【特集2水素エネルギー】充填時間を大幅短縮 タツノ製ディスペンサーが韓国で高評価

タツノは世界初の2本ノズルで同時充填できるディスペンサーを展開中だ。水素ステーションの需要が高まる韓国での販売に注力している。

国内の定置式水素ステーションにおいて多くの導入実績を誇るタツノの水素ディスペンサー。「Hydrogen-NX」は87.5MPaの高圧対応で、高精度流量計による正確な充填、セルフ式でも直感的に操作できる機能性が特長だ。「Luminous H2」は大型商用車向けで、従来のノーマルフローより急速に充填できるミドルフロー対応の2本ノズル同時充填を世界で初めて可能にした。ノーマルフローの最大3倍の流速を実現し、大型車の大容量タンクにも短時間で充填可能だ。

韓国が水素政策を積極推進 水素バス向け販売の伸びに期待

韓国では現在、「水素経済活性化ロードマップ」に基づき、世界をリードする水素社会の実現を目指している。政府主導の水素経済促進政策により、水素自動車、水素ステーションともに数が増加している。


環境イノベーション情報機構によると、2025年の水素自動車の導入台数は、24年比182%増の6903台。また水素自動車の利便性改善のため、水素ステーションの建設も加速しており、25年は目標の450カ所を達成。26年は500カ所超、30年までに660カ所超の建設を目指すという。


同社の現地法人、韓国タツノでは、日本から届く水素ディスペンサーを構成するコンポーネントを組み込み、安定した信頼性を保ちながら納品する体制が取られている。操作性や充填能力などにおいて顧客からの評価が高く、再注文につながるなど、販売は好調だ。エネルギーエンジニアリング部次長でカーボンニュートラル・水素グループの田中智久リーダーは「韓国は水素モビリティの中でも特に水素バスに力を入れており、今後も水素ディスペンサーの販売数の伸びが期待できる」と話す。

韓国の水素ディスペンサー


日本では近年、水素ステーションの設置が滞っている。こうした中、同社は水素ステーション以外での利用向けとして、コリオリ流量計や充填ノズル、緊急離脱カップリングといったコンポーネントの拡販にも注力。安全で確実な水素充填を支える高性能な製品を展開するための供給体制を強化している。


水素は低・脱炭素社会の実現に不可欠な次世代エネルギーの旗手。グローバルな知見と最先端の技術力を兼ね備えた同社は、今後本格化する日本や世界の水素サプライチェーン構築において極めて重要なキープレイヤーになるだろう。

【特集2水素エネルギー】日揮が福島再エネ使ったグリーンアンモニア製造を実証

水素キャリアとなるグリーンアンモニアが実用化に入ろうとしている。日揮ホールディングスは旭化成と共同で太陽光発電(PV)や風力発電などCO2排出量ゼロの不安定電源から製造した水素を原料に、安定してアンモニアを合成するプラントの運転計画を構築する統合制御システムを開発。福島県浪江町の福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)の隣接地に実証プラントを建設し、アンモニア製造を開始した。2026年度末までに実証し、海外を中心に統合制御システムの事業化を図っていく。

実証プラント全景


グリーンアンモニアは、再エネの不安定電源で製造する水素でアンモニア合成が最適にできるかが命題だ。その課題解決のために日揮と旭化成が共同開発したのが、今回のシステム技術だ。両社は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション基金事業「大規模アルカリ水電解水素製造システムの開発およびグリーンケミカルプラントの実証」(21年から10年間実施)のフェーズ1事業として実証を行っていく。

プラント負荷変動に対応 水素供給と製造量を制御

FH2Rには計2万kWのPVが導入されている。実証では、旭化成がFH2Rに設置した1万kW級アルカリ水電解製造装置でPVによる電気から水素を生成。パイプラインを通してその水素を供給し、アンモニアを合成する。規模は日量4t。変動電源(今回は風力発電も仮想発電所で試験)で水素を製造し、アンモニア合成に対応した統合制御システムで最適なアンモニア製造システムを確立する。


アンモニア合成プラントは年間を通して負荷が上下する。そのため、同システムは負荷が一定の運転ではなく、水素タンクの貯蔵量が底をつかないようにする必要がある。


そこで、水素供給量とケミカル製造量を制御し、25%から100%までの負荷でアンモニア合成を行っていく。また、水素が足りない場合はアンモニア合成量を抑える。年平均の稼働率はアンモニア合成容量70~80%になる見込みだ。


旭化成は、このグリーンアンモニア合成プラント実用化に向け、川崎製造所に4基ユニット(1ユニット800kW)でアルカリ水電解装置を設置した。複数台での連携運転を実施して、変動対応の運転技術の実証を進め、27年度以降にも欧州などで計画されている大規模グリーンケミカルプラントへの参画を目指している。


日揮は、海外のグリーンケミカル事業化で、発電・ケミカル事業などにおいて建設する計画にEPC(設計・調達・建設)で実証の知見を生かしていく方針だ。「再エネ由来グリーンケミカルでは、まずグリーン水素でアンモニア、メタノールの合成を行うグリーンケミカルプラントの運転で統合制御システムを活用する。最適で安定的な生産を実現して、製造コスト引き下げに貢献していきたい」としている。

【特集2水素エネルギー】福島県が水素ビジネスの創出後押し

福島県は企業間マッチングによる産業育成を図っている。ビジネス化に向けた好連携の成果が出始めたところだ。

インタビュー/植田隆太(福島県商工労働部次世代産業課 課長)

―東日本大震災から15年が経ちました。エネルギー分野の進捗を教えてください。


植田 県では、2012年に再生可能エネルギー推進ビジョンを策定し、40年頃を目途に、県内のエネルギー需要量の100%以上に相当する量のエネルギーを再エネで生み出すとした目標への歩みを着実に進め、24年度で59.6%になりました。同ビジョンを改定した21年に、国の「福島新エネ社会構想」で水素が大きな柱となり、再エネとともに水素の取り組みを強化してきました。


