大変革期の電力システム 先を見据えてあるべき姿示す


【巻頭インタビュー】大山 力/電力広域的運営推進機関 理事長

電気事業を巡る課題が次々顕在化し、電力広域的運営推進機関の存在感が増している。

現在、そしてこれからの同機関の役割とは。大山力理事長に話を聞いた。

おおやま・つとむ 1983年東京大学大学院電気工学博士課程修了。横浜国立大学工学部講師、同助教授、米国テキサス大学アーリントン校客員助教授、横浜国立大学工学部教授、同大学院工学研究院教授を経て2021年4月から現職。

―2021年4月に理事長に就任し、3年が経過しました。

大山 20年度冬季に全国的な電力需給ひっ迫を経験した直後の就任でした。その後も地震が発生したり、端境期の需給ひっ迫が起きたりとさまざまな困難に直面しましが、職員数も少なく、当機関だけで対応できることが限られている中で、電気事業に関わる事業者の協力を得て何とかか乗り切ってきました。この間、経済産業省から電力需給(kW、kW時)モニタリングや、FIT/FIP制度の賦課金の徴収・交付金の交付業務、将来の需給シナリオの検討などが新たにタスクアウトされ、就任時と比較すると実に多岐に渡る業務を手掛けるようになりました。

―さまざまな制度設計を主導する上で、心掛けていることはありますか。

大山 足元の課題解決を目指すだけではなく、将来を見据えて検討し、システムを動かしていくことが重要だと考えています。将来を見据えた業務を進めるためには、職員一人ひとりが良い電力システムを築き上げていくのだというマインドを持つ必要があります。そこで今年2月9日には、当機関が社会において果たすべき使命・目的として、「日本の電力の今を支え未来を切り拓く」というミッションを策定しました。

電気事業は今、大きな変革期にあります。問題が顕在化してから対応したのでは手遅れです。例えば再生可能エネルギーの大量導入は既にさまざまな電力システムの課題を顕在化させていますが、将来のさらなる大量導入に備え、システムの在り方をあらかじめ検討しておかなければなりません。当機関の「専門性」「先見性」「積極・主体性」という価値観を大切にしながら、より良いシステムの確立を目指し業務を遂行していきます。

―広域系統長期方針(マスタープラン)が昨年3月に策定され、その具体的な整備計画の策定が進んでいますが、本当に必要なのかといった意見も散見されます。

大山 現在、地域間連系線の整備については、再エネを全国大で活用するという視点で議論されているケースが多く、コストとベネフィットを踏まえメリットが低いという指摘があることは認識しています。各電力エリアの電源構成に差がなかった時代は、連系線は非常時に備えるものに過ぎませんでした。しかし、再エネが今後ますます拡大していけば電源の偏在性も高まりますし、今年度の容量市場の約定結果で北海道と九州が高い価格を付けるなど、供給信頼度にも課題があります。電源の偏在性を解消するため、そして安定供給を確保するためにも、連系線の活用は欠かせません。

文献調査の報告書案公表 待たれる新地点の登場


概要調査に進めるのか―。原子力発電環境整備機構(NUMO)は2月13日、北海道寿都町と神恵内村で行われていた高レベル放射性廃棄物の最終処分場選定に向けた文献調査の報告書案を公表した。

概要調査に進む上で鍵となるのは、寿都町と神恵内村に続いて文献調査を行う新地点の登場だ。報告書の作成後は縦覧期間などを経て、経済産業大臣が概要調査に進むかどうかについて、北海道知事と2町村長に意見を聴取する。寿都町では概要調査実施の是非について住民投票を行う予定だが、片岡春雄町長は、新地点が出てこなければ住民投票に向けての勉強会など先には進めないとの考えを持つ。

文献調査開始から3年が経過したが新地点は現れていない(寿都町)

地元で概要調査に反対する人の中には、最終処分場の問題が自分たちに押し付けられているとの思いを抱く人もいる。不安の払しょくには共に調査を行う〝並走者〟が必要というわけだ。神恵内村の高橋昌幸村長も新たな調査地点を求めている。

一方、北海道の鈴木直道知事は「現時点では反対」の姿勢を貫くが、「原発の所在の有無にかかわらず、国民的な議論が必要な問題」(2月15日の定例記者会見)だとして、昨年12月にはNUMOに対して報告書の説明会の全国展開などを求める要請書を提出した。

国・NUMO・電力各社は昨年7月、地域ブロックごとに合同チームを新設し、全国の自治体などを個別に訪問する全国行脚を開始。1月末時点で73市町村の首長を訪問した。原発再稼働などフロントエンドの前進が見込まれる今年こそ、バックエンドの進展に期待したい。

託送料金にコスト上昇自動反映も レベニューキャップの影響と対策


【論点】制度変更と電気料金〈第3回〉/西村 陽・大阪大学大学院工学研究科招聘教授

電気料金の約3割を占める託送料金。2023年度にはレベニューキャップが導入された。

小売電気事業者は今後の負担と対処をどう考えるべきか。

世界各国の電力ネットワークの利用料金は今日、必要コストを積み上げ算定する総括原価方式と、必要な仕事量や投資を指定し収入上限を決めるレベニューキャップに分けられる。米国は概ね総括原価方式であり、英国・ドイツをはじめ欧州では総括原価方式からプライスキャップなどを経てレベニューキャップにシフトした国が多い。

