【特集1原子燃料サイクルの号砲】次代担う東大生が評価する政策の現状

第7次エネ基でフロントの政策はアップデートされたが、バックエンドは足踏みが続く。エネルギー問題に関心を持つ若い世代は原子燃料サイクル政策の現状をどう捉えているのか。

【インタビュー:富澤 新太郎/元第76回日米学生会議実行委員環境経済とエネルギー安全保障分科会代表

とみざわ・ しんたろう
2003年生まれ。東京都出身。現在、東京大学医学部医学科に在籍。ロシア・ウクライナ戦争を機にエネルギー問題に関心を持つ。24年、第76回日米学生会議実行委員会・環境経済とエネルギー安全保障分科会代表を務めた。

――東日本大震災以降の日本の原子力政策をどう評価しますか。

富澤 第7次エネルギー基本計画で原子力を最大限活用するとし、政策が正常化された点は評価しています。自由化された市場の中で、新規制基準に対応するための巨額の工事費用を回収するには再稼働が必要であり、またリプレースに向けても進展がありました。
 他方、中部電力の浜岡3・4号機の再稼働審査を巡る不正のようなことはあってはなりません。政策的には原子力にゴーサインが出ているのだから、むしろ旧一般電気事業者にはより責任ある対応が求められ、そのために国がどうバックアップするかも今後の課題でしょう。

――原子燃料サイクル政策についてはどう捉えていますか。

富澤 フロント事業と異なり、サイクルは想定との乖離があり、原子力政策のアキレス腱だと受け止めています。政策を強力に進める経済的なインセンティブが薄い状況ですが、日本が一定程度のプルトニウムを保有している以上、国際公約であるプルサーマル計画を放棄することはできず、建前でもこの方針は堅持すべきです。また、再処理前提の最終処分場の選定でも大変なのに、それより有害度の高い直接処分の最終処分場を国内で見つけることは至難の業であることも理解しています。

歩み遅くとも安全重視で トラブル報道の見直しを

富澤 中間貯蔵施設は比較的運用しやすく施設を拡張する可能性があり、MOX燃料の活用も広がっています。リスクをとって急いで再処理する必要性が低い中、歩みは遅くとも安全性を重視する現状方針の維持がベターでしょう。再処理工場の完成が27回も先送りされたことからも分かるように、資源を再利用する閉鎖系の運用は開放系より難易度が高く、扱いの難しい放射性物質の管理にはより高度なシビアアクシデント対策が求められます。もんじゅのように、運開してすぐ止めるという事態になっては困ります。

 ただ、いつまでもこのままで良いというわけには行きません。例えば10~20年といった期間を設け、その間に実現のめどが立たないのであれば、直接処分や海外委託といった飛び道具を含め、「プランB」を示す必要もあるのではないでしょうか。

――原子力報道に思うことは?

富澤 稼働すれば小さなトラブルは何かしら起こるものですが、メディアは大小の区別なく一律に報じがちです。福島事故の教訓は、トラブルが起きた際に可能な限り被害を低レベルに抑えるための危機管理が重要だということ。報道もその教訓を踏まえ、トラブルをゼロイチで捉えてすぐに待ったをかける報道ではなく、グラデーションを付けて説明し、国民に正確な情報を提供する姿勢が求められます。

【日本原子力発電 村松社長】原子力専業として期待される役割発揮へ一歩ずつ前進

東日本大震災発生から15年を迎え、原子力活用の必要性が明示される中、各地点で着実に取り組みを進めている。敦賀では設置変更許可の再申請に向けた追加調査が進行中だ。東海第二では防潮堤の審査に真摯に向き合いながら、その他の安全対策工事が完了に近づいている。

【インタビュー:村松 衛/日本原子力発電社長】

むらまつ・まもる
1978年慶応大学経済学部卒、東京電力入社。2008年執行役員企画部長、12年常務執行役経営改革本部長、14年日本原子力発電副社長、15年6月から現職。

井関 まもなく東日本大震災の発生から15年を迎えます。福島第一原子力発電所の事故からこれまでの歩みを振り返った感想はどうでしょうか。

村松 やはり昨年策定された第7次エネルギー基本計画で原子力の最大限活用が明確に位置付けられたことは、大きな意義があると感じています。2024年末には、福島第一と同じBWR(沸騰水型軽水炉)の女川2号機と島根2号機が再稼働を果たし、3・11以降を振り返っても、この1年余りは特に重要な時期だったと思います。さらに昨年末には、柏崎刈羽6・7号機と泊3号機の再稼働について、それぞれ地元同意を得ました。原子力全体として確かな前進が見られたと受け止めています。一方、基準地震動策定プロセスで発覚した不適切事案は、原子力推進の大前提は安全と信頼性の確保であることを、改めて強く認識させられました。

井関 当初、原子力規制委員会の対応次第では他のプラントへの影響が危惧されましたが。

村松 原子力事業者とメーカーで構成するATENA(原子力エネルギー協議会)からの要請を受け、電力各社は基準地震動に関する審査資料について同様の事案がなかったか速やかに調査を行いました。その結果、規制委の審査ガイドに基づく手法に則って適切に評価されていることなどを確認しています。

原子力産業界の維持 技術と人材の確保を

井関 柏崎刈羽6号機は1月21日に再稼働しましたが、制御棒の引き抜き中に警報が鳴り、一時停止させました。この件はどう受け止めていますか。

村松 規制委の山中伸介委員長は会見で、一旦停止し、安全を確保した上で対応を検討した東京電力の姿勢を評価しています。東電は2月9日の再起動後、3月中旬に営業運転の開始を予定しています。
 再稼働に当たっては、使用前にプラント機器の健全性を確認するため、段階を追って数多くの検査を行います。その後、計画的に中間停止期間を設けるなど、安全を確認しながら慎重に起動させていきます。当社の東海第二も工事段階から検査段階へ徐々に移行しており、今回の事例を踏まえて対応していきます。一方で、原子力を支える産業界の事業再編などによりサプライヤーが縮小することで、設備調達や保守体制への影響が生じる可能性を懸念しています。

