【特集2 省エネ最前線】大阪ガスがエネファーム拡販 経済性と環境性を追求

2009年の販売開始以来、大阪ガスが展開する家庭用燃料電池「エネファーム」の累計販売台数は、25年11月時点で23万台を突破した。年間約2万台のペースで着実に積み上げており、全国的な普及に大きく貢献している。今後はさらなる拡大を目指す方針だ。


拡販計画の主軸となるのがアイシン製エネファーム「typeS(タイプエス)」。世界最高の発電効率、太陽光発電と連携した売電、停電時の自立運転機能や省スペース設計を実現したモデルだ。

世界最高の発電効率となるアイシン製の「typeS」


新築市場では来年4月の新ZEH基準「GX ZEH」制度の施行を切り口に、同製品のコンパクトかつ高効率な省エネ性を武器に提案を強化していく。


既築市場ではリプレースの促進を軸に、販売から10年以上が経過したエネファームやエコウィルからの交換を推し進める。加えて、エネファームの新規設置(給湯器の故障・交換時における置き換えや、買い替え後まだ年数が浅い場合には後付け)など、ユーザーのさまざまなニーズに応じた提案営業を展開していく。

最大出力運転で余剰を売電 政府の補助制度も後押し

同社は今年3月中旬からテレビCMを開始し、電力の購入量を年間約75%削減できることをアピールしている。また、同社のtypeSのカタログに記載されている想定条件下での試算では、①専用ガス料金プランの適用、②発電による購入電力量の減少、③余剰電力の売電―の3点により、年間約11万円の光熱費削減が可能だという。


さらに、エネファームと太陽光発電を併設した場合、「ダブル発電」と「ダブル売電」のいずれかのサービスを選択できる。ダブル発電は、エネファームが電力使用に合わせて運転し、太陽光の余剰分を売電する。

ダブル発電の光熱費削減効果


一方、ダブル売電はtypeS独自の最大発電出力700Wでの定格連続モードで運転し、売電量を大きく押し上げるサービスとなっている。


このダブル売電ができることが、競合製品にはないtypeSの優位性だ。


国や自治体も省エネ推進に本腰を入れている。その一環として、手厚い補助金制度も普及を促す大きな原動力となっている。環境省、経済産業省、国土交通省の3省合同の「給湯省エネ2026事業」では対象機器の設置に1台17万円の補助金を交付。加えて、自治体独自の補助金が交付される場合がある。


また、25年度には、優れた省エネ性能を有する住宅を対象とした「GX志向型住宅補助金」の制度が開始された。断熱性能や一次エネルギー消費量の削減率など、国が定める一定の基準を満たすことで受給が可能になる。25年度は最大160万円、26年度は建設地域によっても異なるが最大110~125万円程度の水準になる。

CO2排出量を大幅削減 多角的開発とVPP展開へ

光熱費削減効果だけでなく、エネファームは環境性にも優れている。同社が主に扱うtypeSは発売当初、発電効果は30~40%だったが、改良を重ねることによって世界最高水準の55%を達成した。


また、一次エネルギーの消費量は、従来のガス給湯暖房器と比べ約30%削減できる。今後施行が予定されているGX ZEHに対応するためには、このような高効率設備の採用が不可欠だ。同社では、エネファームはこの基準達成に大きく貢献できると考えている。


さらに、CO2排出量について、定格運転により24時間安定して発電し、効率的なエネルギー利用が実現することで、大幅に減らすことができる。同社ではその量を年間2・1tと想定している。


ユーザーは、エネファームの環境性をどう捉えているのだろうか。エネファームなら、導入するだけで、日々無理をしなくても、大幅な省エネと環境への貢献が実現できる。大阪ガスマーケティング燃料電池戦略グループの小島忠将チーフは、「『頑張らないといけない』という負担を感じることなく、家計と環境に優しい生活を両立できる点こそ、最大のメリットではないか」と言い、コンパクト化など顧客ニーズに応えられる製品の開発を推進していく構えだ。


同社は今後の展開として、このフラッグシップモデルの拡販を継続するとともに、メーカーと共に性能向上やコンパクト化に加え、販売実績から得た知見を生かした多角的な開発を推進していく。また、行政とも連携して実施してきたVPP(仮想発電所)などの実証成果を深掘りし、より一層の具体的なサービス展開についても検討を進める方針だ。

※最大発電出力1kw以下の家庭用燃料電池

【特集2 省エネ最前線】東京電力パワーグリッドが変圧設備の絶縁媒体に植物油を適用

大型電力インフラで脱石油依存の取り組みが進んでいる。CNにも資する東京電力パワーグリッドの戦略を聞いた。

インタビュー/塚尾茂之(東京電力パワーグリッド工務部変電技術担当部長)

―電力系統における設備運用で、化石資源の使用を減らす取り組みを進めています。


塚尾 カーボンニュートラル(CN)への取り組みが前提で、東京電力の第5次総合特別事業計画では2013年度比で30年度に50%以上のCO2削減を目指しています。例えば、適正な電圧に昇降圧する変圧器の絶縁媒体は、従来は鉱油や不燃性の特徴を持つSF6ガスでした。とりわけ都心部の地下変電所への設置が多い当社では、省スペース設計が可能で、防災面から不燃性であるSF6をよく使います。ただ、CNの観点から、化石資源の鉱油や地球温暖化係数(GWP)がCO2より非常に高いSF6ガスの使用を減らしています。

