【火力】発電事業者は不在 3者勉強会の行方


【業界スクランブル/火力】

昨年に行われたCOP26では、これからの10年を重要と位置付けるグラスゴー合意を採択し、世界中が共通の目標に向け努力することが合意された。これまでのCOPは、遥か先の目標に向け、各国が裏付けのないまま高い理念を掲げることを競争しているかのようだったが、「これから10年」とうたった以上、今年からは絵に描いた目標ではなく、具体的な取組内容や実績などを評価する地に足の着いた〝プレッジ&レビュー〟の基本思想に立ち戻り議論することが重要だ。

COP26と同時期に、国内では脱炭素化社会実現に向けた課題と対応策についての議論がスタートした。具体的には、今後の火力発電の役割整理や需給ひっ迫時における電力調達の最適化を検討してはどうかと電力・ガス基本政策小委員会に提案された。背景として、日本の電力系統でも自然変動電源の拡大、電力自由化、燃料資源の高騰などさまざまな要因により供給力不足や調整力不足が顕在化し始めていることがある。

火力発電の役割整理については、時間切れのため議論が深まらなかったが、火力に焦点を当てる今までなかった視点での検討であり、今後の展開に期待したい。

一方、電力調達の最適化というのは、需給ひっ迫時に生じるスポット市場と需給調整市場の競合回避を目指そうというもの。遠因として小売りの供給力確保義務と送配電事業者の周波数維持義務の役割分担が曖昧なことがあげられるのだが、まずはJEPX、電力広域的運営推進機関、送配網協議会の3者を中心とした勉強会を立ち上げるらしい。しかし、市場の管理者が集まっただけで、果たして良い知恵が出るのだろうか。

そもそも需給は、需要(小売り)と供給(電源)のバランスで決まるものであり、送配電設備は電気の通り道でしかない。需要のあり方も千差万別だが発電側もさまざまなスペックの設備があり、最適な運用方法を見つけるためには当事者同士が話を突き合せることから始める必要がある。こういった検討は大歓迎だが、地に足がついたものとするためは、発電事業を熟知したメンバーも参加することが絶対必要だ。(S)

電力システム改革は成功といえるか 「新しい資本主義」での在り方を問う


【多事争論】話題:電力システム改革

電力小売り全面自由化開始から5年が経つが、さまざまな課題が顕在化している。
岸田政権が掲げる「新しい資本主義」で、電気事業はどう変わるべきか。

改革に伴い安定供給問題が顕在化 地域独占・供給義務の再評価を

視点A:飯倉 穣 経済地域研究所代表

電力システム改革は、小売り全面自由化(2016年)と発送電分離(20年)で一段落した。過去、自由化論者と担当官僚は、地域独占の安定供給義務を非効率と指弾し、市場機能で電力需給は安定すると主張した。

数年経ず経済産業大臣が、今夏・今冬の電力需給に警告を発した(21年5月14日)。そして経産省の電力・ガス基本政策小委員会は、9月以降「今後の電力システムの主な課題」を提示し、構造対策として電源確保と供給能力確保義務の検討を継続している(義務・責任・役割論で規制強化)。従来の自由化で安定強化という主張は詭弁だった。電力市場にわが物顔で介入を画策する管理意欲に疑念を抱く。

電力自由化は、米国要求対応と政官民の思惑が交差する「経済改革研究会中間報告(平岩レポート)」(1993年)の「経済的規制は原則自由・例外規制」の仕掛けから始まった。教祖と称された下村治博士亡き後(89年死去)、英米流の政策模倣だけを得手とする経済専門家の知力不足が目立った。専門家は、バブル崩壊後の経済政策の道筋を見失う。バブルの後始末でなく、新自由主義・市場重視を強弁しミクロ経済政策(分野毎の市場いじり)を持てはやす。

90年代の政策は、米国の示唆・強要もあり、雇用でなく消費者余剰重視となった。課題として内外価格差縮小、高コスト構造是正、日本型システム改革が喧伝された。従来の雇用第一を放棄、雇用配慮の需給調整・価格安定狙いの経済規制を罪悪視した。構造改革は雇用環境を悪化させ、安全弁欠如で社会保障拡大要求(例:手当支給・無償化など)を誘発する。電力自由化は、一部官の執念で、紆余曲折を経て卸電力市場の自由化(95年)、高圧部門の小売り自由化・卸電力所の創設(03年)となった。

東日本大震災当時、民主党政府主因の需給不安を背景に、市場機能を貫徹させる電力システム改革が論じられた。市場競争で効率を上げ、安い電力の安定供給をお題目に電力自由化は進められた。規模の経済を軽視、発送電一貫体制を弊害視した。大口需要者への需要価格弾力性の導入(価格で需給調整)、ピーク抑制・過大施設不要(予備率引下げ)、新規参入推進、送電線開放、小売り自由化などが基本的発想であった。実現すれば需要家の選択が拡大し、また競争は、供給企業の効率化を促し、コスト削減で料金も低下すると喧伝された。(八田達夫「電力システム改革をどう進めるか」12年12月:日本経済新聞出版)。そして自由化が完成する(20年)。

経産省(20・21年度統計)は、新電力のシェア20%、小売り電気事業者の登録件数727、新エネ導入比率21%、卸電力取引平均価格の低位、卸取引市場シェア40%などの数値を挙げ自由化成功を示す。

現実は評価と異なり、改革に伴う安定供給問題が顕在化している。予備率は従来8%程度だったが、経産省主導で3%目標となる。その数値に近づいたら、電力供給危機宣言である。この改革は明らかに政治・経産省主導の間違いである。電力システム改革の本質を問う議論もあった(南部鶴彦「エナジー・エコノミクス第2版」17年5月:日本評論社)。9電力・地域独占廃止に対する根本的な困難を指摘している。

