【気候危機の真相Vol.02】田中博/筑波大学計算科学研究センター教授
近年の温暖化は人為起源との仮定を基に「気候危機」が叫ばれているが、予測はあくまで仮説だ。不確実性があるにもかかわらず、巨額を投じて温暖化対策を実施することは、正しい選択なのか。
日本国内では、「地球温暖化は人為起源によるもので、科学的には疑いがなく、今すぐ対策を講じないと取り返しがつかなくなる」と信じている人が大勢いる。「この問題は温暖化対策に消極的な大人たちの責任であり、将来を担う子どもたちに環境破壊のつけを残してはいけない」と、一部の政治家やマスメディアが声高に主張する。とても扇情的な内容だが、果たして本当だろうか。筆者は、近年の温暖化の半分は自然変動で、科学的には疑いが残っており、その不確実性から今すぐ膨大な国費を費やして対応するには問題があると考えている。「かけがえのない地球を守る」という美しすぎる枕詞で始まる温暖化脅威論に異議を唱える者はいないだろうが、不確かな将来予測を根拠に毎年何兆円もの血税が使われることには、はなはだ疑問を抱いている。
気候変動には人為起源の温暖化のほかに、化石燃料の放出とは無関係の自然変動が必ず含まれている。従って、温暖化の将来予測では、この自然変動を差し引いて考える必要がある。この二つが正しく分離されないと、温暖化対策と称して甚大な経済的損害を被ることになる。ところが、現在の気候モデルでは、過去の長期的な自然変動を正しく表現できないことが、一般にはあまり知られていない。
人為起源はどの程度か 絶対ではないIPCC報告
図は、欧米の主要な研究機関による気候モデルを過去1000年間にわたり走らせた結果の気温変化である。長周期変動を引き起こすメカニズムが組み込まれていない(分かっていない)ので、流体の揺らぎとして発生する内部変動(これも自然変動の一部)を除けば、長周期変動は存在せず、トレンドもない。一方、近年観測された温暖化(100年で0.7℃)は、モデルの自然変動(ここでは内部変動)では説明できない温度上昇となっている。よってこの部分は人為起源のCO2の増加によるものである、との考察から、ここだけは人為起源の外力としてモデルに組み込み、モデルをチューニングすることで観測と一致させている。このモデルの結果は、かつて「ホッケースティック」と名付けられた観測結果と同じで、この温度の急勾配を将来に外挿して危機的な将来の温暖化が予測されているのである。しかし、こうした結果がおかしいことは明らかだ。

最新のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次報告では、西暦1000年ころには中世の温暖期があり、1500~1800年ころには小氷期があったとされ、最近の200年間は100年当たり0.5℃のリニアートレンドで気温が上昇している。この1000年スケールの変動は、人為起源ではなく自然変動であることは確かである。その大振幅の自然変動を気候モデルは再現できないので、図のように真っ平らな気温変化にしかならないのだ。もし、この長周期の自然変動の原因が今後解明され、過去1000年の大きな変動とともに、近年200年間のリニアートレンドが自然変動で再現されたとすると、人為起源にその原因を求めた気候モデル予測の根拠は総崩れとなる。温暖化の半分は自然変動ということになり、100年後の温暖化はたかだか1℃程度になる。