【住宅】一次エネ20%削減 太陽光義務は保留


【業界スクランブル/住宅】

8月23日、国土交通省、経済産業省、環境省は合同で「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方・進め方」を公表した。4月から6回にわたり行われてきた議論のとりまとめであり、2050年カーボンニュートラル、30年温室効果ガス46%減という政府目標を踏まえ、今後中長期に目指すべき住宅・建築物の省エネ性能や、太陽光発電設備などの設置のあり方と、その実現のための進め方の方針が示された。

具体的には、新築住宅に関して、かつて2020年度開始予定だったが見送られていた省エネ基準の適合義務化を25年度から行うこと、30年度以降はZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)基準の省エネ性能として、強化外皮基準および再生可能エネルギーを除いた一次エネルギー消費量を現行の省エネ基準値から20%削減を目指すことが示された。

一方、既存ストックの住宅に対しては、UR賃貸住宅などの国や地方自治体が管理する建物の窓の複層ガラス化や部分断熱などの省エネ改修の促進などを行うこととされている。そして、これらの施策を通じ、50年にはストック平均でZEH基準の省エネ性能が確保されることを目指すとしている。

また、住宅分野における再エネの活用に関して、30年時点の新築住宅の6割に太陽光発電設備が設置することを目指すとされた。新築住宅の太陽光発電設置の設置に関して、当初は義務化を望む意見もあったが、地域・立地条件の差異といった導入時に生じる課題や、後から建つ建物の日影で発電量が減少するといった導入後に生じる後発的な課題、また、屋上緑化との空間専有の競合、個人がコストリスクを負うこと、などの問題が指摘され、慎重論も根強く、「将来の選択肢の一つとしてあらゆる手段を検討」するという表現にとどまった。

いずれにしろ、諸外国と比べ著しく遅れていた住宅分野の省エネ基準義務化の定量的な道筋が示されたことは大きな前進と言える。今後の具体的な取り組みに期待したい。(Z)

【太陽光】技術革新に期待 安定供給への貢献


【業界スクランブル/太陽光】

第六次エネルギー基本計画の素案が固まり2030年の電源別導入見通しが発表された。開発期間が比較的短い太陽光の導入量は1億kWで、再エネ追加見込み200〜400億kW時を加えると、現行エネルギーミックスの約2倍となる1億2000万〜1億3000万kW程度になりそうだ。

日本のエネルギー政策「S+3E」において、燃料費ゼロの脱炭素電源である太陽光は、今後のエネルギーミックスを支えていく役割と責任がある。地域経済やレジリエンスにも貢献し得る分散型エネルギーとして導入拡大への期待も高いが、自然変動電源であるが故の指摘・課題もあるので主たる見解を述べてみたい。

安定供給では、次世代電力システムの最適化でさらに安定供給のレベルが上がり、調整力においてはデジタル制御(グリッドコード)で瞬時に調整可能となる。

発電コストでは、規制緩和や政策強化・業界自助努力が前提になるが、日本特有の気候風土に伴う追加コストなどを除き30年には欧米水準に近づく見込み。政策支援は、国内産業に寄与せず国費流出になるのではとの懸念もあるが、ペロブスカイトなどの次世代太陽光パネル技術で巻き返すためにも必要だ。機器以外で総コストの約60%を占める設計・施工・維持管理などを含め、国内産業競争力アップへの貢献度はとても大きい。

地域との共生では、約150の自治体から太陽光設置に対する規制条例が出ているが、業界・国・自治体が連携・協力して、地域住民に迷惑をかけている発電所への改善・対策を実施していくべきだ。その上で、来年春の温対法改正に伴う自治体ごとの脱炭素化に向けた実行計画策定や促進区域の設定への取り組みを、業界・環境省・自治体が一体となって加速させていく必要がある。

日本で初めて発電所が誕生してから130年余りになるが、太陽光発電は未だ60年余り。技術革新は想定を上回るスピードで社会を安全で豊かなものにしてくれるだろう。(T)

【メディア放談】自民党の総裁選 駆け巡った「河野首相」の悪夢


<出席者>電力・石油・マスコミ・ジャーナリスト業界関係者/4名

自民党総裁選で河野太郎氏が、党員、国会議員から多くの支持を集めている。

核燃サイクルを否定する河野氏の動向を、業界関係者は息をひそめて見つめていた。

 ――自民党総裁選に出馬した河野太郎氏は「核燃料サイクルを手じまいする」と発言した。河野氏を支持した党員・党所属議員は多く、業界関係者はショックを隠さなかった。

電力 核燃料サイクルを止めることは河野氏の持論だから、出馬した時、業界関係者は表面上、冷静さを保っていた。しかし、支持を集めて新総裁の「有力候補」となっていくと、「ほかの候補なら誰でもいいが、河野氏だけはだめだ」と言い出すようになった。

――原発については再稼働を容認したが。

電力 確かに、カーボンニュートラル実現のために、原発に一定の理解を示して再稼働を容認した。しかし、使用済み燃料の再処理を中止する持論は変えていない。

 もし青森県六ケ所村の再処理事業を止めると、三村申吾知事は、「では、県内の使用済み燃料は各原発に持ち帰って下さい」と言い出す。県はあくまで、再処理をしてプルトニウムでMOX燃料をつくり、出てくる高レベル放射性廃棄物は青森県外で地層処分することを条件にして、使用済み燃料を「一時保管」として引き受けているからだ。

 仮に三村知事が使用済み燃料をそれぞれの原発に送り返したら、どうなるか。どの原発も保管するスペースは限られているし、地元は猛反発する。全てが徐々に停止していくだろう。読めないのは、河野氏がそこまで見通して再処理の中止を言い出したかどうかだ。

――河野氏の真意を読むのは難しいようだ。

マスコミ 自民党議員の中には、「そこまで考えている」と断言する人がいた。一方、「河野さんは原子力を進める上で、青森県や地元が果たす役割をよく理解していないのではないか」と見る関係者もいる。

