エネ価格上昇が家計直撃 政府追加対策も手詰まりか


原油価格高騰の影響が家計を直撃し始めている。埼玉県内のある家庭の1月の電気代は前年同月比で約2000円値上がり、都市ガスや石油製品などを含めると月5000円近い負担増になったという。米ニューヨーク市内では月の電気代が3倍以上に。英国やドイツ、イタリアなどでも光熱費高騰が深刻さを増している。

高止まりを続けるガソリン価格(東京都内のサービスステーション)

ウクライナ情勢の切迫に伴い、原油先物価格(WTI)は7年ぶりの高値水準にある。日本政府は2月10日に関係閣僚会合を開き、現在の石油元売りへの補助金に加え追加対策の検討を指示した。しかし原油高の基調は変わらず100円突破の可能性も否定できない。松野博一官房長官は10日の閣議後会見で「これまでの対策が一定の効果を上げているものの、原油価格が高値水準となる中で、引き続き苦しい状況が続いている」と発言。原油価格高騰に打つ手なしの状況が続いている。

今後の焦点は、補助金の効果が価格抑制にどれだけ効果を上げるかだ。萩生田光一経済産業相は燃油を値上げする小売業者への現地調査を指示したが、有力学識者の一人は「補助金自体が『アベノマスク』のようなもの。票にはつながるが効果はない」と指摘。トリガー条項の凍結解除など抜本的な解決策が必要としている。

エネルギーや食品・日用品の値上げラッシュにより、1月の企業物価指数は前年同月比で8・6%上昇した。上昇率が5%を超えるのは8カ月連続だ。「いい要因でない物価の値上がり。憂慮すべきだ」(自民党の甘利明前幹事長)。国内の需要や給与水準が低迷を続ける状況下で、現実味を帯びるインフレ不況をどう回避するか。政府の手腕が問われる。

EUタクソノミーの深層 天然ガス認定も厳しい条件に


ガス火力を「グリーン」としたEUタクソノミー案だが、額面通りには受け取れない厳しい条件が付いた。

日本にとっても人ごとではなく、業界の技術者らは素案の行方にやきもきする。

 欧州連合(EU)の政策執行機関である欧州委員会(EC)が1月に発表した、投資などの基準とする「タクソノミー(分類)」法案が波紋を呼んでいる。原子力発電の利用と天然ガス発電への投資を持続可能な「グリーン」投資と認定したためだ。日本では原発について関心が高いが、天然ガスの認定も原理主義がはびこる欧州では大きな方向転換と受け止められている。日本では歓迎するムードが先行するが、天然ガスについては厳しい現実を突き付けられた形となっている。

あるガス大手の技術者はタクソノミーの素案を見てがくぜんとした。「(素案の基準に従えば)最新のガスタービンコンバインドサイクル(GTCC)で年間1700時間しか稼働できなくなる」。タクソノミーはEU内での基準とはいえ、機関投資家がグローバルでの投資指標として参考にしており、このまま素案が通れば日本にも影響してくることに危機感を募らせたのだ。

EUタクソノミーは、気候変動対策に貢献する持続可能な経済活動を列挙する基準だ。投資家らが株式などを売買する際の指標ともいえる。日本の事業者が直接的な影響は受けないものの、事業者に関係している大手金融機関や、機関投資家が敏感に反応する。事業計画や融資、株主への説明などに影響をもたらすこともあり、決して対岸の火事ではない。

GTFCのみ基準クリア 実現可能性に疑問の声

今回、ECが示した素案は、温暖化ガス排出のライフサイクルアセスメント(LCA)で1kW時当たり100g未満にするという大前提は残した。その上で、①2030年までに建設許可を得た施設で1kw時当たりの温暖化ガス排出量を270g未満、②もしくは20年超の平均で1kW当たり550㎏未満、③バイオマスや水素の混焼率を30年までに55%以上、35年までに100%――と継続する場合の条件を付けた。

現状、最新鋭のGTCCは発電効率が57%で、1kW時当たりのCO2排出量は約300gだ。現在稼働中の天然ガスプラントは年間6000~7000時間稼働している。該当する②の基準を適用すると、稼働時間が4分の1程度になるということだ。

これに③の条件が加わるわけで、バイオマスや水素などの混焼を進めなければならない。ガス業界の関係者は「時系列で混焼率を高めるのは困難だ」とお手上げだ。

では新設したらどうか。新設の場合は①の基準に当てはまるが、GTCCでは満たせない。そこでガスタービンと燃料電池を合わせた「GTFC」と呼ばれる新機種を導入する必要が出てくる。

GTFCなら発電効率63%で、1kW時当たり280gのCO2排出量になり、これに混焼すればタクソノミーの基準を満たすことになる。しかしGTFCの技術確立は25年とされており、想定通りに実現できるかは未知数だ。

仮に実現できたとしても「巨額な設備投資が必要になり、いずれなくなるものに投資する必要があるのかという難しい選択を迫られる」(業界関係者)と懐疑的な見方が強い。

今回示されたタクソノミーの素案は荒唐無稽の代物だということが分かる。EU内でもこの基準を満たす国があるかも怪しい。「グリーン」「持続可能性」といえば耳触りよく聞こえるが、「相当なハードルでECも誰もできるとは思っていない。アリバイ的に素案に載せたが、本当の狙いは事業者や国が降参するのを待っているのではないか」(外交関係者)という見方も出ている。

一層のガス依存体質へ ドイツが直面する現実

他方、トランジションでの天然ガス利用の突破口を開いたという評価もあり、これを仕掛けたのはドイツではないかとの観測が広がっている。脱石炭、脱原発をテーゼとするドイツは、天然ガスの依存度が相対的に高くなっている。しかもウクライナ情勢を巡って対立するロシア産天然ガスの依存度が高い。

ドイツはガス依存を強めるが「グリーン」な基準は相当高い

昨年から欧州を襲った再生可能エネルギーの稼働減で、天然ガスの存在が一段と増している。連立与党の一つ、自由民主党(FDP)出身のリントナー財務相も、原発を盛り込むことには反対姿勢を示しながらも、天然ガスについては好意的だ。リントナー氏は現地メディアの取材に「(脱炭素への)移行期間の技術として天然ガスを燃料とする現代的な発電所を現実に必要としている」と述べた。

一方で、FDPと同じ連立与党の「緑の党」は原発も天然ガスも「グリーンには当たらない」と主張する。ドイツ政権内でも意思統一ができていない。ただ、ドイツのフラウンホーファー研究機構は、22年末までに原発全停止、30年までに石炭全廃を掲げていることにより、30年までの間にガス火力の容量を現状から30%以上増やす必要があると指摘する。天然ガス発電に頼らざるを得ない現実を示している。

