カーボンプライシングのカギ 欧州ETSから得る教訓


【リレーコラム】フランク・クレプツィヒ/RWEサプライ&トレーディングジャパン社長

東京証券取引所においてカーボン・クレジット市場の実証実験が行われるなど、日本における排出権取引の議論が活発化している。

2005年に導入された欧州ETSは当初3年間、エネルギーを中心とする産業セクターの企業に対し排出枠の約95%以上の無償配分を行った。多くの市場アナリストは、価格が1t当たり20ユーロから始まり、35ユーロまで上昇すると予想した。当初の数年間においてその予想は正しく、排出権は06年半ばまで20ユーロ前後で取引されていたが、証書の過剰配分が明らかになり、07年末には0ユーロに近い価格まで下落。以降、価格は予想を大きく下回る5~15ユーロの間の水準で推移し、18年になりようやく、現在の100ユーロ前後までの急上昇が始まった。

排出権価格が0ユーロまで下落した背景に証書の過剰配分があったように、継続的な制度設計を行う上で、政策決定者の意図的な関与は排除されるべきであると考える。過剰な制約への関与は、市場をゆがめることにもつながりかねないからだ。

導入後、排出権価格は電力料金に組み込まれることとなった。発電事業者がコストベースアプローチを取る、すなわち95%を無償調達し、無償調達の配分外である5%分のみを価格に反映させる予想もあったが、そのようにはならなかった。発電事業者が排出権価格と調達する燃料の価格を両にらみしながら最適な発電量を決定する、裁定取引を行うようになったからである。

燃料で異なる排出権価格の影響

排出権価格が持つ影響は石炭火力とガス火力で異なる。天然ガスの炭素排出量は発電電力量ベースで石炭の半分以下となり、排出権価格の高騰は、石炭からガスへの燃料転換を促す可能性があるともいえる。しかし、私の経験上、机上の採算計算のみで導き出される燃料転換の可能性は過大評価されることが多い。大規模なコスト削減効果が見込めない燃料転換は、技術的または実用的な理由で行われないことが多いためだ。

排出権価格の動向は燃料価格にも影響を及ぼす。炭素価格の動向いかんで石炭火力やガス火力の競争力が左右され、ひいては燃料需要にも影響をもたらすためだ。

欧州ETSには欠点や課題も多く、改善の余地も多いものの、全体としては意図した目的を果たしているといえるだろう。日本における議論がどのような方向性をたどるかはまだ未知数であるものの、海外の事例から得られた教訓に目に向けるのは意義があることと考える。

フランク・クレプツィヒ 1990年にRWE Energie AGにエンジニアとして入社。99年から一貫して電力トレーディング業務に従事。2020年7月から現職。

※次回は EEX Japan 上席アドバイザーの高井裕之さんです。

【石油】全EV化を撤回 「人類の敵」宣伝に一矢


【業界スクランブル/石油】

欧州議会は、2035年からガソリン車などの内燃機関を搭載した自動車の新車販売を禁止する法案策定を進めて、昨年秋に法案に基本合意したのに続き、年明けの欧州議会で最終の承認を予定していた。しかし議会での採択直前にドイツが採決への反対を表明し、欧州委員会(EC)とドイツ政府が再協議を行っていた。

3月25日、この協議はドイツが主張するe―フュエル(水素とCO2を合成してできるガソリンとほぼ同等の合成燃料でCO2排出は実質ゼロ)を利用する内燃機関自動車の新車販売に限り容認することで決着した。これにより、17年にフランスが初めて打ち出し、その後主要国が追随した内燃機関自動車の35年以降の販売禁止という大方針に風穴があけられることとなる。

ドイツが全EV化方針に反対した背景には、国内自動車産業の雇用維持があったといわれている。しかし、エネルギー産業から見てもこの決定には大きな意義がある。なによりも、ここ数年来高まっていた有無を言わさないようなCO2削減の大合唱、化石燃料は人類の敵だとの大キャンペーンに対し楔を打ち込むきっかけとなる可能性があることである。

カーボンニュートラルに向けての技術革新の必要性は叫ばれているものの、決め手となる技術・手法はまだ見つかっていない。35年までの10年強でこれを確実なものにせよとのエネルギー産業へのプレッシャーは現在極めて大きい。

e―フュエルについても、まずコスト削減が最大の課題となっているし、安定かつ大量供給の問題についても解決が必要になる。これらをクリアしつつ、安定供給の達成が大前提であるエネルギー戦略の基本を忘れずに、今後の議論を進めていってほしい。(H)

