【メディア放談】総合経済対策での負担軽減策 いつかバラマキのツケが


<出席者>電力・ガス・石油・マスコミ/4名

政府は総合経済対策で、エネルギー料金の負担軽減策などを打ち出した。

無駄な施策も多く見られ、将来世代に余計な負担を残すことになりかねない。

 ―ウクライナ戦争、化石燃料の高騰、料金値上げなど、今年もエネルギー業界ではいろいろと出来事があった。

電力 ロシア軍のウクライナ侵攻で化石燃料の価格が高騰し、世界中の国がダメージを受けた。中でもロシアに依存していた西欧の国は大きな痛手を被った。今の暮らしはエネルギーが安定的に供給されることで成り立っている。1年間を振り返ると、その大切さを痛感した年になった。

―電力6社は規制部門の料金改定の申請に踏み切った。

電力 各社の決算を見てほしい。燃料費の上昇で逆ザヤが続いて、売れば売るほど赤字が増える。料金改定での査定は米櫃に手を突っ込まれるようなもので、誰もそんなもの受けたくない。だが、コスト削減や効率化で何とかなるような状態はとっくに超えている。

―政府も総合経済対策で電気・ガス料金、ガソリン価格などの抑制策を打ち出している。

マスコミ 欧米ほど値上がり幅は大きくなく、経産省は政府の意向を深刻に受け止めていなかった。だが、支持率が低下気味の政権は電気料金の上昇に敏感だった。総合経済対策の目玉の一つにして、経産省に「料金を引き下げろ。案を考えろ」と下達した。

ガス 日経が10月から連載した「ニッポンの統治」がその辺のドタバタ事情を書いている。経産省は託送料金の引き下げなどを考えたが、政権は「請求書に直接反映する形」にこだわった。それで「目に見えるかたちで下げろ」と突き返されて、アパシー状態に陥った。電力会社が知恵を出して何とかなったが、今も経産省幹部は「やる必要は全くないことなのに」と話しているらしい。

マスコミ 確かにエネルギー料金値上げの影響を大きく受ける低所得者層には、既に「価格高騰緊急支援給付金」などの制度がある。

電気・ガス料金の負担軽減策の予算額は約3兆1000億円。それだけあれば、風力発電の地域から首都圏に送電線が敷ける。あるいは安全性が高い新型原発が3基建設できる。経産省幹部の無力感も分かる。

電力 電気・ガス料金の負担軽減の補助は来年9月に半分にするとしている。だが、燃料価格と為替の動向次第でダラダラと続けるかもしれない。経産省はやる気を失っているようだよ。

耳を疑った首相答弁 政権の体たらくを露呈

―岸田政権の政務担当秘書官は経産省OBの嶋田隆さんだが、どうも官邸と経産省はしっくりいっていないようだ。

ガス 耳を疑うことがあった。10月7日の参議院本会議のことだ。公明党の山口那津男代表から電気料金だけでなく、都市ガスの引き下げも検討するよう求められた。その時、首相は「ガスはほとんどが長期契約で調達され、比較的調達価格の安定性が高い」と答えている。

―電力会社もガス会社もLNGの契約は同じだ。

ガス 記者会見での発言ならまだ分かる。だが国会の代表質問で、しかも相手は連立を組む党の党首だ。役人は首相の草稿を何度も推敲するはずだが、誰も気が付かなかった。今の政権の体たらくを露呈してしまった。

石油 負担軽減策は昨年のガソリンから始まって、当初は電気料金にとどめるはずだった。しかし普通に考えると、都市ガスもLPガスも値段が上がっているから、対策を考えなければ不公平が生じる。それで都市ガスは1㎥当たり30円を補助する。

―ところがLPガスは配送合理化などの約150億円の補助事業になった。

石油 おそらく急にLPガスも対象になって、官邸から「この日までに案を出せ」と経産省に指示が下りてきた。それで業界に相談する時間がなくて、役人だけで案をまとめた。中身はというと、業界人から見ると明らかに政策がこなれていない。例えば充てん所の自動化。「これが料金の低減につながるとは思えない」と業界人は皆言っている。

マスコミ 一方で、全国で180万世帯が利用している簡易ガスには何の補助もない。都市ガスやLPに比べて需要家数が少ないから無視でいいということか。まさに片手落ちだよ。

22兆円の国債追加発行 否めないバラマキ感

―総合経済対策を裏付ける補正予算の額は約29兆円。そのうち約22兆8000億円を国債発行で賄う。話を聞くとバラマキ感は否めない。

電力 残念なのは今回の対策を読み込んで、取材して無駄を指摘するジャーナリストがいないことだ。誰も気が付かないうちに、将来に膨大なツケを残すことになりかねない。

石油 一昔前は世代や「左右」を問わず、『文藝春秋』『中央公論』『世界』『朝日ジャーナル』などの雑誌に存在感があった。ところが今は、定年退職者が図書館で読むものになってしまった。

―その代わりにSNSで情報を集めている。

石油 それでフェイクニュースや、誰が書いたか分からない記事が世の中に広まるようになった。「自国通貨建てならば、国債はいくら発行してもかまわない」という説がある。それを信じる人たちが増えている気がする。

マスコミ 野党だけでなく、自民党の中にも積極的な財政政策を主張する人たちがいる。だが、岸田さんは財政規律を重んじた宏池会の総理総裁。その政策だけに、財務省などのまともな役人は茫然としているよ。

―赤字国債の発行を悔やんでいた故大平正芳首相が、草葉の陰で嘆いているはずだ。

【マーケット情報/12月23日】欧米原油が急伸、供給不安強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。特に、米国原油を代表するWTI先物、および北海原油の指標となるブレント先物はそれぞれ、前週比5.27ドルと4.88ドルの急伸となった。供給不安が要因で、需給逼迫感が強まった。

ロシアは2023年初頭、G7の価格上限に対する対抗措置として、産油量を日量50~70万バレル程度削減する方針を示唆した。また、同国政府は、価格上限下での輸出を禁止する法案を通す計画だ。英国では、ストライキを背景に、北海油田における生産が停止するとの懸念が台頭している。

さらに、米国・ノースダコタ州では、寒波の影響により、同州の産油量110万バレルのうち、最大で日量35万バレルの生産が停止。テキサス州でも、悪天候による出荷の遅延が予想されている。加えて米政府は20日、イランとの核合意に向けた会合に進捗がないことを公表。イラン産原油の供給増加は当面見込めないとの予測が広がり、価格に対する上方圧力として働いた。

