【コラム/4月12日】福島事故の真相探索 第1話


石川迪夫

 第1話  突起状堆積物の正体

2023年4月、東京電力は福島第一発電所1号機の格納容器内部の撮影に成功し、写真を公開した。その状況はマスコミ各社から報道されたが、掲載写真が不鮮明でかつ説明内容が舌足らずであったため、その実体は理解できなかった。同じ思いの読者も多かったであろう。

そこで、東京電力に依頼して映像の説明をお願いするとともに、撮影を実施した国際廃炉研究開発機構(IRID)社に出向いて、撮影の状況や苦労話をお聞きした。両社のご協力によって、映像の実体がほぼ理解できるとともに、過去の原子力事故には現れなかった、珍しい災害状況を知ることができた。本稿では、これら写真の説明と合わせて、新しく分かった事実について述べる。

思いがけなかった写真

今回発表された写真は、1号機の格納容器ペデスタル内部の写真が主体である。その多くは、既に発表された映像と類似のものが多いが、今回は思いがけない写真も少なくない。その説明に入る前に、ペデスタルという聞き慣れない用語の説明をしておく。(図参照

ペデスタルとは原子炉圧力容器を支える基礎の名称である。内径5m、幅1.5mの円筒形をした鉄筋コンクリートづくりの壁で、中に分厚い円筒形の鉄板が入っている。ペデスタルは圧力容器の真下にある円筒形の部屋と考えてもよく、ペデスタルの床から圧力容器の底までの高さは約8.5mである。

ペデスタルの天井は圧力容器の底である。底からは、100本の制御棒駆動機構とそのハウジング(覆い)が、整然とぶら下げて取り付けられている。従って、ペデスタルの壁の中間には制御棒駆動機構の交換のための開口部が、床には人の通る出入り口が設けられている。

ペデスタルの外側は、ご存知の耐圧密閉の格納容器である。ペデスタルと格納容器の間は、原子炉に冷却水を送る再循環ポンプ室となっていて、大きなポンプを中心に配管や測定機器などが設置されている。

以上を簡単にまとめれば、BWRの格納容器は、原子炉直下のペデスタルの空間と、その外側にある再循環ポンプ室に分かれた、二重構造づくりである。従ってペデスタル内部を撮影するには、カメラ・ロボットを格納容器の外側に用意された入口から装入し、水中を遊泳させてペデスタルの出入り口を通過させ、床上の所定位置に到着させた後にピントを目標に合わせて撮影するのだから、大変な仕事だ。撮影に適した位置にロボットを誘導することが写真の出来不出来を左右するから、操作の練度と熟達が撮影の成否を分ける。

今回見せてもらった写真は非常に鮮明で、マスコミに掲載された不鮮明な写真とは、天地雲泥の違いがあった。なぜだろうか。

図:原子炉圧力容器・格納容器の概念図  (提供:東京電力ホールディングス)

本稿に掲載した写真は、炉心溶融に伴って起きた破損状況の写真が中心である。難点を言えば、遊泳ロボットが持つ照明能力に限りがあるために、狙った焦点の周辺は鮮明だが、焦点から少し外れると映像は薄くぼけ、遠い部分は真っ黒になっていることだ。

今回発表された内部写真の中で、目を引いた写真が3点あった。それは、

①ペデスタル外側の機械や壁に付着している突起状堆積物の写真(堆積物写真A

②原子炉を支えるペデスタル壁が全周にわたって損傷し、鉄筋が露出した空洞が出現したペデスタル壁の破損写真(空洞写真)。

③制御棒駆動機構が形体を崩さずに集団で落下したとみられる写真(落下写真)

である。

この写真3点は、福島事故で始めて起きた災害光景の、びっくり写真である。世界最初のびっくり痕跡であるから、その発生原因や理由については、十分な調査と検討の上、発表してほしいと思う。

