学生らが東北電に質問状 全面自由化の理解進まず!?


2016年に電力の小売り全面自由化が始まって7年以上がたつが、実は関係者が思っているほど、自由化は世間に浸透していないのではないか―。

9月14日、宮城県内の学生らでつくる気候変動問題や食糧支援などに取り組む2団体が、電気料金を値上げした東北電力に対し公開質問状を提出した。報道などによると、質問状では、電気料金の値上げで生活困窮者が増えていると指摘。その上で、今年度に過去最高の利益が予想される中で、料金値下げを検討しない理由など7項目について回答を求めている。「貧困が広がっている深刻な状況を分かっていないんじゃないか」。質問状を提出した学生は、ニュースの中でこう話していた。

だが、そこには大きな誤解がある。利益が期ズレ差益によるものであること、そもそも規制料金の比率が減少していること、大手電力が嫌なら電力会社を切り替えればいいことなど。今や全面自由化によって規制料金以外の選択肢が豊富にある現実が、すっかり忘れ去られているかのようだ。

認識不足が原因でいらぬ反発を招くのは、業界、利用者のどちらにも不幸なこと。改めて電力自由化をアピールすべきでは?

【覆面ホンネ座談会】エネ補助金の是非を問う 政治介入で迷走の出口戦略


テーマ:エネルギー価格補助金の延長

エネルギー価格高騰に伴う各種補助金は9月末に終了するはずだったが、またも政治決断で風向きが変わり、結局いずれも年末まで延長することとなった。既に10兆円近い国費が投入される中、その成果や影響の精査は十分とは言い難い。ますます出口が遠のくが、この政策はどう着地するのか。

〈出席者〉 A 一般紙記者 B 業界紙記者 C 業界関係者

―燃料油補助金を皮切りに、電力、都市ガス、LPガスと価格高騰対策が次々と手当てされた。まず燃料油については、補助金を石油元売りに手当てし、販売価格を抑制させる仕組みで、政府はその補助額などをたびたび変更。今年6月以降は制度終了に向け、補助率を引き下げており、ガソリンの全国平均価格は上昇、9月初旬には15年ぶりに最高値を更新した。7日からは補助率が再び1ℓ当たり17・4円へ拡大されたことで、足元のガソリン価格は下落に転じている。

A 燃料油補助金はまだコロナ禍最中の昨年1月に支給開始された。前年、LNG高騰につられ原油価格が上がり始めたことで、政府は物価高騰対策として秋ごろから制度を考え始めた。関係者は当時「1ℓ当たり5円の補助金を使い切れるのか」といった受け止めだったが、ロシア・ウクライナ戦争の勃発で油価が急騰した。一時は補助額がℓ35円まで引き上がり、深みにはまっていった。

B ガソリンも生活必需品なので、高騰し数カ月経てば需要は落ち着く。ただ、200円超ともなればそうも言っていられず、補助金があることで需要減退を多少抑える効果はあった。今年6月以降は出口に向かって良い制度ができており、元売りも9月末終了でコンセンサスが得られていた。

しかし同時期に円安が進み、原油価格も徐々につり上がっていった。巨額を投じた制度なのだから、良い頃合いでやめるべきだったが、今回も機会を逸した。これまでもやめようとすると何かが起こり、関係者は「運が悪い」と受け止めているようだ。

C 電力や都市ガスは燃料費調整制度や原料費調整制度があるので、その調整上限を超えなければ消費者に転嫁できた。21年秋ごろのLNG価格高騰の影響は、都市ガスよりも電力の供給力不足として表面化した。しかしその後、調整上限を超える水準までLNGが高騰。電力では燃料費の逆ザヤが深刻な問題となっていった。また戦争勃発後は、サハリン2からの供給が継続されるのかなど、問題がさらに複雑化した。

昨秋から電力を補助金対象とする検討が進み出し、競走上足並みをそろえてほしいとガス業界も敏感に反応。公明党の活躍で、両者セットで補助金の支給が決まった。電気が低圧で1kW時7円、都市ガスが1㎥30円という水準が適切だったかとの議論はあるが、需要期に向かう時期の補助金は有り難かっただろう。

A ただ、平時は気候変動対策上、先進国は途上国に対し「化石燃料への補助金は措置すべきでない」と主張してきた。そういう後ろめたさはあるはずだ。

ガソリン価格高騰のインパクトは大きく、補助金のやめ時が問われている

―さらに、都市ガスが対象ならLPガスもという話が浮上した。コロナ禍での価格高騰対策として、昨年9月に総額6000億円で措置された地方創生臨時交付金を、自治体の判断でLPガス料金の抑制にも使えるようにした。今年3月に政府は同交付金を7000億円増額し、LPガスに特化した支援を自治体に要望した。

B 業界特性からして、一律で補助金を出すことは現実的でなかった。当初は価格上昇抑制策として、配送合理化に向け、遠隔検針が可能なLPWA機器導入やタンクの大型化などへの助成費として22年度補正で約130億円が措置された。さばききれるのか疑問に思ったが、実際、かなりの事業者が恩恵を受けたはずだ。ただ、サウジアラムコのCP価格は高い時で900ドル程度つけたが、ほかの燃料ほどの高騰とはならず、今は500ドル前後で推移。でも、業界は自民党に掛け合って権利をもぎ取った。しかも今春には交付金が7000億円も増額され、自治体の判断でばらまいている。

C 交付金にLPガスを加えた当初、資源エネルギー庁は「電気や都市ガスは別予算で手当てしたので余っているはずだからLPに使えるのではないか」と自治体に働きかけた。ただ、実際は交付金が枯渇している自治体が多く、増額要請した。しかし、この仕組みに平等性はない。しかも必要なシステム構築に数千万円程度かかるからと、交付金受け取りを申請しない事業者もいるようだ。


