グループの技術と知見を結集 設備や運転ノウハウを一括販売


【エネルギー企業と食】エア・ウォーター×サーモン養殖

近年、海水温の上昇や赤潮などで漁獲量が減少している。漁業従事者の高齢化や人手不足も問題だ。こうした課題に対し、環境に依存しない安定的な漁業モデルである陸上養殖の拡大を目指しているのがエア・ウォーターだ。

同社は長野県と北海道の2カ所で陸上養殖を行っている。どちらも海に面していない内陸地だ。長野県の松本市にある「地球の恵みファーム・松本」は、食物残渣から生成したメタンなどを利用するエネルギー循環型の施設を建設中。北海道の東神楽町にある「杜のサーモンプラント・東神楽」は、寒冷地における陸上養殖のモデルプラントだ。陸上養殖は一般的に、気候が温暖な西や南の地域で展開される。寒冷地では熱エネルギーのロスが大きいからだ。また商業規模で採算を取るには大型設備が必要だとされている。そこで同社は杜のサーモンプラントで、1000㎡程度の中規模設備での採算性などについて実証を行っている。

杜のサーモンプラント・東神楽

東神楽町は養殖の第一条件である豊かな地下水に恵まれた町だ。旭川空港を有し、東京から2時間程度とアクセスも良い。内陸地の町で水産課もない中、町長をはじめ手厚い協力もあったという。

同施設は2023年5月30日に稼働を開始した。現在、およそ1万2000尾のニジマスを飼育。出荷前の数週間のみ人工海水を使用し、サーモンとして出荷する。人工海水を用いることでうま味も増す。この人工海水を利用し、ウニの飼育も進めている。6月に50gほどだったパイロットフィッシュは600gほどに、卵からかえった稚魚も約50gにまで育った。目安は2kgほどで、25年の夏ごろがめどだ。ふるさと納税の返礼品に、との要望もあるという。

この陸上養殖はエア・ウォーターグループが有する技術や知見が組み合わされている。水に溶かし込む酸素のほか、人工海水はグループ会社の日本海水のものを使用。養殖水槽の加温用のボイラーではLPガスだけでなく、鹿追町で手掛ける家畜糞尿からつくり出したバイオメタンの混焼利用も進める。

そしてエア・ウォーターが販売するのは、サーモンではない。養殖プラントの設計から設備の運転、メンテナンスまで一貫したパッケージで販売する。すでに多くの見学者を受け入れ、具体的な提案を進めている。陸上養殖事業部の大城優氏は「これから初めての冬を越え、ランニングコストなどを検証できるようになる。事業採算性が合うプラントを提案し、陸上養殖を広めていきたい」と意気込みを語った。

【コラム/1月25日】新年経済の課題を考える~財政頼り日本病の回復に向けて


飯倉 穣/エコノミスト

1,経済政策と膨張予算に疲れ

日本病が時折語られる。経済低調の下で、経済政策の迷走が継続している。財政出動、金融緩和、賃上げ、貯蓄を投資に、エネ価格補てん、特定産業設備投資補助金交付等々である。そして膨張予算が継続している。報道は、伝える。

「来年度予算案112兆円・過去2番目 政府決定 社保・国債費、最大の58% 実質は増額、予備費圧縮」(日経23年12月23日)、「飛躍2024 動かす福来る日本へ 運用立国の「基盤」は私が 「貯蓄から投資」に担い手増やせ」(日経同)、「まずは経済だ・・新たな経済へ移行する大きなチャンスをつかみ取るための本丸は物価上昇を上回る賃上げの実現だ・・(首相会見の要旨)」(日経同1月5日)

近年の財政出動は、エネ価格等物価関連補助金等で必要性疑問(思い付き)の予算措置や、個々人が生計を立てる基本を逸脱する「無料化打ち上げ・誰かの負担」というばら撒き的予算も目立つ。それを財政赤字継続、国債増発、日銀国債購入が支える。そこに日本病の言葉がある。平成・令和時代(特に2010年代以降)の経済・財政政策は、日本経済の成長や健全化をけん引しただろうか。日本経済の病因と課題を考える。


2,日本病の現象~症状は

日本病とは、バブル崩壊以降の日本経済の低迷と根拠希薄な経済政策の挫折の姿である。経済関係の指標を見れば、一目瞭然である。幾つかの指標を見てみよう。例えばGDPの伸び率(~22年、暦年平均伸び率)は、過去10年間(12年から)で名目1.1%、実質0.5%(同30年間:92年から名目0.4%、実質0.7%)である。経済は、高水準ながら、ほぼ横ばいで推移した。橋本6大改革の後、小泉改革「改革なくして成長なし」やアベノミクス(三本の矢)も喧伝されたが徒労に終わった。

