【コラム/6月14日】EUにおける天然ガスの供給多様化と存在感増すLNG


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻により、EUは、化石燃料のロシア依存からの脱却が求められた。とくに天然ガスについては、2021年初の時点で消費量の約9割を輸入しており、そのうちロシア産が、全体の約4割を占めていたことから、供給の多様化が重要な課題となった。このため、EUは同年3月8日に提案した欧州の共同アクションREPowerEUで、天然ガスのロシア以外の供給者からの輸入を増やし、ロシアへの依存度を1年以内に3分の2に減らすことになった。実際、EUにおけるパイプラインによる天然ガスのロシアからの輸入比率は2023年には8%にまで劇的に低下し、脱ロシアは着実に進展している。本コラムでは、天然ガスの脱ロシアを含む供給源・ルートの多様化についてのEUの取り組みを紹介する。

供給源・ルートの多様化についての具体的な取り組みは、まず、南回廊の拡張である。南回廊は、カスピ海海域から欧州に天然ガスを供給するパイプラインである。2020年末に運転を開始した南回廊は、2021年に81億立方メートル、2022年には114億立方メートルの天然ガスを欧州に供給し、それぞれEUの天然ガス輸入総量の2.4%と3.4%を占めた。また2023年には、120億立方メートルの天然ガスをEUに輸送したと推定される。

さらに、地中海にガスハブを創設することも、EUの天然ガス供給源・ルートの多様化につながると考えられている。この目的のために、EUは北アフリカおよび東地中海のパートナーとの活発なエネルギー対話を行っている。アルジェリアは、在来型および非在来型天然ガス資源の巨大なポテンシャルを有している。また、東地中海のイスラエル、エジプト、キプロスも膨大な海底ガス埋蔵量があるため、EUにとって東地中海地域も戦略的パートナーである。この地域からEUや世界市場へ天然ガスを供給するには、パイプライン、LNGいずれの選択肢も考えられる。

また、液化天然ガス(LNG)基地を通じてEUに輸入されるLNGは、天然ガスの安定供給に資する重要な輸送手段である。ロシアからのパイプラインによる天然ガス供給に代わって、大きく増大したのがLNG供給である。2021年において、EUの天然ガス輸入の内訳をみると、ロシアからのパイプラインによるもの41%、ロシア以外からのパプラインによるもの39%、またLNGによるもの 20%であったが、2023年においては、それぞれ、8%、50%、42%となっている。ロシア以外のパイプラインによる供給では、ノルウェーが大きな役割を果たしているが、LNGによる供給では米国の貢献が大きい。同国は、2023年におけるEUのLNG輸入量の46%を占めている。

今後も、EUの天然ガス輸入において、米国はますます重要な役割を果たすと考えられている。 2022年3月末、EUは米国とLNG取引の拡大に関する共通宣言を採択し、2022年に米国からのLNG輸入量を前年よりも150億立方メートル増加させるとしたが、この目標は計画より4か月早く2022年8月末に達成されている。また、共同宣言では、米国は2030年までに少なくとも年間500億立方メートルのLNGをEUに供給することで合意している。さらに、世界の LNG の供給量は、輸出国の生産量と液化能力の増加により、2024 年も引き続き増加すると見られている。これに伴い、EUのLNGによる輸入も引き続き増大すると予想される。

ただし、EUではLNGインフラの制約は依然として存在しており、いくつかの国は、LNG基地の拡大を急いでおり、LNGによる天然ガスの輸入能力は、2023年に400億立方メートル、2024年にはさらに300億立方メートル増大すると予測されている。LNGの場合、共同調達や浮体式貯蔵・再ガス化装置 (FSRU)の利用を通じて、低コストでフレキシブルな調達が可能となっている。このように、EUでは天然ガスの域外からの調達において、LNGの存在感が増すとともに、天然ガス調達におけるフレキシビリティを可能にするその重要性が再認識されている。わが国が、ロシアからの天然ガスの調達手段としてパイプラインではなく、LNGを選択したのは賢明な判断だったといえるだろう。


【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

舞洲工場にe―メタン設備が完成 大阪万博に向け実証開始


【大阪ガス】

大阪ガスは5月17日、舞洲工場(大阪市此花区)の敷地内で建設していたe―メタン(合成メタン)を製造するメタネーション設備が完成し、実証実験を開始したと発表した。生ごみを発酵して製造したバイオガスと水素から製造したe―メタンを都市ガス機器に使用できるか、検証する。7月ごろまで実証を行った後、設備を解体し、大阪・関西万博会場に設備を移動。2025年4月ごろから会場内の厨房やガスコージェネレーション設備などの都市ガス消費機器に利用する予定だ。

同日には竣工式が開かれた。大ガスの後藤暢茂常務執行役員は冒頭あいさつで「本実証事業を通じ、万博のカーボンニュートラル(CN)化に寄与するとともに、CN社会の早期実現を目指す」と意気込んだ。来賓で出席した環境省の吉野議章地球温暖化対策課長は「ネットゼロの実現に向けた大きな推進力になる」と期待を寄せた。式では、メタネーション設備の点火式が行われたほか、大阪・関西万博のキャラクター「ミャクミャク」が登場し、舞洲工場の敷地内で記念撮影が行われた。閉会後、e―メタンで沸かしたコーヒーが参加者に振る舞われ、都市ガス機器への活用を披露した。

竣工式の様子
提供:大阪ガス

設備は昨年8月に着工し、今年4月に舞洲工場で実証実験を開始した。スーパー大手のライフコーポレーションとの連携で大阪市内にあるスーパーから1日当たり約1tの生ごみを回収し、メタン6割、CO24割のバイオガスを製造する。バイオガスに含まれるCO2と再生可能エネルギー由来の水素を微生物によって反応させることでe―メタンが作られ、毎時5N㎥の製造量を見込む。製造したe―メタンはガス料理機器で燃焼試験を行い、安定的な都市ガス利用が可能かを確認する。


万博会場の生ごみ活用 DACで製造量拡大

25年4月の万博開催中は、会場から出た生ごみをバイオマスの原料として使用する。DAC(直接空気回収技術)設備で会場の大気から直接回収するCO2もメタネーションに使い、e―メタンの製造量を毎時7N㎥まで拡大する。

この実証実験は、環境省の「既存のインフラを活用した水素供給低コスト化に向けたモデル構築実証事業」に採択されている。実証後はメタネーション設備をスケールアップしつつ、30年までに生ごみ由来のバイオガスと再エネ由来の水素からe―メタンを製造するシステムを、近畿圏を中心としたごみ焼却工場や食品加工工場向けに導入していく方針だ。

エネルギー環境分野の技術革新 早期に成果を刈り取り再投資へ


【脱炭素時代の経済評論 Vol.03】関口博之 /経済ジャーナリスト

最近は新入社員が会社に「見切り」をつけるのが早い。厚生労働省の調査によれば就職後3年以内の離職率は大卒で32%、高卒で37%。そもそも「3年以内」を早期退職とみなしたわけだが、今や4、5月の時点で辞めてしまう例も少なくないという。わずか1~2カ月で「思っていたのとは違う」というのはいささか短慮な気もするが、10年はとにかく下積み、という時代でもない。モチベーションも続かないだろう。

