【電力事業の現場力】関西電力労働組合
規制と司法の「壁」を乗り越え、原子力発電所7基が稼動する関西電力。
新規制基準対応後の稼動には、3.11前とは違う課題も存在する。
社会のために安定供給の重責を果たすだけでなく、収益改善という具体的な「数字」で会社に貢献できることがうれしい―。
原子力の現場で働く作業員の思いだ。再稼働前は新規制基準に対応するため、防潮堤建設などの安全対策に多額の資金を投入した。当時と比べれば、組織に貢献できる喜びはひとしおなのだろう。
関西電力は美浜3号機(定期検査中)、大飯3、4号機、高浜1、2、3、4号機が稼動中だが、7基稼動体制までの道のりは決して平坦ではなかった。
「出口が見えない真っ暗なトンネルをひたすら進んでいるような感覚だった」。関西電力労働組合の藤原正宏本部副執行委員長は、審査対応時の思いをこう表現する。
原子力部門はもちろん、ボーリングが必要なら「くろよん」の伝統を継ぐ土木作業員、再稼動が近づけば火力発電所の運転員など、あらゆる部署から人材をかき集めた。原子力発電所の運転を志し関西電力に入社したのにもかかわらず、1日中、審査資料のコピーを取り続ける社員もいた。想像した仕事内容との違いに戸惑いを感じたことも少なくない。それでも、「オール関西電力」で対応に当たり、再稼動にこぎ着けた。

研修設備でシミュレーター訓練を行う
ところが、長いトンネルを抜けた先に立ちはだかったのは「司法の壁」だった。裁判所による高浜原子力発電所3、4号機に対する運転停止の仮処分命令だ。「あれだけ苦労したのに……。この時の現場の落胆たるや、相当なものだった」(藤原氏)。それでも需給を安定させ安定供給を実現すべく、地道に処分取り消しの判例を積み重ねた。こうした過去と比べると、いま現場は高い緊張感を保ちながらも明るく、前向きな雰囲気に包まれているという。

人員のリバランスに苦慮 新しい環境で試行錯誤
頭を悩ませるのは人員配置の調整だ。安全・安定供給や原子力発電所の運転にかかる技術継承を行った一方で、美浜や大飯の廃止措置を安全かつ着実に実施する必要がある。7基体制実現後も課題は山積している。
3.11前は「美浜3・大飯4・高浜4」の11基体制だったが、現在は「美浜1・大飯2・高浜4」。発電所のサイトごとで稼動する基数が偏っていることも、人員配置を難しくさせている。4基の廃止措置も、着実に進めていかなければならない。3.11前との比較で言えば、シビアアクシデントに備えて通常時に配置すべき人員数も増加した。余剰人員がいない中で現場に余裕はない。原子力発電所が稼動していない期間、技術の継承ができずに人材が空洞化したケースもある。
労使協議において議題となるのは「要員配置」に関わることが多い。部門によって要員構成の差が生まれたことも、運転停止期間が長引いた弊害の一つだ。過去に類を見ない環境下で、将来にわたり原子力の安全・安定供給を確保するための体制確保に向けて、試行錯誤しながら労使で議論を重ねている。

関西電力では2023年、カルテル問題や顧客情報の不正閲覧問題など一連の不祥事が発生した。しかし、会社が社会から批判にさらされようとも、原子力発電所の安全運転という使命は変わらない。作業員たちは365日24時間、その使命を果たし続けている。
22年には美浜3号機が日本で初めて40年超運転に入るなど、原子力では国内事業者をリードする関西電力。トップランナーを支える現場の作業員の努力に敬意を表したい。