【ガス】加速する合成燃料開発 e-メタンの追い風に


【業界スクランブル/ガス】

3月28日のEUエネルギー相理事会で、2035年以降も合成燃料「e−フュエル」の利用に限り、内燃機関車の新規販売を認めるという法案が最終承認された。今まで、EUでは35年以降の内燃機関車の新規販売を禁止する方向で検討が進められてきたが、今回ドイツがe−フュエルを利用した場合のみ販売を認めるよう求め、方向が変わったものだ。

e−フュエルとはCO2と、水から電気分解した水素を化学反応させて生み出される合成燃料だ。燃焼時にはガソリン同様にCO2は排出されるが、e−フュエルの製造時にCO2を資源として活用するため、排出されるCO2と差し引くと、全体の排出量はゼロとなる。原料となるCO2は、発電所や工場などから排出されたものを利用するが、将来的には大気中のCO2を直接分離・回収したものを利用する。従って、EUでもCO2を実質的に排出しない燃料と認めたのだ。

さらにe−フュエルは既存の車をそのまま走らせることができ、ガソリンスタンドなど既存のインフラもそのまま活用可能な点なども注目されている。e−フュエルの開発自体も進んでおり、例えばモータースポーツの最高峰であるF1ではすでに部分的に合成燃料が使われている。26年を目標にF1カーの燃料を100%持続可能なものに切り替えると発表されている。

ここまで読んだ方は、このe−フュエルをメタネーションに置き換えても全く違和感がないことに気づかれたと思う。CO2を実質排出しない点、既存インフラをそのまま活用できる点など、この二つのエネルギー的メリットは共通している。いずれにせよ、原油100ドル時代など資源価格の高止まりが続けば、合成燃料の開発・導入に拍車が掛かるのは間違いない。(G)

【新電力】真の自由市場実現へ 真摯な制度設計議論を


【業界スクランブル/新電力】

3月30日に旧一電4社のカルテル問題に対する課徴金の納付命令があった。その前は、送配電会社が保有する個別需要家の情報が営業部門に漏洩し、営業部門での不正利用が一部で発生したことが明るみに出たことも記憶に新しい。

電力業界の関係者として、業界をリードする立場である旧一電各社においてこのような不祥事が起こったことは遺憾であり、綱紀の粛正を厳にお願いしたいと思うとともに、新電力事業者もしっかりルールを順守して公正な市場環境の実現に貢献すべく襟を正して取り組まなければならないと感じている。

一方、こういうことが起こると、法令が改正されたり、ガイドラインが書き加えられたりして、事業者への監視、締め付けが強まるのが常である。

公平・公正な競争環境の実現は自由化された市場において最も重要な目的の一つであるが、そのために事業者の行動が制約されることで、創意工夫の余地が狭まることが危惧される。

そもそも、自由化は規制緩和の結果として達成されるべきものであり、規制緩和が規制強化になり、自由化が不自由化になる事態は避けるべきである。

そのためには、当然のことであるが、管理を行わなくても競争状態が保たれる市場の仕組み構築が必要になる。事業者が市場支配力を保有しない状況の実現、具体的には、広域市場形成を可能にする連系線拡充および運用の柔軟化、全面プール制への移行、旧一電の発販分離や発電所の売却などが考えられる。

いずれも、一朝一夕に実現できるものではないが、規制当局および制度設計を担う諮問機関におかれては、中長期的に真の自由化された市場の実現を目指すのであれば、メリット・デメリットの吟味を含めて、真摯に検討してもらいたい。(M)

ヤーギン博士が語る「エネルギー転換」


【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

全米最大のエネルギー会議、CERAWeekが3月にヒューストンで開催された。石油大手の首脳など参加者は7500人を数え、エネルギー省長官の講演などもある大イベントだ。これに合わせ、主催側のダニエル・ヤーギン博士がフォーブス誌の取材に応じている。博士はまず、エネルギーの「安全保障への回帰」を指摘する。さらに「エネルギー転換」について、次のような認識を語る。

一つ目は、過去200年の「転換」の歴史からの考察。エネルギーの主役は木から石炭、石油へと移ったが、木や石炭の利用は続き、石炭に至ってはいまだに消費が増えている。これに対し、いまわれわれが目指すのは、100兆ドル規模にもなった世界経済を支える8割が化石燃料のエネルギー基盤を、わずか四半世紀で転換する「大事業」であること。

二つ目は南北の分断。途上国では、経済発展、貧困解消、健康向上などは、気候変動に劣らず重要な政策であるがゆえに、欧米が主導する気候変動一辺倒のCOPにはついていけないということ。

