【住宅】太陽光設置の義務化 あいまいな政策


【業界スクランブル/住宅】

 国土交通省の「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方」では「将来における太陽光発電設備の設置義務化も選択肢の一つとしてあらゆる手段を検討し、その設置促進のための取組を進める」と示されたが、果たして太陽光発電の義務化は可能だろうか――。委員の意見は以下の通り。義務化賛成派は、「少なくとも新築住宅は義務化をしていくべき」「PPAモデルが普及すれば義務付けも可能」「日当たりによって義務化レベルを変える」。義務化慎重派は「地域や立地などにより発電効率に格差があり一律の義務化には無理がある」「義務化すると個人の負うリスクが顕在化する」「設備導入に係るコスト増は住宅取得を困難とする」といったものだった。

筆者なりに義務化の可能性を検討してみた。ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)と同様に地域によって条件緩和するのは大前提になる。その上で、「太陽光発電設備導入によるコスト増」が最大の課題と考える。現実に、ZEHの普及率も住宅購入価格とリンクしており、費用負担の有無は重要である。これに関しては、第3者保有物(TPO)モデルの導入が始まっており、これが普及すれば建築主の追加負担なしで太陽光発電設置が可能になり、義務化のハードルは大きく下がると思われる。後は太陽光発電無し住宅を建築するかどうかである。自動車の世界では脱化石燃料が確実に進むであろう。理由は自動車メーカーがカーボンニュートラルに適合しない車をある時期から製造・販売しないと推測されるからである。

住宅においても、業界が太陽光発電の無い住宅は建築・販売しない、ただし設置費用は「負担有り自己所有」と「負担なしTPO」が選べるとなれば、義務化が現実味を帯びてくる。課題は住宅の業界が自動車業界のように変われるかどうかであり、実際にはさまざまな理由をつけて反対が起こるであろうが建築主由来でなく、業界由来の要因になったとき、反対を続けられるのか、義務化に際して最後は業界の覚悟が求められると認識すべきである。(Z)

【マーケット情報/12月24日】原油上昇、需給逼迫観が台頭


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。新型コロナウイルス・オミクロン変異株の感染が拡大するも、需給が逼迫したことで、買いが優勢になった。

米国政府は、ロックダウンをしない方針。年末の休暇に向けて、移動用燃料の消費が増加するとの予測が強まった。また、インド国営製油所は、1月以降の需要増を見込み、高稼働を続ける計画だ。さらに、イタリアおよびフランスでは11月、車両用の燃料消費が前年比で増加し、2019年のパンデミック前水準を上回った。経済活動および石油製品需要が回復しているとの楽観が広がり、価格の強材料となった。

供給面では、リビアが政情不安を受け、生産を一部停止。加えて、リビア国営石油は、2か所の輸出港でフォースマジュールを宣言しており、同国からの供給が滞るとの見方が台頭した。さらに、OPECプラスの協調減産の順守率は11月、前月から上昇し、117%を記録。複数の加盟国が、変異株の感染拡大を背景に、生産設備の稼働を引き下げていたことが要因とみられる。米国の原油在庫が4週連続で減少したことも、需給を引き締めた。

一方、ドイツやポルトガル、フィンランドなど欧州の一部国家は、移動や経済活動の規制を再導入。中国の一部地域も、ロックダウンを再開。燃料消費の減少や、経済の冷え込みにともなう石油需要後退に対する懸念が強まり、価格上昇を幾分か抑制した。

【12月24日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=73.79ドル※、(前週比2.93ドル高)、ブレント先物(ICE)=76.14ドル(前週比2.62ドル高)、 オマーン先物(DME)=73.54ドル(前週比0.30ドル高)、 ドバイ現物(Argus)=74.59ドル(前週比1.22ドル高)

※24日が祝日だったため、米国のみ23日との比較

【太陽光】FIT後の設備廃棄 保険加入努力義務化


【業界スクランブル/太陽光】

 2020年4月から太陽光発電設備の「火災保険・地震保険等の加入努力義務化」が施行された。また改正エネルギー供給強靭化法では、22年7月から10kW以上の事業用太陽光発電事業者に対して、太陽光発電設備の廃棄費用の外部積立が義務化される予定だ。

国内の太陽光発電設備の導入は、12年の固定価格買い取り制度(FIT)の開始により急速に拡大が進み、10〜50kWの低圧設備だけでも、現在62万件以上が存在する。低圧設備は、売電収入を目的にした個人所有のものも多く、発電事業者が、事業運営に関する知識を十分に持っていないケースや、設備の保守、点検が行われていないなど、問題の設備も多いようだ。大型設備に比べて低圧設備の保険加入率もまだまだ低く、自然災害に伴う設備の廃棄や、パネルの飛散による近隣住宅への賠償対応などの備えも十分ではないのが現状だ。そのような中、今後買い取り期間の終了に合わせて、発電事業からの撤退を考える事業者から、廃棄される設備が大量に出て来ることが懸念される。設備の廃棄やリサイクルの検討は、発電事業者の責任において確実に行われる必要がある。太陽光発電協会(JPEA)は、東京海上日動火災保険が開発した、FIT認定事業者向けの新たな保険制度「太陽光発電設備 廃棄費用&賠償責任保険」の団体契約者となった。この保険は、国が定めた「火災保険、地震保険等の加入努力義務化」に備える業界初の保険で、「廃棄費用の外部積立前や積立中における廃棄費用」、「太陽光発電設備の所有・使用・管理等や急増するサイバーリスクに備える賠償責任」を補償する保険制度で、発電出力10kW以上2000kW以下のFIT認定設備を対象として、50kWで約1万7000円と安価、かつウェブで簡単に加入できる。

発電事業者は、地域との共存共栄を目指し、安心、安全な設備で事業運営を行うことが求められている。そのためにも万が一に備えて、賠償資力の確保を行い、健全な事業運営を最後まで行っていく努力を怠るべきではない。(T)