 こういう話を聞いたことがある。かって河野氏は、「再処理を中止する場合、まず大切なことは、青森県や関係する地自治体に謝罪にいくことだ」と言った。すると、それを聞いた三村知事が「正直な男だ」とほめたという。もっとも、聞いたのは大分昔のことだ。今、再処理事業を止めたら、もう三村知事に謝罪で済む話ではなくなっている。

サイクル中止宣言 有識者から賛同も

ジャーナリスト 河野さんが核燃サイクル中止を言い出したことで、マスコミや有識者、さらに業界の中にもある再処理事業に否定的な声が大きくなっている。アゴラ研究所の池田信夫さんが、ウェブで「新首相『核のゴミ』問題を解決する簡単な方法」という記事(9月17日)を載せている。

 核燃サイクルは大赤字の事業だから、原子力事業を守るためにも使用済み燃料の再処理を止めて、直接処分に方針を変更すべきだという内容だ。池田さんはもともと再処理事業に難色を示していたと記憶しているが、総裁選の真っただ中の時期に記事が出たので、驚いた。

マスコミ 池田さんは、原子力事業に占める地元自治体の重要性をよく理解していないと思う。確かに、電力会社の中にも、できれば再処理事業から撤退したいと思っている人たちがいる。どの原発も新規制基準に対応するため、安全対策に膨大な費用をかけている。それでも、稼働できるか不透明な原発もある。

 加えて、小売り市場の競争激化で、体力は疲弊していくばかりだ。それでいながら、国は核燃サイクルを維持する費用を捻出する仕組みをつくろうとしない。そう考えると、撤退を考えるのは当たり前のことだ。

ジャーナリスト だが、問題は地元がどう反応するかだ。もし河野さんが本当に青森県やほかの原発立地道県を説得できるというなら、電力業界は再処理断念・直接処分に方針を変えるのではないか。

「改革者」でアピール 調整能力に難点も

――河野氏についてはエネルギー政策以外にも、政治家としての資質の点でほかの候補よりも批判が多かったようだ。

ガス 「改革者」のイメージが強くて、実行力、突破力で党内外の人気を集めている。だけど首相になれば、複雑な利害を調整する能力が必要になる。その点を評価する人たちは、まずいない。

 ある政治家からこんな話を聞いた。河野さんが防衛大臣の時、北朝鮮のミサイルに備えて、打ち落とすため陸上配備型のイージス・システムを自衛隊の秋田県の新屋演習場と山口県のむつみ演習場に建設する計画が持ち上がった。ミサイルの発射基地が地元に造られることを歓迎する人はいない。それで両方で、政治家や防衛省関係者が地元への説明や説得に当たっていた。

 ところが、新屋演習場の施設から発射すると、ブースターが陸地に落下する可能性が分かった。それで河野さんは何の相談もなく、導入を断念すると言い出した。これに激怒したのが、山口県で懸命に地元の説得に当たっていた政治家だ。その後、菅政権が出来た時、河野官房長官という話が浮上した。だけどこの政治家は、「それだけは絶対にない」と断言していた。

――マスコミはどうか。原子力に否定的な朝日、毎日、東京は「河野支持」の論調では。

石油 いや、中立的なスタンスで記事を書いている。ただ、右寄りの人が多いネットの世界では、圧倒的に人気があるのは高市早苗さんだ。「虎ノ門ニュース」という右派の論客が出るユーチューブ番組がある。そこでアンケートを取ると、98%が高市支持だった。

――この座談会が掲載された雑誌を発行する時には、もう総裁選の結果が出ている。今は「河野総裁」が誕生しないことを祈るばかりだ。

【再エネ】再エネ市場の新設 追加性に疑義


【業界スクランブル/再エネ】

再生可能エネルギーを企業が直接、安価に調達可能とするべきだ。需要家が再エネを低価格で調達できなければ、わが国の産業そのものが空洞化しかねない。時間的な猶予はない――。再エネに関する規制等の総点検タスクフォース(TF)における指摘を受け、従来の非化石価値取引市場は分割、需要家が直接FIT非化石証書の取引に参加可能な「再エネ価値取引市場」が新設される。非FIT非化石証書は、エネルギー供給構造高度化法の非化石電源比率目標達成を目的とした「高度化法義務達成市場」で取引されることとなった。前者のFIT非化石証書取引の下限価格は、kW時当たり0.3~0.4円とする方向性が示され、従来の1.3円から大幅に引き下げられることになる。

そもそも、非化石価値取引市場は、非化石という価値の訴求による証書取引が行われ、小売り電気事業者が非化石電源比率44%を達成するために創設されたもので、パリ協定に基づく温室効果ガス削減目標(当時は2013年度比で30年26%削減)と整合するものであった。他方、今回新設された再エネ価値取引市場では、FIT非化石証書は、カーボンフットプリントの計算を目的とした、電源の種類や産地を示す、いわゆる電源証明型の市場を目指し、再エネ価値を訴求するものではないという。これに伴い、個別の電源情報に関するトラッキング情報をFIT非化石証書の全量に付与する方向となった。

国際動向を踏まえ整合を図ったとされる今回の制度設計。しかし、実は海外の電源証明では、複数の助成受給防止の観点などから、基本的にFITなど国の補助政策を受けた電源は対象外となっているのだ。加えて、電源の産地証明にすぎないFIT非化石証書は、需要家が購入したからといって、再エネ電源の拡大に寄与するわけではない。こうした「追加性」のない安価な証書により「実質再エネ」とうたうことは、グリーンウォッシュに当たるのではないかとの批判もある。安価な証書購入の加速により、逆に非化石電源の増加に歯止めが掛からないかも懸念される。(N)

【マーケット情報/10月22日】欧米原油が続伸、需給一段と引き締まる


先週の原油価格は、北海原油の指標となるブレント先物と、米国原油を代表するWTI先物が続伸。需給逼迫感が一段と強まり、買いが優勢となった。一方、中東原油を代表するドバイ現物は、前週から小幅下落した。