―特に注力している事業は何でしょうか。


植田 企業間のネットワーキングの活動です。17年に設立した「エネルギー・エージェンシーふくしま(EAF)」では、コーディネーターが企業のマッチングを行っています。今では複数のワーキンググループ(WG)が新たなビジネスの創出を図っています。例えば、水素燃料電池ドローンを手がけるOKUMA TECH(大熊町)による「小さな水素社会WG」では水素の地産地消に取り組んでいます。矢吹町内の企業が作った「チームやぶきWG」も水素産業の参入に向けて活動中です。
 EAFには、水素のほかに太陽光、風力、バイオマスなど、全部で六つの分科会があり、それぞれの分野にコーディネーターを配置しています。水素に特化したコーディネーター活動を行っている組織は、全国でもあまり例がないと思います。さらに、ドイツのノルトライン・ヴェストファーレン州とハンブルク州、スペインのバスク州と連携し、海外進出への支援体制も整えました。

地産地消型の産業化を検討 需要創出から好循環を目指す

―産学連携も柱の一つになりますか。


植田 福島大学は水素エネルギー総合研究所を設置し、将来の水素ビジネスを担う人材を育成する方針を示しています。県としても内閣府の「地方大学・地域産業創生交付金」を活用するなどして支援を実施しました。さらに、県内企業を加えた産学官連携で、例えば、副産物の活用を含めたバイオマス由来水素製造のビジネス化にも取り組んでいます。


―今後の課題をお聞かせください。


植田 福島県では大規模サプライチェーンが構築しづらく、輸送コストが課題です。そのため、地産地消型の水素産業を考えていく必要があります。県内での水素需要創出を図り、それが製造時のコストダウンにつながり、将来の産業育成につながっていく好循環を目指していきたいと考えています。

うえだ・りゅうた 2014年経済産業省入省。電力・ガス取引監視等委員会、内閣官房経済安保法制準備室、中小企業庁総務課などを経て、25年7月から現職。

【特集2水素エネルギー】東京都が水素社会を身近に感じるイベントを開催

東京都は1月31日と2月1日の2日間、TAKANAWA GATEWAY CITY(港区)で体験型イベント「水素がうごかす未来シティ」を開催した。2月1日は、都が制定した「東京水素の日」。幅広い世代にさまざまな体験を通じて、水素社会を身近に感じてもらうため、会場には、燃料電池自動車(FCV)や調理器具など、一般消費者が水素について理解しやすい展示が並んだ。トヨタ自動車はFCVの中身が見える実物大カットモデルを展示し、水素で走る車の仕組みを解説した。タツノやトキコシステムソリューションズは模擬ディスペンサーを設置。実際にノズルに触りながら、車への充填の流れや安全性を分かりやすく紹介した。


東京都はFC商用車の普及に力を入れており、民間と連携して水素ステーション整備や導入支援を進め、水素需要を創出する方針だ。都内の水素ステーションは約20カ所、充填機は約30基が稼働中。都は今後、都有地の活用などで整備を加速する。また、FC商用車の稼働台数を30年度に約5000台、35年度に約1万台という目標を掲げている。宇田浩史・水素エネルギー推進担当課長は「目標の達成には、民間企業との連携はもちろんだが、都民の皆様の理解が欠かせない。今日のイベントで水素をさらに知ってほしい」と、水素普及への展望を語った。

FCVのカットモデル

【特集2水素エネルギー】川重冷熱が水素式吸収冷温水機で都市ガス並み低NOx化を実現

川重冷熱工業は1月、吸収冷温水機「Efficio(エフィシオ)」シリーズの水素対応モデルの販売を開始した。


水素は燃焼時にCO2を排出しないが、都市ガスに比べて窒素酸化物(NOx)排出量が多いのが課題だ。技術総括室開発部の寺元勝紀氏は「燃焼室に合わせた水素バーナーの調整に苦労した。特に燃焼時の火炎形状を見直し、バーナーの微調整で最適解を見つけていった」と語る。こうして課題を解決し、都市ガスと同等の低NOx化を実現。検証ではNOx排出量を40ppm(O2=0%)に抑えることを確認した。


安全に配慮した設計にもこだわった。同機器には燃焼開始前と停止後に、配管内の水素を不燃の不活性ガス・窒素に置き換えるパージシステムと水素漏洩検知器を搭載。さらに、水素火炎が燃焼室から燃料供給側(バーナーや燃料配管)に逆流する逆火を防止するフレームアレスタを内蔵した。


水素燃料対応の吸収冷温水機では業界最高水準となる定格COPc(運転時の成績係数)1.43とIPLV(部分負荷効率を示す期間成績係数)1.64の性能を備え、省エネ化を実現している。同社は今後も水素対応製品の技術革新で、産業や空調分野での環境負荷の低減に取り組んでいく構えだ。

水素焚吸収冷温水機「Efficio」

【特集2水素エネルギー】福島県浪江町でグリーン水素製造の最先端実証

国内主要企業による最先端の実証が行われている福島県浪江町。海外連携などを通じ、研究学園都市への進化を目指す。

インタビュー/藤田知宏(浪江町産業振興課新エネルギー推進係長)

―水素の取り組みをお聞かせください。


藤田 水素タウンである浪江のシンボル「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」は年間約900tという世界でも有数規模の水素を製造し、国内主要企業による最先端実証の結節点となっています。今年1月には「浪江グリーンアンモニア統合制御実証フィールド(NAMICS)」で、再生可能エネルギー由来のグリーンアンモニア製造を開始しました。変動の激しい再エネ電力下で安定・高効率の合成を実現した世界初の技術として注目されています。さらに町では、水素事業者にビジネスマッチングの機会を提供し、企業間連携や新事業の創出が実現しています。多角的な支援制度を整え、浪江からエネルギー変革に挑む企業を全方位でバックアップしています。

米国との連携協定を締結 グローバルな人材育成を推進

―人材育成にも力を入れていますね。


藤田 約5年前から、小学5、6年生を対象に「なみえ水素教室」を毎年開催しています。座学3割、体験7割の構成で、水素の特性や純水素燃料電池車などの水素モビリティの紹介、水素のまちづくりについて教えています。子どもたちの声を受け、2月には町内の小学校に独自制作の子ども向け水素パンフレットを配布しました。さらに、米国カリフォルニア州のランカスター市、同ハワイ州ハワイ郡と水素連携協定(パシフィック・ハイドロジェン・アライアンス)を締結しています。年1回の相互訪問を通じてそれぞれの取り組みを共有するほか、それをきっかけに高校生の相互留学も始まりました。水素を軸に、国内のみならずグローバルな次世代の人材育成が着実に進んでいるところです。


