A 経済産業省の中でも官邸に出入りしていたのは局長以上だ。課長以下は最後まで何も聞かされていなかったようで、46%と聞いて絶句していた。その前にメディアから45%という話が出たが、この数字を聞いた時、役所の手を経ていないトップダウンの数字だと理解した。全く積み上げをしていない印象だ。
B その通りで、かん口令が敷かれていた。政府内では「積み上げてぎりぎり45%」という主張と、「欧米と肩を並べるには50%」と訴える小泉進次郎環境相の間でせめぎ合いが続いた。節目は4月14日の加藤勝信官房長官、梶山弘志経産相、小泉環境相の3大臣会合だ。ここで45%を軸にする方向が決まった。会合後、メディアの前を通った小泉大臣の表情はしかめ面だったと聞く。
―土壇場で46%になったのはなぜか?
B 報道で事前に45%が出たことと、現在の排出量から50年ネットゼロまで直線を引くと30年は46%になるからという見方もある。整理すると、菅首相の発表までに三つの段階があった。①45%に収れんした後、②46%になり、③併せて「さらに50%の高みに挑戦」という文言も入った。全体を通して官邸で決まったことで、経産省は46%でも面白くないのに、小泉大臣は「さらに50%の高みに挑戦」という部分をメディアに対して強調していた。
C ここまで引き上げざるを得なくなったのは米国の影響が大きく、ケリー大統領特使と小泉氏は頻繁にやり取りしていた。そして初めに共同通信が「45%軸に」と報じたのを見た菅首相が、「勝手に決めるな」と総理案件にした。最後に1%上乗せしたのは、首相の力を誇示するためにほかならない。
A ある番組のやり取りで、キャスターが「積み上げではないでしょう?」と迫ったのに対し、小泉氏は「0・1%ずつ積み上げ、その先におぼろげながら見えてきた数字」なんて答えていた。明らかに矛盾しているが、弁が立つからこの時もうまくけむに巻いた。
C 発表直前の地球温暖化対策推進本部の後、麻生太郎財務相が梶山氏に「46%は積み上げか?」と聞いて、梶山氏は「40%が積み上げだ」と回答。じゃあ6%はどうするのかという話になったら、茂木敏充外相が「後は環境省がやればよい」と言ったそうだ。麻生大臣は直後の会見でもこの話題について、米国が1970年に制定した排ガス規制のマスキー法で、日本だけが大金をかけ達成した例を挙げ「若い人は歴史を勉強した方がよい」と述べた。小泉氏に対して苦言を呈したわけだ。
A 菅首相は自身のポイントになると思ったのだろうが、鉄鋼や造船重機などの基幹労連(日本基幹産業労働組合連合会)は怒りまくっていて、自民党支持派が支持をやめると言い出している。基幹労連が出身母体の連合の神津里季生会長もこの政策を評価していない。メディアがポジティブに報じるから、首相も受けると誤解しているのだろう。このままいけば重厚長大が大けがを負うことになる。でも、日本経済団体連合会含め異議を唱えることを自粛してしまっている。
C 小泉氏のスタンドプレーは初めてではない。これまでも石炭火力輸出方針厳格化や、所管外の容量市場に口を出してきた。梶山氏は鳥肌が立つほど小泉嫌いになっていて、電話も取らないそう。4月14日の三大臣会合でも小泉氏を一喝した。でもそこから小泉氏が逆襲し、菅首相に「日米首脳会談で何を言われるか分からない」と吹き込んだ。ケリー氏の影響力に加え、水野弘道・国連特使や環境NGOの援護射撃もあった。小泉氏は「気候変動担当相」就任で、外交担当でもないのに気候変動なら交渉は自分の仕事と思い込んでいる。梶山氏以外にも怒っている人は多い。
A 温暖化防止国際会議・COP25の時も、小泉氏のスピーチ直前まで役人の前で水野氏が原稿を直していたというが、この時から水野氏の手の上で踊らされ続けている。環境省の役人もできもしない46%に決着したことに戸惑っているようだ。小泉氏は夏の税制改正要望までにカーボンプライシング(CP)で次のひと花を咲かせようと考えているが、新NDCに続いてCPでもコロナ禍で短兵急に進めれば産業界の猛反対に合い、炭素税などの導入は未来永劫不可能になる。環境省事務方は両者の板挟みでかわいそうだ。
B 小泉氏が「50%の高みに挑戦」に重きを置いた発言を繰り返していることに、経産省幹部も怒っている。怒りの矛先は、小泉氏を止めない環境省幹部に向かっているようだ。NDCの調整と同時並行だった官邸の気候変動対策推進室設置の動きも、経産省抜きに進めていた節がある。ここ数年、両省の事務方は協調関係にあったが、その関係が危うくなっており、環境省事務方の苦労が増えている。少し前までは炭素税導入について一歩前進するような文言が税制改正要望に入るかとも思っていたが、どうなるか分からなくなった。
エネルギー貧困のリスク議論せず 電力業界は原子力政策前進を歓迎
A 大事なことは、いまの潮流を主導する米国も、6月の主要7カ国首脳会議(G7サミット)や11月のCOP26(温暖化防止国際会議)の議長国を務める英国も、30年までには政権交代するということだ。特に米国はそれで気候変動政策は全てチャラになる。しかし日本は政権交代が起きにくく、自爆テロのような政策が継続されるリスクが大きい。
―しかし30年まであと9年しかない。46%減達成は不可能としか思えない。
A 現時点の削減量は14%しかなく、短期間でさらに32%も減らすなんてミッションインポッシブルだ。欧米では高い目標を言うものの細かい計画に落とし込んだりしないが、日本はこれからエネルギー基本計画、エネミックス、そして温対計画を立て、業種ごとの対策に落とし込もうとする。それをしたが最後、日本の経済成長の芽は摘まれる。既存のエネルギー設備を使いながら46%というキャップをはめれば、供給力不足の可能性が高まる。電気はもちろん、例えばガソリンをつくらなくなれば原油の輸入量が減り、それに伴い灯油が高くなり北国の生活に影響を与える。
また、WSWは、他のシュタットヴェルケに対して、”Tal.Markt“をベースにした独自のプラットフォームの開発や、ホワイトラベル供給を可能にしており、Bremen市のswb、Halle/Saale市のEVH、Trier市のSWTが、WSWの支援により、グリーン電力のP2Pでの取引を始めている。そのほか、Technischen Werke Ludwigshafen (TWL)(2018)や Eberbach(2019)など、同様の取引を始めるシュタットヴェルケが出現している。業界団体BDEWの調査では、デジタルトランスフォーメーションとの関連で、ブロックチェーンを重要と考えるシュタットヴェルケは24%存在している。ブロックチェーンに対する一時期の熱狂は冷めつつあるものの、その利用に踏み切るシュタットヴェルケはこれまでのところ少しずつ増えているといえるだろう。