ドイツ事情に詳しい専門家は「全量再エネというのも現実的ではなく、原発を封印してしまった以上、化石燃料でも石炭よりはましな天然ガスを『グリーン』としてくれることに意味を見いだしたのかもしれない」と語る。

タクソノミーの素案は今後、加盟国でつくる理事会と欧州議会に送られる。最長6カ月かけて内容を精査して、最終的な議決に向かう。オーストリア、デンマーク、オランダ、スウェーデンの4カ国や環境保護団体、投資家などは見せかけだけの環境配慮を指す「グリーンウォッシングだ」と反発を強めているが、今のところ反対国は少ない。天然ガスについては東欧から輸入するEU加盟国は支持するとみられ、大きな修正はなく素案が議決されるとの見方が強い。

とすれば、日本にとっても影響が出てくる可能性がある。資金調達や金融機関の融資判断の基準にされることがあるからだ。ただEUの分類に合わせることは現実的ではなく、日本の事情に沿った独自の投資分類を早急に確立する必要がある。

「洋上風力落札」もう一つの裏事情 デジタル・海底送電を狙う三菱陣営


洋上風力開発の常識を一瞬で覆した三菱商事・中部電力グループによる3海域総取り。

その背景を巡りさまざまな憶測がささやかれる中、より政治的な動きがあると見る向きもある。

 「秋田県能代市・三種町・男鹿市沖」「同県由利本荘市沖」「千葉県銚子市沖」は、国が再生可能エネルギー大量導入の切り札として進める洋上風力プロジェクトの第1ラウンド。昨年末に事業者公募の結果が公表された。

大手から新興まで多くの国内エネルギー企業と、外資系再エネ事業者がコンソーシアムを組みこぞって参加した今回の公募。どこが洋上風力事業着手へのチャンスをつかむかに、大きな注目が集まった。その結果は、多くの業界関係者の予想を裏切るものだった。というのも、銚子沖は、2013年から洋上風力の実証試験を行ってきた東京電力ホールディングス子会社、東電リニューアブルパワー(RP)と洋上風力世界最大手のオーステッド(デンマーク)連合が、由利本荘市沖は、早い段階から海底・風況調査を実施し、地元対策にも力を入れていたレノバ・東北電力連合が有力視されていたからだ。少なくとも3海域全てを1グループが取るなど、誰も予想していなかったに違いない。

三菱商事・中部電力グループによる3海域総取り、そして1kW時当たり11・99~16・49円という「破壊的価格」(大手エネルギー関係者)に、年末年始休暇を控えたエネルギー業界は騒然。「なぜこの価格を提示できたのか」という明確な答えを見いだせないまま、今もなお、さまざまな憶測がささやかれ続けている。

日本の洋上風力の将来は?

地元との関係強みにならず これまでの不文律を覆す

大手エネルギー会社の再エネ開発担当者は、「今回の件で、地元企業が強い、もしくはいち早く地元調整に着手し協力関係を築いた企業が有利―というこれまでの不文律が覆った」と語る。FIT(固定価格買い取り)制度による高額買い取りに支えられ、地元での雇用創出など地域活性化への貢献が期待された風力だが、洋上風力は、いかに安く大量導入できるかを重視するステージへと早々に移行を果たしたわけだ。

入札上限価格はIRR(内部収益率)10%を前提に29円に設定されていたため、3海域ともそれを大幅に下回ったことになる。銚子市沖を除く2海域は、次点の事業者も10円台で応札している。「次点の事業者も、確実に取りにいくための戦略的な価格だったはず。それよりも4~6円も安いとは、普通の感覚ではありえないとしか言いようがない」という再エネ事業関係者の言葉には、三菱商事側の価格がいかに衝撃的だったかが表れている。

では、三菱側はどのようにこの低価格を実現したのか。①GE製の風車を3地点で大量に採用するため、破格の値段で交渉できたのではないか、②アマゾン、NTTアノードエナジー、キリンが「協力企業」として名を連ね、将来、こうした大口需要家に対し環境価値を上乗せして売電できることを織り込んだのではないか―などと、エネルギー業界関係者も報道もさまざま分析するが、三菱側としては、「あくまでもコストを精査し積み上げた結果。洋上風力を手掛ける蘭エネルギー企業のエネコを中部電力と買収し、その技術を内製化したことが決め手だ」との主張だ。

こうした中、表に出てこない一つの可能性が業界内で取り沙汰され始めている。「三菱商事は、洋上風力単体ではなく、通信インフラ構築に絡む国家プロジェクトを見据え、組織的に動いているのではないか。今回の落札では、戦略的価格付けをしたと考えている」(電力関係者)というのだ。

その国家プロジェクトとは、総額5・7兆円を投じて海底ケーブルと大規模データセンター、光ファイバー、5Gなどを組み合わせて通信インフラを整備し、その上にさまざまなサービスを実装していくという岸田政権肝いりの「デジタル田園都市国家構想」だ。

実は、三菱側が落札した千葉、秋田両県は、一大データセンター拠点になっている。今回の「協力企業」であるNTTは秋田市、アマゾンは千葉県印西市にデータセンターを保有。また三菱商事自ら印西市で巨大データセンター事業を推進しており、秋田でも地元協力としてデータセンターを建設する可能性がある。そしてデータセンターをグリーン化するには、洋上風力の電気が必要という構図が浮かび上がってくるのだ。

再エネはコスト重視へ FITは役割終える

一方で、現在、太平洋側に集中している国際通信の重要インフラである海底ケーブルを、日本を一周するように敷設し各地に陸揚げ拠点を設ける計画も、洋上風力開発と密接に関わってくる。この通信用ケーブルと、洋上風力から陸上の送電網をつなぐ海底直流送電線を同時に敷設できれば、インフラ整備全体のコスト抑制につながるからだ。岸田文雄首相が年頭あいさつで言及した「通信とエネルギーインフラの一体的整備」とも合致する。三菱商事は海底送電線の分野でも海外で知見を有しており、この巨大事業への関与を狙っていても不思議ではない。

落選に不満を持つ再エネ事業者らが、結果を覆そうと有力政治家などに対し水面下でさまざまなロビー活動を繰り広げているようだ。だが、今後再エネ大量導入や電力コストの増大で国民の電気料金負担が2倍以上に膨れ上がろうとする中、FITに固執しようとする動きを批判的に見る関係者は多い。

地球環境産業技術研究機構(RITE)の秋元圭吾・システム研究グループリーダーは、「価格が安いということはエネルギーとして重要。運開が他社より1、2年遅れたとしても価格の安さが評価されたということであり、過去にさかのぼって結果を見直すという議論はいかがなものか」と語り、再エネの価格、そして産業をどうしていくのか、改めて議論するべきだと強調する。