これとは対照的な時間軸になるのがイノベーションの世界だ。革新的な技術開発には長い年月を要する。先日あるシンポジウムで新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)技術戦略研究センターの中村勉氏が示したデータによれば、エネルギー環境分野でより顕著だという。 1980年から87年にNEDOが新規採択した太陽光や風力、ヒートポンプなどの研究開発案件11件を分析したところ、プロジェクト開始から成果が売り上げとして立つまで平均20年かかっていたという。同じNEDOの投資案件でも工業技術分野ではこれが平均7年だったということで、卵がかえるまで抱き続ける「抱卵期」はエネルギー環境分野の方が明らかに長い。

技術革新には時間がかかる

中村氏は「だからこそ開発は早く始め、それを加速していくことが重要」と指摘する。

エネルギー分野の新技術はシステムを伴い、純粋な商用ベースでは技術が普及、浸透しづらい面もある(なので再生可能エネルギーの拡大にもFITやFIPが使われている)。また工業製品のように量産化によるコストダウンもすぐには実現しない。社会が受け入れるのにも段階を踏む必要がある。このため必然的に政策的支援や環境整備が求められることになる。これらはイノベーションを加速するためでもあり、「抱卵期」を息長く支えるためでもある。

こうした「技術を育む期間」にもう一つ大事だと思われるのは開発成果の〝早期の刈り取り〟を常に意識することだ。技術が全面完成する前でも、できるところから早くマネタイズしていくという発想だ。例えばA社がある要素技術で先行した場合、それを抱え込むのも一つの戦略だが、むしろ外販することによってスケール化し、早期に利益貢献を目指すという戦略も成り立つ。これをさらに次の段階の開発原資に回していけばよい。こうしたサイクルを作れれば「開発部門はお荷物」などとも言われないだろう。社会的にみても協調領域と競争領域のすみ分けが進むことになる。

NEDOの分析でもう一つ目を引いた点がある。毎年のNEDO投資が平均20年の「抱卵期」を経て、トータルではざっとその100倍規模の売り上げに結実したという事実だ。これこそがイノベーションの意義であり、醍醐味だろう。

技術開発と人材育成、同列には扱えないが通じるところはあるのではないか。企業は新入社員に投資を続け、成長の機会を与え続けてほしい。新入社員も給料のためだけに漫然と働くのでなく、自らに再投資もして能力や可能性を拡大していってほしい。未来のイノベーションは、まさにこれからの人材から生まれてくるのだから。

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.01】ブルーカーボンとバイオ炭 熱海市の生きた教材から学ぶ

・【脱炭素時代の経済評論 Vol.02】国内初の水素商用供給 「晴海フラッグ」で開始

せきぐち・ひろゆき 経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

GX関連施策で先行 炭素クレジット市場の現在地


【マーケットの潮流】松尾琢己/東京証券取引所カーボン・クレジット市場整備室長

テーマ:電力先物市場

自主的な排出量取引の場として、カーボン・クレジット市場が開設されて半年強。

同市場での取引の現在地と展望について、東証の担当者が解説する。

東京証券取引所(東証)では2022年9月22日から23年1月31日まで、経済産業省からの委託事業として、カーボン・クレジット市場の試行取引を実施した。その後、23年2月に閣議決定された「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」を受けて、試行取引で得られた知見を踏まえて準備を進め、同年10月11日に金融庁の認可を受けて、正式にカーボン・クレジット市場を開設した。

本稿では、カーボン・クレジット市場の制度の紹介、市場参加者と売買の動向、最近の制度改正と今後の動向について紹介する。なお、以下、文中における意見などは個人的見解である。

まず、カーボン・クレジット市場の制度概要は、表の通りである(5月17日時点)。J―クレジットの現状の流通状況を踏まえ、売買は午前・午後の各1回のみ、売買単位も細かく1t―CO2としている。

また、個々のプロジェクト(の認証回数)ごとの売買を行うのではなく、需給を統合し、炭素の値段を公示することを意識して、標準化した取引を行うための「売買の区分」を設定している。例えば、省エネルギーであれば、省エネルギーに属する方法論によるプロジェクトを、売り方が事前に指定して売り注文を行い、売買を成立させることとしている。

決済では、登録簿システムの機能や現状の決済実務を踏まえて、約定日から起算して6営業日後(T+5)とし、決済の安全性確保のため、まずT+4に売り方からクレジットを東証口座に移転し、その後、T+5に買い方から代金を東証口座に振り込むこととしている。

カーボン・クレジット市場の制度概要


参加者は約280者に拡大 省エネと再エネ電力中心に

カーボン・クレジット市場で売買を行うためには、市場参加者として東証に登録を行う必要がある。登録要件としては、法人や地方公共団体など個人以外であれば参加可能とし、そのほかには、決済実施に必要なクレジット口座の開設や適格請求書発行登録事業者であること、などを求めることとしている。

市場参加者数は、5月17日時点で278者となっている。実証事業の最終の参加者数183者、市場開設時の188者から順次増加しており、引き続き登録申込を受け付けている。なお、当面の間、各種手数料は無料である。

市場開設以来、今年5月14日までで合計29万7022t―CO2の売買が成立し、一日平均の売買高で2092t―CO2となり、実証事業時の1752t―CO2を上回っている。売買の内訳を示すと、中心となる「省エネルギー」と「再生可能エネルギー(電力)」の状況は次のとおりだ。

省エネルギーは、加重平均の約定値段が1641円、累計売買高が9万2853t―CO2、一日平均売買高が654t―CO2となっている。そして再生可能エネルギー(電力)は、省エネと同様の順に、3158円、20万3728t―CO2、1435t―CO2という状況だ。

また、そのほかの売買の区分として、「森林」「再生可能エネルギー(熱)」「その他」においても、それぞれ約定が成立している。


マーケットメイカーを導入 24年度にも超過削減枠登場

さらに、政府保有クレジットの市場内における流通をはじめ、市場において継続的に売買を成立させるべく、経産省からの23年度の委託事業として、同年11月27日から24年2月29日まで、試行的なマーケットメイカー(金融市場がスムーズに機能することを目的に、特定の資産を大量に売買する市場参加者)制度を実施した。

東証では、申請を受けて、要件を満たした5社をマーケットメイカーとして指定した。実施前後で、一日平均売買高が省エネルギーで345t―CO2から842t―CO2と2・4倍に、再生可能エネルギー(電力)では340t―CO2から2058t―CO2と約6・1倍に増加するなど、取引の活性化がみられた。

そして、前年度の試行的実施の実績を踏まえて、24年度の同省からのGXリーグ関連の委託事業の一部として、マーケットメイカー制度を本格的に導入することとなった。5月15日に利用規約の一部改正を行い、マーケットメイカーの指定募集を開始した。制度内容として、所定の数量と値幅で売り買い両方の注文を午後立会の注文受付時間中に行うこととし、一定の条件を満たした場合には、試行的実施同様、表彰することしている。

