【特集2】新市庁舎にCN都市ガスを供給 連携協定で脱炭素化を加速


【西部ガス長崎】

西部ガスグループは2050年のカーボンニュートラル(CN)実現に向け、「天然ガスシフト」「ガスの脱炭素化」「電源の脱炭素化」を柱に取り組みを進めている。

21年3月、長崎市は、50年までにCO2排出量実質ゼロを目指す「ゼロカーボンシティ長崎」を宣言した。長崎市内にガスを供給する西部ガス長崎は、同市の脱炭素化に向けて、CO2クレジットによる相殺でCO2が発生していないとみなす「CN都市ガス」を提案し、同市は新市庁舎での利用を検討。これをきっかけとして昨年12月、西部ガス長崎と長崎市は、ゼロカーボンシティ長崎の実現に向けた連携協定を締結した。

連携項目は、①CN都市ガスの供給、②建築物などにおける地球温暖化対策、③環境エネルギー教育を通じた啓発活動、④食品ロス・廃棄物削減の推進―に関する4項目だ。

全量をCN都市ガスで供給 環境イベントで脱炭素を啓発

今年1月4日、早速①を実施。同日開庁した新市庁舎に、CN都市ガスの供給が始まった。自治体にCN都市ガスを供給するのは西部ガスグループで初めてだ。

②では、市内の公共施設や民間施設の燃料を石油系から都市ガス、LPガスへの切り替えのほか、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)化推進を支援する。

新市庁舎はレジリエンス強化のため、三菱重工業製ガスエンジン450kWを設置。発生する排熱を冷房熱源として利用するガス空調「ジェネリンク」1056kWや、ガス給湯器276kWも導入した。これらにより新市庁舎はZEBレディ認証を取得。都市ガスによる脱炭素化モデルとして、全国の自治体の注目を浴びている。

③と④では、市民への発信や教育ツールの提供を行うほか、市主催の環境イベントへの出展や西部ガスホールディングスの社会貢献型ショッピングサイト「ecoto(イーコト)」を活用した食品ロス削減を支援する。

業務用開発グループの戸高正樹マネジャーは、「脱炭素に向けて市民一人ひとりが取り組めることも発信していく。長崎市の企業として、CN実現に向けて力を合わせていきたい」としている。

連携協定締結式の様子(田上富久長崎市長(左)と西部ガス長崎・沼野良成社長)

【特集2】森林由来のJ―クレジットを活用 地域内経済循環を生み出す


【佐賀ガス】

佐賀ガスは昨年10月、森林由来のJ―クレジット100t分を購入し、CN(カーボンニュートラル)都市ガスの販売を開始した。佐賀県が県有林で計画的に間伐を実施し、J―VER(J―クレジットの前身)の認証を得て2012年から販売していたものだ。J―クレジットを利用したCN都市ガスの販売は九州初。森林由来のJ―クレジットを使うのは全国初となる。

同社は02年に民営化された。供給範囲は市町村合併前の旧佐賀市エリアで、約6万7000世帯のうち30%強に都市ガスを供給している。自社の発展には、佐賀市の活性化が不可欠とし、「脱炭素化×地域活性化」をキーワードにアクションプランを作成。都市ガス事業以外でも空き家見守りサービスなどに取り組んできた。

佐賀市は05年の市町村合併後、10年に「環境都市宣言」をし、14年には「バイオマス産業都市」に認定されるなど、高い環境意識を持つ。20年には「ゼロカーボンシティさがし」を表明し、50年までにCO2排出量を実質ゼロにする目標を掲げた。

同社はこの宣言を実現するため、「地域内経済循環」「地産地消」「地域活性化」といった、同市が目指す姿を踏まえ、都市ガスで貢献できることを検討。森林由来のJ―クレジットによるCN都市ガスの利用に着目した。

地産地消を実現するため、佐賀市もまた、1800haの市有林のうち30 haでJ―クレジット創出のためのモニタリングを始めた。早ければ来年には国の認定を受け、クレジット化できる予定だ。

佐賀市はクレジットの売上げを森林の管理や整備の財源に充てる。同社が購入し、CN都市ガスを市内に供給できれば、採用する企業は事業活動で発生するCO2を削減できる。脱炭素への取り組みが地域内経済循環を生み出していく。

市有林で創出されたクレジットによる脱炭素化のイメージ

佐賀市と連携協定を締結 ガスができる脱炭素をPR

同社と佐賀市は、双方の資源を有効活用することで、市民の地球温暖化防止への意識向上を図り、ゼロカーボンシティさがしの実現に寄与できることから、今年7月、脱炭素化に向けた連携協定を結んだ。連携項目は、①環境に関する貢献活動と情報発信、②CN都市ガスの普及促進、③エネルギー供給におけるレジリエンス強化、④脱炭素化、省エネルギー化―に関する内容になっている。

同社は、ゼロカーボンシティさがしの「推進パートナー」にも参画。80を超えるパートナー企業と情報交換を行う。ガスによる脱炭素化を広くPRできる機会となり、都市ガス化や省エネ機器の採用につなげたい考えだ。6月にはZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)プランナーとしても登録した。公共施設などの改修時の脱炭素化を支援していく。

沼沢実取締役営業部長は「脱炭素化は時代の潮流。ガス会社としてどのような提案をしていくか、さまざまな情報交換の中でヒントを得て、佐賀市の目標達成に貢献していきたい」と話している。

【特集2】SSを地域の安心拠点に 1日も早い営業再開を支援


【タツノ】 

世界の三大ガソリン計量機メーカーであるタツノは、BCP(事業継続計画)対策機器として、給油所用緊急用発電機「レスキューPG―8」や緊急用バッテリー可搬式計量機「レスキューB―PUMP」などを提供している。

