【特集2まとめ】分散型システムの再登板 脱炭素・BCP対策の新たな基盤へ


分散型システムは再生可能エネルギーの有効利用、レジリエンス対策、地域活性化、コージェネによる熱の有効利用―など、さまざまな利点から導入が始まった。

特に最近は、マイクログリッドや地域熱供給で力を発揮する導入事例が増えている。

一方、AIの普及によるデータ量の急増を背景に、データセンターの建設が進み、電力の大量消費が始まる。データセンターは電気をつくる電源設置に加え、送り届ける送電網や変電所の整備・増強が欠かせない。

この工事を簡略化するため、発電所内にデータセンターを直接建設したり、データセンター近傍にコージェネを設置したりといった動きも出てきた。

AIの進化が分散型エネルギーの用途を生み出し、「再登板」の時が到来している。

【アウトライン】課題解決の切り札として脚光 分散型システムの用途が拡大

【レポート】構築進むマイクログリッド CO2削減と災害対策強化に寄与

【レポート】太陽光発電の自己託送を展開 再エネ電源の開発拡大に注力

【レポート】ガスエンジン使い風力を安定電源に 系統運用に貢献する新たなモデルへ

【レポート】初期投資ゼロで大型設備群を構成 高度医療機関への安定供給支える

【レポート】国際線ターミナルにコージェネ 空港の脱炭素化に貢献

【レポート】地産地消エネを最大限に活用 官民の役割分担で事業性確保

【インタビュー】過疎地の配電網維持に課題 マイクログリッドの好例必要

【レポート】万博で海水と帯水層を熱利用 地の利生かした冷房システム

【インタビュー】環境価値でCO2削減に成果 都内地下鉄駅でCN化を達成

【トピックス】デジタル技術で低圧DERを制御 消費最適化へソリューション展開

【トピックス】再エネ活用の切り札「EBLOX」 設備の三位一体運用で安定供給

【トピックス】テスラ製蓄電池を無償で設置 電気代低減とレジリエンス向上図る

【特集2】環境価値でCO2削減に成果 都内地下鉄駅でCN化を達成


昨年策定した中長期ロードマップの取り組みが順調だ。この1年間の成果と今後の施策について話を聞いた。

インタビュー/松原浩司(日本熱供給事業協会専務理事)

―昨年7月に「地域熱供給中長期ロードマップ」を発表し、カーボンニュートラル(CN)とレジリエンスへの貢献に向けた行程を打ち出しました。進捗を教えて下さい。


松原 ロードマップでアプローチ1に位置付けたDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進に向けてDX研究会を立ち上げ、有効な事例を集めています。アプローチ2の熱の脱炭素化に向けては、温室効果ガス排出量算定・報告・公表(SHK)制度の活用の他、次世代燃料の導入が進んでいます。例えば、赤坂熱供給(東京都港区)は、赤坂5丁目エリアで、来年1月から太陽光由来のグリーン水素を活用した熱供給を行うことを公表しています。アプローチ3のレジリエンスでは、地域熱供給が有事でもエネルギー供給が継続できる特徴を生かします。万が一の災害時には、需要家やビル入居者、さらには帰宅困難者が「逃げ込める街」となるよう対策を講じている事例にも関心が集まっています。


――SHK制度では、熱の環境価値を評価した係数の公表や、CO2排出係数ゼロメニューの提供が可能となりました。事業者の反応は。


松原 会員事業者の4分の1が係数を公表し、需要家が国に報告するCO2排出量は合計で約5万3000t削減したと見込まれます。開始から1年で多くの事業者が利用したことは大きな成果です。今年4月には丸の内熱供給と池袋地域冷暖房が「カーボンオフセット熱メニュー」を公表し、東京メトロ7駅の空調などに使用する全ての熱をCN化しました。

―4月に開幕した大阪・関西万博では今回も地域熱供給が採用されています。


松原 1970年の大阪万博で国内初の地域熱供給方式が採用され、その後、千里ニュータウンや新宿新都心など、本格導入につながりました。今回の万博においても海水の冷却熱利用や、地中60mの帯水層に熱を蓄える帯水層蓄熱などの最新技術を導入した地域熱供給が採用されました。

万博の採用が普及の第一歩 特徴や付加価値をアピール

―全国に熱供給を普及していく施策は。


松原 地域熱供給が万博で採用されていることも、個別のビルでは取り込みにくい海水熱や帯水層に蓄えた熱を活用可能なことも世間ではあまり知られていません。省エネ、CN、まちづくりに資する地域熱供給の有する価値をステークホルダーの皆さまに分かりやすく伝え、正しく理解されるよう取り組むことが普及に向けた第一歩と考えています。

まつばら・こうじ 中央大学法学部卒、通商産業省(現経済産業省)入省。四国経済産業局資源エネルギー環境部長、地域経済部長などを歴任。2021年から現職。

【特集2】万博で海水と帯水層を熱利用 地の利生かした冷房システム


大阪・関西万博は4月の開幕から日を追うごとに盛り上がりを増している。今後ますます重要になる酷暑対策に、地域熱供給を使った空調システムが活躍しそうだ。

大阪・関西万博の開幕から、早くも2カ月が経過した。夏の訪れとともに来場者数のさらなる増加が見込まれる中、重要となるのが酷暑対策だ。この課題に、会場では地域熱供給方式を活用した「集中冷房システム」が大きな役割を果たしている。