現在、GXリーグにおける排出量取引の制度検討や実施状況を踏まえて、取り扱うクレジットの追加などについて準備している。具体的には、GXリーグの排出量取引(GX―ETS)における、個社が掲げるCO2削減目標達成に使える「超過削減枠」が、早ければ24年度にも創出される可能性がある。このことを踏まえ、同省の24年度におけるGXリーグ運営に関する委託事業の一部として、同年中に超過削減枠の取引の場を提供予定であり、制度要綱についての検討を進めているところだ。

今後、26年度以降に予定されているGX―ETSの本格稼働など、政府の政策動向を注視しつつ、クレジットの需給状況や利用者ニーズを適宜調査・把握し、必要に応じた取引制度の見直しと、さらなる流動性の向上や市場の厚みをもたらす方策について、継続的に検討を進めていく。

まつお・たくみ 1992年東京証券取引所入所。派生商品部、総合企画部などを経て、2022年から現職。

気候変動対策をテーマに講演会開催 費用便益分析の重要性など議論


【東京大学公共政策大学院】

気候変動に対する現実的なアプローチを考えようと、「気候変動をスマートに解決するには」と題したセミナーが、4月25日に都内であった。主催は東京大学公共政策大学院。気候変動対策などの費用便益分析の重要性について、シンクタンク「コペンハーゲン・コンセンサス」のビョルン・ロンボルグ・センター会長が講演した。

質疑応答するロンボルグ氏(左から1番目)

同氏は数百人の世界トップの経済学者らとともに世界課題に対する「最も効果的な対応策」を研究。米タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選出されたことでも知られる。

講演では、メディアなどで地球温暖化による悪影響が過大評価されるあまりに、他の社会課題が過小評価され、地球温暖化対策に費用を使い過ぎていると問題提起した。実際に世界で起きる山火事などの自然災害は気候変動対策を講じなくとも下降傾向にあることを指摘した。IPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)の調査結果によると山火事などの自然火災が要因で焼失した全世界の国土は、1900年代は毎年4%以上であったのに対し、2000年代に入ってからは3%ほどに減少している。このほか、ハリケーンや洪水など災害の発生データを持ち出し、同様に被害が誇張されている現状を示した。


最善策はグリーン革命 投資回収の予見性は必須

現行の気候変動対策について「非効率的な費用を支払っている」と指摘、ネットゼロ政策は典型例だという。ネットゼロで得られる利益は年間4兆5000億ドルと見込まれているが、目標を達成するのには27兆ドルの費用がかかる。つまり利益の約6倍のコストを要する。

では、気候変動対策の最善策とは何か。それは「グリーンエネルギーイノベーション」であり、具体例として米国のシェール革命を挙げた。

シェールガスは石炭に比べ、低価格で調達できる上に、単位エネルギー当たりのCO2排出量が約半分となるため、結果として排出量削減に大きく貢献した。技術者は気候変動の改善が目的ではなく、エネルギー資源の拡大を目的に開発したが、技術革新は利益の見込めない政策より優れているといえる。

気候変動問題は社会に山積する社会課題の一つに過ぎない。世界人口の約3分の1が貧困で死亡しており、本質的な解決には貧困脱却がベターとした。

同氏は「気候変動だけが唯一の問題ではないことも忘れてはならない」とその解決には広い視野が必要だと訴えた。

講演後には、参加者との意見交換でさらに望ましい気候変動対策の在り方を掘り下げた。

立憲民主党に「政権交代」の可能性 具体的なエネルギー政策の明示を


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

4月28日に行われた衆議院補欠選挙は、自民党が2不戦敗、1惨敗の全敗に終わった。通常の政治感覚なら、6月の国会会期末の解散などあり得ないが、突然派閥を解消するような岸田首相の行動を見る限り、今後の政局で何が起こるか分からない。衆議院の任期が後1年半に迫る中で、極度の自民党への政治不信の政局の中では、2009年以来の政権交代が実現する可能性も否定できない。

「マニュフェスト選挙」と言われたように、当時の民主党は政権を担った時に実行する政策を具体的に羅列していた。例えばエネルギー政策では、「全量買い取りの方式の固定価格買取制度を導入する」「一次エネルギーの総供給量に占める再生可能エネルギーの割合を2020年までに10%程度の水準まで引き上げる」「安全を第一として、原子力利用について着実に取り組む」とある。現実的なもので、意外にもこれらは全て実現されている。

一方、現在政権を担う可能性がある立憲民主党は、党の綱領に「原子力エネルギーに依存しない原発ゼロ社会を一日も早く実現します」とあるが、仮に政権を担った場合に具体的にこの綱領を実現するためにどのような政策を実行するのか、何も明確にされていない。今夏にはエネルギー基本計画改定の議論が山場を迎え、来年度予算案も編成しなければならない。こうした中、綱領の「原発ゼロ社会」と目の前のエネルギーの安定供給をどう折り合いを付けていくのか、今の段階でもその策がなければ仮に政権交代となれば混乱の極みとなろう。

エネ政策巡り政界再編 現実的な政策の提示必要

立憲民主党が単独で過半数を獲得することは、現時点の候補者擁立状況ではほぼ無理だろうから、仮に政権を担う場合は他の野党との連立内閣となるだろう。しかし、立憲民主党の綱領と日本維新の会や国民民主党、有志の会のエネルギー政策の乖離は大きい。立憲民主党の泉代表は、目先の共通する政策課題を実現するための野党連合の「ミッション型内閣」を提唱しているが、エネルギー政策のミッションがなければ、組閣すらできないだろう。私たち有志の会は、エネルギー政策などを巡って政界再編を起こすべきであると考えている。

これまでは政権交代の可能性がなく、政権を取る本気さもなかったから、一部の支援者を喜ばせるための絵空事を掲げていればよかった。しかし、政権交代の可能性があるからこそ、今政権を預かった時に具体的にどのようなエネルギー政策を実行するのか、少なくとも09年の民主党のマニュフェスト並みの具体的で現実的な政策を野党勢力は提示する必要がある。

ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

【フラッシュニュース】注目の「政策・ビジネス」情報(2024年6月号)


NEWS 01:JERAが資本増強を検討 5兆円投資へ上場も選択肢

「第三者割当増資、既存株主による増資、それからIPO(新規株式公開)など、どのタイミングでどの選択をするのが一番いいのか。検討のさなかだ」JERAの奥田久栄社長は、5月16日に行った「2035年ビジョンの実現に向けた成長戦略」の発表会見で、こんな見解を示した。

会見する可児行夫会長(左)と奥田社長

この戦略では、LNG、再生可能エネルギー、水素アンモニアの3分野を「戦略的事業領域」に位置付けるとともに、35年までに累計5兆円(各分野ごとに1~2兆円)を投じ、25年度見通しで2000億円の連結最終利益を3500億円へと引き上げる計画だ。

具体的には、LNG取扱量で現行の年間3500万tを10年後も維持しながら、再エネの開発容量を現在の500万kWから、洋上風力発電事業の世界展開などで4倍の2000万kWに拡大。水素アンモニアについては、生産から輸送、貯蔵、利用までのバリューチェーンを構築する先駆者として、年間700万t程度(アンモニア換算)の取扱量を目指していく。