電磁気学の法則に沿えは、安定性で発送電一貫体制が合理的かつ自然であること、また発送電一体の相互連結が、限界費用に基づく発電の効率性を確保する上で優位である。逆に発送電分離なら、ホールドアップ問題(不確実性)が発生し過少投資となり、予備力低下を招き、かつ供給義務の所在が不透明なため、安定供給が覚束なくなる。垂直統合=独占=悪という単純発想は、垂直統合の相互連結と発送電のコンビネーションの合理性を無視している。

構造改革は失敗の連続 安定供給体制の再構築を

この30年間の政治経済社会改革(含む構造改革)の推移をみると、多くの政策で当初の狙いは良さそうに見え、マスコミ報道にあおられ、国民の一部不満が過大評価され、実施に移されたものが多い。長期的に見れば、見込み違いで、当初の思惑とは異なる結果となっている。経済構造改革は、前川レポート(構造調整)を始め、失敗の連続である。

「新しい資本主義」は、持続可能性や人的資本重視、株主価値重視偏重の是正、民間企業の未来投資の強化を狙う。それを踏まえた電力の再改革では、電場の提供という性質に適合する安定供給体制(必要投資の実施)の再構築が必要であろう。具体的には地域独占・料金規制・供給義務を再評価したい。それが経済の安定、そして成長の鍵となる。

いいくら・ゆたか 東北大卒。日本開発銀行(現日本政策投資銀行)設備投資研究所長、東北大学、学習院大学非常勤講師などを歴任。

【原子力】EUが前向きに COP26の意義


【業界スクランブル/原子力】

昨年10月に英グラスゴーでCOP26が開かれ、岸田文雄首相は各国トップの一人として石炭火力をゼロエミッション火力へシフトすることを打ち出し、5年100億ドルの追加支援を表明した。英国は終始リーダーシップを演出し、1.5℃目標を世界目標にしようと画策。2050年カーボンニュートラルにほとんどの国がコミットした。ただし中露は60年、インドは70年を目標に、石炭のフェードアウト、森林破壊抑制。電気自動車促進、再生可能エネルギー投資促進―を打ち出した。

国際協力として、パリ協定を運用するルールブックを決定した(二重計上の防止については、わが国の提案がルールに盛り込まれた)。交渉議題外のイベントとして、グラスゴーブレークスルーと呼ぶ各分野でのクリーン技術活用に40国以上が賛同。グローバルメタンプレッジと呼ぶ温室効果係数の大きいメタン排出を30%削減することを米EU主導で目標に掲げた。さらに有志国宣言として、石炭火力からクリーンパワーへの移行(米・中・日は不参加)、化石燃料への新たな公的直接支援を終了することを決めた(日本不参加)。

今回の交渉の結果、22年度末までに必要に応じて30年NDC(国別目標)の強化をすることになった。そのために閣僚級ラウンドテーブルを毎年開催することになり、その第1回をエジプトのCOP27で開催予定。25年に35年NDCの提出を奨励する。途上国支援については、25年以降の新たな資金目標について22~24年に議論する。原子力については、気候変動と経済成長の両立のために原子力が有為だとする人が少しずつ増え、英・仏・EUの間で原子力の重要性について議論が行われた。

米国はSMRを俎上に載せている。ただ、そうした議論はあまり表に出てこない。EUのフォンデアライエン委員長は前向きな発言をした。フランスのマクロン大統領も推進側で発言し、化石賞を受けた。原子力を見直すいい機会になればCOP26に意義があったといえよう。(S)

自社の利益を最優先に戦略策定を 一方的に不利益を被る可能性も


【羅針盤(最終回)】巽 直樹 (KPMGコンサルティングプリンシパル)

「石炭火力の段階的縮小」で合意したCOP26。そこでの議論は、まさに国益のぶつかり合いだった。

自らの利益を最優先にしたGX戦略の策定へ、国や企業はしたたかに取り組んでいくことが求められる。

 2021年11月に開催されたCOP26で採択されたグラスゴー気候合意には、世界でさまざまな事後検証がなされ、多くの議論を巻き起こしている。個別の項目についての是非はともかく、今後の脱炭素対策の方向性を考える上でいくつかの示唆があったことは事実だ。これらをどのように個々のGX戦略に落とし込むのかを検討することが、今後一層重要になる。

COP26を踏まえて 削減をどう実現するのか

合意文書では、1・5℃目標追求の決意表明や、開発途上国への資金支援の拡充、石炭火力の段階的削減、国際的な排出量取引のルールなどが打ち出された。

特に排出量取引については、30年の削減目標に算入可能となることが決まった。排出量取引の方式はいくつかあるが、ここでは二国間取引(JCM)について考えてみたい。京都議定書時代には京都メカニズム(柔軟性措置)の一つとしてクリーン開発メカニズム(CDM)があった。先進国が開発途上国で取り組みを実施するこの種のプロジェクトの目的にはいくつかの動機があった。当時の日本でも質の高いインフラ輸出がセットとなって、国内排出量とのオフセットを目的に削減排出量を獲得することが目指された。

各国で異なる温室効果ガスの限界削減費用には大きな格差が存在することから、こうした取り組みの経済合理性は極めて高い。少し古いが、16年の長期地球温暖化プラットフォーム国内投資拡大タスクフォースの資料によれば、日本の限界削減費用はスイスの炭素1t当たり380ドルに次いで378ドルという高水準にある。 これは図に示した通り、仮に日本国内で二酸化炭素1tを削減するコストを他国に投入すれば、限界削減費用が1ドル程度の国々では378tの削減が可能となることを意味する。国内で乾いた雑巾をさらに絞る努力をするよりも、限界削減費用の低い国々で排出削減投資を実施し、そこで得られた排出量を二国間取引で日本に移転させる方が効率的なのだ。

CDMの時代においては、新興国や開発途上国では日本の高度な省エネ技術は高価なものとして敬遠されてきた。これらの国々では温室効果ガス排出量の多寡よりも、安価な技術によって経済成長を実現させるエネルギー供給体制の構築が優先されたからだ。しかし世界全体でパリ協定に基づく脱炭素化を目指す潮流が大きく変わらないのであれば、かつては敬遠された省エネ技術を売り込むチャンスが今こそ巡ってきたともいえる。

