資源大国豪州の燃料高騰 安く国内供給できぬ理由は


【ワールドワイド/資源】

2022年6月、豪州東海岸3州(クイーンズランド州、ニューサウスウェールズ州、ビクトリア州)を襲った寒波に端を発した電力危機は、資源大国豪州が抱える国内エネルギー問題を露呈した。石炭火力発電所の早期閉鎖の動きと発電設備の老朽化と不具合による稼働率低下が主な原因。これを補う太陽光などの再生可能エネルギーは急速に拡大しているものの、電力需要に追い付いていないのが要因の一つに挙げられている。発電量のわずか8%を賄うガス火力発電も影響を受け、国際的なガス価格の上昇もあり、国内ガスの調達価格は高騰した。

国内でガスの供給が不足し、東海岸に三カ所あるLNG設備の所有者がLNGを輸出しようとする際、自社のガス田だけではガスが不足し、市場や第三者から調達しようとする場合に、関税法に基づいて政府が輸出規制を課すことができる豪州国内ガス安全保障メカニズム(ADGSM)という制度がある。長期契約を除く非契約LNGを海外スポット市場で販売しようとしても、国内向けに優先的に販売することになる。22年10月上旬、東海岸のLNG輸出業者は、23年に国内向けに十分な量のガスを供給することを政府と約し覚書を締結。これにより23年のADGSM発動は見送られた。

しかし、国内向け天然ガスの販売価格は海外市場価格と連動することから、ガスを使用する製造業と国民はガス価格に上限(プライスキャップ)を設けることを主張。労働党政権は22年12月9日に州政府と協議の上、プライスキャップを導入することを発表した。

ガス生産者はガス価格を1GJ当たり12豪ドル(mmBtu当たり8・74米ドル、豪ドル=0・69米ドルで換算)を超えて卸してはならなくなった。有効期間は1年間であるが、23年の供給契約はほぼ締結されていることから、効果は限定的でこの有効期間は延長される公算が高い。

「規制内容が定義されておらず将来の不確実性が高いことから、プロジェクトにおける新規供給への投資や、複数年の供給契約を結ぶことが困難となっている」との指摘があり、ガス生産者は政府の介入が逆に国内供給を確保する業界の役割を難しくしていると批判。ガス生産者は価格が現在より高かった数カ月前に供給契約を結んでいるため、卸売価格が下がってもすぐにエンドユーザー向けの価格を下げることができず、小規模製造業は、政府は行動規範を策定したものの発効するまでは高額な料金を支払い続けるとみられる。

(加藤 望/独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構調査部)

三浦氏の「再エネ利権」疑惑 一歩踏み込んだ東京の報道


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

再生可能エネルギーは持続可能か。心配になるニュースだ。

東京1月21日「三浦瑠麗氏夫が代表、コンサル会社を捜索、東京地検」は、「再生可能エネルギーに関する投資やコンサルタントを手がける東京都千代田区の会社の代表が詐欺容疑で告訴され、東京地検特捜部がこの会社を家宅捜索していたことが、関係者への取材で分かった。代表は国際政治学者の三浦瑠麗氏の夫」と伝える。

何が起きたか。「捜索を受けたのは2014年に設立された『トライベイキャピタル』。同社を巡る訴訟の資料によると、東京都港区の投資会社側から19年に10億円の出資を受け、太陽光発電事業を共同で手がけたが、想定通りに進まなかった」とある。

問題は結末部分だ。「三浦氏は自身が代表のシンクタンク『山猫総合研究所』のホームページで『夫の会社経営には関与しておらず、一切知り得ない』とのコメントを発表した。その上で『捜査に全面的に協力する』としている」。三浦氏はこれまで、再エネや太陽光発電についてテレビやネットで頻繁に発信してきた。「知り得ない」には首をひねる。

さっそくネットに流れたのが2018年3月の発言だ。「再エネの可能性と課題」をテーマにしたテレビの討論番組で、太陽光発電、特に大規模なメガソーラー発電が議論になった際、「うちは事業者ですから、現場を見ているので、いくらかかるかも、何にかかってるかも分かってるんです」と語っている。

発言のタイミングも理解に苦しむ。太陽光発電の発電単価は原子力発電より安いとの他の出演者の主張に、評論家の池田信夫氏が「なら補助金なしで自由競争すればいい」と指摘したところ、三浦氏が割って入った。言うまでもなく、この「補助金」とは「再生可能エネルギー固定価格買い取り制度(FIT)の賦課金」を指す。三浦氏の発言は「補助金がなくなると困る」との意味だろうか。

東京1月24日「三浦瑠麗氏、『夫の会社と無関係』なの?、『成長戦略会議』発言、利益相反の指摘も」は一歩踏み込む。「(三浦氏は)20年に菅義偉前首相が設置した『成長戦略会議』のメンバーで、自前の資料を用意し、複数回にわたり太陽光発電を推進する発言をしてきた」と指摘し、「無関係を強調する割には、太陽光発電推進に関心があるように見える」と皮肉る。

記事にある「自前の資料」も事業者側に立つ。20年12月の第6回会議の提出資料には、太陽光発電事業に関して政府による「地域社会との共生に関するモデル条例の提示」を求める項目がある。各地のメガソーラー反対運動を指すのか、現状は「事業者が困惑する事態」との記述がある。

再エネを支援するFITに関しては、電力料金高騰もあり、不満が広がっている。特に、山や森を切り開いて建設されるメガソーラーは自然破壊が懸念され、日本のFIT制度の提唱者である飯田哲也氏でさえ、1月31日のネット番組「videonewscom」で「(日本のFIT制度は)世界で唯一、最大の失敗」と批判している。

見直しが必要だが、政治への働きかけなどに取り組んできた「全国再エネ問題連絡会」の山口雅之共同代表は、「再エネ利権が深く広く政治の世界で与野党とも広がっている」と、22年12月のネット配信番組で懸念する。

利権は悪だ。家宅捜索の続報で政府を批判した東京新聞のさらなる取材・報道が期待される。

いかわ・ようじろう  デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員。

【コラム/3月14日】ドイツの陸上風力法


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

国内外でカーボンニュートラルの実現のために、再生可能エネルギーの拡大が急がれている。しかし、再生可能エネルギー、とりわけ陸上風力の大規模な増大は、景観への影響や騒音問題から地域住民の抵抗に会い、順調には進展していない場合が多い。

ドイツでは、陸上風力発電設備と住宅地の最低離隔距離を定めるルール(1000-Meter-Regelung)が存在しており、最低離隔距離を1000メートルと定めることで、設置に対する住民の抵抗を減じようとしている。しかし、この規定に対しては、風力発電の設置可能な土地が大きく減少するとの批判があった(この規定の適用により、風力発電の建設可能な土地は半減するとされる)。

さらに、州は独自のルールを制定している。バイエルン州では、10-Hルールという独自のルールが存在している。これは、風力発電所と最も近い住宅地との最低離隔距離が、風力発電の高さの10倍でなくてはならないというものであり、それは、通常2,000メートルとなる。住宅地とはいっても数件でも住宅地となり、バイエルン州では、風力発電所を設置することは非常に難しかった。