政府介入で値段操作 競争状況にゆがみ

―問題だと思うのが、今回の延長決定に際し、岸田文雄首相がガソリンのターゲット価格として175円と発言してしまったこと。関係者からは「政権による市場介入は禁じ手ではないか」いった意見が挙がっている。

A 延長を決める直前に平均価格が185円を超えたからね。しかし、政治パフォーマンスとしても首相が額を口にすることはどうなのか。

B エネ庁も業界も9月末で終わるものだと思っていたが、鶴の一声で決まり、補助金で引き下げていくことになる。しかし、地域によっては200円程度で売っている店もある。補助金を投入しても175円には届かず、顧客から問い詰められては気の毒だ。SS(サービスステーション)は1円単位でしのぎを削った結果、ひと時の6万軒から今は2・8万軒弱まで減った。価格は店が周辺状況を見て決めるのに、175円が先行することは望ましくない。

―逆に、本当は175円以下に下げられるのに、そこまでしないSSもありそうだ。

C 今年6月以降は、出口に向けて徐々に補助金を減らす段階に入った。エネ庁が毎週発表する効果のグラフを見ると、この時期きれいに値上がりしていっている。通常なら他社動向をにらみ、値上げも値下げもなかなか実施できないところだが、補助金により価格競争の要素が薄まった。こうした状況は、適正価格をコストに転嫁する機会を失ったとも言える。補助金終了後の競争状況は、一転して混とんとするのではないか。

A 他方、電気や都市ガスではそうした影響はあまりなかったのではないかな。

C LPガス価格はとにかく安定している。それを武器に燃転などのアピールをしていくべきだ。配送合理化の助成金は、運送業のドライバーの時間外労働時間に対する制限の猶予が終了する「24年問題」解決に資するものであり、業界としてもありがたい内容。これをうまく今後の競争に活用してほしい。

―SS業者やLP販売業者に話を聞くと、補助金が需要を下支えしていて収益面での恩恵は少なくないと異口同音に言う。本来なら市場競争によって値下げすべきところ、補助金が業者の経営努力を妨げているとすれば、大きな問題だと考えている。ところで、A重油やC重油はどんな状況なのか。

B ガソリンの仕切り価格が週決めなので、それに合わせていずれも週単位で補助金が出ている。しかし漁業・農業用やボイラー用などのA重油はほぼ月決めであり、C重油に至っては四半期ごとだ。元売りはこれらをガソリンの仕切り価格に合わせて週単位で、しかも1円も手元に残さないよう、相当な努力をしている。なお、補助金の還元が車ユーザーなど限定的ではないかとの指摘もあるが、運送業や産業用の燃料への補助という形で、濃淡はあれど国民全員が何らかの恩恵を受けている点は、付け加えておきたい。

排出量取引が本格始動へ 東証が新市場を開設


グリーン成長政策の要であるカーボンプライシング。その中で先行する排出量取引制度(ETS)のフィールドとして、東京証券取引所が10月をめどに「カーボンクレジット市場」を開設する。対象とするJ―クレジットの調達手段はこれまで相対やブローカー取引が基本だったが、市場取引も加わることで一層の流動化が期待できる。エネルギー系をはじめ多様なプレーヤー188者(9月19日時点)が参加する。

これに先駆け東証は2022年度に実証を行い、参加した183者中55者で売買が成立。うちオフセット目的の買い手は34者だった。また当初は約70種類もの区分を設けたが、ニーズが細かすぎると売買が成立しにくいことが分かり変更。実証を受け、開設する新市場では6種類を扱う。

ただ売り手不足が課題であり、構造的にクレジット創出を促す仕組みが重要となる。その点、政府のGX―ESTの第二フェーズ(26年度以降)では各社が設定目標の超過達成分をクレジットとして売買できるようになる。日本のカーボンクレジット取引は、今後どう発展していくのか。

再エネ普及などを踏まえ長期予測 送配電設備計画の策定をサポート


【中部電力パワーグリッド/三菱総合研究所】

一般送配電事業者には数十年先を見据えて設備導入を検討・立案する「送配電設備計画」というものがある。同計画では2050年カーボンニュートラル(CN)実現に向けて、分散型エネルギーリソース(DER)の拡大など、新たな要素が加わってきている。

こうした中、中部電力パワーグリッドは7月、三菱総合研究所(MRI)の地域別電力需要予測(DFES)策定サービスを活用しDERを最大限運用する取り組みを開始した。

DERは需要家受電点以下に接続する発電・蓄電などの設備や、系統に直接接続する発電・蓄電設備の総称で、代表的な設備に太陽光発電やEV、蓄電池などがある。50年CN実現に向けては、これらの運用に適した送配電設備の形成が不可欠になる。

設備計画ではDER普及をはじめ、人口動態など各地域の具体的な状況を正確に反映することが求められる。DFESはこれらの要素に加え、エネルギー政策や技術動向、地域特性などのさまざまな要因を基に、数十年先の送配電設備の状態を配電線の電力供給エリア程度の地域粒度と、年度単位のDER導入量、1時間単位の電力潮流を地域単位で予測する。

これにより、詳細かつ合理的な送配電設備の形成、DERの有効活用を実現する。英国などの一部の国や地域では、このDFES策定のプロセスを経ることが送配電設備計画の決定における必要条件となっているとのことだ。

地域別電力需要予測(DFES)のフロー図
出所:三菱総合研究所


一般送配電事業者に展開 電力設備需要を精緻に把握

MRIが開発したDFESは、独自の予測アルゴリズムで前述の地域特性やエネルギー政策、人口動態、DERの導入量などを踏まえ、配電線単位に需要を計算し、これを基に将来的な電力潮流を予測する。

