【脱炭素時代の経済探訪 Vol.19】関口博之 /経済ジャーナリスト
いわゆる物流の「2024年問題」でドライバーの人手不足が懸念されているが、インフラである物流施設の方は大きく進歩しつつある。もはや従来の倉庫のイメージはない。今回訪ねた日本GLPの「GLP ALFALINK相模原」でそれを実感した。
30万㎡の広大な敷地には4棟の巨大倉庫群が並ぶが、緑も多く開放的だ。入口からゲートも検問がないので誰でも入れる。散歩もできるし、食堂やコンビニが入る共用棟の脇にはフットサルコートがあり、近くの子どもたちが遊ぶ姿もある。“地域に開かれた場所”がコンセプトだ。日本GLPの帖佐義之社長は「物流施設のマイナスイメージを変えたかった」という。周辺道路にトラックの往来が増えるだけ、できれば近隣には来てほしくない、そんな住民感情を覆すには地域との共生がカギだ。ここでは地域住民が集う夏祭りも開かれた。地域に溶け込むことは施設側の人材確保にもつながる。
「賃貸型物流施設」というのも、この会社が取り入れたビジネスモデル。本来、競合相手である複数の運送会社や荷主側の流通企業、需要が拡大する一方のネット通販など、大手から中小まで30社以上が入居している。

提供:日本GLP
ユニークなのは施設の一角に新たに設置された「置き配バース」だ。これは、いわば長距離トラックドライバーのための宅配ボックス。例えば早朝に到着した車は、倉庫側の従業員がいなくても、特定の区画のシャッターを暗証システムで開閉できるので荷下ろしが可能。荷受け、荷待ちなど長時間労働の原因になっている無駄な待機時間をなくせる。正直、今までなぜこの手の仕組みがなかったのだろうと思う。
モノを置いて保管しておくだけ、という倉庫の姿も一変している。例えば、倉庫が「工場」にもなるのが最新の姿だ。PC機器であれば顧客注文に応じてカスタマイズし、組み立てる工程はここで行って発送したりする。わざわざ工場に戻して最終調整する必要はない。アパレルなら直近の売れ筋を見て倉庫でプリントしてしまう、食品加工を倉庫で行うケースもあるという。このため施設には高圧電源やガス、工業用水も引き入れている。さらに、ある倉庫ではゲームセンターにある「クレーンゲーム」を大量に設置しているという。それを全国各地のプレーヤーがオンラインで遠隔操作し、成功すれば景品が発送される仕組みだ。
倉庫には人は要らないというイメージも違う。Eコマースの商品発送には手作業も欠かせない。この施設では5000人が働いているという。ただし、時期によって人手が多く必要だったり余ったり、差も大きい。このため複数の人材派遣会社が常駐の事務所を置き、要員のやり繰りを担う。
かくして、ビジネスは次々と連鎖して広がっていく。新たなビジネスを生みだす結節点として、会社では“オープン・ハブ”をコンセプトに据える。「2024年問題」と心配の種にされがちだが、やり方一つで物流こそイノベーションの可能性に満ちているといえないだろうか。
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