日本の一人当たりGDP(年度)は、各国比較で過去円高やバブル経済の名残(400万円/人)で先進国中第1位の年(ドル換算:95年、1ドル94円)もあった。今(22年)は、G7で最下位となった。

大きな変化は、財政赤字、政府債務残高にある。財政赤字は、過去29年連続公債依存度20%超、多くの年次は30%超である(GDP比財政赤字5~10%で推移:24年度5.7%)。

毎年30兆円の借り入れで経済水準を押し上げ、喘ぎ喘ぎの循環である。好循環か悪循環か。その結果普通国債残高は、90年度末166兆円、そして24年度末見込み1,105兆円(GDP比180%)である。

これらの経済・財政指標を見れば、日本病と揶揄する段階を超え、瀕死の状態である。それでもこの状況を深刻に憂える国民は如何程であろうか。経済人も財政依存経済に浸かり、言葉や行動に危機感を感じさせない。今となっても経済成長は政府の仕事と政府施策・予算を要求する。そして財政再建・健全化は、成長頼りが続く。これが日本病である。

OECDは今年も財政収支・債務問題を危惧し、段階的な消費税率の引上げの必要性を言明した(日本記者クラブ会見1月11日)。

政治的に浮上したトリガー凍結解除 問われる石油関連税制の在り方


【多事争論】話題:トリガー条項とガソリン暫定税率

トリガー条項を巡っては与野党協議が行われるなど国民の注目を集めた。

石油元売りに補助金が投入され続ける中、有識者はこの問題をどう考えるのか。


〈 石油諸税の総額は6兆円弱 特例税率廃止を検討すべき時期に 〉

視点A:伊藤敏憲/伊藤リサーチ・アンド・アドバイザリー代表取締役兼アナリスト

石油製品に関する税金には、原油および石油製品の輸入時点で課される石油・石炭税、輸入石油製品に課せられている関税、ガソリン税(国税の揮発油税1ℓ当たり48・6円うち特例税率24・3円、地方税の地方揮発油税5・2円うち特例税率0・8円、沖縄県は総額5・5円軽減)、軽油引取税(32・1円うち特例税率17・1円)、航空燃料税、石油ガス税などの石油製品に係る税がある。石油製品の小売価格に課されている消費税を含めると石油関連税の総額は、政府の2023年度予算で約5兆7600億円に及ぶ。

なお、ガソリンは、税率が高く、かつ石油石炭税やガソリン税を含めた小売価格に消費税が上乗せされた「二重課税」になっているが、石油関連税以外で同じ扱いなのは酒税とたばこ税だけである。

燃料油の国内市況は、原油価格の高騰と円安を反映して21年に急騰した。国民生活や経済活動への影響を抑えるため、21年12月に「燃料油価格激変緩和対策事業」が閣議決定され、レギュラーガソリンの小売価格が支給基準額1ℓ当たり170円(当初)を超えた22年1月から、卸売事業者にすべての燃料油を対象とした補助金が支給され、卸売価格が同額抑制されている。燃料油の国内市況は、この対策の効果によって、22年3月以降、原油価格や為替レートの変動に左右されず、ほぼ横ばいで推移している。

燃料油価格激変緩和対策事業の規模は予算ベースで、22年1月から23年9月末までで約6兆2千億円。23年10月から24年4月までの事業規模は、原油価格および為替レートを横ばいで想定すると約2兆円に及ぶ見通しで、石油関連税の総額の約3分の2が相殺されている。


トリガー条項の復活 過去の経緯踏まえて検討を

トリガー条項は、10年3月31日に導入されたガソリンと軽油の価格抑制策である。レギュラーガソリンの全国平均が3カ月連続で同160円を上回った場合に、ガソリン税と軽油引取税の特例税率の課税を停止することでガソリンと軽油の価格を引き下げる制度だ。ただ、発効することなく11年4月27日に凍結されたので、同条項を発動するためには法律を改定する必要がある。トリガー条項が発効すると、ガソリンは特例税率に消費税を加算した同27・6円、軽油は特例税率同17・1円、それぞれ小売価格が低下する。

このトリガー条項の復活を求める声に対して、鈴木俊一財務相が、①発動直前に買い控えが起こる、②発動直後に駆け込み需要が生じる、③発動前後に販売現場での混乱が生じると予想される―などの理由を挙げて「トリガー条項の発動は見送る」と発言したが、この説明の一部は間違っていない。

