北米の広範囲が異例の大寒波に見舞われている。厳しい寒さで暖房需要が増大する中、南部のテキサス州では風力発電所のブレードやタービンの凍結や燃料制約によるガス火力発電所の停止により電力需給がひっ迫。これに伴い15日午前には、同州の電力スポット価格が上限の1MW時当たり9000ドルを突破してしまった。
ダラスやヒューストンなど広範囲にわたり計画停電が実施され、同州の系統・市場運営機関であるERCOT(州電気信頼性評議会)は、厳しい気象状況が緩和されるまで計画停電が継続される可能性があるとして需要家に可能な限りの節電を要請しているという。
厳しい寒さと燃料制約による需給ひっ迫――。どこかで聞いたような話だ。そう、日本においてもLNG不足による需給危機が1月に起きたばかり。自家発への発電要請などあらゆる手段を講じ停電は回避したが、テキサスでは自家発の立ち上げやDRなどを実施しても不足し、大寒波に襲われているにもかかわらず停電せざるをえない状況に陥ったという点で、日本よりもよっぽど深刻な状況だと言える。電力自由化の先進地であるテキサス州も、厳寒で20GWもの火力発電所が停止することまでは予想できなかったようだ。
アナリストは、「発電事業者は、ガスパイプラインを使用する権利をノンファームで押さえている。寒さでガスの需要がパイプラインの供給能力を超えてしまい、燃料を供給できなくなってしまった」と、テキサス州の燃料制約の理由をこう説明する。別の学識者は、「テキサスが容量市場を持たない『エナジーオンリーマーケット』であることも背景にあるのではないか」と話す。需給ひっ迫時には卸電力価格を人為的にスパイクさせることで電源への投資を呼び込む考えに基づいているが、実際は、風力の導入拡大に伴い厳気象時の頼みのはずの石油火力が退出してしまった。何度か容量市場導入の議論は持ち上がってはいるものの「社会主義的だ」として政治家によって潰されてきた経緯がある。他方、北米最大の独立系統運用機関であるPJMは、容量市場を導入し予備電源として石油火力を備えているためこうした危機には強い。
電力業界関係者からは、「一部の学識者や新電力関係者が世界的に長時間に渡る市場価格高騰など起きていない。日本の1月の市場価格高騰は世界的に類のない極めて異常な『災害級』の事象だと主張していたが、そうではないということがこれではっきりしたはずだ」という声も聞こえてくる。特に今年は、世界的な低気温で英国やベルギーなど各国で400~500円/kW時の値を付けている。日本の200円など低い方だというのだ。
いずれにしても、自由化の進展度合いに関係なく、再エネが発電しない時には火力に頼らざるをえず、その火力は燃料がなければ発電できないのだ。電力システム全体として安定供給をどう維持していくのか。海外事例もよく検証しながら日本固有の課題も踏まえた上で電力システムを再構築していく必要がある。