原子力発電所「7基」稼動 安全運転への強い使命感


【電力事業の現場力】関西電力労働組合

規制と司法の「壁」を乗り越え、原子力発電所7基が稼動する関西電力。

新規制基準対応後の稼動には、3.11前とは違う課題も存在する。

社会のために安定供給の重責を果たすだけでなく、収益改善という具体的な「数字」で会社に貢献できることがうれしい―。

原子力の現場で働く作業員の思いだ。再稼働前は新規制基準に対応するため、防潮堤建設などの安全対策に多額の資金を投入した。当時と比べれば、組織に貢献できる喜びはひとしおなのだろう。

関西電力は美浜3号機(定期検査中)、大飯3、4号機、高浜1、2、3、4号機が稼動中だが、7基稼動体制までの道のりは決して平坦ではなかった。

「出口が見えない真っ暗なトンネルをひたすら進んでいるような感覚だった」。関西電力労働組合の藤原正宏本部副執行委員長は、審査対応時の思いをこう表現する。

原子力部門はもちろん、ボーリングが必要なら「くろよん」の伝統を継ぐ土木作業員、再稼動が近づけば火力発電所の運転員など、あらゆる部署から人材をかき集めた。原子力発電所の運転を志し関西電力に入社したのにもかかわらず、1日中、審査資料のコピーを取り続ける社員もいた。想像した仕事内容との違いに戸惑いを感じたことも少なくない。それでも、「オール関西電力」で対応に当たり、再稼動にこぎ着けた。

写真提供:関西電力
研修設備でシミュレーター訓練を行う

ところが、長いトンネルを抜けた先に立ちはだかったのは「司法の壁」だった。裁判所による高浜原子力発電所3、4号機に対する運転停止の仮処分命令だ。「あれだけ苦労したのに……。この時の現場の落胆たるや、相当なものだった」(藤原氏)。それでも需給を安定させ安定供給を実現すべく、地道に処分取り消しの判例を積み重ねた。こうした過去と比べると、いま現場は高い緊張感を保ちながらも明るく、前向きな雰囲気に包まれているという。

高浜原子力発電所の格納容器上部遮蔽設置工事

人員のリバランスに苦慮 新しい環境で試行錯誤

頭を悩ませるのは人員配置の調整だ。安全・安定供給や原子力発電所の運転にかかる技術継承を行った一方で、美浜や大飯の廃止措置を安全かつ着実に実施する必要がある。7基体制実現後も課題は山積している。

3.11前は「美浜3・大飯4・高浜4」の11基体制だったが、現在は「美浜1・大飯2・高浜4」。発電所のサイトごとで稼動する基数が偏っていることも、人員配置を難しくさせている。4基の廃止措置も、着実に進めていかなければならない。3.11前との比較で言えば、シビアアクシデントに備えて通常時に配置すべき人員数も増加した。余剰人員がいない中で現場に余裕はない。原子力発電所が稼動していない期間、技術の継承ができずに人材が空洞化したケースもある。

労使協議において議題となるのは「要員配置」に関わることが多い。部門によって要員構成の差が生まれたことも、運転停止期間が長引いた弊害の一つだ。過去に類を見ない環境下で、将来にわたり原子力の安全・安定供給を確保するための体制確保に向けて、試行錯誤しながら労使で議論を重ねている。

美浜原子力発電所の中央制御室で業務に当たる運転員

関西電力では2023年、カルテル問題や顧客情報の不正閲覧問題など一連の不祥事が発生した。しかし、会社が社会から批判にさらされようとも、原子力発電所の安全運転という使命は変わらない。作業員たちは365日24時間、その使命を果たし続けている。

22年には美浜3号機が日本で初めて40年超運転に入るなど、原子力では国内事業者をリードする関西電力。トップランナーを支える現場の作業員の努力に敬意を表したい。

積年の「無償慣行」と決別なるか LPガス法改正問題の正念場


LPガス業界の不透明な料金体系や商慣行是正に向けた議論が佳境を迎えている。

長らく放置されてきただけに根深いこの問題。果たして、業界体質を変革できるか。

LPガスの料金透明化、取引適正化を目指し、2023年3月に再開した総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)液化石油ガス流通ワーキンググループ(液石WG、座長=内山隆・青山学院大学教授)。これまで4回の会合を開き(12月18日現在)、液化石油ガス法の省令を改正することを含め、不透明な商慣行是正に向けた方策を大枠で固めた。

LPガスの商慣行を巡り、消費者団体などが特に問題視してきたのが、ガス事業者が賃貸集合住宅のオーナーにエアコンや給湯器といった設備を無償で提供し、その費用をガス料金に上乗せして入居者から回収する行為だ。本来、賃貸住宅に付随する設備の費用は、そのオーナーが負担し家賃で回収するのが筋。それをガス事業者に付け回すことで自らの持ち出しを減らせる上、家賃を安く見せ入居率の向上にも寄与するとあって、オーナーにとってはメリットしかないスキームだと言える。

業界関係者の一人は、「賃貸集合住宅が金融商品化したことも相まって、05~06年ごろからこの商慣行が急速に広がった」と指摘。事業者が供給契約を獲得するために、オーナーにガス機器を提供したことが発端となった慣行だが、次第に営業攻勢が過熱する一方で、利用者無視の状態が長年放置されてしまった。

商慣行是正策の実効性が問われている


液石法のみでの対応に限界 求められる省庁連携の強化

こうした状況を重く受け止め、同WGでは、液石法の省令を24年春にも改正し「正常な商習慣」を超えた利益供与を禁止した上で、新規契約や契約更新の際にガス器具以外の設備費用をガス料金に上乗せすることを禁じることが方向付けられた。

