国内外と連携し「気候モデル」研究 地球温暖化問題解決の一助に


【電力中央研究所】

 2021年のノーベル物理学賞を真鍋淑郎氏とクラウス・ハッセルマン氏らが受賞し、両氏の研究テーマの「気候モデル」が注目を浴びた。気候モデル研究は、電力中央研究所でも国内外の研究機関と連携して進められていた。

気候モデルとは何か。電中研サステナブルシステム研究本部の野原大輔上席研究員は「温度、風、大気などの動きを物理式化した天気予報で使われる数値気象モデルに、大気中のCO2濃度が高くなることで地球が温暖化する仕組みを取り入れて、気候変動の過程を計算して予測できるようにした数値モデルのことである」と説明する。

真鍋氏の気候モデルは、温暖化に伴い海洋がエネルギーを蓄積する仕組みも取り入れた「大気・海洋結合モデル」に発展。ハッセルマン氏による温暖化の原因特定の考え方も踏まえて、各国の研究機関で気候モデルの研究・分析が行われるようになることで、地球温暖化問題への世界的な理解が深まっていった。

大気・海洋結合モデルの発展形となる地球システムモデルの概念
枠と矢印は要素モデルと要素モデル間の物理量の交換を表す。実線は大気・海洋結合モデルの要素で、点線は地球システムを構成する炭素循環の要素を示す。
出典:電中研レビューNo.56、コラム1、2015年

論文をIPCCも引用 温暖化対策研究が芽吹く

研究を始めた経緯について、同本部の筒井純一研究参事は「化石燃料を利用するエネルギー業界として、地球温暖化問題は避けて通れない。安定供給や電源構成、インフラの維持管理にも影響を及ぼす」と話す。電中研では90年代から気候モデル研究に着手した。

さまざまな研究を経たのち、15年には野原氏、筒井氏らが論文を発表。共同研究を行う海洋研究開発機構(JAMSTEC)と、気候モデル研究で提携していた米・国立大気研究センター(NCAR)が構築した2種類の気候モデル(上図)を用いて、当時はまだ世の中に浸透していなかったネットゼロシナリオに注目して気候シミュレーションを行い、内容を比較・検討した。論文では各気候モデルの温度上昇幅に違いがあるものの、CO2ネットゼロ達成後には大幅な気温上昇は起きないという結果が示された。論文はIPCC第六次報告書にも引用されるなど、世界的な地球温暖化対策の科学基盤の構築に寄与している。

現在、電中研ではこれまで積み上げてきた研究成果をベースに、再生可能エネルギーの出力予測、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に沿ったシナリオ分析など、気候変動問題に対処する応用研究に取り組んでいる。持続可能な地球環境の維持と電力の安定供給の両立に向けて、今後も研究開発を続ける構えだ。

脱炭素社会実現への鍵 水素エネルギーの可能性を討論


【エネオス】

行政、学識者、民間企業の関係者らが未来のエネルギーの在り方について討論する「新時代のエネルギーを考えるシンポジウム」が、11月5日に東京都内で開催された。26回目を迎える今回のテーマは、「脱炭素社会の未来像 カギを握る〝水素エネルギー〟」だ。

昨年10月に政府が「2050年カーボンニュートラル」の方針を掲げたことが、脱炭素化の流れを一気に後押し。民間企業や研究機関などが、水素をはじめ、脱炭素社会を実現するための革新的な技術開発や実証などの取り組みを積極的に進めている。 主催者としてあいさつした大田勝幸実行委員長(ENEOS社長)は、脱炭素のまちづくりに欠かせない水素の重要性を強調。「既に水素を活用した実証が進められているが、真の社会実装に向け社会全体で将来のエネルギーの在り方に対する理解を深め、水素エネルギーの役割や可能性について議論を深め、課題解決とイノベーションに取り組まなければならない」と述べた。

可能性と課題が浮き彫り 識者6人が意見交わす

パネルディスカッションには、佐々木一成九州大学副学長、高村ゆかり東京大学教授、保坂伸資源エネルギー庁長官、前田昌彦トヨタ自動車執行役員ら6人が登壇。脱炭素化が進んだ未来の社会像や、水素の可能性や社会実装を進める上での課題などについて意見を交わした。

水素をテーマに活発な意見が交わされた

水素は、太陽光や風力といった再生可能エネルギーや、化石燃料などさまざまな資源から製造できるエネルギー源であると同時に、運搬や貯蔵が可能でキャリアとしての活用も期待されている。佐々木氏は、「CO2を排出せずに、今まで通りエネルギーを使い快適な社会を維持することができる。地域・企業がエネルギー源を選択できるため、汎用性も高い」と、そのポテンシャルを語った。

一方、社会実装をするためには、イノベーションのみならず消費者や企業の理解や行動変容も欠かせない。これについて前田氏は、「普及させられるかは、利用者側の選択にかかっている。多くの選択肢を用意し、反応を確認しながら進めていく必要がある」と述べ、高村氏は、「CO2の排出に価格を付けるなど、排出しないことへの制度的な価値付けが求められる」とした。

保坂氏は、「脱炭素はリスクでありチャンスでもあるが、避けて通ることはできない。今後、どういう社会になっていくかまだ明らかではない面もあるが、CO2を排出しない、または排出したとしてもマイナスにする技術の確立も含めて、トータルで考えていく必要がある」と、複合的な取り組みで脱炭素社会を目指していく姿勢を示した。

IDI―I社長の解任劇 保有火力問題など前途多難


電力インフラファンドのIDIインフラストラクチャーズが深刻な業績不振を続けている責任は荒木秀輝社長にあるなどととして、持ち株会が荒木氏の取締役解任を求めていた訴訟で、東京地裁は11月12日、持ち株会側の訴えを認め、荒木氏の解任を命じる判断を下した。後任には裁判所が選任した須藤秀章弁護士が就いた。