また、MRIは一般送配電事業者向けにサービスを開始するに当たって、DFESの作成や補正の機能を改良。ユーザーインターフェース上から自由なタイミングで実施できるようにしたほか、結果を表やグラフ、地図で視覚的に表示可能にした。

中電PGでは同サービスを活用し、将来の配電線やバンク、変電所などの設備の需要・発電量を詳細に把握し合理的な設備形成を実現していく。

電力業界のCN実現に向けた取り組みにおいて、同サービスの活用が鍵を握っていきそうだ。

【イニシャルニュース 】青森県知事のほこ先 八甲田の風力に向く


青森県知事のほこ先 八甲田の風力に向く

青森県で保守分裂選挙になり、宮下宗一郎知事が6月に誕生した。以前のむつ市長の時から中間貯蔵施設の共同利用問題を巡って電力業界批判を行ったが、9月時点では静かだ。宮下氏は今、八甲田の風力批判にエネルギーを割き、電力関係者はその行方を注視している。

宮下氏はむつ市長だった2020年ごろ、電力業界による原子力発電の使用済み核燃料の中間貯蔵施設の建設や既存施設の共同利用を模索する動きを、「振り回され迷惑」と繰り返し批判した。

彼は反原発ではないが、共同利用に前向きで政治的に対立する関係だった前任のM知事や、自民党E議員を批判する材料に使ったようだ。しかし選挙戦でも、知事就任後も、この問題には積極的に言及していない。

宮下氏は現時点で「青森知事を長期務めることを見越して、県庁の人事と仕組みを考え、電力との対応は様子見のようだ」(電力筋)。

一方で8月末、同県八甲田山での大規模風力開発の批判を始めた。もともとこの開発について批判的だったのだが、地元自治体の首長らの陳情を機に、「事業者の良識を疑う」「反対をみんなで」と一歩踏み込んだ行動への意欲を示唆したのだ。

この開発事業には、秋本真利衆議院議員に贈賄したと名前が上がる日本風力開発が参加している。「宮下さんは、橋下徹さんほど派手ではないが、敵を作って改革を進めたがる人だ。風力問題は県民の受けが良く、敵に勝てると思って動き始めたのだろうが、その勢いが電力批判に向かなければいい」(同)との懸念も。イケメンで派手な政治家と、電力業界の次の戦いはどうなるのだろうか。


日豪水素事業がとん挫? 豪州側の支援打ち切りか

オーストラリアの大手エネルギー会社のA社、日本の大手重工業のK社など日豪の大企業が参画する水素エネルギーサプライチェーン(HESC)プロジェクトが頓挫するのではないかという憶測が豪州内で流れている。

HESCプロジェクトは、ビクトリア州ラトロブバレーで産出される褐炭から水素を製造する。その水素を同州ヘイスティングス港で液化し、神戸にある液化水素荷役実証ターミナルへ輸送する事業だ。K社が中心になり、エネルギー企業のJ社、水素事業を手掛けるI社、M社やS社といった商社が参画している。

日本政府と豪州政府、ビクトリア州政府が支援するため、日豪の官民を挙げたプロジェクトとして注目されていた。2022年には実証事業を終え、いよいよ商用化に向け動き出すところまでこぎつけようとしていた。

ところがここ最近、豪州の経済紙などが、ビクトリア州が20億ドルの資金援助スキームから化石燃料ベースのプロジェクトを除外する決定を下したと相次いで報道した。支援対象になるためには、CCSの実現可能性を示すよう求めているという。現地メディアは、豪州側からの資金支援がなくなる可能性に危機感を募らせたK社の現地担当者が交渉を開始すると報じた。

水素支援に難色を示すビクトリア州

実証事業には、ビクトリア州政府と連邦政府がそれぞれ5000万ドルの資金を拠出した。しかし商用化の段階になって急に支援から除外する可能性に言及し始めたのだからたまらない。

ビクトリア州G党のT氏は「ビクトリア州にはふさわしくないプロジェクトだ。 このプロジェクトは石炭を存続させようとしている」と厳しく批判する。

HESCプロジェクトにはCCS事業も含まれているため、関係企業には動揺が広がっている。しかしG党のT氏は「CCSは夢物語だ」と強硬だ。

豪州側の支援が続かず、プロジェクトが頓挫すれば、ただでさえ脆弱な水素供給網がより厳しい状況に陥る。日本のグリーントランスフォーメーション(GX)の要の一つとなる水素戦略が揺らぎかねない。

現地の日本企業関係者は「豪州の政策はころころ変わるので安心できない。最近人気に陰りが見え始めているアルバニージー政権が国内向けの人気取りに走っている可能性があり、気が気でない」と苦悩する。

再エネに自治体が「待った」 宣言や課税で乱開発阻止へ


災害の発生が危惧され、誇りである景観が損なわれるような産地への大規模太陽光発電施設の設置をこれ以上望まないことをここに宣言します」

8月31日に福島市の木幡浩市長が行った「ノーモアメガソーラー宣言」は、行き過ぎた太陽光乱開発に対する明確な意思表示となった。福島市は20を超えるメガソーラー事業を抱えており、景観面で大きな被害が出ている。「市民生活の安全安心を守り、ふるさとの景観を地域の宝として次世代へ守り継いでいかなければならない」と、山面へのメガソーラー設置計画に反対する姿勢を示した。

再エネ新税に意欲を見せる宮下知事(7月撮影)

再エネ課税の動きも広がる。宮城県議会では7月4日、森林開発を伴う再エネ発電設備の所有者に課税する全国初の条例が成立した。また青森県の宮下宗一郎知事も9月12日、再エネ事業者に対する新税の検討に言及。第1弾として陸上・洋上風力への課税導入について、県議会で関連条例案の議決を目指す。新税の経緯について「都会の電力のために青森県の自然が搾取されている」と強調した。