COP26閉幕の数日後、ドイツのメルケル首相が中国の李克強首相との電話会談で、中国の新設石炭火力の高効率化を促したことが通信社によって伝えられている。この中で、ドイツ企業の技術に言及し、排出削減に資するこうした技術の輸出を、ドイツは禁止するものではないと発言したという。資金援助はできないものの、技術支援をしたたかに売り込むドイツの戦略を、ただ手をこまねいて眺めている場合ではない。これが世界で是とされるならば、日本もIGCCやIGFCなどのクリーンコール技術を売り込むべきだろう。世界全体での段階的な排出削減に、確実に貢献するものは何かをよく考えるべき時である。

限界削除費用と二国間取引
出典:各種資料を参考に筆者作成

今後の展開を注視 戦略の柔軟性確保を

豪州のモリソン首相は、COP26後に自国の国益優先を鮮明に打ち出した。その中で、今後も石炭産業にコミットすることを堂々と宣言している。

COP26直前のG20では、石炭火力への公的金融支援の21年内停止で合意したことが数少ない成果とされたが、9月に中国が表明したことの繰り返しで新鮮味はなかった。これを上回る合意がCOP26で可能とは考えられていなかったが、フェーズアウトからフェーズダウンへトーンダウンしたとはいえ、石炭火力を巡る議論の火種を残した格好だ。この状況では、ドイツのようにしたたかな外交戦略を描けないと、一方的な経済的不利益を被る可能性が高まる。奇しくもCOP26開催期間中に米国南部バージニア州知事選挙で共和党が勝利した。仮に22年11月の中間選挙で民主党が敗れるようなことがあると、米国は脱炭素への対応に大きな変更を余儀なくされる可能性も出てくる。欧州では、脱炭素化のために原子力発電の活用について新設も含めた計画の具体化や検討が広がっている。これは欧州にとどまらず世界的な潮流となる可能性がある。国内で原子力利用を禁止しているオーストラリアが可能性を模索している動向などが顕著な例だ。

ドイツでは環境NGOが脱炭素化のために原子力発電の運転停止延期を求めてデモが展開されている。これは環境活動家すら一枚岩ではないことを示している。カーボンニュートラルに向かうパスについての議論が多様化していることは、ある意味で健全な社会現象ともいえる。

さらに、燃料需給のひっ迫を契機としたエネルギー市場の価格高騰は、現時点の脱炭素対応への警鐘ともいえる。エネルギー以外の他のコモディティ価格の高騰も相まって、マクロ経済上の問題に及ぶ可能性が高く、脱炭素を実現する前に経済的に破綻しては身もふたもない。こうした国際情勢に目配せした上で、さまざまなリスク分析が重要になる。

国内ではトランジション・ファイナンスに向けた技術ロードマップが鉄鋼、化学分野で示され、電力、ガス分野などでのそれが今後の争点となっている。また、自民党総裁選の際、岸田文雄首相が示したクリーンエネルギー戦略の検討もいよいよスタートし、これらの政策の方針にも沿わなければならない。

自社の利益を最優先にGX戦略を正しく策定することには、かなりタフな知的格闘が求められる。

たつみ・なおき 博士(経営学)、国際公共経済学会理事。近著に『まるわかり電力デジタル革命EvolutionPro』(日本電気協会新聞部)、『カーボンニュートラル もうひとつの″新しい日常〟への挑戦』(日本経済新聞出版)。

【LPガス】深刻な給湯器品薄 対応に四苦八苦


【業界スクランブル/LPガス】

コロナ禍の影響で、部品不足による給湯器の供給遅延が深刻さを増している。2021年夏ごろから関連工場があるベトナムなどでロックダウンが相次ぎ、ハーネスを構成するコネクターなどの部素材、半導体の調達難が続いているからだ。12月10日には経済産業省、国土交通省が異例の「家庭用給湯器の供給遅延の対応」について日本ガス石油機器工業会などに協力要請文を発出。要請文では、利用者への影響を最小限とすべく「故障時の修理対応に万全を期し、仮付け給湯器の設置等の適切な対応」「これまで取引関係のない事業者からの調達の検討」「海外向け給湯器の国内への振替」などに加え、経産省への給湯器の需給などの情報収集への協力を求めている。

新築住宅の着工や引渡しの遅延も生じている。現時点で顧客からの新規注文に対しては22年2月以降の納品になる見通しで、機種によっては6カ月待ちのケースも。給湯器なしで住宅を引き渡すことはなく、予定と違う給湯器を取りあえず設置するといった対応になるが、メーカーから明確な出荷時期は示されていない。また、今冬は気温が平年より下がり大雪も予想される。氷点下になると凍結で給湯器や配管が破損する恐れが増す。故障リスクは夏期と比較して冬期は3割増といわれ、注意が必要だ。メーカーは「給湯栓から少量の水を出しっぱなしに」「給湯器に降り積もった雪を取り除くこと」などの対応を求めている。コロナ禍で大々的なガス展などを自粛し、オンラインで実施するLPガス販売店は多い。しかし売ったはいいが、品物がなく説明に苦慮しているという。ガス給湯器などは新築でなくても壊れてしまった場合、すぐに生活に支障が出る。

3カ月におよんだベトナムのロックダウンは10月1日に解除されたが、その影響を急激に改善するのは難しい。オミクロン株も出現し、安定供給はいまだ見通せない状況が続く。故障が生じないような使い方をきちんと消費者に伝えることもLPガス販売店の役目だろう。(F)

LPガス業界の課題とは 自社で立てた三つの基本戦略


【私の経営論(下)】津田維一/富士瓦斯社長

初回はフジガスのカーボンニュートラル(CN)対応と防災市場における取り組みについて、前回は都心戦略について書いた。大変多くの方から声を掛けられ、反響の大きさに驚くと同時にCN問題への注目の高さも再確認できた。最終回はLPガス業界の今後の課題と自社の進むべき道について書きたいと思う。