主要株主の大和証券グループ本社の常務でもある荒木氏らが昨年夏の取締役会で、当時の社長だった埼玉浩史氏の解職動議を発議して以来1年以上にわたって係争が続いている。その間にI社が主要株主のFパワーが破綻。会社更正法に基づく経営再建を進める中、新スポンサーに投資ファンドの日本GLP社が決まった。

I社は須藤・仮取締役のもと、荒木体制での問題点を検証しながら、経営の立て直しを進めていくことになる。同社が関与するファンドの保有発電所(北海道・釧路や福岡・響灘の石炭火力など)の再生が焦点となるが、解決は容易ではない。関係者の間では「いずれ解散を余儀なくされるのでは」との観測も。最終的な着地点に業界の関心が集まる。

JOGMEC法を改正へ CN関与で名称変更も視野


2050年カーボンニュートラル(CN)社会実現への布石となるか――。

資源エネルギー庁は、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の機能強化に向けた法改正議論に着手する。有識者会合での議論を踏まえ、早ければ、来年の通常国会への法案提出を目指す。

CN社会に向けては、脱炭素化された電力による電化を進めるほか、電化が困難な領域では、水素やアンモニア、合成メタンなどの脱炭素化された合成燃料の活用が欠かせない。安定的かつ安価にこれらを調達するためには、海外で製造し国内で活用する仕組みが不可欠となる。

そこで、これまで石油、天然ガス、鉱物資源などの安定調達を支えてきたのと同様、JOGMECがこれら燃料のサプライチェーン構築を支援できるようにするほか、リスクマネーの供給を通じ、CCS(二酸化炭素の回収・貯留)など脱炭素燃料技術の開発を支援できるようにするのが法改正の趣旨だ。海外でのCCSによる温室効果ガス削減分を、「クレジット」として日本の削減分にカウントする仕組みの確立や、役割の見直しに伴い名称変更も視野に入れるもよう。CNへの本気度が問われる。

競争加速する「再エネ×デジタル」 日本企業の勝算やいかに


【業界紙の目】臼井慎太郎/電波新聞社 報道部総合電機・情報通信グループ長

脱炭素化に向け各国がエネルギー転換で競い始めた。日本はその主戦場で優位に立てるのか。

再生可能エネルギーなどにデジタル技術を掛け合わせる新領域への本気度が問われる。

 「Green × Digital」。電子情報技術産業協会(JEITA)がそんなキーワードを冠したコンソーシアムを10月に立ち上げた。「カーボンニュートラル」につながるデジタルソリューションの創出や実装に向けた活動を進める業種横断の組織で、11月時点で70社超が参加した。

活動の一つが、産業界のサプライチェーンを通じて排出されるCO2の情報を可視化して共有できるようにする「データ連携基盤」の構築。加えて、製品・設備やサービスに再生可能エネルギーを利用するという「環境価値」を証明する仕組みの具体化なども目指す。設立総会で座長に就任した東京大学大学院情報学環教授の越塚登氏は「グリーン社会の実現に向けて産業界の変革を促していくためにはデジタルの技術が非常に重要だ」と強調した。

役割増すVPP 電機やIT大手が積極投資

背景には、各国が脱炭素へかじを切る動きがある。英グラスゴーで開かれた国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)では、温暖化対策が取られていない石炭火力発電所の廃止を盛り込んだ声明に欧州主要国をはじめ46カ国・地域が署名した。

日本は声明への署名は見送ったが、世界の潮流は無視できない状況だ。政府は10月、温室効果ガスを2030年度までに13年度比で46%削減する目標の達成に向けて、再エネについて「最優先で導入に取り組む」と初めて明記。30年度の電源構成で再エネ比率を19年度実績の約2倍の「36~38%」に引き上げる一方、火力発電比率は41%に引き下げた。とはいえ再エネによる発電量は天候の影響を受けやすい上、電力の安定供給が難しいという課題を抱えている。このため、電力の需要と供給のバランスを最適に調整する対応が求められる。そうした課題を解決する手段として、国内外から熱視線が注がれているのが「仮想発電所(VPP)」だ。

VPPは、各地に分散する太陽光発電や蓄電池などの設備をAIやIoTを駆使して統合制御し、あたかも一つの発電所のように機能させる仕組み。再エネ電源による電力を、電力需給の調整力を取引する「需給調整市場」に提供したい事業者にとって、VPPは不可欠な存在だ。

総合電機メーカーやIT大手は、4月開設の需給調整市場や、来年4月スタートの再エネ支援策「FIP(フィード・イン・プレミアム)」の動きをにらみ、VPPの構築支援で攻勢をかけている。VPPを活用し分散型電源の取りまとめを担う「リソースアグリゲーター」として、名乗りを挙げる企業も現れた。

VPPの可能性を追求する1社が日立製作所だ。「各国の脱炭素化の計画に貢献できるような技術や能力の開発に注力している」。同社のアリステア・ドーマー副社長はCOP26に先立ち開いたオンライン上の合同取材で、こう力を込めた。来年度から3年間で1兆5000億円の研究開発投資を行う計画で、脱炭素社会の実現に向けた技術開発も盛り込んだ。東芝グループもドイツのVPP事業者と合弁会社を設立するなど、カーボンニュートラル実現の支援体制を強化している。

経済産業省は、6月に関係省庁と連携して「グリーン成長戦略」を策定した。50年のカーボンニュートラル実現という政府の宣言を受けて経済と環境の好循環を作ることが狙い。戦略では、成長が見込める14の産業分野に政策を総動員して育てる方針と工程表を提示。その一つとして「半導体・情報通信産業」を位置付けた。

さらに、「戦略を支えるのは強靱なデジタルインフラであり、グリーンとデジタルは車の両輪である」と明記した。経産省が官民の有識者を巻き込み11月中旬に開いた「半導体・デジタル産業戦略検討会議」の4回目でも、エネルギーインフラのデジタル化を進める課題などを取り上げた。