第1ラウンドで起きた事象が、第2ラウンド以降の事業者の応札行動や結果にどのような影響を与えるかは今のところ未知数。だが少なくとも、FITが再エネ導入を支える役割を終えたことを物語っているのは間違いないだろう。

ウクライナ危機の表層深層 米国が「ノルド2阻止」のワケ


 2月17日にウクライナ政府軍と親ロシア勢力の衝突情報が駆け巡るなど、軍事的緊張が続くウクライナ情勢。北大西洋条約機構(NATO)へのウクライナ加盟問題を巡る欧米とロシアの溝が埋まる気配がない中で、危機は長期化の様相を呈しつつある。

ドイツ・ルプミンにあるノルドストリーム2のガス受入・遮断設備

海外メディアや専門家の見解を踏まえると、プーチン大統領らロシア政府側はウクライナへの軍事侵攻を繰り返し否定しており、米国・NATO側が危機をあおる構図が浮かび上がってくる。ロシア外務省のザハロワ報道官は2月中旬、米国がウクライナ危機を扇動しているとして、「彼らの狙いは(ロシア産ガスをドイツに供給する新設導管)ノルドストリーム2の稼働阻止だ」と主張した。

米英とEUは、ロシアが侵攻した場合の制裁パッケージを検討しており、とりわけノルド2の稼働阻止に焦点が当たっている。ロシアの天然ガス輸出に制限を加えることで経済制裁を課そうというわけだが、欧州の一部にとっては諸刃の剣となる恐れも。「原発が停止するドイツを中心にガス不足が発生し、エネルギー安定供給上のリスクが高まる」(大場紀章・ポスト石油戦略研究所代表)ためだ。結果として「ドイツのエネルギー政策は転換を迫られる」(橘川武郎・国際大学大学院教授)ことになりかねない。

そもそもロシアのエネルギー収入に占める天然ガスの割合は石油の5分の1程度に過ぎず、効果を疑問視する向きは多い。その石油に対する制裁が話題に上らないのは、「欧米への打撃が大き過ぎるためか」(大場氏)。またノルド2が稼働しなかった場合、「ロシアは日本へのLNGの売り込みを強めてくる」(橘川教授)可能性も。そのロシア産が、米国側の要請で日本が実施する「欧州向けLNG融通協力」に回されることにでもなれば何のことやらである。

米国の欧州向け輸出急増 シェール生産も過去最高へ

にもかかわらず米国がノルド2阻止にこだわるのはなぜか。「昨年12月に欧州向けのLNG輸出が過去最高を記録した中で、ノルド2を阻止できれば一層の輸出拡大が見込めることになる」(大手商社関係者)。現在、米国内ではシェール増産が加速。政府当局によると、国全体の産油量は3月に日量11万バレル増の870・7万バレルと2年ぶりの大幅増へ。天然ガス生産量も3月には日量5億立方ft増の917億立方ftに達し、過去最高となる見通しだ。原油高騰も相まって、脱炭素どこ吹く風の好況ぶりである。

米ブルームバーグ通信は14日、「米国による警告が現実となり、ロシアがウクライナに侵攻すれば、欧州では第二次大戦以降で最悪の安全保障上の危機に発展し、ロシアによるクリミア併合やウクライナ東部での紛争でもたらされた危機とは比較にならない可能性がある」と報じた。

歴史を振り返れば、1941年8月に米国が石油禁輸措置を発動したことがきっかけとなり、太平洋戦争へと突入した。80年後もエネルギー資源が戦争の火種となる構図は変わらないようだ。

「再エネ100%地域」の実現へ 脱炭素時代を見据えた新港工業団地


【石狩市のエネルギー基地を訪ねて〈前編〉】草野成郎(株式会社環境都市構想研究所代表)

全国に先駆けて「再生可能エネルギー100%地域」の実現を目指す石狩市。

工業団地における最先端の取り組みを、環境都市構想研究所の草野成郎代表が報告する。

 北海道の中心地・札幌から北西へ約15㎞、あの「石狩挽歌」に歌われたサケとニシンのふるさとでもある石狩市は今、まさしく「再生可能エネルギー100%地域」の誕生に向けた胎動の中にある。そして、これを側面から支えるのが石狩湾新港地域。総面積約3000haを擁し、進出企業数が北海道最多を誇るこの工業団地はここ数年の間に大きく変貌してきている。

同地域は、1970年に当時の北海道開発庁による開発計画が閣議決定されて以降、今日まで苦難な時期もあったものの、都市圏に位置する利便性もあって企業誘致が進み、現在では、750社超の企業が進出している。どのような企業誘致であっても難渋するのが一般的であるが、同団地における開発率は全国でも一定の評価を受ける水準になりつつあり、これは全市を挙げた石狩市の積極果敢な取り組みによるものであろう。

LNG基地に大型火力 道内の供給安定性を強化

工業団地の海岸側には、大規模なエネルギー供給基地がある。2012年には北海道ガスが道内初のLNG基地(年間受入量150万t)を運開させ、札幌市など都市圏に都市ガスを供給するとともに、今では電力小売り向けの約10万kWの発電所も併設している。次いでその隣接地に、18年には北海道電力が最終規模で約170万kW(56万kW×3基、現在はそのうち1基が稼働中)の大型LNG火力発電所を運開させており、このLNGの受入基地は効率的に北海道ガスとの共同利用となっている。

このLNG基地と北海道電力の発電所の完成によって、北海道のエネルギーは、従来の太平洋側の苫小牧周辺地域からの供給に加えて、日本海側の石狩地域からの供給の体制となり、エネルギーの供給安定性は構造的にも、量的にも一段と強化された。さらに、小規模ながら太陽光発電所の建設や陸上風力発電所の建設も着実に進んでいる。

一方、エネルギー需要側においては、電力多消費産業であるデータセンターが建設され、寒冷地の低気温を活用したいくつかの省エネルギー技術を世に提案し、データセンターのさらなる進出を容易ならしめている。さらに、最近、必要エネルギーをすべて再エネによって賄うという画期的な建物の建設が決定されるなど、石狩湾新港地域ではエネルギーの需給両面にわたる際立った動きが出現している。

北海道ガスの石狩LNG基地(上)と構内にあるガスエンジン発電所

注目の石狩湾新港地域 エネルギー施策の集大成

世界に目を転ずれば、20年4月、米国のバイデン大統領は、就任直後に地球温暖化防止戦略を180度転換させ、「カーボンニュートラル戦略」を打ち出した。わが国でも当時の菅政権が、①30年の温室効果ガス排出量を13年比で46%削減すること(21年4月)、②50年には排出量実質ゼロとするカーボンニュートラルを実現すること(20年10月)―を国内外に表明した。

