環境次官がCN政策テーマに講演 地域変革のけん引役として業界に期待


【都市ガス有志の勉強会】

3月中旬に開かれた地方都市ガスの有志が集まる勉強会で、和田篤也・環境事務次官が「カーボンニュートラル(CN)による地域の未来像」をテーマに講演した。環境省のトップが地方ガスの勉強会で講演するのは異例。和田氏は都市ガス事業について産業界、地域社会のスタークホルダー両方の側面を持つと評価した上で、「地域のCNとの親和性が高いビジネスだ」と強調。同省施策を軌道に乗せるドライバーとなることへの期待を示した。

政府が2020年秋に「50年CN宣言」を行って以降、同省は脱炭素政策の中でも地域や社会、暮らしなどの変革にフォーカス。30年度までに民生部門の電力のCNを目指す「脱炭素先行地域」では同年度までに100カ所を目指すなど、CN宣言以降の5年間に政策を総動員する。和田氏はその上で重要になるのが「ニーズオリエンテッド(最優先)」だと強調。「地方自治体、中でも市民目線のニーズを把握する市町村をバックアップし、そのソリューションツールがCNというストーリーを共有してほしい」と続けた。

ガス業界への期待を語った和田次官

メタネーションの可能性 「地域オリエンテッド」で

CN政策は、2月10日閣議決定のGX(グリーントランスフォーメーション)基本方針を踏まえてさらに加速。カーボンプライシング(CP)やグリーンファイナンス強化、日本の技術移転で世界全体のCO2削減に寄与する「アジア・ゼロエミッション共同体構想」への貢献などが柱だ。

特に注目度が高く、炭素賦課金と排出量取引の導入が検討されているCPについては、「CPを今すぐ入れるという発想ではなく、まずは国が(GX移行債で)企業の取り組みをバックアップする。ただ、いつまでもCNにやる気を出さない企業には後からCPが課されるようになる」と、欧州などとの違いを解説した。

他方、日本は今年のG7(先進7カ国)サミット開催国としてこれらの方針を主要国にアピールする考えだが、石炭火力政策などを巡っては意見の隔たりがある。日本政府は着実に世界全体のCO2削減につながる国産技術として水素・アンモニアの活用を掲げ、安易な石炭火力全廃方針に言及しない対応を続けてきた。

和田氏は、水素を基軸としたe―メタンに関して既存インフラを活用でき、現実に則した「ジャストトランジション」(地域社会や産業などの公正な移行)が期待できるとの考えを示した。多くの業界がビジネスモデルの変革を迫られる中、「都市ガス業界はe―メタンにフックをかけることがジャストトランジションにつながる」と強調。「『地域ニーズオリエンテッド』な業界」としてGX時代をけん引することに期待を寄せた。

LPガス支援復活の愚策 背景に統一地方選対策か?


一度は見送られたはずのLPガス利用者などに対する政府の負担軽減支援が一転、7000億円規模で実施される運びとなった。

自民党の経済産業部会などは3月、LPガスの利用者や電力の特別高圧需要家の負担軽減などを求める提言案をまとめ、政府の新たな物価高騰対策に盛り込んだ。岸田文雄首相が党の萩生田光一政調会長に指示していたものだが、ことLPガスへの政府支援を巡ってはエネルギー業界内外から異論・反論が相次いでいる。

「LPガスの輸入価格はLNGや石炭ほどの高騰局面にない。小売り料金上昇は販売業者による便乗値上げの要素があるのに、国が支援する意味が分からない」(消費者団体関係者)、「政府は商慣行の改善などで、輸入価格の10倍といわれるほど割高な末端価格の構造問題を是正することが先決だ」(エネルギー会社幹部)――。

確かに、輸入価格指標のサウジアラビア産CP(契約価格)を見ると、プロパンの3月分は1t当たり720ドルで前月比70ドル、前年同月比175ドルも下落している。「春の統一地方選をにらんだ最悪の愚策。血税の無駄遣いもいいところだ」。有力学識者の声がむなしく響く。

CN対策で急務の運輸電動化 官・民で連携模索し導入加速へ


【業界紙の目】穐田 晴久/交通毎日新聞 編集局記者

運輸部門のCO2大幅削減が課題となる中、特にトラックなど商用車の電動化対策が急務だ。

関係省庁が電動化への政策支援に力を入れ、メーカー同士も連携して取り組みを活発化させている。

「2050年カーボンニュートラル(CN)」の実現に向け、トラックやバス、タクシーなどの商用車の電動化が大きな課題になっている中、自動車メーカーが新型のEVトラックの発表会を開催したり、量販FCV(燃料電池車)小型トラックの開発を発表したりといった動きを見せている。一方、環境省が経済産業、国土交通両省と連携し、23年度当初予算でトラックとタクシーの電動化への支援事業を新規で立ち上げるなど、政府の動きも活発化してきた。

商用車の電動化が急務となっているのは我が国全体のCO2排出量の約2割が運輸部門で、このうち約4割をトラックなどの商用車が占めるからだ。この課題対応として政府は、21年6月策定のCNに向けた「グリーン成長戦略」で商用車の電動化目標を掲げた。8t以下については30年までに新車販売の20~30%を電動車にし、8t超については累積5000台の先行導入を目指す。

矢野経済研究所が1月13日に発表した商用車の電動化に関する市場見通しによると、商用車の世界販売台数は35年に3053万台(19年比13.7%増)で、HEV(ハイブリッド車)やPHEV(プラグインハイブリッド車)、EV、FCVといった電動車が占める比率は、最大で49.1%まで拡大するという。21年の電動商用車の世界販売台数は29.9万台で、商用車全体に占める電動化比率は1.2%。中国や欧州が中心となって市場をけん引し、補助金などの普及施策を受けて販売台数を伸ばしてきた。

商用車の電動化では、バッテリーを含めた積載量や走行距離の短さが課題として指摘されてきたが、各国で対策が取られている。欧州ではEVやFCVに限定して積載量を緩和しており、米国でも同様の動きがみられる。

メーカー動向活発に  各社相次ぎ新商品投入

こうした中、国内メーカーの動きはどうか。

「カーボンニュートラル戦略」と「進化する物流への貢献」を進める、いすゞ自動車は、昨年5月に横浜市で開催された「ジャパントラックショー2022」で、小型トラック「エルフEモニター車」の実車展示を行った。22年度中の量産開始に向けて開発を進めていることを明らかにしたほか、大型FCVトラックの取り組みについてパネル展示や動画で紹介した。

また、トヨタ自動車が同年7月に商用車の電動化戦略を発表。いすゞ、日野自動車と共同で小型FCトラックを開発し、23年1月以降に実用化することや、スズキ、ダイハツ工業とは軽商用EVバンを共同開発し、23年度中に市場投入するとした。