このような事情もあり、連邦政府は、2022年に「陸上風力法」を成立させ、2030年における風力発電の導入目標達成のため、ドイツ全土の2%を陸上風力発電の設置が可能な区画として指定することになった。このため、州ごとに設置可能な「区画の貢献値」を定め、2027年末と2032年末における達成を州に義務付けている。同法では、この法的に定められた面積目標を達成できない場合は、州で定められる最低離隔距離のルールは適用されないと規定されている。バイエルン州は、70,541km²の面積を有するドイツ最大の州であるが、5年後には州面積の1.1%、10年後にはその1.8%を風力発電の優先地域に指定しなければならない。

バイエルン州は、リヒテンシュタイン、オーストリア、チェコ共和国と国境を接するアルプス山脈の麓にあるドイツ南東部の州である。州都のミュンヘンは、毎年10月に開催されるオクトーバーフェストと呼ばれるビール祭り、美術館、華やかなニンフェンブルク宮殿などで知られ、カラフルで美しい街並みは人々を魅了する。また、ドイツ観光街道の一つであるロマンチック街道は、北西部のヴュルツブルクからのどかな村や中世の町を通って、ドイツ南部国境近くのアルプスの麓まで続く。街道の南の終着点のフュッセン市の南5kmにある優雅なノイシュバンシュタイン城はわが国でも有名である。筆者も何回かこの城を訪問したが、周辺の美しい緑の牧草地や咲き誇る野花などバイエルン州の自然の美しさは、筆舌に尽くしがたい。このような観光資源を有するバイエルン州の多くの住民は、当然のこととして、風力発電が数多く建設されることには反対である。因みに、筆者も、この観光地に風車が立ち並ぶ風景は想像したくない。

しかし、「陸上風力法」では、この法的に定められた面積目標を達成できない場合は、州で定められる最低離隔距離のルールは適用されないとしている。このため、バイエルン州の建設大臣クリスティアン・ベルンライターは、「『陸上風力法』により、風力発電は住宅の数百メートル先にも建設されることになり、人々の保護より風力発電所を優先している」として批判している。  ドイツは、再生可能エネルギー法2023で、2030年までに、再生可能エネルギー発電の総電力消費量に占める割合を少なくとも80%にする目標を設定しているが、そのためには、太陽光発電と風力発電の容量を倍増させる必要がある。太陽光発電、とりわけルーフトップ太陽光発電の設置は、これからも順調に進むだろうが、風力発電は住民の反対が多く、現状では大幅な拡大は難しい。そのため、同国は、風力発電の拡大のために、強権的な手段を用いざるをえなくなったようだ。そのための大義名分が、「再生可能エネルギーは、最も重要な公共の利益」(再生可能エネルギー法第2条)なのだ。このような再エネ至上主義的思考は、良い意味でも、悪い意味でもさすがにドイツ的と言わざるを得ない。

カーボンニュートラルに貢献できるか 原子力再生に二つの視点


【オピニオン】藤田玲子/日本原子力学会福島特別プロジェクト代表

 岸田文雄首相が原子力政策の転換を明確にし、再稼働の推進と老朽原子炉の廃炉の後のリプレース(建て替え)にも言及した。原子力を推進するべきと考えていた人たちにとっては朗報である。

しかしながら、東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故を教訓にせずに原子力を進めては国民の多くの賛同を得ることは難しい。ではどうしたらよいか。大きく二つの視点がある。

一つは2050年のカーボンニュートラル(CN)に向けて原子力のビジョンを明確にすることである。1F事故の後、原子炉の安全性が重要であることが再認識され、安全性の議論は活発である。一方、原子力の根本的な問題である廃棄物に関しては討議されているとは言い難い。安全性だけでなく、ぜひ廃棄物も含めたビジョンを策定するべきである。

二つ目は原子力政策を密室で進めないことである。第6次エネルギー基本計画にも述べられているように双方向コミュニケーションによって、さまざまなステークホルダーを入れて広く議論しながら政策を決めていくことが重要である。ややもすると、声の大きいステークホルダーの意見が十分な討議をせずにまかり通っていくことが多い。これでは国民の方々に対し原子力に賛同してほしいと言っても納得していただけない。

また、政策を決定していく過程はなかなか公開されない。例えば1F事故後は廃炉の跡地のリプレースに対し、電力会社だけなく地元の意見を取り入れて原子炉の炉型を決めていく必要がある。

福島県の双葉町と大熊町にまたがって建設中の除去土壌を保管する中間貯蔵施設を見学されたことがあるだろうか。原子力が必要と考えているわれわれでも中間貯蔵施設を見ると、改めて1F事故の大きさに打ちのめされる。大型原子炉の集中立地でなければ1F事故のように大きな事故にはならなかった可能性もある。現状がこうであるからと言って、その課題に対し技術的なデータに基づき多方面から検討や議論をせずに、一義的に決めてしまうことは誤った決断をする可能性が高い。

原子力は基礎研究から社会実装までに長い時間がかかることから、容易に政策変更ができない。それ故、将来を見据えて議論を尽くし、政策を公開の場で広く意見を入れながら決めることが重要である。また候補は一つではなく、必ず二つ以上の候補を選び、並行して技術開発を進める必要がある。1F事故のような天災やウクライナのような戦災など、どんな外的要因が入ってくるかは予測できないこともあり、代替できる候補についても技術開発する。これはリスクに対する備えとしてわが国の研究開発にとって極めて重要である。

CNに貢献できる原子力のビジョンを策定すること、政策は密室ではなく、透明性を持って策定することが原子力再生のキーとなる。政策の決定は技術的データに基づき、論理的な討議に基づき進めていただくことを切望する。

ふじた・れいこ 東京工業大学大学院修了(理学博士)。東芝電力システム社首席技監を経て内閣府ImPACTプログラム・マネージャー。日本原子力学会会長などを歴任。

【インフォメーション】エネルギー企業の最新動向(2023年3月号)


 【ダイハツディーゼル・日本ガス協会ほか/2000kW級大型ガスエンジの発電効率が48%へ】

ダイハツディーゼル、日本ガス協会などが取り組んでいた「コージェネ用革新的高効率ガスエンジンの技術開発」が、新エネルギー・産業技術総合開発機構から優良評価を受け、2月に表彰式が行われた。2000~3000kWクラスのガスエンジンに対して発電効率の向上に取り組んでおり、ガスエンジンの副室機構内のシミュレーション解析を高度化し、エンジン内燃焼の相似性に関する知見を得た。従来比で効率を2.8ポイント以上と大幅に向上し、フル運転時には発電効率48%となる。ダイハツは耐久試験を続けながら、2025年度ごろから国内での受注活動を行う。ダイハツでは「1㎥ガス単価 100円、年間3000時間運転とすると、1000万円の削減効果がある」としている。