そして昨年秋には、これらの温室効果ガス排出量削減計画を受けて、第六次エネルギー基本計画を閣議決定させ、その中で電源構成をはじめとするエネルギーの需給計画を組み込んだ。そこでは、従来からのエネルギー政策の命題である、「S+3E」(S=安全性+E=供給安定性+E=経済効率性+E=環境適合性)を遵守するとともに、とりわけ温室効果ガス削減を実現するための環境適合性の確保を前面に打ち出した。

なお、この計画については、筆者はいろいろただしたいことがあるが、これはさて置くとして、再エネの大幅な拡大を織り込んだ意欲的な目標数値が計上されている。

こうした情勢の中で、石狩湾新港地域に拠点を有する各企業が、安定的なエネルギーの確保と共に、いち早く温室効果ガス排出量の削減を目指したエネルギー使用に関心を寄せることになったのはごく当然の成り行きであって、石狩市も同工業団地を振興する地元の自治体として、これらの企業活動を支援する観点も含めて、カーボンニュートラルの実現に向けた諸施策の導入を検討中である。

これが、本稿の主題である「石狩市を再エネ100%地域へ」の実現につながっている。詳細は後述するが、これは決して最近の流れの中での思いつきや夢ではなく、これまでに石狩市が取り組んできたエネルギーに対する姿勢の集大成とみるべきであって、そういう意味において、それまでの経緯をひもといてみるのも重要な作業であろう。

30年・50年に大きな溝 両目標は異なった局面に

その前に論じておきたいことがある。それは、誰もがある程度は感じているように、「カーボンニュートラルの実現」は、極めて難しい課題であって、簡単に解決できるものではないということだ。特に明確にしておかねばならないことは、目標年次である30年と50年との間には確実に段差があり、しかもそれはいくら注意しても踏み外しそうな大きな溝だ。

もとより両者は時系列という観点からは延長線上にあるが、30年は「低炭素化時代」、50年は「脱炭素化時代」と位置付けられ、前者は、温室効果ガスを排出するエネルギーの使用量を極力抑制する時代、後者は、基本的には温室効果ガスを排出するエネルギーそのものを極力使用せず、仮に使用した場合でもそこから排出される温室効果ガスを森林吸収のレベルにとどめて実質排出量をゼロにしたいとする時代である。

つまり、30年と50年の目標年次は、実はかなり異なった局面にあることに留意しなければならない。従って、これらの目標の実現に資する諸施策も大きく異なることになる。

まずは、30年を目標年次とする「低炭素化時代」に向けた施策である。そこでは、温室効果ガスの排出量を可能な限り削減することが重要となる。そのためには、エネルギー使用量を可能な限り縮小することが必要であり、それが最も単純で、最も実現性の高い方法である。

ごく当たり前の表現で恐縮だが、省エネルギーをはじめとするエネルギーの効率的な利用が絶対的に必要であり、仮にエネルギーを利用するにしても、可能な限り温室効果ガス排出量が少ない燃料などへの転換が必要となる。

つまり、まずは無駄な使用の排除、節約、効率的な機器やシステムの開発と使用によって温室効果ガスの排出量を減少させ、加えて原子力や太陽光・風力利用など温室効果ガスを排出しないエネルギー源への転換を図ることが必要であり、一方では天然ガスなど、温室効果ガス排出量が比較的少ないエネルギーへの積極的な転換なども武器となる。

今日、石炭火力発電におけるアンモニアの注入など新しい技術の実用化が期待されているが、要するに、この時代は天然ガスも石炭も制限付きで使用しながら、「低炭素化」に向けた努力をする時代といえる。しかし、時間は今からわずか8年しかない。

次に、50年を目標年次とする「脱炭素化時代」に向けた施策はどのようなものか。基本的には温室効果ガスを排出するエネルギーは使用しないという時代を迎える。そこでは水素の利用が大きな課題となろうが、製造過程で温室効果ガスを排出する、いわゆる従来型のエネルギー由来の水素では駄目だというのだから、かなり厄介だ。

【マーケット情報/2月25日】欧州、中東原油が急伸、供給不安が強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。ロシアのウクライナ侵攻にともなう供給不安を背景に、北海原油の指標となるブレント先物、および中東原油を代表するドバイ現物は急伸した。24日時点で、ブレント先物は99.08ドル、ドバイ現物は99.75ドルを付け、2014年9月上旬以来の最高値となった。

ロシアのウクライナ侵攻を受け、米国や欧州連合(EU)、日本、豪州、カナダなどが相次いで、ロシアに対する経済制裁を表明。米国、EU、日本は国際銀行間通信協会(SWIFT)から、ロシアの一部金融機関を締め出すことで合意した。ロシアのエネルギー輸出に対する直接的な制限ではないものの、決済に影響が出た場合、結果的にロシア産原油の供給が滞る可能性がある。

一方、米国、豪州、日本および韓国は、国際エネルギー機関と協調し、必要に応じて戦略備蓄を放出する意向。また、米国の週間在庫は、前週から増加。さらに、米国の石油サービス会社ベーカー・ヒューズが発表する同国の石油リグ稼働数は、前週から2基増加して522基となり、米国原油の指標となるWTI先物の上昇を、幾分か抑制した。

【2月25日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=91.59ドル(前週比0.52ドル高)、ブレント先物(ICE)=97.93ドル(前週比4.39ドル高)、オマーン先物(DME)=92.68ドル(前週比1.79ドル高)、ドバイ現物(Argus)=96.86ドル(前週比6.76ドル高)

【省エネ】空気熱を再エネに EUの冷房CO2削減


【業界スクランブル/省エネ】

地球温暖化および温熱快適性への要求の高まりから、冷房のエネルギー消費およびCO2排出量は増大し続けており、当該分野のCO2削減策は世界全体における重要課題である。昨年12月に、EUの行政執行機関である欧州委員会が「冷房および地域冷房における再エネ利用量の算定方法規則」を世界で初めて決定した。規則案は欧州議会と欧州理事会で審議され、早ければ2カ月程度で成立する見込みである。

欧州でも、ヒートポンプが利用する周辺環境熱(Ambient Heat)である空気熱や地中熱、河川水熱を再エネと定義しており、当該再エネの利用促進によるCO2削減に積極的に取り組んでいた。日本でもエコキュートなどで、「空気の熱を集めてお湯を沸かす」という表現が使われているが、エアコン冷房では、室内熱をヒートシンクである外気に運ぶことにより、室内を冷やしている。外気の温度は、「宇宙空間への熱放射」と「太陽光で温められた地表面からの熱伝達」で一定の温度に保たれており、人類が熱を捨てても、熱を取り出しても回復する再エネである。