井関 こうした実情を、政府や規制委に継続的に訴えていくことが必要ではないでしょうか。

村松 まさにATENAや日本原子力産業協会などが、原子力産業における技術と人材の継続的な確保の重要性を折に触れて訴えており、それに対して政府も支援を進めています。

【東北電力 石山社長】「実行力とスピード」重視 新たな価値を提供し 利益創出に挑み続ける

女川2号機は安定運転を継続し、「財務基盤の早期回復」にも道筋が見えてきた。
想定以上に厳しい事業環境の中、AI、データセンターといったビジネスチャンスを的確に捉え、自社の強みをこれまで以上に生かした事業展開を考え抜く。

【インタビュー:石山一弘/東北電力社長】

いしやま・かずひろ 1985年慶応義塾大学大学院修了、東北電力入社。2018年執行役員、19年常務執行役員、21年取締役常務執行役員、22年取締役副社長 副社長執行役員を経て、25年4月から現職。福島県出身。

門倉 社長就任から9カ月、これまでを振り返って手ごたえや課題感などいかがでしょうか。

石山 就任以降、「実行力とスピード」重視の経営に全力で取り組んできました。改めて振り返ると、あっという間の9カ月だったと感じます。
 当面の優先課題として注力してきた財務基盤の早期回復については、着実に進捗してきています。また、2024年12月に、14年ぶりに営業運転を再開した女川原子力発電所2号機が、大きなトラブルなく安定運転を継続できたことは、電力の安定供給やカーボンニュートラルへの貢献の観点から、大きな意義があると考えています。社員や協力企業はもとより、日ごろから当社の事業運営を支えていただいている地域の皆さまのご理解のおかげであり、心より感謝を申し上げます。1月14日からは、再稼働後初となる定期事業者検査を予定していることから、しっかりと対応していきます。
 一方、東通原子力発電所で発生した核物質防護を巡る不適切な取り扱いについては、原子力事業への信頼を損なうものであり、極めて重く受け止めています。再発防止を徹底し、二度とこのようなことが発生しないよう真剣に取り組んでまいります。
 当社を取り巻く事業環境については、電力小売り競争の激化、物価・金利の上昇と円安、米国政策に起因する国内経済の不透明感の高まりなど、想定以上に厳しくなっています。25年度は、一定程度の利益が確保できる見込みではありますが、足元ではフリーキャッシュフローが厳しい状況であることに加え、今後、電力の安定供給をはじめカーボンニュートラルへの対応やDXなどの成長への投資が控えていることを踏まえると、中長期的に稼ぐ道筋をつけることが重要だと考えています。


女川3号機・東通1号機 再稼働に向け着実に対応

女川原子力発電所で実施する地域との対話活動「こんにちは訪問」

門倉 女川2号機の再稼働から1年以上が経過し、女川3号機・東通1号機の再稼働も期待されます。それぞれの現状を教えてください。

石山 女川3号機も東通1号機も重要な電源であり、各プラントの状況に応じて、対応すべきことを一つひとつ着実に進めていきたいと考えています。
 女川3号機については、新規制基準適合性審査申請に向けた準備の一環として、25年1月20日から地質調査を実施しています。また、地質調査以外にも、女川2号機の審査で得られた知見・評価などを踏まえ、安全対策設備の配置計画検討などを実施する必要があります。現時点で申請時期を具体的に申し上げる状況にはありませんが、しっかりと準備を進めていきます。
 東通1号機については、将来にわたって長期に、かつ安全に運転していく観点から、基準津波に対する裕度を高めるため「敷地造成」を計画し、現在その審査に対応しています。また、並行してPRA(確率論的リスク評価)津波対策の検討や安全対策設備の配置検討などのプラント審査準備を進めており、安全対策工事の完了時期の公表については、27年3月頃を目指しています。今回の不適切事案についてはしっかりと反省し、この教訓を生かすことで、再発防止を徹底します。その上で、地域の皆さまからのご理解をいただきながら、できる限り早期の再稼働を目指していきます。

【特集1】くらし・産業と切り離せない貴重なCO2 国内の炭酸原料ソース減少が課題

温暖化問題では悪者扱いされるCO2だが、くらし・産業を支える資源・原料という側面もある。身近な場面で多々利用されているが、製油所の統廃合などでリソースの減少にも直面する。

温暖化が進む中、ドライアイス不足が続くと困る

CO2や炭酸ガスは古くから幅広く活用されてきた。液化炭酸ガスの用途としては、溶接用がトップで4割程度、次いで飲料が2割程度、その後冷却、化学、製鋼などと続く。 

具体的な使途を見ていこう。まずは溶接。金属を溶接する際、空気中の酸素や窒素が溶接部に触れると欠陥の原因となる。それを防ぐため、炭酸ガスで遮断しながら作業する。自動車や造船、建築分野などで欠かせない。

