処分場「文献調査」が一歩前進 寿都町長選が示した「住民理解」


【北海道寿都町町長選/石川和男 寿都町・神恵内村地域振興アドバイザー】

高レベル放射性廃棄物の処分場選定の文献調査に応募した寿都町の町長選で、片岡春雄町長が当選した。 現地を訪れ「町民は理解を深め、将来を考えて判断した」と指摘する石川和男氏が、町長選を振り返る。

いしかわ・かずお 1989年東京大学工学部卒、通商産業省(現経済産業省)入省。エネルギー政策、産業政策などに携わる。内閣府規制改革会議専門委員、政策研究大学院大学客員教授などを歴任。専門は社会保障産業政策論、エネルギー政策論など。

 10月26日に行われた寿都町長選で片岡春雄町長が6選を果たした。昨年10月に片岡町長が処分場選定の文献調査に応募してから、町民はものすごい「雑音」にさらされてきたことだろう。主に寿都町外の原発反対派の人たちからのもので、彼らの主張に惑わされて、文献調査について疑心暗鬼になった町民は少なくなかったと思う。

その中で、有権者は賛成派、反対派双方の主張を聞いた上で、文献調査の継続を訴えた片岡氏を町長に選んだ。それには、さまざまな理由があったと考えている。

まず、町の将来を考えた時、国家事業を誘致すれば、半永久的に国との関係が結ばれることのメリットだ。もちろん、応募によって得られる資金的資源は大きい。しかし、それだけではない。文献調査、さらに概要調査、精密調査と進めていくと、多くの地層処分に携わる関係者が町を訪れる。

もし処分場の工事に着工すれば、さらに人的資源、技術的資源が寿都町に集積することになる。町民の多くは、将来世代に発展が期待される町を残そうと考えたのだと思う。

片岡町長の熱心さが、町民に伝わったことも勝因の一つだろう。今回の選挙戦を見て思ったのは、地方自治体では首長や議会が本気かつ真摯になって取り組めば、住民の支持を得ることができる、ということだ。

寿都町も全国の多くの市町村と同じように、少子高齢化に悩まされている自治体だ。主な産業は漁業と公共事業で、多くの若者が町を去っていく。片岡町長は、高齢者などに対する社会保障、それに何よりも、寿都町で子供たちが育っていくための財政見通しを考えると、自分たちだけで資金を生み出すことは難しく、国策に協力することに伴う財源確保の道を選んだと話していた。

自分たちの世代ではなく、将来の世代のことを考えている。そういう気持ちは、確実に有権者に伝わっていたと思っている。

有権者は文献調査の継続を訴えた片岡氏を町長に選んだ

廃棄物処分を巡る誤解 長期間にわたる全体事業

高レベル放射性廃棄物の処分事業については、世間に多くの誤解がある。最終処分事業は実に長い期間が必要になる。2年間文献調査を行い、次に概要調査、その次の精密調査と、処分地選定まで20年ほどかかる。実際に処分場の建設工事が始まっても、完成までは10年ほどかかる。反対派の人たちはすぐにでも高レベルの放射性廃棄物がやってくるようなことを言うが、実際は文献調査開始から25~30年ほど先になる。 

さらに肝心なことは、全く安全な事業だということだ。処分される前の高レベル放射性廃棄物は十分に冷却されていて、化学変化を起こさず、それが強固なキャスクという容器の中でガラス固化体となっている。放射能が漏れるようなことは、100パーセントないといえる。

しかし、新聞、雑誌、テレビなどで処分事業が取り上げられて、不安を覚える人たちの声が載ると、それが見出しなどになって、増幅されて針小棒大に伝わってしまう。

寿都町では、反対派の人たちがビラやパンフレットなどを配っていた。私の率直な印象として、「危険性を誇張している面はあるが、分かりやすく、よくできている」と思った。

何とか賛成派の人たちを翻意させようとして作っているから、ある程度根拠もしっかりとしている。印象的だったのは、親しみを感じさせる内容だったことだ。ただ、問題は結論が反対であるということだ。

NUMO(原子力発電環境整備機構)が作る資料は、安全性などについて事実を分かりやすく表現している。だが、反対派はそれを上回るものを作っている。反対派の作るものには参考にすべき点が多いと思った。

町長選は、「文学・哲学対数学・工学の戦い」だったと考えている。反対派は一定のファクトに基づいていても、結局は不安感、恐怖感など人間の感情に訴えた。それに対して多くの町民は、町の将来を考えた上で、科学的な根拠に基づいて理性的な判断を行った。片岡町長の当選は、結局「数学・工学」が「文学・哲学」に勝った結果といえると思う。

昨年10月の応募は町長と議会が決めたことで、町民の意見を聞くかたちにはなっていなかった。今回、選挙を行ったことで、町民の多くが安全性を含めて処分事業について理解を深めた。選挙によって文献調査は、「お墨付き」をもらったといえるだろう。

アナウンス効果を疑われた朝日 参院選に向けメディアの思惑は


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

 結果的には正解だった。衆院選の結果を予測した朝日10月26日「自民、過半数確保の勢い、衆院選中盤情勢調査」である。

読売11月2日「自民幹事長に茂木外相、首相、経済対策を中旬策定」は「第49回衆院選は1日、全議席が確定し、自民党が国会を安定運営できる絶対安定多数の261議席を獲得した」と伝える。

予測を読んだ直後はホントか?と首を捻った。ほとんどのメディアが自民の苦戦を伝えていたからだ。予測前日の朝日「参院補選、静岡で自民敗北」も「岸田政権にとって初の国政選挙」での黒星は「政権の打撃」と書いていた。

朝日の急転換の意図を怪しむ声がネットでも広がった。

特に疑われたのは「アナウンスメント効果」だ。朝日の時事用語辞書『知恵蔵』によれば、「マスメディアによる選挙予測報道が有権者の投票行動に影響を与えること」を意味する。