これから、写真の紹介と説明に入るが、写真の発表者は東京電力であり、撮影者はIRIDであることを付記しておく。なお、②と③は第3話に述べる。

奇妙な姿の堆積物

まず、写真Aをご覧いただきたい。 ペデスタル出入り口の外側に出現した突起状物である。格納容器の内部には、このような堆積物が数多くあって、壁や機械類に付着しているという。その中で最も奇妙なのが、突起状堆積物と名付けられた、写真Aの堆積物である。

写真A 突起状堆積物 提供:IRID

突起状堆積物は、まるで生えているかのように、壁から水平に突起している。突起は酸化物で出来たと思われる多層の構造体で、層の中には多数の小穴が点在する、軽くて脆いものらしい。層は、写真にあるように、洋菓子のように着色していて、突起状堆積物の場合は、最上層が白色、真ん中は分厚い灰色で、下層は黄色い層が所々に付着している。厚みは、層全体で数cmもあろうか。

腰掛けきのこを連想させるこのような棚状の堆積物は、格納容器の中には随所で見られるという。堆積物の分析はまだ行われていないので、何者であるのかは今の所不明だ。

分析前の不確かな憶測で恐縮だが、棚状堆積物の出自は、セメントが持つ化学物質や格納容器内の機器を覆う保温材などが、高温の熱で溶たり分解して灰汁と化し、格納容器床に溜まった水の中で化学反応を起こして出来たと考えているが、確かな話ではない。

廃炉経験者としての忠告

これらの堆積物は、格納容器の廃炉工事が始まれば、真っ先に処理処分されるものである。廃炉経験者としての注意を述べておくと、堆積物は放射性物質の多い格納容器の中心部において、水が関与して誕生したと考えられる物体であるから、その内部には有害な放射能を雑多に含んでいると思われる。

写真Aに見られるように、突起状堆積物に穴が沢山みられるのは、生成の途中に多量の水素ガスが突起物に滞在した痕跡と思われる。後述するように、水素ガスは炉心溶融を引き起こしたジルカロイ燃焼により発生するガスであるから、溶融炉心が持つ、天然に存在しないアクチニド元素を含んだ放射能で強く汚染されたに相違ない。再処理工場と同じように、人体に対して強い毒性を持つ汚染物と考えてよい。

格納容器内での廃炉工事は、使い勝手の悪い放射線防護服や装備の過重な着装をできるだけ避けて、可能な限り軽装で素早い作業を実施できることが望ましい。これまでに出会った、厳しい放射線下での作業経験者たちは、上記の方針での作業が被曝線量を少なくすると、一様に話していた。それ故に、経験の少ない堆積物の取り出しに際しては、その毒性や汚染状況を作業の前に十分に調査して、作業が素早く行えるよう準備してほしいと願っている。

いしかわ・みちお 東京大学工学部卒。1957年日本原子力研究所(当時)入所。北海道大学教授、日本原子力技術協会(当時)理事長・最高顧問などを歴任。

福島事故の真相探索~はじめに~

【コラム/4月5日】福島事故の真相探索~はじめに~


石川迪夫

連載に当たって――格納容器内部写真からの随想推理

福島第一原子力発電所の事故から13年が経った。米国のスリーマイルアイランド(TMI)事故を含めて、これまで4基の軽水炉が炉心溶融に加えて水素爆発を起こしている。これらの共通点は、原子炉の水が少なくなり、高温となった炉心を冷却する目的で入れた水が炉心に達した直後に、炉心溶融と水素爆発(福島第一2号機は水素ガスの大量放出)が起きていることである。

 僕はこの点に着目した。原子炉材料の中で、水と反応して大量の水素を発生させ得るものは、燃料棒の被覆管ジルカロイ(ジルコニウム合金)が高温になった時だけで、高温の燃料棒に冷却水が降りそそげば、表面にできた酸化膜が破れて、高温のジルカロイが水と接触してジルカロイと水との化学反応が起き、水素ガスの発生と大きな発熱を生じる。このことは、1978年に米国の中間基準として作製された、大口径破断冷却材喪失事故に対する安全基準にも述べられている。本稿では、この現象を「ジルカロイ燃焼」と仮に呼ぶこととする。