 【大阪ガス・JR九州/回生電力貯蔵装置を活用しDRサービスを実施へ】

DaigasエナジーとJR九州は、デマンドレスポンス(DR)サービスに関する契約を締結した。JR九州筑肥線唐津変電所に併設された回生電力貯蔵装置を活用した調整力公募にアグリゲーターとして参加する。この装置は、電車が減速する際に発生する回生電力を貯蔵し、電車が加速する際の電力として有効利用するため充放電する。これまで大阪ガスとJR九州は、同線の駅舎にDaigasグループが保有する発電所由来の環境価値が付与された再エネ電力を供給し、環境価値の地産地消を実現。今回、JR九州が保有している設備・施設などの有効活用と沿線の価値向上に向けた協業の検討を進めていた。貯蔵電力を電力需給ひっ迫時に放電してDRを行い、電力需給の安定化に貢献する。

【北海道電力/ZEB化を提案した外食店が初の認証を取得】

北海道電力がZEB化を提案した、トリドールホールディングスの讃岐うどん専門店「丸亀製麺 鈴鹿店」が2022年12月に国内の外食企業で初の「ZEB」認証を取得し、23年1月にグランドオープンを迎えた。高性能な断熱材や窓、電気式ヒートポンプや全熱交換器による空調・換気システム、制御機能付LED照明などの採用により、徹底的に省エネ化。屋根やカーポートなどに設置した太陽光パネルで消費を上回るエネルギーを創出し、一次エネルギー消費削減率106%を達成している。今回取得したZEBの認証は、4段階評価のうち削減率100%以上を求められる最高評価だ。同社はエネルギー利用のノウハウや知見を生かして、幅広い業種の脱炭素をサポートしていく方針だ。

【IHI/LNG貯蔵設備の燃料NH3転用を検討】

IHIはガス火力発電所近くに整備されているLNGの受け入れ・貯蔵設備を、燃料アンモニア(NH3)用に転用化する検討を始めた。腐食に関する知見や材料に関する実験技術を利用し、最小限の改造で転用が可能になるよう検討。2020年代後半の社会実装を目指す。既存設備の転用で大幅なコストダウンや土地の有効活用につながる。世界最大級の大型LNG貯蔵タンクの建造実績や、これらの技術を生かし、大型NH3受け入れ基地の総合的な開発を進めている。

【東京ガス/製造工程で水素利用 アルミ形材を熱処理】

東京ガスはこのほど、LIXILと共同で、LIXILの国内工場の製造設備で水素を利用したアルミ形材の熱処理の実証を行ったと発表した。アルミ形材の実際の製造設備での水素を利用した検証は世界初で、製品品質に問題がないことも確認できた。両社は、製造工程から発生する副生水素の回収・利用についても検証を進めている。アルマイト処理工程での検証試験では、発生する水素を90%以上の効率で回収することに成功した。東京ガスは、経済性の向上などに取り組み、回収した水素の利用も含めて検証を進めていく構えだ。

【中部電力ほか/福山でバイオ発電着工 25年5月の運開目指す】

中部電力が製造業などの6社と共同で出資する福山バイオマス発電所の建設が開始された。共同で出資するのは、稲畑産業、太平電業、東京産業、Solariant Capital、日立造船、愛知海運だ。同発電所は、広島県福山市に位置する木質バイオマス専焼の発電所。その発電出力は5万2700kW。年間発電電力量は約3.8億kW時を想定しており、これは一般家庭約12万世帯分に相当する。運転開始は2025年5月の予定だ。中部電力と6社は、地域と協力しながら、安全を最優先に工事を進めていく方針だ。

【大林組・大林道路/地熱由来の水素をアスファルトプラントで混焼】

大林組は、大分県九重町で地熱発電の電力を利用して製造したグリーン水素を、大林道路社が佐賀県で実証するアスファルトプラントの水素混焼バーナーに供給する。道路舗装に使用するアスファルト混合物は、製造過程で燃焼バーナーを使い骨材乾燥や加熱を行うため、このプロセスで多くのCO2を排出する。使用している都市ガスなどの燃料に水素を混焼することで、CO2排出量の削減を目指す。大林グループは2030年までの温室効果ガス排出削減目標のうち、事業活動からの排出を含むScope1+2で19年度比46.2%削減を掲げている。目標達成に向け建設現場での軽油代替燃料の導入だけでなく、イノベーションを活用した次世代燃料への転換に取り組んでいる。

【日本ガイシ・オムロン/自己託送用蓄電池が運用開始】

日本ガイシは、オムロンフィールドエンジニアリング(OFE)から受注した、再エネ電気の自己託送を目的とした蓄電池の運用を始めたと発表した。京都府宮津市内にある太陽光発電所内に設置し、遠隔地となるオムロンの京阪奈イノベーションセンタ(京都府木津川市)に一般送配電事業者のネットワークを介して送る。OFEは、蓄電池の大容量を生かし、災害時の自治体施設の非常用電源としての活用や、容量市場や需給調整市場への参入も検討している。

【ブレインジェネシス/インボイスセミナー開催 LPガス事業者を支援】

ブレインジェネシスは1月、「LPガス事業者向けインボイス(的確請求書)セミナー」をオンラインで開催し、約180人が視聴した。LPガス事業におけるインボイス対応指針や、同社のシステムにおけるインボイス対応の基本方針について、説明や解説を行った。同社のシステムはインボイスを発行、保存、検索、出力するなどの機能を備えている。

【ENEOS・関西電力/大規模メガソーラー 兵庫県赤穂郡で完成】

ENEOSが関西電力と共同出資した播州メガソーラー発電所(兵庫県)が1月に完成した。正式名称はパシフィコ・エナジー播州メガソーラー発電所。発電容量約77MW、敷地面積約85万㎡の大型発電所で、昨年11月から試運転を開始。同社の出資案件としては2番目に大きい発電所となる。同社は再エネを推進し、脱炭素社会実現に貢献する構えだ。

【九州電力ほか/ドローンで海上飛行 災害時物資輸送の実証】

九州電力はこのほど、宮崎県延岡市の離島地域で、モバイル通信で目視外の自律飛行を実現するスマートドローンを活用し、災害時を想定した日用品や物資を海上飛行で輸送する実証を行った。この実証は、同社とKDDIスマートドローンが共同企業体として、宮崎県から受託し、実施したもの。離島では、定期航路便の物資輸送が行われているが、災害発生に伴い汽船が運航休止した際は、物資の海上輸送が困難となる。同社は地域住民の日常生活の持続性を高めるためにも、ドローン物流の社会実装を目指していく。

【マーケット情報/3月10日】原油急落、需要後退の観測強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み下落。米国および中国経済の先行きに不安が広がったことで、石油需要が後退するとの観測が強まった。

米国では、連邦準備制度理事会(FRB)が、従来予想を上回る水準の金利引き上げを示唆したことで経済活動が減速するとの懸念が台頭。石油市場にも下方圧力が加わった。他方で、米国エネルギー情報局(EIA)は、3月の短期エネルギー見通しで今年の国内原油生産予測を日量1,244万バレルとし、先月の同1,294万バレルから下方修正した。 

中国では原油の輸入需要が伸び悩んでいる。景気の先行き不透明感と足元の在庫が適正水準を上回っていることで、1~2月の輸入量は前年同期と比べて減少。5日に開幕した全国人民代表大会では、今年の同国のGDP成長率の目標が約5%と比較的低い水準にとどまったこともあり、石油需要の回復には時間がかかりそうだ。