電力託送料金の変更を踏まえた電気料金

日本が2020年代に入りレベニューキャップへの制度変更を検討し、23年度に採用したのには大きく四つの背景がある。

一つ目は、送配電事業全体が設備の大量更新期を迎え、かつ再生可能エネルギー大量導入対応投資が増加していくことだ。二つ目は、デジタル化、あるいは分散型エネルギー資源である蓄電池・電気自動車(EV)などを活用する次世代化が急がれることだ。

重要なのは当局の説明に通常出てこない三つ目の背景だ。すなわち、送配電投資の電力会社経営からの分離である。現実に10年代後半には電力各社の収支改善のために送配電の更新投資を控えるようなモラルハザード的行動も一部電力会社の経営陣で見受けられた。

そして四つ目の託送料金算定に直結する背景は、自家消費型太陽光(屋根載せPV)の普及、省エネの進展などによる系統電力量の減少が慢性的に送配電事業の収支悪化の原因になりかねないという事実である。

これら四つの背景は、致命的な欠点である改定スピードの遅さを持つ総括原価では解決困難であり、23年度、国が達成目標を定め、各社が事業計画を立て、その結果収入上限を算定して国が承認するレベニューキャップが採用されることなった。では、具体的にこれを負担・支払いし、自社の顧客にその変動を説明しなければならない小売電気事業者はこの制度をどう理解すべきだろうか。


当面の負担大幅増は回避 内部には潜在的上昇要因

24年度から発電側課金が加わったにもかかわらず、レベニューキャップ下の託送料金収入は、送配電事業者の合計で0・4%の収入増に留まった。これは23年度中の需給調整市場の価格低下や、最終保障約款用の電力調達価格の低下によるものである。

kW時単価では、発電側課金分が全国平均で0・9円程度加わり、その他の託送料金相当額が9円程度で計9・9円となり、家庭用料金30円の3分の1を占める(図参照)。今のところ落ち着いて見えるレベニューキャップ制度だが、実は小売事業者から見た場合、その将来負担増をあまり楽観すべきではない。

火力発電燃料にアンモニア 愛知・碧南火力で世界初の試験


火力発電最大手のJERAはIHIと共同で、碧南火力発電所(愛知県碧南市)で使う燃料の一部を石炭からアンモニアに置き換える世界初の大規模実証試験の準備を整えた。早ければ2027年にも商用運転に着手。燃やしてもCO2を出さないアンモニア燃料を導入することで、国内外の火力発電の脱炭素化を促す。

碧南火力発電所に建てたアンモニアの貯蔵タンク

両社は、CO2を排出しない「ゼロエミッション火力発電」という目標を掲げている。その実現に向けた大きな一歩が今回の試みで、出力100万kWの4号機を舞台に、6月までの約3カ月間にわたり実施予定。実証に先立つ3月13日には、試験設備を報道陣に公開した。

敷地内には、専用船で受け入れたアンモニアを運ぶ配管や貯蔵するタンクなど、実証に必要な設備を設置。ためたアンモニアは気化され、石炭を燃やして火を放つバーナーのノズルに流し込まれる。その熱で蒸気を作り、発電機を回す仕組みだ。

実証では、燃料の20%(熱量比)をアンモニアに転換し、設備性能を確認するとともに運用上の課題も抽出。得られた成果を土台に燃焼させるアンモニアの割合を5割以上に高める。谷川勝哉・碧南火力発電所長は「確立した技術を国内外の火力発電に転用し、世界の脱炭素化に貢献したい」と意欲を示した。

ただ、前例のない発電技術の普及に向けては、膨大な量のアンモニアを低コストで安定確保するための供給網を構築するという大きな壁が立ちはだかる。正念場はこれからで、磨いた技術の経済優位性を高める戦略づくりも試されそうだ。

新開発のコンクリートブロック 太陽光パネル廃棄ガラスを活用


【北陸電力】

太陽光パネル廃棄ガラスの課題解決のため開発された「インターロッキングブロック」。

2025年国際博覧会(大阪・関西万博)のパビリオンでお披露目となる。

現在、カーボンニュートラルの取り組みの一環で、太陽光発電の建設が進んでいる。一方で、発電の役割を終えた太陽光パネルが2030年代には年間50万~80万t程度発生すると見込まれており、社会問題となりつつある。

北陸電力は、この課題を解決すべく太陽光パネルの廃棄ガラスと、石炭火力発電所で石炭を燃やしたあとに発生する石炭灰「フライアッシュ」を混合してつくる「インターロッキングブロック」を開発した。このインターロッキングブロックの品質や開発の背景が評価され、25年に開催される大阪・関西万博の電気事業連合会のパビリオン「電力館 可能性のタマゴたち」において、構内舗装約1000㎡(約5万個)にインターロッキングブロックが採用されることが決まった。