―今後どのような町を目指しますか。


藤田 かつてのにぎわいを取り戻すべく、駅周辺を「まちの顔」と位置付け、隈研吾氏設計の「なみえルーフ」を象徴とする駅前再開発が進行中です。FH2R製造の水素を電気エネルギーに変えてエリア内に供給し、「なみえ水素タウン構想」を加速させます。町のあらゆる分野を水素でつなぎ、水素社会とゼロカーボンシティの実現を目指していきます。さらに、2030年度までに「福島国際研究教育機構(F-REI)」が本格的に稼働します。世界中から研究者が集い、廃炉、ロボット、農林水産業、放射線学などの最先端の研究成果を世界へ発信していく国際研究学園都市へと進化を遂げていく予定です。

ふじた・ともひろ 2005年入庁。震災時は上下水道課で、避難指示解除前の町内で上下水道復旧に従事。現在は再エネ、水素事業推進を担当。

【特集2水素エネルギー】既存インフラを活用する東邦ガスのターコイズ技術

カーボンニュートラル(CN)に向けて大手都市ガス各社が中心となって取り組むメタネーション。既存のインフラ利用がポイントだが、同様の手法はメタネーションだけではない。


東邦ガスが提案した、ターコイズ水素技術の商用化に向けた実証が環境省の「地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業」に採択された。今後、三井物産やカナダのエコナパワーと連携して取り組んでいく。


「都市ガスの主成分であるメタンを、1000℃以上の熱によって熱分解して生成されたターコイズ水素と炭素を同時に取り出す技術。昇温のためのCO2は排出されるが、メタン熱分解の反応では排出されない。既存の都市ガス導管を利用して、CO2排出量を大きく低減した水素を製造できることから、リーズナブルなCNへのアプローチとして期待されている」。イノベーション推進本部技術研究所カーボンニュートラル総括の仲野敦士氏はこう説明する。


また、水素とともに反応で出てくる副産物の炭素はCO2ではなく、「カーボンブラック(CB)」と呼ばれる炭素の固体物。自動車タイヤの補強材、導電性材料、ゴム製品、バッテリー部材などに利用されている一般商品で、年間需要は60万t程度だという。

純度の高いカーボンブラック


一般的なターコイズ水素には触媒を用いるが、炭素に触媒が付着し、炭素の純度が低いという課題があった。今回の東邦ガス方式では、触媒を活用しないことがポイントだ。エコナパワーの触媒不要の装置を活用し、装置内で適切な温度や反応時間を制御しながらメタンを熱分解させることで商品価値の高い高純度なCBを製造する。


一方、水素は工業用用途での利用を想定しており、ターゲットは工業炉バーナー向けだという。「バーナーの燃料となる水素は高い純度を必ずしも必要としない。そうした燃料供給にこの方式は適している」(仲野氏)


仮にCB製造会社にガス導管がつながっていれば、オンサイトでCBや水素を製造・利用できる一石二鳥の手法である。裏を返せば、事業者にとって、水素やCBを供給・販売することで採算性の取りやすい事業モデルを構築できる。

電化不可の産業が集積 潜在ニーズに知見を生かす

東邦ガスの供給エリアの東海地区はトヨタ自動車を中心としたものづくり産業が集積する。金属強化の浸炭工程や塗装の乾燥工程などさまざまな製造プロセスで高い温度の熱を必要とする工場が数多く存在する。これらは、どうしても電化では対応できない。東邦ガスが技術的な知見を備え、既に多くの販売実績を重ねている水素バーナーについても潜在的なニーズが存在する。


こうした分野のCN化に対して、今回のターコイズ水素がどのように貢献していくのか注目される。実証は東邦ガスの技術研究所(愛知県東海市)で行われ、反応設備は2027年1月頃から稼働する予定だ。

【特集2まとめ】水素国産化へ産官学の挑戦 地域実装と最新技術の現在地

水素サプライチェーンの確立に向け産官学が連携した取り組みが加速している。

東北の福島県では水素や再エネの産業を集積する動きも誕生。

地産地消を実現することで世界に「Fukushima」を発信する。

本格利用を視野に入れ、液化水素調達用の船舶や受け入れ基地整備も進む。

「作る」「運ぶ」「使う」ー。

どれも欠かせないパーツがかみ合うように壮大なビジョンに向けて各社が奔走する。

【アウトライン】福島県で広がる再エネ水素の先導モデル

【インタビュー】福島県が新ビジネスの創出を後押し 企業連携促す支援機関に活力

【インタビュー】最先端の技術実証の結節点 浪江町が世界を視野に研究機関を整備

【レポート】岩谷産業が極める液体水素と冷熱利用技術

【レポート】世界初の商用化供給網の確立に挑む川崎重工

【レポート】既存インフラを活用する東邦ガスのターコイズ技術

【レポート】日揮が福島再エネ使ったグリーンアンモニア製造を実証

【トピックス】三菱化工機の水蒸気改質技術が大手鉄鋼で活躍

【トピックス】充填時間を大幅短縮 タツノ製ディスペンサーが韓国で高評価

【トピックス】川重冷熱が水素式吸収冷温水機で都市ガス並み低NOx化を実現

【トピックス】東京都が水素社会を身近に感じるイベントを開催

【特集2水素エネルギー】三菱化工機の水蒸気改質技術が大手鉄鋼で活躍

経営ビジョンの具現化に向けてカーボンニュートラル対策を急ぐ三菱化工機。さまざまな規模や種類の商材を手掛けてユーザーを支援する。

三菱化工機は2021年に「三菱化工機グループ2050経営ビジョン」を策定し、持続可能な発展に向けて挑戦する姿勢を打ち出した。CO2・気候変動、資源循環、水・食料、自然災害、労働力不足―の五つの社会課題を設定。それに対し、既存事業から「持続可能な循環型社会推進事業」「水素を核としたクリーンエネルギー事業」「デジタルを活用した省力・省エネ事業」「水・食・自然災害等の課題解決に向けた次世代技術開発事業」―の4事業を戦略的事業領域と定めて課題解決に着手した。今年度からはこれら全ての領域を包含する新たなセグメント「GX(グリーントランスフォーメーション)事業」を設けている。


企画管理統括本部の石川尚宏副本部長は「中核が水素を中心としたクリーンエネルギー事業で、当社の成長をけん引するクイック事業に位置付けている」と話す。同社にとって水素は60年以上の実績を持つ主力事業。化石資源から高純度の水素を取り出す水蒸気改質の技術を磨き、水素ステーション向けや産業向けで実績を重ね、昨今では鉄鋼分野での利用を支えている。