三つ目は、再エネやEVの実装の難しさ。「転換」は、太陽や風だけでは実現できず、コンクリートや鉄、大量の金属などの「現物」が必要。許認可や反対運動(訴訟)の問題はつきものであること。

脱炭素に向けた議論は、とかく理想が先走ったり、利権が絡んだりと、ヤーギン博士が示したような、大局的かつリアリティに富んだ視座が見失われがちではなかっただろうか。

今回のコンベンションの会場においては「バランス」という言葉が流行したようだ。エネルギーは「持続可能」で「値ごろ」、かつ「安全保障」を満たすべし、との意味だ。エネルギー危機を契機に、こうしたリアリティのある議論が進むことを期待したい。

【電力】カルテル問題を招いた 整合しない二重規制


【業界スクランブル/電力】

公正取引委員会は3月30日、中部電力と中部電力ミライズ、中国電力、九州電力、九州電力みらいエナジーに対し、高圧以上の電力販売や官公庁向けの入札において、カルテル行為があったとして、計1000億円超の課徴金納付命令と排除措置命令を出した。

カルテル行為の認定については、一部会社に取り消し訴訟の動きがあるので、予断は慎むが、問題の行為があったとされる時期は、TEPCOカスタマーサービス(TCS)の越境営業を皮切りに競争が激化し、電源固定費回収がほぼ期待できない水準まで価格が低下していた。

これが供給過剰な中での過当競争であれば、需給が適正化するプロセスと割り切ることもできようが、いわゆる限界費用玉出しにより、固定費負担を大きく免れる価格でスポット市場から電気が買える状態が人為的に作り出され、小売料金がその水準に引っ張られて過当競争状態に陥ったのが実態だろう。自由化と言いながら、低圧需要に対する供給義務など少なからぬ公益的役割を課されている旧一電が、明らかに持続可能でない過当競争を続ければよかったのか。もやっとするものがある。

ちなみに限界費用玉出しは、一部経産省関係者が主張していたような独禁法上の要請ではない。公取委から見れば、独禁法とは関係ない、経産省が勝手にやったということになろう。そして過当競争を仕掛けた関西電力もTCSも、一義的には良いことをしたと映るだろう。

今回の事象は、公取委と経産省による二重かつ必ずしも整合していない競争政策に、旧一電が翻弄された結果とは言えまいか。加えて、競争だけでなく安定供給もみるべき経産省の、容量市場導入の取り組みが残念ながら遅きに失した結果とも言えまいか。(U)

インフラ許認可改革で混迷 米民主・共和党が真逆の方針


【ワールドワイド/環境】

2022年9月、米国において総額3700億ドルの気候変動対策を含むインフレ抑制法(IRA)が成立した。中核はクリーンエネルギー関連の税額控除で、温暖化防止を重視するバイデン政権の大きな白星となった。

昨年の中間選挙で多数を握った下院共和党は、バイデン政権を攻めるため、行政監視機能をフル活用する構えであり、インフレ抑制法に基づく財政支出やルール整備もターゲットの一部となり得る。しかしインフレ抑制法の支援策は共和党州にとっても裨益が多く、影響は限定的となる見込みだ。

現在、大きな焦点になっているのがエネルギーインフラに関する許認可改革(Permitting Reform)である。もともと許認可改革はシューマー民主党上院院内総務がインフレ抑制法成立の行方を握るマンチン上院議員の賛同を得るための条件であった。しかしマンチン上院議員が重視する環境影響評価審査期間の短縮やエネルギープロジェクトへの乱訴防止などは民主党リベラル派の反対により、実現に至っていない。

共和党はさらにエネルギー面での攻勢も強める構えだ。下院エネルギー商業委員会では共和党が「エネルギーコスト低減法案」を提案した。同法案には連邦所有地における石油・ガス生産や鉱山採掘の認可プロセスのファスト・トラック導入、天然ガス税の廃止、重要インフラプロジェクトの認可プロセス迅速化、国家環境政策法の改革、訴訟権限の制限などが含まれる。化石燃料および関連インフラを重視していることが大きな特徴である。

これに対して上院で多数を握る民主党は再エネ拡大に必要な送電網整備を迅速化させるための規制改革を重視しており、石油ガス生産やパイプラインといった化石燃料関連の規制改革には否定的だ。特に民主党リベラル派は国家環境政策法の環境影響評価手続きの迅速化に反対している。

このように一口で「許認可改革」といっても上院民主党と下院共和党の間でプライオリティが全く異なっている。ねじれ議会の中で左右の極端な意見を切り捨て、超党派の妥協を作れるかどうかは未知数である。本年後半からは大統領選モードが強まり、超党派合意は困難になる。チャンスがあるとすれば今後3カ月程度がヤマであり、それを逃せば次期政権の前半2年に持ち越されるとの見方もある。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

