18年に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、脱炭素化の目標は原子力なしでは達成できないことを明らかにしている。また、国際エネルギー機関(IEA)は、19年に公表した「Nuclear Power in a Clean Energy System」において、パリ協定の目標を達成するにはエネルギー効率改善と再エネと共に、原子力の大幅な増加が必要だとしている。
一方、前述の11億4000万tには、エネルギー起源のほかに、鉄鋼・化学など産業部門の2億8000万t、運輸部門の2億t、都市ガスやプロパンガスといった熱源からの1億1000万tが含まれており、カーボンニュートラルにはこれらの抑制も必要である。IEA発行の「World Energy Outlook 2020」においても、再エネや原子力による電力は、輸送や産業部門の電化を通じて一層のCO2排出削減に役立つとされている。
高橋 EVに搭載されている蓄電池を系統に接続することで、昼間に発生するPVの余剰電力を蓄電池に充電し、PVの出力がない夜(点灯帯)には系統に逆潮流させるV2G(Vehicle to Grid)技術があります。電中研は九州電力、日産自動車、三菱自動車工業、三菱電機の5社が参画するV2Gを用いたVPP(仮想発電所)実証に2018年から参加しています。
A 事業者が陳情をすることに何ら問題はないが、これまで自由化市場下で利益を享受していたにもかかわらず、いざ高値になったら「自分たちを救済しろ」というのは虫のいい話。認識が甘かったと言わざるを得ない。本件について10社以上の大手電力・新電力の経営者らと話をした。市場依存度の低い新電力や市場に電力を卸している大手電力も、この騒動の影響で損をしている。JEPXの制度を見直すことに異論はないが、安易な新電力救済には反対だ。
C 新電力といえども、大手電力系や他業種の大資本が入っているところもある。事業形態はさまざまで真面目にやっている事業者も含め、この騒動で全て潰れてしまうのではというぐらい多くの新電力が影響を受けた。陳情内容にもろ手を挙げて賛成しないが、徹底した真相究明は必要だ。今回は市場への供給が落ち込んだため高騰が起きたが、新電力に話を聞くと需要予測を行う材料が公開されていないので、直前予測すらできないそうだ。これではフェアな競争にならないだろう。
D 今回の騒動が拡大した原因の一つは、経済産業省が手を下さなかった点にある。高値を放置したことで状況が悪くなってしまったのではないか。海外の電力卸市場は、基本的に電気不足が発生したときに必ず予備電源の市場が稼働して市場価格を抑える仕組みがある。制度設計の段階でこうした状況の対処法を誰も想定しておらず、玉切れ時の価格決定プロセスが完備されていないため起きた。新電力の経営責任と言い切れる話ではない。
B JEPXの価格高騰という短期的問題と、JEPXの市場設計という制度的問題を区別しなければならない。まずkW容量は足りているが、LNGが足らなかったため起きたkW時不足に対し、経産省が法的根拠をもってできることはほぼない。経産省の対応を疑問視する声もあるが、やむを得ない。
D 東日本大震災の発生直後、JEPX価格が15円に跳ね上がると政府は市場に介入した事例もある。今回は200円を超えても放置した。市場を一時的に止める、ないしは適正価格を指導するなど、何らかの手を下すべきだったのではないか。
B 私は問題だとは思わない。それは今回の騒動が災害由来ではないからだ。日本には災害対策基本法で災害の定義がされている。洪水、地震、噴火などと異なり原子力災害は「政令で定める」として別カテゴリーで位置付けられているから大震災直後は災害対象となっただけで、事業者由来のアクシデントは一般的に災害とはなっていない。経産省もこの程度のことでは、市場調整メカニズムに委ねる基本姿勢を示したかったのだと思う。
D 人や建物に被害がなければ国は動かないのか。今回は全国で広範囲に電力がひっ迫するという、実質的には東日本大震災を超えるインパクトがあった。この状況を柔軟に判断し対処することも経産省には必要なはずだ。
B 原発事故の後処理も東京電力があれだけの責任を負っている。騒動の原因は電力会社がLNGのオペレーションを間違えたことと、制度設計に欠陥があった点に尽きる。国がすべきは、売り手・買い手が対等になれるような制度設計の見直しだ。
A 病気がはやらなければ対処法やワクチンが開発されないように、何か問題が起きなければ制度が是正されることはない。今回の事態はまさにそのきっかけになったので、ルール作りは変わっていくだろう。Bさん、Dさんの主張はよく分かるが、やはり現在の権限では経産省は介入しようがないと思う。
C 需給ひっ迫のピークを迎えた1月8日には電気事業連合会や大手電力各社が電気事業法第27条に基づく節電要請を経産省に求めた。しかし経産省は政治的な思惑を尊重してか、「それは絶対にダメだ」と突っぱねている。ウェブサイトなどでも需給ひっ迫関連の情報を一切出さなかった。事業者からは「極限の緊張状態にある」という切実な訴えが聞こえていたのに、おかしな話だ。
A その点は私もそう思う。コロナ禍による緊急事態宣言の発出などで国民の間に不満や不安が広まっている中で、全国的な電力不足が起きているというネガティブな話を表に出したくなかったのだろう。
C あくまで水面下の話だよね。一方で、梶山弘志経産相は連休明けの1月12日の記者会見で、記者から「なぜ節電要請をしないのか」と問われると、「切迫した状態にないので、効率的な電気の使用をお願いする」と答えた。この発言が事実上の政府から発出した節電メッセージになったが、既に需給ひっ迫はピークを過ぎていた。とにかく経産省はこの騒動で常にぼんやりしていた印象だ。
B 戦争などによる本当の緊急事態は、いずれ来ると思ったほうがよい。そのためには、新型インフルエンザ特別措置法のような、電力危機対応特別措置法のような緊急事態法制を定め、場合によっては発電命令を下す権限を経産省に持たせることなどが必要になる。そうした法制度を準備しなければならない時代になったことに気付かされた。