一方、EUでは温熱利用の算定方法を定めていたが、冷房利用の算定方法が未確定だったため、冷房の再エネ利用量を定量的に評価できなかった。今回、エコラベル最低認証効率のヒートポンプによる算定再エネ利用量をゼロ基準として、より機器効率が高くなるほど算定再エネ利用量が増大する計算方式を採択した。よって、冬季において、外気熱を熱交換して冷熱を製造するフリークーリングとも呼ばれる、システムの算定再エネ利用量を相対的に大きく評価している。これは、機器の省エネ性能を表示するエコラベル制度を超えた効率向上・エネ消費削減・CO2削減を促進させるための施策でもある。

欧州ではCO2排出量55%削減の目標達成に向け省エネ促進制度と再エネ促進制度をうまくリンクさせて、冷房分野のCO2削減施策を講じている。日本でも、既存の諸制度群の縦割りを超えて、最終的な全体最適で目標を実現させる力が必要だ。(M)

【住宅】電力価格の高騰 家庭でできる対策


【業界スクランブル/住宅】

2021年初頭からガソリン価格高騰の話題がニュースになり、直近、電気料金も水面下での値上がりが顕著である。料金単価の改定ではなく、燃料調整費の変動なので水面下とした。燃料調整費が低かった21年1月と最新の22年の2月を比較すると下記の通り。原発の稼働していない東京電力、稼動している九州電力の代表2拠点を抽出した(低圧用の単価)。

東京電力は21年1月が1kW時当たりマイナス5.20円、22年2月が同0.74円で、値上げ幅は5.94円だった。九州電力は21年1月がマイナス1.87円、22年2月が0.89円で、値上げ幅は2.76円だった。

化石燃料が安価で調達できた昨冬から一気に価格が上昇したことになる。東京電力の場合、オール電化住宅用の深夜単価(最安)が17.78円の場合は昨冬よりも33%値上げに相当し、一般的な電力単価を27円としても22%値上げに相当する過去にない規模となっている。

当面の住宅用の対策であるが、燃料調整費の高騰は時間帯にかかわらず一律アップとなるため電力使用の時間シフトには効果がないので、省エネ生活を実践するしか対策は無いように思う。太陽光発電を搭載している住宅であれば、昼間に電気を使ってできることは全てやるという裏技は効果がありそうだ。

問題はこの値上がり傾向がいつまで続くのかということだ。50年カーボンニュートラルに向けてエネルギーの需給バランスが崩れるという構造変化が根本的な背景にあるので、燃料調整費が下がる要因は考えにくい。むしろ、世界的にカーボンニュートラルに向けた大きなゲームチェンジが昨年後半から始まり、元の状態に戻ることは無いと捉えるべきではないか。

住宅分野ではZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の推進が積極的に行われているが、それに加えて太陽光発電の余剰電力をできるだけ自家消費し、夜ピーク時の購入電力を減らすという対応がユーザーにとっても、社会にとっても有意義な根本的対策になるであろう。(Z)

【太陽光】新ガイドライン 普及促進に期待


【業界スクランブル/太陽光】

「カーボンニュートラル」が未来への方向性になっている。第六次エネルギー基本計画においては「再生可能エネルギーの主力電源化の徹底」で「国民負担の抑制と地域との共生を図りながら最大限の導入を促す」との方針があり、2022年の岸田文雄首相の年頭の記者会見でも気候変動問題への対応の一つとして再エネの言及があった。その方策の重要なものの一つであろう太陽光発電のさらなる導入拡大が不可欠である。

その太陽光発電は、近年の建設に適した場所の減少などにより、傾斜地や農地、水上に設置されるケースが増えている。しかし、これらの設置環境では一般的な地上設置型に比べ、設計や施工上の難易度が高い。また、地方自治体の条例などで太陽光発電施設への要求事項として安全対策が求められている。しかし、現実にはこれらの設備の設計・施工に関する知見が極めて少なく、その知見も集約されているとは言い難い。

これらの課題を乗り越える方策の一つとして、NEDOが太陽光発電の安全性確保のため、19年に地上設置型のガイドラインを作成した。21年にはこれまでに得られた知見などをまとめ、傾斜地設置型、営農型、水上設置型の特有な構造や電気の設計と施工を含んだ三つのガイドラインが作成・公開された。

これらのガイドラインは経済産業省の産業保安・電力の安全を図るための「発電用太陽電池設備に関する技術基準を定める省令」の逐条解説に設計・施工の内容を具体的に示した技術資料として規定され、解釈第2条~第7条には「要求性能に適合する設計を行う際や第10条に資料調査及び地盤調査等には、これらのガイドラインが参考になる」と述べられている。

太陽光発電システムの導入時に適切に基本設計することは、施工時や運用面での健全性につながる。新しい設置環境の太陽光発電の普及にはいまだ課題があり、より適用性を向上させるため、実証実験の結果などを反映し、ガイドラインが改定される予定である。安全・安心にシステムを設計・施工するためのガイドラインが普及の一助となることを期待する。(T)

【メディア放談】年末年始のエネルギーニュース 業界を騒がせた記事の裏事情


<出席者>電力・石油・ガス・マスコミ/4名

年末から年始にかけて、「LP無償配管」などの記事が業界を騒がせた。

だが、記事の裏側を探ると、新聞各紙の思惑が透けて見えてくる。

 ――年末年始、各紙にエネルギー関連の特集やニュースが出た。注目した記事は。

石油 12月30日付の朝日1面トップに、LPガスの料金問題がでかでかと掲載された。しかも3面にも関連記事というおまけ付きだ。記事を書いた記者は、前からSNSでこの問題を取り上げていた。だから嫌な予感はあった。だけど、まさか全国版の1面トップに載せるとは思っていなかった。

――業界関係者の反応はどうかな。

石油 もちろん衝撃は大きかった。だけど、大騒ぎにしたくないので、皆、これ以上突っ込まれないように取材にはノーコメントを貫いていた。

ガス 内容自体はおかしな部分はない。だけど、なにも目新しいものではない。なぜ朝日がこのタイミングで、あの扱いで載せたのかよく分からない。

LP配菅問題記事の謎 洋上風力の話題で持ち切り

――小誌編集部でもあの記事が話題になった。

石油 新聞社の仕事納めは29日で、その翌日の紙面は穴が開きがちだからといった理由だろう。それと気になったのは、記事のトーンが資源エネルギー庁石油流通課の言い分と似ていたこと。記事に石通課のコメントはないが、業界紙の新年号に企画官のインタビューが載っていて、「自助努力が足りない」と業界の体質を批判している。

