<出席者>電力・石油・ガス・マスコミ・ジャーナリスト業界関係者/5名
衆院選では事前の予想に反して、自民党が過半数を上回る議席を獲得した。
野党では日本維新の会が躍進し、エネルギー政策でも期待が高まっている。
――衆院選では自民党が事前予測以上に票を伸ばした。ほとんどの政治評論家が予想していなかった。
石油 自民に支持が集まったというよりは、「敵失」に助けられた面が多いんじゃないか。中でも立憲民主党は大きく議席を減らした。代表の枝野幸男さんの演説を聞くと、さもありなんという感じがする。とにかく、何でも批判から始める。自公政権のすることは全て否定する。
では、民主党政権のとき、枝野さんは一体何をしたというんだ。そういうところを見透かされてしまったのだと思う。
マスコミ 確かに人の悪口ばかり言う人間は信じられない。枝野さんは若者を意識した発言が多かったが、若い人たちは「どこか信用できない」と思ったかもしれない。
電力 午後8時にテレビの開票速報が始まって、各局とも自民は30議席近く減らす見通しと報じた。しかし、だんだん議席を伸ばしていった。テレビ局の予想は出口調査や事前の取材を元にしているが、安倍晋三さん、菅義偉さんの長期政権が続く中、「モリカケ」や桜を見る会などの問題があって、岸田文雄政権になってもメディアにはどこか「自民に負けてほしい」という期待感があった気がする。
ガス 静岡県での参院補選の大敗もあって、開票前は自民党内でも悲観論が多かった。接戦区の状況が読み切れず、幹部が「単独過半数は取れるか」と真剣に話し合っていたという。開票日の夜、テレビを見ていると、9時ごろの岸田さんの表情はまだ暗かった。
ところが10時くらいになると、笑顔が見え出した。それくらい、自民の幹部も票を読めていなかったはずだ。
マスコミ ただ、静岡の参院補選で負けて、与党は気を引き締めた。一方、立憲は楽観的になって気が緩んだ。それに立憲・共産・社民・れいわの共闘が、立憲敗退の理由だと思う。中国海警局の船が尖閣列島の周辺海域に侵入し、北朝鮮は新型ミサイルを発射するというのに、「日米安保廃棄、自衛隊解消」と唱える共産と手を組んだ。国の安全保障については、立憲や共産などよりも、普通の国民の方がはるかに危機意識を持ってよく考えている。立憲は国民を甘く見たとしか言いようがない。
自民「大物」が落選 党政調人事に難航
――自民も「大物議員」が落選している。
石油 比例で復活した甘利明さんは良かったと思う。石油業界にとって痛かったのは、野田毅さんの落選。業界に理解があって、LPGでも議連の会長だった。党税調の会長を務めたことあって、頼りになる政治家だった。
前回の選挙で、野田さんと同じ財務省出身の西野太亮さんに追い上げられて、大分危機感を持っていた。今回、西野さんに5万票差を付けられてしまった。
電力 原子力規制に関する特別委員会の会長だった原田義昭さんも落選。自民党ではベテラン議員の多くが議席を失ったことで、政調の部会長、調査会長、特別委員会の会長の人選に大分、苦労したらしい。
―日本維新の会が大きく議席を伸ばした。中でも大阪は、「維新旋風」が吹いた。
ガス 維新の大勝で、大阪の自民は全滅状態。自民には投票したくないが、理想論を掲げる立憲、共産にも入れたくない層が支持したようだ。主張する政策も現実的なものが多くて、これから党勢を伸ばしていくかもしれない。
ジャーナリスト 維新は衆院選では原発は市場原理でフェードアウトを目指すとしたが、核燃サイクルを含めて、現実的な路線を進めるのではと期待している。
関西電力は、福井県にたまり続ける使用済み燃料の中間貯蔵施設の立地に頭を痛めている。2023年末までに立地点を決めると福井県の杉本達治知事に約束しているが、最有力の青森県むつ市の施設の共同利用案は進展していない。維新ならば、この問題を解決できるかもしれない。
関電の中間貯蔵問題 維新の躍進で解決も?
――なぜ中間貯蔵の問題を維新の会が。
ジャーナリスト 松井一郎代表は、福島第一原発のトリチウム水処分の議論が難航した時に、「科学が風評に負けてはだめだ」と反発して、「大阪湾で放出してもいい」と言った。松井さんは大阪市長。普通、自治体の首長で、ごく微量で全く無害とはいえ、他の地域から出た放射性物質の放出を認めるような人は、地元の住民や漁業関係者などの反発を考えるといない。
今は党から退いているが、元代表の橋下徹さんに至っては、ツイッターで「大阪湾だと兵庫県や和歌山県からクレームが来るというなら、(大阪の)道頓堀や中之島へ」とつぶやいている。維新なら、「もともと関西圏で使った電気で出たもの。安全なものなのだから、関西圏で預かってもいい」と考えるかもしれない。
――トリチウム水と使用済み燃料では、住民の受け止め方が大分違うと思うが。
ジャーナリスト 乾式貯蔵される使用済み燃料は、もう十分に冷却されて安定した状態にある。中間貯蔵が周辺住民の健康に影響を与えることは考えられない。
電力 確かに使用済み燃料の中間貯蔵は全く周囲に影響を与えない。松井さんがそう考えてくれるなら、大阪で維新が躍進したため議論になるかもしれないが、実際は難しいだろうな。
――根拠のない楽観論ばかり唱える政党が多いから、その点でも維新の地に足の着いた主張は受け入れられたのかもしれない。エネルギー政策でも、現実的な政策を期待したい。