LPガスには可搬性、簡易性、安全性という三つの大きながあり、それゆえに過渡的エネルギーとしての役割と補完的エネルギーとしての役割を果たしてきた。都市ガス敷設へのつなぎ、あるいはオール電化へのつなぎとしてのLPガスの役割は過渡的なものであり、時間経過とともにその役割は縮小していく。一方で、導管供給では非効率になってしまう過疎地や島嶼部などでの地理的補完性に加え、災害用備蓄や分散型発電用途など、電力や都市ガスが得意としていない領域での機能的補完性は無くなることはない。すでに紹介したフジガスの都心戦略やLPガス発電機による地域マイクログリッドでの需給調整などはLPガスの機能的補完性に着目したものである。今後、再生可能エネルギーが普及する過程では、機能的補完性がさらに求められるようになっていくだろう。電力や都市ガスにとっての補完性に加えて、アンモニアや水素、バイオガスとの混焼など、次世代の燃料に対するLPガスの補完性も注目されていくことになると考えられる。

社会全体の再エネへのシフトあるいは小型原発の普及などによる電化が進むことで、今後のLPガスの市場の縮小は避けられないだろう。とは言え、現在LPガスは約4割の家庭で使われており、2050年でも現需要の約6割が維持されるとの予測がある。業界関係者の中にはこの予測をもとに安心している向きもあるが、私は大きな危機感と懸念を感じている。現在の6割にまで落ち込んだ需要で国土の隅々まで行きわたっているサプライチェーンを維持し、将来もLPガス業界としての供給責任を果たすことができるのかという懸念である。多くの高いハードルを越えてLPガスのグリーン化に成功したとしても、どう国内のサプライチェーンを維持するのかという大問題が残るのである。

供給網確保が課題 高コスト構造から脱却

国内のサプライチェーンを維持するためには、LPガス需要の減少を最低限にとどめることが必要であり、そのためには非効率な流通を改革し、高コスト構造から脱却することが不可欠である。今後は炭素税などカーボンプライシングの導入も予測され、コストダウンのためには、交錯配送や複雑な流通構造の解消が求められる。同時に供給主体であるLPガス事業者が自らの経営体質を強化し、厳しい環境下でも事業の継続をしていかなければならない。これらの二つの課題を解決するためにフジガスでは「協業型LPガス供給」を提唱している。

協業型LPガス供給とは、従来型の地域に密着した供給については、業務委託や顧客交換などでエリアを縮小、面的集約を行い、さらに業務受託によってより顧客密度を上げることで効率を上げ、コストダウンを可能にするという考え方である。面的集約により客先への到達時間が短くなるため、サービスレベルも向上できる。加えて、自社エリア外については協業先との連携により、広域での積極的な営業展開を行うことが可能になる。さらに、従来型、協業型の供給に加え、各事業者が各々の歴史、地域性、得意領域などに由来する自社の強みをつけ加えることで、強固な事業基盤を作り上げることができるのである。

現在フジガスでは、このような考え方のもと、50社以上から業務を受託し、全国100社の協業先に業務委託をお願いすることで47都道府県でのLPガス供給を実現している。フジガスとの協業に参加しているLPガス事業者は、この全国ネットワークを活用することで、地方発の飲食チェーンなどの供給を一手に引き受けることも可能となっている。国内のサプライチェーンを守り、LPガスの供給責任を全うするためには、私たち販売事業者による様々な自助努力や構造改革に加え、行政との連携も極めて重要である。すでに老朽化が進んでいる輸入基地のリニューアル、グリーンLPガス製造の技術開発など、莫大な投資が必要な課題が山積している。それらを解決するためには、災害時の「最後の砦」としてのLPガスの重要性、補完的エネルギーとしての役割などを国民にアピールすることが必要であり、積極的なロビー活動を通じて、エネルギー行政における位置付けも変化させていかなければならないだろう。

脱炭素とレジリエンス 求められる次への一歩

持続可能な社会の実現のためのフジガスのミッションは、LPガス供給におけるCN化とLPガスの供給を通じて社会のレジリエンス強化に貢献することである。具体的には、①多様なカーボンオフセットのクレジットの開発、②都市部におけるLPガスの普及によるレジリエンス強化、③協業型LPガス供給の普及による全国供給ネットワークの高度化の三つを基本戦略としている。

フジガスがCNガスの供給機器に貼るステッカー

LPガスはこの70年間、民生用エネルギーとして大きな役割を果たしてきた。その責務を果たし続けるために、私たちLPガス事業者は新たに生まれた役割の大きさを自覚し、勇気をもって一歩を踏み出すことが求められている。フジガスは東京世田谷の中堅事業者であり、業界を代表するような企業ではないが、このような連載をさせていただく機会を得たことを感謝するともに、これを機にLPガス事業者が電力事業者、都市ガス事業者の方々との協業を進めていくことができれば、サステナブルな社会の実現に近づけるのでないかと感じている。

つだ・これかず 1993年東京大学法学部卒、商社系LPガス販売会社入社。95年家業である富士瓦斯に入社、2014年から現職。05年一橋大学大学院商学研究科にてMBA(経営学修士)を取得。スタディス社長、NPO法人LPガス災害対応コンソーシアム副理事長も務める。

【私の経営論(上)】https://energy-forum.co.jp/online-content/7052/

【私の経営論(中)】https://energy-forum.co.jp/online-content/7316/

【都市ガス】JKM高騰の深層 長契で自己防衛を


【業界スクランブル/都市ガス】

最近、「JKM(ジャパン・コリア・マーカー)」という名称をよく目にする。昨年秋口からJKMは百万BTU当たり30ドルを超えるなど価格高騰が続き、長期契約価格との一物二価が際立った状態だ。直近ではJKMが発電の限界費用であるとし、東北電力・JERAが実質的なJEPXへの入札価格のベースとすることを宣言した。承諾した政府は「停電になるより市場価格高騰を選んだ」との声が聞こえてくる。

