LPガスもグリーン化へ 研究進む「有望技術」


LPガスのグリーン化実現に向けて検討を行う「グリーンLPガスの生産技術開発に向けた研究会」は4月23日、研究会の最終報告を発表した。

LPガスは時代の変化についていけるか

会合はLPガス元売り会社で構成する日本LPガス協会が主催し、メンバーとして学識者のほか小売り団体の全国LPガス協会や、資源エネルギー庁石油流通課も参加している。会合についてLPガス関係者は「政府の2050年カーボンニュートラル宣言を受けて、小売店からも『LPガス業界はどうなるのか』との声も上がっている。元売り・小売りに加え、行政も交えて業界の将来像について議論した意義は大きい」と語る。

報告書では有望な技術として、①LPガスと性質の近いジメチルエーテル(DME)をグリーン化し、これをLPガスに混和することでCO2排出量を削減、②水素とCO2からLPガスを製造するSOEC共電解によるCO2フリー化―の2点を挙げている。両技術ともに既に基礎研究が進んでいるメリットもあるという。

今後は両技術を軸に据え、社会実装につながる技術開発を行う構え。ほかのエネルギーにない特徴を持つLPガスを次世代へと残していくためには、着実に研究開発が行える環境づくりが重要だ。

【覆面座談会】NDC「46%減」を一刀両断 国益なき目標決定の全舞台裏


テーマ:30年温暖化ガス削減目標の見直し

2030年の温暖化ガス削減目標(NDC)の大幅引き上げが発表されたが、電源構成に基づき削減量を積み上げる従来の手法は取らず、政治主導で決めたことに対する批判の声も噴出する。事情通がその舞台裏を明かした

〈出席者〉  A製造業関係者 Bエネルギー業界関係者 Cジャーナリスト

―4月22日に菅義偉首相が新NDCを発表し、30年26%減から一挙に46%減まで引き上げた。直前までは「45%」と漏れ伝わってきたが、ふたを開けてみるとそれに1%プラスした中途半端な数字だった。

A 経済産業省の中でも官邸に出入りしていたのは局長以上だ。課長以下は最後まで何も聞かされていなかったようで、46%と聞いて絶句していた。その前にメディアから45%という話が出たが、この数字を聞いた時、役所の手を経ていないトップダウンの数字だと理解した。全く積み上げをしていない印象だ。

B その通りで、かん口令が敷かれていた。政府内では「積み上げてぎりぎり45%」という主張と、「欧米と肩を並べるには50%」と訴える小泉進次郎環境相の間でせめぎ合いが続いた。節目は4月14日の加藤勝信官房長官、梶山弘志経産相、小泉環境相の3大臣会合だ。ここで45%を軸にする方向が決まった。会合後、メディアの前を通った小泉大臣の表情はしかめ面だったと聞く。

―土壇場で46%になったのはなぜか?

B 報道で事前に45%が出たことと、現在の排出量から50年ネットゼロまで直線を引くと30年は46%になるからという見方もある。整理すると、菅首相の発表までに三つの段階があった。①45%に収れんした後、②46%になり、③併せて「さらに50%の高みに挑戦」という文言も入った。全体を通して官邸で決まったことで、経産省は46%でも面白くないのに、小泉大臣は「さらに50%の高みに挑戦」という部分をメディアに対して強調していた。

C ここまで引き上げざるを得なくなったのは米国の影響が大きく、ケリー大統領特使と小泉氏は頻繁にやり取りしていた。そして初めに共同通信が「45%軸に」と報じたのを見た菅首相が、「勝手に決めるな」と総理案件にした。最後に1%上乗せしたのは、首相の力を誇示するためにほかならない。

 さらに新たな問題も出ていて、ホワイトハウスのウェブサイトでは日本の新NDCを「46~50%」と紹介している。外務省が訂正を要請しているが、どうなることやら。

過度なグリーン政策は日本経済を支える製造業に深刻な影響を与えかねない

再び小泉氏のスタンドプレー 経産・環境省の関係にひび

―小泉氏の「おぼろげ発言」も話題だ。

A ある番組のやり取りで、キャスターが「積み上げではないでしょう?」と迫ったのに対し、小泉氏は「0・1%ずつ積み上げ、その先におぼろげながら見えてきた数字」なんて答えていた。明らかに矛盾しているが、弁が立つからこの時もうまくけむに巻いた。

C 発表直前の地球温暖化対策推進本部の後、麻生太郎財務相が梶山氏に「46%は積み上げか?」と聞いて、梶山氏は「40%が積み上げだ」と回答。じゃあ6%はどうするのかという話になったら、茂木敏充外相が「後は環境省がやればよい」と言ったそうだ。麻生大臣は直後の会見でもこの話題について、米国が1970年に制定した排ガス規制のマスキー法で、日本だけが大金をかけ達成した例を挙げ「若い人は歴史を勉強した方がよい」と述べた。小泉氏に対して苦言を呈したわけだ。

A 菅首相は自身のポイントになると思ったのだろうが、鉄鋼や造船重機などの基幹労連(日本基幹産業労働組合連合会)は怒りまくっていて、自民党支持派が支持をやめると言い出している。基幹労連が出身母体の連合の神津里季生会長もこの政策を評価していない。メディアがポジティブに報じるから、首相も受けると誤解しているのだろう。このままいけば重厚長大が大けがを負うことになる。でも、日本経済団体連合会含め異議を唱えることを自粛してしまっている。

C 小泉氏のスタンドプレーは初めてではない。これまでも石炭火力輸出方針厳格化や、所管外の容量市場に口を出してきた。梶山氏は鳥肌が立つほど小泉嫌いになっていて、電話も取らないそう。4月14日の三大臣会合でも小泉氏を一喝した。でもそこから小泉氏が逆襲し、菅首相に「日米首脳会談で何を言われるか分からない」と吹き込んだ。ケリー氏の影響力に加え、水野弘道・国連特使や環境NGOの援護射撃もあった。小泉氏は「気候変動担当相」就任で、外交担当でもないのに気候変動なら交渉は自分の仕事と思い込んでいる。梶山氏以外にも怒っている人は多い。

