【特集3】気象リスクを3次元で予測 将来の安全・安心な飛行に活用


一般財団法人 日本気象協会

物流、点検、災害対応など今後の活用が期待されるドローン。現在はドローンパイロットが決められたエリアで安全を確認しながら目視飛行をするが、10年後には自動操縦で上空を飛び交う世界がやって来るともいわれる。

その未来になってもドローンの安全な運航に欠かせないのが、気象情報だ。

日本気象協会では、ドローンを利用した気象観測技術の開発と、ドローンが安全に飛行するための気象情報の提供の二つの事業を展開している。

ドローンの気象リスクは突風や強風、雨、雷、竜巻、霧、気温などが挙げられる。ドローンが飛行する地上から高さ約150mまでの情報が必要で、特に上空の風は飛行判断に重要だ。例えば、地上では風速2m/秒程度の風でも、山間部では頂上付近は風が増幅し、強風となることもあるのだ。

高層の風を測るのはゴム気球に測定器を取り付けて飛ばす「ラジオゾンデ観測」が長い間の主流だが、使い捨てのためコストが高いという難点があった。

同協会はこの課題の解決に、ドローンに気象センサーを取り付け、上空の風を測定する取り組みを2014年から始めた。17年には、ドローン運航を支援するドローン向け気象情報の開発に着手した。

上空の風の現況観測には、①環境気象センサーユニット、②ドップラーライダー、③スキャニングライダー―を活用する。

①の環境気象センサーユニットは、設置した場所の風向、風速、気温、湿度、雨、気圧など複数の気象要素を計測する。主にドローンの離発着地点で有用だ。鉄塔に取り付け、周辺の気象を監視することもできる。②は風力発電を建設する地点で、風車高さの風を調査するために使用する機器。これを応用し、鉄塔の点検時にドローンが飛行する上空の風を計測することもできる。③は、半径5~6㎞の広範囲の風速と風向を立体的に計測する。

「飛行経路または機体に設置した気象センサー、カメラなどにより気象状況の変化を把握」と飛行ルールで定められているほど、気象情報の把握は重要なのだ。

環境気象センサーユニット

予測技術を融合 より安全な飛行のために

同協会は風の現況観測だけでなく、10分後、1時間後などの予測技術を持つ。流体力学に基づいた数値シミュレーションで、山間部では地形を用い、都市部では建物の高さや位置関係を用いて風の流れを計算する。この結果から、地上から上空まで詳細な3次元の風況を予測。画面上で可視化し、強風を回避するルートを探せる。

ドローン気象情報の提供イメージ。風が可視化される。

データは山間部では20~50mメッシュ、都市部では1~100mメッシュの細かさで表示され、より詳細に安全な運航ルートを探すことができる。

ゆくゆくは、ドローン運航管理システムで気象情報を一元的に活用できるインターフェースも提供する計画だ。

同協会の強みについて事業統括部の森康彰副部長は、「科学的な知識に基づいた、高精度な気象の観測、数値シミュレーション、データ分析から、これらを融合した気象情報の提供までができること」を挙げる。「遠くない将来、多くのドローンや空飛ぶクルマが飛び交う社会が現実のものとなったとき、私たちの気象情報が安全で効率的な飛行に活用されることを願っています。ドローンが都市部を飛ぶようになったときに、速やかに飛行の安全をサポートできるよう、ドローン用のビル風予測の研究も進めています」と、来るドローン社会に備えている。

【特集2】エリアを越える電力融通のために 皆の強い使命感で計画を達成


東日本大震災を教訓に、計画停電を回避すべく始動した国家プロジェクト。工期短縮で挑んだ飛騨変換所の新設工事について、当時の洞所長に聞いた。

インタビュー:洞 浩幸/中部電力パワーグリッド 岐阜支社飛騨電力センター変電課 専任課長(当時:中部電力パワーグリッド送変電技術センター飛騨直流連系工事所 所長)

―2013年に現地調査を開始して、15年に工事に着手。標高1000mを超える山岳地帯の開発面積は13万㎡になりました。

 私が着任したのは17年7月、平地に造成し、コンクリートの基礎工事に入るタイミングでした。ここは自然条件が大変厳しく、冬は積雪が2mを超え、気温もマイナス30℃近くにまでなる。冬場の3カ月間は工事ができないのに、10年はかかる規模のプロジェクトを2年短縮して、20年度内に完了させなければならなかった。大変な現場だと思いました。

―どのようにして工期を短縮したのですか。

 通常の変電所の工事は、平地に造成し、コンクリートを打って基礎ができてから建物を全て完成させます。その後構内を舗装して、電気機器の据え付け工事に入りますが、これでは間に合わない。基礎ができたところから同時に据え付け工事を行うことにしました。多くの工事が同時並行するので、さまざまな重機や資機材を運ぶ車両が狭いエリアに乗り入れる。重機の配置場所や資機材を搬入するルートを、毎日図面に落とし込み、関係者で確認しました。

―最も大変だったのは。

 18年9月4日の台風21号による倒木で配電線が倒れてしまい、現場に電気が来なくなってしまった時です。変圧器を組み立てている工程の時でした。精密機器なのでクリーンルームを作り変圧器のコイルが湿らないよう空調を効かせて作業をしていました。発電機を動かすも燃料が切れ、倒木で道路も通れない。途中までタンクローリーに来てもらい、2日間タンクローリーから工事現場までポリタンクで燃料を運びました。停電の復旧は近隣のお客さまが最優先なので、コイルが駄目になっても仕方がないと覚悟しました。

―コロナ対策も行いましたか。

 昨年の夏は100人ほど出入りしていました。所員は2班体制にし、車両も一人1台で使いました。工事の大変さは誰もが承知だが、コロナはどう感染するか分からない。みんな負担に感じたでしょうが仕事以外でも気を付けてくれて、一人の感染者も出ませんでした。