総額5兆円の投資を実現するためにも、財務体質の強化は不可欠。奥田氏は会見で「自己資本を増強する方向で検討を進めていく」と述べた上で、前述のような複数の方策に言及した。果たして増資や上場に踏み切るのか。火力発電事業の最大手の動向に業界の関心が集まる。


NEWS 02:既存石炭火力削減で足踏み G7で強化方針示せず

4月28~30日にイタリア・トリノで開かれたG7(主要7カ国)気候・エネルギー・環境相会合では、昨年の温暖化防止国際会議・COP28でのグローバルストックテイク(世界全体の進ちょく評価)などの成果を踏まえ、どのような内容が示されるのかが注目された。ただ、既存の石炭火力のフェーズアウトについては、合意文書でこれまでの方針以上に踏み込むことができなかった。

欧米はここ数年、G7で排出削減対策が講じられていない石炭火力フェーズアウトの具体的な年限を打ち出すことを模索しており、COP28でもフェーズダウン加速の必要性が示された。では今回の合意文書での書きぶりはというと、「各国のネットゼロの道筋に沿って2030年代前半、または気温上昇を1・5℃に抑えることを射程に入れ続けることと整合的なタイムライン」でフェーズアウトするなどと記載した。30年代前半との時限を示しつつも、1・5℃目標を目指す、という判断基準も並列。具体的に規制が強化されておらず、日本からすればウェルカムな内容といえる。

欧米がロシア・ウクライナ戦争以降、脱炭素とエネルギー安全保障の両立というジレンマを抱え続ける実情が、改めて浮き彫りになったと言える。

他方、「この観点で次期NDC(国別削減目標)に情報を提供し、実施する政策の一環として具体的かつ適時の取り組みを行う」との一文も。新たなNDCは来年2月までの提出が求められ、ターゲットは35年が推奨されており、今後政府は議論に着手する。40年に向けたGX(グリーントランスフォーメーション)の新たな国家戦略、そして第7次エネルギー基本計画の議論と並行し、NDCではどのような内容が示されるのか。


NEWS 03:液石法省令改正で指針案 利益供与行為は原則NGに

LPガスの取引適正化に向け、液化石油ガス法の改正省令が4月2日に公布された。その柱は、①過大な営業行為の制限、②三部料金制の徹底、③LPガス料金などの情報提供―の三つ。このうち、①と③が7月2日に、②については来年4月2日に施行される。

資源エネルギー庁は、違反に対し罰則も辞さない構えだが、基準があいまいなままでは抜け駆け行為により制度改正がなし崩しになりかねない。それを回避しようと、5月20日の総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)液化石油ガス流通ワーキンググループ(座長=内山隆・青山学院大学教授)では、取引適正化ガイドラインの改正案を含めた実効性確保策が示された。

例えば、改正省令では過大な営業行為の制限について「正常な商慣習を超えた利益を供与してはならない」としているが、何を持って「過大な利益」とするかの線引きは難しい。これについてガイドラインでは、利益供与に「設備の無償貸与や安値提供、フリーメンテナンスなどの物品・サービスの提供」、「LPガスボンベ置き場の賃借料を名目とする金銭的な利益の提供」を含むとし、健全な競争を阻害し一般消費者に不利益をもたらす可能性を踏まえれば過大かどうかにかかわらず、「一切行わない方向で取り組むことが望ましい」と明記する方針だ。

同日の会合では、5月10日までにエネ庁の通報フォームに670件もの情報提供があり、改正省令公布後も駆け込み的営業行為が続いている実態が明かされた。業界関係者の一人は、「省令改正は改革の第一歩に過ぎない」との見方。不動産業界など利害関係が複雑に絡み合うだけに、業界、そして監督官庁の本気度が問われている。


NEWS 04:自民にe―メタン議連発足 導入促進制度構築など提言

自民党の有志議員が4月18日に発足させた「GXにおける天然ガスの高度利用とe―メタン促進に関する議員連盟」(e―メタン議連、会長=梶山弘志幹事長代行)。5月17日の会合で、政府が策定する経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)を見据え、移行期における天然ガスの利用の推進とe―メタン実装に向けた環境整備を求める提言をまとめた。

議連の初会合であいさつする梶山会長

提言は、まず移行期の天然ガス利用について、①化石燃料の中で最もCO2排出量の少ない天然ガスの戦略的な利用、②LNGの安定調達や継続的な活用に向けた取り組み、③カーボンニュートラル(CN)化に向けた天然ガスへの燃料転換―の推進を掲げた。

e―メタン実装への環境整備では、①技術開発によるコスト低減・生産技術の確立、②LNGとの価格差に留意した導入促進制度の構築、③e―メタン利用時のCO2排出に関わるカウントルールの整理―を明記。中でも、値差支援などを図る導入促進制度については、民間事業者の投資の予見性を確保することが必要とした上で、今夏までに固めるよう求めている。

都市ガス産業では、熱利用分野のCNへの円滑な移行を目指し、まずは足元で天然ガスの高度利用を進めながら、将来的には既存のインフラ設備や消費機器を利用できるe―メタンに原料をシフトしていく構えだ。

【マーケット情報/6月7日】原油続落、需給緩和感強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み下落。OPECプラスによる協調減産の緩和および米国経済の鈍化による需給緩和が下方圧力となった。

石油輸出国機構(OPEC)と非加盟産油国で構成されるOPECプラスは年末までの予定だった減産を2025年末まで継続すると決定。ただ、自主減産は来年10月以降に段階的に縮小されるとの方針が原油需給の緩みへの警戒心を強めた。

また、石油消費大国である米国の在庫が積みあがっていることも国内需要の鈍化への懸念が強めている。ただ、週後半に発表された雇用者統計では5月の雇用者数が大幅な増加を示し、高水準を維持している米金利はしばらくの継続するとの見方が広がった。高金利による米景気の停滞、石油需要の更なる後退への懸念が原油相場を下押している。


【6月7日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=75.53ドル(前週比1.46ドル安)、ブレント先物(ICE)=79.62ドル(前週比2.00ドル安)、オマーン先物(DME)=80.08ドル(前週比2.00ドル安)、ドバイ現物(Argus)=79.99ドル(前週比2.90ドル安)

柏崎刈羽原発の「地元同意」焦点 再稼働巡る意思決定手順再考を


【論説室の窓】井伊重之/産経新聞 客員論説委員

東電は新潟県からの原発再稼働の同意獲得で難航している。

重い判断を迫られる首長の負担は大きく、政府の支援が必要だ。

東京電力の柏崎刈羽原発を巡り、再稼働の地元同意が獲得できるかが焦点となっている。東電が新潟県全体の理解や信頼を獲得するのは難しく、実効性を伴う政府支援が必要だ。

原子力規制庁は昨年12月、東電によるテロ対策の不備などに伴い、柏崎刈羽原発における核燃料の移動を禁じる命令を解除した。これを受けて同社では4月に同原発7号機の原子炉に核燃料を運び込む作業を終え、7年半ぶりに再稼働できる状態に戻った。