A 温暖化防止国際会議・COP25の時も、小泉氏のスピーチ直前まで役人の前で水野氏が原稿を直していたというが、この時から水野氏の手の上で踊らされ続けている。環境省の役人もできもしない46%に決着したことに戸惑っているようだ。小泉氏は夏の税制改正要望までにカーボンプライシング(CP)で次のひと花を咲かせようと考えているが、新NDCに続いてCPでもコロナ禍で短兵急に進めれば産業界の猛反対に合い、炭素税などの導入は未来永劫不可能になる。環境省事務方は両者の板挟みでかわいそうだ。

B 小泉氏が「50%の高みに挑戦」に重きを置いた発言を繰り返していることに、経産省幹部も怒っている。怒りの矛先は、小泉氏を止めない環境省幹部に向かっているようだ。NDCの調整と同時並行だった官邸の気候変動対策推進室設置の動きも、経産省抜きに進めていた節がある。ここ数年、両省の事務方は協調関係にあったが、その関係が危うくなっており、環境省事務方の苦労が増えている。少し前までは炭素税導入について一歩前進するような文言が税制改正要望に入るかとも思っていたが、どうなるか分からなくなった。

エネルギー貧困のリスク議論せず 電力業界は原子力政策前進を歓迎

A 大事なことは、いまの潮流を主導する米国も、6月の主要7カ国首脳会議(G7サミット)や11月のCOP26(温暖化防止国際会議)の議長国を務める英国も、30年までには政権交代するということだ。特に米国はそれで気候変動政策は全てチャラになる。しかし日本は政権交代が起きにくく、自爆テロのような政策が継続されるリスクが大きい。

―しかし30年まであと9年しかない。46%減達成は不可能としか思えない。

A 現時点の削減量は14%しかなく、短期間でさらに32%も減らすなんてミッションインポッシブルだ。欧米では高い目標を言うものの細かい計画に落とし込んだりしないが、日本はこれからエネルギー基本計画、エネミックス、そして温対計画を立て、業種ごとの対策に落とし込もうとする。それをしたが最後、日本の経済成長の芽は摘まれる。既存のエネルギー設備を使いながら46%というキャップをはめれば、供給力不足の可能性が高まる。電気はもちろん、例えばガソリンをつくらなくなれば原油の輸入量が減り、それに伴い灯油が高くなり北国の生活に影響を与える。

 エネルギー以外でも、例えば数万人の直接・間接雇用を生む高炉を一つ止めるだけで地域の人口の数割が失業するが、これを全国に広げようという話だ。「日本はかつて炭鉱廃止ができた」と言う人がいるが、それはエネルギーをより便利な石油などに切り替えるものであり、高度経済成長の中で雇用の再配置もできた。しかし、いまのグリーン政策はエネルギー貧困をもたらすリスクが高い。

B 気候変動政策強化で電気料金が上がるかという問いに対し、梶山氏は「それは仕方ない」と答えるが、小泉氏は「再エネとのトレードオフで化石燃料輸入額を減らせる」と、ピントがずれた答弁をしている。

【マーケット情報/6月4日】原油続伸、需要一段と強まる見込み


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週までの原油価格は、主要指標が軒並み続伸。需要が一段と強まるとの見通しが価格を支えた。

米国の5月28日までの一週間における製油所の原油処理量は、2020年3月下旬以来の最高となった。また、同国では、夏季のガソリン需要期に突入。新型ウイルス感染拡大防止を目的とした移動規制の緩和が進むなか、燃料消費が増加するとの予測が広がった。加えて、米国の5月失業率は、2020年3月以来の最低を記録。同国の経済が回復しつつあるとの見方がさらに強まり、石油需要増加への期待感が高まった。

また、インド国営石油会社Hindustan Petroleumの代表は、新型ウイルス感染拡大の減速とワクチンの普及で、7月にインドの石油需要が回復すると予想。また、ニュージーランド航空の4月利用者数は、オーストラリア間の移動規制緩和により、過去4カ月で最高を記録した。

一方、OPEC+は予定通り、6~7月にかけて段階的に増産する方針。また、マレーシアは感染者数増加を受け、全土でロックダウンを開始。需給緩和観が台頭し、価格の上昇を幾分か抑制した。

【6月4日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=69.62ドル(前週比3.30ドル高)、ブレント先物(ICE)=71.89ドル(前週比2.26ドル高)、オマーン先物(DME)=70.38ドル(前週比2.66ドル高)、ドバイ現物(Argus)=69.86ドル(前週比1.94ドル高)

【コラム/6月7日】国有東京電力の10年を考える~会長人事の前に政府・経産省・財務省は、働く人に恕と展望を


飯倉 穣/エコノミスト

1,東京電力が国有化されて10年弱となる。震災後東電で働く人は、法人としての責任を抱え、様々な無理難題を克服し、賠償、廃炉、安定供給に努めてきた。第三次計画認定後4年を経た。今後の方向を考える時期に、業務、経営、需給で気になる報道が交錯した。

「東電の行政処分確定へ 規制委、テロ対策不備で」(日経2021年4月8日)、「胆力の人・小林喜光氏、会長就任へ 東電改革「最終形」託される 安全文化の再構築急務」(同5月18日)、「休止火力の稼働要請へ 電力不足 経産省が対策」(朝日5月26日)

 各記事は、業務面での規律低下、国有企業の経営体制の在り方、電力改革に伴う電力需給不安と国家管理の歪みを問いかける。改めて国有東京電力の今後の方向と経営の在り方を考える。

2,20年度東電決算が公表された(4月28日)。売上高5兆8,668億円(前年度比6%減)、営業利益1,434億円(同32%減)、経常損益1,898億円(同28%減)であった。競争とコロナ影響の販売電力量の減少を主因とする。収支推移を見れば、特別事業計画に沿った所謂「経営改革」の下で、合理化の限界、販売競争力低下、原子力稼働の遅れに加え展開力が気懸りである。

そして公表ベースでも企業経営上様々なリスクを抱えている。廃炉、政策・規制変更、競争等15項目に及ぶ。これに政府の監督・経営者・株主リスクも追加すべきかもしれない。電力自由化の下で、旧9電力は、活動制限的な行政指導を受け、競争条件の劣勢が顕著である。営業収益増は難儀であろう。今日の東電の実力は、賠償・廃炉負担抜きで売上6兆円弱、営業利益2000億円、経常利益2000億円程度である。