両プロジェクトには、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)やCNへの貢献を目的に、いすゞ、日野、トヨタが設立した新会社「コマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ」(CJPT)も参画する。小型FCトラックはいすゞと日野によるトラック技術と、トヨタのFC技術を組み合わせた知見などを結集する。軽商用EVバンは、スズキとダイハツが培った小さなクルマづくりと、トヨタの電動化技術を組み合わせたサステナブル(持続可能)な移動手段の提供を目指している。

さらに、三菱ふそうトラック・バスは、昨年9月に横浜市内で開いた発表会で、小型EVトラック「eキャンター」の新モデルを公開した。eキャンターは17年に国内初の量産型EVトラックとして発売され、今回の車両はフルモデルチェンジした次世代モデルとなる。航続距離を短くする代わりに価格を下げた点が特徴だ。同社幹部は「ラストワンマイルから拠点間輸送まで多くの需要に対応できる」とアピールした。

このほか、ベンチャーの「EVモーターズ・ジャパン」(北九州市)のEVバス2台が、東京・渋谷区のコミュニティバスに導入され、3月から運行を開始した。商用車を巡る動きが活発化している。

三菱ふそうトラック・バスが発表した新型EVトラック

業界直面の2024年問題 「CNは後手に」の本音

矢野経済研究所によると、中国ではNEV(新エネルギー車)向け補助金などの優遇を受けて電動商用車の販売台数が増加しており、特に大型バスではEVの新車販売に占める割合が高い。他方、欧州では電動化の中心は小型商用車だが、主要な商用車メーカーのラインアップ拡充によって、大型トラックでも電動化が進むと見られるという。

海外に対し日本政府の動きはどうか。環境省は、EV、HEV、天然ガストラック・バスの導入や充電インフラの整備を支援する目的で「環境配慮型先進トラック・バス導入加速事業」(19~23年度)を実施。23年度当初予算の電動化促進事業では、改正省エネ法で新たに制度化される「非化石エネルギー転換目標」を踏まえた中長期計画の作成義務化に伴い、EV、PHEV、FCVの野心的な目標を掲げた事業者や、非化石エネルギー転換に伴い影響を受ける事業者などを対象に、車両導入費を集中的に支援する。約136億円を計上した。乗用車の導入支援などと合わせ、運輸部門全体の脱炭素化を進めたいとしている。

ただ、物流業界のCN推進に向けては、①中小事業、個人事業者にも車両導入を促せる補助的措置の必要性、②それぞれの用途でのニーズを満たす商用車の開発や生産力の確保、③EV給電、電池交換などの設備の整備―などの課題が横たわっている。

働き方改革関連法によって4月以降、自動車運転業務の年間時間外労働の上限が960時間に制限される。これに伴い発生する「2024年問題」も影を落とす。同法はトラックドライバーの労働環境改善が狙いだが、運送・物流業者の売上や利益の減少、ドライバーの収入が減少し離職に繋がる可能性もある。

労働力不足に拍車がかかる恐れなどが懸念されており、中小運送事業者からは「CN推進まで対応できない」との声も漏れる。こうした課題も含めた総合的な政策判断が今、求められている。

〈交通毎日新聞社〉〇1924年創刊○発行部数:週2回5万6000部○読者層:自動車・部品・タイヤメーカー、ディーラー、整備事業者など

運転期間見直しで異論噴出 露見した原子力規制委の課題


【論説室の窓】神子田 章博/NHK 解説主幹

原発運転期間見直しなどを盛り込んだGX脱炭素電源法案を巡り、原子力規制委員会で意見が分かれた。

今回の制度変更は、規制委、ひいては原子力産業が抱える根本問題を浮かび上がらせる。

原子力規制委員会は2月13日、原発の運転期間を巡る政府の新たな方針について異例の多数決で了承した。

原発の運転期間は、東京電力福島第一原発事故を受けて、原則運転開始から40年。1回に限り延長が認められ、その場合でも上限を60年とすることが、原子炉等規制法で定められている。新たな制度では、運転期間についての規定を、経済産業省が所管する電気事業法に移す。さらに、原則40年、上限で60年を原則としながらも、運転開始から30年目以降は、10年間隔で規制委が安全性を確認して認可を繰り返す制度を導入することで、経年劣化した原発の安全性を確認する。その一方で、規制委の安全審査などによる運転停止期間については、運転期間の計算から除外するとしている。

石渡委員が反対 独立性を疑う声も

規制委の中でとりわけ強い反対論が出たのは、この最後の部分だ。地震や津波などの審査を担当する石渡明委員は、「電力会社の責任で不備があって審査を中断するなどした場合でも、その分あとで運転期間を延ばしてよいというのは非常におかしいと思う」と主張。規制委は時間をかけてでも安全性をとことん追求することが求められているのに、審査に時間をかけるほど運転期間が延長され老朽化によるリスクが高まることになるというのは、大いなる矛盾だというのだ。

これに対し山中伸介委員長は、新たな制度では、運転開始から30年以降、10年を超えない期間ごとに機器や設備の劣化状況を確認して管理計画を策定し、規制委の認可を受けるとしていることを挙げ、「ある期日が来たときに基準を満たしているかどうか安全規制をするのがわれわれの任務だ」と強調。結局、採決では4対1で政府の方針が了承された。

記者会見する山中伸介委員長

この問題を巡っては、審査による停止期間が自動的に運転期間の延長につながることで、電力会社が審査を満たすための安全対策を急ぐインセンティブが薄れるという懸念が出ている。その一方で、企業としては1日も早い稼働で、莫大な投資の回収と収益性の向上につなげたいところで、故意に審査期間を延ばすようなことは考えられないという見方もある。

肝心なのは、規制委が独立した立場から厳格に審査することで、良いものは良い、ダメなものはダメと一切の忖度なしに科学的見地に基づいた判断を下し、安全性の維持を最優先するということではないか。

そこで次の焦点は、規制委の独立性が保たれるのかどうかだが、今回の経緯を巡って、それを疑う声も聞こえる。政府の方針について規制委が議論を続けることができる時間の制約の問題だ。

政府は、今回の制度変更を盛り込んだ法案を今国会で成立させようとしている。このため、規制委の議論も一定の時期までに結論を得るという、いわば枷がはめられた形になった。

これについて規制委の杉山智之委員からは、「外から決められた締め切りを守らなければならないという感じで、せかされて議論してきた。われわれは独立した機関であり、じっくりと議論すべきだった」という指摘が出された。これに対する山中委員長の見解は、「少なくとも4カ月間をかけて議論してきたが、法案を提出しなければならないという期限があったのは事実で、そこはやむを得ないところだと思う」というものだった。法案化に向けたスケジュールとの折り合いをつけるために、規制委での議論に時間的な制約がかかったことを認めたとも受けとられている。

もともと規制委は、福島の事故後、原子力発電を推し進める側の政府から独立し、透明性をもって安全性を審査する機関として発足した経緯がある。独立性を疑われることはすなわち、原発の安全性に疑いを持たれることにつながり、その結果、原子力の活用にブレーキがかかることになりかねない。