さらに、OPEC事務局長が、世界の原油需要は新型コロナ禍による低迷から回復基調にあるものの、欧米経済の減速が重荷との見解を示したことも、弱材料として働いた。 一方、米国の週間原油在庫統計は減少を示した。同国政府は、戦略備蓄を補充する意向を示したものの、油価への影響は限定的だった。

【3月10日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=76.68ドル(前週比ドル3.00安)、ブレント先物(ICE)=82.78ドル(前週比ドル3.05安)、オマーン先物(DME)=80.29ドル(前週ドル3.03安)、ドバイ現物(Argus)=80.12ドル(前週比ドル3.17安)

地域経済の好循環創出へ 豊かな地下資源を有効活用


【地域エネルギー最前線】 北海道 豊富町

日本最北の温泉郷「豊富温泉」がある北海道豊富町は、豊富な天然ガスに恵まれた町でもある。

町が挑んでいるのは、使い切れていないガスを有効活用し最大限の価値を生む取り組みだ。

 2017年の都市ガス小売り全面自由化以降、下仁田町(群馬県)、大津市、にかほ市(秋田県)、福井市、金沢市などの公営ガスが相次いで民間企業に事業を譲渡してきた。こうした中、逆に自ら小売事業への参入を果たした唯一の自治体が北海道豊富町だ。

北海道北部、稚内市の南に位置し、面積約520㎡に3700人ほどが暮らすこの町は、日本海に面する西側に利尻礼文サロベツ国立公園の一部であるサロベツ原野を擁するほか、日本最北の温泉郷「豊富温泉」があることでも知られている。

冷涼な気候が稲作には適さない代わりに酪農が盛ん。1万3000haという広大な牧草地では人口の4倍の1万6000頭もの乳牛が飼育されており、年間7万2000tと道内でも有数の出荷乳量を誇る。

何よりも、資源に乏しい日本において珍しく地下資源に恵まれた地域でもある。1925年には、石油の試掘中に温泉水と天然ガスが噴出するようになり、以来、100年近くにわたり町の観光とエネルギー供給の基盤を支えてきた。

温泉街にある天然ガス鉱山プラント

良質な天然ガスが産出 課題は最大限の価値化

町によるガスの供給形態は2種類。一つは、2013年4月に開始した「準用事業」で、温泉街にある天然ガス鉱山設備(採取施設)と隣接する公共施設や旅館などの民間施設計18軒を対象に、年間計約50万㎥を供給している。もう一つ、17年7月に開始した「小売事業」により供給しているのは、同年10月に操業を開始した鉱山設備から4・5㎞離れたセコマグループのヨーグルト工場1軒のみだ。

実は、町が小売事業に参入したのは、この工場にガスを供給するためにほかならない。17年のガス事業法の改正に伴い、年間使用量が10万㎥以上の需要家に供給するためには小売登録が必要だったからで、商工観光課の菊地昌宏主幹兼鉱山保安係長は、「工場へのガスの供給は事業法改正前から決まっていたこと。自由化を機に満を持してガス事業に参入したかのように取り上げられることもあったが、われわれとしては全く意図しないものだった」と、振り返る。

鉱山設備の構内には、天然ガスコージェネレーションシステム(25‌kW)が設置されており、井戸揚湯用コンプレッサーに電気を供給。ガスを有効利用することで放散ガスを抑制するとともに、年間800tほどのCO2排出量の削減につなげているという。

同町で噴出している天然ガスは、メタン含有率96%と不純物がほとんどない非常に優れた成分である上に、熱量39メガジュールと調整することなく各需要家のガス機器に使用できることが特徴だ。  

1日の産出量は約1万1000㎥。もともとは8000㎥ほどだったが、19年12月に震度5弱を記録する地震が発生した2日後、それまで産出していなかった井戸からも3000㎥が新たに噴出するようになった。

豊富温泉は油分を含んだ、他に類のない泉質が特徴。皮膚疾患などに効能があるとされ、毎年多くの湯治客が町内の宿泊施設に逗留する。良質なガスを安価に供給できるからこそ、そうした宿泊施設の経営を下支えすることができ、ヨーグルト工場のように新規に企業を誘致することで新たな雇用の創出にもつながる。ガスが町にもたらしている恩恵は大きい。

ところが、町内でのガスの使用量は多い時で3000㎥程度にとどまり、8000㎥が未利用のまま放出されてしまっている。かつては、北海道電力がガス発電所を運営していたこともあったが、設備の老朽化に伴い1975年に閉鎖された。豊富な資源があるにもかかわらず、最大限に価値化できているとはいえず、ガス事業そのものも赤字のまま。それが町の悩みの種になっているのが実情だ。

地産地消が最善の選択 利益もたらす事業を誘致

産出されるガスを全て使い切るためにも販路の拡大戦略は不可欠だ。とはいえ、大消費地に送るには、輸送コストがかかり採算が合わない。18年9月6日に発生した北海道胆振東部地震後のブラックアウト(全域停電)をきっかけに、ガス発電による売電や地域マイクログリッドによる町内への供給も検討してみたものの、インフラ整備費用の負担が重く系統連系上も課題が多かったため実現には至らなかったという。

「ヨーグルト工場と同様、ガスを町内で使ってもらうことが地域の雇用創出という観点からもより良い選択。ガスの余剰や低料金に着目してさまざまな事業の提案が寄せられており、そうした中から町にとって最も利益が見込める事業を誘致し、資源を余さず使い価値に変えるようにしていきたい」と語るのは、商工観光課の鈴木優貴主査。

菊地主幹も、「世界的な資源価格の高騰などエネルギー情勢が変わっている中で、良質なガスが自噴し、しかもそれが余っているということが注目されていることは豊富町にとっては大きなチャンスとなる。温暖化問題への対応とバランスを取りながら、ぜひ地域経済の好循環につなげていきたい」と意気込む。

昨年6月には、エンジニアリング協会、応用地質、エア・ウォーターの3者が、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の採択を受け、同町の自噴天然ガスを水蒸気改質することで生成したブルー水素で発電し、その電気をデータセンターに供給するサプライチェーン構築に向けた調査に乗り出すことを発表した。実現すれば、未利用ガスの活用拡大へ大きく前進することが期待される。

少子高齢化や地域経済の停滞といった社会課題にどう対策を講じるかは、過疎化が進む自治体の共通の問題。温泉と天然ガスという恵まれた地下資源は、他の地域にはない魅力であり、豊富町にとって強い武器となるだろう。

【特別対談】脱炭素から安全保障に 変貌するエネルギー秩序


澤田哲生(エネルギーサイエンティスト)/杉山大志(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

ウクライナ戦争で世界の政策優先順位が脱炭素から安全保障に変わった。

エネルギー自給率の向上に原子力・核燃料サイクルの重要性が増している。

澤田 杉山さんはCO2排出ネットゼロなどの温暖化対策に懐疑的です。「環境派」から相当なプレッシャーを受けていると思いますが、ロシアのウクライナ侵攻で地球環境問題が最優先だった欧州の国々が、一気に化石燃料に走った。それで今までの欧州主導の「脱炭素」が、いかにリアリティーに欠けた表層的な考えだったかが明らかになった。