【メディア放談】衆院選の結果 総選挙「自民・維新勝利」の波紋


<出席者>電力・石油・ガス・マスコミ・ジャーナリスト業界関係者/5名

衆院選では事前の予想に反して、自民党が過半数を上回る議席を獲得した。

野党では日本維新の会が躍進し、エネルギー政策でも期待が高まっている。

 ――衆院選では自民党が事前予測以上に票を伸ばした。ほとんどの政治評論家が予想していなかった。

石油 自民に支持が集まったというよりは、「敵失」に助けられた面が多いんじゃないか。中でも立憲民主党は大きく議席を減らした。代表の枝野幸男さんの演説を聞くと、さもありなんという感じがする。とにかく、何でも批判から始める。自公政権のすることは全て否定する。

 では、民主党政権のとき、枝野さんは一体何をしたというんだ。そういうところを見透かされてしまったのだと思う。

マスコミ 確かに人の悪口ばかり言う人間は信じられない。枝野さんは若者を意識した発言が多かったが、若い人たちは「どこか信用できない」と思ったかもしれない。

電力 午後8時にテレビの開票速報が始まって、各局とも自民は30議席近く減らす見通しと報じた。しかし、だんだん議席を伸ばしていった。テレビ局の予想は出口調査や事前の取材を元にしているが、安倍晋三さん、菅義偉さんの長期政権が続く中、「モリカケ」や桜を見る会などの問題があって、岸田文雄政権になってもメディアにはどこか「自民に負けてほしい」という期待感があった気がする。

ガス 静岡県での参院補選の大敗もあって、開票前は自民党内でも悲観論が多かった。接戦区の状況が読み切れず、幹部が「単独過半数は取れるか」と真剣に話し合っていたという。開票日の夜、テレビを見ていると、9時ごろの岸田さんの表情はまだ暗かった。

 ところが10時くらいになると、笑顔が見え出した。それくらい、自民の幹部も票を読めていなかったはずだ。

マスコミ ただ、静岡の参院補選で負けて、与党は気を引き締めた。一方、立憲は楽観的になって気が緩んだ。それに立憲・共産・社民・れいわの共闘が、立憲敗退の理由だと思う。中国海警局の船が尖閣列島の周辺海域に侵入し、北朝鮮は新型ミサイルを発射するというのに、「日米安保廃棄、自衛隊解消」と唱える共産と手を組んだ。国の安全保障については、立憲や共産などよりも、普通の国民の方がはるかに危機意識を持ってよく考えている。立憲は国民を甘く見たとしか言いようがない。

自民「大物」が落選 党政調人事に難航

――自民も「大物議員」が落選している。

石油 比例で復活した甘利明さんは良かったと思う。石油業界にとって痛かったのは、野田毅さんの落選。業界に理解があって、LPGでも議連の会長だった。党税調の会長を務めたことあって、頼りになる政治家だった。

 前回の選挙で、野田さんと同じ財務省出身の西野太亮さんに追い上げられて、大分危機感を持っていた。今回、西野さんに5万票差を付けられてしまった。

電力 原子力規制に関する特別委員会の会長だった原田義昭さんも落選。自民党ではベテラン議員の多くが議席を失ったことで、政調の部会長、調査会長、特別委員会の会長の人選に大分、苦労したらしい。

―日本維新の会が大きく議席を伸ばした。中でも大阪は、「維新旋風」が吹いた。

ガス 維新の大勝で、大阪の自民は全滅状態。自民には投票したくないが、理想論を掲げる立憲、共産にも入れたくない層が支持したようだ。主張する政策も現実的なものが多くて、これから党勢を伸ばしていくかもしれない。

ジャーナリスト 維新は衆院選では原発は市場原理でフェードアウトを目指すとしたが、核燃サイクルを含めて、現実的な路線を進めるのではと期待している。

 関西電力は、福井県にたまり続ける使用済み燃料の中間貯蔵施設の立地に頭を痛めている。2023年末までに立地点を決めると福井県の杉本達治知事に約束しているが、最有力の青森県むつ市の施設の共同利用案は進展していない。維新ならば、この問題を解決できるかもしれない。

関電の中間貯蔵問題 維新の躍進で解決も?

――なぜ中間貯蔵の問題を維新の会が。

ジャーナリスト 松井一郎代表は、福島第一原発のトリチウム水処分の議論が難航した時に、「科学が風評に負けてはだめだ」と反発して、「大阪湾で放出してもいい」と言った。松井さんは大阪市長。普通、自治体の首長で、ごく微量で全く無害とはいえ、他の地域から出た放射性物質の放出を認めるような人は、地元の住民や漁業関係者などの反発を考えるといない。

 今は党から退いているが、元代表の橋下徹さんに至っては、ツイッターで「大阪湾だと兵庫県や和歌山県からクレームが来るというなら、(大阪の)道頓堀や中之島へ」とつぶやいている。維新なら、「もともと関西圏で使った電気で出たもの。安全なものなのだから、関西圏で預かってもいい」と考えるかもしれない。

――トリチウム水と使用済み燃料では、住民の受け止め方が大分違うと思うが。

ジャーナリスト 乾式貯蔵される使用済み燃料は、もう十分に冷却されて安定した状態にある。中間貯蔵が周辺住民の健康に影響を与えることは考えられない。

電力 確かに使用済み燃料の中間貯蔵は全く周囲に影響を与えない。松井さんがそう考えてくれるなら、大阪で維新が躍進したため議論になるかもしれないが、実際は難しいだろうな。

――根拠のない楽観論ばかり唱える政党が多いから、その点でも維新の地に足の着いた主張は受け入れられたのかもしれない。エネルギー政策でも、現実的な政策を期待したい。

【再エネ】風力の出遅れ 巻き返しなるか


【業界スクランブル/再エネ】

国内の風力発電はこれまで陸上風力発電が中心で、昨年度末の累積でも約450万kWにとどまっている。これは世界の導入量の0.6%程度に過ぎず、欧米の主要風車メーカーから見た市場価値は低い状況にある。