73のパビリオンに供給 建築美と高い親和性

日本熱供給事業協会は6月5日、万博会場内の熱供給施設を報道陣に公開した。会場内では、4カ所に設置された熱源設備で製造した冷水を全長約9kmの配管を通じて73のパビリオンに供給。各パビリオンでは、冷水を利用して冷風を作り館内を冷却している。


一般的な商業ビルやホテルでは建物ごとに室外機や熱源設備を設置するケースが多く、それに伴うスペースの確保が必要となる。同協会技術部長の鶴崎将弘氏は、「建築美を追求した多様なパビリオンが立ち並ぶ会場では、空調設備が空間設計の妨げになる可能性がある。省エネ性やレジリエンス性が高く評価されている地域熱供給方式は、この点においても非常に親和性が高い」と説明する。実際、1970年の大阪万博や2005年の愛知万博でも同様の方式が採用されてきた。

来場者に施設内の快適性を提供する


今回の熱供給施設では、冷水をより効率的に製造するため、外気を使用しない二つの冷却方式を採用している。その一つは「海水熱利用方式」だ。冷水を製造する際には、吸収した熱を外部に放出するための冷却水が必要となる。通常は冷却塔で外気と熱交換して冷却を行うが、今回はその一部に温度の低い海水を使用して冷却する仕組みを取り入れた。鶴崎氏は「海水を活用することで冷却塔の電力消費量を抑えられる。また、海水熱は再生可能エネルギー熱の一つでもある」と強調する。


もう一つは、地下の「帯水層」を活用する手法だ。大阪市の地下約60mには、年間を通じて20℃弱の地下水が溜まる帯水層がある。この層に通した2本の井戸を使い、冬季にくみ上げた水を一方の井戸に蓄え、夏季の冷却に利用することで、さらなる省エネを実現している。


熱供給施設の運用管理を行うDaigasエナジーの担当者は、「海水と帯水層の利用は、海に囲まれ、地下に帯水層がある夢洲の好条件があってこそ実現できた」と説明。地の利を生かした冷房システムが、万博の運営を支えている。

【特集2】国際線ターミナルにコージェネ 空港の脱炭素化に貢献


【西部ガス】

福岡空港は九州・西日本の拠点空港として国内線28路線、国際線24路線が就航し、国内外の交流を支えている。増えるインバウンド需要とともに、アジアのゲートウェイとしての機能も求められるようになり、2022年から国際線旅客ターミナルの増改築が進められてきた。


今年3月28日にグランドオープンを迎えた同ターミナルには、ガスエンジンコージェネ(400kW×1台、ヤンマー製)が導入された。西部ガスが供給する都市ガスを燃料に、空港の多様なエネルギー需要に対応している。

S+3Eの視点も重要 都市開発に欠かせない存在

今回、コージェネを導入した背景にあるのは空港の脱炭素化の推進だ。海外との窓口となる空港では、国際競争力確保の観点からも脱炭素化が急務になっている。


国土交通省は22年3月に「空港脱炭素化推進のための計画策定ガイドライン」、さらに同年12月に「航空脱炭素化推進基本方針」を策定。各空港が脱炭素化実現に向け、具体的な目標や取り組み内容を定めた計画を作成し、実行していくことを求めている。

空港施設のCO2排出削減のため、建て替えや増築時における省エネ対応もその一つだ。そこで今回、既存の熱源設備を一新し、新たにコージェネを導入。6~10月の夏季電力ピーク時間帯の電力使用量を抑制し、ピークカットを達成した。電力需要の平準化の他、廃熱を空調に利用することが可能になり、省エネが実現。電力コストの削減にもつながった。

国際線ターミナルにエネルギー供給するコージェネ


また、電力の大量消費者ともいえる空港の運営には、今後はS+3Eの考え方も必要となる。安全性(Safety)の確保を大前提に、エネルギー安定供給(Energy Security)を第一として、経済効率性の向上(Economic Efficiency)と環境への適合(Environment)のバランスを取ることが重要だ。こういった見方を実現しているのがコージェネだと言える。


現在、福岡では、空港の他、都心部でも大規模な再開発プロジェクトが二つ進行中だ。このうちの一つ「天神ビッグバン」の目玉「ワン・フクオカ・ビルディング」が今年4月に開業した。街の新たなにぎわいの中心となっている。ここにも、西部ガスが都市ガスの供給を行い、コージェネが活躍している。


都市の成長は人々を引き付け、街のさらなる発展につながる。福岡市は政令指定都市の中でも人口増加率が高く、より多くのヒトの往来やモノの流通を支える準備が整ってきている。コージェネはこれからの福岡の発展に貢献していきそうだ。営業本部・福岡都市開発部の鈴木田渉氏は、「都市の再開発には欠かせないものとして今後ますます注目されていく」と期待を寄せている。