求められる人材確保 原子力産業が陥った悪循環

その一方で、規制委が無制限に時間をかけてよいということにもならないだろう。エネルギー情勢を巡っては、脱炭素という待ったなしの課題に加えて、ロシアによるウクライナ侵攻後には、天然ガスの需給がひっ迫し、電力料金の高騰に跳ね返る中で、コストを抑えながら安定的なエネルギーをどう調達していくかも差し迫った課題となっている。そうした課題に応えるものとして原発の重要性が高まる中、審査のスピードアップが求められているのではないか。

もちろん、このスピードアップは、「せかされて」審査することで安全性が疎かになるというものになってはならない。安全性の確保について妥協のない形で審査をスピードアップするためには、規制委の体制強化を図る必要があるのではないだろうか。

ところが、ここでネックとなるのが、規制委の体制を強化するための人材の確保だ。もともと規制委は、原発を製造する大手電機メーカーなどから人材の供給を受けて発足したが、メーカーにとっても原発の製造のための人材が必要であり、規制委に供給できる人材には限りがあるという。さらに原子力政策を担う官庁側にも、原子力の専門家は欠かせない。その一方で、福島の原発事故以降、「産業としての将来性のなさ」を感じて、原子力を志す若い人材が減っているという。今回の政府の原発政策の転換には、原子力産業を存続させなければ、日本の原子力関連の技術も廃れてしまうという危機感もあったという。

福島の原発事故から12年が経った。原発の安全への信頼が失われたことで、原子力産業の将来性と潜在的な人材が失われるという悪循環が時間をかけて進んできた。この悪循環を止め、逆回転をさせるには、何よりも安全性への信頼を取り戻すことが重要で、それには相当な時間がかかりそうだ。規制委の体制強化で審査のスピードアップを図るといっても、そのこと自体、長い時間を必要とするものになりそうだ。

液石WGが7年ぶり再開 LPガス商慣行にメス


LPガスの料金透明化と取引適正化について検討する総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)の液化石油ガス流通ワーキンググループ(WG、座長=内山隆・青山学院大学教授)の会合が3月2日に開催され、7年ぶりに議論を再開した。

テーマは、事業者が賃貸集合住宅へのガス供給契約獲得のためにさまざまな製品を物件オーナーに無償提供し、その費用を入居者からガス料金として回収する商慣行の是正だ。今後3回程度会合を開き、現行の商慣行を見直すとともに制度改正を含む議論を行い、7月ごろまでに方向性を示す。

昨今、オーナーへのリベートは給湯器やコンロといったガス機器のみならず、エアコンやインターホンといったガスと直接関係のない商材にまで及ぶ。そもそも、設備はオーナーの所有という整理に基づけば、その費用をガス料金に転嫁すること自体、つじつまが合わない。永井岳彦・石油流通課長は、「顧客獲得コストの上昇が、消費者の不利益になっている可能性がある」と指摘。事業者に無用な混乱が生じないよう配慮しつつ、早期の是正を目指す構えだ。

【覆面ホンネ座談会】原子力規制に改善見えず 「山中委員会」に物申す!


テーマ:原子力規制委員会の評価

国の原子力規制委員会が原子炉等規制法の改正に踏み切り、原発運転期間の延長が実現する。電力会社には朗報だったが、業界が切望する安全審査の改善は進展がない。業界関係者が「山中委員会」を見る目は依然厳しい。

〈出席者〉 A学識者  B電力業界関係者  Cジャーナリスト

―山中伸介氏が委員長に就いて半年が経つ。まず評価から聞きたい。

A 原発の運転期間延長を巡り、石渡明委員が最後まで原子炉等規制法の改正に反対した。それで、最後は山中さんが多数決で決めた。批判の声もあったが、規制委がNRC(米国原子力規制委員会)のような組織に近づいたと評価している。ようやく合理的な規制を行う機関に代わるのではないか。その兆しを感じている。

B NRCのように多数決を採用し、意見の分かれる課題に白黒決着を付けた。これは規制行政での普通の取り組みとして、よいことだと思っている。ただ、山中委員長の手腕については、評価をするのは時期尚早だろう。どう規制行政をリードしていくのか、まだ見えていない。

 大阪大学時代の山中さんからは、優秀な学者だが、遠慮がちで発言が少なく、リーダーシップを取るタイプとの印象は受けなかった。それは規制委の委員長になっても変わらない。委員会も原子力規制庁の用意したシナリオに沿って進めているように見える。委員会での発言を聞いていると、規制庁事務局と打ち合わせて、その枠の中からはみ出さないように慎重に話しているようだ。

リーダーシップに期待はするが…… 法律専門家が規制委のグリップを

―すると、期待はしていない?

B いや、そんなことはない。更田豊志前委員長、田中俊一元委員長は、記者会見での厳しい質問に対して、その場の思いつきで想定を越える発言をして、規制庁も後処理に困ったことが度々あった。もうそんなことは起きないだろう。

 一方、今の安全審査はとても科学的、合理的なものとはいえない。それで電力会社はひどい目に会っている。業界としては当然、それらを正すために山中さんのリーダーシップに期待している。実際は、かなり難しいかもしれないが。

C 運転期間の延長、それに柏崎刈羽原発の追加検査など、実務的にテキパキと仕事をこなしている印象は受ける。ただ、Bさんと同じく、田中さん、更田さんのような強烈なカラーは感じない。規制庁にとっては担ぎやすい委員長だろう。

 ただ、山中さんはあえて自分のカラーを打ち出す必要はない。規制委も国の行政機関の一つだ。ところが今、規制委の中に法律を正しく解釈する委員がいない。法律に詳しい規制庁幹部が、委員や職員をある程度、グリップしないと田中さん、更田さんの時のような「暴走」が始まってしまう。

―規制庁長官の片山啓さんは経済産業省出身の事務官だ。

C 法律に詳しい片山さんたちは、規制委も国の行政機関の一つであることをわきまえている。彼らが規制行政を法律に則って進めるべきだ。同時に金子修一次長のような海外の規制に詳しい技官幹部が、規制庁の職員をきちんと監督しなければいけない。

 かつての規制庁の原子力規制部は、「更田チーム」「石渡チーム」と委員が親分になって、やりたい放題の審査をしていた。あたかも、参謀本部のコントロールが効かなくなった「関東軍」のようだった。それが再稼働の審査が延々と続いた最大の理由だ。

A 行政手続き法では、原発の再稼動はおおむね2年間で審査することになっている。2年間で審査を終える体制にしなければ、行政組織として失格ということだ。ところが、延々と10年近く審査を続けているサイトがたくさんある。

原発の役割が重要性を増す中、原子力規制委員会への期待は高まるが……
提供:朝日新聞社/時事通信フォト

「活断層論争」に終止符 志賀原発再稼働に一歩前進


2014年の審査申請から約9年―。北陸電力志賀原発2号機を巡る「活断層論争」にようやく終止符が打たれた。3月3日、原子力規制委員会が敷地内の断層の活動性を否定する北陸電力の説明について「おおむね妥当」、つまり「活断層ではない」との判断を示したのだ。