これまで役所主導で、分社化(ホールデイング・カンパニー制)や合弁等を実施した。また意識改革と称するガバナンス改革(委員会設置会社)や取締役会長の監督機能を強化した。これらの経営改革の効果は明瞭でない。雰囲気的に自虐性が垣間見えても、経営層の自覚、働く人の健全さ・意欲は判然としない。

3,何故こうなるのか。まず国有化の経緯とその後の政府・担当官庁の思惑が頭をよぎる。東日本大震災津波に起因した福島第一原発事故があった。震災は、原賠法3条但し書きの「異常に巨大な天災地変」であった。東電も、被災者であった。当時政府は、法の不備を包み隠し東電に事故生起者として責任を押し付けた。左派的頑固さがなく、理性的寛容さ、福島への思いが受忍した。東電は賠償、廃炉、安定供給の責任を負った。

政府は、原賠機構法を制定し、賠償に必要な資金を機構に国債交付し、機構が東電に資金交付するスキームを用意した。また東電の債務超過回避名目の出資で、国有企業(12年7月)とし、経営権を機構(政府・経産省)に奪取した。資金交付申請時の主務大臣認定の特別事業計画作成を義務付け、合理化による収益向上で東電の経営(安定供給)を図り、将来の企業価値アップによる株式売却で投資回収する姿を描いた。その責任者が、外部登用会長の役割である。そこに働く人・関係者の置かれた複雑な思いがある。

4,国有東電の在り方は、担当官庁の意向を組み込んだ特別事業計画が基本である。経産省・機構が大枠を考え、その意向に従い実務者東電が作成する。これまで主要4計画がある(11年11月、12年、14年、17年作成)。当初計画は緊急対応で資金不足対策・合理化要求・財務調査を行い、次の総合計画で経営責任追及・経営体制変更(国有化)・合理化・資産売却を求めた。政権交代後の新総合計画は、国有化後の東電に電力改革に沿った分社を指示し、廃炉・除染等で役割分担を明確にした。新々総合計画は、政府関与継続を確認し責任貫徹・収益向上を求める。各段階の会長の役割は、担当官庁の指示に従った役員・社員の監督である。

5,国有企業は、民間とどこが違うか。行政(含む政府機関)は、法律目的(法定主義)達成である。法がなければ、行為はない。又税収確保はあっても、利益創出という概念はない。民間企業の目的は、利益追求で法に反しなければ環境変化に合わせ且つ自己都合で何でも遂行可能である。

国有企業や政府機関を見ると興味深い。行政目的に沿った業務を淡々と消化する姿がある。公的使命感、ルーテイン的、規則に照らした活動が望まれる。社会的に必要な事務処理に生甲斐を見出す。問題提起は少なく改善提案も僅かである。行政の延長故、創造性は乏しく、新規業務は賦与される姿となる。業務遂行の判断は、担当官庁の指導・監督・さじ加減となる。

それらの機関の長の仕事は、目的に適った業務の適切な執行管理である。民間企業のような経営でない。働く人は、法、規則に従って行動し、裁量権は著しく少ない。逸脱は、法令違反となる。故に国有企業に多くを期待することは、お門違いかもしれない。

東電は、原賠機構法が求める賠償・廃炉業務実施のコストに見合う収入を確保する機関となった。会長の仕事は、官庁意向の尊重、判断不要で、働く人への叱咤激励であろう。

6、国有東電は、最後の一人の補償と廃炉達成まで継続する。そして安定供給と収益の確保が求められる。環境変化で資金不足になれば、努力も求められるが、政府・担当官庁・原賠機構の法的責任の枠組みで対応となる。ある意味で働く人は、寡黙の人となる

この姿が日本経済にとり良策であろうか。国有といえども、出自を踏まえた姿に戻り、公的使命感を持ちエネルギー事業を通じて国民経済に貢献することも可能である。それは時間関数的なステークホルダーの意志次第である。今のところ役所支配の対応に精一杯で働く人の意志を見てとれない。革新的経営者が就任し、東電内に事業革新者が生まれる環境を作り、民の本性に帰り政府・経産省を巻き込んでエネルギー政策をリードすることを期待したい。賠償・廃炉業務の継続と並行して、国有体制の下でも、働く人の創意工夫で効率的な経営を行い、まず配当可能な枠組みを構築してほしい。次の特別事業計画に必要なことである。

【プロフィール】経済地域研究所代表。東北大卒。日本開発銀行を経て、日本開発銀行設備投資研究所長、新都市熱供給兼新宿熱供給代表取締役社長、教育環境研究所代表取締役社長などを歴任。

太陽光がエリア需要上回る 域外送電でバランス維持


発電が天候に左右される再生可能エネルギーの普及により、電力需給の制御が困難さを増している。大型連休期間中の5月3日午前11~12時、四国電力のエリアでは再エネの出力(太陽光232万kW、風力2万kW)が需要(229万kW)を上回った。

火力発電は負荷調整を強いられた(橘湾火力)

四電は火力発電などの負荷調整に加え、揚水発電所のポンプアップ(61万kW)、エリア外送電(86万kW)でバランスを維持。再エネの出力制御をせずに安定供給を続けた。ちなみに2日後の5月5日、悪天候で太陽光の出力は38万kWにまで低下している。

それから2週間ほど経った5月19日。四電は午前10時に349万9000kWの需要を予想していたが、天候悪化で太陽光がダウン。電力広域的運営推進機関に融通を依頼し、午前9時30分~12時まで関西電力から50万kWを受電、停電を回避している。

また、北海道電力は連休前に再エネ出力制御の可能性を発表していた。5月4日午後12~13時、再エネ出力は165万kWとなったが、需要(293万kW)の半分以下にとどまり実施されなかった。

再エネは今後も拡大を続ける。天候次第で出力が目まぐるしく変わる電源に、翻弄される制度でいいのだろうか。

アプリで安全運転支援サービスを提供 社会サービスのプラットフォーム目指す


【関西電力】

自動車分野のIoT化は目覚ましく、渋滞情報や車両管理など多方面で活用されている。関西電力は安全運転をサポートするサービスを開発し、安心・安全の新たな価値を創出する。