実運用下で防火性を明らかに 安全性担保する評価基準策定へ

―鉱油を減らすための具体策は。


塚尾 変圧器の絶縁媒体に植物油を適用することに取り組んでいます。植物油にはパームヤシを原料とした植物由来エステル系と、菜種や大豆を原料とした天然エステル系があり、植物が成長する過程でCO2を吸収することからCNと位置付けられています。植物由来エステルは引火点が鉱油と同等かつ低粘度で特性が似ています。機器のコンパクト化や高効率設計が可能ですが、引火点が鉱油と同じであることから、万が一の変圧器内部事故時の火災リスクを排除できません。一方、天然エステル系は鉱油と比べ高粘度で引火点が高く、海外では難燃性の油として知られています。国内流通量が最も多いのは国産で対応できる菜種油で、海外では大豆油が主流です。当社では24年度から導入を始め、パームヤシ、菜種、大豆それぞれを運用し、特性を見極めています。


 また、菜種と大豆は難燃ですが不燃ではありません。現在、実運用において不燃と難燃の防火性の違いを明らかにしようと業界全体で取り組んでいます。それらの評価基準をまとめた「電気協同研究」の報告書を28年度に発行する予定です。発行後はその基準を基に、各社の導入がさらに進むと思います。


―SF6ガスを使わない取り組みは。


塚尾 多くの設備でSF6ガスが使われていますが、今後はGWP1未満の自然由来ガス機器の開発・適用を進めていきます。当社府中変電所には、電力会社としては日本初となる代替ガス仕様のGIS(ガス絶縁開閉装置、72kV)を開発・導入しました。今後は開閉装置だけでなく変圧器でも代替ガス仕様の設備を開発し導入していきたいと考えています。

つかお・しげゆき 1994年3月早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了。同年4月、東京電力入社。主に変電所設計や技術開発に従事。

【特集2LPガス供給最前線】先端技術を活用し配送効率化へ尽力する全国LPガス協会

液石法改正などで、LPガスの事業環境が変わりつつある。全国LPガス協会はその変化に応じた取り組みを進行中だ。

インタビュー/村田光司(全国LPガス協会専務理事)

―液化石油ガス法改正から1年余りが経過しました。商習慣は変わりましたか。


村田 過大な営業行為については、不動産業者からのLPガス販売事業者への働きかけを含め、依然として完全には排除されていません。問題なのは、制度改正による改善の進捗度合いを正確に把握できていない点です。経済産業省には規制の実効性の確保策を講じるよう求めているところです。


 現在、同省内に有識者から成るアドバイザリーグループを作り、通報案件の精査、具体策の検討を進めている段階です。これを足掛かりに、今後の具体的な実効ある規制の在り方について、同省内で本格的な議論が始まる見通しです。


―配送や保安の改善は進んでいますか。


村田 労働生産性の改善については、販売店の再編などが進むことで自然と改善していく面もあると思います。同時に、先端技術を活用した配送効率化も不可欠であり、政府から補助金などの支援を受けながら推進していきたいと考えています。保安に関しては技術革新が進んだ現代に即した保安の在り方を国に働きかけており、今後検討が進む見通しです。


―M&A(企業の合併・買収)の波が押し寄せる中、小規模事業者は事業存続をどう考えたらよいでしょうか。


村田 供給戸数500戸未満の事業者が全体の約6割を占め、かつ後継者難の状況では、M&Aも自然の流れです。しかし、元来LPガス業者は薪・炭の販売を源流とし、時代の変化に適応しながら創意工夫を凝らして経営してきた歴史があります。事業売却以外にも、新事業開拓や地域ネットワーク活用により多様な事業展開の可能性があります。今回の中東危機を受けLPガスの中東依存度の低さ(約4%)は、災害への強さと合わせてLPガスの強みとして将来に向けてアピールできると考えます。

50年にグリーンLPガス供給へ 既存設備活用で整備進める

―カーボンニュートラル(CN)にはどのように対応していますか。


村田 2050年に見込まれる需要総量約900万t全量をグリーンLPガスで供給するため、元売りと共に体制を整備中です。グリーンLPガスは既存の供給設備を継続利用できる点が大きなメリットです。卸・小売業界としては、トランジション期間においては高効率給湯器の普及などを促進し、CN化に貢献していきたいと思います。

むらた・こうじ 1980年通商産業省(現経済産業省)入省し、液化石油ガス、石油精製・備蓄などを担当。三菱ケミカル、日本化成などを経て2019年6月から現職。

【特集2LPガス供給最前線】技術と知恵で生産性を向上 ライフライン「最後の砦」の矜持

人口減少や配送員不足など課題が山積みのLPガス業界。各社が知恵を絞りながら供給システムの維持に奔走している。

中東戦争に揺れるわが国のエネルギー供給。石油に代表される化石資源調達の見通しが不透明な中、日本はLNGと同様にLPガスの中東の依存度を下げてきた。ここ10年近くにわたって、アストモスエネルギーなど元売り企業がアメリカやカナダ、豪州といった調達先の多角化に着手。そんな事情が功を奏して、直ちに供給不安が漂う状況にはなっていない。


一方、下流に目を向けると決して安泰とは言い難い。近年は人口の減少や配送員の高齢化、人材不足など、ちまたで叫ばれている課題が日を追うごとに顕在化している。これは、災害時のライフラインとして、エネルギー基本計画に明記された「最後の砦」の機能を果たせなくなる事態が静かに訪れようとしているからだ。


そうした中、物流配送業務を効率化させ安定供給を維持するために知恵を絞る各社の動きが加速している。販売大手の岩谷産業やニチガスの取り組みはその好例だ。


岩谷は神奈川県の根岸液化ガスターミナルでLPガス容器の出荷基地を刷新している。外洋からのタンカーの受け入れ基地が隣接している地の利を生かした形だ。この拠点はもともと東京ガスグループの基地だったが、岩谷が東ガスからLPガス事業を譲り受けたことで実現した。タンカーから容器に詰め込むまでのチェーンを一カ所の拠点で一気通貫する体制を整えて、物流配送の合理化を実現している全国でも珍しい取り組みだ。