長らく続いた不適切な再エネビジネスの「野放し状態」に、しびれを切らす地元自治体。これを機に、政府も乱開発規制の強化に一段と踏み込むのか、注目だ。

脱炭素先行地域事業の進捗評価 基準見直しでより高い実現可能性へ


【識者の視点】磐田朋子/芝浦工業大学副学長

環境省肝いりの「脱炭素先行地域」は、目標の100カ所に対し第3回までに60件程度の提案が選定された。

これまでにどのような課題や成果が見えてきたのか。選定に関わる評価委員の識者が見解を述べる。

 2030年までに全国100カ所で脱炭素のモデル地域づくりを目指す脱炭素先行地域の選定は第3回まで終了し、計62提案が選定された。第1回募集から約1年半を経て計187件(重複含む)の提案があった。評価委員会ではより優れた提案を選ぶため、たびたび選定基準を改善してきた。

脱炭素先行地域とは、地域課題解決と住民の暮らしの質向上の両者を実現しながら、脱炭素への方向性を示す地域であるという大前提のもと、確実に30年までに民生部門の電力消費に伴うCO2排出実質ゼロを実現する提案が必要となる。どうすれば地域の皆を巻き込んで脱炭素に向かえるのか、そのために新たに必要となるビジネスモデルは何か、といった問いに答える提案が期待されている。


項目を適宜改定 合意レベルの熟度把握へ

評価委員会では、先述の目標達成に必要な要素として、自治体における推進体制が整っているか、再生可能エネルギー電源を導入予定の関係者から合意を得られているか、資金調達の目途はついているか、住民が主体的に脱炭素型ライフスタイルに移行するための工夫が講じられているか。こうした実現可能性に関わる項目に加えて、地域活性化への貢献や、モデル地域としての波及を考慮した議論が行われている。

第3回に至るまで、環境省も評価委も評価における視点にブレはない。しかしながら、書類選考とヒアリング選考において先述の項目を十分評価するために必要な情報が欠けていると感じる点が、回を重ねるごとに生じた。そのため、選定基準を都度改定してきた。

例えば再エネ電源を確実に追加導入するためには、設置場所の土地・建物所有者の合意を得ていることが必須である。第1回選考では、応募書類の中で合意の有無を明記する欄を設けず、ヒアリングで都度確認することとなった。

しかし、一言に合意といってもレベルはさまざまである。再エネ導入に関心があるのみで口頭ベースの合意もあれば、再エネ電源の所有者の経済的負担や電気代に関する具体的情報を共有した上での合意もある。あるいは、経済的負担も考慮し合意したものの建物耐荷重性の問題から実際には設置できないケース、環境アセスメントや周辺住民の理解が得られていないケース、など実にさまざまだ。

こうした課題を全てクリアし、高い熟度で合意形成が進められる自治体はほとんどない。そこで第2回募集では、合意の熟度を書類上に記載する項目を追加した。加えて、地域の状況を熟知する環境省地方事務所からの情報も共有した上でヒアリング選考を実施することで、より正確に合意の熟度を理解できるよう、改善されてきた。

ステークホルダーとの合意形成がカギを握る

ほかにも、地域で再エネ・省エネビジネスを実施するための金融機関との連携状況、具体的な電力販売価格設定や事業収支計画書の提出を求めるようにするなど、「先行地域」を見極めるため、回を重ねて応募書類の改善を進めている。

「反西側」陣営に中東加盟 求められる石油戦略の再構築


BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)連合の拡大が、エネルギー関係者の関心を集めている。8月24日、南アフリカで開かれたBRICS首脳会議で、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、イランなど6カ国が来年1月から正式加盟することが決まった。

BRICSに加盟するサウジとUAE

一見すると、中露が主導する「反西側」陣営が、中東の主要産油国に対する影響力の強化に成功した格好だ。このため、「西側のエネルギー安全保障体制に大きな影を落とすのでは」(大手エネルギー関係者)と見る向きが出ている。とりわけ日本にとっては、サウジ、UAE両国で石油調達量の77%を占めるだけに、その動向は無視できない。

ただ一方で、石油アナリストによれば、「中東諸国にとって根本的に重要なのは、航行の自由を含む国際石油秩序の維持だ。今後も米国に安全保障を依存する情勢は変わらず、過剰な懸念は必要ない。むしろ問われるのは、西側主導の国際政治・経済運営の不備であり視野の狭さ」だという。

脱化石や再エネ拡大に偏重し、石油政策をなおざりにしてきたことがBRICS拡大を招いたとすれば、西側に必要なのは現実的な石油戦略の再構築である。

地熱活用をトータルで支援する 世界トップレベルの技術者集団


【西日本技術開発】

九電グループの西日本技術開発は、40年以上にわたり国内外の地熱事業に携わっている。

調査から運用まで一貫して担う総合力を持ち、その指折りの技術力は世界から高い評価を得ている。

海外の地熱開発は、危険と隣り合わせのことがある。「途上国では部族間の争いに巻き込まれそうになったり、政局が不安定な国ではクーデターが始まったりする。山奥では疫病への注意も欠かせない。だが、国際協力で相手国が自国の固有資源であり、温室効果ガス排出削減につながる地熱を有効利用しようとしている。その支援ができることは大きな喜び」。こう話すのは、国内唯一の国際地熱コンサルタント部門を擁する西日本技術開発の松田鉱二取締役だ。

西技開発は1967年に創立。以降、九州電力の発電所開発や維持など幅広い建設コンサル事業者として、50年以上にわたり九州の産業インフラ構築に貢献している。地熱発電については、67年に九電が大分県に事業用として国内初の大岳発電所を建設。火山の多い九州で、西技開発も九電と共に地熱事業にいち早く取り組んできた歴史がある。

73年の第1次オイルショックの後、通商産業省(当時)が主導で全国の地熱資源調査を進め、西技開発も受託して多くの事業に携わった。77年、九電が日本最大の八丁原発電所を大分県に建設した際も参画し、翌年には組織に「地熱部」が誕生した。