天然ガス価格が上昇し、北半球のアジアと欧州で、石油への切り替えが一段と進む。アジアの一部電力会社は、ガス火力発電所の稼働率を抑えるため、石油火力発電所の稼働率を引き上げている。

冬季需要に加え、新型コロナウイルス感染防止の規制緩和も、燃料消費増加の見通しを強めた。欧州では、航空機の稼働数が増加。豪州カンタス航空も、国際便の運航再開の前倒しを検討している。さらに、原油処理量増加の見込みも、需給を引き締めている。米国の製油所が、ハリケーン「アイダ」の影響から続々復旧。中国・浙江省では、中国石油化工が、新たな原油蒸留装置の稼働を開始させた。

品薄感が強まるも、サウジアラビアは原油の追加増産を改めて拒否。供給増加は期待できないとの予想が広がった。

一方、インド国営石油のParadip製油所が19日、パイプラインからの漏えいが要因で計画外停止。インド需要後退の予測が台頭した。さらに、モロッコは、英国、オランダ、ドイツからの渡航制限を導入。新型ウイルスの感染再拡大が背景にある。燃料需要の回復に歯止めがかかるとの見方が、ドバイ現物の弱材料となった。

【10月22日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=83.76ドル(前週比1.48高)、ブレント先物(ICE)=85.53(前週比ドル0.67)、オマーン先物(DME)=82.75ドル(前週比ドル0.35安)

【コラム/10月25日】岸田新政権の経済政策を考える~教祖と呼ばれた下村治博士の視点から


飯倉 穣/エコノミスト

1,岸田文雄新政権が発足し、所信表明(2021年10月8日)があった。報道は、「岸田首相が所信表明 新しい資本主義を」(朝日同9日)、「首相所信表明「改革」触れず 給付金・賃上げ 分配前面 成長と好循環の道筋見えず」(日経同)と伝えた。

過去、日本経済は、マクロ的に「雇用、物価、国際収支、成長、財政等でパフォーマンスが相対的に良好」、「努力すれば報われるという環境が個人レベルでの活力を生み出す」、「過当競争の言葉がある程の企業間競争が技術革新スピード、伝播、品質向上、現場での創意工夫を生起している」「独自の雇用慣行が高い勤労意欲生み出す」(「2000年の日本」1982年)という時代もあった。

岸田経済ビジョンの中には、その展開次第で、経済パフォーマンスを向上させ、雇用・社会の安定に寄与する考えもある。新資本主義の主張は、80年代前半のような良好な経済パフォーマンスを取り戻せるだろうか。下村治博士の見方で新経済政策を考える。

2,アベノミクスは、財政出動(12~19年7年間の国債残高181兆円増)で、GDP年平均成長率名目1.6%、実質0.3%だった。GDP前年比増加額の合計額は、名目59兆円、実質23兆円に留まった。18年ピーク後下降局面となり、19年第10~12月期に行き詰まる。

この間消費者物価の安定、失業率の低下もあったが、正規雇用149万人増に対し非正規雇用369万人増(雇用者比率35.2⇒38.3%)で不安定雇用が目立った。また構造改革標榜の下、企業ガバナンス規制強化、働き方改革等を実施したが、見込み違いであった。

20年に新型コロナウイルス感染が拡大し、大幅な財政投入で経済の下支えを継続している。残されたものは、財政収支赤字継続(国債依存度19年度36%、21年度当初予算41%)と公債残高(19年度末886兆円、21年度末見込990兆円)である。アベノミクスは、一種の借金花見経済で一時的な経済膨張の後、経済不均衡拡大(負の遺産)に終わった。

3, 岸田政権の経済政策(所信表明演説)は、当面デフレ脱却のため金融緩和・財政政策・成長戦略の推進を継続し、経済の立て直しと財政健全化に取り組み、そして新しい資本主義の実現を目指す。

「成長と分配の好循環」のコンセプトの下、成長戦略4本柱として①科学技術立国(10兆円規模の大学ファンド、クリーンエネルギー戦略等)、②経済安全保障確保、③デジタル田園都市国家構想推進、④人生100年時代の不安解消を挙げる。また分配戦略4本柱として①三方良し経営(下請けいじめゼロ等)、②住居費・教育費支援、③公的価格の抜本的見直し、④財政の単年度主義の弊害是正を呼び掛けた。そして日本企業の萎縮を招来した企業法制・会計制度への言及もあった。四半期決算の見直しである。この制度導入は、投資家要求由来で、企業経営に短期戦略と利益至上主義を余儀なくさせている。

4,下村博士は、戦後経済の4転換期(1960年高度成長、70年成長屈折、74年オイルショック後ゼロ・低成長、86年前川レポート起因のバブル生起と崩壊)を適切に予測した(89年死去)。教祖があと数年存命だったら、今日の日本経済はある程度均衡のとれた姿を留めたであろう。下村の経済論を我流解釈すれば、経済の流れ、経済水準論、経済成長論、経済変動論、経済運営論に展開できる。経済水準は、技術体系の反映である。水準維持は、資源・エネルギーの有様と生産方法に依存する。クリーン・エネへの変革期では、原子力活用が鍵である。

経済成長は、技術革新・(企業家精神)・設備投資増が決め手である。それが生産性向上と価格ダウンを現実化し、物価安定、所得上昇・賃金増を惹起し、購買力増となる。まず技術革新ありきである。

経済変動は、ある均衡から次の均衡に移行する過程である。需給に係る利潤投資反応が基本である。通常の変動であれば、政府介入は不要である。他方今回のコロナのような経済ショックがあれば、一定の経済対策(均衡回復補完)が必要な場合がある。概して経済均衡を重視した経済運営が肝要である。

そして経済の目的は、新自由主義登場まで、基本は第一に雇用の確保、第二に物価の安定、三、四なくて次に自由貿易かという考えだった。近時自由貿易重視の考えが強くなったが、現在でも各国の雇用重視第一は変わらない。