杉山 ウクライナ侵攻でG7諸国対ロシア・中国の「新冷戦」が始まりました。地球環境問題は元々、米ソの冷戦が終わった後、「東西」が協力して何かやろうと話し合って始まったものです。ところが新冷戦が始まって、欧米の政策の優先順位がまったく変わった。安全保障が最優先になり、その次が経済です。

 しかし、欧州も米国も一昨年まで脱炭素を唱えていた人たちが政権にいるので、政策を急に変えることはできない。それは日本も同じです。

澤田 確かに、まだ日本は脱炭素の「呪縛」が解けていない。昨年のGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議で決めた温暖化対策が法律になり、再生可能エネルギーを中心に効果が不透明なまま膨大な予算が使われようとしています。

杉山 個人的な意見ですが、再エネを主力電源にする政策はやめるべきです。太陽光発電などは、平時はせいぜい火力発電の燃料費を節約するぐらいの価値しかない。しかもほとんどが中国製で、中国はそのお金の一部を軍事費に充てている。そう考えると、このままGXを進めることは経済だけでなく、日本の安全保障にも悪影響を与えかねない。ただ、原子力政策の見直しだけは評価しています。いま、ドイツなどを除く世界各国で原子力が再評価されている。

グリーンを巡り米国内で対立 共和党は「エネルギーは安く豊富に」

澤田 アメリカの動向をどう見ていますか。欧州と歩調を合わせることがありますが、独自の方針を取ることもある。

杉山 民主党は欧州的な発想で、バイデン政権になり脱炭素の政策を優先的に進めてきました。ところが共和党の考えはまったく違う。アメリカでは脱炭素政策のことを「グリーンディール」と呼び、民主党はグリーンディールを支持している。しかし、例えば共和党の重鎮で大統領候補になったマルコ・ルビオ上院議員は「愚かなグリーンディール」とはっきり否定しています。エネルギー・環境政策についての考え方がまったく違う。

澤田 彼らはリアリストですね。

杉山 では何を重視しているかというと、「エネルギードミナンスだ」と言う。石油、ガス、石炭、原子力、再エネ全てを含めて、エネルギーはふんだんに安く供給する。それで新冷戦の中、経済を強くして自らも同盟国も困らないようにする―という発想です。

 ただ、温暖化対策を考慮していないわけではない。元国務長官のマイク・ポンぺオ氏は「CO2排出を懸念する人たちがいるから、原子力をしっかり進めればいい。再エネも本当にコストが安いならやればいい。ただ、化石燃料の利用をやめる選択はない」と言っている。そういうバランス感覚を持っている。

ウクライナ戦争はエネルギー秩序を大きく変えた
提供:AFP=時事

エネルギードミナンスと真逆の状況 化石燃料・食料輸送に赤信号も

澤田 それが国家にとって重要なことであり、大きなメリットがあるということですね。翻って日本の現状を見ると、エネルギードミナンスとは真逆の状況になっている。停電危機が起きたり、昨年からは電気料金が高騰し家庭や中小企業などを苦しめている。

 政府はS(安全性)+3E(安定性、経済性、環境性)が重要だと唱えてきた。ところが今、その綻びが目立っている。本来ならば、使える電源は全て使わなければいけない。中でも原発はCO2を出さず、温暖化防止にも役立つ。ところが再稼働が進んでいない。

杉山 電気料金が高い理由は三つあります。一つは澤田さんが指摘されたように原発が止まっていること。この影響は非常に大きく、原発稼働が順調な関西電力、九州電力は電気料金が他社と比べてかなり安くなっている。次に再エネです。国民は年間2・7兆円の再エネ賦課金を負担している。もう一つは、天然ガスの価格が高騰したことです。欧州が買いあさったせいですが、世界的な脱炭素運動で、石油、天然ガスなどの上流への投資が滞っていたことも大きい。

澤田 全て「グリーン」に起因している。

杉山 原発は電気料金を安定させる以外の役割も重要になっています。アメリカの戦略国際問題研究所(CSIS)は台湾有事となった場合、日本も巻き込まれるシミュレーションを明らかにしている。戦争に巻き込まれなくても、シーレーンが脅かされることもある。

 すると石油、ガス、石炭、食料などの輸送が危うくなる。そう考えると、これからのエネルギー政策は安全保障に重点を置かなければいけない。そのときに原子力の役割が非常に大切になる。

澤田 原発はいったん燃料を輸入して使い始めると、最長で3年間ぐらい使い続けられる。エネルギー備蓄の機能があり、プルトニウムをつくれば燃料製造装置にもなる。もちろん課題もあります。福島第一原発事故でわれわれは大切なことを多く学んだ。しかし、今はその教訓を生かせる。

杉山 今までの原子力政策には、燃料の「在庫」をあまり持たないという発想がありました。ウラン燃料に限らず、使用済み燃料を再処理してつくるプルトニウムもです。しかし安全保障を重視する観点に立つと、原発用燃料の備蓄は非常に重要になる。石油の備蓄は200日ほどで尽きるし、天然ガスは2週間ほどしかない。

 ところが澤田さんが言われたように、原発にはエネルギー備蓄機能がある。日本への海上輸送が滞った場合、エネルギー供給の「最後のとりで」になる。

エネルギー危機で再考 省エネの「深掘り」


【脱炭素時代の経済探訪 Vol.12】関口博之 /経済ジャーナリスト

省エネは日本のお家芸、すでに十分できている―そんな慣れや慢心があったかもしれない。しかしウクライナ侵攻に端を発したエネルギー危機が、それを一変させた。電気代、ガス代の高騰や冬場の電力不足の心配から、節電や省エネが政府などから呼びかけられている。

ロシア産の天然ガスへの依存から脱却しようとする欧州でも、その穴を埋める手段として改めて省エネを位置付けている。

例えば、ドイツ連邦経済気候保護省が設けている省エネホームページを見ると「暖房設定は1℃下げるだけでも6%の省エネ効果」「シャワーヘッドを節水型に、お湯の温度を下げればお肌にも良い」など身近なヒントだけでなく、「住宅の最上階の天井には断熱材を」とDIYでできる対策を紹介しているのもドイツらしい。さらには消費者がエネルギーアドバイスを受けられるメニューや、住宅改修を考える場合の補助金などもワンストップで確認できるようになっている。当然、企業向けの助成制度も網羅されていて当局の力の入れようが分かる。

日本の経済産業省が作成している省エネ・節電の特設サイトも、実はかなり内容的には充実している。とりわけ事業者向けではオフィスや製造業だけでなく、小売店や飲食店、食品スーパーやホテル・旅館、学校や医療機関など、さまざまな場面での節電・省エネ対策について具体的なメニューと効果の試算などを載せていて、データが豊富だ。これをもっとアピールして、行動変容にまでもっていくことが重要だ。家計や企業が高止まりするエネルギーコストに圧迫されている時だけに、省エネに改めて目を向けてもらうチャンスでもある。

経済産業省が作成している省エネ・節電の特設サイト

考えてみれば、省エネ機運が高まったのは2011年の東日本大震災の後だった。原子力発電所の停止で電力不足が起こり、東京電力管内では計画停電といった対策もとられた。そのころ東京都が助成して行った中小企業向けの省エネ診断は52万件もの実績があったという。今、それだけの社会的関心があるだろうか。