理由は、2012年に再エネ電源の固定価格買い取り制度(FIT)が施行されるも、同時に環境アセスメント法が施行され、アセスメント調査や都道府県知事意見、大臣勧告を集約しての是正措置が求められ、実質7500kW以上のプロジェクトが停滞したことが主要因である。特に各地域の調整力と送電容量の問題で系統接続が出来ないことも大きな要因になっており、さらに風力事業の環境アセス長期化の間に太陽光発電など他の再エネ電源の導入が進み(太陽光発電は既に6000万kWを超す導入量である)、結果的に風力が系統接続できにくい状況にある事も背景にある。

このような事業環境の中、50年カーボンニュートラル宣言により40年、30年にバックキャストする形で、脱炭素化の各事業分野の目標議論が行われ、30年の電力部門の電源見通しでは、野心的目標として再エネ分の発電電力量比率で36~38%を目指す方向が示された。この結果、エネルギー基本計画では、風力発電設備が陸上で1330万kW(政策強化1590万kW)、洋上で170万kW(政策強化370万kW)の導入見込みとなっている。

一方、これを確実に実現する課題解決の手段として、①洋上風力地点を含む再エネ促進区域の設定、②事業規律の強化、③FIP(市場連動価格買い取り制度)対応のコスト低減・市場統合、④系統利用ルールの見直しを含む系統制約の克服、⑤環境アセス適正化を含む規制の合理化、⑥次世代太陽光パネル、浮体式構造物の要素開発を含む技術開発―などが国の指針として示されている。

特に系統制約の課題克服は、整備と制度変更にも時間を要するため、将来の洋上風力の遠地大量導入も見据えた送電線の整備、調整力の確保の道筋を付ける事が非常に重要だと考える。(S)

理念としての脱炭素 2100年は視野に入るか


【リレーコラム】古關惠一/ENEOS中央技術研究所技術戦略室

エネルギー需要、企業家精神、ライフスタイル変化、イノベーションを手掛かりに考えてみる。人口減少下、需要喚起には魅力ある付加価値品が必要だ。歴史的に需要喚起も容易でなく、国民は、普通は置換の需要分しか求めない。例えば、1588〜1668年のスパイス交易におけるオラニエ家&オランダ東インド会社の東南アジアへの海洋交通変革とビジネスに目が留まる。13〜18世紀の「マルサスの罠」から産業革命時代に至る前段で資本蓄積を可能にした点は特筆すべきで、「ライフ変化」の光の部分でもあった。これらは「肉の食文化」の価値を目指し企業家がつくった市場だ。これらは陸上から海上の物流のモビリティを変革しエネルギーを変革し、後の産業革命に向けた成熟を準備した。産業革命以前に「成長」が達成されたのである。

しかし一方、米国や南米での奴隷貿易は、今日もある人権問題や経済格差の問題にも波及があり、植民地支配の歴史に連なることは影の部分。大企業・グローバル企業活動とは何ぞや、という問いも必要で利益優先がもたらした苦難の歴史があることも忘れてはならない。科学・技術が人間の諸問題を解決するほど万能ではなく両刃の剣なのは常識であるのと同様「企業家精神によるマーケット創出」もその面がある。問題はこれら「企業家精神の熱狂・技術が需要を産む」成長には副作用があるという点。そして脱炭素やカーボンニュートラルも単純ではないし例外でもない。

新資本主義議論への接続

さらに今回の再エネの社会実装にイノベーションは不可欠と見えるが、「イノベーション」は頻繁に起きず不確実・不可視なのが、エネルギー分野である。イノベーションが不透明な中、脱炭素の歩みが「企業家精神」による事業頼みでは実現に危うさがある。

一般の想像以上にしわ寄せは弱者に行く。安全保障の等閑、高コスト・エネルギー欠乏、エネルギー獲得競争を不用意に加速、などの危険は、エネルギーは市況品かつ生存に不可欠であるがゆえに弱者に大きく影響する。レジリエンス重視をいうのはこの理由でもある。内閣も変わり「新資本主義議論」の入り口である今だからこそ、特に「ライフの変化」を主導する「企業家精神」とその陥穽に注意し、地道な「イノベーション」特にコストが比較的かからない基礎研究部分を愚直といわれても重視してはどうか。特に「単体」ではなく様々な科学・技術の組み合わせを土台に「人体」並みに精妙かつ精緻にするエネルギーシステムが中長期では特に重要であり、欧米に主張できる考え方=べき論であろうと思う。

こせき・けいいち 1985年東京大学工学系大学院修了、88年東亜燃料工業入社。2003年東燃ゼネラル石油中央研究所首席研究員、戦略企画・調査部長を経て、17年JXTGエネルギーフェロー。21年から早稲田大学招聘研究員を兼任。

※次回は出光興産フェローの柳生田稔さんです。

【石炭】ガイドライン改定 海外融資の展開


【業界スクランブル/石炭】

英国でのCOP26で、相変わらず石炭攻撃が目立つ。各国の地政学的立地を考慮せずに政治的に他国の石炭利用を攻撃する動きにはあきれるばかりだ。脱炭素戦略の必要性は理解できるが、そのやり方は各国が自国のエネルギー事情を鑑みて、選ぶ権利があるはずだ。

日本のECA(輸出信用機関)である、日本貿易保険(NEXI)と国際協力銀行(JBIC)の動きには注目すべきものがある。現在、先進各国を中心にESG経営の一環で各社の株主総会で環境対策、特に地球温暖化対策が議題になっている中、石炭火力に対する課題が多くあり、新規融資停止を提案する株主が多い。そのような中、NEXI/JBICが日本国の海外融資のための環境ガイドラインの改定に着手し、原案を、説明会の形で公開していることは意外に知られていない。

NEXI/JBICの環境ガイドラインは、2001年に制定されたのち、15年の改正の検討にあたっては、民間企業、NGO、政府機関など広く参加して改訂。コンサルテーション会合を、13年12月の準備会合を含め、翌14年11月まで計11回開催。国民の意見聴取を行い、これらの議論や意見をもとに改正した。