地震や台風といった自然災害などで停電しても、レスキューPG―8で給油所を照らすLEDキャノピー2灯の照明をつけ、ノズル3本分の計量機とPOS1台、油面計1基に電力を供給し、営業を継続できる。地下タンクにつながる配管などに被害が出て計量機を使えない場合は、レスキューB―PUMPが有効だ。タンクに直接吸入ホースを差し込み、自動車のバッテリーなどから電源を取って、直接ガソリンなど燃料油の供給を可能にする。

全国約2万8000のサービスステーション(SS)の中で、約1万5000のSSに緊急用発電機が備えられ、うち約8000がタツノ製品を採用している。新村毅エネルギーソリューション事業部長は、「私たちはBCP対策機器を提供するだけでなく、災害時の支援にも最大限協力している」と話す。

元売り各社や大手特約店などのSSの多くは、震度5強以上などの地震が発生した場合、タンクの点検を行い、安全が確認できてから営業再開する。同社は災害発生時にSSから機器の不具合などの連絡が入ると、被害状況を確認し、迅速に取りまとめる。石油連盟、全石連、資源エネルギー庁に報告するとともに、全国79拠点のネットワークを活用して現地SSの早期復旧に努める。阪神・淡路大震災、新潟県中越沖地震、東日本大震災などの大規模災害時は全国から同社社員が応援に駆け付けた。

近年は気候変動に伴う災害も多く発生している。2019年に房総半島を襲った台風15号の被害時には、レスキューB―PUMPを現地に届け、早期の仮営業再開に貢献した。機器を届けた同社社員は、停電が続く中で地下タンクから直接給油できた時の住民の喜ぶ顔が忘れられないそうだ。

台風で停電が続く中、レスキューB-PUMPが活躍した

SSはライフライン ソフト面のサポートを手厚く

同社は自然災害に備えられるよう、SSにBCP機器の設置を薦めている。設置後は、SSが非常時に速やかに機器を利用できるよう、取り扱い説明動画が見られるQRコードを機器の取っ手などに取り付けるほか、定期的な講習会も開いている。

地方のSSは住民との関わりが深い。寒い地域では暖房用に灯油を利用する家庭も多い。同社は、SSはライフラインの一つだとの認識を持ち、バックアップ体制の強化を図る。「まずは社員とその家族、協力会社の安否確認をした上で、全社が一丸となり、災害支援の一つの役割を担えていることは大きな社会貢献だと思っている。SSが地域の安心拠点としてあり続けられるよう、ソフト面でも全面的に協力し、頼りにされるメーカーでありたい」(新村部長)

関東大震災時にも計量機やタンクが延焼火災の被害に遭わず安全性を高く評価されたタツノ。100年前と変わらず安全な製品を提供するだけでなく、人々の暮らしを守るSSや燃料供給施設をこれからも強力に支援していく。

【特集2】高耐震化で供給継続と早期復旧 支援経験を生かし対応力強化


西部ガス】

西部ガスでは都市ガス事業の保安施策全般にわたる計画として、中期保安基本計画「Volante(ヴォランチ)2024」を策定しており、2022年度からの3カ年の目標・重点取り組みを設定している。

ヴォランチ2024は、西部ガスグループの中期経営計画「Next2024」、経済産業省が定める「ガス安全高度化計画2030」などと密接に連動し、生産・供給・消費機器保安部門が共同で策定。三本柱で構成され、柱の一つ「保安レジリエンス強化」では、①保安高度化、②災害時の対応力強化、③グループ大での連携強化―を重点課題としている。

熊本地震発生時、同地区は地震計のSI値がガスの緊急停止判断基準である60カイン以上になった場合には、ガス導管に被害が確認されていなくても、中圧のガバナー(整圧器)を安全のために遮断する「中圧遮断方式」を採用していた。そのため、同地区のほぼ全域の顧客(約10万戸)のガス供給を停止した。

通常、供給の再開には、ガス導管の安全確認などを経て、全ての顧客を一戸ずつ訪問して開栓するため、時間がかかる。しかし、ガス導管の被害が少なかったこともあり、当初の予定より約1週間早く復旧を完了した。同社は熊本地震発生前から、古くなったガス導管を耐震性や耐食性に優れたポリエチレン製のガス導管に取り換えるなど耐震化対策を進めており、熊本地震発生時には、耐震化率が85%を超えていたことが早期復旧の大きな理由だ。

一方、この経験から課題も見えた。中圧遮断方式は供給元から遮断するため、被害のない区域も一体的に供給停止を行うことになる。地震後は、さらなる供給停止戸数の縮減と復旧期間の短縮を目指して、福岡・北九州地区で採用していた「低圧遮断方式」への移行を進めた。

熊本地震での導管復旧の様子

低圧遮断方式に移行 ブロック細分化で供給継続

低圧遮断方式では、低圧の導管網をいくつかの地域(ブロック)に細分化し、被害が大きな地域だけ供給停止を行うため、供給停止区域を最小限に抑えられる。現在は熊本・長崎エリアで移行を完了。佐世保エリアも数年以内に完了する予定だ。

同社供給エリアの低圧導管の耐震化率は、経産省が「ガス安全高度化計画2030」に掲げる目標として「30年度に95%」であるのに対し、22年度末で90%を超えている。ブロックの細分化を進め、耐震化率の高いブロックなどは、緊急停止判断基準値を60カインから引き上げて、安全確保を大前提とした供給が継続できるよう努めている。

災害発生時に同業他社から受けた応援経験も今後の対策に生かしていく。被災後の早期復旧に向けては、迅速な復旧計画の策定が重要であると再認識。復旧計画の策定要員を固定化し、継続的な訓練を実施して災害対応力の向上を図る。防災保安部の窪田隆介マネジャーは、「災害が起こっても被害を最小限に抑え、1日でも早く復旧できるよう、社員の意識向上も含めグループ一丸となって防災対策を着実に進めていきたい」と話している。