温かい明かりを届けたい 完成を支えた人たちに感謝

―台風にコロナ、大変でしたね。

洞 その後も想定外のことがありました。10月から実際に電気を流す系統連系試験を行っていた時のことです。年明け、大寒波で全国的に電力需給がひっ迫しましたよね。試験では大きな電力のやり取りが必要なのに、その電気がない。毎日のピーク使用量を見ながら、使用量が少なくなる真夜中ならできる試験を選別し、昼と夜の二交代で行った期間もありました。

―そうして運開を迎えました。

洞 完成した設備に目が行きがちですが、造成工事や基礎工事の厳しい工程に文句も言わず、休みも返上して泥だらけになって仕事をしてくれた人たちがいてこそです。3月31日19時の運用開始時は、彼らの顔がまぶたに浮かびました。所員には「自分たちだけでやった仕事じゃないんだぞ」といつも言っています。9人の所員は強い使命感でこの長い闘いを乗り越えてくれた。電気のスーパーマンだと思いました。たくさんの人と出会い、共に苦労した、本当にいい現場でした。

―これからの飛騨変換所については。

 3.11のような状況の中でも明かりがあれば温かい気持ちになれます。東西で融通できる電力が90万kW増え、今後は、エリアを越えて、より安定的に電気を送ることができると強く感じました。万が一トラブルが起こってもどうすれば一番早く復旧できるか、今も日々考えています。

【特集2】データ活用で見える化から制御へ 再エネの自家消費を最大化


【日本ユニシス】

街全体のエネルギーマネジメントを可能にするエナビリティーEMS。ビル建物から戸建て住宅まで、幅広く管理をサポートする。データを活用し、再生可能エネルギー利用の快適な暮らしを目指す。

日本ユニシスのマルチエネルギーマネジメントシステム「Enability(エナビリティー) EMS(E・EMS)」は、建物における電力・ガス・水道など多様なユーティリティーを対象に、利用状況の収集や見える化、機器の遠隔制御によるリソースの管理などを行うシステムだ。

利用状況の収集、見える化では、大規模なビルや工場から一戸建て住宅まで建物全般を計測対象としている。大規模なビルや工場では、エネルギーの見える化のほか、空調機など設備のオン・オフ制御、計測したデータを基にした、子メーターの遠隔検針(料金計算業務と連携した検針値集計)を行う。主に高圧一括受電マンション向けには、エネルギー使用状況を踏まえた「節約ポイントの付与」などのサービスも提供する。一戸建て住宅を対象とした家電製品ごとのエネルギー使用量管理も実施する。

Enability EMSの概要

将来的には、メーター計測値を活用した環境価値管理を目指している。統合的に計測値活用を行い、建物全体のみならず、入居するテナント単位での環境価値管理(RE100への対応など)を支援していく。

収集データで遠隔制御 分散リソースを有効活用する

遠隔制御サービスでは、収集したデータを活用し、発電設備や蓄電・蓄熱設備といった分散リソースを有効活用するためのエネルギーマネジメントサービスの提供を目指している。

低圧電気利用の一戸建て住宅に対しては、日々の電力使用の傾向や気象情報を基に、AIが翌日の需要と太陽光やエネファームの発電量を予測する。自家消費を最大にするため、エコキュートを昼間の時間帯に稼働させる自動制御や、蓄電池の充放電やエネファームの発電量の制御も同時に行う。

高圧電気利用の法人や自治体向けには、一戸建て住宅と同様の制御指示に加え、制御装置にデマンドコントローラーの機能を持たせて、ピークシフト・ピークカットを行う。

リソースで注目度が高いのはEV(電気自動車)のスマート充電だ。普及が進んだ後、充電時にピークが立たないよう、社用車などは翌日の利用予定を基に、充電を制御する。事業者は契約電力の上昇を回避でき、小売り事業者は調達単価の削減につながる。

今年3月から出光興産と共同で、宮崎県国富町の工場と役場にて、太陽光発電システムとEV蓄電池、車両管理システムを活用し、建物の電力需要やEVの稼働状況、卸電力市場動向などの予測値を基にした、充放電制御を最適化する実証試験を開始している。

脱炭素社会実現の鍵 E・EMSで地産地消を支援

日本ユニシスは、5年前から関西電力のコンソーシアムでエネファームやエコキュートの遠隔制御の実証試験を行っている。昨年は九州電力ともエコキュートでの実証を開始している。

実証段階から本番サービスの提供を目指し、上位からの指令による制御と自家消費などのエネルギーマネジメントのほか、レジリエンス(強靭性)向上への対応も検証する。非常用の容量確保や、自然災害などで停電が予測されるときには充電を優先することなども検討。需要家が意識することなく自然エネルギーの活用を推進しながら快適な生活を送れる世界を目指している。

また、自然エネルギーの利用最適化の実現は企業におけるCO2排出量削減へ貢献し、2050年カーボンニュートラルの実現に寄与する。

公共第一事業部ビジネス二部の樋口慶マネージャーは、今後は地域で分散リソースを活用するVPP(仮想発電所)への取り組みが加速していくと予想する。E・EMSで、地域の電力を有効に使うためのエネルギーマネジメントやメーターの見える化によるエネルギー利用の支援だけではなく、地域におけるエネルギーサービスの提供を実現するためEnabilityシリーズを活用したいと意気込む。

「顧客管理や料金計算サービスの『Enability CIS』を組み合わせて、エネルギーマネジメントにおける環境価値の管理や、VPPで需要家の設備を利用する時のインセンティブ計算などをトータルで提供したい。持続可能なサービスとして、エネルギーの地産地消実現と、生活者の豊かで快適な暮らしを支援していきたいと考えています」と、再エネ主力電源化への展望を語る。

