえ、エネルギー高騰対策として最も効果があると考える再エネ賦課金の徴収停止と再エネ賦課金の在り方の抜本的な見直しも提案しています。ドイツでも、再エネ賦課金が電気代高騰の原因となったことから、2022年に再エネ賦課金を廃止しました。ですから、日本においても実施できると考えています。

再エネ賦課金徴収停止に伴う代替原資については、当分の間、税で対応するべきだと考えていますが、日本全体として、今後、再生可能エネルギーをどこまで普及させるのか、エネルギー基本計画の見直し議論、電力システム改革の検証、GX移行債の償還や国民負担への影響も踏まえて、検討することが重要です。 エネルギー政策は、国の根幹となる極めて重要なものであり、経済活動や国民生活を守っていくためには、非現実的な原発ゼロ政策の見直しや電力自由化を礼賛してきたこれまでの電力システム改革の見直しが欠かせません。今後も、現実的で偏らず、正直な政治を、エネルギー政策でも貫いていきます。

回答者:浜口 誠/国民民主党参議院議員 政務調査会長


Q 2024年度に改正された「温室効果ガス算定・報告・公表制度(SHK制度)」によって、 CO2カウントルールはどう変わりましたか。

A ASHK制度とは、地球温暖化対策の推進に関する法律に基づき、温室効果ガスを一定量以上排出する事業者に、排出量の「算定」と「報告」を義務付け、国が報告された情報を「公表」する制度です。一定量以上排出する事業者は、「特定排出者」と呼び、全ての事業所のエネルギー使用量合計が原油換算で、年間1500㎘以上となる事業者などが該当します。

24年4月のSHK制度の大きな改正内容として、電気に加えて都市ガスと熱の事業者別排出係数が導入された点が挙げられます。特定排出者は、これまでも電気については契約している電気事業者の排出係数(事業者の排出係数の算定・報告に基づき、国が公表した排出係数)を用いることができたものの、都市ガスおよび熱についてはそれぞれの使用量に省令で定められたそれぞれの排出係数(固定値)を乗じて二酸化炭素排出量を算定・報告していました。

改正により特定排出者は電気と同様、都市ガス・熱についても契約している都市ガス事業者・熱供給事業者の排出係数を用いて算定・報告することが可能となるとともに、都市ガス事業者と熱供給事業者は環境価値を反映させた係数の提供が可能となり、供給先のニーズに応じてクレジットなどを活用して排出係数がゼロのメニューを提供できるようになりました。

以上の改正により特定排出者が、電気、都市ガス、熱の全量をそれぞれの供給事業者と排出係数がゼロのメニューで契約した場合に、これらに関する二酸化炭素排出量をゼロとして国に報告可能となったことが、これまでとの大きな違いです。

回答者:中森智也/日本熱供給事業協会 調査企画部長

【需要家】再エネ活用最大化へ 求められる需要家の進化


【業界スクランブル/需要家】

今年4月、東急不動産が事業会社として国内初のRE100達成認定を公表した。またRE100参加企業のうち、エンビプロ・ホールディングスや島津製作所は、再エネ比率80%超と認定までもうひと息の状況だ。

RE100の要件において参照されるGHG(温暖化ガス)プロトコルのScope2ガイダンスの改定手続きが、本年末までの改定版ドラフトの策定、2025年末までの最終化完了を目指して進んでいる。その際の意見募集で、いくつか注目を集める提案があった。例えば、RE100では既に導入されている「追加性」や、調達する再エネの発電・消費を1時間単位で一致させる「同時性(Hourly Matching)」の要件化といった、調達基準の厳格化提案である。

この「同時性」が要件化された場合、需要家には、調達手段や調達先の変更、コスト増加、管理業務の複雑化などの影響が生じる可能性もある。

現時点でこれらが改定案に盛り込まれて導入に至るかは不透明だが、既に変化を先取りした動きもみられる。例えばJERAの子会社は、再エネの発電・消費を時間単位でマッチング・認証する技術を有するスペイン企業との提携を6月に公表した。

日本では、導入制約の高まりを踏まえ、再エネを無駄なく活用することが求められる。同時に、ここまで見たような、再エネ活用環境の複雑化や高度化への対応も不可欠だ。 需要家においても、従来の消費や調達活動の枠を超え、利用する機器や設備が持つ機能を生かした、能動的な需給マネジメントに取り組むべき時代が、目の前に迫ってきている。(P)

DX化を進め事業を多角化 魅力ある街づくりに貢献する


【エネルギービジネスのリーダー達】齊藤 洸/伊東ガス社長

静岡県伊東市で90年以上の歴史を持つ伊東ガスの6代目社長に就任した。

ガスという既存事業を大切にし、地域の魅力を高める新規事業で持続的な成長を目指す。

さいとう・こう 東京理科大学理工学部卒、グロービス経営大学院(MBA)修了。日本生命保険、アクセンチュアなどを経て2021年3月伊東ガス入社。経営企画部部長、取締役などを務め24年3月から現職。

城ケ崎海岸など雄大な自然に囲まれ、日本有数の温泉地として名高い静岡県伊東市。今年3月、この地で1932年から都市ガス事業を手掛ける伊東ガスの6代目社長に就任したのが齊藤洸氏だ。

温泉旅館など宿泊施設が多く、ガス販売量の半分近くを商業用が占める。新型コロナウイルス禍では、多くの宿泊施設が閉館した影響で商業用の販売量が半分程度まで落ち込んだ月もあったが、観光需要の回復でだいぶ持ち直してきた。より深刻なのは家庭向けだ。市街地では空き家が年々増え、メーター取付件数は、年間50~100件減少し、足もとでは1万件を切るなど、販売量が減り続けている。