世界各国の省エネの取り組みを評定しているACEEE(米国エネルギー効率経済評議会)の22年のランキングでは、日本は総合ランクで25カ国中7位という評価だった。産業部門の取り組みは1位、国の政策対応も3位と高いのに比べ、運輸や建築部門は必ずしも高くなかった。これをどう受け止めるか。日本は確かに省エネの「優等生」ではあるが、断トツというわけでもない、ということだろう。もう一度ネジを巻き直せばよい。

省エネ問題が専門の日本エネルギー経済研究所の土井菜保子研究主幹は「省エネ大国という名を求めるより、継続的な取り組みで改善余地を見つけ出そうとする姿勢こそが大事だ」と言う。今こそ改めて省エネ診断を増やし、設備投資にもつなげるべきだ。「不断の省エネ」という自律的な動きになれば、たぶんそれは強力なエネルギー安全保障対策になり、脱炭素化への道にもなる。


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せきぐち・ひろゆき 経済ジャーナリスト・元NHK解説副委員長。1979年一橋大学法学部卒、NHK入局。報道局経済部記者を経て、解説主幹などを歴任。

女川・東海第二の工事視察で思う 原子力規制体系の大転換を


【永田町便り】福島伸享/衆議院議員

 先日、衆議院東日本大震災復興特別委員会の視察で東北電力女川原発に、その翌々週には日本原電東海第二原発に行き、再稼働を目指す工事の状況を見てきた。両地点とも防潮堤工事の真っ盛り。サイト内には多くのダンプカーやトラックが行き交い大勢の作業員が働いていた。

女川では、東北電力の現場幹部の方から東日本大震災の時、震源に一番近い発電所だったにもかかわらずなぜ無事だったのかについて、東京電力福島第一発電所との違いを明らかにしながら説明していただいた。女川が原子炉を安全に停止できたのは、決して偶然ではない。建設当初は津波に対する知見も乏しかったが、1000年以上前の貞観津波などを考えて規制基準以上の高さに建屋を設置したのだった。その後も常に最新の知見を反映し、たとえば敷地法面が津波で削られないように防護工事を施したり、引き波で海底が露出した時に冷却水を汲み上げられなくならないように主水路に傾斜をつけてプールを作るなどさまざまな工夫をしていた。

「どうしてそれができたのか」と問うたところ、それは決して規制機関から指摘されてやったわけではなく、原子力が後発の東北電力では常に先行事例や先進事例を見ながら最善の安全対策を自ら講じ、それをアップデートしていく安全文化があるということだった。わが意を得たりの思いだった。

東日本大震災以降、政府は「世界一厳しい安全規制」ということを何度も唱えてきた。しかし、その意味は耐震基準の水準だったり提出する書類の量だったり審査の時間だったり、物量的な重厚さに偏りがちだったのではないか。私が視察した中でも、そこまで耐震性が必要とは思われない施設に最高強度の鉄骨が使われていた。「本当にこんなことが必要だと思うか」と問うたところ、現場の技術者は苦笑するばかりだった。

「動的」な規制体系構築へ 事業者と規制者の対話を

規制者がどんなに「厳しい規制」として設定したものでも、それが完全に安全性を担保するわけではない。想定外の事態やヒューマンエラーは、必ず起こり得る。重要なのは、事業者側と規制者側が異なる立場や観点から、それぞれが必要と考える安全対策を提示し合い、お互いの対話の中で安全水準を高めていく「動的」な規制体系なのではないか。

国が一方的に基準を作ってそれを事業者が満たしたから安全ということでは、女川原発のようなことは起き得なかった。基準自体が安全性を担保するのではなく、事業者や現場自らが常に安全性を高める工夫をし、規制側が対話の中でチェックしていくという「規制文化」「安全文化」がなければ、いずれまた「想定外」のことが起きてしまうだろう。

原子力政策の大転換は、原子力規制体系の大転換がなされたときに実現するものだ。

ふくしま・のぶゆき 1995年東京大学農学部卒、通産省(現経産省)入省。電力・ガス・原子力政策などに携わり、2009年衆院選で初当選。21年秋の衆院選で無所属当選し「有志の会」を発足、現在に至る。

原発活用法案巡り一悶着 国会審議への影響懸念


政府が提出を予定する「GX脱炭素電源法案」を巡り、一悶着あった。この束ね法案では、原子炉等規制法(炉規法)から運転期間に関する規定が外れ、電気事業法に40年+20年の新たな運転期間を設ける。2月13日、原子力規制委員会は炉規法改正案を「多数決」で了承。石渡明委員が反対に回り、規制側が運転期間を考えるべきとの主張を展開したのだ。

規制委は20年7月、運転期間は政策判断だとして「意見を述べるべき事柄ではない」との見解を示している。〝ちゃぶ台返し〟ともいえる石渡委員の主張に、山中伸介委員長は「(全会一致でないことは)本当に残念」と語った。

この不調和は波紋を呼び、当初17日に予定されていた束ね法案の閣議決定が延期される事態に。西村康稔経済産業相は17日の会見で「国民の不安を払拭していくためにも、国会審議などでしっかりと説明できる。そうした準備を進めた上で、法律案の閣議決定を行うべきだという指示が(岸田首相から)あった」と説明した。

長期停滞する原子力政策を前進させる法案だけに、国会審議への影響が懸念される。

可燃性ガスや水素拠点向け警報器 大災害を想定しBCPにも対応


【理研計器】

LPガスや圧縮天然ガス(CNG)、水素など、可燃性ガスの製造、貯蔵、充てんの現場で使われる警報器は、ガス漏れ発生時に警報音を鳴らしたり回転灯を回すことに加え、接続するガス検知器の効率的な点検や管理、近年は大規模災害発生時の対応など、利便性のさらなる向上が求められている。

理研計器ではこうしたニーズに対応した可燃性ガス検知警報器の新製品として「GP―148」を発売した。同製品は従来機から多くの新機能が加わった。一つ目は操作視認性の向上だ。操作パネル上に正常時は緑、ガス警報発動時は赤と2色で表示し、離れた場所からでも検知状態が分かるようにした。また、パネルシートの表記を、英語から日本語に変更。高齢の作業員などでもひと目で見て分かるようにした。

二つ目は操作性の向上だ。点検ボタンを追加し、本体に接続する全ての検知器を一括で点検モードに切り替えることが可能となっている。これにより、検知器の警報テスト、ゼロ調整、スパン調整、警報点確認など一連の点検が簡単な操作で実施できる。

三つ目は間欠測定設定の追加だ。同製品は電源用蓄電池の搭載が可能で、6台の拡散式ガス検知器を連続測定で160分間駆動できる。また電池残量を節約するため、検知器のオン・オフをインターバルで行う間欠測定設定が追加され、最大約3~4日のガス漏えい監視が可能となった。

「東日本大震災など大災害が頻発したことを受け、BCP(事業継続計画)に関する要望が増えた。そこで間欠測定設定機能を追加することで、従来機より蓄電池の駆動時間を延長することを可能とした。さらに監視動作有無を検知部ごとに設定できるため、停電時には保安重要エリアを効率よく監視できる」と営業技術部の菅田雄希主査は新製品をアピールする。

