【コラム/5月10日】福島事故の真相探索 第5話


石川迪夫

第5話 ジルカロイ燃焼を防ぐには

ジルカロイの弱点

一般に、酸化物は低温では脆いといわれている。例えば、乾物屋で売っている湯葉は脆くて壊れやすい。だが、湯で暖めて本来の薄皮に戻すと、中に具を入れて煮炊きができる。湯葉は温度が高いと強靱となり、破れないからだ。ジルカロイの酸化膜も湯葉に似て、温度が200℃ほどに低下すると脆くなって、破れやすくなる。これがジルカロイの弱点であり、事故を起こした原因である。

炉内実験で、燃料棒をある程度の高温で照射した後に冷却して取り出すと、燃料棒はUO2ペレットのつなぎ目で折れて出てくる。燃料棒が冷えると、ジルカロイの酸化膜が脆くなるので、ペレットのつなぎ目で酸化膜が破れて、燃料棒が折れるのだ。これをわれわれは燃料棒の分断と呼んでいる。

燃料棒温度を上昇したり、照射時間を長くすると、酸化膜の厚さが増して分断の数が多くなる。この例が示すように、ジルカロイの酸化膜は冷えると脆くなり、壊れやすい。

軽水炉で使っている燃料棒は、ジルカロイ被覆管の中にUO2ペレットを入れた構造であるから、原子炉の運転中、被覆管は原子炉の圧力により常に圧迫されている。通常運転での被覆管温度は、概略300℃程度であるから問題は起きないが、事故が起きて燃料棒温度が上昇すると、柔らかくなった被覆管は原子炉圧力によって圧され、座屈してペレットに密着して、その表面は黒い酸化膜で覆われる。このような状態の原子炉に、冷たい水を入れると、何が起きるか。

被覆管表面の酸化膜は水で冷やされて収縮しようとするが、密着したペレットに阻止されて収縮できない。このため、冷えて脆くなった酸化膜にはヒビ割れが起きて破れる。この破れ目は、燃料周辺を取り巻く水や水蒸気にとっては、高温のジルカロイと接触できる自由市場となるから、反応は一挙に増えて、発熱が増大する。これがジルカロイ燃焼の出発点である。

先ほど、酸化膜の厚さが大きくなれば燃料棒の分断数が多くなると書いたが、これは酸化膜の破れと共通したことで、燃料棒が高温となり表面の酸化膜が厚くなるほど、冷却による酸化膜の破れも多くなる。

爆発的なジルカロイ・水反応の発生、これが今まで知られなかった――正確に言えば、知られてはいたが忘れられていた――ジルカロイの弱点である。水で冷やされると、燃料棒の表面を覆っている酸化膜が破れ、高温のジルカロイは水や水蒸気と接触できるので、激しい化学反応が起き、大きな反応熱を発生させるのだ。以降は、この激しい現象を一般のジルカロイ・水反応と区別して、「ジルカロイ燃焼」と呼ぶ。この点については後ほど詳述する。

【覆面ホンネ座談会】成長戦略への布陣固めへ 大手電力・ガス人事を読む


テーマ:電力・ガス業界の人事と評価

電力・ガスカルテル問題が落ち着きを見せ、両業界団体トップがそろって交代し、スタートした2024年度。脱炭素社会に向けた経営基盤強化へ、今後どのような人事が予想されるだろうか。

〈出席者〉 Aアナリスト Bジャーナリスト Cメディア関係者

―まずは電気事業連合会の会長人事から。異例の4年を務めた池辺和弘九州電力社長から林欣吾中部電力社長へとバトンが渡った。

A 今年、中部の社長交代があった場合には紆余曲折が予想されたが、留任となり順当な人事になった。関西の森望社長が就くとの観測もあったけど、関西が電力カルテル疑惑の中心的存在だと目されている以上、業界がまとまらなくなる可能性があったからね。

B 業界に衝撃が走ったのは、1月末に伊藤久德前副社長が中電シーティーアイ社長に就任することが発表され、社長レースから外れることが確定したことだ。これで林さんの電事連会長が見えた。それにもかかわらず、ダイヤモンド・オンラインが3月12日に「有力候補は関西電力社長、中部電力社長に絞られているがどちらも一長一短で決め手に欠く」などという記事を配信したり、日本経済新聞が「金品受領問題から年数が経っているから(関西でも)大丈夫だった」といった記事を書いたり、メディアはあまりにも雑な見方をしていた。流れをきちんと見ていれば、林さん以外あり得なかったよ。

C 林さんが電事連会長を1期2年務めることになれば、次は神谷泰範中部電力ミライズ社長で決まりじゃないかな。もともと中部は技術系の会社。神谷さんは技術系だけど企画にも携わってきたという点で、水野明久相談役とキャリアが似ている。

B この4月に就任した伊原一郎、鍋田和宏両副社長も候補かもしれないが、来年副社長に就任する人が最有力候補になるのだろうね。そう考えると、電事連会長1期2年が個社の人事に与える影響は大きい。

池辺氏(左)から会長を引き継いだ林氏はどう手腕を発揮するのか


電力業界が担う脱炭素化の中心的役割 林欣吾新会長に求められる手腕とは

―林さんに期待される電事連会長としての手腕とは。

A 中部は浜岡原発がすぐ動くわけではないから、その点では再稼働していたり準備段階にあったりする他電力との間で温度差があるのは否めない。原子力は会長マターの話にはならないだろう。電力はこれから、低炭素を飛び越えて脱炭素に向けて取り組まなければならない。原子力と再生可能エネルギー、火力についてはアンモニアと水素は専焼が難しいので切り札とはならない。需給バランスを考えると、これからも化石燃料による火力を使っていかなければならないのだから、どのように社会全体で費用を分担しながら安定供給を確保していくかが電力業界全体の課題としてのしかかってくる。各社の主張を取りまとめ、電気事業全体として脱炭素化とエネルギー安定供給の中心的な役割を果たせるか。もちろん、料金の経過措置規制廃止に向け音頭を取ることも重要な役割となる。

B 核燃料サイクル・中間貯蔵の話となると業界全体の話複数の都道府県にまたがることになるから、どうしても電事連が関わらざるを得ない。ただし、林さんの在任中に大きく進展することはなさそうだ。

―この座談会実施時点ではまだ発表がないが、九州は池辺さんが続投との見方が強い。

B 池辺さんは、これまで電事連会長としての仕事が忙しく思うように社業に取り組めていなかったからね。電気新聞は早くから電事連は代わるが九州は代わらないと見ていたし、3月15日の電事連の会見では、本人が社長として林会長を支えるということを何度か言っていた。直後に交代を考えている人があそこまでは言わないだろうから、続投を確信した。

