【新電力】英国の電力高騰 小売りは生存危機


【業界スクランブル/新電力】

 「政府は経営危機に陥った事業者は救わない」「失敗や不始末に対する報酬は一切あり得ない」「大切なことは需要家保護である」―。これは、自由化先進国と呼ばれる英国でガス・電力価格の高騰により、多くの小売り事業者が経営危機に陥る中で行われた、英国議会下院におけるクワシ・クワルテング民間企業・エネルギー・産業戦略大臣の演説である。小売り事業者にとって大変厳しい内容だ。

英国では9月15日にN2EXスポット市場でkW時当たり375円を、9日にインバランス価格が605.57円を記録した。今年3月末時点で49社の小売り事業者が電力・ガス供給を行っていたが、8、9月に事業停止した事業者は10社に上り、最終的には5~10社しか生き残らないとも言われている。また、Ofgem(英国ガス・電力市場規制庁)前長官のダーモット・ノーラン氏はメディアの取材に対して、小売り事業者の新規参入のハードルを下げ過ぎたこと、経営危機に直面している事業者は「このような価格高騰は起きないだろう」といった考えの下、非常に危険な立場を取ったとの認識を明らかにしている。

これは英国の問題ではあるが、日本の新電力も対岸の火事ではない。資源価格の高騰は当面続くと見られているにもかかわらず、9月30日に実施された2022年度分ベースロード電源市場の約定量は東日本でわずか5000kWであった。その後、欧州でガス市場価格の急騰が伝えられると、今冬の電力先物価格はベースロード30円まで急上昇した。日本も仮に発電所計画外停止や寒波による需要増が重なった場合には、今年1月のような価格高騰に直面する可能性がある。

クワルテング大臣が演説を行った日、オクトパスエナジー創業者のグレッグ・ジャクソン氏はツイッターに次のような投稿を行った。これは日本の新電力にも当てはまる内容だ。「確かに市場が低い時には気の狂ったような低価格を提供し、市場が高い時には救済を求めるような馬鹿な会社も存在します。このような企業は、重要な市場に参入する資格はありません」(M)

エネルギー危機下のCOP26


【ワールドワイド/コラム】水上裕康 ヒロ・ミズカミ代表

10月31日から英国グラスゴーでCOP26が開催されている。今回の焦点はパリ協定第6条に定める市場メカニズムの実施細則の議論と、5年ごとに更新される各国の排出削減目標(NDC)の更新だ。NDCは各国独自と言いつつ経済交渉の世界である。EU、米国などの目標前倒しを受け、日本も2030年目標を13年比46%削減に深堀りを表明した。

開催国である英国はとりわけ「脱炭素外交」に積極的だ。今年に入り石炭火力廃止を1年前倒して24年にするとともに、先進国には30年まで、途上国にも40年までの脱石炭を呼び掛けた。さらに、ジョンソン首相は10月の保守党大会で国内電力部門の35年までの脱炭素化も宣言した。

こうした勇ましい「脱炭素」宣言を尻目に、足元では世界中で炭素(天然ガス、石炭)の取り合いが起こっている。お膝元の英国は夏場の風力の不調や英仏海峡の電力連系線の事故も重なり、電力、ガスとも卸価格は9月末までの3カ月間に約3倍に高騰した。欧州はじめ世界各国も同じような状況で、需要期の冬季に向けてはさらなる価格の高騰と電力・ガスの供給制限の広がりが懸念される。

思い出されるのは、18年に仏国で燃料税引上げをきっかけに暴動に発展した「黄色いベスト」運動だ。環境問題では「市民」、学者、政治家などのアカデミックな議論に注目が集まるが、「生活者」は悲鳴をあげるまで置き去りにされがちだ。

今回の危機の背後にあるのは「脱炭素」圧力による資源投資の萎縮だ。世界は、化石燃料が人々の生活に果たしている役割を正当に評価した上で「移行期」に期待する役割について具体的なメッセージを発信する必要があるのではないか。今回のCOPではそうした議論が始まることを期待したい。

【電力】小泉劇場は不発 日本社会に安堵


【業界スクランブル/電力】

 9月29日に実施された自民党総裁選の投開票は、岸田文雄氏が当初有力と見られていた河野太郎氏を決選投票で破る結果となった。岸田新総裁は総裁選の他の候補者を重用することを宣言しており、河野氏は、党の広報本部長に起用されることが決まった。重要ポストではあるが、政策決定からは少し遠いポストのようだ。持論に沿わないエネルギー基本計画に閣議決定の拒否権を行使するとの発言があっては、閣内で起用することは難しかったのかもしれない。

当初最有力候補と言われ、一部マスコミが露骨にアゲ報道をしていたにもかかわらず、河野氏が失速したのは、急進的なエネルギー政策にも原因があるだろう。氏は実務能力が高いことは確かなので、政策ブレーンを一新して、捲土重来を期されることを望みたい。

他方、河野氏応援団の中核にいた小泉進次郎氏は、父親譲りの小泉劇場の再現を企図しているかのような言動が目立った。父親はかつて、郵政民営化のシングルイシューで成功した。でも、今振り返れば、財投改革の必要性はあるにせよ、その一環で郵便事業を民営化する必要まであったかどうか、筆者は今でも疑問だ。そして、息子がシングルイシュー化したのは、経済に死活的な影響があることでは郵政の比ではないエネルギー政策だ。

選挙期間中は「最大の抵抗勢力、既得権益がエネルギー政策を巻き戻そうと、躍起になって攻撃。その攻撃に耐えられる国民的な支持を集めたいですね」、選挙後は「(エネルギー政策について)それなりに揺り戻しがあるだろう。それが権力闘争の現実だ」などの発言が報じられている。

勝手に権力闘争化して分断をあおり、勝手にありもしない既得権益を作り上げ、勝手に独り相撲をしていたようにしか映らなかった。事実上、日本の外貨の多くを稼ぐ製造業全体を抵抗勢力、既得権益と敵認定して、責任政党として支持されると思ったのか。いや、一部マスコミのアゲ報道があっても、この劇場が不発に終わる日本社会に筆者はほっとしている。(T)

