【北海道寿都町町長選/石川和男 寿都町・神恵内村地域振興アドバイザー】
高レベル放射性廃棄物の処分場選定の文献調査に応募した寿都町の町長選で、片岡春雄町長が当選した。 現地を訪れ「町民は理解を深め、将来を考えて判断した」と指摘する石川和男氏が、町長選を振り返る。

10月26日に行われた寿都町長選で片岡春雄町長が6選を果たした。昨年10月に片岡町長が処分場選定の文献調査に応募してから、町民はものすごい「雑音」にさらされてきたことだろう。主に寿都町外の原発反対派の人たちからのもので、彼らの主張に惑わされて、文献調査について疑心暗鬼になった町民は少なくなかったと思う。
その中で、有権者は賛成派、反対派双方の主張を聞いた上で、文献調査の継続を訴えた片岡氏を町長に選んだ。それには、さまざまな理由があったと考えている。
まず、町の将来を考えた時、国家事業を誘致すれば、半永久的に国との関係が結ばれることのメリットだ。もちろん、応募によって得られる資金的資源は大きい。しかし、それだけではない。文献調査、さらに概要調査、精密調査と進めていくと、多くの地層処分に携わる関係者が町を訪れる。
もし処分場の工事に着工すれば、さらに人的資源、技術的資源が寿都町に集積することになる。町民の多くは、将来世代に発展が期待される町を残そうと考えたのだと思う。
片岡町長の熱心さが、町民に伝わったことも勝因の一つだろう。今回の選挙戦を見て思ったのは、地方自治体では首長や議会が本気かつ真摯になって取り組めば、住民の支持を得ることができる、ということだ。
寿都町も全国の多くの市町村と同じように、少子高齢化に悩まされている自治体だ。主な産業は漁業と公共事業で、多くの若者が町を去っていく。片岡町長は、高齢者などに対する社会保障、それに何よりも、寿都町で子供たちが育っていくための財政見通しを考えると、自分たちだけで資金を生み出すことは難しく、国策に協力することに伴う財源確保の道を選んだと話していた。
自分たちの世代ではなく、将来の世代のことを考えている。そういう気持ちは、確実に有権者に伝わっていたと思っている。

廃棄物処分を巡る誤解 長期間にわたる全体事業
高レベル放射性廃棄物の処分事業については、世間に多くの誤解がある。最終処分事業は実に長い期間が必要になる。2年間文献調査を行い、次に概要調査、その次の精密調査と、処分地選定まで20年ほどかかる。実際に処分場の建設工事が始まっても、完成までは10年ほどかかる。反対派の人たちはすぐにでも高レベルの放射性廃棄物がやってくるようなことを言うが、実際は文献調査開始から25~30年ほど先になる。
さらに肝心なことは、全く安全な事業だということだ。処分される前の高レベル放射性廃棄物は十分に冷却されていて、化学変化を起こさず、それが強固なキャスクという容器の中でガラス固化体となっている。放射能が漏れるようなことは、100パーセントないといえる。
しかし、新聞、雑誌、テレビなどで処分事業が取り上げられて、不安を覚える人たちの声が載ると、それが見出しなどになって、増幅されて針小棒大に伝わってしまう。
寿都町では、反対派の人たちがビラやパンフレットなどを配っていた。私の率直な印象として、「危険性を誇張している面はあるが、分かりやすく、よくできている」と思った。
何とか賛成派の人たちを翻意させようとして作っているから、ある程度根拠もしっかりとしている。印象的だったのは、親しみを感じさせる内容だったことだ。ただ、問題は結論が反対であるということだ。
NUMO(原子力発電環境整備機構)が作る資料は、安全性などについて事実を分かりやすく表現している。だが、反対派はそれを上回るものを作っている。反対派の作るものには参考にすべき点が多いと思った。
町長選は、「文学・哲学対数学・工学の戦い」だったと考えている。反対派は一定のファクトに基づいていても、結局は不安感、恐怖感など人間の感情に訴えた。それに対して多くの町民は、町の将来を考えた上で、科学的な根拠に基づいて理性的な判断を行った。片岡町長の当選は、結局「数学・工学」が「文学・哲学」に勝った結果といえると思う。
昨年10月の応募は町長と議会が決めたことで、町民の意見を聞くかたちにはなっていなかった。今回、選挙を行ったことで、町民の多くが安全性を含めて処分事業について理解を深めた。選挙によって文献調査は、「お墨付き」をもらったといえるだろう。