志賀原発の「活断層論争」に終止符が打たれた

東日本大震災後、旧原子力安全・保安院は原発敷地内の断層の再評価を行った。論争はその評価会合に参加した専門家が、スケッチ図を見て「活断層に見える」と発言したことに端を発する。規制委が14年に設置した有識者会合も、科学的根拠なしに活断層だと疑い続けた。ないことを明らかにする〝悪魔の証明〟を求められた北陸電は、断層の評価方法に鉱物脈法を採用するなど努力を重ね、審査通過への望みをつなげたのだ。

だが、再稼働への道のりは長い。北陸電は昨年11月、規制料金の値上げを申請。この際、原価算定上で志賀2号機の稼働時期を26年1月として織り込んだが、今後の審査を考えると同時期に再稼働するかは不透明。再稼働による抑制効果は年平均で約120億円、規制料金の値上げ率を約2%抑えられるが、停止のままなら負担増になりかねない。北陸電の判断の是否はいかに。

【イニシャルニュース 】再エネ規制シンポ中止 裏に自民有力議員の影


再エネ規制シンポ中止 裏に自民有力議員の影

再エネの乱開発防止を訴える全国規模の住民団体、「全国再エネ問題連絡会」が3月15日に東京都内で予定していたシンポジウムが、土壇場で中止に追い込まれた。

このシンポジウムは「今、再エネ問題解決に必要な法改正は何か」をテーマに、経済産業省、農林水産省、国土交通省、環境省のほか、国会議員や地方議員、有識者らが参加。悪質事業者などによる乱開発に歯止めをかけるため、①再エネ固定価格買い取り制度(FIT)の改正、②都道府県知事の林地開発許可に関わる森林法の改正、③環境アセス法や地球温暖化対策法における罰則の強化―などを巡り幅広い議論を行う予定だった。しかし7日になり突如中止が決まったのだ。

同連絡会の共同代表を務める山口雅之氏は、「開催場所である衆議院第二議員会館の会議室が急きょ使えなくなったため」「政治の世界がいかに魑魅魍魎であるか体感させていただいた。心からお詫び申し上げます」「ようやく自分の限界を知るにいたりました」などとコメント。政治家による何らかの圧力が中止の背景にあることを言外ににおわせた。

再エネ事情に詳しい永田町筋によれば、自民党有力議員のF氏やK氏が水面下で動いた可能性があるという。「エネルギーの地産地消を推進する両氏は、再エネ普及拡大議連を主導する河野太郎グループや野党の再エネ勢力とせめぎ合っている。そんな中で、再エネ開発に待ったを掲げる再エネ連絡会の動きが目障りになったのかもしれない」

再エネ問題に揺れる自民党

いずれにしても、再エネ適正化政策がこれから本番を迎えようという矢先のシンポ中止劇。果たして、舞台裏で一体何があったのか、大いに気になるところだ。

保守分裂の青森知事選 混迷でも電力動けず

6月に投開票が行われる青森県知事選挙の行方が、原子力の先行きに影を落としそうだ。関西電力による使用済み核燃料の中間貯蔵施設の利用の問題があるためだ。青森市長の小野寺晃彦氏と、むつ市長を辞職した宮下宗一郎氏が出馬の意向だ。二人は共に自民党に推薦を求めていた。が、いったん小野寺氏でまとまりかけたものの、一本化できずに3月に自主投票を決めた。

小野寺氏は現職の三村申吾氏が強く支持する一方、宮下氏はネット配信などのパフォーマンスで知られる。混迷の様相を呈す中、下馬評では宮下氏がやや有利と伝わる。

東電と日本原電は中間貯蔵施設をむつ市で運営しているが、関電はそこに参加したい意向だ。関電は福井県と、県内の使用済み核燃料の処理方法を今年末までに決めると約束しており、その期限が迫る。

むつ市長時代の宮下氏は「なぜ関電が核のゴミを持ってくるのか」と批判を続けた。関電は三村知事、自民党E代議士らと共に受け入れの調整を続けていた。ところが宮下氏はこの二人と折り合いが悪い。宮下氏の行動には、関電の政治判断のミスと、その遺恨が背景にあると憶測された。

青森には原子力施設が集中する。電力会社は事業への政治的な介入を恐れ、どの選挙にも中立の立場だが、こと保守分裂の青森知事選では「一層、配慮せざるを得ない」(関係筋)。日本原燃にはS副社長、地元対応のO執行役員など関電出向組がいるが、何もできない状況だ。

ただし「宮下氏の批判は、三村さんに肩入れするなとの政治家としてのパフォーマンス。聡明な人なので利益が見えれば態度を変える」(同)との期待もある。しかし宮下氏の考えも選挙の先行きも不透明。電力・原子力関係者は、知事選の行方を、固唾を飲んで見守っている。

LPガス業界に衝撃 貸付配管で制度改正へ

資源エネルギー庁がついにLPガス業界長年の課題である「貸付配管問題」解決に向け、制度改正に着手した。エネ庁石油流通課は昨年末、業界の会合で改正について説明。そして3月2日に同庁が開いたワーキンググループで正式に論点を示した。屋内配管やガス機器などの費用は基本料金や従量料金と分離する、といった方向に見直す考え。

ただ、業界からは根強い反発の声が挙がる。エネ庁は昨年末から議論をスタートさせたかったところ、業界団体がWGのメンバーを選ぶのに時間がかかり、結局数カ月を要した。見直しを前向きに受け止めたのはT社などごくわずか。別のT社や、N社などの幹部は後ろ向きの発言をしており、こちらが多数派だ。

「エネ庁は取引の最適化と透明化を徹底させたいのだろうが、数十年前から議論が起きながら今日まで実施できなかった。不動産業者がこの商習慣を利用する面があるし、消費者団体も見直しを強く求めてこなかった」(業界関係者)

エネ庁は5月末までに3回ほどWGを開き決着させたい意向だが、どう落としどころを探るのか。

長年の商慣行に行政のメス

二つの再エネ議連 自民内でせめぎ合い?

