溢れる情報の判断力を問う 思考を言葉で表現する重要性も


【リレーコラム】岩野宏/アジア太平洋研究所代表理事

新型コロナウイルスで、社会が揺れている。「コロナウイルスは熱に弱く、26〜27℃のお湯を飲むと殺菌効果がある」「深く息を吸って、10秒がまんすることができれば新型コロナには感染していない」など、落ち着いて考えればおかしいとすぐ分かるような言説がSNS上を飛び交い、一時はドラッグストアからトイレットペーパーが消え去った。

不安には、問題点が明らかな故の不安と、何も分かっていないが故の不安がある。現代はかつてのパンデミック時より医療技術が格段に進歩してはいるが、それでもコロナ禍は多分に後者の不安であろう。そもそもコロナ禍にとどまらず、およそ世の中は分からないことばかりだ。グローバル化で社会は複雑化し、米中対立はますます混迷の度合いを深めている。技術進歩は凄まじく、私は既に最新のSNSの動きから取り残されている。

他方、私たちが日々手にする情報は、この10年でも急速に増えている。『令和2年版情報通信白書』では、IPトラフィック(データ通信量)は2017年からの5年間で3倍に増えると予測している。それにもかかわらず、分からないことが増えている。

言葉を紡いで物事を考えることの重要性

かつて学校で習った教科書には、体系的に「正しい」ことが書かれていた(と思う)。しかし、今、ちまたに溢れる情報は、正しいのかどうか、主流の見解なのか亜流なのか分らない。ネットの情報はあまりに断片化されていて、私たちは刹那的な判断を求められる。

日常的には、それで問題はない。しかし、こうした断片的な情報を、その文脈や背景を考慮することなく、良い/悪い、好き/嫌いと峻別することの積み重ねが、世の中の分断といわれるものの一因になってはいないだろうか。世の中、そう単純に割り切れるものではない。地球環境と経済成長はいずれか一方を選択できるようなものではないにもかかわらず、環境派と成長派は互いに相容れない。

情報発信する側も同じ状況にある。ツイッターは140文字しか打てない。LINEの絵文字は見ていて楽しいが、絵文字を選ぶことで、私は言葉を紡いで自分の考えをまとめる努力を放棄している。

物事を単純化し、0/1に分けて整理するという思考法は決して誤りではない。しかし、0と1が重なり合うことはない。そして、多くの真実はその間にある。複雑化した現代においては、必死に言葉を紡いでそこを表現し、あるいはそこを考える努力を払い、お互いに重なり合えるところを見いだしていくことがますます重要になっていく。

いわの・ひろし 1985年東京大学工学部卒、通商産業省(現経済産業省)入省。資源エネルギー庁電力流通対策室長、非鉄金属課長、JOGMEC石油開発推進本部企画調整部長、住友電気工業執行役員NEXTセンター長などを経て、2017年6月から現職。

次回は大阪大学特任教授の江村勝治さんです。

奥会津にPR施設をオープン 水力発電に親しみ歴史に触れる


【東北電力】

東北電力初となる、本格的な水力発電PR施設「東北電力奥会津水力館 みお里 MIORI®」(以下、水力館)が福島県金山町にこの7月、オープンした。

奥会津の山の連なりをイメージした外観、道の駅「奥会津かねやま」に隣接

金山町をはじめ周辺7町村は奥会津地域と呼ばれ、山々に沿って流れる只見川を中心に豊かな自然と美しい景観が広がる地域として知られている。

東北電力は、草創期より、この地域で水力電源の大規模な開発を進め、戦後の復興を電力供給の面から支えてきた。現在も同社の水力発電において総出力の約3割を占める重要な電源立地地域となっている。

水力館は、こうした歴史的経緯や、水力発電をはじめとする再生可能エネルギー活用に向けた取り組みなどを発信するPR施設として期待されている。

施設の愛称「みお里」は、奥会津地域の中高生から募集し決定した。「みお」は「水脈」を表し、「豊かな暮らしを支える水脈のふる里」の意味が込められている。

水力発電や奥会津を身近に 多彩な展示で魅力をPR

館内では、映像やジオラマ、アートなどの多彩な展示により、水力発電の仕組みや只見川における電源開発の歴史、奥会津地域の魅力などを五感で感じながら学ぶことが可能だ。

また、只見川の電源開発に尽力した、東北電力初代会長である白洲次郎の足跡や生涯を年代ごとにまとめたパネル、遺品、書籍などの展示コーナーでは白洲次郎の人間性などにも触れることができる。