【特集2】経験と訓練で磨いた応用力 受け継がれる安定供給DNA


【九電グループ】

台風や大雨など自然災害が多い九州だが、停電の復旧はすこぶる早い。 備えられる災害にはたゆまぬ訓練で、予見できない災害には経験と知恵で果敢に挑む。

九州電力送配電の復旧部隊は、台風など事前に被害が予想される自然災害においては、襲来前に現地入りして復旧に備える。特に離島では台風が去った後も海が荒れた状態が数日続き、現地に入れず、復旧が遅れる可能性があるからだ。

「台風は進路が変わって、被害はないかもしれない。それでも空振り覚悟で必要な人員、資機材などを事前準備している」と話すのは、九電送配の古賀寛典技術企画グループ長だ。8月の台風6号では、高速道路や船が利用できるうちに、九州各地から300人規模の復旧要員と復旧資機材を、本土では長崎県と鹿児島県に、離島では奄美大島や五島列島などに送り込んだ。台風に伴い、宮崎と鹿児島には線状降水帯が発生。土砂崩れが道をふさいだが、自治体と連携し優先的に道路を啓開してもらい、停電は長くても2日以内に復旧できた。

九電グループは、九州7県233市町村の全自治体との相互連携に取り組むとともに、災害時の連携協定を結んでいる。また、陸上自衛隊とは、復旧資機材や人員、車両の運搬や自衛隊活動拠点への電源供給など、災害時の相互連携を図ることを目的に協定を締結。陸路が途絶した場合にも備え、海上自衛隊とも協定を結んでいる。さらに、九州全域を管轄する海上保安本部とも協力協定を締結し、離島が孤立化した場合に備え、人員や資機材を海上輸送する手段の多様化に取り組んでいる。

高圧発電機車の空輸訓練。実際の復旧では2010年に初めて実施

大規模台風がきっかけ 設備を強化し信頼度を維持

九電送配が自然災害に備え、設備を強靭化するきっかけになったのは、1991(平成3)年の台風19号だ。数百人規模の応援者派遣スキームを作るきっかけにもなった。台風は長崎県に上陸し、最大瞬間風速54・3mを観測。大規模な倒木が発生した。鉄塔や電柱なども大きな被害を受け、当時の九電エリアの3割以上に当たる、約210万戸が停電する事態に陥った。

これを機に、九電送配は全ての電柱をコンクリート柱にし、送電鉄塔についても、電気設備の技術基準で定められている風速40m(毎秒)での設計を基本としつつも、気象や地形条件を勘案し個別に設計して強靭化を図った。その後も、発変電所の浸水対策や日頃の設備点検・補修などを強化し、設備の信頼度維持に努めている。

九電と九電送配は毎年、台風襲来前の7月にこの台風19号規模を想定した「大規模非常災害対策訓練」を合同で行っている。陸上・海上自衛隊、海上保安本部とは、さまざまなシチュエーションで訓練する。高圧発電機車の空輸訓練や輸送艦への復旧車両搭載訓練を実施するほか、近年ではヘリによる空中巡視訓練にも取り組む。

連携で早期復旧した熊本地震 経験を伝承し組織力に

台風と違って事前配備できず、被害確認後の初動になるのは地震や線状降水帯の発生時だ。

2016年4月16日に起こった熊本地震・本震では、大規模な土砂崩れが発生。一の宮・高森方面に電力を供給している6万V送電線が使用できなくなり、停電が長期化する深刻な事態になった。九電は、北海道から沖縄までの9電力それぞれに応援を依頼。当時は10社間の「災害時連携計画」(20年に策定)はなかったものの全面的な協力が得られ、9社から629人、高圧発電機車110台の応援が続々と熊本に到着した。これにより、がけ崩れなどで復旧困難な箇所を除いて、発災4日目にはずらりと並ぶ高圧発電機車から直接高圧配電線へ送電することができた。

仮鉄塔の設置は余震が続く中、深い支持地盤までの掘削が困難だったため、掘削不要な特殊な鋼板補強基礎を災害復旧工事で初めて採用した。用地交渉が完了した箇所から順次作業を開始し、仮鉄塔3基、仮鉄柱14基、総計約5㎞の仮送電線ルートをわずか10日ほどで構築した。

九電送配・送電グループの佐藤智彦課長は「この時初めて災害復旧対応でドローンを使った。鉄塔近くに地割れがあり、余震も頻繁に起こっていたため、作業員の安全を優先しての判断だった」と振り返る。鉄塔に上らず状態を確認できることが分かり、今では保守や、立ち入りが困難な箇所の被害確認でも活用している。

熊本での迅速な復旧は、経験を応用し、挑み、関係者全てが力を合わせた結果だ。後に復旧オペレーションの一つの見本となった。実際の復旧対応でのさまざまな経験を次につなげ、組織や人材が成長できるのは九電グループの大きな強みだ。若手社員は先輩社員から過去の大災害の話を聞き、指導を受ける中で、経験が伝承されていく。

九電送配の石松泰配電管理グループ長は「社員は電気の重要性を認識し、『一刻も早く電気を届ける』『自分たちが安定供給を守る』という、九電・九電送配の強い意志を受け継いでいる。この〝DNA〟が早期復旧の原動力」と言い、こう続ける。「ただし、災害時においては安全が大前提で最重要。対応は相互協力を旨とすることを、全社の非常災害に関する心得として定めている」

災害ごとに復旧対応での課題を洗い出し、改善を図ることにも力を注ぐ。良好事例などのナレッジも含め、都度、災害復旧マニュアルに落とし込んでいる。毎年実施するさまざまな訓練を含め、表には見えない一つひとつの備えへの取り組みや、関係機関との連携が九電グループの底力になっている。今後も立ち向かう自然災害に対しても、培ってきた技術力や組織力で乗り越えられるはずだ。九電グループは今、地域社会との連携の重要性を再認識しながら、最新の情報技術の導入も検討し進化を続けている。

斜面近くに鋼板補強基礎で仮鉄塔を建設(熊本地震・南阿蘇村)

