プロパン無償慣行に歯止め 料金への設備費上乗せ禁止へ


プロパン業界の不透明な料金体系や商慣行を是正できるか―。

プロパンガスの料金透明化と取引適正化について検討する総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)液化石油ガス流通ワーキンググループの5月11日の会合において、資源エネルギー庁事務局は、「貸付配管」や「無償貸与」などの商慣行見直しに向けた方向性を示した。

プロパン業界の商慣行は是正されるか

プロパン業界の商慣行のうち、消費者団体などが特に問題視してきたのが、事業者が賃貸住宅のガス供給契約を獲得するため、ガス機器のみならず、エアコンやテレビといったさまざまな設備をオーナーや建設業者に無償提供し、その費用を入居者に転嫁する無償貸与だ。

これを制限するためにエネ庁は、設備費用のガス料金への計上を禁止する制度改正案を提示し、消費者代表、事業者を含む全委員がこの方向性に同意した。
これにより、事業者の選択肢がない入居者に対する一方的な不利益の押し付けに、ようやく終止符が打たれるとの期待が高まる。

一方で、その実効性や継続性を危惧する声も。

この日の会合でも委員からは、監視・通報体制の機能の整備や、罰則規定の必要性を訴える声が相次いだ。

【イニシャルニュース 】内閣府の有識者会合 恣意的な人選に疑問符


内閣府の有識者会合 恣意的な人選に疑問符

電力大手7社の家庭向け規制料金値上げを巡り、厳しい姿勢で経済産業省との協議に臨んだ消費者庁。カルテルや情報漏えいといった不祥事による値上げへの影響を焦点に対立したものの、高コスト体制の是正など抜本的な改革を前提に、結局は値上げを容認した。

河野太郎消費者相は、「当初、経産省はカルテルや情報漏えいは規制料金には影響ないとしていたが、3回の協議の中でそうした姿勢が変わり、不正事案の影響が検証されることになった」と成果をアピールする。だが、電力業界関係者からは、協議の場に召集された「専門家」の面々に「活動家のような人までいて、あまりにも恣意的な人選」(新電力幹部のX氏)と疑問視する声が続出している。

中でもO氏とT教授は、脱原発と再エネ推進を訴え活動するS財団のメンバーであり、河野氏肝いりの再エネタスクフォースメンバーでもある。本人はすっかり反原発色をひそめているものの、こうした人選からは河野氏の脱原発、大手電力会社憎しの本音が垣間見えてくる。有識者のY氏は、「同庁の会合が特定勢力の活動の場になっていることをおかしいとは思わないのか」と有識者会合の在り方に再考を促す。

今回、原発が稼働中の関西、九州の電力大手2社は値上げを申請していない。北海道電力など7社の値上げが実施されれば、原発稼働、未稼働地域間の料金格差はますます広がることになるだろう。反原発を主張しながら消費者を盾に値上げには厳しく当たるという姿勢は、業界関係者にとっても消費者にとっても到底容認できるものではない。

消費者庁は特定勢力の活動の場に?

LP商慣行の是正議論 異例の方針転換が波紋

プロパンガス料金の透明化・取引適正化に向けた議論が難航している。

資源エネルギー庁は、3月2日に液化石油ガス流通ワーキンググループを再開し、今夏までの計3回で制度改正の方向性を取りまとめる予定だったが、長年にわたる商慣行の是正は一筋縄ではいかず。5月11日の会合では前回から方向転換し、議論を賃貸集合住宅の問題に絞り、「過大な顧客獲得費用の是正」「賃貸向け料金での消費設備費の計上禁止」などの新たな論点を出し直したのだ。

エネルギー業界関係者からは、「なぜ途中で論点を変更したのか。当初3回で終わらせるとした議論がなぜロングランの見込みとなったのか。こうした点について、11日の会合の資料にはその説明がなかった。霞が関の常識からして、内外周知が不十分と言わざるを得ない」といった指摘が挙がる。

制度改正を巡っては、実にさまざまな意見が噴出しており、エネ庁は調整に苦慮しているもようだ。例えば、「やり方を間違えればカルテルになりかねない」といった視点がある。実際、関東を拠点とするT社の販売店会でエネ庁担当者が講演した際には、「一歩間違うと、カルテルになってしまう。ギリギリのラインをどう設定するかが重要だ」などと説明していた。

「営業行為について、ガイドラインでがちがちに縛るようなことがあれば、販売規制に端を発するカルテルと見られかねないということ。大手電力のカルテルが大問題となる中、エネ庁がグレーな対応を避けたかったのではないか」(プロパン業界関係者)

いずれにせよ、消費者にとって望ましい方向に進めば良いのだが……。

電力7社が家庭向け値上げ 問われる規制の存在意義


経済産業省は5月19日、電力大手7社の家庭向け規制料金の値上げ申請を認可した。これを受け、4月改定を目指していた先行5社(東北、北陸、中国、四国、沖縄)と後続2社(北海道、東京)が、6月1日付けで一斉値上げに踏み切る。申請時の値上げ率は標準的な家庭で28~48%だったが、燃料費などの査定を経て原価を圧縮。実際の値上げ率は14~42%にとどまることになった。

値上げについて会見する東北電力の樋口康二郎社長

政府の物価対策に巻き込まれる形で値上げ幅が圧縮されたのみならず、5社は実施が2カ月遅れることに。同日会見した電気事業連合会の池辺和弘会長(九州電力社長)は、「値上げの遅れにより規制分野では利益が出ない水準になっているのではないか」と、一連の審査が収支に与えるマイナスの影響に懸念を示した。