岩谷は根岸で拠点を強化した


また、ニチガスは世界最大規模となるLPガス容器のハブ施設「夢の絆・川崎」を整備した。容器を積んだトレーラーがゲートを通過するたびに、容器に貼り付けられたバーコードが読み込まれ、出入庫を自動的に管理する。「他社も利用できるオープンなプラットフォーム。利用する販売店が増えれば、それだけ容器当たりの配送単価を下げられる」(ニチガス関係者)という。このように、ハードとソフトの両面から効率化を進めている。

ニチガス「夢の絆・川崎」で自動管理されるLPガス容器

バルク設置で配送を削減 作業員の労働負担を緩和

低い電力消費によって長距離の無線通信を可能にしたLPWAのインフラが整備されてきたことも業界が取り組む合理化を後押しする。


早くから独自の集中監視システムを取り入れた伊丹産業では、LPWAを組み込んだことでガスメーターによる残ガス量の管理が容易になった。検針員や配送員が担当する件数の大幅な向上につなげているほか、災害時には早期普及にも貢献できる。また、国がこうした集中監視システムの導入割合に応じて事業者にインセンティブを持たせる制度を開始したことで、大小問わず、多くの販売店が取り組みを進めている。


一方でこうした高度なシステム刷新だけが合理化を実現する方策ではない。長野県のとある事業者は「配送の効率化のためにバルクを置いて供給する方法を一部採用している」と話す。通常であればLPガス容器で配送するが、どうしても配送頻度が高まり手間が増える。とりわけガス需要が高まる冬場には安定供給が脅かされるリスクをはらむ。また、容器の運搬は力仕事で女性や高齢の作業員には難しい。その点、バルクであればLPガス容器に比べて貯める量を増やせるため配送頻度を抑えられる。また、力仕事でもないため、配送員不足の解消にも効果的だ。


加えて、もう一つのメリットをこの事業者は打ち明ける。「元売りが提示するLPガス価格の安いタイミングで調達する方法が考えられる。例えば、夏場に調達してユーザー宅のバルクに供給しておくことで、価格が高くなる冬場の調達量を減らすことができる」。設置スペースの確保や設置コスト、バルク検査業務の負担などのハードルはあるが、各種条件がクリアになれば面白い手法だ。

異業種間で配送を共同化 繁閑期の平準化にも期待

物流配送に課題を抱えているのはLPガス業界だけではない。物流業者や荷主業者など多くの企業が参画する団体のフィジカルインターネットセンターは、輸送時の積載率を上げるスマート物流の取り組みを進めている。


例えば、A地点からB地点へ物を運び終わってA地点へ戻る時に、荷台に物を載せて運べば、トータルの積載率が上げられる。考え方はいたってシンプルなのだが、現状では30%台に留まっている積載率の改善を進めている状況だ。


また、異業種間のコラボによる共同配送も試行錯誤しながら行っている。同業であればライバル同士で、かつ運送物が似通っていたりするため実現は難しいが、異業種同士であれば運送物の内容が異なり、とりわけ繁閑期の平準化にもつなげられる。実際、食品メーカーと飲料メーカーが共同配送を行い、一定の成果を上げている事例も生まれているそうだ。


こうした他業界の取り組みが直ちにLPガス業界の参考事例につながるわけではないだろう。ただ、同じような悩みを抱える非エネルギー業界がどのような対策を模索して進めているのか、アンテナを貼っておいて損はないはずだ。


いずれにせよ電気や都市ガスとともに、国民生活に欠かせないのがLPガスだ。エネルギー基本計画に最後の砦と位置付けられたエッセンシャルワーカーとしての矜持が試されている時である。

【特集2まとめ】高度化するLPガス供給網 配送・保安・災害対策の最前線

LPガス業界は少子高齢化や過疎化に起因し、人手不足による配送員確保、供給網維持が困難化している。

販売店の集約・再編が進むことで労働生産性が改善すると見る向きもあるが、先端技術を活用した配送の効率化、保安の高度化が不可欠。

事業者、機器メーカーはDXの導入など新たな試みに挑戦し、流通網を進化させようとしている。

有事の際の「最後の砦」とされるLPガスの機能維持の取り組みに迫った。

【アウトライン】技術と知恵で生産性を向上 ライフライン「最後の砦」の矜持

【インタビュー】会員企業の相互協定など共助のネットワークを構築 日本LPガス協会

【インタビュー】先端技術を活用し配送効率化へ尽力 全国LPガス協会

【レポート】都市ガスの基幹システムを活用し保安強化を目指す秦野ガス

【レポート】集中監視とAIで安全・安定供給を追求する伊丹産業の取り組み

【インタビュー】フィジカルインターネットが支援する物流の最適化

【トピックス】緊急対応時の業務負担を軽減 不要な遮断・通報を回避する東洋計器の超音波メーター

【トピックス】I・T・Oが生活用水を確保する浄化装置を拡販中 能登半島地震を契機に開発着手

【トピックス】事業成長につながる情報を発信 クラブネッツが開設した業界特化型ポータルサイト

【特集2LPガス供給最前線】都市ガスの基幹システムを活用し保安強化を目指す秦野ガス

神奈川県秦野市を中心に都市ガスを供給する秦野ガス。同社は、LPガス供給も担いながら、ガス体エネルギー事業者としてユーザーのニーズに応えている。主な供給エリアは秦野市に加え、伊勢原市、平塚市、中井町などで供給先の9割以上が家庭用だ。秦野ガスの飯田昌一常務は、昨今のLPガスの事業環境について「数年前までは大手事業者が雇うブローカーによる販売店の切り替えが盛んで競争環境が厳しかった。だが、液化石油ガス法の改正省令が後押しし、ようやく落ち着いて販売できるようになった」と話す。