【特集2】沖縄県最大級の商業施設 脱炭素目指すエネサービス提供


【リライアンスエナジー沖縄】

那覇市と宜野湾市をつなぐ「西海岸道路」沿いに、「サンエー浦添西海岸パルコシティ」がある。米軍浦添補給基地「キャンプ・キンザ―」西側の埋め立て地を利用した沖縄最大級の大型商業施設で、約7万5000㎡の敷地に、地上6階建てのパルコシティと駐車場棟などが建つ。目の前にはサンゴ礁の浅瀬が広がる、地元の人気スポットだ。

パルコシティは2019年にオープン。沖縄電力グループのリライアンスエナジー沖縄(REO)がエネルギーサービスを手掛けた。県内最大手の小売り事業者サンエー、竹中工務店と共同で省エネ・省CO2の先進的な取り組みを進め、22年度「省エネ大賞」の省エネ事例部門・業務分野で、最高位の経済産業大臣賞を受賞した。

沖縄は、人口増加やインバウンドを見込んだホテルや商業施設の新増設、米軍基地返還跡地の大規模再開発といった成長の可能性がある半面、カーボンニュートラル実現への高いハードルがある。そのような中で、パルコシティもまずは省エネ・省CO2の徹底が重要だと考え、取り組みを開始した。

自然を生かしたエネマネ 店舗も協力し削減率向上

建物のオーナーからは「快適性の確保」「運用面で手間のかからない設備」の二つの要望を受けた。

建物側では、BEMS(ビルエネルギー管理システム)で管理する日射連動の照明制御や、人感センサー制御など照明の省エネを図った。また、自然採光のスカイライトシステムを導入。照明制御と組み合わせることで、年間の消費電力をさらに11%削減した。

空調面においては、通年で冷房需要のある沖縄の気候に合わせたシステムを導入。超大温度差ターボ冷凍機に加え、自己再熱型外調機とファンコイルユニットのカスケード利用でターボ冷凍機のCOPを最大限生かした。また、外気を活用する冷房システムの導入・運用で、冷水の製造エネルギーを抑制し冬季の消費電力を大きく抑えた。夏季には年間を通して温度が一定の地下水を使って外気を冷やす「地中熱利用外調機プレクール省エネシステム」を導入し、熱源製造熱量を抑制した。

こうした照明・空調・再エネ活用で、一般的な商業施設と比較して一次エネルギー消費量を37%削減することを目標にしていたが、年々省エネが進み、21年度は40%削減に成功。年間のCO2排出量も基準比で43%削減になった。

デマンドの抑制も削減率向上に貢献した。商業施設はオープン時刻に合わせ一斉に空調を入れ、デマンドが立ちやすかった。REOでは運用実績の分析などエネルギーの見える化を行い、店舗の協力を得ながらエリアごとに空調の始動時間をずらすなど、試行錯誤を繰り返した。設計値で1万4000kWだったデマンドを、今では快適性を損なわず、7000kW以下に抑えている。

REOは今後、病院や大学などの新設・更新案件においても同様の高効率機器の導入とエネルギーマネジメントをセットにしたサービスを展開していく。似通った気候のアジア地域での普及も期待できそうだ。

パルコシティはREOのエネルギーサービス採用第1号

【特集2】空気循環で屋内温度差を緩和 健康性と快適性を追求するZEH


【ヤマト住建】

ヤマト住建の「エネージュAF」は、2021年度の省エネ大賞を受賞した。V2Hの採用など、カーボンニュートラルを実現する住宅の普及を目指す。

ヤマト住建の「エネージュAF」は2021年度「省エネ大賞」製品・ビジネスモデル部門で、最高賞の経済産業大臣賞を受賞した。

エネージュAFは同社の高断熱高気密住宅「エネージュ」シリーズに、5kWの太陽光発電と冷暖房を循環させる「Airフローシステム(AF)」を採用したもので、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の性能を満たしている。

ZEHは高断熱高気密が必須だが、ヤマト住建はZEHの条件だけでなく、居住者の健康性と快適性を重視。冷暖房の効いた部屋と、洗面所や脱衣所など冷暖房のない空間で生じる温度差をなくし、ヒートショックを防止する住環境を提供したいとAFの開発に取り組んだ。

まず、高断熱高気密性をさらに追求。国が定めるZEH断熱基準を大きく上回る、HEAT20のG3相当の断熱仕様を実現した。外壁や屋根、基礎の立ち上がり部分から断熱性能を強化し、樹脂製サッシと低放射三層複層ガラスを採用。断熱性能を表すUA値はZEH基準0.4~0.6のところ、倍以上の性能を意味する0.26を達成した。気密性を表すC値も0.5以下と業界トップクラスになった。

冷暖房を循環させるZEH 省エネと健康が主眼の住宅

こうして高断熱高気密性を高めた魔法瓶のような住宅にAFを組み合わせる。1階リビングと2階ホールに、適切な性能のエアコンを1台ずつ設置。エアコン近くの天井に設けた吸い込み口から調温された空気を吸い上げ、循環ファンでダクトと分岐チャンバーを介し、各部屋や水回り、玄関、廊下などに送風する。送られた空気は各部屋のドアに取り付けたグリルなどから吸い込み口に戻る。空気を循環させ、住宅全体を均一な温度に保つ仕組みだ。

Airフローシステムの概要図

通常、ZEHでの全館空調は難しいと言われる。例えば冬季に24℃程度にするためには、35~40℃まで暖めた空気を強制的に送り出し室内を暖める。ファンやエアコンの動力エネルギーが大きくなり、ZEHを満たさなくなることがあるのだ。一方AFは、エアコンからの22~24℃程度の空気を循環させる設計でファンの動力を抑える上、魔法瓶のような住宅構造なので外気温の影響を受けづらく、エアコンの動力も抑えられる。