一方で、既存契約については、当初は新規と同様、設備料金の計上を禁止する方針だったが事業者の収益性への影響を考慮し見送り。その代わり、利用者に貸与している設備がある場合、基本料金と従量料金とは別建てで設備使用料を算出する「三部料金」を徹底することで、料金の透明性確保を求めることとした。違反事業者に対しては、立ち入り検査や勧告、命令を行い、登録取り消しや罰金を科すことも辞さない構えだ。

施行時期は、改正法の公布から1年後の25年度。「システム対応のための期間が必要」「既存契約において関係者との調整に時間がかかる」といった事業者側の懸念に配慮し、いったんは三部料金制に関わる見直しを公布後3年としたものの、消費者などからの「公布後3年の猶予期間は長い」「早期に施行するべきだ」といった声を踏まえ、2年前倒しした。

「化石燃料からの移行」を明記 COP28が現実路線で決着


アラブ首長国連邦(UAE)・ドバイで開かれていた温暖化防止国際会議・COP28が2023年12月13日、合意文章を採択して閉幕した。「グラスゴー気候合意」で1・5℃目標の追求を掲げたCOP26、先進国が「ロス&ダメージ(損失と損害)」基金設立に折れたCOP27に比べ、今回はバランス良くさまざまな主張の間を取った内容と言える。

世界有数の産油国での開催、そして世界全体の気候変動対策の進捗評価を行う「グローバル・ストックテイク(GST)」の初実施など、さまざまな観点から注目されたCOP28。無事、GSTの決定が採択されたが、そのポイントの一つが「1・5℃目標」達成に向けた化石燃料利用の在り方だ。

当初、欧米や島しょ国などは「フェーズアウト」という文言を入れるよう主張したが、産油国などが反発。結局「移行(トランジション・アウェイ)」と、よりマイルドな表現に落ち着いた。日本の方針にも合致する内容であり、現地参加した伊藤信太郎環境相も15日の閣議後会見で「今回の成果文書と、今まで日本が進めてきた環境・エネルギー政策に齟齬はないと考えている」と振り返った。

他方で環境派は、石炭だけでなく、化石燃料全般がターゲットとなったこと、さらに「この重要な10年間にその行動を加速させる」と書き込まれた点を強調。また工業原料ではなく、燃料用の化石資源の削減を優先することにコミットしたともとらえられる。結果、悪く言えば玉虫色、良く言えば現実路線で、いずれの立場からも評価できる「化石燃料からの移行」という表現にたどりついた。

このほか決定文書では、30年までの再生可能エネルギー発電容量3倍、省エネ改善率2倍を掲げつつ、脱・低排出技術として原子力やCCUS(CO2回収・利用・貯留)、低炭素水素などのオプションを明記した。特にネットゼロに向けた原子力の必要性がCOPの成果として示されたことは画期的であり、この点も日本政府や経済界、エネルギー業界にとってはウェルカムな内容と言える。

さまざまな立場を踏まえた合意文書を採択し閉幕したCOP28(提供:新華社)


日本の削減実績をアピール 次期エネ基議論への影響は

今回の日本の主張の一つに、30年度46%減というNDC(国別削減目標)に対し、21年度に約20%削減を達成したという実績のアピールがあった。その点、「日本がオントラックで排出ガス削減を行っていることを説明した上で、立場の違いを乗り越えて合意に達するよう努力した」(伊藤環境相)という。

また、日本政府主導のイニシアチブとして、パリ協定の目標実現に向けた「投資促進支援パッケージ」を公表。目標や適応、対策実施に関するギャップの解消という支援方針に対し、多くの賛同を得られた格好だ。

今回は現実路線を模索する姿勢が垣間見えたが、既定路線となった1・5℃目標の追求は宿題として残る。35年、あるいは40年をターゲットとしたNDC見直し、そして第7次エネルギー基本計画の議論でどのような展開につながるのか、注目される。

【特集1】イノベーションの芽をどう育てるか 業界に吹き荒れるDX旋風 ビジネス変革の姿を探る


AIをはじめデジタル技術の進展目覚ましい中、いかに事業に取り込むかが全産業共通の課題だ。

事業環境が急変するエネルギー産業においても、さらに高いレベルでのDXが求められている。

【出席者】
江田健二/RAUL社長
佐伯 隆/アクセンチュア ビジネスコンサルティング本部AIグループマネジング・ディレクター

左から江田氏、佐伯氏

江田 アクセンチュアは電力企業のデジタル技術活用支援、いわばDX支援を多く実施しています。佐伯さんも携わっているそうですね。電力業界は積み上げ志向で、新しいものを取り入れるのが苦手な風潮を感じますが、実際はどうでしたか。

佐伯 電力分野でデジタルの活用が行き渡り始めたと感じています。当初はデータ不足や文化的な側面から難しい場面もありましたが、「この領域にはこうしたポテンシャルがある」という提案が徐々に受け入れられていきました。また、一部では早い段階からシェアオフィスやリモートワークなどを取り入れ、コロナ禍でもあまり混乱せずに済みました。先んじて新たな挑戦をしていれば、世の中の動きにすぐ対応できることを実感しました。


熟練の現場作業への導入も 蓄電所ビジネスはさらに拡大へ

江田 具体的な成果について教えてください。

佐伯 最初に導入したのは水力発電部門です。台風の影響や雪による閉塞抑止など、水活用の最適化にデジタルを活用しました。従前の経験に基づく予想も一定程度当たりますが、それでは人に左右される側面があります。