需要面では、中国で長期的な消費増加が見込まれており、需給を一段と引き締めた。同国では、新型コロナウイルスの感染が再拡大しており、足元の需要は限定的。ただ、製油所の稼働率は、11月に過去18カ月における最高を記録して以来、高稼働を維持しているもよう。石油会社による西アフリカからの購入も増加しているようだ。

【12月23日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=79.56ドル(前週比5.27ドル高)、ブレント先物(ICE)=83.92ドル(前週比4.88ドル高)、オマーン先物(DME)=78.58ドル(前週1.77ドル高)、ドバイ現物(Argus)=78.18ドル(前週比1.96ドル高)

古くて新しいエネルギー業界 大胆な変革が脱炭素へのカギ


【リレーコラム】永井裕介/レノバ執行役員CSO GX本部長

 私が学生の時に研究していたテーマは、家庭部門のCO2排出量を2050年に50%削減できるか、といったものだった。それが今や脱炭素が当たり前となり、30年に50%削減、50年にはカーボンニュートラル(CN)達成という目標をよく目にするようになった。

一方、CN宣言はしたものの、実現の道のりが明確に見えている企業は少ないのではないだろうか。

例えば航空業界。製造業のように電化して再エネを用いて飛行機を飛ばすというわけにはいかず、グリーンな燃料が必要だ。ただし、必要量に対して現状の供給量はごく一部にとどまっている。

この例に代表されるように、打出の小づちのように、市場からソリューションを買えば脱炭素ができるという状況ではまだない。

こういった状況にどう対応すべきだろうか。

スーパーなどを展開するウォルマートでは、取引先までを対象に含めて、30年までに10億tのCO2削減を目指している(ちなみに、日本の総排出量に相当するため、一企業が掲げる目標としてとても大きい削減量である)。この大需要を満たすために、新たな再エネ発電所が設置されるという好循環が生まれている。

脱炭素推進はリーダーシップが必要

先に見たように、脱炭素のソリューションは市場に十分になく、どの企業もCNを目指しているため、需給ギャップは当面タイトな状況が続くと予測される。

待っているだけでは脱炭素は進まず、需要家は他との差別化のために、ウォルマートのような、強いリーダーシップを発揮する必要があるのではないかと思う。強い需要が供給を喚起し、市場創出が進んでいくことを期待している。

また、この例にもあるように、変化の大規模性も特徴だ。CNを達成するということは、社会インフラやサプライチェーンがガラッと変わるということを意味する。

FIT導入後10年が経ち、一定の成果があったと思うが、まだ社会がガラッと変わったというところまでは至っていないのではないだろうか。脱炭素に向けた取り組みはさらに加速が必要で、供給側の大胆な変革も求められる。

このように、強いリーダーシップを持った需要家と供給者が一緒になって、新たなエネルギー業界が作られていくのだと思う。中間年度である30年を良い形で迎えられるよう、当社でも脱炭素のソリューション開発に取り組んでいきたい。

ながい・ゆうすけ 大学で環境システム学を学び、レノバ(当時リサイクルワン)に入社。環境コンサルなどに従事し、再エネ事業の開発全般をけん引。現在はCSOとして、グリーン分野の戦略策定や、新規プロジェクトの開発を統括する。

※次回は大阪ガス理事の揚鋼一郎さんです。

【小林一大 自民党 参議院議員】「新潟が秘める大きな可能性」


こばやし・かずひろ 1997年東京大学経済学科卒業。損害保険会社勤務を経て2007年より新潟県議会議員(4期)。22年参院選初当選(新潟選挙区)。朝日観音普談寺、副住職。

新潟に貢献したいと県議会議員を長年務め、議会運営や政策実務に携わる。

参院選で現職を破り当選。柏崎刈羽原発再稼働問題など難題に取り組む。

実家は新潟市にある真言宗の古刹、普談寺。父は新潟県庁を経て、新津市長を3期務めた小林一三氏。市長として汗を流し、新津市が活性化する様子を間近で見てきた。大学を卒業後は東京海上火災保険(現・東京海上日動火災保険)に勤務を経て「いつか地元新潟に貢献したい、故郷に恩返しがしたい」と思い、2005年に新潟に戻り家業を継いだ。

07年4月の新潟県議会に最年少の33歳で出馬すると、17814票を獲得しトップ当選を果たした(新潟市秋葉区)。以降、4期15年にわたり県政運営に携わり、県議会では議会運営委員長として、自民党県連では政務調査会長として実務の中心を担った。議会のDX(デジタルトランスフォーメーション)化など改革を進め、県民の声を聞き寄り添う県政を行う中で、新潟の地域活性化を阻む問題として「人口減少による農業の持続性」を挙げる。「新潟県は日本でも有数の米どころだが、多くの若者が新潟から首都圏、関西圏へ向かってしまう」。農業の担い手がおらず高齢化が進む現状。米価が下落し利益が上がらず、担い手がますます減るスパイラルに陥っていると指摘する。そのため、将来を見据えた幼児教育・専門教育の重要性を掲げる。「レベルの高い教育を受けて、将来的に新潟に還元してくれる人材や、地元に残り新潟を支える人材を育成することが重要」と、若者への支援を推進。そのほか「いじめ等の対策に関する条例」の制定など、議員提案条例の制定にも積極的に動いて、教育政策に貢献してきた。

また、22年2月の定例県議会で、ポスト・コロナ社会を見据えた脱炭素社会への転換、デジタル改革の実行、分散型社会の実現を目指す「住んでよし、訪れてよしの新潟県」を進める予算案の成立に尽力。新潟県はバイオマス発電やメタンハイドレート発掘、水力ダムなど自然由来の資源エネルギーが豊富であり「新潟は食料自給率もエネルギー自給率も高く、大きな可能性を秘めている地域」と話す。地元の秋葉区は新津油田で知られた石油の里であり、エネルギー政策の重要性を身近に感じてきた。新潟の活性化には再生可能エネルギーを含んださまざまなエネルギーの利活用が必要だと訴える。

それまで「地方を元気にすることが日本の活力を生む」と県政に取り組んできたが、国政に目を向けると、所属する自民党は参議院新潟選挙区の議席奪還を目指していた。7月の参院選に向けて立候補を打診され「全県では無名の新人だが、これまでの経験を生かし地方の声を国に届ける仕事ができれば」と悩みながら受諾。県議会での経験と、4人の子供を育てる世代として育児支援の必要性、地元経済の活性化を訴えた。選挙戦最終日には岸田文雄首相がマイク納めを新潟市で行うなど応援を受け、全国区で高い知名度を持つ森裕子氏を破り、参院選初当選を果たした。