C 池辺さんの後任は西山勝常務執行役員が最有力かな。池辺さんからも瓜生道明会長からも信頼が厚く経験も十分だ。中野隆常務執行役員もバランスの取れた人なので、対抗馬の一人だと見ている。

―今年中に柏崎刈羽、女川原発が再稼働すれば、来年度は東京電力ホールディングス(HD)と東北で社長交代がありそう。

A 東北にとって最大の課題が女川の再稼働だった。樋口康二郎社長は、地元との調整を含め着実に再稼働の準備を進め目途を付けたということで社長としての重責を果たした。東北はあまり抜擢人事がないから、後任の最右翼は石山一弘副社長だと思うが、砂子田智副社長ということもあり得る。

C 石山さんが本命視されているのは間違いないけど、佐々木裕司・宮武康夫両常務執行役員の名前も聞こえてくる。東京は柏崎刈羽の再稼働までは吉野(栄洋執行役)・小早川(智明社長)体制でいくしかない。後任は、酒井大輔副社長が有力視される。

B 東電については正直、誰がなっても変わらない気がするし、電力業界初の女性社長が出てもおかしくない。長崎桃子東電エナジーパートナー社長の可能性は十分あり得るし、実現すれば象徴的な人事になる。

A 順当にいけば酒井さんだろうが、日本航空に女性社長が誕生したことで長崎さんを抜擢するべきだという声も聞こえてくるのも確か。この二人のどちらかかな。

B 営業畑を歩んできた長崎さんが、原子力にきちんと取り組めるかが最大のネックになりそうだ。

C それにしても、これまでは小売り、送配電、原子力、火力などいろいろな分野で経験を積むことで、電力会社社長としての帝王学を学べたが、そういった状況ではなくなってきているね。20年の送配電部門の法的分離によって、今後はますます総合力を培うことが難しくなりそうだ。

多様性推進で変わる働き方 あらゆる場面で女性が活躍


【電力事業の現場力】中部電力労働組合

男性の多くが育休を取得するなど、社員の意識変革が進んでいる。

女性活躍にも力を入れ、全ての社員が働きやすい環境を作っていく。

実質週休3日制―。ファーストリテイリングやリクルートなど大企業で広がりを見せるこの制度を、4月に中部電力が導入した。1日分の標準労働時間(7時間40分)を残りの勤務日に振り分けることで「ゼロ時間勤務日」(事実上の休日)を設定できる。月に4回を上限として使用することができる。

こうした多様な働き方と並んで中部電力が力を入れるのが、「DE&I」の推進だ。DE&Iはダイバーシティ(多様性)・エクイティ(公平)とインクルージョン(包括)の頭文字を取った概念で、性別や年齢、障がいの有無、性自認などにかかわらず、全ての働く仲間の活躍を目指す。

春闘集会で約1000人の前で演説する辻真理菜さん

国民民主党・浜野喜史参議院議員を訪ねる室門麻里さん

これまで中部電力の最大の使命は、電力の安定かつ安価な供給だった。現在もその使命に変わりはないが、電力データを用いた医療・介護や不動産など事業領域は多岐にわたる。近年はITなどの専門人材を登用するためにキャリア採用に力を入れており、2025年度までに年間採用数全体の20%とすることが目標だ。

女性活躍の推進では、従前、若手や主任の女性社員を対象に、キャリア形成を目的としてステップアップ研修を実施していたが、「女性を部下に持つ男性」の意識変革も必要となることから、研修の対象を男性にも拡大した。

このように研修を見直すなどして活躍している女性が、昨年度のキャリア採用で入社した、ダイバーシティ推進グループスタッフ副長の服部沙由理さんだ。服部さんの所属するチームは他社出向経験が長かった人事未経験者、4月入社の新入社員で構成されており、メンバー構成そのものがダイバーシティに富んでいる。それぞれの経験や強みを生かし、研修や社内PR活動などの取り組みを行う。

昨年度のキャリア採用で入社し活躍する服部沙由理さん


労組で女性役員が活躍 男性育休取得率100%

中部電力労働組合でも、専従者として3人の女性役員が組合員への世話役活動に従事しつつ、多方面で活躍している。本店総支部書記長の鮎川弓子さんは、連合愛知の執行役員も務め、「女性のための労働相談ホットライン」では女性が抱える悩み相談に対応した。三重総支部書記長の辻真理菜さんは、電力総連と連合三重の執行委員も兼務し、今年の春闘決起集会においては約1000人の前で演説した。本部組織教育局部長の室門麻里さんは、女性12人で構成される電力総連の女性委員会に参加し、エネルギー関連施設の視察や国民民主党との対話活動などをテーマにした勉強会を実施している。最近は女性委員会の活動内容を知ってもらうため、インスタグラムを活用している。

女性が抱える悩みの相談を受ける鮎川弓子さん

育休取得に関する男性の意識も大きく変化している。ここ2、3年で中部電力と事業会社全体での男性の育休取得率は飛躍的に上昇。経営目標として25年度に男性の育児休職取得率30%以上を掲げていたが、昨年度の取得率は100%(育児休職と育児目的休暇を含む)を達成した。労使で協調し、22年度から両立育児休職とリレー育児休職を導入したことが目標を大きく上回った要因の一つ。前者は休職期間中にも就業が可能、後者は夫婦で交互に育休を取得できる制度で、育休がより取りやすくなったと好評だ。

今後も労使が密に連携し、働きやすい環境の実現を目指す。

【イニシャルニュース 】河野氏と運命共同体? 注目される内閣府X氏


河野氏と運命共同体? 注目される内閣府X氏

内閣府の「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」(再エネTF)の会議に提出された資料に、中国の国営電力会社「国家電網公司」のロゴマークの透かしが入っていたことが3月末に発覚した問題で、所管大臣の河野太郎・規制改革相だけではなく、経済産業省出身で再エネTFの事務局を務めるX氏の動向にも注目が集まっている。

X氏は2020年の人事で、内閣府に出向した。エネルギー規制改革に意欲を見せる河野氏の要請などから、X氏も就任を希望したという。経産省関連の公的団体の理事に就任したばかりだったが、内閣府での仕事を選んだようだ。

X氏は核燃料サイクル政策に否定的で、霞が関の男性キャリアで初の育児休暇を取得。その経験を書籍化した異色の経歴を持つ。目立ってしまったためか「希望通りの仕事は、なかなかできなかったようだ」(官僚OB)。河野氏と組むことで、官僚としての大仕事を成し遂げたいと思ったのかもしれない。経産省側にも「河野氏のブレーキ役」としての期待もあった。

ところが再エネTFをはじめ河野氏の行動は、電力業界や経産省の政策に敵対的だった。経産省内部では、なぜX氏が河野氏の行動を止めないのかといった不満も高まっていたという。

