【エネルギービジネスのリーダー達】岩田貴文/ESREE Energy代表取締役
ヒートポンプ技術を活用した蓄熱蓄電システム「PTES」の技術開発を手掛ける。
今年度、環境省のスタートアップ支援を受けたことで、実用化への動きが注目されている。
いわた・たかふみ 東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻修士課程修了後、2013年に経済産業省に入省。再生可能エネルギー政策、産業技術政策などを担当した。19年に退職し、起業から売却までを経験した後、23年5月にESREE Energyを設立。
「安価な長期貯蔵向け蓄電システム(LDES)を国内サプライヤーとともに製造して、経済安全保障の強化につなげたい」
こう語るのは、スタートアップ企業であるESREE Energy(エスリーエナジー)の岩田貴文代表取締役だ。昨年5月に創業し、ヒートポンプ(HP)技術を活用した蓄熱蓄電システムPTES(ポンプド・サーマル・エレクトリシティ・ストレージ)の技術開発を手掛ける。
容量1000MW時を構想 三つの課題に着手
同社が開発中のPTESは、HPサイクルとランキンサイクルという熱サイクルを組み合わせていることが特徴だ。再生可能エネルギー由来の余剰電力を活用してCO2のHPサイクルを回し、熱と冷熱を発生させ熱エネルギーとして一時的に保存。電力必要時には、加圧した液体のCO2をその熱で加熱して高圧の気体に変換し、タービンを回すことで発電する。タービン通過後のCO2は冷熱で冷まされ再び液体に戻る。貯蔵した熱と冷熱が蓄熱材に存在する限り、このサイクルを回して電力として取り出せる。
HPを活用することで、少ない電力から多くの熱を生み出せるため、充放電効率は高い。安価な蓄熱材を組み合わせ、低コストかつ高効率なPTESの開発を目指している。
再エネ導入量が拡大する中、効率的に大規模蓄電を可能とする脱炭素社会実現の鍵として、2030年度までの実用化を目標に掲げる。将来的には、1000MW時の蓄電容量を構想する。まずは小型実証でのPTESの原理検証、商用機のプラント設計、要素技術開発の三つに取り組み、足もとの課題をクリアした後に、パイロットプラント実証へと事業を進めていく方針だ。
昨年度始めた原理検証では、エアコンを用いた実験を行っている。原理がHPと同じエアコンは原理検証にはうってつけだという。具体的には、エアコンを冷房運転し、本体と室外機から排出される冷気と廃熱を蓄熱材に貯蔵。この熱エネルギーを用いて発電するというものだ。他方、安価な蓄熱材の開発については、大学と共同で研究を進めている。
官僚時代にエネ貯蔵関心 技術開発で問題解決へ
起業に至る問題意識が芽生えたのは、経済産業省に勤務していた時のことだ。13年に入省。資源エネルギー庁省エネルギー・新エネルギー部で、再エネの将来導入量の検討や発電コスト検証などを担当した。その頃、九州電力管内で出力抑制が実施される見込みとなったことから、再エネ併設型の蓄電池の導入補助に関する政策の策定にも携わった。その当時の経験から「再エネが増える中、エネルギー貯蔵は重要だ」と考えるようになった。
再エネ政策のほかには、産業技術政策にも携わった。この時、人口減少が進む日本では、技術革新が求められることになるだろうと強く感じるようになった。
再エネ、そして産業技術政策を経験したことで「エネルギー問題をイノベーションで解決することをライフワークにしたい」と思い立った。19年に退職し、障がい者雇用のデジタル化推進事業で起業。22年に同事業を関西電力に売却し、エスリーエナジーを起業した。
一般的にリチウムイオン電池が不向きとされる長時間の蓄電の技術には、揚水発電や圧縮空気貯蔵といった安価な手法があるが、これらには立地制約が伴う。蓄熱蓄電システムに着目したのは、立地制約が少なく、安価な蓄電手法となり得るからだ。ただ、一般に、蓄熱蓄電は安価である反面、充放電効率が低い。そこでHPの原理を活用するPTESに目を付けた。
「長期間、かつ大容量に貯蔵できるLDESは、変動性再エネの普及で増加する余剰電力を吸収するのに最適。競争市場で生き残るには低価格な製品でなければならない」と、安価な蓄熱材を組み合わせることで、トータルの設備コストを抑えられるPTESの可能性を強調する岩田氏。さらには、短期貯蔵向け蓄電システムの代表格であるリチウムイオン電池の生産で中国に依存してしまっていることを踏まえ、「国内サプライチェーンで製造できる体制を整える必要がある。経済・エネルギー安全保障の観点からも貢献したい」という。
実用化に向けて注力しているのはパートナー企業探し。1000MW時級では、サッカーコート三面ほどの蓄熱材の面積を必要とするため、大型プラントの建設に向けた技術や設備、知見の積み上げが急務だ。
「課題は山積み……」と苦笑いを浮かべつつ、どこか楽しげな表情で取材に応じた岩田氏は、電力部門の脱炭素化の課題を技術革新で解決へと導くことに強い意欲を見せた。