【特集2】ガスエンジン使い風力を安定電源に 系統運用に貢献する新たなモデルへ


【北海道ガス】

GX(グリーントランスフォーメーション)・DX(デジタルトランスフォーメーション)で電力需要の拡大が見込まれる中、3月1日に商業運転を始めた北海道ガスの北ガス石狩風力発電所を舞台に、系統安定化に資する新たな再生可能エネルギーのモデル化への挑戦が始まった。同発電所と、系統への連系点が異なる北ガス石狩発電所(LNG火力)を一体的に運用して常に定格で接続し、送電網の負荷軽減を目指す。

「安定再エネ電源」を目指す北ガス石狩風力発電所


生産技術部建設推進グループの沖田雅夫マネージャーは「再エネが拡大していく中での系統運用を送配電事業者任せにせず、火力発電事業者も一定の役割を担えないかと考えた。既存インフラと再エネとの親和性を確認していく」とその意義を説明する。


同社は2030年度までに再エネ取扱量15万kWを目標に掲げており、石狩風力発電所は同社グループが初めて自社建設した風力となる。出力2000kWのFIP(市場連動買い取り)電源だ。

一方、石狩発電所はガスエンジン12台、計9万kW強で、同社の電力販売を支える主力電源として18年から稼働する。従前から他の地域の再エネをいくつか束ね、その調整用電源としても活用。計画値同時同量でインバランスの回避に努めてきた。今回の運用もインバランス回避につながる点は共通しているが、さらに風力と火力を1対1で運用する。定格出力、かつ風力と火力が別系統に連系しているという点で、他に類を見ない取り組みといえる。

精緻な制御で変動分を調整 貴重なノウハウ獲得に期待

系統運用者である北海道電力ネットワークが求める条件をクリアできるよう、これまで以上に精緻な制御を行っている。基本的に風力はフルで稼働し、出力が2000kWに満たない場合はまずガスエンジンの稼働で調整。それでも取り切れない変動分は1800kW時の蓄電池(風車1時間の発電量に相当)で対応する。今のところ運用面で大きな問題は生じていないという。


FIPのプレミアムは市場価格に連動しており、価格が高い時間帯に供給する電源へのインセンティブを高める設計となっている。他方、同社の場合はピークシフトによる収益向上は見込めない代わりに、安定再エネ電源という価値を重視した。加えて、ガスエンジンの活用で、従来の風力に蓄電池を併設する場合の規模と比べて、蓄電池容量を半分程度に抑えることができた。その分、初期導入コストの削減につながっている。

沖田氏は「貴重な化石資源をうまく使い、再エネを長期にわたり環境価値を提供する安定電源とすべく、チャレンジしていきたい。さらに今回、風車や蓄電池の建設から運用までを経験することで、当社にとって貴重なノウハウを得られる。30年目標に向けた再エネ開発の足掛かりとしても重要な意味を持つ」と強調している。

【特集2】太陽光発電の自己託送を展開 再エネ電源の開発拡大に注力


【広島ガス】

広島ガスは昨年4月、東尾道太陽光発電所の運転を開始した。発電した電気は、自己託送により本社ビルなど8施設に供給する。自己託送とは、遠隔地にある自社発電所で発電された電気を一般送配電事業者の送配電網を利用し、別の場所にある自社ビルなどに送電する仕組みで、同社として初めての取り組みだ。


同社は再生可能エネルギー電源の開発を進める中で、2021年に広島県尾道市にある自社の遊休地の有効活用を決定。当時は電力小売り事業を手掛けておらず、電源確保の優先度がそれほど高くなかったため、当初はFIT(固定価格買い取り)制度を活用した売電を検討していたという。

東尾道太陽光発電所(広島県尾道市)


経営企画部イノベーション推進室の城本菜穂氏(現・電力事業部電力企画部運営グループ)は、「売電価格が低下し続けていたのに加え、PPA(電力購入契約)も検討したが、収益性を考えれば長期契約が必要なため契約締結に関するリスクがあった。こうした事情を全て踏まえ事業性を評価した結果、自己託送に決まった」と背景を語る。


同発電所の発電規模は850kWで、自己託送先の本社ビルなどの使用電力約40%を賄うことが可能になった。また、再エネ由来の電力を使用することで、年間約536tのCO2削減効果を創出している。

ガスと電力の両輪で成長 30年度目標に向けて着実に

同社は、今年4月に公表した中期経営計画において、総合エネルギーサービス事業者として、従来の事業ポートフォリオからの変革を志向している。今後は、電力小売り事業と再エネをはじめとする新たな事業育成に取り組むことで、ガスと電力の両輪で成長していく考えだ。経営企画部イノベーション推進室の小林清秀室長は「再エネ電源取扱量は、現状で30年度目標の7割以上を達成している。大野浦バイオマス発電所の建設や北海道での小型風力発電事業への参入など、今後も目標達成に向け着実に積み上げていく」と語る。重点施策に掲げる電力小売り事業の拡大と合わせ、再エネ電源の開発に取り組む構えだ。

【特集2】課題解決の切り札として脚光 分散型システムの用途が拡大


分散型エネルギーシステムを導入する動きが再び加速してきた。電力需要への対応や災害時の安定供給など、多方面で活用されている。

再生可能エネルギーやコージェネレーションシステム、蓄電池などの設備を限定した地域に配置して最適制御する分散型エネルギーシステム。エネルギーロスが少ない、災害時の安定供給、環境負荷の軽減、地域経済の活性化―などの利点から全国で導入が進んでいる。

