【特集2 省エネ最前線】赤坂熱供給が都心エリアの地冷運用にグリーン水素を活用

TBSグループの一つで、東京・赤坂の一部のエリアに冷暖房や電気を供給する赤坂熱供給。このほど、カーボンニュートラルを見据えた次世代型の熱供給を本格的に開始した。エネルギー供給源の肝となるのが、再生可能エネルギーから作られたグリーン水素だ。


TBSホールディングスの阿部龍二郎社長は、本格稼働の開始記念式典で「都市インフラの脱炭素化に向けた大きな一歩。赤坂から新たな社会インフラの可能性を発信していきたい」と語った。来賓として出席した東京都の小池百合子知事は「エネルギー情勢が不安定な今こそ、水素はゲームチェンジャー。都内のグリーン水素需要拡大の重要なモデルになる」と期待を込めた。

特殊合金吸着で体積を圧縮 着火しにくいタンクを採用

今回の熱供給には、主要設備として水素タンク、燃料電池、水素ボイラーが導入されている。水素は山梨県甲府市の太陽光発電による水電気分解で生産。トレーラーで赤坂まで運び込み、核となる設備の水素タンクで受け入れる。水素タンクは1350N㎥の貯蔵能力を持つ吸蔵合金タンクで、1mmほどの砂のような形状をした特殊な合金が詰まっている。ここに吸着する水素の特徴を活用して体積を1000分の1相当に抑える。火を近づけても着火せず、1MPa未満で扱うため高圧ガスには該当しない。液体水素という利用効率を高める方法もあるが、ここでは生産から利用まで水素を気体のまま扱う。

特殊な吸蔵合金採用の水素タンク


燃料電池は純水素型で、5kWタイプ2台を設置。プラント構内のLED電灯や空調の一部などに電力を供給する。平常時の利用に加え、非常時の自立運転にも対応する。


水素ボイラーは1時間当たり2tの蒸気を生産するタイプを2台設置している。都市ガスと水素を50%ずつ混焼し、CO2排出量は、都市ガスの専焼式に比べて約21%削減する見込みだという。熱供給については、都内の臨海副都心でも水素モデルが始まるなど、水素の大規模利用が少しずつ進展している。

【特集2 省エネ最前線】Kenesが大学病院のエネルギー設備を一元管理で最適制御

関電エネルギーソリューション(Kenes)は、昨年11月に開設された近畿大学おおさかメディカルキャンパスにおいて、空調、給湯、照明などのエネルギー関連設備の設計から運転・保守管理までを一括で受託した。エネルギーを一元的に最適制御することで、省エネ性とコスト削減を両立する。

近畿大学おおさかメディカルキャンパスの全景


同社のサービスでは、設備の設計から資金調達、建設、運転、保守管理までを初期費用ゼロで一貫して引き受ける。高額な予算確保が困難な場合でも、高性能な最新設備を即座に導入でき、顧客は資金的な懸念なく事業運営に集中できる。省エネ効果が持続すれば、長期的に光熱費を削減でき、大きな利益がもたらされる。加えて、設備の省エネ性や快適性はKenesが厳格に検証するため、信頼性も担保されている。


こういった包括的なエネルギーサービスにより、顧客は経営資源を本業に最大限投入することが可能になる。とりわけ一刻を争う医療現場では、病院スタッフがエネルギー管理という煩雑かつ責任が重い業務から解放される意義は大きい。設備運用の判断をプロに任せることで、医療従事者が患者一人ひとりと真摯に向き合い、ケアに専念できる体制を整えられる。人の命を預かる現場が抱えるインフラの維持管理に関する不安を払拭し、より質の高い医療サービスに集中できる環境こそが、同社が提供する真の価値だ。

計画の方針変更に対応 長期安定稼働する設計提案

同社は2019年3月にプロポーザル形式で大学と契約を締結した。契約締結後にプロジェクト全体の計画の方針変更があり、施工については、設計と施工を分ける設計施工分離方式から、設計・調達など建設会社のノウハウが生かせる実施設計付施工方式(DB方式)となった。ユーティリティ本部ユーティリティ事業部の羅本和哉部長は「プロジェクトの長期化に伴い、当初想定していなかった状況が発生した。特にコロナ禍以降の物価高騰があり、社会が不透明な状況下でのコスト管理は困難を極めた」と振り返る。


そのような逆境にあっても「私たちを選んでくれたお客さまの期待に応えたい」と、同社はエネルギー設備の付加価値を向上させる提案をし続けた。ユーティリティ本部戦略グループの森俊介グループマネジャーは「私たちの優位性は、省エネや運用効率を高める設計提案、つまり『将来の運用を見据えた設計』にある」と語る。病院という特性上、長期間安定して稼働し、かつ点検・メンテナンスしやすい設備が必須となる。そこで、将来の故障リスクを回避する設計を随時提案し、同社の300件を超える豊富な実績に裏打ちされた最適解を作り上げた。森氏は「単に設計を請け負うのではなく、お客さまに寄り添い、お客さまの最適解を共有しながら、設計・建設を行い、運転・保守までを伴走するのがKenesの仕事」と語る。

ユーティリティサービスの概要

現場と遠隔でダブル監視 常時バックアップが可能に

現場では竣工から今日まで、同社の社員が24時間365日体制で常駐し、安定稼働と省エネを支えている。「エネルギー関連企業などで研さんを積んだ駐在社員は設備の設計意図を理解しており、問題が発生しても即座に要所を把握し、説明できる。それがお客さまの安心感につながっている」とユーティリティ本部お客さまサービスグループの岡田努グループマネジャーは話す。


現場での常駐監視に加え、大阪中之島の本社には24時間365日体制の遠隔監視センターが設置されている。機器の警報などを現場とダブルチェックし、本社から常時バックアップが可能だ。この遠隔監視センターは、19年の台風15号で千葉県の房総半島が被災した際に現地の停電復旧を遠隔で支援し、翌日からの通常営業を成し遂げた実績もある。