10年4月に国会審議の遅れなどにより、ガソリン税と軽油引取税の暫定税率(現在の特例税率)が一時的に失効した際、その数日前からガソリンと軽油の買い控えが起き、失効直後に需要が急増。暫定税率が復活した数日前から駆け込み需要が発生し、上昇後に需要が減少した。そして、失効前後と復活前後に、給油、受発注、配送などが混乱し、給油所のタンクの在庫の税率と販売時の税率との差から販売事業者の収支が圧迫された。

【需要家】子供と大人の対話 気候変動問題こそ重要


【業界スクランブル/需要家】

先日、小中学校で環境教育をしている学校の先生と話す機会があった。例えばプラスチック問題について授業で取り上げ、「なるべく使わない」「リサイクルする」といった話をしても、スーパーに行くと圧倒的な量のプラスチックを目にし、どうにもならない現実を子供たちは思い知るのだそうだ。そのため今の環境教育は自己満足に陥っているとの危機感を覚えるのだという。

これは環境問題だけではないだろう。世の中に重大な問題が多くあることを伝えても、ではどうしたらよいのか、現時点では答えのない問いを皆で議論する経験は、従来の学校教育ではなかなか得られない。「こういう技術や制度があればよいのではないか」という議論を起こし、その道の専門家とも対話できれば、将来のイノベーションにもつながる可能性があると思う。しかし、これを学校だけに求めることは妥当だろうか。本来は、日本社会でそうした議論の土壌を醸成すべきではないか。

「1・5℃目標」は社会構造そのものを作り変えなければ到底達成できない。だからこそ本当は、大人と子供が一緒に「これからの社会をどうしたいか」「そもそも社会はどうあるべきか」という根源的な問いに向き合うべきだし、ともに答えのない解決策を考えるべきだ。これは、通常の学校教育の範囲に留まっていては実現できない。

脱炭素は容易ではないが、だからこそイノベーションの源泉にもなり得る。子供たちとそのことをポジティブに話し合うことは、学校というよりも大人に託されていることだろう。今のインターネット技術があれば、ある程度トライできると思う。それができなければ、いずれAIネイティブの子供世代に「大人は不要」という烙印を押されるかもしれない。(O)

自動運転への思いを胸に EV充電インフラを支える


【エネルギービジネスのリーダー達】四ツ柳 尚子/e―Mobility Power 代表取締役社長

日本のEV充電サービスをけん引してきたイーモビリティパワー。

電気料金の高騰や急速充電器の高出力化などの課題に挑む。

よつやなぎ・しょうこ 仙台市出身。早稲田大学卒業後、東京電力入社。主にオール電化住宅の普及に向けた企画などに携わる。2018年経営技術戦略研究所リソースアグリゲーション推進室室長補佐。19年から現職。

電気自動車(EV)の充電インフラ整備を手掛けるイーモビリティパワー。東京電力と中部電力に加えて、トヨタ自動車や日産自動車、ホンダ、三菱自動車といった自動車メーカーなどを株主として、2019年10月に設立した。代表取締役社長を務めるのは東電出身の四ツ柳尚子氏だ。


EVの進化とつながり深く 正解がすぐには分からない仕事

「思い返してみれば、EV充電につながる仕事をしていた」と振り返る東電時代。オール電化への切り替えプロモーション「スイッチキャンペーン」のリアルプロモーションの責任者を務め、ショールームにはEVや充電器を展示していた。

かねて四ツ柳氏が強い関心を寄せるのが自動運転だ。現在も駐車サポートや衝突回避などコンピューターが自動車の運転をサポートするが、その先には運転手を必要としない完全な自動運転時代が到来すると期待している。

16年には、東電の「次世代リーダー研修(NLT研修)」に参加した。「30年の東電の新たな収益の一つの軸となるようなビジネスを提案する」という課題に対して、チームで提案したのは「モビリティ事業」だった。自動運転は制御性に優れるEVとの相性が良く、「EVの背中を押すのは自動運転だと思った」。福島第一原子力発電所の構内で自動運転のプロジェクトを行ったこともある。

自動運転への熱い想いを胸に秘めながらも「目指すべきゴールは一緒」との思いでイーモビリティパワーの社長に就任した。「電力業界は脱炭素や原発の再稼働などの難題に立ち向かっている。日本経済も成熟期を迎えた中で、EVは数少ない右肩上がりの領域」と充電インフラ事業のポジティブな要素を語る。一方で、自動車の電動化はどの国も経験したことがない未知の領域。EVの普及スピードには違いがあり、「軽自動車大国」の日本では、流通する車体も異なる。何をするにも「正解」はもちろん、ベンチマークとなる事例も少なく、常に手探り状態。それが事業の難しさであり、やりがいにもつながる。