次いで最も身近な存在である炭酸飲料。クレオパトラが真珠で炭酸飲料を作ったという逸話がある。1770年代に商業生産が始まり、今日多くの商品が流通する。

冷却用ではドライアイスが代表格だ。1920年代に製造・販売が始まり、今も食品の鮮度保持に欠かせない。

農業分野では、植物工場やハウス栽培でのCO2施用が一般的だ。さらに残留毒性の心配がない殺虫用薬剤としても使用する。

そして、血流改善効果がある炭酸泉。紀元前から炭酸泉療養が行われており、最近はお湯に炭酸ガスを溶け込ませた人工炭酸泉を温浴施設で気軽に楽しめる。


自然冷媒分野では救世主 ドライアイス不足がたびたび発生

面白いのが冷媒だ。CO2は環境に優しい自然冷媒の一つ。オゾン層破壊が問題視され、特定フロンから代替フロンへの転換が進んだが、次は温暖化係数の高さが課題に。2016年のモントリオール議定書のキガリ改正で代替フロンも規制対象となった。この分野でCO2は「救世主」と言える。世界では冷房が普及していない地域が多く、自然冷媒を使った冷房の普及は「適応」の文脈でも重要だ。

他方、実は国内の炭酸原料ソースは減少している。エネルギー供給構造高度化の告示により製油所の閉鎖や石化工場への転換が進み、今後さらなる製油所の減少も予想される。実際、たびたびドライアイス不足がちまたで話題となっており、他の用途は大丈夫なのか。

その意味で、CO2を資源と捉える「カーボンリサイクル」という概念が改めて重要だ。政策的には、既存用途の利用量が限定的であるため、新たな用途を開発し、大気中へのCO2排出を抑制することが強調されている。そこに加えて、既存用途の原料確保という視点を忘れてはならない。ただ、政府がGXを目玉にして以降、カーボンリサイクルの存在感の薄さが気がかりではある。

【特集1】「1.5℃」厳しく「2℃」が妥当 求められる現実路線への修正

2050年ネットゼロと1.5℃目標の達成が実質的な世界の目標となっている。だが現実との乖離を無視し続けることはできず、現実路線に軌道修正すべきだ。

【寄稿】森本壮一/日本エネルギー経済研究所 環境ユニット気候変動グループ 主任研究員

当研究所は2025年秋に「IEEJアウトルック2026」を発表した。定点観測的な長期エネルギー需給見通しに加え、時々の注目トピックスに関する分析も行っており、今回はその一環で「現実を踏まえた気候変動目標と適応の重要性」を発表した。提言の趣旨は、①現実を踏まえれば1.5℃目標の実現可能性は低く、パリ協定の原点を見つめ直し2℃目標を現実的な目標として捉え、②適応が今後ますます重要となる中、緩和との資金のバランスを見直すべき―といった内容である。

こうしたテーマ選定は、より現実的な気候変動政策を考える必要性が急速に高まっているためだ。各国で政策の見直しが進み、パリ協定からの脱退を決めた米トランプ政権はもとより、欧州ではロシア・ウクライナ戦争の影響でエネルギー安全保障・価格高騰への対応が議題となり、脱炭素一辺倒からの修正を図り始めている。わが国でも、第7次エネルギー基本計画では第6次計画に比べ、データセンターなど今後の電力需要増の見通しも踏まえ、エネルギー安保をより重視する内容となった。


理想と足元の乖離拡大 73年ネットゼロが現実解

1. 5℃目標実現の難しさを示すような新たな実態が世界で顕在化している。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の1.5℃特別報告書などを受け、COP26でグラスゴー気候合意が採択され、1.5℃目標がデファクトスタンダードとなった今、その達成が厳しいと明確に発信することは、やや踏み込んだ内容かもしれない。しかし、現実と目標の乖離が広がる中、こうした認識を示すことが当研究所の役割だと考える。

例えば、日本を除くG7(主要7カ国)各国やEU(欧州連合)の現状の排出量は、足元から50年ネットゼロに向けた排出パスを上回っている。また、カナダの新たな35年NDC(国別目標)は、足元から50年ネットゼロへの排出パスを上回るものだ。

中国とインドの石炭火力動向も注視すべきである。中国では、24年だけで1億kWの石炭火力発電所の新設に関する最終投資決定(FID)が行われた。ここ10年のうち最大規模であり、他方で石炭火力のスクラップは過去5年間の平均で年間470万kWにとどまる。ただ、中国は供給余力にゆとりを持たせ、太陽光や風力のバックアップとしての活用も念頭に置いている。実際の稼働率がどうなるか、引き続き注目すべきだ。翻ってインドは、24年に1500万kWの新設のFIDを行い、やはり過去10年で最大規模だ。こちらは中国と異なり必要な需要を賄うためで、それなりの稼働率となることが予想される。

【コラム/12月18日】これがCOPの壊れ方 日本はいつまでしがみつくのか

杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 

COP30(国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議)は、大した盛り上がりもなく終わった。交渉内容について詳しくは有馬純氏による解説に譲るとして、本稿では、いよいよ見えてきた「COPの壊れ方」に話を絞ろう。

先進国側は、出来もしない約束を二つもして、にっちもさっちもいかなくなった。すなわち、「2050年までにCO2をゼロにする」という約束をして、途上国にも押し付けようとするが、途上国は猛然と反発する。化石燃料については、今回の最終文書では言及することすらできなかった。もう一つの出来もしない約束は「年間3000億ドル(45兆円)の途上国への支援」である。これも出来るはずがないが、今回その相場は1兆3000億ドル(195兆円)以上にさらに膨らんだ。毎年COPを開催するたびにこの金額は膨らんでいく。もとより、先進国に支払うことができるはずもない。

この構図は、ここ2、3年何も変わらない。先進国は出来もしないことを約束し、途上国は排出削減目標の深掘りを拒否する一方で、先進国の責任を追求し、支援の金額を釣り上げ、それを拒否する先進国を批判する。