日本維新の会、国民民主党は、河野氏への責任追及

を続ける構えだ。「当然、X氏の責任も追及される。経産省は、彼をかばわないだろう」(同)という。官僚に時々ありがちな政治家と運命を共にする道を、X氏は今後歩むのだろうか。


静岡県知事選で注目 再エネ開発と原発問題

川勝平太・静岡県知事の辞職に伴い、5月26日に投開票が行われる静岡県知事選。有力候補として注目されているのが、鈴木康友・前浜松市長だ。記者会見などでは、JR東海のリニア中央新幹線建設工事について「環境との両立を図りながらリニアを推進していく」と述べ、川勝県政との違いをアピールしている。

静岡県知事選はエネルギーも争点に

ただ一方で、エネルギー政策の観点で見ると、太陽光など再生可能エネルギーの開発を積極的に推進してきた鈴木氏の姿勢を不安視する向きは少なくない。

静岡では、多数の死傷者を出した熱海市伊豆山の土石流災害の教訓を踏まえ、山間部などでの再エネ開発に反対する住民運動が盛り上がっている。しかし川勝氏は、再エネ推進の立場から、乱開発を規制する太陽光条例の制定などには後ろ向きの姿勢を見せてきた。

「次の知事こそ、太陽光条例を制定し乱開発ストップに注力してほしい。その点、鈴木氏はどうなのか」。こう話す地元住民団体幹部が懸念するのは、シンクタンクT社とのつながりだ。かねて太陽光発電ビジネスに取り組みながら不透明な疑惑も取りざたされているT社。そんな組織の設立に、民主党議員時代の鈴木氏が有力者Y氏と共に関わったとされているのだ。

4月17日現在、知事選では鈴木氏のほか、元総務省官僚で元静岡県副知事の大村慎一氏が立候補を表明している。

エネルギー分野では再エネ問題以外にも、中長期的には「中部電力浜岡原発の再稼働」という地域の世論を二分しそうな超重要課題が横たわる。浜岡問題について、大村氏は「県民の安全確保が議論のスタート」、鈴木氏は「原子力規制委の判断を待つ」というスタンスだ。来る知事選は、エネルギー業界でも大きな関心を集めそうだ。


気になるH知事の動向 選挙に備え後援会発足

「来年9月に辞めます。皆さん(与党県議)には迷惑をかけませんから」

原発再稼働問題に揺れるN県のH知事が県議にこう告げたのは「昨年」のこと。つまり発言中の「来年9月」とは「今年9月」を指す。H知事は当時、今年9月に知事の職を辞し、「再稼働ワンイシュー」の出直し知事選を考えていたようだ。その後、自民党の「裏金」問題などで周辺状況は悪化。政府から知事選に「待った」が入っていることは想像に難くない。

H知事を巡っては、与党の県議から「人格的に素晴らしい」「辞めてほしくない」との声が聞かれる。そこで「万が一」に備えて、N県では与党がH知事の後援会を発足させた地域も出てきた。

出直し知事選となった場合、野党系の候補として名前が挙がるのが前知事のY氏だ。本誌の取材に対して、仮に知事に復帰した場合には原発再稼働を巡り「住民投票」の実施を示唆。「エネルギー問題に住民投票は馴染まないのでは」と問うと、「原発、火力、自然エネルギー……。どれを選ぶかは、結局お金の話。そういう問題は住民投票でいい」との持論を展開した。

N県は地元紙も住民投票に前向きとも取れる論調が目立つ。だが外野の声を尻目に、ひょうひょうとしたH知事は再稼働「容認」のタイミングを見極めているように見える。

後絶たないメガソーラー惨事 政府は事業規律強化へ動く


太陽光発電設備で大惨事が相次いで起きている。異例のメガソーラー火災が鹿児島県伊佐市に続いて、4月中旬に仙台市でも発生。総務省は、発電設備に起因するトラブルの調査結果を踏まえて必要な措置を取るよう経済産業省に改善を勧告しており、発電事業者の事業規律が厳しく問われそうだ。

全焼した太陽光発電施設の蓄電装置(伊佐市) 

「白煙が見える」。伊佐市のメガソーラーで3月27日午後6時過ぎに、そんな119番通報があった。地元の伊佐湧水消防組合によると、敷地内にある倉庫で発火。通報から20時間以上でようやく鎮火した。倉庫内には、リチウムイオン電池を用いた蓄電装置があった。原因解明に向けて地元の消防組合と警察は、設置事業者や消防庁の関係機関などと連携し、4月前半に約50人態勢で実況見分を行った。

火災の衝撃が冷めやらぬ中、4月15日には仙台市青葉区にあるゴルフ場近くのメガソーラーで火災が発生。焼失の範囲は約3万7500㎡にも及んだ。

総務省行政評価局が発電設備の調査を行ったところ、回答が得られた861市町村のうち約4割に当たる355市町村で、設備に起因するトラブルが発生。「工事中の敷地から土砂や泥水が流出」「事業者による住民説明の不足」「設備からの反射」などの問題が確認された。

調査結果は、発電計画の事前周知を求める4月1日施行の「改正再エネ特措法」の議論に反映。斎藤健経産相は「現地調査を行う体制も強化しながら違反案件には厳格に対応し、地域と共生した再エネの導入を進めたい」としており、トラブル予防の実効性が問われる。

ガソリン補助金の出口見えず 相次ぐ延長で副作用増幅


政府は、4月末までを支給期限としていたガソリンなどの燃料油価格を抑制する補助金について、一定期間延長することを決めた。原油価格高騰が国民生活や経済活動に与える影響を最小化する激変緩和措置として2022年1月に導入され、今回で7回目の延長。ただ、価格を一定水準に抑え込むことは市場を歪めるとの指摘もあり、出口戦略が焦点となりそうだ。

補助金によって価格上昇は抑えられているのだが……(さいたま市内SS)

補助金は石油元売り会社に支給し、卸値に反映させて店頭価格を抑えるという仕組み。補助金制度の効果で、レギュラーガソリンの1ℓ当たりの全国平均価格は現在、175円前後で推移している。足元で、20円以上の価格抑制効果が得られているという。

物価高対策として一定の効果が得られた一方で、補助金で執行した予算は4・6兆円に達し、財政的な負担が増大。「脱炭素化を遅らせる」「市場メカニズムを歪めてしまう」といった副作用が問題視されている。

ニッセイ基礎研究所の上野剛志・上席エコノミストは「補助金制度が長期化すると副作用も増幅してしまう。政府は出口戦略を明確にした上で、条件を達成した際には段階的に終了する対応が望ましい」との見方を示している。

石油販売の関係者からは「流通の現場で混乱が生じないようソフトランディング(軟着陸)できる出口戦略を策定し、国民に周知してほしい」といった声が聞こえてくる。原油高や円安が落ち着くという保証はない。政府が有権者の批判を恐れて補助金を延々と引き延ばすと、歯止めが利かなくなる。