非化石証書のトラッキング事務局でもある日本ユニシス。E・EMSを核としたEnabilityシリーズで脱炭素社会の実現を目指す。

リソース(設備)の遠隔制御システムの構想

【特集2】日本の電力販売に革新をもたらす黒船 多彩なプランと顧客満足度で勝負


【TGオクトパスエナジー】

今秋、それぞれの暮らしに合わせてカスタマイズした電力料金プランが登場し、日本に本当の電力自由化がやってくる。

東京ガスは、英国エネルギー事業者のオクトパスエナジーと提携し、今年1月、合弁会社である「TGオクトパスエナジー」を設立した。

オクトパスエナジーはエネルギー業界向けに開発した統合ITプラットフォーム「クラーケン」を用いて、2016年に英国の電力小売り事業に参入。バイラルマーケティングの手法で、わずか5年で約200万件の顧客を獲得した。

強みの一つは300近い料金プランだ。利用状況や使用設備などから顧客に最もメリットのあるプランをAIが診断。SNSやメールで適宜提案し、顧客はスマホやPCからプランの変更ができる。

クラーケンは既にドイツやオーストラリアなどのエネルギー事業者に導入されている。複数のシステムが一本化された統合パッケージであるため、ガスも電気も販売するエネルギー事業者にとって、運用や維持管理の面で大きなコスト削減につながる。

きめ細やかな顧客サービスも特長だ。8人チームで特定の顧客5~7万件を担当する。決まったメンバーが密着したサポートを行うため、コンシェルジュのような対応が可能だ。顧客満足度が高く、離脱抑制につながっている。

アジアで初めてクラーケンを投入するTGオクトパスエナジーは、今秋から電力販売を開始し、順次全国展開していく。実店舗は持たず、SNSなどの口コミで広めることで販管費を抑え、電気料金にも反映できる。

有沢洋平取締役部門長は、「パーソナライズ化したプランを提供し、もっと電力自由化のメリットを享受してもらいたいです。日本のエネルギー事業者ではなし得なかった、新たな顧客体験を浸透させたい。価格勝負ではない、電力小売り第二幕の始まりです」と意気込む。

英国のオクトパスエナジーは、再生可能エネルギーの普及を目指しており、供給する電気を100%再エネで調達するとともに、自らも風力発電事業に参入している。TGオクトパスエナジーも、このマインドを受け継ぐ。

日本版のクラーケンはライセンス販売も視野に入れている。日本の電力小売り事業を大きく変える“クラーケン(=海の怪物)”という黒船がやってきた。

オクトパスエナジー社創業者兼CEOのグレッグ・ジャクソン氏

【特集2】業界をつなぐプラットフォーム 新しい価値を生み出しDXを実現


【パーパス】

1982年からLPガス事業者向けにシステムを提供するパーパス。培ったノウハウで、プラットフォームビジネスに乗り出した。データの共有化で生まれる新市場の開拓や活性化を支援する。

業界初の総合エネルギー顧客管理システム「クラウドAZタワー」(AZタワー)から13年。パーパスが新たに提供する全方位互換包括システム「AZスカイプラットフォーム」は、『クラウド(雲)』として分散接続する各種コンテンツやネットワークを連携させ、さらに高い『スカイ(天空)』から全体を俯瞰するシステムのイメージだ。システムやプラットフォーム、ツール、アプリが全方位で自在につながり、利用事業者と顧客を結ぶ『場』になることを目指している。AZタワーでLPガス事業者を中心に獲得したノウハウや知見を生かし、独自のアプリも展開する。

利用事業者はAZスカイプラットフォーム内のコンテンツを選び、自社のクラウドと連携して利用する。これまで顧客から集めた自社のデータのみで提供していたサービスを、参画する他社のデータも共有して、新しい製品やサービス、ビジネスを提供できるようになる。

補完プレイヤー(参画するシステム供給者)が増え、多様な製品を提供すれば利用する事業者が増える。利用者のニーズによってさらに多様なコンテンツが生まれ、補完プレイヤーが増えれば、プラットフォームとしての規模・機能・価値が向上する。AZスカイプラットフォームはこのエコシステムを循環させ、新市場の開拓や活性化への貢献を目指す。

垂直にも水平にも全方位でつながり、AZタワーもコンテンツとして含まれる

事業者のDXを実現する 業界を超えビジネスを支援

DXが注目される中、大規模な投資が難しい事業者などが大企業に負けないサービス展開をするためには、AZスカイプラットフォームのような基盤システムが必要だ。プロジェクトをけん引する、取締役常務執行役員の川口忠彦ITソリューション本部長は、「多くの補完プレイヤーに参加してもらい、利用事業者のビジネスを本当の意味で支援していきたい。コロナ禍での働く環境や事業環境の目まぐるしい変化に、柔軟で迅速に対応できるプラットフォームを構築していく」と目指す姿を語る。

プロジェクトリーダーの佐藤淳IoT・AI推進室理事部長は各プラットフォームの具体的なスキームや設計を手掛け、複数の業界をつなぐプラットフォームにすることを目指している。「住宅設備メーカーとしても、全製品についてITとの融合を始動させます」と意気込む。

国内では、顧客情報を扱うプラットフォームビジネスはパーパスが一番乗りだ。決済プラットフォーム、コミュニケーションプラットフォーム、AIエンジンの検証について、今夏の公開レベルを目標としている。

【特集3】安全に素早く正確な充塡 信頼の技術で世界トップ目指す


レポート/タツノ

昨年12月に発足した「水素バリューチェーン推進協議会」(JH2A)にタツノも名を連ねる。

エネルギー関連企業、各種メーカー、陸海運、ファイナンスなど業界を横断して88社(発足時)が参加し、社会実装プロジェクトの実現を通じて、早期に水素社会を構築することを目指す団体だ。