カフェスペースからは、雄大な只見川と豊かな自然が一望でき、幻想的な夏の川霧や秋の紅葉など、四季折々の風景を楽しめることも魅力のひとつだ。

このほか、地域の文化・芸術の発表の場として、展示・交流スペースも設けている。

東北電力は、水力館が地域から親しまれ、観光客の増加など地域の活性化にも貢献する施設としたいとしている。

白洲次郎・東北電力初代会長の展示コーナー

自ら墓穴を掘った朝日 事実の尊重を揺るがす社説


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

さすが、レディー・ガガさんらしい、と思った。

NHK9月1日「有名歌手マスクしたまま歌う コロナで打撃 音楽業界模索続く」である。

新型コロナウイルス禍と闘う業界の活動ぶりを紹介した。

「アメリカの音楽専門チャンネルが8月30日に主催した、音楽賞授賞式で、人気歌手のレディー・ガガさんとアリアナ・グランデさんがマスクをしたまま歌うパフォーマンスを披露しました」

ユニークなのは次の部分だ。

「ガガさんがつけたマスクは衣装に合わせた近未来的なデザインで、『何度も繰り返しますが、マスクを着けてください。ほかの人への敬意の印です』とスピーチで訴えました」

このウイルスに感染すると、発症していなくても人にうつす恐れがある。マスクを着ければ、自らを守るだけでなく、ウイルスを撒き散らさない。そんな思いやりの効果を強調したのだろう。

密閉された商業施設やエレベーター、電車でもマスクを着けない人がいる。持病などでマスクができない場合もあるだろう。マスク着用で、そうした人も守れる。敬意の大切さを思う。

ガガさんは、東日本大震災の時も直後に来日した。観光庁サイト(2011年6月24日)に、「感謝状を贈呈しました!」の記事が残る。ガガさんのあいさつが力強い。

「日本が安全だということを、世界中の観光客がこの美しい国に来てもらえるように伝えていきたい。東京に滞在中は、この素晴らしい街を楽しみながら、リトルモンスターとふれあいたい」

敬意の片りんもないのが、朝日8月29日社説「『安倍政治』の弊害 精算の時」だ。安倍晋三首相の辞意表明を受けて、「首相在任7年8カ月、この間、深く傷つけられた日本の民主主義」と総括した。安倍政権は国政選挙に6連勝してきた。民意は無視なのか。

「傷つけられた民主主義」を実証する狙いだったのだろう。世論調査を実施した結果が、朝日9月4日「安倍政権を評価『71%』本社世論調査」だ。安倍政権支持が圧倒した。朝日はズレてる。

北海道寿都町が高レベル放射性廃棄物の最終処分場候補地に応募を検討中、と報じられてから、事実への敬意も揺らぐ。京都8月18日社説「核ごみ処分場 交付金での誘導見直せ」は一例だ。

当事者を取材した形跡がない。なのに、「調査を受け入れると、2年間で最高約20億円の交付金が支給される。同町は人口減少が進んでおり、財政維持の一手としてとらえているようだ」と、「金絡み」の印象操作を試みる。

翌日の日経ビジネス電子版8月19日で、片岡春雄町長がインタビューに答えている。

「町は風力発電を早くから導入してきた」「エネルギー政策全般を勉強し、地域としてどのように協力していけるかを話し合ってきた」「出口の議論がない原発の政策に何とか風穴を開けられないか」。信念が伝わってくる。

京都社説は金に固執する。「交付金で誘導するような手法は見直すべきだ」と述べ、日本学術会議も12年に同様の見解を出したと主張する。だが、学術会議が「しかるべき補償措置が地域に対してなされることを妨げるものではない」と、経済的な地域共生策を認めている事実には触れない。

読売9月3日「新聞週間標語が決定」によると、代表標語は「危機のとき 確かな情報 頼れる新聞」らしい。そう願いたい。

いかわ・ようじろう デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

【コラム/10月12日】新政権の「当たり前」を考える


飯倉穣/エコノミスト

新政権が発足した。「菅内閣発足・・行革・デジタル独自色腐心」(朝日2020年9月17日)、「菅内閣が発足、規制改革へ縦割り打破、コロナ対応・経済両立」(日経同)と報道された。

菅義偉首相は「経済の再生は引き続き政権の最重要課題。アベノミクスを継承し、一層の改革を進める。目指す社会像は、自助・共助・公助そして絆。行政の縦割り、既得権益、悪しき前例主義を打ち破り、規制改革を全力で進める」(抜粋)と述べた(首相会見16日)。