海外進出もこの頃始まった。国際協力機構(JICA)の海外技術者研修プログラムで講義を担当するなど、JICAを通じた技術支援は40年以上続いている。今では技術支援以外でもアジア、中南米、アフリカなど20か国以上で地熱プロジェクトの実績がある。英語社名「WestJEC(ウエストジェック)」は海外の地熱業界で広く知られた存在だ。


高精度の資源量評価 計画から運営までサポート

西技開発の最大の強みは、地熱コンサルとしての総合力にある。計画・調査から発電所の建設・運営まで全ての段階をカバーできるコンサル会社は世界にも数社しかない。

地熱部には約50人が所属。資源調査や評価に係る「地球科学調査」、大深度の抗井を高温化で掘削する工事の「監理技術」、蒸気・熱水の生産や地下資源の評価・管理に係る「貯留層工学」、発電所の設備設計・工事監理を担う「機械技術」の専門家が在籍し、人材育成も行っている。

地熱開発のポイントは、蒸気や熱水がある貯留層の評価技術だ。資源の特性や規模によって発電の方式や出力が決まるため、計画段階での正確な評価が事業の成功を左右する。

同社は、地熱資源の評価に、世界最先端の汎用ソフトや独自の解析ツールを活用している。MT法と呼ばれる電磁法探査などで地下構造を解析。さらに、これらのデータを集約しデータベースに取り込んで三次元画像にする。ただし、これらの画像からだけでは地下に熱水や蒸気が存在しているかどうかの判断はできない。「データはあくまでも考える材料。解析結果や三次元の地下構造から、各専門家が経験に基づき評価、考察して掘削場所を判断する」という。

どのくらいの幅を持ってデータを読むか、地質が異なる海外の多様な事例を扱い、技術力を高めてきた専門家が力を合わせる。精度の高い評価に加え、20年30年先まで維持できるかどうかも、解析技術と豊富な経験で予測する。

同社の総合力は高い信頼を得、現在取り組む開発地点の案件数は九州で10数件、九州を除く国内で約10件、インドネシア、ケニア、コスタリカ、ジブチなどの海外で10数件。業務数は毎年100件を超える受注がある。

地熱事業には多岐にわたる専門家が必要。西技開発は全ての段階をワンストップでサポートする

豪州で盛り上がる原発導入論 最大野党が次期選挙で争点化も


原子力発電所の建設を禁止しているオーストラリアで、原発導入の気運が高まっている。

最大野党の保守連合(自由党・国民党)は、2025年に予定される総選挙の公約に原発導入を掲げる見通しだ。

「労働党は、地方部への再生可能エネルギー導入と送電網の開発を性急に進める誤った判断をしている」。自由党きってのエネルギー政策通で、原発推進派のテッド・オブライエン下院議員は8月、原発に反対するアルバニージー現政権のエネルギー政策を痛烈に批判する傍ら、立地地域の住民の意見に配慮しながら原発導入を進めていく必要性を強調した。

野心的な脱炭素政策を掲げる豪州は、火力発電所の閉鎖計画でエネルギー不足が顕在している。エネルギー問題の解消、産業転換による雇用の確保、気候変動対策という三つの背景から、最大の争点に浮かび上がる可能性が出てきた。

自由党が次期総選挙をにらみ、原発の導入推進を声高に訴え出したのは、1年前にさかのぼる。ピーター・ダットン党首が政党間協議の場で「エネルギーの安全保障に寄与し、電力価格を下げる手段として、次世代の原子力技術の可能性を模索する」と明言したのだ。保守連合は原発推進を次期総選挙の公約とする方向だ。原発導入に反対する現政権のエネルギー政策との違いを鮮明にすることで、政権奪取の足掛かりをつくる狙いが透けて見える。

豪州では1990年代に制定された「環境保護・生物多様性保全法(EPBC法)」と、「放射線防護・原子力安全法」の二つの連邦法に原発開発を禁止する条項が盛り込まれている。世界最大のウラン埋蔵国であるにもかかわらず、原発の建設、稼働ができないのはこのためだ。


現実的な選択肢で俎上に 電力の危機的状況が後押し

ただ自由党など保守勢力は2000年代から原発の可能性について模索していた。モリソン前政権内でも、二つの法律から原発活用を禁止する条項を削除することを、総選挙の公約にしようと目論んでいた経緯がある。

今回、保守連合が再び原発導入の議論を活発化させてきたのは、保守勢力の悲願を現実のものにしたいという表れだ。

だが原発導入の議論は単なる政争の具として浮上しただけではない。豪州のエネルギーの在り方を問いかける現実的な選択肢として俎上に載せられたのだ。急激な脱炭素化による深刻な電力不足が顕在化したことが、大きく影響した格好だ。

豪州のエネルギー市場の管理などを担うエネルギー市場オペレーター(AEMO)は8月下旬、23年12月~24年2月ごろの夏季にかけて電力需給がひっ迫する可能性があると警告した。一部の州では停電リスクがあるとも指摘。気候変動の影響が顕著になる今後10年間について、一部の州を除き全国的に供給不足に陥る可能性があるというのだ。

現政権は脱炭素化を急速に進める政策を前面に打ち出し、30年には再エネ発電量を現在の約40%から82%に引き上げるという途方もない目標を掲げている。

このため、やり玉に挙がる石炭火力発電所などは早期閉鎖を余儀なくされており、すでにいくつかの火力が停止している。再エネ導入は急ピッチで進められているものの、新規投資が遅れており、火力の閉鎖分を補えるほどではない。気候変動の影響で高まっている需要に対して、有効な策が打てない状況といえよう。

自国産ウラン資源を活用する狙いも(豪州北部のウラン鉱山)