日立製作所はCOP26で脱炭素化支援技術をアピール

技術の掛け算で勝負へ 日本勢に求められる姿勢は

グリーン×デジタル市場の攻略に向けて本腰を入れ始めた日本の官民からは、「手をこまねいていては国際競争に埋没しかねない」という危機感が透けて見える。デロイトトーマツグループによると、欧米ではエネルギー産業でAIやアナリティクスなどの先端技術を駆使する動きが進んでいる。技術革新を原動力に市場は成長の一途をたどる可能性が高く、覇権争いは一段と激化しそうだ。

同グループパートナーの庵原一水氏は、日本の官民はカーボンニュートラルの実現に貢献する個々の技術の開発力を引き上げることにとどまらず、各種技術を最適に組み合わせて社会に実装する取り組みを強化する必要性を力説。その上で「日本企業は『自前主義』を脱却し、エリア単位で多様なプレーヤーと協調しなければ世界の競争で勝ち残れない。政策的な誘導も必要になるだろう」と述べた。

再エネを巡っては例えば、特定エリアの発電所で生み出された電力を域内施設に供給する「エネルギーの地産地消」を進める際に官民の知恵や技術を結集。これにより域内のエネルギーコストを削減し、地域経済の振興にもつなげる展開が考えられるという。

同グループディレクターの加藤健太郎氏も日本企業が環境・エネルギー分野で磨く技術開発力を評価した上で、「時代の変化を見据えて開発のスタンスや内容、モノの売り方をスピーディーに変えていく柔軟性が問われる」と課題を投げかけた。

IEA(国際エネルギー機関)の試算によると、温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」を実現するために必要な世界のエネルギー関連投資は、年間80兆円から140兆円規模に拡大する見通しだ。日本はそうした成長投資を呼び込み、経済成長につなげることができるのか。既存の組織や分野の垣根を越えて広範囲に連携して総力で勝負しなければ、技術の掛け算で成長する「融合領域」の国際競争で遅れを取りかねない。その一翼を担う電機・IT業界の奮起を期待したいところだ。

〈電波新聞社〉〇1950年創刊〇読者数:29万5000部〇読者構成:電機、電子部品・材料、家電、情報通信、放送、産業機械など

「最終処分」議論が前進か 調査検討で注目の自治体は


使用済み核燃料の最終処分場選定を巡る国民的議論が前進しそうな気配だ。その試金石となる北海道寿都町長選(10月26日)では、第一段階の文献調査に踏み出した現職の片岡春雄氏が6回目の当選を果たした。対立候補の越前谷由樹氏が優勢との下馬評を覆し、わずか235票差という僅差での勝利だ。片岡氏は「非常に複雑な思い」と心境を吐露したが、これで文献調査継続の民意が確認されたことに違いはない。

約2年間の文献調査を終えた後は「概要調査」に移る。同じく文献調査が行われている北海道神恵内村では、高橋昌幸村長が概要調査を前に「住民投票を行うのも一つの手段」と前向きな姿勢を見せている。寿都町では既に住民投票条例を制定済みで、神恵内村でも議論が盛り上がりそうだ。

有力筋によると、全国で複数の自治体が文献調査を検討中。注目は山口県上関町だ。原発立地問題で紛糾した経緯があるが「現在は調査に前向き」(政府高官)。もし名乗りを上げれば、全国的な関心を集めるのは確実。迷っている自治体の背中を押す可能性も。今後の動向から目が離せない。

脱炭素と安定供給の両立 電力自由化の再設計が必要に


【論説室の窓】井伊重之/産経新聞 論説委員

「新自由主義からの転換」を掲げる岸田文雄政権が始動した。

その象徴としてほしいのが、脱炭素と安定供給の両立のための電力自由化の再設計だ。

英グラスゴーで開かれた第26回気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)では、議長国の英国が加盟各国に対し、石炭火力発電所の早期廃止を求めた。その結果、先進国は2030年代、途上国も40年代までに段階的に廃止することで合意し、世界46カ国がこれに賛同した。だが、米国や中国、インドなど主要な石炭消費国は参加を見送った。

英国は今回のCOPを開催するにあたり、自国の石炭火力の廃止時期を25年から1年前倒しすることを決めた。各国に石炭火力の廃止を求める以上、自らも廃止に向けて積極的に動くことで、世界的な廃止機運の高まりを狙ったのだろう。ただ、英国の電源構成のうち、石炭火力が占める比率は、わずか1%程度に過ぎない。今回の廃止賛同国の多くも石炭火力が占める割合が低い国ばかりだ。

英国が危機に直面 石炭火力の一時存続を検討

その英国はいま、深刻なエネルギー危機に直面している。主力燃料の液化天然ガス(LNG)の価格高騰で電力小売り会社が相次いで経営破綻に追い込まれ、原子力大国フランスからの電力系統も一時不調に陥った。

危機的な状況を打開するため、英国政府はバイオマス発電所への転換を決めていた国内最大の石炭火力発電所について、一時的に存続させることで電力供給の継続を検討中だ。脱炭素に向けて英国は石炭火力の廃止で主導権を発揮しようとしたが、やはり自国の安定的なエネルギー供給を賄うためには、目の敵にしている石炭火力にも頼らざるを得ないのが実情だ。

石炭火力の廃止についても世界で一律ではなく、CO2を回収・地下貯留や再利用する「CCUS」のほか、アンモニア混焼などの技術開発を含め、各国のエネルギー事情に応じて段階的に進める必要がある。

エネルギーは国を支える重要な基盤である。国際協調による脱炭素が問われる中でも、国家としてエネルギー供給を優先する判断は当然である。電力危機に見舞われて計画停電が頻発した中国も、国内炭の増産を進めている。その量は日本の年間消費量を上回るほどの大規模なものだ。各国とも脱炭素の取り組みの重要性は認識しているが、足元の安定供給に目を瞑ることはできない。

今回の世界的なエネルギー危機の一因として挙げられているのが、上流部門への投資縮小である。国際エネルギー機関(ⅠEA)の調査によると、原油・天然ガスの探鉱や開発、生産など「上流」事業に対する20年の投資額は3260億ドル(約36兆円)だった。世界的なコロナ禍の影響もあり、前年に比べて3割以上も減少した。既に石炭市場ではダイベストメント(投資引き揚げ)が本格化しているが、その波は天然ガスにも及びつつある。