営業部門に喜ばれたのがスマートメーターの活用で、EMS(エネルギーマネジメントシステム)とデジタルの活用で「初めてスマメデータがお金になった」との声が上がりました。ただ初期モデルでは、データの膨大さゆえ1回の計算に丸2日かかるなど苦労もありました。最終的にいかに利益を還元できるかは、神経を使います。特に日本の電気料金水準はほかの先進国と比べ安く抑えられている中で、利益を上げるために厳しい戦いを繰り広げていますから。

江田 電力会社の現場作業では、熟練の技に頼る場面が多いですよね。燃料調達でも、どの発電所にどんな順番で船を入れていくのが効率的かといった判断をデジタル化した事例もあるようです。最近は電気の規制料金値上げが大きく報じられたこともあり、デジタル化などの投資判断には一層慎重になりがちかもしれません。他方で1社が成果を挙げれば一気に横展開していくこともありそうです。

佐伯 発電所の巡視点検でロボットとAIを活用し自動化した際、実は部門幹部の方に「ロボットに熟練の技を移し過ぎると事業継承の面でリスクが生じるか」と聞いてみました。そこで「時代ごとに新たな事業継承の在り方を考えていけばいい」と励みになる言葉を返してもらったことは印象に残っています。

【特集1】エネルギー初夢NEWS5選 2024年の業界で話題になりそうな「夢物語」を厳選


本誌新年号の恒例企画となったエネルギー初夢物語シリーズ。

2024年には果たして、どんな動きが顕在化・実現するのか。

編集部が厳選した五つの話題を架空のニュース形式で紹介する。

~本誌記者の初夢はいくつ実現するか?~

NEWS1:東電が上場廃止を検討 お蔵入りの改革論再燃か

経産省、原子力損害賠償支援機構が東京電力グループの経営再建を加速させるため、東電ホールディングス(HD)の上場廃止を検討していることが分かった。福島第一原発事故に伴う廃炉や賠償などの費用が増大する中、福島部門を完全国有化で切り離す一方、事業会社ではJERA方式を参考に他社との包括提携を推進する方向だ。東芝やSBI新生銀行、ベネッセなど、非上場化で経営再建に取り組む手法が相次ぐ中で、東電株の行方が注目される。

【解説】東電HDを巡っては、原賠機構が優先株転換で3分2以上の議決権を保有した上で、TOB(株式公開買い付け)を行い非上場化を図るのではとの見方が。

報道によると、政府は福島事故処理の費用増大に対応すべく、交付国債発行枠を拡大。総費用は2016年試算の21・5兆円から23・4兆円に膨らむ見込みだ。一方、原賠機構は12月に発表した東電経営改革評価の中で、第4次総合特別事業計画が求める年4500億円規模の利益創出への道筋が不明と指摘。打開策としてJERAに続く包括提携実現を挙げ、「潜在的パートナーの理解を得るには一層の工夫が必要」と提起した。

東電を非上場化した上で、グッド、バッド両部門に分離・分割し再生する―。3・11後に浮上しお蔵入りになった改革論が、形を変えて再燃するのか。経産省サイドで検討が始まる「第5次総特」が今後の注目点だ。

原賠機構の判断は? (東京・赤坂の本部)

【特集1/座談会】分断進む中で問われる政策見直し 第7次エネ基議論を徹底予想 変数拡大で難易度が上昇へ


2023年はGX政策が始動したが、24年は3年ぶりのエネルギー基本計画策定が予定される。

周辺環境の変数が拡大し政策議論の難易度が上がる中、専門家4人が見解を述べ合った。

【司会】橘川武郎/国際大学学長
【出席者】秋元圭吾/地球環境産業技術研究機構(RITE)システム研究グループリーダー・主席研究員、大場紀章/ポスト石油戦略研究所代表、髙村ゆかり/東京大学未来ビジョン研究センター教授

左上から時計回りに、秋元氏、橘川氏、大場氏、髙村氏

橘川 第6次エネルギー基本計画の策定には、私も秋元さんも髙村さんも委員として関わりました。大場さんは客観的に当時の議論をどう見ていましたか。

大場 米国主催の気候サミットで日本が2030年46%削減を宣言した直後の議論となり、先に目標を示された中での難しい作業になったと思います。もはや計画とは呼べませんが、野心的な想定を前提とした整合性のある見通しを示したと評価しています。その後策定したGX(グリーントランスフォーメーション)基本方針は、必ずしもエネ基のビジョン通りではありませんが、50年カーボンニュートラル(CN)を前提に、ロシア・ウクライナ戦争や電力需給ひっ迫などを踏まえた原子力政策の見直しなどを示しており、結果として第6次エネ基が転換点の一つになりました。

髙村 作業開始に当たり、当時の梶山弘志経済産業相が20年10月のCN宣言を踏まえ、「今回のエネ基はCNに向けた枠組みの中での策定になる」といった趣旨の発言をされたことが印象的でした。第6次は従来の手堅い積み上げ型とは違った哲学で作ることが求められ、長期で目指すべきエネルギーシステムを想定しながらどう近付けていくかというアプローチであり、この意味は大きいと思います。ロシア・ウクライナ戦争といった外的要因の影響はあるにせよ、そうして作り上げたエネ基の進捗は丁寧に見ていく必要があります。

秋元 50年CNはビジョンでありターゲットではないと理解しており、エネ基には「あらゆる選択肢を追求」し、「S+3E」の優先順位も、エネルギー安全保障、安定供給、経済性、環境であると明確に書かれました。しかし、結果として気候変動対策に寄り過ぎ、足元では30年46%減という理想と現実のギャップを埋める作業に苦労しています。高過ぎる理想から策定された政策がコストを押し上げ、非効率を生む懸念があり、これをどう是正するかが重要です。