「GP-148」は最大で検知器を12個増設できる

水素STコスト削減 顧客の意見を反映

このほか、炎検知器の接続に対応したことで、水素ステーション(ST)など可燃性ガス検知器と併用する施設でも、同製品が1台あれば一括監視が可能になった。

警報機能では、2接点搭載のため、回転灯とブザーなどを同時に使用することが可能。「水素ST用途では警報器が1台で済むためコスト削減に寄与する。警報機能は、お客さまからの要望を取り入れて採用した。蓄電池搭載をはじめ、さまざまな意見を形にした自信作」と菅田主査。

現場で利用する機器は、視認性や操作性の向上といった細かな配慮・改善がルーティン作業の効率化につながる。理研計器では今後も利用者視点に立った製品づくりに力を入れていく。

セメント業界の受難 環境急変にどう対峙するか


【業界紙の目】佐藤大蔵/セメント新聞社 編集部記者

需要減少が長引く中、ロシア有事に翻弄された2022年はセメント業界受難の年となった。

未曽有の経営環境の悪化に見舞われる中、業界はどのような手で立ち向かおうとしているのか。

 セメントは、原材料となる石灰石などをロータリーキルン(回転窯)で1450℃の高温で焼成し製造する。焼成の際の燃料として多くの石炭を使用しており、国内のセメント製造に当たってはロシア産の石炭が使われている割合が高い。また国際情勢に起因してフレート(海上運賃)が高騰しており、船舶による輸送が多くを占めるセメントに対する打撃は大きい。ロシア・ウクライナ情勢は、生産、輸送の両面で、セメント業界全体に大きな影響を及ぼしている。

政府は2022年4月にロシア炭の輸入禁止を表明。段階的に輸入を削減し、将来的に全廃を目指す方針を打ち出した。この方針を受け、特にロシア炭の使用比率が高い太平洋セメント、住友大阪セメントはロシア以外の産炭国からの代替調達を急いでいる。

太平洋セメントは、22年度予算ベースではロシア炭が6割を占めていた。この比率を下げるため、調達先の多様化を進めている。対象国として米国、カナダ、豪州、インドネシアをベースとし、一部で中国を選択肢に入れて検討。すでに安価なインドネシア炭でトライアルを始めており、今後、使用を本格化させていく。住友大阪セメントもロシア以外からの代替調達を進め、ロシア炭の比率は8割から6割に下がっている。

コスト増で大手は大幅赤字 二度の大幅価格改定を実施

コスト高の影響は各社の業績にも出ており、22年4~9月の決算において、セメント大手は軒並み大幅な赤字となった。太平洋セメントは、売上高は前期比362億円増の3760億円となったものの、各種損益はいずれも赤字に転落。国内セメント事業も足元のコスト事情が引き続き厳しい状況にあり、増収となったものの176億円と大幅な赤字となった。

住友大阪セメントも増収となったものの、営業損失などを計上しそれぞれ赤字となった。中核のセメント事業においてはエネルギー価格高騰を受け、販売価格の改定によりコスト上昇分の価格転嫁を進めてきたが、値上げの遅れやさらなる石炭価格の高騰、為替の円安進行などから大幅に損益が悪化した。

トクヤマは化学品やセメント、半導体関連製品などの販売価格修正を進めたことなどにより、売上高は増収となった。損益面ではそれぞれ減益。22年度に新会社として事業をスタートしたUBE三菱セメントは、親会社のUBE、三菱マテリアルの連結損益計算書によると売上高が2814億円で、損益面では営業損失200億円、計上損失186億円、親会社株主に帰属する純損失263億円となり、通期でも大幅赤字となる見通しだ。

都市開発は一部で進むが、国内の需要増大は見込めない

長引く需要の低減に加え、20年以降の新型コロナウイルス感染症拡大の影響に伴い、さらに需要の状況が急速に悪化。加えてロシア・ウクライナ情勢に起因するコスト高の影響により、セメント業界の経営環境はこれまでにない厳しいものになっている。

このため各社は、セメント価格の値上げを打ち出している。製造コストの大幅な上昇に伴うコストアップ分を価格に転嫁するため、21年12月から22年春にかけて各社は1t当たり2000~2400円の値上げを実施した。22年度上期末までにおおむね満額を獲得している。

ただ、ロシア・ウクライナ情勢の影響でさらにコストが上昇。22年春分の値上げを打ち出した時期から石炭価格がさらに高騰し、一時期は1t400ドルを超える水準で推移した。この状況を受け、22年10月から3000円程度の追加の値上げに乗り出している。

特に太平洋セメントは、22年6月にセメント製造用の石炭価格高騰を、セメントやセメント系固化材価格に反映する価格改定方式について、セメント業界で初となる石炭価格サーチャージ制度を導入することを表明した。なお、8月にはサーチャージ方式と、定額価格改定方式(1t当たり3000円)のいずれかを購入者が選択する方式を採用すると発表した。

セメント業界において、メーカー各社が過去に例のない短期間で二度にわたる大幅な価格改定に踏み切る背景には、将来に向けてセメントの安定供給をはじめサプライチェーンを継続できないとの強い危機感がある。

生産体制見直しへ 労働時間改善やCNも課題

需要の大幅減に加え、ロシア・ウクライナ情勢の影響で、各社は生産体制の見直しも余儀なくされている。UBE三菱セメントは、22年9月に、セメント生産体制の見直しを行うことを発表した。23年3月末をめどに、主要工場のひとつである青森工場の操業を停止。伊佐セメント工場(山口県)は生産縮小を図る。

これまでセメントなどを手掛けてきた総合化学メーカーのデンカは、22年10月にセメント事業からの完全撤退を表明した。同社のセメント販売事業などについて、23年3月末をめどに新たに設立する100%子会社へ吸収分割により承継させた上で、太平洋セメントに当該子会社の全株式を譲渡する。青海工場(新潟県)でのセメント生産や石灰石の自社採掘についても、25年上期をめどに停止する方向だ。

セメントの国内需要は、20年度に54年ぶりとなる4000万t割れと記録的な低水準に落ち込んだ。長期的には3800万~4000万tの水準で推移するとみられる。今後大幅な需要の増加が見込めない中、セメント業界は、将来の事業存続に向けた大きな転換期を迎えている。コスト高への対応に加え、時間外労働の上限規制が適用される「2024年問題」も間近に迫っている。早期の値上げ完遂により適正価格を確保し、国内セメント事業を立て直すことが直近の最重要テーマとなる。

また、他の製造業と比較してCO2排出量が多いセメント産業では、カーボンニュートラル(CN)への対応は避けて通ることができない最重要課題だ。CO2削減にとどまらず、いかに成果を事業に組み入れ将来の成長戦略につなげていくかが重要なポイントとなる。

