【識者の視点】十市 勉/日本エネルギー経済研究所客員研究員
第一次オイルショック発生からちょうど50年の節目に、奇しくも中東情勢が新たなフェーズを迎えた。
ロシア・ウクライナ情勢や再エネの地政学リスクも見据えたエネルギーセキュリティーの向上が問われる。
パレスチナ・ガザ地区を実効支配するイスラム武装組織「ハマス」が、10月7日にイスラエルへの大規模攻撃を始め、中東情勢が一気に不安定化している。多数の死傷者を出したイスラエルは、ハマスの殲滅を目指してガザ地区への空爆に加え、本格的な地上侵攻の準備を進めている。米バイデン大統領は、人道危機の軽減や人質解放、周辺地域への戦争拡大を抑えるため、イスラエル訪問などの外交努力を続けるが、ガザの病院爆破で多数の死者が出たこともあり、予断を許さない状況にある。
今回想起されるのは、ちょうど50年前の1973年10月6日、エジプトとシリアがイスラエル軍を奇襲攻撃して始まった「第4次中東戦争」である。両国を支援するため、サウジアラビアなどアラブ石油輸出国は、親イスラエルの米欧諸国に対して石油の禁輸措置を発動し、世界はオイルショックに見舞われた。その後エジプトは、疲弊した経済を立て直すため、米国の仲介で79年にイスラエルとの平和条約締結に至った。それを契機に、中東問題の焦点は、アラブ諸国とイスラエルの対立からパレスチナ問題へと移り、今回のハマスによるテロ攻撃につながった。
昨年来のウクライナ戦争でエネルギー危機が起きる中、今回の中東戦争は、エネルギーセキュリティーにとって新たな懸念要因となっている。足元の原油価格は1バレル90ドル前後の高値圏で一進一体を続けており、当面は石油供給への影響は限定的と見られている。
米・イランの緊張高まる さらなる不安定化を懸念
しかし、ハマスのテロ攻撃にイランが関与した明白な証拠が判明したり、米国・イスラエルとイランの対立がエスカレートしたりすれば、国際エネルギー情勢がさらに不安定化する恐れがある。例えば、米国による経済制裁の強化で原油の生産・輸出が減少するイランが、報復としてイスラム過激派武装勢力を使ってサウジの油田施設を攻撃、あるいはホルムズ海峡の安全航行が脅かされる事態が起きることである。
なお米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは「ハマスと、レバノンを拠点とするイスラム教シーア派組織ヒズボラ幹部によれば、イランのイスラム革命防衛隊がハマスの奇襲攻撃計画を支援した」と報じている。イラン政府は強く否定するが、米国ではイランが背後で重要な役割を果たしたとの見方も出ている。
これまでイランは、ハマスに対して資金や武器供与、戦闘員の訓練などの支援を行ってきたが、その狙いは宿敵であるイスラエルとその支援国の米国に圧力をかけることである。イランは、今年3月に中国の仲介でサウジとの国交を回復する一方、米国が進めるイスラエルとサウジの国交正常化の動きに強く警戒していた。イスラエルの報復攻撃でガザ住民の犠牲者が急増する中、既にサウジはイスラエルとの国交正常化の交渉凍結に追い込まれている。
そのサウジと米国の間には、長年の「特別な関係」、すなわち米国がサウジの安全保障に責任を持つ代わりに、サウジは石油の安定供給に務めるという暗黙の合意があった。しかし、2001年の米国同時多発テロ事件で実行犯の多数がサウジ国籍であったこと、また18年の著名なサウジ人記者の殺害事件にムハンマド皇太子が関与したとして、両国間で軋轢が生じていた。さらに米国にとって、シェール革命で石油の自給体制を確立したこともあり、サウジの重要性が低下してきた。
一方のサウジは、バイデン大統領からの相次ぐ増産要請に応じず、ロシアと協調してOPEC(石油輸出国機構)プラスの減産政策を続け、最大の輸出先である中国との関係を強化。サウジのロシアや中国への接近は、イランの脅威から自国の安全保障を確保するため、米国をけん制する動きともいえる。
このように中東の地政学を巡る各国の思惑は複雑さを増しており、今後のハマス掃討作戦でガザ地区の人道危機がさらに深刻化すれば、アラブ諸国を中心に反イスラエル・反米の抗議行動に拍車をかけるだろう。その結果、イスラエルとヒズボラの戦火が拡大する、またイランが直接介入するといった事態も完全には排除できない。ウクライナと中東地域での二つの戦争が長期化する公算が大きいことから、資源小国の日本にとって、中長期的にもエネルギーセキュリティーの確保がこれまで以上に重要な課題となる。

米国はイスラエルに寄り添う姿勢を強調し続ける
二つの戦争長期化の様相 再エネの地政学リスクも連動
日本の1次エネルギー供給に占める石油の割合は、オイルショック後の脱石油政策で、1973年の76%から2021年には36%と激減したが、石油は依然として最大の供給源である。また中東依存度は、ロシア産原油の輸入禁止措置の影響もあり、約95%と過去最高水準となっている。もし中東からの原油供給に重大な支障が出れば、原油価格がさらに高騰して国民生活は大打撃を受ける。
一方、LNGの輸入先は、豪州やマレーシアなどインド太平洋諸国が約3分の2、ロシアが10%弱を占めており、カタールなど中東諸国は15%と必ずしも高くない。しかし、ウクライナ戦争で世界的にLNG需給がひっ迫し、またLNGの在庫は2~3週間分しかないため、中東やロシアからの供給途絶には非常に脆弱であり楽観はできない。
このように、資源大国のロシアやサウジ、イランなどを巻き込む石油・ガスの地政学リスクが高まる中、世界は脱炭素に向けたエネルギー移行を進める必要がある。問題は、中国が再生可能エネルギーや蓄電池などの設備に不可欠な重要鉱物のサプライチェーンで世界を圧倒し、石油・ガスに加えて再エネ特有の地政学リスクが連動する時代を迎えていることだ。わが国はエネルギーセキュリティーの向上と脱炭素社会の実現に向けて、技術力が重要な役割を担う再エネと原子力、水素・アンモニア、e―フュエル(合成燃料)などのクリーンエネルギー開発と利用に官民が連携して取り組むべきである。(10月20日現在の情報による)