「われわれの真価が問われ、評価が下されるのは15年後」と羅本氏。サービス契約満了を迎える15年後に「またKenesさんにお願いしたい」と全幅の信頼を寄せられ、契約の延長に加えて、設備更新やさらなる省エネ実現のためのエネルギーマネジメント全般を任せてもらうことが究極のゴールだという。


あべのハルカスなど、大型施設の実績が豊富な同社にとっても、今回のプロジェクトは別次元だ。「大学病院のエネルギー需要は桁違いに大きい。特に本案件のような800床規模の大学病院はわれわれにとってもトップクラスの規模だ」(羅本氏)。一瞬の停電も許されない病院の特性の下で、いかに安定的かつ効率的に運用・エネルギーを管理するかがポイントだ。日々の運用で省エネ実績を着実に積み上げ、それらのデータ・ノウハウを基に、学会での発表も視野に入れている。今回の案件を確実な成功に導くことで、業界のフロントランナーとしてさらなる高みを目指していく考えだ。

左から岡田氏、羅本氏、森氏

【特集2 省エネ最前線】大阪ガスがエネファーム拡販 経済性と環境性を追求

2009年の販売開始以来、大阪ガスが展開する家庭用燃料電池「エネファーム」の累計販売台数は、25年11月時点で23万台を突破した。年間約2万台のペースで着実に積み上げており、全国的な普及に大きく貢献している。今後はさらなる拡大を目指す方針だ。


拡販計画の主軸となるのがアイシン製エネファーム「typeS(タイプエス)」。世界最高の発電効率、太陽光発電と連携した売電、停電時の自立運転機能や省スペース設計を実現したモデルだ。

世界最高の発電効率となるアイシン製の「typeS」


新築市場では来年4月の新ZEH基準「GX ZEH」制度の施行を切り口に、同製品のコンパクトかつ高効率な省エネ性を武器に提案を強化していく。


既築市場ではリプレースの促進を軸に、販売から10年以上が経過したエネファームやエコウィルからの交換を推し進める。加えて、エネファームの新規設置(給湯器の故障・交換時における置き換えや、買い替え後まだ年数が浅い場合には後付け)など、ユーザーのさまざまなニーズに応じた提案営業を展開していく。

最大出力運転で余剰を売電 政府の補助制度も後押し

同社は今年3月中旬からテレビCMを開始し、電力の購入量を年間約75%削減できることをアピールしている。また、同社のtypeSのカタログに記載されている想定条件下での試算では、①専用ガス料金プランの適用、②発電による購入電力量の減少、③余剰電力の売電―の3点により、年間約11万円の光熱費削減が可能だという。


さらに、エネファームと太陽光発電を併設した場合、「ダブル発電」と「ダブル売電」のいずれかのサービスを選択できる。ダブル発電は、エネファームが電力使用に合わせて運転し、太陽光の余剰分を売電する。

ダブル発電の光熱費削減効果


一方、ダブル売電はtypeS独自の最大発電出力700Wでの定格連続モードで運転し、売電量を大きく押し上げるサービスとなっている。


このダブル売電ができることが、競合製品にはないtypeSの優位性だ。


国や自治体も省エネ推進に本腰を入れている。その一環として、手厚い補助金制度も普及を促す大きな原動力となっている。環境省、経済産業省、国土交通省の3省合同の「給湯省エネ2026事業」では対象機器の設置に1台17万円の補助金を交付。加えて、自治体独自の補助金が交付される場合がある。


また、25年度には、優れた省エネ性能を有する住宅を対象とした「GX志向型住宅補助金」の制度が開始された。断熱性能や一次エネルギー消費量の削減率など、国が定める一定の基準を満たすことで受給が可能になる。25年度は最大160万円、26年度は建設地域によっても異なるが最大110~125万円程度の水準になる。

CO2排出量を大幅削減 多角的開発とVPP展開へ

光熱費削減効果だけでなく、エネファームは環境性にも優れている。同社が主に扱うtypeSは発売当初、発電効果は30~40%だったが、改良を重ねることによって世界最高水準の55%を達成した。


また、一次エネルギーの消費量は、従来のガス給湯暖房器と比べ約30%削減できる。今後施行が予定されているGX ZEHに対応するためには、このような高効率設備の採用が不可欠だ。同社では、エネファームはこの基準達成に大きく貢献できると考えている。


さらに、CO2排出量について、定格運転により24時間安定して発電し、効率的なエネルギー利用が実現することで、大幅に減らすことができる。同社ではその量を年間2・1tと想定している。


ユーザーは、エネファームの環境性をどう捉えているのだろうか。エネファームなら、導入するだけで、日々無理をしなくても、大幅な省エネと環境への貢献が実現できる。大阪ガスマーケティング燃料電池戦略グループの小島忠将チーフは、「『頑張らないといけない』という負担を感じることなく、家計と環境に優しい生活を両立できる点こそ、最大のメリットではないか」と言い、コンパクト化など顧客ニーズに応えられる製品の開発を推進していく構えだ。


同社は今後の展開として、このフラッグシップモデルの拡販を継続するとともに、メーカーと共に性能向上やコンパクト化に加え、販売実績から得た知見を生かした多角的な開発を推進していく。また、行政とも連携して実施してきたVPP(仮想発電所)などの実証成果を深掘りし、より一層の具体的なサービス展開についても検討を進める方針だ。

※最大発電出力1kw以下の家庭用燃料電池

【特集2 省エネ最前線】東京電力パワーグリッドが変圧設備の絶縁媒体に植物油を適用

大型電力インフラで脱石油依存の取り組みが進んでいる。CNにも資する東京電力パワーグリッドの戦略を聞いた。

インタビュー/塚尾茂之(東京電力パワーグリッド工務部変電技術担当部長)