実際、値上げの主因は化石燃料価格の高騰と歴史的な円安が追い打ちをかけたことによるコストの増大であり、そういう意味でも河野太郎消費者担当相の「電力会社は高コスト体質」との指摘は的外れと言わざるを得ない。

新電力関係者からは、競争を阻害する規制料金の廃止を望む声も出始めている。全面自由化から7年。料金規制の在り方を抜本的に見直すタイミングが来ている。

危機の時代の国際石油情勢 〈後編〉 西側諸国は市場本位の供給体制維持を


【識者の視点】小山正篤/石油市場アナリスト

国際的に石油備蓄の重要性が増す中、西側諸国の対応は市場本位の供給体制を弱体化させてしまった。

日本の石油補助金の疑問を含めた政策課題について、前号に続き米ボストン在住のアナリストが解説する。

国際秩序が激しく動揺する中、大規模な石油供給途絶の危険性が高まり、国家石油備蓄の重要性は増した。国際石油価格はこの緊張を反映して高水準を保つべきであり、それが西側・非ロシア世界全体における自給率向上を促す。したがって供給途絶のいまだ生じぬ時点での価格抑制を目的とした政府介入は、原則として避けねばならない。この観点からすれば、西側は明らかな過ちを犯した。

備蓄取り崩しで供給過剰 西側の対応力が弱体化

昨年を通じて国際エネルギー機関(IEA)加盟国は全体として約3億バレル(日量80万バレル強)の石油備蓄を市場に放出した。そのうち2億2000万バレルを米国が占める。その異例の規模にもかかわらず、米国主導の備蓄放出が過誤である根本的な理由は、それが実体的な供給途絶を伴わぬ状況下で、強行されたことだ。

一連の備蓄放出は、ウクライナ危機勃発前の2011年11月、米国が5カ月内・計5000万バレルの放出を、石油価格抑制を目的として決めたことから始まる。ロシアによる侵略開始後、昨年3月初めにIEA加盟国が総量6000万バレルの放出で合意。同月末には米国が向こう6カ月間にわたる日量100万バレルの備蓄放出を「プーチンによるガソリン価格高騰」への対応として発表。他のIEA加盟国は直ちに総量6000万バレルを加えたが、このときも価格変動の激しさが問題の第一として挙げられた。

昨年初めにIEA加盟国が保有していた国家原油備蓄は計12億バレル弱だが、これは世界全体の原油処理量の2週間分に過ぎない。世界需給の関数である原油価格に持続的影響を与えるには、備蓄は過少であり、不適なのだ。

本来備蓄は、実体的な供給途絶に対して短期集中的に放出し、有力産油国(特にサウジアラビア)が生産余力稼働で引き継いでこそ効果がある。

しかし昨年の放出は、ロシア産石油輸出が継続したにもかかわらず、国際石油価格抑制を公然たる目的として行われた。その結果、昨年第2、第3四半期に世界の石油生産量はおおむね需要量に釣り合っていたのが、市場外から備蓄放出分が加わって供給過剰となった。昨年11月サウジアラビア主導下に行われた石油輸出国機構(OPEC)プラスの生産調整は、この超過供給を解消し市場における需給均衡の回復を図ったものと解釈できる。

IEA加盟国は昨年、国家原油備蓄の2割以上を無意味に放出し、実体的な供給途絶の危険性に対する西側全体の対応力を弱体化させてしまった。

「政府の石油大安売り」 日本の石油補助金に疑問

さらに西側の過誤として指摘せねばならないのは、日本の価格補助金だ。昨年1月末からの燃料油価格補助金は、昨年末までに総額約3兆2千億円に達した。これは昨年2月から12月までの、日本の原油輸入総額の4分の1に相当する。事実上、日本政府が自国の輸入原油の4分の1を国際価格で産油国から買い入れ、3月以降の円安がもたらした費用増分も負担、無料で国内石油企業に卸したのと同然である。政府による石油の大安売りだ。

補助金がなく、原油輸入価格の増分がそのまま反映されていれば、日本のレギュラー・ガソリン価格は昨年平均で1ℓ当たり200円弱、対前年比25%強の上昇だった。実際、欧州各国のガソリン価格は対前年比でおおむね2割から3割上昇しており、日本の燃料油価格も主要石油消費各国と同期して変動。需要側からの応答が強く促されたはずだ。

しかし補助金投入により国内燃料油価格は国際市場の現実から遊離し、一種の仮想現実と化して低位安定した。これは日本の省・脱石油に対する誘因を削ぎ、取り組みを鈍化させたと考えられる。

2022年6月のガソリン小売価格
〈図注釈〉 多くの国でガソリン価格が最高値を付けた昨年6月時点の比較。縦軸は1ドル133.8円で換算。欧州およびインドの価格データはIEA Energy Prices、ほかは各国統計による。

対照的に、例えば中国は石油の国際価格と国内価格の連動を保ち、原油高価格下に電気自動車普及を格段に加速させた。昨年、中国乗用車市場において、プラグインハイブリッド車を含む電気自動車販売が倍増して年間約650万台に達し、全販売台数の3割弱を占めた。巨額の補助金を国内石油価格の事実上の凍結につぎ込み、陸上輸送に新機軸を起こす機運の乏しかった日本と、石油消費国としてどちらが原油高価格への耐性を強化したかは、論をまたない。