【再エネ】自治体が直面 再エネ導入の壁


【業界スクランブル/再エネ】

最大50億円、そんな大規模な補助事業に注目する自治体が増えている。環境省主導の交付金における「脱炭素先行地域づくり事業」では、地域特性に応じて脱炭素に向かう先進的な取り組みを行う地域を少なくとも100カ所選定する。現時点で第4回の選定を終え、36都道府県95市町村による74提案が選定されている。

重視されるのは、他地域のモデルとなるような先進性と計画の実現性だ。この両立が非常に難しい。すでに多くの取り組みが採択される中、既存の内容と重複せず先進性を打ち出しながらも、地域の合意形成を含めて実現可能性を高めることが求められるからだ。他方、同交付金で補助金上限が20億円の「重点対策加速化事業」については、比較的要件が緩やかで申請数が少ないこともあり、今までは穴場の補助事業と言われてきた。だが、脱炭素先行地域への採択を断念する自治体が駆け込みで申請すると見込まれており、今後の採択に向けた競争率は急激に高まっているように思う。

国は自治体に対して地域の特色を生かした再エネ導入と活用を促すものの、カーボンニュートラルの実現に向けて面的に再エネを普及させるための費用負担を考えると、こうした補助金に頼らざるを得ないのが現実だ。加えて、太陽光発電や陸上風力発電はこれまで比較的大規模な開発が容易なエリアから導入されてきたが、今後はより小規模かつ分散型での電源開発、つまり住宅地に近いエリアでの開発の機会が増えることになる。いくら環境意識が高まりつつあるとはいえ、住民との合意形成のハードルはますます上がっていくだろう。地域の合意形成をいかにスムーズに進め、同時に財源を確保することができるか。それが今まさに自治体が直面している課題なのである。(K)

【火力】将来の需給シナリオ 大切な責任と覚悟


【業界スクランブル/火力】

経済産業省の発表によると、今冬の電力需給は、全国的に必要となる予備力を確保できる見込みであり、2年ぶりに節電要請を行わない方針とのことだ。電力の安定供給に関しては、多種多様な対策が講じられるわけだが、昨年春以降に全国で300万kWを超える新設火力が運転を開始した効果が最も大きいと考えてよいだろう。

このようにこの1年は供給力が増加したが、その先は供給力減少の傾向が避けられそうにない。昨年運転を開始した火力設備は、東日本大震災直後の電力不足時に計画されたものであり、その先の2026年から30年にかけては、火力の新設がなくなる一方で、運開後45年を経過する設備が1200万kW以上もあり、これらが順次停止していくことが想定されている。

現在、長期脱炭素電源オークションや予備電源などの制度整備が進められているが、大型電源投資を判断する上で必要となる長期の予見性が十分確保されておらず、それに対応するため「将来の電力需給シナリオに関する検討会」が広域機関を事務局として立ち上げられている。

これにより、発電部門として計画的な発電設備の新陳代謝や既設設備の脱炭素化が進むことを大いに期待するところではあるが、不安の方が大きいというのが本音だ。当然のことながら、20年後30年後を正しく想定することは容易ではなく、幅広の検討結果は、単なる評論で終わってしまう恐れが強い。

大切なのは予測を当てることではなく、予測が外れた時の対応策をどれだけ準備できるかに加え、何よりそれをやり抜く責任と覚悟を固めることだ。国もエネ基と切り離して自由に検討してくれと逃げを打つのではなく、エネ基の策定により国益を確保するとの気概を持ってもらいたいものだ。(N)

【マーケット情報/1月19日】欧米原油が上昇、供給逼迫感を反映


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、米国原油の指標となるWTI先物、および北海原油を代表するブレント先物が小幅上昇。供給不安や生産減が、価格に対する強材料となった。

イエメンを拠点とする武装集団フーシは18日、クウェイトに向かって航行中だったケミカルタンカーに対して、対艦弾道ミサイルを発射。怪我人や船舶の損傷はなかったものの、中東地域における情勢が一段と悪化したとみられ、供給不安が強まった。また、最低でも4隻の中東積み原油を載せたタンカーが、紅海およびスエズ運河を避け、南アフリカの喜望峰経由で欧州に向かっているようだ。

米国およびカナダでは、寒波により原油の生産が一時停止。米国ノースダコタ州では17日、50%以上の原油および天然ガス生産が止まった。ただ、その後は徐々に再稼働し、19日時点での稼働停止は、30%程度となっている。加えて、米国では輸入減を受け、週間在庫が減少している。