先行きの暗いCOP26 脱炭素を巡る先進国の虚々実々


【ワールドワイド/環境】

 10月末からのCOP26まで1カ月を切った。

 議長国英国はCOP26で野心レベルの高い合意をしたいと躍起だが、同じ英国が議長国であったG7では1・5℃目標、2050年カーボンニュートラルを高らかにうたいあげたのと裏腹に、10月末のG20ではそうしたメッセージが盛り込まれない見込みだ。

 こうした中で9月の国連総会で習近平国家主席が「中国は発展途上国の低炭素推進を強力に支援し、海外での石炭火力発電所を新たに建設しない」と表明したことはCOP26での成果が喉から手が出るほど欲しい英国や環境NGOを喜ばせた。

 一方で一帯一路などを通じて建設に合意、あるいは建設を開始しているプロジェクトも全てキャンセルとするのか、中国の公的・民間金融機関双方に適用、あるいは拘束されないのか―など「新たに建設しない」の具体的内容は明らかではない。また中国は海外での石炭火力新設は行わないとしつつも、国内の石炭火力新設をやめるとは言っておらず、30年、50年目標の前倒しにも応じていない。

 国際的な脱炭素のプレッシャーの高まりにより、アジアの途上国も石炭火力新設計画をガス火力に切り替えたり、再エネ導入拡大を図るなどの方針転換をしつつある。「海外での石炭火力建設をやめ、途上国の低炭素推進を支援する」ということは、中国製の石炭火力から中国製のパネル、風車、蓄電池、電気自動車に売り物を変えた方が得だという判断をしたということで、今回の表明で失ったものはほとんど何もない。30年、50年目標の前倒しや国内の石炭火力の差し止めなどに比べ「楽なカード」を切ることで、米英に貸しを作ったつもりでいるのではないか。

 しかしCOP26の先行きは引き続き暗い。欧州では世界経済回復によるエネルギー需要の高まりや風力発電の不振を背景に天然ガス価格、電力料金が急騰している。気候変動対策としての石炭火力の閉鎖と再エネ推進が大きな背景になっていることは明らかだ。脱石炭の旗を振る英国自身が石炭火力による電力に依存せざるを得ないのは皮肉としか言いようがない。

 エネルギーコストの上昇が国民生活に打撃を与えるリスクが拡大すれば、化石燃料に頼らざるを得ないという現実と化石燃料排除にますます突き進むCOP26の議論の乖離はますます広がっている。

(有馬 純/東京大学公共政策大学院特任教授)

仏の新たな気候変動対策法 EU目標変更で問われる意義


【ワールドワイド/経営】

 フランスでは2021年8月、新たな気候変動対策法である「気候とレジリエンス法」が施行された。

 これは「2030年に1990年比でGHG排出量を40%削減」(19年実績は同比19%削減)という直近の国内目標達成のために「消費」「生産/労働」「移動」「住居」「食料」「環境」の6項目で細かな施策を定めた法律だ。

 同法の特徴は、制定に至るまでの経緯やその方法にある。同国では18年11月、燃料税引き上げに対する大規模な抗議運動(黄色いベスト運動)が発生した。国民の意見や要望が政策に反映されないことへの強い反発といえるこれらの動きを受け、より民意を反映した気候変動対策法を目指したマクロン大統領は、ランダムに選出した150人の一般市民を委員とする委員会を19年10月に創設。同委の提案を法律に反映することを約束し同法の草案作成にあたらせた。

 その約2年後に施行された同法は全305条で構成され、中でも国内で最もGHG排出量の多い交通および建物部門に対する施策が注目されている。

 一例としては「鉄道で2時間半以内に移動可能な都市間の国内航空の直行便を22年に廃止」「CO2排出量1㎏当たり95g以上の自動車販売を30年に禁止」「断熱効率の悪い住居の賃貸を25年から段階的に禁止」などが挙げられる。さらに「化石燃料の広告を22年に禁止」「義務教育機関における環境問題に対する教育の強化」「環境破壊行為に対する罰則の強化」など、国民の日常生活に関連する施策が盛り込まれ、続々と実施が予定されている。

 しかし、同法に対する国民やメディアの反応はおおむね批判的だ。というのも、施策の多くが草案時は適用年や適用範囲においてより野心的だったが、大統領の約束とは異なり政府が修正を加えたことで緩いものになってしまった。委員会や環境保護団体は法案時から、同法に対する強い反発を示していた。政府諮問機関をはじめ一部メディアは、同法の30年目標達成への貢献は限定的と見ている。

 さらに政府にとって都合の悪いことに、同法施行に先立つ7月、EUの30年目標が55%に引き上げられたことで同法の意義そのものが問われかねない状況になっている。同国政府は、EU目標に合わせ同法の施策強化、もしくは国内の30年目標の引き上げなど、何らかの対応に迫られることは必至だ。次期大統領選を22年4月に控え、どのような動きがみられるか、引き続き注目される。

(西島恵美/海外電力調査会調査第一部)

【マーケット情報/11月12日】欧米原油下落、需給緩和観が台頭


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、米国原油を代表するWTI先物と、北海原油の指標となるブレント先物が下落。需給緩和観の台頭を反映した。

OPECは、今年の需要予測を下方修正。原油の価格高騰が、消費を抑えると予測した。また、米国では、エネルギーおよびガソリン価格の10月指標が、それぞれ前年比30%と50%上昇。インフレ抑制に向けて、米政府が原油の戦略備蓄を放出するとの期待が高まった。加えて、米国の石油サービス会社ベーカー・ヒューズが発表した国内の石油掘削リグの稼働数は、前週から4基増加して454基となった。

一方、中東原油を代表するドバイ現物は、前週比で上昇。OPEC+の12月増産が日量40万バレルに留まったことで、品薄感が根強い。また、米議会が1兆ドルのインフラ投資法案を可決。経済が活性化し、石油需要が強まるとの予想が広がった。さらに、中国は、江蘇省の新規製油所が年末に稼働を開始すると公表。同国の輸入増加の見通しが、ドバイ現物を支えた。