鉄鋼の還元剤用途に導入 CO2回収技術の実証を完了

鉄鋼分野への導入先の一つが、千葉県のJFEスチールの高炉だ。製造した水素を使って高炉から出る排ガス中のCO2と反応させるメタネーションを行い、反応後のメタンは高炉の還元剤に使われる。同じく千葉県の日本製鉄には水素還元製鉄用途として導入する予定だ。CO2を大量排出する分野だけに、同社の技術がどう貢献するかが注目される。


課題もある。「当社製は化石燃料由来のグレー水素。そのため、CO2回収の技術開発も重要だ」(石川副本部長)。現在、PSA(圧力スイング吸着)によるCO2回収の開発を急いでおり、既に実証完了の段階だという。


小規模の分散型利用の開発にも注力する。昨年は那須鉄工などと共同で水素吸蔵合金タンクと燃料電池を一体化した「HyDel(ハイデル)」を開発。現在、川崎市内の公共施設で実証運転を行っており、26年度の販売を目指す。石川副本部長は「地産地消に資する小型機も低炭素化に重要だ。導入への制度的な支援を充実していただきたい」と言う。同社はさまざまな種類や規模の開発を手掛け、ユーザーの脱炭素対策を支えていく。

川崎市内に導入した「HyDel」

【特集2水素エネルギー】世界初の商用化供給網の確立に挑む川崎重工

液化水素の実証、さらにその先の社会実装を視野に入れたインフラ整備が本格化している。2021年に川崎重工業が立ち上げた日本水素エネルギー(JSE)が液化水素基地「川崎LH2ターミナル」の建設と液化水素運搬船の建造を始めた。30年度までに運搬船から基地への液化水素の受け渡しや海上輸送に関する商用化実証を行う。これらの基地の建設や運搬船建造を担う中核が川崎重工だ。

坂出工場で建造する水素運搬船の完成予想図

神戸の実証経験を生かす 世界最大級のタンクを建設

基地の建設地は川崎市臨海部にある扇島地区。JFEホールディングスが川崎市と協働して土地利用の検討を進めているエリアを活用する。昨年11月に起工式が行われ、今は建設工事の真っただ中だ。主要設備の一つである液化水素タンクの貯蔵容量は5万㎥。現在、世界最大は、NASAが運用する液化水素タンクの約4700㎥なので、まさに世界最大クラスであることがうかがえる。


川崎重工はこれまで、液化水素に関する技術を着々と積み上げてきた。20年には神戸で世界初の液化水素荷役実証ターミナル「Hy touch神戸」が完成。2500㎥の液化水素タンクなどを用いて、今回の実証の足掛かりとなるパイロット実証を成功させた。また、1980年代にさかのぼると、種子島宇宙センターに液化水素タンクを納入し、約40年にわたって運用・保守を行ってきた実績もある。


一方、LNG貯蔵タンクの施工経験も豊富だ。液化水素はマイナス253℃とLNGよりもさらに低温な状態にある。そうした中、水素戦略本部PR戦略室の藤田雅和室長は「長年にわたる液化水素事業に携わった知見に加え、タンクの断熱構造などではLNGで培った技術を応用しながら建設を進めている」と自信を見せる。今回のタンクには平底円筒型を採用。同社の播磨工場(兵庫県)で部材を加工した後、川崎の基地に輸送し、タンクを組み立てる。基地の完成は29年頃を予定する。

液化水素基地の完成予想図


運搬船の建造に向けた準備も進んでいる。JSEとの建造契約を締結し、これから同社の坂出工場(香川県)で建造を行うところだ。運搬船に搭載する液化水素用貨物タンクは、3基合計で世界最大となる4万㎥。藤田室長は「水素の市場が立ち上がる初期は水素の需要がそれほど多くない過渡期と想定している。その頃の市場ニーズを考慮し、今回のタンク容量を決定した」と説明する。


同社は22年に1250㎥の運搬船「すいそ ふろんてぃあ」を建造し、日豪政府や他の民間企業とともに日豪間の海外輸送・荷役を、前述のパイロット実証とともに完遂させた。その時のデータなどを元にスケールアップを図り、4万㎥級を建造する計画だ。ちなみに、将来の水素需要の高まりを見据え、既に16万㎥級の基本設計も完了しているという。


ポイント技術は、液化水素の極低温状態を保ちながら、大容量を運搬すること。タンクの断熱・気密性の向上などは「当社の技術の見せどころ」(藤田室長)になる。また、油を燃料とする従来型の発電エンジンに加え、水素および油を燃料とする発電用二元燃料エンジンを搭載。貨物タンクから発生するボイルオフガス(BOG)も有効活用する。

30年商用化の実現を重視 重要な需要喚起に向けて

調達は、当初、豪州からの輸送を想定していたが、同国における許認可取得と設備建設に必要な時間を考慮し、JSEは国内調達に切り替えた。


一方、将来に向けた長期スパンでの調達先として、川崎重工は引き続き豪州を候補に入れつつ、中東やカナダといった地域との協議を始めている。


想定する需要先は、30年代初頭から半ばにかけて、まずはモビリティや発電利用だという。川崎臨海部を皮切りに、都心部にも需要拡大を図る計画だ。


並行して、同社は将来的な海外での需要創出も視野に入れる。昨年9月には、トヨタ自動車、関西電力とともに、ダイムラートラック社やハンブルク自由港倉庫建築組合といった企業・団体と日独連携水素サプライチェーン構築に向けた覚書を締結した。港湾や物流、モビリティ、発電などの各産業セクターで国際的な水素輸送の実用化と事業化を目指す方針だ。


さらに、同社の強みとして、水素混焼可能なガスタービン(GT)やガスエンジンの開発製造が挙げられる。これまで天然ガスのGTやガスエンジンを開発・製造してきた。この開発技術を活用し、現状のエネルギートランジション期では、燃焼器を交換すれば天然ガスから水素への転換や混焼が可能になるGTを開発し、販売している。


一足飛びで水素の需要は生まれないが、将来の水素社会に向けて「水素Ready」の設備ラインナップを拡充している。「基地の起工式を契機に、国内外ともに商用化への空気感が大きく変わった」。藤田室長はこう話す。本実証を皮切りに、商用化に向けた動きが加速していくことが期待される。