一方、国際エネルギー機関は、2024年の原油供給量が、過去最高の日量1億305万バレルに上り、供給過多になると予想。米国、カナダ、ブラジル、ギアナからの産油量が増加するとの見方を示した。OPECは、2025年までの需要の伸びを予測するが、2024年における増加は想定のペースを下回るとも言及。 中東原油の指標となるドバイ現物の価格が、需給緩和感を映して小幅下落する要因となった。


【1月19日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=73.41ドル(前週比0.73ドル高)、ブレント先物(ICE)=78.56ドル(前週比0.27ドル高)、オマーン先物(DME)=78.79ドル(前週比0.39ドル安)、ドバイ現物(Argus)=78.74ドル(前週比0.21ドル安)

【コラム/1月22日】米国の電力自由化は成功しているか


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

米国で、電力自由化の成否についての議論が最近活発化している。米国では、1997年にロードアイランド州で産業用需要家に限定した電力自由化が、そして1998年には、カリフォルニア州とマサチューセッツ州で家庭用需要家も対象とした全面自由化が始まり、その後本格的な電力自由化時代に突入した。同国では、電力自由化開始後、電気料金は上昇基調にあり、とりわけ2022年は、世界的に大きく上昇した化石燃料価格を反映して、全国平均の家庭用電気料金の上昇率は、13%と自由化開始以降最大となった。これを契機に米国では、電力自由化に対する疑問が呈されるようになった。

2023年1月4日のニューヨーク・タイムズ紙には、「なぜエネルギー価格はこれほど高いのか?規制緩和を非難する専門家もいる」と題した記事が掲載された。米国では、電力小売市場が自由化された州と規制されている州があるが、記事では、何人かの専門家の見解を紹介しつつ、自由化州では、非自由化州と比べて電気料金は高くなる傾向があり、自由化州の消費者は、非自由化州の消費者よりも電気代を月約40ドル多く支払っていると指摘している。実際、エネルギー情報局(EIA)のデータで見ると、電力自由化開始当初から自由化州の電気料金は非自由化州と比べて高かったが、その差は現在まで縮小していない。

エネルギーアナリストであるRobert McCullough氏は、ニューヨーク・タイムズ紙の依頼で電気料金の動向を調査したが、自由化州と非自由化州の料金格差がこれほど長い間縮小しないのは、何か機能不全があるはずだと述べたことを同紙は紹介している。そして、比喩を使って「あなたの車の調子が20年もの間悪ければ、修理工場やディーラーにもっていくでしょう」とも述べたとのことである。

ニューヨーク・タイムズ紙によれば、自由化州の電気料金が高いのは、発電事業者が卸電力市場に電力を販売し獲得した利益が、効率化によるコスト節減分を上回っており、その差額が消費者に還元されていないためである。また、自由化で、発電や小売は、競争にさらされるようになったが、送配電は依然として独占であり、利益の増大のためにネットワークを拡大するインセンティブが生じ、その投資コストが増えていると述べている。そして、自由化州では、規制当局によるネットワークの建設計画や料金の認可は甘くなっているとしている。これに対して、非自由化州では、垂直一貫した電気事業がより厳しい規制を受け、コスト管理もより厳格であるとの見解が述べられている。

消費者団体の見解も紹介されており、わが国でも有名なRalph Naderが設立した消費者権利擁護団体Public Citizenでエネルギー・プログラムを担当するTyson Slocum氏は「こうした市場(自由化地域で設立されている独立系統運用者が運営する市場)は、実はあまり効率的ではない。このような市場は、実は最小コストのオプションではない」と述べている。Tyson Slocum氏には、筆者も何回かお会いする機会があったが、彼は、一貫して、垂直統合され規制された電気事業のほうが、垂直統合が分離され、競争が導入された電気事業よりも効率的だとの見解であった。また、カリフォルニア州の消費者団体TURN (the Utility Reform Network)も同様な見解を示している。筆者が、かつてTURNのダイレクターであったRobert Finkelstein氏にお会いした時、同氏は、「多くの消費者団体がそうであるように、TURNも電力分野は規制のままが(従って垂直統合が)望ましいとの立場である」と述べていた。 そして「知らない悪魔より知っている悪魔のほうがまだましだ」と述べた言葉は印象的であった。

さらに、Harvard Business SchoolのAlexander MacKay教授とFlorida大学のIgnacia Mercadal教授が発表したワーキングペーパー(2023年11月28日にアップデート)でも、発電会社によってチャージされる高いマークアップは、効率化によるコスト削減を上回り、卸売価格が高くなり、これが小売料金を押し上げていると述べている。