 そして次官連絡会議(18日)で「世の中には国民の感覚からかけ離れている、当たり前でないことが残っている。現場の声に耳を傾けて、何が当たり前なのか、見極めてほしい」(抜粋)と話した。

政策としてコロナ対策に注力、アベノミクス継続、デジタル化等推進(デジタル庁創設)、携帯料金引下げを掲げる。そして役所の縦割り等の打破、規制改革推進を打ち出した。早速担当大臣個人が、行革110番(現在内閣府縦割り110番)を設け、国民の声を収集している。政府・政策運営の「当たり前」を考える。

当たり前の意味は、「①そうあるべきこと、当然、②普通」(広辞苑)とある。この言葉の受け止めは、人それぞれで、単純ながら複雑である。前提に規範(社会規範)の存在がある。 

小泉改革(01年)は「当たり前主義」と評された。自分が当然と思わない既得権益の破壊とタブーへの挑戦であった。小泉ワイド劇場「構造改革」の舞台で、特会・特殊法人改革、不良債権処理、郵政民営化、規制改革・構造改革特区等を実施した。マスコミの喝采があったが、経済効果は不明である。

政権の当たり前は、政権維持に尽きる。マスコミ・選挙民の支持を得る施策の演出と実施である。論理性は怪しい。政府運営(行政)の当たり前は、民主主義国家では、法による行政である。国家行政組織法、各省設置法で担当を決める。担当が重複・分散・曖昧・不明の場合、調整となる。この調整が、宿命的に縦割り・先例主義等を顕在化する。これまで縦割りで狂牛病・温暖化対策等が話題となった。今回PCR検査を巡って、各省の分担や調整は茫々、国・地方の関係も朦朧、地公体内部の対応も不明瞭だった。

経済財政諮問会議の設置は、総理の政治主導でデマケを解決する趣旨もあった。時間の経過とともに会議はプロパガンダ性を強め、機能忘失になっている。官邸主導は、省庁・官僚の萎縮を招来し、不作為も助長する。「社長が笑えば皆笑い、社長が怒れば皆下を向く」状態である。また官僚が法定外業務を実施することも望ましくない。故に官僚向けの当たり前は、法による行政、行動規範の徹底である。そして今回の問題提起で、どんな事項が、縦割り、既得権益、先例主義の対象として浮上するか興味深い。

規制改革は、政府の効率を高め、歳出削減が重要である。知恵・努力無き民間の哀願に仕事を分与することは避けたい。

気掛りは、政府の経済運営の当たり前である。新政権は、「国民の皆さんが安心できる生活を一日も早く取り戻す」と当面コロナ対策注力を挙げた。そして経済運営はアベノミクス継続という。アベノミクスは、リフレ派(通貨供給量増・物価上昇・安定成長可能)の主張に沿っている。政府は、成果として為替安・資産価格上昇、デフレ脱却、雇用増加を強調する。加えて財政状況改善なら成功だったろう。

残念ながら日本経済は19年第4四半期(GDP前期比△1.8%)に行き詰った。国の債務は、192兆円増加(12~19年)し、財政収支の赤字幅改善も些少だった。プライマリーバランス20年達成の夢は消え、先送りになった。また日銀勘定合計が、国債保有額360兆円増等で440兆円増加した。日銀の膨張が、経済不安を増幅する。アベノミクスは、経済均衡概念が希薄で、成長軌道を描けず、失調(とりわけ財政不均衡)した。

今後の経済運営はどうなるか。現経済状況を出発点とし、総理は、「安心できる生活」を目指している。それは均衡のとれた安定的な経済であろう。需給均衡し、企業収益があり、一定の雇用が確保され、そして財政が均衡する姿である。そして些かの成長があれば望ましい。目標とする経済を実現する政策立案は、これからだが、容易でない。国民・企業・政府それぞれの努力と負担の意志が重要となる。理性と克己心の新経済政策の策定を期待したい。

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。

【マーケット情報/10月12日】原油反発、供給減少の観測台頭


【アーガスメディア=週間原油概況】

先週までの原油価格は、主要指標が軒並み反発。供給減少の観測が台頭し、買い意欲を強めた。

米国メキシコ湾岸では、ハリケーンDeltaの接近を受け、8日時点で洋上生産設備の92%が操業を停止。輸出港も一部閉鎖している。

また、ノルウェーでは労働ストライキにより、6か所の油田で生産が停止。さらに、アゼルバイジャンとアルメニアの軍事衝突で、周辺地域からの供給が滞るとの不安が強まっていたことも、価格を支えた。