電気事業連合会パビリオン「電力館 可能性のタマゴたち」外観イメージ


火力発電の廃棄物混合 ASR抑制で耐久性アップ

コンクリート製品は、大きく分けてセメント・水・骨材(砂・砂利)でつくられている。コンクリートの原料として、砂部分をガラスで代用する製造方法があるが、ガラス質が増えることで、骨材とアルカリが反応し、骨材が膨張する。これにより、コンクリート表面にひび割れが発生してしまう劣化現象「アルカリシリカ反応(ASR)」のリスクが高まる。

フライアッシュにはASRを大幅に抑制する効果があり、コンクリート製造時に混合すると耐久性が上がることが確認されていたことから、同社産のフライアッシュを混合したインターロッキングブロックの開発に至った。

北陸地方で採れる砂利にはガラス質が含まれていることが多く、コンクリートのASRが起きやすいといわれている。同社は、水力発電比率が高く、発電に必要となるダムなどのコンクリートにもフライアッシュを利用しており、土木工事におけるフライアッシュの利用拡大に向けて、ASRを抑制する研究を以前から進めてきた。

11年1月には同社の声掛けにより、産学官連携による「北陸地方におけるコンクリートへのフライアッシュの有効利用促進検討委員会」を設立。ASR抑制と、地域で持続可能な廃棄物の利用方策という双方の観点から、フライアッシュの有効活用を進めてきた。

㊤インターロッキングブロック試作品 ㊦北陸電力本店敷地での試験敷設状況

インターロッキングブロックの仕様は、長さ20㎝×幅10㎝×高さ6㎝。ガラスの混合率は、表層で砂の50%、基層で砂の10%、フライアッシュの混合率は、セメントの20%としている。一定の強度を維持したまま、太陽光パネルの廃棄ガラスを混合したコンクリート二次製品が誕生したのだ。

土木建築部土木技術チームの参納千夏男統括課長は、「大阪・関西万博のパビリオンで当社が開発したインターロッキングブロックが採用されることは大変意義深い。今回、ブロックに使用される廃棄太陽光パネルは約700枚、廃棄ガラスとしては約8tを有効活用することができる」と話す。


廃棄ガラスの使い道 SDGsにも貢献

インターロッキングブロックは美観に優れており、表層部に顔料を混合することで色味の変化も楽しめる。家のエントランスや公園の歩道などにも最適だ。

「インターロッキングブロックは、廃棄ガラスの有効活用という社会課題の解決を図るとともに持続可能な社会構築にも寄与できることから、非常に大きなポテンシャルを持っている」(参納氏)

30年代に入ると、12年の固定価格買い取り制度(FIT)開始に伴い導入された太陽光パネルが一斉に寿命を迎える。北陸電力は太陽光パネルの大量廃棄を見据え、同製品のさらなる品質を向上するとともに、商用化を目指すとしている。

【浜野喜史 国民民主党 参議院議員】エネ基に『新増設』明記を


はまの・よしふみ 1960年生まれ。83年神戸大卒業後、関西電力入社。2005年電力総連会長代理に就任。13年参議院議員選挙に初当選、現在2期目。資源エネルギー・持続可能社会に関する調査会理事、環境委員会委員、党選挙対策委員長などを務める。

電力総連の会長代理などを務め、2013年の参議院議員選挙にて全国比例で初当選。

議員生活は10年を超えたが、「電力関連産業で働く仲間のために」との思いは変わらない。

電力総連の組織内議員として2019年に再選し、参議院議員として2期目の任期も後半に差しかかった。自身の選挙を来年に控えるが、国民民主党の選挙対策委員長として来る解散総選挙に向けて奔走する日々を送る。

能登半島地震の復旧対応では、北陸電力が送配電のみならず発電・小売りの域を超えてさまざまな後方支援を行った。「旧一般電気事業者の『安定供給の確保』に向けた熱い気持ちがしっかりと引き継がれていると痛感した」。今年に入り、経済産業省の電力・ガス基本政策小委員会が電力システム改革の検証に向けた議論に着手したが、「こうした現場の実態を踏まえた議論を」と訴える。

電力システム改革は、安定供給の確保を目的の一つとして始まったが、22年3月に全国初となる「電力需給ひっ迫警報」が発令されたことは記憶に新しい。燃料価格の高騰や原子力発電所の再稼働の遅滞もあり、電気料金の抑制という目的も達成できていない。「いつの間にか大手電力と新電力との競争状況をつくることが目的化したように感じる」との見立てだ。

自由化以降、大手電力は小売需要の大幅減で固定費を回収できず、火力電源の休廃止を進めた。その結果、供給予備力の確保は困難に。「火力電源の休廃止は経済合理的な行動で、発電事業の投資予見性を確保できなかった制度設計に問題がある」と指摘。23年度から容量市場の効果が徐々に現れているが、「効果は未知数の部分も大きく、今の制度設計で十分なのか。政府も反省すべきは率直に反省した上で、ゼロベースでの検証・検討を」と求める。