脱原発・再エネ導入進む台湾 重要性増すエネルギー安全保障


【ワールドワイド/経営】

残り2基。台湾で運転している原子炉の数だ。今年3月に第二原子力発電所2号機が運転停止したことにより、現在台湾で稼働中なのは第三原子力発電所のみとなり、これも2025年までに運転期限を迎える予定である。

16年からの蔡英文政権の電力・エネルギー政策は、「脱原子力」と「再エネ推進」に特徴づけられ、運転ライセンス切れを迎えた原子炉を次々に停止させてきた。このため、政権発足時に500万kW以上あった原子力発電による供給力は近く失われることになる。

一方の再エネについては、蔡政権のもと導入目標がこれまで数度上方修正されている。台湾の面積は九州とほぼ同規模ながら、太陽光は25年に2000万kWを目標としている。特に洋上風力は台湾海峡が好条件なこともあり重要視され、25年に560万kW、50年には最大で5500万kWの導入を計画している。蔡政権は21年に「2050年ネットゼロエミッション目標」を発表し、昨年12月にはその具体的な道筋としてカーボンニュートラル移行に向けた行動計画を公開した。同計画は30年時点での排出量削減目標をさらに上積みしたほか、水素や電力貯蔵、CCUS、省エネ、グリーン金融といったさまざまな分野で意欲的な行動目標を掲げている。

こうした中、昨年2月に勃発したウクライナ戦争に伴うエネルギー危機、同年8月のナンシー・ペロシ米国下院議長(当時)の訪台に端を発する中国人民解放軍の台湾周辺での軍事演習によって「台湾封鎖」が現実味を帯びたことは、エネルギー安全保障の重要性を台湾社会に再認識させる結果となった。特にガス火力は21年時点において発電電力量ベースですでに37‌%に達した。原子力による供給力減少を補うため、今後さらに依存度が高まると予想されるが、LNGの在庫量がわずか10日分であることが大きな社会問題となった。

洋上風力も、感染症や機材高騰などを背景に開発が遅延しており、昨年は目標達成に至らなかった。しかし、蔡政権には脱原子力の姿勢を崩す気配は見られない。

地球温暖化対策で再エネ利用が進んできたが、昨年からは、世界レベルでエネルギー安全保障の重要性が再認識されており、日本や欧州では原子力政策を転換する動きも見られる。日本と同様に資源をほとんど持たないにもかかわらず、脱原子力とネットゼロエミッションの達成という二兎を追う台湾のエネルギー政策の行く末には、大きな困難が予想され、今後も注視する必要がある。

(南 毅/海外電力調査会・調査第一部)

【コラム/5月16日】再生可能エネルギー電力促進のための経済的インセンティブ


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

国内外で、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させるカーボンニュートラルが、重要な政策課題となっている。カーボンニュートラルの達成に向けて、再生可能エネルギー電源の大幅な増大が必要になっているが、同電源とりわけ陸上風力発電と大規模ソーラー発電の立地拡大に関しては、環境への影響や住民への負荷を考えると、パブリックアクセプタンス獲得のための一層の努力が求められている。再生可能エネルギー電源が飛躍的に増大しているドイツでも、さらなる立地について市民の理解を得ることが焦眉の課題となっており、同電源の立地促進のために様々な経済的インセンティブが試みられている。そこで、本コラムでは、その現状について紹介し、わが国における再生可能エネルギー電源拡大のための参考にしたい。

ドイツでは、いくつかの州で再生可能エネルギープロジェクトに関して経済的メリットを市民に供与している。そのうち、メクレンブルク・フォアポンメルン州の「市民・自治体参加法」( 2016年~)やチューリンゲン州の「フェア・ウィンドエナジー・テューリンゲン」ガイドライン (2016年~)が代表的な事例として挙げられる。メクレンブルク・フォアポンメルン州では、「市民・自治体参加法」により、風力発電事業者は、地元の自治体または市民(プラントから半径5km以内)に資本参加の機会(株式を購入する権利)を提供することが義務づけられている。同法の規定により、事業者は、新らたな風力発電所建設にさいして有限責任会社を設立し、この会社の少なくとも20%の株式を地元の自治体や住民に提供する(または、事業者が提案し、これを当該自治体が選択する場合には、自治体に、補償金を支払う)。