具体例として「すべての新聞の予測が『与党(自民党)の安定多数』だとすると、与野党伯仲を望む有権者は、他党に投票したり、棄権したりする」を挙げる。

逆に言えば「自民苦戦」の予測ばかりなので、朝日はあえて逆張りした。そんな指摘である。

狙い通りか。選挙終盤の情勢に関して、10月29日の日経、読売は、それぞれ「自民、単独過半数の攻防」「自民単独過半数は微妙」と苦戦を伝えた。

それでも最終的に「自民単独で絶対安定多数」(読売11月2日)となって、政治の安定を歓迎するムードも広がるが、読売は警戒を強める。「針路、21衆院選後〈上〉」(11月2日)だ。

今回の選挙結果について「薄氷の勝利」とし、「野党の候補者一本化の影響を受け、多くの小選挙区が接戦に。自民が5000票未満の僅差で逃げ切った選挙区は17に上り、34選挙区が1万票未満の差。結果は一変していたかもしれない」と分析する。

薄氷の下は奈落だ。

「来夏には参院選が控えている。政権選択選挙の衆院選とは異なり、『有権者がお灸をすえやすい』(閣僚経験者)。2019年参院選では32ある改選定数1の1人区すべてで、野党は統一候補を立てた。計15議席以上減らせば、与党は参院で過半数を失い、『ねじれ国会』に逆戻りしかねない」

日経11月5日「来夏参院選1人区、自民28勝4敗か、衆院選票数で予測した場合、与党で過半数維持の試算」も、与党有利の予測を示しつつ、「07年の参院選は1人区で与党系が6勝23敗と負け越した。参院で野党が与党を上回る『ねじれ国会』となり、09年の衆院選で民主党が政権交代を実現する足がかりとなった」と、政権交代のリスクにまで言及する。

「新型コロナウイルスの感染状況や景気の回復具合などで与野党を取り巻く政治情勢も来夏までに変わり得る。試算はあくまで現時点の各党の勢いを表す目安」

参院選に向け、メディアは過激さを増すと考えるべきだろう。

毎日11月2日コラム火論「『勝者』はいるのか」は、その先駆けだろうか。

衆院選について「前政権による『自粛』頼みのかじ取りで、あおりを受けた飲食店の経営者や非正規従業員は少なくない。その『信任』を問う選挙。だが与党は堅調だった」と書く。

前政権の観光支援策「GoToトラベル」事業や五輪開催に反対し「自粛」を叫んでいたのは野党だが……。メディアに御用心。

いかわ・ようじろう(デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員)

【マーケット情報/12月10日】原油反発、変異株への警戒緩和


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み反発。米国原油を代表するWTI先物は5.41ドル、北海原油の指標となるブレント先物は5.27ドルの大幅上昇となった。新型コロナウイルス・オミクロン変異株に対する警戒感が緩和されたことが背景にある。

世界保健機構は、オミクロン変異株の感染による症状は、比較的軽度であるとの見解を示した。南アフリカでは同変異株の感染者数が急増しているが、集中治療室の利用率は低い。欧州委員会は、移動規制の強化を保留。また、インドネシアは、クリスマス休暇と年末に向け、移動規制を緩和する計画。経済活動が維持され、石油および燃料需要は保たれるとの予測が強まった。

加えて、北東アジアの製油所は高稼働を続ける見通し。中東産油国の1月ターム供給価格が発表され、石油製品の精製マージンが明確になるまでは、原油処理量の変更には踏み切らない見込みだ。

供給面では、米国政府が、戦略備蓄5,000万バレルの放出時期を数カ月ほど調整する可能性を示唆。エネルギー価格が下落した場合は、柔軟に対応すると表明した。また、同国の週間在庫は減少。

一方、インドは、変異株の感染拡大を受け、国際便の停止期間を1か月半ほど延長。英国も入国規制を強めた。さらに、米国の石油サービス会社ベーカー・ヒューズが発表した国内の石油掘削リグの稼働数は、前週から4基増加して471基となり、価格上昇を幾分か抑制した。

【12月10日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=71.67ドル(前週比5.41ドル高)、ブレント先物(ICE)75.15ドル(前週比5.27ドル高)、オマーン先物(DME)=72.72ドル(前週比1.90ドル高)、ドバイ現物(Argus)=72.94ドル(前週比2.45ドル高)

持続可能社会を支えるエネルギー 原子力の価値を社会に発信


【オピニオン】山口 彰/日本原子力学会会長

 第6次エネルギー基本計画では、S+3Eがエネルギー政策の根幹であることが確認された。しかし、S+3Eのありようについて共通理解は得られていないと思う。例えば、太陽光エネルギーの発電コストが原子力を下回ることが注目されたが、系統につなげる統合コストや予備力確保、運用のコストなどは発電コストに含まれていない。発電の総コストにしてもS+3Eのほんの一部にすぎない。

従来は、エネルギーの自給率(燃料をどれだけ自国で賄えるか)と発電コストに基づいていれば概ね適切な政策決定ができていた。今や、社会システムや技術が複雑化・多様化してきたことにより、エネルギーの評価がより難しくなった。持続可能社会を支えるエネルギー構成の選択には多くの要因を考慮するとともに、それらの適切な評価軸と定量的な指標が求められる。

1900年、米国では4192台の自動車が生産され、その内訳は、1681台は蒸気自動車(1769年発明)、1575台は電気自動車(1873年発明)、ガソリン自動車(1885年発明)は936台であった。蒸気自動車は蒸気圧が十分に高まるまで10分以上かかり、蒸気はそのまま捨てていたので、30~50kmごとに水を補給する必要があった。それなのに蒸気自動車が40%を占めた理由は統合コストにある。1900年のマンハッタン島には180万人の人間と23万頭の馬が暮らしており、往来する馬のためにあちらこちらに公共の水桶が設置されていた。蒸気自動車はその水を使うことができたので、普及したのである。その後、ガソリンが洗浄剤や溶剤、燃料として至る所で使われ始め、どこでも手に入るようになった。統合コストが安くなり、ガソリン自動車が普及することになる。

技術が社会に普及・定着するには、社会システムにうまく適合する必要がある。社会に適合するとは二つのことを意味する。まず、既存の社会インフラへの接続性などの技術や制度の問題、そして人々がその技術を良いものとして利用するという社会的受容性である。蒸気自動車は、1800年代に蒸気機関が普及し、既に受容されている技術であった。

