【巻頭インタビュー】寺澤達也/日本エネルギー経済研究所理事長
基本政策分科会で委員を務める寺澤達也・日本エネルギー経済研究所理事長。
国内外のエネルギーを巡るトレンドやエネ研の強みなどを聞いた。

─次期エネルギー基本計画策定に向けたこれまでの議論をどう見ていますか。
寺澤 電力需要の大幅増にいかに対応するかが最大のポイントです。安定供給はこれまで以上に難しくなりますが、電力不足に陥り、経済活動に支障をきたしてはなりません。また供給量を確保するだけでなく、可能な限り低廉で低炭素なエネルギーが求められている。この点は、エネ基策定に関わる人の間で共通認識となっています。
再生可能エネルギーについては、世界で導入量が増え続ける中で、日本は足踏み状態が続いています。今後はさまざまな形状に曲げられるペロブスカイト太陽電池や浮体式洋上風力の実用化に向けて、政府のリーダーシップが求められます。
火力発電は、わが国で3・11後に新設した石炭火力発電所は最新鋭で高効率です。供給力とコストの両面で活用しない手はありません。安全保障の観点からは、LNGと石炭という複数の選択肢を持っていることが重要です。同時に、水素やアンモニアとの混焼を行い、専焼を目指す。もしくはCO2回収・貯留(CCS)で脱炭素化を図らなければなりません。
─世界のエネルギー情勢で注目している点は。
寺澤 ロシアによるウクライナ侵攻や中東情勢など不確定要素が多いですが、電力需要の増大は日本だけでなく世界的な傾向です。増える需要に対応するためには、どの国も再エネだけでは対応できません。「再エネを増やすなら、ガス火力も必要」という現実的な意見が強くなっており、極端な化石燃料排除の声が薄れてきた印象です。
また脱炭素かつ安定的なベースロード電源として、原子力発電が世界的に脚光を浴びています。特に米国では、小型モジュール炉(SMR)建設への期待が強い。軽水炉ほどの敷地を必要とせず、データセンターの近くに建てられるからです。これまで原子力発電所が建設されてこなかった東南アジアでも、SMRなら十分に可能性があります。一方、東欧諸国では大型軽水炉の需要があり、日本メーカーとしては、それぞれの国情に応じてのビジネス展開が求められます。
日本では既存の原子力発電所の運転が延長されたとしても、2040年を念頭に置くと建て替えが必須です。国土が狭く、原子力に対して厳しい世論が存在する日本では、立地拠点の確保が大きな制約要因になる。となると、既存原発の敷地内での建て替えが現実的です。その上で、限られた土地を有効活用するならSMRではなく、まずは大型軽水炉の建設が合理的でしょう。すでに規制側の知見があるので、安全審査が進みやすいという利点もあります。