インフラ維持の年間費用が増大 統合的なマネジメントが必須に


【アクセンチュア】藤野 良/アクセンチュア プリンシパルディレクタービジネスコンサルティング本部

前回は、電力のレジリエンスをテーマに、送配電事業の災害復旧と事業への貢献余地の可能性を示した。4回目は、エネルギーインフラの維持管理において、他のインフラとの統合マネジメントに言及する。

ふじの・りょう 2005年アクセンチュア入社。エネルギー関連企業を中心に、事業戦略・新規事業創造等の戦略立案から戦略実行フェーズまで、多数従事。

エネルギー需要が右肩上がりだった高度経済成長時代に建設した電力やガスなどのエネルギーネットワーク設備の経年化が進んでいる。この設備の維持・更新にかかる支出は今後増大していく見込みで、大きな社会課題となっている。

特に人口密度が低い地方では、需要の総量が小さい割に、インフラ設備の総量が多くなりやすく、課題はより顕著となる。エネルギーだけでなく、水道や道路、通信などのネットワーク系社会インフラでも同様の課題を抱えている。

市町村当たりの電力と公共インフラ(道路・下水道・橋梁・河川等の土木費)の維持管理費用を、仮に各市町村の住民が負担すると仮定して試算すると、2018年度の25年後の43年度には、236の市町村において、住民一人当たりの負担額は2倍以上、中には4〜5倍を超える市町村も出てきてしまう。また、このうち169市町村では、住民一人当たり年間100万円以上のインフラ維持管理費用を負担することになる。その管理費用は、実際には、電気代や水道代、通信費、一般道路の維持管理費といった税金など、さまざまな形で徴収される。

このため、地域ごとの料金差は少なく、各住民は負担感を意識しづらいが、こうした試算を通じて、社会インフラ維持管理の課題の大きさが実感できる。

管理主体が異なり非効率 人材をプールして有効活用

持続可能なインフラメンテナンスの実現に向けて、今回は複数種別のインフラを統合的にマネジメントする取り組みを紹介したい。

現状、ネットワーク系のインフラ管理は、電力とガス、通信は民間事業者、上下水道・道路は自治体の各管轄組織が主体となっており、インフラの種類ごとに管理主体が異なっている。このため、インフラの新設や改良、点検や補修などのメンテナンス業務は、個別に実施されている。面的に広がるインフラの点検・対策に必要な人材をインフラ管理者ごとに抱えることは非効率であり、プールした人材がインフラを横断してメンテナンスに対応していくことが全体最適だ。もちろん、インフラの種類ごとに必要な技術・技能は異なるため、タブレットやウェアラブルなどのデジタルデバイスと、リモートからの熟練者の支援などと組み合わせることで、現地作業員の技術や技能を補完することが可能であり、実現可能ではないかとみている。

2018年度と約25年後を比較したインフラ維持管理費用に関するデータ
市町村当たりの電力と公共インフラの維持管理費用を各市町村の住民が負担すると仮定した試算

電力や水道、通信などを同一箇所に埋設している工事は、現状も複数インフラ間で調整はされているものの、全体コスト極小化の観点からは、さらに早期に計画段階からの工期の同期が考えられる。

持続可能な都市の実現に向け、地方都市を中心に立地適正化計画やコンパクトシティー構想が立案され、時間をかけながら生活に必要な機能と住民を近接した地域に集約していく計画も存在する。自治体主導で立案したプラン通りに民間が足並みをそろえて動けていないケースも多い。マスタープランに従いながら、生活に必要な諸機能の集約に合わせて、社会インフラも再形成していくには、複数のインフラを横断した計画とその計画に基づく中長期視点でのインフラ再形成の実行が必要となる。

官民連携の事業体が鍵 成功モデル作りを早期に

インフラを統合的にマネジメントするには、官と民とで分断した現状のインフラ管理から脱却して、統合型のマネジメントモデルへと変革を図っていく必要がある。そのためには、統合マネジメント効果を創出しやすい地域と業務領域を対象に、着実に効果を創出していきながら、業務領域やインフラ種別といった統合範囲を拡大していくアプローチが必要である。

日本でも、官民連携の下で複数インフラを統合的にマネジメントする動きが出始めている。例えば、新潟県妙高市では、ガス事業譲渡と上下水道事業の民間委託の公募型プロポーザルが行われ、21年3月にJFEエンジニアリングと北陸ガス、INPEXの3社グループの提案が採択され、優先交渉権を獲得、22年4月から事業を始める計画だ。「ガスと上下水道の一体運営での相乗効果を生かした持続的運営」に加え、「電気や再生エネルギーなども提供する『地域のユーティリティー・コーディネーター』を目指す方針」が評価された。

滋賀県大津市では、大阪ガスなどと共に出資して、びわ湖ブルーエナジーを設立し、ガスや水道の保安サービスを提供している。

複数のインフラを統合的にマネジメントして効果を最大化するためには、単に官が保有するインフラを民間に渡すだけでは不十分であり、インフラ種類ごとの縦割り制度を改革し、統合マネジメントによる創出価値を住民と民間事業者側に適切に利益配分ができるような仕組みを作るなど、継続的に統合効果を創出し続けるための環境整備・制度的支援を強化していく必要がある。官は民に丸投げをせず、また、民は全体最適視点で利益の社会還元も大目的に据え、官民が密に連携した成功モデルが早期に生まれ、さまざまな地域に展開されていくことを期待したい。