タツノはガソリン計量機を提供し始めて、今年で110年の老舗企業だ。新しいエネルギーの登場に合わせ、LNGやCNG(圧縮天然ガス)などの充填供給機も開発してきた。約20年前からは水素ディスペンサーにも取り組み、国内の水素ステーションでは50%を超える設置実績で水素供給インフラの構築に貢献している。

また、燃料電池車(FCV)への関心が高い北米のカリフォルニア州で、今や50%のシェアを獲得するまでの信頼を得ている。

「HYDROGEN-NX」セルフモデル

水素技術開発部の木村潔次長は「車両に入れるエネルギーが何になろうと、短時間で安全かつ正確に注入する装置をつくるというのがタツノのポリシーです」と、培った技術と信頼でFCVの普及にも貢献したいと話す。

世界随一の信頼と技術 水素社会の早期実現のために

タツノの水素ディスペンサー「HYDROGEN-NXシリーズ」は、①自社製の充塡ノズル、②世界最高レベルのコリオリ式質量流量計、③キャッシュレスのためのセルフ用POS外設機―の搭載が特長となっている。

①では、水素の特性により不具合が起こりやすい充塡ノズルを自社開発。メンテナンスの時間や費用の大幅削減を実現する。②のコリオリ式質量流量計は、質量流量精度±0・5%の高精度・低損圧の性能を発揮する。各国の防爆認証をはじめ、北米向け安全認証(ETL:Intertek)をノズルと共に日本企業として初めて取得した。③は、国内初で本体に搭載。セルフ式ガソリン計量機と同じ利便性が好評だ。

自社開発の充塡ノズル

水素は常温で液体を給油するガソリンと違って、82MPaの高圧でFCVに圧縮充塡する。ノズルは人が操作する部分なので、より高い安全性を求められる。タツノは、ノズル部分に取り付けた自社開発の赤外線通信受光部で車両のタンク情報を受信し、充塡を制御している。セルフ式の水素ステーションの普及をいち早く想定し、軽量化も図った。

昨年末、トヨタが新型ミライを発売した。タンクが3本になり容量が増えたことで、さらに短時間で充塡できる性能が求められる。

常務取締役の能登谷彰・営業本部長は、社会全体で水素の流通が増えて、その一部が車両用になるのがベストだと言い、「今後は大型車用のディスペンサーの需要も高まります。最終的に、液化水素を液体のまま充塡できれば、効率が上がりコストダウンにもつながるでしょう」と、新たな技術開発も視野に入れる。

「社会貢献の一つとして、全社を挙げて水素ビジネスを展開していきたい」と、水素社会の早期実現のために、JH2Aで積極的に取り組むとしている。

【特集2】アンモニア混焼でCO2を削減 石炭火力で実現する燃焼技術


レポート/IHI

CO2フリーの燃料として期待されているのが、アンモニア(NH3)だ。水素と違ってマイナス33℃または8・5気圧で液化し運搬できるため、特殊なタンカーは不要。既に農業分野で肥料として使用しており、製造の技術開発も必要ない。また、可燃性ガスなので直接タービンに入れて利用できるといった利点がある。

IHIは内閣府が2014年度から18年度にかけて取り組んだ「戦略的イノベーション創造プログラム」に参画し、同社のガスタービン、微粉炭焚ボイラー、SOFC(固体酸化物形燃料電池)でアンモニア混焼の原理実証を行った。

相生事業所では石炭火力ボイラーの試験設備にアンモニアを20%混焼し、CO2の排出量を直接的に20%削減。IGCC(石炭ガス化複合発電)よりもCO2の排出量は少なくなり、排ガス中の未反応NH3はほぼゼロ、NOxも石炭と同等との結果が出た。

石炭火力向け大容量燃焼試験設備(相生事業所内)

現在は混焼技術の高度化を目指すNEDOのプロジェクトで、石炭火力向けに60%混焼を可能にするバーナーを開発した。21年度以降に100万kW級の商用石炭火力での実証開始を目指す。ガスタービンではアンモニア100%専焼の研究を開始予定だ。

大規模改修は不要 既存火力でもCO2を削減

資源・エネルギー・環境事業領域ビジネス創生グループの須田俊之グループ長は、「CO2削減への取り組みが加速している今、規模は小さくても早く社会実装することが重要です」と話し、使いやすさの面でもアンモニアは非常に適したソリューションだと強調する。

設備を大規模改修しなくても、IHIが開発したアンモニア混焼用のバーナーを導入すればCO2は削減できる。そのほか必要な設備はアンモニア供給のためのタンクと気化器のみだ。

IHIは日本エネルギー経済研究所とサウジアラムコが進めるブルーアンモニアのサプライチェーン実証試験に協力しており、混焼試験の一部にはこのブルーアンモニアを使用している。

サプライチェーンが本格化し導入も進めば、カーボンニュートラルな燃料としてアンモニア活用への期待はさらに高まる。

【特集2】超々臨界圧・微粉炭火力の新1号機 バイオマス混焼進め低炭素化へ エネ共存時代の火力運用


電源開発 竹原火力発電所

低炭素化に向け石炭火力の運用に新しい視点が必要となってきている。再エネ大量導入を見据えて負荷調整機能を高めながらバイオマス混焼も進める。

2020年6月、広島県竹原市の竹原火力発電所で約6年の歳月をかけ建設していた新1号機が営業運転を開始した。

新1号機は、出力25万kWの旧1号機と出力35万kWの2号機の合計60万kWと同容量の出力を持つ。

竹原火力新1号機と3号機の全景(提供:Jパワー)

蒸気条件として超々臨界圧(USC)を採用し、発電所の熱サイクルを最適化して向上させ、主蒸気温度600℃を実現(再熱蒸気温度は630℃、主蒸気圧力は27MPa)。微粉炭燃焼の火力発電設備として世界最高水準となる発電端効率48%を達成している。