ガス体エネルギー事業者としてガスを販売する


同社の特徴はガス料金の透明性を担保する明朗なメニュー。エリア内では店頭価格のみを提示する販売店が多い。そうした中、同社は業界のガイドラインにのっとり、ウェブサイトでも「基本料金と従量料金」および「基本料金とブロック料金」の2種類を開示している。

目標は「ゴールド認定」 需要家に選ばれる事業者へ

その同社がこれまで取り組んできたのが、配送や保安の合理化に資する集中監視システムの導入だ。通信インフラが未整備の山間エリアなどの一部地域と業務用や簡易ガスを除き、すでに98%のユーザーに導入済みだ。1件当たりの委託検針に関する管理費が高まる中、集中監視による合理化のメリットを選んだ。当面の目標は国が定めた「ゴールド認定」を取得することだ。取得すれば、集中監視の導入率に応じて保安要件が緩和される。70%以上であればゴールドとなり、緊急時対応の30分ルールなどが緩和される。


「当社は都市ガス事業の基幹システムを流用してLPガス供給の一部を管理している。ただ、都市ガスとは異なり、LPガスは認定に必須の項目である高圧ホースや調整器といった特有の機器の型式を管理する必要がある。現状のシステムでは管理しきれておらず、ゴールドには至ってない」と飯田常務。「ゴールドは信頼の証明。お客さまから選ばれる事業者になるためのシンボルだ」として、基幹システムを更新するタイミングで認定取得を目指す考えだ。

【特集2LPガス供給最前線】事業成長につながる情報を発信 クラブネッツが開設した業界特化型ポータルサイト

DXによる販促や業務改善を支援するクラブネッツ。同社のLPガス業界向けポータルサイトが注目を集めている。

ITベンダーのクラブネッツが運営するLPガス業界に特化したポータルサイト「GAS POTAL(ガスポタル)」が注目を集めている。同社はLPガス事業の業務に関連する顧客対応、保安点検、配送効率化、ウェブ明細、ポイント付与などの販促支援、業務改善ソリューションを展開中だ。この知見を生かし、LPガス事業者に向けて、各種サービスや製品情報を横断的に検索・比較できるポータルサイトとして立ち上げた。同サイトは、既存システムからの変更や新事業・サービスの立ち上げなどを行いたいときに、カテゴリ別にサービスを容易に表示・比較し、自社にとって最適な選択肢を見つけることができる。

新規入会を募集中


同社は、全国450の顧客接点を支援。総契約ID数は1000を超える。LPガス事業者からは「どのようなサービスを導入したら良いのか分からない。おすすめを教えてほしい」といった相談が多く寄せられてきたという。そこで、「個別に特定企業を推薦するのではなく、客観的に比較できる場の提供をコンセプトに同サイトを立ち上げることにした」と中前達也インダストリー事業本部長は話す。


現在の掲載サービスは約230件あり、会員数は1万人を突破。開設から短期間で着実に拡大している。さらに、セミナー情報や補助金情報なども掲載し、継続的に訪問される業界のハブとしての機能強化を進めている。今後は、各サービスの開発背景や導入意図に踏み込んだ特集コンテンツも拡充し、より深い理解を促す構成へと進化させる方針だ。

都市部と地方の情報格差解消 業界の情報インフラを担う

6月3日には東京国際フォーラムでセミナーと展示会を組み合わせたイベント「GAS POTAL Conference 2026」を開催する。異業種のサービスを事業者に紹介することで業界にイノベーションを起こしていきたい」(中前本部長)という。


都市部と地方で情報格差が大きいと言われるが、ガスポタルはそうした壁を崩し、全国の事業者が同一の情報基盤にアクセスできる環境を提供する。同社はLPガス業界の情報インフラの役割を担っていく構えだ。

LPガス業界を明るく照らす「ポタルちゃん」

【特集2LPガス供給最前線】集中監視とAIで安全・安定供給を追求する伊丹産業の取り組み

1948年の創業以来80年近くにわたりLPガスを供給している伊丹産業は、83年のガス切れ事故を機に、集中監視システム「ACU24」の開発に着手した。配送員による経験則に基づいた従来の配送では、想定外の消費量による供給停止を防ぎ切れない懸念があったためだ。そこで、同機器の開発により、ガスの残量が基準値に達した場合、自動で通知される仕組みを構築した。


ACU24は、マイコンメーター、通信ユニット、集中監視センターで構成され、LPガスの安全と安定供給を見守るシステムだ。各家庭のマイコンメーター付近に設置された通信用の機器が、通信回線で集中監視センターにつながっている。センターでは24時間365日体制で専門技術者が遠隔から監視。異常流量や地震を感知した際、即座にガスを遮断し通報する保安機能に加え、ガス残量の管理や自動検針も行っている。

安全と安定供給を見守る集中監視センター

通信技術の進化で発展 ほぼ100%の設置を達成

運用を開始した80年代は、固定電話回線を用いたシステムだった。その後、機器の設置数は順調に伸び、通信インフラの進展とともに、2017年ごろからは低電力で長距離通信が可能なLPWAと呼ばれる無線通信が普及。19年には携帯電話回線を用いた新型ACU24の運用が始まり、現在、ほぼ100%の設置率を達成している。