東京電力が2012年に発表した「福島原子力事故調査報告書」に基づいて、福島事故の経緯を分析すると、事故に到った3基の原子炉は、いずれも冷却水が炉心に達した時刻ごろにジルカロイ燃焼が起きて、爆発している。この状況はTMI事故にもピッタリと当てはまる。

拙著『考証福島原子力事故:炉心溶融・水素爆発はどう起こったか』(電気新聞刊)は、各炉の事故経緯に基づいて、事故の進展理由を説明した書である。最悪の事故と言われる炉心溶融だけでなく、安全審査でも議論されない水素爆発を引き起こす事故を、これ以上起こしてはならないと考えての発表だった。その反響は大きかった。

しかし、事故の原因であるジルカロイと水の反応については、原子力関係者の中でもあまり知られていないこともあって、半信半疑の理解にとどまっている。拙著の発行当時は、主張を証明する証拠は、大量の水素発生以外に何もなかったことによる。

写真が新たに伝えたこと

昨年4月、東京電力が発表した福島第一発電所1号機の格納容器内部の写真は、この状況を覆し、事故究明の材料となる痕跡を数多く提供している。中でも、僕の目を引いた写真が3葉あった。その一つに、原子炉を真下から支えるコンクリートの壁(ペデスタル)全面にわたって、床上高さ1~2mほど、奥行き深さ50㎝程が空洞化して、中にあったはずのコンクリートの砂利がどこかへ失せて、鉄筋のみが残るという、前代未聞の壊れ方を写した写真がある。

原子炉の炉心から、高さにして15ⅿくらい下にあるペデスタルの床の壁が、なぜ炉心溶融によって空洞をつくったのか、この謎解きが本稿の主題である。コンクリートの専門家は、コンクリートは1200℃以上の高温の熱によって結合力を失い、砂利に戻るという。

とすれば、炉心溶融の発熱は原子炉の中で起きたのではなく、ペデスタル床上で起きた事になる。それが可能となるには、炉心冷却の注水がペデスタル床に溜まり、そこに高温の燃料棒が落下して、ジルカロイ燃焼が起きたと考える外にない。ジルカロイ・水反応は水中発熱であるから、壁全面わたってほぼ同一の空洞が出来たことも合点がいく。1号機の格納容器内部撮影写真は、約10年前に拙著で述べた、ペデスタル床上でのジルカロイ燃焼の存在を証明している。

真相を知る資料を基に解説

このホームページの連載で紹介する撮影写真は、上述のように、原子力事故の真相を伝える資料であるから、第1話は、僕の目を引いた写真3葉の紹介をできる限り正確に紹介する。未説明の2葉の写真は、格納容器に付着した奇妙な突起状堆積物と、制御棒駆動機構の覆いであるハウジングが3本、形状を崩さないで落下していると見られる写真である。

第2話では、その映像の成り立ちと事故との関連について説明する。説明の大方は、ジルカロイ燃焼による事故状況の説明であるので、第3話、第4話ではジルカロイ燃焼を起こす原因といえるジルカロイ・水反応と、反応によって被覆管表面につくられる酸化ジルコニウムの皮膜の特性について詳しく説明する。

さらには、燃料の被覆管として世界でジルカロイが使われている理由について述べ、簡単な計算も交えて事故との関連を具体的に説明する。ジルカロイ燃焼の激しさ、発熱の大きさ、水素ガスの発生量などについて、事故の実例を基に、驚きの実体を説明する。先ほど述べた、空洞が出た理由についても説明する。

第5話は、ジルカロイ燃焼の防止方法の説明である。防止対策があるから、僕はジルカロイを最高の燃料被覆管材料だと今でも思っている。この防止策が、既に福島事故で実証されていた、また防止対策には二通りの方法があると言えば、読者は僕の頭脳を疑われるであろう。 だが、僕は正気だ。この話はホームページ第7話までお預けとする。