2021年1月、NEXI/JBICは環境社会配慮ガイドラインの見直しをすることを発表し、2月より公開にてコンサルテーション会議が開催されている。赤道原則などOECDルールをもとに作成されており、モニタリングチェックシートはNOx、SOxのような項目がある。会合第1回は2月16日からWEB形式で開催され、結果は全て公開されている。

その内容は、他国のガイドラインや日本が出資し社会問題化しているインドネシア、ベトナムなどについて解析されている。温暖化問題だけでなく、住民立ち退きなどの人権問題を含め、環境NGOが積極的に議論に参加しているのが特徴だ。中でも環境NGO、メコン・ウォッチの質問が目立つ。石炭を進めるミャンマーに対して、「石炭マネーが軍事政権のクーデターの温床になる」との懸念も出ており、議論が複雑に絡み合う。今後の展開が気になる。(T)

【佐藤 啓 自民党 参議院議員】「原子力がなければ国を守れない」


さとう・けい 2003年東京大学経済学部卒、総務省入省。16年参議院議員(奈良選挙区)。参院経済産業委員会理事、党参院国会対策副委員長などを歴任。20年経済産業大臣政務官・内閣府大臣政務官・復興大臣政務官。

「国のために自分は何ができるか」と考え、大学卒業後、総務省の官僚に。
国会議員としては、経済を立て直すため「予防医療」など新産業の創出に力を入れる。

奈良県のサラリーマン家庭で育った。中高一貫の西大和学園を出て、東大に入学。早くから、卒業後の進路は国家公務員に決めていた。国民のために働く仕事を目指した背景には、故郷・奈良での学生時代に出会った友人の存在があった。

その友人は、学業に優れていながら、家庭の事情で危うく進学を断念するところだった。傍らにいながら十分に力になれなかったことに、世の中の理不尽と無力さを感じた。「国を良くするために自分は何ができるか」。結論は、官僚となり、真面目に努力している人たちが報われる社会に貢献することだった。

総務省に入省し、地方行政の道に進む。役人としての基礎的な知識、スキルをたたき込まれた。2011年7月には、東日本大震災と福島第一原発事故の傷跡が残る、茨城県常陸太田市に政策企画部長として赴任する。

被災者の支援、被害を受けた生活・産業基盤の復旧と復興、土壌の除染、風評被害対策―。やるべきことは文字通り山積していた。それらの課題に取り組む日々が続く。やがて、新しい取り組みをはじめると、住民からダイレクトに反響がある自治体行政にやりがいを感じはじめた。常陸太田市も全国の多くの自治体と同じように、少子化・人口減少に頭を痛めている。そこで、子どもを育てやすい環境への支援を政策の柱に据えた。キャッチフレーズは「子育て上手、常陸太田」。市は宝島社が行う住みたい田舎ランキングで、18年に人口10万人未満の部門で子育て世代が住みたい田舎の第1位に選ばれている。 2年8カ月を過ごした常陸太田市では、「総務省はバックアップはするが、自治体が良くならないと地域は良くならない」と肌で感じた。また、「自治体自身の努力では限界があり、国による政策立案が欠かせない」ことも痛感。国政への参加の意思を固める。地元選出の代議士の推薦を受け、16年7月の参院選に出馬。初当選を果たした。

日本の地位低下に危機感 「予防医療」を新たな産業に

参院では外交防衛委員会、経済産業委員会などに所属。国会議員となり、あらためて日本が世界の中で置かれている立場を見ると、明るい景色は目に浮かんでこなかった。米国・中国に明らかに後れを取ったデジタルテクノロジー、欧州諸国などに主導権を奪われたグリーン関連の制度や技術――。だが、戦後、先人たちが苦労を重ねて築き上げた日本を、このまま二流国に転じさせるわけにはいかない。

今力を入れているのが「予防医療」だ。少子高齢化が進む一方で、「人生100年時代」を迎えている。これからは高齢者に健康で長く活躍してもらうことが欠かせない。総務省の先輩、上野賢一郎衆院議員とタッグを組み、病気の予防と健康づくりで持続可能な社会保障制度を目指す「明るい社会保障改革推進議員連盟」を立ち上げた。事務局長を務めるこの議員連盟を、世耕弘成参院議員や加藤勝信衆議院議員も応援。厚生労働省も前向きで、要望を踏まえて予算措置が取られている。

予防医療は新たな産業としても期待している。診断・検査・医療の分野は、日本が世界の先端を走っている。国内の需要だけでなく、海外へのノウハウ移転や輸出などへの期待も大きい。「新しい産業として立ち上げたい」と強調する。また、国を守る観点から防衛産業の強化にも力を入れている。自衛隊だけが納入先では、装備品の高コスト化は免れない。そのため、防衛用レーダーなどの輸出促進にも取り組んでいる。

エネルギー政策については、20年9月に経済産業大臣政務官に就任してから「見る目が変わった」。電力・ガス事業での自由化、資源価格の高騰などが進む中、エネルギー安全保障の重要性を強く認識。その中で原子力については、「50年カーボンニュートラルの達成、エネルギー安全保障を考えると、原発の新増設・リプレースは欠かせない」と考えている。

心配しているのは、長く国内でプラント建設がないため、原子力に関わる技術が廃れていってしまうことだ。「日本の原子力技術は先人が長く積み上げてきたもので、これを捨てるのは国として大きな損失。軽水炉だけでなく、HTTR(高温ガス炉)、SMR(小型モジュール炉)などでも、世界の最先端をいく可能性がある」。エネルギー安全保障の要として、原子力については「維持、発展させなければ日本を守れない。若手の同僚議員を啓発したい」と話す。

休暇の息抜きは、子どもの服・靴などをインターネット通販で買うこと。愛読書は宮本輝の『青葉散る』。「主人公がテニスに打ち込んだ自分の学生時代と重なる。ハッピーエンドでないところがいい」と、ロマンチストの一面ものぞかせた。