一方、リビアでは複数の油田で生産再開が進んでおり、産油量は6日時点で、日量28万5,000~30万バレル程度にまで回復している。また、米国の週間在庫統計は増加を示したが、価格を引き下げる要因とはならなかった。

【10月12日現在の原油相場(原油価格($/bl))】 WTI先物(NYMEX)=40.60ドル(前週比3.55ドル高)、ブレント先物(ICE)=42.85ドル(前週比3.58ドル高)、オマーン先物(DME)=42.56ドル(前週比3.51ドル高)、ドバイ現物(Argus)=42.21ドル(前週比3.51ドル高)

【特集2まとめ】安定供給 あくなき挑戦


自然災害やコロナ禍といった異常事態が発生する中、
エネルギーの安定供給のために各社が奔走している。
火力発電所やLNG基地、熱供給設備など
大型インフラの運用や建設は今、どうなっているのか。
各社の取り組みを追った。

掲載ページはこちら

コロナ禍のエネルギー供給 困難乗り越え責務を果たす

【北海道ガス】都市ガス・火力・再エネの共存目指す エネミックスで果たす安定供給事情

【東京ガス】日立基地2号タンク建設が佳境 茨城幹線整備で関東ループ化へ

【中国電力】難しい運転と建設の両立 コロナ感染症対策を徹底

【JERA・川崎火力発電所】長期戦で非常事態に挑む バックアップ体制強化で供給維持

【国際石油開発帝石】サプライチェーンの中核施設 「見えない敵」から基地を守る

【Daigasガスアンドパワーソリューション】新型コロナ対策から得た知見 製造所のBCPに反映

【東邦ガス】伊勢湾岸エリアで一体運用 基地間の連携で効率運用を実現

【東京都市サービス】熱供給プラントで進む先進技術導入 遠隔監視・操作で設備運用の高度化

【特集1まとめ】通信・電力の共創と競争 浮かび上がる三者三様の戦略


2016年4月の電力小売り全面自由化から4年半がたち、
大手通信3社による事業展開の方向性が固まってきた。
最大手のNTTは再エネや蓄電池、直流給電などのインフラ事業。
KDDIは通信から金融まで幅広く手掛ける「au経済圏」への囲い込み。
ソフトバンクはスマホを基盤にした多様なサービスのプラットフォーム事業。
それは、まさに「三者三様」の電力進出戦略と言っていい。
大手電力をはじめとするエネルギー会社とはどんな関係を築くのか。
スマートレジリエンス、VPP(仮想発電所)、セット販売、スマホアプリ―。
業態の垣根を越えた提携と競争が本格化し、新たなビジネス時代が幕を開ける。

掲載ページはこちら

【アウトライン】電力のゲームチェンジャーなるか 通信大手3社の次の一手に迫る

【座談会】電力と通信の連携強化へ 「SRN」の狙いに迫る

【インタビュー/NTTアノードエナジー】毎年1000億円の設備投資 持続可能な街づくりに貢献

【インタビュー/KDDI】大手電力との連携土台に小売り拡大 エナリスのノウハウで競争力向上へ

【インタビュー/ソフトバンク】エネルギー分野で新たな価値創造 電力マーケットの拡大目指す

「上結東水力発電所」が運転開始 砂防ダムの機能生かし地下に建設


【関電工】

関電工は今年5月、再生可能エネルギー発電事業の一環として、新潟県中魚沼郡津南町に建設していた「上結東水力発電所」の運転を開始した。

自然豊かな上結東水力発電所

上結東水力発電所は、信濃川水系中津川中流に位置し、最大出力は990kW、年間発電量は約650万kW時となる。これは一般家庭1200世帯分の年間消費電力量に相当し、CO2削減量は約3000tになる見込みだ。

発電された電気は20年間、FITによって、東北電力に売電する。売電収入は、年間1億8000万円程度が見込まれる。

最大の特長は、1961年に国土交通省が建設した上結東砂防堰堤の有効落差を活用していることだ。同種の水力発電所としては、国内最大級の規模となる。

「既設の砂防ダムの左岸直近の地下岩盤内に、40mほどの立坑を掘って、流れ込み式の発電所を建設しました。設備のほとんどが地下にあるので、掘削時に砂防ダムに影響を与えないよう、制御発破工法を選ぶなど、細心の注意を払いました」と、戦略技術開発本部の野本健司常務執行役員戦略事業ユニット長は説明する。

発電所の運用は、基本的には無人の遠隔監視。問題が発生した時には即座に発電所を停止し、現地に駆け付ける体制も整えている。

砂防堰堤を最大限利用 地下設備で環境にも配慮

関電工は、2011年に基本設計を開始。企画・設計・現地調査を行うとともに、前田建設工業や電力中央研究所と共同で、さまざまな実験や検討を重ねてきた。また、発電所完成後の運営管理も担っている。