また、米国が石油輸出国機構(OPEC)とロシアに高値水準の是正を目的にして追加増産を求めたが、先進国主導の脱炭素の動きをけん制し、OPEC側は増産要求に応じなかった。これまで産油国は石油価格の高騰が需要減少につながる事態を懸念し、市況に応じて生産量を調整することで価格メカニズムが形成されていた。だが、今回は脱炭素で将来的な需要減が避けられない中、産油国の姿勢にも変化が見られる。

一方、日本では来年2月に首都圏で深刻な電力不足が見込まれている。老朽化した石油火力の休廃止が進んでいるためだが、これが脱炭素の流れの中で、今後は石炭やLNGにも波及するのは確実だ。政府は当面の電力需給対策として、火力発電所の定期修繕の先送りや休廃止の延期などを求めている。新たなエネルギー基本計画では、脱炭素に向けて再生可能エネルギーを主力電源に位置付けたが、移行期に火力発電がショートすれば大きな混乱は避けられない。

ここで問われているのが電力自由化である。東京電力の福島第一原発事故を契機に始まった電力システム改革は、電力会社による地域独占を排し、総括原価方式を廃止することで利用者の選択肢を増やしながら、電気料金の引き下げを目指す取り組みだ。16年には家庭用を含めて小売りが全面自由化され、電力自由化は完成した。

だが、こうした自由化は現在の世界的な脱炭素や資源価格の高騰など、新たな事態は想定していない。電力会社は新規参入が相次ぐ電力市場の中で競争しながら、脱炭素と安定供給の両立を図る難しいかじ取りを迫られている。以前のようなコストを見込んだ電気料金は設定できず、各社の経営体力は消耗しつつあるのが実態だ。

もちろん電力会社の経営努力は欠かせないが、原発に対する政府の姿勢もあいまいな中で、脱炭素投資や安定供給のための設備投資が今後も確保できるかは不透明だ。

高効率火力発電には一定の資金回収を認めるべきだ

資金回収を認める制度に 総括原価の一部復活を

そこで提案したいのは電力自由化を再設計し、脱炭素と安定供給のための投資資金の回収を予見できるようにする新たなシステム整備である。

例えば低炭素や脱炭素につながるような高効率の火力発電の開発・建設や原発の新増設などに対し、一定の資金回収を認める制度の導入だ。いわば総括原価を一部認めることで、安定的な投資や技術開発の資金を確保してもらう仕組みといえる。経産省は容量市場で安定電源を確保する制度づくりを進めているが、その対象をもっと広げた形で脱炭素と安定供給の両立を図りたい。

岸田首相は「小泉純一郎内閣から続いた新自由主義的な政策からの転換を図る」と明言している。電力自由化は、電力市場の規制改革を通じて競争を促す新自由主義的な政策の典型といえる。だが、実際には電力市場の競争は進んだものの、電気料金は自由化前よりも上昇し、最も重要な安定供給さえも大きく揺らいでいる。これでは自由化の恩恵を国民は実感することなどできない。

こうした電力自由化の再設計は、新自由主義的な政策の転換の象徴ともなる。岸田首相には是非とも取り組んでもらいたい。

佐渡島における再エネ導入拡大へ 最適な需給制御の実現を目指す


【東北電力ネットワーク】

2050年カーボンニュートラルの実現に向け、電力ネットワークの高度化は不可欠だ。 電力系統が独立する佐渡島において、最適な需給制御の実現に向けた取り組みが始まっている。

 新潟県の佐渡島は、東北電力ネットワークの供給区域であり、同社が発電・送配電・販売までを一貫して行っている。江戸時代初期には徳川幕府が金山開発を進め、金の産出量が世界最大級を誇った。現在は、佐渡鉱山の遺跡群としてユネスコの世界文化遺産登録を目指すなど「歴史と文化の島」として知られている。また、東京23区の1・5倍ほどのこの島は、特別天然記念物トキの生息地としても有名であり、多種多様で恵まれた自然環境を有している。

佐渡金銀山は世界文化遺産登録を目指している
提供:佐渡観光PHOTO

2019年2月、新潟県は東北電力と包括連携協定を締結するとともに、再生可能エネルギーの導入拡大により、地域経済の活性化や防災力の強化、豊かな自然環境の維持を図り、持続可能な循環型社会の実現を目的とした「新潟県自然エネルギーの島構想」の策定に向け検討を開始した。現在、佐渡島での取り組みの具体化を進めている。

佐渡島は、本土と電力系統が接続されておらず、電力需要も島内に限定されていることから、天候により出力が変動する再エネが大量に接続された場合、電気の使用量と発電量のバランスが保てなくなり、電力の安定供給に影響を与える懸念がある。こうした背景を踏まえ、東北電力ネットワークは、「新潟県自然エネルギーの島構想」の先導的プロジェクトとして、再エネや蓄電池、内燃力発電、エネルギーマネジメントシステム(EMS)などを組み合わせた最適な需給制御の実現に向けた取り組みを進める。佐渡島での再エネのさらなる導入拡大を目指している。

発電出力の調整を一元管理 EMSを新規設置

同社はこの取り組みを進めるにあたり、太陽光発電、蓄電池システム、EMSを佐渡島に新設する。

佐渡市栗野江地区に出力規模1500kWの太陽光発電を、両津火力発電所構内には容量5000kW時の蓄電池を設置する計画だ。

佐渡島での最適な需給制御に係る取り組みのイメージ

取り組みの肝となるのがEMS。EMSは島内の電力使用量と再エネの発電量を予測する。さらに、蓄電池の充放電と内燃力発電の出力調整などを一元的に管理・制御して、再エネの出力変動による電力系統への影響を緩和。安定供給を維持する。再エネを最大限活用した経済的な需給制御を実現する。

具体的には、佐渡電力センターにEMS親局を設置し、制御対象装置への指令値などを演算・送信する。既設の内燃力発電に加え、新設する太陽光発電や蓄電池側にはEMS子局を設置する。さらに、需要家と協力し、蓄電池やEVなどの需要側設備を制御の対象とすることも検討していく。