※1 グリーンイノベーション基金事業の「大規模水素サプライチェーンの構築」における水素輸送技術等の大型化・高効率化技術開発・実証「液化水素サプライチェーンの商用化実証」(NEDO助成事業)
※2 川崎重工を含む「技術研究組合 CO2フリー水素サプライチェーン推進機構(HySTRA)」のNEDO助成事業
※3 ※2と同様の実証

【特集2水素エネルギー】岩谷産業が極める液体水素と冷熱利用技術

水素利用の本格展開に向け、岩谷産業が技術開発に積極的だ。兵庫県尼崎市の拠点で未知なる領域の技術を磨き続けている。

国内唯一の液化水素サプライヤーである岩谷産業の研究開発拠点が兵庫県尼崎市にある。「岩谷水素技術研究所」と「中央研究所」の二つの組織から構成されている岩谷グループ唯一の研究施設だ。

兵庫県尼崎市にある研究所の外観


以前は1987年に設立した「滋賀技術センター」(滋賀県守山市)に研究開発の機能を集約していた。当時は主にガス機器やガス設備、ガス燃焼などのデモンストレーションや実証試験の機能を担っていた。2013年には創業80周年の記念事業の一環として機能を拡張するとともに、各地からのアクセスが優れる兵庫県尼崎市へと移転した。


しばらくの間、中央研究所という名称で運営していたが、脱炭素分野へ注力するために、21年に「水素領域」を切り離して今日の形へと改組した。現在、約60人のスタッフが技術開発に励み、その3分の1が水素分野を担当している。

液体にしてコストを低減 BOG対策への制御を研究

「技術開発の研究テーマは、弊社の営業部門と頻繁に打ち合わせをして選定し、現場のニーズをつかんでいる営業部門からのリクエストを重視している。実際、お客さまが見学に来ることが多く、研究所としても安心して当社のガスを活用していただきたいと思っている」。研究所長の小池国彦・常務執行役員はこう話す。こうした取り組みから、単なる技術開発の場ではなく、商用化と社会実装を意識した戦略拠点であることがうかがえる。


そうした中でも、水素技術研究所では現在、注力している二つの技術領域がある。一点目は車両などへの液化水素の充填技術や冷熱回収技術だ。


水素利用のコスト低減には、液化水素の利用が鍵となる。水素を効率的に輸送・貯蔵するには、気体の状態よりも液体の状態の方がはるかに優れていることは自明の理。ただ、液体の水素はマイナス253℃と温度が低すぎるが故に、熱の侵入により発生するボイルオフガス(BOG)の課題を抱える。温度の低い液体をいかに無駄なく充填できるか、圧力制御や流量制御など、最適な技術ポイントの見極めに取り組む。「施設内にはマイナス253℃の液化水素を用いてさまざまな実証試験を行える設備を整備している。実際の環境を整備している研究施設は国内でも珍しい」(小池所長)

液化水素の実験室


同時にこうした取り組みは、供給側だけの課題ではない。利用側にも、既存設備を液化水素仕様にカスタマイズする必要がある。昨年5月には、三菱ふそうトラック・バス社と充填技術を共同開発することを発表するなど、供給側と利用側との連携した取り組みが加速している。


二点目が冷熱利用だ。一点目に挙げた技術領域にも関連するが、例えば、液化水素をオンサイトの燃料電池向けに利用するケースがある。液化水素を気化させた水素ガスを燃料電池へ供給するが、この際に発生する冷熱のほとんどが、現状では未利用のままだという。こうして捨てられている熱の有効活用に向け、冷熱回収のための熱交換器開発などを進めている。回収した冷熱は、建築物への空調や冷凍機器などへの利用を想定している。

施設には純水素型燃料電池を設置している


従来は産業ガスとしての水素利用が多かったが、昨今は燃料電池やボイラーなどのエネルギーや熱源としての水素ニーズも増えているそうだ。小池所長は「特にものづくりの工程で低炭素化・脱炭素化が求められているグローバル企業の工場ではその傾向が強い。単なる水素への燃料転換だけではなく、冷熱をカスケード的に利用することで、ものづくりの価値をさらに高めるといった支援につながればと思っている」と言う。

導管への混合で低炭素化 NEDO実証で検証開始へ

その他、福島県内のガス供給事業者と一緒にLPガスの低炭素化に向けた技術検証も進行中だ。既存のガスインフラやガス機器をそのまま活用することを前提に、安全面などの法規制を経済産業省と確認し、どれくらいの量の水素を混合して運用を継続できるかを検証している。「現状では10%まで混合できることを確認している」(小池所長)という。この検証は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の実証事業として、間もなくスタートする予定である。


このような既存インフラに水素を混ぜる方式も確立されれば、多様なアプローチによる業界の低炭素・脱炭素化が実現するだけに、実証の行方は注目される。「これまで水素産業をリードし続けてきたと自負しているが、今後も継続的に技術を磨くためには何といっても優秀な人材が不可欠。大阪大学に寄付講座を設けるなどして、次代を担う人材育成のための布石を打っている。水素分野は未知の技術領域が数多くある。今後も若い世代とともにしっかりと技術開発をと続けていきたい」と小池所長は意気込みを見せている。

【特集2水素エネルギー】福島県で広がる再エネ水素の先導モデル

再生可能エネルギーを利用した水素の社会実装に向けて取り組む福島県。
産官学が連携を強め、地産地消モデルの構築を目指す。

福島県は東日本大震災以降、「原子力に依存しない持続可能な社会」を復興理念に掲げ、「福島県再生可能エネルギー推進ビジョン2021」で、40年頃までに県内エネルギー需要の100%以上を再エネで賄うという目標を掲げている。この達成を確実にするため、30年度の中間目標を70%に引き上げ、すでに24年度の実績値で59・7%まで到達した。


政府は、産業復興とエネルギー転換の両立を目指す福島県の取り組みを支援してきた。その中核を成すのが、14年に策定した国家的プロジェクト「福島イノベーション・コースト構想」だ。浜通り地域の産業再生を柱に、廃炉、ロボット、エネルギー、農林水産などの新産業基盤の構築を推進してきた。16年には「福島新エネ社会構想」を策定し、再エネや水素活用の先導的モデルを県全域に展開。21年の改定を経て、現在は「福島新エネ社会構想加速化プラン3・0」へと更新されている。