エネルギー基本計画では、S+3Eのさまざまな要素が議論された。技術自給率、サプライチェーン、国民からの信頼、蓄電や蓄熱、CCUS、技術実用レベル、レジリエンスなどである。それらに求められる条件を満たすエネルギーは果たしてあるのだろうか。エネルギー源を適切に組み合わせてこそ社会システムに適合するのであり、それはS+3Eを評価・検証して導かれるエネルギー構成である。 日本原子力学会は、社会に対して原子力の価値をお伝え(発信)するとともに、社会からの声をお聞き(受信)することを本年の基本方針のひとつとした。S+3Eの目標を総体として達成するために、原子力の価値と果たす役割を社会にお伝えすることが大切である。原子力科学技術は、持続可能社会を支えるエネルギー構成に不可欠な要素であるのだから。

やまぐち・あきら 1979年東大工学部原子力工学科卒、東大大学院博士課程修了。動力炉・核燃料開発事業団(当時)など経て2015年東大大学院工学系研究科教授。工学博士

国内外と連携し「気候モデル」研究 地球温暖化問題解決の一助に


【電力中央研究所】

 2021年のノーベル物理学賞を真鍋淑郎氏とクラウス・ハッセルマン氏らが受賞し、両氏の研究テーマの「気候モデル」が注目を浴びた。気候モデル研究は、電力中央研究所でも国内外の研究機関と連携して進められていた。

気候モデルとは何か。電中研サステナブルシステム研究本部の野原大輔上席研究員は「温度、風、大気などの動きを物理式化した天気予報で使われる数値気象モデルに、大気中のCO2濃度が高くなることで地球が温暖化する仕組みを取り入れて、気候変動の過程を計算して予測できるようにした数値モデルのことである」と説明する。

真鍋氏の気候モデルは、温暖化に伴い海洋がエネルギーを蓄積する仕組みも取り入れた「大気・海洋結合モデル」に発展。ハッセルマン氏による温暖化の原因特定の考え方も踏まえて、各国の研究機関で気候モデルの研究・分析が行われるようになることで、地球温暖化問題への世界的な理解が深まっていった。

大気・海洋結合モデルの発展形となる地球システムモデルの概念
枠と矢印は要素モデルと要素モデル間の物理量の交換を表す。実線は大気・海洋結合モデルの要素で、点線は地球システムを構成する炭素循環の要素を示す。
出典:電中研レビューNo.56、コラム1、2015年

論文をIPCCも引用 温暖化対策研究が芽吹く

研究を始めた経緯について、同本部の筒井純一研究参事は「化石燃料を利用するエネルギー業界として、地球温暖化問題は避けて通れない。安定供給や電源構成、インフラの維持管理にも影響を及ぼす」と話す。電中研では90年代から気候モデル研究に着手した。

さまざまな研究を経たのち、15年には野原氏、筒井氏らが論文を発表。共同研究を行う海洋研究開発機構(JAMSTEC)と、気候モデル研究で提携していた米・国立大気研究センター(NCAR)が構築した2種類の気候モデル(上図)を用いて、当時はまだ世の中に浸透していなかったネットゼロシナリオに注目して気候シミュレーションを行い、内容を比較・検討した。論文では各気候モデルの温度上昇幅に違いがあるものの、CO2ネットゼロ達成後には大幅な気温上昇は起きないという結果が示された。論文はIPCC第六次報告書にも引用されるなど、世界的な地球温暖化対策の科学基盤の構築に寄与している。

現在、電中研ではこれまで積み上げてきた研究成果をベースに、再生可能エネルギーの出力予測、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿ったシナリオ分析など、気候変動問題に対処する応用研究に取り組んでいる。持続可能な地球環境の維持と電力の安定供給の両立に向けて、今後も研究開発を続ける構えだ。

脱炭素社会実現への鍵 水素エネルギーの可能性を討論


【エネオス】

行政、学識者、民間企業の関係者らが未来のエネルギーの在り方について討論する「新時代のエネルギーを考えるシンポジウム」が、11月5日に東京都内で開催された。26回目を迎える今回のテーマは、「脱炭素社会の未来像 カギを握る〝水素エネルギー〟」だ。

昨年10月に政府が「2050年カーボンニュートラル」の方針を掲げたことが、脱炭素化の流れを一気に後押し。民間企業や研究機関などが、水素をはじめ、脱炭素社会を実現するための革新的な技術開発や実証などの取り組みを積極的に進めている。 主催者としてあいさつした大田勝幸実行委員長(ENEOS社長)は、脱炭素のまちづくりに欠かせない水素の重要性を強調。「既に水素を活用した実証が進められているが、真の社会実装に向け社会全体で将来のエネルギーの在り方に対する理解を深め、水素エネルギーの役割や可能性について議論を深め、課題解決とイノベーションに取り組まなければならない」と述べた。

可能性と課題が浮き彫り 識者6人が意見交わす

パネルディスカッションには、佐々木一成九州大学副学長、高村ゆかり東京大学教授、保坂伸資源エネルギー庁長官、前田昌彦トヨタ自動車執行役員ら6人が登壇。脱炭素化が進んだ未来の社会像や、水素の可能性や社会実装を進める上での課題などについて意見を交わした。

水素をテーマに活発な意見が交わされた

水素は、太陽光や風力といった再生可能エネルギーや、化石燃料などさまざまな資源から製造できるエネルギー源であると同時に、運搬や貯蔵が可能でキャリアとしての活用も期待されている。佐々木氏は、「CO2を排出せずに、今まで通りエネルギーを使い快適な社会を維持することができる。地域・企業がエネルギー源を選択できるため、汎用性も高い」と、そのポテンシャルを語った。

一方、社会実装をするためには、イノベーションのみならず消費者や企業の理解や行動変容も欠かせない。これについて前田氏は、「普及させられるかは、利用者側の選択にかかっている。多くの選択肢を用意し、反応を確認しながら進めていく必要がある」と述べ、高村氏は、「CO2の排出に価格を付けるなど、排出しないことへの制度的な価値付けが求められる」とした。