橘川 第6次の原子力や再エネ目標の達成は無理だと思います。原子力は30年で20基再稼働、15%がいいところでしょう。再エネも第5次で30%程度としたならまだしも、ビジョンを示すのが遅すぎです。さらに違和感があるのは天然ガス。エネルギーミックスの比率では輸入量が大幅に減る計算となり、最近の天然ガス争奪戦で日本は実際に買い負けています。

電力消費量の見通しもトリッキーです。RITEの試算では50年に向けて電力消費量が足元の1兆kW時から1・3兆~1・5兆kW時と拡大しますが、第6次では再エネと原子力比率のために30年に向けて10%減としたのです。こうしたごまかしがいくつも潜んでいることは問題です。

【沖縄電力 本永社長】脱炭素化へ向けて先手 再エネ導入技術を蓄積し国内外のCO2削減に貢献


非化石電源が少なく、系統規模の制約がある沖縄県。

脱炭素化への条件は本土と比べて厳しいが、沖縄電力が取り組んできた「再エネ導入の技術」は日本のみならず世界から注目を集めている。

【インタビュー:本永 浩之/沖縄電力社長】

もとなが・ひろゆき 1988年慶応大学経済学部卒業、沖縄電力入社。2013年取締役総務部長を経て、15年副社長就任。お客さま本部長、企画本部長を担当。19年4月から現職。

志賀 まずは、2023年度上期中間決算の概要と今期の業績見通しについてお聞かせください。

本永 23年度上期決算については、収入面では電気料金改定などにより、売上高は前年同期比117億6300万円増の1305億100万円となりました。一方、支出面では燃料費や他社購入電力料の減少などがあり、営業費用は前年同期比154億5900万円減の1257億9700万円となりました。この結果、経常利益は42億1600万円となりました。昨年が大幅な経常赤字だったため、結果的には増収増益となりましたが、具志川火力の揚炭機損壊の影響もあり、利益水準としては低いレベルと受け止めています。

23年度の収支見通しについては、8月公表より下方修正となりました。売上高は59億円増の2403億円と過去最高となる一方で、経常利益は10億円悪化の31億円となる見通しです。

下方修正の主な要因としては、燃料価格上昇に伴う燃料費や他社購入電力料の増加もありますが、8月公表と比較して具志川火力の石炭揚炭設備損壊影響が大きくなっています。安全面などを優先した現場運用を行いながら、危機感を持って着実に効率化などの収支対策にも取り組みます。

黒字を確保する見通しではあるものの、利益水準としてはかなりギリギリのレベルだと認識しており、連結ベースでの子会社利益も重要となってきます。利益を少しでも上積みできるよう、引き続き沖電グループ全体としてもしっかりと取り組みます。

牧港ガスエンジン発電所の外観(上)と内観(下)


経営効率化を推進 料金負担の軽減策発信

志賀 22年7月に33・3%の規制料金の値上げを行いました。収支への影響は?

本永 当社は資源価格の高騰や円安の進行により燃料価格が高騰し、その調達コストを適切に電気料金に反映できない状況が続き、 財務体質が急速に悪化したことから、当社最大の使命である電力の安定供給に支障をきたす恐れがあったので、経済産業大臣に規制部門における電気料金の値上げを申請し、認可されました。大変心苦しく、苦渋の決断でした。

電力・ガス取引監視等委員会の料金制度専門会合で審査いただくとともに、沖縄県民をはじめ国民のみなさまから厳しいご意見をいただきました。当社が申請した料金には136億円の経営効率化を織り込みましたが、査定結果を受け97億円深掘りした233億円の経営効率化を反映することになりました。非常に厳しい審査結果であると受け止めていますが、燃料や資機材調達などでこれまでにない工夫を取り入れ、調達力を高めるなど経営効率化を推進します。

また今般の電気料金審査で「電気料金の仕組みが分かりにくい」というご意見を多数いただいたことも踏まえ、お客さまとの接点を増やし、丁寧かつ分かりやすい説明に努めます。加えて、値上げに伴うお客さまのご負担をできるだけ軽減できるよう、省エネの提案や節電の取り組みも積極的に発信します。

電気料金の値上げによる収支への影響は、上期では181億円となり、23年度通期見通しでは295億円となっています。

志賀 一連のエネルギー価格補助政策の効果については、どう考えますか。

本永 国による電気料金激変緩和対策事業や内閣府と沖縄県による沖縄電気料金高騰緊急対策事業、さらには23年に入ってからは燃料価格も低下したため、同年6月1日からの料金はそれ以前を下回るケースが多くなりました。そのため、お客さまの負担感は軽減されているものと考えています。また国の激変緩和対策事業では特別高圧の需要家が対象外となっていますが、沖縄県の対策事業では直接補助が出ています。沖縄県の特別高圧のお客さまは価格転嫁が困難な事業者が多いので、負担軽減に寄与していると考えています。

【九州電力 池辺社長】電力供給の安定化と低・脱炭素化を進め 九州の発展に貢献する


2023年度の連結業績は22年度の赤字から一転、過去最大の黒字を確保できる見通し。

将来の電力需要の不透明性や人材不足への懸念が高まる中、持続的な成長へ手を緩めずに、DXやAIによる経営改革に取り組む。

【インタビュー:池辺 和弘/九州電力社長】

いけべ・かずひろ 1981年東京大学法学部卒、九州電力入社。2017年取締役常務執行役員コーポレート戦略部門長、18年6月から代表取締役社長執行役員。20年3月から電気事業連合会会長を兼務。