直近の進捗としては、陸上風力で国内最大級となる阿武隈風力発電所の運開や、Jヴィレッジなどの県内3カ所にペロブスカイト太陽電池を導入。その他、国内初となる24時間365日営業の水素ステーションの開設や燃料電池商用車導入に関する重点地域に福島県を選定するなど、エネルギー転換に向けた具体策が着実に結実しつつある。

生産実証の期間を2年延期 自立化に向け最終調整

一連の復興プロジェクトの中でも象徴的なエネルギー施設が、20年3月に浪江町に設立された「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の主導の下、東芝エネルギーシステムズ、東北電力、岩谷産業と連携し、2万kWの太陽光と1万kWの水素製造装置を用いた世界最大級の再エネ水素生産実証が進行中だ。1日当たりの製造量は約150世帯が1カ月に消費する電力量に相当し、約560台の燃料電池車を充電できる。

福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)の外観      提供:NEDO


FH2Rで製造された水素はエネルギー、輸送、製造など多岐にわたる分野で実証に活用されている。住友ゴム工業はタイヤ製造の加硫工程でタイヤ成形に必要な熱を得るためのボイラー燃料としてFH2R産の水素を活用。国内初となるタイヤ製造時のカーボンニュートラル化を実現した。実証後、白河工場内の太陽光パネルで発電した電力で水素を製造し、それを直接利用するエネルギーの地産地消を目指している。大林組は、FH2R産水素を利用する業務用純水素燃料電池の普及拡大を図るため、カードル巡回型による低コストな水素サプライチェーンを構築中だ。一度に大量の水素を運搬できるため、運搬効率の向上と物流コストの低下が期待されている。


今年1月に始まった日揮ホールディングスによるグリーンアンモニア製造もFH2Rから供給される水素を活用。脱炭素燃料としてのアンモニア実用化に向けた第一歩を踏み出したところだ。


一方でNEDOは今年1月、FH2Rでの水素製造の実証期間を2年延長する方針を明らかにした。30年からの本格商用化に向け、低コストな水素製造の継続性を向上させるため、また電力系統の需給バランス調整能力を強化するための新たな技術開発が追加になったことが理由だと考えられる。27年度までを「最終調整期間」と位置付け、自立的なビジネスモデルを確立していくとみられる。

FH2Rの水電解装置                    提供:旭化成

窒素酸化物の抑制に成功 工業炉などへの応用を研究

福島県において水素実装社会を目指した技術開発を主導しているのが、産業技術総合研究所の「福島再生可能エネルギー研究所(FREA)」だ。14年4月の設立当初から再エネの導入拡大が至上命題とされてきた。太陽光や風力などの変動性再エネを大量・長期に貯蔵するためには水素が不可欠との判断から、水素の研究開発を大きな柱に据えている。古谷博秀所長は「今福島で水素が成功しなければ日本中でどこでも成功しない」として、FREAがエネルギー転換の拠点だと捉える。

福島県内の水素実用化に向けた取り組み


FREAでは、早くから水素の貯蔵・輸送の課題を解決する手段としてアンモニアに注目し、15年には、世界で初めて小型ガスタービンでのアンモニア専焼発電に成功。現在の日本の火力発電におけるアンモニア戦略に大きな影響を与えた。アンモニア燃焼の最大の懸念点とされるNOX(窒素酸化物)の発生に関しては、東北大学との共同研究でNOX抑制技術を確立。現在ではガスタービンのみならず、工業炉用バーナーなどへの応用研究も進んでいる。


貯蔵技術に関しては、清水建設と共同で水素吸蔵合金を用いた低圧(10気圧以下)の安全な水素貯蔵・供給システム「Hydro Q-BiC」を開発。東京湾岸の地域冷暖房への導入など、実用化を果たした。

浪江水素ステーション


現在注力しているのが国内企業との産業連携だ。三菱重工業とは500kW級の大型水素エンジンの試験を行い、排熱利用を伴うコージェネレーションを追求。一方、日立製作所とは、再エネ由来水素をMCH(メチルシクロヘキサン)に貯蔵し、エンジンで利用するシステムや将来の小型車への適用を研究する。その他、豊田中央研究所らと小型アンモニア製造装置の開発などが進捗している。

マッチングを担う専門機関 事業化への企業集団を組織

再エネ先駆けの地を目指す福島県で特筆すべき機関が、17年設立の「エネルギー・エージェンシーふくしま(EAF)」だ。「専門コーディネーターが企業連携や新事業創出を伴走支援する公的機関」と、県商工労働部次世代産業課の植田隆太課長は説明する。


EAFは企業の情報提供やマッチング、販路開拓までを伴走型でサポートし、県内での産業集積と新たなビジネスモデルの創出を推進している。


EAFが支援する事業化ワーキンググループ(WG)「地産地消型の小さな水素社会構築WG」は、大熊町のベンチャー企業・OKUMA TECHが中心となり、昨年3月に始動した。日立製作所を含む14企業、3自治体(大熊町、浪江町、長崎県)、2団体が参画。初年度は、技術、法制度、需給管理、採算性などを網羅的に議論し、地産地消型モデルの要件を定義。今後、事業化を実現し、標準化モデルを構築して全国展開を目指す。


また、OKUMA TECHは今年1月、同事業化WGに属する島根電工(島根県松江市)と水素事業の社会実装に向けたパートナーシップを締結。同社の技術実証の知見と、島根電工の施工・保守力を融合し、地域に根ざした水素利活用モデルを構築する。中国地方を皮切りに広域展開を図る構えだ。


さらに同月、経済産業省のスタートアップ支援プログラム「J-Startup東北」 に初選定された。水素関連企業、また大熊町発の企業として初になる。来年3月には、町内の約7000㎡の敷地に水素工場を新設。独自技術による粉体水素(水素化ホウ素ナトリウム)の研究開発と事業化を軸に、水素燃料電池などの量産化や地元雇用の創出などで地域の脱炭素化と地域活性化をけん引していく方針だ。

J-Startup東北に選定されたOKUMA TECH


水素化ホウ素ナトリウムは、液体水素の4倍、高圧水素の6倍という高いエネルギー密度を持ち、常温・常圧で安全に貯蔵・輸送できる。特殊なタンクが不要なため、輸送のしやすさが期待されている。建機や農機向けにコンビニなどでのカートリッジ供給を想定しており、使用後に残るホウ砂と水を回収して再利用する資源循環型の仕組みづくりを目指す。大熊町内で記者会見を行った李顕一代表は「世界進出も視野に入れた事業ロードマップを描いている」と意気込みを見せた。