その搬入作業を視察する機会を得た。同原発の構内に入るのは久しぶりだったが、テロ対策を強化したチェック体制は厳重だった。身元確認は以前から厳しかったが、入構車両のチェックや各人の持ち物検査に加え、施設に入るための身分証の提示なども厳格化されていた。

この原発では3年前、若手所員が他人のIDカードを使って中央制御室に不正入室していた問題が発覚。電力会社の原子力施設や放射線管理区域に立ち入る際には、国際原子力機関(IAEA)の勧告でその手順が細かく定められている。警備員も不審に思ったが、日頃から顔見知りの所員だったため、厳正なチェックを怠って不正入室を許してしまっていた。

原発再稼働の是非を議論する新潟県


所長が率先し意思疎通 現場の意識改革で先頭に

柏崎刈羽原発では、協力会社を含めると5000人以上が勤務しており、日常的な身分証の確認などの手順が形骸化していたのが不正入室の原因だ。このため、東電では原発所員に安全管理を巡る意識の徹底を改めて図っており、稲垣武之所長がその陣頭指揮にあたっている。稲垣氏は朝のあいさつや自らブログで情報発信するなど、率先して所員とのコミュニケーションの円滑化に努めている。

こうして同原発の安全対策は格段に強化され、所員の意識改革も進めているが、それが再稼働につながるかは不透明である。原発の再稼働には地元の同意が不可欠だが、同意を取り付ける道筋が見えていないからだ。

原発が立地する新潟県の柏崎市や刈羽村では、地元議会が早期の再稼働を求める請願を採択したものの、今年1月に発生した能登半島地震で原発事故時の避難計画などに対する不安が高まり、周辺の長岡市や上越市などでは首長が再稼働に否定的な発言を繰り返している。

そうした県内の自治体から聞こえてくるのは、東電への根強い不信感だ。福島第1原発事故を引き起こした当事者であるだけでなく、柏崎刈羽原発で何度も不祥事を起こしており「なぜわれわれが東電の原発リスクを引き受けないとならないのか」(県議会議員)との受け止めは、地元からすれば当然だろう。

ドローンでインフラ業務の革新を支援 一貫体制でサービスの全国展開に弾み


【九州電力】

ドローン事業の拡大に向けて立ち上げた「九電ドローンサービス」。

AIなどの最新技術を組み合わせ、インフラ分野に新風を注ぐ。

ドローン(小型無人機)を工場やプラントをはじめとする幅広いインフラ設備に役立て、点検などの現場業務を効率化する―。九州電力はそんな強みを発揮し、成長が見込まれるドローン市場の開拓に乗り出した。市場開拓のけん引役は4月に設立した子会社「九電ドローンサービス」(QDS、福岡市中央区)。QDSは先進技術を駆使してサービスを拡充し、ドローン事業の全国展開を目指す。

九電は2016年から、同社グループが抱える電力などのインフラ設備の点検や災害時の空撮などの場面にドローンを活用。5年以上の累計で点検・測量実績は170件以上に達した。培った実績を土台に19年7月からは、ドローンの利用を支援するサービスを九州全域に展開してきた。

            狭い洞窟で威力を発揮するドローン

ハードとソフト一体で 多様な課題解決を後押し

そこで培った経験や知見を生かして立ち上げたのが、今回のQDSだ。九電ドローン業務グループの立石靖記グループ長(QDS取締役)は、「ドローンにソフトを組み合わせた『オールインワン』で顧客の課題解決を支援できる強みを発揮し、ドローンソリューションの提供先を広げたい」と意気込む。

ハード面では、さまざまなドローンの活用ニーズに対応するため、多様な最先端機器をフル活用できる体制を構築。10メーカー、140台以上もの機体を所有している。

ソフト面では、独自開発のソフトを展開。ドローンの自動飛行を実現するプログラムソフトに加えて、機体が見通せるポイントを検索してカバー範囲を表示するシステムを用意している。画像データの解析技術を駆使できることも売りだ。

さらに、ソリューションを支える組織体制も強化。ドローンを安全に飛行させる技能を持つ国家資格「2等無人航空機操縦士」の取得者を、現在の10人以上から50人以上に増やすことを計画している。

ドローンの展開先の一つが、インフラ設備の点検だ。既に「点検業務を効率化しコストを削減したい」「人の立ち入りが難しい場所の点検を省力化したい」といった顧客の声に応えて、活用事例を増やしている。

例えば、GPS(衛星利用測位システム)の電波が届かない狭い空間でも自律飛行できる 球体型の特殊なドローンを駆使し、作業員に代わって工場や煙突の内部を安全に点検するサービスを提供。さらに、広大な範囲を対象とする点検や水中点検などで威力を発揮するドローンも扱っている。ドローンで空から地上を素早く高精度に測量し、地形の状況を把握するサービスも提供可能だ。

ドローンに新しい技術を組み合わせる展開にも意欲的。立石グループ長は「パートナーと連携し、ロボットやAI(人工知能)などを活用した新しいサービスの開発や提案にも力を入れたい」と力を込めた。

パートナーと先進事例 実績土台にDX市場開拓

すでに九電は22年、ソフト開発のオプティム(佐賀市)と連携し、ドローンとAIによる解析技術でダムの点検業務を高度化・効率化する成果を発表している。具体的には、九電がドローンによる測量で使う独自の自動操縦プログラムを、傾斜のあるダム遮水壁の壁面撮影に活用。その技術にオプティムが開発したAI画像解析を融合することで、1㎝単位で遮水壁のひびや表面に塗布された保護層の剥がれといった損傷を高精度に検知できるようにした。点検業務にかかるコストは約40%削減できるという。

ダムの遮水壁を点検するドローン

デジタル技術を業務の変革につなげるDX(デジタルトランスフォーメーション)の機運が幅広い業種で高まる中、DXをけん引するドローンのビジネス市場も拡大する方向にある。政府は、規制が求める目視や巡回などのアナログ手段を代替できる新興技術の普及を促しており、こうした動きを追い風にドローン活用を後押しする企業の出番も増えそうだ。

「空を見上げて、未来をカタチに」という経営理念を掲げたQDS。同社の本田健一社長は設立記念式のメッセージの中で、「先進的なドローン・ロボット技術をもとに、チャレンジと情熱を持って地域社会の課題を解決しワクワクするような未来を創っていきたい」と意欲を示した。QDSは、ドローンを工場やプラントのDXツールとして広げる先導役として存在感を放つことになりそうだ。

【覆面ホンネ座談会】GX投資で成長は本当? 潜在する課題に迫る


テーマ:GX投資

GX(グリーントランスフォーメーション)政策が着々と進み、さらに政府は2040年に向けた新たな国家戦略を策定する方針だが、GXが真の成長に資するかはいまだ不透明だ。

本施策に潜むさまざまな課題を掘り下げた。

〈出席者〉 A製造業関係者   Bアナリスト   Cシンクタンク関係者

―2022年末にGX基本方針が示され、その1年後の分野別投資戦略では、GX経済移行債による投資促進策と支援額を提示した。

A 網羅的で数字の根拠がよく分からないものもある。これでは何も書いていないのと同様だし、全ての取り組みがモノになるわけでもない。支援にメリハリをつけ、必要に応じて組み替えるなど、今後の対応こそ重要だ。