―電力系統における設備運用で、化石資源の使用を減らす取り組みを進めています。


塚尾 カーボンニュートラル(CN)への取り組みが前提で、東京電力の第5次総合特別事業計画では2013年度比で30年度に50%以上のCO2削減を目指しています。例えば、適正な電圧に昇降圧する変圧器の絶縁媒体は、従来は鉱油や不燃性の特徴を持つSF6ガスでした。とりわけ都心部の地下変電所への設置が多い当社では、省スペース設計が可能で、防災面から不燃性であるSF6をよく使います。ただ、CNの観点から、化石資源の鉱油や地球温暖化係数(GWP)がCO2より非常に高いSF6ガスの使用を減らしています。

実運用下で防火性を明らかに 安全性担保する評価基準策定へ

―鉱油を減らすための具体策は。


塚尾 変圧器の絶縁媒体に植物油を適用することに取り組んでいます。植物油にはパームヤシを原料とした植物由来エステル系と、菜種や大豆を原料とした天然エステル系があり、植物が成長する過程でCO2を吸収することからCNと位置付けられています。植物由来エステルは引火点が鉱油と同等かつ低粘度で特性が似ています。機器のコンパクト化や高効率設計が可能ですが、引火点が鉱油と同じであることから、万が一の変圧器内部事故時の火災リスクを排除できません。一方、天然エステル系は鉱油と比べ高粘度で引火点が高く、海外では難燃性の油として知られています。国内流通量が最も多いのは国産で対応できる菜種油で、海外では大豆油が主流です。当社では24年度から導入を始め、パームヤシ、菜種、大豆それぞれを運用し、特性を見極めています。


 また、菜種と大豆は難燃ですが不燃ではありません。現在、実運用において不燃と難燃の防火性の違いを明らかにしようと業界全体で取り組んでいます。それらの評価基準をまとめた「電気協同研究」の報告書を28年度に発行する予定です。発行後はその基準を基に、各社の導入がさらに進むと思います。


―SF6ガスを使わない取り組みは。


塚尾 多くの設備でSF6ガスが使われていますが、今後はGWP1未満の自然由来ガス機器の開発・適用を進めていきます。当社府中変電所には、電力会社としては日本初となる代替ガス仕様のGIS(ガス絶縁開閉装置、72kV)を開発・導入しました。今後は開閉装置だけでなく変圧器でも代替ガス仕様の設備を開発し導入していきたいと考えています。

つかお・しげゆき 1994年3月早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了。同年4月、東京電力入社。主に変電所設計や技術開発に従事。

【特集2 省エネ最前線】伊藤忠エネクスが「テラりんアイ」で家電別電力消費量を可視化

一般送配電事業者が全需要家に導入したスマートメーターを活用し、電力の使い方を高度化する新たなサービスが生まれている。伊藤忠エネクスグループで家庭向けの電力小売りを手掛けるエネクスライフサービスでは、簡易型家電分離サービス「テラりんアイ(AI)」を展開中だ。スマメから取得した30分単位の電力データを使い、家庭内の電力消費を冷暖房、待機電力、冷蔵庫、照明、その他の機器―の五つのカテゴリーに分離。それぞれの消費する電力量の見える化を実現する。ドライヤーや電子レンジ、洗濯機など、人が生活する上で使われる電気は「その他」に分類される。


ユーザーは最新のIoT家電に切り替える必要はなく、HEMS(家庭用エネルギー管理システム)や各家電に取り付けるセンサーの費用なども掛からない。面倒な家電登録も不要だ。

AI分析で推定値を算出 電力波形から技術を構築

テラりんアイには、エネルギーベンチャーであるインフォメティスのテクノロジーを活用している。インフォメティスは、東京電力パワーグリッドと間接的に資本関係を持つ会社だ。公的な統計データなどを活用し、季節や天気、時間といったさまざまな条件からAIが分析して電力消費量を算出する。電力消費量は、正確値ではなく推定値という点がポイントだ。


インフォメティスはこれまで、分電盤に取り付けたセンサーから得られる消費電力のデータ解析に実績がある。家電ごとに異なる電力波形に注目し、膨大なデータを蓄積。波形の組み合わせを推定したNILM(ニルム)と呼ばれる機器分離推定技術を構築したことで、今回のサービスが可能になった。


エネクスライフサービスの張誠堅電力カスタマーサービス次長は、「他の新電力との差別化を図るために無料でサービスを提供している。使用量がどのように変わったかをお客さまご自身で確認できることで、顧客満足度の向上や解約率の低減につながっている」と話す。また、家電の稼働状況も把握できることから、簡易的な見守りサービスも検討している。


最近では、AIを活用した節電アドバイス「テラりんのAIでんき診断」というサービスを開始した。直近7日間、および30日間の電力使用状況を分析し、適切な節電方法をAIがアドバイスするサービスだ。


今後は、デマンドレスポンス(DR)の活用や家電ごとの利用に応じた新たな電気料金メニューの設計も検討中だ。さらに、ガスとの連携も見据えている。例えば、暖房、給湯の用途を「分計」できる機能を持つガスメーターを設置している家庭では「今月はエアコンを使った方がお得」「来月はガスファンヒーターの方がお得」というように、用途に応じた電気とガスの使い分けが経済的なケースもある。「ベストミックスによって『節約のための我慢の暮らし』ではなく、『快適さを保ち無駄を省く暮らし』をお客さまに届けたい」と張氏は意欲を見せている。

スマメの30分値を活用する

【特集2 省エネ最前線】エレクトロヒートセンターが加熱分野で電化を積極推進

産業界の電気利用による加熱・冷却システムの技術向上と普及拡大を図る日本エレクトロヒートセンター(JEHC)。省エネの余地が大きい加熱分野ではヒートポンプ、アークプラズマ、赤外線などのアプローチがある。中でも同センターがさらなる省エネに期待するのが、産業用ヒートポンプだ。