太陽光発電、蓄電池システム、EMSの着工は22年度、運転開始は24年度を目指している。

2050年に向けて 安定供給と脱炭素化を両立

東北電力グループでは今年3月「東北電力グループ〝カーボンニュートラルチャレンジ2050〟」を掲げ、持続可能な社会の実現に向けて、カーボンニュートラル(CN)に積極的に挑戦する。

同社も送配電事業という側面から、電力ネットワークの高度化を通じて、安定供給の維持と電源の脱炭素化に向けた環境整備などに取り組む。

企画部設備計画グループの瀬谷雅俊副長は、「再エネの導入拡大や分散型電源の普及拡大に対応するための効率的な設備形成に加え、蓄電池・P2G(Power to Gas)を活用した需給変動抑制対策などの技術も駆使し、CNの実現に向けて最適なネットワークとなるよう、検討や設備形成を進めている」と現状を話す。

その上で、「今回の佐渡島における需給最適制御は、『足元の再エネ導入拡大時に必要となる需給制御』や『将来の再エネの最大限活用に向けた電源計画の検討』の知見の蓄積にも貢献する。また、この取り組みを通じ、分散グリッドの運用に関わる課題の分析と技術開発を進め、本土における分散グリッドなどへの応用についても検討していく」と取り組みの意義を語る。

日本が排出する温室効果ガスのうち約9割がCO2であり、CO2の排出量の約4割が電力部門。それだけに、CN実現に向けた電力会社の取り組みは注目されている。

佐渡島での取り組みをステップに、電力の安定供給と再エネ導入拡大の両立など、CNの実現に向けたさらなる挑戦が始まっている。

プロジェクトの概要について説明する瀬谷副長

国を挙げて新型炉を支援 米テラパワーが高速炉建設へ


日本では原発の新増設・リプレースを巡る論争が続いているが、米国では革新的な新型炉の建設が進もうとしている。

マイクロソフトの創業者、ビル・ゲイツ氏が創設したテラパワー社は11月16日、ナトリウム冷却高速炉「ナトリウム」の実証炉の建設地として、ワイオミング州ケンメラーを選んだと発表した。「ナトリウム」は小型モジュール式高速炉「PRISM」を開発したGE日立・ニュークリアエナジーと、テラパワーが共同で開発した。出力は34万5000kW。さらに溶融塩を使うエネルギー貯蔵システムを組み合わせると、出力は最大50万kWまで増やすことができる。

このプラントを米エネルギー省(DOE)も支援。先進的原子炉設計の実証プログラム(ARDP)の対象とし、建設の総工費40億ドルのうち約19億ドルを米政府が拠出する。同社は28年までの運転開始を目指している。

ケンメラーには、25年に廃止される石炭火力発電所があり、それが同地が選ばれた理由の一つ。プラウントが稼働すると、新たに約250人の雇用が生まれる。

カーボンニュートラルを目指して、再生可能エネルギーと同時に新型炉開発にも力を入れる米国。ぜひ見習うべきだろう。

ビルゲイツ氏が新型炉に力を入れている
提供:AFP=時事

【覆面ホンネ座談会】脱石炭で紛糾したCOP26 現場模様を交え一挙総括


テーマ:COP26の評価

温暖化防止国際会議・COP26について、「脱石炭」や、産業革命前からの温度上昇を「1.5℃」に抑える目標の追求に合意した点を評価する報道が目立つ。しかし専門家の評価は真逆で、「現実を直視しない議論が横行した」と一刀両断する。

〈出席者〉 A経産省OB  B有識者  C産業界関係者

――「グラスゴー気候合意」を採択して閉幕したCOP26全体を振り返っての感想はどうだろうか。まず、現地へ赴いたAさんから話を聞きたい。

A 環境派は「歴史的合意」だと評価するが、今後10年のツケをどう払うのか大いに心配になった。特筆して1.5℃目標に「努めることを決意する」とし、NDC(国別貢献目標)の引き上げが不可欠。その作業計画を来年のCOPで詰め、2022年末までに強化したNDCの再提出を求めている。石炭も、これまでと異なり特筆して合意に書き込んだ。しかし現実は2℃目標の進捗さえおぼつかない。1.5℃なら30年までのカーボンバジェット(累積排出量の上限値)がさらに狭まり、先進国と途上国で奪い合いが激化する。

B 問題点はいくつもある。まず、先進国が自滅の仕掛けを自ら作ったこと。30年どころか、来年にもボロボロになりかねない。例えば米国バイデン政権は、NDCや50年目標を担保する法律が可決できず、来年は袋叩きだろう。ましてや中間選挙で負ければ目も当てられないことになる。

途上国では石炭火力削減には程遠い状況が続くが……(写真はインドネシアの発電所)

1.5℃追求はパリ協定の書き換え 将来へのツケ残す結果に

C 本来の議題はパリ協定6条のルール作りや、資金の話。1.5℃や石炭はいわば場外乱闘だ。国際条約に基づく合意は各国が持ち帰り国内での批准手続きが生じるが、石炭などは政治的に表明した口約束にすぎず、国内での実施を担保できない。故に「努力する」といった用語しか書けない。いわば砂上の楼閣で、政治が変わればあっさり反故にされる。米国が共和党に政権交代すれば、即終了だ。

A 先進国が1.5℃に火を付けたのだから、そのツケの支払いを毎年のように途上国から突き上げられるだろう。現にインドは今回、「先進国がCN(カーボンニュートラル)を40年代に前倒しすべきだ」、「資金支援を年1兆ドルに拡大を」などと主張した。

C 途上国が1.5℃などの話に乗るわけがない。逆に今回乗ったのは、やらなくてよいと考えているから。壮大なる同床異夢の合意だね。まだインドのように、1.5℃を「パリ協定の書き換えだ」と正論を言う国はまともで、途上国の本音は「先進国が努力し、お金をもらえるなら少し話に乗ってもよい」という程度だよ。