EV市場鈍化で戦略見直しも 販売増のHVに延命の兆候


【業界紙の目】村田浩子/日刊自動車新聞 記者

長期的にEVが普及するとの見方が依然強いものの、足元の販売動向に黄信号がともり始めた。

米国などでHV再評価の流れも出ており、揺り戻しに備え戦略を練り直す必要がありそうだ。

EV市場の広がりが減速している。販売現場では早くも値下げ競争が起きており、EVの収益性を懸念し投資を見直す完成車メーカーも出てきた。電池や駆動システム「eアクスル」といったEVのコア部品で先行する中国企業を警戒し、欧米は中国製EVを規制する動きも見せ始めている。

市場調査会社のマークラインズによると、2023年の米国新車販売台数は、1560万8386台(同12・3%増)となり、2年ぶりに増加に転じた。このうちEVは約8%を占めており、確実にシェアを増やしている。ただ増加率で見ると、23年7~9月期は5%、10~12月期は1・3%とペースが鈍化しつつある。

欧州も同様の傾向で、欧州自動車工業会(ACEA)によると、23年のEV販売の増加率は22年比で約3割増えたが、前年対比で6割以上増えた22年と比べると普及スピードが落ち込んでいる印象は拭えない。

EV市場の鈍化で戦略の練り直しが必要になる

「特に米国では、EVに対し不信感を抱く人が増えている印象がある」と、ある日系完成車メーカー幹部は話す。最大の理由はインフラ不足だ。米国内にはガソリンスタンドが約15万カ所あるのに対し、EV用の充電ステーションは約5万カ所にとどまっており、広い国土をカバーしきれていないのが現状だ。1月の大雪の際は、酷寒で一部の車両がダウンした。EVは低温下では充電性能が著しく落ちるため、寒冷地で走行する場合、通常より早いペースで充電が減る傾向にある。現地では充電が間に合わず動かなくなったEVが充電ステーションで乗り捨てられている様子も報じられた。

加えてガソリン車と比べて車両価格が割高なことも普及のネックになっている。電池材料にレアメタルなどを用いるEVは、同じ車格のガソリン車よりも2~3割、車両価格が高めに設定されているケースが多い。その差額を埋めるため購入補助金を出している国もあるが、昨年、ドイツが補助金を打ち切るなど、政府が支援内容を見直す事例も増えてきた。


対中国で負のスパイラル 欧米が規制に動く

一方、EV販売を着実に増やしているのは中国だ。昨年の中国の総販売台数(輸出含む)は初めて3000万台の大台を突破。このうちEVなどの新エネルギー車(NEV)が約3割を占めた。市場をけん引するのは比亜迪(BYD)などのEV新興メーカーで、安価を武器に中国外でも販売台数を伸ばしつつある。

BYDに対抗するため、米テスラなどはEVの値下げを繰り返し、収益性が悪化しつつある。「中国メーカーにならって値下げをしても市場が冷え込んでおり、売れない〝負のスパイラル〟に入っている」と前出の幹部は話す。

国家戦略で自国のEVメーカーを後押しする中国は、電池やeアクスルなどEVの基幹部品でも存在感を示す。電池に必要なネオジムなどのレアアースは6割以上、リチウムは1割以上の産出を中国に依存しており、材料面で圧倒的なイニシアチブを握る。モーター、インバーター、減速機を一体化したEVの駆動システム・eアクスルでも中国サプライヤーがシェアを伸ばしており、同じくeアクスルを手掛けるニデックや明電舎などの日本勢は中国事業の見直しを迫られている状況だ。

中国勢の台頭を懸念し、欧米は中国産EVの規制を始めた。欧州連合(EU)は中国政府が自国のEVに不当な金融支援を行っているとし、域内に輸入される中国産EVに追加関税をかける可能性を示唆する。米バイデン政権も中国産EVがサイバーセキュリティー上問題があるとし、調査を進める方針だ。米国はEV補助金の対象車両を自国メーカーの車両のみに限っており、価格面で有利な中国製の排除に向けて動き出している。

ENEOSグループ新体制 非主流派主導で再生へ試練の船出


ENEOSホールディングス(HD)の新たな経営体制が、4月1日付で立ち上がった。旧日本石油出身の首脳が女性への不適切行為で相次ぎ退いたことを受け、東燃ゼネラル石油出身の宮田知秀副社長が新社長に緊急登板した。これを機に企業風土を刷新しグループ経営を前進させたい考えだが、日石出身の主流派が「不満分子」化するリスクをはらんでおり、厳しい試練が待ち受けている。

社長昇格が決まり会見するENEOSHDの宮田知秀副社長
提供:時事通信

ENEOSHDでは、2023年12月に斉藤猛社長が懇親の場でセクハラがあったとして解任されたほか、2月にも傘下の再エネ事業会社の安茂会長が同様の行為で退場した。

前社長の後を受ける形で4月1日付で社長に昇格したのが宮田氏だ。社長人事を発表した2月の会見で宮田氏は「生まれ変わる覚悟を持ってグループ経営をリードする」と決意を述べた。

