【エネルギービジネスのリーダー達】丹治保積/レジル 社長
マンション高圧一括受電の先駆者である中央電力の社名を「レジル」に変更した。
既存の顧客基盤を生かしながら、脱炭素という新たな領域に挑戦する。

2004年に業界に先駆けてマンション高圧一括受電サービスに乗り出し、高い導入シェアを獲得してきた中央電力が今年9月、「レジル」へと社名変更した。30年使い続けてきた愛着のあった社名との決別を決断したのは、21年12月に就任した3代目社長、丹治保積氏だ。
一括受電マンションが基盤 分散型ビジネスモデルを展開
昨年ごろから社名が事業内容と合わなくなってきたと感じてはいたものの、なかなか踏ん切りを付けることができなかった丹治氏の背中を押したのは、創業者である中村誠司氏の「丹ちゃん変えたらいいよ」との言葉だったという。
新しい社名には、会社のパーパス(存在意義)である「結束点として、社会課題に抗う」ことを表現するため、抵抗を意味する「resist(レジスト)」と、回復力を意味する「resilience(レジリエンス)」を組み合わせた「REZIL レジル」とした。スペルの「Z」には、未知の領域に挑戦していくことへの強い決意を込めている。
同社が今後、そのパーパスを掛けて取り組もうとしているのが、顧客基盤である一括受電マンションを軸にした「分散型エネルギー事業」であり、マンション内に設置した太陽光発電設備(PV)や蓄電池、EV充電器を独自開発のAIによって需給を最適制御するというもの。供給電力の一部は、同社所有のPVで発電した電気を自己託送する。
丹治氏は、これを「分散型エネルギー社会のミニチュア版」と呼び、「居住者は通常の電気料金を負担するだけで、生活に必要な電気を再エネで賄い、安定供給性を高めながら家庭の脱炭素化を無意識のうちに達成できる」と、その意義を強調する。
こうしたビジネスを展開できるのも、一括受電サービスのトップランナーとして、自社資源として受変電設備を活用できるからこそ。現在、同社が手掛ける一括受電マンションは2200棟に上り、さらには、オフィスビルや商業施設などでも、これまでのノウハウを生かして同様のサービスを展開し始めている。
目指すのは、各地に分散した自社のリソースをネットワーク化し統合制御することで調整力の価値を生み出す新たなビジネスモデル。30年にはマンション、ビル合わせて3000棟への蓄電池導入を見込んでおり、これらをVPP(仮想発電所)として機能させることで、需要側に調整力を持たせる戦略だ。
これにより、「再生可能エネルギーの不安定性を需要側で吸収し、日本全体の電力の安定供給と脱炭素化に貢献できる」(丹治氏)。その最初の試みとして、8月には、首都近郊の100戸規模のマンション2棟の蓄電池を連携させた最適アービトラージ(裁定取引)制御を開始した。
新事業による同社の収益の源泉は、蓄電池によるタイムシフトに加え、マンションとオフィスビルで異なる需要カーブを生かした需給制御による調達コストの低減。そして将来は、需給調整市場や容量市場などでの収益化も視野に入れる。
エネルギーは日々勉強 広がる一括受電の可能性
小学生の頃から、自らコンピューターのプログラムを書くなど、インターネット業界に高い関心を持っていた。起業への意欲も強く、大学を卒業後、日本ヒューレット・パッカードで1年経験を積むと、インターネットと地域情報を組み合わせた事業を手掛ける会社を立ち上げた。
だが、その会社は2年ほどで立ち行かなくなってしまい、その要因について、「勢いだけで創業してしまい、ファイナンスなど経営者として必要な知識が圧倒的に足りていなかった」と振り返る。その後は、楽天やミスミグループでECプラットフォームビジネスに関わり、20年12月に中央電力に入社したことで、初めて電力事業に携わることになった。
社長に就任したのは、入社から1年後のこと。「エネルギーに関しては日々勉強だ」と言い、多くの業界関係者に率直に教えを請いつつ、他の事業者が抱える課題などから新たなビジネスの可能性を模索してきた。
小売り全面自由化され、ともすると一括受電モデルは存在意義を失いかねない。しかし、そうした模索の中で、事業をDX(デジタルトランスフォーメーション)化し、設備を自社で運用することでコストを下げ収益性を保つことができれば、一括受電の良さを生かしながら脱炭素という新たな領域でビジネスを広げることができるという確信を持つことができた。
「マンション・オフィスの脱炭素化に向けた究極の黒子の役割を果たしていきたい」と語る丹治氏。他社にはないビジネスモデルで会社を成長軌道に乗せると同時に、数年後には世界進出を果たすことが、社長としての自らのミッションだと前を見据える。