また下村は、所謂米国要求を嚆矢とする経済構造改革に当時懐疑・否定的であった。これまでの枠組み(制度・規制等)変更が、経済活性化や成長に貢献したであろうか。思い付きの改革が事態悪化の連鎖となっている。

5,この下村経済論の視点から岸田政権の経済政策を考えると、まず経済水準維持では原子力再稼働も含むエネルギーの確保を重視しており、成長戦略で科学技術重視を謳っている。また三方良し企業経営で雇用を重視しているようなら、望ましい方向にある。

そして財政均衡を重視した経済均衡への接近が、最大の課題である。現在の経済フローを、生産→所得(分配)→支出の流れで見れば、借金(30兆円強/年)頼りの財政でGDPを6%程度押し上げている。財政均衡なら、その調整が必要となる。精々1%前後か以下の成長率で、経済水準を維持しながら財政再建は可能だろうか。低成長下の財政均衡への試みを再考すべきである。

6,岸田新政権は、アベノミクスの言葉を使用しながら、成長と分配の好循環を謳う。理念的に新自由主義でなく、新しい資本主義、日本型資本主義を主張する。また意味・効果の疑わしい構造改革という決まり文句を使用していない。そこに経済政策の変更を思う。政治的には、支持者に配慮し、他方経済的には過去の経済政策の行き詰まりを打開する狙いも感じる。日本型資本主義に内容を与える下村博士のような経済専門家の登場を期待したい。

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。

モータースポーツ界でも急進 カーボンニュートラルの取り組み


【リレーコラム】井上裕史/三菱総合研究所主席研究員

 カーボンニュートラル(CN)に向けた動きがさまざまな分野で加速化している。ここではモータースポーツにおけるCNに向けた動きを紹介したい。一般車両の分野では、①電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)など電動化、②カーボンフリー燃料の利用│の取り組みが盛んだ。モータースポーツでも基本的に変わるものではない。

EVレースの「Formula-E」は国際自動車連盟が設立し、2014年9月から始まった。燃焼排ガスがないことから市街地レース主体となっており、ニューヨークやロンドンといった大都市でも開催している。直近のシーズンでは、メルセデス、アウディ、BMW、日産自動車といった大手自動車メーカーなどが参戦している。設立当初は充電量の問題で1台のマシンでは完走できず、途中でマシンを交換する必要があった。

モータースポーツの最高峰とされるF1でも、30年までにCNを達成するという方針を打ち出している。ハイブリッドパワーユニットによる内燃機関自体は維持しつつ、バイオ燃料の利用を想定して開発が進められている。また、25年までに全てのF1イベント自体を持続可能な形(使い捨てプラの廃止、廃棄物の削減・再利用など)で実施する予定である。なお、F1イベント開催に伴う全CO2排出量のうち、F1車両自身の燃料消費による排出は0・7%に過ぎず、車両のトレーラー輸送などロジスティクス面での排出が半数近くを占めているが、これらも含めたネットゼロが目標となっている。

FCVや水素自動車によるレースも欧州を中心に準備が進んでいる。フランスでは24年のル・マン24時間レースにて、燃料電池自動車クラスのレース開催を目指しており、ドイツでも全く新しい燃料電池車両レースが発表されている。国内では21年5月に富士スピードウェイで行われたスーパー耐久シリーズ2021にて、トヨタ自動車は水素エンジン車で参戦し、24時間のレースを完走した。

先進的な取り組みが他分野に波及

このように、モータースポーツという、一見するとCNとは相反する分野でも、対応が始まっている。特にF1は莫大な資金が投入される分野であり、CNに対応する上で資金的に恵まれているわけだが、その中で進む先駆的な取り組みが、一般車両の分野や他の大規模イベントに波及する効果も期待できるだろう。多くの人が関心を持っている意外な分野でも、CNに向けた動きが始まっているかもしれず、そうした動きが社会に受け入れられる形で広まっていくことを期待したい。

いのうえ・ゆうし 1999年東京工業大学大学院土木工学専攻修了、三菱総合研究所入社。2002年から3年間エネ庁総合政策課(当時)でエネルギー需給見通し等を担当。帰任後は主に再エネ導入見通しや政策動向調査、電力需給シミュレーションなどを担当。

※次回は名古屋大学未来材料・システム研究所の加藤丈佳さんです。

【石炭】日本の画期的技術 CO2吸収のコンクリ


【業界スクランブル/石炭】

「既に排出されたCO2をまるで植物のように吸い込む」―。そんなコンクリートが注目を集めている。環境配慮型コンクリート「CO2-SUICOM」のことで、中国電力、鹿島建設、デンカ、ランデスが、経済産業省公募事業「平成26年度二酸化炭素回収・貯蔵実証総合推進事業補助金(二酸化炭素固定化・有効利用技術実証支援事業)」より参画し、開発・実証実験に取り組んでいる技術である。地球温暖化防止に向けて、CO2削減は急務となっている。そのような中でまさに画期的な技術であろう。

CO2の吸収とCO2排出量の少ない材料を積極的に使用することで、材料由来のCO2排出量をマイナスにすることができるプレキャストコンクリートである。CO2-SUICOMのようにCO2を吸収・固定化し有効活用する技術は「カーボンリサイクル」と呼ばれている。現在、世界中で注目が集まっており、研究開発が進んでいるが、CO2をマイナスにまでできているのはCO2-SUICOMだけ。コンクリートが街中に設置されてからではなく、製造する段階でCO2をコンクリートの中に閉じ込めている。

この材料にはもう一つ大きな特徴がある。通常のコンクリートではセメントをたくさん使用するが、セメントは製造時に多くのCO2を排出している。そこで、セメントの使用量を減らし、火力発電所の産業副産物として生成される石炭灰や製鉄所の副産物である高炉スラグも材料に用いる。セメントの使用量を減らすことでCO2排出が大幅に削減される。CO2削減に加えて、産業副産物が有効活用できるという面でも環境性貢献度の高い製品となっている。