ガス スクープではないが、年末に発表された洋上風力公募の結果、三菱商事グループが3地点総取りしたことも、年が明けても業界内で大きな話題になっている。破格の発電単価設定を巡って実現可能性を疑う声もあるけど、風力事業に詳しい人ほど「商事にしてやられた」といった反応だ。

マスコミ なぜこんなダンピングみたいな価格にできたのか、疑問は残る。年明けから単価設定の裏に迫ったダイヤモンドオンラインの記事などが出ているが、どこまで真相が明らかになるかな。

 それと、EUタクソノミー。原子力と天然ガスが「グリーン」と認定されそうだ。ヨーロッパの動向は、日本の原子力政策にも影響すると思うよ。

石油 確かにそういう話題はあった。でも、去年の新年号では水素をはじめ脱炭素技術が結構大きく取り上げられたけど、今回のエネルギーの扱いは地味だった。ガス価格急騰などのニュースもあったが、1月2日から稼働している外信の方に圧倒的に軍配が上がった。日本のエネルギー報道はこれでいいのかと、年明けから物悲しい気持ちになった。

――ほかにも、読売の米テラパワー社の高速炉計画への日本の参画、日経の次世代送電網に2兆円投資構想の記事があった。

電力 高速炉計画の話は、読売の記者が米国でテラパワーの関係者に聞いたらしい。米国の原子力発電の歴史は、軽水炉ではなく高速実験炉から始まったが、その後長らく動きはなかった。しかしビル・ゲイツ氏のテラパワーで再び盛り上がり始めている。

 「もんじゅ」の廃炉が決まってから、日本が手を組んだフランスのASTRID計画も破綻した。その中で、高速炉計画でようやくこういうニュースが出たこと自体は歓迎したい。だが、日本が本格的に参加できるかは別問題。政府と電力のにらめっこや、メーカー間の縄張り争いに陥らず、業界一丸で取り組むことが必要だろう。

マスコミ 日経の送電網の記事は、読売に高速炉の記事が出て、抜かれたデスクが怒って記者に「何とかしろ」とはっぱをかけたものらしい。ただ、この記事の弱点は、2兆円を誰が出すのか書いていないこと。この投資規模とエリアで実行する可能性がある電力会社は見当たらず、NTTかENEOSくらいしかしない。

――月刊「S」の「日本原燃社長の引責辞任が不可避」という記事も波紋を広げている。

電力 六ヶ所再処理工場の2022年度上期の竣工が困難なことを理由にしていたが、福島第二原発を守った増田尚宏社長のほかに建設をきちんと進められる人は見つからない。もし仮に辞めたとしても、技術顧問として残るだろう。S誌が後任候補として名前を出していた人たちにも、首をかしげる関係者が多いよ。

マスコミ 青森県では、むしろ政治の動きに注意が必要。7月の参院選候補者には三村申吾・青森県知事の名前が出ているが、そうなると知事選になる。核燃サイクル政策にどう影響するか気になっている。

参院選までは「安全運転」 既設原子炉活用は封印

――クリーンエネルギー(CE)戦略が参院選前の6月に策定される予定だ。当初期待された既設原子炉の活用は大きく打ち出されない雰囲気が漂い始めている。

電力 岸田文雄首相の側近は、参院選までの政権運営は安全運転で行くと明言している。原子力について、CE戦略でエネルギー基本計画以上のことを書き込める地合いではない。

ガス 岸田首相は、コロナ、分配、そして温暖化の三つを挙げるようになってきて、徐々にCE戦略が「新しい資本主義」のセンターラインに乗りつつある。岸田氏自らCE戦略の会議に出ると口にするほどだ。それで経済産業省内はバタついている。

 もともと経産省は、新しい資本主義はCE戦略とは別物と考えていた。ところが、首相側は違った。確かに、分配重視で会社に賃上げを求めても、企業は簡単には応じない。ところが例えば「秋田沖に大型風力建設」となると、ある程度、経済波及効果が期待できる。

――昔は不況になると、電力会社の設備投資の景気刺激効果が期待されたけど、今も構図は変わらないのかな。

【再エネ】CE戦略で深堀を 施策の具体化


【業界スクランブル/再エネ】

 岸田政権は、脱炭素の実現に向けた「トランジション」という文脈でクリーンエネルギー戦略の策定を打ち出した。エネルギー基本計画やグリーン成長戦略の実現、温暖化削減目標達成へのオプションの拡充、また内外において浮き彫りとなった安定的なエネルギーの供給・確保といった課題に対処する観点から、実行的なロードマップを示すことは極めて重要である。

再エネに関しては、2030年36~38%、50年5~6割の導入実現に向けて、需要と供給の双方における環境作りが図られる見通しだ。供給側においては、JOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)による洋上風力の案件形成・開発支援など、電源ごとに丁寧な手当てを進める見通しだ。また需要側に関しては、省エネ法の見直しにより、幅広い需要家に対する再エネ導入の環境整備を強力に進める方針である。さらに、再エネ導入における自治体の主体的関与を促すべく、改正温対法によるゾーニング制度の準備も進む。

目標期限が迫る中、施策実行のカギを握るのは国と立地地域によるスピード感を持った対応である。例えば洋上風力では、立地地域との初期的な調整が極めて重要であり、入り口の対応を円滑に進められなければ、成果は思うように上がらないだろう。また改正温対法のゾーニング制度を巡る議論では、再エネのネガティブな側面を取り上げる議論が目立った。事業者団体からは「エネルギーミックスと整合したポジティブゾーニング」となるよう念を押す声も上がっており、こちらも国と自治体との間で目標達成の責任を明らかにして取り組まないと、かえって再エネの導入を阻害する結果となりかねない。

翻って、こうした施策を具体化するための議論の場が、揺り戻し的な論点への拘泥や、目標水準などの「そもそも論」への回帰により、施策の実行を遅らせる要因となっては本末転倒である。クリーンエネルギー戦略の策定にあたっては、施策の実行や目標達成をスピードアップするという観点から、上記のような課題にも目配せし、議論を深めてもらいたい。(C)

EV新時代の到来間近 この波に乗るための車探し


【リレーコラム】水町 豊/九電みらいエナジー社長

 カーボンニュートラルへ向けたさまざまな取り組みの中で、電気自動車(EV)普及の現実味が増してきた。筆者もエネルギー業界に身を置く一人として、地球温暖化防止に貢献しようと、真剣にEV購入を考え始めた。車両価格と補助金、航続距離と充電インフラ、維持費など多くの検討要素があり、いざ購入となると悩む点も多い。

例えば、月間走行距離が1000kmで、電費をkW時当たり5kmとすれば、200kW時の電力量が必要となる。充電に必要な電気料金は3100円程度で、現在所有するエンジン車と比較して約3分の1の費用で済む。これは筆者宅がオール電化向け電力契約のため、深夜帯に安価な電力を利用できるからだ。EVとオール電化の相性は抜群である。