いま自民党には、再生可能エネルギー事業を巡り二つの議連が存在している。

一つは、柴山昌彦元文部科学相が会長を務める「再生可能エネルギー普及拡大議連」(S議連)。小泉進次郎前環境相が会長代理、河野太郎内閣府特命担当相が顧問という顔ぶれで、「自民党内の脱原発派が揃う筋金入りの反大手電力議連」(エネルギー業界幹部)だ。

もう一つは、森山裕選挙対策委員長が会長を務める「国産再エネに関する次世代型技術の社会実装加速化議員連盟」(M議連)。こちらは岸田文雄首相、麻生太郎副総裁といった大物が発起人に名を連ね、2月に発足したばかりだ。再エネに加えて、原発も脱炭素電源として容認する方針を掲げており、柴山議連とはスタンスが大きく異なる。

「われわれはあんな恥ずかしい真似はしない」。そう言い切るのはM議連のH議員だ。S議連が昨年6月に洋上風力入札制度の見直しを求める要望書を経産省に出したことなどを受け、価格優先のルールがひっくり返されたことを批判する。議連事務局長の秋本真利議員を巡っては、同入札で落選した風力事業者から多額の政治献金を受けていた疑惑が取りざたされている。

M議連は、ペロブスカイト太陽電池や浮体式洋上風力発電など次世代再エネを巡る技術育成や導入支援策を検討。5月ごろにも提言をまとめた上で、政府が6月に策定する経済財政運営と改革の基本方針に盛り込む構えだ。

一方の柴山会長は、3月の海外事業者ヒアリングの場で「入札ルールの変更で『後出しじゃんけんだ』と事実と異なる声も聞かれたが、今回のヒアリングでも日本の洋上風力市場は依然魅力的だと言われている」と述べ、党内の動きや報道にくぎを刺した。またS議連は、大手電力による顧客情報の不正閲覧問題の追及にも力を入れている。

「自民党には、一部事業者への利益誘導的な再エネ政策ではなく、国益をベースにバランスの取れた再エネ政策の検討を望みたい。原子力を含めた『S+3E』の原則さえ間違えなければ、両議連とも応援したいところだ」   

大手ガス会社幹部の期待に、議連関係者はどう応えるか。

東電EP社長に長崎氏 小早川氏の次は誰?

東京電力エナジーパートナー(EP)の次期社長に、長崎桃子・東電ホールディングス(HD)常務執行役が決まった。4月1日付で就任する。長崎氏は慶大法学部卒業後、1992年に東電入社。2017~19年に東電EP子会社、テプコカスタマーサービス(TCS)の社長としてエリア外の法人営業展開に力を入れた。これが引き金となって西日本地域での安売り競争が激化し、中部、関西、中国、九州の大手電力4社による価格カルテルを誘発したのは、知る人ぞ知る話だ。

「TCSは昨今の収益悪化からEPの取次会社に格下げと一部で報じられた。そのEPはHDから計5000億円もの増資を受け、経営危機からの脱却を狙う。長崎氏の経営手腕に注目だ」 いずれにしても、業界の次なる関心事は、東電HDの社長人事だ。現社長の小早川智明氏は17年就任から丸6年を迎えるが、まだ59歳と若いこともあって今のところ交代の話は出ていない。「A氏か、Y氏か、T氏か。次の候補選びは難航しそうだ」(大手電力関係者)

JERAが共同CEO体制 「相互補完」で難局乗り切る


JERAの佐野敏弘会長、小野田聡社長が退任し、4月1日付で、可児行夫取締役副社長執行役員が代表取締役会長・グローバルCEO(最高経営責任者)に、奥田久栄副社長執行役員が代表取締役社長・CEO兼COO(最高執行責任者)に就任する。

会見に臨む可児新会長(左)、奥田新社長

異例の共同CEO体制を敷く背景には、同社の主導権を巡る親会社である東京電力ホールディングスと中部電力との微妙な駆け引きが透けて見える。だが、両CEOの関係は至って良好であり、統合交渉から10年間タッグを組み、同社の中枢を担ってきたことで築いてきた信頼関係は、事業環境を取り巻く環境が激変する中で着実に成長を遂げるための原動力となりそうだ。

東電出身の可児氏は、資源確保やエネルギー事業開発といった豊富な海外経験を有することが強み。一方の中電出身の奥田氏は、経営企画の経験をベースに他社とのアライアンスなど従来の電力会社の企画部門の枠を超えた多彩な経験を持つ。世界的な脱炭素への対応と、国内の燃料調達と電力価格の安定化という課題に直面する中、異なる強みを「相互補完」し難局をどう乗り越えるのか。新経営陣の手腕がいよいよ問われることになる。

EVでエネルギーシェアリングを実現 コミュニティーで再エネを有効活用


【中部電力】

中部電力ミライズは、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)と連携し、長野県の軽井沢町で「でんきで絆をはぐくむ」街づくりに取り組む。

具体的には、3月1日にオープンしたコミュニティー施設「Karuizawa Commong—rounds(軽井沢コモングラウンズ)」内の書店やカフェなどの店舗、近隣の居住エリアに太陽光発電を導入する。書店南側の駐車スペースには、充放電機能を備えたEVを設置。再生可能エネルギーやEVを近隣の居住エリアを含むコミュニティー内で共同利用する。再エネの有効活用や防災拠点としてのコミュニティーの実現に取り組む。

軽井沢町は、持続可能な社会の構築に向けた協働や、環境の保全・創造を推進する「軽井沢町環境基本条例」を制定している。中部電力ミライズとCCCは、エネルギーの地産地消と最適化を目指した社会連携型サービスを通じた街づくりにより、地域のSDGsの目標達成とカーボンニュートラル社会の実現に貢献する。また、軽井沢コモングラウンズを中心とした、地域住民との連携による再エネの地産地消の取り組みを「でんきで絆をはぐくむ」街づくりの先進的な事例として、他の地域へ展開していく。

再エネの地産地消・有効活用を目指す

3社共同でエネマネ 再エネの地産地消を促進

このEVは、コミュニティーの利用者を対象としたカーシェアの車両としてはもちろん、蓄電池としても活用される。カーシェアの利便性を損なわず、蓄電池としての効果を最大化するため、エネルギーマネジメントシステム(EMS)を試験的に導入している。

EMSの試験導入は、中部電力と中部電力ミライズ、デンソーの3社共同で実施される。

中部電力が提供するEMSは、電力需要や太陽光発電の予測、デマンド制御を行う。デンソーが提供するEVのEMSは、EVの充電率や充電状態を表す指標であるSOC(State Of Charge)の予測を行う。中部電力ミライズは、カーシェアの予約管理システムを提供する。これらの三つのシステムを連携させ、EVの最適な充放電や、書店やカフェなど店舗の空調管理を行い、環境性の向上を実現していく。

3社は、普及拡大が見込まれるEVを用いて再エネのさらなる拡大を目指すとともに、軽井沢コモングラウンズでの運用結果から、新たな価値を提案しカーボンニュートラル社会の実現に貢献する。

省エネ2法で矛盾する「原単位」 25年まで棚上げで脱炭素の障害に


【識者の視点】西村 陽/大阪大学招聘教授

省エネ法と建築物省エネ法がそろって改正され、脱炭素への行動を一層後押しすることが期待される。

ただ、建築物省エネ法はエネルギー原単位の変更を先送りした。その問題点を西村陽・大阪大学招聘教授が指摘する。

2023年冬の日本各地での厳しい寒さと電気代の予想外の高騰は、日本の建物の暖房に関する弱点、つまり「暖めるためには相当のコストがかかってしまう」ことを明らかにした。要は、断熱の不足と自家用太陽光発電導入の頭打ちへの対策不足である。また、産業・業務用についても多くのユーザーがエネマネ用の太陽光導入の遅れを後悔している。

