【多事争論】話題:電力システム改革検証
電力システム改革検証は、7月9日に振り返りと論点整理が行われた。
業界関係者は、これまでの議論をどう評価し、今後の議論に何を期待しているのか。
〈 業界構造は大きく変わらず ビジネス育成へ規制緩和を 〉
視点A:小嶋祐輔/パワーエックス執行役電力事業領域管掌
2015~20年の間に3段階に分けて行われた電力システム改革は、「電力の安定供給の確保」「電気料金上昇の抑制」、そして「需要家の選択肢の拡大と事業者へのビジネスチャンスの創出」の三つの目的を達成するために行われ、①広域系統運用の拡大、②小売及び発電の全面自由化、③法的分離の方式による送配電部門の中立性の一層の確保という3段階が改革の全体像とされてきた。20年の発送電分離から5カ年が経過し、改めて検証が行われているわけだが、新規参入事業者の観点から、振り返りをしてみたいと思う。
まず、「電力の安定供給の確保」について。20年度の市場高騰の頃から、主に火力電源の退出が進み、新設電源の導入があまり進んでいないことがクローズアップされた。小売電気事業者の数が増え、長期的な契約ができるプレイヤーのシェアが減ってしまったことにより、電源側の投資予見性が下がってしまったことが原因か。需要期においては、エリア予備率の見込みが低下し、供給力公募を急遽行う必要が出るなどの影響が出たことは、制度設計のスピードよりも想定以上に事業者側の動き(投資・廃止判断など)が早かったことが原因として挙げられる。容量市場の導入も、それにより新設電源の投資に予見性が確保できたといえるかどうかが論点になってしまうと考える。一方、電力広域的運営推進機関による広域的な電力融通は、需要期が来るごとに行われるようになり、その運用が定着したと見ることができそうだ。これは、電力システム改革の一定の効果と言える。
低下する新電力シェア 脱炭素電源導入が競争活性化の条件
次に、「電気料金上昇の抑制」について。18年頃、卸電力取引所の価格が低廉に進捗した時期においては、旧一電小売とそのグループ会社、または大手新電力によるエリアを超えた過当競争が行われ、主に大口顧客に対する電気料金はかなり下がった。しかし、可変費ベースで競争を行っていたため長く続かなかった。20年頃からの市場高騰、およびウクライナ情勢以降、その揺り戻しが来てしまったわけである。結果として、新電力のシェアは下がる方向となり、足元では大口顧客に対する電気料金の水準は、かつてよりも高くとどまる形になっている。これらを見ると、活性化された競争環境下における電気料金の抑制という観点では、その目的は進捗しているとは言い難いのではないかと考える。
日本全体の電源構成は火力中心であり、その燃料価格によって概ね電気料金の原価が決まってしまうこともあり、この2~3年は、資源価格の水準の方が競争環境の活性化有無よりも影響力が大きい状況であることが示されている。新設電源の導入、特に再生可能エネルギーや原子力といった脱炭素電源の導入が活発になることで初めて、競争環境の活性化による電気料金の水準抑制の議論ができる状況になるのではないか。
また、昨今の再エネ導入は、制度に依存しない形での需要家主導型の導入が多くなってきている。こういった導入をけん引する事業者は、電気料金だけで電力メニューを評価しているわけではなく、再エネとしての電源の価値(例えば、追加性やトレーサビリティーなど)を評価して採用を決めている。「電気料金上昇の抑制」自体の求められる形が、一部の需要家群では変わりつつあるということについては、注目が必要であり、30~40年頃の電源構成を意識したシステム改革の在り方が検討されるべきではないかと考える。
最後に、「需要家の選択肢の拡大と事業者へのビジネスチャンスの創出」について。800社を超える小売電気事業者の参入により、需要家の選択肢は拡大したと言うことはできる。ただ、例えばBIG6の一角が新電力に買収された英国のような、業界構造を大きく変えるような事業者の登場はなく、いまだに旧一電・旧一ガスの、地域内独占を崩す/崩さないの範疇での顧客の取り合いに過ぎない状況は否めない。事業ノウハウを昔から有している旧一電であっても、越境して営業をすることが難しいとの声が聞こえてくる状況だ。自由化後のマーケットの理想像がどういったものであったか、改めて議論が必要な状況と考える。
新たなビジネスモデルの創出のために、大手企業と新興企業の連携は自由化後にかなり進捗した。電力データの活用や、分散型電源・蓄電池・電気自動車の活用など、まだまだ市場を席巻するような事業者やサービスは発展途上であるが、こういった新しいビジネスが育ちやすい競争環境や規制の緩和をさらに求めたいところだ。