柏崎刈羽再稼働問題は最重要課題 東電と国は丁寧な説明を

現在は国と新潟の間での調整役を担うが、目下の問題として、柏崎刈羽原子力発電所の再稼働に対する国や東電の姿勢がある。自身は新潟県が進める「福島第一原発の事故原因の検証」「原発事故が健康と生活に及ぼす影響の検証」「万が一原発事故が起こった場合の安全な避難方法の検証」の三つの検証結果が出るまで再稼働は慎重に対応すべき、という姿勢を支持。「エネルギー危機の中、国による原子力の積極的な活用は電気代の国民負担軽減、カーボンニュートラル実現という点で理解できる」と話すも、東電には改めて信頼回復につながる行動を求めている。

地元住民の感情として「首都圏で使う電力を新潟県民がなぜリスクを負うのか、という思いがある」と訴える。発電所職員によるIDカード不正利用問題や、核物質防護設備機能の喪失など不祥事が続く中、再稼働へ坦々と進む様子に「まず信頼を回復するため新しい体制を作り、今の東電に任せても大丈夫、と住民に思ってもらえる努力をしてほしい」と苦言を呈した。一方で、福島原発事故を経験し、地域住民へ丁寧な説明を行う柏崎刈羽原発の現場責任者の行動を評価。これからの住民感情の変化に期待している。

8月に岸田首相が「国が前面に立つ」と再稼働に前向きな姿勢を示したことについても「前面に立つ、と言うが具体的に何をするのかが大事」として、避難計画の策定を国の責任で進めるなど国策としての行動を求めた。「再稼働すれば、この国のエネルギー事情は一段階改善する。そのためにも急がず丁寧な説明を求めていきたい」。新潟県選出議員として国と地元の政策の板挟みになる立場だが、座右の銘である「不動心」の思いを秘める。一度決めたらぶれずに、自分の信念を貫く。新潟の発展のためにこれからも粉骨砕身する覚悟だ。

【需要家】GXリーグで証書活用 是非に疑問


【業界スクランブル/需要家】

政府は、GX(グリーントランスフォーメーション)に向けた企業の自主的な削減目標設定を前提に、目標を超過達成した企業はその分を排出権として売り、目標未達時には排出権を購入して自らの目標を達成できる自主的排出権取引制度の導入を検討している。目標設定も取引によるオフセットの実施も企業の自主裁量に任されるため、企業経営に政府が制約やペナルティーをかけるものではなく、自主的な取り組みで対策を加速させる日本流の仕組みとして一定の効果が期待できる。

しかしここで問題となるのが、この取引においてFIT(固定価格買い取り制度)非化石証書を購入することで自社の排出量をオフセットすることが認められていることである。FIT非化石証書は5月のオークションで約1000億kW時と莫大な量が売り出され、そのうち2%、約21憶kW時分が最低価格1kW時当たり0.3円で落札。改正された非化石証書のルールでは、地球温暖化対策法上、企業のCO2排出削減に充当できることになり、制度上問題はない。だが、日本の電力排出原単位をもとに試算すると、0.3円の非化石証書は排出権価格に換算すると1tCO2当たり約600円になる。GXリーグの排出権取引の枠内で、企業は同600円以上の削減対策を実施するインセンティブがなくなる。

しかもFIT非化石証書は、既に賦課金を受けて設置された再生可能エネルギー発電設備に由来するものであり、証書の取引により追加的な再エネ投資やCO2排出削減が発生するわけではない。追加性のない安価な非化石証書を使って、自主的に掲げた目標を達成する企業が続出するようになれば、GXリーグ自体が一種のグリーンウォッシュ活動と批判される懸念が出るのではないだろうか。(T)

卸電力・需給調整市場の見直し 電力取引の全体最適化を指向


【識者の視点】小笠原 潤一/日本エネルギー経済研究所研究理事

現在の電力取引システムでは、メリットオーダーが成立しないなどの課題が生じている。

そのため市場の在り方について検討が行われ、kW時と⊿kW同時約定市場の設置が提案されている。

卸電力市場および需給調整市場の在り方について、大幅な見直しにつながる検討が進められている。検討課題は主に燃料確保の在り方と卸電力市場・需給調整市場の在り方であるが、本稿では後者について概要の整理と課題の抽出を試みたい。

現在、スポット市場と需給調整市場は異なった時間軸で取引が行われているが、①一部調整力で調達不足を招いたり、ブロック入札による未約定、スポット市場と需給調整市場の価格設定方法の違いにより必ずしも全体でメリットオーダーが成立していない、②稼働時間の予想が難しい中で起動費などを入札単価に正確に反映させることが難しい―といった課題が生じている。

そのため2021年12月に「卸電力市場、需給調整市場及び需給運用の在り方勉強会」が設置され、望ましい市場・運用の姿について検討が進められ、22年6月に取りまとめが行われた。燃料確保の課題への対応や、安定供給のための電源起動とメリットオーダーを達成する仕組みとしての週間断面での電源起動の仕組みと、前日段階でのkW時と⊿kW同時約定市場の設置の提案が行われた。

また、同時約定市場ではメリットオーダーを判断するために、①ユニット起動費、②最低出力費、および③限界費用カーブでの入札―というThree-Part Offerという米国のRTO(広域系統運用機関)・ISO(独立系統運用者)で採用されている入札方式の採用が提案されている。

こうした提案の実現可能性を追求すべく22年7月に「実務検討作業部会」が設置されるとともに、下部組織として「燃料WG」および「市場WG」が設置され非公開の下で具体化に向けた検討が進められている。

中給システム見直しと連動 前日スポット市場を中心に

今回の卸電力市場の見直しが中央給電指令所システム(中給システム)の見直しと併せて実施されていることから、これに連動していると考えることができる。

現在、需給調整市場の広域運用を実現すべくシステム改修の検討が行われているが、次期中給システムの全国大での需給調整対象はバランシンググループ(BG)発電計画量に上げ調整力を含めた範囲とされていることから、従来、前日スポット市場がBG発電計画を策定するための補助的役割だったものを中心的役割に変更して給電可能な全ての電源を対象とし、従来BG単位での売入札をユニット単位に変更する提案と考えることができる。

なお、BG側が相対取引など確実に供給力として確保しておきたい電源や流込式水力発電など給電指令に従えない電源は、セルフスケジューリングとして発電枠を確保することも提案されている。