価格補助金は国内石油需要を喚起して原油高価格を支え、消費国の抵抗力を自ら弱める。本来、石油需要抑制を主導すべき日本が、かかる政策の下で原油高価格自体に取り組む変革の努力を怠れば、それは西側全体の損失なのだ。

以上、西側自体の脱・ロシア産石油依存とロシア産石油の国際市場からの排除を、異なる目標として区別すること。供給途絶を伴わぬ状況下では、備蓄放出や価格補助は行わないこと。サウジアラビアが実際に果たす役割の重要性を冷静に評価すべきことを説明した。

加えて、国際市場における供給確保の観点から、米国をはじめ西側全体として、原則として自国の原油・石油製品輸出を制限しない旨を合意形成すべきだ。さらに安全保障面では、中東湾岸地域の安定およびインド・太平洋をはじめとする海洋秩序の維持が特に重要であり、ウクライナ危機が他地域の不安定化に連動せぬよう、西側の協調が不可欠だ。

いま、市場本位の開放的な石油供給体制、すなわち国際石油秩序の維持に向け、日本を含む西側が構えを立て直すべき時だ。

こやま・まさあつ 1985年東京大学文学部社会学科卒、日本石油入社。ケンブリッジ・エナジー・リサーチ社、サウジアラムコなどを経て、2017年よりウッドマッケンジー・ボストン事務所所属。石油市場アナリスト。

・危機の時代の国際石油情勢〈前編〉 西側脱露政策とOPEC減産の実情

「今までの延長線上にない事業へ」 再エネ・合成燃料で脱炭素社会に対応


【コスモエネルギーHD】

原油価格下落で苦しい立場にいる石油元売り業界。脱炭素社会に向け方針転換待ったなしの状況だ。

コスモHDは4月に新社長に就任した山田茂氏の指揮の下、再エネ事業強化で生き残りを図る。

コスモエネルギーホールディングス(HD)の山田茂社長は4月27日、都内で報道各社の合同インタビューに応じた。山田社長は「石油だけではなく、今までの延長線上の先にない事業に取り組まなければならない」と、再生可能エネルギー事業を強化する考えを示した。2025年度までに風力発電事業に830億円を投じ、30年度までに風力を含めた再エネの発電能力を200万kWまで引き上げる方針だ。

山田社長は1988年コスモ石油(現コスモエネルギーHD)入社。供給部門で石油精製事業全体を統括し、原油調達や生産計画の立案、在庫管理や製品輸送まで行う運用実務を長年担ってきた。東日本大震災で被災した千葉製油所の再稼働にも尽力した。

経営企画部門に移ってからは、洋上風力プロジェクトなど大規模な投資案件を担当してきた。再エネ事業を推進するコスモエネルギーHDで、これまでの実務経験を生かす。

合同インタビューに応じる山田茂社長

風力発電・蓄電事業に注力 次世代エネ戦略を推進

脱炭素の潮流に加え、原油・石油の需要減が進む状況で、石油元売り各社はさまざまな手段で生き残りを図る。中でもコスモエネルギーHDは他の大手元売りにない独自色を打ち出している。

コスモエネルギーグループの第7次連結中期経営計画「ビジョン2030」によると、「グリーン電力サプライチェーン強化」を柱として、30年までに3000億円の戦略投資を進める。とりわけ洋上風力には、そのうち1300億円を振り分ける。稼働中の陸上風力30万kWに加え、陸上風力・洋上風力それぞれ60万kWの開発を推進し、風力発電の容量を150万kWまで高めたい考えだ。

一方で課題となる再エネ事業の安定化については、「再エネが世の中で普及するに従って、電力価格や需要の変動が大きくなる。その点で、蓄電の重要さは今後ますます高まっていくだろう」と蓄電ビジネスの重要性を指摘。製油所の遊休地に蓄電池を設置するなど、23年度からビジネス実証をスタートする。

次世代エネルギー分野では、持続可能な航空燃料(SAF)に活路を求めている。22年11月に廃食用油を原料とした国産SAF製造供給を行う新会社「SAFFAIRE SKY ENERGY」の設立を発表。商用規模で国内初となる年間約3万klの生産・供給を予定する。25年運転開始を目指して、16日には起工式を行った。

山田社長は記者からの質問で国内SAF事業の実現性を問われると、「航空業界からは相当量必要だという声が上がる中、需給バランスの面で見ると圧倒的に供給が足りない。コストをかけず量産する必要があるが、収益性は決して悪くないとみている」と話す。自社単体での水素・合成燃料製造や炭素貯留には、コストの問題もあり「あくまで全方位に進める」と述べるにとどめているが、CCUS(CO2回収・利用・貯留)技術を含めて「形には見えていないかもしれないが、準備万端で遅れは取らない」と脱炭素時代に向けた事業拡大に自信を見せた。

競合他社には国内の製油所の統廃合を進める動きもある。これについて、山田社長は「(統廃合は)当面考えていない」と明言。今後の需要ペースと自社製油所の稼働率の高さから十分な採算が確保できるとした。「石油はしばらく社会を支える。再エネとの『二刀流』で脱炭素に取り組む必要がある」。石油事業を重要な柱とする方針に変わりはない考えを示した。