未利用だった、砂防ダム放水時の水流を発電に有効活用するのが本発電所の強みだ。

「発電所の放水路として、約60年前に行われた砂防ダム建設時の仮排水路を再利用しているので、減水区間も短くできました」(野本ユニット長)

通常、小水力発電の発電方式は、有効落差を取るために水路を引く「水路式発電方式」が多い。しかしこの発電方式だと、水量が減る減水区間が少なくとも1~2㎞は発生してしまう。その点、上結東水力発電所には、減水区間が120mしかなく、河川環境への影響は少なくなる上、景観にも優しい設計となっている。

関電工は今後も、技術ノウハウの蓄積を生かし、再エネを利用した開発を、地域の自然環境や社会環境に配慮しながら行い、エネルギー自給率の向上や地球温暖化対策に貢献していく。

【経済産業相 梶山弘志氏】立ち止まることなく 脱炭素化を実現していく


脱炭素社会には非効率石炭火力の廃止などが必要だが、進展を見せていなかった。実現のための検討開始を指示した梶山弘志経済産業相に、真意を聞いた。

梶山弘志(かじやま・ひろし) 1979年日本大学法学部卒、動力炉核燃料開発事業団(当時)入社。梶山静六衆議院議員秘書、会社経営などを経て2000年衆院初当選(当選7回)。国土交通副大臣、地方創生担当大臣などを歴任。19年から現職。

―7月に非効率な石炭火力のフェードアウト、再生可能エネルギーの主力電源化を目指していく上で、より実効性のある新たな仕組みを導入するための検討を開始すると表明されました。

発言はエネルギー業界に強いインパクトを与えています。これらは既に国のエネルギー政策になっていますが、なぜこのタイミングで発言されたのですか。

梶山 脱炭素社会の実現を目指すという世界的な大きな潮流を踏まえて、私は経済産業大臣に就任した時から日本のエネルギー構造の転換も含めて、この問題への対応を考えてきました。

非効率石炭火力のフェードアウト、再エネ主力電源化は既に第5次エネルギー基本計画に明記されています。そのうちフェードアウトは、既にエネルギー供給構造高度化法、省エネ法でしばりがあります。

しかし、これらだけでは、なかなか実現は難しかった。具体的に進める方策を考えなければ、2030年度のエネルギーミックス、また国の国際的な約束であるNDC(国別目標)は実現できません。ですから、より実効性を持って進めるために表明をしたわけです。

電力安定供給が大前提 経済性も極力重視

―非効率石炭火力は、福島第一原発事故後に全国の原発が停止していた中で安定供給に貢献し、今も電力供給の一角を占めています。また、多くが減価償却が進んでいることから、発電コストも比較的に安い。これらを廃止することで、安定供給に支障が出ること、また、電力会社の負担が重くなり、電力料金が上がることを懸念する声があります。

梶山 電力の安定供給は、物事を進める上で大前提です。電力供給での経済性も、日本企業が産業競争力を持つために非常に重要なことです。ですから、それらには十分に考慮します。しかし、だからといって立ち止まっていいのか、現状維持でいいのか、ということにはなりません。

やはり、将来のために前に進んでいかなければならず、そのために知恵を出し合っていかなければなりません。各電力会社の経営者の皆さんにも、地域の特性も考えながら、知恵を出し合っていただきたいとお願いしています。

ただ、非効率石炭火力のフェードアウトについては、エネルギー基本計画が策定された時に説明をしていますから、予見できなかったわけではありません。ですから、「急に言われても困る」ということではないと思います。大切なことは、今からしっかりと話し合いをしていくことです。「一歩も譲れない」ということではありません。しっかりと将来を考えて、関係者の皆さんと知恵を出し合いながら、進めていきたいと考えています。

―再エネのコストも今は比較的高い。すると、フェードアウト、再エネ主力電源化により、結果として電気料金が上がることもあり得ますか。

梶山 今から予断をもって申し上げることはできません。極力、経済性を考えながら進めていきます。一方、原子力規制委員会の安全審査に「合格」した原発は、しっかりと再稼働を進めていきます。すると、コストの安い電力を供給できる。そういったことも踏まえて、経済性も考慮しながらバランスの取れた電源の在り方を考えていきたいと思っています。

―将来、石炭火力全体が廃止になるのでは、あるいは再エネ優先で火力発電の稼働率が低くなるのではとの懸念があり、LNG火力も含め高効率の発電所へのリプレースの投資を躊躇する事業者も出そうです。