またも温暖化問題で政治判断 30年46%減へNDC大幅拡大


カーボンニュートラルに続き、またもや政治判断で2030年温暖化ガス削減目標(NDC)の大幅引き上げが決まった。現在掲げる30年の電源構成と整合する13年度比26%減から、46%減へと約20ポイント引き上げる(※)。昨年末に1990年比30年55%以上削減との目標を国連に再提出したEUに続き、米国でもバイデン政権が目標を大幅に引き上げることから、日本も同調せざるを得なくなった格好だ。

4月16日の日米首脳会談では協調路線をアピール(提供:朝日新聞社)

日本の見直しは40%~45%減の間で調整が進んでいたが、欧米に見劣りしない水準として、最終的にはその上限にさらに1ポイント積み増す形となった。前回策定時は電源構成の検討状況を踏まえ、部門ごとに温暖化ガスの削減幅を積み上げてNDCを算出したアプローチに比べると、今回の結論ありきのやり方は乱暴と言われても仕方がない。

原子力再稼働が進まず目標比率と乖離しており、現在のNDCの達成も難しい状況下でどうやって削減幅を46%まで引き上げるのか。関係者は、省エネの深掘りに加え、経済成長とCO2排出量の「デカップリング」がポイントになるという。従来は経済成長に伴いCO2排出量も増大するとの前提で検討してきたが、今後は経済成長を維持しつつもCO2削減は進むとの考え方にシフトする。

ただし、一部の先進国でデカップリングを達成しているとの主張がある一方、その因果関係については疑問の声も多い。そしてサービス業中心の国と異なり、日本の産業構造は製造業中心だ。トップダウンで強引に導き出したNDCを必達しようとすれば、産業構造の転換や空洞化を招き、日本経済にさらなる打撃を与える懸念は払しょくできない。

※編集部注 記事執筆時点(4月20日)は新NDCの発表前だったため、本誌5月号(5月1日発売)ではその時点の情報を基に「30年46%減」でなく「45%減」としました。

増加の一途をたどる再エネ賦課金 企業の調達支援に「不公平感」の指摘


再生可能エネルギーの大量導入に向けた国民負担が雪だるま式に累増している。

一方、その「環境価値」活用を巡る新たな制度議論では、真のニーズに合致しているのかと疑問の声が上がる。

政府が主力電源化を掲げる再生可能エネルギー。菅義偉首相による昨年10月の「2050年カーボンニュートラル宣言」の後押しもあり拡大路線は今後も続くが、その一方で懸念されるのが大量導入を支える国民負担の増大だ。

経済産業省資源エネルギー庁が3月に発表した、21年度の1kW時当たりの再エネ賦課金は、前年度よりも0・38円高い3・36円。1カ月の電力使用量が260kW時の一般家庭の場合、月額873円(前年度は774円)、年額では1万476円(同9288円)を負担することになる。家庭の負担が年間1万円の大台に乗るのは、FIT制度が始まった12年度以降初めてのことだ。

この賦課金算出の根拠となった21年度のFIT買い取り費用の総額は、3兆8000億円。再エネ比率22~24%を目指す現行の「2030年エネルギーミックス(電源構成比率)」策定時、エネ庁は年間の買い取り総額を3・7~4兆円と試算していた。つまり、30年に想定する水準まで10年近く前倒しで達したことになる。

増大し続ける国民負担にエネ庁も無策だったわけではない。これまでも、①中長期的な価格目標の設定、②入札制度の活用、③FIT認定後、長期間稼働していない高価格案件への厳格な措置、④低コスト化に向けた研究開発―などに取り組むことで、再エネ推進との両立を図ろうとしてきた。

それでも、今後しばらくの間は、当初の高額認定分の買い取り期間が続く上に、太陽光・風力発電の設置コストはある程度低減されたものの、そのスピードは鈍化しつつあり世界的に見れば高止まったままだという現実がある。

大量導入に影を落とす 国民負担と環境負荷

しかも、既にFIT認定を受けた設備が全て稼働した場合、買い取り費用が4・9兆円になるとも試算されており、これに新規に開発される案件の買い取り費用が上乗せされれば、国民負担はさらに膨れ上がる。

再エネ開発事業に携わる関係者の一人は、「国土の7割近くを森林が占める日本では、再エネ適地が少ない。今後も一定の導入量を確保していこうとすれば、より開発が困難な立地に設置することになるため、コストは高止まりか逆に上昇するしかない」との見方だ。

国民負担は「賦課金」という見える形ばかりではない。再エネ拡大に伴う不採算化と、脱炭素化への対応で火力電源の退出の流れが続けば、調整力コストも上がる。「こうした費用をどう負担するのかという新たな課題も出てくる」(前出の再エネ関係者)

福島第一原発事故後、「年間コーヒー1杯分で安心安全が買える」との触れ込みで始まった再エネ導入政策。だが、野放図な拡大による、国民負担とさらには自然環境への負荷増大が、かえってこれからの再エネ導入を鈍化させかねない状況を生んでいる。

真の脱炭素化に資する再エネ政策が求められる

石炭火力「新規制」への懸念 安定供給は本当に大丈夫?