これに関して異論もあるようだが、既存の相対契約を先物取引に切り替えた際に、発電量を確保しておきたい電源は限界費用入札しか認められないとすると量的リスクを抱えることになる。各種制度間の整合性を踏まえた議論が必要であろう。

またスポット市場の価格形成において、現状は売札が不足して需給がマッチングしない場合には買入札価格がスポット価格を決めるが、同時市場を導入することでそうした頻度は低下するため、買入札価格自体を見直す(デマンドレスポンスや自家発との差し替え分以外は垂直の入札曲線になる)ことや、小売り側からの買入札量がTSO(一般送配電事業者)の需要予測を下回った場合にはTSOが追加で買入札を行うことも提案されている。

このように従来はBGが卸電力取引の担い手であったものが、その役割は相対的に縮小することになり、全体最適化を強く指向した提案内容といえる。

卸電力市場と併せて中給システムの見直しが行われる

需給ひっ迫を予見したら 揚水発電の運用に知恵を

本稿を執筆している時点(11月15日)では週間断面での電源起動の仕組みと当日市場の枠組みに関して具体的内容は明らかではない。ただし週間断面での運用では、次期中給システムの検討でも需給ひっ迫が予見される場合などに発電機起動停止計画策定機能を装備するとしており、起動に1日以上時間を要する電源はそうしたプロセスで判断されることになると考えられる。

一方で揚水発電の運用は前日段階でPJM(米国北東部地域の地域送電機関)が最適化運用計画を策定・指示することができるものの、複数日をまたがった判断は行っていない。日本ほど揚水発電を導入している国が少ないため海外に類似事例を求めることは難しく、国内で知恵を絞るしかない課題といえる。

当日市場についても再生可能エネルギー予測誤差を引き続き三次調整力②で対応していくのか、当日市場のプロセスで対応していくのか明らかではない。この点、日本と同様に太陽光発電の導入量が多い米国のカリフォルニアISOでは、4時間半前に再エネ発電の予測誤差などを考慮し、供給力の起動時間を踏まえて拘束力のある起動命令を出すなどの供給力の持ち替えを行う短期ユニットコミットメントという仕組みを採用している。しかし、類似の仕組みにしようとするとBG計画をTSOが強制的に変更することになり、現状の提案と整合的でなく難しい課題といえる。

卸電力市場および需給調整市場の見直しの方向性が決まったとして、その適用時期であるが今のところ明言されていない。しかし、次期中給システムのうち共有システム構築が27年度中、28年度から適宜各社中給システムが移行するとされていることから、卸電力市場および需給調整市場の見直しが適用されるのは早くてもこのタイミングになると考えられる。

ただしノーダル制なのかゾーン制を維持するのかなど、肝心の価格設定方式が議論されておらず、それらの進捗次第ではさらに後ろ倒しになる可能性もある。

おがさわら・じゅんいち 青山学院大学大学院国際政治経済学研究科卒(国際経済学修士)。1995年日本エネルギー経済研究所入所。2018年から現職。専門はエネルギー需給分析、電力経済、欧米諸国の電力規制緩和政策。

【再エネ】安定供給と脱炭素 カギ握る「脱中国」


【業界スクランブル/再エネ】

欧州風車メーカーに関する記事で、「(当社の)風車部品の約85%が中国で調達されている」との一文が目にとまった。世界の風車導入量ならびに風車メーカーシェアは、いずれも中国が約50%を占める。その上で冒頭の一文をみると、風車産業における中国依存の実情が伺いしれる。過去欧州では、太陽電池産業が中国との競争に敗れたが、風車産業では域内企業が優位性を守ってきた。しかし、ここにきて洋上風力分野で、英国が中国との関係強化や企業誘致を進めるほか、その他の国でも中国企業の進出や受注などのニュースが増えている。

一方、例えば米国では、今年成立したインフレ抑制法で国内調達基準を満たす場合に税控除額を上乗せする仕組みが設けられた。こうした取り組みは、産業の牽引役となるバリューチェーンの下流(需要=事業サイド)に明確なメッセージとインセンティブを与え、サプライチェーン構築の推進力となっている。日本でも、経済産業省がサプライチェーン関連の補助金を交付し、風車産業や蓄電池産業の投資を後押ししている。しかし、これは文字通りバリューチェーンを「後ろから押す(供給先行)」アプローチで、産業全体を動かす効果は限定的と言わざるを得ない。両者の違いとして注目すべきは、成果とインセンティブの紐付きだ。需要側へのアプローチは、成果を最大化する誘因がバリューチェーン全体に強く働くほか、効果測定の観点からも合理的といえる。

脱炭素やエネルギー自給の要となる再生可能エネルギー、その周辺領域の蓄電池・水素などは、中国依存というサプライチェーンリスクを抱える。真のエネルギー安定供給を目指すには、コスト面の課題を含めた「脱中国」という大きな壁に正面から立ち向かう必要がある。(C)

脱化石燃料の主役になれるか 社会実装に向け動き出したe-fuel


【多事争論】話題:e-fuelの可能性

官民を挙げたe-fuel社会実装に向けた議論が始まった。

石油系燃料の脱炭素化への期待が高まる一方、課題も山積している。

〈 石油産業によるCN実現の中心的方策 主役は「パワー・ツー・リキッド」 〉

視点A:橘川武郎 国際大学副学長・大学院国際経営学研究科教授

2022年9月16日、「合成燃料(e-fuel)の導入促進に向けた官民協議会」がようやく発足した。「ようやく」という表現を用いたのは、合成液体燃料に関する官民協議会発足のタイミングが水素、燃料アンモニア、メタネーション(合成メタン)などの場合に比べてかなり遅れたからである。

とはいえ、ともかくも合成液体燃料についても官民協議会が発足したことは喜ばしい。なぜなら、合成液体燃料こそ、石油産業がカーボンニュートラル(CN)を実現するための中心的な方策、「プランA」にほかならないからである。

日本の石油業界は、すでに利用しているガソリン代替のバイオエタノールや軽油代替のバイオディーゼルに加えて、持続可能な航空燃料としてバイオ由来のSAF(Sustainable Aviation Fuel)の導入を進めようとしている。SAFは、ICAO(国際民間航空機関)の進めるCO2削減枠組みの達成にとって大きな意味を持つ。