一般的なコンクリート(高アルカリ性)と異なり、ほぼ中性であることから、植物にやさしく高い環境親和性を有する点も特徴である。植栽を鉄筋コンクリートに利用できないのは、通常のコンクリートがアルカリ性であるためだ。通常のコンクリートと比べ、表面に経年変化が少なく、美観が保てて滑りにくいという長所もあり、今後各所で使用が進むであろう。(C)

【磯崎仁彦 参議院議員】まだやり残したことがある


いそざき・よしひこ 香川県出身。1983年東京大学法学部卒、全日空入社。2010年参院議員(香川選挙区、現在2期)、14年党副幹事長。16年党環境部会長、参院環境委員長、18年経済産業副大臣兼内閣府副大臣。

「2040年問題」など、将来、日本が直面する課題に深い危機感を抱いている。

逃げることなく、合意形成に力を尽くし、難問に取り組んでいく。

 自民党香川県連が行った2010年7月の参議院選挙候補者の公募に応募し、選ばれた。縁もゆかりもなかった政界への挑戦を決めた理由は、09年9月に発足した民主党政権の政策だった。「このままでは、この国は基本的に間違った方向に進んでしまう」。全日空の管理職ポストをなげうち、家族の反対を押し切っての出馬。それだけ、民主党政権の政策は、許容できないものだった。

違う苗字を名乗ることで、家族のきずなが壊れかねない選択的夫婦別姓、財政危機を返り見ない所得制限のない子ども手当、農業経営の効率化・安定化を妨げる戸別所得補償制度――。実施していけば、日本の伝統・秩序は廃れ、国は疲弊し衰退していく。徒手空拳で挑んだ選挙戦のスローガンは、「日本を取り戻す」。対立候補に4万5000票程の差を付け、初当選を果たした。

参院では、経済産業委員会に長く所属。エネルギー問題と中小企業政策に力を入れた。

原子力については、複雑な思いがある。経済産業大臣政務官として、事故後の福島第一原発を視察。また、経済産業副大臣として福島の復興に携わった。「2度と事故は起こしてはいけない。今も2万2000人ほどの人たちが避難生活を余儀なくされている」。現場でこう実感した。

一方、50年カーボンニュートラルなど国の政策が温暖化防止に大きくかじを切る中、再生可能エネルギーへの過度の依存にも違和感がある。太陽光、風力など変動が激しい電源が大量に普及すれば、電力不足分を補う調整力が欠かせず、安定供給にも支障が出かねない。当然、コストの問題も浮上する。国民生活や産業活動を守るために、安定性を欠いた電力供給やコスト高は容認できない――。バランスの取れた電源構成を重視し、「安全性の確保を前提に、CO2を排出しない原子力発電は必要。発電電力量で20~30%は要る」と考えている。

電気事業改革にも正面から向き合った。小売り市場の全面自由化により、さまざまな業種が電力市場に参入。市場は活性化したが、最も心配したのは、並行して進めた発送配電分離で災害対応など安定供給がおざなりになること。しかし、北海道胆振東部地震(18年9月)での道内全域停電、台風15号による千葉県の大規模停電(19年9月)で、電力会社は以前と変わらない対応で復旧に取り組んだ。「改革の方向性は間違っていなかった」と胸をなで下ろした。

中小企業政策では、印象に残っていることがある。技術力、信用力がありながら、製品の販売や資金繰りに悩んでいる中小・零細企業が全国には多い。これらの企業の背中を押そうと、ものづくり補助金制度を創設した。ある日、地元・香川県の鉄鋼関連の中小企業を訪れると、経営者が話し掛けてきた。「試作品をつくって営業するなど、今までやりたいことができなかったが、補助金で一歩、前に踏み出すことができた」。今も大切にする、政治活動の励みとなる言葉になった。

「三つの鏡」と「楕円の哲学」 22年の参院選で三選目指す

「まだやり残したことがある」と、22年7月の参院選に臨む。中でも、現役の社会人1・5人が高齢者一人を支える「2040年問題」を深刻に捉えている。危機的な財政状況の中、菅義偉政権は原則1割の75歳以上の医療費の窓口負担を、年収200万円以上の人を対象に2割に引き上げた。

だが、今後、国民にさらなる負担を求めていくことは避けられない。不人気な政策になるが、「きちんと理由を説明し、不公平感をなくして、理解してもらうしかない」。新型コロナウイルス終息に向けての方策、冷え込んだ景気対策など、足元に課題は山積する。それらへの対応とともに、「将来の課題を見据えて、政策に取り組んでいきたい」と話す。

20年10月の臨時国会。菅首相の所信表明演説に対して、代表質問で本会議場の檀上に立った。冒頭、『貞観政要』の「三つの鏡」と、大平正芳元首相の唱えた「楕円の哲学」について触れた。三つの鏡は、①自分の顔を映す「銅の鏡」、②歴史に学ぶ「歴史の鏡」、③部下の諫言を受け入れる「人の鏡」―。良い意思決定をする際の心構えとされる。

楕円の哲学は、楕円に二つの中心点があることから、相対立する考えが均衡を保ち、緊張関係にあれば、立派な政治を行えるという思想。「世の中には異なる意見があるが、それを排除するのではなく、受け止めながらバランスを取り、合意形成を進めていくことが大切と教えてくれる」。代表質問で言及したことは、自ら政治家として胸に刻んでいることでもあった。

趣味の世界遺産巡りは検定を受けるほど。「将来はいろいろな遺産を見て回りたい」が、「いつになるか分からない」と苦笑する。

【石油】製品の価格革命 変化に備え不可欠


【業界スクランブル/石油】

国内製品小売市場が様変わりしている。一昔前、ガソリンなどの製品小売価格は、国内製品スポット市況などに左右される市況商品だった。それが、2017年の業界再編と20年の新型コロナウイルス禍を経て、自動車や電子機器などの工業製品並みに、メーカー優位の原料コストとしての原油価格に連動したコストマークアップの価格形成が確立した。