【石油】追加増産を拒否 OPECプラスの意図


【業界スクランブル/石油】

11月4日にオンラインで開催されたOPEC(石油輸出国機構)プラスの会合は、毎月40万バレルという通常の減産緩和に上乗せして、消費国から強い要請のあった追加増産は実施しないことで合意した。新型コロナウイルスの感染再拡大による石油需要急減を懸念しての決定とコメントされているが、専門家からは不安定な石油収入の補てんも意識しての決定ではないかとか、英国で開催中だったCOP26における脱炭素政策の議論へのけん制も意図しているのではないか、との観測も出されている。

1970年代に猛威を振るったOPECに対抗するため、石油市場ではIEA(国際エネルギー機関)の設立や先物市場による取引価格の透明性確保といった対策が取られ、さらに2000年以降は米国を中心にシェールオイルの生産も急拡大して、人為的な価格設定や石油を政治利用することへの歯止めが幾重にも掛けられ、石油市場は比較的安定的に推移してきた。昨年の新型コロナウイルスの感染急拡大に伴う石油需要の急減でも大きな混乱が生じたが、感染拡大に一定の歯止めがかかることで、石油市場は徐々に秩序を回復するかに思えた。

しかしこれに脱炭素の流れが加わり、市場の混乱は複雑化の様相を呈し始めている。かつて石油市場の安定を最優先に掲げていたIEAが化石燃料開発への投資抑制を呼び掛けたことは、先進国の石油・天然ガス生産、とりわけシェールオイルの生産に影響しており、産油国に再び市場の主導権を与える結果になりつつあり、これによりようやく作り上げたエネルギー市場でのパワーバランスが変化してしまう懸念が出てきている。無論、再生可能エネルギーは高コストであることから、そのコストレベルへの移行を意図して価格変動を容認すると見ることもできるが、急激なエネルギーコストの上昇は、途上国をはじめとする経済的弱者が最もしわ寄せを受けるものであり、安定供給に向けた市場の再構築が、政策決定者とエネルギー供給者に早急に求められているのではなかろうか。(H)

炉心急冷で何が起きたか 福島2・3号機「溶融」の経緯


【福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.9】石川迪夫/原子力デコミッショニング研究会 最高顧問

高温の炉心を水で急速に冷却すると炉心溶融が起きる。

福島2・3号機がどう炉心溶融に至ったか、その経緯を解説しよう。

原子炉の炉心溶融は、高温の炉心を急冷することで起きる。この結論を基に福島第一の溶融までの経緯を説明するが、都合上、2、3号機から述べる。

2号機の冷却状況が悪化し始めたのが事故から3日目、3月14日午前10時ごろだ。事故から3日が経ち崩壊熱は0・4%程に減っているから、燃料棒は冷却水とほぼ同じ温度になったと考えてよい。

18時、蒸発で原子炉水位は減少し、炉心最下部に下っていた。海水注入を決意し、安全弁を開いて原子炉圧力を低下させた。30分後、圧力は5気圧に下り、冷却水温度は150℃に下がった。この時、消防ポンプによる海水注入が実施されていれば、炉心溶融が起きなかったことは前号で述べた。残念ながら、注入は1時間半遅れ、その間に燃料棒温度は再上昇して1000℃以上になっていた。

この状態で海水が注入された。この後の説明は無用だろう。酸化皮膜が破れてジルカロイ燃焼が始まり、炉心は溶融した。なお、原子炉水位は炉心溶融後も記録されているから、圧力容器は健全であり、メルトダウンはない。

TMIと酷似する2号機 「殻」の形成は不明

2号機の溶融状況はTMI事故と酷似している。TMIの溶融は注水直後に起きたが、2号機の溶融は注水の2時間後だ。この遅れは、前述の注水遅れに加えて、海水が炉心に到達するまでの時間である。両者ともに反応は激しかったが、2号機は消防ポンプの容量が小さいので、殻に包まれた溶融炉心が形成されたか否かは不明だ。形成されていれば、TMIと同様に、炉心の取り出しは比較的容易であろう。

なお、2号機は水素ガスが気団となって原子炉建屋の開口部から流出しているから、爆発による原子炉建屋の損壊はない。

2号機は水素ガスが建屋の開口部から流出した
提供:東京電力

流出した気団は、溶融炉心から出てきた水素ガスだから、濃い放射能を伴っていた。従って、その放射能の通過後は汚染による放射線量が高い。格納容器の内部や5階フロアーの線量は現在も強く、人の立ち入りはできないと聞く。

原子炉の西、約800m離れた発電所正門にモニターカーが配置されていて、放射能の放出を自動測定していた。測定された2号機の放射線量は、1、3号機に比較して約100倍高い。

2号機の放射能は溶融炉心から直接放出されたものだが、1、3号機は水ベントを通過して放出されているので、この差が水ベントの除染効果となる。水ベントは、2mほどの深さの水に放射能を潜らせるだけだが、その除染効果はけっこう大きい。

「たら、れば」の話しになるが、もし2号機の放射能がベントを通っていれば、線量は1、3号機と変わりなくなるから、福島第一からの放出放射能はIAEA(国際原子力機関)勧告の許容被曝線量値、20ミリシーベルト(mSv)を超えなかったことになる。

2号機の汚染は5階だけだったので、発電所の施設を利用したロボット調査がいろいろできた。

数年前に、俗称「マンボウロボット」が白色のデブリを見つけたとマスコミが報じたが、これは勇み足だろう。おそらく、2号機の原子炉が高温となったために、圧力容器を包む断熱材のアルミが溶け落ちたものであろう。デブリの素材であるウランも溶融燃料も、色は黒い。白くはならない。原子力報道となると記者が常識を失って、白黒の見分けすらつかなくなり、風評を勝手につくる。