産業用ヒートポンプの一般的な導入スタイルは、既存の燃焼ボイラーとの組み合わせによるもの。給水された水をヒートポンプで60~90℃程度まで昇温し、その予熱によってボイラーの負荷を軽減するハイブリッド方式だ。同センターによると、年間で400台程度の産業用のヒートポンプ設備が導入されているそうだ。本来であればヒートポンプのみで対応するほうが省エネの効果は大きい。ただ、高温度帯への開発や大容量化など、産業用途の本格的な利用にはまだまだ技術的な開発に課題を残しているのが現状だ。


同時に生産プロセスを担う設備の改良も期待されている。その一例が、洗浄機などの設備メーカーが開発した、あらかじめヒートポンプを組み込んだ「プロセス一体型ヒートポンプ」だ。こうした設備によって、ユーザーは生産品の品質リスクを抑えつつ、汎用的な設備として取り入れやすくなる。

最適な提案・設計が必要に 専門人材の育成が課題

技術開発だけでなく、今後の省エネを進める上で欠かせない取り組みが、現場への導入を支援する人材育成だという。JEHCの関係者は「エネルギー供給事業者、設備メーカー、そしてユーザーの間をつなぎ、産業現場全体の生産プロセスを最適に仕上げる設備提案や設計をするインテグレーターが必要だ。残念ながらそういった人材はまだまだ少ない」と話す。


そうした状況を少しでも改善しようと、JEHCでは現在、用途や目的に応じた導入を解説するガイド本を販売中だ。また、定期的にセミナーなどを開催し、エネルギー事業者やメーカー、ユーザーの知見を広く共有しながら、産業用途の省エネに向けた取り組みを進めている。

設備導入を支援するガイド本

【特集2 省エネ最前線】東京ガスが行動変容と機器制御によるDRを展開 

東京ガスは家庭部門の省エネ・節電を促す取り組みとしてデマンドレスポンス(DR)に注力している。きっかけは2021年夏、電力卸市場の価格高騰、供給力不足による需給ひっ迫などが相次いだことに始まる。この影響による電気料金の上昇を緩和するため、実証的にDRの取り組みを開始した。

手軽に参加できる節電 行動自体を評価する仕組み

現在、主に取り組んでいるのが行動変容DRの「IGNITUREスマートアクション」と、機器制御DRの「蓄電池ネットワークサービス」だ。IGNITUREスマートアクションは専用機器を持たず、需要家自らの行動で手軽に参加できるのが特徴だ。東京ガスと電力契約を結んでいる需要家宛てに、需給がひっ迫する時間帯を事前にメールで通知。エントリーして当日の該当時間帯に節電した量に応じて同社の「パッチョポイント」を付与する。登録者は42万件(今年2月時点)を超えており、主にシニア世代、子育て世代など、在宅時間が長い世帯が中心だ。

行動変容DRの流れ


節電量はスマートメーターが計測する30分値の電気使用量を基にベースラインとの変化量によって算出される。当初は節電量に比例したポイント付与のみだったが、現在は複数のインセンティブを設けている。BTMカスタマー事業推進グループ事業企画室の木口莉沙係長は「日頃から節電に励む顧客は、ベースラインとなる消費量が低く、努力しても数値として表れにくいという課題があった。そこで節電量に応じたポイントに加え、エントリー者限定のポイント、対象時間帯の外出に対するポイント、キャンペーン期間中の累計節電量に応じたボーナスポイントなど、行動すること自体を評価する仕組みにした」という。こうして需要家の参加意欲を高めたことが参加者の増加につながった。


また、イオングループと連携し、節電時間に顧客に買い物や涼み場所への外出を提案する「お出かけキャンペーン」を実施。参加者は自宅の消費電力量を減らせるのに加え、「節電は意外と楽しくできるものという認識を持ってもらうきっかけになった」と木口氏は語る。


この他、ネイチャーのスマートリモコン「Nature Remo」シリーズと連携し、節電タイム中にエアコンの温度設定を自動調整するオプションを導入した。ユーザーは特段の操作なしに節電に参加でき、ポイントも獲得できる。


こうした下げDRの施策によって、生み出された調整力は東京ガス内の電力需給バランス改善に役立てられている。今後、精度が向上していけば、社会全体としてさらに活用できるものになると同社ではみている。

蓄電池をネットワーク化 充放電制御で市場活用へ

機器制御DRの蓄電池ネットワークサービスは、家庭用蓄電池をIoTでネットワーク化し、群として束ねて電力需給の調整に活用する取り組みだ。蓄電池を所有する世帯は行動したり、操作したりすることなく、同社が需要予測から判断して、下げDRを中心に、上げDRと下げDRを組み合わせて時間シフトを実施する。また、太陽光発電の自家消費運転でも最適な運用、逆潮流などでさらなるピークカットやシフトを行っている。

蓄電池ネットワークサービスの仕組み


同事業企画チームの木村駿介課長は「ネットワーク化して蓄電池にこうした制御を行うことで、新たな価値を生み出すことにつながる」と話す。これまで家庭用蓄電池を導入する目的は太陽光発電の自家消費だった。ただ、この活用法では電気代の削減効果にとどまっていた。これをネットワーク化して電力システムに組み込み、充放電時間を制御しながら電力市場で活用すると、自家消費以上の価値を生み出せる。


事業者側から見ると、家庭用蓄電池からの逆潮流はVPP(仮想発電所)の調整力を飛躍的に高める可能性を秘めており、低圧VPPの社会実装に欠かせないという。技術的にはすでに制御可能な段階にあり、同社では昨冬から容量市場の発動指令電源として実効性テストに活用するなど、部分的に運用を開始している。今後は、現在1000件超の需要家数を数万件規模へ拡大し、容量市場や需給調整市場への参加を通じた収益化と顧客への経済メリット還元の両立、系統の安定化への寄与を目指す。


