【記者通信/4月30日】JERAの最終利益54%減 期ずれ差など一過性の要因大きく


JERAが4月28日に発表した2024年度連結決算は、売上高は前期比9.6%減の3兆3559億円、営業利益は同57.3%減の2407億円、最終利益は同54.0%減の1839億円となった。燃料価格の変動を販売価格に反映させるまでのタイムラグによる期ずれ差益の大幅な縮小が響いた。

五井火力などリプレースが着々と進み、今後は火力事業の増益が見込まれる

他にも、電力販売における収入単価の下落により減収となったことに加え、台湾沖の洋上風力発電プロジェクト「フォルモサ2」の前年度減損戻入の反動や、為替悪化による海外IPP(独立系発電)事業の収益減が利益を押し下げた。

ただ、24年度の減収・減益について前川尚大財務戦略統括部長は、「期ずれ差益の反動や為替の影響といった一過性の要因によるもの」とし、今後の見通しに関して「昨年に五井火力(千葉県市原市)が運開し、計5カ所の火力発電所のリプレースが完了した。火災事故があった武豊発電所(愛知県武豊町)も高需要期には稼働できる。これらを効率的に運用することで火力事業の増益が見込める」と語った。

25年度通期の最終利益は前期比25%増の2300億円を見込む。これは東京電力と中部電力の火力事業を統合した19年の経営計画の時点で公表していた達成目標で、「チャレンジングな数字ではあるが、燃料・火力・再エネといった各セグメントの力を集結して実現する」(前川部長)方針だ。

【記者通信/4月22日】JERAと西部ガス ひびきLNG基地3号タンクを相互融通


JERAと西部ガスは4月22日、ひびきLNG基地に新設する3号タンクの相互融通など、戦略的活用に関する提携に合意したと発表した。JERA側では、電力需要の変動などへの対応力の向上に期待。一方、西部ガスとしては、3号タンクを増設するに当たり、安定的な事業運営と収益の確保が図れる。また、立地的優位性を生かして東南アジアなどへのグローバルビジネスや、水素などの次世代燃料に関する展開も今後検討するという。

会見で取り組みの意義を説明する西部ガスの加藤社長(右から2人目)ら(JERA提供)

西部ガスは昨年11月、国内の燃料転換などに伴う天然ガス需要への対応や、安定供給の向上などを目的に、3号LNGタンク増設を含む同基地の能力増強を決定した。これを機に、両者のLNG安定確保の強化などを具体化することとなった。

3号タンクの容量は23万kl。2025年夏ごろに本工事に着工し、29年度上期の運開を予定する。

3号タンクを活用した相互融通では、タンク増設で生じる受け入れ余力を活用し、互いにタンク下限、あるいは上限への到達を回避すべく、LNG船の入港基地を変更するといった運用が可能となる。両者の基地のさらなる安定供給の向上が図れる。

特にJERA側では、再生可能エネルギーの大量導入や季節間電力需要格差の広がりなどから需給のボラティリティーが高まり、それへの対応力の向上が求められている。ここ数年、たびたび夏場や冬場の需給がひっ迫し、国際情勢や燃料調達環境もまだまだ不透明な中、今回の相互融通が今後どう寄与するのか、注目される。

同日の会見で、西部ガスの加藤卓二社長は「3号タンク増設の投資は当社にとって大きな決断だが、まず国内の石炭・油からの燃料転換需要への対応と並び、計画当初から協議してきたJERAとの提携が合意に至ったことは、ひびきの活用効率の向上はもとより、当社のLNGビジネス全般についても大いなる前進だと考えている」とコメント。また、「JERAへの一定容量の利用貸出に対し対価を得ていく。3号タンクが座礁資産化しない一つの理由であり、一定程度の投資回収が見込める」とも強調した。

一方、JERAの田中直人・LNG統括部理事は「需給ひっ迫に起因する緊急調達や発電抑制の回避といった、当社の電力需給の対応力向上に寄与し、安価で安定的な日本のエネルギー供給を実現するための画期的な取り組みになる」と意義を説明した。

【記者通信/4月9日】米国でのブルーアンモニア製造でFID JERAや三井物産など


JERAは4月9日、三井物産、米CFインダストリーズと、米国ルイジアナ州で「ブルーアンモニア」を製造するプロジェクトの最終投資決定(FID)を行ったと発表した。天然ガスを原料とし、生産能力は年間約140万tと世界最大規模となる。米国のインフレ抑制法(IRA)に基づく税額控除に加え、日本政府の水素・アンモニアに対する値差支援を前提に、2029年の生産開始を予定する。

セレモニーの様子。左から可児行夫・JERA会長、トニー・ウィル・CFインダストリーズCEO、古谷卓志・三井物産専務(JERA提供)

同プロジェクトでは、天然ガスを原料とした水素からアンモニアを生産し、その過程で出るCO2はCCS(CO2回収・貯留)を活用して輸送・貯留する。総事業費は約40億米ドルを見込み、出資比率はCF社が40%、JERAが35%、三井物産が25%となる。

生産拠点を米国にした背景としては、豊富な天然ガスを低廉な価格で調達できる、CCSインフラが整っている、IRAなどの政府支援といったメリットがある。IRAについては、トランプ政権下でも化石燃料に対する支援は継続されると見込んでいる。

今回FIDに至ったポイントとしては、「早期に意思決定することで開発費の上昇圧力を最小に抑える。また、30年までに生産する蓋然性を高めたい」(JERA)といった点を挙げる。

値差支援を活用 碧南以外も視野に

JERAは出資比率に応じて年間約49万tのアンモニアを引き取る。まずは石炭火力へのアンモニア混焼に取り組む碧南火力発電所(愛知県)向けとするが、今後は欧州やアジアにも広く供給していく考えだ。ただ、具体的な供給先は現時点で決まっていない。