コロナ禍による原油価格大変動にもかかわらず、スタンド店頭は原油との連動性を確保しつつ、原油価格の上り局面では早めの小売価格への転嫁、下がり局面では遅めの値下げと、「商売の常道」ともいうべきスタイルが貫徹できている。結果的に、コロナ禍と構造的変化による販売数量減少をカバーするマージン確保にも成功しているものと思われる。

考えてみると、わが国の精製元売りの低調な上流参入も、資本蓄積の失敗も、原因は不毛な過当競争を繰り返す販売部門での収益確保の失敗によるものだった。エネルギーセキュリティー強化の阻害要因でもあった。しかし、17年の過剰設備廃棄と元売り再編によって、過剰製品の系列外流通の激減と卸価格改定の厳格化を契機とする販売、慣行正常化が定着した。

精製マージンと流通マージンの確保の成果は、これにとどまらない。今後の脱炭素社会に向けた準備でもある。

「適正利益を確保して、明日の変化に備えよう」。スタンド業者の組合である全国石油商業組合連合会の標語である。今後、地球温暖化政策を進める中で政策的なEVの普及などによる販売量激減が予想される経営環境の下で、将来の経営基盤の転換・拡大を踏まえれば、現時点で、内部留保を充実させてゆく経営戦略は間違ってはいない。

エネルギー基本計画に示されている石油業界や流通業界の将来像の実現のためにも、マージン確保は不可欠であろう。その意味で、精製元売り業界の再編は、最後のタイミングで、時代の流れに間に合ったといえよう。(H)

黒鉛火災で放射能を大量放出 今は年10万人見学の観光名所に


【福島廃炉への提言〈事故炉が語る〉Vol.7】石川迪夫/原子力デコミッショニング研究会 最高顧問

チェルノブイリ事故では大量の放射能が周囲に放出され、13万人が強制避難した。

しかし、事故から35年がたった今、現地には多くの観光客が見学に訪れている。

 前号で述べたチェルノブイリ事故の水素爆発は超特大のすごさだが、それに劣らず超の字が付くのが放射能の放出だ。今回はその状況を述べる。

表を見て欲しい。チ事故の強制避難者数は13万人で、福島の16万人より少ない。だが、避難者の受けた被ばく線量の平均値は100ミリシーベルト(mSv)で、福島の0・8mSvに比べて100倍大きい。TMI(スリーマイルアイランド)は避難者約千人、平均被爆量は0・01mSvで、さらに一桁小さい。

出展:※1「原子力の暴走」P361 ※2地震・津波・原発事故等にともなう総避難者数(2012.12.6福島県災害対策本部発表) ※3福島県第13回「県民健康管理調査」検討委員会資料(2013.11.12)

事故時に放出された放射能量も、チ炉に比較して福島は約7倍少ない。発電出力当たりに直せば15倍だ。その理由は、炉心が小さく燃料棒本数が少ない上に、火災がない事による。格納容器の存在を考えた人は、残念ながら間違いだ。2号機の放射能は、格納容器を通じて直接外界に放出されている。

量的に少ないのは、火災の有無が大きい。汚染面積になると、さらに小さくなり比較できない。ヨーロッパ対福島の面積比となる。

放射能の放出量などを主体に事故の重大さを示す目安基準(事象評価尺度)が国際原子力機関(ⅠAEA)にある。それに従えば、チ事故も福島も、共に最大のレベル7に相当する。両者の間には被ばく量や汚染の広がりに格段の違いがあるのにと思うのだが、これは身びいきだろうか。

事故原発内部を見学 高線量箇所は入構許可出ず

チ事故では放射能放出が2種類あった。第1回目は黒鉛火災による放出で、黒鉛の燃焼温度(約1200℃)以下の気体放射能が放出された。変な言い方だが、この間、炉心燃料は(融点2880℃)は黒鉛火災の炎(実体は昇華)で冷却されていたことになる。

黒鉛火災が終わり、原子炉が空っぽになった5月1日から2度目の放射能放出が始まり、突如5日に終了した。突然終わったのは燃料のUO2(二酸化ウラン)が全て溶融して温度上昇が止まったからだ。従って1日から5日まで放出された放射能は、沸点が1200℃以上の放射能がほとんどといえる。

一度目と二度目では、放出放射能の核種が全く違っている。これを利用して調査すれば、有益な研究結果出てこよう。

僕がチェルノブイリの見学に行ったのは1995年の晩秋だった。1時間ほど建屋の外を見た後、建屋に入った。裸になって長袖のシャツに着替え、その上にスキーウエアのような防寒服を着ただけだったが、建物の中での寒さ対策はこれで十分だった。ほかは、二重の手袋と簡易マスク、靴下と靴の履き替えだけと記憶している。

内部の見学は昇り降りの連続で、急ぎ足での小1時間だったが、線量の低い場所はほとんど見せてもらえた。何しろ大きな発電所だ。線量の高い場所では、急げ、などと言われながらの見学だった。雨が吹き込んだ場所には、雑巾代わりの濡れたマットが敷かれていた。前報で述べた燃料棒を地上に突き落とす突撃隊の待機場所は階段の踊り場で、遠く屋根越しに、今は廃墟となったプリピャチの町が見えた。

原子炉の下、溶融燃料が流れ落ちた地下1階から2階のエリアは線量が高く、見学は許されなかった。聞いた話を書いておく。

ウクライナにパズーヒンという名の、私と同年配の研究者がいる。熔融燃料のある場所に行ってサンプルを採取する特技の持ち主で、採取時の被ばく線量を記録するのに自分の名前を単位にして安全を図っている。今日の採取は1・5パズーヒンくらいなどと言って、正式な線量は教えない。推定だが、1回の採取は0・5Svほどらしい。第2報で述べた溶融炉心の組成測定などは、氏がいなければできなかった仕事だ。