同事業企画室の清水猛室長は「DRの最終目標は顧客や事業者、社会のそれぞれにメリットを享受できる三方よしとなるエコシステムの構築」と話す。昨今のエネルギー価格の変動など社会課題の解決に貢献する手段として、さらに重要性が増していくことになるだろう。

左から清水氏、木口氏、木村氏

【特集2 省エネ最前線】SHK制度改正で未利用エネ活用の進展に期待

エネルギーの面的利用で効率化を図る地域熱供給。制度改正などを追い風に活躍の場が広がっている。

インタビュー/松原浩司(日本熱供給事業協会専務理事)

―地域熱供給は、省エネにどのような効果を発揮しますか。


松原 一番の特徴が、都市活動を面的に支える基盤システムという点です。これまで設備の効率化などを積極的に進め、冷暖房、給湯、蒸気を中心にエネルギー効率を向上させてきました。そのため、業務部門を中心に都市、あるいは供給エリア全体での省エネに貢献できると考えています。

清掃工場などの排熱を対象に追加 CO2排出係数の計上が不要に

―今年4月に、温室効果ガス排出量算定・報告・公表(SHK)制度が改正されました。


松原 今回の改正のポイントの一つが、未利用熱の活用が盛り込まれたことです。例えば、清掃工場の排熱を利用した事業者は、CO2排出係数の計上が不要になりました。これにより、地域熱供給のCO2排出原単位がさらに改善されていく方向になると考えられます。また、熱供給各社のCO2排出を実質ゼロにできるメニューの提供をさらに後押しするなど、SHK制度活用の質的な拡大につながっていくことを期待しています。


―ここ最近で注目すべき導入事例は。


松原 一つには、大阪・うめきた地区の再開発による複合施設「グラングリーン大阪」が挙げられます。ここでは、帯水層蓄熱を活用して、冷暖房のエネルギー削減を実現しています。もう一つが長野県小諸市の事例です。同市は、下水熱利用の地域熱供給を採用しました。老朽化した医療機関や市庁舎の更新などを機にしたコンパクトシティ形成に併せて導入し、エリア内のエネルギーの効率化、省エネにつながりました。さらに、エネルギーコストも削減され、財政の負担軽減にも寄与しています。地域熱供給は大都市での導入が中心と思われがちですが、人口約4万人の小諸市がモデルとなれば、規模を問わず、今後、地方へのさらなる展開も期待されます。


―中長期ロードマップの取り組みの進捗はいかがですか。


松原 2050年に向け、①最新技術の導入による省エネ・省CO2運転、②熱の脱炭素化、③街のレジリエンス強化―を3本柱に取り組んでいます。①では、AIによる自動化と人の監視によるハイブリッドのエネマネを進めています。②では、SHK制度や水素の積極的な活用も、想定より前倒しで進んでいる状況です。引き続き、地域熱供給が都市拠点基盤インフラとして都市の発展を支え続ける役割を果たすために取り組んでいきます。

まつばら・こうじ 中央大学法学部卒、通商産業省(現経済産業省)入省。四国経済産業局資源エネルギー環境部長、地域経済部長などを歴任。2021年から現職。

【特集2 省エネ最前線】化石資源利用の課題再浮上 依存度減へ業界対応が加速

第三次オイルショックは日本の産業や生活に大きなダメージを与えている。省エネや化石利用を減らす取り組みがこれまで以上に求められている。

資源が乏しい日本は、1970年代に二度にわたるオイルショックに見舞われた際、エネルギーの供給側では電源種や調達地域の多様化を図り、需要側では省エネルギー政策へとかじを切った。その後、需要側、とりわけ産業分野では「絞った雑巾」と言われるほど徹底した取り組みを進めてきた。40年以上の時を経て、再び訪れたオイルショック。「省エネの余地はないのか」「化石資源の利用をさらに減らす手段はないのか」―。そんな課題が今、エネルギー業界や需要家に改めて突き付けられている。

需要側リソースを有効利用 制御・調整力などに効果

家庭用に目を向けると、蓄電池やエネファームといった新しい商材が登場した。東京ガスや大阪ガスなどの大手都市ガス会社は、こうした需要側のリソースを制御するVPP(仮想発電所)やDR(デマンドレスポンス)の新しい運用スタイルに取り組んでいる。


一日中電力を消費し続ける冷蔵庫のベースロード需要を電力の調整力に使うのは中部電力だ。庫内の冷蔵品の品質を保ちながら消費電力のタイミングを意図的にずらすことで、わずかな量ではあるが効率的な運用につながっている。


一般送配電事業者が全需要家に導入を進めてきたスマートメーターを活用した注目の取り組みが、30分値のデータから機器ごとの電力消費量を計測する技術を用いたサービスだ。この技術は、エアコンや照明などが消費する電力波形の細かな違いに着目したもので、機器単位での電力消費量を「見える化」できる。この技術を使い、伊藤忠エネクスはエネルギーの小売りと効率的な消費を支える、二兎を追う戦略を取っている。


産業分野や大型建築の分野では水素利用に着手する事例も。このほど運用が始まった東京・赤坂エリアでは、再生可能エネルギーから作ったグリーン水素による熱供給事業が始まった。ものづくりの製造業が集積する東海地区では、東邦ガスが水素バーナーの導入を進めている。こうした取り組みは、化石資源の利用を減らしカーボンニュートラル(CN)にも資する「一石二鳥」の戦略だ。