非効率石炭火力のフェードアウトに向け、新たに二つの「規制」の導入が決まった。

ただ、石炭火力の過度な退出に歯止めがかからず、供給力不足のリスクが拡大する可能性がある。

石炭火力への新たな規制が導入されても、安定供給は本当に担保できるのか―。

昨夏に梶山弘志経済産業相が指示した非効率石炭火力のフェードアウトの実行策が、今春固まった。非効率設備の一定の退出や稼働抑制を促すため、省エネ法での「規制的措置」と、容量市場での「誘導措置」の二つの手段を講じる。が、実際はどちらも「規制」と言って差し支えのない内容だ。

二つの発電効率基準 「二重規制」に疑問の声

省エネ法ではこれまで、燃料種ごとの発電効率(A指標)と火力全体での発電効率(B指標)の二つの目標を設定していた。ここに石炭火力のみを対象に2030年に「発電効率43%」という新指標を導入。事業者単位でこれをクリアしなければならない。実績値がベースとなり、現状では大手電力の既設のうち43%超は2基のみという厳しい水準だ。

ただ、老朽設備の休廃止や設備改修だけでなく、バイオマス混焼などによる補正措置を認めた。今後実用化が期待されるアンモニアや水素混焼についても、同様の手法で評価する。さらに変動性再生可能エネルギーの導入拡大には火力の調整力が欠かせないが、設備利用率が下がるほど発電効率も低下するため、年間設備利用率に応じた補正値を設定。こうした補正で実績値に数ポイント上乗せすることができる。

もう一方の容量市場では、省エネ法とは異なる「設計効率42%」という設備ごとの基準を設けた。こちらでは設備利用率に応じて評価を変える仕組みを用意。設備利用率50%を基準とし、25年度オークションでは基準を超えた設備については容量確保金を20%減額する。26年度以降の減額率については引き続き検討する。

容量市場のこの仕組みを、資源エネルギー庁は稼働抑制を促す「インセンティブ」としているが、関係者からは「減額はインセンティブではなく退出を促す制度で、実際は二重規制だ」(火力部門関係者)との指摘が出ている。片や事業者単位の実績効率、片や設備単位の設計効率と二つの基準が存在する上、容量市場には補正措置がないなど、制度間の差異には疑問の声が上がる。

これについてエネ庁は「省エネ法では事業者に毎年報告義務があり、これまでの指標と同じく実績値で見ていく。一方、(4年後の供給力のオークションである)容量市場では事後に減額されることがないよう、予見性の観点から設計効率にした」(小川要・電力基盤整備課長)と、制度の性質の違いからズレは生じ得るとの見解を示す。

両者のうち、特に厳しいと受け止められているのが容量市場の措置だ。「実際に入ってくるお金に関わる容量市場の方が重要。これが省エネ法の実績に跳ね返ることになる」(大手電力関係者)。ただ、設計効率と一口で言っても、使うデータのさじ加減で高めに出すことも可能で、その妥当性を誰がどう判断するのかは不透明だ。

再エネ連系拡大で脱炭素社会に貢献 公益性を追求し社会の期待に応える


【送配電網協議会】

ひらいわ・よしろう 1984年東京大学大学院工学系研究科電気工学専攻修了、中部電力入社。
専務執行役員、取締役専務執行役員、取締役副社長執行役員などを経て2021年4月1日から現職。

全国の一般送配電事業者による「送配電網協議会」が4月1日、電気事業連合会から独立し発足した。

理事・事務局長に就任した平岩芳朗氏に、新組織が果たす役割や解決すべき課題について聞いた。

―送配電網協議会の役割は。

平岩 昨年10月に電気事業連合会の中に一般送配電事業者10社で構成する送配電網協議会を設置し、4月1日に新たな団体としての活動を始めました。系統運用の中立性、透明性の確保はもちろん、低廉で安定的に電力を供給するという送配電事業者の使命を、これまでと変わらず果たすことが第一の役割だと考えています。

 その上で、再生可能エネルギーの連系拡大を通じた脱炭素社会への貢献、災害に強いネットワークの形成など、さらなる公益性を追求することで、社会からの新たな期待にも応えていかなければなりません。

―今冬の電力危機を送配電網協議会としてどう振り返りますか。

平岩 全国のお客さまに電気の効率的な使用にご協力いただき、また、発電事業者、自家発事業者には供給力の積み増しの要請に対応いただいたことにより、今回の危機を乗り切れたことを大変感謝しています。電力広域的運営推進機関において、今回の需給ひっ迫を受けて短期・長期でどのような対応が必要か検討しており、当協議会も実務者として参加しています。

 今回の危機は、LNGの供給支障などさまざまな要因が複合的に重なったことによるkW時不足によって引き起こされたということが、これまでのkW不足との大きな違いです。何日後にどの程度のkW時が不足するのかを評価する仕組みがなく、こうした状況下での全国的な応援融通のルールもありませんでした。こうした状況に対処するためにどのような施策を講じるべきか、協議会としても検討の場で提案していきます。

需給調整市場を開設 参加者拡大へ広報に注力

―具体的にどのような施策を提案していきますか。

平岩 需給ひっ迫時には、最終的な周波数調整を含めた安定供給を担う上で調整力の確保が非常に重要です。送配電事業者がそうしたミッションを果たすためには、厳しい気象条件の中でも調整力を確実に確保するための仕組みやルールが必要であり、そのような提案をしていきたいと考えています。