志賀 2024年も激動の年となりそうですが、経営者としてどのような心構えで臨みますか。

池辺 私もよく、今は変革の時代だから状況が大きく動いているなどと発言するのですが、実際には世の中はいつでも大きく動いているし、いつでも予期せぬことが起こる可能性があります。予見できるリスクに対して備えることは当然のことで、予見できないリスクにいかに対応するかが経営者として非常に重要です。24年も電気事業にとって予期せぬことが起こることは大いにあり得ますが、業界全体に関して言えば、原子力の再稼働が順調に進むことで、安定供給体制が強化され、電力価格上昇への耐性が付き、リスクをある程度低減できると期待しています。


業績のV字回復へ 原子力4基体制が貢献

志賀 23年度第2四半期の連結業績が黒字転換し、通期見通しも上方修正しました。原子力の役割は確かに大きいですね。

池辺 23年度第2四半期の業績については、赤字であった前年同期から大幅に改善し、経常利益1995億円へと黒字転換することができました。通期業績見通しについても、総販売電力量の減少はあるものの、燃料価格の下落による燃料費調整の期ずれ差益拡大や、卸電力市場価格の下落による購入電力料の減少などにより、 前回(23年4月)公表値を上回る1700億円程度となる見通しです。 22年度は非常に収支が悪く「23年度はV字回復を果たす」と言い続けてきましたが、それを十分に達成できそうです。この好転は、燃料価格の下落により、燃料費調整の期ずれ影響が前年の差損から差益に転じたことも要因の一つではありますが、原子力を4基体制に復帰できたことが大きく寄与しているものと考えています。

五井火力発電所(千葉県市原市)の空撮写真

原子力をこれから再稼働しようとすると、資材価格や人件費、金利の上昇が見込まれる中で安全対策費が大きく積み上がりかねません。当社は大変良いタイミングで再稼働できました。原子力に限らず、設備の安全・安定運転のために日々努めている社員の皆さんには、非常に感謝しています。また、社員に限らず、グループ会社や取引先の方々を含め、いろいろな知恵を出して業務効率化に取り組んでくれた皆さんにも感謝の気持ちでいっぱいです。引き続き、ロシア・ウクライナ情勢や中東情勢による燃料価格などへの影響は不透明な状況です。原子力の安全運転をはじめとした電力の安定供給や、経営全般にわたる効率化の取り組みなどにより、毀損した財務の早期健全化に努めていきます。

志賀 経営の効率化に向け、デジタルトランスフォーメ―ション(DX)投資に力を入れています。

池辺 22年度にDX推進本部を設置し、企業変革に向けた「九電グループDXビジョン」を制定するなど、DXの推進体制を整えてきました。九州で企業立地が進む中、非常に心配されるのが、将来の人手不足です。これからも少子高齢化は続くのですから、DXを推進し働き方や業務プロセスを抜本的に変えることで、生産性の向上を図ることは欠かせません。DXやAIに早めに投資することで、より早くその効果を経営に反映できるようにしていきたいと考えています。

プロジェクト複雑化への対処急務 「EPC―DX」元年の様相


【業界紙の目】宗 敦司/エンジニアリング・ジャーナル社 編集長

資源確保と脱炭素化、資機材や輸送コスト高騰、労働力不足などプラント市場の環境変化は目まぐるしい。

プロジェクトが複雑化する中、現場では設計、調達、建設工事(EPC)のDXが本格的に進んでいる。

ロシアのウクライナ侵攻により、欧州へのパイプラインガス供給が途絶し、それに伴って世界のLNGプロジェクトが色めき立ち、いくつかのプロジェクトが動き出そうとした。ところがそれから1年以上の時が経った今、当初期待されていたほどには、LNGプロジェクトは活発化していない。この間、新規に最終投資決定(FID)まで至ったのは、カタールの増設案件と米国のポートアーサーLNG、コーパスクリスティーLNGなど数件にとどまっている。

LNGの需要は今後もしばらくは続くと見られている。ただ、LNGプロジェクトの初期投資は膨大であるため、20年以上の長期契約が生産能力の8割程度は必要となる。また、投資決定からプラント運転開始まで4~5年程度必要であり、それに20年間の長期契約となれば、カーボンニュートラル目標の2050年に近付いてしまう。これが投資決定に二の足を踏ませている。

一方、最近ではCO2回収装置を設置するLNGプロジェクトが出てきた。CCS(CO2の回収・貯留)を行うことでカーボンニュートラルLNGとして販売し、プロジェクトの延命化を図るというものだ。ただ、これは必然的にプロジェクトのコストを押し上げてしまう。これも投資決定に影響を与えているのだ。


市場環境はより不透明に DXに求める幅広い機能

ただでさえウクライナ危機以後、プロジェクトコストは大きく増加した。鋼材価格やエネルギー価格の高騰で資機材や輸送費用などがいずれも大きく増加。エンジニアリング会社ではその費用増加分を上乗せしてもらえるよう、顧客との交渉を続けている。ある企業のトップは「最近は価格交渉しかしてない」と漏らすほどだ。

さらにLNGプロジェクトでは、コンプレッサーの動力源を通常使われているガスタービンから電動モーターに転換することで、CO2発生量が大きく減少する案件も出てきた。これによりGEのガスタービンから、ベイカーヒュージのモーターへと、LNGプラントのサプライヤーも変化している。プロジェクトのコスト高騰と脱炭素化に伴う複雑化、それに伴う新たなリスクの予見など、プラント市場環境はより一層難しくなっている。

こうした複雑な状況の中、現地工事コストの増加に対応しようと、モジュール工法が普通に採用されるようになってきた。プラントをいくつかのモジュールとして、ヤードで製作し現地に搬入することで、現場での工数を減らし、コストの削減とスケジュールの遅延を防止する。LNGカナダでは11のモジュールを中国で製造し、全てが現地に搬入されており、来年にも稼働開始の予定だ。