しかし、バイオ由来のSAFは、量的制約もあり、石油産業におけるカーボンニュートラル実現の主役にはなりえない。主役となるのは、「パワー・ツー・リキッド」という方法で、再生可能エネルギー由来の電力を使って水を電気分解して得た水素とCO2とを合成して生成する液体燃料、つまり、「e-fuel」と呼ばれる合成液体燃料である。

合成液体燃料は、カーボンニュートラル達成後の時期にも、航空機用のみならず、船舶用、大型車両用、商用車用として広く使用され続けると見込まれている。もちろん、それ以外の燃料や原料としての利用も継続するだろう。その理由は、二つある。

一つは、液体燃料が、エネルギー密度の高さの点で秀でていることである。液体燃料の「使い勝手の良さ」は、気体燃料や固体燃料とは比べものにならない。

しかし、液体燃料がいくら使い勝手が良いとは言っても、これまでのように、使用時にCO2を排出しっ放しでは、カーボンニュートラルの時代に生き残ることはできない。そこで、合成液体燃料がカーボンニュートラルな燃料であるという、もう一つの理由が重要になる。

合成液体燃料であっても、使用時にはCO2を排出する。しかし、製造時にCO2を吸収することによって相殺されるとみなされ、カーボンニュートラルな燃料として取り扱われるのである。

現在使われている石油系燃料を合成液体燃料に置き替えることができれば、街のSS(サービスステーション)を含む既存の石油インフラの多くを、そのままの形で活用することが可能になる。カーボンニュートラルを達成するには、エネルギーコストの相当程度の上昇が避けられない。コスト上昇を抑えるためには、さまざまなイノベーションを実現しなければならないが、それとともに、やるべきことがもう一つある。

コスト抑制に欠かせないインフラ活用 石油・自動車業界の調整難航がネックに

それは、既存インフラの徹底的な活用である。既存の石炭火力を使い倒す燃料アンモニアの使用が電力産業において、既存のガスインフラを使い倒すメタネーションが都市ガス産業において、それぞれカーボンニュートラル化への決め手となっているように、石油産業においても、既存の石油インフラを使い倒す合成液体燃料が、カーボンニュートラル化の決め手となる。カーボンニュートラルへ向けた石油産業の「プランA」が合成液体燃料になるのは、このためでもある。

ここまで述べてきたように重要な意味をもつ合成液体燃料ではあるが、社会実装のためにはまだまだ課題も多い。官民協議会の発足が出遅れた背景には、石油業界の足並みが必ずしもそろっていない、石油業界と自動車業界との調整が簡単には進まない、などの事情がある。

それだけではなく、先行するメタネーションの官民協議会の検討を通じて浮かび上がってきた、合成燃料固有の課題も存在する。ともに水素とCO2とを合成して生成する合成メタンと合成液体燃料は、合成燃料として一括視することが可能である。

合成燃料固有の課題としては、まず、使用時にCO2を排出するため、カーボンニュートラル燃料として国際的に認証されるには手間暇がかかるという問題がある。また、合成液体燃料によるCO2削減実績の帰属先を排出側にするのか利用側にするのかが決まっていない、という問題もある。

これらの課題を克服して合成液体燃料の社会実装を実現するには、官民の力を合わせた積極的な取り組みが求められる。

きっかわ・たけお 1975年東京大学経済学部卒、東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。経済学博士。一橋大学教授、東京理科大学大学院教授を経て2021年4月から現職。

【火力】火力活用のロードマップ 多様な知見の結集を


【業界スクランブル/火力】

今年も残りあと1カ月となったが、エネルギーを取り巻く情勢は、電力の需給ひっ迫に加え燃料費の高騰と厳しさを増すばかりの1年だった。

政府は総合経済対策で、電気やガス代の軽減対策やLNGの在庫確保の支援策を打ち出すなど足元の対策に躍起になっているが、付け焼刃の対策だけでは早晩行き詰ってしまう。もちろん眼前の危機を乗り越えるために必要なことではあるが、そのことに気を取られて、抜本的な対策の検討がおろそかとなってしまっては元も子もない。

例えば、中長期の対策の目玉として検討が進んでいる「長期脱炭素電源オークション」であるが、脱炭素のイメージを先行させるばかりで、結局リスクを事業者に丸投げするような内容となっており、今のままでは狙い通りには機能しないだろう。

一番のポイントは、石炭火力の新設を対象外としている点。コスト面から既設の改造は有りとしているが、ライフサイクルを考えると、高性能の新設設備を燃料転換やCCS(CO2・回収貯留)付きに改造していく方が優位となる可能性が高い。 一方でCCSが困難との意見もあるが、この技術はブルー水素・ブルーアンモニア製造時にも必要であり、トランジションの途上で避けられない。また、CCS付きIGCCの実証試験などの石炭利用の脱炭素化技術開発も進んでいるのに、石炭火力の新設を闇雲に対象外とするのはおかしなことだ。

現状の危機を脱しGXを実現するには健全な供給力を確保した上で、大胆な技術開発と国家規模のサプライチェーンの再構築という多くの課題を一歩ずつ進めることが必要となる。徒に脱炭素の理念を振り回すことなく、各方面の知見を結集し、皆の腹に落ちるロードマップを策定することが先決だ。(N)

【原子力】半歩前に進んだ首相 評価は時期尚早


【業界スクランブル/原子力】

この冬、戦争被害の広がるウクライナをはじめ、世界的な電力不足により凍死者も出かねないという状況だ。日本ではそんなことにはならないと信じているが、節電によって我慢をしなければならないし、工場の停止といった事態はあり得る。エネルギーはマクロ経済とミクロ経済をつなぐ位置にあり、経済成長といったマクロと、暮らしや企業活動といったミクロの両方に大きな影響を及ぼす。

だからエネルギーミックスの変更を日本も考え直さないといけない状況にある。資源の乏しい日本にとって、特に原子力発電は重要だ。再生可能エネルギーだけでは安定供給が確約できない上、コストアップで家計負担や国民負担が増大する。国の経済対策では税金で穴埋めをしているだけでは抜本的解決にならず、国内経済への影響を踏まえれば原子力が現実的な選択肢の一つであることを理解する必要がある。

その上で、プラス面とマイナス面をしっかりと議論し、国がエネルギーミックスの形に応じた家計負担のメニューを示し国民の納得を得た上で原子力利用拡大を進めるべきだ。そうした視点では、8月に政治が半歩前を進む形で、岸田文雄首相が次世代革新原子炉の開発の方針を打ち出したことは評価できる。