保坂氏は、「脱炭素はリスクでありチャンスでもあるが、避けて通ることはできない。今後、どういう社会になっていくかまだ明らかではない面もあるが、CO2を排出しない、または排出したとしてもマイナスにする技術の確立も含めて、トータルで考えていく必要がある」と、複合的な取り組みで脱炭素社会を目指していく姿勢を示した。

IDI―I社長の解任劇 保有火力問題など前途多難


電力インフラファンドのIDIインフラストラクチャーズが深刻な業績不振を続けている責任は荒木秀輝社長にあるなどととして、持ち株会が荒木氏の取締役解任を求めていた訴訟で、東京地裁は11月12日、持ち株会側の訴えを認め、荒木氏の解任を命じる判断を下した。後任には裁判所が選任した須藤秀章弁護士が就いた。

主要株主の大和証券グループ本社の常務でもある荒木氏らが昨年夏の取締役会で、当時の社長だった埼玉浩史氏の解職動議を発議して以来1年以上にわたって係争が続いている。その間にI社が主要株主のFパワーが破綻。会社更正法に基づく経営再建を進める中、新スポンサーに投資ファンドの日本GLP社が決まった。

I社は須藤・仮取締役のもと、荒木体制での問題点を検証しながら、経営の立て直しを進めていくことになる。同社が関与するファンドの保有発電所(北海道・釧路や福岡・響灘の石炭火力など)の再生が焦点となるが、解決は容易ではない。関係者の間では「いずれ解散を余儀なくされるのでは」との観測も。最終的な着地点に業界の関心が集まる。

JOGMEC法を改正へ CN関与で名称変更も視野


2050年カーボンニュートラル(CN)社会実現への布石となるか――。

資源エネルギー庁は、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の機能強化に向けた法改正議論に着手する。有識者会合での議論を踏まえ、早ければ、来年の通常国会への法案提出を目指す。

CN社会に向けては、脱炭素化された電力による電化を進めるほか、電化が困難な領域では、水素やアンモニア、合成メタンなどの脱炭素化された合成燃料の活用が欠かせない。安定的かつ安価にこれらを調達するためには、海外で製造し国内で活用する仕組みが不可欠となる。

そこで、これまで石油、天然ガス、鉱物資源などの安定調達を支えてきたのと同様、JOGMECがこれら燃料のサプライチェーン構築を支援できるようにするほか、リスクマネーの供給を通じ、CCS(二酸化炭素の回収・貯留)など脱炭素燃料技術の開発を支援できるようにするのが法改正の趣旨だ。海外でのCCSによる温室効果ガス削減分を、「クレジット」として日本の削減分にカウントする仕組みの確立や、役割の見直しに伴い名称変更も視野に入れるもよう。CNへの本気度が問われる。

競争加速する「再エネ×デジタル」 日本企業の勝算やいかに


【業界紙の目】臼井慎太郎/電波新聞社 報道部総合電機・情報通信グループ長

脱炭素化に向け各国がエネルギー転換で競い始めた。日本はその主戦場で優位に立てるのか。

再生可能エネルギーなどにデジタル技術を掛け合わせる新領域への本気度が問われる。

 「Green × Digital」。電子情報技術産業協会(JEITA)がそんなキーワードを冠したコンソーシアムを10月に立ち上げた。「カーボンニュートラル」につながるデジタルソリューションの創出や実装に向けた活動を進める業種横断の組織で、11月時点で70社超が参加した。

活動の一つが、産業界のサプライチェーンを通じて排出されるCO2の情報を可視化して共有できるようにする「データ連携基盤」の構築。加えて、製品・設備やサービスに再生可能エネルギーを利用するという「環境価値」を証明する仕組みの具体化なども目指す。設立総会で座長に就任した東京大学大学院情報学環教授の越塚登氏は「グリーン社会の実現に向けて産業界の変革を促していくためにはデジタルの技術が非常に重要だ」と強調した。

役割増すVPP 電機やIT大手が積極投資

背景には、各国が脱炭素へかじを切る動きがある。英グラスゴーで開かれた国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)では、温暖化対策が取られていない石炭火力発電所の廃止を盛り込んだ声明に欧州主要国をはじめ46カ国・地域が署名した。

日本は声明への署名は見送ったが、世界の潮流は無視できない状況だ。政府は10月、温室効果ガスを2030年度までに13年度比で46%削減する目標の達成に向けて、再エネについて「最優先で導入に取り組む」と初めて明記。30年度の電源構成で再エネ比率を19年度実績の約2倍の「36~38%」に引き上げる一方、火力発電比率は41%に引き下げた。とはいえ再エネによる発電量は天候の影響を受けやすい上、電力の安定供給が難しいという課題を抱えている。このため、電力の需要と供給のバランスを最適に調整する対応が求められる。そうした課題を解決する手段として、国内外から熱視線が注がれているのが「仮想発電所(VPP)」だ。

VPPは、各地に分散する太陽光発電や蓄電池などの設備をAIやIoTを駆使して統合制御し、あたかも一つの発電所のように機能させる仕組み。再エネ電源による電力を、電力需給の調整力を取引する「需給調整市場」に提供したい事業者にとって、VPPは不可欠な存在だ。

総合電機メーカーやIT大手は、4月開設の需給調整市場や、来年4月スタートの再エネ支援策「FIP(フィード・イン・プレミアム)」の動きをにらみ、VPPの構築支援で攻勢をかけている。VPPを活用し分散型電源の取りまとめを担う「リソースアグリゲーター」として、名乗りを挙げる企業も現れた。

VPPの可能性を追求する1社が日立製作所だ。「各国の脱炭素化の計画に貢献できるような技術や能力の開発に注力している」。同社のアリステア・ドーマー副社長はCOP26に先立ち開いたオンライン上の合同取材で、こう力を込めた。来年度から3年間で1兆5000億円の研究開発投資を行う計画で、脱炭素社会の実現に向けた技術開発も盛り込んだ。東芝グループもドイツのVPP事業者と合弁会社を設立するなど、カーボンニュートラル実現の支援体制を強化している。