値差支援では、碧南火力を供給先の一つとして申請。29年からの15年間、本プロジェクトのアンモニア価格と、石炭価格の差を日本政府が補てんすることになる。

水素・アンモニア利用の課題「コスト」を考える 国際環境経済研究所がシンポ開催


世界のエネルギー分布では、一次エネルギー供給の8割が化石燃料、発電でも6割強が化石燃料だ。また工業生産でも製鉄などでCO2は発生してしまう。脱炭素を目指すならば、発電の再エネ化に加えて、新しいエネルギーや工業品の製造法に向かわなければならない。そこで注目されるのが、水素・アンモニアだ。2月に国が決定した第7次エネルギー基本計画でも、これら二つを発電、輸送、工業製品で民間が活用できるように、国が支援する構想を明らかにしている。

国際環境経済研究所(IEEI)は1月31日に公開シンポジウム「水素・アンモニア社会実現の課題」を東京で開催した。水素・アンモニアは脱炭素を達成するエネルギーとして注目されている。しかしコストの高さなど、乗り越えなければ課題も多い。

米国新政権の動向と欧米の水素戦略について講演する山本隆三氏
塩沢文明氏は水素・アンモニア利用の課題をテーマに講演

トランプ新政権のエネ政策 共和党州の利益が鮮明

講演は二つ行われた。IEEI所長で常葉大学名誉教授の山本隆三氏による「トランプのエネルギー政策と欧米の水素戦略」(内容の概要 https://ieei.or.jp/2025/02/yamamoto-blog250207/?doing_wp_cron=1739410579.8342959880828857421875 )。

また国際環境経済研究所主席研究員の塩沢文朗氏による「水素・アンモニア利用の課題」だ(内容の資料 https://ieei.or.jp/wp-content/uploads/2025/02/shiozawa_250201.pdf )。

トランプ大統領は就任直後に風力と太陽光、EV補助金など、これまでバイデン政権の進めてきたクリーンエネルギーへの政府支援を縮小し、化石燃料の活用促進、生産の増加を政策にすることを表明している。建前では進行するインフレ抑制のためとするが、山本氏はこの政策に「党派性がある」と指摘する。

洋上風力の計画、もしくは着工しているがある場所は東部、西部の米民主党が地盤とする州、つまり同党系の知事や議席の多い州に多くある。一方で共和党支持の州は中西部を中心に、1人あたりの国民の車の利用距離、つまりガソリンの使用量が多い傾向がある。ガソリン価格の上昇は車に乗ることが多い米国民の生活を苦しめている。つまりトランプ政権は、洋上風力発電の建設を邪魔することで民主党への政治的ダメージを与える一方で、共和党支持者の人気を集めようと原油を増産してガソリン価格を引き下げようとしているわけだ。

講演時点でも(この記事執筆の2月末時点でも)トランプ政権は水素の支援政策について明確にしていないが、「それはコスト、米国の利益になるかどうか次第だろう」と山本氏は指摘した。

計画倒れに終わりそうな水素社会

バイデン前政権は意欲的な水素の利用構想を示した。2030年1000万t、50年に5000万tの製造目標を立てた。またEUは30年に域内生産で1000万t、域外生産で1000万t、そして50年に全エネルギーの10%を水素にする計画だ。しかし、その生産能力を満たすことは難しい。

水素にはさまざまな製造法がある。再エネから作られる水素を「グリーン水素」、またそれと重なる脱炭素の電源を使う製造を「クリーン水素」などと呼ぶ。現在は化石燃料から作られる方法が主流だ。IEEIでは、24年秋にEUを訪問し、専門家らと意見交換を行った。そのヒアリングや公開情報で、次の事実が出た。

2030年にEU域内で生産可能なクリーン水素は年250万トン、大きな政策支援が追加されても年440万トンの製造しか確保できるめどはない。そして域外からの1000万トンの輸入構想も調達の見通しはない。さらに水素輸送のインフラ整備も進まず、EU全域への流通手段が確保されていない。

EUで国や業界団体の計画があっても、事業の設備着工が始まらない理由は製造コストの高さにあるとされる。その結果、水素の需要の先行きが不透明で、ビジネスとしての投資がしづらい状況になっている。

高くつく日本の水素

現在の水素の製造コストは次の状況だ。現在の欧州でのSMR方式(天然ガス、あるいは石炭と水蒸気による製造)でCCS(CO2回収・貯留技術)を併用した場合に、天然ガス価格が百万BTU(MMBTU)当たり約12ドルの前提で1kg当たり3.6ユーロとされている。

水電解によるコストは、各国の電力コストにより異なる。欧州の国での水素の製造コストは、フィンランドでkg当たり約4ユーロ、ドイツでは10ユーロ近くになる。米国では天然ガス生産が世界一で、それを使った水素の製造コストは安くなる。米国石油協会は、天然ガス価格がMMBTU当たり約4ドルの場合、CCSを利用しても30年時点の水素価格は1kg当たり2ドルを下回ると試算している。

山本氏は欧州鉄鋼連盟の関係者に、「補助金で設備を作っても、今はオペレーションコスト(操業費用)が経営に響く。そこまで各国政府は面倒を見ない。不透明で他の生産手段、そして米国よりコストがかかりそうで、水素向けの投資はしづらい」と言われたそうだ。


日本で水素を水電解で製造する場合の電気のコストは、電力料金を1kW時当たり10円と想定しても、水素製造の電気料金だけで水素1kg当たり400円を超えてしまう。設備の費用などを考えると、日本の水電解水素が競争力を持つことは難しい。

現在、出力制御されて売電できない再エネの電気が無駄になることが問題になっている。再エネ関係者などからそれを利用して水素を作れば良いとの提案が出ている。確かにそれを使えば電力費は抑制可能だが、自然現象で作られる電力であるためにいつ余剰電力が発生するか完全に予測できない。「そのために設備の利用率が低迷することになり、製造コストが抑制されることにはならない」と山本氏は指摘した。

また水素の製造では、水の電気分解による製造装置では中国製品が主流だ。トランプ政権は中国依存を脱却する方針だが、水素の製造でも脱中国が問題になりそうだという。これらの課題を見ると、水素の利用は、近い将来ではかなり厳しいと山本氏は分析している。