咋年、格納容器の壁際に燃料棒頂部が落下しているのが2号機で発見された。熔融炉心の残渣発見との報道もあったが、これも間違いだろう。熔融炉心の残渣なら真下に落ちる。壁際に落ちない。詳述は避けるが、気団流出の慣性の戻しで、少量の空気が圧力容器に流入し、液面上で水素爆発が起きて容器下部が壊れ、その爆風で燃料棒の頂部が飛び出し、壁に当って落下したものであろう。

3号機は2号機と同設計の姉妹炉だが、直流電源が生き残ったので事故時のデータも残っている。安全設備も自在に操作できたので、格納容器スプレーを作動させるなど事故対応上の操作も多く、運転経緯は極めて複雑だが、廃炉と無関係なので説明は割愛する。

【火力】火力の一律規制 まずは特性の理解を


【業界スクランブル/火力】

7月21日に素案が示された第六次エネルギー基本計画は、衆議院議員選挙の最中の10月22日に閣議決定された。COP26を目前に控えており、また選挙の結果も大きな影響が無かったとはいえ、詰めを十分なされないまま、このタイミングで慌てて決定されたことに懸念を抱かざるを得ない。今後の具体策の検討で変な足かせとならないことを祈るばかりだ。

そんな折、10月末の系統ワーキンググループ(WG)を傍聴した。再生可能エネルギーの大量導入を可能にするための電力系統側の対策を議論するために設置されたものだが、今年になって再エネ余剰による出力制御の機会を減らすことを目指し、火力発電の最低出力の基準の引き下げについて検討が行われている。

事務局の提案資料を見て最初に感じたのは、「基準の見直しを検討する」とか「出力制御時に稼働する発電所名を公表する」といった規制による対応を示唆する文言が並んでいたことだ。鳴り物入りで進められた電力システム改革により電力の全面自由化が進められてきたのだから、この手の問題も当然市場制度のつくり込みで対応するものと思っていたが、どうやらそうとばかりは言えないらしい。

さらに違和感を覚えたのは、最低出力の基準を決めるのだから、「火力」についてこの基準は一律でなければならないという空気が支配していた点だ。しかし、発電事業者側のオブザーバーからは、同じ火力発電であっても、通常型の汽力発電やガスタービンコンバインドサイクル、さらにはバイオマス発電などで使われる循環流動層ボイラー(CFB)と型式によって運転特性に大きな違いがあると説明していた。型式が異なるというのは、自動車で例えるなら大型ダンプと軽自動車の差以上の違いがあり、一律に規制をかけて同列に扱うことが合理的な対応であるとはとても思えない。

そもそもこの問題、再エネ拡大と系統の安定運用をいかに安価に実現するのかが目的のはず。WGの関係者は、調整力を供給してくれる発電側の事情をよく聞き正しく理解することが先決ではないだろうか。(S)

【原子力】世界的な電力不足 タクソノミーに影響


【業界スクランブル/原子力】

2020年冬、西日本を中心に電力需給が綱渡り状態といえるほどひっ迫したことは記憶に新しい。当時、日本卸電力取引所(JEPX)の電力前日スポット市場の取引価格は、kW時当たり200円(通常は8~16円)を超えた。東日本大震災以降、全国の原発が長期停止したため、火力発電所の新設計画が大量に浮上。だが、固定価格買い取り制度(FIT)を背景に、再生可能エネルギーの導入が予想を超える速度で進んだ。そのため火力発電の稼働率低下の懸念が生じて、新設計画からの撤退や老朽火力の休廃止が相次ぎ、供給力が構造的に不足する状況に陥ったことが、電力不足の原因にあげられる。21年度冬も電力需給の予備率は、安定供給に最低限必要な約3%に低下し、東京電力ではマイナス0・3%に落ち込む見通しだ。

追加供給力を賄うために不可欠なのが天然ガスだが、欧州でも既に同価格が高騰しており、今後中国による買い漁りが進めば、火力発電の燃料不足は深刻化し、電力不足に拍車がかかる。電力不足は日本だけではないのだ。このためEUでは、来年の運用開始を予定する持続可能な事業分類(タクソノミー)に原子力を含めるかどうかの、議論が大詰めを迎えている。10月22日の会見でフォンデアライエン欧州委員長は「安定的なエネルギー源として原子力が必要」として、脱炭素実現には再エネとともに原子力が不可欠との姿勢を示した。

電力の約7割を原発に依存しているフランスのマクロン大統領は同じ22日、「われわれの気候変動目標を達成するために原発を利用する必要性について、これほど明確かつ広範な支持が表明されたことはこれまでなかった」と述べた。既に天然ガスの価格高騰を受け、フランスを中心とするEU加盟10カ国は10月中旬、原発を支持する共同声明を発表した。独やオーストリア、ルクセンブルクなどは、放射性廃棄物の長期保管問題を指摘して原発に強く反発している。近日中に決定するとみられるEUのタクソノミーの中身に注目が集まっている。(S)

変貌する中国のエネルギー事情 隣国との向き合い方の視座


【多事争論】話題:中国のエネルギー危機と日本

中国で全省の3分の2もの地域で停電が頻発し、日本も成り行きを注視していた。

エネルギー事情が変貌する巨大な隣国に、われわれはどのように付き合うべきなのか。

〈燃料インフラの共有利用へ 東アジア大の枠組みを構築すべきだ〉

視点A:山田 光 スプリント・キャピタル・ジャパン代表取締役

今年1月の電力ひっ迫を契機として、政府もエネルギー関係者も日本の置かれている状況を振り返るようになった。一方から見ると、脱炭素政策が性急過ぎた、あるいは化石電源の退出が早過ぎたという批判になる。だが他方から見ると、脱炭素政策の実施が遅すぎた、あるいは再生可能エネルギー導入策が不徹底だったという批判になる。

日本の特徴は、四方を海に囲まれ、送電線も燃料パイプラインも隣国とつながっておらず、再エネが十分に電力供給できるようになるまでは、電力の需給を燃料確保に依存している点だ。その特徴を踏まえて、燃料の卸市場を国内およびアジアで構築しようというビジョン、あるいは2030、40年の電力市場のビジョンを作ったとはあまり思えない。