今回の特集では、家庭分野用から業務・産業分野まで、エネルギー業界の「終わりなき省エネ」に向けた取り組みを追いながら、改めて問われている日本の戦略を考える。

省エネ対策に終わりはない

【特集2まとめ】中東危機下の省エネ戦略 家庭・業務・産業の最前線

イラン戦争を機に、エネルギー利用の在り方が問われている。

今回の危機を契機に、さらなる省エネを進める必要がある。

1970年代の危機の時と比べて、技術革新が進展しており、

さまざまなエネルギー設備・製品が生み出されてきた。

さらに今は、2050年カーボンニュートラル実現の流れの中で、

水素など化石資源への依存度を抑える取り組みも進んでいる。

家庭用から産業用まで各分野の取り組みを追った。

【アウトライン】化石資源利用の課題再浮上 依存度減へ業界対応が加速

【インタビュー】3年間で7000億円の予算確保 非化石転換の設備更新を支援

【レポート】東京ガスが行動変容と機器制御によるDRを展開

【レポート】大阪ガスがエネファーム拡販 経済性と環境性を追求

【レポート】ベースロード需要を調整する中部電力の「冷蔵庫DR」

【レポート】伊藤忠エネクスが「テラりんアイ」で家電別電力消費量を可視化

【インタビュー】行動変容促す仕組みで社会全体の需要調整を

【レポート】赤坂熱供給が都心エリアの地冷運用にグリーン水素を活用

【レポート】Kenesが大学病院のエネルギー設備を一元管理で最適制御

【インタビュー】SHK制度改正で未利用エネ活用の進展に期待

【レポート】エレクトロヒートセンターが加熱分野で電化を積極推進

【レポート】CN実現へ水素対応商品を拡充 需要開拓を図る東邦ガス

【レポート】三浦工業が「省エネ診断」で工場の課題を見える化

【インタビュー】「省エネとCN」一石二鳥の水素転換

【インタビュー】東京電力パワーグリッドが変圧設備の絶縁媒体に植物油を適用

【特集2 省エネ最前線】ベースロード需要を調整する中部電力の「冷蔵庫DR」

ルームエアコン、エコキュート、蓄電池、エネファームなど家庭用のデマンドレスポンス(DR)を支える多様な商材が生まれる中、中部電力ミライズとパナソニックは家庭用冷蔵庫を使ったDRサービスの取り組みを本格的に開始した。


コンプレッサーを動かし、冷媒を循環させて庫内を冷やし続ける家庭用冷蔵庫。統計ではエアコンに次ぐ電力を消費するが、果たしてこの「ベースロード需要」に対して電力調整の余地はあるのか。この疑問に対してサステナブル社会推進本部の猪飼文洋・エネルギープラットフォーム構築部課長は次のように説明する。


「冷蔵庫はコンプレッサー向け電力とともに、デフロストと呼ばれる、冷却器に付着した霜の除霜にも電力が使われている。コンプレッサー用電力は庫内の温度や食品に影響が出ない範囲で一時的にオフできる。一方、デフロストは通常、深夜の時間帯に稼働していることが多いが、時間帯をずらすことも可能だ」。同社はこれらのポイントに注目。2023年からパナソニックとともにDRの可能性を探ろうと、ユーザーにも協力を得て実証を重ねてきた。

電力調整に効果がある冷蔵庫


実証では、冷蔵庫から発するドレミのメロディによるお知らせと同時に、電力消費の上げ下げを開始。上げのタイミングではデフロストを機能させ、下げではコンプレッサーを一時的に止める。一連の作業を自動的に行うことから、ユーザーへの負担はない。庫内の食材などの品質に影響は与えないことから、好意的に受け止めているユーザーがほとんどだという。


実証では、冷蔵庫のDRが実現できたと同時に、「冷蔵庫以外のDRにもつながった」(猪飼氏)という。下げDRの場合、これまでの機器制御型DRだと1・2倍程度の効果にとどまっていた。だが、冷蔵庫を使ったDRではユーザーの省エネ行動を誘引し、他の家電などにも波及したことで、全体の1・7倍の節電効果につながった。一方、上げDRの場合では1・8倍で、全体で2・2倍の効果だったという。両社が実施したアンケートによると「冷蔵庫のDRお知らせ機能の要請時に他の家電に対するアクションが変わった」とするユーザーが7割に達したそうだ。

主体的なDR参加を促進 余剰再エネの有効利用に

同社はこれまで、家庭向けDRサービス「NACHARGE(ネイチャージ)」を展開してきた。ユーザーが主体的にDRに参加することを促し、ユーザーはポイントを得られるサービスだ。現在、利用実績は約37万件に上るという。


同社は今後、家庭用の冷蔵庫を使った仕組みを取り入れる計画だ。冷蔵庫を切り口に他の家電に対するアプローチを変容させれば、さらに大きなDR効果が見込める。


中部エリアでは、余分に発電した再生可能エネルギーに対し、23年度は14日、24年度には23日の出力抑制を実施した。再エネを有効活用する上でも、期待が掛かるサービスだ。

【特集2 省エネ最前線】CN実現へ水素対応商品を拡充 需要開拓を図る東邦ガス

東邦ガスは30年以上前から工場向けの工業炉バーナーの開発に取り組んできた。同社が都市ガスを供給する地盤の東海3県が、工場の集積地であることが要因の一つ。工場を含む業務用などの分野へのガス販売量は約8割を占めるという。このほか、都市ガスは、電気に比べて工場までのエネルギーロスが少なく、工業用に適していたことも挙げられる。


東邦ガスエナジーエンジニアリング・産業技術部技術グループの清水誠也次長は「金属を温めたり、溶かしたり、ものを乾燥させたりとさまざまな用途でガスの熱源が必要になる。そこで、ガスの販売量を増やすことを目的に、熱効率の向上と、燃料を削減できる廃熱回収型バーナーなどの高効率工業炉バーナーの開発を始めた」と経緯を振り返る。