経済産業省は、6月に関係省庁と連携して「グリーン成長戦略」を策定した。50年のカーボンニュートラル実現という政府の宣言を受けて経済と環境の好循環を作ることが狙い。戦略では、成長が見込める14の産業分野に政策を総動員して育てる方針と工程表を提示。その一つとして「半導体・情報通信産業」を位置付けた。

さらに、「戦略を支えるのは強靱なデジタルインフラであり、グリーンとデジタルは車の両輪である」と明記した。経産省が官民の有識者を巻き込み11月中旬に開いた「半導体・デジタル産業戦略検討会議」の4回目でも、エネルギーインフラのデジタル化を進める課題などを取り上げた。

日立製作所はCOP26で脱炭素化支援技術をアピール

技術の掛け算で勝負へ 日本勢に求められる姿勢は

グリーン×デジタル市場の攻略に向けて本腰を入れ始めた日本の官民からは、「手をこまねいていては国際競争に埋没しかねない」という危機感が透けて見える。デロイトトーマツグループによると、欧米ではエネルギー産業でAIやアナリティクスなどの先端技術を駆使する動きが進んでいる。技術革新を原動力に市場は成長の一途をたどる可能性が高く、覇権争いは一段と激化しそうだ。

同グループパートナーの庵原一水氏は、日本の官民はカーボンニュートラルの実現に貢献する個々の技術の開発力を引き上げることにとどまらず、各種技術を最適に組み合わせて社会に実装する取り組みを強化する必要性を力説。その上で「日本企業は『自前主義』を脱却し、エリア単位で多様なプレーヤーと協調しなければ世界の競争で勝ち残れない。政策的な誘導も必要になるだろう」と述べた。

再エネを巡っては例えば、特定エリアの発電所で生み出された電力を域内施設に供給する「エネルギーの地産地消」を進める際に官民の知恵や技術を結集。これにより域内のエネルギーコストを削減し、地域経済の振興にもつなげる展開が考えられるという。

同グループディレクターの加藤健太郎氏も日本企業が環境・エネルギー分野で磨く技術開発力を評価した上で、「時代の変化を見据えて開発のスタンスや内容、モノの売り方をスピーディーに変えていく柔軟性が問われる」と課題を投げかけた。

IEA(国際エネルギー機関)の試算によると、温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」を実現するために必要な世界のエネルギー関連投資は、年間80兆円から140兆円規模に拡大する見通しだ。日本はそうした成長投資を呼び込み、経済成長につなげることができるのか。既存の組織や分野の垣根を越えて広範囲に連携して総力で勝負しなければ、技術の掛け算で成長する「融合領域」の国際競争で遅れを取りかねない。その一翼を担う電機・IT業界の奮起を期待したいところだ。

〈電波新聞社〉〇1950年創刊〇読者数:29万5000部〇読者構成:電機、電子部品・材料、家電、情報通信、放送、産業機械など

「最終処分」議論が前進か 調査検討で注目の自治体は


使用済み核燃料の最終処分場選定を巡る国民的議論が前進しそうな気配だ。その試金石となる北海道寿都町長選(10月26日)では、第一段階の文献調査に踏み出した現職の片岡春雄氏が6回目の当選を果たした。対立候補の越前谷由樹氏が優勢との下馬評を覆し、わずか235票差という僅差での勝利だ。片岡氏は「非常に複雑な思い」と心境を吐露したが、これで文献調査継続の民意が確認されたことに違いはない。

約2年間の文献調査を終えた後は「概要調査」に移る。同じく文献調査が行われている北海道神恵内村では、高橋昌幸村長が概要調査を前に「住民投票を行うのも一つの手段」と前向きな姿勢を見せている。寿都町では既に住民投票条例を制定済みで、神恵内村でも議論が盛り上がりそうだ。

有力筋によると、全国で複数の自治体が文献調査を検討中。注目は山口県上関町だ。原発立地問題で紛糾した経緯があるが「現在は調査に前向き」(政府高官)。もし名乗りを上げれば、全国的な関心を集めるのは確実。迷っている自治体の背中を押す可能性も。今後の動向から目が離せない。

脱炭素と安定供給の両立 電力自由化の再設計が必要に


【論説室の窓】井伊重之/産経新聞 論説委員

「新自由主義からの転換」を掲げる岸田文雄政権が始動した。

その象徴としてほしいのが、脱炭素と安定供給の両立のための電力自由化の再設計だ。

英グラスゴーで開かれた第26回気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)では、議長国の英国が加盟各国に対し、石炭火力発電所の早期廃止を求めた。その結果、先進国は2030年代、途上国も40年代までに段階的に廃止することで合意し、世界46カ国がこれに賛同した。だが、米国や中国、インドなど主要な石炭消費国は参加を見送った。

英国は今回のCOPを開催するにあたり、自国の石炭火力の廃止時期を25年から1年前倒しすることを決めた。各国に石炭火力の廃止を求める以上、自らも廃止に向けて積極的に動くことで、世界的な廃止機運の高まりを狙ったのだろう。ただ、英国の電源構成のうち、石炭火力が占める比率は、わずか1%程度に過ぎない。今回の廃止賛同国の多くも石炭火力が占める割合が低い国ばかりだ。

英国が危機に直面 石炭火力の一時存続を検討

その英国はいま、深刻なエネルギー危機に直面している。主力燃料の液化天然ガス(LNG)の価格高騰で電力小売り会社が相次いで経営破綻に追い込まれ、原子力大国フランスからの電力系統も一時不調に陥った。

危機的な状況を打開するため、英国政府はバイオマス発電所への転換を決めていた国内最大の石炭火力発電所について、一時的に存続させることで電力供給の継続を検討中だ。脱炭素に向けて英国は石炭火力の廃止で主導権を発揮しようとしたが、やはり自国の安定的なエネルギー供給を賄うためには、目の敵にしている石炭火力にも頼らざるを得ないのが実情だ。

石炭火力の廃止についても世界で一律ではなく、CO2を回収・地下貯留や再利用する「CCUS」のほか、アンモニア混焼などの技術開発を含め、各国のエネルギー事情に応じて段階的に進める必要がある。