【記者通信/11月20日】<独自>豪州が原発導入費用の試算年内に公表へ 野党連合が表明


オーストラリア野党連合で影の気候変動・エネルギー相のテッド・オブライエン下院議員は11月19日、次期総選挙で公約に掲げている原子力発電所の導入について、年内に詳細な費用の見積りを公表することを明らかにした。野党連合はこれまで導入や運転した際にかかる具体的なコストを示していなかった。費用の詳細を明らかにすることで、与党労働党のエネルギー政策との違いを鮮明にし、国民に原発の利点を浸透させる狙いだ。

 

原発導入の必要性を強調するオブライエン氏

オブライエン氏は野党連合きっての政策通で、原発導入にも意欲的な議員の一人だ。次期総選挙で野党が政権を奪還した場合はエネルギー相候補の一人とされている。同日、豪州国会内で行われたエネルギーフォーラム主催の視察団(団長=山地憲治・地球環境産業技術研究機構理事長)との懇談で明らかにした。

懇談の中でオブライエン氏は原発について「2050年にカーボンニュートラルを達成するために、原発は豪州エネルギーのベースロード電源になり得る」との認識を示した。その上で「導入する原発は小型モジュール炉と新型軽水炉になるだろう」と話した。

さらに原発の管理運営の主体について、オブライエン氏は「政府に対する国民の信頼性が高く、安全保障の観点などから国営になるだろう」と述べた。

与党は原発反対 法律改正のハードルも

与党労働党のアルバニージー現政権は原発導入について、巨額なコストがかかることなどを理由に反対の姿勢だ。

これに対しオブライエン氏は「現政権が掲げる再生可能エネルギーを軸にしてカーボンニュートラルを達成する場合に比べ、原発を含めたエネルギーミックスによる方がコストは安くなる」との見解を示した。

野党連合は豪州内で休廃止が予定されている石炭火力発電所の跡地に原発を導入する方針を公表している。30年代半ばまでに7カ所で稼働する青写真を描く。

ただ豪州では現状、原発の商用利用について二つの連邦法で禁じている。導入にはこれらの法律の改正が必要だ。さらに州単位で禁じているところもあり、導入までには高いハードルが存在する。

【記者通信/11月22日】エネ基議論佳境へ 新エネルギー財団が電源ごとの進ちょく踏まえ提言


政府が年内に案をまとめる予定の第7次エネルギー基本計画の議論が佳境を迎えている。特に今回のエネ基は、電力需要が急増する可能性を踏まえつつ、カーボンニュートラルに向けたトランジションのビジョンを示さなければならない。焦点の一つが、2040年度の再生可能エネルギー比率をどの程度積み増すか。そうした中、新エネルギー財団がこのほど「新エネルギーの導入促進に関する緊急提言」を公表した。電源ごとに現行の30年目標の進ちょくを点検し、エネ基策定に向けた課題と提言を示した。

それぞれの30年目標に向けた状況としては、太陽光やバイオマスはおおむね目標達成可能な水準で導入が進む。他方、風力は案件形成が進みながらも、さまざまな課題が顕在化し運転開始時期の遅延が懸念される。そして地熱の進ちょくに至っては、目標を大きく下回る水準となっている。

こうした現状を踏まえ、電源ごとに提言をまとめた。

政策のてこ入れ特に必要な風力・地熱

政府が主力電源と位置付ける風力については、現行目標(陸上で30年17.9GW、40年35GW、50年41GW/洋上で40年35~45GW)を確実に達成し、導入拡大の維持・推進が必要だと強調した。風力導入に伴う地域の発展や国益の最大化に向け、社会システムの転換も見据えて、50年159~690GWといった大胆な目標を設定し、風力産業拡大政策の検討を求めた。

例えば、陸上・洋上いずれも、短期的にはインフレや資材価格高騰に伴うコスト増が事業の進捗を妨げており、基準価格の見直し、つまり価格調整スキームが検討課題であると指摘。中長期的には、発電所の大規模化や地域偏在性に対応するために、政府が具体的かつ計画的な系統整備の指針を示すよう求めた。

地熱は、30年1480MWという目標に対し、23年時点の総導入量は513MW、建設中や調査中を含めても600MWたらず。新規開発では、国有林の規制や資源量調査の膨大な費用が大きな課題だ。国立公園の核心部に近いほど規制との調整に難航する、酸性熱水の存在で技術的難易度が上がる、資材費高騰で収益性が悪化する、といった状況に直面する。既存開発地点でも地下リスクが大きく、追加投資に簡単には踏み切れないという。

地熱資源のポテンシャルを生かすためには、林野庁と連携しての規制の見直しや、JOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)の支援制度の抜本拡充が欠かせないとした。

変動性再エネの受け皿として一層の役割が期待される水力をめぐっては、初期投資の負担が大きく、資本回収には長期に安定した経済性の確保が必要となる。そのため、FIT (固定価格買取)/FIP(市場連動買取)制度の期間を、水力の耐用年数に合わせて40年とするなど、柔軟な仕組みづくりを求めた。

太陽光は新ビジネスモデル、バイオマスは輸入依存の改善を

導入量でみると順調に推移する太陽光に関しては、住宅へのエネルギー供給の新たなビジネスモデルの構築が重要だと指摘。太陽光、自家消費型高効率給湯器、蓄電池、EV充電、ZEH(ネットゼロエネルギーハウス)などを第三者保有モデルも活用しつつ、単なる設備・機器提供の枠を超えたサービスを提供する新たなモデルを目指すべきだとした。こうした在り方に資する支援策の充実強化が不可欠だと訴える。

比較的順調なバイオマスでも、原料は輸入に依存し、価格高騰や調達ルールの不確実性など、事業継続のリスクが存在する。30年以降も設備容量を維持するため、国産バイオマスの一層の振興や、輸入材調達に関する持続可能性確保の取り組みが求められる。併せて事業性の向上に向け、発電だけでなく熱利用の推進も重要な視点だと強調した。