「チームやぶき」もEAFが支援する事業化WGだ。矢吹町の8社で構成され、土木、板金、運送、電気工事などにおいて各社が培った独自の技術とノウハウを統合。再エネや水素分野に取り組む企業の多様なニーズに応え、課題解決に貢献している。

福島大学に専門コース新設 インターンシップを検討

次代を担う人材育成も進んでいる。浪江町では、小学5、6年生対象に「なみえ水素教室」を毎年開催。子どもたちからの要望で水素パンフレットを制作し配布した。また水素連携協定を結んでいる米国の都市とは高校生の相互留学も行っている。

浪江町の「なみえ水素教室」


一方、福島大学では24年4月に「水素エネルギー総合研究所」を設置。主に未利用のバイオマスから水素と炭化物を製造し、その特性評価により最適なシステム構成の方式や運転条件などを研究している。エネルギーの製造から利用という一連の循環を強く意識した研究が特徴だ。宗像鉄雄所長は「水素の低コスト化、安定的な製造・供給を目指して採算性の高いビジネスモデルを創出して実用化を図ること、そして他地域へ横展開し、地元に貢献していきたい」と話す。同大では学士課程、修士課程に水素やエネルギーを専門的に学ぶコースを新設。28年度には、学士から修士まで一貫して水素を中心とした教育を行う「ふくしま水素イノベーション人材育成プログラム」を構築する。現在、講義の新設や実践型のインターンシップの実施が検討されているところだ。


再エネ先駆けの地を目指し、実証から実装へと新たな段階へ移行しつつある福島県。地産地消の社会システムを構築し、次世代へと受け継ぐことは、復興の先の真の自立へとつながる成長を遂げる力となるだろう。

インフォメーション

三菱重工/三菱電機

次世代ガスタービン制御システムを共同開発

三菱重工業と三菱電機は昨年12月24日、火力発電プラント向け次世代ガスタービン制御システムの機能試験を共同開発したと発表した。同システムは、三菱重工の制御技術と三菱電機の高速データ処理技術を組み合わせ、発電用大型ガスタービンの運転を最適制御して安定的かつ効率的な発電を実現するもの。再生可能エネルギー発電量変動を補完する迅速な負荷調整や、天然ガスや水素など多様化する燃料に対応した高度な制御を行う。2026年度の新設案件向けに市場投入を目指し、実機を模擬したシステム検証試験などを行い、共同開発・検証をさらに進めていく計画だ。

IHI

CO2と水素を原料としたSAFの合成に成功

IHIは1月9日、CO2と水素を原料としたSAFの試験装置での合成に成功したと発表した。合成したSAFは、世界的航空燃料評価機関であるワシントン州立大学にて、航空機用代替ジェット燃料として良好な特性を有していると評価された。特に炭化水素組成と粘性に代表される低温流動特性が良好と評され、IHIの合成SAFが、飛行中の寒冷環境での運用に必要な基準を十分に満たし、燃料の密度や燃費特性でも優れていることが示された。今後、CO2と水素を炭化水素に直接変換する新合成法の商用化に向け、国際的技術基準であるASTM認証取得への重要な成果となった。

東急不動産/清水建設

建設現場で使用済み太陽光パネルを再利用

東急不動産と清水建設は1月9日、東急不動産の発電所で使用済みとなった太陽光パネルを清水建設の建設現場2カ所で再利用すると発表した。発電した電気は建設現場敷地内の事務所内のインフォメーションモニターや照明の電源として活用する。また、モニター用電源として設置した蓄電池にも充電する。日本国内では固定価格買い取り(FIT)制度によって、太陽光発電の導入が急速に進んだ。しかし2030年代後半以降、FIT認定を受けた発電所の運営が終了し、太陽光パネルの大量廃棄が社会問題になると危惧されている。両社は使用済みパネルの再利用によって、廃棄物を抑制することを目指す。

JFEエンジニアリング

風力発電のブレード向け異常検知技術を開発

JFEエンジニアリングは1月8日、東京科学大学と共同で音と動画を組み合わせた風力発電ブレードの異常検知技術を開発したと発表した。JFEが開発コンセプトの立案など、東京科学大学が理論の構築・データ検証を担当した。ブレードへのセンサー設置は不要で、発電設備を停止せずに異常を検知できる。同技術によりさらなる運用の安全性向上が期待できる。

豊田通商/ユーラスエナジーHD

風力発電所直結データセンター事業を開始

豊田通商とグループ会社のユーラスエナジーホールディングスは1月14日、ユーラス所有の樺岡ウインドファーム(北海道稚内市)の隣接地にデータセンター(DC)を建設し発電した電気を直接供給すると発表した。受電容量3000kW規模のDCを整備し、自営送電線を通じて風力発電の電気を送る。今年4月に着工し、2027年中の稼働を目指している。

太陽石油

廃プラ由来の熱分解油の受け入れ開始

太陽石油は1月13日、廃プラスチック由来の熱分解油の受け入れを開始した。プラ加工会社CFP(広島県福山市)からISCC PLUS 認証付き廃プラ分解油を四国事業所(愛媛県今治市)で受け入れて、高度な不純物除去が可能な製油所設備で処理して再利用する。太陽石油ではこうした廃プラ活用の道筋を広げ、資源循環促進に取り組んでいく構えだ。

【特集2家庭用エネルギー】東京都が蓄電池補助政策でDR実証に注力

東京都が家庭用蓄電池を使ったDR実証を展開中だ。一般消費者の参加率向上と事業者の登録増加に注力する。

インタビュー/上原 麻衣子(東京都環境局気候変動対策部地域エネルギー課長)