最終の第8話は、今回の写真分析を通じて僕の頭に浮かんだ随想推理である。随想推理と名付けたのは、基となる写真が実体をどれだけ正確に現しているかが誰にも分からないためで、不確かなものを基に行った推理考証であるためであるが、決して非科学的な書き物ではない。ここでは、1号機炉心溶融の主因であるジルカロイ燃焼が、格納容器の中で大嵐を吹かせたこと、原子力関係者の多くが信じて疑わない、熔融炉心は流れ落ちるとの一般常識が間違いであることの理由を述べ、最後になぜ原子力という科学でこのような間違いが信じられるようになったのかを、僕の原子力での経験を基に反省を述べる。

いしかわ・みちお 東京大学工学部卒。1957年日本原子力研究所(当時)入所。北海道大学教授、日本原子力技術協会(当時)理事長・最高顧問などを歴任。

【特集2まとめ】分散型制御でVPP新時代へ 進化する東京ガスソリューション


コージェネレーション、再生可能エネルギー、GHPなど
需要家側に設置されたエネルギー関連設備―。
多様な分散型エネルギーリソースを統合制御することで、
VPP(仮想発電所)として運用する取り組みが始まっている。
東京ガス法人営業部門が新たなソリューションとして
顧客への提案活動に力を入れている。
ユーザーにはどんなメリットをもたらすのか。
進化するソリューションビジネスの最前線を追った。

【アウトライン】VPP推進で社会貢献果たす 電力供給の安定化に寄与

【インタビュー】VPP推進に高い意義 多様な設備管理で強み発揮

【レポート】丁寧な説明でリソース獲得 最適運用でメリット生み出す

【レポート】普及拡大のEVをリソースに 集合住宅に充電インフラを整備

【レポート】見える化で効率的に設備を運用 汎用性高く手頃な導入コスト

【特集1まとめ】漂浪する自由化 電力システム改革を独自検証


2015年度から3段階で進められてきた電力システム改革。
その検証作業が、資源エネルギー庁の有識者会議でスタートした。
改革の狙いは、市場化を軸に競争原理を導入することで電気事業全体の効率化を図り、
安定供給の確保、電気料金の抑制、需要家の選択肢拡大を目指すことにあった。
だが原発の稼働停止が長期化する中、再生可能エネルギーの大量導入によって、
供給網の不安定化が加速したほか、ウクライナ戦争に端を発する燃料価格の高騰が
料金の大幅上昇という形で需要家を直撃するなど、現実は理想にはほど遠い。
もはや、パッチワークの制度措置では抜本的な解決策は望めない。
「漂浪する自由化」の漂着地は一体どこにあるのか―。
有識者や業界関係者への取材を通じて、本誌が独自検証した。

【アウトライン】目的達成にほど遠い電力改革 期待と不安が交錯する検証議論

【座談会】経産省の検証作業を一刀両断 不可欠な需要家目線の議論

【インタビュー】現行制度で多様な問題点の指摘 整合的な制度設計がポイントに

【レポート】先行する欧米でいまだ続く試行錯誤 海外事例に見る日本への示唆

【特集2まとめ】水素ビジネスの隆盛 官民連携を軸に利用拡大へ


2024年に入り、水素利用に向けて官民が動き始めた。
政府は2月、「水素社会推進法」を閣議決定した。
利用促進を図るために、企業に財政支援を行うほか、
設備建設の助成金交付、天然ガスとの販売額の値差支援、
保安に関わる法律の改正などが盛り込まれている。
水素関連ビジネスに携わる企業の動きも活発だ。
サプライチェーン構築などインフラ整備を進めると同時に、
利用のための製品・設備の開発が進んでいる。