採取された溶融燃料の中から、宝石のジルコンに似た正八面体のウランを含む結晶が見つかり、チェルノビライトと名付けられた。ジルコンは数億年かけて結晶が成長した宝石だそうだが、この結晶は数日間約1700℃で加熱すれば誕生することが実験で確かめられた。この日数と2度目の放出日数は一致しているという。

【火力】魔法の言葉 発言の覚悟と責任


【業界スクランブル/火力】

2050年のカーボンニュートラルに向け、エネルギー基本計画の議論では数字合わせに躍起になっている。そこにいつも出てくるイノベーションという言葉、皆さんは、この言葉をどのように理解されているであろうか。魔法の呪文のようなこの言葉を信じていいものか。かつてイノベーションマネジメントの大家と呼ばれる先生の講演を聴いたことがある。先生のコメントで印象的だったのは次の三点。「ビジョンに根拠はいらない」「イノベーションは技術革新だけでは無い、新しい組み合わせだ」「イノベーションに必要なのは、パラダイムシフトだ」の三つ。

理系の自分にとって「根拠はいらない」と言い切ることには、かなり抵抗感があるが、この例として1961年のケネディ大統領によるアポロ計画の演説を例にあげており、根拠を後付けしていく責任と覚悟を持つ者のみこの発言が許されるものと理解している。さて、はたしてわが国にそこまでの覚悟はあるか。

50年のカーボンニュートラルは「再エネ100%」や「脱化石燃料」といった○か×かの単純な議論で実現できるほど生易しくは無い。太陽光や風力などの限界費用ゼロの自然変動電源が増えれば、電力卸市場のkW時価格は極限まで低下する。一方、調整力を担う火力発電などの稼働率は抑えられ、予備力・調整力の単価は上昇することになる。つまり、電気の価値は従来の円/kW時という概念からkWや⊿kWへと移り、価値の軽重が逆転する“パラダイムシフト”が起きるのだということを理解しなければならない。今や電源別発電原価の試算などは、ほぼ無意味ということだ。

イノベーションのためには技術革新が必要となる。しかし、技術は少しずつしか進まないので、まずは既存の概念を大胆に組み替えていくことで大きなイノベーションを生み出す責任と覚悟を持たねばならない。

エネ基などの議論で、イノベーションを「他人任せ」という意味で使っていないだろうか。実現の目処が立たない計画を立てる前に、昨今のエネルギー政策のどこかに誤りがあるかを認める勇気が必要だ。(S)

【原子力】必要なものは活用 高温ガス炉を特出し


【業界スクランブル/原子力】

第六次エネルギー基本計画案について、政府の再エネタスクフォースが再生可能エネルギーと原子力を二項対立にして、再エネのフル活用で電力需給は満足できると確信し、河野太郎規制改革担当相などが反対している。資源エネルギー庁は10月中旬の閣議決定を目指すが、9月29日予定の自民党総裁選の結果が読めず、方向性は不透明だ。ただ、10月31日から英国でCOP26が開催されるので、それまでに決定することが望ましい。

その特徴を詳らかにしたい。これまで「3E+S」としてきたが、今後は「S+3E」に統一する。CO2は26%減だったが、経済成長が見込みよりも低水準なので電力需要が減少し、CO2削減は進んでいるが、2050年カーボンニュートラルは高い目標だ。米国バイデン政権が4月に46%減を打ち出したので、わが国も菅義偉首相が米国をにらんで46%減を打ち出した。これに対応して30年の電源構成として再エネ36~38%(太陽光14~16%)を盛り込んだ。河野氏はエネ庁の数字の二倍の再エネが存在すると主張し、「38%以上にしろ」と強引にねじ込んでいるが、32年にFITによってかさ上げされた太陽光に減少傾向が見込まれ、再エネ目標の実現性は不明だ。

原発の新増設・リプレースは、国民の原発に対する信頼が低レベルなことが災いして盛り込めなかった。特に柏崎刈羽で発生したテロ対策の不備は決定的で、「必要なものは活用する」という線で落ち着いた。電源別コスト試算(円)は30年断面で、バックアップ電源を考慮しないと、原子力11.7~、太陽光(事)8.2~11.8、太陽光(住)8.7~14.9。バックアップ電源を考慮(統合コスト)すると原子力14.4、太陽光(事)18.9、風力(陸上)18.5と試算。

ほかの特徴として、トリチウム水処理の方向明確化が挙げられる。また、水素利用推進のため、国際的に注目を集めている高温ガス炉を特出した。中露に加え、韓国で実績をあげ、英国が高い関心を示していることが背景にある。(S)

ALPS処理水放出への懸念根深く 政府の風評被害対策は十分か


【多事争論】話題:処理水放出と風評被害対策

福島第一原子力発電所内の処理水海洋放出を巡り、政府が風評被害対策を提示した。

情報発信の強化や事業者への支援・賠償などを柱としたが、この内容で十分なのか。

〈 問われるのは福島県外の向き合い方 政治がさらに前面に立ち情報発信を

視点A:開沼博 東京大学大学院情報学環准教授

このテーマについて論じる上では、まず3・11後の福島に対する人々の意識の現状を把握する必要がある。それは言うまでもなく、風評と呼ばれる現象が社会科学的問題だからだ。自然科学・工学的事実、つまり処理水の海洋放出に関するリスクの多寡についての認識、からすれば理解できない余白を埋める想像力をもたなければ解決には近づけない。

まず最も重要な点は、地元で懸念されているのは〝健康被害ではない〟ということだ。

今年5月、福島民報・福島テレビが福島県民を対象に行った調査によれば、処理水の海洋放出による懸念については、「新たな風評の発生」が40・9%で最も多く、「県民への偏見・差別」が18・1%、「県内産業の衰退」が12・1%と、7割ほどを占めている。一方、「健康被害」を懸念するのは11%に過ぎない。つまり、地元は〝処理水の危険性〟を懸念しているのではなく、処理水放出によって〝偏見・差別や経済的損失の拡大に象徴される風評の拡大〟を懸念している。その点において、自然科学・工学的事実と、福島県民の認識に相違はないと言ってよいだろう。