【11月12日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=80.79ドル(前週比0.48ドル安)、ブレント先物(ICE)82.17ドル(前週比0.57ドル)、オマーン先物(DME)=81.79ドル(前週比2.04ドル高)、ドバイ現物(Argus)=81.38ドル(前週比2.25ドル高)

【コラム/11月15日】第49回総選挙雑感


福島 伸享/衆議院議員

 10月31日投開票で行われた第49回衆議院議員選挙は、自公の与党が絶対安定多数の議席を取り、岸田政権が政権基盤を強化して継続する結果となった。私もこの選挙に無所属で立候補をし、比例復活の道を捨てた背水の陣で戦い、何とか3期目の国会に返り咲くことができた。私は、今回の選挙戦では「党より人物」をキャッチフレーズとして掲げ、コロナ禍の下での選挙であるため屋内での集会を一切行わず、夜間の寒風の中屋外で1時間かけて車載の大型モニターに図表を映し出しながら、平成30年間の日本の停滞を示し、この間の政治の意志や決断の不在、政治劣化を論じてきた。何党の政策がどうのという以前の天下国家を、あえて論じ続けてきたつもりだ。

 2ヶ月前に私は、「幸か不幸か、エネルギー政策が政局の争点となった」と題したコラムを掲載したが、今回の総選挙は「幸か不幸か、エネルギー政策が政局の争点と」ならなかった(・・・・・)。一つには、岸田首相と河野太郎氏らが争った自民党総裁選に比べて、<自公政権>対<立憲民主党を筆頭とする野党>の今回の構図は政権交代のリアリティがなく、選挙結果によって政策が大きく変わる兆しがなかったことによるものだろう。また、東海第二原発を抱え、世論調査をすると圧倒的多数が再稼働に反対する私の地元でも、単にスローガンとして唱える「原発ゼロ!」にはもはや多くの有権者は反応しなくなっており、むしろ特定の政治勢力のトレードマークとして忌避すらされている。

 では、センセーショナルなスローガンに振り回されなかった今回の衆院選が「幸か」といえば、そうではないだろう。自民党の公約では「安全が確認された原子力発電所の再稼働や自動車の電動化の推進、蓄電池、水素、SMR(小型モジュール炉)の地下立地、合成燃料等のカーボンリサイクル技術など、クリーン・エネルギーへの投資を積極的に後押しします」とされているが、民間が投資を可能とする環境や制度を整えることこそ政治の役割だ。「後押し」ではなく、政治が先頭になってリスクを低減する環境を整備したり、国と民間の役割分担を確定したり、不確定要素を少なくするための予見可能な制度を構築するなどの「行動」が必要なのである。たとえば、もんじゅが廃炉になる中で、核燃料サイクル路線が今後どのようなものになり、20年後、30年後の原子力産業はどのような姿になっているのか、原子力政策の再構築はほとんど手を付けられていない。これでは、民間企業が原子力分野に投資をすることなどは、難しいだろう。

 残念ながら、これまでの安倍政権・菅政権の9年間には、そのような具体的な「行動」が見られないまま、いたずらに時間を費やしてきた。政治の現場でも、「原発ゼロ」や「カーボン・ニュートラル」といったキャッチフレーズばかりが踊り、目先の具体的な経済活動を促すような政策論議は疎かになっているように感じる。私は、無所属で国会に上がってきた非自民系の5人(吉良州司、北神圭朗、緒方林太郎、仁木博文)と共に新たに「有志の会」という会派を組んだ。いずれも激戦を政党や大きな団体の支援を受けずに勝ち上がり、官庁や商社などでの現場経験のある政策通の猛者ばかりだ。キャッチフレーズやイデオロギーにとらわれない、現実的でしかし本質を突いた政策議論を国会で行うグループでありたいと思っている。与党にとって手ごわい存在となろう。ぜひご注目をいただけると幸いだ。

【プロフィール】東京大学農学部卒。通商産業省(現経産省)入省。調査統計、橋本内閣での行政改革、電力・ガス・原子力政策、バイオ産業政策などに携わり、小泉内閣の内閣官房で構造改革特区の実現を果たす。2021年10月の衆院選で当選(3期目)

ナイジェリアの石油開発 深海では進展も陸上は停滞


【ワールドワイド/資源】

ナイジェリアは1971年からOPECに加盟しているアフリカ最大の産油国である。

 2020年の生産量は日量180万バレルだが、近年は同国への石油開発投資は他のアフリカの国への投資と比べ急激に減少している。原油生産能力も急速に低下しており、一般歳入の約5割、総輸出額の約7割を占める原油販売収入の減少が危惧されている。

 深海油ガス田を含むOML118鉱区では、事業者側と国の間で係争があったが、21年5月に係争解決合意書、和解合意書、過去のガス生産に関する合意書、エスクロー勘定合意書、財務などの条件を明確にした新しいPS契約の計五つの合意がなされた。特にこのPS契約は、巨大な深海資産開発のための明確で公正な財務枠組みを構築したことにより、係争を解決した点で大きな価値がある。

 この合意によりシェルはBonga South West Aparo(BSWA)油田に160億ドルを投じ、開発を進めることを決定。BSWA油田が跨がるOML132とOML140の間で共同操業協定の検討がなされている。同国はOML118の生産量増を見込み、今後数年で生産能力を日量300万バレルまで引き上げることを目指す。

 深海油田での開発が停滞した理由は、主に石油産業法案(PIB)改正遅延、深海油田のロイヤルティーに関わる法の改正、油価低迷、事業当事者との契約条件上の係争だ。今後の深海油田開発はOML118の成功事例の波及が期待されることやPIB可決により、以前よりは安定的に進展すると考えられる。一方で石油生産の主力を担う陸上油田は、治安への懸念、温暖化ガス排出削減、油価低迷、係争などで開発が停滞。経済的困難などによる治安悪化への懸念や環境面の観点から、見通しは厳しそうだ。