―4月1日には新たに需給調整市場が開設されました。

平岩 再エネ予測誤差を補正するための「三次調整力②」の取り引きが始まりました。各送配電事業者のエリアごとに必要量を募集し、原則全国大でメリットオーダーによる調整力の調達を行います。これにより調達コスト削減効果があると期待しています。具体的には、1カ月ごとの確報値が積み上がった段階で評価することになります。

 今後、より応動速度の速い商品の取り引きが段階的に始まりますが、まずはスタートしたばかりのこの商品をしっかりと運用し、調整力を調達する送配電事業者のみではなく、供出する側の発電事業者にとっても適切に取り引きできる環境を整える必要があります。

 そのためにも、各送配電事業者と発電事業者とのコミュニケーションを深めるとともに、市場の仕組みをより理解していただくための広報活動にも力を入れていきます。

福島復興の「障害」除去へ トリチウム水海洋放出を決定


「福島の復興を成し遂げるためには避けて通れない」 4月13日、菅義偉首相はこう述べ、関係閣僚会議で福島第一原子力発電所サイト内のALPS(多核種除去設備)で処理したトリチウム水を海洋放出する方針を決定した。事故前の福島第一原発の放出上限である年間22兆ベクレルを30~40年かけて、2023年から毎年放出していく。

処理水は2022年秋に保管容量の限界に達する

首相の言う通り、福島第一原発の廃炉を進めるには、敷地内にたまり続ける処理水の放出が欠かせなかった。タンクに保管する処理水の量は既に125万tに上り、22年秋には保管容量の限界となる137万tに達する見通し。これ以上、結論を先送りすることはできなかった。

トリチウム水の海洋放出は、安倍晋三前首相の時から政府にとって重要な課題だった。昨年9月に就任した菅首相は海洋放出の検討を始めたが、漁業関係者などの反発で見送られている。

一方、東京電力は敷地内タンクが増え始めた時点から、福島県の漁業組合関係者と連絡を取っていた。漁業者は風評被害を最も恐れている。さらに「無害」と分かっていても、溶融燃料の冷却水から回収したトリチウムの放出には感情的なしこりがある。東電関係者は粘り強く説明を行い、理解を示す漁協幹部も出始めていた。

海洋放出の決定前に、国は処理水の扱いについて、「ご意見を聞く会」など地元自治体や漁業関係者らを交えた会合を繰り返した。その場で漁業関係者らは、海洋放出に強硬な反対姿勢を示している。一方、漁業団体とのつながりが深い自民党の水産部会は、海洋放出を容認する方針を固めていた。政府関係者は「水面下で、与党の水産族議員が漁協幹部と交渉を重ねていた」と明かす。

全国漁業協同組合連合会の岸宏会長は4月7日、官邸に招かれ、首相から海洋放出の方針を伝えられる。岸会長は会談後、記者団に対して「断固反対する」と強調した。だが官邸で岸氏に間近に接した記者によると、「半ば容認しているようにも見えた」。業界関係者は「トップレベルでは、合意ができていたはず」と話す。

風評被害防止に注力 中国・韓国は意趣返し!?

今後、最大の課題は風評被害対策になる。いまも、消費者には福島県産の農水産物を避ける傾向が見られる。政府はモニタリングを行い、海洋専門家を交えた会議を設置して水質データを検証する。また、国際原子力機関(IAEA)にデータを提供し、客観的な検証をしてもらう。

近隣国の懸念払拭も課題になる。韓国政府は「絶対に許せない措置だ」と批判。文在寅大統領は国際海洋法裁判所への提訴を指示した。中国政府も「深刻な懸念」を表明。垂秀夫・駐中国大使を呼び抗議を行っている。

しかし、両国ともに既に自国の原子力施設が福島第一原発を上回るトリチウムを海洋放出している。徴用工問題や台湾に言及した日米共同声明などを巡り、日韓・日中関係はぎくしゃくする。放出への批判は単に意趣返しのようだ。

【省エネ】再エネ電力の購入 法律で適切評価を


【業界スクランブル/省エネ】

経済産業省の2050年カーボンニュートラル。電力分野は非化石電源の拡大で脱炭素化を実現し、産業・民生・運輸部門(燃料・熱利用)では脱炭素化された電力による電化、水素化、メタネーション、合成燃料などを通じた脱炭素化を進めるイメージである。

電力供給側の取り組みとしてはエネルギー供給構造高度化法がある。一方、需要側では省エネ法の業界別ベンチマーク制度などがあるが、現在の省エネ法の一次エネルギー換算係数では、実際の炭素生産性とリンクしていない。よって、CO2削減対策の電化(業務用車両の電気自動車化や蒸気ヒートポンプ導入、誘導加熱)などがマイナス評価とされたり、再エネ電力購入などの取り組みが一切評価されない課題がある。

当然、環境先進企業が取り組むSBT(科学と整合した目標設定)、CDP(炭素開示プロジェクト)では適切に評価されており、日本企業の多くをカバーする省エネ法でも、脱炭素の取り組みを阻害しない制度に修正すべきである。なお、欧州EU-ETS(連合域内排出量取引制度)は、直接排出のみの規制で、セクターカップリングにより燃焼分野の脱炭素化に貢献する電化は全てプラス評価となる。省エネ法が再エネ電力購入も適切に評価する制度となれば、再エネ電力の需要が増加し、日本の再エネ増加の推進力となり得る。