一方で、既存ビジネスからの脱却と脱炭素への転換を促したい投資家は、コスモエネルギーHDにさらなる対応を迫る。コスモHD株の20%超を保有する大株主の一人は、風力事業を手掛けるコスモエコパワーの上場を求めており、6月の株主総会で社外取締役の選任を求める株主提案を行う予定だ。この問題について、山田社長は「風力事業をグリーンサプライチェーンとして成長させていくことが、企業価値向上につながる」と説明。上場による短期的な収益向上には慎重な姿勢を見せた。

22年度決算は増収減益 再エネ事業で難局突破

5月11日には、コスモエネルギーHDが22年度通期決算を発表した。売上高は2兆7919億円と、原油高を背景にした価格上昇などで対前年比14.4%の増収となったものの、為替の影響による備蓄原油評価額の縮小もあり、純利益は逆に51.1%マイナスの679億円と減少に転じた。

決算資料の中で「グリーン電力ならびに次世代エネルギーへの取り組み」と題して、①風力発電所のFIT(固定価格買い取り)制度に頼らない電力供給協業を開始、②国産SAF製造へ、スシローなどを傘下に置く「FOOD&LIFECOMPANIES」と廃食用油供給で提携、③脱炭素分野でタイ大手エネルギー企業バンチャックと覚書締結―などを記載。グループ全体で再エネ事業を盛り上げていく方針を打ち出している。

山田社長は4月の社長就任の際、社員に向けて「社員相互で理解し合い、エネルギーを生み出してほしい」とげきを飛ばした。

脱炭素社会に向け目の敵にされやすい石油元売りだが、「誇りに思える会社にしたい」との思いで難局を乗り越えていく。

一部株主による再エネ事業分離提案について質問が及んだ

G7広島サミットが閉幕 対露制裁・脱炭素を同時追求


主要7カ国首脳会議(G7サミット)が5月19~21日、広島市で開かれた。ウクライナのゼレンスキー大統領による緊急来日や各国首脳の原爆資料館訪問など、外交・安全保障一色となったが、エネルギー関係はどうか。

共同声明では、世界が「気候変動」「生物多様性の損失」「汚染」という三つの危機に直面しており、「勝負の10年」に行動を拡大しパリ協定へのコミットメントを堅持するとした。またロシアによるウクライナ侵攻の影響はあるが、「2050年までにネットゼロを達成する目標は揺るがない」と強調。石炭火力の廃止時期を明示しなかったことやガス部門への投資の必要性など、4月のG7気候・エネルギー・環境相会合で合意した〝現実解〟は踏襲された。

ワーキングランチに臨むG7首脳ら

原子力では「原子力エネルギーの使用を選択した国」による技術・人材の維持、強化のほか、「ロシアへの依存を減らすため、志を同じくするパートナーと協働する」との一文が入った。日本はエネ環境相会合の開催に合わせて開かれた国際原子力フォーラムで、米英仏加と連携強化を確認。5月に入ってからは、フランスとの協力関係を深化させる共同声明に署名し、仏オラノ社と使用済みMOX燃料の再処理に向けた実証実験を始めると公表している。

共同声明以外では、「G7クリーン・エネルギー経済行動計画」を発表。クリーン・エネルギーへの移行コストを下げるため、投資ギャップを埋める必要性などを明記した。

今後、議論の舞台は主要20カ国首脳会議(G20サミット)、温暖化国際会議・COP28に移る。中でもG20の議長国はインドであり、交渉は難航するとみられる。

【マーケット情報/6月2日】原油反落、需要減少の見通し広がる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み下落に転じた。米中経済の先行き懸念から、需要減少の見通しが広がった。

米国では、雇用情勢が引き続き逼迫していることを示す労働統計を受けて、連邦準備制度理事会(FRB)による追加利上げの観測が広がり、油価の下方圧力となった。製造業では、活動縮小を示す統計が出たことから利上げ停止の見方も浮上。油価の上昇圧力になりえたものの、相対的には利上げ継続の見通しが強く、強材料にはならなかった。

また、原油在庫が、昨年11月以来の水準で減少した先々週から増加に転じたことも、材料視された。一方、米議会は、懸案だった債務上限引上げ法案を可決。債務不履行(デフォルト)回避の見通しが立ったことを受けて市場が経済安定化を好感し、油価の下落はある程度抑制された。

中国では、経済回復の停滞を示す動きが顕著だった。製造業における5月の購買担当者景気指数(PMI)は2カ月連続の悪化となり、非製造業のPMIも減少に転じた。また、国内の石油需要が市場予測を下回っていることなどを受けて、大手製油所の稼働率が低下した。ただ、季節要因からガソリンとディーゼル油の需要は上昇に転ずるとの見方が出ている。

日本では、定修と技術的トラブルから、複数の製油所が稼働を停止した。

なお、週末に行われたOPECプラスでの会合で、サウジアラビアは7月から日量100万バレルの追加的な自主減産を行うと発表した。


【6月2日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=71.74ドル(前週比0.93ドル安)、ブレント先物(ICE)=76.13ドル(前週比0.82ドル安)、オマーン先物(DME)=73.73ドル(前週比1.49ドル安)、ドバイ現物(Argus)=71.62ドル(前週比3.85ドル安)

*シンガポール休場のため、ドバイ現物のみ1日との比較

日本の主張は認められたのか G7共同声明の深層を読み解く


G7気候エネ環境相会合の共同声明を巡っては、日本の現実的な主張が認められたと安堵の声が聞こえる。

しかし、実際には「1・5℃目標」の厳守を堅持し、具体的な行動を求める厳しい内容となっている。

4月に札幌市で開催された主要7カ国(G7)気候・エネルギー・環境相会合の共同声明の評価が定まらない。定量的な目標を設けず、「各国の事情に応じた多様な道筋」という文言を盛り込み、解釈に幅を持たせたためだ。日本の政策決定文書によく見られる言い回しが多かったことから、〝霞が関文学〟が世界に広がったと皮肉に似た声も聞かれた。