 今後、最も注目すべきはPIB改正による石油・天然ガス産業への影響だ。2000年の石油・ガス部門改革実行委員会発足以降、PIBは繰り返し審議され、21年8月16日に大統領の承認を得て発効した。外資の意向を受け当初予定よりもロイヤルティーを引き下げたが、開発事業者からはいまだ不十分であるとの意見も多い。

 加えて「地域社会への資金支援」への拠出割合に不満を持つ地元過激派組織により、石油関連施設への攻撃がエスカレートするリスクには留意する必要がある。同国連邦内国歳入庁は「PIB改正可決の効果は早くとも23年以降に現れる」と発言しており、同国での石油開発は雌伏の時が続くだろう。

(野口洋佑/石油天然ガス・金属鉱物資源機構調査部)

高速炉は実現不可能? 誤解を与える毎日コラム


【おやおやマスコミ】井川陽次郎/工房YOIKA代表

 原典にあたる。その大切さをネット社会で日々感じる。このコラムの筆者にもお勧めしたい。

毎日10月2日「土記・核のごみ処理、300年?」である。

自民党総裁選での岸田文雄氏の発言に噛み付いた。原子力発電所の使用済み核燃料を再処理して活用する核燃料サイクルについて、岸田氏が討論会で「高レベル核廃棄物の処理期間は再処理すると300年と言われている」と述べたことに「驚いた」という。

「使用済み核燃料は放射能レベルが天然ウラン並みに減衰するまで10万年。それが『300年に短縮できる』という夢のような話は、経済産業省などが再処理の『利点』として示していた」「だが、前提は普通の原発ではなく特殊な高速炉のサイクルを回し続けること。もともと実現性は疑問だったが、高速増殖炉もんじゅが破綻し、まさに見果てぬ夢となった」

見果てぬ夢とは、実現不可能な事柄を指す。高速炉が不可能なのだから岸田氏もおかしい、との主張だろう。だが、政府は高速炉を不可能としていない。2018年に「戦略ロードマップ」をまとめている。ネット検索すれば、すぐに見つかる文書だ。

朝日デジタル9月30日ファクトチェック「岸田氏『使用済み核燃料、再処理すれば期間300年』はミスリード」は、さすがに事実(ファクト)を無視できず、高速炉について、「政府は、運転開始が今世紀半ばごろになるとしている」と書いている。

さらに、「日本原子力学会が2019年にまとめた提言では、岸田氏の言う『300年』の実現について、『今世紀後半から22世紀にかけて技術を確立する』としている」との見解にも触れる。

もちろん、一朝一夕で実現できることではなく、朝日は「誤解を与える余地が大きい」と岸田発言に辛口だが、同様の指摘は冒頭のコラムにも当てはまる。

日経10月4日社説「有害な誤情報の拡散を民主導で防ごう」は、ネット社会のニセ情報に警戒を呼びかけた。「新型コロナウイルスのワクチンなどについてネット上での有害な誤情報の拡散が後を絶たない」と深刻さを訴える。

「米国のワクチン接種は開始こそ早かったものの、伸び悩んでいる。大きな要因が『接種で不妊になる』といった誤情報の流布だ」「日本でも9月の筑波大の調査で20~30歳代の回答者の1割程度が接種を忌避しており、多くがデマに影響されていた」

米ユーチューブは9月29日、新型コロナなどワクチン全般に関するニセ情報の発信を禁じ、反ワクチン派アカウントを停止する厳しい対応「誤った情報に関するポリシー」を発表した。日経社説は、これを受け、対応が手ぬるいネット運営企業には「広告配信を止める」措置も提唱している。既存メディアは違う、と言えるか。

ユーチューブの新ポリシーでは「ワクチンは発病リスクを軽減しないと主張する」「HPVワクチンが麻痺などの慢性的な副作用を引き起こすと主張する」内容の動画も禁じられる。

このHPVワクチンは、子宮頸がんを予防するヒトパピローマウイルスワクチンを指す。日本ではメディアが大々的に副作用を報じ、政府が積極的勧奨を控えたため接種率が他国より低い。

日経10月2日「子宮頸がんワクチン接種、勧奨再開へ議論開始」は、厚生労働省の方針転換を伝えている。この間に多くの命が失われた。メディアの検証も要る。

いかわ・ようじろう(デジタルハリウッド大学大学院修了。元読売新聞論説委員)

【TOKAIHD 鴇田社長】HD制成功の10年を振り返る 築いた基盤でさらなる飛躍目指す


【TOKAIホールディングス/鴇田勝彦 社長】

ときた・かつひこ 1968年東京大学法学部卒、通商産業省(現経済産業省)入省。京都府副知事、防衛庁装備局長、中小企業庁長官、石油公団理事などを歴任。2002年TOKAI顧問、副社長を経て、05年社長に就任。11年から現職。グループ会社の社長・会長を兼任す

TOKAIグループはTOKAIホールディングスを設立して今年で10周年を迎えた。

TLC構想によって築いた経営基盤にDXなど新たな要素を融合させて成長を描く。

 ――コロナ禍でありがなら、4期連続増収、3期連続最高益更新、顧客基盤も拡大するなど好調です。主な要因をお聞かせください。

鴇田 当社グループの収益構造は、リテール向けのサブスク事業が売上高・営業利益ともに約6割を占めており、310万件の継続取引顧客を有することが安定収益の原動力となっています。また、ガスを中心としたエネルギー事業のみならず、情報通信やCATV、アクアなど多岐にわたる事業を行っている点も、他社にない優位性であると言えます。

 これらの事業において、エリア拡大やM&A(合併・買収)などにグループ一体となって積極的に取り組み、事業基盤の拡大を進めたことが好業績につながっているものと捉えています。M&Aについて言えば、2017~20年度の前中期経営計画「Innovation Plan 2020 “JUMP“」で成長戦略の大きな柱に掲げ、4年間で15案件(CATV4件、都市ガス4件、建築設備不動産4件、情報通信2件、海外1件)のM&Aやアライアンスを成立させました。これにより、顧客件数35万件、売上高120億円、営業利益9億4000万円(のれん償却前)が増加し、顧客基盤ならびに収益基盤の拡大が図られました。今後も、引き続き推進していきます。