その点、22年に行われた省エネ法改正は、国民一般と産業界に再エネ活用の意義を浸透させるために大きな力となるものだ。もともと省エネ法(経済産業省資源エネルギー庁所管)と建築物省エネ法(国土交通省住宅局所管)という二つの法律が対になり、国民の建物をエネルギー危機に対して強くする意義を持つが、これが石油危機以降の燃料消費中心の規制ルール(いわゆるキロリットル主義)から脱炭素に寄り添う形でリフォームされたのは意義深い。何しろ法律の名前自体に「非化石エネルギーの活用」という概念が加わって変わったのである。

画期的な「全電源」採用  省エネ法は大胆な改正

これによって「再エネが系統電力のエネルギー原単位として反映されていないことから、再エネ電源により低炭素化が進んだ電気の使用が進まず脱炭素を妨害しているのではないか」との批判に耐えられるようになり、むしろ大胆な改正によって再エネ導入を後ろ押しし、かつ系統電力から再エネを引き込む「上げDR(デマンドレスポンス)」も呼び込める法律へと画期的に変わったと評価できる。

既に、資源エネルギー庁分散型電力システム検討会で需給に貢献する「下げDR・上げDR」の省エネ法上の評価を具体設計し始めており、下げDRをベースラインも設定した報告義務、再エネ取り込みを含む上げDRはまずは自主的な報告対象となった。

それとともに、省エネ法運用上の長年の焦点だったいわゆる神学論争(建物新設時の選択によってエネルギー効率はどう変わるか、についての結論の出ない論争)も、電気利用の中の再エネウエートが常態的に上がり、火力発電の閉鎖が中長期にわたって続くことを反映して火力平均の原単位から全電源原単位に改定された。

火力平均の数値自体も低効率の石炭・石油の閉鎖や高効率機シフトが反映されていない状態が解消され、需要サイドの脱炭素化に貢献する電気利用の高い効率機器の評価がようやく正常化された改定であった。

このことは、機器選択の脱炭素貢献に直結する。需要サイドの電気利用機器は、再エネ大量導入時代に不可欠な需要サイドフレキシビリティーの拡充に貢献できる唯一のエネルギー利用機器という面があり、その導入遅れはロックイン効果(一度建物に入った機器は炭素税などの環境変化の影響を受けず、長い期間変更されないこと)を生む。省エネ法改正は、それに歯止めをかけたといえる。

このように前向きな改正がプレーヤーの動きに反映されつつある省エネ法に対して、対となる法律である建築物省エネ法も合わせて改正された。一番大きな変更点は断熱基準をはじめとする省エネ対策の強化であり、21年の内閣府タスクフォースでの激しいやり取りから改正に至ったのは記憶に新しいところだ。

全ての建築物について省エネ基準への適合義務を課す、というこの内容は、建物の3割を占める木造建築物の省エネ性能向上に大きく貢献することが期待される。冒頭で述べた「断熱は最大の暖房機器であり、エネルギーと戦う武器だ」と言われるゆえんである。

ところがその一方で、建築物省エネ法上での一次エネルギー換算係数については、省エネ法との整合を基本とするはずのこの法律で、全電源平均への改定が25年まで棚上げされた、というより永遠に放置の恐れさえある。

内部事情を察するに、①関連業界の協力が不可欠な省エネ基準適合義務化の円滑な導入を最優先するため、②また、エネルギー機器まで巻き込んで業界構造が変わりかねない原単位問題まで関わってはいられないという当局の事情、③さらには脱炭素への協調で大胆すぎる経産省だけに付き合っていられないという気持ち―も分からなくもない。

しかし、この改定の遅れ、しかも25年までの棚上げはそれまで建築物省エネ法が脱炭素貢献のある機器・システム転換を妨害し、ロックイン効果を助けていくと言っているのに等しい。これでは省エネ法と対にはなっていない。25年という固定化によって、技術や情勢変化に対して硬直的であることもさらなるイノベーションを阻害するかもしれない。

換算係数で省エネ法と整合が取れていない

脱炭素実現の基礎付けに  改正効果を確実に浸透

目下のエネルギー危機は、日本中の一つひとつの家屋、企業の建物に「エネルギーコストにどう向き合い、どう投資してどう戦うか」

を考えさせる機会となっている。節約もDRも方法の一つだが、断熱や太陽光・蓄電池によるプロシューマ化の方がはるかに大きな投資効果を持つ。どのエネルギーを扱う企業もこの現実からは逃れられない。もはやエネルギービジネスは量を売るビジネスではなく、エネルギー支出削減ノウハウを売るビジネスに変貌しつつあるのは欧州の変化から見て明らかだ。全てのエネルギー販売企業は省エネ化、脱炭素に向けた国民の前向きなアクションを助ける産業でなければならず、対立している暇はない。もちろん建築業界も同様だ。

省エネ法と建築物省エネ法は国民のアクションを引き出すために不可欠なルールインフラを提供するものであり、その改正は確実に浸透させて、いわば日本の脱炭素化の基礎付け(ミクロ・ファウンデーション)を形作らなければならない。その「国民のために」という基礎に立って、業界調整をはじめ多くのハードルを乗り越えてこそ、脱炭素に貢献するエネルギー機器・建築産業、政策当局であり続けることができるのではないだろうか。

にしむら・きよし 1984年関西電力入社。99年学習院大学経済学部特別客員教授などを経て2013年から現職。資源エネルギー庁分散型電力システム検討会委員、ERAB検討会委員、早稲田大学先進グリッド研究所招聘研究員。

ペトロナスが初の説明会 日本側の不信感払拭なるか


昨年9月のサバ・サラワク・ガスパイプライン損傷事故を受け、供給義務を免れる「不可抗力条項」(フォースマジュール)を宣言したマレーシア国営石油会社のペトロナスが3月17日、初のメディア説明会を都内で開催した。

この中で、日本駐在事務所代表のエズハー・ヤジド・ジャーファー氏は、「わが社の昨年の対日LNG輸出量は約1200万tで、日本市場での利益の90%以上がLNGによるものだ」「日本との密接な関係は続いており、1~3月のLNG納品は間違いなくさせていただいた」などと説明。副社長のシャムサイリ・モハマド・イブラヒム氏もオンラインで参加し、「日本の脱炭素に向けた道のりを後押しできると信じている」と、日本企業との関係強化に向けた期待を表明した。

日本のメディア向けに説明するエズハー氏

それにしても、いまこの時期になぜ日本向けの説明会を開催したのか。同社の狙いについて、LNG事情に詳しいエネルギー関係者は「わが国の買い主企業の間で広まっているペトロナス社への不信感を払拭することが、最大の目的ではないか」と話す。

というのも関係筋によれば、前出の不可抗力宣言がマレーシア2(デュア)事業を対象にしたことで、そこから調達する日本のエネルギー事業者、とりわけ調達比率の高い中堅ガスは、割高なスポット購入などの代替策を検討せざるを得ない状況に追い込まれた。結果として供給量に影響はなかったわけだが、某中堅ガス幹部は日本市場を軽視するような売り主側の対応に怒り心頭だったという。

同国のLNG事業を育てた日本企業への感謝に終始した今回の説明会。ただ、失った信頼を取り戻すには時間がかかりそうだ。

柏崎刈羽再稼働の仰天シナリオ 出直し知事選で「現・前」激突!?