「分断」乗り越え「協働」を 環境軸とした外交で課題解決へ


【巻頭インタビュー】伊藤 信太郎/環境相原子力防災担当相

世界で分断が進む中、今年は先進国でも選挙結果によっては政策変更の可能性がある。

難しい状況下で国内外の重要課題にどう対峙するのか、伊藤環境相に考えを聞いた。

いとう・しんたろう 衆議院議員。当選7回。慶應義塾大学大学院法学研究科修士課程修了。ハーバード大学大学院修士課程修了。2001年衆院宮城4区補欠選挙初当選。外務副大臣、衆院環境委員会筆頭理事などを経て23年から現職。

―昨年の地球温暖化防止国際会議・COP28では、世界全体の対策の進捗を評価するグローバルストックテイクが初めて実施されました。

伊藤 現地に赴き、1・5℃目標(産業革命前からの気温上昇を1・5℃未満に抑えること)に向けて世界全体の排出量を2025年までに減少に転じさせ、全温室効果ガスを対象に総量削減目標を設定することなどを訴えました。主張はおおむね成果文書に反映され、全会一致での合意に貢献できたと思います。特にエネルギーでは化石燃料からの移行、30年までに世界全体の再生可能エネルギー発電容量を3倍に、エネルギー効率の改善率を2倍にすることなどを掲げました。国民の皆さまの協力の下、1・5℃目標実現に向け対策を加速していきます。

―一方、G7(主要7カ国) とグローバルサウスなどの分断がクローズアップされています。

伊藤 先進国・途上国を超えた「協働」がかつてなく重要になっています。環境を軸とした外交による国際協調の発展は、環境・気候変動に関する取り組みの加速化のみならず、世界の安定と人類の福祉の貢献につながり得ます。G7はもとより、グローバルサウスに対しわが国から環境分野での貢献を通じ協力関係を強化しながら、アジア諸国との橋渡しなどでも積極的な役割を果たしたいと考えます。

また、先進国側では今年、米大統領選挙や欧州議会選などがあります。動向を注視しつつも、地球規模の課題、とりわけ脱炭素やネイチャーポジティブ、循環経済などを同時実現するシステムの構築に向け、シナジー効果の高い好事例の提示などで国際議論を主導していきます。さらにCOP28を踏まえ、JCM(二国間クレジット制度)で30 年度までに累積1億t程度の国際的な排出削減・吸収量の確保を目指します。また「パリ協定6条実施パートナーシップセンター」を通じて各国の市場メカニズムに関する体制整備などを支援し、「質の高い炭素市場」の構築に貢献する方針です。

COP28成果文書には日本の主張も反映された


地域共存型再エネを拡大 需要サイドへの施策強化

―現行のNDC(国別目標)に対し全体ではオントラックでCO2削減が進む一方、エネルギー供給側のビジョンは現実と乖離しています。

伊藤 30年度温室効果ガス46%削減(13年度比)などの目標に対し、22年度は約23%削減するなど着実に実績を重ねています。30年度の再エネ比率36~38%の実現に向けて、環境省としては「地域」「くらし」といった需要サイドを中心に、地域との共生を図る形で再エネの最大限の導入を進めます。

次期NDCの策定に際しては、政府全体であらゆる政策・施策を検討していきますが、環境省としては地域共生型再エネ、フロン、資源循環、JCMなどに引き続き力を入れたい。

―政府全体の政策で大きいのが「成長志向型カーボンプライシング」などを掲げたGX(グリーントランスフォーメーション)です。他方、環境省が主導する地域共存型再エネの拡大に向けた進捗はどうでしょうか。

伊藤 まず「脱炭素先行地域」では、民生電力部門を中心に50年を待たずに30年度までの脱炭素を実現しつつ、地域課題との同時解決を図るモデル化を目指します。先行地域を起点とした「脱炭素ドミノ」が狙いで、目標100カ所に対し、これまでに36道府県94市町村の73提案が選定されました。

モデルの横展開に向けて、まずは脱炭素が地域のメリットとなることが肝要です。例えば北海道上士幌町では、家畜ふん尿処理過程で発生するメタンガスで発電を行い、同時に町内主要産業である廃棄物処理コストの削減につなげています。また、地域の金融機関やエネルギー会社、中核企業、大学などを巻き込み、脱炭素の具体的な基盤づくりも必要です。鳥取県内では、不足するPPA(電力購入契約) 事業者設立に地元地銀が全額出資するといった好例があります。

そして「地域脱炭素推進交付金」などで意欲的な地方公共団体を継続的、包括的に支援していきます。また「地域脱炭素化促進事業制度」拡充などを盛り込んだ地球温暖化対策推進法改正案を、今国会に提出したところです。

―能登半島地震を機に、一部で原子力災害を巡る避難の実行性への懸念が出ています。見直すべき点などをどう考えますか。

伊藤 被害に遭われた皆さまに心よりお見舞い申し上げます。内閣府では、原子力発電所の立地地域ごとに設置した「地域原子力防災協議会」の枠組みの下、既に大規模な自然災害と原子力災害の複合災害を想定し、道路が寸断した場合の避難経路も含め、地域の避難計画を含む「緊急時対応」の取りまとめや付随する検討を進めています。例えば、代替経路を含む複数の避難経路の設定や、陸路に加えて海路や空路での避難、不測の事態には国や自治体からの要請で実動組織が住民避難を支援することなどを盛り込んでいます。原子力防災担当大臣として、今回の地震の教訓を踏まえ、引き続き自治体の声に耳を傾けて、原子力災害対応のさらなる実効性向上に取り組んでいきます。

自民再エネ議連に原発推進派 国益重視の政策論議を喚起


洋上風力発電事業を巡る汚職事件で起訴された秋本真利衆院議員が運営を仕切っていた自民党の「再生可能エネルギー普及拡大議員連盟」が再始動し、後任の事務局長として三宅伸吾参院議員が就いた。三宅氏は「自民随一の脱原発再エネ推進派」として知られる前任とは対照的に原発推進派で、国益を守る防衛政務官でもある。自国の経済安全保障や産業競争力を意識した現実的な再エネ戦略を促す色合いが濃くなりそうだ。

再エネ議連の事務局長に就任した三宅伸吾参院議員

再エネ議連は、発足時から事務局長を務めていた秋本氏が昨年8月に東京地検特捜部の強制捜査を受けて以来休眠していたが、約8カ月ぶりに再始動。3月の総会で後任の事務局長を三宅氏とする人事が承認された。その人選の背景には、原発と再エネの双方を追求する岸田政権の現実路線に軌道修正したいという思惑がありそうだ。

