市場連動型の電気料金プランを導入している電力小売り大手A社が、独自に考案した手法によって現在の卸市場価格高騰の局面を切り抜けようとしているようだ。電力事情に精通する市場関係者Z氏の話で浮かび上がった。
年初来の大寒波と電力需給危機はひとまず落ち着いたものの、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格は依然として高値水準を維持している。インバランス料金単価の上限をkW時200円とする臨時措置が1月17日から適用されて以降も、連日のように午後6時前後の時間帯では200円の超高値。ただ気温が上昇する予報の22日の受け渡しでは、午前9時のコマで190円となった以外は、おおむね100円以下の水準になった。
「100円が大したことない水準に感じてしまうのが恐ろしい。それでも小売り事業者の経営には甚大な影響が出る。JEPXからの調達比率が3割程度の大手事業者でも、あと半月、100円が続いたらキャッシュが完全に底をつく状態だ。資金援助がない限り、到底もたない」。大手エネルギー会社系の新電力関係者X氏はこう話す。
一方で、市場連動プランを提供する小売り各社にとっては、収益への直接的な影響はある程度回避できる半面、1月分の電気料金支払い額が跳ね上がる顧客からの解約依頼が殺到している状況だ。Z氏によると、この危機を何とか乗り切るべく、A社が法人顧客向け対策として考え出したのが、同社との契約をあえて解除し、大手電力会社の最終補償約款などを活用してもらう方法だという。その際、通常なら適用される違約金を全額免除する代わりに、しかるべき時期にA社に戻ることを条件としているもようだ。
「もちろんA社の利益は激減するだろうが、顧客との接点は最低限維持しつつ、好機が到来するのをじっと待つ戦略として考えれば、ある意味したたかな裏技だ。とはいえ、いずれ出戻りする際、A社が魅力的なプランを提示できなければ、顧客はほかに行ってしまうだろう。リスクが高いことに変わりはないと思う」(Z氏)
今後、A社に限らず、さまざまなアイデア(制度の隙間を突く裏技も含め)でこの危機的局面を克服しようとする事業者が現れよう。賛否両論は当然あるだろうが、国の救済に頼らない意味では、これが自由化市場本来の姿なのかもしれない。なお、1月18日に市場高騰対策で経産省に要望書を出した新電力56社の中に、A社が入っていないことは言うまでもない。