A 中国やインドがNDCを見直すとは思えない。合意ではNDC見直しは「パリ協定の温度目標を達成するため」とし、「1.5℃」とは書いていない。「今世紀後半のCN目標は出している」と逃げられそうだ。

B 特に大きな問題が、中国が今回何一つ譲らなかったこと。したたかに、この大勝利をひけらかすこともない。環境的には最悪の結果だが、環境派は中国をまったく批判せず、一部では資本主義諸国の「社会や経済システムが悪い」と左翼まがいの主張を繰り返している。エネルギー危機で中国の石炭生産量はCOP期間中に過去最高となった。これが実態で、エネルギー価格が下がり先進国も喜んでいるはずだ。

 他方、あまり表に出てこなかったが、豪州の姿勢は一線を画していた。英国のジョンソン首相は「石炭の終焉」をアピールしたが、これに豪州のモリソン首相が「石炭産業は何十年も続く」「温暖化のために税や法律を課したりしない」などと真っ向から反論。国益を守り、30年目標の深掘りはせず、自主的取り組みを追求するとはっきり表明した。

A 菅義偉前首相がCN宣言したころ、経済産業省内は「30年目標は26%のままでよい」と考えていたが、私はそんなに甘くないと伝えていた。実際、その後裏付けなしのエネルギーミックスを作る羽目に。同様のことが今後も続くと覚悟した方がよい。来年のG7(先進7カ国)サミット議長国はドイツだが、新たな連立政権には緑の党がいる。先進国にCN前倒しを迫るだろうし、日本のNDCも「50%の高みを目指す」のなら「50%を最低ラインに」などと口を出しそうだ。

C 今回、「パリ協定の終わりの始まり」が本当に始まったと思う。「プレッジ&レビュー」(誓約と評価)で、努力した国を褒めて全体の成果を高めていくという基本思想が、もはや機能しないことが明白になった。

A COPで大風呂敷を広げて先に楽をするか。それとも真面目な積み上げ目標の発表で批判されるか。日本は前者を選んだ。数年後、今回の合意内容を悔やむ未来が予想される。

米国の弱みに付け込んだ中国 米中合意は最大の成果

――先ほども話に出たが、中国は今回習近平主席が参加せず、存在感が乏しかった。

A いつもの代表団の半分以下の40~50人ほどだった。特筆大書された米中合意も「25年に35年目標を出す」と中身は大したことはない。米国については35年に電力セクターのゼロエミッション化を掲げたが、まさに空約束だ。一部の人は「(気候変動担当特使の)ケリーは議会の裏付けがないことばかりしゃべっている」と批判していた。他方、中国は5カ年計画で石炭のフェーズダウンを掲げたが、Bさんが言うように何も譲っていないのに、化石賞はゼロ。今回の最多受賞国は豪州だ。英国や中国とのあつれきで悪者にされたように思えてならない。

B 米中合意は中国の最大の成果だ。最近、中国は外交的に孤立していたが、気候変動分野から風穴を開けられそうだ。しかも中国が掲げた内容は25年以降の第15次五カ年計画の話で、25年までは石炭消費をがんがん増やすということ。痛くもかゆくもない。一方、米国にとっては売国的な合意だ。結局バイデンもケリーも本音では中国と商売をしたがっている。今回、省エネや再エネ関係でその言質を取った中国の高笑いが聞こえてきそうだ。

A バイデン政権の支持率は下がる一方で、支持される数少ない分野が温暖化対策だから、米中合意を華々しく演出したかった。それを中国に利用された。先進国が1.5℃を強く推したのに対し、中国、インドはパリ協定の規定を尊重すべきとのまともな主張で、思わず「その通り」と言いたくなった。プレッジ&レビューを無視した欧米の責任は重く、天唾で帰ってくる。

C 実際の行動に移ると、投入する再エネや蓄電関係の製品・部品の多くを中国に依存することになる。人権無視の労働力と石炭火力でつくった安価な中国製品の需要喚起をお膳立てする、理解に苦しむ展開だ。なのに日本は米国のように中国製品の締め出しに動かない。日本の成長戦略になるわけがない。

未曽有の軽石漂流問題 離島向け重油輸送に影響


小笠原沖の海底火山の噴火で噴出した軽石の大量漂流という未曽有の事態が、多方面で問題を引き起こしている。軽石は10月中旬から沖縄本島などで確認され、11月には伊豆諸島などにも漂着。沖縄を中心に漁業や観光業などに影響を与えている。

辺土名漁港に漂着した大量の軽石(10月25日)(提供:朝日新聞社)

発電用の燃料輸送も例外ではなかった。10月25日、軽石により鹿児島県与論島に重油タンカーが接岸できず、受け入れを中止する事態が発生した。ただ、九州電力によると、1カ月以上の発電に必要な燃料は確保していたため、安定供給に支障は出なかった。その後、国土交通省や地元企業が軽石回収などを進め、11月15日に燃料補給を行うことができた。

ほかのエリアや、LNGや石炭の燃料船の運航については大きな影響がないことを確認済みで、「軽石の漂流に対して現時点で何か対策を講じることはなく、引き続き情報を収集していく」(九電担当者)。

ただ、軽石は今後黒潮に乗り、関東沿岸まで達すると見られる。風の状況によっては入り江の奥まで入り込む可能性も否定できない。昨シーズンに続き、今冬は電力の需給ひっ迫が懸念されているだけに、軽石が新たなリスク要因とならなければよいが……。

地熱発電の普及に向けて研究実施 「地上」「地下」「社会」の課題解決を支援


【電力中央研究所/窪田ひろみ サステナブルシステム研究本部 気象・流体科学研究部門 上席研究員】

くぼた・ひろみ 筑波大学大学院修了後、電力中央研究所入所。環境リスク学、社会心理学、毒性学が専門領域で、地熱発電研究にも従事。石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)、自治体主催の地熱会議等の委員を務める。2017年7月から現職。