【アウトライン】水素社会推進法案が閣議決定 実効的な国家戦略の第一歩

【レポート】水素・アンモニア商業化の課題 供給インフラ巨大化に対応を

【レポート】水素社会実現のフロントランナー 山梨モデルの「現在地」は

【レポート】豊富な再エネ資源をフル活用 「水素タウン」への変貌進む 

【インタビュー】水素産業を生み出す東京都戦略 大型補助金で需要・供給を支援

【レポート】「水素世界チェーン」の構築へ 大量利用に向けて本格準備

【レポート】地域原料によるe―メタン製造 経済性と環境価値提供を目指す

【レポート】産業分野の脱炭素ニーズに応える 特殊なバーナーを実用化

【レポート】製造業で高まる水素利用のニーズ バーナー製品のラインアップ拡充

【インタビュー】コストとインフラが足かせに 国は普及にリーダーシップを

【インタビュー】日豪連携で水素開発に注力 次世代もエネ輸出大国目指す

【トピックス】純水素型燃料電池を欧州に展開 グリーン水素の切り札を目指す

【トピックス】エネルギーインフラの先を見越した開発 水素高速充てんに技術力を発揮

【トピックス】水素製造での実績に高い評価 製造・鉄鋼業に設備導入

【特集1まとめ】BWR復活前夜 長期停止の要因・影響・行方


2011年3月の福島第一原子力発電所事故から今年で13年を迎える。
60Hz地域にあるPWR(加圧水型原子炉)が順調な稼働を続ける一方、
BWR(沸騰水型原子炉)はいまだ長期停止を余儀なくされているが、
ここにきてようやく3地点の再稼働が実現する可能性が高まってきた。
東北電力女川2号機、中国電力島根2号機、そして東京電力柏崎刈羽6、7号機。
残る4地点の再稼働に向けた対策工事や安全審査の状況はどうなっているのか、
BWRを巡る情勢を総点検しつつ、長期停止の要因や影響、今後の行方を探った。

【アウトライン】BWR7地点の「現在地」 稼働ゼロにようやく終止符へ

【インタビュー】「地震・津波」審査長期化の真相 元規制庁管理官が語る改善策とは

【レポート】設備上の要因で複数基同時申請できず BWR再稼働が大幅に遅れたワケ

【レポート】人材・技術の継承が重要課題に 原子力長期停止の影響を探る

【座談会】原子力事業の在り方を徹底討論 次期エネ基でGX関連法の反映を!

【特集2まとめ】高度化する家庭用エネルギー 快適性と省エネの両立へ


家庭部門のCO2排出量を削減するためには省エネを進めるのが近道だ。
一口に省エネと言っても、新製品への買い替えや省エネ設備の導入など
ハード面の更新と、温度・湿度などのデータを収集し解析する
エネルギーマネジメントやDRといったソフト面の対応など多岐にわたる。
大切なのは生活する上での快適性を失わずに進めることだ。
ハードとソフトの両面から家庭用省エネの最新動向を追った。

【アウトライン】省エネ強化へ「三本柱」推進 非化石転換とDRも同時に実行

【レポート】太陽光発電の「地産地消」進める 家庭向けアセットサービス始動

【レポート】電気・リース料金をパッケージ化 「電化のサブスク」を家庭に提案

【レポート】エネファームを戦略商材に デジタル化推進で最適提案

【レポート】節約応援プランで料金低減 アンペア見直しニーズに対応

【レポート】冬期の節電プログラムを開催 独自の特典など創意工夫

【レポート】「コト売り」で付加価値を希求 省エネと快適性の両立を実現

【レポート】二つの新モデルがラインアップ 省エネと豊かな生活を実現

【レポート】エコキュート&エネファームが進化 脱炭素促すエネルギー有効利用

【レポート】買い替えるだけで省エネ 家電の性能向上を制度が支援

【インタビュー】スマメ普及で一変する家庭用 サービス内容の進化に期待

【レポート】スマートリモコンで電力使用を最適化 家庭用エネマネで脱炭素社会目指す

【レポート】電事法改正で用途が拡大 広がるスマメデータの利活用

【トピックス】初のアウトドア用COアラーム開発 家庭用ガス警報器の知見を生かす

【特集1まとめ】電力同時市場とはなんだ!? 同床異夢の制度議論を徹底解説


電力の需給ひっ迫や市場価格の高騰、調整力不足―。
現行の電力システム下で顕在化してきた課題を解決する手段として、
電力量(kW時)と調整力(⊿kW)を同時約定する市場の創設が現実味を帯びてきた。
制度に対する関係者の理解度に差がある上、さまざまな思惑が交錯しているのが実情。
同時市場とは何か。果たして目指すべき新たな電力システムの姿を実現できるのか。
官・学・民のキーパーソンへの取材を通じて、その実現性と実効性を探った。