もう一つの特徴は、欧米に比べて電力の自由化がかなり遅れたこと、そして自由化あるいは市場化における企業行動が途に就いていない段階で脱炭素シフトを余儀なくされている点である。これらの点で、今の中国のエネルギー危機と電力ひっ迫は、日本の今後の市場設計の在り方と市場参加者の行動を見直す上で重要な教訓だと言える。

まず中国は石炭主体の計画経済である。社会主義で情報が統制され、資源の生産・調達やエネルギー供給が国家管理されており、その中で、北京ほか各地の大気汚染を改善すると同時に脱炭素を理由に石炭火力発電を削減する方針となった。だが石炭は、中国国内で大量に生産され、一次エネルギーの約55%、発電用燃料の63%を占める(20年の数値。BP資料より)。日本の約8倍の7800TW時の発電量のうち、約5000TW時を担う石炭火力を減らすのはそう簡単ではない。

石炭火力を抑制する一方で、天然ガスシフトを試みた。しかし天然ガスの一次エネルギーでの利用割合は約12%程度しかなく、発電ミックスではわずか約3%であるが、それでも年間約250TW時の天然ガス火力発電を、一気に20倍に引き上げるのは容易ではない。中国のエネルギー市場はあまりに巨大であり、脱炭素に向け石炭の生産や輸送を変え、天然ガスのパイプライン建設やLNG受入基地を整備するにも、一気に方向転換するのは不可能に近い。

2番目の論点としては、中国経済における電力供給の重要性である。中国は世界の工場であり、電気はサプライチェーンの重要なエネルギーである。中国共産党が脱炭素を目標とし、資源・エネルギー政策のシフトを図ろうとしても、CO2排出削減のために発電をストップすれば世界経済への影響、そして日本経済へのインパクトは計り知れない。

中国において、石炭火力をベースにした電力供給構造をシフトするには、中央政府による綿密な計画と周到な準備が必要であるが、ハードルは高い。やはり、文殊の知恵を借りるという意味で、市場システムを上手に利用して、国全体としてエネルギーのリスク管理を行うべきである。中央集権では無理がある。

電力と燃料市場を一体化 広域運用・管理の仕組みが不可欠

中国よりも規模が小さい日本においては、エネルギー制度の脱炭素シフトははるかにスムーズにできる。電力と燃料の市場を一体化したデザインを構築し、供給力と信頼度を維持しながら市場メカニズムを上手く利用し、再エネの変動リスクを量と価格の面で最適にコントロールする仕組みを導入すべきだ。

電力の供給力確保では、電力と燃料インフラの広域運用・一体管理が一つのアイデアである。燃料パイプラインが未整備であるため、燃料で発電し送電網を通じて電気として送ることで広域のエネルギー供給の安定化を図り、将来は電力インフラと燃料受入基地の広域一体運用も考えられる。平常時と緊急時のデータ整備と開示のプラットフォームを作り、さらに全国のエネルギー利用の最適化モデル運用が求められる。

燃料取引では海外のプレーヤーとのコラボも重要だ。最近の九州電力・INPEX・PTTのアライアンスや、関西電力・ポスコのコラボは、民間の商流を構築し、平常時の安定化が緊急時の安定化になる点で画期的だ。政府がこの流れをサポートし、東アジア大でのインフラの共通利用のためのフレームワークを構築し、今後、LNG調達を拡大する中国に対しても長期スパンでこの枠組みに参加してもらうよう働きかけるべきだろう。

電力の供給力確保という点ではドイツの戦略リザーブの考え方が参考になる。必要な電源を送電事業者が契約して残すと言う考え方だ。さらに予備力確保では、電力(エナジー)と予備力(アンシラリー)を共最適化している米国のRTOのシステムも、今後の再エネ導入における系統運用には欠かせない。

やまだ・ひかる 慶応大学経済学部卒。バンク・オブ・アメリカ東京支店、モルガン・スタンレー東京支店などを経て1995年にエネルギーコンサルティング会社であるスプリント・キャピタル・ジャパンを設立。

再び脚光浴びるクリーンテック 投資には忍耐強い資本が不可欠に


【羅針盤(第二回)】巽 直樹 (KPMGコンサルティングプリンシパル)

世界の脱炭素に向けた潮流の中で、再びクリーンテックが注目されている。

今回は、過去を振り返り、現状を見た上で、未来の展望を考えたい。

 前回、GX戦略における要諦があるならば、環境と経済のトレードオフを乗り越えなければならないことを指摘した。このためにはクリーンテック分野での投資の加速による技術開発が必要と考えられている。しかし、クリーンテックの世界はこれまで順風であったわけでは決してない。

過去のグリーンバブル クリーンテック投資の現実

2008年ごろ、米国で当時のオバマ大統領が、選挙期間中からグリーンニューディールを政策として打ち出した。これを契機に、日本・ドイツ・中国などでも同様の政策を掲げる動きが広がった。米国の政策はリーマンショック後の景気対策の側面が強かったが、インターネットやバイオテクノロジーに続く第3の巨大ビジネスチャンスとして、クリーンテック革命とも呼ばれるブームが起こった。

前回に比べると、今回の脱炭素ムーブメントでのクリーンテック興隆は、米国のみではなく世界に広がっており、要素技術の種類も多様化しているため、投資先の選択肢も増えている。ただ、欧米のVC・CVCの投資領域を見る限り、エネルギーマネジメント、カーボンリサイクル、電気自動車、太陽光発電などに偏っており、水素、アンモニアなどの代替燃料やその他の再生可能エネルギーに広がりが見られない印象を受ける。

ビル・ゲイツのブレークスルー・エナジーでディレクターを務めるベンジャミン・ガディ博士らは、クリーンテックVC在籍当時の2016年に公表したMIT(マサチューセッツ工科大学)のワーキングペーパーで、クリーンテック投資におけるVCモデルは破綻していると結論付けている。