技術開発部の入口恭尚本部長は、「いかに効率的に風量をつくり循環させるかが重要。ファンやエアコンの選定から、各部屋のダクトの配置や長さまで考えながら設計した」と開発当時を振り返り、省エネと健康を主眼にしたZEHに今後も取り組みたいと意気込む。同社の22年の受注はZEHが88%を占めており、EVを活用するV2H(ビークルtoホーム)や、蓄電池などの併用も普及させていく。「電気を自給自足できる生活を提案したい。VPP(仮想発電所)を視野にカーボンニュートラルの実現が可能な住宅を適正価格で提供していく」と展望を語った。

エネージュは「ハウス・オブ・ザ・イヤー・イン・エナジー」を13期連続受賞

【特集2】家庭のガス消費量削減に効果発揮 床暖房省エネリモコンを発売


【パーパス】

パーパスは、一次エネルギーの消費を抑える温水床暖房リモコンを発売した。 高効率給湯器のパイオニアとして、省エネ住宅向けの製品で快適な暮らしを提供する。

国土交通省が公布した「改正建築物省エネ法」により、2024年度以降、建築物の省エネ基準が引き上げられ、適合義務が拡大する。現在は、延べ床面積300㎡以上の中規模・大規模非住宅建築物が対象だが、25年度以降は全ての新築住宅・非住宅に適合が求められる。

新築住宅では、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)水準を20%削減へと、より高い省エネ性能への誘導が強化され、遅くとも30年度には省エネ基準をZEHレベルに引き上げて、適合が義務化される予定だ。

こうした改正により、新築住宅では長期優良住宅やZEH水準住宅、低炭素住宅のニーズが高まり、ゼネコンやデベロッパーは建築部材や商材、設備などで省エネを図る。一次エネルギーであるガスも省エネが必要だ。

ガス給湯器は、①給湯器、②風呂給湯器、③給湯暖房用熱源機―と、大きく三つに分かれる。

③は温水式床暖房に対応し、床暖房用の温水を送水するためのガスが必要になるのでガスの消費量が増える。総合的な一次エネルギー消費量基準(BEI)が高くなり省エネ達成基準を満たさなくなるため、敬遠されがちだ。そこで、「床暖房を設置してもBEIの数値に貢献し、省エネ住宅に対応できる商品を」との業界の声を受け誕生したのが、パーパスの温水式床暖房リモコン「FHR‐200」シリーズ、通称「省エネ床コン」だ。

室温センサーを搭載 2系統操作ができるリモコン

省エネ床コンはセーブモード機能を搭載。エアコンとの併用により、暖房に使う総合的な一次エネルギー消費を下げる。室内の空気はエアコンで、床はセーブモードの床暖房で暖めることで、快適性と省エネ性を両立できる。

住宅の省エネ性能を評価するウェブプログラムでは、省エネ床コンとエアコンの併用で、BEIを約0.03下げる効果が見込まれる。

セーブモードでは、9段階の温度設定を、レベル1~4の4段階に絞っている。レベル4では、約40℃の温水をつくり、床面付近の温度が25℃程度になるよう循環させる。温度センサーを搭載し、床面が設定レベルに達すると、自動でオン・オフする。一つのリモコンで2カ所の操作が可能な2系統制御タイプもある。既に床暖房を導入済みの住宅でも、省エネ床コンに交換できる。

2系統制御タイプリモコン「FHR-200シリーズ」

高効率給湯器のパイオニアであるパーパス。今後の展開について、鈴木孝之営業企画部長は「いかに高効率の給湯器を提供していくか、さらなる開発を進める中で、省エネを始め、プラスアルファの付加価値を提供する機器に取り組んでいきたい」と話している。省エネ床コンで、床暖房を使った快適な省エネ住宅が実現する。

セーブモードの温度設定は4段階まで

【特集2】福岡の新ランドマークにエネ供給 コージェネでレジリエンス強化


【西部ガス】

福岡市天神地区に新たなランドマーク「福岡大名ガーデンシティ」(FDGC)が誕生した。再開発事業「天神ビッグバン」の一環で、旧大名小学校の跡地約1万㎡を利用。地下1階地上25階建ての「FDGCタワー」と、地上11階建ての「FDGCテラス」、約3000㎡の緑豊かな「FDGCパーク」から構成される。

タワーには商業施設やオフィスのほか、屋内プールやジムを備えたラグジュアリーホテルなどが、テラスには公民館や保育園、クリニックモールや賃貸住宅などが入る。パークにはステージや大型ビジョンがあり、交流施設として活用できる。

「さまざまな人が出会い交流しながら新たな価値を生み出し、成長する拠点」をコンセプトに、西部ガスや積水ハウスなど、5社による特定目的会社が再開発事業に取り組んだ。

西部ガスは都市ガスを供給し、グループ会社の西部ガステクノソリューションがエネルギーサービスプロバイダーとして電気や熱、水を供給する。効率的なエネルギー供給だけでなく、特別高圧を3回線受電し停電リスクに備えるなど、レジリエンスも強化している。

都市ガスと電気のベストマッチ 自然環境も有効活用

都市ガスは、北九州市のひびきLNG基地から高圧・中圧導管を介して供給される。一連の導管は、災害時にも供給が継続できるよう耐震性を強化。震度6程度の地震にも耐え得る認定導管として、九州で初めて第三者機関から認定を受けている。

省エネの要となるガスコージェネ800kW×2台は、非常用発電機の役割を兼ねる常用防災兼用型だ。重油やLPガスが燃料の非常用発電機と違って燃料の備蓄が不要となり、都市ガスの供給が続く限り発電を継続できる。常用防災兼用型であることは、設備のイニシャルコストや設置スペースを削減できるメリットもある。

コージェネの排熱は全て温水回収し、ジェネリンクで空調に利用する。ターボ冷凍機との併用で省エネを図る計画だ。西部ガステクノソリューションESソリューション部の山﨑幸宏専門部長は「ホテルやオフィスなど、施設によって必要とされるエネルギー種や時間帯が異なる。利用状況を見極めながら、都市ガスと電気のベストマッチで効率的に運転し、省エネに貢献したい」と意気込む。