エネルギーは国を支える重要な基盤である。国際協調による脱炭素が問われる中でも、国家としてエネルギー供給を優先する判断は当然である。電力危機に見舞われて計画停電が頻発した中国も、国内炭の増産を進めている。その量は日本の年間消費量を上回るほどの大規模なものだ。各国とも脱炭素の取り組みの重要性は認識しているが、足元の安定供給に目を瞑ることはできない。

今回の世界的なエネルギー危機の一因として挙げられているのが、上流部門への投資縮小である。国際エネルギー機関(ⅠEA)の調査によると、原油・天然ガスの探鉱や開発、生産など「上流」事業に対する20年の投資額は3260億ドル(約36兆円)だった。世界的なコロナ禍の影響もあり、前年に比べて3割以上も減少した。既に石炭市場ではダイベストメント(投資引き揚げ)が本格化しているが、その波は天然ガスにも及びつつある。

また、米国が石油輸出国機構(OPEC)とロシアに高値水準の是正を目的にして追加増産を求めたが、先進国主導の脱炭素の動きをけん制し、OPEC側は増産要求に応じなかった。これまで産油国は石油価格の高騰が需要減少につながる事態を懸念し、市況に応じて生産量を調整することで価格メカニズムが形成されていた。だが、今回は脱炭素で将来的な需要減が避けられない中、産油国の姿勢にも変化が見られる。

一方、日本では来年2月に首都圏で深刻な電力不足が見込まれている。老朽化した石油火力の休廃止が進んでいるためだが、これが脱炭素の流れの中で、今後は石炭やLNGにも波及するのは確実だ。政府は当面の電力需給対策として、火力発電所の定期修繕の先送りや休廃止の延期などを求めている。新たなエネルギー基本計画では、脱炭素に向けて再生可能エネルギーを主力電源に位置付けたが、移行期に火力発電がショートすれば大きな混乱は避けられない。

ここで問われているのが電力自由化である。東京電力の福島第一原発事故を契機に始まった電力システム改革は、電力会社による地域独占を排し、総括原価方式を廃止することで利用者の選択肢を増やしながら、電気料金の引き下げを目指す取り組みだ。16年には家庭用を含めて小売りが全面自由化され、電力自由化は完成した。

だが、こうした自由化は現在の世界的な脱炭素や資源価格の高騰など、新たな事態は想定していない。電力会社は新規参入が相次ぐ電力市場の中で競争しながら、脱炭素と安定供給の両立を図る難しいかじ取りを迫られている。以前のようなコストを見込んだ電気料金は設定できず、各社の経営体力は消耗しつつあるのが実態だ。

もちろん電力会社の経営努力は欠かせないが、原発に対する政府の姿勢もあいまいな中で、脱炭素投資や安定供給のための設備投資が今後も確保できるかは不透明だ。

高効率火力発電には一定の資金回収を認めるべきだ

資金回収を認める制度に 総括原価の一部復活を

そこで提案したいのは電力自由化を再設計し、脱炭素と安定供給のための投資資金の回収を予見できるようにする新たなシステム整備である。

例えば低炭素や脱炭素につながるような高効率の火力発電の開発・建設や原発の新増設などに対し、一定の資金回収を認める制度の導入だ。いわば総括原価を一部認めることで、安定的な投資や技術開発の資金を確保してもらう仕組みといえる。経産省は容量市場で安定電源を確保する制度づくりを進めているが、その対象をもっと広げた形で脱炭素と安定供給の両立を図りたい。

岸田首相は「小泉純一郎内閣から続いた新自由主義的な政策からの転換を図る」と明言している。電力自由化は、電力市場の規制改革を通じて競争を促す新自由主義的な政策の典型といえる。だが、実際には電力市場の競争は進んだものの、電気料金は自由化前よりも上昇し、最も重要な安定供給さえも大きく揺らいでいる。これでは自由化の恩恵を国民は実感することなどできない。

こうした電力自由化の再設計は、新自由主義的な政策の転換の象徴ともなる。岸田首相には是非とも取り組んでもらいたい。

佐渡島における再エネ導入拡大へ 最適な需給制御の実現を目指す


【東北電力ネットワーク】

2050年カーボンニュートラルの実現に向け、電力ネットワークの高度化は不可欠だ。 電力系統が独立する佐渡島において、最適な需給制御の実現に向けた取り組みが始まっている。

 新潟県の佐渡島は、東北電力ネットワークの供給区域であり、同社が発電・送配電・販売までを一貫して行っている。江戸時代初期には徳川幕府が金山開発を進め、金の産出量が世界最大級を誇った。現在は、佐渡鉱山の遺跡群としてユネスコの世界文化遺産登録を目指すなど「歴史と文化の島」として知られている。また、東京23区の1・5倍ほどのこの島は、特別天然記念物トキの生息地としても有名であり、多種多様で恵まれた自然環境を有している。

佐渡金銀山は世界文化遺産登録を目指している
提供:佐渡観光PHOTO

2019年2月、新潟県は東北電力と包括連携協定を締結するとともに、再生可能エネルギーの導入拡大により、地域経済の活性化や防災力の強化、豊かな自然環境の維持を図り、持続可能な循環型社会の実現を目的とした「新潟県自然エネルギーの島構想」の策定に向け検討を開始した。現在、佐渡島での取り組みの具体化を進めている。

佐渡島は、本土と電力系統が接続されておらず、電力需要も島内に限定されていることから、天候により出力が変動する再エネが大量に接続された場合、電気の使用量と発電量のバランスが保てなくなり、電力の安定供給に影響を与える懸念がある。こうした背景を踏まえ、東北電力ネットワークは、「新潟県自然エネルギーの島構想」の先導的プロジェクトとして、再エネや蓄電池、内燃力発電、エネルギーマネジメントシステム(EMS)などを組み合わせた最適な需給制御の実現に向けた取り組みを進める。佐渡島での再エネのさらなる導入拡大を目指している。