さらに、今年になり米国バイデン政権がいなくなったことで、欧州は単独で途上国と向き合うことになった。指導力があるフリをするためには、とにかく合意をしないといけないから、途上国の要求を丸呑みする形になった。

来年のCOP31はトルコが議長国となって開催され、再来年のCOP32はエチオピアで開催されるという。いずれの議長国も途上国の意見を尊重してまとめることになるだろう。先進国には居心地の悪い状態が続く。

COPは毎年同じ構図で続けられ、議題の選択も交渉成果の文書もますます途上国側が支配するようになる。こうなると先進国のリーダーは誰も行かなくなる。COPは形骸化していくだろう。

すでに年々、COPへ出席する首脳は減っている。今年は、米国はもとより中国、ロシア、インド、日本などの大国は大統領や首相を出席させなかった。英独仏などの首脳はCOPに出席したが、彼らはいずれも非常に支持率の低いレームダックの政権である。ウクライナでの敗戦が明らかになるにつれて、彼らの支持基盤はますます弱くなっている。ヨーロッパが政権交代して右傾化すれば、新しい指導者はCOPに行かなくなるだろう。

【コラム/12月11日】ETS導入は延期すべき GXはDXに転進を

 

杉山大志/キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 

経済産業省は排出量取引制度(ETS)の設計を進めている。来年度4月の施行に向けてということだが、ドタバタで排出量の割当などの制度の細則を定めようとしている。だが、性急なことは止め、ETSの導入は1年、延期すべきである。その間に、根本的な問題を抱えるGX(グリーントランスフォーメーション)について抜本的な再検討をすべきだ。

経産省はこの制度の害毒をよく理解しないまま導入を決定した。だが細則を企業と議論しているうちに、この制度の害がいかに大きいか、政府の担当官は思い知らされることになった。

石炭火力発電や、エネルギー集約産業である製鉄、セメント、石油化学などは、この制度が導入されれば、もはや新規の設備投資は行わないであろう。既存の設備についても、維持費すら支払わず、生産が縮小していくことは必定である。排出枠を買ってしまえば利益など吹き飛んでしまうから、生産を止めてしまう方が合理的になる。

政府の担当官の説明はまるで高利貸しようだ。少なくとも最初の年はほぼグラウンドファザリングになる、つまり排出量に応じて排出枠が与えられることになり、経済的な負荷は生じないという説明である。その一方で、排出枠は年々削られていく。そしてその先には、2030年46%、40年73%、50年100%という国のCO2削減目標が控えている。本当に実施するかは別として、ひとたび制度が導入されれば、何時排出枠を絞られ、経済的なペナルティが致命的になるか分からない。このように制度的不確実性が高い中では、当然日本国内に設備投資を行う企業など無くなる。もしもそのような資金があれば、インドなり米国なり、どこかに設備投資をした方がよほど合理的である。

これらの重厚長大産業は、日本の地域経済を支えており、また多くの雇用を生んでいる。一つ大きな工場が止まるということは、その周りにある多数の中小企業が潰れることを意味し、街全体の経済が沈むことを意味する。かかる経済的な自滅を、なぜ経産省が推進するのであろうか。

政府はグリーン経済で成長する、などということを言っている。だがそんなことは起きない。太陽光発電や風力発電を導入しても、電気料金は高騰するばかりである。三菱商事グループが洋上風力から撤退して再入札が行われるようだが、価格は極めて高くなる見通しだ。また火力発電についてはCCS(CO2回収・貯留)、水素、アンモニアなどを導入すればよいというが、これで発電をすれば既存の石炭火力やLNG火力発電に比べてコストが2~3倍、あるいはそれ以上するものばかりだ。海外の水素プロジェクトは今まさに次々に頓挫している。こんなことは初めから専門家には分かっていたことだが、ようやく、経産省の担当官も思い知るようになった。

【特集1】政府が「撤退ドミノ」阻止に全力 「ゼロプレミアム」の呪縛は解けるか

政府公募では行き過ぎた価格重視により競争環境が歪んだ結果、事業継続が危ぶまれる事態に陥った。R2・3への緊急避難的措置、そしてR1再公募とR4以降のルール見直しが進むが、事態は好転するのか。

洋上風力産業が正念場を迎えている。近年の世界的なインフレに伴うコスト増のうねりが、日本でも猛威を振るう。さらに需要側でも変化が。数年前の世界的なエネルギー価格高騰局面では再生可能エネルギーの電気を高くても確保したいとの雰囲気があったが、今は市場が緩み、そうした空気が薄れている。

一部報道は、一般海域での洋上風力を巡る政府公募ラウンド1(R1)に続く「撤退ドミノ」の可能性を指摘する。政府公募はR3までの約450万kWが決定済みだ。特に、第三次保証金の支払い期限が年末(秋田県八峰・能代はその3カ月後)に迫るR2各社の動向が注目される。まだどの海域も最終投資決定(FID)に至っていない。

政府は撤退ドミノをなんとしても防ごうと、資源エネルギー庁と国土交通省の合同会議でR2・3の事業完遂に向けた支援策などを検討中だ。これまでに示されている事業期間の延長や価格調整スキームなどに加え、さらなる措置が俎上に載る。最も注目されるのが長期脱炭素電源オークション適用の行方であり、この詳細は後半で触れる。