緊急事態とはいえ、勤労・販売部門を経験した旧日石出身者が幅を利かせるENEOSHDのトップに、傍流の製造畑を歩んできた宮田氏を抜擢した人事は異例。子会社で石油製品の精製や販売を担うENEOSの社長も非主流派で、三菱石油出身の山口敦治執行役員が就いた。

ただ、非主流派が改革で突破力を発揮できるかは未知数だ。旧日石出身で日沖コンサルティング事務所の日沖健代表は「しがらみにとらわれず、販売体制の再構築や製油所の再編、新事業の育成という難題まで踏み込もうとすると、現場で抵抗勢力が膨らむ可能性がある。一筋縄ではいかない」と指摘する。新体制には、難しいかじ取りを迫られそうだ。

プルサーマルが再稼働後の重要課題に 長期停止回避へ九州・四国の「妙案」


原発再稼働が遅滞し、3・11以降でプルサーマルを実施したのは4基にとどまる。

日本の原子力政策の将来を見据えて、プルサーマルの実施拡大が求められる。

昨年11月に定期検査に入った玄海原子力発電所3号機がプルサーマルを停止した。フランスで保有するプルトニウムが底をつき、新たな混合酸化(MOX)燃料を製造できないからだ。同様の理由で伊方3号機も今年7月に停止する見込み。2011年の東日本大震災後、国内では4機(高浜3・4、伊方3、玄海3)がプルサーマルを実施していたが、当面の間は高浜3、4号機のみでの実施となる。

現在、日本は原発から出る使用済み燃料をフランスの再処理工場でウランとプルトニウムに分離。これらを同国の加工工場でMOX燃料に加工し、プルサーマルとして軽水炉で使用している。青森県の六ヶ所再処理工場やMOX燃料加工工場は未稼働だが、将来的には自国で再処理・加工を行い、軽水炉や高速炉での利用を目指す核燃料サイクル政策を推進している。

プルサーマルを停止した玄海原発


プルトニウムを着実に消費 他者との「名義交換」で継続

プルサーマルの実施は「余剰プルトニウムの削減」という点で重要となる。

原子力発電の最大の特長は使用済み燃料の再処理により、繰り返し利用できる〝再生可能〟エネルギーであることだ。こうした特性を最大限活用する核燃料サイクルは、日本が独立を回復して間もない1956年、原子力の基本政策を定めた原子力長期計画で早くも明記。ウランを輸入に頼る「準国産エネルギー」を超えた「純国産エネルギー」としての活用を掲げた。

核物質はデュアルユース(軍民両用)だが、日本は88年に発効した日米原子力協定によって、核不拡散条約(NPT)体制下でプルトニウムの保有が認められている唯一の非核保有国だ。94年には余剰プルトニウムは持たないとの原則を国内外に宣言。原子力委員会は2018年、電力会社や日本原子力研究開発機構が保有するプルトニウムについて、わが国の保有量が現在の水準(約47t)を超えないように削減する方針を打ち出した。

各事業者は「自社の使用済み燃料から分離したプルトニウムは、あくまで自社原発で使用する」という原則で、立地自治体からプルサーマル実施の理解を得ている。では、フランスでのプルトニウム保有量が底をついた九州電力と四国電力は、プルサーマルを長期停止せざるを得ないのか。

ここで生まれたのが「名義交換」という妙案だった。九電と四電が英国で保有するプルトニウムと、東京電力など5社がフランスで保有するプルトニウムを交換する―。2月15日付で契約を締結した。今後はフランスでMOX燃料を製造し、玄海3号機は27年度以降、伊方3号機は29年度以降の再開を見込む。

六ヶ所再処理工場やMOX燃料加工工場が稼働してもプルサーマルの実施状況が芳しくなければ、MOX燃料を順調に消費できない。再稼働と並んで、プルサーマルによる明確な消費サイクルの確立は必至だ。

電事連・ガス協が会長交代 「重責に身の引き締まる思い」


大手電力、都市ガス両業界団体の会長が交代だ。

電気事業連合会は3月15日、池辺和弘会長(九州電力社長)の後任に、林欣吾・中部電力社長が4月1日付で就く人事を発表した。会長の交代は4年ぶりとなる。

電事連新会長の林氏

林氏と並び、関西電力の森望社長も会長候補に挙がっていたが、「大手電力4社によるカルテル疑惑の中心的存在だったことが関係した」(大手電力会社幹部)とみられる。電事連は林体制の下で、会議体の再編などによるコンプライアンス体制の強化を通じて業界の信頼回復に努めるとともに、エネルギー基本計画の見直しや原子力政策の推進など重要な政策課題への対応を図っていく。

池辺氏は、同日の会見で今回の人事について問われると、「林社長は、物事の本質をゼロから考え、本当にこれは正しいのかという議論をする。そういう方が電事連の先頭に立つリーダーとしてふさわしいと考えている」「コンプライアンスをしっかり達成していけると考え、林社長に後任をお願いすることが一番良い選択肢だと思った」などの見解を示した。