三宅氏は「原発を速やかに廃止の方向に持っていくことには賛成していない。安全性を確保しながら再稼働できるものは動かせという立場だ」と説明。その上で「エネルギー安全保障や脱炭素、経済効率性の観点からエネルギーミックスを追求する」考えを強調し、その選択肢に組み込む「主力電源」として原発と再エネを重視した。

防衛政務官としての視点も反映されそうだ。三宅氏は、供給網を他国に依存せず安定確保できる「ペロブスカイト太陽電池」に注目。自衛隊施設へのペロブスカイト導入に向けた検討を積極的に進めるという防衛省の方針を歓迎した。事務局長の交代劇で、国益重視の再エネ普及策に弾みが付く可能性がある。

巨大顕微鏡「ナノテラス」が稼働開始 先端科学技術で東北復興へ


【量子科学技術研究開発機構/光科学イノベーションセンター】

次世代放射光施設「ナノテラス」が4月、稼働を始めた。量子科学技術研究開発機構(量研)と、光科学イノベーションセンター(PhoSIC)が運用し、東北大学青葉山新キャンパス(仙台市)に設置されている。物質の機能や表面の反応などを10億分の1レベルで可視化できる「強力な光を使った巨大な顕微鏡」で、新材料やデバイス開発、生命機能、創薬の研究開発など、幅広い分野での活用が見込まれる。日本の研究開発加速化や国際競争力強化、そして東日本大震災からの復興への寄与が望まれる。

ナノテラス全景。4月に民間利用が始まった
提供:光科学イノベーションセンター

ナノテラスは、太陽光の10億倍以上の明るさの放射光を使い、高精細な分析能力と大量のデータを高速で測定する特徴を持つ。物質を原子レベルで解析する放射光施設は世界に50カ所、日本に9カ所あるが、ナノテラスは世界最高水準の性能を有する。例えば、これまで1日かけて分析していたものが数分で済む可能性があり、より効率的な研究につながる。

ナノテラスが特に能力を発揮するのが波長の長い軟X線領域で、物質表面の機能解析に優れる。大型放射光施設としては、兵庫県佐用町にある「SPring―8」も有名だが、こちらの強みは波長の短い硬X線領域。波長領域、さらに立地地域の面からも両者は補完関係にあり、相乗効果も期待される。


産官学で足掛け10年超 民間利用からスタート

施設整備に向け、当初は東北大学有志が活動してきたが、東日本大震災を機に民間の力を取り入れ、学術界だけでなく産業界にも資する施設とすべく、方針転換した。国に加えて地域や民間資金を活用する「官民地域パートナーシップ」に基づく日本初の大型研究施設となった。枠組みには、量研とPhoSIC、宮城県、仙台市、東北大学、そして東北経済連合会が参画している。

施設の利用には、①課題を申請し審査を経て利用可能となる「共用利用」、②加入金を拠出した民間メンバーが利用できる「コアリション利用」―がある。9日にはコアリション利用ユーザーの受け入れを始めた。コアリション用のビームラインを活用し、民間4社がそれぞれの目的に応じて実験を行った。共用利用については5月にビームラインの立ち上げを行い、ユーザーの受け入れ開始は来年3月を予定する。

ナノテラスの経済効果としては、稼働後10年で約1・9兆円との試算がある。産官学で十数年かけ遂に稼働したナノテラス。東北復興、そして日本の科学技術のさらなる発展を後押しする存在となりそうだ。

再エネ賦課金から考える 小売り電気事業者のあり方


【論点】制度変更と電気料金〈最終回〉/伊藤菜々・電力系ユーチューバー(電気予報士)

再エネ賦課金は、FITやFIP制度を適用した再エネや市場価格に左右される。

その価格決定の仕組みと2024年度の単価を解説する。

2012年度に始まり22年度まで再生可能エネルギーの増加に伴い上昇してきた「再エネ賦課金」。FIT(固定価格買い取り)やFIP(フィードインプレミアム)制度を適用している再エネへのプレミアム支払いの原資になっている。この再エネ賦課金の単価は、FITとFIPの費用から回避可能費用を差し引き、事務費用を足した金額を全ての小売電気事業者が販売した販売電力総量で割ることで算出される。

回避可能費用とは、電力会社がFIT電気を買い発電・調達をせずに済んだことで支出を免れた費用を意味し、現行では市場価格がそれに相当する。つまり、再エネ賦課金単価の決定には、再エネ買い取り総額と市場価格、そして販売電力量の三つが大きく関わっているということになる。


24年度は3・49円 前年度比2・09円値上がり

再エネ賦課金は年に一度、5月に改定される。今年度の単価は昨年度から2・09円上昇し3・49円となった。再エネ賦課金を算出する際の分子となる買い取り費用が増大した一方で、分母に当たる市場価格(回避可能費用)が下がり、販売電力量がさほど変わらなかったためだ。

2021~23年度の全国月間平均市場価格の推移

図のグラフは、21~23年度の市場価格の全国月間平均価格の推移である。21年度(つまり22年度の再エネ賦課金を決める際の回避可能費用)の水準からして、24年度の再エネ賦課金が22年度の水準に戻ってしまったことの説明が付く。

前述の通り、再エネ賦課金は毎年5月に改定されるが、今年は4月まで国の激変緩和措置で電気代が補助されており、低圧で3・5円/kW時、高圧で1・8円/kW時が値引きされている。5月にもその半額が値引きされるが、6月使用分からは国の補助はなくなる。

5月使用分から再エネ賦課金が値上がりするとなると、6月以降の電気代は、家庭では一気に5円前後/kW時値上がりすることになるわけだ。これは、電気代が10数%も上がる可能性があることを意味し、特に電力使用量の増える夏場には、大きな打撃となる。

では、小売電気事業者が再エネ賦課金の上昇に対して対策することや需要家に対してすべきことはあるのだろうか。

まず、気を付けなければならないのが前述したダブルパンチの値上げの理由や、それがいつから起こるかを事前に需要家に対して周知することである。電気代のお知らせは、現在ほぼ郵送でなく、インターネットのマイページなどで確認する形式になっている。受動的な姿勢でも電気代のお知らせを受けていた時代と違い、毎月の電気代を確認しない人も多いが、そのような中、需要家に重要なメッセージを発信するツールとして、SNSを生かすこともできる。


需要家と密な関係を構築 一方的ではない情報配信を

これは、今回の再エネ賦課金の上昇に伴う周知だけでなく、今後の小売電気事業者のあり方を考えるきっかけにもなる。カーボンニュートラル(CN)に向けて気候によって発電量が変動する再エネの導入を拡大していくには、需要家の行動変容や対策が必須である。そのためにも小売事業者こそが、需要家とのつながりをより密にしていく取り組みや啓蒙活動、デマンドレスポンス(DR)などに応じた場合は、価格で還元できる施策を行う必要がある。