DCの早期稼働に寄与 国も有効策として期待

そんな分散型エネルギーが新たな用途で脚光を浴びようとしている。データセンター(DC)での活用だ。AIの急速な進化とともに、インターネット上で扱うデータ量が全世界で急増。DCの電力消費量はうなぎ上りに増えると見られる。国際エネルギー機関(IEA)はチャットGPTの電力消費はグーグル検索の約10倍に上るとの試算を公表している。この莫大なデータ量と電力需要のための電源の確保が課題となっている。


DC建設に合わせ、電源を確保するには、送電網や変電所の増強が欠かせない。立地条件によっては整備に10年以上を要する場合もあるとのことだ。そこでより短期に建設するために考えられているのが、電源のある敷地内へのDC建設、DC建設場所への電源併設といった手法だ。送電線を整備せずに運用できるため、国外ではGAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)などが、大規模発電所の隣接地へのDC建設を相次いで発表している。

分散型エネ利用に期待がかかるデータセンター


国内でもこうした動きが始まっている。電力と通信インフラを効率的に整備することを目的に、総務省と経済産業省は3月から「ワット・ビット連携官民懇談会」を開催。6月の「取りまとめ1・0」では、DC地方分散の推進と運用の高度化を検討策として、「DCにおける蓄電池やコージェネの整備により、既存の電力インフラをより有効に活用する事業環境の可能性を検討」と分散型エネルギーの活用について記されている。


都市ガス業界ではDC建設の動きを商機と見ている。同業界が提案するのは、ガスエンジンなどのコージェネをDC敷地内に設置して、電気を供給し、廃熱から冷水を作り出して空調に利用するという仕組みだ。4万kW規模の発電設備を建設する場合、発注から引き渡しまで2年程度と、DCの早期稼働に寄与できる。


大型電源のある供給元にエネルギー需要をつくり、分散型エネルギーのような仕組みを構築する取り組みも始まっている。さくらインターネットとJERAは6月、JERAのLNG火力発電所の構内へのDC建設を検討する基本合意書を締結した。発電所内にDCを設置することが可能であれば、新たな送電網の建設が不要になり、DCの早期稼働が期待できる。また、DCの消費電力の大部分を占める冷却システムに、JERAのLNGの冷熱を活用することが考えられる。この取り組みを含め、ガス利用の新たな用途に注目が集まっている。

停電時にも供給を継続 全国の自治体に普及の動き

分散型エネルギーの一つとして、特定エリア内でエネルギーを自給自足するマイクログリッド(MG)が挙げられる。MGは大規模災害などで長時間の停電が見込まれる場合、既設の電力系統からMG対象エリアを切り離し、エリア内の電力システムを使い、独立して運用できる。現在、全国で10弱の自治体が導入。有事への備えとして関心が高く、今後さらに普及していく見込みだ。


千葉県いすみ市では2019年の台風15号による大規模停電を教訓にMGを導入した。太陽光発電設備を市庁舎と中学校(合計279kW)に設置。中学校には、同設備に加えて蓄電池(238kW時)とLPガス発電機(計100kW)を配置した。三つの電源を高度に制御することで、いすみ市庁舎と避難場所に指定された大原中学校を取り囲むエリアの約30軒に災害時にも電気を供給する。

いすみ市は台風被害を教訓にMGを構築した


また、昨年4月、沖縄県宮古島市全域が停電した際には、市内の来間島で構築していたMGを稼働。同市の他の地域に比べ早期復旧が実現した。


一方で課題もある。建設・運用全般にかかるコストだ。いすみ市の場合、事業投資額は約7億円。有事に備えた設備とはいえ、投資額に対し、収支を合わせるのは困難と言われている。資源エネルギー庁省エネルギー・新エネルギー部新エネルギーシステム課の山田努課長は「初期投資だけでなく、運用コストも意識する必要がある。限定したエリアでの需給バランス維持は、大規模系統に比べてコストがかかる傾向にある。このため、平時での発電を自家消費やエリア内の共用に充て、系統からの購入電力量を削減し、ピーク電力を低減するなどして、収支のバランスをとることが肝要だ」と説明する。


限られたエリアに小規模な熱源設備を使って、地域冷暖房などに利用する熱供給にも注目が集まる。コージェネなどの設備運用で低炭素化を図れることから、全国的な普及が進んでいる。この追い風となっているのが、昨年4月の温室効果ガス排出量算定・報告・公表(SHK)制度の改正だ。


熱の環境価値を評価した係数の公表やCO2排出係数ゼロメニューの提供が可能となり、日本熱供給事業協会の会員事業者のうち、4分の1が係数を公表。需要家が国に報告するCO2排出削減量は合計で約5万3000tを見込む。今年4月には、丸の内熱供給と池袋地域冷暖房が「カーボンオフセット熱メニュー」を公表。東京メトロ7駅の空調などに使用する全ての熱のカーボンニュートラル化を実現した。