林氏は、会見で「今年はエネルギー業界にとって大変重要な年になる。政策面ではエネルギー基本計画の見直しがあり、電力システム改革の検証もすでに始まっている」「事業者としても、日々の安定供給はもとより、BWRプラントの再稼働や六ケ所再処理工場の竣工などを、業界挙げて着実に取り組みを進める必要がある。このような重要な局面で電事連会長という大役を担うことになり、その責任の重さに身の引き締まる思いだ」などと抱負を述べた。


波乱の電力に不透明なガス 安定供給の使命は不変

一方、日本ガス協会は19日、本荘武宏会長(大阪ガス会長)の後任に、副会長の内田高史・東京ガス会長が4月1日付で就く人事を発表した。

ガス協会新会長の内田氏

会見した内田氏は、「ガス業界は『第三の創業期』と言え、e―メタンをはじめとする大変革に挑戦している最中。責任の重大さに身が引き締まる思いだ」「安全性を基本としながら環境性、経済性、供給安定性を満たす『S+3E』を大切にしながら、天然ガスを高度利用し、カーボンニュートラル社会の実現を目指していく」などと抱負に言及。さらに「地方でカーボンニュートラル化や地域活性化に貢献する地方都市ガス事業者へのサポートも強化していきたい」と意欲を示した。

波乱の渦中にある電力業界、先行き不透明なガス業界と置かれている状況は異なるが、「経済活動、国民生活に不可欠なエネルギーを供給する」という使命は不変だ。脱炭素化など激変の波が押し寄せる中、業界の羅針盤となる電事連、ガス協会両会長の活躍に期待が掛かる。

「スマエネ」が過去最大規模で開催 次世代技術の実用化に期待高まる


【スマートエネルギーWEEK】

世界最大級の新エネルギー総合展「スマートエネルギーWEEK春」が2月28日~3月1日、東京ビッグサイトで開かれた。世界中から人や情報がリアルに集まる本展はエネルギービジネスを加速させる展示会として業界で定評がある。21回目の今回は約1500の企業・団体が集結。過去最大規模の展示会となり、約7万人が来場した。

ビッグサイトで世界最大級の展示会を開催

関心を集めたのは「二次電池展」だ。次世代電池の本命とされる全個体電池の実用化へ期待が高まっている。中でも実現が難しいとされていた全固体ナトリウムイオン二次電池を開発した日本電気硝子のブースには多くの来場者が詰め掛けた。全固体ナトリウムイオン二次電池は資源量の豊富なナトリウムを電解質に用いることで、従来電池に使用するリチウムなどの希少金属を必要としない。材質の観点から「硫化物系」と「酸化物系」が存在するが、同社の開発した電池は後者。ガラス材料メーカーとしての技術を生かし、製造工程にガラスの一部を混ぜることで開発が進展したという。

ブース内ではマイナス40℃と150℃の温度環境下での動作検証を実施。幅広い温度環境においても動作することが強みだ。来場者からは「酸化物系は有毒ガスが発生しないため安全面では分がある」(ガラス業界関係者)と評価の声が上がる一方で「現段階では量産するにはコスト面で劣る」(プラント業界関係者)との意見も聞かれた。


次世代型太陽電池 実用化への高い関心

「太陽光発電展」も相変わらず人気のゾーンだ。とりわけ、軽くて柔軟な次世代太陽電池「ペロブスカイト型」は注目の的だった。2025年度から量産化を目指す同型電池開発メーカーの台湾ペロブスカイトソーラー(TPSC)の担当者は「今回の展示会で多くの方から共同でビジネスを行いたいと声をかけていただいた」と手応えをつかんでいた。TPSCの開発した太陽電池は透過性と遮熱性に優れるという。ブース内では一般的な窓ガラスと窓ガラス一体型ペロブスカイト太陽電池に同じだけの熱放射線を当て、通過してきた熱の放射照度を測定するといった実証実験が行われていた。両者を比較すると、ペロブスカイト型は一般的なガラスの70分の1程度に熱放射を抑えた上で光が通過していた。

TPSCは現時点でA4サイズまでの開発に成功しており、今後はさらなるサイズ拡大化と量産化に向けて力を入れていく。

開発段階だったさまざまな技術が実用化へ向け、実を結ぼうとしている。同展示会を足掛かりにした新規ビジネスの活況に期待が掛かる。

【特集2】見える化で効率的に設備を運用 汎用性高く手頃な導入コスト


【東京ガス ソフトウェア「Joyシリーズ」編】

製造業向けのIoTパッケージソリューション「Joyシリーズ」は、設備群の見える化や一体管理によって、製品の品質管理やペーパーレス化、設備やビルの監視・制御システム、製造計画といった企業の生産活動を効率化するためのソフトウェアだ。

もともと日本たばこ産業(JT)がたばこの生産工程向けに開発した。汎用性が高くノーコードでも使えるソフトだったことから、JTは自社向けにとどめず、さまざまな企業へ外販していた。東ガスもJoyユーザーの一社であった。