〈セメント新聞〉〇1949年2月創刊〇発行部数:週刊2万部〇読者層:セメント業界、生コンクリート業界、コンクリート製品業界、建設業界など

コロナ特別措置が終了へ 電力ガス未収分回収に課題


新型コロナ禍で影響を受けた需要家に対する「電気・ガス料金の特別措置」が、ひっそりと幕を下ろしそうだ。電力・ガス事業者は経済産業省の要請を受け、2020年3月から対象者に対し電気・ガス料金の支払いを最大5カ月猶予してきた。経産省は今年2月、この特別措置を終了する場合は生活困窮者に留意するよう再び要請。各事業者は段階的な終了へと動くとみられる。

支払期限猶予の対象には、「電気・ガス料金の支払いに困難な事情がある方」とある。しかし、各事業者が申請者の家計状況を審査できるはずもなく、支払いが困難である旨を伝えられれば、半自動的に支払期限が延長されていた。

特別措置で救われた人がいることは事実だが、申請者の多くはもともと支払いが遅れ気味だった顧客が多いという話も漏れ聞こえ、有効性には疑問が残る。

特別措置はあくまでも経産省からの要請であり、税金が投入され支払いが「免除」されるわけではない。猶予を重ねた需要家の未収分は増え続け、〝不良債権〟と化す可能性も。各事業者には未収分の回収という難題が待ち構えており、特別措置の段階的な終了に伴う〝副反応〟が懸念される。

教条的な電力自由化の見直し 絶好機を損なう不正閲覧問題


【論説室の窓】井伊重之/産経新聞 論説副委員長

大手電力による顧客情報の不正閲覧が電気事業を揺さぶっている。

ようやく高まった自由化見直しの機運が、この問題で損なわれかねない。

「ここまで電力自由化が骨抜きにされているとは正直驚いている。それだけに極めて深刻な事態だと受け止めている」

経済産業省・資源エネルギー庁の幹部はこのように語り、電力業界で新電力の顧客情報の不正閲覧が相次いだことにショックを隠さない。今回の不祥事は電力自由化の旗を振ってきた経産省も大きな衝撃を受けたようだ。

関西電力を発端に東北電力や九州電力、中部電力など電力大手6社の送配電子会社が管理する新電力の顧客情報を巡り、同じグループの小売会社に漏えいさせていたことが発覚した。特に関電の場合は「不正と知りながら営業活動に利用していた」と答えた社員も多く、不正閲覧が常態化していた実態が浮き彫りになっている。

残る5社は「停電など災害時のために顧客情報を知る必要があった」などと説明し、営業利用は否定している。だが、こうした報告はあくまで社内調査によるものだ。このため、経産省の電力・ガス取引監視等委員会(電取委)は2015年の発足以来、初めて関電に対して電気事業法に基づく立ち入り調査に入った。他電力にも徹底的な調査を改めて要請した。その後、東京電力グループでも経産省システムへの不正アクセスが発覚した。

記者会見で陳謝する関電の森望社長(右端)ら
提供:時事

制度改革議論への影響必至 法令順守体制の見直しを

エネ庁が今回の事態にショックを受けたのは、電力会社の送配電部門を本体から切り離す「発送電分離」が電力システム改革(電力自由化)の中核に位置付けられてきたからだ。その自由化の本丸を根底から揺さぶる顧客情報の不正閲覧は、今後の制度改革論議にも影響を与えるのは必至だ。

11年3月に発生した東京電力福島第一原発事故を受け、経産省は3段階で電力システム改革を進めた。15年4月に全国的な電力系統の司令塔として電力広域的運営推進機関(広域機関)が設立されたのに続き、翌年4月には家庭用を含めた電力小売りが全面的に自由化された。そして改革の仕上げとして20年4月、電力会社から送配電部門を切り離す発送電分離が実施された。

これによって送配電部門は電力会社から法的に分離されて子会社となり、ほかの新電力などとも中立的に付き合うことを義務付けられた。電力インフラの送配電を電力会社から独立した存在とし、自由化で新規参入した新電力がその送配電網を使って活発に営業活動を行えるようにするのが目的だった。送配電子会社には「行為規制」が導入され、グループ会社などとの情報交換だけでなく、役員人事などの交流も制限された。

しかし、送配電子会社を通じた情報漏えいが表面化したことで、電力自由化の基本設計が大きく揺さぶられている。電取委による業務改善命令などの行政処分は確実だが、西村康稔経産相は「中立性、公正性を揺るがす大変遺憾な事態だ」と批判し、送配電会社の中立性の確保に向けて必要な措置を検討する考えを示している。

今回の不正閲覧について、大手新電力は「電取委は、新電力に流れた顧客を大手電力が取り戻す営業手法などには規制を講じてきた。だが、肝心の顧客情報が送配電会社から流れていたのでは、新電力が大手電力に太刀打ちできるはずがない」とあきれた様子だ。そして経産省に実効性のある再発防止対策を講じるように求めている。

同省幹部は「送配電と小売りの情報遮断ができていなかったことで、送配電の中立性をより高めるために所有権分離(資本分離)を求める声も上がるだろう。だが、今回の不祥事は仕組み自体の問題ではなく、法令順守(コンプライアンス)体制の問題が大きい」とみている。同省も送配電の資本分離にまで踏み込むつもりはないようだが、法令順守体制の仕切り直しを迫られそうだ。

タイミングは「最悪」 自分の首を締めた電力業界

何よりも問題なのは、電力自由化が想定していなかった事態が頻発し、自由化の見直しが急務となる中で、今回の不正閲覧が起きたことである。これによって自由化をより徹底する形で送配電会社の中立性を確保することが検討され、現実に即した制度見直しができない恐れがあるからだ。

自由化が想定していなかった事態とは何か―。それは原発の再稼働が遅れる中で全国的に電力需給がひっ迫し、電力不足が深刻化していることだ。また、太陽光など再生可能エネルギーの大量導入で調整電源となった火力発電所の稼働率が低下し、採算が悪化して老朽発電所を中心に休廃止も急速に進んでいる。

さらに世界的なエネルギー価格の高騰で国内でも電力価格が値上がりし、取引所を通じて電力を調達してきた新電力の経営が急速に悪化。電力販売から相次いで撤退し、そうした新電力と契約していた企業や自治体は「電力難民」となり、送配電会社から最終保証供給を受けるようになった。これも自由化は想定していなかった。

経産省も「エネルギー政策は遅滞している」と指摘し、電力不足への対応や新電力の経営基盤の拡充を課題としていた。ようやく教条的な電力自由化を見直す好機だったにもかかわらず、今回の不祥事で再び理念先行で自由化の再設計が進みかねない状況だ。電力業界は自ら首を絞めてしまった。

電力業界の法令順守体制を巡っては、不正に競争を制限するカルテル疑惑も表面化した。電力自由化で廃止された「地域独占」を守るため、関電が主導して中部、中国、九州の各電力と相互の不可侵協定を結んでいたとされる。ただ、このカルテル疑惑は、関電側が作成した飲み会での議事録が有力証拠とされるが、その正確性を疑問視する声も根強く、電力側は反論する準備を進めている。

とはいえ、少なくともカルテル疑惑を招く行為があったのは事実で、不正閲覧も含めて法令順守体制の抜本的な見直しは不可欠だ。自らの信頼を損ねる行為が続けば、原発活用もさらに困難になり、電力会社の経営基盤は脆弱化するばかりだと厳しく認識してほしい。