一時は脱炭素化で系統電力より存在感が薄れていたものの期待が高まる分散型システム。本特集ではその最新動向に迫る。

【特集2】再エネ活用の切り札「EBLOX」 設備の三位一体運用で安定供給


三菱重工エンジン&ターボチャージャ

三菱重工エンジン&ターボチャージャのトリプルハイブリッド発電システム「EBLOX(イブロックス)」が注目を集めている。同社は2021年に経済産業省の「分散型エネルギーリソースの更なる活用に向けた実証実験」に参画。3年以上かけて製品化にこぎつけた。


EBLOXは、天候に左右される太陽光などの再生可能エネルギー電力の変動を蓄電池で吸収、平準化させる。加えて、天候変化や昼夜の時間帯変化に発電量が左右されないディーゼルやガスエンジンによる発電がバックアップする。


これらの電源を制御するシステムが「COORDY(コーディー)」だ。多様な電力供給ニーズや、オフグリッドでの運用にも対応できる。また、AIとの連携により、電力需給を想定したデマンド予測や、気象予測を活用した太陽光発電電力の想定なども可能だ。


エンジン・エナジー事業部の大矢巧氏は「EBLOXはさまざまな組み合わせが可能。一言で言えばケースバイケース。工場向け、ビル向け、離島向けなど、お客さまと一緒にシステムを作り上げていきたい」と抱負を語る。今後、さまざまな用途に広がりを見せそうだ。

多様な用途に対応する

【特集2】テスラ製蓄電池を無償で設置 電気代低減とレジリエンス向上図る


グローバルエンジニアリング/芙蓉総合リース

グローバルエンジニアリング(GL)は、芙蓉総合リースと共同でテスラ社製蓄電池「Powerwall(容量13.5kW時)」を使用した分散型電源アグリゲーションサービスの提供を開始した。


2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、再生可能エネルギーの導入が拡大している。こうした中、天候や時間帯などで出力が変動する再エネ電源に対する出力抑制が増加しており、需給調整機能を保持した蓄電池の重要性が高まっている。


この取り組みでは、両社が顧客に蓄電池を無償で設置し、GLがサービスとメンテナンスを行う。また、同蓄電池は室内に床置き、壁掛けなど手軽に設置できるのが特長だ。


GLは出力抑制が予見される昼間の時間帯で蓄電池に充電し、太陽光発電の出力が減少し電気料金が高騰する夕方の時間帯で放電するといった制御を行う。これにより、顧客は電気料金の低減を図りつつ、災害発生時に系統電源が停止しても蓄電池の電気が利用でき、レジリエンス向上につながる。GLは今後、VPP(仮想発電所)を構築し、分散型電源の広域的利活用を目指していく方針だ。

ユーザーに無償で設置する

インフォメーション


東京ガス/東京都

グリーンメタン製造実証で協定締結

東京ガスは5月7日、東京都が公募した「グリーン水素と下水汚泥由来二酸化炭素によるグリーンメタン製造(合成)事業」に採択され、協定を締結した。原料には、大田区京浜島に今年度中に整備予定の水素プラントで製造したグリーン水素と、同区森ヶ崎水再生センターから出た下水汚泥由来の混合ガスを用いる。メタネーション装置はIHI製で毎時12.5N㎥の小型タイプを採用した。下水汚泥からの混合ガスはCH4とCO2を分離せず、配管で連続的に供給しながら製造する。同プロセスの採用は国内では初めてという。2026年度中にe―メタンの製造を開始する計画だ。

エリーパワー/スズキ

農家を対象にBEV軽トラックを実証

エリーパワーは4月、スズキが取り組むBEV軽トラックの実証実験にパートナー企業として参加すると発表した。実証実験では、軽トラック「キャリイ」をベースに製作したEVとV2H機能を搭載した蓄電システムを農家に一定期間貸し出し、使用してもらう。農家のBEV軽トラックの潜在需要と、太陽光発電エネルギーのベストな利用方法について調査する。軽トラックに搭載するエリーパワー製リチウムイオン電池「HYバッテリーLシリーズ」は、15年繰り返しフル充放電を行っても電池容量保持率70%と長寿命、かつ事故発生ゼロと高い信頼性を有する。

赤坂熱供給

グリーン水素を活用する熱源設備を導入

赤坂熱供給は3月、東京都港区赤坂5丁目で運用・管理する地冷システムにグリーン水素を活用するための熱源設備を導入すると発表した。山梨県とやまなしハイドロジェンカンパニーが製造したグリーン水素を使用。同社プラントまでトラックで運搬する。プラントはヒラカワ製の水素ボイラー、素吸蔵合金を活用した清水建設製の水素貯蔵システム、燃料電池で構成される。水素ボイラーは都市ガスとの混焼が可能だ。同社の担当者は、「化石燃料由来の水素ではなく、グリーン水素の利用にこだわった」とアピールする。2026年1月に運用を開始する計画だ。

中国電力

ブルーカーボン推進事業に石炭灰製品が採用

中国電力は5月2日、鳥取県境港市が実施する境港ブルーカーボン推進事業(中浜港藻場造成実証実験)に同社の石炭灰製品「Hiビーズ」が採用されたと発表した。実証では約160kgのHiビーズをコンクリートブロックとともに水中に設置。藻場の形成と水質浄化効果などにより植物プランクトンの増加が期待され、ブルーカーボン効果向上に貢献していく。