中期経営計画「Innovation Plan 2024」の位置付け

HD制10年で経営改善 一体となって進めたTLC

―ホールディングス(HD)を設立して10周年を迎えました。振り返ってどのような点に注力し、成果を上げてきたのでしょうか。

鴇田 HD体制以前は、グループ各社がおのおのに資金調達や運用を行っていたため、有利子負債残高は1240億円に膨れ上がり、自己資本比率は7・7%と脆弱な財務状況にありました。これを改善すべく、CMS(キャッシュマネジメントシステム)を導入し、グループの資金を一元的に管理することに努めました。その結果、低金利での資金調達が可能になり、余剰資金の削減も図られ、直近の21年3月期末では、有利子負債残高は11年3月期比66%減の421億円まで削減し、自己資本比率は同33・9ポイント増の41・6%に向上しました。HD化による大きな成果の一つと言えます。

 事業面で言えば、HD体制以前は、各社各事業が一定の成長を見せていましたが、ばらばらに事業を行っていたため、非常にもったいないと感じていました。一つの体系を作ってこれらのサービスを束ねれば、攻めにも守りにも、より大きな効果を発揮するのではないかと考え、打ち立てたのが「TLC(トータルライフコンシェルジュ)構想」です。

 当初は、グループ各社共通のデータベースがなかったので、12年8月に「TLCブック」というシステムを構築し、グループ顧客の名寄せを行えるようにしました。また、同年12月より、グループ「TLC会員制度」をスタートしました。その狙いは、お客さまに、当社グループのサービスを一つのみならず、複数ご利用いただくよう働きかけるものであり、利用されるサービスの数に応じてポイントを上積みする仕組みとしました。その結果、現在、会員数は98万件まで増加し、狙いとしていた複数取引率は20%にまで達しています。特に数字が高いのは、静岡県内の都市ガス事業で、その割合は59・7%となっています(静岡県内のCATV事業の複数化率は83・5%で、その多くは放送・通信のセット顧客)。

静岡から世界へ 目指すは五大陸進出

――現中期経営計画「Innovation Plan 2024」で掲げた「LNG戦略の推進」「TLCの進化」について聞かせてください。

鴇田 LNG戦略では、静岡&関東圏(Local)→日本全国(National)→世界(Global)へと事業エリアを着実に広げることを目指します。当社の事業拡大は大きく分けて、M&Aによって基盤拡大するものと、既存事業のエリアを拡大する手法があると考えています。M&Aは、この4年間で多くの情報網やノウハウを得ることができたので、活用してさらに推進していきます。分野としては、重点的に進めてきた都市ガス、CATV、建築設備不動産、情報通信に加え、グループの中核事業であるLPガスも積極的に実行していく考えです。これらによって進出した地域でTLCを普及させ、顧客数を2~3倍に増加させていくことが当社グループの戦略です。

 海外事業では、現在4カ国に進出しています。今後は東南アジアでエネルギー事業を本格化することや、情報通信事業でクラウドビジネス需要の増加が見込まれるアジア地域に進出することなどを視野に入れています。アジアにとどまらず、私の夢である五大陸(ユーラシア、南北アメリカ、アフリカ、オーストラリア)への進出を早期に実現したいと考えています。

事業エリアを広げていくLNG戦略

孤立深める中国の狙い 透けて見えるCOP26の政治利用


【識者の視点】杉山大志 /キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

10月31日から英国グラスゴーで温暖化防止国際会議・COP26が開催される。

交渉は膠着状態で事実上何の成果もなさそうだが、中国だけは最大の利益を得ることになりそうだ。

今春に米国が開催した気候サミットでは、米国バイデン政権、ドイツ・メルケル政権、フランス・マクロン政権、英国ジョンソン政権、それに日本の菅政権と脱炭素に熱心な政権がたまたま出そろい、G7(先進7カ国)諸国は軒並み「2030年にCO2半減、50年にはゼロ」を宣言した。ただし、中国をはじめ新興国はそのような宣言をしなかった。今度のCOP26では、G7が新興国に同様の宣言を求める構図になっているが、新興国が応じる気配はない。

まあ、G7も言っているだけで実行不可能であるのみならず、欧州では既に無理な再生可能エネルギー依存の政策がたたって、エネルギー価格の高騰が生活費の圧迫やインフレを引き起こしつつあり、政治問題化している。早晩、G7の無謀な目標は問題視され、見直しが入るだろう。そんな中で新興国が経済成長の足かせになるような宣言をすることはばかげている。G7の圧力には説得力も政治力も無く、新興国が譲ることはなさそうだ。よって事実上は何の成果も無い会議になりそうなのだ。

欧米が一変して中国賞賛 石炭火力輸出支援停止のワケ

ところがここで、中国が救い船を出した。習近平国家主席は9月、「海外の石炭火力発電事業への資金提供を止める」と発表した。

この方針で中国は大いに感謝された。COP26の議長であるアロク・シャルマ氏は「習主席が海外での新規石炭プロジェクトの建設を中止すると約束したことを歓迎する。これは私が中国を訪問した際に議論した重要なテーマだった」と述べた。米国のジョン・ケリー気候変動対策特使も「素晴らしい貢献だ」と言い、最近すっかり嫌われ者の中国に最大級の賛辞が送られたわけだ。

だが習氏は実質的にはまだ何も譲歩していない。まず、具体的に「いつ」資金提供を止めるのか言及していない。中国が着手した7000万kW(19年時点)もの石炭火力プロジェクトを止めるとは、一言も言っていないのだ。これは、日本の全石炭火力4800万kWをはるかに超える水準だ。

また「どの」資金提供を止めるかも言っていない。公的なものだけなのか、民間を含めるのか。プロジェクトファイナンスだけを対象にするのか否か、など、実質的に何を止めるのかは不明だ。

その一方、中国国内では現在、世界の石炭消費量の半分を燃やしており、今後ますます増える。日本の20倍以上の10億kWの石炭火力発電所があり、毎年、日本の全石炭火力発電設備容量に匹敵する大量の発電所が建設されている。