汎用性の高さが特徴だ

「当社が手掛けるエネルギーサービスを支えているさまざまなユーティリティー設備に対して、このソフトをカスタマイズしながら運用していた。異なるメーカーの設備でも利用可能で、ソフトウェアのコストも安く使い勝手がよかった」。ソリューション共創部Joy事業グループの浦田昌裕グループマネージャーはこう話す。

転機は2年前。東ガスがJTからJoy事業を譲り受けたのだ。このことは東ガスの法人向けソリューションを二つの視点で深化させる可能性がある。


ソフトウェアの販売に着手 東ガス以外の企業も利用

一つは、JTに代わり、ソフトウェア販売事業者としての顔を持つようになったこと。JoyはJT時代を含めると累計導入数は3万件以上で、SCADAと呼ばれるソフトウェアの分野でシェア1位。現在も年間千件単位で導入件数が増えている。このヒットソフトの売り手となったわけだ。

Joyの販売で東ガスでは代理店やパートナー企業を募り、実績を積み上げている。もちろん東ガス自らが直販する場合もある。エネルギー事業者が利用するケースも多々あるそうだ。東ガスの事業の中でもソフトの販売は極めて珍しく、法人向けソリューションの新たな取り組みの一つとなっている。

もう一つが、VPPの運用など、Joyをより高度に利用することによる事業の成長・拡大だ。Joyを使えば、分散型設備や熱源設備を見える化し、一元管理しながら運用可能だ。ただJoyが得意とするのは、こういったことにとどまらない。

東ガスでは今後、Joyをより高度に活用し、例えば製造業者の生産ラインの電動設備と、コージェネなどのエネルギー供給設備とを一元的に管理していく。これはまさにVPPそのものであり、Joy運用の真骨頂でもある。

「全ての機能を使った高度な運用を始めているわけではない。まずは当社のソリューションとしてソフトウェアを提供ししっかりとお客さまのニーズに応えていくことが大切」(浦田氏)

ソフトウェアを販売し、同時により高度な利用に取り組むことで、東ガスの法人向けソリューションが新しいステージで本格的に動き出そうとしている。

※Supervisory Control And Data Acquisitionの略。インフラ、工場・ビルの統合的な設備監視・制御やデータ収集を目的とした自動化システム。

【特集2】普及拡大のEVをリソースに 集合住宅に充電インフラを整備


【東京ガス EVリソース化編】

一時の勢いは衰えているとはいえ、今後、確実に普及していくことが予想される電気自動車(EV)。国内でも充電インフラは万単位で整備されており、将来の普及拡大への備えが進んでいる。そのEVを将来、VPPのリソースに仕立てていこうと、東京ガスはまず充電インフラの整備に注力している。その事業モデルについて、ソリューション技術部の岸田拓也EVサービス事業推進グループマネージャーはこう説明する。

「一般のお客さまにEVを普及させるためには、集合住宅向けに設備を整備することが重要だと考えている。戸建て住宅であれば、自らコンセントに差し込んで充電できるが、集合住宅ではそうはいかないからだ。そこで、主に集合住宅にターゲットを絞ったサービスを開始している」

QRコードで簡単に利用できる

充電器には高出力の急速充電器と、低出力の普通充電器が存在するが、このサービスでは普通充電器を設置している。サービスは、スマホのアプリでユーザー登録をすれば誰でも利用できる。アプリでユーザー認証するため、集合住宅の駐車場専有区画だけでなく、共用区画や商業施設に設置された充電器も利用できる。また、料金は1カ月単位のサブスク方式を採用し、充電量に応じて段階的に設定している。

充電には共用部の電気を使うため、電気代は集合住宅の管理組合の負担となるが、東ガスは電気代相当額を管理組合に払い戻すことで、EV充電の受益者負担となる仕組みを実現している。「EVrest」というブランド名で現在、デベロッパーが手掛ける新築物件を中心に営業活動に注力している。


法人・自治体向けも開始 電気代の抑制に貢献

一般消費者が活用するEV向けだけでなく、法人や自治体向けのEV導入支援サービスも始めている。「Charge Planner」だ。まずは東ガスがユーザー向けにEV導入計画を策定し、東ガスの負担で普通充電器を設置して設備を運用する。ユーザーは導入に関する初期投資が不要になる代わりに、東ガスにサービス料を支払う。

また、一連のサービスを進めるに当たって、東ガスは充電制御システムを自社開発。この技術を活用すればユーザーは契約電力を越えないように充電可能となり、電気代を抑えられる。

「こうしたビジネスモデルは、当社が長年手掛けてきたエネルギーサービス事業との親和性がある。多様なエネルギー設備群を長期間にわたって運用し、エネルギーマネジメントシステムを構築してきた。その実績やノウハウを充電設備の運用や充電制御システムの構築に展開している」(岸田氏)

そんな取り組みを発展させ、EVをVPPリソースとして活用していくことが将来の絵姿である。既に東ガスグループ企業では、業務車両としてEVを導入し、電力需給のひっ迫時には充電を控えるようなデマンドレスポンスを実施して効果を確認している。EVのVPPリソース化に向けた取り組みが着実に進んでいる。