梶山 私が申し上げているのは、石炭火力の全廃ではありません。あくまでも非効率石炭火力をフェードアウトして、第5次エネルギー基本計画に明記されていることに実効性を持たせることです。また、CO2を排出する石炭火力は残りますが、それは今後、技術開発を進めていく中で、CCS(CO2回収・貯留)、CCUS(CO2回収・利用・貯留)などを実用化することにより、活用することも考えられます。

それらの研究のために産業技術総合研究所に「ゼロエミッション国際共同研究センター」を設けて、ノーベル化学賞を受賞された吉野彰先生にセンター長に就任していただいています。今、ここに世界の研究者が集まって、ゼロエミッションをテーマに研究を進めています。技術開発の見通しも踏まえて、将来の火力発電の活用を考えていきたいと思っています。

【特集1まとめ】戦略なき火力政策 行き過ぎた脱炭素の落とし穴


エネルギー政策の「脱炭素化」シフトで、火力事業が岐路に立たされている。
もっとも激しい逆風にさらされる石炭火力は、政府のエネルギー基本計画で掲げた
非効率設備のフェードアウトに向けて、規制的措置と誘導策の検討が始まった。
一方で、LNGや石油を燃料とする火力発電の議論は全く行われていない。
わが国は火力を将来的にどう位置づけ、どう事業を継続していくのか。
安全保障や経済性、有事対応の視点も含め「新国家火力戦略」の策定が待ったなしだ。

掲載ページはこちら

【アウトライン】再エネ拡大や発送電分離で課題鮮明に 新国家戦略を問う3火力の実像

【レポート】欧州「脱石炭」の最新事情 国内事情に基づく英独の政策

【座談会】「数合わせ」の議論から脱却を 火力の将来像をどう描くか

【インタビュー】電気料金高騰が招く産業疲弊 調達面の予見性向上にも意識を

【コラム/8月17日】混乱深めるコロナ対策


新井光雄/ジャーナリスト

屋上屋となる。それを承知でいいたいことあり、そんな感じで目下のコロナ混乱を眺めている。余りの迷走にどこにどんな問題が潜んでいるのか、一市民には到底、分からない。いろいろあるが、どうもまず司令塔がないことがあるのではないか。安倍首相の雲隠れだ。確か四十日以上、正式な記者会見を避けている。国会も閉会中でない。どこか変ではないか。野党が臨時国会を要求しているが、自民党、公明党の議員からも要求あってしかるべきだろう。党拘束があるのかもしれないが、こうした問題は賛否あって当然であり、議員の自由が認められるべきだ。

たとえば異常とも思えるPCR検査の少なさはどうだ。首相は日に三万の能力などと簡単にいうが能力を口先で言うことと実施することには大きな開きがある。諸外国と比較してみよう。恐ろしいほどの少なさである。しかし、その理由が判然としない。検査増・医療崩壊という図式が背景にあるというが、これでは隠れた罹患者が増えるだけでないのか。その能力がないと素直に認めるべきではないのか。

とにかく事実が分からないのだ。この分からなさのなかでマスク問題。笑いもので終わったアベノマスクと思っていたら第二弾があった。どうやら変更になったらしいが、当初は8000万枚が医療関係などに配布される計画。それも医療用ではないマスクらしい。加えてすでに随意契約済だったそうだ。これって一体なんだ。あるコメンテーターが愚作という厳しい言葉で批判したが、そういわざるを得ない。政府は正常に機能しているのか。マスクをしている閣僚の顔写真をテレビで放映していたが、アベノマスクをしていたのは安倍首相だけ。それが八月になって止めた。こうなると笑い話しに近い。言い過ぎを承知で恥をしれと言い。

旅行に行こう計画も同様だ。落ち着いてからが前倒しに。そして東京除外。こんなに迷走しては混乱するばかり。やはり司令塔の問題だ。付録で表面化した都知事と官房長官の確執など、みっともないこと限りない。

ここで集約して個人として最も分からない点はやはりPCRの検査の少なさ。あきれるばかりだが、合理的な説明がほとんどない。出来ないのか、やらないのか、やれるがやらないのか、やる気がないのか、はっきりして欲しい。こんな分からない状況に置かれたままは御免だ。真実に直面したい。出来ないなら結構ではないが、それが前提になる。かかりつけの医者は自分に出来ることはないので、「ご自分で対策を」という。これもう一種の医療崩壊ではないか。