第7次エネ基では、こうした現状の詳細な課題認識をどの程度踏まえた内容となるのか。まもなく示される政府案の行方が注目される。

【メディア論評/11月18日】エネルギー・環境政策に関係する議員の当落 衆院選を振り返る


10月27日の衆院選での自公連立政権の過半数割れは、今後のエネルギー・環境政策にどのような影響を及ぼすであろうか。エネルギー・環境政策は、脱炭素化と経済の両立という困難な課題に対応するため、政官民の多くの関係者がそれぞれの立場で関与している。その中で政権与党においてエネルギー・環境政策に携わる議員は、政策決定について役割を果たしてきた。今回は、政策遂行に関わってきた政権与党の議員の今回選挙での当落を(それが政権構造の変容の中でどれだけ影響を及ぼすかは不透明であるが)見ておきたい。

◆エネルギー環境政策に関わる議員

まずエネルギー・環境政策遂行に関わってきた議員にはどのような人たちがいるか、メディアの取り上げた例で見てみたい。電気新聞は衆院選告示前に「自民党議員に聞く エネ政策の論点」という短いシリーズを掲載した。エネルギー政策、原発政策に深く関係してきた議員の苦戦状況が見てとれる。

◎電気新聞〈自民党議員に聞く エネ政策の論点〉

今回総選挙の結果

10月7日

山際大志郎衆議院  比例復活(南関東)神奈川18区 元経産副大臣

石川昭政衆議院 落選 茨城5区 元経産大臣政務官

10月8日

鈴木淳司衆議院 落選 愛知7区 元法相、経産副大臣、自民党原子力規制に関する特別委委員長

細田健一衆議院 落選  新潟2区 元経産副大臣

10月9日

津島淳衆議院 小選挙区当選(青森1区)

鬼木誠衆議院 比例復活(九州) 福岡2区 元環境大臣政務官

エネルギーフォーラム誌では、長年にわたり毎月「政界官界」というコーナーで、国会議員、地方自治体首長などのインタビュー記事を掲載している。最近2年ほどのインタビュー登場者を紹介しておく。登場者は、幅広く関係者を紹介する同誌の方向性が見てとれるもので、国会議員の中には、国民民主党の比例区選出労組系議員も含まれている。なお、長年にわたりエネルギー・環境政策に関わってきた(今回の選挙で苦戦を強いられたケースも少なくない)ベテラン議員はこれより以前に登場していると理解していただけばよい。また、エネルギーフォーラム誌では、この「政界官界」コーナーとは別に、毎月福島伸享衆議院議員(小選挙区茨城1区、無所属・有志の会 経産省出身)が「永田町便り」を執筆している。

◎最近のエネルギーフォーラム「政界官界」登場者(肩書は当時)

2022年

8月号 長崎幸太郎山梨県知事

9月号 和田篤也環境省事務次官

10月号  中野洋昌公明党衆議院議員 兵庫8区(→今回小選挙区当選 第2次石破内閣国土交通相)

11月号 柳本顕自民党衆議院議員 比例近畿ブロック(→今回不出馬)

12月号 小林一大自民党参議院議員 新潟選挙区(22年)(→第2次石破内閣防衛大臣政務官)

23年

1月号

岩田和親自民党衆議院議員 佐賀1区(→今回比例復活・九州、今回経産副大臣退任)

2月号 竹詰仁国民民主党参議院議員 比例(22年)

3月号 関芳弘自民党衆議院議員 兵庫3区(→今回小選挙区当選) 

4月号 穂坂泰自民党衆議院議員 埼玉4区(→今回小選挙区当選、第2次石破内閣デジタル副大臣)

5月号 田野瀬太道自民党衆議院議員 奈良3区(→今回小選挙区当選)

6月号 西野太亮自民党衆議院議員 熊本2区(→今回小選挙区当選、第2次石破内閣内閣府大臣政務官)

7月号 磯崎哲史国民民主党参議院議員 比例(19年)

8月号 平山佐知子参議院議員 無所属 静岡選挙区(19年)

9月号 仁科喜世志静岡県函南町長

10月号 源馬謙太郎立憲民主党衆議院議員 静岡8区(→今回小選挙区当選)      

11月号 大岡敏孝自民党衆議院議員 滋賀1区(→今回比例復活・近畿)

12月号 鬼木誠自民党衆議院議員 福岡2区(→今回比例復活・九州)

24年

1月号 山田修茨城県東海村長

2月号 米澤光治福井県敦賀市長

3月号 須田善明宮城県女川町長

4月号 浜野喜史国民民主党参議院議員 比例(19年)

5月号 難波喬司静岡市長

6月号 平岡清司奈良県五條市長

7月号 上定昭仁島根県松江市長

8月号 鷲尾英一郎自民党衆議院議員 新潟4区(→今回落選)

9月号 山本知也青森県むつ市長

10月号 重徳和彦立憲民主党衆議院議員 愛知12区(→今回小選挙区当選)

11月号 青山繁晴自民党参議院議員 比例(22年)  

【記者通信/5月15日】大手電力8社が過去最高益 売上高は軒並み減収に


大手電力10社の2024年3月期連結決算が出そろった。売上高は、販売電力量の減少などにより、北海道、関西、沖縄を除く7社が前期比で減収となった。一方、最終損益は燃料高で苦しんだ前期から一転し、北海道662億円、東北2261億円、東京2678億円、中部4031億円、北陸568億円、関西4418億円、中部1335億円、四国605億円、九州1664億円、沖縄23億円と全社が黒字を確保し、東京と沖縄を除く8社が過去最高益を記録した。

決算会見に臨む東京電力HDの小早川社長

この背景には、燃料費調整制度による期ずれ差益に加え、規制料金の値上げ改定(中部、関西、九州を除く)や原子力利用率の向上(関西、四国、九州)、卸電力市場のスポット価格下落などがある。