JKMとは何だろうか。JLMをジャパン・コリア・マーケットと誤解している人も多いが、Mは「マーカー」であり「指標」を意味している。プラッツ社が売り主・買い主・トレーダーなどから情報を集めて、日々のスポット参考価格を「北東アジア向けスポットLNG価格指標」として決定・公表しているものだ。実際にJKMという市場があるわけではない。

JKMはTTF(欧州天然ガス市場価格)に連動しているといわれている。なぜ、北東アジア向けのスポットLNG価格が遠くの欧州天然ガス価格からの影響を受けるのか。欧州向けLNGを引き剥がして北東アジア市場へ持ち込んでいるため、というのが売主側のロジックだ。北東アジア向けスポットLNGは概ねアジア向けプロジェクトから出荷されているにもかかわらず、である。事実、9月頃からの欧州の天然ガス価格高騰はJKMに大きな影響を及ぼしている。

現在もJKMは30ドル前後と高値で推移している。原因はTTF高騰以外にもある。世界的に石炭・石油から天然ガスへのシフトが顕著な中、石炭火力を止めて電力危機に陥っている中国のスポットLNG買い漁りが続いている。高くても買い手がいる以上、価格は高止まりする。他にも、転売を繰り返して値をつり上げているLNGトレーダーの存在がある。石油市場では当たり前の行為だといわれるが、スポットLNGの市場は石油に比べて圧倒的に小さく、その影響力は無視できない存在になってきているという。

日本の買い主は長期契約でロング状態を維持し、自己防衛を図るほかに対策はないだろう。(G)

【新電力】価格高騰が招く まやかしの競争


【業界スクランブル/新電力】

 本格的な冬を迎えていないにもかかわらず、JEPXスポット市場は2005年の創設以来、11月としては過去最高価格を記録している。これは日本だけの事象だけでない。欧州でもドイツ・北欧・フランスで11月下旬から12月上旬にかけて過去最高価格を記録している(英国は9月に過去最高価格を記録)。

日本でも、複数の小売り電気事業者による法人(特別高圧・高圧)向け電力供給からの撤退が報じられている。市場関係者の間では、ほとんどの事業者が冬場のヘッジを完了していることから、今冬の影響は限定的ではないかと見る向きが太宗を占めるが、卸取引の現場では「今冬は卸取引の玉がなかった」といった声が散見され、相当な高価格で卸調達せざるを得なかった事業者も存在すると考えられる。

なお、中長期のスポット価格水準が不透明であることから、ほとんどの事業者が営業活動を停止しているもようだ。見積提出を継続している事業者はわずかであり、過激な値引きが横行した一昨年秋までの状況とは一変し、大手電力会社と新電力の間では、卸取引や営業面での協力関係が強まっており、「まやかし戦争」の側面が強くなっている。

現在のスポット価格の背景には、当然ながら高水準の国際燃料価格がある。いつまで続くのか。JPモルガンが12月上旬に発表した原油価格見通しでは22年にバレル当たり125ドル、23年に150ドルに達すると示している。また油田サービス大手ハリバートンのジェフ・ミラーCEOは「石油不足時代に突入した」とコメントしている。小売り電気事業者は機動的に価格改定ができる体制を構築する必要がある。

一方で、22年には新インバランス制度が、23年度には託送レベニューキャップ制度が、24年度には容量市場の受け渡しが開始され、小売り電気事業者は企画・需給機能の強化が必要になる。今後、再び営業拡大できる事業環境になった際には、大手電力会社と新電力の協力関係を背景にした「大手電力会社が後押しする代理戦争」の色合いが強くなるであろう。(M)

暮らしを彩るサービスを提供 地域の発展と共に成長する企業に


【エネルギービジネスのリーダー達】岡信愼一/東北電力フロンティア社長

東北電力の小売り子会社として発足した東北電力フロンティアの社長に就任した岡信慎一氏。

スマート社会実現に向け、グループ全体のビジネスモデル転換をかじ取りするという重責を担っている。

おかのぶ・しんいち 1979年東北大学卒、東北電力入社。2013年常務取締役企画部長などを経て、15年に取締役副社長に就任。2021年4月より東北電力フロンティア代表取締役社長を兼務。

 東北電力の100%子会社として、2021年4月1日に発足した東北電力フロンティア。現在は、電気と生活関連サービスのセット販売を手掛けるが、岡信愼一社長は「東北・新潟エリアにおけるスマート社会実現に向け、グループのビジネスモデル転換を推進するのが当社の役割だ」と語る。

スマート社会構築へ グループの中核担う

東北・新潟エリアでは、脱炭素化の進展に加え、少子高齢化、人口減少などの社会課題が全国に先駆けて進んでいく。電力会社が電気事業だけで生き残っていくことは難しい状況を踏まえ、東北電力は、2030年代を見据えた中長期ビジョンで、「東北発の新たな時代のスマート社会の実現に貢献し、社会の持続的発展とともに成長する企業グループを目指す」方針を打ち出した。

スマート社会実現事業とは、具体的にどのようなものか。東北電力では、既存の電力供給事業を中心に、生活関連サービス事業、VPP(仮想発電所)やアグリゲーションといった次世代エネルギー事業、モビリティ事業など、さまざまなサービスをプラットフォーム化しパッケージで提供していくことを計画しているという。

そうした事業の早期実現に向けた中核会社として設立されたのが東北電力フロンティアであり、その経営の基盤を固め成長軌道に乗せることが岡信社長の使命ということになる。これは同社が、単に大手電力会社が小売り子会社を設立したという位置づけではないということを意味しており、岡信社長自身も、「非常に重い責任を感じている」と表情を引き締める。

同社が事業開始と同時にまず着手したのが、ストリーミングサービス「Netflix(ネットフリックス)」を組み合わせた「シンプルでんき with Netflix」をはじめとする、電気と生活関連サービスのパッケージ商品の販売だ。ネットフリックスと電気の組み合わせは国内初の取り組みで、世界でも2例目とのこと。同社の若手社員が、ネットフリックスのホームページを通じて協業を持ち掛けたところ、地方における顧客獲得を課題としていたネットフリックス側からすぐに返信があり、話がまとまったという。

