A 環境派は「歴史的合意」だと評価するが、今後10年のツケをどう払うのか大いに心配になった。特筆して1.5℃目標に「努めることを決意する」とし、NDC(国別貢献目標)の引き上げが不可欠。その作業計画を来年のCOPで詰め、2022年末までに強化したNDCの再提出を求めている。石炭も、これまでと異なり特筆して合意に書き込んだ。しかし現実は2℃目標の進捗さえおぼつかない。1.5℃なら30年までのカーボンバジェット(累積排出量の上限値)がさらに狭まり、先進国と途上国で奪い合いが激化する。
B 問題点はいくつもある。まず、先進国が自滅の仕掛けを自ら作ったこと。30年どころか、来年にもボロボロになりかねない。例えば米国バイデン政権は、NDCや50年目標を担保する法律が可決できず、来年は袋叩きだろう。ましてや中間選挙で負ければ目も当てられないことになる。
途上国では石炭火力削減には程遠い状況が続くが……(写真はインドネシアの発電所)
1.5℃追求はパリ協定の書き換え 将来へのツケ残す結果に
C 本来の議題はパリ協定6条のルール作りや、資金の話。1.5℃や石炭はいわば場外乱闘だ。国際条約に基づく合意は各国が持ち帰り国内での批准手続きが生じるが、石炭などは政治的に表明した口約束にすぎず、国内での実施を担保できない。故に「努力する」といった用語しか書けない。いわば砂上の楼閣で、政治が変わればあっさり反故にされる。米国が共和党に政権交代すれば、即終了だ。
A 先進国が1.5℃に火を付けたのだから、そのツケの支払いを毎年のように途上国から突き上げられるだろう。現にインドは今回、「先進国がCN(カーボンニュートラル)を40年代に前倒しすべきだ」、「資金支援を年1兆ドルに拡大を」などと主張した。
C 途上国が1.5℃などの話に乗るわけがない。逆に今回乗ったのは、やらなくてよいと考えているから。壮大なる同床異夢の合意だね。まだインドのように、1.5℃を「パリ協定の書き換えだ」と正論を言う国はまともで、途上国の本音は「先進国が努力し、お金をもらえるなら少し話に乗ってもよい」という程度だよ。
A 中国やインドがNDCを見直すとは思えない。合意ではNDC見直しは「パリ協定の温度目標を達成するため」とし、「1.5℃」とは書いていない。「今世紀後半のCN目標は出している」と逃げられそうだ。
B 特に大きな問題が、中国が今回何一つ譲らなかったこと。したたかに、この大勝利をひけらかすこともない。環境的には最悪の結果だが、環境派は中国をまったく批判せず、一部では資本主義諸国の「社会や経済システムが悪い」と左翼まがいの主張を繰り返している。エネルギー危機で中国の石炭生産量はCOP期間中に過去最高となった。これが実態で、エネルギー価格が下がり先進国も喜んでいるはずだ。
A 菅義偉前首相がCN宣言したころ、経済産業省内は「30年目標は26%のままでよい」と考えていたが、私はそんなに甘くないと伝えていた。実際、その後裏付けなしのエネルギーミックスを作る羽目に。同様のことが今後も続くと覚悟した方がよい。来年のG7(先進7カ国)サミット議長国はドイツだが、新たな連立政権には緑の党がいる。先進国にCN前倒しを迫るだろうし、日本のNDCも「50%の高みを目指す」のなら「50%を最低ラインに」などと口を出しそうだ。
C 今回、「パリ協定の終わりの始まり」が本当に始まったと思う。「プレッジ&レビュー」(誓約と評価)で、努力した国を褒めて全体の成果を高めていくという基本思想が、もはや機能しないことが明白になった。
A COPで大風呂敷を広げて先に楽をするか。それとも真面目な積み上げ目標の発表で批判されるか。日本は前者を選んだ。数年後、今回の合意内容を悔やむ未来が予想される。
米国の弱みに付け込んだ中国 米中合意は最大の成果
――先ほども話に出たが、中国は今回習近平主席が参加せず、存在感が乏しかった。
A いつもの代表団の半分以下の40~50人ほどだった。特筆大書された米中合意も「25年に35年目標を出す」と中身は大したことはない。米国については35年に電力セクターのゼロエミッション化を掲げたが、まさに空約束だ。一部の人は「(気候変動担当特使の)ケリーは議会の裏付けがないことばかりしゃべっている」と批判していた。他方、中国は5カ年計画で石炭のフェーズダウンを掲げたが、Bさんが言うように何も譲っていないのに、化石賞はゼロ。今回の最多受賞国は豪州だ。英国や中国とのあつれきで悪者にされたように思えてならない。
B 米中合意は中国の最大の成果だ。最近、中国は外交的に孤立していたが、気候変動分野から風穴を開けられそうだ。しかも中国が掲げた内容は25年以降の第15次五カ年計画の話で、25年までは石炭消費をがんがん増やすということ。痛くもかゆくもない。一方、米国にとっては売国的な合意だ。結局バイデンもケリーも本音では中国と商売をしたがっている。今回、省エネや再エネ関係でその言質を取った中国の高笑いが聞こえてきそうだ。
A バイデン政権の支持率は下がる一方で、支持される数少ない分野が温暖化対策だから、米中合意を華々しく演出したかった。それを中国に利用された。先進国が1.5℃を強く推したのに対し、中国、インドはパリ協定の規定を尊重すべきとのまともな主張で、思わず「その通り」と言いたくなった。プレッジ&レビューを無視した欧米の責任は重く、天唾で帰ってくる。
C 実際の行動に移ると、投入する再エネや蓄電関係の製品・部品の多くを中国に依存することになる。人権無視の労働力と石炭火力でつくった安価な中国製品の需要喚起をお膳立てする、理解に苦しむ展開だ。なのに日本は米国のように中国製品の締め出しに動かない。日本の成長戦略になるわけがない。
例えば風力発電の場合、発電所のメンテナンスは、風車の製造会社が手掛けるのが一般的だ。しかし、その製造会社はほぼ全てが外資系企業であり、日本はあくまでone of themの市場だ。果たしてどこまでローカライゼーションをしてくれるのだろうか? 日本の気候や土地柄(景観なども含めて)風車を開発しようというインセンティブは働くのだろうか?