電力と同じ二次エネルギーの水素については、省エネ法では系統電力とは逆にゼロ評価となっているが、「化石燃料を輸入して、国内で燃焼と同程度のCO2を排出して製造した水素(ある意味、火力発電の工程と同じ)」と「再エネ電力から製造したグリーン水素」の扱いが同じであり、グリーン水素の脱炭素優位性を省エネ法換算係数に加味すべきである。また、メタネーション(合成メタン)についても「Direct Air Carbon Captureと再エネ電力で合成したグリーンメタン」と、「化石燃料起因のCO2を用いるため、最終的には大気へのCO2排出増となるメタネーション」の評価を、「バイオマス起因メタン」と「化石燃料起因メタン」の差と同様に適切に差別化する必要がある。 (Y)

【住宅】低下する売電単価 昼間へ需要シフト


【業界スクランブル/住宅】

2021年1月末の調達価格等算定委員会において21、22年度の住宅用太陽光発電(PV)の売電単価がそれぞれkW時当たり19円、17円と公表された。20年度の売電単価21円でも、一般的な家庭用の電力単価約24円より安価であり、昼間にPVの発電電力を自家消費することが有効と言われていたが自家消費が大きく増加していない。理由は、そもそも一般家庭では昼間の電力需要は少なく、需要をシフトするメリットがなかったからだ。PV搭載住宅は同時に電化住宅メニューを採用しており、深夜電力単価と売電単価を比較した場合、まだ深夜電力単価の方が安いといった背景があると思われる。

21年1月時点で新規申し込みできる各大手電力会社の電化住宅用メニューの深夜電力単価は11~18円だが、これに基本料金の買電量に応じた按分、再生可能エネルギー賦課金、燃料調整費(現在はマイナスであるがプラスになる懸念あり)、消費税などを加えると16~23円程度になることが想定され、21年度以降は、PVの余剰電力の売電単価は深夜電力単価よりも安くなるという状況に変わってくる。この変化は大きな意味を持つ。例えば、エコキュートは安い深夜電力で運転しているが、昼間PVの余剰電力で運転すれば、単価が安い上に昼間は外気温が高いのでより省エネになる。蓄電池も電力単価が安い時間帯に充電することが有効なので、昼間充電になる。まさに昼間へ需要シフトすることがユーザーの経済的メリットにつながる状況が現実的になってくると考えられる。ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の政策も自家消費を拡大する方向へシフトしてきているが、経済的な視点から見ても昼間の需要を増やして自家消費型に切り替えることが今後のトレンドになりそうだ。

課題は昼間への需要シフトに設備機器が十分対応できていないことだ。PVの余剰電力(発電電力)は天候、季節により大きく変動する。その変化により細かく対応できる設備機器の進化が、自家消費型へのシフト加速につながるだろう。(Z)

【太陽光】さらなる普及へ 設置場所の開拓を


【業界スクランブル/太陽光】

パリ協定の目標「2050年カーボンニュートラル」を目指すことは、国内の産業競争力の飛躍やイノベーションのチャンスともいえ、分散型経済社会の実現に向け地域経済循環やレジリエンス向上にもつながるだろう。太陽光発電(PV)は数ある再生可能エネルギーの主力であると信じているが50年カーボンニュートラル達成には、現状の普及施策制度の見直しやコスト、設置場所(適地)、電力系統、地域共生などの解決すべき課題への解決の道筋の提示や、PV導入の将来ビジョンをさらに進化させ、大胆な未来予想図を描き関係者が一丸となって実現に進むべきであろう。

PVは、これまで工業団地の用地、塩田やゴルフ場の跡地など、大小の地上設置のPVが建設・運転されたことにより、わが国の電源構成に影響を与える規模に成長した。ただ今後もエネルギーや環境の観点から、PVの導入拡大を継続させるためには新たな設置場所を求める必要がある。そこで注目されているのが、農地の上の空間や水面の上などの活用だ。農地の上空間を活用する営農型PVシステムは、農地法の一時転用許可が導入の契機となった。地上設置型のPVシステムと比べ、高所太陽電池モジュール設置、支柱間隔の広さ、軟弱な農耕地での強度などの確保が今後の課題として挙げられる。水上設置型PVシステムでは、ため池などの静水面で樹脂製の浮体設置架台基礎(フロート)の上に太陽電池モジュールなどを設置する。建設に適した土地が減少する中で、①未使用(利用)である「水の上」の有効活用、②土地造成工事の不要・減少、③陸上設置に比べ日照を遮る障害物の少なさ、④遊休空間の活用による収入-などの利点がある。だが、風荷重などの設計資料がほとんどなく、台風などの強風時には被害が発生したことも記憶に新しく水上設置の懸念材料といえる。

新しい空間へのPVの普及は課題があるものの、安全・安心にPVシステムを設計・施工するためのガイドラインが検討されているので、PVの普及ツールとして期待したい。(T)