自動車などにカーナビのような通信システムを搭載し、リアルタイムな情報やサービスを提供することをテレマティクスサービスという。交通事故の軽減や安全運転意識の向上、燃費向上などに利用できる。企業では業務効率化や生産性の向上などにつながり、多くのメリットがある一方、月々の利用料に加えて車載機器の購入といった初期費用が壁となり、導入を断念するケースもある。

関電はこの点に着目し、初期費用がかからない低価格のテレマティクスサービスを開発した。

提供する安全運転支援サービス「関電Safety Support Service」(関電SSS)は、スマートフォンやタブレットに専用アプリをダウンロードし、月々の利用料金のみでサービスを受けられる。

個人に合わせて安全講習 独自のルール設定も可能

基本サービスとして、①安全運転サポートと②動態管理サポート、オプションサービスとして③日報作成サポートを用意。基本サービスは、1カ月当たり1アカウント1100円、オプションは同1アカウント550円で提供する。低価格を実現するために、既存のテレマティクスサービスで使用頻度が高い3機能に絞った。

①の安全運転サポートでは、システム管理者とアプリ利用者が運転結果を共有する。急ブレーキや速度超過などの回数を基に、「安全運転スコア」として点数化。実績の推移はグラフで表示される。

管理者側の画面

アプリのスコア画面

ほかに類を見ないサービスでは、運転者の特性に合わせた安全運転講習の動画を個別に提供する。オプションとして導入する予定だ。毎日の業務終了後や1週間に1度、安全運転週間のみなど、配信頻度の設定をし、スマホやタブレットにポップアップで表示する。

動画は追突事故防止や出会い頭の事故防止など、ポイントを一つに絞った2~3分の長さにし、まずは約50種類をラインアップ予定。隙間時間や運転前の視聴で、すぐに実践に生かせるようにする。一般的な安全運転講習に比べ、実績を基に個人にレコメンドするため、より運転改善につながる。

独自にルールを設定できるのも大きな特長だ。複数人が急ブレーキをかけている場所や、構内などで一時停止が必要な場所を表示。管理者が地図上で規制速度エリアを設けて速度制限を付けたり、一時停止を設定して、事故を防ぐ。

規制速度を設定したエリア。安全の注意を促す

②の動態管理サポートでは、管理者がリアルタイムでアプリ利用者の現在位置を把握する。客先への急な訪問が発生した際に、最も近い従業員に指示を出し、顧客サービスの向上を図ることができる。スマホやタブレットで使用するアプリなので、自転車利用や徒歩での業務にも使え、滞在時間の分析も可能だ。

オプションサービス③の日報作成サポートは、運転開始時と終了時に操作するだけで自動で日報を作成。労務時間の削減につながる。データは、エクセルの管理台帳として保存できる。

車両単位で集計すれば稼働状況が分かり、所有台数の見直しにもつながる。任意で入力する給油量や給油料金の項目からは、コスト分析ができる。

車載タイプではないため、バイク利用時にも有効だ。

関電は中期経営計画で、グループの目指す姿として「エネルギー、送配電、情報通信、生活・ビジネスソリューションを、改めて中核事業に据え、その周辺に、その重なり合うところに、新たな価値を創出し続ける」を掲げる。達成に向け、サービスプロバイダーへの転換を柱の一つに据える。

サービスを進化させ 新たな価値を提供

営業本部・新領域事業化推進プロジェクトチームの里美謙一部長は「サービスの開発に聖域なくチャレンジする。新しい視点から顧客の課題やニーズに向き合い、サービスで認知される企業を目指しています」と、新たな価値の提供に向けて意気込みを語る。

関電SSSの発案から市場調査、開発、商品化までを担当した同チームの三浦佑貴さんは、客先を訪問する中でこのサービスを思いついた。「社用車は事業に不可欠な点で電気と同じ。提供してきた安心・安全サービスの進化形です」と、提案した当時を振り返る。

関電Safety Support Serviceを開発した三浦佑貴さん(左)と里美謙一部長

里美部長に背中を押され、半年かけて安全運転や交通事故について綿密に調査。自動車教習所や損害保険会社にもヒアリングした。約1年間の実証試験を行いながら、機能を絞り込み、アプリ画面をシンプルにして、直感的に使えることに最も重点を置いた。

動画作成で提携する損保会社にとっても、ワンポイント講習の動画は初めての取り組み。関電としては異業種も巻き込んだ新規事業となった。

サービスプロバイダーとしても歩み始めた関西電力。快適で安全な暮らしや事業を守りながら、さまざまな社会インフラサービスを提供するプラットフォームの担い手になることを目指している。

石炭供給に大きなリスク 中国が権益を戦略的に利用


石炭価格の行方が不透明感を増している。国際的な脱炭素化・脱石炭の潮流があるが、アジアでは中国、インドをはじめ東南アジア諸国で需要は堅調に推移。一方、BHPグループ、アングロ・アメリカンなどの欧米の大手鉱山会社は、地球温暖化への猛烈な反発や金融機関からの圧力を受け、石炭事業からの撤退を急ぐ。今後、新規投資が減ることで供給力の減少は避けられそうもない。

豪中関係は良好でないが中国企業には既に存在感がある

欧米資本に代わりオーストラリアなど資源国の石炭事業に乗り出そうとしているのが中国、インドの企業だ。中でも中国企業は積極的で、豪中関係が悪化する中、BHPグループがオーストラリアの権益を石炭大手・兗州煤業に30億ドルで売却する話があったという。オーストラリアではインド系企業が事業を展開しているが、中国系もヤンコールが複数の炭鉱を保有するなど存在感を示している。

さらに中国は、石炭権益を戦略的に利用しようとしている。中国は石炭火力プラントの建設でも「日本と同等の技術力を持っている」(業界関係者)という。途上国などに石炭火力を建設し、燃料も供給することで、「一帯一路」構想を実現していく狙いだ。