R1継続模索も断念 地域では混乱広がる

三菱商事に改めて撤退理由を聞くと、入札当時の物価・為替水準などを踏まえて「事業性が見込める価格で応札した」ものの「公募時のリスク想定を大きく上回る事業環境の変化が生じた」とコメント。あらゆる手段を精査したが「開発の継続は困難」と結論付けた。コスト面は、入札時に見込んだ金額と比較し、「建設費用は2倍以上」に。収入面では、政府がそれまでに示した措置を考慮してもコスト増をカバーできる価格水準での売電は困難と判断した。
撤退が決まった地域では混乱が広がる。千葉県銚子市の場合、2月に三菱商事がゼロベースで事業性再評価に着手してから半年間具体的な説明はなく、市に撤退の知らせが届いたのは発表当日の午前中だった。市洋上風力推進室の八角貴志室長は「住民や漁業関係者の反発は少なく、順調に進んでいただけに衝撃だった」と振り返る。


銚子はR1で最も早く運転を開始する計画だった。市と漁業協同組合、商工会議所がメンテナンス会社を共同設立したが、人材育成の取り組みが宙に浮き、視察による宿泊・飲食業などへの波及効果が失われつつある。

秋田県由利本荘市では、本荘港をO&M(運転・保守管理)拠点として活用する構想を進め、地元企業が水上ドローン事業に参画するなど、準備を進めていた矢先の知らせだった。海底地盤調査で想定より軟弱であることが判明し、計画見直しの動きはあったものの、やはり撤退は想定外だったという。

R2以降の地域の関係者にとっても、撤退が続くことは由々しき事態だ。三菱商事が説明するような環境変化は個社に限った話ではなく、他地点の状況はどうなのか。

【記者通信/11月20日】洋上風力の撤退ドミノ阻止 R2&3に脱炭素オークション適用へ

洋上風力を巡る政府公募の事業継続が危ぶまれる中、資源エネルギー庁と国土交通省は11月19日に合同会議を開き、ラウンド2、3(R2、R3)に対して条件付きで長期脱炭素電源オークションへの参加を認める方針を了承した。今後関係審議会で議論を進める。国民負担軽減を重視し、落札事業者はFIP(市場連動価格買い取り)制度のプレミアムを事実上放棄する「ゼロプレミアム」としていた状況から大きな方針転換となる。委員からは、事後的な大幅見直しは本来望ましくないが、R1に続く「撤退ドミノ」を避けるための例外的措置として「やむを得ない」といった意見が目立った。

脱炭素オークションへの参加は業界が切望していた

R2の第三次保証金の納付期限が年末に迫る中、事業者からは事業継続に向け同オークションへの参加を求める声が相次いでいた。事務局は、ゼロプレミアム案件では、FIP適用期間中に同オークションへの参加を認めても、バランシングコスト相当分のFIP交付金を除き、固定費の二重回収の問題は生じないと整理。この措置により電源投資が促され、将来のコスト低減につながる国内サプライチェーン構築の後押しとなれば、国民全体の利益につながるとした。他方、国民負担の大きさを勘案した公募当時の評価の前提には影響するとも指摘した。

その上で、黎明期の洋上風力事業完遂のためには同オークションの活用が必要だと提案。バランシングコスト相当分のFIP交付金を受領しないことを条件に、R2&3のみに適用し、次回以降の公募では認めない。今後関係審議会で、上限価格や募集規模などオークションの要件を検討する方針だ。

国土交通省側の小委員長を務める加藤浩徳・東京⼤学⼤学院教授は「ゼロプレミアム案件に限るとは言いつつも長期脱炭素電源オークションへの参加を認めるということは方針の大転換。あくまでも例外的な措置だと理解している。国民の負担が増加するということをわれわれは真摯に受け止める必要があり、他の審議会等でも慎重に議論してもらい、広く国民に理解してもらうことが必要だ」とコメントした。

この他の事業環境整備策として、R2&3に限り、公募占用計画の変更を柔軟に認める。

新たな公募制度を提示 供給価格に下限を設定

三菱商事陣営の撤退の要因分析を踏まえ、今後の公募制度見直しの方針も提示した。

まず、価格評価点の在り方を見直す。調達価格等算定委員会の意見を基に設定される供給価格上限額に加え、事業者の現実的な創意工夫を織り込んだ価格として同下限額を導入する。下限額での入札は満点(120点)、上限額での入札は100点とする方針だ。なお、下限額を下回る、あるいは上限額を上回る場合は失格となる。

さらに事業実現性評価の配点を見直し、迅速性を20点から10点に。逆に計画の実行面に関しては20点から25点に、電力安定供給の項目は「電力安定供給・サプライチェーン形成」と名称を改め、20点から25点に変更する。これらの採点をより精緻に行えるような基準も検討する。

この他、迅速性の配点の引き下げとスケジュールの柔軟性確保、落札制限の適用、選定事業者が撤退した際のルール方針も示した。

【記者通信/4月30日】JERAの最終利益54%減 期ずれ差など一過性の要因大きく

JERAが4月28日に発表した2024年度連結決算は、売上高は前期比9.6%減の3兆3559億円、営業利益は同57.3%減の2407億円、最終利益は同54.0%減の1839億円となった。燃料価格の変動を販売価格に反映させるまでのタイムラグによる期ずれ差益の大幅な縮小が響いた。

五井火力などリプレースが着々と進み、今後は火力事業の増益が見込まれる

他にも、電力販売における収入単価の下落により減収となったことに加え、台湾沖の洋上風力発電プロジェクト「フォルモサ2」の前年度減損戻入の反動や、為替悪化による海外IPP(独立系発電)事業の収益減が利益を押し下げた。

ただ、24年度の減収・減益について前川尚大財務戦略統括部長は、「期ずれ差益の反動や為替の影響といった一過性の要因によるもの」とし、今後の見通しに関して「昨年に五井火力(千葉県市原市)が運開し、計5カ所の火力発電所のリプレースが完了した。火災事故があった武豊発電所(愛知県武豊町)も高需要期には稼働できる。これらを効率的に運用することで火力事業の増益が見込める」と語った。