【マーケット情報/4月23日】原油下落、需給緩和観が台頭


【アーガスメディア=週刊原油概況】

先週の原油価格は、主要指標が軒並み下落。新型コロナウイルス感染拡大にともなう需要後退と、供給増加の見通しが、価格の重荷となった。

世界各国で引き続き、変異株も含めた新型ウイルスの感染が拡大している。特にインドでは感染者数が急激に増加しており、同国の首都ニューデリーは19日から、一時的なロックダウンを開始。英国や中東諸国はインドからの入国制限を導入した。さらに、クウェイト、オマーンは国内の移動規制も強め、燃料用需要が一段と後退する見通し。

一方、ノルウェー国営エネルギー会社Equinorは、北海の新規油田で、近く生産開始を計画。また、米国の週間在庫統計は、前週比で増加を示した。加えて、米国とイランは核合意を巡る協議に進展があったと発表。米国の対イラン経済制裁が解除された場合、イラン産原油が市場復帰し、供給の増加が予測される。

【4月23日現在の原油相場(原油価格($/bl))】

WTI先物(NYMEX)=62.14ドル(前週比ドル0.99安)、ブレント先物(ICE)=66.11ドル(前週比0.66ドル安)、オマーン先物(DME)=63.22ドル(前週比2.04ドル安)、ドバイ現物(Argus)=63.01ドル(前週比2.18ドル安)

【コラム/4月26日】グリーン成長戦略とデジタルトランスフォーメーションの課題


矢島正之/電力中央研究所名誉研究アドバイザー

現政権は、新型コロナウイルス禍からの経済回復の柱として「グリーン」と「デジタル」を位置づけている。菅首相は、昨年12月4日の記者会見で、2050年カーボンニュートラルについて、「我が国が世界の流れに追いつき、一歩先んじるためにどうしても実現をしなければならない目標」と述べた。また、環境対応は、「我が国の企業が将来に向けた投資を促し、生産性を向上させるとともに、経済社会全体の変革を後押しし、大きな成長を生み出すもの」と強調し、2兆円のカーボンニュートラル基金を創設すると言明した。さらに、デジタルトランスフォーメーションのために、1兆円規模の経済対策を明らかにし、6Gで世界をリードするよう政府が先頭に立って研究開発を行うと述べた。

このようなポストコロナの経済対策により、今後の電力政策は、グリーン成長戦略やデジタルトランスフォーメーションのウエイトが増すであろう。以下では、ポストコロナの電力政策の展開にあたって、いくつかの留意すべき点を述べたみたい。

まず、グリーン成長戦略であるが、第1に、市場メカニズムの活用と技術・エネルギー間競争の公平性の確保が重要である。脱炭素社会の実現に関しては、費用効率性の高い技術のセットが採用されなくてはならない。そのためには、価格シグナルが必要であり、市場メカニズムを可能な限り用いなくてはならない。そして、技術間またはエネルギー間の競争を歪める要因は排除・是正されなくてはならない。例えば、エネルギー間競争を歪める租税公課負担の不公平があってはならない。また、外部コストの内部化に関し、例外を可能な限り排除しなくてはならない。さらに、新しい技術の市場へのアクセスを差別することなく可能としなくてはならない。例えば、VPPやDRなどの需要側資源に関しては、需給調整市場へのアクセスが不当に妨げられてはならない。

第2に、インフラの効率的な形成が求められる。2050年脱炭素社会の実現に向けて、スマートグリッド、ガスパイプライン、充電ステーションの整備はもとより、水素パイプライン、鉄道インフラ(モーダルシフト)、CO2輸送インフラなど、インフラ投資は膨大になる可能性がある。そのため、投資コストを低下させる効率的な設備形成に関する政策が求められる。脱炭素化のシナリオにより、メインとなるインフラが異なる。例えば、オール電化シナリオであれば、電力ネットワーク、power to gasシナリオであれば、ガスネットワークがメインのインフラとなる。グリーン成長戦略のために必要なインフラは、戦略に基づき効率的に形成されなくてはならない。

デジタルトランスフォーメーションに関しては、個人データの取扱いに関する適切な規制枠組みが構築されなくてはならない。デジタル技術を駆使した新しいビジネスモデルの開発においては、高度なデータ保護が保証されなければならないことは言を俟たない。顧客にとっては、様々なメリット(消費の見える化やコスト削減など)に加えて、個人データの取り扱いにおける高いレベルのセキュリティへの信頼が、新しいデジタルビジネスモデルを受け入れるための決定的な要素であるからである。

同時に、この規制の枠組みは、新しいビジネスモデルを開発する余地を残しておかなくてはならない。ここにおいては、目的の矛盾が生じる可能性があり、慎重に比較衡量されなくてはならない。例えば、スマートメータリングからのデータは、デマンドサイドマネジメントに用いるために集計して評価することができる。しかし、個人データの評価を必要とするビジネスモデルも多く登場するだろう。また、破壊的なビジネスモデルの開発は、しばしば法的枠組みを超えてしまう可能性がある。それゆえ、データ保護などの基準を明確にしつつ、イノベーションのための柔軟性を残しておく必要がある。そのため、ダイナミックなモニタリングにより、エネルギー産業のデジタル化の進展とそれに伴う課題を早期に発見し、解決策を見出さなくてはならないだろう。