このほか、リユースの子供服の購入サービスや絵本の定期購入サービス、キャンプ用品のレンタルサービス、保険商品など、「じぶん時間を楽しむ、かぞく時間を楽しむ、じぶん時間・かぞく時間をつくる・ささえる」をコンセプトに、これまで暮らしを彩る九つのサービスをラインナップしてきた。

また、「東北電力ソーラーeチャージ」と、太陽光発電・蓄電システムを活用したサービスに東北電力フロンティアの電気を組み合わせたパッケージ「あおぞらチャージサービス with シンプルeでんき」の販売も開始した。

これらに共通するのは、結婚、出産、育児と生活スタイルが変わっていく20~30代の生活を支えるサービスであるということ。東北電力フロンティアでは、マーケティングのメインターゲットを20~30代としている。それは、この層が将来の東北のスマート社会を実質的に担っていく世代となるからにほかならない。

「現在、東北・新潟に住む若い人に定着してもらうことはもちろん、ポストコロナの日本社会において、Iターン、Uターンで地方分散化が進む際に東北・新潟を選んでもらうためにも、生活の豊かさ、便利さは欠かせない。そうしたコンセプトに合うサービスをラインアップに加え、『信頼できるサービスを選ぶ時には東北電力フロンティアから探す』と言われるような、プラットフォームにしていきたい」(岡信社長)

エリア内の各所に張り出されている広告ポスターでは、ネットフリックスの人気ドラマ「梨泰院クラス」の主人公の髪型をまねた子供たちが笑顔を見せている。ぱっと見では何の広告か分からないが、見た人の関心を引き、東北電力グループが変わったことを始めたと思ってもらう狙いがある。

知名度向上のため、現在はマス広告も行っているが、20~30代というターゲットに合わせ、今後はデジタルマーケティングを中心に、スマホネイティブ、アクティブと呼ばれる世代の関心を喚起するようなマーケティングを打ち出していく考えだ。

東北・新潟の活性化へ エコシステム築く

30年には、数百万件の契約を獲得することが社長としての目標。このため社員には、「(存在意義に沿った事業を行う)パーパスドリブンカンパニーにしていこう」と伝えているという。パーパスとは、「新たな顧客体験の提供」「新しいビジネスモデルの構築」「スマート社会実現事業の牽引」の三つ。地域のエコシステムを築き快適な暮らしを支え、それを東北・新潟の地方創生につなげていく。ものだ東北電力のみならず、東北・新潟の将来をかけた取り組みが始まっている。

【コラム/1月18日】制度は続くよ、どこまでも 年明け


加藤真一/エネルギーアンドシステムプランニング副社長

新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

さて、怒涛の2021年も終わり、2022年が幕開けしました。2050年カーボンニュートラル宣言が発出されてから早1年以上が経ち、電気事業を取り巻く状況も大きく動き始めています。

本コラムでは、昨年に続き、電気事業制度の状況について網羅的にお話させていただきます。前回は電力需給に関するテーマで書かせていただいたので、制度周りの話は約半年ぶりになります。

足元3か月で開催された審議会は100本以上

筆者は主に経産省・環境省で開催されるエネルギー周辺の審議会等をウォッチし、企業や団体向けにレポートを配信していますが、足下10~12月に開催された審議会を数えてみると、その数は110本にもなりました。つまり、1日1本以上の割合で開催されていることとなります。

12月は特に終盤で多くの審議会が開かれましたが、いつものように各審議会等と取り上げられたテーマを筆者独自に区分したマップ(表1)を見てみると、電気事業のサプライチェーンの上流、つまり資源・燃料分野から下流、小売や需要、更にはデジタル化や省エネ、保安、環境・地域に至るまで、幅広に議論されていることが解ると思います。

【電力】インバランスの還元 遡及的指示にがく然


【業界スクランブル/電力】

 この冬も前回に引き続き、電力需給のひっ迫と市場価格の高騰が懸念されている。その冬本番を前に、端境期の2021年11月もスポット価格の月平均が1kW時当たり18円超と高圧小売料金を超える水準となった。冬場に備えて設備点検や燃料在庫の積み増しが行われた可能性が言われている。

端境期にもかかわらず電力価格が上昇する事象は、欧州でも起きている。膨大なガス貯蔵能力を持つ欧州でもこのようになることに驚いた一方、現段階でとはいえ、けた違いにガス貯蔵能力が小さい日本がこの程度で済んでいることは感謝すべきことともいえる。

他方、政府は、前回冬の電力価格高騰の事後措置として、インバランス料金の一部を小売り電気事業者へ還元することを決めたようだ。この点については、制度の遡及の是非は置いておくにしても、内閣府の再エネタスクフォース(TF)の構成員の一人が「市場設計に瑕疵があったのだから、電力会社を経済産業省が説得して一部を還元すべき」と主張し、ひどくあきれたことを覚えているが、結果的にそうなったことになる。

筆者の勝手な思い込みかもしれないが、規制改革推進会議の主要メンバーであった同人ともあろう者の口から前時代的な行政指導を思わせる主張が飛び出したことに耳を疑った。この件は、同じ経産省出身の有識者が「市場設計の瑕疵があったというなら、立法措置を講じて還元原資を公金で手当てすべき」というもっともな指摘をSNS上で投げかけていたが、まともな反応がなかったように見えた。前回冬に日本よりも電力需給が悲惨なことになった米国テキサス州でも遡及的な救済措置は講じられたが、あちらは立法措置を伴っている。それが当然と思うが文化の違いなのだろうか。

政府はコロナ禍対応でも、酒類販売業者に対して酒の提供停止に応じない飲食店と取引をしないという法的根拠が曖昧な要請を発出ししようとし、直後に撤回したことがあった。それを発表した大臣も経産省出身であったのは偶然だろうか。(T)