B 基本方針は22分野だったが、その後の投資戦略では大くくり化され16分野に。「次世代ネットワーク」が「再生可能エネルギー」に統合され、「航空機」や「カーボンリサイクル燃料」に入っていた「SAF(持続可能な航空燃料)」は外出して、さらに「カーボンリサイクル燃料」を「水素等」に組み替えるなど、一部扱いが変化した。他方で国土交通省や農林水産省の提案を中心に姿を消したものも。モーダルシフト(貨物輸送を環境負荷の小さい手段に転換すること)など期待される領域もあったのだが……。

C 今後10年で官民投資が150兆円、GX経済移行債を20兆円発行予定の中、投資促進策の1回目(22年度補正~23年度当初)では1・6兆円の半分弱をGI(グリーンイノベーション)基金が占めた。今後、実際に分野ごとのバランスがどうなるかが重要だ。他方、20兆円では足りないと「お代わり」がある可能性も。その制度設計もポイントとなる。

B 投資戦略では新たな税制措置も示した。EV、グリーンスチール、グリーンケミカル、SAFを購入する企業の法人税を控除するものだが、そのためにはGXリーグへの参加がマスト。昨夏JALが一度リーグから離脱したが、税制措置の対象にSAFをピンポイントで入れたのもJALの引き戻し策だったのだろう。こうした対応を見ると、企業が一層内向きになりかねないと危惧している。

GXで最後の果実を手にするような産業政策となるのか


不安抱える移行債 推進機構の裁量は

―GX移行債は合計1・6兆円で2月に初めて発行され、24年度は4回発行で計1・4兆円を予定する。先行きをどう見る?

A 政府は「若干グリーニアム(環境債のプレミアム)が付いた」「海外投資家に事前に説明し高評価を得た」などと言うが、現実はプレミアムがほぼ付かず、大部分を日本の金融機関が買い、国内でお金が回っただけだ。

B グリーニアムの件は由々しき問題で、特に5年債は流通市場でのプレミアムはないに等しい。初回は海外で不人気の水素・アンモニアを除外したのに。今後日本のやりたいアイテムを入れるほど、プレミアムが付きづらくなるジレンマがある。また、本来は年間2兆円ずつ発行する必要があるのに、今年度は小分けにし総額を減らす点も、弱気に見える。

C そもそもGXの受け手の土壌が耕されていない。そんな中で移行債の1回目は腰が引けていたが、今後対象に水素・アンモニアを筆頭に化石燃料系を認め、真のトランジションファイナンスにしていければ、GXの突破口となり、民間投資のインセンティブにもなる。日本政府がその点を欧米の金融側などにどこまで訴えられるかにかかっている。

B 移行債は税額控除の税収減の補てんにも使うが、財政論的な問題をはらむ。本来エネルギー対策特別会計の収入になる移行債で、一般会計の減少分を補てんするということは、プライマリーバランスの調整に特会を使うということ。いわば「プライマリーバランス是正詐欺」と市場から見られ、日本の国債全体の信用問題になる可能性すらある。

―先行したGXリーグでは、25年度までの第一フェーズで自主的なJクレジットの市場取引が行われている。第二フェーズでは超過削減枠の取引、第三フェーズでは発電事業者の有償オークションと、規制を強める。

A GXリーグのポイントは、26年度からのETS(排出量取引)の本格稼働でどこまで強制的なシステムとするかが全てだ。EU―ETSは政府が目標を設定し、未達の罰則規定もある。日本ではどうなるのか、参加企業は戦々恐々だ。他方、自社目標を超過達成した企業から枠を買ってオフセットしても、国全体の削減量が上積みされるわけではない。

B 根本的にこの制度が日本全体の削減に効果があるのかはやはり疑問。事実上、リーグへの参加が政府支援を得る条件になっている。

C 現状はそもそもJクレの玉が少ない中、マーケットメイカーを導入しても実質的には少数が9割方取引しているような状況にある。また、第一フェーズでは第三者が削減量の検証を行うが、京都議定書時代の知見が失われており、人材育成が課題だ。第二フェーズ以降は目標の検証も行うというが、国際的な枠組みでも十分なノウハウが確立されていない。個人的には金融を含めエンゲージメントしながら取り組む形が望ましいと思う。

―そして7月にはGX推進機構が発足し、日本生命保険の筒井義信会長が理事長になる。業務内容は、150兆円の投資実現に向けた債務保証、ETSの運営、化石燃料賦課金の徴収などだが、詳細は明かされていない。

C お金周りは無論、排出権の割り当ての基準作りなどにどこまで関わるか、機構の裁量がまず気になっている。また、メンバーに関して一時はそれぞれ産業界から人を出すような話も聞こえてきたが、結局どうなるのか。

B 機構が積極的に債務保証をハンドリングし、リスクを取ってリターンを得る形を目指してほしい。だが、初回の移行債購入者は、日銀に次いで機構理事長の出身である日生が2番手だったというのが、なんともはや。

A 昨秋時点の経産省の資料には、機構の業務として債務保証のほか「出資・助言等」とあり、ベンチャーキャピタル的な組織を目指すと思っていた。だが最近の資料には出資などは入っていない。債務保証の際は融資する金融機関がプロジェクトを選別することになるが、事業の良し悪しが分かるのか。選別眼のある産業界の人材がいるNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の支援事業でさえビジネスとして成功するケースは多くなく、機構の人材育成が課題だろう。

C 化石燃料賦課金の徴収事務もある。ただ、国税などの仕組みには載せずに自前で行う必要があり、当面は国税局OBなどを投入するのだろう。再エネ賦課金などと違い対象が多く、その仕組みづくりも大変そうだ。

【イニシャルニュース 】原子力推進が軸に!? 高市派結成の可能性


原子力推進が軸に!? 高市派結成の可能性

低支持率と裏金問題などの失態で、岸田文雄首相率いる自民党、公明党の連立政権の崩壊に加え、事と次第によっては自民党下野の可能性もささやかれる。永田町界隈では、早くも次の首相候補が取り沙汰されているが、筆頭格は上川陽子外相といえよう。また高市早苗・経済安保相や、河野太郎・行政改革相の名前も聞こえている。この二人の場合、原子力問題が対立軸に加わりそうだ。

高市氏は、自らの勉強会とする『「日本のチカラ」研究会』を発足させ、会合会を重ねている。3月の勉強会では20人が集まり、1月から倍増した。取りまとめの中心になっているのは、高市氏に近いI県のⅠ議員だ。また自民党筋によると、別派閥であるF県のT議員と保守グループのA議員なども代理人参加などしたという。いずれの議員も原子力活用派だ。

高市氏は無派閥だ。自民党内には、「水面下で支持が広がっている可能性がある。特に、派閥を攻撃した岸田首相に不快感を持つ旧安倍派議員が支持するかもしれない」との見方がある。「高市派」が結成された際、思想的まとまりの核に原子力の活用が置かれる可能性がある。

高市氏の主張は、故・安倍晋三元首相と重なり、自主独立・防衛力強化が柱。そして個人的に原子力に関心を持ち、夫の山本拓元衆議院議員も、新型原発の支援に、現役時代は動いていた。対立する河野氏は、反原発と再エネの過剰重視を行ってきた。