それにもかかわらず、欧米の政権はここのところ、温暖化問題に限らず中国に好意的で、中国の体制を非難しない。なぜだろうか。

「中国はCOP26という機会をフル活用しているのだ」と主張する英国貴族院議員のマット・リドレー氏は、次のように指摘する。

「グラスゴーでの協力を中国に求めるために、英国と米国はどのような譲歩をしたのか? それは有益な譲歩なのか?」

「習近平の今般の発表の数週間前に、バイデン政権が、ウイルスが武漢の実験室起源かどうかは『分からない』とした報告書を発表したのは偶然だったのだろうか?」

「米国のバイデン大統領、ハリス副大統領、ケリー特使は、最近の人権に関するスピーチで、中国について言及することを慎重に避けている。なぜか?」

「香港で自由が弾圧されているのに、英国が黙っているのは偶然だろうか?」

「内容不明な『海外石炭事業の停止』宣言によって、事実上何の成果も無いであろう『国連気候会議』が『成功』したと演出してみせることで、中国は数々の譲歩を引き出したのではないか?」

「私は、明白に宥和政策があったと言っているわけではない。だが中国のリップサービスを頼みの綱にしてしまっている英米が、このタイミングにおいて、ほかの案件で中国を厳しく批判できるとは思えない。中国はもちろんこの機会を最大限利用する。こんなゲームをすることは有益なのだろうか」

「いま中国は、かつての英国のお株を奪って『分割統治』を仕掛けている。つまり米国と豪州には敵対する一方で、英国には愛嬌を振りまいている」

「中国共産党の機関紙『環球時報』は先月、米国は『不安定で支配的』であるが、英国は『協力的で従順だ』と書いている」――。

「超限戦」を仕掛ける中国はCOPも利用するのか

COPは「超限戦」の道具 G7との駆け引きはいかに

中国はこの美味しい構図を継続させようとするだろう。もしCOP26で「グラスゴーアクションプラン」が合意され「継続的に中国と協議する」などとなったら、今後何年間も同じような譲歩を続けることになるのだろうか。人権は、パンデミック対策は、どうなるのか。G7は見事中国の術中にはまってしまうのだろうか。

いま中国は、人権、領土、貿易、技術などを巡って、国際的に孤立気味である。そこで、これらの重要な外交問題についてG7を分裂させ、譲歩させるために、気候変動への協力を装っている。

「超限戦」という言葉がある。中国の軍人たちが1999年に発表した概念だ。いまや戦争に平時と戦時の区別なく、技術に軍事と民事の区別なく、武器にリアルとバーチャルの区別は無い。あらゆる境界を越えて、国家は常に自らを強め敵を弱める。恒常的な戦争状態にあるという考え方だ。

超限戦が目指すのは、習氏が掲げる「中国の夢」である中華民族の偉大な復興の実現だ。気候変動はその最も便利な道具だ。

ちなみにCOP26の正式な交渉議題は国際的な排出権取引のルールなどだが、全ての国が数値目標を持つ今、国際的な排出権取引が大々的に活用できるようになる可能性はほぼゼロだ。他にも議題はいくつかあるが、どれも細かくてあまり重要ではない。重要なのは中国などが正式な交渉議題と別に何を宣言するかと、その広範な外交関係への影響である。中国が仕掛ける超限戦としてのCOP26で、G7がどう対処するのか。大きな構図にこそ注目しよう。

すぎやま・たいし 1991年東京大学理学部卒。93年同大学院工学研究科物理工学修了後、電力中央研究所入所。電中研上席研究員などを経て、2017年キヤノングローバル戦略研究所入所。19年から現職。

Fパワー新スポンサー決定 外資の力で再建目指す


電力小売り事業者初の会社更生法の適用を受け、経営再建を進めているFパワー(東京都港区)の新スポンサーが決まった。

それによると、Fパワーがスポンサー契約を結んだのは、シンガポール系の投資ファンド、日本GLP(東京都港区、帖佐義之社長)。Fパワーは来年4月1日付で日本GLPか同社の指定する受け皿会社に、電力小売り事業を移管する計画だ。

冬場の卸電力市場高騰の影響で約460億円の負債を抱え、事実上経営破たんしたFパワー。会社更生手続きによる新スポンサーの選定に当たってはこれまで2回の入札を行い、大手エネルギー会社や中堅新電力などの札入れが取りざたされたものの、いずれも不調に終わっていた。

今回の新スポンサー決定により、Fパワーの経営再建は大きく前進することになる。関係者によると、同社は収益力を強化すべく、ビジネスモデルの転換を推進中だ。ただここにきて化石燃料価格の上昇から、卸電力市場が再び騰勢を強めている感も。電力小売り全体で収益への悪影響を懸念する向きが広まっている。

炭素大量排出の宿命に挑む CNに本腰入れるセメント業界


【業界紙の目】佐藤大蔵/セメント新聞社 編集部記者

主要製造工程で多くのCO2を排出するという宿命に立ち向かうセメント業界。

カーボンニュートラル(CN)という「未来」に向けた業界の取り組みは奏功するだろうか。

 これまでもCO2排出削減に向けた取り組みはセメント産業を挙げて進められてきたが、2020年10月の所信表明演説で当時の菅義偉首相が表明した「2050年カーボンニュートラル」宣言を受ける形で、産業全体、また個社としてさらに取り組みを加速させ、カーボンニュートラルの達成を目指す取り組みを打ち出している。

セメントは、主要製造過程でCO2が大量に発生し、プロセス由来の排出量が全体の約6割を占めるという、「宿命的」な特徴を有しているが、現状では実装段階にあるCO2を大幅削減する技術はない。一方で、これまでセメント産業は主に省エネルギーを通じてエネルギー由来のCO2排出削減を図ってきた。省エネ設備の導入やエネルギー代替廃棄物の使用拡大といった対策を進めており、着実に進ちょくしている状況にある。またセメント産業では、さらなる省エネを推進するため、毎年売上高の約1%を省エネ設備に投資している。19年度は、関連の取り組みの合計額で144億円の設備投資を実施。10~19年度の合計投資額は、731億円にも上る。