25年度通期の最終利益は前期比25%増の2300億円を見込む。これは東京電力と中部電力の火力事業を統合した19年の経営計画の時点で公表していた達成目標で、「チャレンジングな数字ではあるが、燃料・火力・再エネといった各セグメントの力を集結して実現する」(前川部長)方針だ。

【記者通信/4月22日】JERAと西部ガス ひびきLNG基地3号タンクを相互融通

JERAと西部ガスは4月22日、ひびきLNG基地に新設する3号タンクの相互融通など、戦略的活用に関する提携に合意したと発表した。JERA側では、電力需要の変動などへの対応力の向上に期待。一方、西部ガスとしては、3号タンクを増設するに当たり、安定的な事業運営と収益の確保が図れる。また、立地的優位性を生かして東南アジアなどへのグローバルビジネスや、水素などの次世代燃料に関する展開も今後検討するという。

会見で取り組みの意義を説明する西部ガスの加藤社長(右から2人目)ら(JERA提供)

西部ガスは昨年11月、国内の燃料転換などに伴う天然ガス需要への対応や、安定供給の向上などを目的に、3号LNGタンク増設を含む同基地の能力増強を決定した。これを機に、両者のLNG安定確保の強化などを具体化することとなった。

3号タンクの容量は23万kl。2025年夏ごろに本工事に着工し、29年度上期の運開を予定する。

3号タンクを活用した相互融通では、タンク増設で生じる受け入れ余力を活用し、互いにタンク下限、あるいは上限への到達を回避すべく、LNG船の入港基地を変更するといった運用が可能となる。両者の基地のさらなる安定供給の向上が図れる。

特にJERA側では、再生可能エネルギーの大量導入や季節間電力需要格差の広がりなどから需給のボラティリティーが高まり、それへの対応力の向上が求められている。ここ数年、たびたび夏場や冬場の需給がひっ迫し、国際情勢や燃料調達環境もまだまだ不透明な中、今回の相互融通が今後どう寄与するのか、注目される。

同日の会見で、西部ガスの加藤卓二社長は「3号タンク増設の投資は当社にとって大きな決断だが、まず国内の石炭・油からの燃料転換需要への対応と並び、計画当初から協議してきたJERAとの提携が合意に至ったことは、ひびきの活用効率の向上はもとより、当社のLNGビジネス全般についても大いなる前進だと考えている」とコメント。また、「JERAへの一定容量の利用貸出に対し対価を得ていく。3号タンクが座礁資産化しない一つの理由であり、一定程度の投資回収が見込める」とも強調した。

一方、JERAの田中直人・LNG統括部理事は「需給ひっ迫に起因する緊急調達や発電抑制の回避といった、当社の電力需給の対応力向上に寄与し、安価で安定的な日本のエネルギー供給を実現するための画期的な取り組みになる」と意義を説明した。

【記者通信/4月9日】米国でのブルーアンモニア製造でFID JERAや三井物産など

JERAは4月9日、三井物産、米CFインダストリーズと、米国ルイジアナ州で「ブルーアンモニア」を製造するプロジェクトの最終投資決定(FID)を行ったと発表した。天然ガスを原料とし、生産能力は年間約140万tと世界最大規模となる。米国のインフレ抑制法(IRA)に基づく税額控除に加え、日本政府の水素・アンモニアに対する値差支援を前提に、2029年の生産開始を予定する。

セレモニーの様子。左から可児行夫・JERA会長、トニー・ウィル・CFインダストリーズCEO、古谷卓志・三井物産専務(JERA提供)

同プロジェクトでは、天然ガスを原料とした水素からアンモニアを生産し、その過程で出るCO2はCCS(CO2回収・貯留)を活用して輸送・貯留する。総事業費は約40億米ドルを見込み、出資比率はCF社が40%、JERAが35%、三井物産が25%となる。

生産拠点を米国にした背景としては、豊富な天然ガスを低廉な価格で調達できる、CCSインフラが整っている、IRAなどの政府支援といったメリットがある。IRAについては、トランプ政権下でも化石燃料に対する支援は継続されると見込んでいる。

今回FIDに至ったポイントとしては、「早期に意思決定することで開発費の上昇圧力を最小に抑える。また、30年までに生産する蓋然性を高めたい」(JERA)といった点を挙げる。

値差支援を活用 碧南以外も視野に

JERAは出資比率に応じて年間約49万tのアンモニアを引き取る。まずは石炭火力へのアンモニア混焼に取り組む碧南火力発電所(愛知県)向けとするが、今後は欧州やアジアにも広く供給していく考えだ。ただ、具体的な供給先は現時点で決まっていない。

値差支援では、碧南火力を供給先の一つとして申請。29年からの15年間、本プロジェクトのアンモニア価格と、石炭価格の差を日本政府が補てんすることになる。

水素・アンモニア利用の課題「コスト」を考える 国際環境経済研究所がシンポ開催

世界のエネルギー分布では、一次エネルギー供給の8割が化石燃料、発電でも6割強が化石燃料だ。また工業生産でも製鉄などでCO2は発生してしまう。脱炭素を目指すならば、発電の再エネ化に加えて、新しいエネルギーや工業品の製造法に向かわなければならない。そこで注目されるのが、水素・アンモニアだ。2月に国が決定した第7次エネルギー基本計画でも、これら二つを発電、輸送、工業製品で民間が活用できるように、国が支援する構想を明らかにしている。

国際環境経済研究所(IEEI)は1月31日に公開シンポジウム「水素・アンモニア社会実現の課題」を東京で開催した。水素・アンモニアは脱炭素を達成するエネルギーとして注目されている。しかしコストの高さなど、乗り越えなければ課題も多い。