環境にも配慮し、外気を利用したフリークーリングや、井水浄化システムといった自然環境を有効活用する設備も導入している。

西部ガス営業本部都市開発グループの田口龍太郎氏は「お客さまが必要とするエネルギーをいかに安定的かつ効率的にお届けできるかが重要。ガス・電気設備の特性をミックスして、今後もニーズに沿ったエネルギーの供給を実現していきたい」と話している。

常用防災兼用型のコージェネは水害に備え6階に設置

【特集2】風の力で温室効果ガスを削減 帆搭載の船をスタンダードに


【商船三井】

商船三井は、大型貨物船の燃料消費を抑えるウインドチャレンジャ―を開発した。

さまざまな船に取り付けられるマルチデバイスとして、海運からゼロエミを支援する。

商船三井が開発したウインドチャレンジャー(硬翼帆式風力推進装置)を搭載した、東北電力向けの石炭輸送船「松風丸」が航行している。帆で捉えた風を推進力に転換し、スピードを変えることなく化石燃料の使用を抑える船だ。主に北米や豪州、インドネシアからの石炭を輸送。ウインドチャレンジャー1基を搭載し、日本から北米までの東西航路で約8%以上、日本から豪州までの南北航路で約5%以上の燃費を削減する。

ウインドチャレンジャーは幅約15m、高さ23~53mで、縦に4段階伸縮する。素材はFRP(繊維強化プラスチック)を採用。軽量化して帆全体の面積を大きくするとともに、船のバランスへの影響を最小化している。荷役時には帆の回転を防ぐ安全装置で定位置に固定。前方の視界確保のためにカメラを取り付けるなど、安全性にも工夫を凝らす。

大きな特徴は、形状と優れた操作性だ。風向風速計を搭載した三日月形の帆は、正面の左右25度以外からの風であれば、最適角に自動旋回して捉え、推進力に変える。また、風速に応じて自動で帆を伸縮する。

さらに、専用の航路計算システム「Weather Routing System」を実装。民間気象会社の天気予報をダウンロードして、帆を最も活用でき、燃料を最も削減できる航路候補とその効果を提示する。乗組員が簡単に、風力を最大限効率的に利用できるよう、商船三井が独自開発した。

既存船にも設置可能 各種大型貨物船をアシスト

ウインドチャレンジャーは、新造船はもちろん、既造船にも取り付けられる。船の仕様によっては複数本の設置を提案。海運業界が取り組む燃料転換などによる温室効果ガス(GHG)削減効果をさらに高めることができるのだ。

電力・風力エネルギー事業群第一ユニット電力第一チームの井上岳大チームリーダーは「この先主流になる燃料が現れるのか、複数が並行して利用されていくのか、今は未知数。その中で、どの燃料船に対してもアシストできるのがウインドチャレンジャー」と話し、高額になると予想される代替燃料など、ゼロエミッション・低エミッション燃料の消費量を、種類によらず削減することで強みを発揮したいと抱負を語る。

開発開始から13年。ウインドチャレンジャーを搭載した松風丸が入港できるよう、寄港する国内外全ての港に安全性や環境性を説明し、賛同を得られたのも、開発者が信頼関係を築いてきた船舶会社だったことは大きい。

商船三井は現在、「帆がある船をスタンダードにしたい」との狙いから、2番船への帆の搭載を進めている。環境負荷低減が求められる時流を追い風に、ウインドチャレンジャーの普及を通し、輸送船の脱炭素化に大きく貢献して、海から世界を変えていく。

大型商船への搭載は世界初。帆とエンジンのハイブリッド船だ

【特集2】世界初となる2ノズル同時充填 高速化で大型車両の普及に貢献


【タツノ】

タツノは、大型FCトラックなどの大型・商用モビリティ(HDV)への高速水素充填に対応した新型ディスペンサー「LUMINOUS H2」(ルミナスH2)を開発した。

運輸業界では脱炭素化に向け、EVトラックよりも燃料供給速度が早く航続距離に優位性のあるHDVが待望されている。普及には、水素の高速充填が必須だ。現在主流のノーマルフロー(NF)のディスペンサーは、トヨタ自動車の「MIRAI」などFCV(燃料電池自動車)への充填は水素5㎏を約3分で完了する。しかしNFの流速では、HDVに必要な80㎏の充填に約50分かかる計算になる。

タツノは水素インフラ業界や自動車メーカーに、流速をミドルフロー(MF)にして、ノズルを2本同時に使うことを提案。ノズルやコリオリ流量計、緊急離脱カップリングなどを高速充填用に自社開発した。こうしてルミナスH2が誕生。80㎏を約10分という充填時間が実現した。

1台に2ノズル同時充填は世界初の技術だ

現在、福島県浪江町の「福島水素充填技術研究センター」では、ルミナスH2を使用して大流量水素の充填・計量技術に関する試験などを行っている。2023年度には普及に向けて実証試験を本格的に開始する。HDVへの充填試験も計画中だ。

国内の自動車メーカーなどが中心となって、HDVの充填口を2口にするよう世界に働きかけており、ISOでは国際標準化の検討が始まっている。

取り扱いやすさを重視 汎用性高めコストを抑える

タツノは北米向けに、NFでFCV2台の同時充填が可能なディスペンサーを提供している。海外ではハイフロー(HF)での充填が高い支持を得ていることから、HFの開発も行う。ただ、HFのノズルは口径が大きく重量も重くなり、取り扱いが容易ではない。

水素事業部の木村潔部長代理は「HDV全般への貢献を目指しHFの開発に取り組んでいるが、利便性も重要なポイント。MFのノズルはNFより内部の口径が少し大きくなった程度で、見た目も重さもほとんど同じ」と説明する。