さらに最新鋭の排煙脱硝・排煙脱硫・集じん装置の導入で、新1号機は旧1号機・2号機に比べ硫黄酸化物(SOx)・窒素酸化物(NOx)・ばいじんを大幅に削減。高効率の達成と最新鋭の環境対策設備の導入は、地域社会への環境負荷低減をもたらしている。加えてCO2排出量を大幅に削減。発電電力量当たりの排出量を約2割削減している。

また、さらなる低炭素化を実現するために木質バイオマス燃料を積極的に活用することにも注目したい。一般的には数%程度の混焼率であるが、竹原火力では10%の混焼率を達成すべく高い目標を掲げている。

今後も導入拡大が進む再生可能エネルギー電源の出力変動にも柔軟に対応する、高い運用性能を実現する。

CO2削減に挑戦する火力 エネルギーの安定供給のために

新1号機の建設は14年に始まった。旧1号機(1967年運転開始)、旧2号機(74年)は設備を廃止するまで可能な限り稼働させつつ、3号機(83年)の運転にも支障をきたさないよう建設を進めてきた。廃止設備を運転させながら建設を進める「ビルド&スクラップ方式」を採用し、通常の建設工事に比べ1.5倍の工期をかけながら、難易度の高い建設をマネジメントしてきた。その間、定期的に工事状況についての説明会を実施し、刊行物を発行するなど地域の理解を得ながら工事を進めた。

民家との距離も近い立地であるため、旧1号機の運転開始から半世紀たった現在も変わらず環境対策に取り組み、地域住民とのきめ細かい情報共有に努めている。

竹原火力発電所は半世紀を超えてなお地域とともに歩み、高効率石炭火力の世界最高技術でCO2削減に取り組み、国内の安定供給を支えていく。

リモコンと浴室暖房乾燥機を活用 健康で快適な暮らしをサポート


【レポート/パーパス】

住宅のリフォームは、水回りを一新する機会となる。特に浴室はその機能が年々充実し、もはや入浴は体を清潔に保つためだけでなく、リラックス効果など健康維持のための重要な時間だという認識が浸透している。

パーパスの給湯器リモコン「AXiSスマート(900シリーズリモコン)」は2019年に登場した。「安心入浴サポート機能」を搭載し、ドアセンサー、水位センサー、人感センサーで浴室内の事故を防ぐ機能が付いている。浴室内の安心安全をサポートして異常を素早く家族に気付かせると評判だ。

給湯暖房熱源機AXiS
安心入浴サポート機能 説明動画

このAXiSスマートは、健康管理にも活用できる。コロナ禍で生活スタイルが変わり、スポーツができなくなるなど運動不足を感じる人も多い。AXiSスマートは、あらかじめ基本情報と体重をセットしておけば、浴槽に漬かるだけで水位センサーが体脂肪率と消費カロリーを測定する機能を持つ。測定したデータはクラウドで一括管理し、専用アプリ「パーパスコネクト」を使ってグラフ化。推移がひと目で分かり運動不足解消のきっかけになる。

個別の基本情報は5人分までメモリー登録が可能で、入浴のたびに登録の必要はない。また暗証番号登録で個人のプライバシーも守れる。

体脂肪率の変化をグラフで確認

浴室暖房乾燥機で家事軽減 アプリで室内の温度を確認

コロナ禍では自宅で過ごす時間が長くなり、食事や洗濯の回数が増えるなど、家事の負担増にもつながった。パーパスはAXiSスマートを設置する際、浴室暖房乾燥機も併せて提案している。浴室暖房乾燥機を取り付ければ、洗濯物が増えても短時間で乾かせる上、換気しながらパワフルな温風で浴室を乾燥させて、カビやぬめりの原因となる湿気や結露を抑えることができる。自宅で過ごす時間が長くなる中、洗濯物が外に干せなくなる花粉の時期やPM2・5が気になる時に大量の洗濯物を干す場所に悩まされずに済む。

また、冬場は暖かい居間と寒い脱衣所や浴室、また入浴の際の熱い湯との大きな温度差がヒートショックの原因になるが、浴室暖房乾燥機であらかじめ浴室を暖かくしておけば、入浴時の事故を防ぐことにもつながる。夏場は涼風機能を使用して、浴室内での熱中症対策が可能だ。

さらにパーパスコネクトは、対応する床暖房リモコンを使用している場合、その部屋の温度もスマートフォンで確認できる。外出先から室内の温度を手元で確認し、アプリから床暖房のオンオフをすることで、より快適な暮らしを実現する。

営業企画部の鈴木孝之部長は「『おうち時間』をいかに豊かに過ごせるかという商品提案をしていきたい」と、これからのニューノーマルな暮らしに寄り添う製品作りを目指すとしている。

インフラ企業ならではの団地再生 継続的に関わり地域の未来を育む


【西部ガス/福岡県宗像市】

福岡県宗像市は福岡市と北九州市の中間に位置し、両政令指定都市のベッドタウンとして発展を遂げてきた。

同市にある九州最大級の団地「宗像・日の里」は21年で開発から50周年を迎える。日本住宅公団(現・UR都市機構)が開発し、面積は東京ドームの50倍に近い約217万㎡。駅に近く、多くの人が移り住み、街は活気に溢れていた。だが半世紀を経た今、建物の老朽化や空き家の増加など、課題を抱える。住民の高齢化率約35%という高い数字は、日本の10年後の姿だという。

UR都市機構は20年、公募していた日の里団地の一部、約1万8000㎡の土地建物を「福岡県宗像市日の里団地共同企業体」に譲渡した。共同企業体は西部ガスのほか、住友林業、パナソニックホームズ、セキスイハイム九州などのハウスメーカー8社と、街づくりをプランニングする東邦レオの計10社が名を連ねる。