この「市民・自治体参加法」については、様々な問題点が指摘されていた。まず、メクレンブルク・フォアポンメルン州固有の義務や公課を同州で風力発電事業を展開する者のみに課すことの問題点が指摘された(他州で事業展開する者には課せられない)。さらに、事業者に補償金などの追加的なコストを発生させることは、財産権の侵害になるのではないかとの指摘もあった。また、このような資本参加の義務づけに関する規制は、鉄道など他のインフラ事業に対する規制と比較して、公平性に問題があることなども指摘された。しかし、2022年5月に、連邦憲法裁判所は、「市民・自治体参加法」は基本的に合憲との判断を下したことから、メクレンブルク・フォアポンメルン州をモデルとしたパブリックアクセプタンス向上策が、他州にも広まっていく可能性がある。

また、ドイツにおけるいくつかの研究調査では、地域市民や自治体のプロジェクトへの資本参加は、アクセプタンス向上に貢献していることを指摘している。連邦憲法裁判所の判決文では、メクレンブルク・フォアポンメルン州での調査結果として、経済的なインセンティブなしで自宅近くでの風力発電所の設置に賛成した住民は、半数を下回ったものの、それが付与される条件の下では、賛成は3分の2まで増加したことや、回答者の4分の3は、経済的なメリットが供与されることは、良い対策あるいは非常に良い対策と答えたことを挙げている。

不透明な米シェール生産 破産申請する専門企業も


【ワールドワイド/資源】

シェールガスやメキシコ湾沖合など米国内の石油生産量は、2019年に日量2000万バレル超だったが、新型コロナの影響で複数のシェールオイル生産者が既存坑井を閉鎖する前例のない対応を取り、20年5月には400万バレルの減産となった。

その後、ロシア侵攻による1バレル100ドル超の油価を受け、テキサス州およびニューメキシコ州のパーミアン盆地を中心に生産が持ち直し、夏にはパンデミック前の2000万バレルまで回復した。70~80ドル付近で落ち着いた年後半には、掘削数も現状維持で推移。今年1月現在、石油生産量は2050万バレルほどだ。

主要なシェールガス産地別でみると、パーミアンのみ増産中だ。パーミアンは20年に一時日量500万バレルを下回るも現在は560万バレル。北部のバッケンは19年の150万バレルまで回復せず、現状は120万バレル弱。イーグルフォードも19年の140万バレルから戻らず、120万バレル弱だ。

企業別でみると、大手石油会社は短期間で収益を上げる資産に好んで投資する。エクソンモービルは、21年のパーミアン生産量を石油換算バレルあたり日量46万バレル、22年は55万バレルまで増産。27年には80万バレルの目標を立てる。シェブロンも、22年末70万バレル超の生産を25年までに100万バレルまで引き上げる。

他方、シェールガスを専門とする中小企業は、10年代はジャンク債の借り入れから増産で収益を上げたが、今回のコロナ危機を契機に不良債権化。チェサピークなど大手シェール事業者が連邦破産法11条を申請するなど各社とも増産ではなく、債務削減と株主還元を優先する財務安定を重視した経営に転じた。現場では技術者不足、サプライチェーン障害でコスト上昇がみられるが、パーミアンでは坑井の水平部分が延伸され、効率性の改善が図られている。

エネルギー省の短期見通しによれば、米国の石油生産量は24年1月に日量80万バレル増、原油・LNGともに32万バレル増である。しかし、今後数年内、あるいは20年代後半にシェール生産がピークに到達する見方が一般的だ。国内生産の15%を占めるメキシコ湾では新規生産の油田の一方、既存油田からの減退が進み、あまり期待できない。 足元をみれば、米国はG7唯一の石油輸出国であり、22年のエネルギーショックを物理的にも心理的にもやわらげた存在だ。しかし数年後は未知数も大きい。

(高木路子/独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

【マーケット情報/5月12日】欧米下落、景気低迷の見通しが重荷


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、米国原油の指標となるWTI先物、および北海原油を代表するブレント先物が下落。経済減速、それにともなう石油需要後退の見方が下方圧力となった。

米国では、4月の消費者物価指数の伸びが鈍化し、過去2年で最低を記録。連邦準備理事会の利上げによるインフレ抑制が功を奏したとみられる。ただ、今後の利上げがどうなるかは不透明。また、5月6日までの一週間における失業手当の申請が、2021年10月以来の最多となった。加えて、イエレン米財務長官が、債務上限の一時停止、あるいは引き上げがなければ、6月1日にも債務不履行に陥る可能性があると指摘。経済が冷え込み、石油需要が弱まるとの懸念が広がった。