収益基盤を多様化 まずは水事業に参入

入社当時は、何ら手を講じられないまま、少しずつ販売量が減り続けることに強い危機感を抱いた。それと同時に、プロパンガス販売を含めると約1万5000軒という顧客基盤があり、新規事業にチャレンジする土壌があることに高いポテンシャルも感じたという。

そこで打ち出したのが、DX(デジタル・トランスフォーメーション)を進めながら、新規事業を新たな経営の柱に育てる戦略だ。その第一弾として、22年に蛇口直結型「電解水素水生成器」のサブスクリプションサービスを開始した。

ガス事業の繁忙期は冬。反対に水事業は夏場が繁忙期になるため、両利きの経営にはぴったり。実際、ウォーターサーバーの宅配サービスに取り組む同業他社は多い。ただ、それでは注文に応じて配送する必要があり、新たな人員確保が求められる。

これに対し、現行の従業員のみで収益拡大が期待できるビジネスモデルとして着目したのが、一度機器を取り付ければ、あとは年に1度カートリッジを交換するだけという、電解水素水生成器のサブスクサービスだった。「ペットボトルの水を購入するよりも安価でおいしい。そして、海洋プラスチックごみ問題の解決に繋がるサステナブルな事業」(齊藤氏)として、今後10年でガスに並ぶもう一つの経営の柱に育てていく考えだ。

新規事業を立ち上げるに当たって欠かせなかったのが、新たな顧客管理システムの開発だ。既存の基幹システムはガスに特化しているため、新規事業に伴い拡張しようとすると費用も時間もかかってしまう。そこで、サイボウズが提供するノーコード開発プラットフォームである「キントーン」を使い、自らYouTubeなどで勉強しながら、管理業務や社員間の情報共有を全てスマートフォンで完結できるシステムを構築した。

新事業で得たDXの成果は、今は他の分野にも及んでいる。これまで紙で管理していた運転日報の記録や、発注・出荷管理などの社員同士の情報伝達もシステム上で行えるようにしたことで、業務効率を格段に向上させることができた。 さらに今年からは、社員のシステム構築スキル習得も進めながら、人事・労務管理のDX化にも乗り出している。宿・日直簿や配属、資格、人事評価といった、これまで紙で管理していた情報をクラウドシステムに入力し情報を集約。紙による管理を廃止してもクラウド上で全ての社員情報を閲覧可能にした。


働きがいのある社風へ 社長自らが挑戦

今後、リフォーム事業や伊東市の魅力を高めるような第三、第四の新規事業を立ち上げることも念頭に置く。空き家事業への参入を見据え、現在は、宅地建物取引士の資格取得に向けて猛勉強中。「ガス会社にとって、空き家問題は大きな経営課題。空き家を活用した民泊事業をはじめ、街づくり会社を目指していきたい」と、会社の将来の在るべき姿を見据えている。

もともと、会社を継ぐつもりはなかったが経営には興味があった。大学卒業後は日本生命保険に入社し、在職中にMBA(経営学修士)を取得。さらに経営に関するスキルを高めようとアクセンチュアに転職した矢先、先代社長の父から後継者のなり手がいないなど事業継続への不安を聞き、「今まで学んできたことを還元できるのであれば」と、跡を継ぐことを決めた。

自ら業務システムを開発し、新たな資格取得にも挑戦する―。それは、「社長が率先して頑張ることで社員のやる気を引き出す社風にしていきたい」との思いからだ。社員にとって会社で働くことが幸せか、社会への貢献を実感できるか。そうした気持ちを大切にしていこうと、管理職研修や新たな人事評価制度についても試行錯誤している。

「成長し続ける魅力ある会社でありたいし、お客さまや地域、社員から愛される会社にしていきたい」と齊藤氏。挑戦はまだまだ続く。

【再エネ】上昇続ける賦課金単価 国民に「納得感」を


【業界スクランブル/再エネ】

再エネの導入促進を目的に、再エネ由来電力の買取にかかった費用を広く国民が負担する再エネ賦課金に対して、支払者である国民の多くが「納得感」を感じていないのではないだろうか。

賦課金単価は2012年(1kW時当たり0・22円)から年々上昇し、24年には同3・49円と、一般的な家庭で年間1万6752円負担することになる。筆者は仕事柄再エネ導入の必要性を理解するものの、一消費者の感覚では高いと思わざるを得ない。

脱炭素社会の構築に向けて再エネは重要であり、その導入促進施策としてFIT制度は重要な役割を果たしてきた。一方で、事業収益確保のみを追求し、自然・地域との共生や、安全性を軽視する悪質な事業者の参入も招き、危険な立地への太陽光パネル設置による土砂崩れなどの被害も報告されている。公共料金として半ば強制的に支払わざるを得ない性質上、賦課金の負担額に見合う「納得感」を国民にもたらすべきである。

そのためにまず、賦課金が自然・地域との共生や、安全性を軽視する悪質な事業者の手元に渡らないようにすることが重要である。今年4月に施行された改正再エネ特措法では、関係法令の違反事業者などに係るFIT/FIP交付金の一時停止措置などの事業規律強化を盛り込んでおり、規制強化の動きがある。

加えて、賦課金を支払うことによって国民が得られる便益の可視化も重要となる。例えば賦課金を支払うことで温室効果ガス排出量の削減にどの程度寄与したかを電気料金の請求欄に記載するなど、経済的負担に見合う価値を享受していると認識できるよう努めていくべきである。(S)