石炭事業の主導権を握りつつある中国・インド企業。彼らが今後、国際市場に十分な供給を行うかは疑問符が付く。日本は非効率石炭火力をフェードアウトさせる方針だが、今後も高効率プラントは電力供給で重要な役割を果たす。「アフターコロナ」の景気回復基調などで、足元の一般炭価格はt当たり90ドル台後半。業界関係者は「今後、70ドルくらいから少しずつ上がっていくのでは」と予想するが、「将来、供給障害のリスクもある」と指摘する。

脱炭素目指す「一丁目一番地」技術ヒートポンプを最大活用へ


【ヒートポンプ蓄熱の新潮流/第2回

誰もが認める、世界をリードする日本のヒートポンプ技術。

空調や冷凍など、この技術を用いたアイテムは枚挙にいとまがない。

松本真由美氏が、前川製作所の町田明登執行役員に最新事情を聞いた。

松本真由美 東京大学客員准教授

松本 ずいぶんおしゃれな本社建屋ですね。建築物の環境性能が非常に高い社屋だと聞いています。

町田 2008年にここ門前仲町(東京都江東区)にある本社の自社ビルを建て替えました。空調のシステムを工夫していて、当時主流だったビル用マルチエアコンのような個別分散空調方式ではなく、当社のヒートポンプを使用して冷温水を循環するセントラル方式を採用しました。建築施工を請け負っていただいた大手建設会社の技術協力を得ながら、地中熱を利用したヒートポンプの仕組みを取り入れています。

 地中熱は地中に埋め込んでいる基礎杭にチューブを巻き付けて熱を取り出しています。一方、室内側の空調システムは、床下全面からドラフトの少ない風を吹き上げるようなシステムで空調しており、省エネ性と快適性を両立しています。この技術の一部は最新の建築物にも生かされています。

松本 ドイツで普及している、冷暖房機器をあまり使わないパッシブハウスの仕組みに似ています。機械設備類はどこにありますか。

町田 ヒートポンプ設備や氷蓄熱システムは屋上に、受電設備・非常用電源・サーバーなどの電気設備は3階に設置しています。こういった設備は地下フロアに置くケースが一般的ですが、(建屋前には)川が流れていて、万が一の津波対策を考慮して電気類の設備は高いフロアに設置したのです。

松本 氷蓄熱を使っているのですか。珍しいですね。

町田 これも当社開発のシステムで、ダイナミックアイス氷蓄熱システムを使っていることも特徴の一つですね。通常の水蓄熱の冷水よりも水温が低く、その冷熱で室内の除湿などに利用しています。

環境に優しい自然冷媒 アンモニアとCO2

松本 ヒートポンプ設備は冷媒とセットとなる技術です。昨今、この冷媒の規制が厳しくなっています。そこで、GWP(地球温暖化係数)値の低い冷媒が注目されています。ここのヒートポンプ設備の冷媒には環境に優しい自然冷媒を使っているそうですが。

町田 はい。当社では代替フロン冷媒以外に、自然冷媒、つまりアンモニア、二酸化炭素、水、空気、炭化水素―の五つの冷媒を用いた技術開発に取り組んでいます。いずれもGWP値は1程度と、地球温暖化対策としては、極めて環境に優しい冷媒です。それぞれの冷媒が得意とする温度帯は異なりますが、その中でも、ここのビルではCO2冷媒とアンモニア冷媒を使っています。

松本 地球温暖化の観点で目の敵にされているCO2ですが、冷媒としては環境に優しいわけですね。

町田 そうです。CO2冷媒は家庭用給湯機のエコキュートで本格的に利用されました。従来の冷媒に比べて圧力が高く、技術開発が困難でした。そうした課題に対して、電力会社を中心とした日本の技術力によってクリアしてきました。こうして開発されたCO2冷媒を使った業務用エコキュートがここでは導入されています。

松本 もう一つの冷媒であるアンモニアは、国のゼロエミッション宣言で、火力発電用燃料としてにわかに注目され始めています。冷媒分野では既に技術が活用されているわけですか。

町田 はい。アンモニア冷媒は、空調や冷凍分野に至る広範囲の温度帯に対応でき、しかも単位動力当たりに得られる熱量が高いという特徴があります。

松本 効率が良いのですか。

町田 理論COPで言いますとアンモニアに勝るものは今のところ存在していません。ただ、毒性や可燃性があるので取り扱いが少し難しいのです。そのため、高圧ガス保安法の下で、しっかりと安全面を考慮しながら運用しています。

ここ20年あまりで、当社製設備で運転中に起きた重大事故はありませんが、メンテナンス時には設備を開放点検しますので注意が必要です。また設備の経年劣化に伴う配管からの「冷媒漏れ」もケアしないといけないため、その辺の管理も大切ですね。

 東京都内の公的な機関で、当社のアンモニア冷媒式空調設備が導入されているケースがあります。

町田明登 前川製作所技術企画本部執行役員

コストの総額は最大4・8兆円 系統増強案で広域機関が試算


再生可能エネルギー大量導入に向けた系統増強費用の総額は、最大4・8兆円―。電力広域的運営推進機関が、広域系統整備の長期方針を検討する有識者会合の議論の中間整理の中で、このような試算を示した。

洋上風力拡大の鍵を握るのが高圧直流送電だ(写真は新北本連系設備の直流送電線)

再エネの導入状況などに応じた四つのシナリオを分析。このうち、政府が掲げる2040年の洋上風力の導入目標の最大値である4500万kWが、北海道や東北に集中導入されることを想定したシナリオで、3・8兆から4・8兆円の系統増強費用が発生するとの試算となったのだ。

この中には、北海道と東京を高圧直流送電線(HVDC)で直接つなぐルートの新設や、九州~四国ルートの新設、東北~東京間の運用容量対策といった電力系統の増強案が盛り込まれている。費用便益評価を行い、便益が費用を上回ることも確認済み。このシナリオの場合、燃料費削減など年間5100億円の便益が生じ、12

00万tのCO2削減効果が期待できる。ただし、HVDCの低コスト化が進まなければ、この便益を得られない可能性もあるという。

正式なマスタープランは、政府の第6次エネルギー基本計画を踏まえた上で22年中の策定を目指すことになっており、中間整理で示された増強案はあくまでも、さらなる分析を進めるための基礎として検討に生かしていくためのものと位置付けられている。