【アウトライン】kW時と⊿kWの効率的な確保へ 検討進む同時市場の仕組みと課題

【インタビュー】改革によって何を目指すのか 関係者のコンセンサス必要

【インタビュー】同時市場への移行は不可避 改革の実効性を高める議論を

【レポート】議論で踏まえるべき三つの事実 志向すべき日本型の電力市場とは

座談会】大幅な制度変更に弊害はあるか 電力システムの最適化を

【特集2】地球沸騰化で普及が加速 創意工夫で利用を拡大


再生可能エネルギーが温暖化防止の主力とされる中、企業の取り組みへの期待が増している。
各社はハード・ソフトの両面で取り組みを強化し、普及を加速させようとしている。

地球は〝沸騰化〟の時代に入った。国連のグテーレス事務総長は2023年夏の世界規模の異常な猛暑をこう評した。温暖化はもはや人類の将来に影響を与えかねない。政府は解決策として、再生可能エネルギーを主力電源と位置付け、50年のカーボンニュートラル(CN)を目指して再エネの普及をより加速させる。

日本経済を支える民間企業の取り組みはどうか。温暖化対策への企業の対応を見る一般市民の目が厳しくなる中、行政にまさる勢いで再エネの拡大に乗り出している会社が多くある。

飲料メーカー大手のキリンホールディングス。40年にグループ全体の使用電力を100%再エネ電力にすることを目指す同社の選択は、PPA(電力購入契約)による太陽光電力の調達だ。傘下企業の工場へのメガソーラー設置を急ピッチで進めている。

流通大手イオンも、イオンモールでの使用電力「40年100%再エネ」を目標に掲げる。その達成に向けて考えたのが、自己託送方式のオフサイトコーポレートPPA。「イオンモールまちの発電所」として日本の各地に1390カ所の発電所を持ち、全国約50カ所のイオンモールに電力を供給。再エネの「自給率」は23年に10%に達している。

また、イオンはⅤ2H(ビークル・トウ・ホーム)を進化させた「V2AEON MALL」サービスも始めた。家庭で発電した余剰電力をEV(電気自動車)からイオンモールに放電すると、ポイントを提供するというものだ。既に全国で1000基程度のEV充電器を設置している。

排出CO2を算定 再エネ100%で好業績

普及に力を入れているのは大企業ばかりではない。横浜市の印刷業、大川印刷。この会社のキャッチコピーは「環境印刷で刷ろうぜ」。印刷業で年間に使用する電気・ガスと車両燃料で排出されるCO2を算定し、スコープ1(自社での燃料使用や工業プロセスによる直接的な排出)はJ―クレジットの活用でオフセットする。

スコープ2(購入したエネルギーの使用に伴う間接的な排出)はPPAモデルで自家発電20%、残り80%は青森県横浜町の風力発電の電力を購入。これらにより19年に「再エネ100%印刷工場」を実現している。

環境フレンドリーな企業理念は、業績の向上をもたらした。大川印刷の19年度の売上は前年度比で8%アップ。増額分のほとんどがSDGs(持続可能な開発目標)に関心のある顧客だったという。

再エネの運転・管理で既に実績やノウハウがあるエネルギー企業には、普及拡大に以前に増してプレッシャーがかかっている。各社はIoTの活用や他組織とのコラボなど、さまざまな取り組みを加速させている。

東京ガスエンジニアリングソリューションズ(TGES)は、東京センチュリー、京セラコミュニケーションシステムと共に、AIを活用した再エネの発電効率向上を行っている。