前門の習近平、後門のプーチン


【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

いつの間にか、われわれは習近平(中国)とプーチン(ロシア)の顔色をうかがいながら電力や都市ガス用の石炭やLNGを買わなければならなくなった。

燃料の需要側で立ちはだかるのは中国だ。2021年前半、年率16%増という電力需要を背景に石炭、ガスを買いまくり価格を高騰させた。一般炭では世界の海上貿易の約3倍、30億tの巨大な国内市場を持ち、さらにその石炭市場の一部がガスにシフトし始めた。この国の動きに世界中が右往左往している。

一方、ガスの供給で存在感を増したのがロシアだ。脱石炭でガスの重要性が高まる欧州だが、オランダやノルウェーなど域内供給が減少、期待のLNGは中国の爆買いでひっ迫、振り向けば供給の3割を担うロシアがにらんでいたというわけだ。日本にとっては対岸の火事ではない。19年ごろから欧州のパイプラインガスとLNGの市場がほぼ一体化し、欧州でのガスひっ迫は即、日本が買うLNG市場を絞り上げ、さらに競合する石炭相場もつり上げるのだ。

20年10月、不足する石炭、ガスに対し習は「金に糸目をつけず確保せよ」と指令し,相場は急騰した。このときプーチンは「ガスの供給を増やす」と言って相場を落ち着かせたが、その後、目立った供給増はみられず、市場は上げに転じている。この冬、多くの国々の電力・ガス供給の生殺与奪をこの二人が握っているといっても過言ではない。現在、ロシアがウクライナ国境に大軍を展開していることに対し、米国は制裁をちらつかせるが、ガスを人質に取られるEUは強い態度で対処できるだろうか。

エネルギー安全保障の要諦は「自前」「選択肢」「備蓄」であろうと思っているが、欧州やわが国の現状はどうだろう。なすすべもなくおびえているばかりでは情けない。

【マーケット情報/1月14日】原油上昇、供給不足感が支え


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。供給不足感が需要後退の予測を上回り、買いが優勢となった。

OPECプラスの増産が、計画を下回るとの見方が台頭している。OPECプラスは、当初の計画通り、2月も日量40万バレルの追加増産で合意。ただ、ロシアやナイジェリアなど、一部加盟国の生産が追い付いていない状況だ。実際、12月の増産量は、計画を日量10万バレル下回る日量30万バレルに留まっている。

また、リビア産原油の供給不調も、逼迫感を強めた。在庫不足と悪天候で、東部輸出港からの出荷が滞った。さらに、同国では12月20日から1月11日まで、生産不調を背景に、西部輸出港でフォースマジュールが宣言されていた。カザフスタンでも、治安悪化で一時的に、一部油田での生産が停止していた。

加えて、米国の週間在庫が減少。さらに、米エネルギー情報局は、今年の国内生産予測に下方修正を加えた。

需要面では、変異株の感染拡大による経済減速、および石油需要後退の見通しが根強い。中国の民間製油所は、原油輸入の削減に踏み切った。ただ、価格の弱材料とはならなかった。

【1月14日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=83.82ドル(前週比4.92ドル高)、ブレント先物(ICE)86.06ドル(前週比4.31ドル高)、オマーン先物(DME)=86.06ドル(前週比3.07ドル高)、ドバイ現物(Argus)=83.11ドル(前週比2.67ドル高)

寿都・神恵内に「分断」見当たらず 平穏さ取り戻し新たな挑戦


【寿都町・神恵内村の文献調査】

高レベル放射性廃棄物処分場選定の文献調査が行われている北海道寿都町と神恵内村。

マスコミは「住民の分断」を強調するが、澤田哲生氏が現地で受けた報道とは違う印象を報告する。

澤田哲生(東京工業大学助教)
さわだ・てつお 1980年京都大学理学部物理学科卒。三菱総合研究所、ドイツ・カールスルーエ研究所客員研究員などを経て2000年から現職。専門は原子核工学。

2021年11月中旬、私は6人の大学生のスタディーツアーに同行し、神恵内村に入った。ちょうどその夜、NHK北海道スペシャルが放映されていた。番組タイトルは『核のごみ~埋まらない溝~』。その番組の最後のナレーションが奮っている。

全国には少なくない自治体がこの問題に手を上げようとしていることを私は知っている。どこの自治体も、今次の事態を受けて政府・役所・事業者がどう出ていくのかをじっくりと注視している。

今こそ政治の決断と実行力が求められているのではないか。そうすれば、この処分地問題は前に進む―その実感を寿都と神恵内の地を踏んで、ひしひしと感じた。

「選挙が終わって、分断が残った」

しかしその後、つぶさに見た神恵内村には分断の「ぶ」の字もない。そして、寿都町では慎重派が〝文献調査の中止〟を直前に実施された町長選の争点に無理やり押し出してきたが、それも成らず町は平穏を取り戻していた。選挙が終わって残ったのは、実は反対派の内部分裂であった。

新聞、テレビなどメディアにとっては実に意にそぐわない状況がそこにはあった。

神恵内の爽やかな朝 数多くの観光スポット

神恵内村の朝を伝統の宿「きのえ荘」で迎えた。夜明け前に目覚めた私は眼下に広がる前浜を見下ろした。ひとりサーファーが波間に浮かんでいた。そして、空には満月が黄金色に煌めいていた。なんとも神々しく爽やかな朝である。ここの女将はいつも朗らかでお話し上手。いつでも泊まりたい居心地のいい宿である。

観光スポットに恵まれた神恵内村
提供:時事

宿を後にし、私たちはバスに乗って村内の観光スポットを経巡った。神恵内村はニセコ積丹小樽海岸国定公園内にある。美しい海岸沿いには奇岩が次々と現れ、その麓に袋澗がある。袋澗とは、漁獲したニシンを一時的に保管する大型の生簀である。明治から昭和にかけてニシン漁が沸騰した頃の名残である。あちこちに点在するので袋澗巡りのツアーもあるとか。

その後、村の新庁舎を訪ねた。髙橋昌幸村長自らが案内してくれた。庁舎を入るとすぐ目につくのは誰でも利用できる憩いのスペース。そしてその奥には幼児専用の可愛らしいトイレがある。これは村民を心から愛する村長の肝いりのトイレである。