地熱発電事業者向けツールの開発など、電中研では地熱の有効利用に向けた研究を行っている。

これら研究や各種機関の委員も務める窪田ひろみ上席研究員に、地熱発電の現状と展望などを聞いた。

 ――日本の地熱資源のポテンシャルは世界第3位と言われていますが、地熱開発はなかなか進展していません。その課題は。

窪田 発電を行うには地下から蒸気や熱水を取り出す必要があります。これらの有無や利用可能量は掘削してみないと正確に把握できないため、ポテンシャル試算量の全てが発電に利用できる訳ではありません。また掘削費用は高額であり、有望地の絞り込みには開発リスクが伴うため、民間企業では手を出しにくいのが現状です。

 近年、自然公園内での開発に係る規制緩和により開発可能な地域が増えましたが、熱源までの道路、送電線などの整備が新たに必要となり、開発の難易度は未だ高いといえます。さらに地域関係者との丁寧な協議など、時間とコストが掛かります。太陽光や風力などの再生可能エネルギーと異なり、「地上」「地下」「社会」に係るさまざまな配慮が必要です。

――諸課題の解決へ、電中研はどのような研究を行っていますか。

窪田 「社会」の課題を解決するには、開発候補地が抱える地域事情や開発に対する考えを事業者側が理解しなければなりません。また地熱発電の意義やしくみ、開発による便益やリスクなどを地域関係者に分かり易く伝える必要があります。これに関しては、地熱開発に伴う地域産業への経済効果を可視化する手法の調査をNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)事業として進めています。

 「地上」「地下」の技術的な面では、例えば石油天然ガス・金属鉱物資源機構と高温岩体発電技術を使って圧力により地中に人工的な亀裂を作り、隙間にCO2を注入して蒸気を作る「カーボンリサイクルCO2地熱発電技術」の共同研究を進めています。他にも配管などを腐食させる硫化水素のIoTモニタリング手法開発など、安全な発電所操業に向けた技術開発もNEDO事業で行っています。

地熱発電の運営を手助け 事業者向けにツールを開発

――「GeoShinkTM(ジオシンク)」と「事業性評価支援ツール」を地熱事業者向けに開発しました。

窪田 FIT導入以降、余剰の温泉や温泉熱を活用した数十から数百kW程度の小規模地熱発電が80件程度増加しました。しかし、設備等のトラブルが多い発電所もあり、全体的に設備利用率は低く、多くの事業者は想定していた程の収益を得られていません。

 ひとたび発電設備に故障などのトラブルが起きれば、修理完了までに長期間を要することもあります。発電停止中は売電収益を得られず、FIT対象期間も延長できません。このためNEDO事業で、デジタル技術を使って設備の異常予兆の検知や健全性診断が可能な「ジオシンク」と、定期点検費用、維持管理費用などの支出と、FIT価格などを入力することで、発電事業のキャッシュフローを分かりやすく表示する「事業性評価支援ツール」を共同開発しました。

GeoShinkTMのシステム図

――両ツールにはどのような特徴がありますか。

窪田 「ジオシンク」は、発電設備の稼働状況のモニタリングデータを解析するツールです。数値の変動を監視することで、故障やトラブルの発生原因を遠隔地から早期に検知することが可能です。

 「事業性評価支援ツール」は、電中研とエンジニアリング協会(ENAA)が共同開発したエクセルベースの家計簿のようなツールです。

 トラブル要因や対策内容・費用だけでなく、写真形式のデータも登録可能で、紙の領収書や交換部品など、メンテナンスにかかる各種データを一元管理する機能もあります。またジオシンクでの発電電力量の分析結果の一部を計算モデルに搭載しているので、売電収入の近似値を算出できます。事業収支の観点から最適な点検スケジュールといったシミュレーションを事業者自身で行えるので、事業者の最適な設備運用や収益性の向上に繋がることが期待されています。

「地元」「事業者」の橋渡し 持続可能な地熱発電に貢献

――研究の展望を教えてください。

窪田 現在の専門領域は主にリスクコミュニケーションや事業性評価で、事業者と地域関係者の相互理解や信頼醸成に資する事業者側の改善策などを研究しています。例えば、事業者は地熱開発により地域が得られる便益や開発リスクなど、地域の関係者が知りたいあらゆる情報に対応する必要があります。

 また地域関係者の信頼を得るためには的確な説明だけではなく、誠意や誠実な対応・態度が重要です。このような学術的・科学的な内容を分かりやすく伝える方法や対話の場づくりなど、双方向的なコミュニケーションを支援しています。

―地熱エネルギー利活用推進に向けて意気込みを。

窪田 地熱発電は現在の電源構成の中で0・2%に過ぎませんが、原子力、水力と同じくベースロード電源としての役割を果たし、更に熱利用により省エネにも貢献しています。

 持続可能な地熱資源エネルギー利用により地域内で便益が循環し、地域社会の問題解決にも役立つ環境づくりに貢献したいと考えています。

【マーケット情報/12月3日】原油続落、需給緩和観さらに強まる


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み続落。需給緩和観が一段と強まり、売りが優勢となった。ドバイ現物は前週から6.93ドルの急落となった。

新型コロナウイルスのオミクロン変異株の感染が拡大している。世界保健機構(WHO)は2日時点で、同変異株の感染を23か国で確認。また、日本、豪州、イスラエルなど、さらに複数の国が入国規制を再導入した。これにより、燃料消費の減少や、経済の停滞および石油需要後退への懸念が広がった。

そんななか、OPECプラスは、1月も当初の計画通り日量40万バレルの増産で合意。「必要に応じて、迅速に産油量を調整する」と声明を出したものの、需給の引き締め要因にはならなかった。加えて、米国も計画通り、戦略備蓄5,000万バレルを放出すると発表した。

一方、米国とイランの核合意復帰を巡る会合は、米国がイランを批判し、進展のないまま終了。米国の対イラン経済制裁は解除されず、イラン産原油の供給増加は当分見込めないとの予測が強まった。また、米国の週間在庫は減少。ただ、価格下落の抑制にはならなかった。