水素燃焼の耐久試験は1年以上にわたるものも


バーナーによる省エネのポイントとしては、主に次の二つが挙げられる。一つは空気比の正常化だ。燃料を燃焼させる際に必要な最小限の空気量は、理論空気量という。工業炉でバーナーを使用する時には、その理論空気量よりも若干多めの空気で燃焼させる必要がある。空気量が不足した場合には、一酸化炭素が発生し、安全性低下につながるためだ。


逆に空気が過剰の場合は、排ガスの持出熱が増大してしまう。そこで、バーナーの空気比を低減することで、排ガス量を減らせば、省エネにつなげることができる。


もう一つが、廃熱回収だ。燃焼に使用する空気を排ガスと熱交換することで、廃熱を効率良く回収することができる。

設備投資不要で試験が可能 工業炉の水素転換を支援

同社は、これらの技術の研究、開発を強化することにより、シングルエンドラジエントチューブバーナーといった高効率で耐用年数の長い商品を開発。さらに、省エネニーズに対応した低NOX型や省エネ型バーナーにも着手した。近年はカーボンニュートラル(CN)に対応すべく、都市ガス工業炉バーナーの水素対応モデルを商品化し、販売している。

研究所内の水素供給施設


東邦ガスは現在、メーカーとともに製造・開発した12種類の産業用バーナーを取り扱う。このうち水素燃焼が可能なバーナーは2機種あり、それ以外の機種でも研究、開発を進めているという。


東邦ガス・イノベーション推進本部技術研究所の大栗延章課長は「ステップとしては、仕様に沿って設計、試作をし、初期の性能評価を行う。性能自体に問題なければ、耐久評価を実施。機種によっては1年以上にわたる検証も行いながら、都市ガス仕様と同等の耐久性が証明されたものを商品化する」と開発のポイントを明かした。


さらに、「アルミの溶解などに利用されることが多い浸漬加熱バーナー(GIH)と鋼材などの熱処理向けのリジェネレイティブラジアントチューブバーナー(RSTB)などは、耐久性評価を進めており、商品化も視野に入っている」と新たなラインアップへの期待感をにじませる。同社は今後も要望や需要が見込めるものについて、水素バーナーの商品拡充を図っていくという。


加えて、同社では技術研究所内(愛知県東海市)で工業炉の水素化検討を支援するため、「水素燃焼おためしサービス」を展開中だ。2021年に始めた同サービスは、年間で10件ほどの利用がある。利用する事業者は、都市ガスと水素、それぞれの燃焼状態の比較試験を通じて、水素化による製品や既存設備への影響を確認でき、試験後の燃焼データの報告書も受け取ることが可能だ。また、水素設備への投資が不要で、コスト抑制のメリットもある。

「おためしサービス」実施中の水素燃焼試験フィールド

省エネやCNの推進へ 多様な顧客ニーズに対応

東邦ガスは、今年3月に更新した「2050年カーボンニュートラルへの挑戦」の中で、天然ガスへの転換などによる足元からの低炭素化と、複数の手段による供給エネルギーのCN化を掲げる。イラン情勢など、エネルギーを取り巻く環境が激変する中、水素を含む多様なCN化手段に取り組むことで、環境変化に応じた柔軟な対応を実施する方針だ。清水氏は「会社として、しっかりとお客さまの要望や需要に応えることを、第一の目標にしています。省エネやCNの推進に積極的に関わっていきたい」と決意を語った。

技術開発に携わる清水氏(左)と大栗氏

【特集2 省エネ最前線】「省エネとCN」一石二鳥の水素転換

エネルギー、工業製品ともに影響を及ぼす原油不足。小林准教授は、水素転換などを本気で考える好機と話す。

インタビュー/小林敬幸(名古屋大学大学院工学研究科先進化学工学システム 准教授)

―中東危機の影響をどのように捉えていますか。


小林 ナフサ不足が一番のインパクトです。日本は、国内需要量の半分以上のナフサを輸入している一方、原油からナフサを生産すると、連産品として軽油やガソリン、重油も作られます。特定の石油製品の生産量を増やしたり減らしたりすると、おのずと他の製品の生産量にも影響します。例えば、プラスチックの使用量を減らすことは、ガソリンの消費量を減らすのと同じこと。つまり、プラスチック生産を減らすには省エネも必要で、省エネで賄えない部分は石油以外への燃料転換で、全体バランスを考えた設計が必要になります。


 電力の供給源も各種電源を組み合わせたベストミックスとなるバランスが重要です。逆風にある石炭火力も発電効率を上げるための技術開発やアンモニア混焼など、温暖化対策に向けて取り組める内容はあると思います。


―化学産業において、例えば、原油から天然ガスへの転換はできるものですか。


小林 工業製品は、水素とCO(一酸化炭素)があれば製造できるので、天然ガスも使えます。ただ、価格の安さから、原油を原料とした製造が主流になっているのが現状です。

燃焼への使用で水素価格低減へ 地産地消モデルへの展開も

―水素のような次世代エネルギーの利用拡大のきっかけになるでしょうか。


小林 オーストラリアでは国と民間企業の連携で水素プロジェクトが進んでいますし、水素を活用したいという需要家も出てきていて利用が加速する方向にいくと思います。ただ、課題は価格です。現状では燃料電池用の高純度水素での供給がメインですが、工業炉の燃料用であれば、もう少し純度の低い水素でも使用が可能になり、価格を落とせます。また、そうした純度の水素であれば、例えば、ごみ焼却場の余剰電力で水素を作り、地域で活用するモデルも考えられます。水素の利用拡大につながるケースだと期待しています。


―製造現場などでも水素の研究は進んでいるのでしょうか。


小林 水素は燃焼速度が非常に早く、火炎の短さが特長です。それを踏まえ、バーナーの配置や炉内の空間設計を工夫することで燃焼効率を上げることは可能です。水素転換は、化石資源の削減とCO2排出削減の一石二鳥です。今後、水素の利用を進める上で、工業炉の構造を見直すチャンスだと思っています。