【特集2】丁寧な説明でリソース獲得 最適運用でメリット生み出す


【東京ガス VPP運用編】

「十分なリソースを獲得し、それを電力市場で実際に運用してお客さまにしっかりとメリットを提供することがVPPを進める上で欠かせない」。リソースアグリゲーションビジネスグループの森田哲グループマネージャーはこう話す。まず同グループでは主に業務・産業用のユーザーを対象にリソースの獲得活動を展開中だ。核となる設備がコージェネである。これまでピークカットなど多様な観点で導入されてきたが、これにVPPという新たな役割を担わせるのがミッションの一つだ。

労力を割くのがユーザー側への丁寧な説明だという。電力システム改革の経緯、電力市場の詳細な中身、安定供給(電力の同時同量など)を担保する仕組みなど―。市場の中でVPPが果たす役割について理解を得なければならない。


電力制度をしっかり理解 英製技術を活用し基盤整備

「リソース獲得はお客さまの協力や理解があって初めて成り立つ。そのためには、われわれが複雑な電力制度の仕組みをしっかりと理解することが重要だ。それを踏まえて一連の仕組みをお客さまに丁寧に説明する。大変だが、おかげさまでお客さまとのコミュニケーションが深まっている」(森田氏)

もう一つの業務が、獲得したリソースを実際の電力市場で運用すること。現在その基盤を整備している。その時にカギを握るのが、東ガスが電力小売分野で提携する英国オクトパス社の技術を活用した「クラーケンフレックス」だ。これはユーザーのリソースとつながるためのプラットフォームである。

英国では日本に先んじて、2000年代初めにはすでに電力市場改革が進んでいた。「そうした技術を日本仕様にカスタマイズして、リソース活用する基盤整備を進めている」と同グループの伊藤文樹係長は話す。

実際、どんな運用になるのか。例えばA地点の火力発電所による計画外停止が発生し供給力が失われそうだから1時間後に1万kW分の電力需要を1時間ほど抑える、あるいは再エネの余剰発電が生じそうだから30分後に1万kW分の需要を1時間ほど増やす―。季節、日々、そして瞬時に変動し続ける電力需給に対応する管理を、需給状態や市場価格をアルゴリズムとして制御システムに組み込みながら、最適解となるような対価をユーザーに提供する。これこそが、同グループが進めるソリューションだ。

【特集2】VPP推進に高い意義 多様な設備管理で強み発揮


VPPを進める上で社会貢献や再エネ利用の最大化などの意義を掲げる。

需要側リソースをいかに獲得するのか。現状や展望について東京ガスに話を聞いた。

【インタビュー】松本幹雄/東京ガスカスタマー&ビジネスソリューションカンパニーソリューション共創部部長

―東京ガスは総合エネルギー企業としてガスや電気の販売を手掛けています。そうした中、法人向けの新しいソリューションとして、VPP事業に本格的に取り組み始めました。

松本 東京ガスグループとして2023年2月に中期経営計画「Compass Transformation 23-25」を発表し、三つの主要戦略を掲げました。一つ目がエネルギー安定供給と脱炭素化の両立、二つ目がソリューションの本格展開、三つ目が変化に強いしなやかな企業体質の実現です。

当社はLNGバリューチェーン上のさまざまな強みを生かして電力事業を手掛けてきましたが、その中からVPPやデマンドレスポンス(DR)を切り出し、20年4月から私どものソリューション共創部が本格展開するソリューションの一つとして事業化をしました。現在、VPPリソースの拡大に向けて動いています。


新たな価値に気付く 丁寧に説明し理解得る

―VPPを進める意義は何ですか。

松本 大きく四つあります。一つは、社会的な貢献という視点です。例えば電力の需給がひっ迫した時にVPPは電力需要を抑える取り組みになります。従来は火力発電所などの発電側で担っていたことを需要側で対応することであり、発電コストを押し上げることなく、安定供給に資することは、社会的に意味があり、大きく貢献できると考えています。

二つ目が再生可能エネルギー利用を最大化することです。再エネ導入量が増えるほど、電力系統の需給バランスが崩れやすくなります。この需給バランスを調整するVPPの意義は高いと考えています。また現状では、「優先給電」という制度があります。これにより、火力発電などの発電側の調整力の限界値を超えた場合、再エネの余剰分は抑制されることになっています。これはもったいない。なので、再エネ余剰分の局面では電力需要の増加を促すのもVPPの取り組みの一つです。結果的に再エネを有効活用し脱炭素につながります。

三つ目がお客さま目線に立った取り組みということです。われわれの部署ではお客さまへのソリューション事業を展開しています。VPPはお客さまにとって対価を得られる仕組みでメリットがあります。そうしたインセンティブを提供することがソリューション事業の一つの狙いです。

四つ目が、改正省エネ法への対応です。昨年、省エネ法が改正され、お客さまにはDRの実施実績について報告義務が課せられました。国の施策に対応する上でも、こうした取り組みを進めることは重要だと考えています。