また設計、調達、建設工事(EPC)全体にわたるDX化も進展してきた。主要なエンジニアリング会社が軒並み、今年度からEPC―DXの本格導入を開始。「EPC―DX元年」とも言える状況となった。

世界でEV需要減速 補助金は即刻廃止を


【どうするEV】加藤康子/産業遺産情報センター長

EVの需要は減速している。9月、ゼネラルモーターズ(GM)、フォード、クライスラーの「BIG3」が主導する「北米国際自動車ショー」が開催されたが、EVへの情熱は冷めたようだ。理由は単純で、「つくっても売れない」からだ。トランプ前大統領は10月、ミシガン州の自動車部品工場での演説で「EVは最初の10分だけが楽しい。1時間経ったら充電インフラを探すはめになる。私が大統領になったらガソリン車を買えるようにする」と語った。多くの国民は留飲を下げていることだろう。

ガソリン車規制の緩和を示唆したトランプ前大統領
出所:FOXニュース

EV需要の急速な落ち込みに、米国メーカーは次々と生産縮小を発表している。テスラはメキシコ工場の先送りを示唆。GMはEV主力車種のシボレー・ボルトを23年内に生産中止、ホンダと計画していた量販型EVの開発も取りやめた。フォードはEV関連の投資計画120億ドルを延期、韓国SKと合弁の第二バッテリー工場の建設も休止した。

日本はどうか。相変わらず大メディアは世界の趨勢を伝えず、儲からないEV生産にメーカーを追い込む強烈なEVシフトをあおっている。現在、日本の市場でEVは2%少々だが、日本の調査会社が3月に発表した調査結果では「今後5年間で車を購入するとしたら」との問いに対して、BEV(バッテリーEV)を検討すると回答した消費者は12%である。一方、ガソリン車は52%、HVは33%だ。消費者がEVを欲しておらず、ガソリン車やハイブリッド車を求めている中、2035年にガソリン車の新車販売を禁止する政府目標は不条理と言わざるを得ない。自動車産業は日本の基幹産業であり、ガソリン車を支える優良部品メーカーを失うことにもなりかねない。岸田政権はどんな車も買えるようにかじを切るべきだ。

と同時に、補助金を投入する過度なEV誘導は即刻やめるべきだ。米国はインフラ抑制法で自国製造のEVを優遇しており、欧州委員会は10月、中国から欧州連合(EU)に輸入されるBEVに相殺関税の賦課を視野に入れた反補助金調査を開始した。なぜ日本だけが自国産業を保護する政策を取らないのか。EVに補助金を使うなら、ガソリン車に活用できるカーボンニュートラル燃料の実用化により多くの資金を投入したらどうか。

車載電池でいえば、原料となるリチウムなどの重要鉱物の埋蔵・生産は特定国に偏在しており、精錬過程は中国に集中する。燃えにくい電池の製造に必要なコバルトの埋蔵・生産はコンゴが大半を占めるが、採掘時には児童労働など人権上の問題が指摘されている。そして中国は言わずもがなの人権軽視国家だ。グローバルエリートは持続可能な開発目標(SDGs)のためにEV社会を実現すると意気揚々だが、SDGsに人権は含まれていないのだろうか。人権をないがしろにしてつくられたEVで「SDGs達成」と言われても、その欺瞞に失笑を禁じ得ないのである。

かとう・こうこ 慶大卒。ハーバードケネディスクール大学院修士課程修了。産業遺産国民会議専務理事、都市経済評論家、元内閣官房参与。鉱工業などの産業遺産を研究。父は自民党の故加藤六月氏。

【鬼木誠 自民党 衆議院議員】 「原子力技術、研ぎ澄ませ」


おにき・まこと 1972年生まれ。福岡県出身。九州大学法学部卒業後、西日本銀行(現西日本シティ銀行)に入行。2003年、30歳で福岡県議会議員に初当選し、3期10年勤める。12年の衆議院議員選挙で国政に進出。環境大臣政務官、防衛副大臣などを歴任し、現在は自民党国防部会長を務める。当選4回。

幼い頃から政治家を志し、銀行員、福岡県議を経て国会議員に。

防衛力強化や財政の立て直しなど、避けられない課題に真正面から取り組む。

政治家を志したのは早かった。原点は小学校高学年の平和学習。「戦争のない世界のために何ができるか」を問いかけられ、クラスメイトの前で「政治家になって平和な国をつくる」と誓った。

福岡市生まれ。政治との接点のない家庭で育った。父親はスーパーの店員で、働きながら夜間大学を卒業した経験を持ち教育熱心だった。高校は九州の名門・ラサール高校に進学した。大岡敏孝衆議院議員とラグビー部に入部し、文武両道に励んだ。卒業後は地元に戻り、九州大学法学部に入学。在学中には農林水産相などを歴任した太田誠一元衆議院議員の事務所で、選挙の手伝いなどの経験を積んだ。

大学卒業後、すぐに政治の世界へ飛び込む選択肢もあったが、「法律だけではなく、予算をつくるのも政治家の仕事。銀行では経済の勉強ができ、地元企業人との人脈ができる」との恩師からの助言もあり、地元の西日本銀行(当時)に入行。今となっては、銀行員時代の経験が政治活動の基礎となっている。

政治家になるチャンスには恵まれず、このままバンカーとしての将来を考えたこともあった。だが、転機は2002年。日本長期信用銀行の破たんやそれに伴う「ハゲタカ・ファンド」による買収劇など、平成の金融危機を目の当たりにして政治への想いが再燃していた。西日本銀行を退職して30歳となった翌年には、福岡県議会議員選挙で初当選。出馬するにあたり背中を押してくれたのは、一足先に静岡県で浜松市議会議員になっていた大岡氏だった。