新庁舎には津波を始め災害対策が十分に盛り込まれている。この庁舎は泊原子力発電所から30㎞圏内にある。庁舎の屋上付近には、非常用電源と庁舎内の空気を浄化するベントシステムが備えられていた。

いま神恵内村では新たな挑戦が始まっている。ニシンは去ったが、神恵内村はウニの名産地。ウニ漁は夏場が最盛期である。ところが、最近は陸の生簀でウニの養殖に取り組んでいる。餌は昆布ではなくなんとキャベツなどの野菜。温度調整をして、冬でも殻内に卵が入るように管理し出荷する。これをもって〝冬ウニ〟と称す。今後の期待の星である。

神恵内村を後にし、美しい海岸沿いに約1時間。寿都町を一躍有名にした日本初の町営風力発電所が見えてくる。

その脇に明治12年(1879年)建造の鰊御殿の威風堂々たる姿がある。御殿にはくぎを一本も使っていないという。実に見事な仏壇を始め、さまざまな細工に金箔がふんだんに貼られている。見飽きることのない建築遺産がここにある。この御殿を構えたのは越前から移住してきた民で鰊景気を先導したのである。かつて北前船でこの地域と越前は、物流と人流で結ばれていた。

寿都町が最近力を注いでいるのはバジルの水耕栽培である。近くのハウスには2ⅿほどに育ったバジルの灌木が並ぶ。ハウスの管理は、電気は風車の再生可能エネルギーで、熱源はバイマスボイラーで賄われている。その結果、寒さに弱いバジルも通年で収穫できるようになった。〝風のバジル〟と銘打ちブランド化に成功した。『壽』というバジル焼酎、そしてバジルソフトクリームがいま熱い。

寿都町名物のバジルソフトクリーム

著しい人口の減少 地方自治体が背負うツケ

片岡春雄町長のこれまでの町政20年間に人口は1200人減った。漁業や水産加工業などの地場産業はいまひとつ伸びない。小泉純一郎政権下で行われた地方交付税改革は、結果的に町の地力を奪っていった形だ。その中で寿都はもがいてきた。その結果が町営風力発電であり今回の文献調査への応募である。

私には、寿都の文献調査への応募は、相変わらず〝日本にオンカロはない〟と吠えまくる小泉氏への意趣返しのようにも映る。過去20年、小泉政治の不見識かつ無責任な政治の重いツケを地方が背負わされたのだ。それは何も寿都や神恵内だけではない。全国の地方自治体全てが同じ負の遺産を背負い込んでいる。

寿都の町中で聞いた話では、文献調査への応募からこれまでに、いわゆる反対派からは、北大OBの地質学者などが2度にわたって地層処分は危険であるとの論を披瀝する会合が催されたという。話を聞いても、語尾が全て〝こういう危険な可能性があるかもしれない〟という?(疑問符)で終わっていて、全く説得力がなかったとのこと。

一方、推進派の話は今までのところ一度もないという。政府・役所・事業者は一体何をしているのだろうか。これじゃあまるで三すくみの見殺し状態ではないか。

高橋・神恵内村長(左)と

全国から勇断にエール 問われる政治の決断

ただ、悪い話ばかりではない。文献調査への応募以降、寿都へのふるさと納税は増えているという。全国からこの町の勇断へのエールが集まっているのである。

全国には少なくない自治体がこの問題に手を上げようとしていることを私は知っている。どこの自治体も、今次の事態を受けて政府・役所・事業者がどう出ていくのかをじっくりと注視している。

今こそ政治の決断と実行力が求められているのではないか。そうすれば、この処分地問題は前に進む―その実感を寿都と神恵内の地を踏んで、ひしひしと感じた。

将来に火種を残したCOP26 途上国からの突き上げは必至


【ワールドワイド/環境】

第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)は、グラスゴー気候協定を採択して閉幕した。

 議長国英国は21世紀半ばまでに全球カーボンニュートラル(CN)を確保し、気温上昇目標を1・5℃抑制にすることを最も重視していた。その布石として英国は6月開催の先進国首脳会議(G7)で1・5℃目標、2050年CN、排出削減対策を講じていない石炭火力からの脱却、海外における石炭火力への公的融資の停止などの野心的な方針を首脳声明に盛り込んだ。COP直前に行われたイタリアが議長を務める主要20か国・地域(G20)サミットでは中国、インド、ロシアなどの反対でG7と比べ後退した内容となり、COP26でこれを超える合意はできないと思われていた。

 しかしグラスゴー気候協定では、①1・5℃目標を実現できるよう努力を決意する、②30年に全球排出量を10年比45%削減、21世紀半ばのネットゼロへ、③2020年代を「勝負の10年」とし、野心レベルをスケールアップする作業計画をCOP27で採択、④締約国は必要に応じてパリ協定の温度目標に整合的な形で22年末までに自国の目標を見直し強化を求める、⑤削減対策の取られていない石炭火力のフェーズダウン、非効率な化石燃料補助金のフェーズアウトに努める―点などが盛り込まれた。石炭火力は当初案の「フェーズアウト」が「フェーズダウン」になったとはいえ、G20より明らかに前進した表現だ。

 英ジョンソン首相は「歴史的合意」として成果を誇示するが、課題は多い。1・5℃目標や50年全球CNを目指すということは、50年までの限られた炭素予算を巡る先進国、途上国の対立激化を招くことになる。途上国は先進国に対し50年CNの大幅な前倒しと途上国支援の大幅な上積みを要求するだろう。また石炭火力のフェーズダウンは年限を特定したフェーズアウトに強化、対象を化石燃料全体に拡大するなど、より過激な議論が生ずることは確実だ。パリ協定は温室効果ガス削減に着目し具体的手段では各国の自主性を尊重するものであったが、選択肢を縛る傾向が見え始めている。

 欧米諸国は1・5℃目標、CNを押し込むことに成功したが、その代償として途上国からの目標引き上げ要求、資金援助拡大要求を間断なく受けることになるだろう。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)