10棟の団地が立ち並んでいた土地は6棟を解体撤去した後に引き渡されたが、既存棟を生活利便施設として活用し、拠点化することが条件として挙げられていた。既存棟の活用と新築の戸建というハイブリッド型の団地再生事業だ。


ハイブリッド型団地再生は、日の里5丁目地区で進められる

西部ガスの都市リビング開発部暮らし・まちづくり推進グループの今長谷大助マネジャーは、「ここは都市ガスエリアではないので、最初は参加しようとは思っていませんでした」と振り返る。

こうした中、グリーンインフラを担う東邦レオの吉田啓助ディレクターが、西部ガスが手掛けた北九州市城野地区の街づくりを視察。西部ガスとチームを組めば新しい取り組みができると考えた。互いに街づくりへの思いを話すうち、「地域に元気を届けるインフラ企業になりたい」という同じ思いを持っていると気付いた。

西部ガスは共同企業体に参加して土地建物を所有する一方、東邦レオと連携して既存棟を共同運営する体制を取った。

所有者が運営するという形態は従来のエリアマネジメントにはない発想だ。開発した土地に長期的に関わることはデベロッパーの事業として成り立たないからだ。

団地再生は、既存棟1棟を残すことになった。残した48号棟を「さとづくり48」と名付け、リノベ改修。1階を中心に地域に開かれたコミュニティースペースを展開する計画だ。地ビールを製造するブリュワリー、住民のためのDIY工房、コミュニティーカフェ、保育所、福祉施設などの入居が予定されている。

改修してコミュニティー拠点となる既存棟「さとづくり48」

また、更地には64の戸建住宅を新築する計画だ。一帯を緑地化し、塀や垣根で敷地を区切らず住宅を建てる。キャンプ場の中のバンガローのイメージで、公園の中にいるような暮らしをつくり、コミュニティー形成を後押しする。

「周りとの関係性の中で暮らす場所にしたい。災害時の共助や20年後、30年後の助け合いが生まれるコミュニティーづくりに寄与したいです」(今長谷マネジャー)

事業のコンセプトは「サスティナブル・コミュニティ」だ。半世紀にわたる日の里の歴史を大切にしつつ、新たなコミュニティーを付加する―。コミュニティーの持続可能性を軸とした社会の実現を目指している。

子どもを中心に街をつくる 地域を巻き込むプロジェクト

コロナ禍では、運営の計画を大きく方向付ける出来事があった。例年通りの総合学習ができなくなった、日の里地区の小中一貫校である日の里学園から、工事エリアの囲いに絵を描かせてほしいとの申し入れがあったのだ。

これをきっかけに、地区内の小・中学校に通う子どもたちのアイデアを取り入れた街づくりが始まった。今ではPTAや学校の先生、団地の自治会や地域の大人を巻き込んで、子どもたちが実現したいこと、やりたいことを大人が全力で叶えるというプロジェクトに発展した。

「10年後、20年後の街を作るのは、この子どもたちです。自分の街は自分で変えられるという思いが、子どもたちの中に芽生えています」(今長谷マネジャー)

大人と子どもが一緒になって街をつくる

西部ガスと東邦レオは運営の一環としてこのプロジェクトを積極的に支援している。団地再生は住民が主役であり、地域が活性化することによって実現すると考えているからだ。

今長谷マネジャーは「需要家を増やすことも大切ですが、日の里に深く継続的に関わることで、『圧倒的な信頼』を築きたいと思っています。インフラ企業だからこそできる街づくりなのです」と、日の里との関わりは新しい営業の形だと意気込む。地域の交流が盛んになり、日の里団地が活性化すれば、団地の入居率も上がって、結果としてガスの利用も増える。戸建エリアでプロパン利用のエネファームが設置されれば、災害に強い街になる。

「さとづくり48」の本格オープンは21年5月。戸建エリアは9月に着工し入居開始は22年4月の予定だ。ハイブリッド型団地再生という日の里の取り組みは、全国の団地再生のモデルとして注目を浴びることになりそうだ。

臨時療養施設を支えるLPガス


【日本財団災害危機サポートセンター】

コロナ禍で建設された、国内初のペット同伴型臨時療養施設。避難所建設のモデルケースとして研究機関の注目を浴びている。

お台場エリアにある船の科学館駐車場と日本財団パラアリーナを合わせた約1万㎡の土地に「日本財団災害危機サポートセンター」が建つ。新型コロナに感染した比較的軽症者向けの臨時療養施設だ。

新型コロナ感染拡大による医療崩壊を防ぐため4月に着工し、7月に完成。東京都が運営し、10月半ばから入所を開始した。

14棟のプレハブハウスにはワンルームタイプの個室140室・150床と、約2000㎡のパラアリーナ内には間隔を十分に取り、仕切りで区切った100床が用意されている。さらに物資の貯蔵や医療従事者の待機場所として1張りの大型テントがある。


各個室の給湯器はLPガスで供給する

個室にはテレビやパソコン、冷蔵庫や洗濯機などが備えられ、生活に必要な環境が整う。特長はペットも一緒に入所できる点だ。種類は限られるが、ペットを理由に入院療養をためらう罹患者がいることに着目した。ケージを用意するだけでなく、室内はペットが外に飛び出さないよう工夫を凝らす。

「災害時にペットがいるため避難をせず二次災害に遭った例が多くあります。生活スタイルを極力変えずに療養・避難できる施設は入所者の健康を守ることにもつながります。運用面のモデルケースとして今後に生かしていきたいです」。災害対策事業部の樋口裕司チームリーダーはこう話す。