今夏以降の再稼働を目指す柏崎刈羽原発。花角英世新潟県知事は県民の意思をどのように確認するのか。

関係者の間で囁かれる「出直し知事選」の可能性―受けて立つのは買春疑惑で辞職した〝あの男〟だ。

東京電力柏崎刈羽原発は再稼働できるのか―。

政府は今夏以降に柏崎刈羽6、7号機を含む7基の原発再稼働を目指し、「国が前面に立ってあらゆる対応をとる」との方針を示している。東京電力も2022~23年度に再稼働する前提で経営再建計画を立て、1月の家庭向け規制料金の値上げ申請時も10月の7号機再稼働を織り込んだ。

だが、現実は甘くない。再稼働には、①原子力規制委員会による核燃料の移動禁止措置解除、②広域避難計画の策定、③新潟県独自の「三つの検証委員会」の検証結果が出た後、県での議論、④花角英世知事が判断を下し、県民の意思確認―という四つのハードルを乗り越える必要がある。

「東電以外の関与を」 花角知事のマジメさ

柏崎刈羽原発では21年1月、他人のIDカードを使って中央制御室に不正入室していたことが発覚。同年3月から、規制委による事実上の運転停止命令(核燃料の移動禁止措置)を受け、東電は改善措置計画を実施中だ。5月に規制委の検査報告書がまとまるが、山中伸介委員長は3月8日の記者会見で「1、2カ月で課題解決は難しいと思う」と発言。早期の命令解除の可能性は極めて低い。

こうした不祥事を受け、新潟県では東電への不信感が根強く渦巻いている。それを物語るのが、自民党県連・桜井甚一幹事長の発言だ。桜井氏は2月25日に開かれた自民党全国幹事長会議の席上、「再稼働には東北電力など東電以外の事業主体の関与が必要」との見方を示した。4月9日投開票の新潟県議選を控え、再稼働への慎重姿勢を示すことで争点化を避け、積極姿勢を前面に出す政府と同一視されることを防ぐ狙いが透ける。

しかし、立地する地元の声は異なる。桜井雅浩柏崎市長は3月8日の市議会一般質問で、「県全体の自民党の考えだとは承知していない」との認識を示し、「柏崎市内においても、全国においても原発再稼働を求める声の方が大きい」「(7号機の再稼働について)今年の雪が降る前に何らかの動きがあることを願っている」と期待を語った。

広域避難計画は自治体が策定し、首相が議長を務める原子力防災会議で了承を得る必要がある。ところが、1月の豪雪での立ち往生が記憶に新しい柏崎刈羽地域は、大雪時の対応が課題で避難計画ができていない。三つの検証委員会の一つである避難委員会からは、456点に及ぶ課題や論点が指摘されている。

三つの検証委員会は膠着状態が続いている。花角氏と池内了委員長との間で検証結果をまとめる「検証総括委員会」開催の合意ができず、21年1月以来開かれていないのだ。池内委員長は3月31日に任期を迎えるが、本稿執筆時点(3月17日)では続投するか不明となっている。

そもそも三つの検証委員会は2017年、米山隆一前知事が創設した。再稼働について何か権限を与えられているわけではなく〝無視〟することも可能だが、花角氏は「三つの検証委員会の結果が出た後で議論を始める」という姿勢を崩していない。できる限り池内委員長との折衝を続ける構えだ。

では、検証結果が取りまとめられ、県で議論した後、花角氏が再稼働「容認」の方針を打ち出したとしよう。ここで注目されるのが、県民の意思確認を巡るプロセスだ。次の三つの選択肢が考えられる。

①出直し知事選、②県民投票、③県議会での意見集約―。

このうち、可能性が低いのが②、最も現実的な選択肢が③とされる。③については、柏崎市・刈羽村が再稼働を求める請願を県議会に提出するなど、さまざまな形式が考えられる。議会に諮る際、花角氏が「採択されなければ職を辞す」と表明すれば、それなりの格好は付く。しかし、花角氏が政治的に容易な選択肢を選ぶとも限らないのだ。

というのも、花角氏は「マジメな人」「県知事職に執着していない」との評を多方面から聞くからだ。初当選時の県知事選で、再稼働について「県民の信を問う」と約束した以上、周囲が③を提案しても①を押し通すのではないか、との声が少なくない。

米山氏は新潟県知事の座にこだわっている
提供:時事

米山前知事の執念 ワンイシューの知事選

そんな中、花角氏と対照的に県知事職に対して執念を燃やす男がいる―。再稼働に慎重だった米山前知事だ。18年4月に買春疑惑で辞任した後、20年にタレントの室井佑月さんと結婚。同年の衆院選で新潟5区から無所属で当選し、現在は立憲民主党所属で活動している。

知事職について、米山氏は「新潟を立て直すために、やりかけたがほっぽり出してしまった仕事。戻る機会があったら戻るのが筋」と熱っぽく語る。この思いは出直し知事選に限らず、任期満了の県知事選でも変わらないという。

〝花角vs米山〟の「現・前」一騎打ち―。「福島を忘れたのか」「東電は信じられない」などと扇動的な言葉が飛び交うだけでなく、室井さんが「夫にもう一度チャンスを」と涙節を披露すれば、一気に「米山優勢」になるかもしれない。

いずれにせよ、新潟県は遠くないうちに再稼働を巡る嵐に巻き込まれる。ここで求められるのが国の役割だ。政府は「国が前面に立って」という方針を示した以上、「県民の理解を得られる努力を徹底してやらなければならない」(小林一大参議院議員)。

また新潟県は東北電力の管内でありながら、柏崎刈羽原発でつくられた電気は首都圏を中心とした東電管内に送られる。原発の話題になると新潟県でよく聞かれるのが、「原発を動かしても、自分たちの電気代が下がるわけじゃない」というフレーズだ。

小林議員が指摘するように、国は再稼働が国民全体にもたらすメリットを訴えなければならない。そうでなければ、再稼働「ワンイシュー」の知事選が行われた場合、「米山勝利」で柏崎刈羽が動き出すのは、遠い先のことになりかねないのだ。

池辺会長が4年目続投 電事連は「まさに重要局面」


「引き続き、私が会長職を引き受けるということで各社社長間で合意に至った。重要な役割を担うことになると承知しているが、(電気事業連合会会長として)この3年間の経験も生かし、業界のため、ひいては安定供給を通して電気を利用する皆さまの役に立てるよう尽力していく」