ただ、「政策転換」とまで高く評価するのは時期尚早ではないか。なぜなら、首相の新方針には再稼働推進は盛り込まれているが、十年もの間、再稼働停滞を放置している原子力規制委員会が首相の掛け声だけで積極的に変わるとは到底思えないし、首相の新方針から半年弱も経とうとしているが、肝心の原発の新増設の計画・方針はいまだに一切触れられていないためだ。結局、新型炉の研究・開発だけでお茶を濁す可能性もある。まだまだ要注意だ。(S)

【追悼】故 南直哉氏の思い出~ 次の時代を築くべく変革に立ち向かう「電気事業人」として生涯を貫く


東京電力の社長を務められた南直哉氏が亡くなられた。

電気事業のトップを走る気概で、競争と協調の時代を実践した。

電力会社、電力業界の大きな節目に立ち会っていたからだろう。上り坂と下り坂のただ中で電気事業はどうあるべきか、常に問いかけていた。

南直哉氏は1935年三重県生まれ。進学した伊賀市上野高校時代には往復20㎞を毎日自転車で通ったという。事務仕事より筋肉労働の方が性に合っていると語る所以でもある。

58年に東大法学部を卒業し東京電力(現東京電力ホールディングス)入社。経理部決算課を経て企画部門へ。そこで「東電企画部」を育てた依田直氏(元副社長)に見出され階段を駆け上がる。77年企画課長に就くと阿佐ヶ谷(当時)支社長を除いて企画部長、取締役・企画部担任と企画部門の顔として激動の80~90年代の東電と電気事業を引っ張った。常務、副社長を経て99年社長に就く。

当時公益事業を代表する東電トップは、平岩外四氏(76年社長)から三代続いて総務部門から出ており、企画部門の南氏が抜擢されるとマスコミを含め驚きが走った。参謀役に徹していたとはいえ、心の準備はあったのか荒木浩社長から内示を受けると、役員食堂にいた先輩幹部にいささか高揚した表情を見せ、挨拶したという。

南氏が社長に就いた時、東電の売上高は5兆円を上回り、業界だけでなく経済界の頂点あるいはその近傍に在った。2001年3月創立50年の節目に発表した経営ビジョン「エネルギー・サービスのトップランナー」は、本格化する電力自由化のただ中にあってもトップを走る気概と戦略が込められていて、社長就任2年でエネルギー・環境、情報・通信、住環境・生活関連事業の分野で関係会社9社を設立。一方では競争相手の東京ガスと静岡ガスに共同出資するなど競争と協調の時代を実践した。

総務部門の「守り」から企画部門の「攻め」へと時代の転換を表す象徴ともなった南氏は、好きなアイスホッケーで果敢に立ち向かう「ファイター」の如く、次なる時代を築くべく直進した。「役人は分かっていない」と対立も辞さない姿勢は、通産省(現経産省)内をいたく刺激し、一方で経済社会の変動に合わせ電気事業自ら変わるべきと全面自由化を早くから唱え、01年第12代の電気事業連合会会長に就任しても「我行かん」とし、慎重論が多い業界内から戸惑いの声が上がる場面もあった。

企業の社会的存在を意識した「普通の会社を超える会社」を目指したが、02年8月、「原子力検査データ不正問題」が明らかになり、荒木会長主導のもとで平岩相談役らとともに一斉辞任、身を引いた。自由化が進展する中で原子力路線をどう進めるかなど問いは残り、晩年は個人事務所を設け、生涯〝電気事業人〟を任じていた。

文/中井修一(電力ジャーナリスト)

【石油】23年前半の国内価格 補助金効果で安定か


【業界スクランブル/石油】

この季節になると、石油製品需要家から、2023年の国内製品価格の予想をよく尋ねられる。例年だと、「価格予想が当たった試しがない、当たるのなら、今頃ハワイで悠々自適だ」と答えてきたが、今年は、「補助金が続く限り安定的に推移する、補助金がなくなればその分値上がる、従って、補助金の終わり方とその時期が問題で、その時の政権支持率次第だろう」と答えている。

ウクライナ侵攻で一時、1バレル90ドル台から130ドル近くまで原油価格は上昇し、円安進行で侵攻当時の1ドル115円水準が150円近くになったが、1月末の補助金開始以降、国内製品小売価格は安定している。ガソリンの場合、補助金がなければℓ当たり200円を超えると想定されるが、170円台前半で推移、最近では170円を切っている。

補助金の目的は価格引き下げでなく価格抑制にあり、毎週、経済産業省が原油価格と為替レート、市況の変動を勘案の上、補助金額を調整しているのだから、当然と言えば当然だが、補助金効果は十分出ている。

また、補助金はガソリンだけでなく灯油・重油などにも出ているので、農林水産業や灯油ストーブ利用家庭、トラック運賃抑制を通じて一般家庭にもその恩恵は及んでいる。従って、「ガソリン補助金」の通称は間違っている。

10月末の総合経済対策では、補助金は「来年度前半にかけて引き続き措置、来年1月以降も補助上限を緩やかに調整しつつ実施、6月以降補助を段階的に縮減」とされ、含みのある注釈が付いた。すなわち、補助金制度自体は来年9月末までは継続されるものの、1月以降は補助金額減額の余地を残した。やはり、製品価格の予想はしない方が、無難かも知れない。(H)

【コラム/12月21日】欧州における原子力発電拡大の動き


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

最近、欧州の主要国では、エネルギー自立の動きがあることを6月22日のコラムで述べた。フランス、英国における原子力発電の拡大は、その一環である。欧州最大の原子力大国であるフランスは、2月13日に、2050年までに最大14基の原子炉の新設を発表している(少なくとも6基の原子炉の新設とさらに8基のオプション)。4年前には、原子力発電への依存度を減らす政策の一環として12基閉鎖するとしていたが、拡大に方針転換し、安全が確認された既存の原子力発電については、すべて延命措置を講じる予定である。2月24日のロシアによるウクライナ侵攻により、フランスの原子力発電拡大路線はより強固なものとなっている。7月6日に政府は、原子力発電の新設をバックアップするために、財政難に苦しむ電力会社Électricité de France(EDF) の完全国有化を発表(現在84%のシェア)している。

英国では、4月6日に発表された、「英国エネルギーセキュリティ戦略」(“ British Energy Security Strategy “)で、原子力発電については、2030年までに最大8基を稼働可能にするとしている。また、2050年までに現在の約3倍にあたる最大2,400万kWの発電容量を確保し、国内電力需要の最大25%までを賄う計画である。このため、5月13日には、「未来原子力実現基金」(”Future Nuclear Enabling Fund”:NEF)を立ち上げ、新規の原子力発電所の開発を支援する1億2,000万ポンドの補助金交付制度の設立を発表している。