【プロフィール】 元読売新聞・編集委員。 エネルギー問題を専門的に担当。 現在、地球産業文化研究所・理事 日本エネルギー経済研究所・特別研究員、総合資源エネルギー調査会・臨時委員、原子力委員会・専門委員などを務めた。 著書に「エネルギーが危ない」(中央公論新社)など。 東大文卒。栃木県日光市生まれ。

米国で第一次オイルショックを体験 国家エネルギー安保の重要性学ぶ


【リレーコラム】堀井彰三/CG&ミネラルズ代表

1964年、東京オリンピックの年に石油の出光興産に入社した。今日まで56年間、石油・地熱・ウラン・石炭・バイオマスの資源開発と供給を通して愚直にわが国のエネルギー安定供給の仕事に没頭してきた。

73年10月、第一次オイルショックが勃発した。当時、ロサンゼルスに駐在し、GULFとARCOの給油所の運営責任者だった。ガソリンの強制割り当てで出光の給油所には早朝から車が行列した。原油はバレル当たり1ドルから4ドルへ、ガソリンはガロン28セントから40セント以上へ跳ね上がった。

驚くべきことにニクソン大統領は、オイルショック到来の1年前に「エネルギー・インディペンデンス・プログラム」を準備していた。米国の情報収集力のすごさを思い知った。

米国の独立系の石油開発会社は7000社ほどある。ニクソンのエネルギー自立戦略に触発されて燃えた若き企業家たちが、シェールガス・オイルの開発に果敢に挑戦。苦節40年、その飽くなき執念は21世紀に入って「シェール革命」として結実し、米国は世界一の産油国となった。オイルショックを現地で体験し、米国の国家安全保障を重視した軸のぶれないエネルギー戦略を学んだことは実に貴重な体験だった。

日本は森林と地熱の資源大国

出光は77年、石油代替エネルギー(石炭・ウラン・地熱)の事業化に乗り出した。最初の9年間、地熱とウランを担当し、85年からライフワークとなった石炭を担当した。88年から94年まで6年間、豪州クイーンズランド州のブリスベンに家族と共に生活した。出光所有の露天掘り鉱山2カ所を豪州人スタッフ、ワーカーと一緒に苦労しながら開発できたのは一生の思い出である。

露天掘り炭鉱開発は広大な森林伐採を伴う。目の前でユーカリの森林が消滅することを現場で体験し大きなショックを受けた。

99年、通商産業省(当時)に「エンシャム炭鉱跡地におけるユーカリ環境植林プロジェクト」を企画・提案した。2000年に23 haの土地に数十㎝の小さなユーカリの苗木を1万3500本植え、今や立派な森林に成長した。時々グーグルアースの画像を眺めては楽しんでいる。

国内の地熱開発と豪州の出光炭鉱における環境植林の体験から、植林の重要性を学んだ。

国土の3分の2を占める豊かな森林資源と世界第3位の賦存量を誇る地熱資源を発電と熱源として利用することで、「エネルギー自立のまちづくり」が全国的に進むことを夢見る昨今である。

ほりい・しょうぞう 1964年神戸大学経済学部卒、出光興産入社。米国イデミツ・アポロ・コーポレーション副社長、豪州エベネザ炭鉱現地法人社長、本社研究開発部などを経て2014年4月から現職。

次回は日本メタル経済研究所理事長の川口幸男さんです。

【特集2まとめ】安定供給へ「分散型」の挑戦 災禍の荒波を克服できるか


コロナ禍によって社会システムが混乱する中、
有事に強い分散型エネルギーへの関心がひときわ高まっている。
スマートエネルギーネットワークによる遠隔制御システムの構築やコージェネレーションを導入した需要側でのBCP対策など最先端の取り組みがエネルギーの安定供給を後押しする。
災禍の荒波に立ち向かう分散型事業者の動向を追った。