しかし、EVで最も気になるのは、やはり航続距離だ。遠出を考えると急速充電は欠かせない。政府目標は急速充電拠点数を2030年までに3万基としているが、現状は約8

000基。給油所並みの約2万9000カ所まで普及すれば、電欠の不安は解消できる。しかし、もうしばらくは、道中の充電場所をあらかじめ決めるなど、多少の窮屈さがあるだろう。

また、地球温暖化防止という大義を掲げるのであれば、EV充電は、再エネ由来の電力で賄うことが理想だ。筆者の電力契約は、月額500円の特約で「まるごと再エネプラン」という再エネ由来の電力供給を受けることができる。これにより自宅で充電したEVは、走行中にCO2を排出しないことになる。

EV購入の決め手は何か

さて、自動車メーカー各社は、こぞってEV戦略を公表し、今後市販される車種は大幅に増加する。バッテリーの低コスト化と性能向上により、車両価格は低下し、航続距離は実用域に達するだろう。筆者は、これまで数種類のEVに試乗してきた。車重の増加が気になっていたが、重心が下がり、モーターのトルク特性と相まって、車が軽やかに動く。非常に滑らかで、低速から力強く静かな走りは、エンジン車とは明らかに異なる。結局、EV購入の決め手は、「この走りが、車としてエンジン車を超える魅力になるか」ということではないか(自問自答)。これがあれば、少々の不便は許容できる。

筆者は、エンジンの音と振動、そして回転数の上昇とともに盛り上がる高揚感が好きだ。しかし、時代とともに車の魅力は変わるのかもしれない。「乗りたい」と思うEVに出会えるまで、もう少し車探しを続けたい。この時間がまた楽しい。

みずまち・ゆたか 1989年九州大学大学院動力機械工学専攻修了、九州電力入社。火力発電本部や経営企画本部にて経営計画や長期エネルギー戦略の策定、域外電源開発などを担当。2020年6月から現職。趣味はツーリング、写真、登山。

※次回は太平洋セメント環境事業部長の深見慎二さんです。

【佐々木紀 自民党 衆議院議員】「原子力を当たり前の電源に」


ささき・はじめ 1998年東北大学法学部卒。企業経営者を経て2012年衆院当選(石川2区)。党経済産業部会副部会長、青年局長、国土交通大臣政務官などを歴任。党原子力規制に関する特別委員会事務局長。当選4回。

中小企業の経営者から、青年会議所の活動など経て代議士に転じた異色の経歴を持つ。

国政に当たっても、民間企業で苦労した経験を忘れずに政策に取り組む。

 バレーボールに打ち込んだ中学から大学の学生時代、将来、政治家になる考えはなかった。3人兄弟の長男として、父親が石川県小松市で経営するビルメンテナンスの会社を継ぐことになる――。漠然とそう思っていた。大学を卒業したのは、バブル崩壊後の就職氷河期。故郷に戻り父親にビルメンテナンス会社への入社を相談すると、「よその土地で事業を始めてみろ」と突き放される。もともと企業への就職は関心がなく、自分でも独創的な仕事をしたいという思いを持っていた。大学生時代から住み慣れた仙台市。この街で、父親からのれんを分けてもらう形で、ビルメンテナンスとイベントの仕事を始めた。

「何でもいいから仕事を取ってくる」。こう意気込んだが、なかなかお得意は見つからない。ようやく得た仕事では、取引先の企業が破産。残ったのは数百万円の売掛債権。実社会の厳しさを思い知らされる。だが、捨てる神あれば拾う神あり。友人と共に輸入ビジネスの会社を起業し社長に就く。メキシコから健康食品や雑貨などを仕入れると、これらがよく売れた。2011年9月の米国同時多発テロ後の円高も追い風になり、予想以上の利益を手に。仙台市で5年間事業を続け、結婚を機に小松市にUターン。父親のビルメンテナンス会社を手伝いながら、輸入ビジネスも続けた。また地元の若手企業人として、日本青年会議所(JC)や商工会議所青年部、ロータリークラブに所属。自民党石川県連の「石川政経塾」にも参加し、地元の将来について、同世代の仲間たちと話し合う時間も増えていった。

11年3月、東日本大震災が発災。まず思い浮かんだのは、10年間過ごした仙台市でお世話になった、東北の人たちの顔だった。石川県では、岩手県山田町に社会福祉協議会の職員を派遣していた。その縁で、JCとしてほぼ毎週、炊き出しなどのボランティアを山田町で行った。被災した人たちと接する中で痛感したのは、個人の努力や選択を超えたところで、人は逆境に陥ってしまうことがあること。山田町の人たちの姿は、ちょうど、勉強に励みながら就職難で将来に不安を抱えていた大学時代の自分たちに重なった。災害や社会の不条理で人生が左右されてしまった人たちに手を差し伸べたい―。政治家を志す気持ちを持ち始めた。

12年7月、衆院議員を14期務めた森喜朗元首相が引退を表明する。「だれか、後継候補に応募するものはいないか」。最終的に石川政経塾のメンバーに声が掛かった。公募に応募し面接を受け、最後は党員投票で衆院選候補者に選ばれる。12年12月の総選挙で、次点の候補者の約4倍の票を得て当選した。

永田町で感じた歯がゆさ 少人数の会合を繰り返し開催

民間企業出身の国会議員として永田町・霞が関を見ると、歯がゆさを感じることが多い。政治の分かりにくさ、不透明な意思決定のプロセス、スピード感のなさ――。「政治を分かりやすくして、政治家が国民にとって身近な存在にならなければいけない」。こう考え、地元では20~30人が集まる会合を繰り返す。有権者が抱えている問題は千差万別。一人ひとりの質問や疑問に答えようと、興味のあるなしにかかわらず、党政務調査会の部会にはまんべんなく出席するように努めた。

エネルギー政策については、「カーボンニュートラルで2~3年前と議論の前提が変わった」と考える。これまでは原子力発電所が停止しても、石炭・天然ガス発電などで代替ができた。しかし、今後はそれができなくなる。「原子力を当たり前の電源にすることは、政治家の責任」。こう力を込める。