25年3月期の業績見通しについては、東京、沖縄除く8社が大幅減益を予想。東京は「未定」とした。電力業界関係者からは、今期は期ずれ差益を除く実力ベースの業績が色濃く反映されるとの見方が出ている。各社の自己資本比率は危険水準にいた北海道、東北、九州、沖縄も含め10%前後を脱したが、引き続き収益力の向上と財務基盤の健全化が課題となりそうだ。

【特集1】税から形を変えた生活支援 行政デジタル化の遅れが背景に


エネルギー価格補助は、生活困窮世帯などへの形を変えた生活支援との見方もできる。一方で、政府のGX戦略との不整合は否めない。大橋弘東京大学副学長に今後目指すべき方向性を聞いた。

インタビュー:大橋 弘/東京大学副学長

おおはし・ひろし 米国ノースウェスタン大学博士(経済学)。ブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ)経営・商学部助教授、東大大学院経済学研究科教授、同大公共政策大学院院長などを経て2022年4月から現職。

―電気・ガス・ガソリン価格への補助を通じた政府の物価高対策をどう評価しますか。

大橋 わが国経済のデフレ脱却に向け、物価の上昇と賃上げの好循環を創出することは政府にとって喫緊の課題です。ただ、足もとでは、賃上げが追い付かない上に、防衛費や子育て支援などの財源確保に向けて増税が議論されており、減税による低所得者層などの生活支援を打ち出すことで、税負担を和らげようとの狙いがあったように思います。

―エネルギー価格補助は、低所得者層に絞った生活支援ではありません。

大橋 本来であれば、生活困窮世帯のみを支援するべきですが、マイナンバーと所得や納税情報のひも付けなどによる行政手続きのデジタル化が遅れているために、ターゲットを絞ったプッシュ型の支援ができません。これではどうしても「申請主義」とならざるを得ず、地方自治体など行政機関の業務が煩雑化し非効率になることは、新型コロナウイルス禍での給付金給付の混乱でも明らかです。
 少なくともエネルギーは、国民誰もが利用しており、また公共交通の乏しい地域では車を複数台持っていることもあり、エネルギーに補助を入れることで幅広い層がその恩恵を享受することができます。政府としては、生活支援の手段として有効との判断があったのではないでしょうか。ただ、例えば電気の使用量が多い人ほどたくさんの補助を受けており、本当に必要としている人に必要な補助が届いているかと言えば、対象がずれている可能性は否めません。


家庭の省エネ支援進展に期待 GXの観点で経済対策を

―政府が目指すGX(グリーントランスフォーメーション)戦略と相反することを問題視する声もあります。

大橋 内閣官邸のGX実現会議においても、分野別の投資戦略などの具体化に向けた検討が進められています。そうした中で、化石資源の利用を促す補助をすることと整合が取れていないことは確かです。一方で、GXの目標を達成するためには、電源を脱炭素化した上で電化できるところはその比率を上げる必要があります。将来の需要側の脱炭素化を見据え、電化を進めることにつなげようとするのであれば、電気料金を補助することに一定の価値を見出せるかもしれません。

―11月2日に政府が取りまとめた総合経済対策に、エネルギーコスト上昇に対する経済社会の耐性強化策として、企業や家庭の省エネ支援が盛り込まれていることについてはどう見ますか。

大橋 脱炭素社会を目指す上で、家庭分野のCO2削減は大きなテーマです。ですから、省エネ改修や断熱/遮熱窓への改修、高効率給湯器の導入といった家庭向けの政策が盛り込まれたことは評価できます。どの道、経済対策にお金を使うというのであれば、いかにGXの観点でそれを進めるかが肝要でしょう。

【特集1】目先の対応を一刀両断 10兆円はどこへ消えた!? 出口戦略不在の落とし穴


エネルギー価格補助金は、激変緩和策という当初の目的から大きく反れ今日に至っている。円安で資源輸入コストの高止まりが常態化する中、真に求められる政策は。激論が交わされた。

〈座談会出席者〉 A政治家 Bアナリスト C経営学者

油価高騰で電動車シフトも進むはずが……

―総額17兆円の総合経済対策に対する世論の評価は芳しくないようで、内閣支持率にまったく結び付いていない。特に巨額を投じてきたエネルギー価格補助金はさらに来年4月末まで延長することとなった。

A 日本は経済政策をマクロ経済学に従って科学的に捉えることが本当に苦手だ。インフレと、(日本経済の需要と供給の差を示す)需給ギャップがプラスになろうとしている中、政府が物価高騰対策として講じた手立ては、総需要曲線を右側にシフトさせ物価高につながる政府支出ばかりだ。いま注力すべきは金融政策であり、政府は根本から間違えているが、そうした問題を国会でもあまり議論しない。まさに危機的な状況だ。

B エネルギー価格補助に巨額を投じることは、本当にもったいないお金の使い方だ。Aさんが言うように、今すべきことは金融緩和ではなく引き締めること。その逆の政策を続けているから、輸入コストプッシュ型の日本が物価高にあえいでいる。
 しかも、国民が補助金のありがたみを感じるのは石油製品の価格が下がる導入直後だけで、原油輸入コストの変動が補助金の増減で相殺されて価格はフラットになる。一時、1ℓ当たり40数円も補助金が上乗せされていたにもかかわらず、小売りもユーザーもその意識は皆無だ。しかも各種価格補助金は概ね単位数量当たりの値下げであり、逆進性の問題も無視できない。

C 岸田首相がガソリン小売りのターゲット価格として175円を示したことも大きな問題だ。市場原理による公平な取引を根本的に崩した。戦後の統制価格以来、こうした対応は一度もなかった。第二次オイルショックで価格指導を行ったことはあったものの、具体的な価格には言及していないし、効果のある施策だった。そしてこの件もそうだが、一連のエネルギー価格補助金のやり方の変更は、何度か節目があったものの、政権外から見て一切議論なしに決められている。