VCによる投資ファンドの運用期間は10年程度が基本であり、今日でいうところのデジタルやヘルスケアなどの領域で、短期のリターンを狙うことに適する。クリーンテックの場合、投資回収期間が10年では短すぎて上手くいかないのだ。ほかにも、分散投資の多様性、個々の企業のリスクリターンや母数と生存確率の水準なども異なり、これだけ投資環境が違うものに、他領域でのアプローチを当てはめるのは最初から無理がある。

図はPEファンドの中でもVC・CVCなどの投資期間と、クリーンテック投資をメインとするファンドのそれが15~20年程度に及ぶことをイメージして比較したものである。投資先の企業単体のパスのイメージであるため、クリーンテックのスタートアップ(SU)の成長性がVC投資先と比較して低いわけではなく、投資回収が遅いことを示している。

例えば、デジタル分野と環境・エネルギー分野にそれぞれ特化したファンドを比較した際、リスクリターンが異なる資産で構成されるポートフォリオにおける投資先企業の組み合わせ次第では、運用期間の長い後者が不利になるとは限らない。また、後者では戦略リターンだけではなく財務リターンを重視している場合すらある。これはもはやVCモデルではなく、同じPE投資の中でもインフラファンドなどのアプローチに近い。

こうした投資には忍耐強い資本が不可欠といわれる。近年、大富豪が資産管理目的で設立するファミリーオフィスや、政府系や国富ファンドなどの国家資本ベースの機関投資家がこの分野で存在感を増している。これらのPE投資がクリーンテック投資に向かい、一部では収益化しているともいわれている。しかし、世界全体で見れば、まだ一部の話に過ぎない。

クリーンテック投資の未来 グリーンフレーション招く

技術分野でもサービス分野でも、企業が飛躍的な成長を遂げるためにイノベーションが必要となることに異論を唱える人は少ない。これについては、画期的な最新の技術開発から、枯れた技術の組み合わせによる発明、行動経済学で言うところのフレーミング効果によるサービスモデルの創出など、さまざまな手段で幅広い領域で起こり得る。シュンペーターが説いた「新結合」が必要なのである。

GX戦略のコンセプト(イメージ)

しかしこうしたイノベーションが産まれないまま膨大なコストがかかるだけの地球温暖化対策を進めることは、マクロ経済的に極めて危険な状態に陥る可能性もある。実際、コロナ禍で膨らんだ金融緩和は流動性相場を出現させ、多くの資産市場でバブルを発生させている。これはグリーンファイナンスの世界も例外ではない。

世界最大の資産運用会社ブラックロックのラリー・フィンクCEOは、今年6月のインタビューにおいて、グリーンな世界の実現を可能とする技術を手に入れていない現状のままでは、はるかに高いインフレに直面すると警鐘を鳴らしている。脱炭素化を無理に進めるとグリーンフレーションを招くと指摘されている所以だ。

この頃から欧州のガス価格は上昇を続け、これに端を発したエネルギー価格全般の高騰を招いた。さらにこれがエネルギー以外の資源価格全般に波及し、20年に一度のレベルといわれるインフレの足音が世界中に響き始めている。コロナ不況からの回復が望めないまま、スタグフレーションとなる可能性も懸念されている。

このような環境では不確実性の高いスタートアップ投資においてリスクを取ることがますます難しくなる。こうなるとしばらくは負の連鎖になるため、地球温暖化対策における新たな解決手段を獲得することも遅れる可能性がある。

10月、フォン・デア・ライエン欧州委員長がEU首脳会議後の記者会見において、「安定電源として原子力が必要」と発言し、大きな話題となった。人類がいま手に入れている利用可能な技術に思いが至れば、至極当然な流れだと考えることは誤りであろうか。

たつみ・なおき 博士(経営学)、国際公共経済学会理事。近著に『まるわかり電力デジタル革命EvolutionPro』(日本電気協会新聞部)、『カーボンニュートラル もうひとつの″新しい日常〟への挑戦』(日本経済新聞出版)。

【LPガス】社会実装の第一歩 グリーン化で協議会


【業界スクランブル/LPガス】

 LPG輸入元売りのアストモスエネルギー、ENEOSグローブ、ジクシス、ジャパンガスエナジー、岩谷産業の大手5社が、LPGのグリーン化事業を共同して進めるため、「日本グリーンLPガス推進協議会」を新たに設立した。協議会では、水素とCO2を合成させ、メタノールなどへの改質プロセスを経たうえで、100%に近い収率でLPGを製造する新たな技術(プロパネーション・ブタネーション)の確立を目指すもので、北九州市立大学と連携する。

フィッシャー・トロプシュ法をはじめとする従来の燃料合成技術では、CO2を一酸化炭素に置換する必要があり非効率な面があった。だが新技術ではCO2を直接水素と効率的に反応させ、高い収率でのLPG製造が可能になるという。また、LPGと類似した特性を有するジメチルエーテルからLPGを製造する技術の確立に向け、大手触媒メーカーとの共同研究開発など二つのプロジェクトを併行して進める方針だ。グリーンLPガスの合成に係る技術開発を今後10年で集中的に行い、2030年までに技術を確立し、商用化を実現。50年には需要の全量をグリーンLPガスに代替し、海外から調達する業界構造からカーボンニュートラル(CN)に貢献する業態への転換を目指す。

大きく変革するエネルギー業界だが、50年の世の中がどうなっているかを見通すことは難しい。第四次産業革命と言われるDXによる技術革新もそうだが、コロナ禍を機に潮流となったリモートワークなど誰が想像できただろうか。今後もどのような先進技術が開発されるかわからない。CN宣言、30年温暖化ガス46%削減目標などで、一気に削減対象のエネルギーとなったLPガス。しかし、政府のグリーン成長戦略ではCN化が図られても、LPガスは50年時点で約6割の需要が維持されるとされている。同協議会の初代会長に就いた小笠原剛アストモスエネルギー社長は「グリーンLPガスの社会実装につなげていくための第一歩」としており、スピード感をもった対応に期待したい。(F)