LPWAの活用により、月1回の検針員による訪問に頼っていたガス使用状況が毎日自動で把握できるようになった。これにより、配送員一人当たりの担当件数は飛躍的に向上している。
通常2本あるボンベを、配送効率化のために同時に2本交換するのが理論上は最適だ。だが、そのためにはボンベの8〜9割を使い切る必要があり、ガス切れのリスクが高まる。


「LPガスは使いたい時にいつでも使えて当たり前。ガス切れは絶対に許されない」と、髙木裕則・執行役員保安部長は強い使命感を抱く。同社にはガス切れ事故を機にACU24を開発した経緯とともに阪神・淡路大震災でLPガスを早期復旧させた実績や、顧客の信頼を1件ずつ積み重ねて供給エリアを拡大してきた歴史がある。髙木部長の言葉にはLPガス事業に対する基本理念が凝縮されている。


同社はAI技術を活用した配送の効率化にも取り組んでいる。AI配送を試したガス事業部の塚本欽也次長は「天候や道路事情などその日の動的な情報までを含めると、適切に判断できる人間のほうが優れている」と話す。AIの進歩を確認するため、今年4月からは再度実証を行い、さらなる効率化を模索する。


物価高や人材確保など、厳しい事業環境にあるが、配送効率化、保安高度化を追求し、同社は安全と安定供給という揺るぎない責務を果たし続けていく。

【特集2LPガス供給最前線】緊急対応時の業務負担を軽減し不要な遮断・通報を回避する東洋計器の超音波メーター

東洋計器の超音波ガスメーター「DLメーター」の市場導入が順調だ。導入により利用者の利便性向上や事業者の負担軽減につながっている。

東洋計器が昨年秋に発売した超音波LPガスメーター「DLメーター」が好評だ。同社は400万世帯を超える保安関連情報を分析して開発。不要なガス遮断や通報を回避する「ダブル・ラーニング(DL)方式」を搭載した。

不要な遮断・通報を減少させる「DLメーター」


2022年10月~23年9月までの1年間にマルチセンターで受信した保安通報のうち、対応が必要な増加流量遮断、合計流量遮断、継続使用時間予告・遮断に関するものが40%以上を占めていた。また、これらの保安通報は、ガスの使用量が増える秋から冬にかけ、同じ需要家を中心に毎年繰り返し発生していたという。この事象はLPガスメーターの学習機能によるもの。夏季のガス使用パターンのまま気温が下がる時期を迎え、使用量や時間の変化に対応できないことが原因だった。


DL方式では、秋口に前年の冬季に学習した最大流量や区分ごとの最大使用時間値を仮設定し、冬季の実際の使用量に基づいた遮断値を学習して本設定する。これにより安全性が担保され、不要な遮断を回避できる。


LPガス会社の協力による95件のモニター実証では、明らかな有用性が確認された。24年度には95件のうち35回の遮断が発生したが、25年度にはDL方式の学習効果が発揮され、遮断回数は5回に減少。利用者にとっては、ガス利用中にガスが使えない不満が減り、ガス復帰時の手間を省くなどのメリットがある。一方、ガス事業者には緊急対応による業務負担軽減、改善への効果が期待される。神奈川県のLPガス事業者・トーエルは昨秋、一挙に5850台を導入するなど、市場への浸透も進んでいる。

ビッグデータで顧客分類を考察 多角的提案で需要を開拓

同社はさらに、ガス使用量のビッグデータ分析を活用し、顧客のカテゴリー分けを実施。これによりガス事業者と併走しながら、ガス利用世帯ごとへの料金体系の最適化や需要予測、利用者の満足度向上に資する提案へとつなげていく方針だ。今後は分析によって得られたデータ活用方法を基に、AIを利用した提案や料金メニューの多様化、電気や灯油などとのエネルギー単価やCO2排出量の比較などによる多角的なアプローチによって、ガス利用の拡大と需要開拓に挑んでいく。

【特集2LPガス供給最前線】フィジカルインターネットが支援する物流の最適化

物流業界では、複数社による共同配送が試行されている。非エネルギー業界が取り組む効率化などの展望を聞いた。

インタビュー/奥住智洋(フィジカルインターネットセンター「JPIC」事務局長)

―JPIC設立の経緯と事業概要について教えて下さい。


奥住 国内の物流効率化を目指す「フィジカルインターネット(PI)」を推進しています。PIは、ヤマトグループ総合研究所の研究テーマの一つでしたが、有志企業とスピンアウトしてJPICが設立されました。その後、内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)スマート物流サービス」の一部機能を継承し、体制を強化して2023年10月に事業を開始しました。PIを企業や業界の垣根を越えた協働を前提とする開かれた物流エコシステムと定義し、その実現を支援する役目を担っています。

業種を超えて連携し積載率向上 状況に応じ輸送手段を組み合わせ

―具体的な取り組みは何ですか。


奥住 労働力不足、CO2削減などの課題の解決には、業種や業態を超えた共同物流、つまり複数企業の荷物を混載して積載率を上げる必要があります。トラック1台当たりの積載率は平均38%ほどですが、例えば東京から大阪に運ぶ際、大阪からも荷物を積んで帰れば、生産性や積載率も上がります。


 会員企業は、物流のサプライチェーンに関わる96社(26年4月現在)に上り、JR貨物やANA Cargo、近海郵船といった運輸会社にも入っていただいています。単に鉄道輸送へ転換する「モーダルシフト」だけでなく、トラック、鉄道、航空、船舶を状況に応じて組み合わせる「モーダルコンビネーション」など、サプライチェーン上のあらゆるステークホルダーが連携し、課題に取り組んでいます。とりわけ輸送距離が長く、配送量の少ない地方では、食品や日用雑貨品、建設資材といったいろいろな業種が共同倉庫を構えて共同配送する仕組みにしないと、ドライバー不足の問題などは解決できません。