しかし共同声明には、パリ協定が目指す「1・5℃目標」を厳守する強いメッセージが込められている。多様な選択肢を容認した形に見えるものの、1・5℃目標を実現するには多くの選択肢がないことを意味する。日本を含め先進国には、温室効果ガスのより厳しい排出削減策が課されたと言っていいだろう。

あるエネルギー企業のトップは共同声明を読んで、「日本がかねて主張してきたトランジションが世界に認められた」と喜んだという。確かに共同声明には、石炭火力を含めて化石燃料の廃止期限は盛り込まれなかった。「各国の事情に応じた多様な道筋」を素直に解釈すれば、水素やアンモニア混焼を認めたようにも読める。

前出のエネルギー企業の関係者は「トップは自信を深めたようだ。欧州のダイベストメント(投資撤退)は間違いで、混焼を含めたトランジションが合理的な手法だと対外的に発信していく意向を持ち始めている」と明かす。しかし混焼を含めた石炭火力の温存は、1・5℃目標には足かせ以外の何物でもない。ある有識者は「ぬか喜びしてはいけない」と、間違った解釈に警鐘を鳴らす。

「猶予期間はない」 求められる具体的行動

国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第六次報告書は、1・5℃目標を達成するためには、2035年の温室効果ガスの排出を「19年比60‌%減」にする必要があるとする。G7の共同声明にもIPCC報告書と同じ記載があり、廃止期限を示さなくても早期に廃止しなければならないと分かる。有識者は「目標を達成するためには、中間点として30年や35年にどのぐらい排出削減をしなければならないかが自明だ。共同声明は厳しい水準での排出削減を続けることを表明したということだ」と説明する。

G7気候エネ環境相会合の共同記者会見

G7共同声明は、事業資金の出し手である金融機関や投資家にも影響を及ぼす。企業が取り組む脱炭素の移行戦略に、1・5℃目標との整合性が求められることになるという。金融機関や投資家は国際的な動きに敏感で、有識者は「猶予期間があるわけではないと認識した方がいい」と忠告する。

1・5℃目標の達成は果てしなく遠い。実際に国際エネルギー機関(IEA)が3月に公表した報告書によると、22年のエネルギー起源の二酸化炭素(CO2)排出量は、前年から0・9%増加し、史上最高値を記録した。日本国内を見ても、21年度は8年ぶりに増加に転じた。ロシアのウクライナ侵攻を契機にエネルギー不足が襲い、化石燃料を活用せざるを得なくなったのが要因だ。

そういった状況でもG7会合では、1・5℃目標の達成に向けて揺るぎない方向性を示した。さらに共通認識として確認されたのは、これまでの気候変動対策に付き物だったルールや目標を決めることだけではなく、行動を進めることだ。政府関係者は「ルール&ターゲットからアクションに軸足が移った。もちろん、その大前提は1・5℃目標だ」と解説する。

共同声明には30年までに洋上風力発電を150GW、太陽光発電を1TW以上に増加させると盛り込まれた。数字自体はIEAや国際再生可能エネルギー機関(IRENA)が出しているものを踏襲したに過ぎないが、具体的なアクションにつながる指標を示した形だ。「エネルギー転換をより大量に進めるという宣言で、産業界に対してビジネスチャンスが転がっているというヒントを込めた」(前出の政府関係者)

こうして見ていくと、共同声明は1・5℃目標を後押しする性格を帯びている。付属書を含めて数百ページに及ぶ文書は、目標達成のためにどう行動につなげるかを記し、民間の脱炭素移行を支援するための政策的な方向付けをしたといえよう。

能登地方で地震が多発 志賀原発は大丈夫か


5月5日に石川県能登地方でマグニチュード6・5の地震が発生し、同県珠洲市で震度6強の揺れを観測した。太平洋側のプレートが動いたことで、能登半島の地下深部にある水も移動。それが地震を引き起こしたと考えられている。

この地域は2018年ごろから地震が増え、20年末から群発地震が多発。その度に深さ20~30㎞に存在した水が徐々に上昇し、震源も浅くなっているとの見解を政府の地震調査委員会は公表していた。今回の地震は、その見解を裏付けるものといえる。

能登半島の群発地震は当分続くといわれている。そのため、半島に位置する志賀原発への影響を懸念する声が高まりそうだ。だが、珠洲市から志賀原発までは70~80㎞ほどの距離がある。5月5日の地震で志賀町で記録したのは震度4。一連の群発地震は今回の震源地から半径15㎞範囲で発生している。地下深部の水が移動して震源が変わっているとの指摘もあるが、70㎞以上も離れた志賀町まで震源が移動するとは考えにくい。

志賀原発は最大の地震動を1000ガルに引き上げている

5月5日に珠洲市で観測された最大加速度は729ガル。北陸電力は志賀原発の耐震性を高め、想定できる最大の地震動を1000ガルに引き上げ、重要設備を補強。仮に震源が志賀町まで移動し、同規模の地震が起きたとしても安全性に影響を与えるものではない。 また珠洲市で観測された最大加速度は地上で計測したもの。地震は地層が軟らかいほど揺れが大きくなる。原発は地表を取り除いた硬い岩盤に建てられている。それだけ最大加速度は弱まる。その点からも、一連の能登半島地震によって志賀原発の安全性が脅かされることはないといえる。