発電出力の調整を一元管理 EMSを新規設置

同社はこの取り組みを進めるにあたり、太陽光発電、蓄電池システム、EMSを佐渡島に新設する。

佐渡市栗野江地区に出力規模1500kWの太陽光発電を、両津火力発電所構内には容量5000kW時の蓄電池を設置する計画だ。

佐渡島での最適な需給制御に係る取り組みのイメージ

取り組みの肝となるのがEMS。EMSは島内の電力使用量と再エネの発電量を予測する。さらに、蓄電池の充放電と内燃力発電の出力調整などを一元的に管理・制御して、再エネの出力変動による電力系統への影響を緩和。安定供給を維持する。再エネを最大限活用した経済的な需給制御を実現する。

具体的には、佐渡電力センターにEMS親局を設置し、制御対象装置への指令値などを演算・送信する。既設の内燃力発電に加え、新設する太陽光発電や蓄電池側にはEMS子局を設置する。さらに、需要家と協力し、蓄電池やEVなどの需要側設備を制御の対象とすることも検討していく。

太陽光発電、蓄電池システム、EMSの着工は22年度、運転開始は24年度を目指している。

2050年に向けて 安定供給と脱炭素化を両立

東北電力グループでは今年3月「東北電力グループ〝カーボンニュートラルチャレンジ2050〟」を掲げ、持続可能な社会の実現に向けて、カーボンニュートラル(CN)に積極的に挑戦する。

同社も送配電事業という側面から、電力ネットワークの高度化を通じて、安定供給の維持と電源の脱炭素化に向けた環境整備などに取り組む。

企画部設備計画グループの瀬谷雅俊副長は、「再エネの導入拡大や分散型電源の普及拡大に対応するための効率的な設備形成に加え、蓄電池・P2G(Power to Gas)を活用した需給変動抑制対策などの技術も駆使し、CNの実現に向けて最適なネットワークとなるよう、検討や設備形成を進めている」と現状を話す。

その上で、「今回の佐渡島における需給最適制御は、『足元の再エネ導入拡大時に必要となる需給制御』や『将来の再エネの最大限活用に向けた電源計画の検討』の知見の蓄積にも貢献する。また、この取り組みを通じ、分散グリッドの運用に関わる課題の分析と技術開発を進め、本土における分散グリッドなどへの応用についても検討していく」と取り組みの意義を語る。

日本が排出する温室効果ガスのうち約9割がCO2であり、CO2の排出量の約4割が電力部門。それだけに、CN実現に向けた電力会社の取り組みは注目されている。

佐渡島での取り組みをステップに、電力の安定供給と再エネ導入拡大の両立など、CNの実現に向けたさらなる挑戦が始まっている。

プロジェクトの概要について説明する瀬谷副長

国を挙げて新型炉を支援 米テラパワーが高速炉建設へ


日本では原発の新増設・リプレースを巡る論争が続いているが、米国では革新的な新型炉の建設が進もうとしている。

マイクロソフトの創業者、ビル・ゲイツ氏が創設したテラパワー社は11月16日、ナトリウム冷却高速炉「ナトリウム」の実証炉の建設地として、ワイオミング州ケンメラーを選んだと発表した。「ナトリウム」は小型モジュール式高速炉「PRISM」を開発したGE日立・ニュークリアエナジーと、テラパワーが共同で開発した。出力は34万5000kW。さらに溶融塩を使うエネルギー貯蔵システムを組み合わせると、出力は最大50万kWまで増やすことができる。

このプラントを米エネルギー省(DOE)も支援。先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)の対象とし、建設の総工費40億ドルのうち約19億ドルを米政府が拠出する。同社は28年までの運転開始を目指している。

ケンメラーには、25年に廃止される石炭火力発電所があり、それが同地が選ばれた理由の一つ。プラウントが稼働すると、新たに約250人の雇用が生まれる。

カーボンニュートラルを目指して、再生可能エネルギーと同時に新型炉開発にも力を入れる米国。ぜひ見習うべきだろう。

ビルゲイツ氏が新型炉に力を入れている
提供:AFP=時事

【覆面ホンネ座談会】脱石炭で紛糾したCOP26 現場模様を交え一挙総括


テーマ:COP26の評価

温暖化防止国際会議・COP26について、「脱石炭」や、産業革命前からの温度上昇を「1.5℃」に抑える目標の追求に合意した点を評価する報道が目立つ。しかし専門家の評価は真逆で、「現実を直視しない議論が横行した」と一刀両断する。

〈出席者〉 A経産省OB  B有識者  C産業界関係者

――「グラスゴー気候合意」を採択して閉幕したCOP26全体を振り返っての感想はどうだろうか。まず、現地へ赴いたAさんから話を聞きたい。

A 環境派は「歴史的合意」だと評価するが、今後10年のツケをどう払うのか大いに心配になった。特筆して1.5℃目標に「努めることを決意する」とし、NDC(国別貢献目標)の引き上げが不可欠。その作業計画を来年のCOPで詰め、2022年末までに強化したNDCの再提出を求めている。石炭も、これまでと異なり特筆して合意に書き込んだ。しかし現実は2℃目標の進捗さえおぼつかない。1.5℃なら30年までのカーボンバジェット(累積排出量の上限値)がさらに狭まり、先進国と途上国で奪い合いが激化する。

B 問題点はいくつもある。まず、先進国が自滅の仕掛けを自ら作ったこと。30年どころか、来年にもボロボロになりかねない。例えば米国バイデン政権は、NDCや50年目標を担保する法律が可決できず、来年は袋叩きだろう。ましてや中間選挙で負ければ目も当てられないことになる。

途上国では石炭火力削減には程遠い状況が続くが……(写真はインドネシアの発電所)

1.5℃追求はパリ協定の書き換え 将来へのツケ残す結果に

C 本来の議題はパリ協定6条のルール作りや、資金の話。1.5℃や石炭はいわば場外乱闘だ。国際条約に基づく合意は各国が持ち帰り国内での批准手続きが生じるが、石炭などは政治的に表明した口約束にすぎず、国内での実施を担保できない。故に「努力する」といった用語しか書けない。いわば砂上の楼閣で、政治が変わればあっさり反故にされる。米国が共和党に政権交代すれば、即終了だ。