3期10年の福岡県議時代、あらゆる陳情・要望が届いた。国政に対する問題意識が高まり、「いつかは国会へ」との思いが強くなる。12年に山崎拓元衆議院議員の引退に伴う公募に応募。同年の衆議院議員選挙で初当選し、国政の世界に足を踏み入れた。

創業者の思いがこもった米事業 農家と消費者のつなぎ役を担う


【エネルギー企業と食】伊丹産業×米

伊丹産業は1948年、食糧公団の米穀輸送・保管倉庫業、主要食糧の集荷・製粉業を手掛けたことに始まる。49年からは薪炭や練炭、58年からは現在主力のLPガスといったエネルギーを手掛けるようになった。これらは、米輸送で培った輸送のノウハウが生かせるため目をつけたという。

その後、しばらくはエネルギー事業に注力するが、93年に合意したウルグアイ・ラウンドによるミニマム・アクセス(最低限輸入義務)によって潮目が変わった。94年に新食糧法が可決し、それまでの生産者から国が買い上げて売るという基本方針を改め、農家や流通業者だけでなく、一定の条件を満たせば誰でも米の取り扱いができるようになった。

このタイミングで、独自ブランド「伊丹米」の販売を開始。再び米穀事業に注力することになる。これは創業者・北嶋政次氏の悲願でもあったとのことだ。発売直後の伊丹米は、統一ブランドで独自に6銘柄を販売した。「産地をアピールしたパッケージが消費者の心をつかんだ。流通面でも関西スーパーマーケットと提携することで販路が広まり一気に拡大していった」。米穀事業部西日本支店の藤木敏弘支店長はこう振り返る。現在では全社売上高の15%を支える重要事業になっている。

パッケージは佐藤可士和氏がデザインした

その一方で、日本国内は人口減少の一途をたどっており、米の消費量も減少している。この状態に歯止めをかけ、需要を掘り起こすことも大切だ。一時期、米を食べると太るなどといった話が広まることがあった。しかし、コロナ禍を経て身体のことを考える機会が増え、インフルエンサーなどが訴えてくれたことで米の存在を見直す考えが広まりつつあるという。

伊丹産業は米普及の啓蒙活動にも注力している。その一つが10月に行われたパ・リーグクライマックスシリーズファイナルステージ第1戦のゲームスポンサーだ。「伊丹産業Day」と銘打ち、入場ゲートや外野の看板に表示された。入場者には先着1万5000人に新潟県魚沼産、石川県・兵庫県産のコシヒカリ300gを無料配布した。「球団からもお客さまからも大変好評だった。イベント活動には積極的に取り組んでいく」と藤木氏は意気込む。

今後は米産地との取り組みを増やす。SDGsや環境配慮への関心が高まる中、米生産にも対応が求められているためだ。温暖化によって気象条件も変わりつつある。生産者は毎年減っている。こうした課題にも、創業者の米へのこだわりを継承し取り組んでいく。

【マーケット情報/12月22日】先物反発、紅海緊迫で供給懸念


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み反発。紅海における地政学的リスクの高まりから、価格が上昇した。

紅海で、イエメンを拠点とする武装集団フーシが相次いで船舶を攻撃している。これにより、英オイルメジャーBP社や世界の海運会社に、同海域を迂回する動きが広がった。紅海はスエズ運河に繋がっており、原油および石油製品供給の混乱から価格が上昇するとの見方が、先物の買いにつながった。

また、中国からの需要も価格を支えた。同国では、先月の製油所における大幅減産により、精製マージンが回復したことを受け、今月の原油処理量が増加している。アーガスの調査によると、中国の原油処理量は12月、日量1,460万バレルに達する可能性があり、これは11月の処理量より10万バレル程多い。小規模の独立系製油所や、大規模で独立系の新規製油所が稼働率を引き上げ、国営シノペック社やペトロチャイナ社による削減を相殺した。

米石油サービス会社ベーカー・ヒューズが発表した21日までの一週間における国内石油掘削リグの稼働数は498基となり、前週比で3基減少。減少を示すのは今週で2週目となり、需給を引き締め、価格に対する強材料となった。ただ、今年の米国における原油生産は過去最高を記録している。生産効率が向上し、少ない採掘リグでより多くの原油が抽出可能となっている。


【12月22日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=73.56ドル(前週比2.13ドル高)、ブレント先物(ICE)=79.07ドル(前週比2.52ドル高)、オマーン先物(DME)=79.15ドル(前週比3.11ドル高)、ドバイ現物(Argus)=79.54ドル(前週比3.14ドル高)

カーボン・クレジット取引拡大へ 注目の新市場への期待と課題


【多事争論】話題:カーボン・クレジット市場の可能性

経済産業省主導の下、東京証券取引所が10月に「カーボン・クレジット市場」を開設した。

新市場への注目が集まる中、GX政策として成果を挙げるには解決すべき課題もある。

〈 開設1カ月でJクレの売買低迷 他国と比べ流動性の低さがネック 〉

視点A:田上貴彦/日本エネルギー経済研究所研究主幹

10月11日、東京証券取引所は、カーボン・クレジット市場を開設し、売買を開始した。取引対象は現状、国内のJ―クレジットのみである。開始から1か月経った11月10日までに約1万2000tが売買され、その内訳は、再生可能エネルギー(電力)がほぼ3分の2(1t当たり約3000円、各日終値の加重平均)、省エネルギーが3分の1(約1600円)となっている。1日当たりの売買高は、第1週こそ2000tを超えたが、その後は低迷している。