大手電力各社が再発防止策 関西は「発販分離」が焦点に


 大手電力会社間のカルテルや顧客情報の不正閲覧など相次ぐ不祥事で大揺れの関西電力を巡って、発電事業と電力小売り事業の分離が現実味を帯びつつある。電力小売り競争の健全化に向けた方策の一つとして、経済産業省から宿題を課せられたもので、関電は継続的な検討を行っているもようだ。実現すれば、2015年4月にJERAを設立した東京電力、中部電力の両社に続き、発販分離が行われることになる。

大型連休明けの5月12日は、不祥事に見舞われた電力業界にとって、一つの節目となった。送配電事業者の保有する顧客情報が不正に閲覧されていた問題などで、経産省・電力ガス取引監視等委員会から業務改善命令や勧告、指導を受けた東北、中部、関西、中国、四国、九州、沖縄の電力7社が、託送情報システムの物理的分離や内部統制の抜本強化など再発防止策を盛り込んだ業務改善計画をまとめ、経産省に提出したのだ。同様の問題で業務改善要請を受けた北海道、東京、北陸の電力3社も、経産省に報告書を提出した。

10社のうち、とりわけ業界内外の関心を集めたのが、役職員による多額の金品受領に始まり、カルテル、不正閲覧と、不祥事が多発した関電だ。経産省は4月28日、同社小売事業の競争健全化に向け、①関電が保有する電源の内外無差別な卸取引を強化し、これを通じた、短期から長期まで多様な期間・相手方との安定的な電力取引関係の構築、②魅力的で安定的な料金、サービスのさらなる選択肢の拡大、③これらの実現するための発電事業・小売電気事業の在り方―について、具体的な検討を行うよう指示していた。

森社長「選択肢の一つ」 他電力にも波及するか

これを受け、関電は12日、保坂伸・資源エネルギー庁長官宛てに「小売電気事業の健全な競争を実現するための対応について」と題する文書を提出。この中で、「営業活動における透明性を確保し、多様化するお客さまニーズにスピーディかつ的確にお応えするために、発販分離も含めた、最適な小売電気事業体制の検討」を進めると明記したのだ。

この日会見した森望社長は、記者からの質問に答える形で「(発販分離は)発電事業、小売事業の機能を明確に分けて仕事をするということだ。分社化も選択肢の一つだが、現時点で決めているわけではない」と述べた。

5月12日の会見で謝罪する関西電力の森望社長(中央)

ただ、発販分離が一連の不祥事の再発防止策になるかを巡っては、業界内外に懐疑的な見方も少なくない。「発販分離した中部電力でも、顧客情報の不正閲覧は起きているし、公正取引委員会から電力カルテル問題で課徴金処分も受けている。再発防止に当たっては、形よりも実効性をどう確保するかが重要だ」(アナリスト)

ある大手電力関係者は「関電が発販分離すれば、ほかの大手電力に波及する可能性も。第二のJERAをつくることが、経産省の狙いの一つにありそうだ」と予想する。果たして、関電は発販分離に踏み切るのか。そしてJERAに続く火力連合は誕生するのか。

大切な家族をそっと見守る 「まもりこ」が提供する安心な暮らし


【中部電力】

中部電力と電気通信事業者のインターネットイニシアティブが設立したネコリコ。同社が2021年から提供している高齢者見守りサービス「まもりこ」が好評だ。

まもりこは、見守りたい家の冷蔵庫の側面や上面など、1日1回は開閉する場所に端末を設置する。端末には通信機能があるため、インターネット回線やWi―Fiは不要。設置場所がNTTドコモのLTEエリア内であれば、コンセントにつなげるだけで使える。見守る家族は、スマートフォンにアプリをダウンロードして利用する。

端末代金の1万3200円(税込み)でスタートでき、月額利用料は550円(同)。兄弟姉妹など複数人で見守りに参加しても追加料金はかからない。設置が簡単で低料金のため、まずは試してみたいという場合にも始めやすくなっている。

端末は朝・昼・晩の1日3回、ドアの開閉を基に状況を判定する。一定時間、ドアの開閉がないなど異常があった場合のみ、アプリに通知が届く仕組みだ。

スマホアプリからは、1時間ごとに更新されるドアの開閉時刻と、その時点の温度・湿度を確認することができる。見守る側、見守られる側双方への負担が少なく、「適度な距離感で、高齢者をそっと見守れる」と利用者から好評を得ている。

異常があった時だけアプリに通知が届く


法人も見守りに活用 派生したサービスが登場

まもりこには、オプションサービスの「まもりこビュー」がある。1ライセンス110円(同)の月額料金で、パソコンやタブレットなどからウェブブラウザを使ってデータを閲覧。異常通知はメールで受け取れる。不動産管理会社などから入居する高齢者の見守りに利用したいとの声もあり、提供を開始した。複数の高齢者の一覧表示や、データをグラフ化する機能などが備わっている。