これらの自由化への批判に対しては、自由化を推進する立場からは当然反論もある。実際、先述のRobert McCullough氏が過去に同じ趣旨の見解を提示したとき、米国における電力自由化を主導したHarvard大学のWilliam W. Hogan教授は反論し、独立系統運用者が運営する卸電力市場における限界発電プラントによる入札価格で市場が高価格となることは、市場の効率性を意味しており、卸電力市場における市場支配力軽減ルールにより、高価格が市場支配力の行使によるものか、効率的な運営の結果かは、チェックされていると述べている。さらに、自由化地域で設立されている独立系統運用者が運営する広域的な市場において、増大する再生可能エネルギー電源のネットワークへの統合を促進するためにはネットワークの増強は必要であり、地球環境問題の解決の観点からも望ましというのが規制当局の基本的な考えである。

このように、米国では電力自由化を批判する見解とそれを擁護する見解とがあり、議論は平行線である。しかし、自由化が始まり20年以上経過し、自由化州と非自由化州の料金格差が一向に縮小していない事実がある限り、米国の電力自由化が成功したとは言い難く、自由化への批判や懐疑論は根強く存続し続けるだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授、東北電力経営アドバイザーなどを歴任。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【原子力】欧州の模範国 スウェーデンの先進性


【業界スクランブル/原子力】

ウクライナ戦争などを契機に世界的なエネルギー危機の様相を呈する今日、フランスをはじめ、ドイツを除く世界各国が原子力シフトを開始したようだ。

米エネルギー省は2023年12月、「世界全体の原発の発電容量を50年までに3倍に増やす」との宣言に、日本を含む22カ国が賛同したと明らかにした。この宣言には、日米のほか英国やフランス、スウェーデン、フィンランド、韓国、COP28議長国のアラブ首長国連邦(UAE)なども賛同している。

そうした動きの中で特に注目したいのが、政府としてロードマップを策定したスウェーデンの動きだ。議会が原発の新設に向けた法改正を可決し、24年1月1日から施行する。

これにより、総発電量を倍増させるため、遅くとも35年までに大型炉2基分に相当する原子力設備を完成させる。ほかにも45年までに大型炉で最大10基分の設備を追加するなど、原子力の大規模な拡大が実現する。

スウェーデンでは現在、フォルシュマルク、リングハルス、オスカーシャムの各地で合計6基の原発が稼働中。電源構成は水力(45%)、原子力(30%)、風力(17%)で、石油火力はわずかだ。

歴史的な1972年のストックホルム会議を主催するなど、もともと環境先進国だが、エネルギー政策では社民党政権下で脱原発を決めた80年の国民投票の後、一転して現実路線を堅持している。今やヨーロッパで最も熱心な原発国であり、日本にとっても範とするに足る国だ。

国境を接するロシアと対峙するためにも、原子力推進により国力増強を図ることに国の死活的重要性が存すると広く国民が理解しているからだろう。その点は、わが国も見習うべきであることは言うまでもない。(S)

今下す一連の決断が未来の礎 日豪協力の新たな形を思い描く


【リレーコラム】エリザベス・コックス/オーストラリア大使館公使(商務

1年の中で1月は、過去を振り返り未来を見据えるのにふさわしい時です。

2023年10月には、日豪経済界が一堂に会する重要な年次会合にとって記念すべき60周年を迎えることができました。その年次会合に先立って豪産業界300人の聴衆を前に私がお話した際、冒頭にご紹介したこの表現が共感を呼んだように感じられました。

その中で鉄鉱石、石炭、液化天然ガスに端を発した過去60年の日豪通商関係の経緯についてお話しました。そして現在、豪州は日本にとって最大のエネルギー供給国となっています。

豪州が支える日本のエネルギー

こうした点を簡単に説明すると、毎日1隻以上のLNGタンカーが日本の港に向けて出航し、日本のインフラで使われている鉄鋼の半分を豪州産の鉄鉱石、原料炭などが支え、日本の電力の1日当たり8時間分は、豪州が日本に輸出するエネルギー源で生み出されているのです。

一方で、この点と比べて明確に見えないのは、「これから、何をするか」という側面でしょう。日豪両国の政府が同様の排出削減目標を掲げていることは、プラスになるでしょう。ただし、水素、アンモニア、重要鉱物のプロジェクトが必要とする資本の国際争奪が厳しいものであることも理解しています。

豪州は22年、重要鉱物戦略を改訂・公表しました。この戦略の目標は、豪州がESG基準で世界をリードする立場にいることと、より強固なサプライチェーンのための国際的な提携関係を構築することにあります。また、豪州政府は、再生可能水素プロジェクトに対し大規模な投資を継続しています。