こうした電力の危機的状況が、原発導入の議論を後押ししていることは否めない。前出のオブライエン下院議員の政権批判も電力不足問題の延長線上にある。火力のように温室効果ガスを排出しない、自然条件で変動する再エネとは違い設備稼働率が安定的な原発こそが、脱炭素化と電力不足を両立できるというわけだ。

こうした状況が理解されているのか、世論も原発導入には好意的だ。豪州の経済紙オーストラリアン・ファイナンシャル・レビューが7月に実施した読者調査によると、回答者の58%が化石燃料を廃止するための解決策として、小型モジュール炉(SMR)を使った原発の導入を望んでいると答えた。また資源業界団体の最近の調査でも、原発導入について賛成が45%に上ったという。

経済界も前向きだ。現地メディアは、経済団体のオーストラリア産業グループとオーストラリア・ビジネス・カウンシル、オーストラリア労組が22年8月、上院委員会で原発を電源構成から除外しないよう求めたと報じた。

オーストラリアの建設・林野・鉱山・エネルギー労組は、老朽化した石炭火力の代わりに、SMR建設を提案した。これにより、10年間で810人の直接雇用と建設時に1600人の雇用が創出されると説明。産業転換による雇用問題の解決にもつながると主張している。


政権側は火消しに躍起 日本のビジネス機会に?

このような原発推進の動きに対し、政権側は火消しに躍起だ。現地メディアの報道などによると、クリス・ボーエン気候変動・エネルギー相は、コストが極めて高いことや、建設に時間がかかり、多大な放射性廃棄物が出るなどの理由から原発導入に反対している。

他の政権幹部は「野党の原子力に対する新たな恋心は、最も安価なエネルギーである自然エネルギーにイデオロギー的に反対しているだけだ。根拠がある信頼できるエネルギー政策を(自らが)持っていないという事実から目をそらそうとしているにすぎない」と、野党側を厳しく批判した。

ただ与党労働党が賛成する豪米英の安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」による原子力潜水艦の導入が、豪州内での原発を含めた原子力の技術研究や開発に道を開くきっかけになるのではないかとの指摘もある。

豪州では25年の総選挙に向けて、原発導入の是非を巡る議論はさらに盛り上がることだろう。エネルギー政策の失策が原因で政権交代が起こるようなことがあれば、原発の導入が現実味を帯びてくる。日本のエネルギー関連企業にとっても新たなビジネスチャンスが到来するかもしれず、動向から目が離せない。

秋本氏逮捕も賄賂性否認 汚職事件を巡る不可解な点


国の洋上風力公募を巡る汚職事件で、元自民党の秋本真利衆院議員が9月7日逮捕された。報道などによれば、日本風力開発の塚脇正幸前社長から、①青森県の海域で強い規制をしないこと、②公募の評価基準見直し―に関し、国会質問を依頼された見返りに賄賂を受けた受託収賄容疑だ。

日風開は、公募の対象となった秋田県内の複数海域のほか、青森県・陸奥湾などでも環境アセスメントを実施し、風力事業の展開を狙っていた。こうした背景から、塚脇氏は秋本容疑者への贈賄を認めているものの、肝心の秋本氏は東京地検の調べに対し一貫して贈収賄性を否認しているもようだ。

東京拘置所に入る秋本氏を乗せたとみられる車

この事件を巡って、不可解な点が二つある。一つは、秋本氏が家宅捜査を受けた8月4日時点で、日風開がウェブサイト上で「当社が国会議員ほか公務員に対し贈賄をした事実は一切なく、この点を立証できる客観的な証拠が数点存在しています」と、完全否定するコメントを出していたことだ。が、その1週間後に塚脇氏はなぜか賄賂性を認め、今回の秋本氏逮捕につながった。客観的な証拠は一体どうなったのか。

もう一つは、経産省が昨年3月18日に、公募中だった秋田県八峰町・能代市沖のルール見直しを発表したが、2カ月後に示された見直し案はなぜか日風開・秋本氏側の狙いとは異なる内容になっていたことだ。「経産省事務局が彼らの要求に左右されず見直しの検討を進めたからだろう。塚脇氏の変化についてはおそらく司法取引でもあったのでは」(事情通)

一方で、秋本氏を巡っては2年前の電力高騰時にも資金提供を受けた疑いが一部で取り沙汰されている。事件の波及に要注目だ。

紆余曲折経て東ガスが単独建設へ 「袖ヶ浦」に見る新規火力投資の課題


東京ガスが、紆余曲折を経て千葉県袖ケ浦市に単独でLNG火力発電所を建設することを決めた。

脱炭素時代を背景に火力電源不足が深刻化する中、新規電源投資の呼び水となるか。

東京ガスは、2029年度の順次運転開始を目指し、千葉県袖ケ浦市の東京湾岸に計195万kW(65万kW級×3軸)と、同社最大規模となるLNG火力発電所の建設を決めた。

水素混焼できる三菱重工業製の最新鋭高効率ガスコンバインドサイクル発電を採用し、ガスタービンの交換など小規模な改修により、水素専焼も可能とする。火力発電への新規投資が長期的に低迷している中、発電設備の次世代・高効率化、さらには50年カーボンニュートラル(CN)を見据えた脱炭素型への置き換えを前面に押し出した形だ。

そもそも15年に、出光興産、九州電力とともに同地での火力発電所の検討を始めた当初は石炭火力の建設を目指していた。ところが、石炭火力に対する世界的な逆風もあり、19年1月に石炭火力を断念することを発表。このタイミングで出光が事業から撤退した。

その後、九電と2社でLNG火力に切り替えて検討を継続したものの、22年に入り建設コストの上昇や燃料価格の高騰により事業性が悪化。同年6月には九電も撤退を決め、東ガスは単独での開発検討を余儀なくされることになった。