地方では、まもりこから派生した新たなサービスが登場している。

福岡市東区のタクシー会社では、離れて暮らす家族が異常通知を受け、本人と連絡が取れない場合、ドライバーに確認訪問の依頼ができるサービスを開始した。

まもりこは地域ぐるみの見守りにつながり、離れて暮らす家族の安心に大きく貢献していきそうだ。

端末(右)とスマホ画面

22年度エネルギー決算の明暗 ガス好調も電力は総崩れの様相


主要エネルギー会社の2022年度連結決算は、前年度に引き続き電力とそのほかの業種で明暗が分かれた。

規制料金の値上げ改定を機に、大手電力は収益力を回復し財務基盤を立て直すことができるか。

電力、ガス、石油など主要エネルギー各社の2022年度(23年3月期)連結決算が出そろった。

大手都市ガス3社は、大阪がフリーポート液化基地の火災の影響で減益となった一方、東京、東邦の2社は売上高、最終利益ともに高い水準を記録。ENEOSホールディングス(HD)、出光興産、コスモエネルギーHDの石油元売り大手3社は、ガソリンなどの価格が上昇し全社で増収となったものの、下期に原油価格が下落基調となり備蓄石油の在庫評価損が生じたことや、過去最高益だった前期の反動もあって軒並み減益となった。岩谷産業、伊藤忠エネクス、日本瓦斯のLPガス3社は、資源高などを追い風に売上高、利益ともに好調に推移した。

主要エネルギー各社の2022年度連結決算

際立つ大手電力の苦境 8社が最終赤字に

前年度に引き続き、厳しい決算が際立ったのが大手電力会社だ。前年度は5社が最終赤字となったが、22年度は中部電と関西電を除く8社が赤字を計上。ロシアによるウクライナ侵攻などに伴い燃料費が高騰し、燃料費調整の期ずれ差損が拡大したことに加え、卸電力取引市場価格の上昇に伴う購入電力料の増加といった外的要因が重なったことが主な要因だ。

燃料費調整制度により、燃料費の上昇分は遅れて料金に転嫁できる仕組みではあるが、家庭用など低圧規制料金には急激な上昇による需要家への影響を緩和することを目的に調整上限(基準燃料価格の1・5倍)が設けられている。

昨年2月の北陸電以降、10月までに全社が上限に到達し、燃料費持ち出し状態となったことも業績に大きな影を落とした。既に完全自由料金に移行した都市ガス大手は、原料高騰に伴い上限を引き上げることができたわけで、事業環境の変化への柔軟な対応を阻害する規制の在り方に、改めて課題が突き付けられた形だ。

こうした中、唯一、経常・最終損益ともに黒字となったのが中部電。東京電との火力合弁会社、JERAのLNGスポット調達価格高騰という収益悪化要因はあったものの、期ずれ差損の縮小や、小売り会社の電源調達ポートフォリオ見直しなどによる市場高騰影響の抑制、規制のない高圧以上の顧客向けの料金適正化などに努めたことがプラスに働いたという。

23年度(24年3月期)はどうなるのだろうか。既に業績見通しを公表している中部、関西、九州の3社はいずれも大幅な増益を予想し、明るい兆しが見えている。期ずれが差損から差益に転じることが、業績を押し上げる大きな要因として考えられる。

ただし、燃料価格の水準は落ち着きを見せてはいるものの依然としてボラティリティは高く、電力事業の先行きに対する不透明感はぬぐい切れていない。それはつまり、今期の業績も外部環境次第だということだ。

【マーケット情報/5月26日】原油上昇、供給不足の見方台頭


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週までの原油価格は、主要指標が軒並み上昇。石油産業への過少投資の懸念が強まり、供給不足の見方が広がった。

OPEC事務総長が、最近の石油産業に対する過少投資を指摘。エネルギー安全保障や市場のボラティリティを抑制するためにも、投資を増やすよう促した。また、サウジアラビアのエネルギー大臣が、追加減産を示唆するような発言をしたことも、原油価格の上方圧力となった。

加えて、米国で債務上限を巡る議論に進展があり、楽観が広がったことも強材料となった。実際27日に、米大統領と共和党との間で、上限引き上げの合意に達している。経済の冷え込み、およびそれにともなう石油需要の後退を回避できる見通しだ。

供給面では、米国の週間在庫が減少。昨年11月以来の減少幅を記録した。需要増を背景に、ガソリン、軽油在庫も減少した。

一方、山火事の続くカナダ・アルバータ州では、一部で石油、ガスの生産が再開。ただ、弱材料とはならなかった。

【5月26日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=72.67ドル(前週比1.12ドル高)、ブレント先物(ICE)=76.95ドル(前週比1.37ドル高)、オマーン先物(DME)=75.22ドル(前週比0.33ドル高)、ドバイ現物(Argus)=75.47ドル(前週比0.60ドル高)

【コラム/5月29日】新聞購読料の値上げから電気料金改定を考える~残る電力供給不安


飯倉 穣/エコノミスト

1,決着はしたが

電力会社7社の料金改定(電気料金値上げ)が、物価問題閣僚会議で了承された(23年5月16日)。半年に及ぶ申請・認可手続きであった。報道は伝える。「電力値上げ、来月14~42% 7社 夏控え家計負担さらに 政府補助9月まで」(日経5月17日)、「電力7社2000円~5300円上げ 標準家庭 来月から政府了承」(朝日同)。

規制料金(自由化過程で消費者配慮の経過措置)の値上げである。申請時、各社の22年度決算見込は赤字で、早急な対応が求められたが、申請・認可手続きは手堅いものだった。新聞購読料値上げを参考に、公共料金としての電気料金改定から電力事業の在り方を考える。