MFノズル(左)とNFノズル

汎用性も重視した。ルミナスH2は、ノズルを充填口に差し込むと自動で車両タンクの大きさを判別。FCVにはNFに切り替わり充填する。FCVとHDVに対応できるため、水素ステーションへの導入コストを抑えられる。また、非防爆カウンターでセルフ式にも対応可能だ。

小嶋務水素事業部長は「車両への燃料供給にとどまらず、さまざまな水素の利活用やインフラサービスに、これまで培ってきた技術力やノウハウで貢献していきたい」と話している。

【特集2】東ガスが24年に水素供給を開始 官民で取り組む脱炭素の街づくり


【晴海フラッグ】

東京都の小池百合子知事は、2月にロンドンで開催された国際交流団体の会合で講演し、脱炭素の街づくりを進める「晴海フラッグ」について説明した。水素は脱炭素エネルギーの安定供給の根幹になるとした上で「晴海フラッグを水素供給のモデルにする」と述べた。

晴海フラッグは、東京五輪・パラリンピックの選手村として使われた大型マンション群を中心とした大規模街づくり事業だ。東京ドームの約3・7倍となる18 haの敷地に24棟が建ち、5000戸を超える規模の分譲・賃貸住戸、大型商業施設が入居する。

隣接地にはENEOSが運営する水素ステーションのほか、東京都が整備するマルチモビリティステーションや公園、東京都中央区が新設する小中学校を建設予定など、官民連携で街をつくる計画だ。

パイプラインで水素供給 脱炭素社会のモデルに

晴海フラッグへの水素は、敷設した水素パイプラインを使って供給される。住宅共用部や商業施設などを五つの街区に分け、各街区に1台ずつ設置する純水素型燃料電池に水素を送り、街区の電力ピークに合わせて活用する。

平時は建物内や外構といった共用部の電力として、非常時には外構部分の照明として利用する。発電時に発生する熱は、高齢者向け住宅の共用浴場の給湯や足湯施設に使う。さらに、家庭用燃料電池コージェネレーションのエネファームと蓄電池を全住戸に採用。熱も給湯に利用するなど、家庭のエネルギー自給率を高める。

水素パイプラインは、東京五輪・パラリンピック時に日鉄パイプライン&エンジニアリングが7割を敷設。残る3割の敷設も順調に進み、昨年7月に完了した。

供給については、東京ガスの子会社である晴海エコエネルギーが小売り事業者となり、24年までに供給を開始する。

晴海フラッグは、三方向を海に囲まれ、遮へい物がない特徴を生かし、太陽光発電設備の導入を進めている。全棟に太陽光パネルを設置し共用部の電力に利用するほか、蓄電池を組み合わせて電力ピーク時や非常時に活用する。将来的には太陽光発電で再生可能エネルギー由来の水素をつくり、供給することも可能になるかもしれない。

パイプラインで水素を供給し、暮らしや産業に利用する、晴海フラッグ。環境に配慮した脱炭素社会の街づくりのモデルとして、世界の注目を浴び、期待が集まっている。

晴海フラッグの水素供給概念図 (提供:三井不動産)

【特集2】VPPリソースとして期待 エネファームの最新動向


【日本ガス協会】

都市ガスやLPガスから取り出した水素を空気中の酸素と化学反応させて水を作り、この過程で発生する電気や熱を利用するエネファーム。販売台数は45万台を突破した。小型化し、設置性も向上している。

エネファームの特徴は発電効率とレジリエンス性だ。発電効率は40~55%だが、発電時の排熱でお湯をつくれるため、総合エネルギー効率は80~97%になる。火力発電の場合、家庭に電気を届けるまでの送電ロスを含めると、エネルギー効率は41%程度。エネファームは省エネにつながり、個人が取り組めるカーボンニュートラル(CN)になる。レジリエンス性については、万一停電が起こってもガスの供給があれば、エネファームが電気と熱を供給。水道も使えれば暖かいシャワーを浴びることができる。 

現在は、電力の安定供給のリソースとしても注目を浴びる。太陽光発電や蓄電池といった分散するエネルギーリソースの一つとして遠隔でコントロールする、VPP(仮想発電所)での活用が検討されている。将来的には、電力がひっ迫している際にはエネファームの発電量を増やし、余っている際には発電量を減らして系統からの電力を使うといった制御を行う。家庭でエネルギーを効率的に使えるだけでなく、需給バランスの調整で活用されるわけだ。

2022年度の補正予算でエネ庁からの補助金も決定した。日本ガス協会は「CNに貢献する機器。補助を最大限に活用し、普及につなげたい」としている。

集合住宅にも設置できるようになった

【特集2】初期費用ゼロの太陽光発電 定額料金サービスで導入加速


【東京ガス】

2030年までにGHG(温室効果ガス)の排出量を20年比で半減させる〝カーボンハーフ〟を推進し、脱炭素化に取り組む東京都。25年4月から大手住宅メーカーが都内に新築する一戸建て住宅には、太陽光発電システムの設置が義務付けられている。

「この義務化の影響で、提供するサービスの引き合いが増えている」と話すのは、エネルギーサービス事業推進グループの小田明翔主任だ。

東京ガスは22年4月、新築住宅向けに「ずっともソーラー フラットプラン」(フラットプラン)のサービスを開始した。19年から提供してきた「ずっともソーラー」をブラッシュアップし、新築一戸建て住宅の太陽光発電導入に貢献。設備材料費などを東京ガスが負担し、顧客は月々の定額料金で太陽光発電を利用する。

フラットプランの主な特徴は、①初期費用ゼロで太陽光発電を導入、②割安な定額料金で自家消費を使い放題、③サービス期間終了後は全ての太陽光を自由に利用できる―の三つだ。