次の首相争いでは、原子力の活用とエネルギー政策が重要な論点になるかもしれない。これは、エネルギー関係者には朗報である半面、イデオロギー的な批判も再燃しかねず注意が必要だろう。


燻るマイクオフ問題 J議員と環境相の攻防

環境省職員が水俣病患者らの団体と伊藤信太郎環境相の懇談の場で、マイクの音を切るなどして団体側の発言を遮った問題がくすぶり続けている。

「マイクオフ問題」は、厚生労働省から出向してきた環境省保健部の担当室長K氏が、1団体3分という時間制限の運用を厳格に守ったのが原因だ。この運用は2017年からマニュアル化されていたが、これまではきっちり3分で切ることはなかったという。

環境省関係者は「出向者は医系技官で医者ならではの杓子定規な人。水俣の歴史や被害者対応といった基本を理解していなかったのが起因して、マニュアル通りの仕事をしてしまったことが裏目に出た」と話す。

伊藤環境相が現地に再び出向いて遺族の仏壇の前で土下座して謝罪し、事務次官以下関係する職員の処分を発表した。省内には部局横断のタスクフォースを立ち上げ、再発防止策を講じることで事態の収束を図ろうとした。

環境官僚だったら対応は違った?

だが立憲民主党のJ議員が執拗に攻め立てているという。J議員は伊藤氏と同じ選挙区でいわばライバル同士といえる。

永田町の関係者は、「今回の失態を利用して、次の選挙で叩きのめす作戦だろう。もともとJ議員は伊藤大臣には勝ち続けているので心配ないとは思うが、今回は伊藤大臣に同情する声もある。そして何といっても、土下座の謝罪という伊藤大臣のパフォーマンスに用心しているのではないか」と分析する。

自民党の政治資金問題や岸田政権の不人気で、各種メディアの世論調査では次の選挙での政権交代を望む回答が増えてきている。ここぞとばかり攻め立てて得点稼ぎをする狙いが透けて見えるが、永田町では「しつこく追及すればするほどJ議員が政争の具にしているという批判が、ブーメランになって立憲民主党に返ってくるのではないか」と心配する声も聞かれる。

害獣の自動検出AI「Bアラート」 官公庁と連携協力し実用性向上目指す


【北陸電力】

北陸電力はDX戦略で新たな価値創造を推進しており、AIを活用したクマ被害減少に取り組む。

コア事業を基盤に地域課題に貢献し、将来像である持続可能な発展とスマート社会を目指す。

クマの出没に伴う人身被害の報告件数が、全国的に増加傾向にある。DXを推進することでこの課題に取り組んできたのが北陸電力だ。ほくつう、ガルムと協力して開発した「Bアラート」で、AIなどのデジタル技術を駆使してクマ出没の早期検出と通報を可能にし、人への被害を未然に防いでいる。

富山県の公式統計データを確認すると、県内のクマ出没は2015年から18年まで年間およそ100件~300件の間で推移してきた。しかし、食糧となる木の実が山で不作となった19年には、919件と大幅に増加。実はこの年の10月、北陸電力でBアラート開発の契機となる事件があった。県内の山林で送配電の保守業務を行っていた職員がクマに襲われたのだ。以降、AIやデジタル技術を活用して危険回避の方法を検討する社内議論が始まった。自治体や野生動物の有識者とも討議を重ね、クマ出没を早期に把握し、関係者に迅速に通報するシステム構築が有用であるとの結論に至った。そして20年9月から22年6月まで、2年近い歳月をかけて開発されたのがBアラートだ。現在、北陸地方の12自治体が導入済で、7自治体が試験運用中。北陸以外では神奈川県、山形県などでも利用されている。


既設カメラ活用で監視強化 害獣指定で導入拡大見込み

Bアラートは、カメラで撮影した画像に写っている生物がクマかどうかをクラウド上のAIが識別し、クマの場合には自治体や捕獲隊などに通報してくれるシステムだ。使用するカメラはトレイルカメラと呼ばれるもので、SIMカードが装着された通信機器でもある。1台およそ10万円。単3電池で動くため、屋外のコンセントがない場所でも問題なく使える。カメラは生物の体温を感知すると撮影モードに入り、その画像をキャプチャする。あらかじめクマの外見的特徴を学習したAIが、その画像の被写体がクマかどうかを99・9%の高精度で判定し、クマだった場合、Bアラートの通報システムがその画像をメールで送る。人間による監視には自ずと時間的、空間的制約があるが、Bアラートは24時間365日休みなく働ける。

Bアラートのシステムイメージ(クマ検出の場合)

AIによりクマと判定された画像

ただ、このトレイルカメラには欠点もある。初期費用が高いことと、定期的に電池交換が必要なことだ。そこで河川や道路に設置されている監視カメラを活用する案が浮上した。現状、クマの管理は環境省、河川や道路の管理は国土交通省が行っているため、活用案の実現には省

庁間の連携が必要だが、今般、両省から協力を得られることになり、富山県は今年度「河川および道路のライブカメラ画像識別による出没状況の把握」に取り組むことが決定した。トレイルカメラは富山市で約10台、県全体で約50台設置されているが、河川や道路の既設の監視カメラを利用できるとなれば、その台数は一気に400台まで拡大し、Bアラートの実用性は飛躍的に高まる。

イノベーション推進本部・新価値創造研究所の橋本茂男副課長は、全国初となるこの対策に「まさに今年度の目玉対策」と期待を寄せる。今後のBアラートの展開については「まず今年度の実証実験に注力し、関係者と連携して実用性の高いソリューションを実現していきたい」と語る。実用性が示されれば、環境省が4月にクマを「指定管理鳥獣」に定めたことも追い風となり、Bアラートの導入は加速していくことが見込まれる。


経産省からDX事業者認定 目指す将来像の実現へ

北陸電力は23年10月に「北陸電力DX戦略」を発表し、その柱として「生産性の向上」「新たな価値創造」「変化に対応可能な環境整備」の三つの方針を掲げている。いずれもDXを推進するもので、「生産性の向上」では電力事業というコア事業にAIを活用し業務の高度化・効率化を進めている。

一方、Bアラートの開発に関しては、「新たな価値創造」を体現した取り組みと言える。電力事業の枠にとらわれず、快適な暮らしや利便性の向上に向けて地域やお客さまの課題解決に資する新たな付加価値を生み出すことや、新たな挑戦に果敢に取り組んでいる。

DX戦略を具現化していくことにより、「新中期経営計画」の実現、その先には「地域とともに、持続可能なスマート社会を目指して」という「2050年の将来像」を達成することを目標にしている。

24年3月、北陸電力は経済産業省から「DX認定」を取得した。これは、AIなどのデジタル技術を利用した生産性向上に努力し、経産省が定めるデジタルガバナンス・コードに適合したDX推進を行っている事業者に与えられる認定で、いわばDXに関して国からのお墨付きを手に入れた形だ。