掲載ページはこちら

【レポート/東京ガス・東邦ガス】BCPで「分散型」の強みを発揮 非常時に生きるスマートシティ

【西部ガス】安定供給を守る感染防止策 複合災害にも備えを

【北海道ガス】大地震で強靭性を証明した熱供給 コロナ対策では運用を分散化

【岩谷産業】新型コロナで巣ごもり需要増加 思わぬ商品にスポット当たる

【伊藤忠エネクス】多方面から取り組みを実施 供給を維持する体制を構築へ

【大阪ガス】エネファームのVPP実証開始 来年創設の需給調整市場を見据える

【広島ガス】改造終えたLNG基地 遠隔システムで安定供給に貢献

【TGES・宮崎ガス】宮崎市の基幹病院にエネサービス導入 コージェネを核に防災対策を充実

【静岡ガス】都市ガス部材をコロナ対策に活用 部署を超えた支援プロジェクト

【IHIアグリテック】室内をまるごとオゾンで除菌 社会経済活動を守る空気清浄機

【インタビュー/TNクロス】電力と通信のノウハウを融合 自治体と連携した防災対策

【特集1まとめ】コロナ禍の破壊と創造 変貌するエネルギービジネス


いったんは収束しかけた新型コロナウイルス禍が再燃しつつある。
7月中旬以降、国や自治体は移動制限・活動自粛へかじを戻し始めた。
コロナ禍によるエネルギービジネスへの影響はどうか。
資源価格低迷や供給過剰、大口需要減少といったマイナス要素の一方、
働き方・生活様式の転換に伴う新たな需要の創出が顕在化。
脱炭素、デジタル、BCPといった社会的要請も加わり、
エネルギー事業にパラダイムシフトの波が押し寄せる。
今冬にかけて第一波を上回る第二波の到来が現実味を帯びる中、
コロナショックがもたらす破壊と創造を検証する。

掲載ページはこちら

【アウトライン】コロナ禍に見舞われた資源市場の実情 石油・ガス・石炭で影響に格差

【レポート】需給両面を襲うコロナ禍の「劇薬」エネ事業進化の推進力にできるか

【座談会】ウィズコロナでどう変わるか 新たな時代のエネルギー社会とは

【レポート】露呈した「逆石油ショック」を読み解く 需要途絶リスクに対応する新ビジネス

【コラム/8月3日】第6次エネルギー基本計画に向けて動き始めた経産省


福島伸享/前衆議院議員

7月3日梶山経産相の「脱炭素社会の実現を目指すために、非効率な石炭火力のフェードアウトや再エネの主力電源化を目指していく上で、より実効性のある新たな仕組みを導入すべく、検討を開始し、とりまとめるよう、事務方に指示した」という会見での発言が、さまざまな波紋を呼んでいる。

再エネ推進派の中からは、「非効率な」旧式のものに限定されていて「石炭火力ゼロ」を目指さない事実上の温存策であるとの批判もある。しかし、全発電量の1/3を非効率石炭火力が占める沖縄電力など、電力会社によっては収益構造の大きな転換をもたらすものであるから、大きな一歩であると言える。JERAや関電と比べて地方の電力会社は非効率な石炭火力に頼る割合が高いから、電力会社の再編の起爆剤になる可能性もある。

非効率石炭火力のフェードアウトと並行して、再エネ主力電源化に向けて、分散型電源の導入加速化策や将来の電源ポテンシャルを踏まえた全国大の系統整備の在り方の検討も行われることとなった。これらも、電力システム改革後の新しい電力供給体制の実現に伴うものであり、既存の業界構造にそれなりのインパクトを与えるものとなることであろう。

梶山経産相は、7月14日の幹部人事の発表をする記者会見で、他の政策分野に先駆けて一丁目一番地として「エネルギー政策を思い切った脱炭素に転換してまいります。このために、エネルギー政策、産業技術環境政策の経験の長い保坂貿易経済協力局長を資源エネルギー庁長官に登用します」と発言していることからも、ポスト安倍政権を睨んで経済産業省はかなり本気であると言える。

前回の本コラムで書いたとおり、官邸主導の極みの安倍政権ではエネルギー政策はあまり進展せず、むしろエネルギー政策の転換は政権交代時のドサクサなど政治が大きく関わらない時期に行われてきた。旧動燃出身の梶山経産相は、エネルギー政策に一定の知見はあるとはいえ、強い政治的意思をもって政策を転換するようなタイプの政治家ではない。これらの一連の梶山経産相の発言は、安藤次官率いる経産省の事務方が綿密に振り付けたものとみて差し支えないだろう。

「官邸官僚」を送って安倍政権を中核となって支えてきた経産省への世の中の風当たりは、政権の新型コロナウイルス対策の迷走とともに強くなっている。安倍政権の終焉ととともに、「経産省解体」論も出かねない状況である。そうした中で、来年の第6次エネルギー基本計画の策定に向けて、どれだけ本質的な政策議論を展開され、小手先ではない大胆な具体策が提示されるのか、その行く末を期待して見守りたい。

【プロフィール】東京大学農学部卒。通商産業省(現経産省)入省。調査統計、橋本内閣での行政改革、電力・ガス・原子力政策、バイオ産業政策などに携わり、小泉内閣の内閣官房で構造改革特区の実現を果たす。2009年衆議院議員初当選。東日本大震災からの地元の復旧・復興に奔走。