供給面では、サウジアラムコ社のアジア太平洋地域向け6月ターム供給は、追加減産にも関わらず、買い手の希望通りとなる見通しだ。 一方、カナダでは、アルバータ州が山火事を受け、緊急事態宣言。最低でも日量31万9,000バレル原油相当の生産が一時停止。欧米価格の下落を幾分か抑制した。また、OPECは、今年の原油需要予測を小幅に上方修正。中国を筆頭としたOECD非加盟国からの需要増加を見込んだ。これにより、中東原油の指標となるドバイ現物は、前週比で上昇した。

【5月12日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=70.04ドル(前週比1.30ドル安)、ブレント先物(ICE)=74.17ドル(前週比1.13ドル安)、オマーン先物(DME)=73.38ドル(前週比0.14ドル高)、ドバイ現物(Argus)=73.59ドル(前週比0.62ドル高)

第43回 エネルギーフォーラム賞


第43回「エネルギーフォーラム賞」の贈呈式がこのほど行われた。

ウクライナ危機を契機に地政学の視点から国際エネルギー情勢を取り上げた著作が優秀賞、

また、電力のセキュリティーを中心にエネルギー安全保障を論じた著作が普及啓発賞に輝いた。


<優秀賞>エネルギーの地政学/小山堅/朝日新聞出版


<普及啓発賞>電力セキュリティ エネルギー安全保障がゼロからわかる本/市村健/オーム社


わが国のエネルギー論壇の向上に資することを目的に、1981年に創設されたエネルギーフォーラム賞(エネルギーフォーラム主催)。今年で43回目を迎える同賞の贈呈式が3月31日、都内の経団連会館で開催された。今年は優秀賞が1作、普及啓発賞が1作選ばれたものの、大賞は選出されなかった。

受賞作の選考方法は、一昨年の12月から昨年の11月の1年間に刊行された日本人によるエネルギー・環境問題に関する著作を対象に、アンケート方式で有識者や業界関係者らから2作を推薦してもらい、エネルギーフォーラム賞事務局がアンケート結果上位の著作を選定。選考委員による厳正な審議を経て受賞作を決定している。

コロナ禍で4年ぶりとなった贈呈式では、京都大学名誉教授の佐和隆光・選考委員会委員長が選考の経緯を説明。その後、保坂伸・資源エネルギー庁長官が「小山堅氏の『エネルギーの地政学』と市村健氏の『電力セキュリティ』は、ともにウクライナ侵攻とエネルギーセキュリティーの重要性が語られた名著であり、われわれもGX(グリーントランスフォーメーション)という形で政策を打ち出し、原子力についても法律を提出した。その前提となるGX推進法では、脱炭素の中心となる再生可能エネルギーと原子力、安定供給について議論を行っている。また、世界に目を移せば、米国のインフレ抑制法(IRA)を筆頭に、グリーン成長戦略によって産業のぶんどり合いが激しさを増している。したがって、政府もGX移行債を発行し、将来的にはこれまでわれわれが反対してきたカーボン・プライシングも導入することも決意をし、法案を提出した。これらは『産業』という視点を含めて進めていく」と述べた上で乾杯の音頭をとった。

ALPS処理水で「対日謀略」 警鐘を鳴らすメディアはあるか


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

尊大なコメントで知られる中国外務省の記者会見にしては拍子抜けだった。読売3月22日「中国、日本けん制」である。

日本時間の21日、ウクライナを訪問した岸田文雄首相について、担当者は「日本が事態の沈静化に反するのではなく、有益なことを多く行うことを望んでいる」と述べたという。動揺したか。

ちょうど習近平国家主席がロシアを訪問していた。

読売同日「習氏『仲介者』を強調、中露首脳会談、エネ安定確保図る」に、「和平に積極的な『仲介者』の立場をアピールし、対露制裁と距離を置く国への影響力拡大を図る狙い」とある。だが、仲介役としては「中国の提案は、ウクライナが求める露軍の完全撤退や全領土の返還には言及していないロシア寄りの内容で、ウクライナとの溝は大きい」。実態は「ロシアからの石油や天然ガスの安定確保に向けた協力強化を図りたい思惑」と本音を見透かされている。

ただでさえすっきりしない訪露に、日本が冷水を浴びせた形だ。産経23日「(岸田)首相、習氏との相違示す、同時期外遊『法の支配』発信」「米政権『日本は世界のリーダー』」「日中『外交対決』欧州メディア注目」は、メンツを重視する中国にとって腹立たしい内容だったろう。

意趣返しだろうか。朝日23日「中ロ首脳『撤退』なき声明発表」で紹介された共同声明の主な内容には、今夏にも始まる東京電力福島第一原子力発電所からの処理水の海洋放出計画について「深刻な懸念」の一項目がある。