しかし、もっとも重要な点は日本が持つ、両国経済のためだけでなくより広い地域の脱炭素化を後押しする、という大志と緊急性を豪州が共有していることです。

ですから、これから50年、60年後の未来を思い浮かべると、日本のパートナーと共に開発された豪州での再生可能エネルギープロジェクトから生産された液化水素が、日本建造のタンカーによって、豪州の港から地域へと輸出されていきます。また、日豪共同開発プロジェクトでつくられた持続可能な航空燃料で飛ぶ飛行機や、日本製の蓄電池と豪州で精製された鉱物を使った電動航空機に乗って、日豪の観光客が互いの国を訪れている未来も想像できます。さらには、未来のための日豪協力の新たな形を思い描けます。私たちが今下す一連の決断が50年、60年先の未来を形作る礎となるのです。

エリザベス・コックス オーストラリア国立大学で学士号、シドニー工科大学で修士号を取得。2021年にオーストラリア貿易投資促進庁に入庁し、東京に赴任。現在は北東アジア統括ジェネラル・マネージャー、および在日オーストラリア大使館で公使(商務)を務める。

※次回はハイドロジェンエンジニアリングオーストラリアの福間悠子さんです。

【石油】中東対アフリカ OPECプラスで内紛


【業界スクランブル/石油】

OPECプラスは、11月30日、年2回の閣僚級会合(以前のOPEC総会に相当)を開催し、6月に決めた1月からの減産合意を追認したが、追加減産は見送った。ナイジェリア、アンゴラなどのアフリカ諸国が生産量未達を理由に削減された新生産枠を不服として、サウジアラビアなどと対立、新しい合意を決められなかった。

ただ最近の原油価格軟化・2024年の景気後退観測に対応するため、OPECプラスの協調減産とは別途、従来のサウジ日量100万バレル、ロシア30万バレルの自主減産を延長。さらにイラク、UAEなど6カ国で70万バレル、ロシア20万バレルの自主的な追加減産で、計220万バレルを24年第1四半期に実施する旨が発表された。

問題は24年の世界石油需要である。11月中旬時点でIEAは景気減速・EV普及で前年比90万バレル増に伸びが鈍化するのに対し、OPECは前年並みの225万バレル増の伸びを予想している。なお、IEAは24年の非OPECプラスの石油供給を米国、ブラジルを中心に160万バレル増とみており、数字を見る限り、それなりの対応となっている。

追加減産が合意できなかったことでWTI先物価格は会合後2日間で約4ドル下落したが、今回、むしろOPECプラスで注目されるのは、北アフリカ参加国の不満という形の新しいほころびである。過去、OPECでも、北アフリカ諸国の違反増産で原油価格が暴落した例は数多い。今後の展開が気になるところである。

また、今回ブラジルがOPECプラスにオブザーバー参加するという。大統領に復帰したルーラ氏がはしゃいでいるだけだと思うが、24年の大規模増産が計画されているだけにこちらも注目される。(H)

【シン・メディア放談】電力ニュースの陰に隠れた化石業界 2024年の業界展望を占う


<メディア人編> 業界A紙・業界B誌・業界C紙

脱炭素という宿題を抱えつつ、足元は意外にも静かだった化石燃料業界。新たな年の行方はいかに。

 ―2023年は大手電力の不祥事問題や規制料金値上げなどに関する報道でたびたび業界がやり玉に挙げられた。翻って化石燃料業界では電力ニュースほどパンチのある出来事はなかったと思う。

A紙 23年の年明けは、その前年大混乱だったエネルギー価格がどう展開していくのか、心配が強かったが、ふたを開ければ懸念したほどの問題は生じず、意外と静かな年だった。

B誌 原油価格動向からもそれは分かる。年後半のWTIは1バレル70~80ドルの狭いレンジで概ね推移。地政学リスクが騒がれたが、OPEC(石油輸出国機構)の方針がそれなりに機能したといえる。

C紙  LPガスのCP価格も安定していた。さらに22年度に続き23年度補正でも流通合理化で多額の補助金が計上され業界は潤った。

B誌 他方、国内市況は9月4日にレギュラーガソリン全国平均価格が調査開始以来の最高値となった。その後、補助金の延長により1ℓ200円超えといった事態は回避したものの、市場のゆがみは一層拡大している。

