【リレーコラム】フランク・クレプツィヒ/RWEサプライ&トレーディングジャパン社長
東京証券取引所においてカーボン・クレジット市場の実証実験が行われるなど、日本における排出権取引の議論が活発化している。
2005年に導入された欧州ETSは当初3年間、エネルギーを中心とする産業セクターの企業に対し排出枠の約95%以上の無償配分を行った。多くの市場アナリストは、価格が1t当たり20ユーロから始まり、35ユーロまで上昇すると予想した。当初の数年間においてその予想は正しく、排出権は06年半ばまで20ユーロ前後で取引されていたが、証書の過剰配分が明らかになり、07年末には0ユーロに近い価格まで下落。以降、価格は予想を大きく下回る5~15ユーロの間の水準で推移し、18年になりようやく、現在の100ユーロ前後までの急上昇が始まった。
排出権価格が0ユーロまで下落した背景に証書の過剰配分があったように、継続的な制度設計を行う上で、政策決定者の意図的な関与は排除されるべきであると考える。過剰な制約への関与は、市場をゆがめることにもつながりかねないからだ。
導入後、排出権価格は電力料金に組み込まれることとなった。発電事業者がコストベースアプローチを取る、すなわち95%を無償調達し、無償調達の配分外である5%分のみを価格に反映させる予想もあったが、そのようにはならなかった。発電事業者が排出権価格と調達する燃料の価格を両にらみしながら最適な発電量を決定する、裁定取引を行うようになったからである。
燃料で異なる排出権価格の影響
排出権価格が持つ影響は石炭火力とガス火力で異なる。天然ガスの炭素排出量は発電電力量ベースで石炭の半分以下となり、排出権価格の高騰は、石炭からガスへの燃料転換を促す可能性があるともいえる。しかし、私の経験上、机上の採算計算のみで導き出される燃料転換の可能性は過大評価されることが多い。大規模なコスト削減効果が見込めない燃料転換は、技術的または実用的な理由で行われないことが多いためだ。
排出権価格の動向は燃料価格にも影響を及ぼす。炭素価格の動向いかんで石炭火力やガス火力の競争力が左右され、ひいては燃料需要にも影響をもたらすためだ。
欧州ETSには欠点や課題も多く、改善の余地も多いものの、全体としては意図した目的を果たしているといえるだろう。日本における議論がどのような方向性をたどるかはまだ未知数であるものの、海外の事例から得られた教訓に目に向けるのは意義があることと考える。

※次回は EEX Japan 上席アドバイザーの高井裕之さんです。