またセメント工場では、日本の年間廃棄物総量の5%にあたる約2800万t(17年度)をセメント製造に活用しており、その量は循環利用量の約12%に相当し、循環型社会形成に大きく貢献していることをアピールしている。セメント産業が廃棄物・副産物を受入処理している現状での産業廃棄物の最終処分場の残余年数は、環境省発表で17・0年になると見込まれている。セメント産業が全ての廃棄物・副産物の受け入れをやめた場合、残余年数は5・5年になるとの試算が出ている。

政府宣言の前に策定 産業長期ビジョン実施へ

セメント会社17社で構成する業界団体のセメント協会は、20年3月に「脱炭素社会を目指すセメント産業の長期ビジョン」を策定した。同ビジョンは、セメント産業が国の長期戦略の実現に貢献するため、果たすべき役割、50年とその先の将来を展望した目指すべき方向性を示した。セメント産業は、これまで社会インフラや防災インフラなどの整備を進める上で必須の役割を担う基礎素材の供給者としての役割を担ってきた。また地域経済や災害廃棄物処理への貢献も果たしてきた。同ビジョンでは50年以降もその役割を果たし続けるべきであると強調した。

目指すべき方向性に向けた対策の多くは克服すべき困難な課題を抱えており、その実現には「非連続なイノベーション」が不可欠となる。また建設業界などステークホルダーの理解や協力も必要となる。主な対策として、クリンカ(セメント原料の焼塊)比率の低減や投入減量の低炭素化、鉱化剤使用による焼成温度低減などを進める。さらに供用中の構造物や解体コンクリートによるCO2の固定化、コンクリート舗装の推進による重量車の燃費向上に伴うCO2低減などを推進する。なお同ビジョンは政府のカーボンニュートラル宣言の前に策定されたものであり、政府宣言を踏まえ改定が図られる方向だ。

世界の潮流と軌を一に 個社でも技術開発に積極姿勢

同協会は、今年3月に開かれた総合資源エネルギー調査会省エネルギー小委員会(委員長=田辺新一・早稲田大学理工学術院教授)で、経済産業省のヒアリングに応じている。ヒアリングにおいては、セメント産業における課題を説明。さらに国に望む要望事項を提示し、今後のさらなる省エネ設備の導入には多額の費用を要するため、引き続きの政府の支援を求めた。また、CO2の回収では、最適な分離・回収や有効利用方法の検討を進めるものの回収したCO2の貯留や有効利用が社会実装されるよう政府のけん引を要望。需要の最適化に向けては、再生可能エネルギーを最大限活用できるよう契約電力を柔軟に調整できる仕組みや、安価な電力料金の設定などインセンティブの付与の必要性を示した。

個社でも積極的にカーボンニュートラルに向けた施策に取り組んでいる。同協会会員社では、太平洋セメント、住友大阪セメント、宇部興産、三菱マテリアル、デンカ、トクヤマが長期ビジョンを公表している。

これらビジョンは、大きく分けてエネルギー由来CO2の削減、プロセス由来CO2の削減、新たな技術開発に取り組むことなどがあげられている。エネルギー由来CO2の削減のために、さらなる省エネ設備の導入やエネルギー代替廃棄物の使用量増加、エネルギー転換などの対策を実施する。プロセス由来CO2の削減に向けては、カルシウム含有廃棄物の利用増や、低CO2セメントの開発などを推進。新たな技術開発として、CO2回収・利用技術の確立などを図る。

関連製品含めたバリューチェーン全体でCNを目指す

長期ビジョンの実現に向けて、各社は具体的な取り組みを進める。業界最大手の太平洋セメントは、長期ビジョンの実現には、既存技術の応用や発展に加え、革新的技術を開発し、コストも含めて実用可能なレベルに高めることが必須になるとの認識の下、セメントを製造するキルン(回転窯)の排ガスからの最適なCO2回収技術の開発・実証と、回収したCO2をセメント原料や建設資材として再利用するカーボンリサイクル技術の開発を進めている。この技術開発を実現するため、今年3月に「カーボンニュートラル技術開発プロジェクトチーム」を新設し、開発を強力に推進している。

さらに8月には、セメント袋の中間層にバイオマスプラスチックを導入する取り組みを打ち出した。これは、セメントの出荷形態のひとつである袋製品(袋セメント)の中間層で、これまで使用していた化石資源由来のプラスチックに代えて植物由来現状のバイオマスプラスチックフィルムを使用するというもの。セメント業界では初の取り組みとなる。

世界的な潮流や国の動きと軌を一にするように、セメント産業では省エネやCO2削減に向けた機運が高まっている。今後、業界を挙げてのさらなる取り組みと成果が期待されるところだ。

〈セメント新聞〉〇1949年2月創刊〇発行部数:週刊2万部〇読者層:セメント業界、生コンクリート業界、コンクリート製品業界、建設業界など

エネオスが再エネ強化へ 憶測呼ぶ巨額買収の真意


石油元売り大手のエネオスが、再生可能エネルギー事業者のジャパン・リニューアブル・エナジー(JRE)を買収すると発表した。来年1月にも、米ゴールドマン・サックス(GS)などからJREの全株式を取得する予定で、石油需要の先細りが予想される中で、次の成長事業としての再エネ事業強化につなげたい考えだ。

買収額は約2000億円。JREは、太陽光や陸上風力、バイオマス発電など幅広く再エネ設備を保有し、洋上風力の開発にも力を入れている。とはいえ年間売上高は40億円に満たず、「巨額を投じる価値があるのか」と、首をかしげる業界関係者も多い。