―23年はオイルショックから50年だったが、足元では石油の中東依存度が再び高まり、オイルショックの教訓が生かされているとはいい難い。

B誌 ただ、中東比率が高いことは悪いことばかりではない。実際、何かとリスクが指摘されても供給途絶は生じていない。中東はアジアだから、日本人の考え方と似ているといった話も聞く。地政学リスクがなくなることはないのだから、日本はこれまで通り買い続けると言っていけば、中東が減産しても日本との関係を切ることはないだろう。

―LPガスでは取引適正化への対応がようやく前進したことも大きかった。

C紙 資源エネルギー庁は今回かなり本気だった。審議会メンバーの選び方、そして公での発言と実態の違いを通報できるフォームの設置は画期的だ。やはり朝日の連続報道が発端となり、その背景としてエネ庁がメディアをうまく使ったことが大きかった。重ねて消費者団体も声高に訴えていた。

A紙 企画官ポストがなくなり課長マターとなったことが、逆にうまく作用したのかもね。

C紙 他方、この問題は国土交通省が重い腰を上げなければ頓挫する。一般紙にはLPガス事業者をいじめるだけでなく、国交省や不動産事業者側の問題にもしっかり切り込んでほしい。

【ガス】二刀流で持続可能に イグニチャーへ期待


【業界スクランブル/ガス】

11月30日、東京ガスは新しいソリューション事業ブランド「イグニチャー」の立ち上げを発表した。今まで培ってきたノウハウにGXやDXなど最新技術を融合させることで、エネルギー分野の枠を超えて、個人・法人・地域社会のお客さまが抱える問題を解決するという。ただ、まだプレスリリースなどには既存ソリューションを超えた内容は示されていない。東ガスが中期経営計画の中で、将来の金のなる木の一つとして位置付けているソリューション事業の「入れ物」が、まずは示されたということだろう。

現在、都市ガス事業者は概ねガス供給の一本足打法だ。しかし、世界中で脱炭素化が叫ばれる中、誰もが「新たな生業を見出して二刀流で持続可能な成長を実現すること」が最重要課題と考えている。幸いにも強固な顧客基盤、信頼ある企業価値、豊富な事業ノウハウがある。特に家庭用の顧客と直接会えることは、他業界にはない強みだが、今まではそうした強みを、エネルギーを超えた分野で生かせないでいる。イグニチャーは、2025年度までに既存ソリューションと合わせて売上高3100億円を目指す。この事業展開は、今後都市ガス事業者にとって大きな示唆となろう。

一方、真にイグニチャーがエネルギー事業からひとり立ちするためには、さまざまな課題を乗り越える必要がある。例えば、家庭用顧客に対しデマンドサイドの発想で供給者の枠を超えて困っている課題を見出し、そこに的確なソリューションを提供できるだろうか。供給者としての強固なDNAを消し去り、急速に変化する将来社会を見据えながら、新事業を展開できるかどうか。これからが正念場だ。決して「仏作って魂入れず」にならないよう、期待を持って注目していきたい。(G)

ウラン市場の構造変化に思う


【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

ウラン市場が熱い。この2年ほどの間に、ウラン精鉱の価格は約2倍。転換や濃縮加工はさらに凄まじく、ともに3倍近い価格になった。

こうなった要因は三つだ。脱炭素の流れやエネルギー危機を踏まえた原子力回帰への期待、福島事故以降の投資の停滞、それに、転換や濃縮も含め市場占有率の高かったロシア産離れである。

幸い、今すぐ発電所が止まるような供給の支障は発生していない。最近では、精鉱に加え、転換後の六フッ化ウランや濃縮ウランの市場も育ってきて、発電事業者などが各工程で保有する在庫の余裕分などを売却することが可能になった。このため、市場価格の上昇とともに、より切実に不足する事業者にモノが動いているようだ。価格シグナルは、鉱山や加工事業者に増産も促しつつある。ただし、最近公表された仏オラノ社の濃縮設備拡張計画をみても操業開始は2028年。短期的には現有設備の稼働向上は期待できるものの、設備投資による抜本的な供給力の増加には、5年程度はかかるのであろう。

前述のような市場の変化により、日本の発電事業者はウランの在庫の持ち方を見直す機会を得た。かつては精鉱の購入に始まり、転換・濃縮などを順次、限られた事業者と長期に契約せざるを得なかったが、さまざまな工程で多様な相手と取引することで、資産の最適化やリスクの分散などが可能になった。

日本全体の電力安定供給の観点からすれば、現在のような需給ひっ迫時のための国内濃縮事業ではないか。世界のウラン需要は長期的に相当増えそうだが、西側の濃縮事業者は実質2社しかない。国内濃縮需要の一定規模を担うという使命を再認識し、増設を加速するという議論はないのだろうか。日本原燃や発電事業者トップの矜持に期待したい。