残念ながら、朝日は項目を挙げただけ。読売、毎日に至っては一切触れていない。日本に対する露骨な外交攻撃である。甘くないか。

踏み込んだのは産経23日「中露共同声明、処理水放出『深刻な懸念』、対日カード巡り共闘姿勢」だ。「日本は周辺隣国など利害関係国や、国際機関と透明で十分な協議を行わなければならない」「(中露は)日本が海洋環境と各国国民の健康面の権利と利益を有効に保護するよう促す」との声明内容を紹介し、中国は「国際問題に発展させようとしている」と警鐘を鳴らしている。

油断は禁物だ。朝日26日「北朝鮮、韓国世論策動か、公安当局捜査、福島処理水放出めぐり、SNSでデマ、工作員指示書」は、「北朝鮮の工作機関が韓国の協力者に『汚染水の放出で東海(日本海)が汚染される』とのメッセージを拡散し、韓国の世論を扇動するよう指示した疑いがあることが公安当局の捜査でわかった」と伝える。デマの内容は「魚を妊婦が食べれば、胎児に影響を与える」「怪物が出現する」らしいが、荒唐無稽さにあきれる。

怪しい策動は放置できない。

産経28日「中露首脳が『汚染水』表現、国際問題化画策、処理水、誤解払拭なお」は、「国際社会の誤解を解くとともに、風評被害対策や計画への理解を進めるため、改めて科学的で丁寧な説明が求められている」と訴える。

記事にある通り、処理水は放射性物質のトリチウムを含むが、国際基準に沿って安全に放出される。そもそもトリチウムは自然界にも存在し、自然程度の濃度なら害はない。中国や韓国の原子力発電所では、福島よりはるかに多いトリチウムを海に放出している。

朝日20日「処理水放出『賛成』51%『反対』41%」は心強い。この計画に批判的な報道を繰り返してきたこの新聞の世論調査でも、理解の拡大が伺える。

粛々と実現を目指そう。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

水素・アンモニア活用の時代へ 円滑な移行に三つの必要事項


【オピニオン】平野 創/成城大学経済学部教授

カーボンニュートラル(CN)社会の実現に向け、日本は大きな転機を迎えている。総合資源エネルギー調査会の小委員会が1月にとりまとめた中間整理において、2030年ごろまでに水素・アンモニア供給を開始する事業者を対象として、これらの脱炭素エネルギーと既存のエネルギーの価格の差額を支援することが示された(水素とLNG、アンモニアと石炭が等価となる制度が検討されている)。

この政策は、水素などの脱炭素燃料普及の大きな阻害要因とされていた「コストの壁」を制度的に打破するものである。したがって、各事業者は一度コストという視点の自縛から離れ、CN化に向けての最善手実現という視点から計画を検討、立案すべき局面にきたといえる。

なぜ水素・アンモニアの輸入に向けた支援が日本のCN化に大きな役割を果たすのか、その理由は日本のエネルギー構造そのものにある。現在、日本は1次エネルギーベースで85%以上を輸入エネルギーに依存している。今後、国内の再生可能エネルギーをどれほど拡充しようともそれだけで日本全体のエネルギーを賄うことはできない。したがって、脱炭素エネルギーの輸入なくして、日本はCNを達成しえないのである。

現在、コンビナートが水素・アンモニアの輸入拠点になると見込まれており、各地でカーボンニュートラル・コンビナート(CNK)の構築が目指されている。コンビナートはCO2を多く排出する鉄鋼業や化学産業などが集積しており、この点でもCN化に向けたいち早い取り組みが求められている。すでに川崎や周南地区において水素やアンモニアの輸入に向けた取り組みが始まっている。

水素・アンモニアを活用する時代への円滑な移行に向け、第一に複数の事業者がタイミングを合わせて、同時にエネルギーを切り替える必要性がある。自家発電設備やボイラーなどの更新時期を新エネルギーの輸入開始と合わせなければならない。これを怠り各社が適宜更新を行えば、化石燃料を使用する設備がまだらに残存することになり、新しいエネルギーの需要拡大が遅れかねない。円滑な移行のために、グリーン水素を待たずにグレー水素による需要拡大を先行して試みるなどの手立ても検討に値する。

