【九電グループ】
台風や大雨など自然災害が多い九州だが、停電の復旧はすこぶる早い。 備えられる災害にはたゆまぬ訓練で、予見できない災害には経験と知恵で果敢に挑む。
九州電力送配電の復旧部隊は、台風など事前に被害が予想される自然災害においては、襲来前に現地入りして復旧に備える。特に離島では台風が去った後も海が荒れた状態が数日続き、現地に入れず、復旧が遅れる可能性があるからだ。
「台風は進路が変わって、被害はないかもしれない。それでも空振り覚悟で必要な人員、資機材などを事前準備している」と話すのは、九電送配の古賀寛典技術企画グループ長だ。8月の台風6号では、高速道路や船が利用できるうちに、九州各地から300人規模の復旧要員と復旧資機材を、本土では長崎県と鹿児島県に、離島では奄美大島や五島列島などに送り込んだ。台風に伴い、宮崎と鹿児島には線状降水帯が発生。土砂崩れが道をふさいだが、自治体と連携し優先的に道路を啓開してもらい、停電は長くても2日以内に復旧できた。
九電グループは、九州7県233市町村の全自治体との相互連携に取り組むとともに、災害時の連携協定を結んでいる。また、陸上自衛隊とは、復旧資機材や人員、車両の運搬や自衛隊活動拠点への電源供給など、災害時の相互連携を図ることを目的に協定を締結。陸路が途絶した場合にも備え、海上自衛隊とも協定を結んでいる。さらに、九州全域を管轄する海上保安本部とも協力協定を締結し、離島が孤立化した場合に備え、人員や資機材を海上輸送する手段の多様化に取り組んでいる。
大規模台風がきっかけ 設備を強化し信頼度を維持
九電送配が自然災害に備え、設備を強靭化するきっかけになったのは、1991(平成3)年の台風19号だ。数百人規模の応援者派遣スキームを作るきっかけにもなった。台風は長崎県に上陸し、最大瞬間風速54・3mを観測。大規模な倒木が発生した。鉄塔や電柱なども大きな被害を受け、当時の九電エリアの3割以上に当たる、約210万戸が停電する事態に陥った。
これを機に、九電送配は全ての電柱をコンクリート柱にし、送電鉄塔についても、電気設備の技術基準で定められている風速40m(毎秒)での設計を基本としつつも、気象や地形条件を勘案し個別に設計して強靭化を図った。その後も、発変電所の浸水対策や日頃の設備点検・補修などを強化し、設備の信頼度維持に努めている。
九電と九電送配は毎年、台風襲来前の7月にこの台風19号規模を想定した「大規模非常災害対策訓練」を合同で行っている。陸上・海上自衛隊、海上保安本部とは、さまざまなシチュエーションで訓練する。高圧発電機車の空輸訓練や輸送艦への復旧車両搭載訓練を実施するほか、近年ではヘリによる空中巡視訓練にも取り組む。
連携で早期復旧した熊本地震 経験を伝承し組織力に
台風と違って事前配備できず、被害確認後の初動になるのは地震や線状降水帯の発生時だ。
2016年4月16日に起こった熊本地震・本震では、大規模な土砂崩れが発生。一の宮・高森方面に電力を供給している6万V送電線が使用できなくなり、停電が長期化する深刻な事態になった。九電は、北海道から沖縄までの9電力それぞれに応援を依頼。当時は10社間の「災害時連携計画」(20年に策定)はなかったものの全面的な協力が得られ、9社から629人、高圧発電機車110台の応援が続々と熊本に到着した。これにより、がけ崩れなどで復旧困難な箇所を除いて、発災4日目にはずらりと並ぶ高圧発電機車から直接高圧配電線へ送電することができた。
仮鉄塔の設置は余震が続く中、深い支持地盤までの掘削が困難だったため、掘削不要な特殊な鋼板補強基礎を災害復旧工事で初めて採用した。用地交渉が完了した箇所から順次作業を開始し、仮鉄塔3基、仮鉄柱14基、総計約5㎞の仮送電線ルートをわずか10日ほどで構築した。
九電送配・送電グループの佐藤智彦課長は「この時初めて災害復旧対応でドローンを使った。鉄塔近くに地割れがあり、余震も頻繁に起こっていたため、作業員の安全を優先しての判断だった」と振り返る。鉄塔に上らず状態を確認できることが分かり、今では保守や、立ち入りが困難な箇所の被害確認でも活用している。
熊本での迅速な復旧は、経験を応用し、挑み、関係者全てが力を合わせた結果だ。後に復旧オペレーションの一つの見本となった。実際の復旧対応でのさまざまな経験を次につなげ、組織や人材が成長できるのは九電グループの大きな強みだ。若手社員は先輩社員から過去の大災害の話を聞き、指導を受ける中で、経験が伝承されていく。
九電送配の石松泰配電管理グループ長は「社員は電気の重要性を認識し、『一刻も早く電気を届ける』『自分たちが安定供給を守る』という、九電・九電送配の強い意志を受け継いでいる。この〝DNA〟が早期復旧の原動力」と言い、こう続ける。「ただし、災害時においては安全が大前提で最重要。対応は相互協力を旨とすることを、全社の非常災害に関する心得として定めている」
災害ごとに復旧対応での課題を洗い出し、改善を図ることにも力を注ぐ。良好事例などのナレッジも含め、都度、災害復旧マニュアルに落とし込んでいる。毎年実施するさまざまな訓練を含め、表には見えない一つひとつの備えへの取り組みや、関係機関との連携が九電グループの底力になっている。今後も立ち向かう自然災害に対しても、培ってきた技術力や組織力で乗り越えられるはずだ。九電グループは今、地域社会との連携の重要性を再認識しながら、最新の情報技術の導入も検討し進化を続けている。