他国の取引所での2022年の取引量は、クレジットではなく排出枠であるが、Refinitiv社の報告書によれば、EU排出枠84・5億t(インターコンチネンタル取引所など、05年・約13億t)、カリフォルニア州などの排出枠20・1億t(インターコンチネンタル取引所など、13年・約3億t)、中国排出枠5100万t(上海環境エネルギー取引所、21年・約45億t)、韓国排出枠1200万t(韓国取引所、15年・約6億t)となっている。かっこ内には、主な取引所、排出量取引制度の開始年・対象排出量を示した。これらに比べると、日本の取引所での取引量はまだほんの第一歩である。

東京証券取引所でJ―クレジットの売買が低迷する背景には、流動性が高くないことがある。供給サイドをみると、J―クレジットの発行量は累計で905万tに過ぎない。他国の国内クレジットメカニズムと22年単年の発行量で比較すると、世界銀行の「カーボンプライシングの現状と傾向 2023年」によれば、オーストラリア排出削減基金1800万t、カリフォルニア州遵守オフセットプログラム1100万t、カナダ・アルバータ州排出オフセットプログラム600万t、ブリティッシュコロンビア州オフセットプログラム500万t、タイT―VER400万tの順となる。

しかし、J―クレジットは101万t、JCM(二国間クレジット制度)も3.6万tにすぎない。また、22年度末までに発行されたJ―クレジット889万tのうち、約60%の539万tが補助金由来のクレジット創出によるものである。経済産業省が進める排出量取引制度であるGX―ETSでは、J―クレジットとともに、JCMクレジットも適格カーボン・クレジットとされているが、JCMの発行量もこれまでの累計で12.7万tにとどまっている。

需要サイドにとって、J―クレジットは現状、地球温暖化対策推進法の調整後排出量や、小売電気事業者による調整後排出係数の報告などに利用可能であるものにすぎない。ただし、再エネ電力由来J―クレジットは、事業活動の使用電力を全て再エネ由来とする「RE100」での再エネ調達量として報告できるなど、ほかの需要もある。また、GX―ETSが23年度から試行され、参画企業は9月29日までに自主目標などのデータ登録を行うことになっていたが、本稿を執筆している11月13日時点で、全体の目標水準、ひいては推定されるクレジットへの需要量は明らかになっていない。 そもそもGX―ETSの25年度までの第1フェーズでは、目標設定は自主とされ、目標達成もGXダッシュボード上で公表されるものの、自主とされており、クレジット需要はやはり不透明である。

市場拡大には時間が必要 今後の大規模プロジェクト拡大に期待

しかし、課題だけではなく、希望もある。GX―ETSでは、23年度検証済み排出量が提出される24年10月31日以降、超過削減枠の特別創出が可能になる。取引所に上場されるかは未定であるが、取引可能な排出枠の供給量が増える。また26年度以降、排出量取引制度が本格稼働となり、需要が明確化される。さらに、発電事業者に対する有償オークションが段階的に導入される33年度までに、事後的に超過排出枠が創出されるのではなく、事前に排出枠の割当が行われることになり、取引可能な排出枠の供給量が相当程度増加する。J―クレジットも、認証見込み量が100万t超のプロジェクト12件のうち、8件が22年10月以降に登録されており、森林や農業分野のプロジェクトも含まれている。JCMクレジットでも、今後100万tを超えてくるようなCCS(CO2回収・貯留)プロジェクトが期待される。

欧米を見れば分かるように、カーボン・クレジット市場の拡大にはどうしても時間がかかる。GX―ETSの制度構築を着実に進め、予見可能性を高めていくとともに、国内での家庭部門の再エネ・省エネや森林・農業部門、国外でのCCSなどの機会を捉えたプロジェクトの拡大に期待したい。

たがみ・たかひこ 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻博士課程単位取得退学。2003年日本エネルギー経済研究所入所。専門分野は市場メカニズム。

【需要家】エコキュートの昼稼働 二つの目的に貢献


【業界スクランブル/需要家】

今年は太陽光発電(PV)の出力制限の抑制に向けた対策の議論が本格化した年となった。東京電力パワーグリッドエリアを除き全国でPVの出力制限を行ったからだ。発電事業者にとっては気が気ではない話だろう。出力制限は本来売れる電気を合法的に制限されるので、収入が途絶える。プロジェクトファイナンスを組んだ事業者は借入金返済で冷や汗をかいたに違いない。

経産省も再生可能エネルギー大量導入小委や系統WGで議論を始めた。火力発電や電力系統での対策に加え、需要対策も進める。PVの電気を使うために需要を増やせばいいということだ。省エネが身についている日本にとって、電気の消費が再エネ発電の普及につながると言われてもピンとこないだろう。

両検討会で注目される需要対策がエコキュートだ。エコキュートには貯湯槽がある。お湯の蓄えがあるので、いつヒートポンプを稼働させてもいい。であれば、昼間に稼働させてはどうかという話である。

今夏、埼玉県上尾市では環境基本計画の見直しを始めた。同市は最高気温が35℃を超える。一般的に給湯温度は40℃前後である。上尾市の最高気温は給湯に迫る温度だ。

検討の場では昼間に稼働させる「お日さまエコキュート」の普及が議論されたという。うだる外気の暑さ、これは自然の熱エネルギーだ。市はヒートポンプを再エネと位置付けてはどうかと提案した。「給湯の再エネ化」に加え、「PVの出力制限抑制」にも昼間のヒートポンプ稼働―と二つの大きな目的に資するわけだ。

一方、国はPVの出力制限抑制のみを目的にエコキュートの昼間稼働を図ろうとする。エコキュートが「再エネ化」されて困ることでもあるのか。(Y)