A 先進国が1.5℃に火を付けたのだから、そのツケの支払いを毎年のように途上国から突き上げられるだろう。現にインドは今回、「先進国がCN(カーボンニュートラル)を40年代に前倒しすべきだ」、「資金支援を年1兆ドルに拡大を」などと主張した。

C 途上国が1.5℃などの話に乗るわけがない。逆に今回乗ったのは、やらなくてよいと考えているから。壮大なる同床異夢の合意だね。まだインドのように、1.5℃を「パリ協定の書き換えだ」と正論を言う国はまともで、途上国の本音は「先進国が努力し、お金をもらえるなら少し話に乗ってもよい」という程度だよ。

A 中国やインドがNDCを見直すとは思えない。合意ではNDC見直しは「パリ協定の温度目標を達成するため」とし、「1.5℃」とは書いていない。「今世紀後半のCN目標は出している」と逃げられそうだ。

B 特に大きな問題が、中国が今回何一つ譲らなかったこと。したたかに、この大勝利をひけらかすこともない。環境的には最悪の結果だが、環境派は中国をまったく批判せず、一部では資本主義諸国の「社会や経済システムが悪い」と左翼まがいの主張を繰り返している。エネルギー危機で中国の石炭生産量はCOP期間中に過去最高となった。これが実態で、エネルギー価格が下がり先進国も喜んでいるはずだ。

 他方、あまり表に出てこなかったが、豪州の姿勢は一線を画していた。英国のジョンソン首相は「石炭の終焉」をアピールしたが、これに豪州のモリソン首相が「石炭産業は何十年も続く」「温暖化のために税や法律を課したりしない」などと真っ向から反論。国益を守り、30年目標の深掘りはせず、自主的取り組みを追求するとはっきり表明した。

A 菅義偉前首相がCN宣言したころ、経済産業省内は「30年目標は26%のままでよい」と考えていたが、私はそんなに甘くないと伝えていた。実際、その後裏付けなしのエネルギーミックスを作る羽目に。同様のことが今後も続くと覚悟した方がよい。来年のG7(先進7カ国)サミット議長国はドイツだが、新たな連立政権には緑の党がいる。先進国にCN前倒しを迫るだろうし、日本のNDCも「50%の高みを目指す」のなら「50%を最低ラインに」などと口を出しそうだ。

C 今回、「パリ協定の終わりの始まり」が本当に始まったと思う。「プレッジ&レビュー」(誓約と評価)で、努力した国を褒めて全体の成果を高めていくという基本思想が、もはや機能しないことが明白になった。

A COPで大風呂敷を広げて先に楽をするか。それとも真面目な積み上げ目標の発表で批判されるか。日本は前者を選んだ。数年後、今回の合意内容を悔やむ未来が予想される。

米国の弱みに付け込んだ中国 米中合意は最大の成果

――先ほども話に出たが、中国は今回習近平主席が参加せず、存在感が乏しかった。

A いつもの代表団の半分以下の40~50人ほどだった。特筆大書された米中合意も「25年に35年目標を出す」と中身は大したことはない。米国については35年に電力セクターのゼロエミッション化を掲げたが、まさに空約束だ。一部の人は「(気候変動担当特使の)ケリーは議会の裏付けがないことばかりしゃべっている」と批判していた。他方、中国は5カ年計画で石炭のフェーズダウンを掲げたが、Bさんが言うように何も譲っていないのに、化石賞はゼロ。今回の最多受賞国は豪州だ。英国や中国とのあつれきで悪者にされたように思えてならない。

B 米中合意は中国の最大の成果だ。最近、中国は外交的に孤立していたが、気候変動分野から風穴を開けられそうだ。しかも中国が掲げた内容は25年以降の第15次五カ年計画の話で、25年までは石炭消費をがんがん増やすということ。痛くもかゆくもない。一方、米国にとっては売国的な合意だ。結局バイデンもケリーも本音では中国と商売をしたがっている。今回、省エネや再エネ関係でその言質を取った中国の高笑いが聞こえてきそうだ。

A バイデン政権の支持率は下がる一方で、支持される数少ない分野が温暖化対策だから、米中合意を華々しく演出したかった。それを中国に利用された。先進国が1.5℃を強く推したのに対し、中国、インドはパリ協定の規定を尊重すべきとのまともな主張で、思わず「その通り」と言いたくなった。プレッジ&レビューを無視した欧米の責任は重く、天唾で帰ってくる。

C 実際の行動に移ると、投入する再エネや蓄電関係の製品・部品の多くを中国に依存することになる。人権無視の労働力と石炭火力でつくった安価な中国製品の需要喚起をお膳立てする、理解に苦しむ展開だ。なのに日本は米国のように中国製品の締め出しに動かない。日本の成長戦略になるわけがない。

未曽有の軽石漂流問題 離島向け重油輸送に影響


小笠原沖の海底火山の噴火で噴出した軽石の大量漂流という未曽有の事態が、多方面で問題を引き起こしている。軽石は10月中旬から沖縄本島などで確認され、11月には伊豆諸島などにも漂着。沖縄を中心に漁業や観光業などに影響を与えている。

辺土名漁港に漂着した大量の軽石(10月25日)(提供:朝日新聞社)

発電用の燃料輸送も例外ではなかった。10月25日、軽石により鹿児島県与論島に重油タンカーが接岸できず、受け入れを中止する事態が発生した。ただ、九州電力によると、1カ月以上の発電に必要な燃料は確保していたため、安定供給に支障は出なかった。その後、国土交通省や地元企業が軽石回収などを進め、11月15日に燃料補給を行うことができた。

ほかのエリアや、LNGや石炭の燃料船の運航については大きな影響がないことを確認済みで、「軽石の漂流に対して現時点で何か対策を講じることはなく、引き続き情報を収集していく」(九電担当者)。

ただ、軽石は今後黒潮に乗り、関東沿岸まで達すると見られる。風の状況によっては入り江の奥まで入り込む可能性も否定できない。昨シーズンに続き、今冬は電力の需給ひっ迫が懸念されているだけに、軽石が新たなリスク要因とならなければよいが……。