フランス、英国のような主要国以外でも、原子力発電の開発・拡大に踏み切る国は多い。ベルギーでは、2003年の連邦法で原子力発電の新規建設が禁止されるとともに、既設炉の運転期間は40年と定められたことから、7基ある原子炉は、2025年12月には運転停止される計画であった。しかし、ウクライナ危機を踏まえ、政府は、2022年3月に、2基の運転期間を10年間、2035年まで延長することを発表している。また、オランダは、昨年12月に発表された2021-2025年の連立政権協定で、2030年以降に2基の原子炉の新設を発表したが、今年11月に、設置場所を同国唯一の原子力発電所があり、インフラが整備されているボルセラにすることを決定している。新規の原子力発電所は、2035年までの運開を目指す。

ルーマニアでは、11月上旬、チウカ首相は、米国との戦略的パートナーシップに基づき、同国の融資を受け、チェルナボダ原子力発電所に新たに原子炉(CANDU6)2基(3・4号機)を建設することを発表している。建設工事は、米国、カナダ、フランスの企業連合が担い、2030年までに建設を完了させる予定である。また、昨年11月にルーマニアのNclearelectrica は米国の民間企業NuScale Powerと、モジュール炉を設置する契約を締結しているが、今年5月には、最初の小型モジュール炉を建設するサイトを選定している。

チェコでは、2015年の「国家エネルギー戦略」で、原子力発電のシェアを当時の約30%から2040年には約60%にまで引き上げる必要があると明記し、既存のドコバニとテメリンの両原子力発電所で1基ずつ、可能であれば2基ずつ増設するための準備が必要としていた。そのうちドコバニ原子力発電所の最初の増設(5号機)については今年3月に入札を開始、今後2024年には選定企業と正式な契約を締結し、2036年には建設を完了させる予定である。また今年3月に、チェコの国営電力会社は、テメリン原子力発電所に、チェコのおける最初の小型モジュール炉を2035年までに設置すること発表している。

ポーランドでは、モラヴィエツキ首相が、現在の地政学的状況において、同国では原子力発電は必要不可欠であるとして、10月末に、3つの原子力発電所、6基(6~9GW)の建設計画を発表した。同国最初の原子力発電所は、米国のウェスチングハウスが約200億ドルをかけて建設する予定である。2番目の原子力発電所については、ポーランドのエネルギー企業であるZE PAKとPGE、韓国水力原子力発電株式会社および両国政府は、 韓国炉建設に関する 基本合意書と覚書を両国担当大臣が署名したことを発表している。また、3番目の原子力発電所については現在協議が進行中である。興味深いのは、ポーランドのアンナ・モスクワ気候・環境相は11月10日に、政府のエネルギー戦略の一環として、石炭の増産も計画していると発表したことである。同国では、石炭の国内消費の2/3は国内炭であり、モラヴィエツキ首相は、原子力とともに再生可能エネルギー発電の開発は進めるものの、「我々は安定したエネルギーを必要としており、それは今日、石炭によって確保されている」と強調している。同様なことは、ドイツについても言える。同国では、ロシアからのガス輸入が停止する中で、褐炭火力の発電増も余儀なくされている。地政学的リスクが増大する中では、気候変動問題を先送りしてもエネルギーの安定供給を優先することは当然だろう。

以上述べてきたように、欧州における原子力発電拡大の動きは、ウクライナ危機を踏まえてより確かなものとなっている。振り返って見れば、欧州では、原子力発電は、エネルギーセキュリティ確保の観点から、1970年代に大いに拡大した。それが、1979年の米国のスリーマイルアイランド原発事故や1986年のウクライナのチョルノービリ(チェルノブイリ)原発事故 で、開発は停滞した。しかし、欧州連合では、2009年の気候変動・エネルギー包括指令で温室効果ガス削減に向けての目標が設定されてから、原子力発電が再び注目されるようになった。そして、さらに最近では、天然ガスの高い域外依存からくる地政学的リスクの高まりから、エネルギーセキュリティの観点からもその重要性が再認識されているといえるだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【検証 原発訴訟】規制委の審査中に運転差止め命令 泊判決のロジックの矛盾点


【Vol.9 泊判決】森川久範/TMI総合法律事務所弁護士

泊原発の裁判では原告側の主張が概ね認められ、札幌地裁が運転差止めを認めた。

原子力規制委員会による審査中に示された異例の判決に至ったロジックの矛盾を解説する。

 北海道電力の泊発電所1~3号機(計207万kW)について、付近住民らが人格権侵害に基づく運転差止め等を求めた事案に対し、2022年5月31日に札幌地裁が運転差止めを認めた判決(泊判決)を扱う。

札幌地裁は提訴から10年以上、原子炉の変更許可申請から約8年半が経過する中、「泊発電所の安全性に関して、被告が、原子力規制委員会の適合性審査をも踏まえながら行っている主張立証を終える時期の見通しが立たず、他方、原告は、現時点で主張立証を尽くしたとして審理の終結を求めていたこと等の審理経過に鑑みて、合理的な主張立証の時間を確保する要請を考慮してもなお審理を継続することは相当でないと思料し、判決をするものである」と強調。そして「泊発電所は、現在設置されている防潮堤(既存の防潮堤)について、地盤の液状化等のおそれがないことについて被告が相当な資料による説明をしておらず、口頭弁論終結時において、津波に対する安全性を欠いているから、他の争点について判断するまでもなく、その運転によって周辺住民の人格権(生命・身体)を侵害するおそれを有する」と認定した(判決骨子)。

この判決は、13年7月以来、北海道電力が1~3号機の原子炉設置変更許可を申請し、原子力規制委員会による新規制基準への適合性審査が進行中にもかかわらず、行政の判断がなされる前に司法判断を下したものである。運転差止めを認める理由とした、津波に対する安全性の有無等についての判断を検討する。

津波防護に対する安全性なし 人格権侵害の恐れを推定

泊判決では、その判断枠組みとして、「原子力発電所の運転の差止め等の請求が認められるためには、当該原子力発電所が安全性に欠けるところがあり、その運転等に起因する放射線被ばくにより、周辺住民の生命、身体に直接的かつ重大な被害が生じる具体的な危険が存在することをもって足りると解すべき」とした。その上で、主張立証責任については、他の原発を巡る民事差止め訴訟や民事仮処分での従前の主張立証責任の判断枠組みと同様に解した(2月号拙著参照)。