系統増強費用は需要家が託送料金として負担するもの。再エネ賦課金の国民負担が30年度には最大4・9兆円に達するとの試算もある中で、新たな負担を国民が受容できる範囲に収められるかが、主力電源化を目指す上での大きな課題となりそうだ。

コロナ禍のエネ企業決算 軒並み減収も利益では明暗


電力、ガス、石油など主要エネルギー企業の2021年3月期決算が出そろった。年度を通して新型コロナウイルス禍の影響を受けた初の決算は、業態によって利益面での明暗をもたらした。

前期の反動もあり、大手電力10社中、唯一の増収増益だった九州電力

各社の連結概況を見ると、共通しているのは、コロナ禍によって工業用、業務用需要が減少した半面、家庭用需要は巣ごもり・在宅率の拡大によって増加したこと。これにエネルギー間競争の激化などが影響し、売上高は総じて減収傾向に。本業のエネルギー販売量の減少は大手電力・都市ガス各社の経常収支にも影を落とし、軒並みの大幅減益となっている。

具体的には、大手電力が北海道1%減収/26・1%増益、東北1・8%増収/32・4%減益、東京6%減収/29・1%減益、中部4・3%減収/0・2%増益、北陸1・8%増収/46・8%減益、関西2・9%減収/27・3%減益、中国3%減収/24・5%減益、四国1・9%減収/81・4%減益、九州5・9%増収/39%増益、沖縄6・7%減収/21・7%増益という状況。九州のみが増収増益だった。

20年4月に本体から分離された送配電部門の経常損益は比較可能な一部の事業者を見ると、東京44・9%増、中部22・6%増、関西4・7%減、中国76・7%増となった。今冬の電力需給ひっ迫に伴うインバランス料金の上昇が、同部門の収支改善に寄与したとみられる。一方、火力事業者のJERAは16・8%減収/40%増益に。①米フリーポートLNGプロジェクトの運転開始効果、②今冬の電力ひっ迫効果、③北米ガス取引における寒波効果―が利益を押し上げた。

都市ガス会社では、東京8・3%減収/31・3%減益、大阪0・3%減収/48・5%増益、東邦10・5%減収/32・6%減益、西部6・1%減収/39・5%減益、北海道6・5%減収/5%増益と、売上高はいずれも減少。一方、経常損益については、東京、東邦、西部が3割台の減益となった中で、フリーポートなど海外エネルギー事業の好調を受けた大阪の大幅増益が特筆される。

主力の家庭用で増益効果 石油はマージン改善が奏功

興味深いのが、主要LPガス会社の決算だ。岩谷産業7・5%減収/6・6%増益、エア・ウォーター0・3%減収/0・4%減益、伊藤忠エネクス17・6%減収/0・3%増益、シナネン8・4%減収/37・2%増益、ニチガス8・3%増収/31・6%増益、TOKAI0・4%増収/5・8%増益。減収という点ではおおむね共通する中、家庭用比率の高い事業者については増益効果が表れている。LPガスが依然として主力の家庭向けで高い収益力を確保している実態が垣間見える。

石油元売り会社については、ENEOS23・5%減収/経常利益2309億円(前年1357億円損失)、出光興産24・6%減収/同1084億円(同140億円損失)、コスモエネルギー18・4%減収/497・9%増益。「2強+1」体制への再編効果で、各社とも石油製品のマージン改善が利益拡大に貢献した格好だ。

燻り続ける電力危機の火種 今夏も電源不足は解消されず


経済産業省は今夏、および冬の電力の供給力不足解消に向けた対策の検討に乗り出した。

今年1月にも危機状態に陥ったばかりなだけに、需給ひっ迫が慢性化するのではとの懸念が強まっている。

「この夏は電力安定供給に必要な供給力はかろうじて確保できるものの、ここ数年で最も厳しい見通しとなっている。今冬については、現時点では東京電力管内において安定供給に必要な供給力が確保できない見通しだ」

梶山弘志経済産業相は5月14日の記者会見で、電力需給に警鐘を鳴らす異例の言及を行った。その上で安定供給確保に向けた緊急対応として、①発電・小売り事業者への供給力確保の働きかけ、②需要家への協力要請、③需給状況に関するタイムリーな情報提供、④そのほか必要な制度的措置―などの対策を5月中に取りまとめ、速やかに実行していくと述べた。

冬の予備率、基準下回る 電源入札などで対応

日本は今年1月にも、全国的な電力の需給ひっ迫を経験したばかりだ。この時は、急な寒波の到来により火力燃料のLNGが不足したことが要因で、設備容量(kW)は足りているにもかかわらず、発電量(kW時)が足りないという状況に陥った。今なお、電力危機の火種が燻り続けているのはどういうわけか。

今夏・冬に厳しい需給に迫られる理由について梶山経産相は、「発電事業を巡る事業環境の悪化などに伴い、火力発電の休廃止が相次いでいること」と指摘している。前回のkW時不足とは違い、厳暑・厳寒になると、kWそのものが足りなくなる可能性があるというのだ。

電力広域的運営推進機関は、3月末に今年度の供給計画を取りまとめて以降、需要期における供給力不足への懸念から、全発電事業者に対して供給余力の精査と、余力があった場合の小売り事業者への先渡しや相対による提供を要請。合わせて、高需要期に電源補修停止が多く計画されていることも供給力減少の要因だとして、補修工事時期の変更などによる上積みを図ってきた。

それでも、4月30日の「調整力及び需給バランス評価等に関する委員会」の会合で示された「電力需給検証報告書」によると、北海道と沖縄を除く8エリアにおける7~8月の「猛暑H1需要(10年に1度の猛暑を前提とした最大電力)」に対する予備率は3・7~3・8%と、これまでにない低水準になっている。

安定供給に最低限必要とされる3%をかろうじてクリアしてはいるものの、「今年1月の需給ひっ迫を踏まえると、ピーク対応を評価したH1需要のkWバランスだけで供給力が十分に確保できたと判断することは早計」(広域機関)と見る。

冬はさらに厳しい。22年2月には、中部、北陸、関西、中国、九州で「厳寒H1需要(10年に1度の厳寒を前提とした最大電力)」に対する予備率が0・2%と、安定供給に必要とされる3%を軒並み下回る。東京に至っては、1月と2月の予備率がそれぞれマイナス0・2%、マイナス0・3%と、供給力が最大電力需要を下回ってしまう。