こうした紆余曲折を経ながらも、発電所の新設を決断した理由について、石坂匡史・執行役員電力事業部長は、「足元では電力需要が減少しているが、電化が進むことを踏まえれば長期的には増大する。老朽火力の退出が急速に進む中、当社が電力事業を拡大していくためには供給力として再生可能エネルギーのみならず火力発電所が必要であり、50年の断面でも、脱炭素化は必要となるものの、調整力として必要とされることは間違いないと判断した」と語る。

袖ヶ浦LNG火力の完成予想図


既存火力の引き継ぎへ 23年が投資判断のリミット

「たとえ単独であっても、東ガスには、どうしても23年中に建設の意思決定しなければならない事情があった」と、話すのはコンサルタントの一人。それは同社の電力事業を支えきた川崎天然ガス発電(川崎市、80万kW)と、扇島パワーステーション1・2号機(横浜市、120万kW)がリプレース期を迎え、後継となる発電所が必要だということだ。

というのも、ENEOSと共同出資する川天は、40万kWが東ガスの持ち分であるが、08年に運開し、ガスタービン設備の耐用寿命期が既に迫っている。一方、出光と共同出資の扇島は90万kWが持ち分で、10年に運開しており、こちらも25年ごろには寿命期を迎える。延命させたとしても4~5年が限度だ。

両発電所からの供給を失うと、一気に市場からの調達量が増えることになり、電力事業を安定的に経営することが難しくなる。既存の発電所をリプレースすれば問題は解決するのだが、川天はENEOSの土地に立地し、東ガスの意向のみでリプレースを決めることはできない上に、リプレースするにしても停止してから再度供給力として見込めるまでには相当の時間がかかる。

発電所建設は意思決定から運開まで5~6年かかるため、袖ヶ浦の決断をこれ以上遅らせれば川天・扇島の運転停止のタイミングに間に合わない。少なくとも、30年前後までに100万kW級の電源規模を確保することはマストなのだ。もちろん、水素専焼を可能にすることによる長期脱炭素電源オークションや、メジャーズの天然ガス回帰といった最近の動きも、同社の決断を後押しすることになっただろう。

臨海部であるにもかかわらず、復水器の冷却方式として「海水冷却」ではなく「空気冷却」を選択したのも、30年までの運転開始に間に合わせるためとみられる。発電所建設を巡っては、漁業組合との交渉の難航が度々報道されてきた。袖ヶ浦LNG基地を保有する東ガスは日頃から漁業組合との関係を良好に維持してきたものの、特に海苔養殖に関しては、若手従事者からの不安視する声が強く、なかなか妥結に至らず、23年中の意思決定がリミットと判断した同社は、昨年後半には空冷の可能性を模索し始めていた模様。その結果、水冷よりも発電効率が1%程度低下するなど、多少の不利はあるものの許容範囲だと判断した形だ。

内閣改造で西村経産相留任 伊藤環境相の手腕に注目


9月13日に内閣改造が行われ、岸田政権が新たな布陣となった。巨額予算を投じ来年度から本格始動するGX(グリーントランスフォーメーション)政策などの継続性を重視し、経済産業相には西村康稔氏を留任させた。また、西村経産相は所管の今後の課題として「ALPS処理水の放出に伴う風評、特に中国の全面輸入停止の即時撤廃を求めながら、対策を打つこと」を挙げ、さらに「エネルギー高騰対策についても、国の負担軽減を図りながらエネルギー危機に強い構造にしていかなければならない」と強調した。

年末のCOP28に伊藤新環境相はどう臨むのか

一方、環境相は、西村明宏氏から、今回初入閣の伊藤信太郎氏に交代した。これまで衆議院の環境委員長や、東日本大震災復興特別委員長などを歴任。また外務副大臣の経験もあり、「そこで培った人脈も生かし(温暖化防止国際会議の)COP28や、プラスチック汚染に関する条約交渉にもしっかり取り組んでいく」と語った。特に気候変動交渉は、各国の意見の違いが鮮明化し一層難しい局面に突入しているが、「科学技術の進展も含め、環境問題、経済問題、国家間の対立を解決していく先導的な役割が、日本に求められているのではないか」と強調した。

また、経産省との協調関係を引き続き重視。非効率石炭火力のフェードアウトや将来的な火力の脱炭素化方針についても、従来の政府見解通りの考えを示した。ただ、今やカーボンプライシングも含めGXを主導しているのは経産省であり、「気候危機」がクローズアップされた一時に比べ、環境省の存在感低下は否めない。経産省との協調路線を踏襲しながら、新たに環境省の存在感をどう示していくのか、その手腕が注目される。

目指すは組織風土と文化の変革 グループ大で取り組む攻めのDX戦略


【九州電力】

九電グループはデジタルと人の力で新たな価値を創るビジョンを携え、DX先進企業を目指す。

自発的な学びを促し世代を超えたコミュニケーションづくりで企業変革に挑む。

九電グループは「九電グループ経営ビジョン2030」の実現に向け、DX推進を加速させている。DXを人や組織風土・文化の変革まで追求する「企業変革」への取り組みとして位置づけ、デジタル技術やデータを活用し、自社サービスやビジネスモデル、業務プロセスの抜本的改革を図るとともに、収益増大、新たな事業創出、生産性向上、業務基盤強化を目指す。

2022年7月、九州電力は「最高DX責任者」をトップに置くDX推進本部を発足させた。社内のITシステムを所管する情報通信本部や、業務主管部門と連携して施策を実行している。各業務主管部門には、変革のキーマンを「業務改革担当」としてDX推進本部と兼務する形で配置しており、各部門のDXをけん引する。

DX推進の基盤となる人材育成については、変革の機運醸成を図るため、22年度内に全社員を対象に「DXリテラシー研修」を実施。DXの概論や必要性の理解浸透を図った。その結果、今年4月に行った意識調査では95%がDXは必要だと回答。今年度からは、より発展的な教育を行う。