AI活用などで効率向上を図る

太陽光発電では、同じサイトにあるパネルでも発電量がわずかに異なることがある。AIは運用状況のデータを基に、微妙な差を検知。調べてみると、雑草の生え具合によって影の生じ方が異なり、発電効率に影響を与えていた。早速、除草シートなどで対応。発電ロスの低減につなげている。

テス・エンジニアリングは、三菱地所とバーチャルPPA契約を締結した。三菱地所の関連施設の屋根上に太陽光発電システム(1400kW)を設置。エネルギーサービスで培った需給管理機能を活用し、発電した電気を市場価格連動買い取り(FIP) 制度を用いて卸電力市場などに売電する。

同時に、売電した電気に紐づく環境価値を「非固定価格買い取り(FIT) 非化石証書」として三菱地所に提供。ウィンウィンの関係を築いている。

また、消費者サイドとのコラボを図る企業もある。伊藤忠エネクスは北海道の生活協同組合、コープさっぽろと電力小売会社のトドック電力を設立した。環境意識が高いといわれる生協の組合員に対して、再エネ100%の電気を販売している。

電源は道内の木材チップを燃料にする江別市のバイオマス専焼火力。さらに非化石証書を購入することで、再エネ100%の提供を実現した。

各企業の普及策は、まだまだ「深化」を続けるだろう。その取り組みがCN実現に大きく貢献することは間違いなさそうだ。

【特集2まとめ】深化する再エネ戦略 太陽光・風力利用の新たな展開


FIT制度の後押しを受けて導入が加速した再生可能エネルギー。
温暖化を超えて地球が「沸騰化」の時代を迎えつつある中、
既存の制度に依存しない太陽光、風力などの大量導入が始まろうとしている。
PPAやデジタル化運用、さらに蓄電池を駆使した事業モデル―。
ハード・ソフト両面での取り組みが、着実に普及を進展させる。
確実に深化する企業のさまざまな再エネ戦略を追った。

【アウトライン】地球沸騰化で普及が加速 創意工夫で利用を拡大

【トピックス】豪雪地帯でも再エネを拡大へ 垂直・傾斜設置の太陽光設備が登場

【レポート】大規模補助金で再エネ支援 自らも設備導入を加速

【インタビュー】全国に1390カ所の発電所 再エネ自給率100%を目指す

【レポート】30年目標に向けて再エネを導入 国内外で500万kW構築目指す

【レポート】太陽光発電の戦略を深掘り グローバル企業の脱炭素化を支援

【レポート】北海道内の再エネ普及へ インフラを担い社会貢献

【レポート】創業来のエンジニアリング力発揮 太陽光発電事業でフル活用

【トピックス】製造から販売まで一気通貫 蓄電池の力で再エネ普及を推進

【特集1まとめ】アウトルック2024 「甲辰」の政策・ビジネス大予想


「GX推進法」の制定や福島処理水の海洋放出の実現など、
2023年は原子力を巡る長期停滞の壁が打ち破られた年だった。
燃料費上昇に伴う業績悪化や数々の不祥事にも一区切りが付いた。
業界にとって24年の目玉は、国のエネルギー基本計画の見直しだ。
このほか、GX経済移行債の発行・活用、エネルギー価格補助の廃止、
容量市場拠出金の開始、東京電力の総合特別事業計画見直しなど、
国内のエネルギー業界だけでも、重要なイベントが目白押しだ。
GXやDX、エネルギー資源などを巡る世界的な動きも気になる。
「成功の芽が成長し姿を整える」とされる24年の干支。どうなる業界!?

【新春特別座談会】分断進む中で問われる政策見直し 第7次エネ基議論を徹底予想 変数拡大で難易度が上昇へ

【エネルギー初夢NEWS5選】2024年の業界で話題になりそうな「夢物語」を厳選

【新春対談】イノベーションの芽をどう育てるか 業界に吹き荒れるDX旋風 ビジネス変革の姿を探る