梶山経産相の指示を受け、資源エネルギー庁でも、需給検証報告書に基づく対策の検討に乗り出した。注目されるのは、追加の供給力をいかにして確保するかだ。広域機関はこの調達手段の選択肢として、「調整力Ⅰの追加公募」「電源入札」「特別調達電源」を挙げている。

うち特別調達電源は、容量市場の追加オークションに代わる暫定措置として用意された制度で、21年度のH1需給バランス改善の手段としては考えにくい。このため、「調整力の追加公募」、もしくは「電源入札」のどちらかということになるが、電力業界関係者の一人は、「厳気象対応の調整力と考えれば、調整力公募を選択するのが妥当ではないか」と見る。

梶山経産相は、安定供給危機の要因について「相次ぐ火力電源の休廃止」と述べたが、その背景には全く言及していない。現実を見ると、自由化の進展と同時に電源を多く抱える大手電力会社の需要が減少。それに追い打ちをかけるように脱炭素化の流れから再生可能エネルギーが大量導入され、稼働率が低下した石炭・石油火力は一気に不採算化、休廃止に踏み切らざるを得なくなっている。まさに経産省が旗を振ってきた政策が、昨今の電力供給の不安定化を招いたといっても過言ではない。

非効率な石油・石炭火力はお役御免でいいのか

もちろん、経産省としても何も手段を講じてこなかったわけではなく、自由化後も安定供給が担保されるよう制度議論を積み重ねてきた。その一つが、将来にわたる供給力を確保するために創設された容量市場だ。

ただ、同市場で落札された電源が供給力として提供されるようになるのは24年度以降。要は、制度改革が想定する以上の速さで市場環境が変化し、それに対応しきれていないということ。当面の間は、厳しい需給状況が続くことは避けられそうもない。

電力不足は慢性化? 抜本的な対策が急務

広域機関は、21年度供給計画の取りまとめに関する経産相への意見の中で、2月には1300万kWもの補修停止が計上されたことで供給力が減少し、これが高需要期における供給力不足の主因となったと指摘。大規模電源を保有する発電事業者に対し、「個社の相対契約だけで補修停止を判断するのではなく、需給バランスを考え慎重に計画すべきであった」と苦言を呈している。

その一方で小売り事業者に対しても、「仮に発電事業者が売り先の決まっていない電源を停止した場合、需給ひっ迫が発生しても直ちに起動できない恐れがある」として、調達先未定の供給力確保が難しくなることを想定し、先渡しや相対取引などを活用して早期の供給力確保に努めるよう呼び掛けている。

電力安定供給を至上命題とする広域機関ならではの発言だが、自由化、脱炭素との両立の難しさを象徴しているとも言える。このままでは需給危機が毎年にように起きることもあり得るわけで、それを食い止める抜本的な対応策を講じない限り、電力システム改革は失敗だとのそしりは免れない。

【マーケット情報/5月28日】原油上昇、需給逼迫観で買いが優勢


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み上昇。供給減少と需要回復で、需給の引き締まりを意識した買いが優勢となった。

イラン外相が、核合意の復帰を巡る問題の早期解決に、懐疑的な見方を示した。これにより、米国の経済制裁は続き、イラン産原油の供給回復は見込めないとの悲観が台頭した。さらに、米国の週間在庫統計は前週から減少し、過去5年の平均を2%程度下回った。

また、21日までの一週間における米国ガソリン需要が、新型ウイルス感染拡大前である2020年3月中旬以来の最高を記録したことも、買いを誘った。加えて、米国および英国の景気指数が改善を示したことで、経済回復にともなう石油需要増加への期待が高まった。

【5月28日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=66.32ドル(前週比2.74ドル高)、ブレント先物(ICE)=69.63ドル(前週比3.19ドル高)、オマーン先物(DME)=67.72ドル(前週比4.47ドル高)、ドバイ現物(Argus)=67.92ドル(前週比4.49ドル高)

【コラム/5月31日】電力分野におけるブロックチェーン技術の適用


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

近年、分散型台帳技術であるブロックチェーンが注目されている。欧州では、エネルギー分野においてブロックチェーンの数多くのパイロットプロジェクトが実施されている。以下にその例を挙げてみたい。まず、オーストリアでは、最大のユーティリティ会社Wien Energieが、2018年に、ウィーン市中心の新しいビジネス・居住地区(Viertel Zwei)において、ブロックチェーンを活用して住民間で太陽光発電のPeer-to-Peer(P2P)取引を実施している。また、2015年に設立されたスタートアップGrid Singularityは、ブロックチェーンを利用したエネルギー取引、グリーン電力証書取引、スマートグリッド・マネジメントなどのサービスの提供を行っている。オランダでは、天然ガスインフラ・輸送会社Gasunieが、2017年に行ったパイロットプロジェクトで、グリーン電力証書に関して、ブロックチェーン上での発行、管理、取引、移転、検証が可能であることを実証した。

ドイツでは、2017年に、innogyのShare & Chargeとslock.itが共同で、ブロックチェーンを用いて、電気自動車の充電ステーションでの課金を行うパイロットプロジェクトを実施している。また、2017年に、Ponton社とTenneT社がsonnen eServices GmbH社と協力して、ブロックチェーンを用いて、約6,000個の家庭用蓄電池を束ねて系統運用者(TenneT社)に需給調整電力を提供するパイロットプロジェクトを18か月間実施した。

ドイツにおけるさらなるブロックチェーンの適用事例としては、再生可能エネルギー電力のP2P取引が注目される。大手電力会社では、innogyが、2017年5月に東京電力とConjoule社を設立し、P2Pでの再生可能エネルギー電力の取引のためのプラットフォーム事業を始めている。また、自治体ユーティリティ企業では、Wuppertal市のシュタットヴェルケ(WSW)が、2017年11月に同様のプラットフォーム(”Tal.Markt“)を開設し、2018年末までテストを行った。2019年年初からは、Wuppertal市域外にもその取引を拡大させている。