B 予算編成の関係も踏まえれば、今年度に切り替わったタイミングでエグジットすることが望ましかった。

A 半世紀前の第一次オイルショックの際、田中角栄内閣は今とは逆に財政を引き締め、油代補助などのバラマキは行わなかった。当時は今より石油依存度が高く、国民生活へのインパクトはさらに大きかったが、省エネ促進と原子力利用にかじを切り、エネルギーの供給構造が抜本的に変わった。上流から下流まで一気通貫でエネルギー政策を担う資源エネルギー庁も設立。バブル経済までの日本の産業競争力と成長につながった。
 翻って現在の世界情勢を踏まえれば、エネルギー価格高騰は一過性のものではない。各国は、以前からのカーボンニュートラル(CN)をベースに、さらなる外圧をてこにして、新たなエネルギーシステムを作り上げる競争を進めているのに、日本だけがあさっての方角を見ている。20~30年後に悲惨な結果をもたらさないか、憂慮している。

【特集1】給付基盤なき一律補助が問題の本質 困窮世帯への集中支援を


燃料補助金、電気・ガス代補助金は、物価対策として積極的に取るべき対策とは言えない。行政のデジタル化を進め、困窮世帯に対する集中的な支援に切り替えられないのか。


志田龍亮/三菱総合研究所 政策・経済センター 主席研究員/グループリーダー

しだ・りゅうすけ 2008年三菱総合研究所入社後、エネルギー分野での政策立案支援、コンサルティング業務などに従事。14~16年に米国にてシェールガス関連・再エネ開発の事業支援に従事。20年よりエネルギー分野での政策提言の取りまとめを担当。博士(工学)。

11月2日に「デフレ完全脱却のための総合経済対策」が閣議決定された。経済対策の5本柱のうちの一つとして物価高対策が位置付けられ、所得税・個人住民税の定額減税、住民税非課税世帯への支援、そしてガソリン・軽油などの燃料油価格、電気・ガス料金の激変緩和措置の延長が決定された。

燃料補助金については昨年1月に時限的措置として始まりながら、6回の期限延長を経て現時点で来年4月月末までの措置が決定している。電気・ガス価格への補助金も、今年1月に開始され、同様に来年4月までの延長となった。その後については、電気・ガス代補助は「同年5月は激変緩和の幅を縮小する」、燃料補助は「出口を見据えられる状況になった場合に、翌月以降補助率を段階的に縮小する」という方針が定められたのみで、終わりが見えない状況にある。


やめるにやめられず 国の重い財政負担に

総合経済対策は、減税・給付・補助といった「国民への還元」が前面に出ているものの、その実効性については批判的な意見も多い。特に燃料補助金、電気・ガス補助金については問題点が多く存在するが、そのポイントは大きく①財政への悪影響、②脱炭素化への逆行、③低所得者層支援としての非効率性―の3点に集約される。

一点目は、財政面への影響である。これまで燃料補助金では6兆2000億円、電気・ガス補助金では3兆7000億円、合計で10兆円程度の予算が計上されている。この金額規模は日本の年間の化石燃料輸入額に匹敵し 、財政面で全く持続可能な水準にない。

最も避けるべきシナリオは「補助金が当たり前」と国民が考えてしまうことだ。国際エネルギー機関(IEA)の統計によると、世界で燃料補助が恒常的に行われている国は産油国を中心に40カ国ほどあり、湾岸諸国や中央アジアなどの一部では燃料補助金がGDP(国内総生産)の10%以上を占める国も存在している。

インドネシアやマレーシアでは数十年にわたる価格統制を経て、2014年に原油価格が下落したタイミングでようやく燃料補助金を廃止したが、その後両国とも18年に再度復活することになった。こうした国々では、燃料補助金の重い財政負担に苦しみながらも、国民の反発からやめるにやめられない状況にある。一度根付いた国民意識を変えることは容易ではなく、時限的措置と認識されるうちに出口に向かう必要がある。

二点目は、脱炭素化への逆行だ。今年5月に開催されたG7(主要7カ国)広島サミットでも、首脳コミュニケにて、気候変動対策の観点から燃料補助金廃止の必要性が触れられた。燃料補助、電気・ガス代への補助は適切な価格転嫁を妨げ、本来働くべき市場メカニズムをゆがめることになる。

エネルギーコストの上昇は短期的には需要家の負担増を招くが、中長期的にはエネルギー消費構造の変化を促すことにつながる。例えば、各国統計を見ると、産業用電気料金が高い国ほどGDP当たりの電力消費が少ない、つまり、相対的に少ない電力消費でGDPを稼ぐ産業構造となっている。日本でも、1970年代のオイルショック以降に急激にエネルギー消費効率が向上、省エネ技術の確立につながった。

総合経済対策の中では、企業・家庭への省エネ促進や、自家消費型太陽光や蓄電池に対する導入支援なども含まれている。燃料補助、電気・ガス代補助ではなく、機器更新やエネルギー効率向上などの促進施策によって、エネルギー消費構造を転換し需要家負担を下げる方向にいくべきだろう。

【特集2】CNの切り札として社会実装へ 進展するe-メタンプロジェクト


都市ガス業界は、2030年度に都市ガスの1%にe-メタンを導入する目標を打ち出す。それを実現するため、国内外で複数のプロジェクトが立ち上がっている。

熱分野のカーボンニュートラル(CN)の切り札として期待されるe-メタン(合成メタン)。そのフラッグシッププロジェクトとして、東京ガス、大阪ガス、東邦ガス、三菱商事の4社が、米テキサス・ルイジアナ州のメキシコ湾岸で世界初の大規模なe-メタンを製造・液化し、日本に輸送するサプライチェーン確立に向け、現在Pre-FEED(基本設計の前段階の概念設計)を共同で進めている。

e-メタンの出荷基地となる米国キャメロンLNG基地

同プロジェクトは、3社の年間都市ガス需要の1%に相当する年間1億8000万㎥(内訳は東ガス8000万㎥、大ガス6000万㎥、東邦ガス4000万㎥)のe-メタンを製造し、キャメロンLNG基地など既存のサプライチェーンを活用し液化し、日本に輸出することを目指す。