最後に、グリーン成長戦略とデジタルトランスフォーメーション双方に関連して、ローカルフレキシビリティ市場の設計が必要となるだろう。多くの再生可能エネルギー電源は、配電系統に接続されている。また、フレキシビリティを提供する重要な設備も配電系統への接続が増大してくるため、そのようなフレキシビリティを市場参加者が提供できるプラットフォーム(ローカルフレキシビリティ市場)が求められるようになるだろう。わが国では、ローカルフレキシビリティ市場に関する議論が進んでいないが、デジタル技術を駆使した分散的な革新的なプロダクトを創出していくためには、同市場の整備が求められるようになるだろう。

【プロフィール】国際基督教大修士卒。電力中央研究所を経て、学習院大学経済学部特別客員教授、慶應義塾大学大学院特別招聘教授などを歴任。東北電力経営アドバイザー。専門は公益事業論、電気事業経営論。著書に、「電力改革」「エネルギーセキュリティ」「電力政策再考」など。

【メディア放談】霞が関官僚の不祥事 総務官僚「高額接待」の波紋


<出席者>元官僚・専門紙記者ジャーナリストマスコミ業界関係者/4名

東北新社、NTTによる総務省の官僚への高額接待が世間を賑わせている。

菅義偉首相の親族が関係したことから、首相への不満が高まり、政局になる可能性も出ている。

―久々に霞が関官僚の不祥事が世間を賑わせた。菅義偉首相の長男が出席した東北新社の懇談会に、菅政権で内閣広報官を務めていた元総務審議官の山田真貴子氏らが参加していた『週刊文春』のスクープが発端だった。

マスコミ 官僚の不祥事を振り返ると、1998年に旧大蔵省と日本銀行の幹部が金融機関から繰り返し接待を受けていた事件があった。見返りに金融検査の日程などを漏らし、大蔵官僚と日銀の幹部らが起訴された。この時は、当時の三塚博蔵相、松下康雄日銀総裁が辞任している。

 それで、2000年に国家公務員倫理法・倫理規定が施行された。ところが、長年業者からゴルフ接待などを受けていたことで、07年に守屋武昌元防衛事務次官が逮捕され、実刑判決を受けている。

ジャーナリスト それらと比べると、東北新社の接待は戒告か譴責で済みそうなものだ。ところが、首相の長男が出席していたので騒ぎとなり、NTTによる接待問題にまで発展した。首相の長男が関わっていなければ、これだけの騒動にはなっていないと思う。

―山田真貴子さんは、「懇親が主で仕事の話はしていない」と言っている。

ジャーナリスト 話のうち9割は雑談かもしれない。しかし、雑談だけのわけがない。東北新社もNTTも伝えたいことは、しっかり話しているはずだ。

元官僚 総務省は、01年の中央省庁再編で自治省、郵政省、総務庁の統合で発足した役所だ。自治省の母体は、GHQに解体されるまで「官庁の中の官庁」と言われた内務省。郵政省は「帝大、低能、逓信省」と呼ばれた逓信省だ。

 今回、処分を受けた郵政省組の学歴を見ても、山田氏は早大法学部、谷脇康彦前総務審議官は一橋大経済学部。東大法学部卒がズラリと並ぶ自治省組には、口には出さなくても優越意識があったはずだ。

 ところがIT革命が起きて、一人が最低1台、スマートフォンを持つ時代になった。すると、情報通信行政を握る郵政省組が日の目を見るようになり、政権にも重用されるようになった。自治省組としては当然、面白くなかった。

マスコミ 騒動の背景にあるのは、総務省内の自治省組と郵政省組との主導権争いといわれている。総務相を経験している菅首相は、郵政省組を優遇した。それに反発した自治省組が、文春に情報を持ち込んだらしい。

―文春は、東北新社との会合の録音データを持っていて、それを公開している。

マスコミ 録音したのは総務省の官僚に違いないだろう。いま省内で「犯人捜し」をしているらしい。分かったら、またひと騒動起こりそうだ。

【再エネ】エネ基議論の本丸 国民負担の在り方


【業界スクランブル/再エネ】

エネルギー基本計画見直しに向けて、各電源に関する2030年の議論が本格化してきた。再生可能エネルギーに関しては、3月1日の再エネ大量導入・次世代電力ネットワーク小委員会がキックオフとなった。今次のエネ基見直し議論の本丸は、これまで正面から取り上げることを避けてきた国民負担の在り方だ。

現行の再エネ政策は、30年時点のFIT費用3.7~4兆円を前提としている。「太陽光バブルたたき」に象徴されるその呪縛は、審議会委員にも重くのしかかり、政策運営の制約にもなっている。こうした中、菅義偉首相による昨年10月の50年カーボンニュートラル宣言が、今回、再エネの国民負担の在り方を正面から取り上げる引き金となった格好だ。

いわゆる国民負担論は、電気料金の上昇という負担の一面から議論されることが多い。しかし、負担の裏には投資というプラスの面があるのも事実だ。例えば、再エネ活用に積極的な需要家が多数参加する日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)は、その提言の中で、国民負担論が「再エネ比率の引き上げや再エネ価格低下への好循環を妨げる」とし、「再エネ拡大に関連する支出を国民負担ではなく、『未来への投資』と位置付ける」べきだと指摘している。

菅首相は、昨年の所信表明演説で「経済と環境の好循環」を掲げ、「積極的に温暖化対策を行うことが(中略)大きな成長につながるという発想の転換が必要」と指摘した。経済産業省も、いわゆる「2兆円基金」やサプライチェーン対策補助金などの産業政策的アプローチのほか、カーボンプライシングなどの経済的手法の活用検討など、幅のある政策を矢継ぎ早に打ち出している。いずれも負担の先にある好循環の実現に向けた、長期的視点に立った取り組みといえる。