デジタルの力を活用して地域の課題解決に取り組む企業や団体を内閣官房が表彰する「Digi田(デジでん)甲子園」にも積極的に参加している。岸田首相が旗振り役を務めるこのイベントで、昨年、Bアラートは応募総数240件から見事予選を通過。55件が競いあった本選では惜しくも受賞を逃したが、「今年こそは」と新たな取り組みのエントリーを進めている。

千葉印西変電所が6月稼働へ 27年までに230万kWに増強


東京電力パワーグリッド(PG)は、工業団地の整備が進む千葉ニュータウンエリア(千葉県印西市)の電力需要に対応するため、新設した「千葉印西変電所(印西市牧の台)」が6月上旬に運転を開始すると発表した。同変電所の稼働で印西エリアの供給力は約60万kW増の計170万kWほどになる。

現時点で東電PGに申し込みがあった同エリアの電力需要は、現在の6倍に当たる約200万kW。2027年までに、千葉印西変電所と新京葉変電所(千葉県船橋市)を結ぶトンネル内に敷設した送電ケーブルの数を増やすほか、同変電所の変圧器の数を2台から4台に拡大することで供給力を230万kWまで増強する予定だ。

約10㎞のトンネル内に敷設した送電ケーブル

本工事は18年夏ごろに自治体によるデータセンター(DC)の誘致などで申し込み件数が急増したことを背景に計画。立案から稼働まで約5年と前例のない工期でトンネル掘削、送電ケーブル敷設、超高圧変電所新設が実施され、中でもトンネル掘削は全長約10・1kmと東電PGにとって実に四半世紀ぶりの大規模工事となった。トンネル掘削工事では通常シールドマシーン1台で進めるところを、本工事では4台同時稼働させることなどによって約2年半で貫通させ、その後のケーブル敷設も2年も満たない期間で行われた。

「計画立案から稼働まで当初8年を見込んでいたが、8年もかけていたら申し込んだDC事業者が海外へ流出し日本の損失となる」(草間順一・東電PG系統計画グループマネージャー)。DX時代に向け、電力インフラ増強は待ったなしだ。

多様な課題に直面する都市ガス 業界一体となり課題解決へ


【巻頭インタビュー】内田高史/日本ガス協会会長

エネルギー安定供給や脱炭素化などさまざまな経営課題に直面している都市ガス業界。

日本ガス協会はその中でどのような役割を担っていくのか。内田高史会長に話を聞いた。

うちだ・たかし 1979年東京大学経済学部卒、東京ガス入社。2009年総合企画部長、12年常務執行役員、16年副社長執行役員、18年社長を経て23年から会長を務める。24年4月日本ガス協会会長に就任。

 ―4月1日に日本ガス協会会長に就任されました。業界を取り巻く課題をどう見ていますか。

内田 現在、都市ガス業界に最も求められているのが、2050年カーボンニュートラル(CN)達成に向けた取り組みの加速です。業界では、移行期においては天然ガスの高度利用や他燃料からの転換を進めることで、天然ガスの使用量は増えつつも社会全体のCO2排出量を削減することに貢献し、それを徐々にe―メタン(合成メタン)に置き換えることでCN化の達成を目指そうとしています。

ただ安定供給を損なうことなくこうした取り組みを進めるには、政策の後押しが欠かせません。策定議論が始まった第7次エネルギー基本計画においても、天然ガスやe―メタンについて、時間軸を織り交ぜながら位置付けていただきたいですね。

もう一つの大きな課題は、地方ガス事業者が取り組む地域活性化への支援です。全国に190社ほどあるガス事業者はいずれも地域に根差した企業ばかりですから、人口減少・少子高齢化に伴いガス需要が減少し続ければ、事業が成り立たなくなりかねません。都市の持続可能性が危ぶまれる中、自治体と一体となって地域課題に取り組むことが求められています。

―地域における役割が、ますます高まっていきそうですね。

内田 都市ガス会社だからこそ、それぞれの地域特有の課題、特徴を生かしたさまざまな支援が可能です。例えば、石炭や石油から燃料転換する余地はまだまだありますし、小水力やバイオマスといった地域資源を活用した再生可能エネルギー由来の電気とうまく組み合わせながら地域のCN化への道を描くことができます。また、保育園の運営や空き家対策、さらには地域での見守りサービスなどを手掛けることで、総合生活産業的な立ち位置を目指す事業者もあります。ガス事業で培ってきたお客さまとの接点を次の成長につなげられるよう、協会としても事例の情報提供や会員同士の情報交換の場を設けるなどし、各社の取り組みを支援していきます。

―e―メタンの社会実装に向けた協会の役割とは。

内田 e―メタンの製造や輸入といった実際の事業は個社の取り組みとなりますが、協会としては、それが円滑に進むよう後押ししていかなければなりません。導入当初は、どうしてもLNGよりも価格が高くなりますから国による値差支援は不可欠です。またCO2排出量を二重計上することがないよう、カウントルールを公的に決める必要もあります。計画通り30年度にe―メタンを販売量の1%導入するためには、米キャメロンLNG基地(ルイジアナ州)で計画しているプロジェクトなどは来年度中にも最終投資決定(FID)を行わなければなりません。会員企業が適切なタイミングで投資の意思決定を行うべく、国に対し早期に制度・政策の方向性を示していただけるよう働き掛けていきます。

―日米が協調することへの期待はありますか。

内田 LNGの出荷基地が多く存在する米国にとっても、長期的にはe―メタンはメリットがありますし、エネルギー省(DOE)も解の一つだと明言しています。実際、インフレ抑制法(IRA)を活用したプロジェクトが計画されています。また、4月に行われた日米首脳会談を受けた声明では、日米企業間で進むカーボンリサイクルプロジェクトの進展を歓迎すること、CO2の二重計上を回避することに日米企業間で合意したことに言及されています。両国が協調することで、制度化が加速することを期待しています。

e-メタン事業計画が進むキャメロンLNG基地


e―メタンの円滑導入へ 業界挙げて燃転に取り組む

―将来的には、中小事業者の供給エリアにもe―メタンを行き渡らせなければなりません。

内田 これまで、各事業者が石炭や石油から天然ガスへの転換に力を入れてきましたが、いまだ大きなCO2排出需要家が残されています。e―メタンは、既存の都市ガスインフラをそのまま使えることが大きな強みですから、こうした需要家の燃転を進めておけば、e―メタンを導管に注入するだけでシームレスにCN化を進めることができるわけです。

引き続き、大手、中小が一体となって燃転に積極的に取り組んでいかなければなりませんし、新たなパイプラインの整備などに対し、国の支援をお願いしたいと考えています。また将来的にe―メタンを全国に広げていくためには、e―メタンの環境価値を移転できる仕組みも必要になります。今年度から民間で運用するクリーンガス証書の実績を積み、国の制度で認められるよう働き掛けていきます。

―5月15日に始まったエネ基議論への注文はありますか。

内田 S+3E(安全、安定供給、経済、環境)を念頭に置いて議論していただきたいと考えています。天然ガスは、都市ガス用途よりも発電用燃料としてより多く使用されています。CN化に向け再エネを大量導入するには、調整電源としての火力は欠かせません。その主力はガスです。都市ガス、発電用の双方で天然ガスをきちんと位置付けることが肝要です。