飯倉 穣/エコノミスト
1、 「構造改革」の意味~明確な定義なし、官製用語
経済政策として構造改革の言葉が、平成時代を舞った。市場機能の貫徹を標榜した。公的なものの民営化、規制緩和、貿易制限廃止等である。市場原理かつ競争促進政策が要であった。それらは構造的な改革だったであろうか。
現経済の行き詰まりを見れば、これまでの構造改革は現状認識の間違いから出発した対策の連続であった。構造とは何かと改めて問うと疑問も多い。経済論的に「構造改革」の言葉に明確な定義は見当たらない。官製用語である。政治学的意味は、何かする(Do something)で、単なるプロパガンダのようである。
「経済構造」(経済学的意味)として捉えれば、構造パラメーターと呼ばれ短中期的に一定と考える条件(貯蓄心、勤労精神、社会秩序維持の態度、技術水準、技術革新状態、教育水準等)のようである。これらの条件は、現経済活動の枠組みである。その条件を変更した場合、日本経済が、成長・健全化に向かうか、余り変わらずか、逆に混沌に落ち込むか不明である。一連の“構造改革“は、それを目指す提案もあるが、多くは既得権奪取狙いの制度変更である。成長と関係希薄なパイの再配分か混乱となる。
この視点で電力自由化、郵政民営化を述べてきた。今回は、構造改革の路線上にあった財投・政府系金融機関改革を考える。
2、目玉構造改革のその後
電力改革検証は本質を回避
平成以降、幸いにも行政でPDCA(計画・実行・確認・改善)を意識させた。所謂“構造改革”も検証対象となり、時折話題となる。例えば電力システム改革(電力自由化)の検証が進行中である。検討資料は、発送配電分離による各工程分離の問題に入ることなく、電源確保(容量市場)、卸電力市場・小売市場の不都合を手直しする弥縫策に終始している。本質に近づかない議論に首を傾げる。
郵政民営化は蒸し返しか
構造改革最大の目玉だった郵政民営化はどうか。郵政民営化委員会意見(2024年3月7日)でも今後のビジネスモデル不明・経営者の指導力不足を嘆く。そして報道は伝える。「郵政民営化撤回 動く局長会自民議連が法改正検討 維持コスト捻出狙い 郵政側は反対 行方は不透明」(朝日同4月5日)。郵政民営化に伴う経済的・政治的利害関係が輻輳し、今後の方向は迷走しそうである。
財投・政府系金融機関整理は音無し
郵政民営化と同時に構造改革の柱だった財政投融資・政府系金融機関改革もあった。入り口(郵貯等)、中間(資金運用部・財投計画)、出口(運用先・特殊法人等)の区分けで、それぞれ問題の指摘があった。議論は、入り口(郵貯等)の民営化を中心に進んだ。中間は、郵貯等の資金運用部預託廃止、財投債で必要資金調達となった。同時に出口の運用先の特殊法人・政府系金融機関の整理が大々的に取り上げられた。そして官邸主導で大胆な事業合理化・統廃合を実施した。その制度変更直後、金融危機発生で一部手直し再活用があった。その後制度改革の成否はあまり話題とならない。何故だろうか。
3、財政投融資(資金の流れ)の見直し
財政投融資は、財投債等で調達された財政投融資資金(財政融資資金勘定・投資勘定の区分あり)で、国の政策(財政投融資計画)に沿い、特会、地方公共団体、政府関係機関、独立行政法人等に長期・固定・低利の融資や出資をする。
2000年まで郵貯・年金等の預託が原資だったが、制度見直し(法改正00年)で資金運用部・預託廃止となった。現在、財政投融資計画は、金融市場から財投債で必要資金を調達し、必要額を財投機関に投融資する。加えて機関の健全性判断を市場に委ねる意味で、財投機関は、事業に必要な資金を自主調達(財投機関債)する。この点は政策遂行の視点から評価が分かれる。
これで財投は、預託義務資金から解放され、財投原資の市場化で、市場との整合性確保、財投計画の肥大化防止、自主調達で政府関係機関の経営効率化等に努める姿になったという。金利の決定システムが、政治的・官庁的交渉・手続き(従来国債金利に0.2%上乗せ)から、金融市場(財投債発行)に移行した。民間と郵貯は、イコールフッテイングとなる。制度変更で郵政は、郵貯等の自主運用のメリットとリスクを抱えることになった。
4、政府関係金融機関の見直し
財政投融資対象は、民業補完の視点で事業整理もあった。とりわけ政府系金融機関は、90年代以降一貫して見直し対象だった。類似業務機関の廃止統合が行われた(北東・開銀、医療・環衛・国民等)。そして「政策金融機関改革の基本方針」(05年11月)は、政策金融機能を、①中小零細企業・個人、②海外資源確保・国際競争力確保、③円借款に限定し、他は撤退とした。また政策金融は、貸出残高GDP比半減、財政負担なし、再編後も縮小努力、民営化機関は完全民営化の方針を示した。
この結果、国民・中小・農林・沖縄・国際協力銀行の統合(日本政策金融公庫)、政投銀・商中の完全民営化、公営公庫の廃止・自治体移管(地方公共団体金融機構)があった。その後紆余曲折を経て、財投対象として政府関係機関(沖縄振興開発金融公庫、株式会社日本政策金融公庫、株式会社国際協力銀行、独立行政法人国際協力機構有償資金協力部門)、株式会社日本政策投資銀行、株式会社商工組合中央金庫となる。
融資対象は、政策公庫が、中小・個人・農林水産業、政投銀は産業・インフラ・地域・海外、国際協力は、重要物資確保・海外展開等である。機関再編・業務整理後、リーマンショックあり、コロナウイルス感染あり、日本経済停滞に伴う活性化必要対策ありで、政策金融の役割は、山あり谷ありである。