岸田文雄総理・総裁の誕生とともに、党は原子力規制に関する特別委員会の体制を一新。鈴木淳司衆院議員が委員長に就任し、事務局長を務める。民間企業経営の経験から、原発再稼働の審査が遅れている原子力規制委員会・規制庁にはいら立ちを隠さない。「審査の遅れで国民や民間企業の負担が増しているという意識がない。人員が足りないのならば、増やす対応をすればいい」。今、世界的な脱炭素化の潮流を背景に、化石燃料の価格がじわじわと上昇している。一方、主力電源化を目指す再生可能エネルギーへの依存はコスト増を免れない。「早く多くの原発を稼働させて、国民、企業の負担を最小限にしなければいけない」。地元で多くの声を聞く中で、焦燥感を強くしている。運転期間の原則40年ルールについても、「人間の健康状態と同じ。年数ではなく、性能で見るべきだ」と見直しに積極的だ。

座右の銘は「一直線」。曲がったことをやらずに、一度決めたら真っすぐに進むことを信条としている。叔父・佐々木守氏が脚本を執筆した、人気を博したテレビドラマ『柔道一直線』から拝借した言葉でもある。

【石炭】ダム建設に貢献 石炭灰の循環利用


【業界スクランブル/石炭】

 治水や利水に大活躍し、近年では観光名所として知られている群馬県の八ッ場ダム。新たな観光スポットのこのダムに石炭灰が多く使われていることは意外に知られていない。本州四国連絡橋の橋部もそうであったが、大規模コンクリート構造には、セメントの水和熱を低減するフライアッシュという石炭灰を使う。セメントが固まるために水と反応する際には化学反応により熱を発する。これが固まるコンクリートにひびを入れる可能性があるので、セメントを水和熱の発生が少ないものにしたり、混和材としてフライアッシュを混ぜてできるだけ水和熱を減らすようにする。

フライアッシュに含まれるガラス相(非結晶相)が、セメントの水和反応によってできた水酸化カルシウムなどと反応し、主にケイ酸カルシウム水和物を生成するのだ。この反応をポゾラン反応という。これによりコンクリート組織が緻密化するため、コンクリートの強度や耐久性が向上する。神奈川県の宮ヶ瀬ダムに至っては、 製造するコンクリートを冷却していた。それについてはテレビなどで見たことがあるだろう。

ところが石炭火力が減少してフライアッシュの生産が減ると、その利用が難しくなる。現に石炭火力の積極的削減を進めている欧州では対応に苦慮することになる。その結果進められているのが、埋め立て地に埋められたフライアッシュを掘り起こして利用するものだ。しかし量に限りがあるので永続する方法ではない。

石炭を燃焼する際に生じる飛灰は、放っておくと大気汚染を引き起こすので電気集塵機で回収する、それがフライアッシュである。火山灰のように球形で中空の数十ミクロン大の非晶質の微細粒子は、中国・三峡ダムをはじめとして各地の水力発電ダムの建設に不可欠であった。原発などの大型発電所の土木工事などにも不可欠な材料であるにもかかわらず、入手が困難になりつつあるとは皮肉なことである。中国の逸話の花咲爺の花神でないが、枯れ木に花を咲かせてみせる石炭灰フライアッシュはマジックのようでもある。なんとか継続利用させていく方法が欲しいものだ。(C)

【コラム/2月24日】欧州における電気料金の動向


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

米国もそうだが、欧州の電気料金も長期的に上昇している。この12年間(2008~2020年)について見ると、家庭用電気料金は30%の大幅な上昇率を記録したが、これは消費者物価指数の上昇率を大きく上回るものであった。電気料金上昇の要因は、2007年頃までは主として燃料価格の上昇であったが、この10数年間は、主として、租税公課の増大である。とくに、再生可能エネルギー賦課金の増大は顕著であり、家庭用電気料金に占めるそのシェアは、2012年から2019年の間に6%から14%と2倍以上になった。また、ネットワークのコストも再生可能エネルギー電源の拡大で増強を迫られ増大している。一方、近年、再生可能エネルギー大量導入下で卸電力価格は低迷ないし低下し、電気料金上昇の歯止め要因として機能していた。しかし、最近、卸電力価格は上昇している。その要因を考察することで、欧州における将来の電気料金の動向を予想することができる。

欧州における卸電力価格は、昨年半ばから顕著な値上がりが見られるようになった。スポット価格は、2021年9月に、ドイツ、フランスで、メガワットアワー当たり100ユーロを超えた。直近(2022年1月)でも、ドイツでは、150ユーロを超え、フランスでは200ユーロを超えている。最近における卸電力価格の上昇の理由としては、経済活動再開に伴う需要の増大、風力発電の低迷、発電設備の保守作業による停止、二酸化炭素排出量取引制度(EU-ETS)の排出枠(EUA)価格の上昇など様々な要因が挙げられているが、天然ガス価格の高騰がもっとも大きな要因と指摘されている。欧州における天然ガスの価格(オランダTTFの先物価格)は、2021年初では、100万BTU当たり30ユーロを下回っていたが、10月に100ユーロを、そして12月には170ユーロを超えた。直近(2022年2月16日)でも70ユーロ程度となっている。天然ガス価格の上昇の理由としては、景気回復に伴う需要の増大、欧州におけるガス貯蔵量の低下、気候変動対策としての石炭から天然ガスへのシフトに加えて、ロシアから欧州への供給削減が挙げられる。

現在、天然ガスの需給動向がとりわけ注目されているが、長期的な電力価格の動向を見る上で、より目を向けなくてはならないのはEUAの動向である。EUAは、2012年から2017年までは1トン当たり10ユーロ未満の水準で推移したが、2018年から価格が上昇、2020年12月に30ユーロを、2021年3月に40ユーロを超え、そして5月に50.05ユーロの史上最高値をマークした。その後、9月に60ユーロを、11月に70ユーロを、12月には90ユーロを突破し、史上最高記録を更新し続けた。その後、一時値を下げたものの、2022年1月26日も一時90ユーロを超えている。欧州は、2050年カーボンニュートラルの野心的な目標を掲げており、将来的にも、EUAの需給の引き締まりは変わらないだろう。カーボンニュートラルのシナリオを見ると、EUAは長期的に100ユーロ程度、場合によっては150~200ユーロにまで上昇していく可能性がある。EUAは、将来的に欧州の卸電力価格を引き上げる大きな要因となるだろう。また、カーボンニュートラルの実現のためには、再生可能エネルギー電源やネットワークの一層の拡大・増強、二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS: Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)、Power-to-Xや蓄電池などの種々のフレキシビリティ技術の 開発・導入も求められる。これらを考慮すると、欧州では、これまで以上に電気料金は上昇していく可能性がある。脱炭素化の目標が野心的であればあるほど、電気料金は顕著な上昇を見せるであろう。EU同様、わが国も、2050年カーボンニュートラルを目指すことになったが、やがて電気料金の継続的な上昇は当たり前の時代になるだろう。カーボンニュートラルは耳ざわりのいい言葉ではあるが、それを達成するためのコストに関する議論があまり聞かれないのが残念である。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。