第二に、事業者に魅力ある制度設計が必要となる。水素、アンモニアでしっかりと稼げるようにする必要がある。一方で将来的な価格低減のために、既存のエネルギー事業者以外も参入が可能となるような制度の整備も求められる。タンクやパイプラインなどのインフラの利用の門戸が開かれていなければならない。 第三に、われわれは利用適性によって個体、液体、気体エネルギーを使い分けており、合成燃料や合成メタンの活用・輸入も視野に入れるべきである。これらは既存の流通インフラ、設備・機器類が活用できるだけでなく、その貯蔵性・可搬性から災害時においても利便性が高い。また、コンビナートで回収したCO2の再利用につなげることもできる。

ひらの・そう 2008年一橋大学大学院商学研究科博士後期課程修了(博士、商学)、一橋大学大学院商学研究科特任講師。13年成城大学経済学部准教授、20年4月から現職。専門は経営史、石油・石油化学産業史など。

スマコミ地域実証の経験を生かす グリーン成長のフェーズに突入


【地域エネルギー最前線】 福岡県 北九州市

官営八幡製鉄所誕生の地が、スマコミ実証を経て、今度は脱炭素化や水素産業拠点へ―。

エネルギー関連のさまざまなモデル事業が展開されてきた北九州で、新たな一大戦略が始まっている。

日本四大工業地帯の一角である北九州市は、高度経済成長に伴う深刻な公害を克服した歴史を持つ。苦しい経験も乗り越え、2010年代には政府のスマートコミュニティ地域実証の舞台に、あるいはエネルギー・環境系のさまざまなモデル都市として、先進的・多面的な取り組みが展開されてきた。

そして現在、市はグリーン成長を目指すフェーズに入った。エネルギー多消費型の素材産業集積地として、ビジネスモデルの転換は避けられない課題だ。市は「近隣自治体や中小企業などと一体的に産業の脱炭素化モデルをつくり、地域の付加価値を向上させる必要がある」(グリーン成長推進部)と強調する。昨年2月に策定したグリーン成長に向けた基本戦略では、30年度に向け電化の促進を主軸とした「脱炭素電力推進拠点都市」と、水素利用に挑戦する「水素供給・利活用拠点都市」を設定し、アクションプランをまとめた。

重ねて、昨年4月には環境省の「脱炭素先行地域」にも選定された。対象は「北九州都市圏域」の18市町(総人口約136万人)の公共施設群で、約3600施設に及ぶ。また、同市には国の「エコタウン事業」の認定を受けた、国内最大級のリサイクル団地がある。この企業群の脱炭素化を図ることで、地域産業の競争力強化や都市の魅力向上につなげる狙いだ。

なお、都市圏域は、中心都市と近隣都市が連携し、人口減少・少子高齢化の中で社会経済を維持するための拠点づくりを図る総務省の政策の一環。その経験を、今度は脱炭素化での地域連携に生かす。脱炭素先行地域としては、最多の自治体が関わるケースとなる。

「都市圏域」18市町が連携 地域特性や知見を活用

具体的には、①脱炭素先行地域でPV(太陽光)やEV、蓄電池などの低コスト型PPA(電力販売契約)モデルを構築し、中小企業をはじめ都市や海外にも展開、②風力や水素も含めた脱炭素エネルギーの拠点化と新産業創出、③市内再エネ導入量は現状の3倍となる約140万kW―を目指す。

民生部門では、まず北九州都市圏域の公共施設群と、エコタウンのリサイクル企業群の脱炭素化を図る。特に北九州市の公共施設は、約2000カ所で25年度までの再エネ100%電力化という、都道府県・政令指定都市では最速ペースの目標を設定した。ベースとなるPPAモデルでの分散型システム導入に加え、ごみ発電やメガソーラー、バイオマス発電、風力発電といった地域の再エネをフル活用するため、系統用の大規模蓄電池も導入し、都市圏域全体でのエネルギーマネジメントを目指す。

ここ数年、電力需給ひっ迫リスクの高まりから、電力系統と協調した形でのエネマネの活用が一層重要になっている。市は「かつてのスマコミ実証では自営線網による特定供給エリア内でのエネマネだったが、今回は系統ともつながりつつ地域で最大限のエネマネを図っていく。大手電力との連携も模索したい」(同)と説明する。

スマコミ実証を経て2015年に設立した北九州パワー

スマコミ実証の成果として、市や民間が出資して地域エネルギー会社、北九州パワーを設立。地域の再エネなどを活用した電力小売りやエネマネサービスを提供しており、今後の脱炭素化でも中心的な役割を担うことが期待される。

加えて特徴的なのが、PPAと併せたさらなるコスト低減の取り組みとして、中古PVパネルやEVバッテリー、蓄電池などのリユース・リサイクルシステムの構築だ。地域の強みであるエコタウン企業の知見と、全国有数の自動車産業拠点であることから自動車メーカーとも連携し、実現を目指す。