米国新政権の動向と欧米の水素戦略について講演する山本隆三氏
塩沢文明氏は水素・アンモニア利用の課題をテーマに講演

トランプ新政権のエネ政策 共和党州の利益が鮮明

講演は二つ行われた。IEEI所長で常葉大学名誉教授の山本隆三氏による「トランプのエネルギー政策と欧米の水素戦略」(内容の概要 https://ieei.or.jp/2025/02/yamamoto-blog250207/?doing_wp_cron=1739410579.8342959880828857421875 )。

また国際環境経済研究所主席研究員の塩沢文朗氏による「水素・アンモニア利用の課題」だ(内容の資料 https://ieei.or.jp/wp-content/uploads/2025/02/shiozawa_250201.pdf )。

トランプ大統領は就任直後に風力と太陽光、EV補助金など、これまでバイデン政権の進めてきたクリーンエネルギーへの政府支援を縮小し、化石燃料の活用促進、生産の増加を政策にすることを表明している。建前では進行するインフレ抑制のためとするが、山本氏はこの政策に「党派性がある」と指摘する。

洋上風力の計画、もしくは着工しているがある場所は東部、西部の米民主党が地盤とする州、つまり同党系の知事や議席の多い州に多くある。一方で共和党支持の州は中西部を中心に、1人あたりの国民の車の利用距離、つまりガソリンの使用量が多い傾向がある。ガソリン価格の上昇は車に乗ることが多い米国民の生活を苦しめている。つまりトランプ政権は、洋上風力発電の建設を邪魔することで民主党への政治的ダメージを与える一方で、共和党支持者の人気を集めようと原油を増産してガソリン価格を引き下げようとしているわけだ。

講演時点でも(この記事執筆の2月末時点でも)トランプ政権は水素の支援政策について明確にしていないが、「それはコスト、米国の利益になるかどうか次第だろう」と山本氏は指摘した。

計画倒れに終わりそうな水素社会

バイデン前政権は意欲的な水素の利用構想を示した。2030年1000万t、50年に5000万tの製造目標を立てた。またEUは30年に域内生産で1000万t、域外生産で1000万t、そして50年に全エネルギーの10%を水素にする計画だ。しかし、その生産能力を満たすことは難しい。

水素にはさまざまな製造法がある。再エネから作られる水素を「グリーン水素」、またそれと重なる脱炭素の電源を使う製造を「クリーン水素」などと呼ぶ。現在は化石燃料から作られる方法が主流だ。IEEIでは、24年秋にEUを訪問し、専門家らと意見交換を行った。そのヒアリングや公開情報で、次の事実が出た。

2030年にEU域内で生産可能なクリーン水素は年250万トン、大きな政策支援が追加されても年440万トンの製造しか確保できるめどはない。そして域外からの1000万トンの輸入構想も調達の見通しはない。さらに水素輸送のインフラ整備も進まず、EU全域への流通手段が確保されていない。

EUで国や業界団体の計画があっても、事業の設備着工が始まらない理由は製造コストの高さにあるとされる。その結果、水素の需要の先行きが不透明で、ビジネスとしての投資がしづらい状況になっている。

高くつく日本の水素

現在の水素の製造コストは次の状況だ。現在の欧州でのSMR方式(天然ガス、あるいは石炭と水蒸気による製造)でCCS(CO2回収・貯留技術)を併用した場合に、天然ガス価格が百万BTU(MMBTU)当たり約12ドルの前提で1kg当たり3.6ユーロとされている。

水電解によるコストは、各国の電力コストにより異なる。欧州の国での水素の製造コストは、フィンランドでkg当たり約4ユーロ、ドイツでは10ユーロ近くになる。米国では天然ガス生産が世界一で、それを使った水素の製造コストは安くなる。米国石油協会は、天然ガス価格がMMBTU当たり約4ドルの場合、CCSを利用しても30年時点の水素価格は1kg当たり2ドルを下回ると試算している。

山本氏は欧州鉄鋼連盟の関係者に、「補助金で設備を作っても、今はオペレーションコスト(操業費用)が経営に響く。そこまで各国政府は面倒を見ない。不透明で他の生産手段、そして米国よりコストがかかりそうで、水素向けの投資はしづらい」と言われたそうだ。


日本で水素を水電解で製造する場合の電気のコストは、電力料金を1kW時当たり10円と想定しても、水素製造の電気料金だけで水素1kg当たり400円を超えてしまう。設備の費用などを考えると、日本の水電解水素が競争力を持つことは難しい。

現在、出力制御されて売電できない再エネの電気が無駄になることが問題になっている。再エネ関係者などからそれを利用して水素を作れば良いとの提案が出ている。確かにそれを使えば電力費は抑制可能だが、自然現象で作られる電力であるためにいつ余剰電力が発生するか完全に予測できない。「そのために設備の利用率が低迷することになり、製造コストが抑制されることにはならない」と山本氏は指摘した。

また水素の製造では、水の電気分解による製造装置では中国製品が主流だ。トランプ政権は中国依存を脱却する方針だが、水素の製造でも脱中国が問題になりそうだという。これらの課題を見ると、水素の利用は、近い将来ではかなり厳しいと山本氏は分析している。

【記者通信/11月20日】<独自>豪州が原発導入費用の試算年内に公表へ 野党連合が表明

オーストラリア野党連合で影の気候変動・エネルギー相のテッド・オブライエン下院議員は11月19日、次期総選挙で公約に掲げている原子力発電所の導入について、年内に詳細な費用の見積りを公表することを明らかにした。野党連合はこれまで導入や運転した際にかかる具体的なコストを示していなかった。費用の詳細を明らかにすることで、与党労働党のエネルギー政策との違いを鮮明にし、国民に原発の利点を浸透させる狙いだ。