―各社が出資して共同配送会社を設立して運用を担うといったイメージでしょうか。


奥住 日本に一つのプラットフォームを作り、そこで全ての配送を検討できるシステムが理想です。JPICの運用というよりはPIの実現を目指す企業の支援、業界団体との連携、人材育成などを担っていきます。会員企業の一例として、食品メーカーと飲料メーカーが共同配送で積載率を上げた実績があります。同業同士だと繁忙期と閑散期が重なりますが、異業種では重量・容積の両面で効率運用の可能性が高まります。実績を積み上げ、企業間のマッチングを促進したいです。

おくずみ・ともひろ 1986年ヤマトシステム開発入社。2017年ヤマトホールディングスデジタルイノベーション推進室室長などを経て23年から現職。

【特集2LPガス供給最前線】I・T・Oが生活用水を確保する浄化装置を拡販中 能登半島地震を契機に開発着手

I・T・Oは貯水を浄化し、生活用水を供給する災害対応機器を拡販中だ。LPガス中核充填所では、貯水の腐敗防止を目的に平時の利用も始まった。

地震や豪雨など自然災害の激甚化に伴い、I・T・Oの非常用生活用水浄化装置「ウォーターリリーフ」への関心が高まっている。飲料水に関しては備蓄が進む一方、トイレ、洗濯、シャワーなどに必要な生活用水の確保は依然として課題だ。I・T・Oは能登半島地震の際、ウォーターリリーフの製造元であるクリタックと連携し、避難所となった七尾市の小学校に試作機を投入。その時の経験をもとに、被災現場のニーズを取り入れ製品化した。


同製品はプールなどの貯水を浄化し、生活用水として供給する。珪藻土パウダー1袋(約100g)をセットして原水を注入すると、数μまでの汚れを除去。その後、活性炭フィルターで臭気が取り除かれ、塩素消毒を経て生活用水となる。標準装備されている100袋の珪藻土パウダーは、学校のプールの約1杯分を浄化することが可能な量だ。

国の基準をクリアする浄化性能 平時利用で貯水の水質を改善

同製品の特長には「専門知識がない人でも使える操作性」「安価な維持費」「高い水質基準」の三点が挙げられる。操作が簡便で、濾材の珪藻土は国内調達が可能。水質は国が制定した風呂水や遊水プールなどの基準に相当する。600W電源で作動し、1時間当たり最大2000ℓの浄化能力でシャワー4口を同時使用できる。


静岡ガスエネルギーでは、同製品を平時から活用し、防火水槽の水質改善に役立てている。同社はLPガスの中核充填所を有しており、消火設備として、防火水槽と散水設備を設置しているが、貯水の腐敗が長年の課題だった。そこで、同製品を用いて定期的に浄化し、スプリンクラーの目詰まりや悪臭を防いでいる。災害時には、復旧作業に当たる社員のシャワーや洗濯用水への活用も可能だ。

静岡ガスエネルギーの中核充填所


I・T・O営業本部企画課の酒井朋充チームリーダーは「自治体の災害対策の資金を支援する緊急防災・減災事業債の対象でもあり、自治体の関心が高い。全国に約340カ所あるLPガスの中核充填所でも新たな役割を期待できる」と語る。同製品を日頃から使うことで有事の際もスムーズに操作でき、相乗効果を生む確かな備えとなるはずだ。

【特集2LPガス供給最前線】会員企業の相互協定など共助のネットワークを構築する日本LPガス協会

昨今の中東情勢で供給体制を不安視する声が出ている。日本LPガス協会が講じている対応策などについて聞いた。

インタビュー/縄田俊之(日本LPガス協会専務理事)

―昨年11月にLPガス業界の目指す姿「2050ミッション」と行動計画「2030アジェンダ」を策定しました。


縄田 安定供給の維持、業界の持続可能な発展、カーボンニュートラル(CN)の三つをミッションに掲げ、安定的な海外調達、災害対応力の強化、グリーンLPガスの推進など6項目の実行計画を策定しました。元売り主体の組織という枠を超え、LPガス産業全体の進むべき方向性を提示しています。


―調達に関して中東依存度が低いメリットや、昨今の中東情勢における課題は。


縄田 メリットは輸入先の多角化による安定供給です。シェール革命前は中東に8割以上依存していましたが、今は米・加・豪が9割超で、中東は4%程度です。課題は、中東依存度が高い中・印が今後調達先を北米にシフトした場合の需要変動、またそれに伴い、パナマ運河渋滞による輸送時間の長期化や調達価格高騰の可能性があることです。世界情勢を注視しています。


―昨今の中東情勢への対応として備蓄状況や緊急時の供給体制はどうなっていますか。


縄田 国家備蓄50日分、民間備蓄40日分、さらに一般家庭の軒先備蓄の30日分を合わせると4カ月分程度は確保できている計算です。能登半島地震で七尾基地が被災した際は、近隣の新潟や富山などの基地から代替供給を実施しました。また、当協会の会員相互協定など共助のネットワークも構築しています。

産業・農業用中心に燃転強化 既存設備の活用で開発を加速

―少子高齢化による市場縮小が進む中、各社の事業基盤強化が課題です。


縄田 産業用、農業用のボイラーなどを中心に燃料転換を強化します。これはCN達成にも欠かせない取り組みです。エネルギー関連の他団体とも連携し、セミナーや講演会を通じて情報発信を行い、業界全体の脱炭素化と事業基盤強化を推進していきたいです。