初期費用をゼロにすることで、顧客は建築費を抑えられる。電力会社への余剰電力の売電債権(売電収入)は顧客から東京ガスに譲渡する仕組みで、東京ガスはあらかじめ費用の総額から想定する売電分を差し引く。顧客は残りの費用を10年の契約年数で計算した月々の定額料金として支払う。

一般的なリース契約と比較すると、あらかじめ想定する売電分を差し引いている分、毎月の支出が減るため、導入のハードルが下がる。さらに面倒な書類審査が不要。利用可能なクレジットカードを保有していれば導入できる。住宅ローンに影響することなく、顧客は住まいのアップグレードに予算を充てられるのだ。

一例として、フラットプランの10年契約で初期費用ゼロの場合、月々の定額料金は6500円。初期費用として工事費を負担すれば、月々の料金を半額近くに減らすことも可能だ。

ずっともソーラー フラットプランの仕組み

調達・施工は東京ガス 十数社との提携進む

21年ごろまでは、太陽光発電を導入する住宅メーカーは大手が中心で、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の普及が目的だった。昨今は都の太陽光設置の義務化や電気代高騰で、顧客からの問い合わせが増加している。フラットプランでは、これまで太陽光設備を取り扱ってこなかった住宅メーカーに対し、設備の調達から施工まで全て東京ガスが請け負うことも可能だ。都の住宅事情に合わせ、2kW台の低用量帯から対応する。

首都圏で狭小な住宅を得意とするメーカー、オープンハウス・ディベロップメントでは、フラットプランをいち早く採用している。割安な定額料金で導入できるというシンプルなプランも相まって、顧客からも好評とのこと。

「わかりやすいサービスなので住宅メーカーにも顧客にもプラスに働いている」と同グループの中野亮課長は胸を張り、こう続ける。「分譲系やオール電化の住宅メーカーなど数十社と提携が進み、19年の『ずっともソーラー』スタートからわずか3年でターゲットが広がった」

さらに東京ガスは、電気代の高騰で自家消費として太陽光発電のニーズが高まっていることに注目。22年11月からオプションの提供を始めた。

セットプランも用意 全国の一戸建住宅に拡大

太陽光をより有効利用できるよう、蓄電池のセットプランを用意。一例として、5kW時の蓄電池を初期費用ゼロ、月々1万3000円の定額料金で追加できる。また、太陽光発電と親和性の高いハイブリッド給湯器やエコキュートを組み合わせるセットプランも用意した。東京ガスの電気で、これらのオプション設備を利用する場合は系統からの電気料金を3%、利用しない場合は2%割引きする。

サービスの導入で光熱費削減効果も見込める

フラットプランは全国で導入可能だ。小田主任は「脱炭素社会に貢献することが私たちの使命。その促進に向け、各地の住宅メーカーが抱える課題を解決し、顧客のニーズに応えることで、より選んでもらえる仕組みやサービスを拡充していきたい」と展望を語る。今後は既築住宅への展開も視野に入れていく。

ニーズに応えたいと話す中野課長(左)と小田主任

【特集2】楽しく続けられる節電を提供 顧客データとAIで営業一新


【西部ガス】

西部ガスは2022年12月から、同社の電気を利用する顧客を対象に国の節電プログラムを活用した節電キャンペーンを実施している。「節電は多くのお客さまの協力が不可欠。キャンペーンの参加ハードルが低く利便性が高いこと、節電に取り組む意欲を保てることが大事」と、西部ガスホールディングス・デジタル戦略部の友池真祐子さんは説明する。

西部ガスが展開する節電キャンペーンのツールは独自性が高い。大きな特徴は、LINEの活用だ。新たにアプリをダウンロードする必要がなく、LINE上で簡単に参加登録ができる。

節電に取り組んでほしい時間帯(節電タイム)を、前日夕方~当日にLINEメッセージで通知。節電タイムに節電を行うことで、節電量0・01‌kW時につき1節電ポイントが付与される。累計ポイントに応じてステージ特典を付与したり、節電した時間数でランキング付けを行ったりするなどゲーム性を高め、楽しく節電に取り組めるよう工夫している。

ツールは、福岡県内のIT系企業と協力し、一から開発した。いかにモチベーションを保ちながら節電に取り組めるかを重視し、理想のツールを2カ月で完成させた。LINEメッセージ機能を活用して、節電のコツや、お役立ち情報なども適宜配信している。

達成度合いもLINEで確認できる

紙媒体を活用したPRも行い、旅行ガイドブックのるるぶとコラボ。節電に関する情報やキャンペーンへの参加方法と併せて、節電タイムに気軽にお出かけできる各地のスポットを掲載した冊子を作成した。こうした取り組みの結果、1月初旬時点で、西部ガス電気の利用者の約15%がキャンペーンに参加している。

今後、ツールの効果検証を行い、将来的には外販を目指す。リーズナブルな価格で全国の新電力事業者などに提供し、社会問題の解決に貢献したいとしている。

営業部門主体のDX 潜在ニーズを掘り起こす

また、営業部門が主体となって、デジタルマーケティングにも取り組んでいる。対面営業や経験に基づく従来の営業方法を一新し、デジタル技術を活用した潜在ニーズの掘り起こしを狙っている。社内のさまざまなシステムに分散しているデータベースを集約し、AIを使って、訴求効果のある顧客を抽出する実証試験を行った。

新しいコンロを案内する顧客を、従来の方法とAIによる方法で抽出し、DMを送付。購入率を比較した結果、AIの方が従来の3倍高い結果となった。訴求チャネルにLINEやSMSを活用したファンヒーターの場合には、受注率は6倍になった。こうした手法をより効果的に展開するために、現在はCDP(顧客データプラットフォーム)の構築を進めている。

CDPを導入するほかのガス事業者と結果を共有しながら活用を拡大し、業界全体の活性化につなげたい考えだ。

西部ガス営業計画部の松元亮さんは「CDPの活用でお客さまの潜在的なニーズを効果的に掘り起こし、より最適なタイミングで商品やサービスを提供していきたい」と話している。