また、WSWは、他のシュタットヴェルケに対して、”Tal.Markt“をベースにした独自のプラットフォームの開発や、ホワイトラベル供給を可能にしており、Bremen市のswb、Halle/Saale市のEVH、Trier市のSWTが、WSWの支援により、グリーン電力のP2Pでの取引を始めている。そのほか、Technischen Werke Ludwigshafen (TWL)(2018)や Eberbach(2019)など、同様の取引を始めるシュタットヴェルケが出現している。業界団体BDEWの調査では、デジタルトランスフォーメーションとの関連で、ブロックチェーンを重要と考えるシュタットヴェルケは24%存在している。ブロックチェーンに対する一時期の熱狂は冷めつつあるものの、その利用に踏み切るシュタットヴェルケはこれまでのところ少しずつ増えているといえるだろう。

このようにシュタットヴェルケがブロックチェーンによるプラットフォーム事業に従事する動きが見られるのは、ブロックチェーンは、取引コストが低減でき、データの改ざんが事実上不可能となるなどのメリットがあるからだ。そのようなメリットゆえに、自治体の住民にとって、地域のグリーン電力を自ら調達でき、その発生源を証明できるという点は大きな魅力となる。また、ドイツでは、2021年から固定価格買取制度が終了する再生可能エネルギー発電が出現するが、その電力を住民が自ら調達できるプラットフォームの運営は、シュタットヴェルケにとって新たな収益源となるだろう。

最後に、調査機関denaがドイツ、オーストリア、スイスのエネルギー産業の経営者や専門家300人を対象に実施した調査の結果(2019)を紹介すると、4分の1以上(28%)の企業がエネルギー経済における様々な分野でブロックチェーン技術を実験しているか利用している。この調査結果の興味深いところは、ブロックチェーン技術への関心は大企業も中小企業もほぼ同じくらい高いが、従業員数500人以下の中小企業で、ブロックチェーン技術を利用している数は、大企業の3倍であるという点である。革新的技術導入の鍵を握るのは、企業の規模よりも先取的な企業文化といえるだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【省エネ】情報提供の議論 顧客評価に努力を


【業界スクランブル/省エネ】

エネルギー小売り事業者の省エネガイドライン検討会で、省エネ情報提供の促進が議論されている。小売り事業者には省エネ情報提供の努力義務が課されており、「使用量の前年同月比較」などが政府指針に沿って消費者に提供されている。今回、「指針取組の評価」と「事業者独自取組の加点評価」を組み合わせた新たな評価スキームが提案された。全事業者に期待する省エネ情報提供と、先進的事業者の創意工夫の取組評価を分離した政策手法は誘導政策として合理的だ。

加点評価には、情報提供タイミングや顧客属性考慮、電力需給状況に応じた情報などさまざまな評価項目案が挙げられているが、家電などの機器効率による単一指標評価と異なり、さまざまな独立項目による総合評価は各項目の重み付け設計が難しい。このような総合評価手法の例としては、米国のオフィス快適性評価であるWELL認証や、日本の建築環境総合性能評価システム(CASBEE)があるが、バランスを考えた項目のグルーピング、各項目評価基準の明確化と定期的なアップデートが必要となる。一方、指針の取組側に気温影響評価追加を検討しているが、これは加点評価側が適切である。電気機器の冷暖房、ガス機器の暖房・給湯の消費量は気温影響が大きいが、前年との平均気温差による個別家庭のエネルギー消費量変動想定の提示は、技術的に困難で情報提供を受ける各家庭に対して不正確な情報となる可能性が高い。マクロ的相関と個別家庭に適用できる相関は異なることに留意すべきだし、指針で定義する取り組みは、多くの小売り事業者が実施できる取り組みに限定すべきだ。

全家庭が一定の省エネ情報を得るために、中小規模小売り事業者(契約数30万件未満)にも省エネ情報提供の努力義務を課しているが、実施状況公表の努力義務は免除となっている。今後、比較サイトなどでの省エネ情報提供評価も進むことから、「公表および国への報告」も全事業者を対象とし、各事業者が費用対効果を判断しながら「顧客評価が高い省エネ情報提供」に努力する自由競争状態に誘導すべきである。(Y)

【住宅】省エネ新基準 HEAT20登場


【業界スクランブル/住宅】

地球温暖化への対応が叫ばれる中、日本の温室効果ガス排出の3割を占める家庭部門に対し、国は省エネルギーの普及を図るため、2019年に建築物省エネ法を改正。300m²以下の小規模建築物を対象に建築主に対する省エネ基準の説明義務制度を設け、21年4月からスタートした。建築主に省エネの大切さに気付いてもらい、建物の省エネ性能向上へつなげるためだ。

住宅の省エネ基準は、省エネ法に対応して1980年に制定され、92年、99年に基準が強化され、2013年と改正されてきた。省エネ基準には、「外皮性能」と「一次エネルギー消費量基準」があり、前者は屋根や外壁などの断熱性能に関する基準、後者は住宅内で消費されるエネルギー量に関する基準だ。省エネ基準は、これからの住宅が備えるべき最低限の目安であり、ここからさらに一次エネルギー消費量の削減効果の大きさにより、トップランナー基準やZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)基準などが定められている。

このZEH基準を超え、日本の断熱基準を世界レベルにする考えの下に提示されたのが「20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会」が提案する「HEAT20」グレードだ。HEAT20は低環境負荷・安心安全・高品質な住宅・建築の実現のため、主に居住空間の温熱環境・エネルギー性能、建築耐久性の観点から、外皮技術をはじめとする設計・技術に関する調査研究・技術開発と普及定着を図ることを目的に、一戸建て住宅の目指すべき住宅像と推奨する断熱性能水準を提示する。 HEAT20グレードの断熱性能により、光熱費を大きく削減し、真冬時でも体感温度を適切な状態に保ち、健康で快適な住まいを実現できるという。

断熱性能の向上には、断熱性能に関する消費者認知や理解の低さ、建築時にかかるイニシャルコスト、施工者の技術など多くの課題がある。いくら良い住まいであったとしても普及しないのであれば意味がない。産学官が連携し、高性能な住宅が普及することで、多くの人がメリットを享受できるような時代が早々に来ることを願う。(Z)