 

原発導入の必要性を強調するオブライエン氏

オブライエン氏は野党連合きっての政策通で、原発導入にも意欲的な議員の一人だ。次期総選挙で野党が政権を奪還した場合はエネルギー相候補の一人とされている。同日、豪州国会内で行われたエネルギーフォーラム主催の視察団(団長=山地憲治・地球環境産業技術研究機構理事長)との懇談で明らかにした。

懇談の中でオブライエン氏は原発について「2050年にカーボンニュートラルを達成するために、原発は豪州エネルギーのベースロード電源になり得る」との認識を示した。その上で「導入する原発は小型モジュール炉と新型軽水炉になるだろう」と話した。

さらに原発の管理運営の主体について、オブライエン氏は「政府に対する国民の信頼性が高く、安全保障の観点などから国営になるだろう」と述べた。

与党は原発反対 法律改正のハードルも

与党労働党のアルバニージー現政権は原発導入について、巨額なコストがかかることなどを理由に反対の姿勢だ。

これに対しオブライエン氏は「現政権が掲げる再生可能エネルギーを軸にしてカーボンニュートラルを達成する場合に比べ、原発を含めたエネルギーミックスによる方がコストは安くなる」との見解を示した。

野党連合は豪州内で休廃止が予定されている石炭火力発電所の跡地に原発を導入する方針を公表している。30年代半ばまでに7カ所で稼働する青写真を描く。

ただ豪州では現状、原発の商用利用について二つの連邦法で禁じている。導入にはこれらの法律の改正が必要だ。さらに州単位で禁じているところもあり、導入までには高いハードルが存在する。

【記者通信/11月22日】エネ基議論佳境へ 新エネルギー財団が電源ごとの進ちょく踏まえ提言

政府が年内に案をまとめる予定の第7次エネルギー基本計画の議論が佳境を迎えている。特に今回のエネ基は、電力需要が急増する可能性を踏まえつつ、カーボンニュートラルに向けたトランジションのビジョンを示さなければならない。焦点の一つが、2040年度の再生可能エネルギー比率をどの程度積み増すか。そうした中、新エネルギー財団がこのほど「新エネルギーの導入促進に関する緊急提言」を公表した。電源ごとに現行の30年目標の進ちょくを点検し、エネ基策定に向けた課題と提言を示した。

それぞれの30年目標に向けた状況としては、太陽光やバイオマスはおおむね目標達成可能な水準で導入が進む。他方、風力は案件形成が進みながらも、さまざまな課題が顕在化し運転開始時期の遅延が懸念される。そして地熱の進ちょくに至っては、目標を大きく下回る水準となっている。

こうした現状を踏まえ、電源ごとに提言をまとめた。

政策のてこ入れ特に必要な風力・地熱

政府が主力電源と位置付ける風力については、現行目標(陸上で30年17.9GW、40年35GW、50年41GW/洋上で40年35~45GW)を確実に達成し、導入拡大の維持・推進が必要だと強調した。風力導入に伴う地域の発展や国益の最大化に向け、社会システムの転換も見据えて、50年159~690GWといった大胆な目標を設定し、風力産業拡大政策の検討を求めた。

例えば、陸上・洋上いずれも、短期的にはインフレや資材価格高騰に伴うコスト増が事業の進捗を妨げており、基準価格の見直し、つまり価格調整スキームが検討課題であると指摘。中長期的には、発電所の大規模化や地域偏在性に対応するために、政府が具体的かつ計画的な系統整備の指針を示すよう求めた。

地熱は、30年1480MWという目標に対し、23年時点の総導入量は513MW、建設中や調査中を含めても600MWたらず。新規開発では、国有林の規制や資源量調査の膨大な費用が大きな課題だ。国立公園の核心部に近いほど規制との調整に難航する、酸性熱水の存在で技術的難易度が上がる、資材費高騰で収益性が悪化する、といった状況に直面する。既存開発地点でも地下リスクが大きく、追加投資に簡単には踏み切れないという。

地熱資源のポテンシャルを生かすためには、林野庁と連携しての規制の見直しや、JOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)の支援制度の抜本拡充が欠かせないとした。

変動性再エネの受け皿として一層の役割が期待される水力をめぐっては、初期投資の負担が大きく、資本回収には長期に安定した経済性の確保が必要となる。そのため、FIT (固定価格買取)/FIP(市場連動買取)制度の期間を、水力の耐用年数に合わせて40年とするなど、柔軟な仕組みづくりを求めた。

太陽光は新ビジネスモデル、バイオマスは輸入依存の改善を

導入量でみると順調に推移する太陽光に関しては、住宅へのエネルギー供給の新たなビジネスモデルの構築が重要だと指摘。太陽光、自家消費型高効率給湯器、蓄電池、EV充電、ZEH(ネットゼロエネルギーハウス)などを第三者保有モデルも活用しつつ、単なる設備・機器提供の枠を超えたサービスを提供する新たなモデルを目指すべきだとした。こうした在り方に資する支援策の充実強化が不可欠だと訴える。

比較的順調なバイオマスでも、原料は輸入に依存し、価格高騰や調達ルールの不確実性など、事業継続のリスクが存在する。30年以降も設備容量を維持するため、国産バイオマスの一層の振興や、輸入材調達に関する持続可能性確保の取り組みが求められる。併せて事業性の向上に向け、発電だけでなく熱利用の推進も重要な視点だと強調した。

第7次エネ基では、こうした現状の詳細な課題認識をどの程度踏まえた内容となるのか。まもなく示される政府案の行方が注目される。