臨時施設の建設は短期間・低コストであることも必要な条件だ。その設備造りにLPガスは欠かせない。

コロナ禍の在宅勤務ストレスを可視化 精神状態を把握し新しい働き方を支援


【エムアイティーオフィス】

働き方改革で積極的な導入を推奨されてきたリモートワーク。

だが、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、半ば強制的に導入された自粛を伴うリモートワークでは、本来の良さを享受できていないのが現状だ。自宅にこもり、気分転換の外出もままならず、精神の疲労が蓄積して体調を崩す声が聞かれるようになっている。

エムアイティーオフィスが販売する「メンタルチェッカー」は、感情を数値化・可視化することができる精神状態測定ソフトだ。エルシスジャパンが、ロシア政府機関のエルシスが開発した技術を応用し、作成した。

人は通常、1秒間に10回程度の微細な振動をしている。この不随意な動きに感情が現れるという運動精神生理学に基づき、ロシア政府が2014年のソチ五輪開催時、テロ対策システムとして研究開発した。メンタルチェッカーはこの解析エンジンを使用し、日常のストレスや精神状態を自動判定する。

既に国内ではエネルギー関連企業や研究所での導入実績があり、メンタルチェックに使用されている。ストレスの高い環境で働く従業員のための導入が多かったが、コロナ禍では、従業員と顔を合わせる機会が減り体調の変化に気付きにくくなった一般企業での導入が増えている。PCとカメラを用意し、メンタルチェッカーのライセンスを導入すればすぐにスタートできる。

自分で気づくことが目的 病気を防ぎ人材確保にも

計測はカメラの前に60秒間座り動画を撮影する。撮影中の振動パラメーターからストレスや安定性、活力、緊張などの10項目を数値化し、グラフ化する。定期的に任意のタイミングで計測し、5回ほど測ると個人の正常値の範囲が分かるので、その逸脱具合によって異変を認識できる。低い数値でも安定していれば問題はない。

 計測データはグラフ化しエクセルで管理できる

出社時に会社で計測する場合、1セットをフル稼働すると、1カ月でのべ1000人以上の計測が可能だ。リモートワーク時は各自がスマホで動画を撮影し、メールで労務管理者などに送りデータ化してもらう。ただし、データの管理は個人で行い、あくまでもメンタルの不調に「自分で気付く」ために活用する企業がほとんどだそうだ。

コントロールできない潜在的な部分を可視化するため、周囲の意見や筆記式による自己申告に左右されない点も大きな説得力を持つ。

事業企画室の中川恵輔シニアマネージャは、「自分の精神状態を把握できれば、病気を未然に防ぐことにつながります。企業も大事な人材を失わずに済みます」と、長期化する自粛生活の中で社員のメンタルを守る重要性を説く。

自然災害などで長期の避難所生活や仮設住宅での生活を余儀なくされる人々にも有用だとしている。

顧客の継続的なSDGs活動を支援 CO2排出減らし途上国に明かりも


中部電力

SDGs(持続可能な開発目標)は、持続可能な世界の実現に向けて17のゴールと169のターゲットから構成される国際目標だ。「世界中の誰一人として取り残さない」ために、国連加盟の193カ国が2030年の達成を目指して取り組んでいる。

中部電力ミライズは、顧客のSDGs活動を支援する新たなサービス(SDGs支援サービス)の提供を開始した。再生可能エネルギーの普及と途上国での電化率向上に取り組む一般社団法人「グッドオンルーフス」と連携する。

SDGs支援サービスを提供する対象は、中電ミライズの太陽光発電の自家消費サービスを利用する大口需要家。サービスの利用料金に顧客の希望に応じた寄付金を上乗せし、途上国の電化率向上や、生活水準の向上に貢献する仕組みだ。

SDGs活動を支援するサービスの概要

具体的には、アフリカなどの途上国で現地の小学校の屋根に太陽光パネルを設置し、学校を充電ステーションにする。子どもに充電式のLEDランタンを持たせ、家庭にも明かりを灯せるようになる。さらに、日本で使用済みとなった電子黒板を提供し、動画や通信を用いて質の高い教育を促すといった取り組みに充てられる。

世界では5人に1人が電気を利用できておらず、その大半はアフリカなどの途上国に集中している。

SDGs支援サービスに参加することにより、「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」「質の高い教育をみんなに」などの項目で、継続的にSDGs活動に参加できることになる。

そのほかのメリットとして、①途上国で実施したプロジェクトの動画などをホームページに掲載し、取り組みを広くPR、②一定金額の寄付で、現地に建設する太陽光発電所の命名権を取得、③グッドオンルーフスの広報活動において、広報誌などに企業名が掲載される―が挙げられる。

社会貢献という付加価値 今後は一般家庭にも展開

中電ミライズの自家消費サービスは19年、大口需要家向けに開始した。店舗や工場といった法人の屋根に太陽光発電設備を設置し、運営している。法人は初期費用ゼロでCO2フリーの電力を使用。自立運転機能付のパワーコンディショナーを取り付ければ、停電時に太陽光発電システムを自立させて活用することもできる。CO2排出量の削減や災害時のBCP対策として導入が進んでいる。

自家消費サービスに加えSDGs支援サービスに参加することで、社会貢献という新たな付加価値がつく。中電ミライズは、今後は一般家庭への展開も検討している。

地方バス事業再生の考え方 「CX」が生産性向上の鍵に


【私の経営論 (1)】松本順/みちのりホールディングス代表取締役グループCEO

日本の労働市場が非効率で「モノプソニー」に陥っているとする最近のデービッド・アトキンソン氏の論に同意だ。モノプソニーとは、元来はモノポリー(売り手独占)の対義語で買い手による市場の独占を意味する。
アトキンソン氏は、日本では個々の中小企業の労働者に対する支配力が強すぎて、生産性も賃金も低いままで労働力が個々の中小企業に分散し、それがトータルな生産性向上を妨げていると強調し、解決すべき日本のテーマだとしている。