GSユアサ

ホンダ船外機工場で蓄電池設備が稼動

GSユアサは4月24日、本田技研工業の細江船外機工場に納入した2000kW時規模のリチウムイオン電池設備が稼働を開始したと発表した。同工場内でエネルギーサービスを担うTGESが採用したもの。PCS盤と蓄電池盤が分割されているため、必要容量に応じた柔軟な設計対応が可能。太陽光発電設備と連系稼働し、再エネ電力の無駄のない活用に貢献する。

エア・ウォーター

大阪市の駐車場に垂直ソーラー発電システムを納入

エア・ウォーターは5月9日、大阪市のタイムズ南本町第一駐車場に垂直ソーラー発電システム「VERPA(ヴァルパ)」を納入し、実用運転を開始したと発表した。同製品は両面受光型の太陽光パネルで、従来よりも反射光トラブルを軽減。直射日光がわずかな時間しか届かない高いビルに囲まれた都心部の駐車場でも、効率的な発電が可能だ。

 【特集2】未来の「あたりまえ」を創造 大規模実証で実用化を検証


【関西電力】

関西電力は万博会場を舞台にさまざまな実証を行っている。
カーボンニュートラル実現に向けた交通分野と電力供給の取り組みに注目だ。

関西電力は「大阪・関西万博」で、「Beyond 2025」と題し、未来社会の「あたりまえ」をコンセプトに次世代エネルギーの取り組みを披露している。

EVバスの充電計画を検証 ピーク電力の最小化目指す

会場でまず目を引くのがEVバスの取り組みだ。会場内の移動手段として運行するEVバスは東ゲートと西ゲートの間を大屋根リングの下などを通過しながら移動していく。関電は大阪市高速電気軌道(OM)とダイヘン、大林組、東日本高速道路などとともに経済産業省と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) が進めているグリーンイノベーション基金の助成を受け、EVバスの大規模実証を行っている。具体的には100台以上(会場内で運行するのは30台)のEVバスを導入し、①運行管理システム(FMS)と一体となったエネルギーマネジメントシステム(EMS)の実証、②道路の一部に充電用コイルを埋設した走行中給電システムに関する実証―の二つを実施中だ。

走行給電を行うEVバス


充電器を独立して運用すると、車両を接続した時点で充電が開始となる。複数台でタイミングが重なると電力消費のピークが立ってしまう。①の実証ではFMSとEMSを組み合わせ、運行計画に基づき、充電の優先度を考慮する。また、負荷平準化した充電計画を作成し制御することで、ピーク電力の最小化を目指している。目標は70%以上のピーク電力削減とのことだ。
②走行中給電では、バス停や会場西側の道路にコイルを埋設し、この上を停止・通過する際にワイヤレスで給電する。ソリューション本部eモビリティ事業グループの奥畑悠樹課長は「約50mの道路区間に給電用コイルを10セット設置した。この上を通過すると最大で30 kWの電力を送ることができる。実運用ではバス停や駅のロータリーなど、車両がしばらく停車する場所での活用が有望」と説明する。

ワイヤレス給電をスマホ充電で説明


EVバスに関する他の取り組みとしては、バス停を情報発信ステーションと位置付け、未来社会をイメージした映像を流すなど、演出を施したものを会場内3カ所に展開する。「東ゲート北停留所」は、近くに位置する電力館と同じボロノイ形状を採用しデザインの一体感を演出。バスの停車位置にはコイルが埋設され、乗降中に充電できるようになっている。同バス停には、この仕組みをトリックアートやスマートフォンのワイヤレス充電を用いて解説する仕掛けが工夫されている。
他のバス停では、木材を基調とした持続可能な未来社会を表現したものや、国内最大規模の「3Dホログラムサイネージ」を採用した未来的な演出を行うものがある。3カ所三様のデザインと演出が見ものだ。

空飛ぶクルマの急速充電 冷却装置で性能低下を防止

冷却しながら空飛ぶクルマを充電

万博の目玉となる展示の一つでもある空飛ぶクルマのデモフライトは、会場内のモビリティエクスペリエンスで行われている。関電は同プロジェクトに参画するSkyDriveに充電設備を提供している。両社は22年に資本業務提携を締結。25年には提携を拡充し、充電システムの開発などで協業する。会場には充電器と冷却装置で構成する関電の充電設備が設置された。同グループの古田将空課長は「空飛ぶクルマはEV充電器の2~3倍の高電圧・大電流で急速充電を行う。バッテリーの温度上昇は性能低下などの原因になるため、冷却装置でバッテリーの温度管理を行うことが望ましいとの考えからこの構成となった」と話す。SkyDriveの機体は現在テスト中で、7月頃に会場で飛行する予定だ。
このほか、水素発電の取り組みでは姫路第二発電所(兵庫県)のガスタービンコンバインドサイクル発電1基(約48・65万kW)を使い、最大30 vol%の混焼率を目標に水素混焼を実施中。信頼性・安全性などを確認しながら、万博会場まで発電した電気の一部を送り届けている。
水素燃料電池船「まほろば」の運航ではエネルギーマネジメントなどを担当。同船は燃料電池と蓄電池で稼働する。同社南港発電所(大阪市住之江区)に水素充填と電気充電の設備を設置してエネルギー供給を行い、最適な方法を検証中だ。