今年8月には、センプラ・インフラストラクチャー社が、同プロジェクトにおいて、米国のエネルギー事業者として初めて参画。現地でのプラント用地選定・各種許認可・地元対応など、地元企業との連携が必要不可欠である中、同社の参画はプロジェクト実現への大きな推進力となり得る。

25年度中の最終投資決定へ 用地は経済性・拡張性など重視

30年の製造開始に間に合わせるには、25年度中にも最終投資決定(FID)をしなければならない。プラント用地の候補は絞り込まれつつあるが、「最も経済性の高いe-メタンを製造できることはもちろん、30年1%はあくまでも最初の目標でありそれで終わりではない。冗長性や拡張可能性も含めて慎重に選定したい」(東ガス)という。

世界初のプロジェクトにこの地を選んだのは、再生可能エネルギー由来の電力やCO2といったe-メタンの原料が豊富にあるのに加え、天然ガスパイプラインやキャメロンプロジェクトといったLNGインフラが整っており、ほかの国・地域と比べても最も初期に取り組むのに適しているとの判断からだ。CO2であれば、テキサス・ルイジアナ州にはパイプライン網が整備されているため、パイプラインを通じて排ガス由来、バイオガス由来のCO2を購入することが可能となる。

このキャメロン近傍における日米5社によるプロジェクトに加え、大手都市ガス各社は国内外で複数のプロジェクトの検討を進めている。例えば東ガスは、海外においては、マレーシアや豪州他地域でグローバルエネルギー企業や総合商社と事業性検討を行っているほか、国内でも需要家から排出されるCO2の有効活用によるエネルギーセキュリティ向上を模索している。

具体的には、太平洋セメントや富士フイルムとともに、製造過程で排出されるCO2を原料に需要家のサイトでe-メタンを製造し供給することを検討中だ。また、昨年3月にe-メタン製造の実証に着手した横浜テクノステーションでは、隣接する横浜市のごみ焼却場からCO2を回収し、それを原料にe-メタンを合成している。

「海外のサプライチェーンでは量を確保し、国内では需要家から排出されたCO2の循環と地産地消の取り組みを進めエネルギーセキュリティーを向上させる。その両面でe-メタンの社会実装を図っていきたい」(東ガス)

【特集2】着実なトランジションでCNに貢献 地域課題解決で幅広い役割を発揮


脱炭素化へのトランジション、そして地域の課題解決に向け都市ガス事業者による貢献への期待は大きい。業界のビジョン推進と各事業者の対応をどう支援していくのか。日本ガス協会の本荘武宏会長に聞いた。

【インタビュー】本荘武宏/日本ガス協会会長


ほんじょう・たけひろ 1978年京都大学経済学部卒、大阪ガス入社。2009年取締役常務執行役員、13年副社長執行役員を経て15年社長。21年1月から同社会長、4月から日本ガス協会会長。

―2050年カーボンニュートラル(CN)への第一関門として、30年温暖化ガス46%削減というNDC(国別目標)の着実な達成が求められています。

本荘 わが国の産業・民生部門のエネルギー消費量の約6割を占める熱需要の低・脱炭素化はCN化の鍵であり、ガス体エネルギーが果たす役割は大きいと考えます。都市ガス業界としては、21年6月に発表した「カーボンニュートラルチャレンジ2050アクションプラン」に基づき、取り組みを着実に進めています。

―その進捗について手応えはどうでしょうか。

本荘 トランジション期では、NDC達成への即効性がある、①ほかの化石燃料からの天然ガスシフト、②分散型のコージェネレーションや燃料電池などの普及拡大によるガスの高度利用、③クレジットでのオフセットを活用した「カーボンニュートラルLNG」の導入拡大―などを強力に推進していきます。大手と地域の事業者が手を携え、その波は着実に広がっています。

 そして将来的には、都市ガスを脱炭素化した「e―メタン」へと置き換え、既存のインフラを有効活用しながら、シームレスにCN化を実現させたい考えです。

 なお、25年開催予定の大阪・関西万博ではガスパビリオンを出展し、都市ガス業界の取り組みを発信していきます。まさに「未来の実験場」として、CN化やCO2リサイクルを来場者の皆さまに実感してもらえるような空間を提供します。ガス業界が今後も人や地域、社会に寄り添う存在であり、将来への期待も感じてもらいたいと思っています。

―他方、政府はGX(グリーントランスフォーメーション)に巨額予算を投じ支援を拡充するとともに、カーボンプライシング(CP)の一環で化石燃料賦課金などの導入も予定しています。

本荘 政府に対しては、業界を挙げてGXにおけるe―メタンの重要性をアピールしており、社会実装に向けては、水素・アンモニアで検討されているような支援の具体化にも期待しています。加えて、都市ガスへの燃料転換、エネファームやエコジョーズなど省エネ機器普及へさらに支援をいただけるとありがたい。

 そしてCPについては、将来の成長を妨げないような制度設計となること、賦課金が適切な手法でe―メタンなど日本の脱炭素化に資する支援となるように期待しています。


【四国電力 長井社長】幅広い事業で経営安定化 リーディング企業として 地域の発展を支える


ここ数年、電気事業は厳しい経営が続いたが、政府の査定を経た10年ぶりの規制料金値上げにより収支安定化に向かう準備が整った。安定供給、再エネ拡大、原子力活用にまい進しつつ多面的に地域社会への貢献を図る考えだ。

【インタビュー:長井啓介/四国電力社長】

ながい・けいすけ 1981年京都大学大学院工学研究科修了、四国電力入社。2015年常務取締役総合企画室長、17年取締役副社長総合企画室長などを経て19年6月から現職。

志賀 今夏は記録的な猛暑となりましたが、電力需給はさほどの混乱はなかったようですね。

長井 近年予備率の厳しさが指摘され、追加の電源確保や燃料調達の拡充といった手厚い対応が奏功したと思います。当社では伊方3号機が定検を終えて稼働しており、リプレースした西条1号機も6月末から運開。両者で約140万kWと、供給力の面で心強いです。