2,突然の値上げ

電力の規制料金値上げが話題となる中、年度初めにA新聞購読料値上げが報道された。「読者のみなさまへ 購読料改定のお願い 来月から月ぎめ4900円台に 文字を大きく 読み解き充実」(朝日2023年4月5日)。いとも簡潔な値上げ通知だった。読者は、一言近時の紙面構成・内容に注文を付けることも出来ず、購読取りやめの選択だけである。

3,新聞は準公共財か

新聞購読料は、不思議な市場価格である。民間企業が、製作し販売する。新規参入自由で、競争もある。市場経済に馴染む民間製作商品の典型である。ところが新聞業界の要望で、価格競争・乱売を防止する再販制度(販売価格指示と維持)と新聞特殊指定(値引き禁止・定価販売強制)で価格を維持している(公正取引委員会Q&A参照)。新聞販売の不公正取引として多様な定価、価格設定を挙げる。実に不可思議である。

戦後ドサクサの歴史的経緯もあるが、業界は、ユニバーサル・サービス維持、宅配制度維持、寡占化による多様な情報機会の低下防止を主張する。その根拠に言論・出版の自由(憲法21条)や権力批判の大切さも言われる。又新聞業界の不思議な雇用構造の維持を考える人もいる。新聞はインテリが作り、○が売り、△が配るという言葉を思い出す。ひと昔前(押し紙が話題の頃)なら、発行部数約50百万部、4万人が新聞を作り、様々な40万人が販売・配達していた(22年現在発行部数30百万、製作3.6万人、販売従業員23.4万人:日本新聞協会)。大いに社会・雇用安定に貢献していたし、今も期待願望はある。これらの事情を考慮すれば独禁法適用除外もむべなるかな。

4,紙面の質を問いたい

ただ今回のA新聞の値上げは、電力料金と違い、コスト関連の数字的根拠の情報公開なく、説明・解説も通り一遍である。値上げ理由は、コスト削減実施ながら、原材料、経費増加、報道の質を維持、安定発行のためと弁明する。

新聞特殊指定の理由として、紙面の質がある。新聞も商品である。前回の値上げ以降商品の質は上がっているか。報道内容や説明・解説に知的工夫があるか。文字を大きくしただけでは、質の向上とは言えない。新聞離れ対策は、自紙の商品価値の向上が第一である。

次代を創る学識者/山口順之・東京理科大学電気工学科教授


電力システムの制度設計は複雑化し、解決すべき課題は山積みだ。

電気工学の領域から課題解決に貢献するべく、研究活動に取り組んでいる。

 太陽光や風力などの自然エネルギーで発電すれば多くの人が喜ぶのに、なぜ大規模集中電源が選択されているのか。自然エネルギーを導入拡大するためには、どのように電力システムに接続していけばよいのか―。

そんな素朴な疑問を持ったことをきっかけに、大学4年の研究室配属の際に、電力システム工学の研究の道を選んだという東京理科大学工学部電気工学科の山口順之教授。以降、再生可能エネルギーの大量導入やマートグリッドの実現に向けた研究に携わり、電力システムの課題を解決する方法を探求し続けている。

高校の物理教師か研究者になりたいと、北海道大学理Ⅰ系に進学。同大大学院で博士号を取得後は、電力中央研究所研究員として13年にわたって電力自由化に関する調査やデマンドレスポンスの研究調査を手掛けた。そして15年に、公募により東京理科大の講師に転身。この4月に教授に就任した。

4年生の後期に3年次からため続けたレポートを駆け込みで提出するなど、「成績はワースト4位に入るような不良学生だった」と、学部生時代を振り返る。それが大きく変わったきっかけは、研究室に配属されたのを機に、自ら設定したテーマで研究に没頭できるようになったことだ。

修士課程では、米PJM(米国北東部地域の地域送電機関)が行っているような地点別電力価格の概念を拡張し、算出するプログラムを自らの手で構築した。「停電が起きないよう、信頼度を確保するための価格を乗せて算出した結果、理論通りの価格が出た時は本当にうれしかった」という。

とはいえ、当時は電力自由化の情報収集や問題背景の理解に四苦八苦し、論文を書くことには苦労があったのも事実。指導教官であった北海道大学大学院北裕幸教授の忍耐強い指導と、自由な研究ができる環境があったからこそ研究者としての今があると、感謝しきりだ。

その経験からか、指導する立場となった現在は、学生たちがのびのびと学んだり研究したりできる環境づくりに心を砕いている。「鉄は熱いうちに打てと言うが、熱くならなければ打ってはいけない」と教育者としての持論を語る。

電力システムの課題解決へ さまざまな選択肢を提示

今、電力システムの制度設計はますます複雑化し全体像の把握が難しくなっている上に、脱炭素社会の実現に向けた再生可能エネルギーの大量導入や脱炭素燃料の開発、エネルギーセキュリティ、価格ボラティリティへの対応など、研究を始めた当初にはなかった課題にも直面している。

「エネルギーは社会全体で取り組むことであり、高価であったり無理を強いたりするようでは、どんなに理想的な目標であっても達成することはできない。研究を通じてさまざまな選択肢を社会に提示し、全国大の電力システムの問題解決に貢献していきたい」と、強い意欲を見せる。

やまぐち・のぶゆき 2002年北海道大学大学院工学研究科システム情報工学専攻博士課程修了、 電力中央研究所研究員。 08年、米国ローレンスバークレー国立研究所客員研究員兼務。15年東京理科大学 講師、准教授を経て23年4月から現職。総合資源エネルギー調査会系統WGグループ委員。