バス停で水素発電をアピール


このように、関電は次世代エネルギー実証やその情報発信を万博という檜舞台で繰り広げている。カーボンニュートラル実現に向けた機運の高まりと相まって、同社の先進的な取り組みはさらに加速していく。

【特集2】グリーン水素の供給網を構築 通信インフラを有効に活用


【NTTアノードエナジー/パナソニック】

NTTとパナソニックがパビリオン間でグリーン水素の供給網を構築した。
さらに、既存の通信網を活用し、供給時の安全対策にもつなげていく構えだ。

NTTとパナソニックが連携し、地産地消のグリーン水素の本格利用に向け、その可能性を探っている。
NTT側で主体的に動くのはNTTアノードエナジーだ。NTTパビリオンの屋根にペロブスカイトの太陽光パネルを敷き、再生可能エネルギーでグリーン水素を製造。併設した純水素型燃料電池を通じてパビリオン内で自家消費する。加えて200mほど離れたパナソニックのパビリオンにも供給する。NTT側が埋設した水素導管を通じ、パナソニックの純水素型燃料電池の燃料にも活用する。

グリーン水素を製造して貯める

光ファイバーで音響を検知 漏洩箇所を瞬時に特定

NTT側が水素利用や供給に取り組む理由には二つの意義がある。「NTTグループは全国で約1%相当の電力を消費しており、カーボンニュートラルに取り組む責務がある」。NTTアノードエナジーの担当者はこう話す。1%とは約82億kW時。この脱炭素化がグループとして喫緊の課題だという認識だ。
もう一つの意義が既存インフラの有効活用だ。「地下空間には全国60万㎞の光ファイバー網を整備している。この通信インフラを活用して水素供給網を構築することで脱炭素化に貢献できないか模索中だ」(同)
今回の会場内の水素管には光ファイバーが巻き付けられている。そしてこの仕掛けこそが、今後の水素供給の可能性を広げる鍵となる。水素はクリーンなエネルギーだが、一方で漏えい対策は重要課題だ。「例えば導管から水素が漏れ出すわずかな音でも、光ファイバーによって音響を検知して瞬時に漏えい箇所の特定が可能になる」(同)
現状の水素供給では、都市ガスのガス事業法にのっとって運用しているため、一般的にはガス漏れの臭いを確認するために保安の観点から付臭されている。事業者は水素の製造場所で付臭し、付臭された水素を導管で供給。需要機器側で付臭剤を取り除き燃料電池などの設備を動かす必要がある。
一方、今回のNTT方式では、付臭剤は不要だ。その分、コストを抑えられる。実際の運用コスト面で現状方式との比較をするのは難しいが、仮に安全性の評価や保全対策の効率向上の成果が得られれば、今後の展開に弾みを付けることになろう。
同社は、さまざまなデータを収集し、2028年までに運用の実現を目指す。

【特集2】大阪湾を滑るように航行 水素を利用する次世代船舶


【岩谷産業】

大阪・関西万博のカーボンニュートラルの取り組みは会場内だけではない。岩谷産業の水素燃料電池船「まほろば」は新たな移動体験を提示している。

大阪・関西万博の開催に合わせて、岩谷産業は4月15日、水素燃料電池船「まほろば」の運航を開始した。同船は、岩谷産業が主導し関西電力などが技術協力する形で建造された。全長33m、幅8m、2階建てで定員は150人。駆動の主要部分となる燃料電池スタックと水素タンクは燃料電池自動車「ミライ」を手掛けるトヨタ自動車製を船向けに転用した。燃料電池で発電した電気と蓄電池のハイブリッド動力で航行する。

船舶に珍しいメタリックなデザイン


船のバンカリングのため、同社は関西電力の南港発電所(大阪市住之江区)に水素ステーションを整備した。旅客船向けとしては国内初となる。ここで水素充填と電気の充電を行う。1回のエネルギー供給で130㎞の航行が可能だ。
船体はアルミ合金製の双胴船で、自動車を中心に活動する山本卓身氏がデザインを担当した。金属に光る船体は従来の船とは一線を画すものだ。

大阪湾を滑るように航行 これまでにない移動体験

4月24日に開催された乗船会では、ユニバーサルシティポートを出航し、天保山や海遊館、工業港湾地帯を通り、万博会場のある夢洲まで大阪湾を巡るルートを遊覧した。大阪湾の出入り口となる灯台に差し掛かると万博会場の大屋根リングが確認できた。
乗船してまず驚くのはエンジン音が全くしないこと。エンジン船のような重低音の振動や排気のにおいは一切なく、代わりに航行で風と水を切って進んでいく音がとてもよく聞こえる。船内アナウンスの声も鮮明に聞こえるほどの静かさだ。加速も滑らかで、波が小さいポイントに差し掛かると、滑るように船が進んでいく。