今後の再エネ政策の課題は、コスト低減と投資による好循環の両立だが、実現には足腰の強い政策運営基盤の確保が求められる。東日本大震災から10年を機に、国民負担論から脱し、国家戦略における再エネの在り方を転換する議論を期待したい。(C)

データ時代の国力の礎 数字にモラルのある人づくり


【リレーコラム】河本薫/滋賀大学データサイエンス学部教授

データ分析の道を歩み出したきっかけは、米国ローレンスバークレー研究所への留学だった。1999年当時は、インターネットが急速に普及し始めた頃だ。それに乗じるように「IT機器の電力消費は全電力需要の8%を占め、10年後には50%を占める。それに備え、もっと石炭火力をつくろう」という趣旨のレポートが公表された。石炭業界に近いコンサルタントによる分析だ。電力会社の株価が上がるほど社会に影響を与えた。研究所ではこの間違えた「数字」を放置してはならないとの声が上がり、その仕事を任された。

米国留学で得た数字への責任感

私は、できる限りのデータを集めて緻密に積み上げ、IT機器は全電力需要の約2%と報告した。上司からは「その数字に責任を持てるか」と細かく追及された。また、第三者評価を受けられるように、私の推計ファイルはネット上で公開された。ワーキングペーパー執筆では、データの出所や推計方法について、第三者が再現できるほどの具体的記載を求められた。同時に、前述のレポートの間違いを公表し、作成したコンサルタントへの反論も行った。

次第にメディアも私の数字を信用する論調に転じた。間違えた「数字」を世論から駆逐することに成功したのだ。私の論文はIPCC報告書にも引用され、グローバルな信用を得るに至った。この経験で芽生えた「数字への責任感」こそ、留学で得た最大の財産である。話は続く。当時の米ブッシュ(子)政権高官からクレームの電話がかかってきた。ブッシュ政権は石炭業界から支持されており、私たちの数字は都合が悪かったのだろう。

2000年に日本に帰国すると、米国で駆逐したはずの数字が生きていた。ある省電力技術を促進する組織が、冒頭の間違ったレポートを踏襲して数字を作り、新聞にも掲載されていた。会社に戻った私には、もはやその数字を駆逐する余力はなかった。

数字を作る者は、その数字が社会に大きな影響を与えるという自覚のもと、全責任を負う覚悟で、発信してほしい。正しい数字を発信するだけでは足らない。同じ数字でも、不確実性の大きさが違えば、その取り扱い方は変えないといけない。前提条件の下での数字は、その前提条件の下でしか扱ってはならない。数字を正しく取り扱えるかどうかは、使う側の責任ではなく発信する側の責任だ。データ時代で数字が作りやすくなったからこそ、この理念はさらに重要なのだ。微力ながら、数字にモラルのある若者を育てることに努めていきたい。

かわもと・かおる 1991年京都大学応用システム科学専攻修了、大阪ガス入社。98年から米国ローレンスバークレー国立研究所でエネルギー消費データ分析に従事。帰社後、2011年からビジネスアナリシスセンター所長。18年4月から現職。

次回は大阪ガスビジネスアナリシスセンター所長の岡村智仁さんです。

【石炭】気候変動の傑物 二人のナオミ


【業界スクランブル/石炭】

米国は話題の多かったトランプ政権から国際協調も重視するバイデン政権に移る中、「二人のナオミ」が活躍しているのが面白い。

一人はドイツ出身のブロンドのきれいな20歳の、自分を「気候変動の現実主義者」と名乗り、マスコミは「反グレタ」と報じているナオミ・ザイプトさん。所属団体のイリノイ州にあるハートランド研究所は、米共和党をはじめとする保守派の支持を受けている気候変動懐疑一派だ。

「私たちは進歩と革新の素晴らしい時代に生きている」と主張する。「温暖化は全く憂慮するようなことではなく、過去において何度となく起きてきた自然の流れにすぎない」のだという。

いやそれどころか、「CO2が過剰に排出されるということは、植物がもっと呼吸できるようになるから良い結果をもたらす」とさえ言っている。これではグレタさんが反発するのも当然だ。

一方、トランプ前政権に真っ向から反対していたのがカナダ出身のナオミ・クラインさん。『ブランドなんか、いらない』『貧困と不正を生む資本主義を潰せ』を著し、レイチェル・カーソン以来、最も偉大な環境活動家と評されている。トランプ大統領と正面から対決し、国際環境NGO「350.org」のボードディレクターを務め、社会的公正に根ざしたグリーンニューディールを主張。国民皆保険制度、誰もが利用可能な保育サービスの実現、大学の無償化など、問題提起は環境課題にとどまらない。

現在、シリコンバレーが新型コロナ危機に乗じて、リモート学習やオンライン診療などの非接触型テクノロジーを拡充し、「人間をマシンに置き換える」構想を加速させているというのに対し、パンデミックの今こそ「グリーンニューディール」に力を入れるべきだと訴える。人が温もりを失い、監視が強化されているという。

このように、活発な議論が絶えない米国。今後も政策の動きには目を離せない。(C)