では、再エネ賦課金上昇の具体的な対策は何だろう。再エネ賦課金は系統を通して販売される電力にかかる。そのため、自家消費を増やしてもらうことや省エネをしてもらうことが対策となる。自宅や工場、オフィスの屋根などに太陽光を付け、自家消費を促すことや、既に太陽光が導入されている場合は蓄電池やEVなどを活用して自家消費を増やすことが大事だ。

また、電気の使用量自体が減れば電気代削減にもなるので、使用量の多いエアコンや冷蔵庫などで古い家電を使っている場合は、最新のモデルで省エネ効果の高いものに変えることも大切である。一方、省エネに関しては、いつでもすればいいという時代ではない。再エネ、特に太陽光が増えることで昼間の供給量が余り、夕方の需要増と供給減で1日の中の需給バランスが崩れている。その解決のためには、昼間に出力制御されてしまう太陽光をできる限り使うようにタイムシフトしてもらうためのDRを促すほかない。

小売事業者によっては昼間の時間帯が割安なプランを出していたり、昼間に電気を使うことでポイントをキャッシュバックしたりといった取り組みがある。FITやFIP再エネが発電する限り再エネ賦課金は継続するので、それ自体に働きかけることはできない。

だが、電気を賢く使うことで電気代を下げるよう促すことはできる。需要家が気にしているのは、再エネ賦課金の値上がりよりも電気代全体の水準。だからこそ、需要家と密な関係を構築し、一方的ではない情報配信と、CNを促すための料金プランやキャンペーンの施策が大事である。

いとう・なな 1989年生まれ。上智大学経済学部卒。再エネファンドや新電力の立ち上げを経て独立。ユーチューブチャンネル「電気予報士なな子のおでんき予報」を運営し、電気について楽しく分かりやすく発信中。

呪われた燃料油激変緩和事業 7回目延長で補助金慣れの怖さ


【業界紙の目】津金宏嘉/燃料油脂新聞 編集局石油部長

多方面で注目を集めてきた、政府の燃料油価格激変緩和対策事業が7度目の延長期間に入った。

多額の予算注入の是非が話題に上ってきたが、石油販売業者の〝補助金慣れ〟も懸念材料だ。

燃料油価格激変緩和対策事業の延長が正式に決まった3月下旬、石油業界では元売り、販売業者双方で「やはり」との反応が上がった。2月、夏ごろまでの延長を検討と報じられた際には、大半の関係者が疑心暗鬼だったが、その後の1カ月間で業界世論は「おそらく延長」に傾いていった。背景として大きかったのは、原油価格や為替レートの動向より、政権支持率の超低空飛行だ。事実、2月の延長検討報道以降、石油販売業者からは「これじゃあ(補助事業は)終われないだろう」との意見が随所で上がり、終期が近付くと何らかの障害が持ち上がる前例から「この事業は呪われている」との冗談とも揶揄ともつかない声も聞かれた。

激変緩和事業の延長は、ガソリン、灯・軽油をはじめとする石油製品がいかに国民生活や企業活動を支える重要物資かを示す証左ではある。たださすがに7度も延長を繰り返すと、どうすればこの事業は終わるのか、との疑問が大きくなる。


当初の趣旨はどこへ 延長と変更繰り返す

同事業はコロナ禍からの経済回復期において、原油価格高騰による経済活動の停滞を防ぎ、国民生活への影響を緩和する目的で、2021年12月16日(実際の初回補助金支給は翌年1月27日)~3月31日までの期間限定で1ℓ当たり5円を補助上限にスタートした。ただ22年2月24日にロシアのウクライナ軍事侵攻が始まり原油価格が1バレル100ドルを超す事態に陥り、3月10日には上限を25円に拡充してレギュラーガソリン全国平均を172円程度に抑える仕組みに変更された。

さらに岸田文雄首相が25日、4月末までの延長を表明(1回目)。4月26日には、9月末までの延長(2回目)と上限の35円への拡大、上限を超えた場合の半額補助などを決め、レギュラーを168円程度に抑制する仕組みに刷新した。背景には西側諸国の対ロシア制裁に伴う原油高騰があり、6月16~22日分の補助支給額は41円40銭と、同事業最大を記録した。

8月にはいったん油価が落ち着き、11日支給分の補助額は31円40銭とピークから10円も縮小したが、事業期限間近の9月に入ると再び上限を超す水準に。政府は物価高騰の追加対策として、12月末までの再々延長を打ち出した(3回目)。さらに12月21日には23年9月末までの延長(4回目)と引き換えに、出口戦略としてまずは上限額を毎月2円ずつ引き下げて5月までに25円にすると発表。この頃の原油価格は順調に低下し、3月30日支給分の補助額は8円10銭まで縮小した。

6月以降は、9月末の終了に向けた出口戦略第2弾を発動したが、油価再騰と重なって補助金不足に陥り、レギュラーガソリン全国平均価格は8月28日調査で185円60銭と過去最高値を更新(9月4日調査で186円50銭に続伸)。岸田首相は同月30日、9月7日からの燃料油価格対策を発表し、10月中にレギュラー175円程度にする仕組みへの再編が決まった(期限12月末、5回目の延長)。さらに灯油需要期の真っただ中に「補助金終了を打ち出せるのか」との疑問が渦巻く中、24年4月末までの延長(6回目)が打ち出され、今に至る。

レギュラー175円程度が目標価格に

終わりが近付くと戦争や原油価格上昇、ガソリン小売価格上昇への世論の反発などが起こり、その都度、政府は延長を決断してきた。ただ7回目に至っては延長決断というより、低支持率下で何も決断しなかったから伸びたとの印象が拭えない。石油と同様に激変緩和補助金が支給されていた電気・ガスは、LNGや石炭の輸入価格が低下し、料金単価が補助開始前の水準に下がっているとの理由で5月末での終了が決定した。一方、石油の補助額は12月下旬の1ℓ当たり13円から4月11日には28円70銭に拡大。電気・ガスと異なり、石油は補助不要といえる状況ではない、というのが延長を決めた政府の理屈だ。


販売業者から歓迎の声 EV化に対峙できるか

6回目の延長となった23年秋以降の制度は、岸田首相が自ら「国民の皆さんにガソリン価格が下がったと実感いただく」と宣言して構築した仕組みだけに、止める決断も首相しかできないのだろう。7回目の延長では事業開始以来、初めて期限が設定されなかった。都内のENEOS系販売業者は「期限で終わらせるのではなく、終了にふさわしい環境が整わなければ終わらないとの性格が明確になった」と指摘する。