実際GSは、トヨタや東京ガスなどほかの数社にも打診していたようだが、「3000億~400

0億円」という提示額にいずれも合意には至らなかったという。一方、一部報道では、エネオスはGSの協力で道路舗装大手NIPPOを非上場化することで17

00億円を手にするため、ほとんど懐は痛まないとも言われている。

有識者の一人は、「再エネに積極的に取り組むという株式市場への強いメッセージになる」と語り、収益への寄与以上の効果を得られるとの見方もある。

菅政権が踏み出した脱炭素 岸田首相に委ねられた具体策


【論説室の窓】吉田博紀/朝日新聞 論説委員

9年弱にわたった安倍・菅体制が幕を閉じ、首相官邸はひとまず、新しい主を迎えた。

政治に刷新が期待される一方、変えてはいけない政策もある。「脱炭素」はその一つだ。

 9月の自民党総裁選には、菅義偉首相の突然の退任表明を受けて4人が名乗りを上げ、活発な政策論争を繰り広げた。新型コロナウイルス対策や経済政策、年金問題、外交・安全保障などと並んで、エネルギー・原子力分野でも各候補がどんな内容を訴えるか、注目された。

時折しも、次期エネルギー基本計画の案に対するパブリックコメントの期間と重なり、エネルギー政策の議論が活発化していたこともある。それ以上に大きかったのはやはり、候補者に河野太郎氏が加わったことだろう。原発の新増設・リプレースを認めずに将来は原発をゼロにし、核燃料サイクルも「手じまい」すると、政策の大転換を明言したためだ。

結果は、エネルギー・原発政策では党の従来路線を踏襲する姿勢を示した岸田文雄氏が、河野氏との決選投票を制して勝利した。10月4日に新首相にも選出された岸田氏は、総裁選で訴えたさまざまな政策を前提に、衆議院選挙で国民の審判を受けることになる。本稿を書いている時点では予想もつかないが、選挙結果によって行方が左右されるテーマもあるに違いない。

120カ国以上が宣言 無視できぬ世界の潮流

では、菅政権が打ち出した「2050年カーボンニュートラル」という目標はどうか。考えるに当たって忘れてはならないのは、世界120カ国以上がカーボンニュートラルを宣言しているという事実だ。

その顔ぶれは米欧にとどまらず、中東のイエメン、アフリカのブルキナファソなど、地域も国情もまさにさまざま。先進諸国と足並みの違いが深まる中国も、60年までと10年遅れながら、脱炭素を表明した。対立が目立ちがちな昨今の国際情勢でも、世界的な潮流になっている。

そこから日本が離脱すれば、待っているのは孤立への道だ。世界を舞台にする日本の製造業にとっても、大半の市場を失いかねない選択肢であり、到底、採ることはできない。

ただ、このようなコンセンサスがずっと前から国内に定着していたわけではない。「50年までに80%の温室効果ガスの排出削減を目指す」とした地球温暖化対策計画が閣議決定された16年時点でも、日本の経済界では「現実的でない」「経済に大きな負荷をかける」などと否定的な意見が根強かった。

風向きが明らかに変わったのは昨年10月、菅政権が50年カーボンニュートラルを宣言して以降だ。そこから半年を経た今年5~6月には、朝日新聞が国内の主要100社を対象に実施した景気アンケートで、50年の実質ゼロという目標に対し、83社が支持を表明するまでに至った。

「官邸主導」で政策を進めた安倍・菅政権の手法に対しては時に、独善的との批判も起きた。実際、次期エネ基を審議する総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会では、エネルギーミックスの議論の最中に温室効果ガスの30年削減目標を決めた政府のやり方に対して「順番が逆だ」との苦言が呈された。

とはいうものの、ことカーボンニュートラルに関しては、菅政権の決断を前向きに評価すべきなのかもしれない。いま実現が見通せる対策を積み上げる「ボトムアップ」では考えられなかったブームを「トップダウン」で醸成することに成功したと言えるからだ。

もちろん脱炭素は、宣言するだけで達成が約束されるような甘い話ではない。いろいろな策を一つひとつ吟味し、実現可能性が高いものを積み上げて達成を図ることが不可欠だ。菅氏はその道半ばで、政権を投げ出してしまった。新政権には、前政権が打ち出した方向性を肉付けする地道な作業が求められる。

欧米などを見れば、これから起きるであろう「グリーン革命」で市場環境が一変することを見越し、優位に立つための産業育成を同時に進めようとの流れが既に強まっている。脱炭素が不十分と判断できる国や地域の企業には事実上の関税を課そうという「炭素国境調整措置」などを通じ、域内の産業を守ろうとの動きさえ見え隠れする。そのような状況を座視するなら、日本が国際競争から置いてけぼりを食わされることになるだけだ。

そのような「守り」の観点に加え、「攻め」の姿勢も欠かせない。日本の強みはどこにあるのかを見極め、その新分野で世界をリードできるように仕向ける、息長い政策が必要になる。

岸田新首相の脱炭素戦略は
提供:首相官邸ウェブサイト

産業政策と組み合わせ 攻めのエネルギー政策を

中でも、日本の主力産業である自動車が脱炭素とどう向き合うかは、今後の日本経済を左右する分かれ道になるだろう。世界に先駆けて確立した低燃費技術であるハイブリッド車で時間を稼ぎつつ、化石燃料を使うエンジン車への依存から将来的に脱する道を、官民一体になって至急、探らねばならない。

日本メーカーは1960年代に深刻化した大気汚染や、石油危機を契機に強化された燃費規制に対応することで、世界市場での存在感を高めた経験を持つ。やり方を間違えなければ十分、対応できる能力があるはずだ。

脱炭素社会実現の主役である再生可能エネルギー関連の産業にも期待がかかる。特に国内で今後、導入が本格化する洋上風力発電は、国内のみならずアジアの市場を獲得しうるチャンスが見えている。

岸田新首相が脱炭素戦略でどんな考えを持っているのか、まだ見えてこない。10月8日に衆参両院であった初の所信表明演説では「2050年カーボンニュートラルの実現に向け、温暖化対策を成長につなげる、クリーンエネルギー戦略を策定し、強力に推進いたします」と述べつつも、具体策には触れなかった。

国民生活を支えるエネルギー政策と、世界で稼ぐための産業政策を最適に組み合わせるポリシーミックスの重要性が、今以上に高まっている時期はない。新政権はもちろん、与野党を超えてそんな問題意識を共有すべき秋である。