―グリーンLPガスに関してどのようなロードマップを描いていますか。


縄田 移行期には環境負荷の少ないバイオ燃料から合成するrDME(リニューアブル・ジメチルエーテル)をLPガスに混合させ、その後、グリーンLPガスに移行する道筋を描いています。rDMEはLPガスと性質が近く、また、グリーンLPガスは従来のLPガスと組成が同等のため、現行のインフラを最大限活用し、新たな投資を抑えた開発・導入を加速していく計画です。

なわた・としゆき 1988年通商産業省(現経済産業省)入省。ガス安全、水素・燃料電池、住宅産業、安全保障貿易などに関する行政を担当。2024年7月から現職。

インフォメーション

Bigblue Tech

全固体電池採用のモバイルバッテリーを発売

Bigblue Techは3月6日、次世代電池技術である全固体電池を採用したモバイルバッテリー「PF8/10/20」3機種を発売した。同製品は近年相次ぐモバイルバッテリーの火災リスクを極限まで低減し、日常利用における安心感を提供する。従来のモバイルバッテリーで用いられてきた液体電解質は可燃性を有しており、安全性に課題があった。これに対し、全固体電解質を用いた電池は、液体成分を1%未満まで削減し安全性を高めた。これにより、熱暴走の要因となる内部短絡の発生を抑制でき、リチウムデンドライト(樹枝状結晶)の成長・貫通にも高い耐性を発揮する。価格は7980円から。

関電不動産開発

大阪中之島にCO2実質ゼロのタワマンが完成

関電不動産開発は2月、地上46階建ての高層マンション「シエリアタワー中之島」が完成したと発表した。ZEH-M基準の断熱性能とオール電化、再生可能エネルギー由来のゼロカーボン電気を高圧一括受電方式で供給することで、マンション全体のCO2排出量実質ゼロを実現。また、各戸のエコキュートをIoTにより遠隔制御することで電気料金を低減するシステムを導入している。建物には大林組の超高層制振構造システム 「デュアル・フレーム・システム」を採用。建物内側に構築した壁構造物を強固な心棒とし、その外周に柱と梁によるラーメン架構の住宅棟部を配置し、地震の揺れを小さくする。

近畿経済産業局

省エネに取り組むおじさんトレカを発表

近畿経済産業局は2月25日、企業の省エネ・脱炭素化推進を目的としたトレーディングカード「省エネおじさんカード vol.2」を発表した。省エネおじさんカードは2024年度に制作が始まった。今回の第2弾では近畿経済産業局管内で優れた省エネを実践する企業の協力を得て、現場で取り組む担当者がモデルとして登場する。各企業の取り組みや削減額の実例をそのままカードに記載し、より多くの企業の参考になる内容となっている。同局では、地域の金融機関や中小企業向け研修のほか、地域の省エネやカーボンニュートラルを推進する取り組みでの活用を想定している。

セブン-イレブン・ジャパン/東北電力ほか

東北6県、新潟県のコンビニで再エネ受電

セブン―イレブン・ジャパンは2月、ユーラスエナジーホールディングス、しろくま電力、イノベーションスタイルが発電した再エネ由来電力を、東北電力のオフサイト型コーポレートPPAサービスを活用し、受電すると発表した。対象店舗は、東北6県、新潟県の約1800店舗で、供給期間は25年間。これにより年間2万4000tのCO2排出削減を見込んでいる。

新むつ小川原/日本経済団体連合会

第14回エネルギーに関する講演会を開催

新むつ小川原は2月17日、「第14回エネルギーに関する講演会」を経団連会館で開催した。同社の福田健吉社長は「自治体、企業、研究機関と連携し持続可能な経済社会の実現に貢献したい」と述べた。同会では日本政策投資銀行の原田文代氏が「気候変動と各国及び我が国の脱炭素・CN動向について」と題した講演を行い、参加者も熱心に耳を傾けていた。

NExT-e Solutions

国際安全規格準拠の水冷式系統用蓄電池を発表

NExT-e Solutionsは3月16日、新製品の13ft水冷式系統用蓄電池システムが国際安全規格「IEC62933-5-2」を取得したと発表した。同製品は水冷方式により冷却効率を向上したことでシステムの高密度化を実現。設置面積を抑えつつ、2315kW時の容量を確保した。国際規格準拠により、⾧期運用が求められるプロジェクトに高い信頼性を提供する。

【特集2SAF最前線】社会実装に向けて官民が連携 コスト負担の最善策とは

SAFのビジネス化を実現する上で、製造コストの高さが課題の一つだ。
有識者3人が、コスト負担の在り方などを中心に日本が進めるべき戦略を語り合った。

司会=山内弘隆(一橋大学名誉教授)
出席=大田圭(国土交通省航空局大臣官房参事官〈航空戦略担当〉)
   大塚洋(定期航空協会理事長)

山内 SAFの普及に向けた議論が行われていますが、特に国際航空分野において脱炭素化を推進するには、国際民間航空機関(ICAO)の枠組みにどう対応していくのかが、各国政府、航空会社にとって重要な課題になってきます。

大田 国内航空のCO2排出量は、運輸部門が国内の全排出量の約2割を占め、そのうちの5%程度なので、相対的にはそれほどのインパクトはありません。 

 一方、国際航空は一くくりにされており、世界の国別の排出量の11番目、12番目ぐらいになるので、脱炭素化が非常に重要になってきます。ICAOのスキームでは、2019年の排出量の85%の水準の維持を国際的なルールにしています。世界人口が増えるにしたがって航空輸送量も排出量も増える中、こうした一定水準に抑えることはとても厳しい規制です。