労働市場がもっと効率的であれば、中小企業の集約が進んで中堅企業が形成され、生産性も向上し、企業の数が減って過当競争も緩和するというのだ。
確かに、これほどまでに現場が人手不足になっていても賃金がさほど上昇せず、それでも人材の流動化が活発にならないのはなぜだろう。一般の中小企業の経営と労働者との間での情報格差が大きいことや昔気質の忠誠心が理由であろうか。とすれば、労働市場が変化して、より優れた経営の下に人材が集まる可能性はある。

生産性向上のためのDX キャッシュフローのCX

では、集約の結果として生まれた中堅企業は、首尾よく生産性向上を果たせるだろうか。規模の拡大がそのまま生産性の向上につながるようなケースは良い。例えば小売り業が同業者を吸収し、地域内の店舗の密度が濃くなったような場合は、コストの共有や物流の合理化によって生産性が大きく向上するであろう。また、過剰供給が集約によって解消するといった、一時の家電メーカーの統合のようなケースも生産性は向上する。

しかし、規模の経済も効かず、過剰供給ともいえない一般的なサービス業種はどうか。その場合は、集約だけで生産性の向上は果たせない。DX、すなわちデジタル・トランスフォーメーションが必要条件となる。しかし、経営管理やサービスのデジタル化にはいちいち先行投資が必要となることを忘れてはならない。

私が営むバス事業でいえば、ICカードなどのキャッシュレス決済の導入には、読み取り機などのハードはもちろん、システム開発でも多額の費用を要する。クラウド型のバスの位置情報サービスを導入すれば、ユーザーの利便性が向上して運賃収入が増え、一台当たりの車両管理コストも減って生産性は向上するが、多額の費用がかかる。加えて、DXを担う人材が社内に既に存在するケースはまれなので、人材を採用したり、育成したりするための費用も恒久的に必要となる。

グループ各社ではMaas、自動運転、バスロケーションシステムなどを積極的に導入

そこで、DX以前の段階で、デジタル化に必要なコストを賄うための営業キャッシュフローを増やす必要が生じる。そのための手立てがCX、すなわちコーポレート・トランスフォーメーションだ。
グローバルに戦う製造業の多くが、バブルの崩壊やリーマンショックから再起する過程でCXを進めたといえる。忠誠を求めるのではなく能力を評価して人材を登用する。必要とあらばノンコアの事業を売却して新たな事業領域に果断に挑戦し、性別や人種、信条など多様性に寛容な企業文化を創出する。オペレーションの維持ではなく改善を追求し、マーケティングを科学の対象とし、コーポレートガバナンス上の不合理を廃した。

一方、国内でしか戦わないローカル型産業群、中でも特に地域内で活動する競争の少ないインフラ産業はCXが遅れた。その上、規模の小さな企業がインフラを担っているケースもあり、その多くが失われた30年の結果として前述のモノプソニーに陥っていて、集約的なCXやDXを通じた生産性向上の端緒がつかめないでいる。

通信回線サービスで地域に貢献 スマートメーター活用の検針提供へ


【四国電力送配電】

四国電力送配電は、スマートメーターを活用した通信回線サービスに乗り出す。
地域が抱える課題解決に向け、電力インフラで培った信頼と実績を提供する。

海に囲まれ、自然豊かな四国。日本最後の清流・四万十川や、日本三大秘境の祖谷があり、四国山地には西日本最高峰の石鎚山がある。そんな四国地方も他の地方と同様、少子高齢化・過疎化といった問題を抱えている。

四国電力は6年前からスマートメーター(スマメ)を導入し、これまで電力検針業務の効率化や顧客へのサービス向上に寄与してきた。この実績をもとに、ガス・水道など同じく検針業務を行う事業者を対象として、スマメを活用した「IoT向け通信回線サービス」の準備を進めている。本年4月に発足した四国電力送配電の第1号の新規事業だ。2021年4月の開始を予定している。

通信回線サービスの概念図

社内で事業の検討会が始まったのは18年。ガス・水道事業に関する知見がない中でのスタートだった。部門を横断したメンバーで取り組みを開始し、翌年には複数箇所でフィールド実証試験を行った。無線通信端末を対象世帯に取り付け、電力スマメの通信システムを介して検針データを送信。データセンターを経由して各事業者に届ける流れだ。

企画部SM活用事業プロジェクトの堀口昌吾さんは「新しい分野で、一から知識や知見を積み上げました。検討会メンバーと協力しあって事業化が決定した時の達成感は、何ものにも代えがたい貴重な経験になりました」と振り返る。
堀口さんは現在、収集したデータを各事業者に連係するためのシステムづくりに取り組んでいる。

ガス・水道事業者は、6年にわたる電力の遠隔検針の実績に厚い信頼を寄せ、サービス導入を心待ちにしている。

北川圭一郎リーダー(左)と堀口昌吾さん

プラチナバンドを使用 セキュリティも確保

四国電力エリア内のスマメ化は19年度末時点で約147万台。普及率は約6割程度だが、従来式のメーターの交換時期に合わせてスマメに取り換えており、既に四国の隅々に行きわたっている。また、ガス・水道メーターに設置する無線通信端末とスマメ間は、回り込み特性に優れ、長距離通信が可能なプラチナバンドと呼ばれる920MHz帯無線を使用。無線通信端末は、周囲のスマメの中から電波強度の高いものを選択して通信するので、自宅がスマメ化されていなくても近くのスマメにデータを送る。

通信が不安定になっても、自動で他のスマメを探しルートを変更するため、安定した通信の提供が実現できる。これにより、6割程度の普及率でもほぼ全エリア内でのサービス展開が可能となるのだ。
通信データは強固な暗号化通信によりセキュリティを確保する。端末のソフトウェアアップデートも遠隔で実施し、セキュリティ上の対応が発生してもすぐに対処できる。