【12月3日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=66.26ドル(前週比1.89ドル安)、ブレント先物(ICE)69.88ドル(前週比2.84ドル)、オマーン先物(DME)=70.82ドル(前週比5.62ドル安)、ドバイ現物(Argus)=70.49ドル(前週比6.93.ドル安)

【コラム/12月6日】再エネのグローバルスタンダードとローカライゼーション


渡邊開也/リニューアブル・ジャパン株式会社 執行役員 管理本部副本部長兼社長室長

2021年10月に第6次エネルギー基本計画が閣議決定され、また、英国のグラスゴーでは10月31日から11月13日まで、約200カ国・地域の代表が集まり、国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)が開催された。

COP26の成果文書である「グラスゴー気候合意」が採択され主な合意としては、①気温上昇を1.5度に抑える努力を追求②必要に応じて22年末までに30年の削減目標を再検討③排出削減対策の取られていない石炭火力の段階的削減へ努力④先進国による2020年までの年間1000億ドル資金目標が未達成であることへの多くの途上国からの批判――といったところだ。

地球温暖化に対して世界各国がそれぞれの利害を超えて取り組んでいくというのは、言わずもがな地球温暖化対策に向けた取り組みがグローバルスタンダードになるということかと思う。更にその具体的な手段として再生可能エネルギーの普及を図るというのもグローバルスタンダードと言ってよいだろう。

その一方で、グローバルスタンダードを実現するためには、「ローカライゼーション」が大切になってくると考える。

ところでローカライゼーションとは何だろう? 一番ピンと来るのは言語だろう。フェイスブックやツイッターは、それを使う人の言語に対応していないとなかなか普及しない。私もフェイスブックは知人のフランス人に紹介されて英語版しかない時に使い始めたが、やがて日本語対応してから、日本国内で一気に拡がっていったと思う。また天気予報のアプリはスマホの位置情報と連動して、自分の住んでいる地域や旅行先の天気予報が見られる。これもローカライゼーションで、新聞の地域紙面や地域情報誌、ポータルサイトの表示や求人広告の表示が地域限定で出るのもローカライゼーションだ。挙げだしたらきりがない。

その点で、ある意味第6次エネルギー基本計画もローカライゼーションと言えると思う。

私がどうしてローカライゼーションを話題にするのかというと、「最近の脱炭素社会に向けての論調の中に、日本という観点でのローカライゼーションはあるのか?」「開発にあたって地域におけるローカライゼーションを意識する観点が具体的にあるのか?」ということを思ったからである。

例えば風力発電の場合、発電所のメンテナンスは、風車の製造会社が手掛けるのが一般的だ。しかし、その製造会社はほぼ全てが外資系企業であり、日本はあくまでone of themの市場だ。果たしてどこまでローカライゼーションをしてくれるのだろうか? 日本の気候や土地柄(景観なども含めて)風車を開発しようというインセンティブは働くのだろうか?

先日、たまたま日本の風力発電を研究されている方のお話を聞くことができたのだが、私の記憶が正しければその方は風速30-40m/秒でも発電する風車で、大きさも大きくない中小型風車を研究しているとのことだった。また太陽光発電所をデジタルに運営管理するソフトウェアの開発をしているスタートアップの会社とお話をしたが、元々は数百MW規模の発電所をデジタルマッピングして管理していくというコンセプトで開発していたのだが、日本では低圧が多いので、そういう規模の小さい発電所をデジタルで一元管理するというニーズがあるとのことだった。

エネルギーというのは人々のインフラなので、資本の理論だけでなく、地域の特性も踏まえて開発するということを改めて意識すべきではないだろうか?

COP26の開催に合わせて化石賞をいただいたという脱炭素の推進で欧米に対して気後れし、グローバルスタンダードという名のもとに進めるのではなく、テクノロジーの進化はよりカスタマイズできることにあると考えるのであれば、四季折々の姿がある気候、国土の約7割が森林、少子高齢化が進む人口構造や地域の過疎化等々、再生可能エネルギーの普及に際しては、ローカライゼーションを意識していくべきではないだろうか?

出典:https://www.env.go.jp/press/files/jp/117098.pdf

「気温1.5度内追求」COP26閉幕、石炭火力は段階的削減: 日本経済新聞 (nikkei.com)

世界を覆うガス供給不安 欧州発の価格高騰止まらず


世界的なエネルギー価格高騰と供給不安が続いている。11月17日、欧州天然ガス価格の指標であるオランダの「TTF」の翌月先物が、1MW時当たり101・60ユーロ(100万BTU当たり33・7ドル)を付けた。

10月末にロシアのプーチン大統領が欧州のガス貯蔵施設への供給増を表明して以降、価格は下落傾向にあったが、約1カ月ぶりに高騰に転じた。これは前日の16日に、ドイツ政府が露―独をバルト海経由で結ぶ天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」の承認手続きの一時停止を表明し、再び供給懸念が生じたためだ。

ノルドストリーム2の稼働遅れの影響は深刻

例年であれば90%近くまで充填されている欧州の天然ガス地下貯蔵は、年初の厳冬による激減から回復しきっておらず、現在も7割程度にとどまっている。市場関係者は、「ロシアから十分な供給が見込めなくなる。このまま今冬も厳冬で消費が加速するようなことになれば、来年2~3月ごろには在庫が枯渇する」と語り、燃料不足により欧州各国が停電危機に見舞われる恐れを示唆する。

基地の整備とLNGの市場化の進展で欧州の輸入量が一気に増えた2019年以降、世界のガス・LNG価格は相関を強めている。日本にとっても、欧州のガス価格高騰と需給危機は対岸の火事ではなく、実際、TTFにつられる形でJKM先物も高止まりしている。

さらなる懸念は12月以降、日本の電力・ガス会社の多くが長期契約を結ぶマレーシア産LNGの供給量が、生産設備の問題から大幅に減少する可能性が出てきたことだ。電力・ガス会社の調達計画に狂いが生じることになれば、スポット調達の争奪戦と価格高騰に拍車を掛けることになりそうだ。