電事連の池辺和弘会長(九州電力社長)は3月17日の定例会見で、在任4年目に向けた続投を表明した。2000年以降では、東日本大震災・福島原発事故後の11年から5年超にわたり会長を務めた八木誠・関西電力社長(当時)に次ぐ在任期間となる。

今回の会長人事を巡っては、森望・関西電力社長、林欣吾・中部電力社長の有力候補2人が、価格カルテルや顧客情報不正閲覧などで脱落。当初、池辺氏は社内事情などを理由に難色を示していたが、第三候補である樋口康二郎・東北電力社長が固辞したことから、最終的には自らの続投しかないと腹をくくり会見当日に「覚悟を決めた」(池辺氏)ようだ。

「GX基本方針という日本のエネルギー供給の大方針が示され、電力業界がエネルギーの安定供給、原子力再稼働に具体的な行動を伴って取り組む必要がある一方、不正閲覧問題など自らの行動を律し、改革していくことも並行して取り組んでいかなければならないという、業界としてまさに重要局面を迎えている」

原子力の安全対策強化を改めて強調した池辺会長(3月17日)

池辺氏の会見あいさつからは、歴史的な岐路に立たされている電力業界再生への決意がにじむ。不祥事対策はもとより、GX対応、電力安定供給、原発再稼働・安全対策、使用済み燃料対応など重要課題が山積する電事連。存続を賭けた新年度が幕を開ける。

沖縄ならではのエネルギーサービス グループ総力戦でCN実現に挑む


【沖縄電力】

沖縄電力はカーボンニュートラル実現に向け、環境に配慮したエネルギーサービスに取り組む。

リライアンスエナジー沖縄とエネルギーのベストミックスを提案して地域の脱炭素を支援する。

政府が掲げる2030年GHG(温室効果ガス)46%削減の目標値は、原子力発電を持たずゼロエミッション電源が限られる沖縄で換算すると、28%の削減率に相当する。沖縄電力ではその数値からさらに踏み込み、30%の削減を目標に据える。

沖電のカーボンニュートラル(CN)への取り組みは、①再エネ主力化、②火力電源のCO2排出削減―が柱だ。

①では、台風や塩害といった厳しい自然環境下で、メガソーラーの実証研究を実施してきたほか、再エネを主力とした来間島での地域マイクログリッド実証事業などに取り組んでいる。21年に開始した太陽光パネルと蓄電池を無償設置するPV―TPO事業「かりーるーふ」も好評で、順調に契約数を伸ばしている。

②では、クリーン燃料の利用拡大や非効率火力のフェードアウトに取り組む。バイオマス活用も進めており、県内の建築廃材を加工して具志川・金武火力で混焼。水素やアンモニアなどのクリーン燃料の活用に向けた検討にも力を入れ、50年のCNを目指している。

そのほか、吉の浦火力発電所を基点としたLNGの普及拡大を推進している。都市ガス導管網が整備されている那覇市近郊には、吉の浦発電所から県内の都市ガス事業者への卸供給などを通して供給する。導管が整備されていない地域にはタンクローリーでLNGを輸送し、サテライト設備を介して供給するほか、工業団地など複数の需要家には天然ガス供給センターを介した供給を行う。

15年の天然ガス供給開始時には年間で約1.3万tだった販売量も22年には約3万tを超え、利用の拡大が進んでいる。23年度内には、吉の浦発電所から本島中央部を通り本店近傍につながる、全長約14‌km‌のガス導管が完成する予定で、天然ガスのさらなる普及拡大を図っていく考えだ。

ESP事業の推進 需要家ファーストの提案

電気とガスの両方を供給できる強みを生かし、グループが一体となってエネルギーサービスを展開している。

エネルギーコストの低減や省エネ機器の導入といったニーズをヒアリングし、エネルギー診断を行う。新たなエネルギーシステムを検討して、電気とガスの最適な組み合わせを提案。初期投資額などを試算し、補助金申請もサポートする。システムの設計から施工、導入後の効果検証や改善提案までを沖電がワンストップ窓口となり、グループ各社が特性を生かしてフォローする体制だ。

沖電グループの総合エネルギーサービス

さらにサービスの一環として、エネルギーサービスプロバイダー(ESP)事業も開始した。

このESP事業を担うのは沖電グループのリライアンスエナジー沖縄(REO)だ。REOは17年に、沖縄電力と東京都市サービスの合弁で設立。翌18年には大阪ガスも加わって、電気と熱供給にガスのノウハウも活用できるようになった。商業施設や病院など8施設で採用されている。

REOの仲地毅技術営業部長は、「電力・ガス・熱供給事業者による事業体は全国でも珍しい。一つのエネルギーに偏らず、需要家ファーストで最適なエネルギーを提案できる。これが沖縄らしさ“沖縄Way”で、諸外国の文化を取り入れ独自文化を作り上げた沖縄の姿と重なる。エネルギー事業者の連携が、提案の大きな強みになっている」と胸を張る。

牧港エネセンター建設 省エネ大賞も受賞

22年4月、REOがESP事業者となり、沖電の本店敷地内に「牧港エリアエネルギーセンター」が完成。県内初となるエネルギーの面的供給が始まった。沖電新本館と、隣接するオフィスとホテルの複合型タワービル「ゆがふBizタワー浦添港川」などに電力と空調冷熱を供給している。

沖縄では年間を通して冷房を使用するため、インバーターターボ冷凍機、空冷ヒートポンプ、ジェネリンクを最適に組み合わせて冷熱をつくる。ジェネリンクはBCP(事業継続計画)としてガスだきにも対応している。ガスコージェネレーションシステムや、非常用発電機なども備える。

県内初となる「牧港エリアエネルギーセンター」

REOは今年、浦添市にある沖縄最大級の大型商業施設「サンエー浦添西海岸パルコシティ」でのESP事業において、22年度省エネ大賞の最高賞「経済産業大臣賞」を受賞。県内初の快挙となった。ヒアリングを担当した営業グループの町田智彦マネージャーは、「来店するお客さまの快適性を損なうことなく省エネを実践していかなければならないため、非常にハードルが高かった」と振り返る。

快適性を優先させながら、沖縄の気候や豊かな自然エネルギーを活用し、エネルギーのベストミックスで設備を導入して、一般的な商業施設よりも40%の省エネ、43%の省CO2を達成した。

今後沖縄では、基地の返還跡地を利用した大規模都市開発や、観光客の増加に伴うホテル建設、大型小売店舗の建設などが見込まれる。エネルギー需要の増加で、エネルギーサービスへのニーズも高まる。

沖電はこれからもグループ各社の強みを生かし、総合エネルギー事業者として「地域とともに、地域のために」のスローガンの下、地域一帯のCN実現に向け果敢に挑戦していく。

「サンエー浦添西海岸パルコシティ」で省エネ大賞を受賞