加えて視野に入れるべき変化がある。それは、正確な事実が共有され続けることが引き起こした変化でもある。

朝日新聞・福島放送が福島県民を対象に例年2月に行ってきた調査では、〝処理水の海洋放出の賛否〟を問うてきた。それによれば、2018年が賛成19%、反対67%。19年が賛成19%、反対65%。20年が賛成31%、反対57%。21年が賛成35%、反対53%。明らかにここ数年でその賛否の趨勢に変化があった。その理由はいまだ詳細に検討されてはいないものの、ここ数年で処理水を取り巻く状況は大きく変化した。ALPS小委員会(多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会)の報告書がまとまり、タンクを設置する敷地のひっ迫が顕在化し、韓国など海外諸国・地域との外交問題になっていった。問題が問題として焦点化していった。その中で報道量が増え、これまで処理水問題に関心・知識を持たずに来た人の中でも、この問題に触れる人が増え、ことの本質を把握する人々が一定割合生まれたことも明らかだ。まっとうな情報流通の絶対量が確保されたことが、この意識変化の要因の一つとしてあるだろう。

県内と県外での温度差 政府方針はまっとうだが不足点も

他方、福島県外での風評はいまだ根深い。三菱総合研究所が昨年7月に実施した調査によれば、友人、知人に福島産の食べ物を勧めるのを放射線が気になるのでためらうと答えるのが、23・5%。同じく福島への旅行を勧められないと答えるのが24%。さらに、被ばくによる健康被害が現世代や子や孫の世代に起こると考え続けている人も4割程度いることが分かっている。無論、被ばくによる健康被害はこれまでも出ていないし、今後も出る見通しがないことは多くの研究が指摘しているところで、UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)など複数の国際機関が共通し示し続ける見解だ。

つまり、処理水についての風評被害対策とは、福島の外がいかにこの問題に向き合いきれるのかを問われている問題だといえる。

今回示された対策はいずれも真っ当なものだが、不足点を3点挙げる。一つ目が、風評対策の達成度合いの検証がない。これまでも風評対策は打ってきたが、10年経っても解決していない。それは、やりっ放しで達成率を問わずに来たからだ。基本的な知識がどれだけ浸透しているか、継続的な理解度調査をしながら対策を進めるべきだ。二つ目が、風評加害メカニズムの検証がない。韓国によるこの問題の外交問題化で浮き彫りになった通り、この風評被害には必ずそれを起こす主体や要因、つまり風評加害の原因がある。しかし、これまでは被害を見ることはあっても加害は看過されてきた。その点を凝視することなしに固定化した風評被害は再生産され続ける。三つ目が、政治がさらに前面に立つ具体策だ。例えば、新型コロナであれば首相も官房長官も担当大臣も、繰り返しコロナがいかなる問題でいかに向き合うべきか情報発信に努める中で、国民に一定のリテラシーが生まれた。しかし、処理水について首相・官房長官・経済産業大臣が、自分の言葉でいかなる問題でいかに向き合うべきか、説明したことがあったか。本気ならば、「福島風評対策担当大臣」を置いたってよいだろう。この風評被害を情報災害と呼ぶ人もいる。福島の風評は情報社会における災害の一つであり、これを乗り越える経験は他の問題にも役に立つ知見を与えてくれるだろう。

まだまだしなければならないことはある。

かいぬま・ひろし 1984年福島県出身。東大大学院学際情報学府博士課程単位取得満期退学。福島大客員研究員、立命館大衣笠総合研究機構准教授などを経て、2021年から現職。

【LPガス】容器の配送最適化 AIやIoTを活用


【業界スクランブル/LPガス】

ソフトバンクと九州大学が9月20日から、AIやIoTを活用したLPガス容器の配送最適化に関するフィールドテストを開始した。共同開発したシステムを実際の配送現場で使い、LPガス販売事業者の「アイエスジー」がテストを実施。来春をめどに配送最適化サービスの実用化を目指す方針だ。スマートメーターから収集した検針データを元に、LPガスの残量を予測。予測結果を元にLPガス事業者の人員・車両情報など、効率的な配送計画を立て、最適な配送ルートを自動で策定する。これまでLPガス業界が進めてきた集中監視システムをベースとした発展型のシステムだ。

同様の機能を持つLPガスのプラットフォーム事業には、NTTグループのNTTテレコンをはじめ、KDDI、NECなどの通信系先進企業がスマートメーターを活用したサービスに参画してきた。また、ニチガスが開発した「スペース蛍」や、岩谷産業が情報ネットワーク機能付きのガス警報器を活用した「イワタニゲートウェイ」など、LPガス事業者も独自の取り組みを進めている。

脱炭素社会の実現が世の潮流となる中、LPガス自体のグリーン化は主に元売り企業の役割であり、グリーンLPガスの調達や、LPG燃料船の傭船など、今出来ることを着実に進めている。一方で、LPガス販売事業者が当面取り組むべき課題は、エネファームや高効率機器の普及拡大とともに、長年業界の課題とされてきた交錯配送の解消もその一つだ。

配送合理化については、十数年前に国が補助金などを出して充てん所の統廃合、共同配送を進めてきたが、あまり成果は上がっていない。郊外に行くといまだに向こう三軒両隣にそれぞれ違う販売店のLPガス容器が立ち、配送も別々の会社という光景はよく見る。

AIやIoTの活用でLPガス配送の在り方も大きく変わり、宅配便業者やはたまたアマゾンなどがLPガスを宅配する時代が来るかもれない(保安の問題はあるが)。自社ボンベというプライドを捨て、真剣に効率化、共同配送を考える時期に来ている。(F)