むしろ気懸かりなのは、延長決定に対して多くの石油販売業者から歓迎の声が上がっていることだ。同事業は文字通り、燃料油価格の〝激変〟を補助金で抑制してきたが、価格安定は良くも悪しくも石油販売業者のビジネスを平易にした。国際情勢を注視しながら原油コストの先行きを見極める勘や、仕切価格変動時に自店の小売価格を最適水準に設定する上での諸条件の見極めは、石油販売業者が経験則の中で養ってきたビジネス上の重要なスキルといえる。長年磨いた勘が鈍り、補助金で市場のブレが縮小している特異な状態をありがたいと考えるようでは、事業終了後に再開する厳しい競争には立ち向かえない。

さらに事業終了のタイミングがいつになるのかにも大いに注目しなければならない。かねてからEVの本格普及は、大手メーカーから一定のラインアップが出そろう25年以降と予想されてきた。いずれ激変緩和事業が終了してガソリン価格が200円近くに跳ね上がれば、EVへの買い替えが消費者の頭に浮かぶだろう。現時点では、消費者がEVを購入しようにも選択肢はないに等しいが、一定のラインアップがそろった後なら、ガソリン補助金の終了は恰好のEV販売促進策になる。

緩やかなEVへの移行を願う石油業界にすれば、激変緩和の終了とEVのラインアップのタイミングが近付くことはできれば避けたい。中途半端な事業延長を喜んでいる場合ではない。

〈燃料油脂新聞〉○1945年創刊○発行部数:5万部○読者層:元売り、石油販売業者、自動車用品業者、官公庁、石油需要家など

年度内エネ基改定に首相言及 理想と現実の乖離が焦点に


自民党政治資金問題で国会が大荒れとなる中、2024年度予算が3月28日に成立した。これを受けて会見した岸田文雄首相は、「24年度中をめどとするエネルギー基本計画改訂に向け、議論を集中的に行う」と言及。3年ぶりのエネ基改定が正式にアナウンスされた。温暖化ガス削減の国別目標(NDC)ありきで非現実的な絵姿を掲げた第6次計画。今回の改定で、現実とのギャップをいかに埋められるかが注目される。

今後もデータセンターなど大規模な電力需要増が見込まれる
提供:朝日新聞社

NDCについては、25年までに30年以降の目標を示すことが求められている。他方、一部報道で、今度の第7次では40年度の電源構成を策定する方針との情報も流れるが、その辺りの見通しはまだ不透明だ。

第6次ではNDCに引きずられ、30年度の電源構成で非化石電源6割、うち再生可能エネルギーは36~38%とした。帳尻合わせで、徹底した省エネにより電力需要想定を低く設定。脱炭素で電化の進展が必須という現実を無視したと指摘されている。

しかし、データセンターや半導体工場など電力消費の拡大が目に見える形で進む中、再び需要想定でお茶を濁すことは難しい。足元で非化石電源が6割に遠く及ばない中、現実路線にどの程度揺り戻せるのか。

エネ基はビジョンと割り切るにせよ、急激な脱炭素がエネルギー高騰という形で生活を直撃するリスクを、数年前に国民は経験済みだ。岸田首相は同日の会見で「日本の稼ぐ力を復活させる上で今後重要なのは、低廉で強靱なエネルギー」と強調。それを必須条件に今後議論が進むのか、注視する必要がある。

柏崎刈羽再稼働に立ちはだかる難関 新潟県知事の同意は「最短9月」か


柏崎刈羽原発の再稼働を巡り、地元・新潟県の動向に大きな注目が集まっている。

地元の焦り、県議会と花角英世知事の慎重姿勢―。早期再稼働の可能性を探る。

「今年は島根2号機、女川2号機、柏崎刈羽7号機が再稼働する見込み」

昨年来、電力業界ではこんなフレーズが飛び交っている。本誌でも再稼働問題を取り上げる際、枕詞のようにそう書いてきた。だが、柏崎刈羽が島根、女川に続けるかは不透明だ。

柏崎刈羽原発については昨年末、原子力規制委員会が東京電力に対して事実上の運転禁止命令を解除。地元の柏崎市と刈羽村は今年3月、早期再稼働を求める請願を採択した。4月15日には7号機の原子炉への燃料装填を開始し、夏前には再稼働に向けた準備が完了する見込だ。

残るハードルは新潟県の同意だが、最大の難関として立ちはだかる。今後は新潟県技術委員会による報告書の提出などを経て議論が加速するとみられるが、「県民の信を問う」とする花角英世知事の再稼働「容認」の判断は一体いつになるのか。

地元からは焦りの声が(柏崎市役所)


県の要望と国の回答 島根、女川の直後に

鍵を握るのは、避難計画の実効性確保を巡る国の関与だ。新潟県と柏崎市、刈羽村は昨年7月、国道8号柏崎バイパスの早期全線供用や北陸自動車道への進入路を増やすためのスマートインターの導入などを政府に要望した。その後、運転禁止命令の解除が現実味を帯びた12月、新潟県と柏崎刈羽原発から5~30㎞圏内(UPZ)の市町村が避難道路の整備などを政府に要望した。

一見、同じように見える要望だが、実態は異なる。県と立地自治体の要望は、約3年をかけて両者が綿密なすり合わせを行い作成した。国からの回答について柏崎市の櫻井雅浩市長は「満額に近い形で得られると確信している」と語る。

一方、県とUPZ圏内の自治体による要望は、別添資料に「新潟県との未調整部分を含む」と記されるなどスケジュール優先で作られた感は否めず、原子力防災とは無関係と思われる要望も含まれている。例えば、新潟県では新幹線が通らない新潟・上越間の高速鉄道計画が存在するが、震災直後の鉄道移動は考えにくい。今回、高速鉄道のような原子力防災との関係性が薄い事業整備を要望するのは筋違いだ。花角知事は4月3日の記者会見で「もう少し精緻なというか、具体的な要望にしていかなければいけない」と述べ、要望書をできるだけ早く再提出する方針を示した。花角知事の「精緻」という言葉は、要望内容の修正を念頭に置いたものとみられる。

花角知事の再稼働容認の最短タイミングとして挙げられるのが、「要望に対して国から十分な回答を得られた時」だ。「国と交渉を行い、避難道路整備の見通しが立った」として県内市町村の首長らに伺いを立て、9月定例会に地元経済界が請願を提出。自民党などの賛成多数での可決をもって、県民の信を得たと判断する―。これが最もスムーズな決着か。8月の島根2号機、9月の女川2号機の再稼働とタイミングも重なる。

しかし、最短ルートでの決着を阻みかねないのが、県議会で単独過半数を握る自民党である。

「(柏崎刈羽原発が)動く気配は全くない。花角知事の任期満了の2026年6月まで判断が先送りされる可能性すらある」

こう打ち明けるのは若手県議だ。党内には再稼働の条件として「避難道路の完成」を求めるベテラン議員すら存在する。こうした姿勢は「条件闘争」の側面があると分析する県政関係者もいるが、国からの回答を得て慎重派が首を縦に振るかは微妙なところだ。

