<出席者>電力・ガス・石油・マスコミ/4名
政府は総合経済対策で、エネルギー料金の負担軽減策などを打ち出した。
無駄な施策も多く見られ、将来世代に余計な負担を残すことになりかねない。
―ウクライナ戦争、化石燃料の高騰、料金値上げなど、今年もエネルギー業界ではいろいろと出来事があった。
電力 ロシア軍のウクライナ侵攻で化石燃料の価格が高騰し、世界中の国がダメージを受けた。中でもロシアに依存していた西欧の国は大きな痛手を被った。今の暮らしはエネルギーが安定的に供給されることで成り立っている。1年間を振り返ると、その大切さを痛感した年になった。
―電力6社は規制部門の料金改定の申請に踏み切った。
電力 各社の決算を見てほしい。燃料費の上昇で逆ザヤが続いて、売れば売るほど赤字が増える。料金改定での査定は米櫃に手を突っ込まれるようなもので、誰もそんなもの受けたくない。だが、コスト削減や効率化で何とかなるような状態はとっくに超えている。
―政府も総合経済対策で電気・ガス料金、ガソリン価格などの抑制策を打ち出している。
マスコミ 欧米ほど値上がり幅は大きくなく、経産省は政府の意向を深刻に受け止めていなかった。だが、支持率が低下気味の政権は電気料金の上昇に敏感だった。総合経済対策の目玉の一つにして、経産省に「料金を引き下げろ。案を考えろ」と下達した。
ガス 日経が10月から連載した「ニッポンの統治」がその辺のドタバタ事情を書いている。経産省は託送料金の引き下げなどを考えたが、政権は「請求書に直接反映する形」にこだわった。それで「目に見えるかたちで下げろ」と突き返されて、アパシー状態に陥った。電力会社が知恵を出して何とかなったが、今も経産省幹部は「やる必要は全くないことなのに」と話しているらしい。
マスコミ 確かにエネルギー料金値上げの影響を大きく受ける低所得者層には、既に「価格高騰緊急支援給付金」などの制度がある。
電気・ガス料金の負担軽減策の予算額は約3兆1000億円。それだけあれば、風力発電の地域から首都圏に送電線が敷ける。あるいは安全性が高い新型原発が3基建設できる。経産省幹部の無力感も分かる。
電力 電気・ガス料金の負担軽減の補助は来年9月に半分にするとしている。だが、燃料価格と為替の動向次第でダラダラと続けるかもしれない。経産省はやる気を失っているようだよ。
耳を疑った首相答弁 政権の体たらくを露呈
―岸田政権の政務担当秘書官は経産省OBの嶋田隆さんだが、どうも官邸と経産省はしっくりいっていないようだ。
ガス 耳を疑うことがあった。10月7日の参議院本会議のことだ。公明党の山口那津男代表から電気料金だけでなく、都市ガスの引き下げも検討するよう求められた。その時、首相は「ガスはほとんどが長期契約で調達され、比較的調達価格の安定性が高い」と答えている。
―電力会社もガス会社もLNGの契約は同じだ。
ガス 記者会見での発言ならまだ分かる。だが国会の代表質問で、しかも相手は連立を組む党の党首だ。役人は首相の草稿を何度も推敲するはずだが、誰も気が付かなかった。今の政権の体たらくを露呈してしまった。
石油 負担軽減策は昨年のガソリンから始まって、当初は電気料金にとどめるはずだった。しかし普通に考えると、都市ガスもLPガスも値段が上がっているから、対策を考えなければ不公平が生じる。それで都市ガスは1㎥当たり30円を補助する。
―ところがLPガスは配送合理化などの約150億円の補助事業になった。
石油 おそらく急にLPガスも対象になって、官邸から「この日までに案を出せ」と経産省に指示が下りてきた。それで業界に相談する時間がなくて、役人だけで案をまとめた。中身はというと、業界人から見ると明らかに政策がこなれていない。例えば充てん所の自動化。「これが料金の低減につながるとは思えない」と業界人は皆言っている。
マスコミ 一方で、全国で180万世帯が利用している簡易ガスには何の補助もない。都市ガスやLPに比べて需要家数が少ないから無視でいいということか。まさに片手落ちだよ。
22兆円の国債追加発行 否めないバラマキ感
―総合経済対策を裏付ける補正予算の額は約29兆円。そのうち約22兆8000億円を国債発行で賄う。話を聞くとバラマキ感は否めない。
電力 残念なのは今回の対策を読み込んで、取材して無駄を指摘するジャーナリストがいないことだ。誰も気が付かないうちに、将来に膨大なツケを残すことになりかねない。
石油 一昔前は世代や「左右」を問わず、『文藝春秋』『中央公論』『世界』『朝日ジャーナル』などの雑誌に存在感があった。ところが今は、定年退職者が図書館で読むものになってしまった。
―その代わりにSNSで情報を集めている。
石油 それでフェイクニュースや、誰が書いたか分からない記事が世の中に広まるようになった。「自国通貨建てならば、国債はいくら発行してもかまわない」という説がある。それを信じる人たちが増えている気がする。
マスコミ 野党だけでなく、自民党の中にも積極的な財政政策を主張する人たちがいる。だが、岸田さんは財政規律を重んじた宏池会の総理総裁。その政策だけに、財務省などのまともな役人は茫然としているよ。
―赤字国債の発行を悔やんでいた故大平正芳首相が、草葉の陰で嘆いているはずだ。