DXを「自分ごと」として捉え、主体的に進める人材「DXフォロワー」を育てる。対象者はe―ラーニングでデジタル技術やデータサイエンスなどを学び、自身の業務に生かす。25年度までに全社員をDXフォロワーにすることを目標としており、変革を支える人材を急ピッチで育成する考えだ。

変革のアイデアを全社から幅広く募る仕組みも整えた。社員が日常的に思いついたアイデアが見逃されないよう、グループ大での情報共有を図るDX推進サイトに、今年度から「アイデアボックス」を設置。投稿されたアイデアの中から、DXにつながりそうな提案について業務主管部門と協働で取り組み、推進を図る。

7月まで営業所に勤務していたDX戦略グループの川口舞さんは「営業所ではペーパーレスから取り組んだ。小さな意識改革がDXの始まりになる」と、最初の一歩を踏み出す重要性を話す。

DX戦略グループの内野さん(右)と川口さん


逆メンターの導入 交流で互いの視野を広げる

新たな取り組みとして、経営層を巻き込んだ「逆メンター」制度も開始した。一般的なメンター制度と異なり、若手社員が指導者の立場で、経営層に対して最新のデジタル技術などの知見について指導する方式だ。経営層一人につきメンターは二人。公募制を取る。

経営層にとっては、デジタル技術の知見にとどまらず、若い世代のトレンドや人生観、職業観など生の声を聞ける機会となり、メンターにとっては、普段接する機会が少ない経営層の考え方に触れることで視野を広げ成長の機会となる。5月から社長と副社長に実施しており、今後は対象者を拡大する。経営層、メンターの双方から「今まで聞けなかったことを聞くことができた」と好評を得ている。

フラットな組織風土醸成を目指す「逆メンター」(中央=池辺和弘社長)

GX予算で国内産業基盤を強化できるか 実効性の鍵握る成長への「戦略的配分」


GX政策の本格始動を受け、経済産業省の2024年概算要求額は過去最大規模となった。

総額2兆円を超える予算に、いかに実効性を持たせられるか。政府の「本気度」が問われる。

脱炭素成長型経済構造への円滑な移行を目指す「GX(グリーントランスフォーメーション)推進法」の成立を受けた、初の予算要求だ―。

各省庁の2024年度概算要求額が8月末までに出そろい、経産省は23年度当初予算1兆6896億円を大幅に上回る2兆4615億円を計上した。過去最大規模となった最大の要因は、GX経済移行債を活用する「GX推進対策費」だ。エネルギー対策特別会計(7820億円)とは別に、国庫債務負担行為の活用で、複数年度にわたる措置を可能とする予算総額1兆985億円を要求した。

これに先立つ8月25日、西村康稔経産相は会見で「GXの実現には大規模かつ中長期的な投資が不可欠」と強調。不確実性のある事業に対して企業が投資判断できない中で、政府のコミットによる大規模投資を促したい考えを示していた。

これを具現化するべく、GX実現とエネルギーの安定供給に向けた関連予算の要求額は、GX推進対策費とエネ特を合わせて1兆6241億円とし、23年度当初予算から5165億円増えた。省エネから再エネ、系統整備、蓄電池、原子力、水素・アンモニア、CCS(CO2回収・貯留)、EV・FCVと、さまざまな分野で事業を新設・拡充したためだ。

経産省はGXの旗振り役になれるか


際立つ「供給網」の強化 当てが外れた企業も

際立つのは、蓄電池・再エネ技術を巡るサプライチェーンの強化だ。新規の「グリーン社会に不可欠な蓄電池の製造サプライチェーン強靱化支援事業」には4958億円を計上。ペロブスカイト太陽電池や浮体式洋上風力、水素・アンモニア、水電解装置などの国内製造基盤強化に向けた「GXサプライチェーン構築支援事業」でも1171億円(新規、国庫債務負担行為は5年間で5785億円)を盛り込んだ。

原子力分野では再稼働、運転期間延長など既設炉の最大限の活用に取り組む。その一方で次世代革新炉開発や建設に関する予算「高温ガス炉実証炉開発事業」に256億円(3年間で848億円)、「高速炉実証炉開発事業」に267億円(3年間で673億円)とした。そのほかEV・FCVなどの「クリーンエネルギー自動車導入促進補助金」は、23年度当初予算から876億円増となる1076億円と大幅に拡大。GX実現に向け、あらゆる種をまくと言わんばかりの大盤振る舞いだ。

GX推進に期待感を持つ企業の反応はおおむね好意的だ。円安の影響もあり、工場の国内回帰を進める大手家電メーカーの関係者は「省エネルギー投資促進・需要構造転換支援事業費」の910億円(5年間で1925億円)を活用し、「工場の断熱改修や省エネ事業の拡大につなげたい」と強調。「今回、省エネ設備更新支援に少なくない額の予算が計上された。工場改修によって国内製造業が国際競争力を向上することに期待したい」と意気込みを見せる。

一方で当てが外れたと嘆く企業もある。大手石油元売りの関係者は「合成燃料や持続可能な航空燃料(SAF)への予算配分が乏しいように感じる」と漏らす。確かに「化石燃料のゼロ・エミッション化に向けたSAF・燃料アンモニア生産・利用技術開発事業」は98億円と、23年度予算からは26億円増えたものの、期待されたほどの伸びではなかった。

全航空燃料の10%をSAFに置き換える2030年に向け、国内生産が本格化する中、少ない予算を取り合えば、必要な投資確保が難しくなる可能性もある。「今回のGX予算要求は経産省主導が鮮明だ。国交省マターのSAFは発言力がなかったかもしれない」(エネルギーアナリスト)との声も聞こえる。