こばやし・のりゆき 1989年、名大工学部化学工学科卒。92年、同大高温エネルギー変換研究センター助手を経て現職。省エネ技術や蓄熱研究開発などに従事する。

【特集2 省エネ最前線】三浦工業が「省エネ診断」で工場の課題を見える化

産業用ボイラーメーカー大手の三浦工業が展開する「省エネ診断」サービスへの需要が高まっている。1982年のスタート以来、延べ約7万件以上の診断を実施してきた。


サービス提供の始まりは、自社製の小型貫流ボイラー導入を促すため、他社の大型ボイラーの性能や熱効率を診断、工場の燃料費削減に貢献するためだったという。FE戦略統括部の山口秀樹統括部長は「まず、お客さまが毎日、日誌につけていた燃料消費量や給水量、排出するブロー量などの数値をデータ化した。それを基に、ボイラーの効率や燃料消費量の改善を提案していた」と振り返る。

三浦工業が提供する省エネ診断の進化


省エネ診断の一環で当初から実施している「日誌分析」では、前述のとおりボイラーの管理日誌からデータを解析し、季節変動などの通年傾向を確認。高効率の最新設備に入れ替えた場合のコストメリットを試算するほか、維持費などの諸費用についても提示している。


このほか、「負荷分析」では、同社が自社開発した負荷分析装置を使用し、蒸気の変動を秒単位で計測。ボイラーの適正な容量選定を行うことができる。そのため余分なボイラーを増やすことなく、イニシャルコストを抑えた上で、安全性を考慮した提案が実現している。また、大型ボイラーから小型ボイラーへ入れ替えた場合は、複数台のボイラー設置となる。その際に、圧力や温度を大きく乱さずに運転できるかどうかを表す指標(負荷追従性)を事前に予測・評価する「シミュレーション」も省エネ診断に組み入れている。


同社の省エネ診断では現在、ボイラーの診断の他、コンプレッサー設備の診断や廃熱回収の分析、水処理設備での水流量や水位診断などが可能。工場全体のエネルギーの現状を「見える化」することで、課題を浮き彫りにし、解決策を見いだすツールとして有効だ。関東省エネコンサルティング部の上藤丈浩部長は「中小、大企業を問わず、省エネ診断の依頼が増加傾向にある」と手応えを感じている。

施設内の全設備を見守り 効率的なエネ供給を提案

さらに昨年4月、施設のあらゆる設備を見守る「まるごとメンテナンスサービス」を開始した。メンテナンスによりエネルギーロスや設備性能を回復させることに加え、生産状況の変化、気温や気候変動などの外来的な環境の変化を予測し、工場生産に関わる必要なエネルギーの効率的供給方法も提案中だ。


同社には熱ソリューションを提供する熱の専門家「熱ソムリエ」がおり、全国94拠点に約1200人のフィールドエンジニアが在籍する。上藤氏は「今後も地域の省エネ支援、そして省人化の支援に寄り添いながら、真摯に要望に応えていきたい」と意気込んでいる。

【特集2 省エネ最前線】行動変容促す仕組みで社会全体の需要調整を

新築中心に、住宅の省エネ基準が徐々に強化されている。家庭の省エネへの影響や今後の課題について話を聞いた。

インタビュー/中村 美紀子(住環境計画研究所取締役 研究主幹)

―住宅の省エネ基準の最近の動向について教えてください。


中村 昨年4月に新築住宅の省エネ基準適合が義務化され、全ての新築住宅・建築物が対象となりました。さらに高性能な住宅として位置付けられるZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)基準は遅くとも2030年度までには新築住宅の基本水準として、その性能を確保することが求められています。ZEHの新たな定義が公表されましたが、27年4月からZEHをさらに高性能化した「GX ZEH」も適用される予定です。


―ZEH基準とGX ZEHで異なる点は何でしょうか。


中村 GX ZEHではZEH基準よりもさらなる断熱や設備の高性能化が求められます。太陽光やHEMS(家庭用エネルギー管理システム)の活用、戸建住宅では蓄電池の採用も重視され、エネルギーを効率的に活用し、最適化するための仕様が必要になります。

既築住宅への対応が不可欠 リソース面で自治体間の差も

―新築住宅の基準強化が進む中、既築住宅にはどのような課題がありますか。


中村 脱炭素社会の実現には既築住宅の省エネ対応が不可欠ですが、所有権の問題などから行政介入が困難です。また、省エネ機器の買い替えなどの改修を進めるにあたり、補助制度への予算や専門人材の確保という面では自治体間でリソースにも差はあるようです。


―DR(デマンドレスポンス)の活用についてはいかがでしょうか。


中村 すでに一部地域で導入されているDRですが、今後は社会全体への普及に向け、対応機器の拡充やピーク時の需要コントロールが課題です。調整が需要家の負担とならないよう、需要家にとってメリットのある仕組みが欠かせません。例えば、イギリスでは政策を立案する際にユーザーの行動変容を促す「行動デザイン」の考え方や手法が活用されています。無理なく需要家の参加を後押しする工夫が重要になります。


―効率向上だけでは脱炭素化の実現は容易ではありません。


中村 家庭では、給湯や暖冷房に多くのエネルギーが使われています。これらを高効率な機器へ更新することは重要ですが、高い目標を達成するには、政府や企業の取り組みだけでは十分ではありません。エネルギーを使う需要家への啓発や、行動変容を促す環境整備が不可欠になると思います。

なかむら・みきこ 2002年入社。家庭用エネルギーや国内外の省エネ規制などの調査、住宅省エネ基準の策定支援に従事。26年4月から現職。工学博士。