―東京都では家庭用蓄電池購入に対し、1kW時当たり12万円の補助、DRに参加する場合は10万円の補助が加算されます。


上原 東京都は「ゼロエミッション東京」において、2050年CO2実質ゼロ、30年カーボンハーフの実現に向け、家庭部門での再生可能エネルギー導入を推進しています。住宅用太陽光の導入促進策によって電気を「つくる」ことをサポートすると同時に、変動する電源を利用する上で、系統の安定化、調整力の確保を同時に進める必要があります。そこで、蓄電池やエネファーム、エコキュートといった分散型エネルギーリソースの普及とDR(デマンドレスポンス)促進で「ためる」「使う」対策を後押しして、両輪で取り組んでいます。
 DR事業では、登録アグリゲーター(AG)を募り、システム構築などをサポートしています。実証では、都登録AGの公表を行い、蓄電池などの分散型エネルギーリソースを導入した一般消費者と連携してDR実証を進めて、アグリゲーションビジネスの実装を促進しています。DR実証実施後には都登録AGが一般消費者にアンケートを実施するほか、電力データ、稼働状況データ、アンケート結果の分析などを行い、報告してもらいます。

低い一般家庭の参加率 遠隔制御に不安感じる人も

―DR実証事業を進める上での課題はありますか。


上原 一般消費者にDRという言葉も内容もまだ浸透していません。認知度向上と理解促進が必要です。蓄電池を新規導入した世帯のうち、DRへの参加はわずか15%程度。遠隔制御に不安を感じる方もいるようです。一般消費者に対し、DRに参加することで「太陽光の電気を無駄なく利用できる」「電気代の節約になる」といったメリットを簡潔にアピールできたらと考えています。


―今後の展望についてお聞かせください。


上原 将来的に、低圧部門の分散型エネルギーリソースを束ねて調整することが社会的に当たり前となる姿を目指し、一般消費者のDR参加拡大を図っていくと同時に、都登録AGに参加する事業者を増やすことを通じて市場形成を促します。来年度は需給調整市場で低圧リソースの導入が開始となるなど、蓄電池やDRを巡る事業環境は1~2年で大きく変化することが考えられます。その変化に対応しながら、継続的に普及を後押ししていきたいです。

うえはら・まいこ 2002年3月上智大学法学部卒、同年入庁。広報担当課長、率先行動担当課長を経て25年から現職。

【特集2家庭用エネルギー】エネゲートが再エネ余剰活用でEV向け割安料金

エネゲートが太陽光の余剰電力でEV充電を行う実証を行った。余剰発生時間の充電料金を割り引くことで、大きな成果を上げている。

関西電力グループのエネゲートはこのほど、太陽光の発電量が需要を上回った際に発生する余剰電力をEV充電に活用する実証を行った。期間は昨年10月11日~11月3日の土・日・祝日の全10日間。同社が運営するEV充電用認証・課金システム「エコQ電」に対応する約3000台の急速充電器を対象に、全国10エリアで実施した。


最大の特徴は、余剰電力が発生する時間帯にEV充電するようにユーザーを促す料金の仕組みにある。実証に参加するには、まずエコQ電アプリに登録。すると、休前日(金曜)の午後3時に、充電割引率がスマートフォンに通知される。割引率は、天気予報や電力各社が発表する「でんき予報」などを参考にエリアごとに設定され、各日午前8時~午後4時の時間帯に20~50%の割引が適用される。

エコQ電対応の急速充電器


実証を行ったところ、前年(24年)との比較で充電実績に変化があった。終日の充電回数は前年比で52%増加。割引時間帯では62%増となった。一方、充電電力量は終日で68%増、割引時間帯では84%増に伸びた。また、実証期間中に全エリアで割引のあった日の充電回数は、割引のなかった日に比べて95%増を記録。割引の有無が大きく影響していることが証明された。実際の充電金額にも効果が見られた。割引が適用された約2500件の全国平均は483円で、そのうち約1700件(69%)が500円以下の金額に収まった。

また、充電単価を見ると、約1400件(57%)のユーザーが1kW時当たり40円以下で充電を行っていた。貝原一弘理事によると、「30分の急速充電を行うと、概ね千数百円かかる。また、家庭の料金単価と比較すると、充電単価は同程度、もしくは下回る水準で充電できたことになる」という。EVユーザーにとっては、充電料金の負担軽減につながった。

一日当たりの充電電力量

地域特性を踏まえて予測 風力と原子力の稼働を考慮

同社は、昨年のゴールデンウィーク期間中に同様の実証を実施しており、今回が2回目となる。そのため、前回の結果から、地域特性を踏まえて余剰電力の予測を行った。例えば、天気予報から北海道・東北では「余剰が出ない」と予測した日に、余剰電力が発生した。その要因を探ったところ、同エリアでは風力発電の比率が高く、風力も余剰電力発生の有無に影響するとの仮説が立てられた。


原子力発電所の稼働状況にも左右される。原子力が稼働中の場合、ベース電力が確保できるために、余剰電力が発生しやすい。反対に、定期点検で稼働が停止すると、供給力が少なくなり、余剰電力が発生しにくくなる。そこで、前回、今回ともに全国の原子力の再稼働、定期点検のタイミングを確認し、予測精度の向上を図ってきた。


こうした全国規模での実証はこれまで例がないそうだ。実証で得られたデータからは、地域ごとの傾向なども詳細に分かる。そのため、国内外の自動車業界や新電力などから、各種データやエコQ電による決済システムに対する問い合わせが相次いだ。同社では、こうした企業へのデータ提供やシステムの貸与を行っており、「実証における割引額は当社が負担することとしていたが、結果的に今期は黒字になる見込みだ」(貝原理事)という。


今後、課題となるのがEVへの余剰電力の利用率をさらに上げていくことだ。今回の実証において、全エリアで割引を行った11月2日、太陽光出力制御量が276万kWだったのに対し、午前8時~午後4時の充電電力は約8000kW時にとどまった。また、約60万人とされているEV・PHVのユーザーに対して、今回の実証期間中に充電を行ったEVユーザーは約3800人。参加率はまだ低い状況だ。

60万のポテンシャル活用へ 余剰電力の吸収率に期待

だが、「60万」のポテンシャルは大きい。貝原理事は「参加率を上げていくことで、相当量の余剰電力を吸収できる」と期待を込める。実証後、充電を行ったユーザーへのアンケートでも、99%が「今後もキャンペーンがあれば参加したい」と回答。継続を望む声や「エコQ電対応の充電器を増やしてほしい」といった要望が寄せられた。


「現時点でやめてしまうのではなく、ユーザーに取り組みを広く周知し、参加率が増えるタイミングまで事業を継続していきたい」。貝原理事はこう意気込む。EV黎明期から充電ビジネスを担ってきた同社の今後の動きが注目される。

実証について説明する貝原理事