志賀 他方、昨年から今春にかけては電気料金の高騰が社会的な関心を集めました。貴社は昨年11月28日、平均28.08%の規制料金値上げを申請し、今年5月19日、最終的に認可されたのは、託送料金の値上げ分(4.64%)を含めると平均28.74%の値上げでした。

長井 前回2013年の料金改定以降の経営効率化の成果だけでなく、現在進行中、あるいは今後予定する内容も先取りし、できる限り値上げ幅を圧縮しました。そこからさらに、燃料調達や設備生産性について全国のトップランナー水準と比較するなど、足元で実現可能なレベルを超える効率化を求められました。今回の査定は、非常に厳しい内容だったと受け止めています。
 ただ、今回の値上げの主目的であった燃料費高騰に伴う逆ザヤ解消の目途は立ちました。お客さまの値上げに対する厳しい意見を胸に刻んで、引き続き効率化の深掘りと安定供給を全うする考えです。

志賀 自由料金も含め、料金値上げに伴う需要家の動向は。

長井 昨年の自由料金の燃調上限廃止や今年6月の規制料金値上げに際しては、各方面のお客さまから厳しい声をいただきましたが、幸いにも大きな離脱の動きにはつながりませんでした。私どもとしては、引き続き当社をご選択いただけるよう、経営の合理化・効率化に取り組んで、競争力のある魅力的な料金をご提供していきたいと考えています。

志賀 これで中期的に経営安定化が図れると考えますか。

長井 電気事業については、ロシアのウクライナ侵攻前から燃料価格が高騰しており収支的に厳しい状態が続き、四国電力単独では至近3年連続の赤字でした。今回の値上げで少なくとも収支不均衡は解消されたので、今後は効率化を頑張った分だけ収支が安定していくポジションに入ったと考えています。

リプレースした西条1号機。供給力の面で貴重な戦力だ

【特集1】西日本が電力不足・高騰回避のワケ 原子力稼働の波及効果を分析


「東西」での原子力稼働状況の違いが、近年のエネルギー危機への耐久性の差として顕在化している。原子力を巡る状況が株式市場にどのような影響をもたらすのか、さまざまなデータを基に解説する。

荻野零児/三菱UFJモルガン・スタンレー証券 シニアアナリスト


本稿では、株式市場の観点から、原子力発電の稼働による電力会社への(ポジティブな)影響を整理する。

まず、現在の原子力発電の稼働の状況を整理する。2011年3月の東日本大震災に伴う東京電力福島第一原発事故後に、日本政府は原子力に関する規制ルールを改革した。このため、14年度に国内の原子力の稼働基数はゼロになった。現在(23年9月11日)までに再稼働させた電力会社は、関西電力、九州電力、四国電力の3社である。これら3社の原子力の所在地は、全て西日本である。

原子力の稼働によるポジティブな影響は、①電力の安定供給への寄与、②発電コストの低減、③CO2排出量の削減―の3点である。順次解説していく。


再稼働が供給余力を左右 関西・九州は規制値上げせず

第一の原子力稼働のポジティブな影響は、その稼働が電力の安定供給に寄与することである。
新たに原子力の稼働が増加することは、電力需給バランスにおける電力供給力が拡大することを意味する。このことは、電力の安定供給の余裕度を高めることに寄与する。一般的に、原子力発電の1基当たりの発電能力は相対的に大きいため、その稼働により電力供給力が高くなる。

昨年3月22日、節電に応じる都内の家電店 提供:朝日新聞社

例えば、夏の電力需要ピーク時の電力需給バランスの試算を見てみる。電力広域的運営推進機関の電力需給検証報告書(23年5月発表)が、23年度夏季の電力需給見通しを示している。

同報告書によると、23年8月の供給予備率の見通しは、西日本(中西6エリア)が12.0%(供給予備力1116万kW)である。この供給予備率は、東日本(東3エリア)の5.5%(供給予備力432万kW)よりも高く、供給余力があることを示している。

供給余力が高い方が、気温上昇などによる電力需要量の増加や、発電所トラブルによる供給力の低下などの緊急時の状況に対応しやすくなる。同見通しでは、23年8月の原子力供給力は、西日本で955万kW(関西電力、九州電力、四国電力)、東日本で「なし」と想定されている。西日本と東日本の供給予備力の差異は、稼働可能な原子力の発電能力の違いになっていると考えられる。

第二の原子力稼働のポジティブな影響は、火力燃料コストの削減要因になることである。

一般的に、原子力の発電コストは火力の発電コストよりも安い。このため、電力需要量を一定とすると、原子力の発電量が増加することは、その分の火力発電量が減少(火力燃料の消費量の減少)することになる。

例えば、関西電力のケースを見てみる。22年度決算説明資料(23年4月27日)によると、23年度会社計画の費用への影響額として、原子力利用率が1%上昇すると、経常費用は56億円減少するという試算が示されている。23年度の利用率の会社前提は70%程度である。従って同計画では、原子力稼働による費用抑制効果は、約3920億円(=70×56億円)と試算される。なお、同計画の23年度の前提は、全日本原油CIF価格1バレル85ドル、為替レート1ドル135円である。

22年度は、LNGや石炭、石油といった火力燃料の輸入価格の大幅上昇などを背景に、多くの電力会社が、規制部門の電気料金の値上げ申請を政府に対し行った。火力燃料の輸入価格が大幅に上昇した要因は、火力燃料のドル建て価格の上昇だけでなく、為替レートの円安もあった。前述の関西電力の決算資料によると、22年度の全日本原油CIF価格は同102.7ドル(21年度77.2ドル)、為替レート同135円(21年度112円)だった。

この中で、22年度に関西電力と九州電力は、規制部門の電気料金の値上げ申請を行わなかった。両社が値上げ申請を行わなかった主な要因の一つは、他の電力会社と比較して、原子力稼働による火力発電量の削減効果が、火力燃料の輸入価格の上昇による悪影響を抑制できたことと、当社では考える。