万博仕様に装飾された船内


カーボンニュートラル実現に向けて、運航時にCO2を排出しない水素燃料電池船が誕生したことは大きな象徴となる。また、次世代エネルギーで稼働するというだけでなく、移動体験そのものの価値が変わる可能性も秘めている。こうしたさまざまな側面から、まほろばは大きなインパクトを残す存在となっていきそうだ。

【特集2】電化による空の次世代型移動手段 交通分野の課題解決に期待高まる


【トピックス/空飛ぶクルマ】

電気を動力に飛行し、騒音が少なく環境にも優しい「空飛ぶクルマ」。渋滞解消や過疎地の移動、災害時の輸送などの活用が見込まれている。

SF小説や映画の世界を彷彿とさせる次世代モビリティ「空飛ぶクルマ」。実物の機体が万博会場にお目見えした。特徴はヘリコプターや小型航空機よりも安価で騒音が少ないこと。都市部の渋滞解消をはじめ、離島や山間部の移動手段や災害時の救急搬送・物資輸送などの活躍が期待されている。
今回の万博にはANAホールディングス、日本航空・住友商事共同出資のSoracle、丸紅、SkyDriveの4社が出展。各社の機体は、来場者の関心の的になっている。展示施設「空飛ぶクルマステーション」も見どころだ。体験型シアターには最新技術による映像や立体音響・振動を採用。実際に空中を移動しているような臨場感が味わえる。

離着陸場で公開されたSkyDriveの機体

EVや蓄電池で培った知見を活用 インフラ整備で関係各社と協業

空飛ぶクルマは、電気を動力源に飛行する。モビリティの電化で期待されるのが、ゼロカーボン社会への貢献だ。そうした中、関西電力はEVや蓄電池などで培った知見を生かし、電力供給面からサポートを行っている。会場内の離着陸場「EXPO Vertiport」ではオリックスとの連携で電力インフラの整備と運営を担当。一方、SkyDriveと共同開発中の充電設備も提供している。
SkyDriveは2021年に日本で初めて、空飛ぶクルマの型式証明申請が国土交通省に受理されたリーディング企業だ。関電は22年に同社との業務提携を締結。今年3月には追加で出資し、社会実装の促進と事業領域を拡大する計画を発表した。今後、太陽光発電・蓄電池オンサイトサービスやエネルギーマネジメントシステムなどによる離着陸場向けエネルギーソリューションの共同提案を実施する。同時に、機体や充電システムを改良し、デファクトスタンダード化を進める方針だ。
国や自治体の動きも加速している。経済産業省と国土交通省、また東京都はそれぞれ官民協議会を設立し、技術開発や制度整備などを協議中。さらに、国交省は今年1月、「バーティポート(VP:空飛ぶクルマ専用の離着陸場)施設の在り方検討委員会」を立ち上げ、インフラ整備に関する議論を開始した。将来、日常生活で利用できる移動手段となるのか、今後の動向が注目される。

【特集2】特殊塗料で位置情報の精度を補完 走行しながらの無線給電実証


【トピックス/自動運転EVバス】

特殊塗料の活用で安定しながら、無線給電の実証が行われている。これら新技術の本格実装が実現すれば、EVの普及にもつながりそうだ。

車の自動運転が可能になれば、現在私たちを苦しめている多くの社会課題が解決し、かつ新たな産業も創出される。実際アメリカではすでに自動運転タクシーのサービスが商用展開されている。
万博会場では、約100台の自動運転EVバスが運行している。自動運転には衛星を使った位置情報確認システムが不可欠だ。しかし今回のルートでは、高速道路やトンネル内、夢洲と舞洲を結ぶ夢舞大橋、大屋根リング下などで、その精度低下が懸念事項となっていた。そこで対策として、道路にGPSを補完する特殊塗料「ターゲットラインⓇペイント」を塗装。車両に搭載されたLiDAR(ライダー)センサーがその特殊塗料を認識・追従することで安定した自動運転を実現している。またこの特殊塗料は、道路と同系色での製造が可能なため、路面標識と誤認しづらく、安全面への配慮も万全だ。

万博会場を走る自動運転EVバス

磁界共鳴方式を使って給電 5社の企業連合が開発

自動運転バスは、車の無人運転を意味するレベル4で会場内を外周する。運転席には万一に備えて、ハンドルを握らない運転士が常駐。車内に設置されたモニターにはキャラクターが登場し、クイズ形式で自動運転について教えてくれる。
会場の外周を走るEVバス30台のうち6台は、走行中でのワイヤレス給電(Dynamic Wireless Power Transfer:DWPT)を採用。磁界共鳴方式を使い、道路に埋設した送電コイルから車両側の受電コイルに電力を供給している。
このDWPTシステムは、ダイヘン、大林組、関西電力、大阪市高速電気軌道(大阪メトロ)、東日本高速道路(NEXCO東日本)の5社から成るコンソーシアムが開発した。ダイヘンが給電装置を手掛け、大林組が道路への施工を担当。関西電力はDWPTを含む会場全体の電力管理システムを開発し、大阪メトロがEVバスの運行を担う。NEXCO東日本は実証の成果を生かし、高速道路への実装に向けた研究開発を進めている。
DWPTが普及すれば、EV普及を妨げている充電問題が解決され、より自由な移動が可能になる。