設置許可基準規則5条1項では、設計基準対象施設について、基準津波(当該設計基準対象施設に大きな影響を及ぼすおそれがある津波)に対して安全機能が損なわれるおそれがないよう要求する。判決では、「基準津波の高さが泊発電所の設計基準対象施設の存在する敷地の高さを上回ることになるため、基準津波に対して津波防護施設を設置しなければならないことになる」。さらに、「この津波防護施設について、被告は、泊発電所には既存の防潮堤が存在することや、同防潮堤の地盤に液状化等が生じる可能性が低いことを主張するが、地盤の液状化や揺すり込み沈下が生じる可能性がないことについて、相当な資料によって裏付けていない。また、今後建設予定であるとする新たな防潮堤についても、高さを16・5mとすること以外に、構造等が決まっていない」。故に「泊発電所について基準津波に対して津波防護機能を保持することのできる津波防護施設は存在しておらず、設置許可基準規則5条1項が定める津波に対する安全性の基準を満たしていない」「津波に襲われた場合に予想される事故による人格権侵害のおそれが推定され、この推定を覆すに足りる証拠はない」とした。

泊判決はあり得ない前提から結論を導き出した

規制委の審査を度外視 判決の前提の不自然さ

だが、新規制基準の作成・運用主体である規制委の適合性審査途中であることからすれば、第三者が新規制基準の定める津波に対する安全性の基準を満たしていないと判断できるものではない。泊判決のロジックでは、審査中の原発はすべて適合性審査を完了していないので安全性の基準を満たしておらず、差止めを認める、という不自然な結論となる。

ではどこがおかしいのか。泊判決では「当該原子力発電所が安全性に欠けるところがある」ことを前提に、「その運転等に起因する放射線被ばく」により、「周辺住民の生命、身体に直接的かつ重大な被害が生じる具体的な危険が存在すること」についての判断をしようとしている。審査で停止中の泊発電所が、基準津波に対して津波防護機能を保持できる施設の整備が未完了な状況で運転が行われた場合という、規制委の審査を度外視した、およそ考え難いリスクを前提としている点が最も重要なものと思われる。

「周辺住民の生命・身体に対する具体的な危険」が一般市民への電力供給施設の運転差止めの正当化事由となる以上、基準津波に対して津波防護機能を保持することのできる施設の存在しない状況下で運転が再開される具体的なリスクの存在が不可欠となるが、判決はこの点には触れていない。規制委において、設計基準対象施設が基準津波に対して安全機能が損なわれるおそれがないものであると判断されなければ、設置変更許可処分はなされないし、それに続く設工認、保安規定認可がなされる蓋然性もない。そして、審査基準不適合の状況で運転が再開されることはあり得ない、という至極当然のことに対する検討が行われないまま、道内電力供給設備の24・7%(20年時点)を占める電源を停止させる判断をしているのである。

この点については、建設中の大間原発について、人格権に基づき建設・運転の差止め等が求められた事案において、函館地裁が18年3月19日、「本件設置変更許可申請(新規制基準に基づく14年12月16日の申請)に対する規制委員会の安全審査及び処分がいまだなされておらず、本件原発が運転を開始する具体的な目途も立っていない現時点において、本件原発に重大な事故発生の具体的危険性があると認めることは困難」「かつ、裁判所が規制委員会の審査に先立って、安全性に係る現在の具体的審査基準に適合するか否かについて審理判断をすべきではないから、裁判所が、安全性に係る現在の具体的審査基準に適合しないとの理由で、本件原発の建設及び運転の差止めを命じることはできないというべきである」と判断したことが参考になると思われる。

・【検証 原発訴訟 Vol.1】 https://energy-forum.co.jp/online-content/8503/

・【検証 原発訴訟 Vol.2】 https://energy-forum.co.jp/online-content/8818/

【検証 原発訴訟 Vol.3】 https://energy-forum.co.jp/online-content/8992/

・【検証 原発訴訟 Vol.4】https://energy-forum.co.jp/online-content/9410/

・【検証 原発訴訟 Vol.5】https://energy-forum.co.jp/online-content/9792/

・【検証 原発訴訟 Vol.6】https://energy-forum.co.jp/online-content/10115/

・【検証 原発訴訟 Vol.7】https://energy-forum.co.jp/online-content/10381/

・【検証 原発訴訟 Vol.8】https://energy-forum.co.jp/online-content/10786/

もりかわ・ひさのり 2003年検事任官。東京地方検察庁等を経て15年4月TMI総合法律事務所入所。22年1月カウンセル就任。17年11月~20年11月、原子力規制委員会原子力規制庁に出向。

【ガス】真に強いLPガスへ 対応前倒しを


【業界スクランブル/ガス】

今年も台風など自然災害による被害が相次ぎ、浸水による充てん容器などの流出が発生した。これまでLPガス充てん容器などについては「転落、転倒等による衝撃及びバルブ等の損傷を防止する措置」が義務付けられていたが、これに洪水などの対策として流出防止措置を講ずることが加えられた。

昨年6月に液石法施行規則等を改正し、同年12月に施行した。具体的には1m以上の浸水の恐れのある地域に、ベルトまたは鉄鎖の二重掛けや固定金具の使用等を義務付けるもので、猶予期間は2024年6月1日まで。調査によると、27・2%は対象施設以外でも対策を講じるという前向きな事業者もいるものの、対応を検討中の事業者もいる。猶予期間を待たずに前倒しでの対策を望みたいところだ。

一方、災害といえば雪害によるガス漏えい事故もLPガスの特徴だろう。豪雪の年に多く発生し事故統計の数値を押し上げる。昨年は死者を伴うB級事故も秋田県で発生した。事故分析によると多くの事故が、事故対策に資する供給設備(調整器など)を設置していれば防げたと指摘されている。事業者によっては、期限の到来を待って雪害に強い設備に交換するといった姿勢を示しているが、安全安心にコストをかけるのは事業者の責務である。

「雪害は事故にカウントしなくてもよいのではないか」との事業者の声もあるが、事故件数うんぬんではなく、消費者にとって事故は事故。LPガスは恐いとのイメージが植え付けられれば、オール電化を選択することにもつながりかねない。

自然災害はいつ発生するか分からず、雪害も同様だ。想定外の被害が生じるのが災害であり、「真に災害に強いLPガス」を確立するために前倒しでの対応が強く求められている。(F)