 これだけ厳しいにも関わらず、脱炭素の手法はわずか3点ほどしかありません。一つが、運航の改善です。例えば、最短ルートへの航路の変更、離着陸時の飛行機の角度などを積み重ねることで、脱炭素化を図っています。二つ目としては、航空機の電動化や水素航空機などの航空機新技術の取り組み。三つ目として、SAFのような燃料からのアプローチが挙げられます。

 このうち、一つ目の運航改善は、確実に成果にはつながっていますが、多大な削減効果にはなっていません。二つ目の水素航空機などはまだ技術的に先の話になります。すると、SAFの導入が一番のポイントになります。さらに、国交省ではエネルギー安全保障や地域の振興・活性化といった観点から、国産SAFの導入促進を主眼に取り組んでいるところです。

大塚 国内航空ではこれまで、地球温暖化対策計画の中で13年度を起点に30年度の排出原単位マイナス16%を目標にしてきました。その手段として、運航方式の改善や、省エネ型の航空機の導入によって、全体として年間1%程度の削減効果が得られており、目標を上回る削減実績となっています。


 ただ、カーボンニュートラル、ネットゼロを目指すとなると次元が違います。電力航空機や水素航空機も研究開発されていますが、長距離飛行は難しいと見込まれるので、やはり中核となる手段はSAFになります。また、生産地域や原料の多様化が図れるという点で、SAFはエネルギー安全保障に大きく貢献ができると考えています。


 日本の場合、人口の減少とともにEVや燃料電池車などが増え、ガソリン使用量が減っていくことが見込まれています。一方、国内航空は燃料の使用量が車よりも減らないと想定されており、国際航空はICAOなどの推計でも、アジア発着便は今後どんどん増えることが予想されています。そのため、航空燃料の確保という観点からも、ガソリンの連産品である従来型燃料に加えて国産SAFの確保が重要になってきます。

【特集2SAF最前線】米国が主導する巨大産業化 最新の動きを現地レポート

石井孝明/経済ジャーナリスト

アメリカではさまざまな企業がSAFの生産体制整備に動き出している。
今後、日本にどのような影響を及ぼすのか、米国現地などを取材した。

SAF(持続可能な航空燃料)を使い、航空産業の脱炭素を進める動きが国内外で始まっている。世界最大のバイオ燃料生産国である米国では、トウモロコシ由来のバイオエタノールを原料にしたSAFの製造業を政府、民間が育成しようとしている。昨年11月に米国事情を取材した。

「米国農家の利益」を強調 トランプ政権は協力姿勢

「トランプ大統領自ら関わる重要な経済問題」。首都ワシントンで農業団体のロビイストは、SAFの現状をこう説明した。ロビイストとは企業や団体などの利益代表として議員や政府関係者に働きかける専門家だ。このロビイストは弁護士で、政治の裏表に詳しかった。

第2次トランプ政権が昨年発足した後、このロビイストは「トランプの言葉でバイオ燃料を語るようにした」という。政権のスローガンである「アメリカ・ファースト」という言葉を使い、「SAFは米国農家の利益になる」と強調した。民主党政権時代には、「エコ」を強調したが、トランプ政権と共和党議員はその視点を嫌うという。今は、SAFへの支援、制度設計に、現政権は協力的だ。

米国では、トウモロコシ由来のバイオエタノールが自動車向けの混合燃料として定着している。その製造で10万件以上の生産農家と約5万5000人が関わる巨大な産業になっている。このバイオエタノールを再加工するSAFによって、産業は発展する可能性がある。当然、政治影響力も強い。「日本への購入のお願いも続く」と、前出のロビイストは見通しを述べた。

そして日本は、政府としてSAFの購入を米国に約束している。米国は主要国と関税交渉を行っているが、日本とは昨年7月に大筋合意した。「日本は、大豆、トウモロコシ、バイオエタノール、SAFなどの農産物を80億ドル規模で購入する」という。これは、トランプ大統領が自ら、同年2月の石破茂首相(当時)との会談で持ち出した。購入期限や形などの詳細は決まっていないが、一定量を官民で調達することになるだろう。

SAFの拡大は全世界的な流れだ。国際民間航空機関(ICAO)は2050年までにカーボンニュートラルを達成する目標を掲げている。その目標を達成するため、「国際航空のためのカーボン・オフセットおよび削減スキーム(CORSIA)」という国際的な枠組みが作られた。参加航空会社は30年までに、10%の温室効果ガスの削減を目標にしている。

そして米国では、SAF産業の発展に、関係者の期待が高まっていた。バイオ燃料を製造するGEVO(ジーボ)グループのノース・ダコタ州にある工場を訪ねた。集めたトウモロコシを発酵しエタノールを作る。家畜資料にも加工する。工場には甘い柔らかい香りが漂っていた。製造工程で出る20%程度の二酸化炭素は圧力をかけて液化し、地下2000mの砂岩層に流し込み地中に埋める。CCS(二酸化炭素回収・貯留)という取り組みだ。

原料となるトウモロコシ
GEVOは農家と連携してトウモロコシを調達する。収穫後の農地
効率的に収穫する巨大なトラクター

砂岩の上下は岩盤で、二酸化炭素はその中に閉じ込められることになる。また、同社は農家と提携し、不耕起栽培で作られた穀物を調達する。耕さないことで、二酸化炭素の排出が少ないとされる農法だ。同社はこうして削減した温室効果ガスの価値を上乗せして提供する予定だ。さらに、米国の公的な温室効果ガスの指標に加えて、炭素削減の価値を評価するシステムを独自に作り、顧客に提供している。そしてSAFへの進出を表明している。

GEVO社の工場
原料を貯蔵す工場内のサイロ。。ここから原料を取り出して発酵させる

「トランプの時代でも、脱炭素への関心は止まらない。当社の脱炭素の取り組みは製品を差別化する」と担当者は話した。