「電力データ×デジタル」で社会貢献 先進的なDX事例の創出活動に意欲


【中部電力】

中部電力グループは、データにデジタルを掛け合わせるDXの舞台を拡大。

発電計画などの電力用途に加え、ヘルスケア分野の開拓にも力を入れる。

 「デジタル技術を社内業務の高度化や付加価値の高いサービスの開発につなげる」。中部電力グループはそんな思いで、電力事業を通じて蓄積したデータにデジタル技術を組み合わせ、DXを促す先進事例を社内外で着々と積み上げている。

DXの成果の一つが、AIを活用して水力発電所の最適な発電計画づくりを支援するシステムの開発で、2024年度中に岐阜県の飛騨川水系で本格運用する計画だ。

飛騨川水系は、総出力約115万kWを誇る日本有数の水力発電地帯で、14カ所のダムと22カ所の発電所がある。これまでの水力発電計画は、熟練スタッフが培った経験やノウハウを生かして半日程度をかけて策定しており、効率化が望まれていた。さらに水力発電事業を拡大させるという観点から、熟練スタッフが培った技術の継承が課題となっていた。

AIを水力発電計画の策定に生かしている


AIで水力発電計画 高精度に流入量予測

これらの課題を解決するのが、AIを生かす今回の新システムだ。①ダムに水が流入する量を予測する「流入量予測AI」、②翌日の天候やダムの水位といった予測情報を基に過去の発電計画から類似のものを検索する「過去検索AI」、③発電量の増加や売電金額の最大化などの目的に応じて発電計画を作る「最適化AI」―といった三つの機能で構成されている。複数の発電所やダムを、飛騨川水系と馬瀬川水系という複数の水系で同時に最適化できるようにしたことが特徴だ。

導入効果を検証したところ、水力発電計画の策定に要する時間を従来の4分の1以下に削減できることを確認。加えて、年間発電量を約2%(約3000

万kW時)増やせる効果も見込まれるという。これは、標準的な家庭約1万世帯分の年間電力使用量に相当する。

新システムは、他水系へも導入。CO2を排出しない水力発電の増電と増収に継続的に取り組み、脱炭素社会の実現を後押ししたい考えだ。


ヘルスケア分野を開拓 フレイルの検知を支援

一方でサービスの展開先も広がっている。一つがヘルスケア分野で、1人で暮らす高齢者宅の電力使用量のデータを基に加齢に伴って心身の機能が衰えるフレイル(虚弱)を検知し、自治体職員に知らせる新サービス「eフレイルナビ」だ。

高齢者宅に取り付けたスマートメーターから得られた電力使用量データをAIで分析。その分析結果に基づき、高齢者の健康状態を個別に可視化する。AIに「健康な高齢者」と「フレイル状態の高齢者」の電気の使い方を大量に学習させ、高い精度でフレイルを判断できるようにした。

背景には、介護認定を受ける高齢者の増加傾向がある。自治体は、フレイルを早期に発見・対処する対応が求められているが、手が回らないのが実情だ。

自治体は、eフレイルナビを利用することで、職員が高齢者宅を巡回して一人ひとりの健康状態を確かめる手間を省くことができるほか、フレイルのうちに適切に対処することによって健康な状態への回復を促して、高齢者の「健康寿命の延伸」に貢献する。将来的には、健康な高齢者同士のつながりを支援するサービスの展開も視野に入れている。

また、「健康をデジタルで守る時代」を見据え、医療機関向けサービスの開発も加速。クラウド上で患者と医療機関のデータを連携させる「MeDaCa」や、家庭で計測した血圧や血糖値のデータを医師との間で共有する「血糖クラウド管理システム」の可能性を追求している。DXを通じて暮らしを快適にする挑戦からも目が離せない。

脱炭素分野の投資加速へ 日米で協力関係を強化


日米両国における脱炭素投資加速への大きな転換点となるのか――。

4月10日、米国を公式訪問した岸田文雄首相とジョー・バイデン米大統領による日米首脳会談がワシントンDCで行われた。両首脳は、脱炭素や宇宙、原子力など幅広い分野で協力関係を強化していくことで合意。会談後には、両国の関係を「未来のためのグローバル・パートナー」と位置付ける共同声明が発表された。

ポデスタ米大統領上級顧問と握手する斎藤経産相(右)
提供:経済産業省

エネルギー分野では、脱炭素社会の実現に向けたクリーンエネルギーへの移行という、共通目標を達成するために連携を強化することが明記された。今後、水素サプライチェーンの構築や革新炉、洋上風力などで産官学協力を強化するほか、重要物資、半導体、蓄電池の支援を日米共同で進めていく。

米政府は企業による再生可能エネルギー関連の設備投資支援や、EV購入者への税額控除などに3690億ドルを投じる「インフレ抑制法(IRA)」を、日本政府は今後10年で官民合わせ150兆円超の投資を目指し、うち約20兆円の財源を国債発行で調達し再エネ技術開発に取り組む企業支援などに充てる「グリーントランスフォーメーション(GX)推進戦略」を掲げ、それぞれクリーンエネルギー政策を進めている。

共同声明では、両国の政策のシナジーを最大化することを狙った「新たなハイレベル対話」を立ち上げることとし、これを踏まえ、斎藤健経済産業相とジョン・ポデスタ米大統領上級顧問(国際気候政策担当)による初めての閣僚級会合が同地で開かれた。

11日の日米比首脳会談においても、重要鉱物のサプライチェーン強靱化や、エネルギーの脱炭素化といった分野を中心に、3カ国が経済協力していくことで一致。16日の記者会見で斎藤経産相は、「国際情勢を巡るさまざまな懸案がある中、これらの会合を通じ、日米間での重要分野での連携を促進するとともに、それを同志国にも拡大することができたと考えている。今回の成果を基に、国際的な連携をさらに強化をしていきたい」と、さらなる枠組みの拡大に意欲を見せた。


企業の投資意欲高まるか 「もしトラ」懸念も

これをきっかけに、両国で脱炭素への投資が一層加速することが期待されるが、懸念されるのが11月5日に実施される米大統領選だ。あるエネルギー会社の幹部は、「政権が代わっても、継続・安定的に事業を展開できるよう、極端な政策変更がないことが望ましいのだが」と不安を漏らす。

トランプ前大統領が返り咲き、現政権の環境・エネルギー政策を大幅に見直す可能性は大いにあり得る。日本企業にとっても、両国の脱炭素投資支援の加速は追い風だが、目算が大きく狂いかねない、一抹の不安がつきまとっている。